【実施例】
【0083】
本発明をさらに例証するために、以下の非限定例を提示する。実施例に開示された技法は、本発明の実行において良好に機能することを本発明者らが見出した代表的アプローチに従い、したがってその実行のための方式の例を構成すると考えられ得る、と当業者に理解されるべきである。しかしながら、本発明の開示を鑑みて、本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り、開示されている特定の実施形態において多数の変更を行うことができ、同様の又は類似の結果を依然として得ることができる、と当業者は理解すべきである。
【0084】
実施例1
材料及び方法
マウス 6〜12週齢C57BL/6マウスを、Harlan(Horst, The Netherlands)から購入した。糖タンパク質中に位置するH−2
bマウスにおけるリンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の免疫優性エピトープを表すペプチドgp33(aa33〜41)に特異的なT細胞受容体を発現するTCR318トランスジェニックマウスは、Cytos Biotechnology AG(Schlieren, Switzerland)から入手した(Pircher, H., et al. 1989. Nature 342: 559-561;Pircher, H. et al., Nature 346, 629-633, 1990)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)。HLA A2.1を発現するHHDトランスジェニックマウスは、MannKind Corporation(Valencia, CA; Pascolo, S. et al., J Exp Med 185, 2043-2051, 1997)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)から最初に得られた。スイスの獣医学機関のガイドラインに従って、チューリッヒ大学病院の特定の無病原体施設で、マウスを繁殖させ、保持した。
【0085】
ウイルス、ペプチド及びオリゴデオキシヌクレオチド LCMV単離物であるWEを、チューリッヒ大学病院・実験免疫学研究所(スイス)(Institute of Experimental Immunology, University Hospital, Zurich, Switzerland)から入手した。MC57繊維芽細胞に関するフォーカス形成検定を用いて、LCMV力価を確定した(Battegay, M. et al., J Virol Methods 33, 191-198; 1991)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。LCMV糖タンパク質(vacc−gp)を発現する組換えワクシニアウイルス(Bachmann, M.F. et al., Eur J Immunol 24, 2228-2236, 1994)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)を増殖させて、そしてBSC40細胞上にプラーク形成させた(Kundig, T.M. et al., J Virol 67, 3680-3683; 1993
)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。LCMV糖タンパク質ペプチドgp33(aa33〜41;KAVYNFATM、配列番号3)及びgp61(aa61〜80;GLNGPDIYKGVYQFKSVEFD、配列番号4)、並びにVSVペプチドnp52(SDLRGYVYQGLKSG、配列番号5)は、EMC Microcollections(Tubingen, Germany)から購入した。インフルエンザ・マトリックスペプチド(GILGFVFTL、配列番号6)は、Neosystems(Strasbourg, France)から入手した。用いられたHPV16 E7(aa49〜57;RAHYNIVTF、配列番号7)ペプチドは、MannKind Corporation(Valencia, CA)で99%超の純度に合成された。ホスホロチオエート修飾高CGオリゴデオキシヌクレオチド1668(5’−TCC ATG ACG TTC CTG AAT AAT−3’、配列番号8)は、Microsynth(Balgach, Switzerland)により合成された。
【0086】
免疫感作日程 固定累積用量の125μgのgp33(KAVYNFATM、配列番号3)ペプチド又はインフルエンザ・マトリックスペプチド(GILGFVFTL、配列番号6;Falk, K. et al., Immunology 82, 337-342, 1994)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)、及び12.5nmolのCpG1668を、1〜4日の時間枠の間送達するよう、異なる免疫感作日程(s1〜s6)を計画した(表1)。日程3(s3)及び4(s4)は、それぞれ5倍希釈工程で指数的漸減又は漸増パターンに従う、ということに留意されたい。インフルエンザ・マトリックスペプチドによる免疫感作を125μgの同一累積用量で実行した後、同一日程を続けた。
【0087】
養子免疫伝達実験 1×10
6TCRトランスジェニックT細胞を、250μlのPBS中に再懸濁し、前駆体T細胞頻度を増大し、免疫応答の査定を促すために、性別一致C57BL/6マウスの尾静脈に注射した。1日後、表1に示したようにシトシン−グアニンオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)と混合した種々の用量のgp33ペプチドを用いて、レシピエントの首領域に皮下ワクチン接種した。代替的には、LCMV−WE系統(250pfu)でマウスを静脈内感染させた。同一日程に従って、125μgの同一累積用量を用いて、インフルエンザ・マトリックスペプチドによる免疫感作を実行した。
【0088】
FACS分析 表面抗原のFACS分析のために、血液、脾臓又はリンパ節のRBC無含有単一細胞懸濁液を調製した。Fc−受容体遮断のために抗CD16/CD32と共に5分間、氷上で細胞をインキュベートし、37℃で15分間、PE標識gp33 MHCクラスI四量体(gp33/H−2Db)で染色した後、氷上で20分間、他の表面抗原に関して染色した。染色は全て、PBS/FCS2%(0.01%アジ化ナトリウム含有)中で実行した。IFN−γの細胞内染色のために、完全培地中の2×10
-6Mのgp33ペプチド及び10μg/mlブレフェルジンA(Sigma, Buchs, Switzerland)を用いて、4時間、in vitroで単一細胞懸濁液を培養した。次にリンパ球を上記のように表面染色し、タンパク質無含有PBS/PFA1%中で10分間固定し、氷上で3分間、PBS/NP40 0.1%中に浸透させて、最後に氷上で35分間、PBS/FCS 2%中の抗IFN−γ抗体と共にインキュベートした。試料をFACSCaliburで獲得して、CellQuestソフトウエア(BD Biosciences, San Jose, CA)又はFlowJoソフトウエア(TreeStar Inc., Ashland, OR)を用いて分析した。他の抗体はすべて、BD Pharmingen(San Diego, CA)から購入した。
