特許第5755988号(P5755988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755988
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20150709BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B25B23/14 640L
   B25B21/00 510A
   B25B21/00 520Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-217603(P2011-217603)
(22)【出願日】2011年9月30日
(65)【公開番号】特開2013-75349(P2013-75349A)
(43)【公開日】2013年4月25日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】草川 卓也
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−015844(JP,A)
【文献】 特開昭58−177273(JP,A)
【文献】 特開2007−237321(JP,A)
【文献】 特開平09−109046(JP,A)
【文献】 特開2005−066785(JP,A)
【文献】 米国特許第04458565(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B23/14
B25B21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具要素が装着される出力軸を回転駆動するモータと、
外部操作によって前記モータの駆動指令を入力するための操作部と、
外部から入力されるトルク設定指令に従い前記出力軸の回転トルクの上限値を設定するトルク設定手段と、
前記操作部からの駆動指令に従い前記モータを正方向若しくは逆方向に駆動すると共に、前記モータの駆動時に前記出力軸の回転トルクが前記トルク設定手段にて設定された上限値に達すると、前記モータの駆動を停止する制御手段と、
を備え、
前記モータは、正方向への回転で前記工具要素を介して対象物を締め付け、逆方向への回転で前記工具要素を介して対象物の締め付けを緩めるように構成され、
前記トルク設定手段は、前記回転トルクの上限値を設定するのに用いるトルク設定値を外部操作により設定可能であり、前記トルク設定指令が入力されると、前記モータの正方向への駆動時に比べ、前記モータの逆方向への駆動時の方が大きく、しかも、前記トルク設定値に対応した値となるよう、前記上限値を設定することを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御手段は、前記モータの正方向への駆動後、予め設定された一定時間内に前記モータを逆方向に駆動する際には、前記トルク設定手段にて設定された上限値に基づく前記モータの駆動停止制御を禁止することを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより回転駆動される電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具には、ドライバビット等の工具要素が装着される出力軸の回転トルクが、所定の上限値(以下、設定トルクともいう)を越えると、モータの駆動を停止するように構成された、所謂電子クラッチ式のものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、この種の電動工具は、例えば、ねじの締め付け及び取り外しを行うことができるように、モータを、正方向にも逆方向にも駆動できるようにされている。
そして、電子クラッチとしての機能は、何れの回転方向への駆動時にでも、出力軸の回転トルクが設定トルクを越えることのないようにモータの駆動を制御することで実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−281404号公報
【特許文献2】特開2010−214564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうした従来の電動工具において、設定トルクは、モータの回転方向に関係なく一律に設定される。このため、例えば、モータを正転させてねじを締め付けた後、モータを逆転させてねじを取り外すような場合には、設定トルクを変更する必要があった。
