(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、洗浄、乾燥後のガラス基板の外周端部に欠陥が残り、そのため、ガラス基板の主表面の上に記録層を形成して磁気記録媒体としたときに記録領域に障害が出るという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、洗浄、乾燥後のガラス基板の外周端部に欠陥が残らないHDD用ガラス基板の製造方法、HDD用ガラス基板、及びHDD用磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、従来、洗浄槽内で洗浄液を整流で流していたので、ガラス基板の外周端部において洗浄残りが生じ易くなり、この洗浄残りがガラス基板の外周端部に欠陥となって残っていたことを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の一局面は、ガラス基板を洗浄液で洗浄する洗浄工程を含むHDD用ガラス基板の製造方法であって、洗浄工程では、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流して洗浄することを特徴とするHDD用ガラス基板の製造方法である。
【0010】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板に対して洗浄液が乱流で流れるので、ある方向の洗浄液の流れに対しては洗浄残りが生じても、その部分は、別の方向の洗浄液の流れに対しては洗浄残りがなくなる。そのため、ガラス基板の外周端部の洗浄残りが解消されて、洗浄、乾燥後のガラス基板の外周端部に欠陥が残ることが抑制される。
【0011】
本発明のHDD用ガラス基板の製造方法においては、ガラス基板をその両側端部及び下端部の3点で保持し、その保持部が90°ずつ離間していることが好ましい。
【0012】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、洗浄液を乱流で流しても、ガラス基板を洗浄中安定して保持することができる。また、ガラス基板の乾燥時にパーティクルの付着や乾燥染みの発生を防ぐことができる。
【0013】
本発明のHDD用ガラス基板の製造方法においては、洗浄槽内に遮蔽板を設けることにより、洗浄液を乱流で流すことが好ましい。
【0014】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、遮蔽板によって確実に洗浄槽内に乱流が発生し、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流すことができる。
【0015】
本発明のHDD用ガラス基板の製造方法においては、洗浄液の流れを横切る方向にガラス基板を移動させることにより、洗浄液を乱流で流すことが好ましい。
【0016】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板が洗浄液の流れを横切ることによって確実にガラス基板に対して乱流が発生し、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流すことができる。
【0017】
本発明のHDD用ガラス基板の製造方法においては、洗浄槽内に洗浄液を無秩序な向きに供給することにより、洗浄液を乱流で流すことが好ましい。
【0018】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、洗浄液が衝突し合うことによって確実に洗浄槽内に乱流が発生し、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流すことができる。
【0019】
本発明のHDD用ガラス基板の製造方法においては、ガラス基板を収容する洗浄キャリアの相対向する両側面に非対象に開口を設けることにより、洗浄液を乱流で流すことが好ましい。
【0020】
このような構成のHDD用ガラス基板の製造方法によれば、洗浄液が洗浄キャリアの両側面の非対象な開口を通過することによって確実に洗浄キャリア内のガラス基板に対して乱流が発生し、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流すことができる。
【0021】
本発明の他の一局面は、前記HDD用ガラス基板の製造方法により製造されたことを特徴とするHDD用ガラス基板である。
【0022】
このような構成のHDD用ガラス基板によれば、その製造過程における洗浄工程で、外周端部の洗浄残りが解消されているから、外周端部に欠陥が残ることが抑制された高品質のHDD用ガラス基板である。
【0023】
本発明のさらに他の一局面は、前記HDD用ガラス基板の主表面の上に記録層が設けられたことにより製造されたことを特徴とするHDD用磁気記録媒体である。
【0024】
このような構成のHDD用磁気記録媒体によれば、外周端部に欠陥が残ることが抑制されたHDD用ガラス基板が用いられているから、最外周部まで清浄性が高い高品質のHDD用磁気記録媒体である。そのため、たとえ記録領域が記録媒体の外周端部にまで広がっていても、記録領域に障害が出ることが抑制される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、洗浄、乾燥後のガラス基板の外周端部に欠陥が残らないようにすることができるから、近年の磁気記録媒体の情報の高密度化、ひいては磁気ヘッドの浮上高さの微小化に十分対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<HDD用ガラス基板の製造方法>
