特許第5756145号(P5756145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5756145幹細胞及び胎児由来の心筋細胞及び予定心筋細胞の精製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756145
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】幹細胞及び胎児由来の心筋細胞及び予定心筋細胞の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20150709BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150709BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20150709BHJP
【FI】
   C12N5/00 202C
   C12N5/00 102
   !C12Q1/02
【請求項の数】14
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2013-95524(P2013-95524)
(22)【出願日】2013年4月30日
(62)【分割の表示】特願2007-556880(P2007-556880)の分割
【原出願日】2007年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-143968(P2013-143968A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2013年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2006-23770(P2006-23770)
(32)【優先日】2006年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】服部 文幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/088874(WO,A1)
【文献】 特表2004−535199(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/118784(WO,A1)
【文献】 J Mol Cell Cardiol, vol.32, pp.839-851 (2000)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹細胞(ES細胞)に類似した形質を有する幹細胞であって、ES細胞および成体幹細胞を除くもの由来の心筋細胞と非心筋細胞とを含む細胞混合物から、心筋細胞を選択する方法であって、前記細胞混合物を、
(i)糖類を含まない条件分化誘導時に用いた培養液中の糖類の条件と比較して糖類を1%未満まで低下させた条件、または糖類を0〜111.20μM含む条件である低糖条件;および
(ii)培養液中のカルシウム濃度が0.3〜1.3 mMの条件である低カルシウム条件、培養液に含有されるすべての栄養成分が、当該培養液中の栄養成分と比較して10%以下まで低下している条件である低栄養条件、乳酸添加条件、アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件、およびピルビン酸添加条件、からなる群から選択される1または複数の条件;
を有する培養液中で培養することを特徴とし、
前記ES細胞に類似した形質を有する幹細胞が、ES細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在、ES細胞特異的な遺伝子の発現、及びテラトーマ(teratoma)形成能を有する幹細胞である、心筋細胞を選択する方法。
【請求項2】
幹細胞が、胚性生殖細胞(EG細胞生殖幹細胞(GS細胞、及び誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)からなる群から選択される、請求項1に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項3】
更にコラゲナーゼを用いて心筋細胞に付着する死細胞を除去することからなる、請求項1または2に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項4】
心筋細胞の比重と比較して、死細胞の比重が高比重であることを利用して、死細胞を除去する、請求項3に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項5】
培養液の(ii)の条件が乳酸添加条件である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項6】
培養液の(ii)の条件がアスパラギン酸・グルタミン酸添加条件である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項7】
培養液の(ii)の条件がピルビン酸添加条件である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項8】
