(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の変速比が車両の発進時などに使用される最大変速比である。「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0013】
図1は本発明の第1実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2a付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。車両はエンジン1のクランクシャフトを回転させて、エンジン1を始動させるスターター50を備える。
【0014】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0015】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0016】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板21a、22aと、この固定円錐板21a、22aに対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板21a、22aとの間にV溝を形成する可動円錐板21b、22bと、この可動円錐板21b、22bの背面に設けられて可動円錐板21b、22bを軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0017】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0018】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0019】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0020】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0021】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(プライマリプーリ21の回転速度)を検出する回転速度センサ42の出力信号、変速機4の出力回転速度(セカンダリプーリ22の回転速度)を検出する回転速度センサ48の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号、エンジン1のクランクシャフトの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ47の出力信号等が入力される。
【0022】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0023】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0024】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0025】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0026】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0027】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0028】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0029】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切り換えを行う。
【0030】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0031】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0032】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0033】
また、コントローラ12は、燃料消費量を抑制するために、以下に説明するコーストストップ制御を行う。
【0034】
コーストストップ制御は、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御とは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチ2aを解放してエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路を絶ち、エンジン1の回転を完全に停止させる点において相違する。
【0035】
コーストストップ制御を実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、例えば以下に示す条件(第1所定条件)a〜cなどを判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0036】
a:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)。
【0037】
b:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)。
【0038】
c:車速が所定の低車速(例えば、9km/h)以下である。
【0039】
