【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。これらの実施例は、単に、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の主旨に従って、本発明の範囲が、これらの実施例によって制限されないことは、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0038】
<材料及び方法>
<<ヒト胚性幹細胞(hESC)及びヒト誘導多能性細胞(iPSC)の培養>>
合計6つのヒト胚性幹細胞株H9(P31−45、WiCellInc社、Madison、Wisconsin、米国)、Miz−hES4(P67−75)、Miz−hES6(P34−45)(ミズメディ病院、大韓民国)、CHA−hES3(P88−93、CHA病院、大韓民国)、SNU−hES3(P30−36)及びSNU−hES16(P71−76)(ソウル大学病院、大韓民国)を、20%KSR(Knockout Serum Replacement;Invitrogen、Carlsbad、米国)、1×非必須アミノ酸(Invitrogen社、米国)、0.1mMβ−メルカプトエタノール(Sigma社、St.Louis、MO、米国)、及び4ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Invitrogen社、米国)が添加されたDMEM−F12培地で培養した。STO(ATCC、Manassas、VA、米国)フィーダー細胞層で培養させたSNU−hES3(P30−36)とSNU−hES16細胞株とを除いて、ほとんどのhESC株を有糸分裂を停止されたマウスの胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts:MEFs、MCTT社、ソウル、韓国)層で成長させた。5日間〜7日間、毎日公知の継代培養方法(Oh,S.K. et al. Stem Cells 23, 605−609(2005)参照)によって、hESCコロニーは、新鮮なフィーダー層に移した。また、3つのヒト誘導多能性細胞株(iPSCs)、つまり、dH1f−iPS2−2、MSC−iPS2−3及びBJ1−iPS12細胞株(Park,I.H. et al. Nature 451, 141−146(2007)参照)を、上記hESCと同じ培地組成を有する培地で培養した(上記の3種のヒト誘導多能性細胞株は、ハーバード大学のGeorge Q. Daley博士から分譲されており、それについての参考文献は、次の通りである;Nature、2008 Jan 10;451(7175):141−6, Nat Protoc. 2008;3(7):1180−6)。
【0039】
<<ヒト全分化能幹細胞の自発的分化>>
30分間、IV型のコラゲナーゼ(Invitrogen社、米国)を2mg/mLで処理した後、フィーダー細胞層からhESCs及びヒトiPSCsコロニーを分離させ、胚様体(embryoid bodies:EB)を形成するようにしており、当業界で通常に使用するbFGFを含まないhESC培地(EB培地)が含まれているペトリディッシュに移動させた。胚様態を形成させる間、様々な濃度のDM(dorsomorphin;Sigma社、米国)及びSB431542(Calbiochem社、SanDiego、CA、米国)を培地に添加し、約10日間、1日置きに培地を交換した。qRT−PCT及び免疫細胞化学を通じて数種類のマーカーの発現を分析した。
【0040】
<<ヒト全分化能幹細胞のDA(Dopaminergic)ニューロンへの分化>>
10日間の自発的な分化の後、神経前駆細胞(NPs)への進行のために、8日間〜10日間、bFGF(20ng/mL、Invitrogen社)が添加されたN2培地((DMEM−F12(Dulbecco’s Modified Medium:Nutrient Mixture F−12)及び1×N2、Invitrogen社)で胚様体を追加的に培養し、進行過程の間、1日置きに培地を交換した。ピペットで優しくピペッティングして増殖した神経前駆細胞を別個に分離させ、その次に、0.5×10
6細胞数/cm
2〜2×10
6細胞数/cm