心筋細胞と非心筋細胞とを含む細胞混合物を、前記胚性幹細胞(ES細胞)に類似した形質を有する幹細胞に対して分化誘導して、Nkx2.5陰性かつBrachyury陽性の細胞を含む胚様体を形成し、この胚様体を血清を含まない条件、またはNkx2.5陰性かつBrachyury陽性の細胞を得るまでの段階において培養液に添加した血清または血清成分の濃度を100%として算出した場合に血清または血清成分の濃度が0%〜10%の条件である低血清条件およびpH6.5〜7の範囲のpH条件の培養液中で培養することにより調製する、請求項1に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項9】
胚性幹細胞(ES細胞)に類似した形質を有する幹細胞であって、ES細胞および成体幹細胞を除くもの由来の心筋細胞を選択する方法であって、胚性幹細胞(ES細胞)に類似した形質を有する幹細胞に分化誘導してNkx2.5陰性かつBrachyury陽性の細胞を含む胚様体を形成した後、この胚様体を血清を含まない条件、またはNkx2.5陰性かつBrachyury陽性の細胞を得るまでの段階において培養液に添加した血清または血清成分の濃度を100%として算出した場合に血清または血清成分の濃度が0%〜10%の条件である低血清条件およびpH6.5〜7の範囲のpH条件の培養液中で培養することにより予定心筋細胞を含む細胞混合物を調製し、そして同一の培養液中で当該細胞混合物の培養を継続することにより心筋細胞を得ることを特徴し、前記ES細胞に類似した形質を有する幹細胞が、ES細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在、ES細胞特異的な遺伝子の発現、及びテラトーマ(teratoma)形成能を有する幹細胞である、前記心筋細胞を選択する方法。
【請求項10】
培養液が、RPMI培養液、DMEM培養液、MEM培養液、F12培養液およびα-MEM培養液からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項11】
乳酸添加条件が、乳酸を0.1〜5 mM添加する条件である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項12】
アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件が、アスパラギン酸を20〜100 mg/L、グルタミン酸を20〜100 mg/L添加する条件である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項13】
ピルビン酸添加条件が、ピルビン酸を0.5〜5 mM添加する条件である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【請求項14】
pH条件がpH6.5の条件である、請求項8または9に記載の心筋細胞を選択する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、幹細胞及び胎仔に由来する細胞群からの心筋細胞精製方法と利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 成体における心筋細胞は増殖活性を喪失しており、重症な心筋梗塞、心筋症等の疾患では心臓移植に頼らざるを得ない。しかし、現状では心臓のドナー不足の問題を克服するには至らず、心臓移植以外の治療方法を見出すことが急務である。
【0003】
[0003] これに対して、心筋細胞を体外で作製・精製し、心筋細胞の補充に充てることは、心臓移植に頼らなくてはならない患者を救済する最も有望な方法と考えられている。そして、心筋細胞を得るためには、幹細胞(胚性幹細胞や種々の成体幹細胞)を分化させる方法、胎児から取得する方法などが検討され研究されている。
【0004】
[0004] マウス胚性幹細胞では、分化を抑制する因子(フィーダー細胞、白血病抑制因子:LIF等)を、ヒト胚性幹細胞では分化を抑制する因子(フィーダー細胞、塩基性線維芽細胞成長因子:bFGF、トランスフォーミング成長因子:TGF等)を培養液中から取り除き、細胞塊(胚様体)を形成させることによって積極的に分化を惹起することが出来る。
【0005】
[0005] in vitroにおける分化の様式は、生理的な発生を一部踏襲しており、特に発生初期のイベントに関しては、受精卵細胞で生じる生理的発生とin vitroでの分化の様式との間には共通点が多い。in vitroにおける心筋細胞への分化の系譜は、生理的発生と同じく先ず未分化な中胚葉細胞が形成され、その一部が予定心筋細胞(前心臓中胚葉)を経た後、心筋細胞へと分化する。しかしながら、胚性幹細胞は、臓器を構成する全ての細胞に分化可能であるため、一種類の細胞にのみ分化させることは技術的に困難である。
【0006】
[0006] また、非生理的条件(in vitro)では、全ての細胞に対して分化を惹起することは難しく、一部未分化細胞が残存することがある。さらに、心筋細胞に分化可能であると言われる成体幹細胞は、骨髄や臍帯に存在する間葉系幹細胞や、各組織に存在する組織幹細胞(神経管細胞、脂肪肝細胞、骨格筋幹細胞等)であり、心筋細胞だけでなく、その他の多種類の細胞に分化すると言われる。いずれの成体幹細胞でも、心筋細胞への分化機構の詳細は十分に解明されていないが、それぞれ一定期間の遷移状態を経て心筋細胞や他の分化細胞、未分化細胞を含む細胞集団を形成する。