これらのコーストストップ条件が全て満たされる場合には、コントローラ12は、エンジン1を自動停止するための信号を出力し、エンジン1への燃料噴射を停止し、コーストストップ制御を実行する。一方、上記コーストストップ条件(第2所定条件)のいずれかが満たされなくなった場合には、コントローラ12は、エンジン1を再始動するための信号を出力し、エンジン1への燃料噴射を再開し、コーストストップ制御を終了する。なお、コーストストップ制御を開始する条件と、コーストストップ制御を終了する条件とは異なっていても良い。
【0040】
エンジン1の再始動は、スターター50によってクランクシャフトを回転させることで実行される。なお、エンジン回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転させることができる回転速度となるまでは、エンジン1を再始動することはできない。そのため、エンジン回転速度が比較的高い状態で、コーストストップ条件のいずれかが満たされなくなった場合でも、エンジン回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度まで低下する間、エンジン1の再始動は行われない。
【0041】
次に本実施形態のコーストストップ制御におけるエンジン再始動判定制御について
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
ステップS100では、コントローラ12は、コーストストップ制御が開始されたかどうか判定する。コントローラ12は、コーストストップ制御が開始された場合にはステップS101へ進み、コーストストップ制御が開始されていない場合には本制御を終了する。
【0043】
コーストストップ制御が開始されると、コントローラ12はエンジン1の再始動に備えて、トルクダウン制御などの保護制御を実行する。コーストストップ制御中は、エンジン1が自動停止し、メカオイルポンプ10mからの供給油圧が低下、またはゼロとなるので、電動オイルポンプ10eが始動され、電動オイルポンプ10eによってライン圧などが供給される。電動オイルポンプ10eの最大吐出圧はメカオイルポンプ10mの最大吐出圧と比較して低く、ライン圧なども比較的低くなる。そのため、バリエータ20のトルク容量は小さい。
【0044】
エンジン1が再始動し、エンジン回転速度が高くなるとメカオイルポンプ10mの吐出圧が高くなり、バリエータ20のトルク容量も大きくなる。
【0045】
しかし、エンジン1が再始動し、バリエータ20のトルク容量が十分に大きくなる前に、エンジン1からバリエータ20に大きいトルクが入力されると、バリエータ20で例えばベルト滑りが発生し、バリエータ20が劣化するおそれがある。そのため、コーストストップ制御が実行されると、その後エンジン1が再始動し、メカオイルポンプ10mの吐出圧が十分に高くなり、トルク容量が十分に高くなるまでトルクダウン制御などの保護制御が実行される。
【0046】
ステップS101では、コントローラ12は、エンジン再始動判定を禁止するタイマを作動させ、エンジン再始動判定を禁止する。ライン圧が所定油圧以上となっている(第3所定条件)とエンジン1が再始動していると判定される。つまり、ここでは、コントローラ12は、ライン圧センサ44からの信号に基づくライン圧が所定油圧以上となっているかどうかの判定を禁止する。所定油圧は、トルクダウン制御などの保護制御を終了した場合でも、バリエータ20でベルト滑りが発生しないようにバリエータ20のトルク容量が十分に大きくなる圧であり、実験などによって設定される圧である。タイマは初期値としてゼロとなっており、リセットされると初期値に戻る。
【0047】
エンジン回転速度が高い状態から急減速された場合、バリエータ20でLow戻し制御を実行している場合などでは、コーストストップ制御が開始されても、その直後ではライン圧は比較的高い。そのため、コーストストップ制御を開始した直後に、ライン圧センサ44からの信号に基づいて、エンジン再始動判定を行うと、エンジン1が再始動していない場合(例えば、エンジン回転速度がゼロに向かって低下している途中や、エンジン回転速度がゼロの状態)でも、ライン圧が高いためにエンジン1が再始動していると誤判定されるおそれがある。従って、ここでは、コーストストップ制御を開始した後に、タイマを作動させてエンジン再始動判定を禁止する。
【0048】
コントローラ12は、コーストストップ条件のいずれかが満たされなくなった場合でも、タイマが作動している間はエンジン再始動判定を禁止する。
【0049】
ステップS102では、コントローラ12は、タイマが所定時間となったかどうか判定する。所定時間は、エンジン再始動を誤判定しない時間、すなわちコーストストップ制御を開始した場合に少なくともライン圧が所定油圧よりも低くなる時間であり、実験などによって設定される時間である。コントローラ12は、タイマが所定時間となるとステップS103へ進む。
【0050】
ステップS103では、コントローラ12は、エンジン再始動判定を許可する。
【0051】
ステップS104では、コントローラ12は、タイマをリセットする。
【0052】
エンジン再始動判定によってエンジン1の再始動が確認されると、コントローラ12は、トルクダウン制御などの保護制御を中止し、通常の制御へ移行する。
【0053】
次に本実施形態のエンジン再始動判定制御について
図5のタイムチャートを用いて説明する。
【0054】
時間t0においてコーストストップ条件が全て満たされると、コーストストップ制御が開始され、エンジン再始動判定が禁止され、タイマが作動する。また、トルクダウン制御などの保護制御が実行される。