【0006】
つまり、ねじを所定の締め付けトルクで締め付けた場合、その締め付けを緩めるには、締め付けトルクよりも大きいトルクで出力軸を回転させる必要がある。
このため、上記のようにねじの締め付けを行った後、その締め付けを緩める場合、使用者は、設定トルクを、締め付け時の設定トルクよりも大きい値に変更しなければならず、使い勝手が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、電子クラッチ式の電動工具において、モータを正転及び逆転させて対象物の締め付け及び取り外しを行う場合の回転トルクの上限を、簡単な設定操作で適正に設定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するためになされた本発明の電動工具においては、操作部からモータの駆動指令が入力されると、制御手段が、その駆動指令に従いモータを正方向若しくは逆方向に駆動することで、工具要素が装着される出力軸を回転駆動する。
【0009】
また、制御手段は、モータの駆動時に、出力軸の回転トルクがトルク設定手段にて設定された上限値に達すると、モータの駆動を停止することで、上述した電子クラッチとしての機能を実現する。
【0012】
また、モータは、正方向への回転で工具要素を介して対象物を締め付け、逆方向への回転で工具要素を介して対象物の締め付けを緩めるように構成されている。
【0013】
そして、トルク設定手段は、回転トルクの上限値を設定するのに用いるトルク設定値を外部操作により設定可能であり、トルク設定指令が入力されると、モータの正方向への駆動時に比べ、モータの逆方向への駆動時の方が大きく、しかも、トルク設定値に対応した値となるよう、回転トルクの上限値を設定する。
【0014】
このため、本発明の電動工具によれば、ねじやボルト等の対象物を一旦締め付けた後、その締め付けを緩めて対象物を取り外す場合に、工具要素の駆動トルクを締め付け時よりも大きくして、対象物の取り外しを良好に実施できるようになる。
【0015】
なお、制御手段は、モータの正方向への駆動後、予め設定された一定時間内にモータを逆方向に駆動する際には、トルク設定手段にて設定された上限値に基づくモータの駆動停止制御を禁止するようにしてもよい。
【0016】
つまり、このようにすれば、対象物の締め付け後、その締め付けを緩める必要が生じたような場合に、電子クラッチとしての機能を一時的に停止させることができるようになり、対象物の取り外しをより良好に実施することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の電動工具の駆動系全体の構成を表すブロック図である。
図2】コントローラにて実行される一連の制御処理を表すフローチャートである。
図3】クラッチ閾値設定処理を表すフローチャートである。
図4】クラッチ閾値設定用マップを表す説明図である。
図5】変形例1のクラッチ閾値設定処理を表すフローチャートである。
図6】変形例1のクラッチ作動判定処理を表すフローチャートである。
図7】変形例2のクラッチ閾値設定処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本実施形態の電動工具は、工具要素としての工具ビット(例えばドライバビット)が装着される出力軸を双方向に回転させることで、工具ビットを介して対象物(例えば、ねじやボルト)の締め付け及び取り外しを行うものである。
【0019】
図1は、電動工具の本体ハウジング(図示せず)に収納若しくは装着されて、出力軸を回転駆動するのに用いられる駆動系全体の構成を表している。
図1に示すように、電動工具には、出力軸を回転駆動するモータ20として、3相ブラシレス直流モータが備えられている。このモータ20は、変速機を介して電動工具の出力軸に連結されており、変速機を介して出力軸を回転駆動する。
【0020】
また、電動工具には、モータ20を駆動制御する駆動装置として、バッテリパック10、モータ駆動回路24、ゲート回路28、及び、コントローラ40が備えられている。
ここで、バッテリパック10は、電動工具の本体ハウジングに着脱自在に装着可能なケース内に、直列接続された複数の二次電池セルを収納することにより構成されている。
【0021】
また、モータ駆動回路24は、バッテリパック10から電源供給を受けて、モータ20の各相巻線に電流を流すためのものであり、FETからなる6つのスイッチング素子Q1〜Q6を備える。
【0022】