【0089】
in vivoでの抗ウイルス免疫の査定 ワクチン接種した雌C57BL/6マウスを、1.5×10
6pfu vacc−gpに腹腔内感染させた。5日後に、卵巣を単離し、Kundig, T.M. et al., J Virol 67, 3680-3; 1993(上記)に記載されたようにBSC 40細胞に関してワクシニア力価を確定した。代替的には、マウスを250pfu
LCMV−WEに感染させて、脾臓中のウイルス力価をMC57細胞に関して確定した
(Battegay et al., 1991、上記)。
【0090】
細胞傷害性検定及びサイトカイン分泌検定 1×10
5トランスジェニックgp33特異的T細胞を、同系照射支持細胞(2×10
6細胞/ウエル;2000rads)と一緒に24ウエルプレート中で6日間培養し、指示量のgp33ペプチドでパルス標識した。次にエフェクター細胞を300μlの新鮮な培地中に再懸濁して、3倍希釈液を作った。EL−4細胞を10
-6Mのgp33ペプチドでパルス標識し、5時間
51Cr放出検定における標的細胞として用いた(Bachmann, M.F. et al., Eur J Immunol 24, 2228-36, 1994、上記)。細胞培養上清中の放射能を、Cobra II計数器(Canberra Packard, Downers Growe, IL)で測定した。非放射性培養上清を、IFN−γ、IL−2及びIL−10濃度に関して毎日査定した。サイトカイン分析を、ビーズ・多重検定及びフローサイトメトリーを用いて実施した。
【0091】
ワクチン接種のための骨髄由来樹状細胞の調製 骨髄細胞を若いC57BL/6マウスの大腿骨から単離し、そして50ng/mlのrmGM−CSF及び25ng/mlのrmIL−4(R&D Systems, Minneapolis, MN)を有する100mm皿中の10mlの補足培地中に2×10
6細胞で植え付けた。7日目に、細胞を収穫し、そして抗CD11cマイクロビーズ(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いた陽性選択によりDCを精製した。精製細胞を6ウエルプレート中でプレート化し、2μMのCpG ODN 1668で一晩刺激した。CD80、CD86、CD40、CD11c及びマウス系統抗体カクテル(CD3e、Cd11b、CD45R/B220、Ly−76、Ly−6G、Ly−6C)に対する標識化mAbのパネルを用いて、フローサイトメトリーにより、DC表現型を査定した。抗体は全て、BD Pharmingenから入手した。その後、DCを、37℃で2時間、10μg/mlでHPV E7(aa49〜57)ペプチド(RAHYNIVTF、配列番号7)でパルス標識した。DCをPBSで3回洗浄した後、25μLのDCを麻酔したC57/B6マウスの鼠径リンパ節の両側に投与した(Johansen et al. 2005a. Eur J Immunol 35: 568-574)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。マウス10匹の群に、1日目にDC(1.11×10
5)の1回ボーラス注射(s1)を、或いは1、3及び6日目に指数的漸増数のDC(10
3、10
4及び10
5)の注射(s4)を施した。
【0092】
E7四量体分析 PBMCを17日目にマウス(n=10)から単離し、密度遠心分離(Lympholyte Mammal, Cedarlane Labs)後に単核細胞をRBCから分離した。H−2Db HPV16 E7(RAHYNIVTF、配列番号7)−PE MHC四量体(Beckman Coulter)及びFITC接合抗CD8a(Ly−2)(BD Pharmingen)mAbで、40℃で1時間、細胞を染色することにより、E7
49〜
57特異的CTL応答を定量した。FACSCaliburを用いてデータを収集し、そしてCellQuestソフトウエアを用いて分析した。
【0093】
ELISPOT分析 IFN−γ産生細胞の定量のために、脾臓を21日目に単離し、単一細胞懸濁液を調製した(n=7)。単核細胞を密度遠心分離により単離し、そして非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、グルタミン pen−strep、β−メルカプトエタノール及びHEPESを含有する無血清HL−1完全培地中に再懸濁した。三重の2.5×10
5個の脾臓細胞を、96ウエル・フィルター膜プレート(Multi-screen IP
membrane 96-well plate, Millipore)中で37℃で72時間、10μg/ウエルのHPV16 E7ペプチドと共にインキュベートした。コーティング及び検出IFN−γ抗体(U-Cytech biosciences, Utrecht, The Netherlands)を用いて24時間展開後、ELISpot読取器及びソフトウエア(AID, Strassberg, Germany)を用いてELISPOTを定量した。
【0094】
腫瘍防御試験 21日目(DCの最終注射の15日後)に、各ワクチン接種群からのマウス3匹並びにナイーブC57/B6マウス7匹を、HPV形質転換腫瘍細胞株C3.43の10
5細胞で攻撃誘発し(Feltkamp et al. 1993. Eur J Immunol 23: 2242-2249;Feltkamp et al. 1995. Eur J Immunol 25: 2638-2642)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)、DMEM、10%FBS、2mMのL−グルタミン及び50μMの2−メルカプトエタノール中で培養した。細胞を、左脇腹に皮下投与した。腫瘍進行を内径測定(mm)によりモニタリングし、腫瘍容積を算定した。
【0095】
統計学的分析 等分散性を想定するスチューデントt検定を実施し、データを、0.05より低い対応なし両端p値で有意とみなした。マン・ホイットニーU検定を用いて、又はクラスカル・ウォリスANOVAにより、非パラメーター的又は非正規分布データを分析した。対数順位検定を用いて、カプラン・マイヤー生存曲線の比較を実施した。
【0096】
実施例2
指数漸増的抗原刺激はCD8
+T細胞応答を増強する
T細胞応答が漸増抗原刺激により増強され得るか否かを調べた。第一の実験では、1×10
6個のトランスジェニックgp33特異的T細胞をC57BL/6野生型レシピエントマウス中に移して、前駆体T細胞頻度を増大し、免疫応答の査定を促した。
【0097】
図1D及び表1に開示したような異なるワクチン接種プロトコールを用いて、CpG ODNと混合した同一累積用量のgp33ペプチド(全体で、125μgのgp33及び12.5nmolのCpG)で、全マウスを免疫感作した:s1)0日目にボーラス注射で1回用量;s2)4日間にわたって4等用量;s3)4日間にわたって漸減用量;そしてs4)4日間にわたって漸増用量。付加的に、マウスの群を1回用量のCpGで免疫感作し、その後、指数的漸増用量のgp33ペプチドで免疫感作する(s5)、又は1回用量のgp33で免疫感作し、その後、指数的漸増用量のCpGで免疫感作する(s6)。0日目に250pfuのLCMVウイルスに静脈内感染させたマウスを、陽性対照として役立てた。6日目(