【0055】
時間t1において、コーストストップ条件のいずれかが満たされなくなると、コーストストップ制御が終了する。しかし、タイマが所定時間となっていないので、エンジン再始動判定は禁止されている。また、エンジン回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度まで低下するまでの間、エンジン1の再始動は行われない。
【0056】
本実施形態を用いない場合には、時間t1において、ライン圧が所定油圧よりも高いので、エンジン1が再始動していると誤判定される。そのため、エンジン1が実際には再始動していないにもかかわらず、トルクダウン制御などの保護制御が中止され、通常の制御へと移行する。その後、エンジン1が実際に再始動した場合には、バリエータ20のトルク容量が十分に大きくなっていないにもかかわらず、トルクダウン制御などの保護制御が行われておらず、バリエータ20に入力されるトルク変化が大きくなる。これによって、バリエータ20でベルト滑りなどが生じ、バリエータ20が劣化するおそれがある。
【0057】
本実施形態を用いる場合には、エンジン再始動判定が禁止されており、このような誤判定、およびバリエータ20の劣化を抑制することができる。
【0058】
時間t2において、エンジン1の回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度となると、スターター50によってエンジン1を再始動する。
【0059】
時間t3において、タイマが所定時間となると、エンジン再始動判定が許可される。
【0060】
時間t4において、ライン圧が所定油圧となると、エンジン1が再始動していると判定される。また、トルクダウン制御などの保護制御が中止され、通常の制御へと移行する。
【0061】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0062】
コーストストップ制御を開始した後に、ライン圧が少なくとも所定油圧未満となるまでの間、エンジン再始動判定を禁止する。これにより、ライン圧に基づいてエンジン再始動判定を実行する車両でコーストストップ制御が開始された直後などライン圧が所定油圧未満となる前にエンジン1の再始動判定が行われ、実際にはエンジン1が再始動していないにもかかわらず、エンジン1が再始動していると誤判定されることを防止することができる。(請求項1、2、9に対応する効果)。
【0063】
コーストストップ制御が実行されると、エンジン1の再始動に備えてトルクダウン制御などの保護制御が実行される。保護制御は、エンジン1の再始動時にバリエータ20などに入力されるトルク変化によってバリエータ20などが劣化しないように実行される。そして、バリエータ20などが劣化しないようにトルク容量が十分に大きくなると、保護制御は終了し、通常の制御へ移行する。本実施形態を用いない場合には、例えば、コーストストップ制御が開始された直後に、エンジンが再始動していると誤判定され、エンジンが再始動しておらずバリエータのトルク容量が高くなっていないにもかかわらず、保護制御から通常の制御へ移行するおそれがある。そして、その後実際にエンジン1が再始動した場合に、バリエータ20のトルク容量が十分に大きくなっておらず、かつ保護制御が実行されていない状態でエンジン1からバリエータ20にトルクが伝達されるおそれがある。これによって、バリエータ20が劣化するおそれがある。
【0064】
本実施形態では、エンジン1の再始動に関する誤判定を防止することで、バリエータ20などの劣化を抑制することができる(請求項1、2、8に対応する効果)。
【0065】
コーストストップ制御が開始されると、タイマを作動させて油圧が所定油圧未満となる所定時間の間、エンジン1の再始動判定を禁止する。これにより、容易な制御によってエンジン1の再始動の誤判定を防止することができる(請求項6に対応する効果)。
【0066】
上記実施形態の所定時間を、コーストストップ制御を開始した時のエンジン回転速度に基づいて設定してもよい。この場合、所定時間は、コーストストップ制御を開始した時のエンジン回転速度が高いほど長くなる。これによって、車両の運転状態に合わせてエンジン1の再始動判定を行うことができ、エンジン1の再始動の誤判定をさらに防止することができる(請求項7に対応する効果)。
【0067】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0068】
第2実施形態は、第1実施形態とコーストストップ制御におけるエンジン再始動判定制御が異なっている。
【0069】
本実施形態のコーストストップ制御におけるエンジン再始動判定制御について
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0070】
ステップS200では、コントローラ12は、コーストストップ制御が開始されたかどうか判定する。コントローラ12は、コーストストップ制御が開始された場合にはステップS201へ進み、コーストストップ制御が開始されていない場合には本制御を終了する。
【0071】
ステップS201では、コントローラ12は、エンジン再始動判定を禁止する。
【0072】