なお、モータ駆動回路24において、スイッチング素子Q1〜Q3は、モータ20の各相U,V,Wの端子と、バッテリパック10の正極側に接続された電源ラインとの間に、所謂ハイサイドスイッチとして設けられている。
【0023】
また、スイッチング素子Q4〜Q6は、モータ20の各相U,V,Wの端子と、バッテリパック10の負極側に接続されたグランドラインとの間に、所謂ローサイドスイッチとして設けられている。
【0024】
次に、ゲート回路28は、コントローラ40から出力された制御信号に従い、モータ駆動回路24内のスイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ20の各相巻線に電流を流し、モータ20を回転させるものである。
【0025】
また、コントローラ40は、CPU、ROM、RAM、I/Oポート、A/D変換器、タイマ等からなるワンチップマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)にて構成されている。
【0026】
そして、コントローラ40は、トリガスイッチ30からの駆動指令に従い、モータ駆動回路24を構成するスイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比に応じた制御信号をゲート回路28に出力することで、モータ20を回転駆動する。
【0027】
なお、トリガスイッチ30は、使用者が手動操作によって電動工具の駆動指令を入力するためのものであり、モード切替スイッチ34、設定表示部36、及び、設定切替スイッチ38と共に、電動工具の本体ハウジングに設けられている。
【0028】
そして、トリガスイッチ30には、使用者による操作時にオン状態となるメイン接点31と、使用者によるトリガスイッチ30の引き量(換言すれば操作量)に応じて抵抗値が変化する摺動抵抗32と、使用者からの回転方向の切り替え指令を受け付ける正逆接点33とが備えられている。
【0029】
また、モード切替スイッチ34は、設定切替スイッチ38による設定モードを、出力軸の回転トルクの上限値を表すトルク設定値の設定モード、モータ20の回転速度の上限値である速度設定値の設定モード、等に切り替えるためのスイッチである。
【0030】
また、設定切替スイッチ38は、モード切替スイッチ34により切り替えられる設定モードに応じて、トルク設定値や速度設定値を外部操作によって設定するためのスイッチである。
【0031】
そして、これら各スイッチ34,38は、コントローラ40に接続されており、コントローラ40は、これら各スイッチ34,38から入力される指令信号に従い、トルク設定値や速度設定値を更新し、その更新後のトルク設定値や速度設定値を設定表示部36に表示する。
【0032】
次に、モータ20には、モータ20の回転速度や回転方向を検出するためのエンコーダ22が設けられている。なお、エンコーダ22は、例えば、モータ20の回転に伴い生じる磁束の変化を検出するホール素子にて構成される。
【0033】
また、バッテリパック10からモータ駆動回路24を介して形成されるモータ20への通電経路には、モータ20に流れたモータ電流を、出力軸の駆動トルクとして検出するための抵抗26が設けられている。
【0034】
そして、エンコーダ22からの検出信号及び抵抗26によるモータ電流の検出信号は、それぞれ、コントローラ40に入力される。
また、コントローラ40は、マイコンにて構成されているため、一定の電源電圧Vccを供給する必要がある。
【0035】
このため、電動工具の本体ハウジング内には、バッテリパック10からスイッチング素子44を介して電源供給を受けることにより、一定の電源電圧Vcc(例えば、直流5V)を生成し、コントローラ40に供給するレギュレータ42も設けられている。
【0036】
ここで、スイッチング素子44は、ソースが、バッテリパック10からモータ駆動回路24に至る正極側の電源ラインに接続され、ドレインが、レギュレータ42に接続された、FETにて構成されている。
【0037】
そして、スイッチング素子44のゲートは、バッテリパック10からモータ駆動回路24に至る正極側の電源ラインに抵抗46を介して接続されると共に、抵抗48及びトランジスタ50を介して接地されている。
【0038】
トランジスタ50は、コレクタが抵抗48に接続され、エミッタが接地され、ベースが抵抗52を介してコントローラ40に接続され、エミッタ−ベース間が抵抗54にて接続されたNPNトランジスタであり、トランジスタ50のコレクタと抵抗48との接続点には、ダイオード56のアノードが接続されている。