図1A)、12日目(
図1B)及び8日目(
図1C)に、in vitroでgp33ペプチドで再刺激した血中リンパ球の細胞内IFN−γ染色により、CD8
+T細胞応答を定量した。
図1Bは、12日目の分析の代表的FACS例を表す。
【0098】
CD8
+T細胞応答を強力に増強するため、CpG ODNをアジュバントとして選択した(Krieg, A.M., Annu Rev Immunol 20, 709-60, 2002;Schwarz, K. et al., Eur J Immunol 33, 1465-70, 2003)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)。ホスホロチオエート安定化ODNは、30分〜60分の半減期で血漿から除去された(Farman, C.A. & Kornbrust, D.J., Toxicol Pathol 31 Suppl, 119-22, 2003)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。しかしながら、組織中では、CpG ODNは相対的に安定しており、半減期は48時間であった(Mutwiri, G.K., et al., J Control Release 97, 1-17, 2004)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。さらに、60分以内に、血清プロテアーゼは検出レベルより低い値に遊離ペプチドを分解させる、ということが文献中で注目される(Falo, L.D., Jr., et al., Proc Natl Acad Sci USA 89, 8347-50, 1992;Widmann, C., et al., J Immunol 147, 3745-51, 1991、上記)。
【0099】
LCMV野生型による感染に匹敵する規模のCD8
+T細胞応答をもたらす免疫感作は、gp33及びCpGが共に指数的漸増様式で投与されることを必要とした、ということをデータは示す。均一1日用量のgp33及びCpGを用いた免疫感作は、二次最強CD8
+T細胞応答を誘導したが、しかしながらこれは用量段階的増大刺激より有意に弱かった(6日目にp=0.0001)。ワクチン構成成分のいずれか1つが1回用量として送達された場合、免疫感作の効力は有意に低減されるが、しかしナイーブ対照と比較して有
意であった(2.23±0.84%対0.19±0.12%、6日目にp=0.02)。
【0100】
同じような観察は、TCRトランスジェニック細胞を施されなかったナイーブ野生型マウスにおいてなされた(
図1C)。指数的漸増ワクチン(gp33及びCpG)用量で免疫感作されたC57BL/6マウスは、かろうじて検出可能な頻度の特異的CD8
+T細胞を誘導した他のワクチン接種プロトコールと比較して、CD8
+T細胞の有意に増強された誘導(2.1±0.4%)を示した(p<0.008)。4日目に測定可能な免疫応答を示した試験群はなかった(データは示されていない)。これらの結果は、全体的用量とは関係なく、ワクチン接種の動態は免疫原性の重要な一パラメーターである、ということを実証する。
【0101】
試験群の何れもが、4日目に測定可能な免疫応答を示さなかった(データは示されていない)。全体的に、これらの結果は、全体的用量とは関係なく、抗原及びアジュバントの動態が免疫原性の重要なパラメーターである、ということを示した。
【0102】
図中の説明:s1:1回用量のgp33ペプチド及びCpG;s2:等用量のgp33ペプチド及びCpG;s3:指数的漸減用量のgp33ペプチド及びCpG;s4:指数的漸増用量のgp33ペプチド及びCpG;s5:指数的漸増用量のgp33ペプチド及び最初の1回用量のCpG;s6:最初の1回用量のgp33ペプチド及び指数的漸増用量のCpG;ナイーブ:未処置マウス;LCMV:0日目に250pfuのLCMVで静脈内免疫感作したマウス。値は、群当たり4匹のマウスの平均及びSEMを表わす。3つの類似の実験のうちの1つの代表的実験が示される。
【0103】
図1Bは、12日目の分析のFACSの代表的な例である。上方パネル:gp33ペプチドによる再刺激、下方パネル:gp33再刺激を伴わない対照染色(下方パネル)。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例3
CD8
+T細胞応答の増強はT細胞ヘルプとは無関係である
CD8
+T細胞初回刺激に関するT−ヘルプの役割は、当該技術分野でよく知られている。Th−エピトープは、機能性CD8
+T細胞免疫にきわめて重要であり得る(Johansen et al., Eur J Immunol., 34, 91-97, 2004;Shedlock and Shen, Science, 300, 337-339, 2003;Sun and Bevan, Science, 300, 339-342, 2003)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)。他方で、前駆体頻度が高い状況では、特に強力な免疫原、例えばLCMV gp33を用いる場合、CD8
+T細胞応答は低Th依存性である(Mintern et al., J Immunol., 168, 977-980, 2002)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。さらに、投与経路もT−ヘルプの要求に影響を与え得る(Bour et al., J Immunol., 160, 5522-5529, 1998)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。したがって、CTLのTh依存性は、実験設定によって大きく変わる。この仮説に基づいて、CD8
+T細胞応答の増強が指数的漸増ワクチン用量でのワクチン接種によるT細胞ヘルプと無関係であるか否かを、本発明者らは調べた。
【0106】
クラスI LCMV gp33(aa33〜41)ペプチド及びLCMVのクラスII
LCMV gp61(aa61〜80)Th−エピトープの混合物を用いて、上記プロトコールの場合(表1参照)と同様に、指数的漸増ワクチン用量でマウスを免疫感作した。CD8
+T細胞応答に及ぼす用量動態の同一作用が上記プロトコールで免疫感作されたマウスにおいて得られた(データは示されていない)ため、指数的漸増ワクチン用量での
ワクチン接種によるCD8
+T細胞応答の増強は、T細胞ヘルプと無関係であることが観察された。
【0107】
