(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0050】
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図2】LDH Cのスプライシングを示す図である。
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図3】可能なLDH−Cタンパク質のアラインメントを示す図である。
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図4】リアルタイムPCRによる種々の組織におけるLDH Cの定量のグラフである。
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図5】TPTEバリアントのエクソン構成を示す図である。
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図6】可能なTPTEタンパク質のアラインメントを示す図である。
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図7a】ヌクレオチドレベルでのTSBPバリアントのアラインメントを示す図である。
【
図7b】ヌクレオチドレベルでのTSBPバリアントのアラインメントを示す図である。
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図8】タンパク質レベルでのTSBPバリアントのアラインメントを示す図である。
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図9】MS4A12についてのRT−PCRを示す図である。
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図10】BRCO1についてのRT−PCRを示す図である。
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図11】MORC、TPX1、LDHC、SGY−1についてのRT−PCRを示す図である。
【
図12】MCF−7乳癌細胞株におけるLDHCのミトコンドリアの局在を示す図である。
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図13】MCF−7細胞の細胞表面上のTPTEの予測されたトポロジーおよび細胞内局在を示す図である。
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図14】細胞膜上のMS4A12の局在を示す図である。
【0051】
発明の詳説
本発明において、腫瘍細胞において選択的にまたは異常に発現され、腫瘍関連抗原である遺伝子が、記載される。
本発明において、これらの遺伝子またはこれらの誘導体は、治療的方法に好ましい標的構造である。概念的に、前述の治療的方法は、選択的に発現された腫瘍関連遺伝子産物の活性を阻害することを目的とすることができる。これは、前述の異常なそれぞれの選択的な発現が腫瘍病理学において機能的に重要である場合、およびこの連結が対応する細胞の選択的損傷に伴う場合に、有用である。他の治療的概念は、腫瘍関連抗原を、腫瘍細胞に選択的に細胞損傷能力を有するエフェクター機構を補強する標識として意図する。ここで、標的分子自体の機能および腫瘍進展におけるこの作用は、完全に無関係である。
【0052】
核酸の「誘導体」は、本発明において、単一の、または多数のヌクレオチド置換、欠失および/または付加が、前述の核酸中に存在することを意味する。さらに、用語「誘導体」はまた、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸塩における核酸の化学的誘導体化を含む。用語「誘導体」はまた、天然に存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含む核酸を含む。
【0053】
本発明において、核酸は、好ましくは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。核酸は、本発明において、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組み換え的に産生された、および化学的に合成された分子を含む。本発明において、核酸は、一本鎖または二本鎖および直線状または共有的な閉環分子として、存在することができる。
【0054】
本発明において記載されている核酸は、好ましくは単離されている。用語「単離された核酸」は、本発明において、核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅され、(ii)クローン化により組み換え的に産生され、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動的分画により精製され、または(iv)例えば化学的合成により合成されたことを意味する。単離された核酸は、組み換えDNA手法により操作するのに利用できる核酸である。
【0055】
核酸は、2つの配列がハイブリダイズして、互いに安定な二重鎖を形成することができ、ハイブリダイゼーションが、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的なハイブリダイゼーションが可能である条件(ストリンジェントな条件)下で実施される場合に、他の核酸と「相補的」である。ストリンジェントな条件は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., Editors, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., Editors, John Wiley & Sons, Inc., New York中に記載されており、例えば、65℃におけるハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%フィコール(Ficoll)、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH
2PO
4(pH 7)、0.5% SDS、2mM EDTA)中でのハイブリダイゼーションを意味する。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後に、DNAがトランスファーされた膜を、例えば、2×SSC中で、室温において、次に0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中で、68℃までの温度において、洗浄する。
【0056】
本発明において、相補的核酸は、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%および好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一のヌクレオチドを有する。
【0057】
腫瘍関連抗原をコードする核酸は、本発明において、単独で、または他の核酸、特に非相同性核酸と組み合わせて、存在し得る。好ましい態様において、核酸は、前述の核酸に対して相同性であるかまたは非相同性であることができる発現制御配列または調節配列に、機能的に連結されている。コーディング配列および調節配列は、これらが、前述のコーディング配列の発現または転写が、前述の調節配列の制御下または影響下にあるように、互いに共有結合している場合には、互いに「機能的に」連結されている。コーディング配列が機能的なタンパク質に翻訳されるべきである場合には、前述のコーディング配列に機能的に連結された調節配列と共に、前述の調節配列の誘導により、前述のコーディング配列の転写がもたらされ、コーディング配列または、所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳することができない前述のコーディング配列におけるフレームシフトを生じない。
【0058】
用語「発現制御配列」または「調節配列」は、本発明において、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサーおよび他の制御要素を含む。本発明の特定の態様において、発現制御配列を、調節することができる。調節配列の正確な構造は、種または細胞の種類の機能として変化するが、一般的に、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などを含む。さらに特に、5’非転写調節配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を誘発するプロモーター領域を含む。調節配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列を含むことができる。
【0059】
従って、一方で、本明細書中に例示した腫瘍関連抗原を、すべての発現制御配列およびプロモーターと組み合わせることができる。しかし他方、本明細書中に例示した腫瘍関連遺伝子産物のプロモーターは、本発明において、すべての他の遺伝子と組み合わせることができる。これにより、これらのプロモーターの選択的活性を用いることが可能になる。
【0060】
本発明において、核酸は、さらに、宿主細胞からの前述の核酸によりコードされたタンパク質またはポリペプチドの分泌を制御するポリペプチドをコードする、他の核酸と組み合わせて存在することができる。本発明において、核酸はまた、コードされたタンパク質またはポリペプチドを、宿主細胞の細胞膜上に固定させるか、または前述の細胞の特定の細胞小器官に区画化させるポリペプチドをコードする、他の核酸と組み合わせて、存在することができる。
【0061】
好ましい態様において、組み換えDNA分子は、本発明において、適切な場合にはプロモーターを有するベクターであり、これは、核酸、例えば本発明の腫瘍関連抗原をコードする核酸の発現を制御する。用語「ベクター」は、本明細書中では、この最も一般的な意味で用いられ、前述の核酸が、例えば原核および/または真核細胞中に導入され、適切な場合には、ゲノム中に組み込まれるのを可能にする核酸のための、すべての媒介ビヒクルを含む。この種類のベクターは、好ましくは、細胞中で複製され、および/または発現される。媒介ビヒクルは、例えば、エレクトロポレーションにおいて、微粒子での銃において、リポソーム投与において、アグロバクテリウム(agrobacteria)を用いた導入において、またはDNAもしくはRNAウイルスを介しての挿入において用いるように適合させることができる。ベクターは、プラスミド、ファージミドまたはウイルスゲノムを含む。
【0062】
本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードする核酸を、宿主細胞のトランスフェクションのために用いることができる。核酸は、ここでは、組み換えDNAおよびRNAの両方を意味する。組み換えRNAを、DNA鋳型のインビトロ転写により製造することができる。さらに、これを、適用の前に配列を安定化し、キャッピングおよびポリアデニル化することにより改変することができる。本発明において、用語「宿主細胞」は、外来性核酸で形質転換またはトランスフェクトすることができるすべての細胞に関する。用語「宿主細胞」は、本発明において、原核細胞(例えば大腸菌)または真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。特に好ましいのは、哺乳類細胞、例えばヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、霊長類からの細胞である。この細胞は、多数の種類の組織に由来し、初代細胞および細胞株を含むことができる。特定の例は、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄の幹細胞および胚幹細胞を含む。他の態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は、宿主細胞中に、単一のコピーまたは2つもしくは3つ以上のコピーの形態で存在することができ、1つの態様において、宿主細胞で発現される。
【0063】
本発明において、用語「発現」は、この最も一般的な意味で用いられ、RNAまたはRNAおよびタンパク質の産生を含む。これはまた、核酸の部分的発現を含む。さらに、発現は、一過性に、または安定に行うことができる。哺乳類細胞における好ましい発現系は、pcDNA3.1およびpRc/CMV(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含み、これは、選択的マーカー、例えばG418に対する耐性を付与する(および従って安定にトランスフェクトした細胞株を選択することを可能にする)遺伝子およびサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサープロモーター配列を含む。