【0039】
また、正極側の電源ラインには、抵抗58を介して、トリガスイッチ30のメイン接点31も接続されており、ダイオード56のカソードは、抵抗58のメイン接点31側に接続されている。
【0040】
メイン接点31において、コントローラ40及び抵抗58との接続点は、トリガスイッチ30が操作されていないときにはオープン状態となり、トリガスイッチ30が操作されると接地される。
【0041】
このため、トランジスタ50がオフ状態であるとき、トリガスイッチ30が操作されると、正極側の電源ラインから抵抗46、48及びダイオード56を介してメイン接点31側に電流が流れ、スイッチング素子44のゲート電位が低下して、スイッチング素子44がオン状態となる。
【0042】
この結果、スイッチング素子44を介してレギュレータ42にバッテリ電圧が供給され、レギュレータ42は、コントローラ40への電源供給を開始し、コントローラ40が起動する。
【0043】
また、トリガスイッチ30が操作されると、メイン接点31とコントローラ40との接続点が接地されて、その接続点の電位が低下することから、コントローラ40は、起動後、その接続点の電位からトリガスイッチ30の操作を検知する。
【0044】
そして、コントローラ40は、トリガスイッチ30の操作時には、トランジスタ50に駆動信号(ハイレベル)を出力することで、トランジスタ50をオンし、その後、トリガスイッチ30の操作が停止されても、一定時間は、トランジスタ50の駆動信号の出力を保持する。
【0045】
このため、スイッチング素子44は、トリガスイッチ30が操作されることによりオン状態となり、その後、トリガスイッチ30の操作が一定時間以上停止されるまで、オン状態となる。そして、レギュレータ42からコントローラ40には、スイッチング素子44がオン状態である間、電源供給がなされる。
【0046】
次に、コントローラ40(詳しくはCPU)が、トリガスイッチ30からの駆動指令に従いモータ20を回転駆動するために実行する制御処理について、図2に示すフローチャートに沿って説明する。
【0047】
この制御処理は、レギュレータ42からコントローラ40に電源電圧Vccが印加されているときに、コントローラ40において繰り返し実行される処理である。
図2に示すように、コントローラ40は、制御処理を開始すると、まずS110(Sはステップを表す)にて、トリガスイッチ30のメイン接点31及び正逆接点33、モード切替スイッチ34、設定切替スイッチ38のオン・オフ状態を検出するスイッチ処理を実行する。
【0048】
なお、コントローラ40は、このスイッチ処理を実行することで、トリガスイッチ30、モード切替スイッチ34及び設定切替スイッチ38を介して入力される、モータ20の駆動指令、回転方向の切替指令、設定モードの切替指令、トルク設定値や速度設定値の設定指令、等を認識する。
【0049】
次に、S120では、トリガスイッチ30の摺動抵抗32の抵抗値、モータ電流検出用の抵抗26の両端電圧をA/D変換器を介して取り込むことで、トリガスイッチ30の引き量及びモータ電流を検出する、A/D変換処理を実行する。
【0050】
そして、続くS130では、S120にて検出したトリガスイッチ30の引き量に応じて、ゲート回路28を介してモータ駆動回路24内の各スイッチング素子Q1〜Q6をデューティ駆動するための駆動デューティ比(duty)を設定する、duty設定処理を実行する。
【0051】
また、S140では、S110のスイッチ処理にてトルク設定値の設定モードが認識されているとき、設定切替スイッチ38から入力される設定指令に従い、トルク設定値を更新し、そのトルク設定値に対応したクラッチ閾値を設定するクラッチ閾値設定処理を実行する。
【0052】
なお、クラッチ閾値は、S120のA/D変換処理にて検出されるモータ電流を用いて、モータ20により回転駆動される出力軸の回転トルクが、トルク設定値に対応した回転トルク(つまり上限値)を越えたか否かを判断するための閾値である。
【0053】
次に、S150では、クラッチ閾値、若しくは、クラッチ閾値に対応したトルク設定値を、設定表示部36に表示する、クラッチ設定表示処理を実行する。
また、続くS160では、S120にて検出されたモータ電流が、S140にて設定したクラッチ閾値を越えたか否かを判断することにより、モータ20の駆動を停止させるか否か(換言すれば、電子クラッチとしての機能を働かせるか否か)を判断する、クラッチ作動判定処理を実行する。
