特許第5755911号(P5755911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755911
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】鋳型造型用粘結剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20150709BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20150709BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B22C1/22 C
   B22C1/00 B
   B22C1/00 G
   B22C1/10 Z
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-55440(P2011-55440)
(22)【出願日】2011年3月14日
(65)【公開番号】特開2011-212746(P2011-212746A)
(43)【公開日】2011年10月27日
【審査請求日】2013年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-62946(P2010-62946)
(32)【優先日】2010年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昭
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊樹
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−227944(JP,A)
【文献】 特開平05−237587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00−3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン樹脂と、周期律表第2、4、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属化合物とを含有し、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、及びリン酸から選ばれる1種以上を含むフラン樹脂用硬化剤と共に用いられ酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物であって、
前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が、0.01〜0.70重量%であり、
前記金属化合物が、水酸化物、硝酸塩、酸化物、有機酸の塩、アルコキシド及びケトン錯体から選ばれる1種以上の金属化合物である、酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記金属化合物が周期律表第2族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属化合物である請求項1記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記金属化合物が、水酸化物である、請求項1又は2記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
前記金属元素の含有量が、0.30〜0.70重量%である、請求項1〜3の何れか1項記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
前記フラン樹脂が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、又は前記群から選ばれる2種以上の共縮合物を含む請求項1〜4の何れか1項記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
耐火性粒子と、請求項1〜5の何れか1項記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、該酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを混合してなり、
前記フラン樹脂用硬化剤が、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、及びリン酸から選ばれる1種以上を含む酸性水溶液である、酸硬化性自硬性鋳型用組成物。
【請求項7】
前記フラン樹脂用硬化剤が、硫黄化合物を含有し、
前記フラン樹脂用硬化剤中の硫黄元素1モルに対し、前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物中の前記金属元素が、0.0005〜0.4モル含有されている請求項6記載の酸硬化性自硬性鋳型用組成物。
【請求項8】
更に、前記フラン樹脂用硬化剤が、リン酸系化合物を含有する請求項7記載の酸硬化性自硬性鋳型用組成物。
【請求項9】
前記耐火性粒子と前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と前記フラン樹脂用硬化剤との比率が、前記耐火性粒子100重量部に対して、前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部であり、前記フラン樹脂用硬化剤が0.07〜1重量部である、請求項6〜8の何れか1項記載の酸硬化性自硬性鋳型用組成物。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1項記載の酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、及びリン酸から選ばれる1種以上を含み、前記粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを耐火性粒子に加えて混練して酸硬化性自硬性鋳型用組成物を調製し、該酸硬化性自硬性鋳型用組成物を鋳型製造用の型に充填して、前記酸硬化性自硬性鋳型用組成物を硬化させることにより鋳型を得る、鋳型の製造方法。
【請求項11】