上記で観察された指数的免疫感作が他のペプチドで達成され得るか否かを調べるために、ヒトHLA A2.1クラスI分子と結合するインフルエンザ・マトリックスタンパク質由来の別のペプチドに分析を拡大した(Falk, K. et al., Immunology: 82, 337-42, 1994、上記)。HLA A2.1を発現するトランスジェニックマウス(HHD;Pascolo, S. et al., J. Exp. Med. 185, 2043-51, 1997、上記)を、インフルエンザ・マトリックスペプチド(GILGFVFTL、配列番号1)及びCpG ODNで皮下免疫感作した。免疫感作日程は、表1(上記)に記載したとおりであった。ワクチンを、1回ボーラス(125μgペプチド及び12.5nmol CpG、s1)として与えるか、又は同一総用量を、用量段階的増大方式で4日にわたって(s4)投与した。抗原を徐々に放出する鉱油である不完全フロイントアジュバント(IFA)を、陽性対照として用いた(Miconnet, I. et al., J Immunol., 168, 1212-8, 2002;Speiser, D.E. et al., J Clin. Invest. 115, 739-46, 2005;Aichele, P., et al., J Exp. Med. 182, 261-6; 1995)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)。8日後、CD8
+T細胞を、ペプチドによる血中リンパ球のin vitro再刺激後のIFN−γ産生に関して分析した(平均±SEM;n=3〜4)。指数的漸増ワクチン用量は、1回用量のペプチド及びCpG(0.6%±0.2)又はIFA中で乳化されたペプチド及びCpGの処理(2.5%±1.9)より高頻度のIFN−γ産生細胞(6.2%±1.5)を生じる、ということが観察された(
図2)。
【0108】
実施例4
4日以上の抗原投与は、最大CD8
+T細胞応答を誘導する
上記実施例で示したように、4日間の期間にわたって指数的に増大した抗原は、ボーラス注射又は均一ワクチン用量の毎日注射より有意に強力なT細胞応答を誘導した。したがって、抗原提示のさらなる延長が応答をさらに増強するか否かを調べるために、実験を実行した。C57BL/6マウスの群を、同一総用量のgp33ペプチド及びCpG(125μgのp33及び12.5nmolのCpG)で、しかし異なる指数的動態に従って、ボーラスとしての用量を注射することにより、或いは4、6又は8日間にわたって(
図3A)皮下免疫感作した(ピークは0日目(ボーラス)、3日目、5日目又は7日目)。
【0109】
最終注射後の異なる時点で、フローサイトメトリーによるCD44発現及び細胞内IFN−γの確定のために、血中リンパ球を単離し、gp33ペプチドでin vitroで再刺激した。
図3Bに示したように、1回ボーラス注射との比較において、4、6又は8日にわたる注射は、免疫応答の高さでの特異的CD8
+T細胞の比較可能な有意に増強された頻度を生じたが、これは最終注射の4〜7日後であった。FACS密度ブロットは、免疫応答のピークでFACSにより測定した場合のCD44hi及びIFN−γ産生CD8陽性リンパ球の頻度を表し、そして数字はIFN−γ産生CD44hi CD8
+T細胞の平均パーセンテージを示す。2つの同様の実験のうちの1つを示す(n=3〜4)。
【0110】
IFN−γ産生CD44hi CD8
+T細胞の平均パーセンテージは、時間の関数としても表わされる(
図3C)。2つの同様の実験のうちの1つを示す(n=3〜4)。4日目にピークに達する抗原動態は、有意に弱い応答を誘導するより短い又はより長い抗原プロファイルと比較して、有意に強力なCTL応答を誘導した。さらに、最終注射の4週間後に測定した場合の休止した記憶細胞の数に統計学的差は認められなかった。これらの観察に関する生物学的理由は、エフェクター細胞へのCD8
+T細胞の増殖及び分化は数日を要し、そして免疫系が1日又は2日以内に宿主に圧倒的に感染する病原体と競合することさえ難しい、というものであり得る。他方、長期間複製する病原体は、それらがCTLにより絶えず争われる場合、より多くの損害を引き起こす。
【0111】
実施例5
指数的漸増抗原刺激は防御的抗ウイルス応答を増強する
上記観察の機能的関連性をさらに解明するために、異なるレジメン(表1に示したようなs1〜s4)に従って固定累積用量のgp33ペプチド及びCpGで雌野生型C57BL/6マウスを免疫感作し、次に、T細胞応答がすでに収縮又は記憶期にある時点でLCMV又はLCMV糖タンパク質(vacc−gp)を発現する組換えワクシニアウイルスで攻撃誘発した(Kaech, S.M., et al., Nat Rev Immunol 2, 251-62, 2002)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。両ウイルスに対する防御は、専らCD8
+T細胞によって変わる(Binder, D. and Kundig, T.M., J Immunol 146, 4301-7, 1991;Kundig, T.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA: 93, 9716-23, 1996)(これらの記載内容は各々、参照によりその全体が本明細書中で援用される)。
【0112】
上記のように、指数的漸増量(s4)で、又はgp33ペプチド及びCpGのボーラス注射(s1)で、マウス(n=4)を免疫感作した(表1)。陰性対照マウスは未処置(ナイーブ)のままにし、そして陽性対照マウスはLCMV(250pfu)に感染させた。gp33−MHC四量体並びにフローサイトメトリーを用いたgp33特異的エフェクター又は記憶CTLの分析のために、10日目及び30日目に(
図4A)、或いはgp33でのin vitroでの再刺激後のIFN−γ産生CD8
+T細胞の分析のために30日目に(
図4B)、マウスを採血した。
図4Aは、10日目及び30日目の、そして左から右に、ナイーブ、s1、s4及びLCMVの、gp33−四量体陽性CD44hi発現を表す。上記結果と一致して、指数的漸増用量のペプチド(gp33)及びCpGは、1回注射ワクチン接種の場合より有意に高い頻度のIFN−γ産生エフェクター及び記憶細胞(
図4B)並びにgp33−四量体陽性記憶(CD44
hi)細胞(
図4A)を誘導した。30日目に、250pfuのLCMVでの腹腔内注射により全マウスを攻撃誘発した。4日後に、脾臓でウイルス力価を測定した。30日目に、250pfuのLCMVでマウスを腹腔内攻撃誘発した。4又は5日後に、脾臓又は卵巣をLCMVの確定のために採取した。ボーラス(s1)ワクチン接種マウスはウイルス複製に対して有意に防御されなかった(
図4C)が、一方、指数的漸増ワクチン接種は、ナイーブ又はボーラスワクチン接種マウスと比較して、約10〜20倍の有意の防御抑制LCMV力価を誘導した(p<0.01)。
【0113】
別の組の実験では、異なるレジメンを用いてC57BL/6マウスを免疫感作し、次に1.5×10
6pfuの組換えワクシニアウイルス(vacc−gp)で、8日目(
図4D)又は24日目(
図4E)に静脈内攻撃誘発した。その5日後に、vacc−gp複製を卵巣で確定した(
図4D及び
図4E)。さらにまた、用量段階的増大様式で免疫感作したマウスのみが、有意の防御的CD8