【0054】
そして、S170では、S130にて設定した駆動デューティ比(duty)に対応した制御信号をゲート回路28に出力することで、ゲート回路28及びモータ駆動回路24を介してモータ20を回転駆動させる、モータ駆動処理を実行し、再度S110に移行する。
【0055】
なお、このモータ駆動処理では、エンコーダ22からの検出信号に基づきモータ20の回転速度を検出し、その回転速度が、モード切替スイッチ34及び設定切替スイッチ38を介して設定される速度設定値を越えることのないよう、モータ20を駆動制御する。
【0056】
また、モータ駆動処理では、上記のようにモータ20を駆動することによって、モータ電流がクラッチ閾値を越え、S160のクラッチ作動判定処理にて、電子クラッチの作動が許可されると、モータ20の駆動を停止する。
【0057】
従って、本実施形態の電動工具によれば、出力軸に装着される工具ビットを介して対象物を締め付ける際の締め付けトルクを、クラッチ閾値に対応した回転トルク以下に制限することができ、対象物を適正な締め付けトルクにて締め付けることができる。
【0058】
なお、モータ駆動処理にてモータ20の回転速度の上限を制限するのに用いられる速度設定値は、モード切替スイッチ34により、速度設定値の設定モードが設定されているとき、設定切替スイッチ38を介して入力される設定指令に従い更新されるが、その更新動作については、説明を省略する。
【0059】
次に、S140にて実行されるクラッチ閾値設定処理について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
図3に示すように、クラッチ閾値設定処理では、まずS210にて、S110による設定切替スイッチ38の検出結果に基づき、設定切替スイッチ38が押されたか否か(換言すれば、上述の設定指令が入力されたか否か)を判断する。
【0060】
そして、設定切替スイッチ38が押されている場合には、トルク設定値を値1だけカウントアップし、S230に移行し、設定切替スイッチ38が押されていない場合には、そのままS230に移行する。
【0061】
なお、トルク設定値は、出力軸の回転トルクを、値1から値9までの9段階で表すカウント値であり、S210では、処理が実行される度にトルク設定値を順次カウントアップし、そのカウント値が値10に達すると、トルク設定値を値1に戻す、といった手順で実行される。
【0062】
次に、S230では、S110による正逆接点33の検出結果に基づき、現在、モータ20の駆動方向は、対象物を締め付ける正転駆動方向に設定されているか否かを判断する。そして、モータ20の駆動方向が正転駆動方向に設定されていれば、S240に移行し、図4に示すクラッチ設定用マップを用いて、現在設定されているトルク設定値に対応したモータ正転時のクラッチ閾値を設定し、当該クラッチ閾値設定処理を終了する。
【0063】
一方、モータ20の駆動方向が逆転駆動方向に設定されている場合には、S250に移行し、図4に示すクラッチ設定用マップを用いて、現在設定されているトルク設定値に対応したモータ逆転時のクラッチ閾値を設定し、当該クラッチ閾値設定処理を終了する。
【0064】
ここで、図4に示すクラッチ閾値設定用マップは、設定切替スイッチ38を介して使用者により更新されるトルク設定値に基づき、モータ正転時若しくはモータ逆転時のクラッチ閾値を設定するためのものであり、予めメモリ(ROM等)に記憶されている。
【0065】
そして、図4から明らかなように、クラッチ閾値設定用マップは、トルク設定値が同じであれば、モータ正転時のクラッチ閾値に比べ、モータ逆転時のクラッチ閾値の方が大きい値となるように設定されている。
【0066】
これは、使用者により設定されるトルク設定値がある値であるとき、モータ20を逆方向に駆動して対象物を取り外すときの出力軸の回転トルクは、モータ20を正方向に駆動して対象物を締め付けるときの締め付けトルクよりも大きい値に設定する必要があるためである。
【0067】
このように、本実施形態の電動工具によれば、使用者が設定切替スイッチ38を介して設定したトルク設定値に基づき、モータ20の正方向への駆動時に比べ、モータ20の逆方向への駆動時の方が大きい値になるように、クラッチ閾値が設定される。
【0068】
従って、本実施形態の電動工具によれば、使用者は、モータ20の回転方向を切り替える度にトルク設定値(若しくはクラッチ閾値)を設定し直すことなく、工具ビットを適正なトルクで回転させることができるようになり、電動工具の使い勝手を向上できる。