前記耐火性粒子と前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と前記フラン樹脂用硬化剤との比率が、前記耐火性粒子100重量部に対して、前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部であり、前記フラン樹脂用硬化剤が0.07〜1重量部である、請求項10に記載の鋳型の製造方法。
【請求項12】
前記フラン樹脂用硬化剤を耐火性粒子に添加した後、前記酸硬化性自硬性鋳型造型用粘結剤組成物を添加する請求項10又は11に記載の鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラン樹脂と金属化合物とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤と、有機スルホン酸、硫酸、リン酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた鋳物砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。酸硬化性樹脂には、フラン樹脂やフェノール樹脂等が用いられており、フラン樹脂には、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。得られた鋳型は、機械鋳物部品や建設機械部品あるいは自動車用部品等の鋳物を鋳造する際に使用される。
【0003】
前記した鋳型の造型、あるいは鋳型を用いて所望の鋳物を鋳造する上で、重要な項目として鋳型の強度劣化や鋳造時における作業環境が挙げられる。鋳型の強度劣化については、特に雨天や梅雨時などの多湿環境下において鋳型を長期保存(ストック)している場合に鋳型強度の劣化が問題になる可能性がある。即ち、鋳型が割れたり鋳造時に中子割れが発生したりして、得られる鋳物が不良品になる恐れがある。
【0004】
一方、鋳造時における作業環境については、酸硬化性自硬性鋳型の製造には硬化剤として有機スルホン酸、硫酸等の硫黄化合物が使用されるため、特に鋳造時における二酸化硫黄ガスや塩化物等の添加剤に由来するその他の刺激性ガス(塩化水素ガス等)が作業環境を悪化させる恐れがある。
【0005】
従って、多湿環境下における鋳型の強度劣化の改善と、鋳造時における二酸化硫黄ガスや塩化水素ガス等のその他の刺激性ガスの発生に起因する作業環境の悪化の改善が望まれる。
【0006】
特許文献1には、フラン樹脂を含む鋳型砂の硬化を促進させるために、アルカリ土類金属及び亜鉛族元素の塩化物を添加した鋳型砂が提案されている。また、特許文献2には、鋳型に湯を鋳込むことにより発生する異様な悪臭を含んだガスや燃焼煙の低臭低煙化を目的として、ケイ砂に粘結剤と無水炭酸ナトリウムを混合してなる鋳物砂や、ケイ砂に粘結剤と無水塩化カルシウムと無水炭酸ナトリウムを混合してなる鋳物砂が提案されている。また、特許文献3では、鋳型の強度を向上させるために、酸硬化性樹脂と金属の塩化物を含む鋳型造型用粘結剤組成物が提案されている。また、特許文献4では、製造されたフラン樹脂の遊離ホルムアルデヒドを低減する目的として製造触媒に鉛や亜鉛の酸化物及びその塩が使用される提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭48−56520号公報
【特許文献2】特開平8−57575号公報
【特許文献3】特開2010−29905号公報
【特許文献4】英国特許1303707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法で鋳型を製造すると、条件によっては二酸化硫黄ガスや塩化水素ガスが発生し、その強い刺激臭により作業環境が著しく悪化する可能性があることが本発明者らの検討により判明した。また、特許文献1〜3に記載の方法で鋳型を製造すると、条件によっては多湿環境下の保存等において鋳型の強度が劣化する可能性があることが本発明者らの検討により判明した。特許文献4では、フラン樹脂の遊離ホルムアルデヒドを低減させる目的で、フラン樹脂の製造触媒に鉛や亜鉛の酸化物及びその塩を特定濃度で添加して使用され、ホルムアルデヒドの発生に関してのみ作業環境が改善されるものの、二酸化硫黄ガスや塩化水素ガスを低減させて作業環境を改善がなされるものではない。
【0009】
本発明は、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止することができる上、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できる鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、フラン樹脂と、周期律表第2、4、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属化合物とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物であって、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が、0.01〜0.70重量%であり、前記金属化合物が、水酸化物、硝酸塩、酸化物、有機酸の塩、アルコキシド及びケトン錯体から選ばれる1種以上の金属化合物である、鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0011】
本発明の鋳型用組成物は、耐火性粒子と、上記本発明の鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを混合してなる、鋳型用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物、及び鋳型用組成物によれば、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止することができる上、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものである。以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0014】
<フラン樹脂>