2の密度となるようにマトリゲル(Matrigel;BD Scientific社、Bedford、USA)でコーティングされたプレートにシーディングした。200ng/mL〜500ng/mLのソニックヘッジホッグ(Shh; R&D Systems社、Minneapolis、MN、米国)、及び100ng/mLのFGF8(線維芽細胞増殖因子8;R&D Systems社)が補充されたN2培地で8日間培養してDA(dopaminergic)前駆細胞を発生させた。完全に成熟したDAニューロンを発生させるために、1×N2、20ng/mLの神経膠細胞由来神経栄養因子(GDNF;R&D Systems社)、20ng/mLの脳由来神経栄養因子(BDNF;R&D Systems社)、及び200μMアスコルビン酸(Sigma社)が補充されたDMEM−F12培地又はニューロベイサル培地(Neurobasal media;Invitrogen社)でDA前駆細胞を培養した。
【0041】
<<ヒト全分化能幹細胞の神経細胞の分化誘導>>
公知の方法(Zhang,S.C., Wernig, M., Duncan, I.D., Br, O.&Thomson, J.A.Nat. Biotechnol 19, 1129−1133(2001)参照)を一部修正して、ヒトの全分化能幹細胞を神経細胞へ分化させた。つまり、5μMのDM及び5μM〜10μMのSB431542の存在下又は不存在下のEB培地で、胚様体を4日間培養し、その次に、20ng/mLのbFGFが補充されたN2培地が含まれているマトリゲルがコートされたディッシュ上で6日間追加的に培養した。次に、コロニーカウント、免疫細胞化学及びqRT−PCRを用いてサンプルを分析した。
【0042】
<<免疫染色及び定量分析>>
10分間4%パラ−ホルムアルデヒド−PBSを用いて細胞を固定した。また、胚様態を同じ固定液で固定させ、20%スクロース(sucrose)を添加して凍結を防止し、O.C.T.コンパウンド(Tissue Tek、Torrance、CA、米国)で凍結した後、クリオスタットを用いて、10μmの厚さの切片を作製した。前記切片は、0.01%トリトンX−100/PBS(細胞内のマーカー)で処理し、室温で1時間の間、5%ロバ血清(Calbiochem社、CA、米国)でブロックさせた後、4℃で一次抗体を用いて一晩反応させた。本研究で用いた一次抗体は、以下の通りである:Oct4(1:100、Santa Cruz Biotechnology社、Santa−Cruz、CA、米国);SSEA4(1:500、Santa Cruz Biotechnology社);Sox1(1:200、Millipore社、Billerica、MA、米国);Pax6(1:200、DSHB、Iowa、IA、米国)、ネスチン(1:1000、Millipore社);α−フェトプロティン(AFP;1:100、Santa Cruz Biotechnology社);Tuj1(1:1,000、Covance社、Berkeley、CA、米国);GFAP(1:300、Millipore社)、O4(1:200、R&D systems社)、及びチロシンヒドロキシラーゼ(TH;1:500、Millipore社、又は1:300、Pelfreez社、Rogers、AR、米国)。一次抗体のインキュベーション後、結合させた一次抗体を検出するために、蛍光(Alexa−Fluor(登録商標)−488又は594)結合2次抗体(Molecular Probes社、Eugene、OR、米国)を用いた。核を検出するために、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole、Vector社、Burlingame、CA、米国)を加えた。オリンパスIX71顕微鏡とDP71デジタルカメラで細胞イメージを観察し、イメージ−プロ プラス バージョン5.1(Media Cybernetics社、Silver Spring、MD、米国)で分析した。3つの独立した実験で免疫標識された細胞又はコロニーをカウントして、定量的評価を実施した。平均±標準誤差で値を表した。統計的有意性は、スチューデントt−テストやSPSSのソフトウェア バージョン 12.0を用いるOne−Way ANOVAテストを用いた。
【0043】
<<定量的リアルタイムPCR(qRT−PCR)及びデータ分析>>
メーカーのプロトコルに応じて、イージー−スピン(登録商標)のトータルRNA精製キット(iNtRON Biotechnology社、Seoul、大韓民国)を用いて、細胞内に存在する総RNAを抽出した後、パワーcDNA合成キット(iNtRON Biotechnology社)を用いて、1μgのRNAを逆転写した。SYBR Premix Ex Taq(Takara Bio Inc、Shiga、日本)を用いて、qRT−PCRを実施し、MyiQ又はCFX96リアル−タイムシステム(Bio−Rad社、Hercules、CA、米国)を用いて反応させた。qRT−PCRの条件は、次の通りである:95℃1分間(1段階)、95℃20秒間、63℃20秒間、及び72℃20秒間を1サイクルとして、合計40サイクル(2段階)、72℃1分間の最終エクステンション(3段階)。特異的マーカー遺伝子の発現値(Ct values)を求め、β−アクチン(β−actin)の値に従って標準化した。その次に、ΔΔCt法(Pfaffl,M.W. Nucleic Acids Res 29, 45(2001)参照)で標準化されたマーカーの発現水準を化学的処理されたサンプル、及びローディング対照郡サンプルと比較した。少なくとも3回以上の独立した実験をして、すべてのデータを最終確認した。プライマー配列は、表1に表した。