【0069】
なお、本実施形態では、トリガスイッチ30が、本発明の操作部に相当し、図2に示した制御処理を実行するコントローラ40が、本発明のトルク設定手段及び制御手段に相当する。そして、本発明の主要部であるトルク設定手段としての機能は、出力軸の回転トルクの上限値としてクラッチ閾値を設定するクラッチ閾値設定処理により実現される。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
(変形例1)
例えば、クラッチ閾値設定処理では、トルク設定値とモータ20の回転方向とに基づきクラッチ閾値を設定するだけでなく、モータ20の駆動方向が正転方向から逆転方向に切り替えられた直後は、電子クラッチとしての機能を停止させるようにしてもよい。
【0071】
具体的には、図5に示すように、S230にて、モータ20の駆動方向が正転駆動方向に設定されていない(逆転駆動方向である)と判断されると、S235に移行して、前回モータ20が正転駆動されてからの経過時間が予め設定された一定時間内であるか否かを判断する。
【0072】
そして、その経過時間が一定時間内でなければ、S250に移行して、モータ逆転時のクラッチ閾値を設定し、経過時間が一定時間内であれば、S260に移行して、クラッチキャンセルフラグをセットする。なお、S240及びS250では、クラッチキャンセルフラグをクリアするようにする。
【0073】
一方、図2のS160にて実行されるクラッチ作動判定処理では、図6に示すように、まず、S310にてクラッチキャンセルフラグがクリアされているか否かを判断するようにする。
【0074】
そして、クラッチキャンセルフラグがクリアされていれば(S310:YES)、モータ電流がクラッチ閾値を越えたか否かを判断し(S320)、モータ電流がクラッチ閾値を越えていれば、クラッチ作動許可フラグをセットする(S330)ことで、電子クラッチとしての機能を作動させる。
【0075】
また、クラッチキャンセルフラグがセットされている(S310:NO)か、或いは、モータ電流がクラッチ閾値を越えていない場合(S320:NO)には、クラッチ作動許可フラグをクリアする(S340)ことで、電子クラッチとしての機能を停止させる。
【0076】
このようにすれば、モータ20が正転方向に駆動されてから一定時間内にモータ20の駆動方向が逆転方向に切り替えられた際には、一時的に電子クラッチとしての機能を停止させて、出力軸の逆方向への駆動トルクを最大にすることができる。
【0077】
よって、この変形例1によれば、ねじやボルト等の対象物を一旦締め付けた後、その締め付けを緩めて対象物を取り外す場合に、工具ビットの駆動トルクをより大きくして、対象物の取り外しをより良好に実施できるようになる。
【0078】
なお、本変形例1では、クラッチ閾値設定処理のS260にて、クラッチキャンセルフラグをセットすることにより、電子クラッチとしての機能を一時的に停止させるものとして説明したが、S260では、クラッチ閾値として、設定可能な最大値を設定するようにしてもよい。
【0079】
そして、このようにしても、電子クラッチとしての機能を停止させることはできる。
(変形例2)
次に、上記実施形態では、使用者は、設定切替スイッチ38を操作することにより、トルク設定値や速度設定値等の制御パラメータを設定(更新)するものとして説明したが、こうした制御パラメータの設定は、工具ビットが装着される出力軸を手動で回転させることによって行うようにしてもよい。
【0080】
この場合、出力軸の単なる回転により、制御パラメータが変更されることのないようにすることが望ましい。
そして、そのためには、トリガスイッチ30が、摺動抵抗32により検出される引き量が略零となる状態で、メイン接点31のみがオン状態となるように操作されたときにだけ、出力軸の回転を検出するようにするとよい。
【0081】
そこで、上記実施形態の変形例2として、このように出力軸の回転を検出することで、トルク設定値を更新するようにした、クラッチ閾値設定処理について説明する。
図7に示すように、変形例2のクラッチ閾値設定処理では、まず、S202にて、トリガスイッチ30のメイン接点31がオン状態であるか否かを判断する。
【0082】
そして、メイン接点31がオン状態であれば、S204にて、摺動抵抗32により検出されるトリガスイッチ30の引き量が零であるか否か、換言すれば、モータ20の駆動指令は入力されていないか否か、を判断する。
【0083】