図1に示すガラス基板50及び
図2に示す製造工程図を参照して、HDD用ガラス基板の製造方法を説明する。
【0029】
本実施形態においては、HDD用ガラス基板50は、円盤加工工程、ラップ工程、1次研磨(粗研磨)工程、2次研磨(精密研磨)工程、化学強化工程、最終洗浄工程、検査工程等を経て製造される。
【0030】
ガラス基板50に用いられるガラス素材は、二酸化ケイ素(SiO
2)を主成分とするガラス組成物で構成される。ガラス組成物は、マグネシウム、カルシウム及び/又はセリウムを含んでも含まなくてもよい。代表的なガラス組成物は、例えば、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、Li
2O、Na
2O、K
2O、MgO、CaO、BaO、SrO、ZnO等を含んだものである。
【0031】
[円盤加工工程]
円盤加工工程では、溶融したガラス素材を金型に流し込んでプレス成形することにより円盤状のガラス基板(ブランクス)を作製する。このときのガラス基板の大きさとしては、例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1.0インチ、0.8インチ等、板厚が、2mm、1mm、0.8mm、0.63mm等である。得られたガラス基板の中心部に、例えばダイヤモンドコアドリル等を用いて円孔を形成し、環状のガラス基板とする。
【0032】
[ラップ工程]
ラップ工程は、第1ラップ工程と第2ラップ工程とを含む。第1ラップ工程では、ガラス基板の表裏両面を研削し、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度及び厚み等を予備調整する。第2ラップ工程では、第1ラップ工程に続いて、ガラス基板の表裏両面を再び研削し、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度及び厚み等をさらに微調整する。ラップ工程では、例えばダイヤモンドペレットが貼り付けられた上下定盤を備える両面研削機が用いられる。
【0033】
[1次研磨工程]
1次研磨工程では、次の2次研磨工程で最終的に求められる表面粗さが効率よく得られるように、ガラス基板の表裏両面を粗研磨する。この1次研磨工程では、例えば研磨パッドとして発泡ウレタンパッドが貼り付けられた上下一対の定盤を備える両面研磨機が用いられ、研磨液として例えば酸化セリウムを研磨砥粒として含む研磨液(スラリー)が用いられる。ただし、これに限定されるものではない。
【0034】
[2次研磨工程]
2次研磨工程では、1次研磨工程に続いて、最終的に求められる表面粗さが得られるように、ガラス基板の表裏両面を精密研磨する。この2次研磨工程では、
図3に示すように、ガラス基板50の表裏両面を同時研磨することが可能な両面研磨機10が用いられる。
【0035】
両面研磨機10は、相互に平行になるように上下に間隔をおいて配置され、相互に逆方向に回転可能な円盤状の上定盤11と下定盤12とを備えている。この上下一対の定盤11,12の各対向面にガラス基板50の表裏両面を研磨するための研磨パッド(本実施形態ではポリウレタン製のスウェードパッド)Pが貼り付けられている。定盤11,12の間には、回転可能な複数のキャリア13が配置され、各キャリア13には、複数のガラス基板50が嵌め込まれてセットされている。キャリア13は、ガラス基板50を保持した状態で、自転しながら定盤11,12の回転中心に対して公転する。このような動作をしている上下定盤11,12及びキャリア13に対して、砥粒(本実施形態ではコロイダルシリカ)を含む研磨液(スラリー)が上定盤11の研磨パッドPとガラス基板50との間、及び、下定盤12の研磨パッドPとガラス基板50との間にそれぞれ供給され、これにより、ガラス基板50の表裏両面の精密研磨が実行される。
【0036】
なお、
図3において、符号14は研磨液回収装置、符号15は研磨液貯留タンク、符号16は研磨液供給管、符号17は潤滑液貯留タンク、符号18は潤滑液供給管である。
【0037】
[化学強化工程]
化学強化工程では、ガラス基板の表面に化学強化層を形成する。例えば、ガラス基板をナトリウムイオンやカリウムイオンの存在する化学強化処理液に浸漬することにより、ガラス基板の表層に存在するリチウムイオンやナトリウムイオンが化学強化処理液中のナトリウムイオンやカリウムイオンと置換され、ガラス基板の表層が化学強化層となる。化学強化層には圧縮応力がかかっている。このような化学強化層を形成することにより、最終的に得られるガラス基板50の耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等が向上する。
【0038】
[最終洗浄工程]
(総論)
最終洗浄工程では、ガラス基板に付着している異物を、例えば、フィルタリングした純水、イオン交換水、超純水、酸性洗剤、中性洗剤、アルカリ性洗剤、有機溶剤、界面活性剤等を含んだ各種洗浄液を用いて、洗浄し、除去する。その後、ガラス基板を乾燥する。
【0039】
(従来の最終洗浄工程)
従来、ガラス基板を洗浄キャリアに収容し、この状態で洗浄槽に入れ、洗浄槽内でガラス基板に対して洗浄液を流すことにより洗浄を行っていた。このとき、洗浄槽内で洗浄液を整流(例えば下から上への1方向のみの整流又は左から右への1方向のみの整流)で流していたので、ガラス基板の外周端部において洗浄残りが生じ易くなり、この洗浄残りが、
図4に例示するように、ガラス基板50の外周端部に欠陥(defect)となって残るという問題があった。