ステップS202では、コントローラ12は、エンジン回転速度センサ47からの信号に基づいてエンジン回転速度を検出し、エンジン回転速度が所定回転速度よりも小さいかどうか判定する。コントローラ12は、エンジン回転速度が所定回転速度よりも小さくなるとステップS203へ進む。所定回転速度は、予め設定された回転速度であり、コーストストップ制御を実行する場合に必ず通過する回転速度であり、エンジン回転速度センサ47によって精度よく検出することができる回転速度である。また、所定回転速度は、スターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度よりも高い回転速度である。本実施形態では、所定回転速度はエンジン1のアイドル回転速度であるが、これに限られることはない。
【0073】
所定回転速度を高くし過ぎると、エンジン回転速度センサ47によって検出されるエンジン回転速度のバラツキが大きく、タイマ作動開始タイミングの精度が悪くなり、本来、エンジン再始動判定を禁止すべき運転状態にもかかわらず、エンジン再始動判定が行われ、エンジン1の再始動を誤判定するおそれがある。一方、所定回転速度を低くし過ぎると、エンジン回転速度センサ47による検知精度が悪くなるおそれがあり、エンジン1の再始動判定の精度が悪くなり、エンジン1の再始動を誤判定するおそれがある。さらに、所定回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度よりも低いと、タイマが作動せずに保護制御から復帰することができず、運転性が悪化するおそれがある。これらの点を考慮して所定回転速度は設定される。
【0074】
ステップS203では、コントローラ12は、タイマを作動させる。ここでは、コントローラ12は、エンジン回転速度が所定回転速度となってからの時間を計測する。タイマは初期値としてゼロとなっており、リセットされると初期値に戻る。
【0075】
ステップS204では、コントローラ12は、タイマが所定時間となったかどうか判定する。コントローラ12は、タイマが所定時間となるとステップS205へ進む。所定時間は、エンジン回転速度が所定回転速度となってからスターター50によってクランクシャフトを回転可能となるまでにかかる時間であり、予め設定されている。
【0076】
ステップS205では、コントローラ12は、エンジン再始動判定を許可する。
【0077】
ステップS206では、コントローラ12は、タイマをリセットする。
【0078】
次に本実施形態のエンジン再始動判定制御について
図7のタイムチャートを用いて説明する。
【0079】
時間t0においてコーストストップ条件が全て満たされると、コーストストップ制御が開始され、エンジン再始動判定が禁止される。また、トルクダウン制御などの保護制御が実行される。
【0080】
時間t1において、コーストストップ条件のいずれかが満たされなくなると、コーストストップ制御が終了する。エンジン回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度まで低下するまでの間、エンジン1の再始動は行われない。
【0081】
時間t2において、エンジン回転速度が所定回転速度となるとタイマが作動する。エンジン再始動判定は禁止されている。
【0082】
時間t3において、タイマが所定時間となり、エンジン1の回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転することができる回転速度となると、エンジン1の再始動が許可され、エンジン1が再始動する。
【0083】
時間t4において、ライン圧が所定油圧となると、エンジン1が再始動していると判定される。
【0084】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0085】
コーストストップ制御を開始した後にエンジン回転速度が所定回転速度となるまでの間、エンジン再始動判定を禁止する。さらに、コーストストップ制御を開始した後にエンジン回転速度が所定回転速度となるとタイマを作動させて所定時間の間、エンジン再始動判定を禁止する。これにより、コーストストップ制御を開始する時のエンジン回転速度が異なる場合、つまりコーストストップ制御を開始する時の運転状態が異なる場合でも、タイマを作動させる時のエンジン回転速度が一定となる。そのため、コーストストップ制御を開始する時の運転状態のバラツキによるエンジン再始動判定の影響を小さくすることができ、エンジン1の再始動の誤判定を防止することができる(請求項3に対応する効果)。
【0086】
所定回転速度を高くし過ぎると、検出されるエンジン回転速度のバラツキが大きく、タイマ作動開始タイミングの精度が悪くなり、例えば、エンジン回転速度のバラツキにより、エンジン回転速度が所定回転速度以上であるときにタイマが作動され、本来、エンジン再始動判定を禁止すべき運転状態にもかかわらず、エンジン再始動判定が行われ、エンジン1の再始動を誤判定するおそれがある。一方、所定回転速度を低くし過ぎると、エンジン回転速度センサ47による検知精度が悪くなるおそれがあり、エンジン1の再始動判定の精度が悪くなり、エンジン1の再始動を誤判定するおそれがある。また、所定回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転可能となる回転速度よりも低いと、タイマが作動せず、エンジン再始動判定が禁止された状態が継続し、いつまでも保護制御から復帰することができず、運転性(特に再発進性)が悪化するおそれがある。本実施形態では、所定回転速度をアイドル回転速度とすることで、エンジン1の再始動の誤判定を防止し、運転性が悪化することを防止することができる(請求項4に対応する効果)。
【0087】