S204にて、トリガスイッチ30の引き量が零で、モータ20の駆動指令は入力されていないと判断されると、S212に移行して、エンコーダ22から入力される検出信号(パルス)の入力パターンから、出力軸が正方向に回転操作されているか否かを判断する。
【0084】
S212にて、出力軸が正方向に回転操作されていると判断されると、S214に移行して、出力軸は5回転以上回転したか否かを判断する。
そして、出力軸が5回転以上回転していれば、トルク設定値を増加させる設定指令が入力されたと判断して、S220に移行し、トルク設定値を値1だけカウントアップする。
【0085】
このように、S220にて、トルク設定値を更新するか、或いは、S214にて、出力軸は(正方向に)5回転以上回転していないと判断された場合は、S230に移行する。
また、S202にて、メイン接点はオフ状態であると判断された場合、或いは、S240にて、駆動指令が入力されていると判断された場合にも、S230に移行する。
【0086】
次に、S212にて、出力軸が正方向に回転操作されていないと判断されると、S216に移行して、出力軸は5回転以上回転したか否かを判断することにより、出力軸が逆方向に5回転以上回転されたか否かを判断する。
【0087】
そして、出力軸が逆方向に5回転以上回転されていれば、トルク設定値を低下させる設定指令が入力されたと判断して、S222に移行し、トルク設定値を値1だけカウントダウンすることで、トルク設定値を更新する。
【0088】
このように、S222にて、トルク設定値を更新するか、或いは、S216にて、出力軸は逆方向に5回転以上回転していないと判断された場合は、S230に移行する。
そして、S230では、上記実施形態と同様、モータ20の駆動方向は正転駆動方向に設定されているか否かを判断し、モータ20の駆動方向が正転駆動方向に設定されていれば、S240にてモータ正転時のクラッチ閾値を設定した後、当該クラッチ閾値設定処理を終了する。
【0089】
また、モータ20の駆動方向が逆転駆動方向に設定されている場合には、S250にてモータ逆転時のクラッチ閾値を設定し、当該クラッチ閾値設定処理を終了する。
このようにクラッチ設定処理を実行するようにすれば、使用者は、トリガスイッチ30をメイン接点31のみがオン状態となるよう操作して、出力軸を手動で回転させることで、トルク設定値を設定(更新)することができる。
【0090】
そして、この場合、トルク設定値を設定するための設定切替イッチ38を不要にすることができることから、装置構成を簡単にして、電動工具のコストダウンを図ることができる。
【0091】
なお、上記実施形態では、設定切替イッチ38は、回転速度の上限値である速度設定値の設定にも利用されるが、速度設定値を更新する処理についても、上記S202〜S222の処理と同様、出力軸の回転方向及び回転回数から速度設定値の設定指令を判定して、速度設定値を更新するようにすればよい。
(他の変形例)
また次に、上記実施形態では、コントローラ40はマイコンにて構成されるものとして説明したが、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブル・ロジック・デバイスで構成してもよい。
【0092】
また、コントローラ40が実行する上述の制御処理は、コントローラ40を構成するCPUがプログラムを実行することにより実現される。そして、このプログラムは、コントローラ40内のメモリ(ROM等)に書き込まれていてもよく、或いは、コントローラ40からデータを読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。なお、記録媒体としては、持ち運び可能な半導体メモリ(例えばUSBメモリ、メモリカード(登録商標)など)を使用することができる。
【0093】
また、上記実施形態では、モータ20は、3相ブラシレス直流モータにて構成されるものとして説明したが、工具要素が装着される出力軸を回転駆動可能なモータであればよい。
【符号の説明】
【0094】
10…バッテリパック、20…モータ、22…エンコーダ、24…モータ駆動回路、26…抵抗、28…ゲート回路、30…トリガスイッチ、31…メイン接点、32…摺動抵抗、33…正逆接点、34…モード切替スイッチ、36…設定表示部、38…設定切替スイッチ、40…コントローラ、42…レギュレータ、44…スイッチング素子、46…抵抗、Q1〜Q6…スイッチング素子。
図1
図2
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図7