特許第5756075号(P5756075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムラ製作所の特許一覧 ▶ 株式会社光波の特許一覧

<>
  • 特許5756075-β−Ga2O3系単結晶の育成方法 図000002
  • 特許5756075-β−Ga2O3系単結晶の育成方法 図000003
  • 特許5756075-β−Ga2O3系単結晶の育成方法 図000004
  • 特許5756075-β−Ga2O3系単結晶の育成方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756075
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】β−Ga2O3系単結晶の育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20150709BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20150709BHJP
   C30B 15/36 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   C30B29/16
   C30B15/34
   C30B15/36
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-245357(P2012-245357)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-94839(P2014-94839A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年12月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000153236
【氏名又は名称】株式会社光波
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信也
(72)【発明者】
【氏名】脇本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
(72)【発明者】
【氏名】輿 公祥
(72)【発明者】
【氏名】増井 建和
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−056098(JP,A)
【文献】 特開2012−020923(JP,A)
【文献】 特開2004−262684(JP,A)
【文献】 特開2006−312571(JP,A)
【文献】 特開2001−181091(JP,A)
【文献】 特開昭53−100177(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172227(WO,A1)
【文献】 島村清史,他,白色LED用基板としての透明導電性β‐Ga2O3単結晶,セラミックス,2012年 3月 1日,Vol.47 No.3,P.156-160
【文献】 Hideo AIDA, et al.,Growth of β-Ga2O3 Single Crystals by the Edge-Defined, Film Fed Growth Method,Japanese Journal of Applied Physics,2008年,Vol.47, No.11,P.8506-8509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
CA(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EFG法を用いたβ−Ga系単結晶の育成方法であって、
全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下であるβ−Ga系単結晶からなる板状の種結晶をGa系融液に接触させる工程と、
前記種結晶を引き上げ、β−Ga系単結晶を成長させる工程と、
を含む、β−Ga系単結晶の育成方法。
【請求項2】
前記種結晶をb軸方向に引き上げ、幅方向の肩広げを行わずに前記β−Ga系単結晶を成長させる、
請求項1に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【請求項3】
前記β−Ga系単結晶は、(101)面又は(−201)面を主面とする板状の単結晶である、
請求項1又は2に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【請求項4】
前記種結晶の幅は、ルツボ内の前記Ga系融液を前記種結晶に接触させる位置まで上昇させるダイのスリットの開口部の長手方向の幅以上である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−Ga系単結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EFG法によりGa単結晶を成長させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された方法によれば、Ga単結晶を種結晶との接触部分から下方向に徐々に幅を広げながら、すなわち肩を広げながら成長させることにより、種結晶よりも幅の大きな板状の結晶を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−312571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法には、肩を広げる工程においてGa単結晶が双晶化し易いという問題がある。また、肩を広げる工程を省くために幅の広い板状の種結晶を用いる場合、成長させるGa結晶の一部の多結晶化や、結晶品質の低下が発生するおそれが強い。