【0040】
(本実施形態の最終洗浄工程)
本実施形態においては、ガラス基板50に対して洗浄液を乱流で流してガラス基板50を洗浄する。
【0041】
図5〜
図7に示すように、洗浄キャリア20は、前後一対の対向壁21,22間に複数(図例では5つ)の保持用ロッド23が所定の間隔で相互に平行に架設された構造である。各保持用ロッド23の周面には周方向に凹溝が形成されている。ガラス基板50は、その両側端部と下端部とが3本の保持用ロッド23で保持され、凹溝に嵌り込み、立った状態で洗浄キャリア20に収容される。洗浄キャリア20は一度に多数のガラス基板50を収容できる。
【0042】
図8〜
図10に示すように、ガラス基板50を洗浄キャリア20に収容した状態で洗浄槽30に入れ、洗浄槽30内で洗浄液31を流すことによりガラス基板50を洗浄する。このとき、ガラス基板50は、その主表面が洗浄液31の流れ方向と平行になるように洗浄槽30内に配置される。
【0043】
図8は、洗浄槽30の下に洗浄液供給装置32が備えられ、洗浄槽30内を洗浄液31が下から上に流れる場合(噴流という)を示している。洗浄槽30内のガラス基板50の下方に遮蔽板33が配置されている。遮蔽板33によって確実に洗浄槽30内に乱流が発生する。その結果、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。洗浄液31は洗浄槽30の上部から排出される。これに限定されず、洗浄槽30内を洗浄液31が上から下に流れる場合(掛流しという)において、洗浄槽30内のガラス基板50の上方に遮蔽板33を配置し、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すようにしてもよい。
【0044】
図9は、洗浄槽30の左に洗浄液供給装置34が備えられ、洗浄槽30内を洗浄液31が左から右に流れる場合(左層流という)を示している。洗浄槽30内のガラス基板50の左方に遮蔽板33が配置されている。遮蔽板33によって確実に洗浄槽30内に乱流が発生する。その結果、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。洗浄液31は洗浄槽30の右部から排出される。これに限定されず、洗浄槽30内を洗浄液31が右から左に流れる場合(右層流という)において、洗浄槽30内のガラス基板50の右方に遮蔽板33を配置し、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すようにしてもよい。
【0045】
図示しないが、例えば、洗浄槽30内を洗浄液31が下から上に流れる場合において、洗浄液31の流れを横切る方向にガラス基板50を移動させる(例えば左右に洗浄キャリア20を往復動させる)ことによっても、確実にガラス基板50に対して乱流が発生し、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。これに限定されず、洗浄槽30内を洗浄液31が上から下、左から右、右から左に流れる場合において、洗浄液31の流れを横切る方向にガラス基板50を移動させる(例えば左右又は上下に洗浄キャリア20を往復動させる)ことによっても、確実にガラス基板50に対して乱流が発生し、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。
【0046】
図10は、洗浄槽30の下に洗浄液供給装置32が備えられ、洗浄槽30内を洗浄液31が下から上に流れる場合を示している。洗浄槽30内に洗浄槽30の下部から洗浄液31が供給されるとき、例えば噴射ノズル(図示せず)の向きを無秩序にしておくことにより、洗浄槽30内に洗浄液31が無秩序な向きに供給され、洗浄液31が衝突し合うことによって確実に洗浄槽30内に乱流が発生する。その結果、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。これに限定されず、洗浄槽30内を洗浄液31が上から下、左から右、右から左に流れる場合において、洗浄槽30内に洗浄液31を無秩序な向きに供給することによって、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すようにしてもよい。
【0047】
図11は、最終洗浄工程でガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流す方向のさらに他の例で用いられる洗浄キャリア40の斜視図である。この洗浄キャリア40は、前後一対の対向壁41,42間に複数(図例では5つ)の保持用ロッド43が所定の間隔で相互に平行に架設された構造である。各保持用ロッド43の周面には周方向に凹溝が形成されている。ガラス基板50は、その両側端部と下端部とが3本の保持用ロッド43で保持され、凹溝に嵌り込み、立った状態で洗浄キャリア40に収容される。洗浄キャリア40は一度に多数のガラス基板50を収容できる。
【0048】
この洗浄キャリア40は、相対向する左右一対の側面44,45を有している。両側面44,45には開口46…46が形成されている。開口46…46は、両側面44,45間で非対称である。このような構成の洗浄キャリア40を用いると、洗浄液31が洗浄キャリア40の両側面44,45の非対象な開口46…46を通過することによって確実に洗浄キャリア40内のガラス基板50に対して乱流が発生し、ガラス基板50に対して洗浄液31を乱流で流すことができる。
【0049】
この場合、洗浄液31が左右の側面44,45の開口46…46を良好に通過するように、洗浄液31は左から右又は右から左に流れることが好ましい。