フラン樹脂としては、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、これらの群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものも使用できる。フルフリルアルコールは、非石油資源である植物から製造できるため、地球環境の観点からも、上記列挙したフラン樹脂を使用することが好ましい。コストの観点、及び鋳型強度の観点から、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物を使用するのが好ましく、該アルデヒド類としてはホルムアルデヒドを使用するのがより好ましい。
【0015】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0016】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0017】
フラン樹脂の具体例として、花王クエーカー社製 カオーライトナーEF−5501(フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂のフルフリルアルコール溶液)等の市販品が挙げられる。
【0018】
粘結剤組成物中のフラン樹脂の含有量は、鋳型強度を十分発現する観点から、好ましくは55〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜90重量%であり、更に好ましくは65〜85重量%である。
【0019】
<金属化合物>
本発明の粘結剤組成物中には、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止し、かつ鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制するために、周期律表第2、4、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素を含む金属化合物が含有される。これらの金属化合物は2価以上の原子価を有し、鋳型強度を向上させるために、耐火性粒子とフラン樹脂の結合をより強固にすることが推測され、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止できるものと考えられる。また、これらの金属化合物は発生するSOガスと反応してCaSO等の不溶性の硫酸金属塩を生成し、このものは熱に対して安定であるので、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できるものと推測される。また、本発明の金属化合物は塩化物を含まないので、塩化水素の刺激性ガスが発生することもないと考えられる。上記金属元素としては、2族のMg、Ca、Sr、Ba等、4族のTi、Zr等、7族のMn等、10族のNi等、11族のCu等、13族のB、Al等が例示できる。なかでも二酸化硫黄と反応して低臭化させる観点から、2、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素が好ましく、2、7、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素がより好ましく、2族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素が更に好ましい。同様の観点から、金属元素の具体例としては、Mg、Ca、Ba、Ti、Zr、Mn、Ni、Cu、Alが好ましく、Mg、Ca、Mn、Cu、Alがより好ましく、Mg、Caが更に好ましい。
【0020】
また、上記金属元素としては、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止する観点から、周期律表第2、4、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素が好ましく、2、7、10、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素がより好ましく、2、7、11及び13族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素が更に好ましく、2族の元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素がより更に好ましい。同様の観点から、金属元素の具体例としては、Mg、Ca、Ba、Ti、Zr、Mn、Ni、CuAlが好ましく、Mg、Ca、Mn、Cu、Alがより好ましく、Mg、Caが更に好ましい。
【0021】
本発明で使用される金属化合物は、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止し、鋳造時における刺激性ガス(特に、二酸化硫黄ガスや塩化水素ガス)の発生を抑制する観点から、水酸化物、硝酸塩、酸化物、有機酸の塩、アルコキシド及びケトン錯体から選ばれる1種以上の金属化合物である。同様の観点から、金属化合物としては、水酸化物、硝酸塩が好ましい。本発明では、これらの化合物の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。金属元素の種類についても、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの金属化合物は、水和物の形態でも用いることができる。金属化合物の粘結剤組成物への溶解性向上の観点及び安定性の観点から安定的に鋳型を製造し、その結果鋳型の強度劣化や刺激性ガスの発生を抑制する観点から水酸化物が更に好ましい。
【0022】
具体的な金属化合物の例としては、水酸化物として水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化銅等が挙げられ、溶解性向上及び安定性向上の観点から安定的に鋳型を製造し、その結果鋳型の強度劣化や刺激性ガスの発生を抑制する観点から水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムが好ましく、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムがより好ましく、水酸化カルシウムが更に好ましい。硝酸塩として硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルムニウム、硝酸銅等が挙げられる。酸化物として酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。