【0064】
HLA分子が腫瘍関連抗原またはこの一部を提示する、本発明の場合において、発現ベクターはまた、前述のHLA分子をコードする核酸配列を含むことができる。HLA分子をコードする核酸配列は、腫瘍関連抗原もしくはこの一部をコードする核酸と同一の発現ベクター上に存在することができるか、または、両方の核酸は、異なる発現ベクター上に存在することができる。後者の場合において、2種の発現ベクターを、細胞中にコトランスフェクトする(cotransfect)ことができる。宿主細胞が、腫瘍関連抗原またはこの一部も、HLA分子も発現しない場合には、これをコードする両方の核酸を、同一の発現ベクターまたは異なる発現ベクターのいずれかにより、細胞中にトランスフェクトさせる。細胞が、すでにHLA分子を発現する場合には、腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸配列のみを、細胞中にトランスフェクトすることができる。
【0065】
本発明はまた、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅のためのキットを含む。このようなキットは、例えば、腫瘍関連抗原をコードする核酸にハイブリダイズする増幅プライマーの対を含む。プライマーは、好ましくは、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、核酸の近接する(contiguous)ヌクレオチドの配列を含み、非重複性であって、プライマー二量体の形成を回避する。プライマーの1つは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の1本の鎖にハイブリダイズし、他方のプライマーは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅を可能にする配置において、相補的な鎖にハイブリダイズする。
【0066】
「アンチセンス」分子または「アンチセンス」核酸を、核酸の発現を調節、特に減少させるために用いることができる。用語「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」は、本発明において、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、改変オリゴリボヌクレオチドまたは改変オリゴデオキシリボヌクレオチドであり、生理学的条件下で、特定の遺伝子を含むDNAまたは前述の遺伝子のmRNAにハイブリダイズし、これにより前述の遺伝子の転写および/または前述のmRNAの翻訳を阻害するオリゴヌクレオチドを意味する。本発明において、「アンチセンス分子」はまた、核酸またはこの一部を、この天然のプロモーターに関して逆の配向で含むコンストラクトを含む。核酸またはこの一部のアンチセンス転写物は、酵素を特定し、従ってmRNAの活性酵素への蓄積または翻訳を抑制する、天然に存在するmRNAとの二重鎖を形成することができる。他の可能性は、核酸を不活性化させるためのリボザイムを用いることである。本発明において好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、6〜50、特に10〜30、15〜30および20〜30の、標的核酸の近接する(contiguous)ヌクレオチドの配列を有し、好ましくは、標的核酸またはこの一部に完全に相補的である。
【0067】
好ましい態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、N末端または5’上流部位、例えば翻訳開始部位、転写開始部位またはプロモーター部位とハイブリダイズする。他の態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、3’非翻訳領域またはmRNAスプライシング部位とハイブリダイズする。
【0068】
1つの態様において、本発明のオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはこれらの組み合わせからなり、1つのヌクレオチドの5’末端および他のヌクレオチドの3’末端は、互いに、ホスホジエステル結合により結合している。これらのオリゴヌクレオチドは、慣用の方法で合成するか、または組み換え的に産生することができる。
【0069】
好ましい態様において、本発明のオリゴヌクレオチドは、「改変された」オリゴヌクレオチドである。ここで、オリゴヌクレオチドは、極めて異なる方法で改変することができ、その標的に結合する能力を損ねず、例えばその安定性または治療効率を増大させる。本発明において、用語「改変されたオリゴヌクレオチド」は、(i)このヌクレオチドの少なくとも2つが、互いに、合成ヌクレオシド間結合(即ち、ホスホジエステル結合ではないヌクレオシド間結合)により結合しており、および/または(ii)通常は核酸中には見出されない化学基が、オリゴヌクレオチドに共有結合しているオリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート、アルキルホスホネート、ホスホロジチオエート、リン酸エステル、アルキルホスホノチオエート、ホスホラミデート(phosphoramidate)、カルバメート、カーボネート、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステルおよびペプチドである。
【0070】
用語「改変されたオリゴヌクレオチド」はまた、共有的に改変された塩基および/または糖を有するオリゴヌクレオチドを含む。「改変されたオリゴヌクレオチド」は、例えば、3’位において水酸基以外の低分子量有機基および5’位においてリン酸基に共有結合した糖残基を有するオリゴヌクレオチドを含む。改変されたオリゴヌクレオチドは、例えば、リボース、例えばアラビノースの代わりに2’−O−アルキル化されたリボース残基または他の糖を含むことができる。
【0071】
好ましくは、本発明において記載したタンパク質およびポリペプチドは、単離されている。用語「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」は、タンパク質またはポリペプチドが、この天然の環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはポリペプチドは、本質的に精製された状態であることができる。用語「本質的に精製された」は、タンパク質またはポリペプチドが、本質的に、これが天然にまたはインビボで関連する他の物質を本質的に含まないことを意味する。
【0072】
このようなタンパク質およびポリペプチドは、例えば、抗体の産生において、および免疫学的もしくは診断学的アッセイにおいて、または治療薬として用いることができる。本発明において記載したタンパク質およびポリペプチドを、生物学的試料、例えば組織または細胞ホモジネートから単離することができ、また、多数の原核または真核発現系において組み換え的に発現することができる。
【0073】
本発明の目的のために、タンパク質もしくはポリペプチドまたはアミノ酸配列の「誘導体」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸欠失バリアントおよび/またはアミノ酸置換バリアントを含む。
【0074】
アミノ酸挿入バリアントは、アミノおよび/またはカルボキシ末端融合およびまた1個の、または2個もしくは3個以上のアミノ酸の、特定のアミノ酸配列中の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合において、1個または2個以上のアミノ酸残基が、アミノ酸配列中の特定の部位中に挿入されるが、得られた産物の適切なスクリーニングを伴う無秩序な挿入がまた、可能である。アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1個または2個以上のアミノ酸の除去により特徴づけられる。アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1個の残基が除去され、他の残基がこの場所に挿入されることにより、特徴づけられる。好ましいのは、相同性のタンパク質またはポリペプチド間に保存されないアミノ酸配列中の位置にある改変である。好ましいのは、アミノ酸を、同様の特性、例えば疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の大きさなどを有する他のもので置換することである(保存的置換)。保存的置換は、例えば、1個のアミノ酸の、置換されるべきアミノ酸と同一の群における、以下に列挙する他のアミノ酸での交換に関する:
【0075】
1.小さい脂肪族、無極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負に帯電した残基およびこれらのアミド:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正に帯電した残基:His、Arg、Lys
4.大きい脂肪族無極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大きい芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
【0076】
タンパク質構造物中のこれらの特定の部分のために、3種の残基を、かっこ中に示す。Glyは、側鎖を有しない唯一の残基であり、従って鎖に柔軟性を付与する。Proは、通常でない幾何学的形状を有し、これは、鎖を大いに制限する。Cysは、ジスルフィド架橋を形成することができる。
【0077】
上記に記載したアミノ酸バリアントを、既知のペプチド合成手法を用いて、例えば固相合成(Merrifield, 1964)および同様の方法または組み換えDNA操作により、容易に製造することができる。置換突然変異体を、所定の部位において、既知の、または部分的に既知の配列を有するDNA中に導入するための手法は、十分知られており、例えばM13変異原性を含む。置換、挿入または欠失を有するタンパク質を製造するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al. (1989)中に詳細に記載されている。
【0078】
本発明において、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」はまた、酵素に関連するすべての分子、例えば炭水化物、脂質および/またはタンパク質またはポリペプチドの単一の、または多数の置換、欠失および/または付加を含む。用語「誘導体」はまた、前述のタンパク質またはポリペプチドのすべての機能的な化学的な等価物に拡張される。
【0079】
本発明において、腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントは、これに由来するポリペプチドの機能的特性を有する。このような機能的特性は、抗体との相互作用、他のポリペプチドまたはタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合および酵素活性を含む。特定の特性は、HLAとの複合体を形成する能力であり、適切な場合には、免疫応答を発生する。この免疫応答は、細胞障害性またはヘルパーT細胞を刺激することに基づくことができる。本発明の腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントは、好ましくは、少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個の、腫瘍関連抗原の連続したアミノ酸の配列を含む。
【0080】
腫瘍関連抗原をコードする核酸の一部またはフラグメントは、本発明において、核酸の一部に関し、これは、上記に定義したように、少なくとも腫瘍関連抗原および/または前述の腫瘍関連抗原の一部またはフラグメントをコードする。
【0081】
腫瘍関連抗原をコードする遺伝子の単離および同定はまた、1種または2種以上の腫瘍関連抗原の発現により特徴づけられる疾患の診断を可能にする。これらの方法は、腫瘍関連抗原をコードする1種または2種以上の核酸を決定すること、および/またはこれに由来する、コードされた腫瘍関連抗原および/またはペプチドを決定することを含む。核酸を、ポリメラーゼ連鎖反応または標識したプローブとのハイブリダイゼーションによるものを含む、慣用の方法において、決定することができる。これから由来する腫瘍関連抗原またはペプチドを、抗原および/またはペプチドを認識することに関して患者の抗血清をスクリーニングすることにより、決定することができる。これらを、また、患者のT細胞を、対応する腫瘍関連抗原に対する特異性についてスクリーニングすることにより、決定することができる。
【0082】
本発明はまた、前述の腫瘍関連抗原の抗体および細胞結合パートナーを含む、本明細書中に記載した腫瘍関連抗原に結合するタンパク質を単離することを可能にする。