【0050】
(本実施形態の作用)
本実施形態においては、ガラス基板50に対して洗浄液31が乱流で流れるので、ある方向の洗浄液31の流れに対しては洗浄残りが生じても、その部分は、別の方向の洗浄液31の流れに対しては洗浄残りがなくなる。そのため、ガラス基板50の外周端部の洗浄残りが解消されて、洗浄、乾燥後のガラス基板50の外周端部に欠陥が残ることが抑制される。
【0051】
本実施形態においては、ガラス基板50をその両側端部及び下端部の3点で保持し、その保持部が90°ずつ離間していることが好ましい。つまり、3つの保持用ロッド23のうちの1つがガラス基板50の左側端部を保持し、1つが右側端部を保持し、1つが下端部を保持するのである。これにより、洗浄液31を乱流で流しても、ガラス基板50を洗浄中安定して保持することができる。また、ガラス基板50の乾燥時にパーティクルの付着や乾燥染みの発生を防ぐことができる。
【0052】
なお、洗浄槽30に供給され洗浄槽30から排出される(すなわち洗浄槽30を通過する)洗浄液31の流量(L/分)又は流速(m/分)は、洗浄槽30内の洗浄液31の置換率増大等の観点と、保持用ロッド23によるガラス基板50の保持の安定性等の観点から、検討する必要がある。
【0053】
[検査工程]
検査工程では、ガラス基板の平坦度や厚み、あるいは表面粗さや欠陥の有無等を検査する。そして、検査に合格したガラス基板のみが、異物等が表面に付着しないように、清浄な環境の中で、専用収納カセットに収納され、真空パックされた後、HDD用ガラス基板として出荷される。
【0054】
<HDD用ガラス基板>
次に、前記のようにして製造されたHDD用ガラス基板について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るHDD用ガラス基板50は、その製造過程における洗浄工程で、外周端部の洗浄残りが解消されているから、外周端部に欠陥が残ることが抑制された高品質のHDD用ガラス基板である。
【0055】
<HDD用磁気記録媒体>
次に、前記HDD用ガラス基板50を用いて製造されたHDD用磁気記録媒体について説明する。本実施形態に係るHDD用磁気記録媒体は、前記HDD用ガラス基板50の主表面の上に記録層としての磁性膜が設けられたことにより製造されたものである。磁性膜は主表面の上に直接に又は間接に形成されてよい。磁性膜はガラス基板50の片面に又は両面に形成されてよい。
【0056】
磁性膜の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂をガラス基板50上にスピンコートして形成する方法や、スパッタリングや無電解めっきにより形成する方法等が挙げられる。スピンコート法での膜厚は約0.3μm〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04μm〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05μm〜0.1μm程度であり、薄膜化及び高密度化の観点からは、スパッタリング法や無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0057】
磁性膜に用いる磁性材料としては特に限定はなく、従来公知のものが使用できる。なかでも、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本材料とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好適である。具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が好ましい。
【0058】
磁性膜は、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割し、ノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)としてもよい。
【0059】
前記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系のものや、SiO
2、BN等からなる非磁性膜中に、Fe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散させた構造のグラニュラー等でもよい。
【0060】
磁性膜は、内面型及び垂直型のいずれの記録形式であってもよい。
【0061】
磁気ヘッドの滑りをよくするために磁性膜の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系等の溶媒で希釈したもの等が挙げられる。
【0062】
本実施形態では、必要に応じて、記録層としての磁性膜の他に、下地層や保護層を設けてもよい。HDD用磁気記録媒体における下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属からなる群より選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。Coを主成分とする磁性膜の場合は、磁気特性の向上等の観点から、Cr単体やCr合金であることが好ましい。下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層とすることができる。
【0063】