【0005】
したがって、本発明の目的は、結晶品質の高い板状のβ−Ga系単結晶を得ることができるβ−Ga系単結晶の育成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、[1]〜[4]のβ−Ga系単結晶の育成方法を提供する。
【0007】
[1]EFG法を用いたβ−Ga系単結晶の育成方法であって、全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下であるβ−Ga系単結晶からなる板状の種結晶をGa系融液に接触させる工程と、前記種結晶を引き上げ、β−Ga系単結晶を成長させる工程と、を含む、β−Ga系単結晶の育成方法。
【0008】
[2]前記種結晶をb軸方向に引き上げ、幅方向の肩広げを行わずに前記β−Ga系単結晶を成長させる、前記[1]に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【0009】
[3]前記β−Ga系単結晶は、(101)面又は(−201)面を主面とする板状の単結晶である、前記[1]又は[2]に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【0010】
[4]前記種結晶の幅は、ルツボ内の前記Ga系融液を前記種結晶に接触させる位置まで上昇させるダイのスリットの開口部の長手方向の幅以上である、前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のβ−Ga系単結晶の育成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶品質の高い板状のβ−Ga系単結晶を得ることができるβ−Ga系単結晶の育成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係るEFG結晶製造装置の一部の垂直断面図である。
図2図2は、β−Ga系単結晶の成長中の様子を表す斜視図である。
図3図3は、種結晶の欠陥密度とβ−Ga系単結晶の多結晶化歩留の関係を示すグラフである。
図4図4は、種結晶の欠陥密度とβ−Ga系単結晶の欠陥密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施の形態〕
図1は、本実施の形態に係るEFG結晶製造装置の一部の垂直断面図である。このEFG結晶製造装置10は、Ga系融液12を受容するルツボ13と、このルツボ13内に設置されたスリット14Aを有するダイ14と、スリット14Aの開口部14Bを除くルツボ13の上面を閉塞する蓋15と、β−Ga系種結晶(以下、「種結晶」という)20を保持する種結晶保持具21と、種結晶保持具21を昇降可能に支持するシャフト22とを有する。
【0014】
ルツボ13は、β−Ga系粉末を溶解させて得られたGa系融液12を収容する。ルツボ13は、Ga系融液12を収容しうる耐熱性を有するイリジウム等の金属材料からなる。
【0015】
ダイ14は、Ga系融液12を毛細管現象により上昇させるためのスリット14Aを有する。
【0016】
蓋15は、ルツボ13から高温のGa系融液12が蒸発することを防止し、さらにスリット14Aの上面以外の部分にGa系融液12の蒸気が付着することを防ぐ。
【0017】
種結晶20を下降させて、ダイ14のスリット14A内を毛細管現象により開口部14Bまで上昇したGa系融液12に接触させ、Ga系融液12と接触した種結晶20を引き上げることにより、平板状のβ−Ga系単結晶25を成長させる。β−Ga系単結晶25の結晶方位は種結晶20の結晶方位と等しく、β−Ga系単結晶25の結晶方位を制御するためには、例えば、種結晶20の底面の面方位及び水平面内の角度を調整する。
【0018】
図2は、β−Ga系単結晶の成長中の様子を表す斜視図である。図2中の面26は、スリット14Aのスリット方向と平行なβ−Ga系単結晶25の主面である。成長させたβ−Ga系単結晶25を切り出してβ−Ga系基板を形成する場合は、β−Ga系基板の所望の主面の面方位にβ−Ga系単結晶25の面26の面方位を一致させる。例えば、(101)面を主面とするβ−Ga系基板を形成する場合は、面26の面方位を(101)とする。
【0019】
β−Ga系単結晶25及び種結晶20は、β−Ga単結晶、又は、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、Ge、Sn等の元素が添加されたβ−Ga単結晶である。β−Ga結晶は単斜晶系に属するβ-ガリア構造を有し、その典型的な格子定数はa=12.23Å、b=3.04Å、c=5.80Å、α=γ=90°、β=103.8°である。
【0020】
種結晶20を構成するβ−Ga系単結晶の全ての領域の欠陥密度は、5×10/cm以下である。この条件を満たすことにより、種結晶20が幅の広い板状の結晶である場合も、成長させるGa結晶の一部の多結晶化や、結晶品質の低下を抑制することができる。
【0021】
種結晶20は、例えば、育成した複数のβ−Ga系単結晶に対して欠陥密度の評価を行い、全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下である単結晶を選出することにより得られる。この欠陥密度の評価の方法の一例を以下に示す。
【0022】
まず、β−Ga系単結晶の一部を育成方向に対して垂直に切断し、薄板状の単結晶を切り出す。次に、薄板状の単結晶の育成方向に垂直な面を鏡面研磨し、熱リン酸等でケミカルエッチングする。このとき、欠陥部分においてはエッチング速度が大きくなるため、窪み(エッチピット)が生じる。このエッチピットの単位面積当たりの数を数えることにより、欠陥密度を調べる。なお、欠陥はβ−Ga系単結晶の育成方向に伝播するため、1枚の薄板状の単結晶の欠陥密度を調べることにより、β−Ga系単結晶の全体の欠陥密度を調べることができる。