+T細胞応答を備えて、他のペプチド免疫感作プロトコールよりも平均で2〜3オーダーの大きさでウイルス複製を抑制することができた。
【0114】
したがって、これらの結果は、免疫感作中の抗原提示の動態の生物学的関連性を証明した。
【0115】
実施例6
活性化APCの数は刺激動態の型に依存しない
免疫感作動態が活性化状態及び活性化APCの数に影響を及ぼすか否かを試験するために、
図1〜
図3に、並びに表1に記載したような免疫感作プロトコールs1(ボーラス注射)及びs4(指数的漸増用量)に従って、gp33ペプチド及びCpGでC57BL/6マウスを免疫感作した。ワクチンを鼠径部に皮下投与した。1、4、6及び8日後、鼠径リンパ節を除去し、そしてその単一細胞懸濁液を、DCマーカーCD11c、並びにCD86及びMHCクラスIIマーカーI−Abの発現に関してフローサイトメトリーによ
り分析した(
図5A)。結果は、ナイーブ対照(0日目)に比して平均蛍光として表現される。結果は、異なる動態が流入領域リンパ節中のDCの数にも、MHC−クラスII(I−Ab)及びCD86発現によりモニタリングされるようなそれらの活性化状態にもきわめて重要な影響を及ぼさない、ということを示唆した(
図5A)。しかしながら、DC数及び活性化のピークは比較可能であるが、しかしそれらは2〜3日隔てられた。DC活性化は、免疫感作動態の型とは関係なく、最大CpG用量の1日後にその最大に達した。
【0116】
したがって、単にDCが最も活性化される時点で抗原性ペプチドが送達されるため、指数的漸増ワクチン接種がCD8
+T細胞誘導に最適である可能性を試験した。これが真実である場合、CpGのボーラス注射の1日後の、又は4日間にわたって指数的漸増パターンで投与されるCpGの最終用量の1日後の、ボーラスとしての高用量のペプチドの投与は、用量段階的増大様式でペプチド及びCpGの両方を投与した場合に匹敵するCD8
+T細胞応答を生じるはずである。別個の実験では、示したような改変プロトコールに従って、gp33ペプチド及びCpGでマウスを免疫感作した(
図5B)。一群には、3日目にCpGボーラスを、そして4日目にgp33ペプチドボーラスを施した。一群には、0〜3日目に指数的漸増CpG用量を、その後、4日目にgp33ペプチドボーラスを施した。最後の群には、上記のように1〜4日目に指数的漸増用量のgp33ペプチド及びCpGを施した(s4)。IFN−γ産生CD8
+T細胞の頻度を、10日目に末梢血中で測定した。結果は、2つの比較可能な実験(n=3)からの1つの平均及びSEMを示す。
図5Bから明らかなように、CpGによるAPCの前刺激は、gp33及びCpGを一緒に指数的漸増パターンで投与することにより生じる応答より有意に低いgp33特異的免疫応答を生じた(p=0.016)。
【0117】
実施例7
指数的漸増抗原刺激はT細胞刺激延長に好都合である
免疫感作の動態がCD8
+T細胞の増殖にどのように影響を及ぼしたかを試験するために、上記のように、そして表1に記載されたように、gp33ペプチド及びCpGの1回用量(s1)で、均一1日用量(s2)で、又は指数的漸増用量(s4)をマウスに注射した。マウスの一群は、陰性対照として未処置のままであった。増殖をモニタリングするために、全てのマウスに、初回免疫感作の1日前に、トランスジェニックTCR318マウスからの10
7又は1.5×10
6個のCFSE標識脾臓細胞を静脈内投与した。異なる時点で、尾からの採血によりリンパ球を単離し、そしてフローサイトメトリーによりCD8発現及びCFSE染色に関して分析した。p値は、分裂に入ったCFSE標識CD8
+T細胞のパーセンテージに関して、s1日程とs4日程との統計学的差を示す。結果は、2つの比較可能な実験のうちの1つを示す。gp33ペプチド及びCpGのボーラス注射は、免疫感作の3日後に分裂するようCFSE標識CD8
+T細胞を誘発した(
図6A及び
図6B)。増殖は、2日後にすでに検出することができた(
図6B)。5日目に、前駆体細胞は未だ分裂に入ったが、しかし3日目より低度であり、そして7日目までには、CFSE標識細胞は新規の分裂に入るのを止めていた。これに対して、指数的漸増刺激は、T細胞増殖を顕著に延長した。分裂に入っている細胞は、全免疫感作レジメンを未だ受けていないにも拘わらず、初回免疫の3日後という早くに確定され、分裂は5日目及び7日目に延長した(
図6B)。9日目でさえ、増殖は依然として観察された(示されていない)。さらに、分裂指数、即ち受けた分裂の平均数は、s2よりs4に関して有意に高かった(p<0.05、マン・ホイットニーによる)。
【0118】
実施例8
指数的漸増数のペプチドパルス標識DCはCD8
+T細胞応答を増強する
異なる数のAPCの寄与を調べるために、同一総数のペプチドパルス標識DCで、しかし異なる動態を用いて、C57BL/6マウスを免疫感作した。骨髄由来DCにHPV E7(aa49〜57、RAHYNIVTF、配列番号2)ペプチドを負荷し、総量1.
11×10
5細胞を、1日目にボーラスとして鼠径リンパ節中に注射し(s1)、或いは同一総量の細胞を、1日目(10
3細胞)、3日目(10
4細胞)及び6日目(10
5細胞)に漸増(s4)パターンで投与した。さらに、T細胞初回免疫に利用可能なDCの一定総数を保証するために、ワクチンをリンパ内投与した。ナイーブマウスを、陰性対照として用いた。17日目及び22日目に、末梢血中のE7四量体陽性CD8
+T細胞の頻度(
図7A(黒四角))をフローサイトメトリーにより分析した。値は、平均及びSEMを表わす(n=10)。IFN−γELISPOT(
図7A(白四角))を、脾臓から分析した(n=7)。値は、平均及びSEMを表わす(n=7)。21日目に、3匹のワクチン接種マウス及び10匹のナイーブマウスを、HPV形質転換腫瘍細胞株C3.43で攻撃誘発した(
図7B)。腫瘍進行を内径測定(mm)によりモニタリングし、これから、腫瘍容積を算定した。VSV np52ペプチドを負荷したDCの皮下注射により免疫感作したC57BL/6マウス(n=4)において、攻撃誘発後の生存を試験した(
図7C)。カプラン・マイヤー曲線の対数順位検定:s4≠s2:p=0.0084;s2≠s1:p=0.0082;s1≠ナイーブ:p=0.401。
【0119】
指数的漸増用量(s4)はさらにまた、ワクチンのボーラス注射(s1)より多数の抗原特異的CD8
+T細胞を誘導した。これは、それぞれ17日目及び22日目に測定されたMHC−E7四量体陽性(
図7A(黒四角))及びIFN−γ産生(
図7A(白四角))CD8
+T細胞の頻度の両方に関して明らかであった。測定されたCD8
+T細胞応答の強度と相関して、用量段階的増大プロトコールでワクチン接種されたマウスは、HPV形質転換腫瘍細胞株C3.43による攻撃誘発を拒絶した(
図7B)。これに対して、1回ボーラスで単にワクチン接種されたマウスは、防御されなかった。
【0120】
同様に、VSV np52ペプチドを負荷したDCの(s4)プロトコールで免疫感作したマウスは、VSV核タンパク質を発現するようトランスフェクトされたマウスリンパ腫細胞EL−4による攻撃誘発後の生存改善を示した(
図7C)。VSV np52ペプチドを負荷したDCの皮下注射により、C57BL/6マウスを免疫感作した(n=4)。1.11×10
