(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
醤油と糖源及び魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を基質とし、テトラジェノコッカス属の乳酸菌及び酵母チゴサッカロマイセス・ルキシを加えて20〜30℃で1〜3週間培養して得られた、請求項1に記載の組成物。
醤油と糖源を基質とし、テトラジェノコッカス属の乳酸菌及び酵母チゴサッカロマイセス・ルキシを加えて20〜30℃で1〜3週間培養して得られた発酵物と、魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を配合した、請求項2に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、魚由来リン脂質と醤油と乳酸菌及び/又は酵母を含む発酵組成物に関するものである。
【0014】
詳細には、本発明は、1の態様において、魚由来リン脂質及び醤油と糖源を含む基質に乳酸菌又は/及び酵母を培養して得られた発酵組成物に関するものである。
【0015】
さらに本発明は、もう1つの態様において、魚由来リン脂質と、醤油と糖源を含む基質に乳酸菌又は/及び酵母を培養して得られた発酵物とを含む発酵組成物に関するものである。
【0016】
本発明の発酵組成物は、魚類において極めて優れた摂餌促進効果を有し、養殖魚の成長を促進し、健康状態を良好に保つという優れた特徴を有する。
【0017】
本発明における魚由来リン脂質については、それが由来する魚の種類並びにその取得方法はいずれのものであってもよい。典型的には、魚類から採取されたリン脂質を多く含む画分あるいはその精製物を魚由来リン脂質として用いることができる。好ましくは、魚由来リン脂質は、魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたものである。魚原油は、魚類から採取された油脂であり、カツオやマグロなどの頭部を主原料として採油された魚原油が好ましい。なお、採油する頭部に他の部位、例えば尾部等が少量混入していてもかまわない。例えばカツオの場合、鰹節等の製造工程において、可食部以外の頭部を主原料とする残滓から大規模な採油が行われている。マグロ頭部についても同様に採油されている。イワシ油やサンマ油など全魚体から採油する魚原油に比べ、カツオ・マグロなどの魚原油にはリン脂質が主体の極性脂質が多く含まれているので原料として望ましい。
【0018】
また、本発明の組成物において、魚由来リン脂質のほかに、組成物の成分中に含まれるリン脂質あるいは他の原料(例えば大豆)由来のリン脂質が含まれていてもよい。
【0019】
本発明における魚由来リン脂質を得るためには、魚原油を精製する前に処理を行い、リン脂質を多く含む画分を分離し、回収することが望ましい。具体的な方法の例を下記に示すが、必ずしもこの方法に限定されるものではない。
【0020】
まず遠心分離またはろ過等の処理により、魚原油に含まれる重合物や微量の蛋白等の夾雑物を除くことが望ましい。次に魚原油を油脂結晶が析出しない程度の低い温度に保ち、水を添加する。この温度として30〜60℃が望ましく、さらに望ましくは30〜40℃である。水の添加量は予想されるリン脂質の含有量により調整でき、魚原油に対して1〜5%、望ましくは2〜4%が好ましい。添加水の温度は油温と同じか、近い温度が好ましい。この際、水の替わりにクエン酸・リン酸などを添加した水溶液を用いることも可能である。水添加後、激しく攪拌することでリン脂質の油からの遊離と凝集を促進する。さらに、添加する水粒子をできるだけ小さくして油中に供給すると、さらに遊離と凝集が促進され好ましい。撹拌の後、静置すると上部に油層、中間部にリン脂質層、下部に水層となる3層に分離するので中間層を回収する。この時に遠心分離機を使用することができる。
【0021】
回収した中間部のリン脂質層(魚由来リン脂質画分)には、リン脂質以外に中性脂質と水分も多く混入している。この含水物をそのまま利用することも出来るが、公知の方法で水分を除去してもよい。含水物のまま保存する場合は、保存性の向上のためにクエン酸やリン酸などの酸を添加してもよい。その際はpHを4.2以下に調整することが望ましい。
【0022】
また、更にリン脂質含量を高めるために公知の方法で残存する水分と中性油を除去することができる。具体的な例として、更なる遠心分離やアセトン分配等により除去する方法がある。さらにヘキサンやエタノールなどの有機溶剤を併用することもできる。