【0044】
【表1】
【0045】
上記上添え字は、本実施例に含まれる参照文献を意味する。
20: Xu,R−.H. et al. Nat Methods 2, 185−190(2005)
21: Kroon,E. et al. Nat Biotech 26, 443−452(2008)
22: Xiao,L., Yuan,X. and Sharkis,S. J.Stem Cells, 24, 1476486(2006)
【0046】
<結果>
ヒト全分化能幹細胞(例えば、hESCsとヒトiPSCs)が特定の細胞タイプに効率的に分化できる能力が、幹細胞を治療に応用するための前提条件である。最近の報告書では、ヒト胚性幹細胞株が、特定の細胞系統に分化する傾向を持っていると報告した(Osafune,K. et al. Nat. Biotechnol. 26, 313−315(2008)参照)。また、本発明者らは、4つの機関から樹立された6つのhESCで分化傾向の有意な違いが発見されており、他の種類の体細胞から由来する3つのヒト誘導多能性細胞が特定の細胞系統に分化できる潜在性を維持していることが追加的に分かった(
図1)。これらの分化内在的傾向性が存在するというのは、目的の細胞系統に分化させる際に、陰性的に影響を与えるので、細胞治療法への応用において、適切な細胞株を選択するために、すべてのhESCとiPSCの分化の傾向についての調査が必要とされた。そのためのスクリーニング工程は、多くの努力、時間及びコストがかかるため、元々持っていた分化の傾向とは関係なく、すべてのhPSCを特定の細胞組織に分化誘導できる方法があれば、非常に大きな助けとなるだろう。予備研究の実験により、本発明者らは、多様な分化傾向を持っているすべてのhPSCの神経系統(例えば、神経前駆細胞(NPs)の形成)に分化させる普遍的なプロトコルを確立しようとした。本研究は、神経分化に際して幅広く適用可能なプロトコルを作成するために、低分子化合物を用いて胚発生過程のうち神経誘導が密接に関連しているシグナル伝達経路を操作することを計画した。
【0047】
まず、神経分化を誘導するために、H9 hESCコロニーを酵素処理法によって胚様体(EBs)を形成させて浮遊培養した。一般に、分化効率の変化が、各々のhESCの分化の傾向によって左右されるとしても、どのような分化系列誘導増殖因子も含まれていない自発的な分化条件下で培養された胚様態は、低い神経細胞分化効率を持つ。他の細胞系への分化ではなく、神経細胞のみの分化を促進させるために、初期の胚様態形成期間の間、骨形成蛋白質(BMP)信号伝達経路を抑制した。BMP信号の抑制は、初期胚の発達期間の間、神経誘導に重要な役割を果たすことが知られている(Wilson,S.I & Edlund, T. Nat. Neurosci. Suppl:1161−1168(2001)及びMu,I. & Brivanlou,A.H. Nat. Rev. Neurosci. 3,271−280(2002)参照)。BMP信号の抑制のために、既存の発明者らは、ポリペプチドBMPの抑制剤であるノギン(noggin)を主に使用したが、本発明者らは、この物質の代わりに、低分子化合物が胚様態(Ding,S. & Schultz,P. Nat. Biotechnol. 22, 833−840(2004)参照)の中により容易にアクセス可能であり、細胞の信号伝達を効果的に調節できるという点に着目して、低分子化合物形態の選択的BMP拮抗剤ドルソモルフィン(dorsomorphin:DM)(Yu,P.B. et al. Nat. Chem. Biol. 4, 33−41(2008)参照)を用いた。まず、DM(0.1μM〜5μM)を4日投与された胚様態でBMPシグナル活性の指標となるId1及びId3遺伝子の発現水準がDMの含有量に依存して減少することを通じて、DMの効果を検証した(
図2a)。その後、DM処理が用量−依存的に分化する胚様態でPax6とNestinのような神経マーカーの発現を増加させ、DM処理によるBMP信号伝達経路の抑制が、H9 hESCsの神経系統への分化を促進することを確認した(
図2b)。
【0048】