5のDCを、1日目にボーラスとして(s1)、或いは1、3及び6日目に等用量として(s2)、又は用量段階的増大(s4)用量として、投与した。ナイーブマウスを、対照として用いた。14日目に、全マウスを用量10
6のEL−4 N.1細胞で腹腔内攻撃誘発した(Kundig, et al., J Immunol. 150, 4450-4456, 1993、上記)。(s4)免疫感作マウスの生存は、3日目に一定数で投与されたDCを用いて(s2)プロトコールに従って免疫感作されたマウスより有意に良好であった(p=0.084)、ということをデータは示している。
【0121】
したがって、指数的漸増ワクチン接種は、ボーラスワクチン接種よりも免疫原性であることを立証した。これらの実験は免疫感作全体を通してDC活性化を同一レベルに保持し、そしてDCの総数は同一であるので、これは、活性化ペプチド提示DCの出現の動態がCD8
+T細胞応答の強度を確定する、ということを確証する。したがって本発明者らは、DC数と特異的T細胞の頻度との同時性がT細胞応答の最終バーストサイズを増強する、と結論づけた。早期応答中の特異的T細胞の低頻度は少数の抗原パルス標識化DCで効率的に刺激され得るが、一方、後期主要応答中の高頻度の特異的T細胞を多数のDCで再刺激することは重要であると思われる。
【0122】
実施例9
指数的漸増抗原性刺激はT細胞におけるIL−2産生を増強する:T細胞クローンのレベルでの抗原動態の影響
本発明者らは次に、上記実施例における観察がT細胞クローンのレベルで説明され得るか、或いはそれらが示差的親和性、結合力及び機能性を有するT細胞クローン型を包含するin vivoT細胞選択過程の結果であるか否かを調べた。
【0123】
1×10
5のTCRトランスジェニックT細胞を、支持細胞として役立つ2×10
6の照射同系脾臓細胞と共に共培養した。D
bの文脈でgp33を認識するトランスジェニックT細胞受容体を発現するT細胞を、同一総用量の、しかし種々のプロファイルに対応する抗原で、即ち、0日目に10
-9Mのgp33のボーラスで(黒四角);4日間にわたってそれぞれ0、1、2及び3日目に10
-12、10
-11、10
-10及び10
-9Mの指数的漸増gp33用量で(黒ひし形);4日間毎日0.25×10
-9Mの同一gp33用量で(黒三角);又はそれぞれ0、1、2及び3日目に10
-9、10
-10、10
-11及び10
-12Mの指数的漸減gp33用量で(黒丸)、in vitroで刺激した。gp33刺激を伴わない対照細胞は、(*)として示される。IL−2、IL−10及びIFN−γを上清中で毎日確定し(
図8B)、そして6日後、CTL活性を5時間
51Cr放出検定で確定した(
図8A)。値は、二重反復実験(
図8A)及び三重反復実験(
図8B)培養の平均を表す。
【0124】
in vivo知見と同様に、指数的漸増免疫原用量は、その後の同一gp33用量を毎日投与すると、最強のCTL応答を誘導するが、一方、ボーラスとしての又は漸減用量プロファイルでの免疫原の投与は、より弱いCTL応答を生じた。差異は、細胞が10分の1のペプチド用量で刺激された場合、より大きかった。CTL活性は、IL−2の産生と相関した(
図8B、上部パネル)。指数的漸増免疫原用量は最高量のIL−2を誘導したが、一方、一定の毎日免疫原用量ははるかに少ないIL−2を誘導した。一定抗原刺激は、指数的漸増抗原刺激と比較した場合、より早期の開始を伴う多量のIL−10を誘導した(
図8B、中パネル)。IFN−γは、免疫原ボーラス又は指数的漸減量の免疫原で刺激された細胞において早期段階で一過性に産生された(
図8B、底部パネル)。これに対して、一定又は指数的漸増用量による毎日刺激は、特異的T細胞によるより多量のIFN−γの分泌を誘導した。
【0125】
したがって、観察されたように、継続的及び十分な抗原刺激は、IFN−γ産生を維持するために必要であった。指数的漸増抗原刺激が一定の毎日用量より少ないIFN−γを産生するようであるという事実は、IFN−γの高in vitro安定性並びに早期IFN−γ産生のための連続的蓄積により説明され得る。
【0126】
総合的に考えると、指数的漸増免疫原用量によるクローン型T細胞のin vitro刺激は、全ての他の抗原プロファイルより多量のIL−2及びIFN−γを産生し、その後の時点でIL−10を刺激した。これらの観察は、漸増抗原刺激によりもたらされる免疫応答増強がクローン型レベルで働く、という結論と一致する。これらの現象は、より高いT細胞結合力を伴うことも示されており、これは、T細胞及び樹状細胞間の効率的相互作用にとって極めて重要である(Bousso and Robey. 2003. Nat Immunol 4: 579-585)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。
【0127】
IL−2の産生はCD4
+及びCD8
+T細胞活性化の証明であり、そしてT細胞応答のいくつかの段階を調節するに際して重要な役割を果たす。TCR(シグナル1)及び共刺激性分子(シグナル2)の結合は、T細胞の限定されたクローン展開のみを誘導する。T細胞の広範な増幅、並びに産生性T細胞応答を備えるためのエフェクター細胞への分化は、IL−2Rを介したシグナル伝達を必要とし(シグナル3;Malek, T.R. and Bayer, A.L., Nat. Rev. Immunol., 4, 665-74, 2004)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)、そしてCD8
+T細胞による自己分泌IL−2産生はin vivoCD8
+T細胞展開の重要な動因である(Malek, T.R. & Bayer, A.L., Nat. Rev. Immunol., 4, 665-74, 2004、上記;D'Souza, W.N., et al., J Immunol., 168, 5566-72, 2002(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される))。他方、IL−10は、普通は樹状細胞の調整を介したT細胞増殖の主要阻害剤である(Moore, K.W.,
et al., Annu. Rev. Immunol., 19, 683-765, 2001)(この記載内容は参照によりその全体が本明細書中で援用される)。したがって、本発明のin vivoデータは、クローンレベルで、T細胞が抗原曝露の動態を復号し得る、ということを示した。
【0128】
実施例10
線形的漸増抗原刺激はCD8
+T細胞応答を増強する
T細胞応答が漸増抗原刺激により増強され得るか否かを確定するために、調査を実行した。一実験において、1×10
6個のトランスジェニックgp33特異的T細胞をC57BL/6野生型レシピエントマウス中に移して、前駆体T細胞頻度を増大し、免疫応答の査定を促した。
【0129】