所定時間が短いと、測定誤差により油圧が所定油圧よりも高い場合にタイマ完了によりエンジン再始動判定が行われ、エンジン1の再始動が誤判定されるおそれがある。一方、所定時間が長いと、エンジン1が再始動し、油圧が所定油圧以上となっている場合でもエンジン再始動判定が禁止され、保護制御が継続されるため運転性が悪化するおそれがある。本実施形態では、所定時間を、スターター50によってクランクシャフトを回転してエンジン1を始動可能となる時間とすることで、エンジン1の再始動を正確に判定することができ、運転性が悪化することを防止することができる(請求項5に対応する効果)。
【0088】
第1実施形態の所定時間と第2実施形態の所定時間とを比較すると、第2実施形態の所定時間の方が長い。第1実施形態において所定時間経過によりライン圧が所定油圧よりも低くなりエンジン再始動の誤判定を抑制した後に、ライン圧が所定油圧以上となるには、エンジン1が再始動される必要がある。すなわち、第1実施形態の所定時間経過後、エンジン1が再始動される判断の一つである、エンジン回転速度がスターター50によってエンジン1を再始動することができる回転速度となるまで、エンジン1の再始動を禁止しても問題はない。そのため、第2実施形態では、所定時間をスターター50によってクランクシャフトを回転可能となるまで、つまりエンジン1を再始動することができるまでの時間に設定することで、エンジン再始動判定の禁止時間を長く設定することができ、エンジン再始動の誤判定をさらに抑制することができる(請求項5に対応する効果)。
【0089】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0090】
本実施形態においては、エンジン1の再始動判定を油圧に基づいて行ったが、代替手段として、エンジン回転速度に基づくことも考えられる。しかし、エンジン回転速度はバラツキが大きいので、バラツキを低減するためにフィルタ処理が施される。そのため、フィルタ処理後のエンジン回転速度は実エンジン回転速度に対して遅れた信号となる。従って、エンジン回転速度を用いるとエンジン1の再始動判定に遅れが生じ、問題がある。本実施形態では、油圧に基づいてエンジン1の再始動判定を行うことで、このような遅れを抑制することができる。
【0091】
第2実施形態において所定回転速度を、一例としてエンジン1のアイドル回転速度としたが、より精度良く上記実施形態を実現するには、所定回転速度をアイドル回転速度の最小値とすることが望ましい。これにより、コーストストップ制御開始からタイマが作動するまでの時間をより長くすることができ、バラツキを抑え精度を良くすることができる。エンジン回転速度はバラツキを持っており、アイドリング中もエンジン回転速度は微小に振動している。アイドル回転速度の最小値とは、振動しているエンジン回転速度の中の最小回転速度である。
【0092】
上記実施形態では、コーストストップ制御を一例として説明したが、車両停止中にエンジン1を自動停止するアイドルストップ制御を実行する場合に上記制御を用いても良い。
【0093】
変速機は、有段変速機、副変速機構を有さない無段変速機であってもよい。また、電動オイルポンプを有さない車両であってもよい。
【0094】
ライン圧に基づいて上記制御を実行したが、プライマリプーリ圧やセカンダリプーリ圧に基づいて上記制御を実行してもよい。また、油圧ではなく、エンジン回転速度などに基づいて制御を行ってもよい。
【0095】
第2実施形態において、所定時間は、スターター50によってクランクシャフトを回転可能となるまでのかかる時間としたが、例えばエンジン始動に要する時間としても良い。エンジン回転速度がスターター50によってクランクシャフトを回転可能となる回転速度となっても、実際の油圧はまだ上昇しておらず、エンジン1が始動することで油圧は上昇する。従って、所定時間は、第2実施形態の所定時間に限定されることなく、例えばエンジン始動に要する時間としても良い。これにより、所定時間をさらに長くすることができ、エンジン再始動判定の禁止時間を長く設定することができ、エンジン再始動の誤判定をさらに抑制することができる。
【0096】
第2実施形態において、所定時間は、エンジン回転速度が所定回転速度となってから油圧が所定油圧未満となるまでの時間としてもよい。これにより、コーストストップ制御が中止された場合でも、エンジン1の再始動を判定するまでの時間を短くすることができ、運転性を向上することができる。
【0097】
エンジン再始動判定における誤判定は、再始動完了を判定するパラメータがエンジン回転速度である場合には、例えばアイドル回転速度未満など、比較的低い回転速度に閾値が設定されている場合に生じ易い。このような場合には、コーストストップ制御を開始する際にエンジン回転速度が閾値よりも大きくなり、コーストストップ制御を開始した直後にエンジンの再始動が完了したと誤判定する。エンジン回転速度はコーストストップ制御を開始した直後にゼロとはならず、徐々に低下する。また、エンジン回転速度はノイズ対策のためにフィルタ処理が施され、実エンジン回転速度に対して遅れを有する値である。そのため、コーストストップ制御を開始した直後には、エンジン回転速度が閾値よりも大きい状態が起こりうる。また、これは油圧によってエンジン再始動判定を行う場合にも同様のことが言える。コーストストップ制御を開始した直後に油圧がエンジンの再始動を判定するための閾値よりも高くなる状態は、コーストストップ制御を開始する前にLow戻しのために一時的に油圧を高くする場合、コーストストップ制御を開始する時に潤滑油量不足や摩擦要素の締結指示、プーリの挟持圧確保などにより一時的に油圧が高くなっている場合などに生じる。本発明においては、このような状況においてもエンジン再始動判定の誤判定を抑制することができる。