BMP経路の抑制は、神経細胞の分化を十分に誘導させると共に、他の系統への分化を減らすか否かを調べるため、hESCsの分化運命の変化におけるDMの効果をより綿密に検証した。10日間、DM(1μM及び5μM)が含まれている自発的分化培地で胚様態を培養し、未分化なhESCsだけでなく、3胚葉層の代表的なマーカーの発現を定量的RT−PCR(qRT−PCR)及び免疫細胞化学方法を用いて確認した(
図6a及び6b)。胚様態形成時にDMを処理する場合、DMの容量依存的に神経細胞のマーカー(Sox1及びNestin)の発現を有意に増加させる一方、中胚葉(Brachyury及びCerberus)、内胚葉(α−フェトプロテイン(AFP)及びGATA4)及び未分化であるhESCs(Oct4及びNanog)マーカーの発現は減少した(
図6a)。しかしながら、内胚葉(例えば、AFP)と未分化細胞のマーカー(例えば、Oct4及びSSEA4)は依然として検出された(
図6b)。これらの結果は、BMP経路の抑制だけでは、内胚葉、中胚葉及び残りの未分化の細胞が最小限しか含まれていない純粋な神経細胞群を多く生産できないということを意味する。これに基づいて、本発明者らは、hESCsの神経系統への分化をより促進できる付加的な信号伝達経路の抑制方法について研究した。アクチビン/ノダル(Activin/Nodal)経路は、内胚葉及び中胚葉分化誘導による初期胚の発達過程において極めて重要な役割を果たし(Schier,A.F. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 19, 58921(2003)参照)、一方、神経外胚葉系統への分化は抑制することが知られている(Vallier,L., Reynolds,D. & Pedersen,R.A. Dev Biol. 275, 403−421(2004)及びCamus,A., Perea−Gomez,A., Moreau,A. & Collignon,J. Dev Biol. 295, 743−755(2006)参照)。また、最近、アクチビン/ノダル信号伝達が、hESCの幹細胞性を維持させるのに重要な役割をすることが報告された(Vallier,L., Alexander,M. & Pedersen,R.A. J. Cell. Sci. 118, 4495−4509(2005)及びXiao,L., Yuan,X. and Sharkis,S. J.Stem Cells 24, 1476486(2006)参照)。そこで、本発明者らは、アクチビン/ノダル信号伝達の抑制が、他の分化系統及び未分化の細胞を減少させながら、hESCsを神経外胚葉に分化させることに更に有利に作用すると推定した。
【0049】
この考えに基づいて、BMP経路の抑制だけでなく、アクチビン/ノダル信号伝達の抑制を伴うことが、不要な細胞への分化を最小限に抑えながら、神経細胞に分化誘導できるか否かをテストした。アクチビン/ノダル信号伝達の特異的抑制剤であるSB431542(5μM又は10μM)とDM(5μM)とを含む自発的分化培地に胚様態を培養する場合、神経細胞のマーカー(Sox1、Pax6及びNestin)の発現が有意に増加する一方、内胚葉(AFP及びGATA4)と中胚葉(Brachyury及びCerberus)のマーカーは、目立つほど減少した(
図6c)。何より重要なことは、未分化の全分化能細胞に対するマーカー(Oct4及びNanog)が非常に減少したことである(
図6c)。また、本実施例では、神経細胞の増加を免疫細胞化学により同定した(
図6d)。
【0050】
BMP経路単独を抑制(DMで処理)、又はBMP経路及びアクチビン/ノダル経路を両方抑制(DM及びSM431542で処理)することで、栄養膜マーカー(GATA2及びGCM1)の発現が減少した(
図3)。これらの結果は、BMP経路が、活性化している場合にのみアクチビン/ノダル経路が、hESCsの栄養膜への分化を誘導すると報告された先行文献と一致する(Wu,J. et al. J.Biol. Chem. 283, 249915002(2008)参照)。
しかも、本発明では、hPSCsから効率的かつ排他的な神経細胞への誘導には、BMP及びアクチビン/ノダル信号伝達経路の両方の抑制が要求されるというデータを提示した。これらの結果は、BMP及びアクチビン/ノダル信号伝達経路の同時的及び連続的な抑制が、アフリカツメガエル(Xenopus)胚の発達において神経誘導のために要求されると報告された最近の研究と一致する(Chang,C. & Harland,R.M. Development 134, 3861−3872(2007)参照)。
【0051】