有機酸の塩としては、二酸化硫黄ガスの発生を抑制する観点から、有機カルボン酸塩や有機スルホン酸塩が好ましく、例えば乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、サリチル酸マグネシウム等の有機カルボン酸塩などが挙げられ、メタンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、キシレンスルホン酸カルシウム等の有機スルホン酸塩が挙げられる。アルコキシドとしては、ジエトキシアルミニウム、ジエトキシカルシウム、ジエトキシマグネシウム等が挙げられる。ケトン錯体としては、アルミニウムキレート剤で用いるようなアルミニウムジ(s−ブトキシド)アセトアセテート、マグネシウムアセチルアセトン、カルシウムアセチルアセトン等が挙げられる。取扱い安全性やフラン樹脂への溶解速度の観点から、アルコキシドよりケトン錯体を用いることが好ましい。なかでも、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止し、鋳造時における刺激性ガス(特に、二酸化硫黄ガスや塩化水素ガス)の発生を抑制する観点から、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルムニウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、アルミニウムジ(s−ブトキシド)アセトアセテート、マグネシウムアセチルアセトン、カルシウムアセチルアセトンが好ましく、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルムニウムがより好ましく、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムが更に好ましく、より更に水酸化カルシウムが好ましい。
【0023】
金属化合物の添加方法としては、特に限定されず、フラン樹脂合成時に添加しても良く、フラン樹脂合成後に添加しても良い。なお、フラン樹脂の合成工程において、金属化合物の存在下で縮合反応を行う場合、縮合反応は金属化合物が存在しない場合と同様に行うことができる。
【0024】
粘結剤組成物中の上記金属化合物の含有量は、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止し、かつ鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制することを両立する観点から、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.01〜0.70重量%となるように調整される。同様の観点から、金属化合物の含有量は、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.02重量%以上となるように調整されることが好ましく、0.05重量%以上となるように調整されることがより好ましく、0.10重量%以上となるように調整されることが更に好ましく、0.30重量%以上となるように調整されることがより好ましい。また、金属化合物のフラン樹脂への良好な分散性、又は溶解性を確保して多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止する観点から、金属化合物の含有量は、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.50重量%以下となるように調整されることが好ましく、0.40重量%以下となるように調整されることがより好ましい。上記観点を総合すると、金属化合物の含有量は、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.02〜0.70重量%となるように調整されることが好ましく、0.30〜0.70重量%となるように調整されることがより好ましく、0.30〜0.50量%となるように調整されることが更に好ましく、0.30〜0.40重量%となるように調整されることが更により好ましい。
【0025】
本発明の粘結剤組成物において、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が上記範囲内となるときの金属化合物の含有量は、鋳型の強度劣化防止と鋳造時における刺激性ガスの発生抑制を両立する観点から、金属化合物の種類によって異なるが、例えば水酸化物の場合は、粘結剤組成物中、0.02〜1.80重量%が好ましく、より好ましくは0.18〜1.80重量%であり、更に好ましくは0.50〜1.80重量%であり、更に好ましくは0.50〜1.30重量%である。また、同様の観点から、硝酸塩の場合は、粘結剤組成物中、0.05〜5.50重量%が好ましく、より好ましくは0.50〜5.50重量%であり、更に好ましくは1.80〜5.50重量%であり、より更に好ましくは1.80〜4.00重量%である。
【0026】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、フェノール誘導体、及び芳香族ジアルデヒドからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。なお、硬化促進剤は、フラン樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0027】
【化1】
〔式中、X及びXは、それぞれ水素原子、CH又はCの何れかを表す。〕
【0028】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)のフラン樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0029】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型強度を向上させる観点から、レゾルシン、フロログルシノールが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体のフラン樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、1.5〜25重量%であることが好ましく、2.0〜15重量%であることがより好ましく、2.0〜10重量%であることが更に好ましい。