【0023】
このようにして得られた魚由来リン脂質画分は、5%以上のリン脂質が含まれていることが望ましく、さらに望ましくは10%以上である。そのリン脂質組成は、グリセロリン脂質およびスフィンゴミエリンが主成分であり、例えば50〜95%がグリセロリン脂質、5〜50%がスフィンゴミエリンである。グリセロリン脂質はホスファチジルコリンおよびリゾホスファチジルコリンが主成分である。また、リン脂質の構成脂肪酸にはDHAを代表とする炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸を含有するという特徴を有する。
【0024】
このような特徴を持った魚由来リン脂質画分に乳酸菌及び/又は酵母の発酵物を加えるか、その後さらに発酵させることによって、本発明のリン脂質含有発酵組成物が得られる。
【0025】
酵母及び乳酸菌は耐塩性を有するものを適宜選択して用いることができる。耐塩性の酵母としてはチゴサッカロミセス属、カンジダ属、ハンゼヌラ属の酵母が例示されるが、これらに限定されない。耐塩性の乳酸菌としては、ラクトバチラス属、テトラジェノコッカス属の乳酸菌が例示されるが、これらに限定されない。本発明において好ましい酵母および乳酸菌は、例えば、酵母はチゴサッカロミセス属、乳酸菌はテトラジェノコッカス属、ラクトバチラス属から選択され、より好適には酵母チゴサッカロミセス・ルキシー、乳酸菌テトラジェノコッカス・ハロフィラス又はラクトバチラス・プランタラムの組み合わせがよい。
【0026】
培養に使用する乳酸菌は1種類または2種類以上であってもよい。また、培養に使用する酵母も1種類または2種類以上であってもよい。酵母及び/又は乳酸菌に加えて、他の種類の微生物を培養に用いてもよい。
【0027】
酵母及び/又は乳酸菌の発酵物は、醤油に糖源を添加した培地を用いることができる。醤油は特に限定するものではなく、淡口、濃口、溜まり、あるいは生醤油などのいずれでも利用できる。
【0028】
糖源は乳酸菌及び/又は酵母が利用できる物であればよく、中でも、ブドウ糖が経済性等の点から最も利用しやすい。
【0029】
培地(基質)や発酵条件は特に限定するものではなく、酵母及び/又は乳酸菌が旺盛に生育する条件であればよい。例えば、醤油は10〜80%、好ましくは20〜40%とし、糖源は5〜20%、好ましくは10%前後になるように加えるとよい。また、食塩濃度は特に調整する必要はないが5〜15%程度の時発酵が容易である。pHは調整する必要はないが、酵母又は/及び乳酸菌の生育、発酵を旺盛にするために5〜5.5程度に調整してもよい。
【0030】
さらに、雑菌による汚染を抑制するために、培地を殺菌すること、無菌的に培養する技術などが適宜利用できる。
【0031】
このような培地に酵母及び/又は乳酸菌を添加してから、例えば20〜35℃で3日〜1ヶ月程度培養すればよい。このようにして得られた発酵液と魚由来リン脂質画分を概ね1:0.2〜1:5、好ましくは1:0.5〜1:3の割合で混合すると本発明の一つの態様のリン脂質含有発酵組成物が得られる。
【0032】
この発酵組成物をそのまま、例えば2〜30日程度追加発酵させることによって、別の態様のリン脂質含有発酵組成物が得られる。
【0033】
さらに別の態様として、魚由来リン脂質画分と醤油及びブドウ糖を混合した培地に、上記発酵液、又は、別途培養した乳酸菌及び/又は酵母培養液をスターターとして加えて、上記条件で発酵させることによってリン脂質含有発酵組成物を調製することもできる。このとき、醤油と魚由来リン脂質画分の比率は限定されないが、概ね100:1〜1:100程度、好ましくは10:1〜1:10とし、粘性が高いときは水で適宜希釈した後、その混合液に対して糖源を5〜20%程度加え、必要に応じて食塩やpHを調整すればよい。
【0034】
大量生産に際しては、リン脂質含量の調整、発酵日数の短縮、発酵制御のし易さなどの面から、あらかじめ醤油と糖源を含む培地に乳酸菌又は/及び酵母を十分に培養させた発酵液に魚由来リン脂質画分を混合して発酵を行うことが望ましい。
【0035】
このようにして得られたリン脂質含有発酵組成物を、脂質量を考慮して一般的な飼料等に配合して、本発明の魚の飼料や釣り餌が得られる。したがって、本発明は、さらなる態様において、上記発酵組成物を配合して得られる魚の飼料または釣り餌を提供するものである。本発明の魚の飼料や釣り餌は、極めて優れた摂餌促進効果を有し、養殖魚の成長を促進し、健康状態を良好に保つという優れた特徴を有する。