【0023】
また、幅の広い板状の種結晶20を用いることにより、図2に示されるように、肩広げを行うことなく幅の広い板状のβ−Ga系単結晶25を得ることができる。このため、単結晶の肩広げに伴う問題、例えば幅方向wの肩広げの際の結晶の双晶化等を回避することができる。
【0024】
具体的には、板状のβ−Ga系単結晶25をb軸方向に引き上げて育成する場合、幅方向wの肩広げを行うことにより、β−Ga系単結晶25が双晶化するおそれがある。本実施の形態によれば、幅方向wの肩広げを行なわず、双晶化させることなく、例えば、(101)面又は(−201)面を主面とする板状のβ−Ga系単結晶25をb軸方向に引き上げて育成することができる。
【0025】
また、肩広げを行わずに幅の広い板状のβ−Ga系単結晶25を育成するためには、種結晶20の幅が、ダイ14のスリット14Aの開口部14Bの長手方向の幅以上であることが好ましい。
【0026】
図3は、種結晶の欠陥密度とβ−Ga系単結晶の多結晶化歩留の関係を示すグラフである。図3の横軸は種結晶20の欠陥密度の最大値(最も欠陥が多い領域における欠陥密度)(/cm)、縦軸は種結晶20を用いて育成されたβ−Ga系単結晶25の多結晶化歩留(%)を表す。ここで、多結晶化歩留は、多結晶化したものを不良と判断するときの歩留まりを意味する。
【0027】
図3は、種結晶20の欠陥密度の最大値が5.0×10/cm−2以下であるときに、多結晶化歩留が80%以上となることを示している。一般的に、酸化物単結晶の歩留まりの基準として80%が用いられることが多い。このため、β−Ga系単結晶25の多結晶化を抑えるために、種結晶20の欠陥密度の最大値が5.0×10/cm−2以下、すなわち全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下であることが好ましい。
【0028】
図4は、種結晶の欠陥密度とβ−Ga系単結晶の欠陥密度の関係を示すグラフである。図4の横軸は種結晶20の欠陥密度の最大値(/cm)、縦軸は種結晶20を用いて育成されたβ−Ga系単結晶25の欠陥密度の最大値(/cm)を表す。
【0029】
図4は、種結晶20の欠陥密度の最大値が大きくなるほど、β−Ga系単結晶25の欠陥密度の最大値が大きくなり、特に、種結晶20の欠陥密度の最大値が3.0×10/cm−2以上であるときに、種結晶20の欠陥密度の最大値が大きくなるほど、種結晶20の欠陥密度の最大値とβ−Ga系単結晶25の欠陥密度の最大値の差が大きくなることを示している。図4によれば、種結晶20の欠陥密度の最大値が5.0×10/cm−2以下であるときに、β−Ga系単結晶25の欠陥密度の最大値が1.0×10/cm−2以下となる。
【0030】
一般的に、β−Ga系単結晶をLED用基板として用いる場合に、欠陥密度が1.0×10/cm−2以下であることが結晶品質の指標とされることが多い。このため、LED用に高品質のβ−Ga系単結晶25を育成するためには、種結晶20の欠陥密度の最大値が5.0×10/cm−2以下、すなわち全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下であることが好ましい。
【0031】
なお、図3、4に係る種結晶20及びβ−Ga系単結晶25は、(101)又は(−201)面を主面とする板状のβ−Ga単結晶であり、β−Ga系単結晶25は、種結晶20をb軸方向に引き上げることにより、b軸方向に育成されたものである。ただし、単結晶25をb軸方向に引き上げてβ−Ga系単結晶25をb軸方向に育成するのであれば、種結晶20及びβ−Ga系単結晶25の主面の面方位は限定されず、どのような面方位であっても、面方位が(101)又は(−201)である場合と同様の特性を有する。
【0032】
以下に、本実施の形態のβ−Ga系単結晶25の育成条件の一例について述べる。
【0033】
例えば、β−Ga系単結晶25の育成は、窒素雰囲気又は窒素と酸素の混合雰囲気下で行われる。
【0034】
図2に示されるように、幅の広い板状の種結晶20を用いる場合、種結晶20が通常の結晶育成に用いられる種結晶よりも大きいため、熱衝撃に弱い。そのため、Ga系融液12に接触させるまでの種結晶20の降下速度は、ある程度低いことが好ましく、例えば、5mm/min以上である。
【0035】
種結晶20をGa系融液12に接触させた後の引き上げるまでの待機時間は、温度をより安定させて熱衝撃を防ぐために、ある程度長いことが好ましく、例えば、1min以上である。
【0036】
ルツボ13中の原料を溶かすときの昇温速度は、ルツボ13周辺の温度が急上昇して種結晶20に熱衝撃が加わることを防ぐために、ある程度低いことが好ましく、例えば、5時間以上掛けて原料を溶かす。
【0037】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、全ての領域の欠陥密度が5×10/cm以下である板状の種結晶20を用いることにより、多結晶化が抑えられた、高い結晶品質を有する板状のβ−Ga系単結晶25を育成することができる。
【0038】
また、種結晶20が幅の広い板状の結晶である場合も、多結晶化が抑えられた、高い結晶品質を有するβ−Ga系単結晶25を育成することができる。このため、肩広げを行わずとも、幅の広い板状のβ−Ga系単結晶25を育成することができ、肩広げに伴うβ−Ga系単結晶25の双晶化等の問題を回避することができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0040】
10…EFG結晶製造装置、20…種結晶、25…β−Ga系単結晶
図1
図2
図3
図4