【0083】
本発明において、特定の態様は、腫瘍関連抗原に由来する「ドミナントネガティブ(dominant negative)」ポリペプチドを提供することを含むべきである。ドミナントネガティブポリペプチドは、細胞機構と相互作用することにより、活性タンパク質を細胞機構とのこの相互作用から追い出し、または活性タンパク質と競合し、これにより前述の活性タンパク質の効果を減少させる、不活性なタンパク質バリアントである。例えば、リガンドに結合するが、リガンドへの結合に対する応答としてのシグナルを発生しない、ドミナントネガティブレセプターは、前述のリガンドの生物学的効果を低減し得る。同様に、通常は標的タンパク質と相互作用するが、前述の標的タンパク質をリン酸化しない、ドミナントネガティブの触媒的に不活性なキナーゼは、細胞シグナルに対する応答としての前述の標的タンパク質のリン酸化を減少させ得る。同様に、遺伝子の制御領域中のプロモーター部位に結合するが、前述の遺伝子の転写を増大させない、ドミナントネガティブの転写因子は、正常な転写因子の効果を、転写を増大させずに、プロモーター結合部位を占有することにより低減し得る。
【0084】
細胞中のドミナントネガティブポリペプチドの発現の結果は、活性タンパク質の機能の減少である。当業者は、タンパク質のドミナントネガティブのバリアントを、例えば慣用の変異原性方法により、およびバリアントポリペプチドのドミナントネガティブの効果を評価することにより製造することができる。
【0085】
本発明はまた、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドなどの物質を含む。このような結合物質を、例えば、腫瘍関連抗原および腫瘍関連抗原のこれらの結合パートナーとの複合体を検出するためのスクリーニングアッセイにおいて、並びに前述の腫瘍関連抗原およびこれらとこれらの結合パートナーとの複合体の精製において、用いることができる。このような物質を、また、腫瘍関連抗原の活性を阻害するために、例えばこのような抗原に結合することにより、用いることができる。
【0086】
従って、本発明は、腫瘍関連抗原に選択的に結合することができる結合物質、例えば抗体または抗体フラグメントを含む。抗体は、慣用の方式で製造されるポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む。
【0087】
抗体分子の小さい部分であるパラトープのみが、抗体のこのエピトープへの結合に関与することは、知られている(Clark, W. R. (1986), The Experimental Foundations of Modern Immunology, Wiley & Sons, Inc., New York; Roitt, I. (1991), Essential Immunology, 第7版、Blackwell Scientific Publications, Oxfordを参照)。pFc’およびFc領域は、例えば、完全なカスケードのエフェクターであるが、抗原結合に関与しない。F(ab’)
2フラグメントと呼ぶ、pFc’領域が酵素的に除去されたか、またはpFc’領域を有せずに産生された抗体は、完全な抗体の両方の抗原結合部位を有する。同様に、Fabフラグメントと呼ぶ、Fc領域が酵素的に除去されたか、または前述のFc領域を有せずに産生された抗体は、インタクトな(intact)の抗体分子の1つの抗原結合部位を有する。さらに、Fabフラグメントは、抗体の共有結合した軽鎖およびFdと呼ぶ、前述の抗体の重鎖の一部からなる。Fdフラグメントは、抗体特異性の主要な決定因子であり(単一のFdフラグメントは、10個までの異なる軽鎖と、抗体の特異性を変化せずに関連することができ)、Fdフラグメントは、単離された際に、エピトープに結合する能力を維持する。
【0088】
抗体の抗原結合部位内に位置するのは、抗原エピトープおよびフレームワーク領域(FRs)と直接相互作用し、パラトープの三次構造を維持する、相補性決定領域(CDRs)である。重鎖のFdフラグメントおよびIgG免疫グロブリンの軽鎖の両方は、各々の場合において、3つの相補性決定領域(CDR1〜CDR3)により分離された、4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)を含む。CDRおよび、特にCDR3領域および尚一層特定的には、重鎖のCDR3領域は、かなりの程度で、抗体特異性に関与する。
【0089】
哺乳類抗体の非CDR領域は、同一の、または異なる特異性を有する抗体の同様の領域により置換されることができ、もとの抗体のエピトープについての特異性は維持されると知られている。これにより、非ヒトCDRがヒトFRおよび/またはFc/pFc’領域に共有結合して、機能的抗体を産生する、「ヒト化された」抗体を発生させることが可能になった。
【0090】
例えば、WO 92/04381には、少なくとも一部のマウスFR領域が、ヒト由来のFR領域で置換された、ヒト化マウスRSV抗体の産生および使用が記載されている。抗原結合能力を有するインタクトな抗体のフラグメントを含むこの種類の抗体は、しばしば、「キメラ」抗体と呼ばれる。
【0091】
本発明はまた、Fcおよび/またはFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、抗体のF(ab’)
2、Fab、FvおよびFdフラグメント、キメラ抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラF(ab’)
2フラグメント抗体、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラFabフラグメント抗体、およびFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラFdフラグメント抗体を提供する。本発明はまた、「単鎖」抗体を含む。
【0092】
本発明はまた、腫瘍関連抗原に特異的に結合するポリペプチドを含む。この種類のポリペプチド結合物質は、例えば、単に、固定された形態で溶液中に、またはファージディスプレイライブラリーとして製造することができる、縮重ペプチドライブラリーにより、提供することができる。同様に、1種または2種以上のアミノ酸を有するペプチドの組み合わせライブラリーを製造することも可能である。ペプトイドおよび非ペプチド性合成残基のライブラリーもまた、製造することができる。
【0093】
ファージディスプレイは、本発明の結合ペプチドを同定するのに特に有効であり得る。これに関して、例えば、長さが4〜約80アミノ酸残基である挿入物を提示するファージライブラリーを製造する(例えば、M13、fdまたはラムダファージを用いて)。次に、腫瘍関連抗原に結合するインサートを有するファージを、選択する。このプロセスを、腫瘍関連抗原に結合するファージの再選択の2つまたは3つ以上のサイクルにより、繰り返すことができる。繰り返されたラウンドにより、特定の配列を有するファージの濃縮がもたらされる。DNA配列の分析を実施して、発現されたポリペプチドの配列を同定することができる。腫瘍関連抗原に結合する配列の最小の直線状部分を、決定することができる。酵母の「ツーハイブリッドシステム(two-hybrid system)」を、また、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドを同定するために用いることができる。本発明において記載された腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、ファージディスプレイライブラリーを含むペプチドライブラリーをスクリーニングするために用いて、腫瘍関連抗原のペプチド結合パートナーを同定し、選択することができる。このような分子を、例えば、スクリーニングアッセイ、精製プロトコルのために、腫瘍関連抗原の機能の阻害および当業者に知られている他の目的のために、用いることができる。
【0094】
上記に記載した抗体および他の結合分子を、例えば、腫瘍関連抗原を発現する組織を同定するために用いることができる。また、抗体は、腫瘍関連抗原を発現する細胞および組織を示すための特定の診断物質に結合させることができる。また、これらを、治療的に有用な物質に結合させることができる。診断物質には、非限定的に、硫酸バリウム、ヨーセタミン酸(iocetamic acid)、ヨーパノ酸、カルシウムイポデート(calcium ipodate)、ナトリウムジアトリゾエート(sodium diatrizoate)、メグルミンジアトリゾエート(meglumine diatrizoate)、メトリザミド(metrizamide)、ナトリウムチロパノエート(sodium tyropanoate)並びに陽電子放射体、例えばフッ素−18および炭素−11、ガンマ線放射体、例えばヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131およびインジウム−111、核磁気共鳴のための核種、例えばフッ素およびガドリニウムを含む放射性診断薬が含まれる。
【0095】
本発明において、用語「治療的に有用な物質」は、所望のように、抗癌剤、放射活性ヨウ素標識化合物、毒素、細胞分裂停止または細胞溶解薬などを含む、1種または2種以上の腫瘍関連抗原を発現する細胞に選択的に送達されるすべての治療分子を意味する。抗癌剤には、例えば、アミノグルテチミド、アザチオプリン、硫酸ブレオマイシン、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビジン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロン−α、ロムスチン、メルカプトプリン、メトトレキセート、マイトタン、プロカルバジンHCl、チオグアニン、硫酸ビンブラスチンおよび硫酸ビンクリスチンが含まれる。他の抗癌剤は、例えば、Goodman and Gilman, "The Pharmacological Basis of Therapeutics", 第8版、1990, McGraw-Hill, Inc.、特に第52章(Antineoplstic Agents (Paul Calabresi and Bruce A. Chabner))に記載されている。毒素は、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、コレラ毒素、百日咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリア外毒素またはプソイドモナス(Pseudomonas)外毒素などのタンパク質であることができる。毒素残基はまた、高エネルギーを放射する放射性核種、例えばコバルト−60であることができる。
【0096】
用語「患者」は、本発明において、ヒト、非ヒト霊長類または他の動物、特に哺乳類、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯動物、例えばマウスおよびラットを意味する。特に好ましい態様において、患者は、ヒトである。
【0097】
本発明において、用語「疾患」は、腫瘍関連抗原が発現されるかまたは異常に発現されるすべての病理学的状態を意味する。「異常な発現」は、本発明において、発現が、健康な個体における状態と比較して、変化した、好ましくは増大したことを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増大を意味する。1つの態様において、腫瘍関連抗原は、罹患した個体の組織においてのみ発現される一方、健康な個体における発現は抑制されている。このような疾患の1つの例は、癌、特に精上皮腫、黒色腫、奇形腫、神経膠腫、結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌である。
【0098】
本発明において、生物学的試料は、組織試料および/または細胞試料であることができ、本明細書中に記載した種々の方法において用いるために、慣用の方法で、例えばパンチ生検を含む組織生検により、および血液、気管支吸引液、尿、糞便または他の体液を採取することにより得ることができる。
【0099】
本発明において、用語「免疫反応性細胞」は、好適な刺激で免疫細胞(例えばB細胞、ヘルパーT細胞または細胞溶解性T細胞)に成熟することができる細胞を意味する。免疫反応性細胞は、CD34
+造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞並びに未成熟および成熟B細胞を含む。腫瘍関連抗原を認識する細胞溶解性またはヘルパーT細胞の産生が望ましい場合には、免疫反応性細胞を、腫瘍関連抗原を発現する細胞と、細胞溶解性T細胞およびヘルパーT細胞の産生、分化および/または選択を好む条件下で、接触させる。抗原に暴露された際の、T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、免疫系のクローン的選択に類似する。
【0100】