【0007】
[0007] 要約すれば、全ての幹細胞は、心筋細胞以外の細胞を副産物として産生してしまうことや未分化な細胞を残存させるという臨床応用に対して有害な性質を有するという点で共通している。未分化な細胞は増殖活性を有し、かつ多種類の細胞に分化できる故、分化誘導を行った心筋細胞を含有する細胞集団をそのまま生体に移植し、治療に用いることは困難である。
【0008】
[0008] よって、幹細胞を用いた治療を安全に実行し、理想的な治療効果を得るためには、心筋細胞のみを細胞集団から精製する方法を見出すことが必要である。
[0009] 現在までのところ、GFPなどの蛍光マーカーを心筋細胞に特異的に発現させて、蛍光マーカーを発現した細胞をセルソーターを用いて精製する方法(非特許文献1)、または抗生物質耐性タンパク質を心筋細胞に特異的に発現させて、抗生物質を用いて選択的に精製する方法(非特許文献2)により、心筋細胞の精製が行われていた。しかしながら、これらの方法では、遺伝子改変を行わなければならず、それによる安全性の問題が存在するため、実際の移植のためには利用することができない。また、これらの方法はいずれも遺伝子改変を伴う方法であるが、ゲノムを改変することは、それ自体に倫理的な問題を持つ上、細胞ガン化率の変化等、予測不可能な重大リスクを伴う(非特許文献3)。
【0009】
[0010] 心臓は骨格筋等の他臓器が生成した乳酸をエネルギー源として利用することが出来ることが知られているが(非特許文献4)、この性質を利用して心筋細胞の精製を試みた前例は無い。
【0010】
[0011] また、心臓、肝臓、腎臓では、ミトコンドリア内へのNADH輸送にアスパラギン酸とグルタミン酸を利用し、他の臓器と異なる機構を有する(非特許文献5)。NADHのミトコンドリア内への輸送は、ミトコンドリアのエネルギー産生に対して必須である。これまでに、この機構の違いを用いて心筋細胞の精製を試みた前例は無い。
【非特許文献1】Muller M,et al., FASEB J. 2000; 14: 2540-2548
【非特許文献2】Klug MG,et al., J. Clin. Invest. 1996; 98: 216-224
【非特許文献3】Schroder AR, et al., Cell. 2002; 110: 521-529
【非特許文献4】Khairallah M, et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 2004; 286, H1461-1470
【非特許文献5】Chatham JC, et al., J Biol Chem 1995; 270: 7999-8008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
[0012] 本発明は、従来は心筋細胞を精製する目的に用いることが想定できなかった諸性質や新たに見出した諸性質を用いて、遺伝子改変を経ず、特別なタンパク質及び生理活性物質の添加を行わず胎児及び幹細胞由来に由来する心筋細胞を含む細胞混合物から、心筋細胞を高度にかつ高収率で精製する方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[0013] 本発明の発明者らは、胚性幹細胞由来の心筋細胞を効率的に生産する系を構築するために、培養液の組成を網羅的に検討した。その中で培養液の組成を変化させることで、様々な培養液組成成分の濃度検討や、適応すべき時期の検討を行った結果、以下の現象:
(1)低・無血清条件において非心筋細胞に志向性を有する細胞分化増殖抑制並びに細胞死誘導が起こる現象;
(2)弱酸性培養液における非心筋細胞に志向性を有する細胞死誘導が起こる現象;
(3)低カルシウム培養液における非心筋細胞に志向性を有する細胞分化増殖抑制並びに細胞死誘導が起こる現象;
(4)低栄養培養液で培養した場合に非心筋細胞が選択的に死亡する現象;
(5)低カルシウム環境で心筋細胞を培養した場合に心筋細胞の自律拍動が減弱し、エネルギー消費が抑制される現象;
(6)低・無血清化が心筋細胞の自己集合塊形成を促進する現象;及び
(7)心筋胞細胞塊をバラバラに分散した場合心筋細胞の生存率が著しく低下する現象;
を見出した。
【0013】
[0014] 本発明の発明者らは、これらの現象に対する方法を組み合わせて最適化することによって、胚性幹細胞由来の心筋細胞を、効率的且つ高度に選択・精製できることを見いだし、本発明を完成するに至った。更に、胚性幹細胞で見出した方法が、胎児由来の心筋細胞の選択・精製や、成体幹細胞由来の心筋細胞の選択・精製に応用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
[0015] より具体的には、本発明はその一態様において、胚性幹細胞由来、成体幹細胞由来又は胎児由来の心筋細胞と非心筋細胞とを含む細胞混合物から、心筋細胞を選択する方法であって、前記細胞混合物を、(i)低糖条件;および(ii)低カルシウム条件、低栄養条件、乳酸添加条件、アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件、およびピルビン酸添加条件、からなる群から選択される1または複数の条件;を提供する。この態様において、前記細胞混合物を、胚性幹細胞に対して分化誘導して、予定心筋細胞(未分化中胚葉)を含む胚様体を形成し、この胚様体を低血清条件および/または弱酸性pH条件の培養液中で培養することにより調製することができる。