【0036】
上記発酵組成物を、適宜配合して飼料を調製することができ、例えば1〜60質量%配合することができる。他の栄養成分を考慮すると2〜30質量%配合することがさらに好ましい。上記発酵組成物に含まれている水分は飼料を調製する際に乾燥させることにより除くことが可能であるので、必要な配合量は飼料中の脂質量・リン脂質量から算出すると良い。
【0037】
本発明の発酵組成物に含まれるリン脂質が飼料中0.1質量%以上となるように魚由来リン脂質含有発酵物を配合することが好ましい。
【0038】
本発明の人工配合飼料の形態については特に限定されるものではなく、魚類に給餌可能であれば、いかなる形態であってもよい。具体的にはモイストペレットやドライペレットが例示できる。
【0039】
本発明は、さらなる態様において、醤油と糖源及び魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を含む基質に、乳酸菌又は/及び酵母を培養することを特徴とする、発酵組成物の製造方法を提供する。
【0040】
本発明は、さらにもう1つの態様において、醤油と糖源を含む基質に乳酸菌又は/及び酵母を培養して発酵物を得て、次いで、得られた発酵物と魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を配合することを特徴とする、発酵組成物の製造方法を提供する。
【0041】
上記製造方法において、乳酸菌および酵母は耐塩性のものが好ましく、醤油乳酸菌および醤油酵母が例示される。好ましい乳酸菌としてはテトラジェノコッカス属またはラクトバチラス属の乳酸菌が挙げられ、好ましい酵母としてはチゴサッカロマイセス属の酵母が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の発酵組成物の好ましい製造方法の具体例としては、醤油と糖源及び魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を基質とし、醤油乳酸菌テトラジェノコッカス及び酵母チゴサッカロマイセス・ルキシを加えて20〜30℃で1〜3週間培養することを特徴とする方法が例示される。
【0043】
本発明の発酵組成物のもう1つの好ましい製造方法の具体例としては、醤油と糖源を基質とし、醤油乳酸菌テトラジェノコッカス及び酵母チゴサッカロマイセス・ルキシを加えて20〜30℃で1〜3週間培養して発酵物を得て、次いで、魚頭部を主原料として採油された魚原油から調製されたリン脂質を配合することを特徴とする方法が例示される。
【0044】
上記製造方法により得られる発酵組成物は、魚類において極めて優れた摂餌促進効果を有し、養殖魚の成長を促進し、健康状態を良好に保つという優れた特徴を有する。
【0045】
さらなる態様において、本発明は、上記発酵組成物を配合することを特徴とする、魚の飼料または釣り餌の製造方法を提供するものである。この方法により得られた魚の飼料や釣り餌は、極めて優れた摂餌促進効果を有し、養殖魚の成長を促進し、健康状態を良好に保つという優れた特徴を有する。
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。本発明の実施例における材料および方法は下記の通りである。
【0047】
脂質含量および中性脂質含量・リン脂質含量の測定
魚由来リン脂質画分からの脂質の抽出はFolch法により行い、その重量より脂質含量を算出した。
【0048】
Folch法により抽出した脂質は、Sep−Pak Sillicaカートリッジ(Waters社製)により、中性脂質とリン脂質に分画し、重量より各々の含量を算出した。
【0049】
リン脂質各組成含量の測定方法
上記カートリッジ分画により得られたリン脂質を、薄層クロマトグラフィーで各リン脂質成分を分離させた後、FID検出器による定量をイアトロスキャンMk−6(株式会社三菱化学ヤトロン製)を用いて行なった。
【0050】
なお、各リン脂質スポットのRf値の判別に使用した標準品は以下の通りである。