いくつかの治療方法は、患者の免疫系の反応に基づいており、これは、抗原提示細胞、例えば1種または2種以上の腫瘍関連抗原を提示する癌細胞の溶解をもたらす。これに関連して、例えば腫瘍関連抗原とMHC分子との複合体に特異的な自己細胞障害性Tリンパ球を、細胞的異常を有する患者に投与する。このような細胞障害性Tリンパ球のインビトロでの産生は、知られている。T細胞を分化させる方法の例は、WO-A-9633265中に見出すことができる。一般的に、血液細胞などの細胞を含む試料を、患者から採取し、細胞を、複合体を提示し、細胞障害性Tリンパ球の増殖を生じさせることができる細胞(例えば樹状細胞)と接触させる。標的細胞は、COS細胞などのトランスフェクトした細胞であることができる。これらのトランスフェクトした細胞は、これらの表面上に所望の複合体を提示し、細胞障害性Tリンパ球と接触した際には、後者の増殖を刺激する。次に、クローン的に増殖した自己細胞障害性Tリンパ球を、患者に投与する。
【0101】
抗原特異的な細胞障害性Tリンパ球を選択する他の方法において、MHCクラスI分子/ペプチド複合体の蛍光を発生する四量体を、細胞障害性Tリンパ球の特定のクローンを検出するために用いる(Altman et al., Science 274:94-96, 1996; Dunbar et al., Curr. Biol. 8:413-416, 1998)。可溶性MHCクラスI分子は、インビトロで、前述のクラスI分子に結合するβ
2ミクログロブリンおよびペプチド抗原の存在下で折り畳まれる。MHC/ペプチド複合体を精製し、次にビオチンで標識する。四量体は、ビオチン化されたペプチド−MHC複合体を標識したアビジン(例えばフィコエリスリン)と、4:1のモル比で混合することにより、形成される。次に、四量体を、細胞障害性Tリンパ球、例えば末梢血液またはリンパ節と接触させる。四量体は、ペプチド抗原/MHCクラスI複合体を認識する細胞障害性Tリンパ球に結合する。四量体に結合した細胞を、蛍光制御されたセルソーティング(cell sorting)により分類して、反応性の細胞障害性Tリンパ球を単離することができる。次に、単離された細胞障害性Tリンパ球を、インビトロで増殖させることができる。
【0102】
養子移入と呼ばれる治療方法において(Greenberg, J. Immunol. 136(5):1917, 1986; Riddel et al., Science 257:238, 1992; Lynch et al., Eur. J. Immunol. 21:1403-1410, 1991; Kast et al., Cell 59:603-614, 1989)、所望の複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)を、処置するべき患者の細胞障害性Tリンパ球と混ぜ合わせ、特定の細胞障害性Tリンパ球の増殖をもたらす。次に、増殖された細胞障害性Tリンパ球を、特定の複合体を提示する特定の異常な細胞により特徴づけられる、細胞異常を有する患者に投与する。次に、細胞障害性Tリンパ球は、異常な細胞を溶解し、これにより所望の治療効果が達成される。
【0103】
しばしば、患者のT細胞レパートリーの中で、この種類の特定の複合体に対する低い親和性を有するT細胞のみが増殖し得る。その理由は、高い親和性を有するT細胞は、耐容性の発生により消滅したからである。ここで、代替物は、T細胞レセプター自体の導入であることができる。また、このために、所望の複合体を提示する細胞(例えば樹状細胞)を、健康な個体の細胞障害性Tリンパ球と混ぜ合わせる。ドナーが特定の複合体と以前に接触したことがない場合には、これにより、高い親和性を有する特定の細胞障害性Tリンパ球の増殖がもたらされる。これらの増殖した特定のTリンパ球の高親和性T細胞レセプターをクローン化し、遺伝子導入により、例えばレトロウイルスベクターを用いて、所望のように他の患者のT細胞中に形質導入することができる。次に、養子移入を、これらの遺伝子的に変化したTリンパ球を用いて実施する(Stanislawski et al., Nat Immunol. 2:962-70, 2001; Kessels et al., Nat Immunol. 2:957-61, 2001)。
【0104】
上記の治療概念は、患者の異常な細胞の少なくともいくらかが、腫瘍関連抗原とHLA分子との複合体を提示するという事実から開始する。このような細胞を、自体公知の方法で単離することができる。複合体を提示する細胞が同定されると直ちに、これらを、細胞障害性Tリンパ球を含む、患者からの試料と混ぜ合わせることができる。細胞障害性Tリンパ球が、複合体を提示する細胞を溶解する場合には、腫瘍関連抗原が提示されていると推測することができる。
【0105】
養子移入は、本発明において用いることができる療法の唯一の形態ではない。また、細胞障害性Tリンパ球を、インビボで、自体公知の方法で生成することができる。1つの方法は、複合体を発現する非増殖性細胞を用いる。ここで用いられる細胞は、通常複合体を発現する細胞、例えば照射された腫瘍細胞または複合体(即ち、抗原性ペプチドと提示HLA分子)の提示に必要な一方もしくは両方の遺伝子をトランスフェクトされた細胞である。種々の種類の細胞を用いることができる。さらに、目的とする遺伝子の一方または両方を有するベクターを用いることが、可能である。特に好ましいのは、ウイルス性または細菌性ベクターである。例えば、腫瘍関連抗原またはこの一部をコードする核酸を、特定の種類の組織または細胞において、前述の腫瘍関連抗原またはこのフラグメントの発現を制御するプロモーターおよびエンハンサー配列に、機能的に結合させることができる。
【0106】
核酸は、発現ベクター中に導入することができる。発現ベクターは、外来性核酸を挿入することができる、改変されていない染色体外核酸、プラスミドまたはウイルスゲノムであることができる。また、腫瘍関連抗原をコードする核酸を、レトロウイルスゲノム中に挿入することができ、これにより、核酸を、標的組織または標的細胞のゲノム中に組み込むことが可能になる。これらの系において、微生物、例えばワクシニアウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルスまたはアデノウイルスは、目的とする遺伝子を運び、事実上宿主細胞に「感染」させる。他の好ましい形態は、例えば、リポソームを用いた導入により、またはエレクトロポレーションにより細胞中に導入することができる、組み換えRNAの形態の腫瘍関連抗原の導入である。得られた細胞は、関連する複合体を提示し、次に増殖する自己細胞障害性Tリンパ球により認識される。
【0107】
同様の効果を、腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、アジュバントと組み合わせて、インビボでの抗原提示細胞中への導入を可能にすることにより、達成することができる。腫瘍関連抗原またはこのフラグメントを、タンパク質として、DNA(例えばベクター内)として、またはRNAとして表すことができる。腫瘍関連抗原はプロセシングされ、HLA分子のためのペプチドパートナーを産生し、一方、このフラグメントを、さらなるプロセシングを必要とせずに提示することができる。後者は、特に、これらがHLA分子に結合することができる場合である。好ましいのは、完全な抗原がインビボで、樹状細胞によりプロセシングされる投与形態である。その理由は、これはまた、有効な免疫応答のために必要であるヘルパーT細胞応答を生じ得るからである(Ossendorp et al., Immunol Lett. 74:75-9, 2000; Ossendorp et al., J. Exp. Med. 187:693-702, 1998)。
【0108】
一般的に、有効量の腫瘍関連抗原を、患者に、例えば皮内注射により投与することが可能である。しかし、注射をまた、リンパ節中に、節内に(intranodally)実施することができる(Maloy et al., Proc Natl Acad Sci USA 98:3299-303, 2001)。また、これを、樹状細胞中への取り込みを容易にする試薬と組み合わせて実施することができる。インビボでの好ましい腫瘍関連抗原は、同種癌抗血清または多くの癌患者のT細胞と反応するものを含む。しかし、特に興味深いものは、自発的免疫応答が予め存在しないものである。明らかに、腫瘍を溶解することができるこれらの免疫応答に対して誘発することが可能である(Keogh et al., J. Immunol. 167:787-96, 2001; Appella et al., Biomed Pept Proteins Nucleic Acids 1:177-84, 1995; Wentworth et al., Mol Immunol. 32:603-12, 1995)。
【0109】
また、本発明により記載された医薬組成物を、免疫化のためのワクチンとして用いることができる。本発明において、用語「免疫化」または「ワクチン接種」は、抗原に対する免疫応答の増大または活性化を意味する。腫瘍関連抗原またはこれをコードする核酸を用いることにより、癌に対する免疫化効果を試験するために、動物モデルを用いることが可能である。例えば、ヒト癌細胞を、マウスに導入して、腫瘍を発生させることができ、腫瘍関連抗原をコードする1種または2種以上の核酸を、投与することができる。癌細胞に対する効果(例えば腫瘍の大きさの減少)を、核酸による免疫化の有効性についての基準として測定することができる。
【0110】
免疫化のための組成物の一部として、1種または2種以上の腫瘍関連抗原またはこの刺激フラグメントを、免疫応答を誘発するための、または免疫応答を増大させるための1種または2種以上のアジュバントと共に投与する。アジュバントは、抗原中に導入されるか、または後者と共に投与され、免疫応答を増大させる物質である。アジュバントは、免疫応答を、抗原貯留(細胞外またはマクロファージ中)を提供し、マクロファージを活性化させ、特定のリンパ球を刺激することにより増強することができる。アジュバントは、知られており、非限定的に、モノホスホリル脂質A(MPL, SmithKline Beecham)、サポニン、例えばQS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham; WO 96/33739)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1(So et al., Mol. Cells 7:178-186, 1997)、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、アルム、CpGオリゴヌクレオチド(Kreig et al., Nature 374:546-9, 1995を参照)および生物学的に分解可能な油、例えばスクアレンおよび/またはトコフェロールから製造された、種々の油中水エマルジョンを含む。好ましくは、ペプチドを、DQS21/MPLとの混合物で投与する。DQS21のMPLに対する比率は、典型的には、約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1および特に約1:1である。ヒトへの投与には、ワクチン配合物は、典型的には、DQS21およびMPLを、約1μg〜約100μgの範囲内で含む。
【0111】
また、患者の免疫応答を刺激する他の物質を、投与することができる。例えば、ワクチン接種中のサイトカインを、リンパ球に対するこれらの調節特性により用いることが可能である。このようなサイトカインは、例えば、ワクチンの保護作用を増大することが示された、インターロイキン−12(IL−12)(Science 268:1432-1434, 1995を参照)、GM−CSFおよびIL−18を含む。
【0112】
免疫応答を増強し、従ってワクチン接種において用いることができる、多くの化合物がある。前述の化合物は、タンパク質または核酸の形態で提供された同時刺激分子を含む。このような同時刺激分子の例は、樹状細胞(DC)上で発現され、T細胞上で発現されたCD28分子と相互作用する、B7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)である。この相互作用は、抗原/MHC/TCRにより刺激された(シグナル1)T細胞のための同時刺激(シグナル2)を提供し、これにより、前述のT細胞の増殖およびエフェクター機能を増強する。B7はまた、T細胞上のCTLA4(CD152)と相互作用し、CTLA4およびB7リガンドに関与する研究により、B7−CTLA4相互作用が、抗腫瘍免疫性およびCTL増殖を増強し得ることが実証される(Zheng, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(11):6284-6289 (1998))。
【0113】