【0030】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。鋳型強度を向上させる観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドをフラン樹脂に十分に溶解させる観点、鋳型強度を向上させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0031】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、フラン樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点から1〜10重量%の範囲がより好ましく、3〜7重量%の範囲が更に好ましい。また、鋳型強度を向上させる観点から、10重量%以下とすることが好ましく、7重量%以下とすることがより好ましく、4重量%以下とすることが更に好ましい。
【0032】
<その他の添加剤>
また、粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、得られる鋳型の強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−α−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度の観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。なお、シランカップリング剤は、フラン樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0033】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子と、鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを混合してなる鋳型用組成物(鋳物砂)を、鋳型製造用の型に充填して、前記鋳型用組成物を硬化させる鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型用組成物は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型用組成物である。
【0034】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等を使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0035】
フラン樹脂用硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)等のスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液などを1種以上使用できる。硬化速度を向上させるためにフラン樹脂用硬化剤がスルホン酸系化合物や硫酸等の硫黄化合物を含有する場合、従来は、鋳造時において二酸化硫黄ガスの発生により作業環境が著しく悪化していたが、本発明では、上述した粘結剤組成物を使用することによって、二酸化硫黄ガスの発生を抑制できる。
【0036】
本発明の鋳型用組成物において、フラン樹脂用硬化剤が硫黄化合物を含有する場合、二酸化硫黄ガスの発生を抑制する観点から、フラン樹脂用硬化剤中の硫黄元素1モルに対し、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.0005モル以上であることが好ましく、0.001モル以上であることがより好ましく、0.005モル以上であることが更に好ましい。また、本発明で用いる金属化合物のフラン樹脂への分散性、又は溶解性を向上しその結果均一な鋳型が得られ、鋳型の強度劣化を防止する観点から、フラン樹脂用硬化剤中の硫黄元素1モルに対し、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量が0.4モル以下であることが好ましく、0.3モル以下であることがより好ましく、0.2モル以下であることが更に好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中の前記金属元素の含有量は、フラン樹脂用硬化剤中の硫黄元素1モルに対し、0.0005〜0.4モルであることが好ましく、0.001〜0.3モルであることがより好ましく、0.005〜0.2モルであることが更に好ましい。
【0037】
また、フラン樹脂用硬化剤が硫黄化合物を含有する場合、鋳型強度を維持しながら鋳造時における二酸化硫黄ガスの発生を更に抑制する観点から、フラン樹脂用硬化剤が、リン酸やリン酸エステル等のリン酸系化合物を更に含有することが好ましい。より好ましくは、リン酸エステルであるモノエチルリン酸やジエチルリン酸を併用することにより鋳型の吸湿劣化を防止できる。この場合、硫黄化合物中の硫黄元素とリン酸系化合物中のリン元素とのモル比(リン/硫黄)は、同様の観点から、0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、2〜4であることが更に好ましい。また、フラン樹脂用硬化剤が硫黄化合物を含有する場合にリン酸系化合物を更に含有すると、得られる鋳物における硫黄に起因する欠陥、即ち、鋳鋼の熱間割れ、ダクタイル鋳鉄組織中の黒鉛の球状化不良等に対する改善が認められる。
【0038】
更に、フラン樹脂用硬化剤には、アルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型強度の向上の観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、フラン樹脂用硬化剤中の水分量が低減されるため、鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、フラン樹脂用硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0039】
鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。カルボン酸類としては、鋳型強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0040】