ホスファチジルコリン(大豆由来・フナコシ株式会社製)、リゾホスファチジルコリン(卵黄由来・和光純薬工業株式会社製)、スフィンゴミエリン(牛脳由来・シグマアルドリッチジャパン株式会社製)、ホスファチジルエタノールアミン(卵由来・和光純薬工業株式会社製)、リゾホスファチジルエタノールアミン(卵由来・フナコシ株式会社製)、ホスファチジン酸(卵由来・フナコシ株式会社製)、ホスファチジルセリン(牛脳由来・フナコシ株式会社製)、ホスファチジルイノシトール(ブタ肝臓由来・フナコシ株式会社製)。
【0051】
中性脂質およびリン脂質の脂肪酸組成測定方法
上記カートリッジ分画により得られた中性脂質・リン脂質に、内部標準物質(トリコサン酸)を加えた後、三フッ化ホウ素−メタノール法により脂肪酸のメチルエステルを調製した。得られた脂肪酸のメチルエステルは常法のガスクロマトグラフィー法により分析した。用いた装置はGC−17A(株式会社島津製作所製)、カラムはBPX−70(SGE社製)、昇温条件は、140℃で2分保持後、240℃まで5℃/分で昇温し、240℃で20分保持とした。
【0052】
魚由来リン脂質画分の調製
カツオ原油(カツオ頭部を主体とする鰹節製造時の残渣から採油された魚原油、酸価9.0)100kgを40℃に加温し、水温35℃の水3kgを少しずつ加えながら30分間攪拌した。18時間の静置により上層・中間層・下層の3層に分離させた後、中間層(魚由来リン脂質画分)2kgを回収した。表1にカツオ原油から得られた魚由来リン脂質画分の組成と、中性脂質・リン脂質の脂肪酸組成を示す。
【実施例1】
【0054】
実施例1:魚由来リン脂質含有発酵物の調製
上記魚由来リン脂質画分100g、製品濃口醤油80ml、ブドウ糖10g、食塩6gに水を加えて溶解し200mLとした。この溶液は食塩10%、アルコール1%、pH5.1であった。これを基質として、醤油酵母(チゴサッカロミセス・ルキシー)及び醤油乳酸菌(テトラジェノコッカス・ハロフィラス)をおおよそ10
6/mlになるように添加し、25〜30℃で5日間静置培養し発酵させた。
【0055】
得られた魚由来リン脂質含有発酵物(これをP1とする)はpH4.6、Alc3.5%、また、生菌数は酵母3x10
8、乳酸菌5x10
7/mlであった。
【0056】
醤油を主原料とする発酵物の調製
発酵物A
製品淡口醤油500ml、ブドウ糖100g、食塩50gに水を加えて溶解し1Lとした。この溶液は食塩13%、アルコール1.2%、pH5.1であった。これを基質として、醤油酵母(チゴサッカロミセス・ルキシー)及び醤油乳酸菌(テトラジェノコッカス・ハロフィラス)をおおよそ10
5/mlになるように添加し、25〜30℃で10日間静置培養し発酵させた。
【0057】
発酵液はpH4.6、Alc3.5%、また、生菌数は酵母2x10
8、乳酸菌3x10
7/mlであった。乳酸菌は顕微鏡下では10
9/ml以上観察できたので、増殖後一部が死滅したものと思われた。
【実施例2】
【0058】
実施例2:魚由来リン脂質含有発酵物の調製
上記魚由来リン脂質画分100gと、上記発酵物A100gを撹拌機でよく混合し、魚由来リン脂質含有発酵物P2とした。このP2を30℃インキュベータ中で時々攪拌しながら1週間発酵させたものを魚由来リン脂質含有発酵物P3とした。
【0059】
上記魚由来リン脂質画分65gと、上記発酵物Aを27.5gと、ブドウ糖7.5gをよく混合し、30℃インキュベータ中で時々攪拌しながら3週間発酵させたものを魚由来リン脂質含有発酵物P4とした。
【実施例3】
【0060】
実施例3:魚由来リン脂質含有発酵物を含む配合飼料の調製
実施例1で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P1を配合した試験用配合飼料を調製した。原料と配合量は表2に示した。
【0061】
まず、魚粉60g、薄力粉16.5g、ハルバー処方ビタミン混合物5g、ハルバー処方ミネラル混合物8g、タウリン0.5gをよく混合した。この混合物にナイスフィードオイルR9.7g、実施例1で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P1を15g、水18gを加えよく捏ね合わせた。これをにんにく絞り器で少しずつ押し出し、押し出された飼料をナイフで切断し、粒径2mm程度の粒状にした。造粒後は冷蔵庫にて保管し、冷蔵飼料CP1とした。
【0062】
比較例1:魚由来リン脂質も発酵物も含まない飼料の調製
魚由来リン脂質および発酵物を含まない試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP2とした。原料と配合は表2に示した。