【0015】
[0016] 本発明は別の一態様において、胚性幹細胞由来の心筋細胞を選択する方法であって、胚性幹細胞に分化誘導して未分化中胚葉を含む胚様体を形成した後、この胚様体を低血清条件および/または弱酸性pH条件の培養液中で培養することにより予定心筋細胞を含む細胞混合物を調製し、そして同一の培養液中で当該細胞混合物の培養を継続することにより心筋細胞を得ることを特徴とする、前記心筋細胞を選択する方法を提供する。
【0016】
[1] 胚性幹細胞由来、成体幹細胞由来又は胎児由来の心筋細胞と非心筋細胞とを含む細胞混合物から、心筋細胞を選択する方法であって、前記細胞混合物を、
(i)低糖条件;および
(ii)低カルシウム条件、低栄養条件、乳酸添加条件、アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件、およびピルビン酸添加条件、からなる群から選択される1または複数の条件;
を有する培養液中で培養することを特徴とする、心筋細胞を選択する方法。
【0017】
[2] 更にコラゲナーゼを用いて心筋細胞に付着する死細胞を除去することからなる、[1]に記載の心筋細胞を選択する方法。
[3] 心筋細胞の比重と比較して、死細胞の比重が高比重であることを利用して、死細胞を除去する、[2]に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0018】
[4] 培養液の(ii)の条件が乳酸添加条件である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
[5] 培養液の(ii)の条件がアスパラギン酸・グルタミン酸添加条件である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0019】
[6] 培養液の(ii)の条件がピルビン酸添加条件である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
[7] 胚性幹細胞に対して分化誘導して、予定心筋細胞(未分化中胚葉)を含む胚様体を形成し、この胚様体を低血清条件および/または弱酸性pH条件の培養液中で培養することにより前記細胞混合物を調製する、[1]に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0020】
[8] 胚性幹細胞由来の心筋細胞を選択する方法であって、胚性幹細胞に分化誘導して未分化中胚葉を含む胚様体を形成した後、この胚様体を低血清条件および/または弱酸性pH条件の培養液中で培養することにより予定心筋細胞を含む細胞混合物を調製し、そして同一の培養液中で当該細胞混合物の培養を継続することにより心筋細胞を得ることを特徴とする、前記心筋細胞を選択する方法。
【0021】
[9] 低糖条件が、糖類を含まない条件または分化誘導時に用いた培養液中の糖類の条件と比較して糖類を1%未満まで低下させた条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0022】
[10] 低カルシウム条件が、培養液中のカルシウム濃度が0.3〜1.3 mMの条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
[11] 低栄養条件が、培養液としてRPMI培養液、DMEM培養液、MEM培養液、F12培養液又はα-MEM培養液を用いる場合、当該培養液に含有されるすべての栄養成分が、当該培養液中の栄養成分と比較して10%以下まで低下している条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0023】
[12] 乳酸添加条件が、乳酸を0.1〜5 mM添加する条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
[13] アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件が、アスパラギン酸を20〜100 mg/L、グルタミン酸を20〜100 mg/L添加する条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0024】
[14] ピルビン酸添加条件が、ピルビン酸を0.5〜5 mM添加する条件である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の心筋細胞を選択する方法。
[15] 低血清条件が、血清を含まない条件、または未分化中胚葉を得るまでの段階において培養液に添加した血清または血清成分の濃度を100%として算出した場合に血清または血清成分の濃度が0%〜10%の条件である、[8]に記載の心筋細胞を選択する方法。
【0025】
[16] 弱酸性pH条件がpH6.5の条件である、[8]に記載の心筋細胞を選択する方法。
【図面の簡単な説明】
【0026】