B7は、典型的には、腫瘍細胞上では発現されず、従って、これらは、T細胞についての有効な抗原提示細胞(APCs)ではない。B7発現の誘発により、腫瘍細胞が、細胞障害性Tリンパ球の増殖およびエフェクター機能を、一層有効に刺激することが可能になる。B7/IL−6/IL−12の組み合わせによる同時刺激により、T細胞集団中のIFN−ガンマおよびTh1−サイトカインプロフィルの誘発が明らかになり、さらに増強されたT細胞活性がもたらされた(Gajewski et al., J. Immunol. 154:5637-5648 (1995))。
【0114】
細胞障害性Tリンパ球の完全な活性化および完全なエフェクター機能は、前述のヘルパーT細胞上のCD40リガンドと、樹状細胞により発現されたCD40分子との間の相互作用を介した、ヘルパーT細胞の関与を必要とする(Ridge et al., Nature 393:474 (1998), Bennett et al., Nature 393:478 (1998), Schoenberger et al., Nature 393:480 (1998))。この同時刺激シグナルの機構は、おそらく、前述の樹状細胞(抗原提示細胞)によるB7産生および関連するIL−6/IL−12産生の増大に関連する。従って、CD40−CD40L相互作用は、シグナル1(抗原/MHC−TCR)およびシグナル2(B7−CD28)の相互作用を補完する。
【0115】
樹状細胞を刺激するための抗CD40抗体の使用は、通常は炎症応答の範囲外にあるか、または非専門的抗原提示細胞(腫瘍細胞)により提示される腫瘍抗原に対する応答を直接増強すると予測される。これらの刺激において、ヘルパーTおよびB7同時刺激シグナルは、提供されない。この機構を、抗原でパルスされた樹状細胞に基づく療法と一緒に、またはヘルパーTエピトープが既知のTRA前駆体において明らかにされていない状態において、用いることができる。
【0116】
本発明はまた、核酸、ポリペプチドまたはペプチドの投与を提供する。ポリペプチドおよびペプチドを、自体公知の方法で投与することができる。1つの態様において、核酸を、エクスビボ方法により、即ち細胞を患者から採りだし、前述の細胞を遺伝子的に改変して、腫瘍関連抗原を導入し、変化した細胞を患者中に再び導入することにより、投与する。これは、一般的に、遺伝子の機能的コピーを患者の細胞中にインビトロで導入し、遺伝子的に変化した細胞を患者中に再び導入することを含む。遺伝子の機能的コピーは、遺伝子が、遺伝子的に変化した細胞中で発現されることを可能にする調節要素の機能的制御の下にある。トランスフェクションおよび形質導入方法は、当業者に知られている。本発明はまた、核酸をインビボで、ウイルスなどのベクターおよび標的制御リポソームを用いることにより投与することを提供する。
【0117】
好ましい態様において、腫瘍関連抗原をコードする核酸を投与するためのウイルスベクターを、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキフォレスト(Semliki Forest)ウイルス、レトロウイルス、シンドビス(Sindbis)ウイルス並びにTyウイルス様粒子からなる群から選択する。特に好ましいのは、アデノウイルスおよびレトロウイルスである。レトロウイルスは、典型的には、複製欠乏性である(即ち、これらは、感染性粒子を発生することができない)。
【0118】
種々の方法を用いて、本発明において、核酸を細胞中に、インビトロまたはインビボで導入することができる。この種類の方法は、核酸CaPO
4沈殿物のトランスフェクション、DEAEと関連する核酸のトランスフェクション、目的とする核酸を担持する前述のウイルスでのトランスフェクションまたは感染、リポソーム媒介トランスフェクションなどを含む。特定の態様において、好ましいのは、核酸を特定の細胞に送達させることである。このような態様において、核酸を細胞(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)に投与するために用いられる担体は、結合した標的制御分子を有することができる。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上のレセプターに対するリガンドなどの分子を、核酸担体中に組み込むか、またはこれに付着させることができる。好ましい抗体は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体を含む。核酸のリポソームを介しての投与が望ましい場合には、エンドサイトーシスと関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、リポソーム配合物中に導入して、標的制御および/または取り込みを可能にすることができる。このようなタンパク質は、特定の種類の細胞に特異的なカプシドタンパク質またはこのフラグメント、インターナリゼーションするタンパク質に対する抗体、細胞内部位に向けられるタンパク質などを含む。
【0119】
本発明の治療組成物を、薬学的に適合性の製剤において投与することができる。このような製剤は、通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体、補充免疫性増強物質、例えばアジュバント、CpGおよびサイトカイン並びに、適切は場合には、他の治療的に活性な化合物の薬学的に適合性の濃縮物を含むことができる。
【0120】
本発明の治療的に活性な化合物を、注射または注入によるものを含む、すべての慣用の経路により投与することができる。投与を、例えば、経口的に、静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、または経皮的に実施することができる。好ましくは、抗体を、肺エアロゾルにより治療的に投与する。アンチセンス核酸を、好ましくは、ゆっくりとした静脈内投与により投与する。
【0121】
本発明の組成物を、有効な量で投与する。「有効な量」は、所望の反応または所望の効果を、単独で、またはさらなる用量と共に達成する量を意味する。1種または2種以上の腫瘍関連抗原の発現により特徴づけられる、特定の疾患または特定の症状の処置の場合において、所望の反応は、疾患の経過の阻害に関連する。これは、疾患の進行の低速化および、特に疾患の進行の中断を含む。また、疾患または症状の処置における所望の反応は、前述の疾患または前述の症状の発症の遅延または発症の抑制であってもよい。
【0122】
本発明の組成物の有効な量は、処置されるべき症状、疾患の重篤度、年齢、生理学的状態、大きさおよび体重、処置の継続期間、随伴する療法のタイプ(存在する場合)、投与の特定の経路および同様の要因を含む患者の個別のパラメーターに依存する。
【0123】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、所望の反応または所望の効果を生じさせるのに有効な量の治療的に活性な物質を含む。
【0124】
本発明の組成物の投与される用量は、種々のパラメーター、例えば投与のタイプ、患者の症状、投与の所望の期間などに依存することができる。患者における反応が、最初の用量で不十分な場合には、一層高い用量(または異なる一層局所的な投与経路により達成される有効な一層高い用量)を用いることができる。
【0125】
一般的に、1ng〜1mg、好ましくは10ng〜100μgの腫瘍関連抗原の用量を、処置のために、または免疫応答を発生させるか、もしくは増強するために処方し、投与する。腫瘍関連抗原をコードする核酸(DNAおよびRNA)の投与が望ましい場合には、1ng〜0.1mgの用量を、処方し、投与する。
【0126】
本発明の医薬組成物を、一般的に、薬学的に適合性の量で、および薬学的に適合性の組成物中で投与する。用語「薬学的に適合性の」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない無毒性物質を意味する。この種類の製剤は、通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体および、適切な場合には、他の治療的に活性な化合物を含むことができる。医薬において用いる際には、塩は、薬学的に適合性でなければならない。しかし、薬学的に適合性ではない塩を、薬学的に適合性の塩を製造するために用いることができ、これは、本発明に含まれる。この種類の薬理学的および薬学的に適合性の塩には、非限定的に、以下の酸から製造されるものが含まれる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。また、薬学的に適合性の塩を、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩として調製することができる。
【0127】
本発明の医薬組成物は、薬学的に適合性の担体を含むことができる。本発明において、用語「薬学的に適合性の担体」は、ヒトへの投与に適する1種または2種以上の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤またはカプセル封入物質を意味する。用語「担体」は、活性成分が適用を容易にするために混ぜ合わされる、天然の、または合成の性質を有する有機または無機成分を意味する。本発明の医薬組成物の成分は、通常、所望の薬学的効能を実質的に損なう相互作用が発生しないようになっている。
【0128】
本発明の医薬組成物は、好適な緩衝物質、例えば塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸および塩中のリン酸を含むことができる。
医薬組成物は、適切な場合には、また、好適な保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールを含むことができる。
医薬組成物は、通常、均一な投薬形態で提供され、自体公知の方法で製造することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、カプセル、錠剤、トローチ剤、懸濁液、シロップ、エリクシルの形態またはエマルジョンの形態であることができる。
【0129】
非経口投与に適する組成物は、通常、活性化合物の無菌の水性または非水性製剤を含み、これは、好ましくは、受容者の血液と等張である。適合性担体および溶媒の例は、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常無菌の、固定油(fixed oil)を、溶液または懸濁媒体として用いる。
本発明を、以下の図面および例により詳細に記載し、これは、例示目的でのみ用い、限定的であることを意味しない。この記載および例のために、本発明に同様に含まれるさらなる態様は、当業者により到達可能である。
【0130】
図面:
図1:eCTのクローン化の図式的表示。この方法は、データベース中の候補遺伝子(GOI=「目的とする遺伝子(Genes of interest)」)を同定し、前述の遺伝子を、RT−PCRにより試験することを含む。
図2:LDH Cのスプライシング。オルタナティブスプライシングにより、エクソン3(配列番号:2)、2つのエクソン3および4(配列番号:3)、エクソン3、6および7(配列番号:4)ならびにエクソン7(配列番号:5)の欠如がもたらされる。ORF=オープンリーディングフレーム、aa=アミノ酸。
【0131】
図3:可能なLDH−Cタンパク質のアライメント。配列番号:8および配列番号:10は、原型タンパク質(配列番号:6)のトランケートされた(truncated)部分である。配列番号7:配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12および配列番号:13のタンパク質配列を、さらに変化させ、これは、腫瘍特異的エピトープ(太字で印刷した)のみを含む。触媒中心を枠で囲む。
図4:リアルタイムPCRによる種々の組織におけるLDH Cの定量。精巣以外の正常な組織において、転写物は検出されず、顕著なレベルの発現が、腫瘍において検出された。
【0132】
図5:TPTEバリアントのエクソン構成。本発明において、スプライスバリアントを同定し(配列番号:20、配列番号:21、配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57)、これは、精巣組織において、および腫瘍において発現され、これは、フレームシフトしており、従って変化した配列領域を有する。
図6:可能なTPTEタンパク質のアライメント。オルタナティブスプライシングにより、コードされたタンパク質の変化がもたらされ、リーディングフレームは、原則として保持されている。推定される膜貫通ドメインを、太字で記載し、触媒ドメインを枠で囲む。
【0133】
図7:ヌクレオチドレベルでのTSBPバリアントのアライメント。本発明において見出されたTSBPバリアントのヌクレオチド配列(配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33)の、既知の配列(NM_006781、配列番号:29)に対する差異を、太字で記載する。