【実施例4】
【0063】
実施例4:魚由来リン脂質含有発酵物を含む配合飼料の調製
実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P3を配合した試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP3とした。原料と配合量は表2に示した。
【実施例5】
【0064】
実施例5:魚由来リン脂質と発酵物Aを含む配合飼料の調製
実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P2を配合した試験用配合飼料を調製した。原料と配合は表2に示した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP4とした。
【0065】
比較例2:発酵物Aを含む配合飼料の調製
上記発酵物Aを含む試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP5とした。原料と配合は表2に示した。
【0066】
比較例3:魚由来リン脂質を含む配合飼料の調製
魚由来リン脂質を含む試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP6とした。原料と配合は表2に示した。
【0067】
比較例4:魚由来リン脂質と醤油を含む飼料の調製
魚由来リン脂質と醤油を含む試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例3と同様に行い、冷蔵飼料CP7とした。原料と配合は表2に示した。
【表2】
*タウリン:和光純薬工業株式会社製
*ナイスフィードオイルR:植田製油株式会社製(飼料用魚油)
*淡口醤油:ヒガシマル醤油株式会社製
【実施例6】
【0068】
実施例6:魚由来リン脂質含有発酵物を配合した配合飼料の調製
実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P4を配合した試験用配合飼料を調製した。原料と配合量は表3に示した。尚、魚粉は消化性のよい酵素処理魚粉を使用した。
まず、酵素処理魚粉34g、カゼイン10g、コーングルテン8.5g、セルロース3g、スターチ8g、ハルバー処方ビタミン混合物5g、ハルバー処方ミネラル混合物8g、タウリン0.5gをよく混合した。この混合物にパーム油10g、ナイスフィードオイルR8.5g、実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P4を15g、水10.5gを加えよく捏ね合わせた後、ステンレス製のメッシュに通し粒径2.4mm程度になるよう造粒した。造粒後、−80℃冷凍庫で急速冷凍し、冷凍飼料FP8−15とした。
P4の添加量を30gとし、同様に製造した冷凍飼料をFP8−30とした。
【0069】
比較例5:魚由来リン脂質含有発酵物を含まない配合飼料の調製
魚由来リン脂質含有発酵物を含まない試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例6と同様に行い、冷凍飼料FP9とした。原料と配合は表3に示した。
【実施例7】
【0070】
実施例7:魚由来リン脂質含有発酵物を含む飼料の調製(リン脂質と発酵物の混合物)
実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P2を配合した試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例6と同様に行い、冷凍飼料FP10とした。原料と配合は表3に示した。
【実施例8】
【0071】
実施例8:魚由来リン脂質含有発酵物を含む飼料の調製(混合物をさらに発酵させたもの)
実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P3を配合した試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例6と同様に行い、冷凍飼料FP11とした。原料と配合は表3に示した。
【0072】
比較例6:大豆由来リン脂質含有発酵物の調製
市販の大豆レシチン(日清レシチンDX:日清オイリオグループ株式会社製)25gと、上記発酵物A75gを撹拌機でよく混合し、大豆リン脂質含有発酵物P5とした。