以下のような異なるワクチン接種プロトコールを用いて、CpG ODN(総量で125μgのgp33及び12.5nmolのCpG)と混合した同一累積用量のgp33ペプチドで、全マウスを免疫感作する:s1)0日目にボーラス注射で単回用量;s2)4日間にわたって4等用量;s3)4日間にわたって線形的漸減用量;そしてs4)4日間にわたって線形的漸増用量。付加的に、マウスの群を1回用量のCpGで免疫感作し、その後、線形的漸増用量のgp33ペプチドで免疫感作する(s5)か、又は1回用量のgp33で免疫感作し、その後、線形的漸増用量のCpGで免疫感作する(s6)。0日目に250pfuのLCMVウイルスに静脈内感染させたマウスを、陽性対照として役立てる。6日目、12日目及び8日目に、in vitroでgp33ペプチドで再刺激した血中リンパ球の細胞内IFN−γ染色により、CD8
+T細胞応答を定量した。
【0130】
CD8
+T細胞応答を強力に増強するため、CpG ODNをアジュバントとして選択した(Krieg, A.M., Annu Rev Immunol 20, 709-60, 2002;Schwarz, K. et al., Eur J Immunol 33, 1465-70, 2003、上記)。ホスホロチオエート安定化ODNは、30分〜60分の半減期で血漿から除去される(Farman, C.A. & Kornbrust, D.J., Toxicol Pathol
31 Suppl, 119-22, 2003、上記)。しかしながら、組織中では、CpG ODNは相対的に安定しており、半減期は48時間であった(Mutwiri, G.K., et al., J Control Release 97, 1-17, 2004、上記)。さらに、60分以内に、血清プロテアーゼは検出レベルより低い値に遊離ペプチドを分解させる、ということが文献中で注目される(Falo, L.D., Jr., et al., Proc Natl Acad Sci USA 89, 8347-50, 1992;Widmann, C., et al., J Immunol 147, 3745-51, 1991、上記)。
【0131】
LCMV野生型による感染に匹敵する大きさのCD8
+T細胞応答をもたらす免疫感作は、線形漸増様式でのgp33及びCpGの両方の投与により提供される、ということが観察される。gp33及びCpGの均一1日用量を用いた免疫感作は、強力なCD8
+T細胞応答を誘導するが、しかし用量段階的増大刺激より有意に弱い、ということも観察される。さらに、ワクチン構成成分のうちのいずれか1つが1回用量として送達される場合、免疫感作の効力は有意に低減されるが、しかしナイーブ対照と比較して有意である、ということが観察される。
【0132】
同様の観察は、TCRトランスジェニック細胞を施されないナイーブ野生型マウスにおいてなされる。線形的漸増ワクチン(gp33及びCpG)用量で免疫感作されたC57BL/6マウスは、特異的CD8
+T細胞のかろうじて検出可能な頻度を誘導する他のワクチン接種プロトコールと比較して、CD8
+T細胞の有意に増強された誘導を示す。これらの結果は、全体的用量とは関係なく、ワクチン接種の動態は免疫原性の重要なパラメーターである、ということを示す。
【0133】
実施例11
線形的漸増抗原刺激は防御的抗ウイルス応答を増強する
漸増抗原刺激によって防御的抗ウイルス応答を増強することができるか否かを確定するために調査を実行した。一実験では、異なるレジメン(実施例10に記載したs1〜s4)に従って固定累積用量のgp33ペプチド及びCpG(総量で125μgのgp33及び12.5nmolのCpG)で雌野生型C57BL/6マウスを免疫感作し、次に、T細胞応答がすでに収縮又は記憶期にある時点でLCMV又はLCMV糖タンパク質(vacc−gp)を発現する組換えワクシニアウイルスで攻撃誘発した(Kaech, S.M., et al., Nat Rev Immunol 2, 251-62, 2002、上記)。両ウイルスに対する防御は、専らCD8
+T細胞によって変わる(Binder, D. and Kundig, T.M., J Immunol 146, 4301-7, 1991;Kundig, T.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA: 93, 9716-23, 1996、上記)。
【0134】
実施例10に記載のように、線形的漸増量(s4)で、又はgp33ペプチド及びCpGのボーラス注射(s1)で、マウス(n=4)を免疫感作した。陰性対照マウスは未処置(ナイーブ)のままにし、そして陽性対照マウスはLCMV(250pfu)に感染させた。gp33−MHC四量体並びにフローサイトメトリーを用いたgp33特異的エフェクター又は記憶CTLの分析のために、10日目及び30日目に、或いはgp33でのin vitroでの再刺激後のIFN−γ産生CD8
+T細胞の分析のために30日目に、マウスを採血した。線形的漸増用量のペプチド(gp33)及びCpGは、1回注射ワクチン接種の場合より有意に高い頻度のIFN−γ産生エフェクター及び記憶細胞並びにgp33−四量体陽性記憶(CD44
hi)細胞を誘導することが観察された。30日目に、250pfuのLCMVでの腹腔内注射により全マウスを攻撃誘発した。4日後に、脾臓でウイルス力価を測定した。30日目に、250pfuのLCMVでマウスを腹腔内攻撃誘発した。4又は5日後に、脾臓又は卵巣をLCMVの確定のために採取した。ボーラス(s1)ワクチン接種マウスはウイルス複製に対して有意に防御されなかったが、一方、線形的漸増ワクチン接種は、ナイーブ又はボーラスワクチン接種マウスと比較して、LCMV力価の抑制において有意の防御を誘導する(p<0.01)。
【0135】
別の組の実験では、異なるレジメンを用いてC57BL/6マウスを免疫感作し、次に1.5×10
6pfuの組換えワクシニアウイルス(vacc−gp)で、8日目又は24日目に静脈内攻撃誘発した。その5日後に、vacc−gp複製を卵巣で確定する。用量段階的増大様式で免疫感作したマウスのみが、有意の防御的CD8
+T細胞応答を備えて、他のペプチド免疫感作プロトコールよりも数オーダーの大きさでウイルス複製を抑制することができることが観察された。
【0136】
実施例12
線形的漸増抗原刺激はT細胞刺激延長に好都合である
免疫感作の動態がCD8
+T細胞の増殖にどのように影響を及ぼすかを試験するために、実施例10に記載したように、gp33ペプチド及びCpGの1回用量(s1)で、均一1日用量(s2)で、又は線形的漸増用量(s4)を、マウスに注射する。マウスの一群は、陰性対照として未処置のままである。増殖をモニタリングするために、全てのマウスに、初回免疫感作の1日前に、トランスジェニックTCR318マウスからの10
7個のCFSE標識脾臓細胞を静脈内投与する。異なる時点で、尾からの採血によりリンパ球を単離し、そしてフローサイトメトリーによりCD8発現及びCFSE染色に関して分析する。線形的漸増刺激は、1回ボーラス注射刺激プロトコールに比して、T細胞増殖を顕著に延長する、ということが観察される。
【0137】
実施例13
線形的漸増数のペプチドパルス標識DCはCD8
+T細胞応答を増強する
異なる数のAPCの寄与を調べるために、同一総数のペプチドパルス標識DCで、しかし異なる動態を用いて、C57BL/6マウスを免疫感作した。骨髄由来DCにHPV E7(aa49〜57、RAHYNIVTF、配列番号2)ペプチドを負荷し、総量1.