鋳物砂における耐火性粒子と粘結剤組成物とフラン樹脂用硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、フラン樹脂用硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、フラン樹脂用硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくする観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中のフラン樹脂100重量部に対して10〜80重量部であることが好ましく、20〜70重量部であることがより好ましく、30〜60重量部であることが更に好ましい。
【0041】
本発明の鋳型用組成物を用いて鋳型を製造する際は、従来の鋳型の製造方法のプロセスを利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させるフラン樹脂用硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって鋳型用組成物(鋳物砂)を調製し、これを木型等の鋳型製造用の型に充填して、前記鋳型用組成物を硬化させることにより鋳型を得ることができる。前記鋳型の製造方法では、可使時間を確保する観点から、前記硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0043】
<フラン樹脂Aの調製>
表1〜3に記載のフラン樹脂Aは、花王クエーカー社製 カオーライトナーEF−5501(フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂のフルフリルアルコール溶液)にレゾルシンを3重量%の含有量で溶解させたものを用いた。なお、フラン樹脂A中の遊離フルフリルアルコールの含有量は72重量%であり、シランカップリング剤(N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)の含有量は0.1重量%であった。また、フラン樹脂A中の窒素含有量は1.8重量%であり、フラン樹脂A中の水分含有量は3.4重量%であり、フラン樹脂Aの粘度は17mPa・s(25℃)であった。上記窒素含有量、水分含有量及び粘度の測定方法を以下に示す。
【0044】
<フラン樹脂A中の窒素含有量>
JIS M 8813に示されるケルダール法に基づいて測定を行った。
【0045】
<フラン樹脂A中の水分含有量>
JIS K 0068に示されるカールフィッシャー法に基づいて測定を行った。
【0046】
<フラン樹脂の粘度>
東京計器社製のBM形粘度計に添付されている粘度測定マニュアルに基づいて測定を行った。
【0047】
<実施例1〜37及び比較例1〜9の粘結剤組成物の調製>
表1〜3に示す粘結剤組成物の成分配合量で各成分を混合し、粘結剤組成物を調製した。なお、いずれの実施例及び比較例においても、使用した金属化合物は和光純薬工業社製の試薬であり、表1〜3に示す金属化合物の純度(%)は、和光純薬工業社製試薬カタログに記載されている値とした。また、表1〜3に示す粘結剤組成物の各成分の含有量は、粘結剤組成物(100重量%)中の含有量である。
尚、実施例11、35の金属化合物であるp−トルエンスルホン酸カルシウムはp−トルエンスルホン酸の0.2モル/リットル濃度水溶液100gに水酸化カルシウム0.1モル/リットル濃度分散水溶液100gを常温で混合し、その溶液を直径300mmのシャレーに移したものを120℃の乾燥機に24時間乾燥した。その後乾燥したケーキを10gかき取り瑪瑙製乳鉢で粉末化した白色粉末状のp−トルエンスルホン酸カルシウムを得た。尚該金属化合物の純度はJIS−K0116の「ICP発光分光分析法」に準拠しCa元素を分析し、該p−トルエンスルホン酸カルシウム試料の純度を算出した。
また、同様に実施例12、36の金属化合物であるm−キシレンスルホン酸カルシウムはm−キシレンスルホン酸の0.2モル/リットル濃度水溶液100gに水酸化カルシウム0.1モル/リットル濃度分散水溶液100gを常温で混合し、その溶液を直径300mmのシャレーに移したものを120℃の乾燥機に24時間乾燥した。その後乾燥したケーキを10gかき取り瑪瑙製乳鉢で粉末化した白色粉末状のm−キシレンスルホン酸カルシウムを得た。尚該金属化合物の純度は前記同様の操作を行ない該m−キシレンスルホン酸カルシウム試料の純度を算出した。
【0048】
<実施例1〜30及び比較例1,4〜9の鋳型用組成物の調製>
25℃、相対湿度60%の条件下で、珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕2kgに対し、キシレンスルホン酸及び硫酸を含む硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 TK−1 4.0gと、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 EC−11 4.0gとの混合物〕8.0g(硫黄含有量は9.9重量%)を添加した後、混練し、次いで表1及び表2に示す粘結剤組成物20.0gを添加し、これらを混合して鋳型用組成物(鋳物砂)を得た。なお、表1及び表2のモル比(M/S)は、硬化剤中の硫黄元素Sに対する粘結剤組成物中の金属化合物の金属元素Mのモル比(M/S)である。後述する実施例31〜37も同様である。なお、硬化剤に含まれる硫黄元素Sの含有量は、以下の方法に従って測定した。
【0049】
<硫黄元素の分析>
200mLコニカルビーカーに、試料1gを秤量し、30重量%の過酸化水素水1mLと硝酸10mLを加えた。これをホットプレートを用いて最初の容量が半分以下になるまで200〜300℃で加熱分解した。放冷後、硝酸10mLを加え、更に200〜300℃で加熱分解した。続いて放冷後、35重量%の塩酸(2mL)と純水(30mL)を加えて200〜300℃で加熱分解し、放冷後、所定量(50mL)にメスアップした試料について、JIS−K0116の「ICP発光分光分析法」に基づき、SHIMADZU社製「島津ツインシーケンシャル形高周波プラズマ発光分析装置 ICPS−8100」により硫黄元素の含有量を測定した。尚、試料の前処理はJIS−K0102に基づき、試料溶液の調製はJIS−K0083に基づいて行った。また、測定回数は2回とし、それらの平均値を算出した。
【0050】
<比較例2,3の鋳型用組成物の調製>
珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕100重量部に対し、更に無水炭酸ナトリウム0.1重量部を添加したこと以外は、上記比較例1と同様にして、比較例2の鋳型用組成物(鋳物砂)を得た。また、珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕100重量部に対し、更に無水塩化カルシウム0.1重量部を添加したこと以外は、上記比較例1と同様にして、比較例3の鋳型用組成物(鋳物砂)を得た。