大豆リン脂質含有発酵物P5を含む試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例6と同様に行い、冷凍飼料FP12とした。原料と配合は表3に示した。
【0073】
比較例7:大豆リン脂質を配合した配合飼料の調製
市販の大豆リン脂質を含む試験用配合飼料を調製した。製造方法は実施例6と同様に行い、冷凍飼料FP13とした。原料と配合は表3に示した。
【表3】
*各飼料の水分21g、脂質20g、タンパク質36.8gとなるように配合した。
*パーム油:植田製油株式会社製
*セルロース:「アビセル」旭化成工業株式会社製
*スターチ:「ホワイトコーンスターチ」日の本キング株式会社製
*酵素処理魚粉:Profish S.A.社製
【実施例9】
【0074】
実施例9 給餌試験
試験1 魚由来リン脂質含有発酵物の効果
23L容透明水槽にマダイ稚魚を3尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、実施例3と比較例1で製造した冷蔵飼料を用いて、CP1区、CP2区とした。給餌は1日1回、週に5日の飽食給餌とした。飼育日数は、7日とした。試験期間中の水温は20.3〜21.2℃であった。
【0075】
実施例3(CP1区)の魚由来リン脂質含有発酵物を含む飼料は、無添加飼料(比較例1:CP2区)と比べて餌への喰い付きが非常に良く、飼育期間中の総給餌量は多かった。
【0076】
このことから、本発明の摂餌促進組成物およびそれを含有する飼料は、養殖魚に対して優れた摂餌誘引効果を発揮することが分かった。
【0077】
試験2 魚由来リン脂質含有発酵物の効果
23L容透明水槽にマダイ稚魚を3尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、実施例4と比較例1で製造した冷蔵飼料を用いて、CP3区、CP2区とした。給餌は1日1回、週に5日の飽食給餌とした。飼育日数は、22日とした。試験期間中の水温は20.4〜21.4℃であった。飼育結果を表4に示す。
【表4】
【0078】
実施例4(CP3区)の魚由来リン脂質含有発酵物を含む飼料(3%添加)では、魚由来リン脂質および発酵物を含まない比較例1(CP2区)と比べて、良好な飼育結果が得られた。飼料効率が大幅に改善され、日間摂餌率・日間成長率・成長倍率でより優れた結果となった。また試験終了後、CP3区、CP2区のマダイ稚魚の健康状態は共に良好であった。
【0079】
このことから、本発明の摂餌促進組成物およびそれを含有する飼料は、養殖魚の摂餌を誘引し、優れた成長促進効果を有することが分かった。
【0080】
試験3 魚由来リン脂質含有発酵物の効果
23L容透明水槽にマダイ稚魚を3尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、実施例5と比較例1、2、3、4で製造した冷蔵飼料を用いて、CP4区、CP2区、CP5区、CP6区、CP7区とした。給餌は1日1回、週に5日の飽食給餌とした。試験日数は11日とした。試験期間中の水温は20.6〜21.6℃であった。飼育結果を表5に示す。
【表5】
【0081】
魚由来リン脂質も発酵物Aも含まない無添加飼料区(比較例1:CP2区)に比べて、発酵物A、魚由来リン脂質のいずれかを含む全ての試験区で良好な飼育結果が得られた。
【0082】
日間成長率と成長倍率を比べてみると、発酵物Aのみ(比較例2:CP5区)と魚由来リン脂質のみ(比較例3:CP6区)は、ともにCP2区よりも優れていた。さらに発酵物Aと魚由来リン脂質の両方を含む飼料(実施例5:CP4区)では、それぞれの単品で得られるよりもさらに良好な飼育結果が得られた。このことから、発酵物Aと魚由来リン脂質を組み合わせて使用することで格別顕著な効果が得られ、それぞれを単品で使用したときには得られない相乗効果がもたらされることが明らかとなった。
【0083】
また、醤油と魚由来リン脂質の混合物(比較例4:CP7区)でも良好な飼育結果が得られたが、その効果はそれぞれを単独で使用したときの相加効果程度あるいはそれ以上であると思われた。
【0084】
試験4 魚由来リン脂質含有発酵物の効果(P4添加量0%、15%、30%の比較)