[0017]
図1図1は、接着培養した胚様体中の心筋細胞存在様式を示す図である。
図2図2は、無血清で培養した接着胚様体における心筋細胞存在様式を示す図である。
図3図3は、無血清化による予定心筋細胞の選択を示す図である。
図4図4は、低カルシウム環境の影響を示す図である。
図5図5は、胚性幹細胞における、無血清・弱酸性pH条件による予定心筋細胞の選択を示す図である。
図6-1】図6-1は、胚性幹細胞における、無血清・弱酸性pH条件による予定心筋細胞の解析を示す図である。
図6-2】図6-2は、胚性幹細胞における、無血清・弱酸性pH条件による予定心筋細胞の解析を示す図である。
図7図7は、胚性幹細胞に対して無血清・弱酸性pH条件により選択された心筋細胞塊を示す図である。
図8図8は、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件における心筋細胞の選択を示す図である。
図9図9は、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件で選択・回収された細胞に対する心筋細胞特異的染色を示す図である。
図10図10は、無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、乳酸を添加した培養条件において選択された直後の心筋細胞塊と死細胞塊を示す図である。
図11図11は、死細胞塊である高密度凝集体の密度勾配遠心を用いて除去方法を示す図である。
図12-1】図12-1は、無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、乳酸を添加した培養条件において選択された心筋細胞塊を示す図である。
図12-2】図12-2は、無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、乳酸を添加した培養条件において選択された心筋細胞塊を示す図である。
図13図13は、無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、アスパラギン酸・グルタミン酸を添加した培養条件で精製した心筋細胞を示す図である。
図14図14は、骨髄幹細胞由来心筋細胞の精製を示す図である。
図15図15は、胎児由来心筋細胞の精製を示す図である。
図16図16は、無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、ピルビン酸を添加した培養条件で培養した際の、自律拍動する細胞領域を示す図である。
図17図17は、無糖・無血清であり、乳酸を添加した培養条件において15日間の培養後の、選択されたマーモセット心筋細胞塊を示す図である。
図18図18は、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件で選択・回収されたマーモセット細胞に対する心筋細胞特異的染色を示す図である。
図19図19は、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件で選択・回収されたマーモセット細胞が、レシピエントの心臓内部で生着したことを示す図である。
図20図20は、有糖(対照)条件で培養を行ったヒト胚性幹細胞由来の細胞塊(対照)と無糖(心筋選択)条件下で15日間の心筋細胞選択培養を行ったヒト胚性幹細胞由来の細胞塊(心筋選択条件)の状態を示す図である。
図21図21は、無糖(心筋選択)条件下でヒト胚性幹細胞に対して15日間の心筋細胞選択培養を行った後、培養液条件を変更してから自律拍動を再開した心筋細胞が形成するヒト胚性幹細胞由来の各細胞塊の、抗アクチニン抗体および抗Nkx2.5抗体による染色像を示す図である。
【発明の実施の形態】
【0027】
[0018] 心筋細胞への分化能を有する幹細胞(胚性幹細胞、骨髄幹細胞等の成体幹細胞)に対して、適切な心筋細胞分化誘導処理を行うと、心筋細胞への分化が生じる。すなわち、例えばマウス胚性幹細胞を、白血病抑制因子(LIF)を培養液中から取り除いて浮遊培養させて、細胞塊(胚様体)を形成させるハンギングドロップ法により、胚性幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行うことができる。あるいは、マーモセット胚性幹細胞やヒト胚性幹細胞を使用して、同様に胚性幹細胞から心筋細胞への分化誘導を行うこともできる。
【0028】
[0019] 本発明の方法は、いずれの哺乳動物由来の幹細胞に対しても適用することができる。例えば、本発明の方法は、マウス、ウシ、ヤギ、イヌ、ネコ、マーモセット、アカゲザル、ヒト由来の幹細胞に対して使用することができるが、これらの動物種由来の幹細胞だけには限定されない。例えば、本発明に用いられる幹細胞としては、既に培養細胞として広く使用されているマウス、サル、ヒト等の哺乳動物由来ES細胞を挙げることができる。
【0029】
[0020] マウス由来ES細胞の具体例としては、EB3細胞、E14細胞、D3細胞、CCE細胞、R1細胞、129SV細胞、J1細胞等が挙げられる。本願発明に係るマウス由来ES細胞は、例えばAmerican Type Culture Collection(ATCC)やChemicon社、Cell &Molecular Technologies社等から入手することができる。