【0051】
<実施例31〜37の鋳型用組成物の調製>
25℃、相対湿度60%の条件下で、珪砂〔山川産業社製、フリーマントル新砂〕2kgに対し、キシレンスルホン酸、硫酸及びリン酸を含む硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 NC−501 4.4gと、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 NC−521 3.6gとの混合物〕8.0g(硫黄含有量は4.29重量%、リン含有量は13.77重量%)を添加した後、混練し、次いで表3に示す粘結剤組成物20.0gを添加し、これらを混合して鋳型用組成物(鋳物砂)を得た。なお、表3のモル比(P/S)は、硬化剤中の硫黄元素Sに対する硬化剤中のリン元素Pのモル比(P/S)である。また、硬化剤中の硫黄元素Sの含有量は、上記と同様の方法で測定し、硬化剤中のリン元素Pの含有量は、以下の方法に従って測定した。
【0052】
<リン元素の分析>
200mLコニカルビーカーに、試料1gを秤量し、硝酸10mLを加えた。これをホットプレートを用いて最初の容量が半分以下になるまで200〜300℃で加熱分解した。放冷後、硝酸10mLを加え、更に200〜300℃で加熱分解した。続いて放冷後、35重量%の塩酸(2mL)と純水(30mL)を加えて200〜300℃で加熱分解し、放冷後、所定量(50mL)にメスアップした試料について、JIS−K0116の「ICP発光分光分析法」に基づき、SHIMADZU社製「島津ツインシーケンシャル形高周波プラズマ発光分析装置 ICPS−8100」によりリン元素の含有量を測定した。尚、試料の前処理はJIS−K0102に基づき、試料溶液の調製はJIS−K0083に基づいて行った。また、測定回数は2回とし、それらの平均値を算出した。
【0053】
得られた鋳型用組成物について、以下に示す評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0054】
<鋳型強度(σa)>
混練直後の鋳型用組成物を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後5時間経過した時に抜型を行い、25℃、相対湿度60%の条件下で48時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定し、得られた測定値を鋳型強度(σa)とした。
【0055】
<鋳型強度(σb)>
混練直後の鋳型用組成物を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後5時間経過した時に抜型を行い、25℃、相対湿度60%の条件下で24時間放置し、続けて25℃、相対湿度85%の条件下で24時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定し、得られた測定値を鋳型強度(σb)とした。
【0056】
<鋳型強度維持率(%)>
鋳型強度維持率(%)は、下記式により算出した。即ち鋳型強度維持率が高い程、多湿環境下においても鋳型強度を維持できる性能を有する。
鋳型強度維持率(%)=σb/σa×100
【0057】
<分解ガス発生量測定>
上記鋳型強度(σa)の評価で用いたテストピースをステンレス製の20メッシュ篩の上でこすり合わせて強制的にばらした鋳物砂5.00gを、磁製の燃焼ボート(エムエム化学陶業社製、型式997−CB−2:幅15mm、高さ10mm、長さ90mm)に充填し、測定試料を作製した。その後、500℃に調整した環状炉(アドバンテック東京社製、TYPE 07−V9:9kW、環状炉内径60mm、長さ600mm、一方はアルミ箔遮蔽)のヒーター中央部に、前記測定試料を挿入し、下記に示す所定の測定時間中に、ガス検知器(ガステック社製、型番GV−100S)により燃焼時に発生する塩化水素ガス(検知管種類14Lを使用)と二酸化硫黄ガス(実施例1〜30及び比較例1〜9は検知管種類5Lを使用、実施例30〜37は検知管種類5Laを使用)の濃度を測定した。なお、表1〜3の塩化水素ガスの欄の「−」は、塩化水素ガスが検出されなかった場合をさす。また、ガス検知管の測定時間は、以下のとおりとした。
塩化水素ガスの場合:測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間で1回採取し、それぞれの測定値を合計した。
二酸化硫黄ガスの場合:測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して4分間経過した後から1分間で1回採取し、測定試料を挿入して6分間経過した後から1分間で1回採取し、それぞれの測定値を合計した(但し、検知管種類5Laで測定した場合は、検知濃度指示値を2倍した値を採用した。)
【0058】
<発生ガスの官能刺激臭の評価>
上記<分解ガス発生量測定>と同様に、測定試料を環状炉内のヒーター中央部に挿入し、試料を挿入して2分経過後の発生ガスを100mL採取し、ガス捕集用テトラパックに入れて、全量で3.0リットルになるように新鮮な空気で30倍に希釈した。次いで、上記テトラパック内のガスについて、塩化水素ガスと二酸化硫黄ガスの官能刺激臭の検査(検査員の人数は3人)を実施し、以下の基準(A〜F)で評価した。
A:3人ともに殆ど刺激臭を感じない
B:3人中、1人が僅かに刺激臭を感じる
C:3人中、2人が僅かに刺激臭を感じる
D:3人ともに僅かに刺激臭を感じる
E:3人ともに刺激臭を感じる
F:3人ともに強い刺激臭を感じる
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1〜3に示すように、実施例は、何れの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例は、少なくとも1つの評価項目について、実施例に比べて顕著に劣る結果であった。この結果から、本発明によれば、多湿環境下における鋳型の強度劣化を防止することができる上、鋳造時における刺激性ガスの発生を抑制できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できることが確認された。