23L容透明水槽にマダイを2尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、実施例6と比較例5で製造した冷凍飼料を用いて、FP8−15区、FP8−30区、FP9区とした。給餌は1日2回、週に5日の飽食給餌とし、10:00〜12:00に1回と、15:00〜17:00に1回行った。飼育日数は28日とした。試験期間中の水温は21.2〜22.6℃であった。飼育結果を表6に示す。
【表6】
【0085】
無添加飼料区(比較例5:FP9区)に比べて、魚由来リン脂質含有発酵物15%添加区(実施例6:FP8−15区)では、明らかに給餌量が増加し、優れた飼育成績が得られた。成長倍率から分かるように同期間の飼育でより大きく成長し、飼料効率も改善された。
【0086】
また30%添加区(実施例6:FP8−30区)では、15%添加区には劣るものの、無添加飼料区よりも優れた飼育成績が得られた。
【0087】
このことから、本発明の摂餌促進組成物およびそれを含有する飼料は、養殖魚の摂餌を促進し、飼料効率を高め、成長を早めることが改めて確認された。その添加量も飼料に対して15%でも、30%でも効果を発揮することが分かった。
【0088】
試験5 魚由来リン脂質含有発酵物の効果(無添加、リン脂質発酵物、発酵物混合リン脂質の比較)
23L容透明水槽にマダイを2尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、実施例7と実施例8と比較例5で製造した冷凍飼料を用いて、FP10区、FP11区、FP9区とした。給餌は1日1回、週に5日の飽食給餌とした。飼育日数は35日とした。試験期間中の水温は19.9〜21.5℃であった。飼育結果を表7に示す。
【表7】
【0089】
無添加飼料区(比較例5:FP9)に比べて、発酵物混合魚由来リン脂質15%添加区(実施例7:FP10区)及び、魚由来リン脂質発酵物15%添加区(実施例8:FP11区)は、飼料効率、日間成長率、成長倍率で優れていた。この結果は試験1〜3と同様であり、改めて本発明の摂餌促進組成物の有効性が証明された。
【0090】
またFP11区はFP10区よりも飼料効率、日間成長率、成長倍率で優れた飼育成績が得られた。今回の結果より、魚由来リン脂質と発酵物Aの混合物でも摂餌促進効果と成長促進効果が得られるが、さらに発酵処理を行った方がより優れた効果が得られることが明らかとなった。
【0091】
比較試験1 大豆由来リン脂質含有発酵物(リン脂質無添加、大豆リン脂質、大豆リン脂質発酵混合物の比較)
23L容透明水槽にマダイを2尾ずつ収容して各試験区を設けた。試験区は、比較例5、比較例6、比較例7で製造した冷凍飼料を用いて、FP9区、FP12区、FP13区とした。給餌は1日1回、週に5日の飽食給餌とした。飼育日数は46日とした。試験期間中の水温は20.0〜21.8℃であった。飼育結果を表8に示す。
【表8】
【0092】
大豆由来リン脂質区(比較例7:FP13区)では、飼料効率、日間成長率、成長倍率でリン脂質無添加区(比較例5:FP9)よりも劣る結果となった。一方、発酵物を混合した大豆リン脂質区(比較例6:FP12)では、FP13区よりも改善が見られFP9区とほぼ同等の結果が得られた。
【0093】
今回の結果より、大豆由来リン脂質は養殖魚の摂餌を抑制し、成長を遅らせることが分かった。しかし大豆由来リン脂質に発酵物を添加することで、無添加区と遜色のないレベルまで成長を改善できることが分かった。この混合物をさらに発酵させることにより、更なる成長促進効果が期待できる。
【実施例10】
【0094】
実施例10:魚由来リン脂質含有発酵物を含む釣り餌の調製
魚由来リン脂質含有発酵物を含む釣り餌を調製した。実施例2で得られた魚由来リン脂質含有発酵物P3と薄力粉を混ぜ、よく捏ね合わせて団子状にし、釣り餌Aとした。原料と配合は表9に示す。
【0095】
比較例8
魚油を配合した釣り餌を調製した。製造方法は実施例10と同様に行い、釣り餌Bとした。原料と配合は表9に示す。
【表9】
【0096】
試験6
200L容透明円形水槽に、マダイ稚魚を25尾収容した。水槽に2種類の釣り餌を同時に投入し1分間吊り下げ、各釣り餌に集まってくるマダイ数を比較した。釣り餌はプラスチック製の透明メッシュ状カップに入れ、タコ糸で水面付近に吊り下げた。魚が釣り餌カップをつついた時点で、1匹としてカウントした。結果を表10に示す。
【表10】
【0097】
2種類の釣り餌に集まるマダイの数を比較したところ、魚由来リン脂質含有発酵物を含む釣り餌Aにより多くのマダイが集まった。本発明の魚由来リン脂質含有発酵物は、釣り餌に利用しても優れた集魚効果を発揮した。