その次の疑問点は、内在的分化の傾向(innate differentiation propensity)とは関係なく、DMとSB431542とによる同時処理が、hESC及びiPSCの両方の細胞系統において神経系への分化を誘導するものか否かである。この疑問点を解決するために、9つのhPSC(6つのhESC及び3つのヒトiPSC)から産生された胚様態を自発的分化条件で培養しながら、DM(5μM)及びSB431542(10μM)で処理した。qRT−PCR解析から、DMとSB431542とを処理したことが、他の分化系統の細胞への分化を減少させながら、神経細胞への誘導を有意に向上していることが分かった(
図7a)。興味深いことに、対照群(ジメチルスルホキシド(DMSO)で処理された細胞)と、DM及びSM431542で処理された細胞株との間での神経細胞のマーカー発現の増加幅は、Miz−hES4、SNU−hES3、SNU−hES16、CHA−hES3及びBJ1−iPS12細胞のような神経細胞に分化しない内在的分化傾向を持った細胞株での発現増加幅が高く示された(
図1a及び
図7a)。免疫細胞化学分析からは、BMP及びアクチビン/ノダル信号伝達経路が抑制された際に、より多くの細胞が神経前駆細胞のマーカーNestinを発現していることが分かった(
図7b)。DM及びSB431542で処理した後は、いずれの未分化の細胞も免疫細胞化学によって検出されなかった(図示しない)。
【0052】
自発的分化過程におけるこれらの効果だけでなく、hESCsから神経細胞分化を誘導するように設計された神経誘導分化プロトコルを使用する場合でも、DM及びSB431542は、神経細胞の発生を増加させた(
図4a〜4c)(Zhang,S.C., Wernig,M., Duncan,I.D., Br,O. & Thomson, J.A.Nat. Biotechnol. 19, 1129−1133参照)。本発明により発生した神経前駆細胞は、神経細胞(ニューロン)、星状細胞(アストロサイト)及び乏突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)になり得る多分化能を持っていることが分かった(
図8)。
【0053】
まとめると、これらの結果は、hESC細胞系とiPSC細胞系とでは分化傾向にかなりの相違があるが、この分化傾向の相違は、分化過程が自発的であるか定向的であるかにかかわらず、BMP及びアクチビン/ノダル信号伝達経路の同時調節を通じて克服できることを示す。つまり、いずれの両条件の下においても、すべてのhPSCsは、効率的に神経細胞系統に分化した。
【0054】
BMP信号伝達経路及びアクチビン/ノダル信号伝達経路を同時に抑制して発生された神経前駆細胞が、特定の神経細胞のサブタイプになり得る能力を維持しているのかを調査するために、本発明者らは、更に、従来のプロトコルを調整して、ドーパミン(DA)ニューロンへの分化を試みた(
図5a)(Cho,M.S. et al. Proc Natl. Acad. Sci. USA. 105, 3392−3397(2008)及びYan,Y. et al. Stem Cells 23, 781−790(2005)参照)。免疫細胞化学分析では、DMSOで処理された細胞から分化したTuj1陽性神経細胞の数(総細胞数の2.6±0.5%)と比較して、DM及びSB431542で処理されたヒトiPSC(MSC−iPS2−3)から分化したTuj1陽性神経細胞の数が顕著に増加した(総細胞数の50.7±2.2%)(
図5b〜5c)。Tuj1陽性細胞のかなりの部分(49.5±6.8%)は、TH
+ニューロン(ドーパミンを合成する酵素であるチロシンヒドロキシラーゼを発現するニューロン)であった。また、これらの結果は、BMP及びアクチビン/ノダル信号伝達経路の操作によって発生した神経細胞が、DAニューロンのような特異的神経タイプへ分化できる能力を持っていることを意味する。
【0055】
まとめると、本発明では、多様な分化傾向を持つhPSCsがBMP信号伝達経路とアクチビン/ノダル信号伝達経路とを操作することによって神経系列に効果的に分化できること、及び前記信号伝達経路の操作を通じてhESCsとヒトiPSCsの内在的分化の潜在性を克服できることを提示する。これにより、細胞の代替療法を必要とする患者からの、複雑で独立したiPSC細胞株を大量生産すべき必要性は簡素化される。
【0056】
以上で、本発明の特定の部分を詳細に述べたが、当業界の通常の知識を有する者にとって、これらの具体的な技術は、単に好ましい実施例にすぎず、これにより本発明の範囲が制限されるわけではないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項及びその等価物によって定義されると言える。