図8:タンパク質レベルでのTSBPバリアントのアライメント。本発明において見出されたTSBPバリアントによりコードされるタンパク質(配列番号:34、配列番号:35、配列番号:36)において、フレームシフトにより、上記に記載したタンパク質(配列番号:30、NM_006781)に対する実質的な差異が生じ、これを、太字で示す。
【0134】
図9:MS4A12についてのRT−PCR。発現を、精巣、大腸および結腸直腸癌腫(carcinoma)(大腸癌腫)においてのみ試験した組織において、検出した。示した6種の肝臓組織試料の1つにおいて、この試料が、大腸癌腫転移により浸潤していたため、陽性(positive)の検出を、MS4A12について実施した。また、後の研究により、大腸癌腫転移における明確な発現が例証された。
図10:BRCO1についてのRT−PCR。BRCO1は、正常な乳腺組織における発現と比較して、乳房腫瘍において、明確に過剰発現されている。
【0135】
図11:MORC、TPX1、LDHC、SGY−1についてのRT−PCR。種々の正常組織の研究により、精巣のみにおける発現が明らかである(1皮膚、2小腸、3大腸、4肝臓、5肺、6胃、7乳房、8腎臓、9卵巣、10前立腺、11甲状腺、12白血球、13胸腺、14ネガティブコントロール、15精巣)。腫瘍の試験(1〜17肺腫瘍、18〜29黒色腫、30ネガティブコントロール、31精巣)により、個別のeCTについての異なる頻度を有する前述の腫瘍における異所性発現が明らかである。
図12:MCF−7乳癌細胞株におけるLDHCのミトコンドリアの局在。MCF−7細胞に、LDHC発現プラスミドを、一過性トランスフェクトした。抗原をLDHC特異的抗体で検出し、これは、ミトコンドリア呼吸鎖酵素であるチトクロームCオキシダーゼとの明確な共局在(colocalization)を示した。
【0136】
図13:MCF−7細胞の細胞表面におけるTPTEの予測されたトポロジー(topology)および細胞内局在。左側の図式は、4つの推定されるTPTE膜貫通ドメイン(矢印)を示す。MCF−7細胞にTPTE発現プラスミドを一過性にトランスフェクトした。抗原を、TPTE特異的抗体を用いて検出し、これは、細胞表面上に位置するMHC I分子との明確な共局在を示した。
図14:細胞膜上のMS4A12の局在。腫瘍細胞に、GFPタグ付MS4A12コンストラクトを一過性にトランスフェクトし、これは、共焦点免疫蛍光顕微鏡観察において、原形質膜マーカーとの完全な共局在を示した。
【0137】
例:
材料および方法
用語「インシリコ(in silico)」、「電子的」および「仮想(virtual)クローニング」は、単に、データベースに基づく方法を用いることを意味し、これはまた、実験室実験的プロセスを模擬するために用いることができる。
他に明確に定義しない限り、すべての他の用語および表現を、当業者により理解されるように用いる。述べた手法および方法は、自体公知の方法で実施し、これは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載されている。キットおよび試薬を用いることを含むすべての方法は、製造者の情報に従って実施する。
【0138】
eCT(電子的にクローン化された癌/精巣遺伝子)を決定するためのデータマイニングに基づく方法
2種のインシリコ方法、即ちGenBankキーワード検索およびcDNAxProfilerを、組み合わせた(
図1)。NCBI ENTREZ Search and Retrieval System(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Entrez)を用いて、GenBank検索を、精巣組織中で特異的に発現するとして注釈を付された候補遺伝子について、実施した(Wheeler et al., Nucleic Acids Research 28:10-14, 2000)。
キーワード「testis-specific gene(精巣特異的遺伝子)」、「sperm-specific gene(精子特異的遺伝子)」、「spermatogonia-specific gene(精原細胞特異的遺伝子)」でのクエリーを実施して、候補遺伝子(GOI、目的とする遺伝子)を、データベースから抽出した。検索は、これらのデータベースの全体的な情報の一部に、生物体について「ホモサピエンス」、および分子のタイプについて「mRNA」の制限を用いることにより、限定された。
見出されたGOIのリストを、同一の配列について異なる名称を決定し、このような過剰なものを除去することにより、実施した。
【0139】
キーワード検索により得られたすべての候補遺伝子を、次に、これらの組織分布に関して、「電子的ノーザン」(eNorthern)方法により研究した。eNorthernは、EST(expressed sequence tag)(発現配列タグ))データベースを用いてGOIの配列をアライメントすることに基づく(Adams et al., Science 252:1651, 1991)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)。GOIに相同性であると見出された各々のESTの組織起源を、決定することができ、このようにして、すべてのESTの合計により、GOIの組織分布の予備的な評価が得られる。さらなる研究を、胎盤および胎性組織を除いて、非精巣正常組織からESTへの相同性を有しないGOIについてのみ、実施した。また、公開されているドメインが、誤って注釈を付けられたcDNAライブラリーを含むというこの評価を、考慮した(Scheurle et al., Cancer Res. 60:4037-4043, 2000)(www.fau.edu/cmbb/publications/cancergenes6.html)。
【0140】
用いた第2のデータマイニング方法は、NCBI Cancer Genome Anatomy ProjectのcDNA xProfiler (http://cgap.nci.nih.gov/Tissues/xProfiler) (Hillier et al., Genome Research 6:807-828, 1996; Pennisi, Science 276:1023-1024, 1997)であった。これにより、理論的オペレータにより互いに関連するべきデータベースにおいて蓄積されたトランスクリプトームのプールが可能になる。本発明者らは、精巣から作成されたすべての発現ライブラリーが、混合されたライブラリーを除いて割り当てられたプールAを、定義した。精巣、卵巣または胎性組織以外の正常な組織から作成されたすべてのcDNAライブラリーを、プールBに割り当てた。一般的に、すべてのcDNAライブラリーを、基礎を構成する作成方法とは独立して用いたが、>1000の大きさを有するもののみとした。プールBを、プールAから、BUT NOTオペレータによりデジタルに減じた。また、このようにして見出されたGOIのセットを、eNorthern研究に付し、文献研究により検証した。
【0141】
この組み合わされたデータマイニングは、公共のドメインにおける約13 000の全長遺伝子のすべてを含み、これらの遺伝子から、潜在的に精巣特異的発現を有する合計140の遺伝子を予測する。後者の中に、CT遺伝子群の25の以前から知られている遺伝子があり、これにより、本発明者らの方法の有効性が強調された。
すべての他の遺伝子を、先ず、特定のRT−PCRにより、正常な組織において評価した。非精巣正常組織において発現していることが明らかになった、すべてのGOIを、フォルスポジティブ(false-positive)と見なさなければならず、これを、さらなる研究から除外した。残りのものを、広範囲の腫瘍組織の大きいパネルにおいて研究した。以下に示す抗原は、ここでは、腫瘍細胞において異所的に活性化されたことが明らかになった。
【0142】
RNA抽出、ポリ−d(T)プライマーを用いたcDNAの調製およびRT−PCR分析
全RNA(total RNA)を、生来の組織材料から、カオトロピック剤としてイソチオシアン酸グアニジウムを用いることにより抽出した(Chomczynski & Sacchi, Anal. Biochem. 162:156-9, 1987)。酸性フェノールで抽出し、イソプロパノールで沈殿させた後に、前述のRNAを、DEPC処理水に溶解した。
2〜4μgの全RNAからの一本鎖cDNA合成を、20μlの反応混合物において、Superscript II (Invitrogen)により、製造者の情報に従って実施した。用いたプライマーは、dT(18)オリゴヌクレオチドであった。cDNAの完全性および品質を、p53の30サイクルPCR(センスCGTGAGCGCTTCGAGATGTTCCG、アンチセンスCCTAACCAGCTGCCCAACTGTAG、ハイブリダイゼーション温度67℃)における増幅により、チェックした。
【0143】
一本鎖cDNAの記録を、多くの正常組織および腫瘍実体から作成した。発現研究のために、これらのcDNAの0.5μlを、30μlの反応混合物中で、GOI特異的性プライマー(以下を参照)および1UのHotStarTaq DNAポリメラーゼ(Qiagen)を用いて、増幅した。各々の反応混合物は、0.3mMのdNTP、0.3μMの各々のプライマーおよび3μlの10×反応緩衝液を含んでいた。
プライマーを、2つの異なるエクソン中に位置するように選択し、フォルスポジティブの結果の理由となる、ゲノムDNAのコンタミネーションによる干渉がないことを、鋳型として逆転写されていないDNAを試験することにより確認した。HotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化させるために95℃で15分後、35サイクルのPCRを実施した(94℃で1分、特定のハイブリダイゼーション温度で1分、72℃で2分および72℃で6分の最終的な伸長)。
この反応のうちの20μlを、分画し、臭化エチジウムで染色したアガロースゲル上で分析した。
【0144】
以下のプライマーを、対応する抗原の発現分析のために、示したハイブリダイゼーション温度で用いた。
【表1】
【0145】
ランダムヘキサマープライマーを用いたcDNAの調製および定量的リアルタイムPCR
LDHC発現を、リアルタイムPCRにより定量した。
【0146】
ABI PRISM Sequence Detection System (PE Biosystems, USA)を用いた定量的リアルタイムPCRの原理は、蛍光レポーター染料の放出による、PCR産物の直接的および特定的な検出のためのTaq DNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を用いる。センスおよびアンチセンスプライマーに加えて、PCRは、二重に蛍光的に標識したプローブ(TaqManプローブ)を用い、これは、PCR産物の配列にハイブリダイズする。プローブを、5’をレポーター色素(例えばFAM)で、および3’をクエンチャー色素(例えばTAMRA)で標識する。プローブが不変である場合には、レポーターのクエンチャーに対する空間的近接性により、レポーター蛍光の放出が抑制される。プローブがPCR産物に、PCRの間にハイブリダイズする場合には、前述のプローブは、Taq DNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性により切断され、レポーター蛍光の抑制が除去される。目的の増幅の結果としてのレポーター蛍光の増大を、各々のPCRサイクルの後に測定し、定量のために用いる。
【0147】
目的遺伝子の発現を、絶対的に、または研究されるべき組織における定常的な発現を有するコントロール遺伝子の発現に対して定量する。LDHC発現は、試料を「ハウスキーピング」遺伝子としての18s RNAに対して標準化した後に、ΔΔ−C
t方法(PE Biosystems, USA)により計算した。反応を、二重鎖混合物において実施し、デュプリケートで決定した。cDNAを、製造者の情報に従い、High Capacity cDNA Archive Kit (PE Biosystems, USA)をおよびヘキサマープライマー用いて合成した。各々の場合において、5μlの希釈されたcDNAを、PCRに、25μlの合計容積中で用いた:センスプライマー(GGTGTCACTTCTGTGCCTTCCT)300nM;アンチセンスプライマー(CGGCACCAGTTCCAACAATAG)300nM;TaqManプローブ(CAAAGGTTCTCCAAATGT)250nM;センスプライマー18s RNA 50nM;アンチセンスプライマー18s RNA 50nM;18s RNA試料250nM;12.5μlTaqMan Universal PCR Master Mix;最初の変性95℃(10分);95℃(15秒);60℃(1分);40サイクル。エクソン1およびエクソン2の境界を越えての、128bp産物の増幅のために、記載したすべてのLDHCスプライスバリアントが、定量に含まれた。
【0148】
クローン化および配列分析