2×10
5細胞を、1日目にボーラスとして鼠径リンパ節中に注射し(s1)、或いは同一総量の細胞を、1日目(2×10
4細胞)、3日目(4×10
4細胞)及び6日目(6×10
4細胞)に線形的漸増(s4)パターンで投与する。さらに、T細胞初回免疫に利用可能なDCの一定総数を保証するために、ワクチンをリンパ内投与する。ナイーブマウスを、陰性対照として用いる。17日目及び22日目に、末梢血中のE7四量体陽性CD8
+T細胞の頻度をフローサイトメトリーにより分析し、IFN−γELISPOTを脾臓から分析する。21日目に、3匹のワクチン接種マウス及び10匹のナイーブマウスを、HPV形質転換腫瘍細胞株C3.43で攻撃誘発する。腫瘍進行を内径測定(mm)によりモニタリングし、これから、腫瘍容積を算定する。VSV np52ペプチドを負荷したDCの皮下注射により免疫感作したC57BL/6マウスにおいて、攻撃誘発後の生存を試験する。
【0138】
それぞれ17日目及び22日目に測定されるMHC−E7四量体陽性及びIFN−γ産生CD8
+T細胞の頻度の両方により明らかにされるように、線形的漸増用量(s4)は、ワクチンのボーラス注射(s1)より多数の抗原特異的CD8
+T細胞を誘導する、ということが観察される。用量段階的増大プロトコールでワクチン接種されたマウスは、HPV形質転換腫瘍細胞株C3.43による攻撃誘発を拒絶するが、一方、1回ボーラスで単にワクチン接種されたマウスは防御されない、ということも観察される。
【0139】
さらなる実験において、C57BL/6マウスを、VSV np52ペプチドを負荷したDCの皮下注射により免疫感作する。1.2×10
5のDCを、1日目にボーラスとして(s1)、或いは1、3及び6日目に等用量として(s2)、又は用量段階的増大(s4)用量として、投与する。ナイーブマウスを、対照として用いる。14日目に、全マウスを用量10
6のEL−4 N.1細胞で腹腔内攻撃誘発する(Kundig et al., J Immunol. 150, 4450-4456, 1993、上記)。VSV np52ペプチドを負荷されたDCの(s4)プロトコールで免疫感作されたマウスの生存は、3日目に一定数で投与されたDCを用いて(s1)又は(s2)プロトコールに従って免疫感作されたマウスより有意に良好である、ということが観察される。
【0140】
上記の種々の方法及び技術は、本発明を実行するための多数のやり方を提供する。もちろん、必ずしも全ての記載された目的又は利点が本明細書中に記載された任意の特定の実施形態に従って達成され得るわけではない、と理解されるべきである。したがって、例えば、該方法は、本明細書中に教示されるか又は示唆され得るような他の目的又は利点を必ずしも達成せずに、本明細書中に教示されるような一利点又は利点群を達成するか又は最適化するやり方で実施され得る、と当業者は認識する。種々の有益な及び不利益な代替物が、本明細書中で言及される。いくつかの好ましい実施形態は特に、1つの、別の又はいくつかの有益な特徴を包含するが、一方、他の実施形態は特に、1つの、別の又はいくつかの不利益な特徴を排除し、さらに他の実施形態は特に、1つの、別の又はいくつかの有益な特徴を含めることにより、本発明の不利益な特徴を軽減する、と理解されるべきである。
【0141】
さらに、異なる実施形態からの種々の特徴の適用可能性を当業者は認識するであろう。同様に、上記の種々の要素、特徴及び工程、並びに各々のこのような要素、特徴又は工程のその他の既知の均等物は、本明細書中に記載される原理に従って方法を実施するように当業者により組合わせられ、適合されることができる。種々の要素、特徴及び工程の中で、或るものは多様な実施形態に特定的に含まれ、そしてその他は特定的に排除される。
【0142】
本発明を或る実施形態及び実施例の文脈で開示してきたが、本発明は、特定的に開示された実施形態を越えて、他の代替的実施形態並びに/又はその使用及び修正及び均等物にまで及ぶ、と当業者により理解される。
【0143】
本発明の多数の変形及び代替的要素を開示してきた。さらなる変形及び代替的要素が当業者に明らかであろう。これらの変形の1つは、スクリーニングパネル中の又は治療製品により標的化される特定数の抗原、抗原の型、癌の型、及び明記される特定抗原(複数可)であるがこれらに限定されない。本発明の種々の実施形態は、これらの変形又は要素のいずれかを特定的に含むか又は排除し得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、本発明の或る実施形態を記載し、特許請求するために用いられる成分の量、特性、例えば分子量、反応条件等を表す数は、「およそ」という用語によりいくつかの場合に修正されるものであると理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態では、明細書並びに添付の特許請求の範囲に記述された数値パラメーターは、特定の一実施形態により得ようとされる所望の特性によって変わり得る近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメーターは、報告された有効数字の数に鑑みて、そして普通の四捨五入技法を適用することにより、解釈されるべきである。広範囲の本発明のいくつかの実施形態を記述する数値範囲及びパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定実施例に記述される数値はできるだけ正確に報告される。本発明のいくつかの実施形態に提示される数値は、それらのそれぞれの試験測定値に見出される標準偏差に必然的に起因する或る種の誤差を含有し得る。
【0145】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明する文脈で(特に以下の特許請求の範囲のいくつかの文脈で)用いられる「1つの("a" and "an")」及び「前記(the)」並びに類似の指示語は、単数及び複数の両方を包含すると解釈され得る。本明細書中の値の範囲の記載は、単に、その範囲内に入る各々の別個の値に個別に言及する略記法として役立つよう意図される。本明細書中で別記しない限り、各々の個々の値は、それが本明細書中で個別に記載されるように、本明細書中に組入れられる。本明細書中に記載される方法は全て、本明細書中で別記しない限り、又は文脈により明らかに否認されない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書中の或る実施形態に関して提供される任意の及び全ての実施例、又は例示的用語(例えば「〜のような」)の使用は、単に本発明をより良好に例証するものであって、他に特許請求される本発明の範囲を限定しない。本明細書中の用語は何れも、本発明の実行に不可欠な任意の特許請求されない要素を示すものと解釈されるべきでない。
【0146】
本明細書中に開示される本発明の代替的要素又は実施形態の群分けは、限定されたものであると解釈されるべきでない。各群成員は、独立して、或いは本明細書中に見出される群の他の成員又は他の要素との任意の組合せで言及されるか又は特許請求され得る。群の1つ又は複数の成員は、便宜性及び/又は特許可能性の理由のために一群に包含されるか、或いはそれから削除され得る、と予測される。任意のこのような包含又は削除が起こる場合、本明細書は、修正され、添付の特許請求の範囲に用いられる全てのマーカッシュ群の記載要件を満たすような群を含むと思われる。
【0147】
本発明の好ましい実施形態は、本発明を実行するために本発明者らが最良のやり方であると分かっているものを含めて、本明細書中に記載されている。その好ましい実施形態に関する変更は、上記の説明を読めば、当業者には明らかになるであろう。当業者は適切な場合このような変更を用いることができ、そして本発明は、本明細書中に特定的に記載された以外の別のやり方で実行することができる、と意図される。したがって本発明の多数の実施形態は、準拠法により許されるように、添付された特許請求の範囲に記載された主題の全ての修正及び均等物を包含する。さらに、その全ての考え得る変更における上記の要素の任意の組合せは、別記しない限り、又は文脈により明らかに否認されない限り、本発明に包含される。
【0148】
さらに、本明細書全体を通して、特許及び印刷刊行物に対して多くの参照がなされてきた。上記引用参考文献及び印刷刊行物の各々は、独立して、参照によりその全体が本明細書中で援用される。
【0149】
最後に、本明細書中に開示された本発明の実施形態は、本発明の原理を例証するものである、と理解されるべきである。用いられ得るその他の修正が本発明の範囲内にあり得る。したがって例として、限定するものではなく、本発明の代替的構成を本明細書中の教示に従って利用することができる。したがって本発明は、まさに示されそして説明されたものに限定されない。