【0030】
[0021] サル由来ES細胞としては、アカゲザル(rhesus monkey:Macaca mulatta)(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1995;92:7844)やカニクイザル(cynomolgus monkey:Macaca fascicularis)(Suemori et al., Dev. Dyn. 2001; 222: 273-279)、コモンマーモセット(common marmoset:Callithrix jacchus)(Sasaki et al., Stem Cells. 2005; 23: 1304-1313)からの樹立が報告されており、使用可能である。例えば、マーモセットES細胞は、財団法人・実験動物中央研究所からも入手することができる。
【0031】
[0022] ヒト由来ES細胞は、現在、全世界で数10種以上が樹立されており、例えば、米国・国立衛生研究所のリスト(http://stemcells.nih.gov /registry/ index.asp)には多数の株が登録されて使用可能であるとともに、Cellartis社やES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation等から購入することも可能である。また、日本の場合、国立大学法人・京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センターからも入手することができる(Suemori et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006; 345: 926-932)。
【0032】
[0023] 更に、ウシ (Mitalipova et al., Cloning 2001; 3: 59-67,)、トリ(Petitte et al., Mech. Dev. 2004; 121: 1159-1168)、ゼブラフィッシュ(Fishman, M. C., Science 2001; 294: 1290-1291)についてもES細胞の樹立が報告されている。
【0033】
[0024] 一般にES細胞は初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である(Munsie et al., Curr. Biol. 10:989, 2000;Wakayama et al., Science 292:740, 2001 ; Hwang et al., Science 303 : 1669, 2004)。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試み(米国特許公開第02/168763号;Vrana K et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:11911-6)や、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている(国際公開番号第00/49137号;Tada et al., Curr. Biol. 11:1553, 2001)。本発明で使用することができるES細胞には、この様な方法により作製されたES細胞又はES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。
【0034】
[0025] また、本発明に係る方法に使用できる幹細胞は、ES細胞のみに限らず、哺乳動物の成体臓器や組織の細胞、骨髄細胞、血液細胞、更には胚や胎児の細胞等に由来する、ES細胞に類似した形質を有する全ての幹細胞が含まれる。この場合、ES細胞と類似の形質とは、ES細胞に特異的な表面(抗原)マーカーの存在やES細胞特異的な遺伝子の発現、又はテラトーマ(teratoma)形成能やキメラマウス形成能といった、ES細胞に特異的な細胞生物学的性質をもって定義することができる。その具体例としては、始原生殖細胞より作製されるEG細胞、精巣の生殖細胞より作製されるGS細胞、及び線維芽細胞等の体細胞から特殊な遺伝子操作により作製される誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)等が挙げられる。
【0035】
この方法において、LIFを除去して浮遊培養することによる分化誘導開始後3〜6日の胚様体には、未分化中胚葉ないし予定心筋細胞などの将来的に心筋細胞に分化する細胞が含まれると考えられている。そして、胚性幹細胞を誘導する場合、分化誘導開始後7日目(ヒトの胚性幹細胞では、10日目)に心筋細胞が出現することが知られている。しかしながら、このようにして胚性幹細胞から形成された胚様体には、上記の細胞の他に未分化細胞、内皮上皮様細胞、神経細胞等の心筋細胞には分化しない細胞が含まれている。本発明においては、心筋細胞および将来的に心筋細胞に分化する細胞(未分化中胚葉、予定心筋細胞)以外の、これらすべての細胞のことを、「非心筋細胞」と呼ぶ。
【0036】
[0026] 本発明者らは、上述のようにして形成された胚様体中に混合されている非心筋細胞から、心筋細胞あるいは将来的に心筋細胞に分化する細胞のみを選択するため、心筋分化がおこる時間経過において、低血清条件、低糖条件、低栄養条件、低カルシウム条件、および弱酸性pH条件が心筋細胞の選択に及ぼす作用を検討した。