全長遺伝子および遺伝子フラグメントを、一般的な方法によりクローン化した。配列を、対応する抗原をpfuプルーフリーディング(proof-reading)ポリメラーゼ(Stratagene)により増幅させることにより、決定した。PCRの完了の後に、アデノシンを、HotStarTaq DNAポリメラーゼにより、単位複製配列の末端につないで、フラグメントをTOPO−TAベクター中に、製造者の情報に従ってクローン化した。市販のサービスにより、配列決定を実施した。配列を、一般的な予測プログラムおよびアルゴリズムにより分析した。
【0149】
例1:LDH Cの新たな腫瘍抗原としての同定
LDH C(配列番号:1)およびこの翻訳産物(配列番号:6)は、乳酸脱水素酵素ファミリーの精巣特異的イソ酵素として記載されていた。配列は、GenBankにおいて、アクセッション番号NM_017448の下に公開されていた。酵素は、140kDaの分子量を有するホモテトラマーを形成する(Goldberg, E. et al., Contraception 64(2):93-8, 2001; Cooker et al., Biol. Reprod. 48(6):1309-19, 1993; Gupta, G.S., Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol. 34(6):361-85, 1999)。
【0150】
関連した、および遍在的に発現されたイソ酵素LDH AおよびLDH Bをクロス増幅せず、上記に精巣特異的であると記載した、LDH C原型配列NM_017448に基づく、プライマー対(5’−TGCCGTAGGCATGGCTTGTGC−3’、5’−CAACATCTGAGACACCATTCC−3’)を用いた発現分析についてのRT−PCR研究により、本発明において、試験したすべての正常な組織の発現が欠如していることが確認され、体細胞におけるこの抗原の厳密な転写抑制が、腫瘍の場合において除去されていることが示された;表1を参照。CT遺伝子について古典的に記載されているように、LDH Cは、多くの腫瘍実体において発現している。
【0151】
【表2】
【0152】
増幅産物の予測された大きさは、前述のPCRプライマーを用いて、824bpである。しかし、本発明において、多数の追加のバンドの増幅が、腫瘍において観察されたが、精巣においては観察されなかった。このことが、オルタナティブスプライスバリアントの存在を示すため、完全なオープンリーディングフレームを、LDH−C特異的プライマー(5’−TAGCGCCTCAACTGTCGTTGG−3’、5’−CAACATCTGAGACACCATTCC−3’)を用いて増幅し、独立した全長クローンを、配列決定した。記載したLDH C配列の原型ORF(配列番号:1)および染色体11上のゲノム配列とのアライメントにより、追加のスプライスバリアントが確認される(配列番号:2〜5)。オルタナティブスプライシングにより、エクソン3(配列番号:2)、2つのエクソン3および4(配列番号:3)、エクソン3、6および7(配列番号:4)またはエクソン7(配列番号:5)の欠如がもたらされる(
図2を参照)。
【0153】
これらの新たなスプライスバリアントは、専ら、腫瘍中で発生するが、精巣においては発生しない。オルタナティブスプライシングにより、リーディングフレームにおける変化が生じ、配列番号:7〜13に示すアミノ酸配列をコードする新たな可能なORFがもたらされる(配列番号:7についてのORF:配列番号:2およびそれぞれ配列番号:4のヌクレオチド位置59〜214;配列番号:8についてのORF:配列番号:2のヌクレオチド位置289〜939;配列番号:9についてのORF:配列番号:3のヌクレオチド位置59〜196;配列番号:10についてのORF:配列番号:3のヌクレオチド位置535〜765;配列番号:11についてのORF:配列番号:4のヌクレオチド位置289〜618;配列番号:12についてのORF:配列番号:4のヌクレオチド位置497〜697;配列番号:13についてのORF:配列番号:5のヌクレオチド位置59〜784)(
図2、3)。中途での終了に加えて、また、代替の開始コドンを用いることも起こり得るため、コードされたタンパク質は、N末端およびC末端の両方においてトランケートされうる。
【0154】
配列番号:8および配列番号:10が、原型タンパク質のトランケートされた部分を表す一方、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:11、配列番号:12および配列番号:13のタンパク質配列は、さらに変化し、これは、腫瘍特異的エピトープのみを含む(
図3において太字で記載した)。腫瘍特異的エピトープをもたらすことができるペプチド領域は、以下の通りである(フレームシフトにより得られた厳密な腫瘍特異的の部分に、下線を付す):
【表3】
【0155】
これらの領域は、潜在的に、Tリンパ球によりMHC IまたはMHC II分子上で認識することができ、厳密に腫瘍特異的な応答をもたらすエピトープを含むことができる。
【0156】
予測されたタンパク質のすべてが、嫌気性解糖の最後の段階を表す、ピルビン酸塩の乳酸塩へのNADH依存性代謝のための触媒乳酸脱水素酵素ドメインを有するとは限らない。このドメインは、乳酸脱水素酵素としての酵素的機能に必要である(
図3において枠で囲んだ)。例えばTMpredおよびpSORT (Nakai & Kanehisa, 1992)などのアルゴリズムを用いた、他の分析により、推定されたタンパク質についての種々の細胞内局在が予測される。
【0157】
本発明において、発現のレベルを、リアルタイムPCRにより、特定のプライマー−試料セットを用いて定量した。単位複製配列が、エクソン1とエクソン2との間の接合部に存在し、従ってすべてのバリアント(配列番号:1〜5)を検出する。これらの研究はまた、精巣を除く正常な組織における転写物を検出しない。これらは、腫瘍における発現の顕著なレベルを確認する(
図4)。
【0158】
LDHC特異的ポリクローナル抗体を、本発明において、極めてN末端の領域MSTVKEQLIEKLIEDDENSQ(配列番号:80)からペプチドを選択することにより、産生した。LDHC特異的抗体を、ウサギにおいて、このペプチドを用いて産生した。タンパク質発現に対するその後の研究により、精巣および種々の腫瘍における選択的LDHC発現が確認された。さらに、本発明による免疫組織学的研究により、ミトコンドリア中でLDHCのチトクロームCオキシダーゼとの明確な共局在が明らかになった。これは、LDHCが、腫瘍の呼吸鎖における重要な役割を奏することを示す。
【0159】
例2:TPTEの新たな腫瘍抗原としての同定
TPTE転写物(配列番号:19)およびこの翻訳産物(配列番号:22)の配列は、GenBankにおいて、アクセッション番号NM_013315の下に公開されている(Walker, S.M. et al., Biochem. J. 360(Pt 2):277-83, 2001; Guipponi M. et al., Hum. Genet. 107(2):127-31, 2000; Chen H. et al., Hum. Genet. 105(5):399-409, 1999)。TPTEは、可能な膜貫通チロシンホスファターゼをコードする遺伝子として記載され、精巣特異的発現は、染色体21、13、15、22およびYの動原体周囲領域中に位置する(Chen, H. et al., Hum. Genet. 105:399-409, 1999)。さらに、本発明のアライメント研究により、染色体3および7上の相同性ゲノム配列が明らかである。
【0160】
本発明において、PCRプライマー(5’−TGGATGTCACTCTCATCCTTG−3’および5’−CCATAGTTCCTGTTCTATCTG−3’)を、TPTE(配列番号:19)の配列に基づいて作製し、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、TPTEバリアントは、本発明において、多くの腫瘍組織において異所的に活性化されることが示された;表2を参照。本発明において、他のTPTEスプライスバリアントを同定し(配列番号:20、配列番号:21、配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57)、これは、精巣組織および腫瘍において発現され、これは、フレームシフトおよを有し従って変化した配列領域を有する(
図5)。
【0161】
【表4】
【0162】
TPTEゲノム配列は、24のエクソンからなる(アクセッション番号NT_029430)。配列番号:19中に示した転写物は、これらのエクソンをすべて含む。配列番号:20中に示したスプライスバリアントを、エクソン7をスプライシングすることにより産生される。配列番号:21中に示したスプライスバリアントは、エクソン15の下流のイントロンの部分的導入を示す。バリアント配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57が示すように、あるいはまた、エクソン18、19、20および21をスプライスすることも可能である。
【0163】
これらのオルタナティブスプライシングにより、コードされたタンパク質の変化がもたらされ、リーディングフレームは、原則として維持される(
図6)。例えば、配列番号:20中に示した配列によりコードされた翻訳産物(配列番号:23)は、配列番号:22中に示した配列と比較して、13個のアミノ酸の欠失を有する。配列番号:21中に示した配列によりコードされた翻訳産物(配列番号:24)は、分子の中心領域に付加的な挿入を有しており、これにより、他のバリアントと14個のアミノ酸が異なる。
【0164】
バリアント配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57の翻訳産物、即ちタンパク質配列番号:58、配列番号:59、配列番号:60、配列番号:61は、同様に変化する。
機能的ドメインを予測するための分析により、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:58、配列番号:60についてチロシンホスファターゼドメインが存在するが、配列番号:59、配列番号:61については存在しないことが明らかである。すべてのバリアントについて、3〜4個の膜貫通ドメインが予測される(
図6)。
【0165】
特定の抗体を用いた、TPTE抗原発現の分析により、精巣および多くの異なる腫瘍における選択的発現が確認された。さらに、共局在研究により、本発明において、TPTEが、クラスI免疫グロブリンと共に、腫瘍細胞の細胞表面上に位置することが明らかになった。以前は、TPTEは、ゴルジ関連タンパク質として記載されているに過ぎなかった。腫瘍細胞の細胞表面上でのTPTE発現のために、この腫瘍抗原は、本発明において、診断および治療モノクローナル抗体を開発するための顕著な標的として、適する。TPTEの予測された膜トポロジーのために、細胞外に露出した領域は、本発明のこの目的のために特に適する。本発明において、これは、ペプチドFTDSKLYIPLEYRS(配列番号:81)およびFDIKLLRNIPRWT(配列番号:82)を含む。
【0166】
さらに、TPTEは、腫瘍細胞の移動を促進することが示された。このために、真核プロモーターの制御下で、TPTEをトランスフェクトされた腫瘍細胞およびコントロールの細胞を、「ボイデンチャンバー(Boyden chamber)」移動実験において、これらが直接的な移動を示すか否かについて研究した。ここで、TPTEがトランスフェクトされた細胞は、本発明によれば、4回の独立した実験において移動が顕著に(3倍)増大していた。これらの機能的データは、TPTEが、腫瘍の転移における重要な役割を奏することを示す。従って、例えばアンチセンスRNA、発現ベクターまたはレトロウイルスによるRNA干渉(RNAi)の種々の方法を用いることによる、および小さい分子を用いることによる、本発明において腫瘍細胞の内在性TPTE活性を阻害するプロセスにより、減少した転移がもたらされ得、および従って治療的に極めて重要であり得る。腫瘍におけるホスファターゼの活性と、増大した移動および転移の増大した形成との間の偶然の関係が、最近、PTENチロシンホスファターゼについて確立された(Iijima and Devreotes Cell 109:599-610, 2002)。
【0167】
例3:TSBPの新たな腫瘍抗原としての同定
本発明において用いる電子的クローン化方法により、TSBP(配列番号:29)およびこれから由来するタンパク質(配列番号:30)が得られた。遺伝子は、以前に、精巣特異的に調節されると記載されている(アクセッション番号NM_006781)。遺伝子は、塩基性タンパク質をコードし、MHC複合体(C6orf10)をコードする配列に近い染色体6上に位置すると予測された(Stammers M. et al., Immunogenetics 51(4-5):373-82, 2000)。本発明において、以前に記載された配列は、不正確であることが示された。本発明の配列は、実質的に、既知の配列とは異なる。本発明において、3種の異なるスプライシングバリアントを、クローン化した。本発明において見出されたTSBPバリアントのヌクレオチド配列(配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33)の、既知の配列(NM_006781、配列番号:29)に対する差異を、