保護層は、磁性膜の摩耗や腐食を防止するために設けられる。保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これらの保護層は、下地層や磁性膜等と共に、インライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構造としてもよい。
【0064】
前記保護層上に、あるいは前記保護層に代えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、前記保護層に代えて、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することにより、二酸化ケイ素(SiO
2)層を形成してもよい。
【0065】
以上のように、基板として本実施形態に係るHDD用ガラス基板50を用いて製造されたHDD用磁気記録媒体をHDDに用いることで、HDDの高速回転時の磁気ヘッドの動作を安定にすることができる。
【0066】
また、本実施形態に係るHDD用磁気記録媒体は、外周端部に欠陥が残ることが抑制されたHDD用ガラス基板50が用いられているから、最外周部まで清浄性が高い高品質のHDD用磁気記録媒体である。そのため、たとえ記録領域が記録媒体の外周端部にまで広がっていても、記録領域に障害が出ることが抑制される。
【0067】
なお、本実施形態では、研磨工程は、2回に分けて行ったが、これに限らず、1回のみ行ってもよい。また、化学強化工程を研磨工程の後に行ったが、状況に応じて研磨工程の前に行ってもよい。また、状況に応じて化学強化工程を省略することもできる。
【0068】
さらに、落下強度対策として、ガラス基板の主表面以外の外周端面や内周端面の強化を行ってもよいし、ガラス基板に生じたキズのエッジ緩和処理として、ガラス基板をHF浸漬処理に供してもよい。
【0069】
本実施形態に係るHDD用ガラス基板は、HDD用磁気記録媒体の製造用途に限定されるものではなく、例えば、光磁気ディスクや光ディスク等の製造用途にも用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を通して、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0071】
<HDD用ガラス基板の製造>
図2に示した製造工程に従い、下記の組成(質量%)のガラス素材を用いて、外径が約65mm(2.5インチ)、内径(円孔の径)が約20mm、板厚が1mmの環状のアルミノシリケート製ガラス基板を作製した。
【0072】
(ガラス素材の組成)
・SiO
2:50〜70%
・Al
2O
3:0.1〜20%
・B
2O
3:0〜5%
ただし、SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3=50〜85%であり、また、Li
2O+Na
2O+K
2O=0.1〜20%であり、また、MgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=2〜20%である。
【0073】
なお、最終洗浄工程では、表1に示すように、実施例1は、洗浄液を下から上に流しつつ、遮蔽板を用いて、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流し、実施例2は、洗浄液を下から上に流しつつ、左右に洗浄キャリアを往復動させて、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流し、実施例3は、洗浄液を下から上に流しつつ、洗浄槽内に洗浄液を無秩序な向きに供給して、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流し、実施例4は、洗浄液を左から右又は右から左に流しつつ、左右の側面の開口が非対称な洗浄キャリアを用いて、ガラス基板に対して洗浄液を乱流で流した。また、比較例1は、洗浄液を下から上への1方向のみの整流で流し、比較例2は、洗浄液を左から右又は右から左への1方向のみの整流で流した。
【0074】
実施例1〜4及び比較例1、2において、洗浄キャリアのガラス基板収容枚数、洗浄槽の大きさ、洗浄液の種類、洗浄液の流量又は流速、その他の洗浄条件は全て同じに揃えた。
【0075】
<HDD用ガラス基板の評価>
[欠陥の有無]
得られたガラス基板の外周端部に、
図4に例示したような欠陥があるか否かを、日本機販社から商業的に入手し得る、欠陥可視化・外観検査装置「Micro−MAX」を用いて検査した。サンプル数は、実施例1〜4及び比較例1、2において、それぞれ100枚とした。結果を表1に示す。
【0076】
<HDD用磁気記録媒体の製造>
得られたガラス基板の主表面の上に磁性膜(記録層)を設けて磁気記録媒体とした。すなわち、ガラス基板側から、Ni−Alからなる下地層(厚み約100nm)、Co−Cr−Ptからなる記録層(厚み20nm)、DLC(Diamond Like Carbon)からなる保護膜(厚み5nm)を順次積層した。
【0077】
<HDD用磁気記録媒体の評価>
[リードライト試験]
得られた磁気記録媒体について、DFH機構を搭載した磁気ヘッドで、リードライト試験を行い、エラーの発生枚数を記録した。サンプル数は、実施例1〜4及び比較例1、2において、それぞれ50枚とした。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
<結果の考察>
洗浄槽内で洗浄液を整流で流した比較例1、2に比べて、洗浄槽内で洗浄液を乱流で流した実施例1〜4は、ガラス基板の欠陥枚数及び磁気記録媒体のリードライトエラー枚数共に評価結果に優れていた。