【0037】
[0027] その結果、本発明者らは、未分化中胚葉、予定心筋細胞及び心筋細胞を含む細胞混合物を、低血清条件、低糖条件、低栄養条件、低カルシウム条件、弱酸性pH条件、のそれぞれの単独条件、又は幾つかの組み合わせ、若しくは全ての組み合わせの条件下で培養した場合、非心筋細胞と比較して、心筋細胞あるいは将来的に心筋細胞に分化する細胞のみが、細胞傷害を受けにくいことを見いだした。
【0038】
[0028] この知見に基づいて、本発明において、未分化中胚葉、予定心筋細胞及び心筋細胞を含む細胞混合物を、低糖条件と、低血清条件、低栄養条件、低カルシウム条件、および弱酸性pH条件の各培養条件のいずれかまたは組み合わせとに暴露することにより、細胞混合物を構成する細胞の中から、これらの条件下においても生存する細胞集団を予定心筋細胞又は心筋細胞の細胞集団として選択することが出来た。
【0039】
[0029] 当該選択方法は、心筋細胞が生理的に耐性を有する条件において選択するものであるから、生理的耐性選択法と称する。本発明における生理的耐性選択法は、低糖条件、低血清条件、低栄養条件、低カルシウム条件、または弱酸性pH条件の培養液中で、心筋細胞を含む細胞混合物を培養することからなる。
【0040】
[0030] 本発明において「低糖条件」とは、培養液中の糖類(すなわち、多糖、単糖(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなど)を含む物質群で、生体内・細胞内で化学分解・変換され、最終的に解糖系で異化されるもの)の濃度が低下された培養液中で培養する条件のことをいい、好ましくは上記糖類を含まない培養液中で培養するか、もしくは分化誘導時に用いた培養液中の糖類の条件と比較して糖類濃度を1%未満まで低下させた培養液中で培養する条件のことをいう。本条件における糖類のうち少なくともグルコースができる限り除かれることが望ましい。例えば、一般的に細胞培養において使用される市販の培養液中には、α-MEM、MEM[Hank's BSS]、DMEM等の培養液の場合にはD-グルコースが1 g/L(5.56 mM)、RPMI 1640の場合にはD-グルコースが2.0 g/L(11.12 mM)、Ham's F-12の場合にはD-グルコースが1.82 g/L(10.12 mM)、それぞれ糖類として含有される。したがって、糖類濃度を1%まで低下させた培養液という場合、糖類を55.60〜111.20μM含有する条件の培養液のことをいう。
【0041】
[0031] 本発明においては、そのような一般的な培養液中の糖類の条件と比較して、糖類を1%未満まで低下させた場合、非心筋細胞は細胞死を起こすものの、未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞は培養液中で生存することができることを見いだした。本発明においては、低糖条件を達成するため、例えばRPMI培養液(無糖)、DMEM培養液(無糖)(それぞれ、GIBCO)を使用することができる。
【0042】
[0032] 本発明において、血清成分とは、血清そのもの、もしくは動物やヒトの血清に含有される生理活性物質群そのものだけでなく、それらの生理活性物質群であって人工的に作製された物質群を含むものを意味する。本明細書中において「低血清条件」は、「無血清条件」を含む用語であり、未分化中胚葉を得るまでの段階において培養液に添加した血清または血清成分、もしくは人工的な生理活性物質群の濃度を100%として算出した場合に、0%〜10%にすることをいう。したがって、例えば、未分化中胚葉を得るまでの段階において培養液に10%の濃度の血清が含有されていた場合、予定心筋細胞または心筋細胞を選択するために培養液中の血清濃度を1%以下に設定することをいう。本発明においては、一般的な培養液中の血清成分と比較して、培養液中の血清成分を10%以下に低下させた場合、非心筋細胞は細胞死を起こすものの、未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞は培養液中で生存することができることを見いだした。
【0043】
[0033] 本発明において「低栄養条件」とは、一般の培養液(RPMI培養液、DMEM培養液、MEM培養液、F12培養液やα-MEM培養液)に含有されるすべての栄養成分が、一般的な培養液中の栄養成分と比較して、10%以下まで低下していることをいい、好ましくは10%まで低下させることをいう。本発明においては、一般的な培養液中の栄養成分と比較して、栄養成分を10%まで低下させた場合、非心筋細胞は細胞死を起こすものの、未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞は培養液中で生存することができることを見いだした。このような「低栄養条件」の培養液は、一般の培養液(RPMI培養液、DMEM培養液、MEM培養液、F12培養液やα-MEM培養液)を、生理的塩類溶液(例えばHank's BSS無糖やPBSなど)を用いて、10倍まで希釈することにより調製することができる。
【0044】