図7に示す(差異を、太字で示す)。これらは、フレームシフトをもたらし、従って、本発明において見出されたTSBPバリアントによりコードされたタンパク質(配列番号:34、配列番号:35、配列番号:36)は、以前に記載されたタンパク質(配列番号:30)とは実質的に異なる(
図8)。
【0168】
本発明において、この抗原は、正常組織において厳密に転写的に抑制されていることが確認された(PCRプライマー5’−TCTAGCACTGTCTCGATCAAG−3’および5’−TGTCCTCTTGGTACATCTGAC−3’)。しかし、研究した25の正常組織において、TSBPは、精巣に加えて、正常なリンパ節組織においても発現していた。本発明において、TSBPの腫瘍における異所性の活性化もまた、検出され、従って、これは、腫瘍マーカーまたは腫瘍関連抗原として適格である(表3)。
【0169】
TSBP発現が、初代腫瘍組織において見出されたが、これは、対応する腫瘍実体の永久的な細胞株においては見出されない。さらに、遺伝子は、ノッチ4の直接的な近隣にあり、これは、動脈において特異的に発現され、血管の形態形成に関与する。これらは、これが、特異的な内皮細胞についてのマーカーであることを顕著に示す。従って、TSBPは、腫瘍内皮および新生血管の標的化についての潜在的なマーカーとして作用し得る。
【0170】
従って、TSBPプロモーターを、リンパ節における選択的発現が望ましい他の遺伝子産物にクローン化することができる。
特異的な抗体を用いた、TSBP抗原発現の分析により、精巣およびリンパ節における、並びにまた黒色腫および気管支癌腫におけるタンパク質の選択的局在が確認された。さらに、GFPタグ付TSBPを用いた免疫組織学的研究により、明確な核周囲(perinucleic)蓄積が明らかになった。
【0171】
【表5】
【0172】
例4:MS4A12の新たな腫瘍抗原としての同定
MS4A12(配列番号:37、アクセッション番号NM_017716)およびこの翻訳産物(配列番号:38)は、以前に、B細胞特異的抗原CD20、造血細胞特異的タンパク質HTm4および高親和性IgEレセプターのβ鎖に関する多遺伝子ファミリーの要素として記載されている。すべてのファミリーの要素は、少なくとも4つの潜在的膜貫通ドメインにより特徴づけされており、C末端およびN末端の両方は、細胞質性である(Liang Y. et al., Immunogenetics 53(5):357-68, 2001; Liang Y. & Tedder, Genomics 72(2):119-27, 2001)。本発明において、MS4A12に対するRT−PCR研究を、実施した。プライマーを、公開されたMS4A12配列(NM_017716)(センス:CTGTGTCAGCATCCAAGGAGC、アンチセンス:TTCACCTTTGCCAGCATGTAG)に基づいて選択した。試験した組織において、発現を、精巣、大腸(6/8)および結腸直腸癌腫(大腸癌腫)(16/20)において、並びに大腸転移(12/15)においてのみ検出した(
図9)。
【0173】
大腸転移の高い発生率により、TSBPが、魅力的な診断および治療標的になる。本発明において、タンパク質配列GVAGQDYWAVLSGKG(配列番号:83)を含む予測された細胞外領域は、モノクローナル抗体および小さい化学的阻害剤を産生するのに特に適する。また、本発明において、細胞膜上のMS4A12タンパク質の細胞内局在が、共焦点免疫蛍光における原形質膜マーカーを用いて、蛍光の重ね合わせにより確認された。
【0174】
【表6】
【0175】
従って、MS4A12は、正常な大腸上皮のための細胞膜に位置する示差抗原であり、これはまた、結腸直腸腫瘍および転移において発現される。
【0176】
例5:BRCO1の新たな腫瘍抗原としての同定
BRCO1およびこの翻訳産物は、以前には記載されていない。本発明のデータマイニング方法により、EST(expressed sequence tag)(発現配列タグ)AI668620が得られた。特異的なプライマー(センス:CTTGCTCTGAGTCATCAGATG、アンチセンス:CACAGAATATGAGCCATACAG)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために実施した。本発明において、特異的な発現が、精巣組織およびさらに正常な乳腺において見出された(表5)。すべての他の組織において、この抗原は、転写的に抑制されている。これは、同様に、乳腺腫瘍において検出される(20/20)。BRCO1は、正常な乳腺組織における発現と比較して、乳房腫瘍において明確に過剰発現される(
図10)。
【0177】
ESTコンティグ(contig)(以下のESTが含まれた:AW137203、BF327792、BF327797、BE069044、BF330665)を用いて、1500bpを超えるこの転写物を、本発明において、電子的全長クローン化(配列番号:39)によりクローン化した。配列は、染色体10p11−12に位置づけられる。同一の領域において、すぐ近接して、乳房示差抗原についての遺伝子であるNY−BR−1が、以前に記載されている(NM_052997; Jager, D. et al., Cancer Res. 61(5):2055-61, 2001)。
【0178】
【表7】
【0179】
整合した対(乳房癌腫および隣接する正常な組織)の研究により、正常な組織と比較して70%の乳房癌腫におけるBRCO1過剰発現が、明らかになった。
従って、BRCO1は、正常な乳腺上皮についての新たな示差抗原であり、これは、乳房腫瘍において過剰発現される。
【0180】
例6:TPX1の新たな腫瘍抗原としての同定
TPX1の配列(アクセッション番号NM_003296;配列番号:40)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:41)は、知られている。抗原は、以前に精巣特異性であるとして、即ち外側繊維および精子の先体の要素としてのみ記載されている。以前に、精子のセルトリ細胞への付着における接着分子としての関与が、前述の抗原に帰した(O'Bryan, M.K. et al., Mol. Reprod. Dev. 58(1):116-25, 2001; Maeda, T. et al., Dev. Growth Differ. 41(6):715-22, 1999)。本発明により、初めて、固体腫瘍におけるTPX1の異常な発現が明らかである(表6)。TPX1と好中球特異性マトリックス糖タンパク質SGP28との間の顕著なアミノ酸相同性のために(Kjeldsen et al., FEBS Lett 380:246-259, 1996)、ペプチドSREVTTNAQR(配列番号:84)を含むTPX1特異的タンパク質配列は、本発明において、診断および治療分子を製造するのに適する。
【0181】
【表8】
【0182】
例7:BRCO2の新たな腫瘍遺伝子産物としての同定
BRCO2およびこの翻訳産物は、以前は記載されていなかった。本発明の方法により、EST(expressed sequence tag)(発現配列タグ)BE069341、BF330573およびAA601511が得られた。特定のプライマー(センス:AGACATGGCTCAGATGTGCAG、アンチセンス:GGAAATTAGCAAGGCTCTCGC)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために実施した。本発明において、特異的な発現は、精巣組織において、およびさらに正常な乳腺において見出された(表7)。すべての他の組織において、この遺伝子産物は、転写的に抑制されている。これは、乳腺腫瘍において、同様に検出される。ESTコンティグ(contig)(以下のESTが含まれた:BF330573、AL044891およびAA601511)を用いて、1300bpのこの転写物を、本発明において、電子的全長クローン化(配列番号62)によりクローン化した。配列は、染色体10p11−12に位置づけられる。同一の領域において、すぐ近接して、乳房示差遺伝子産物についての遺伝子であるNY−BR−1が、以前に記載され(NM_052997; Jager, D. et al., Cancer Res. 61(5):2055-61, 2001)、ここでは、例6の下の上記のBRCO1を、位置させる。さらなる遺伝子的分析により、本発明において、配列番号:62の下に列挙された配列が、NY−BR−1遺伝子の3’非翻訳領域を表すことが明らかになり、これは、以前には記載されていなかった。
【0183】
【表9】
【0184】
BRCO2は、正常な乳腺上皮についての新たな示差遺伝子産物であり、これはまた、乳房腫瘍において発現される。
【0185】
例8:PCSCの新たな腫瘍遺伝子産物としての同定
PCSC(配列番号:63)およびこの翻訳産物は、以前には記載されていなかった。本発明のデータマイニング方法により、EST(expressed sequence tag(発現配列タグ))BF064073が得られた。特定のプライマー(センス:TCAGGTATTCCCTGCTCTTAC、アンチセンス:TGGGCAATTCTCTCAGGCTTG)を用いたRT−PCR研究を、発現分析のために実施した。本発明において、特異的な発現は、正常な大腸およびさらに大腸癌腫において見出された(表5)。すべての他の組織において、この遺伝子産物は、転写的に抑制されている。PCSCは、2種の推定上のORF(配列番号64および配列番号65)をコードする。配列番号64の配列分析により、CXCサイトカインに対する構造的相同性が明らかになった。さらに、4種のオルタナティブPCSC cDNAフラグメントを、クローン化した(配列番号:85〜88)。各々の場合において、本発明において、各々のcDNAは、配列番号:89〜100に示すポリペプチドをコードする3種の推定上のORFを含む。
【0186】
【表10】
【0187】
従って、PCSCは、また結腸直腸腫瘍および研究したすべての大腸転移において発現される、正常な大腸上皮についての示差抗原である。本発明によりすべての結腸直腸転移において検出されたPCSC発現により、この腫瘍抗原は、転移する大腸腫瘍の予防および処置のための、極めて興味深い目的となる。
【0188】
例9:SGY−1の新たな腫瘍抗原としての同定
SGY−1転写物の配列(配列番号:70)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:71)は、GenBankにおいて、アクセッション番号AF177398の下で公開されている(Krupnik et al., Gene 238, 301-313, 1999)。Soggy-1は、Wntファミリーのタンパク質の阻害剤およびアンタゴニストとして作用する、Dickkopfタンパク質ファミリーの要素として、以前に記載されている。次に、Wntタンパク質は、胚発生において重要な機能を有する。SGY−1の配列(配列番号:70)に基づいて、PCRプライマー(5’−CTCCTATCCATGATGCTGACG−3’および5’−CCTGAGGATGTACAGTAAGTG−3’)を、本発明において作製し、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、SGY−1は、本発明において、多くの腫瘍組織において、異所的に活性化されていることが示された;表9を参照。
【0189】
【表11】
【0190】
例10:MORCの新たな腫瘍抗原としての同定
MORC転写物の配列(配列番号:74)およびこの翻訳産物の配列(配列番号:75)は、GenBankにおいて、アクセッション番号XM_037008の下で公開された(Inoue et al., Hum Mol Genet. Jul:8(7):1201-7, 1999)。
MORCは、最初は、精子形成に関与すると記載されていた。マウス系におけるこのタンパク質の変異の結果、生殖腺の発育不全(underdevelopment)がもたらされる。
MORCの配列(配列番号:74)に基づいて、PCRプライマー(5’−CTGAGTATCAGCTACCATCAG−3’および5’−TCTGTAGTCCTTCACATATCG−3’)を、本発明により作製し、これを、多くのヒト組織において、RT−PCR分析(95℃、15分;94℃、1分;63℃、1分;72℃、1分;35サイクル)のために用いた。正常な組織における発現は、精巣に限定されることが示された。他のeCTについて記載したように、MORCは、本発明において、多くの腫瘍組織において、異所的に活性化されていることが示された:表10を参照。
【0191】
【表12】