[0034] 本発明において「低カルシウム条件」とは、培養液中のカルシウム濃度が0.3〜1.3 mMであることを指す。一般に心筋細胞を分化させる際に使用される培養液(DMEM培養液、MEM培養液やα-MEM培養液)は、培養液中のカルシウム濃度が1.8 mMであり、心筋細胞を分化させる際には培養期間全般にわたって、カルシウム濃度をこの濃度で維持することが知られている。本発明においては、一般的な培養液中のカルシウム濃度と比較して有意に低い、0.3〜1.3 mMのカルシウム濃度とした場合に、非心筋細胞は細胞死を起こすものの、未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞は培養液中で生存することができることを見いだした。本発明の「低カルシウム条件」の培養液としては、RPMI培養液やF12培養液(いずれもGIBCO)、などを使用することができる。
【0045】
[0035] 本発明において「弱酸性pH条件」とは、培養液のpHがpH 6〜7であることを指す。一般に心筋細胞を分化させる培養液(RPMI培養液、DMEM培養液、MEM培養液、F12培養液やα-MEM培養液)のpHは、生理的条件であるpH 7.5程度に維持することが知られている。この基本BSSは、5%CO2インキュベーター内でpHが6.5程度となる。本発明においては、一般的な培養液のpHと比較して、pHを酸性側の6.5まで低下させた場合、非心筋細胞は細胞死を起こすものの、未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞は培養液中で生存することができることを見いだした。本発明の「弱酸性pH条件」の培養液の作成は、Hank's Balanced Salts Solution(Hank's BSS )を用いて培養液を作製することにより得られる。
【0046】
[0036] 上述した細胞混合物に対して、適切な2以上のこれらの培養液条件を使用する方法(生理的耐性選択法)の任意の組み合わせを用いることによって、更に有効に心筋細胞を精製できる。
【0047】
[0037] 本発明者らは、培養液中から糖類を欠失させると、胚性幹細胞由来の胚様体中で非心筋細胞が細胞死を起こすことを見出したが、胚様体中での未分化中胚葉、予定心筋細胞および心筋細胞の選択性を更に向上させる目的で、心筋細胞選択的にエネルギーを供給しうる他の基質の検討を行った。
【0048】
[0038] その結果、糖類の代わりに、乳酸(Lactate、0.1〜5 mM)又は、アスパラギン酸(20〜100 mg/L)とグルタミン酸(20〜100 mg/L)の組み合わせ、又は、ピルビン酸(0.5〜5 mM)、もしくは、それらの組み合わせを培養液中に添加することが有効であることを見出した。これによって、心筋細胞選択的に栄養を供給できると考えられる。
【0049】
[0039] 当該選択方法は、心筋細胞の代謝能力を利用して選択するものであるから、代謝的選択法と称する。本発明における代謝的選択法は、乳酸添加条件、アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件、またはピルビン酸添加条件の培養液中で、心筋細胞を含む細胞混合物を培養することからなる。
【0050】
[0040] 本発明で見出した二つの心筋細胞選択方法(すなわち、生理的耐性選択法と代謝的選択法)を組み合わせて用いることにより、心筋細胞を高度に精製することが出来る。また、上記の方法を繰り返し行うことによって、更に高度の精製が可能である。
【0051】
[0041] 本発明において、心筋細胞の起源として用いる未分化中胚葉、予定心筋細胞及び心筋細胞を含む細胞混合物は、幹細胞又は胎児から調製することができる。ここで、単に幹細胞という場合、どのような細胞型にも分化することができる性質を有する全能性を有する細胞(例えば、胚性幹細胞など)の他、複数の特定の型の細胞に分化することができる性質を有する多能性を有する細胞(例えば、骨髄由来の成体幹細胞など)が含まれるが、これらには限定されない。
【0052】
[0042] 胚性幹細胞から心筋細胞を調製する場合、心筋細胞への分化が進行するにつれて、未分化中胚様、予定心筋細胞を経て心筋細胞に分化すると考えられている。ここで、未分化中胚葉とは、未分化中胚葉に特異的なBrachyuryタンパク質の発現が認められる段階を言う。一方、予定心筋細胞とは、Brachyury等の未分化中胚葉に特異的なタンパク質の発現が認められ、かつ同一細胞においてNkx2.5やアクチニン等の心筋細胞特異的タンパク質の発現を認めない細胞であって、培養液に対して新たに物質が加えられることを必要とせず、専ら心筋細胞へ分化する能力を有する細胞を意味し、そして、心筋細胞とは、生きた細胞の場合には自律拍動を行っている細胞のことを、固定後は、Nkx2.5、GATA4、アクチニンなどのマーカーを発現する細胞を意味する。
【0053】
[0043] 例えば、本発明において、マウス胚性幹細胞を心筋細胞の起源として使用する場合、マウス胚性幹細胞をLIFを培養液中から取り除くことにより分化誘導した後、4日〜7日のマウスの胚性幹細胞由来胚様体を、上述した生理的耐性選択法および/または代謝的選択法のもとで培養することにより、胚様体を構成する細胞の中から、これらの条件下においても生存する細胞集団を予定心筋細胞又は心筋細胞の細胞集団として選択することが出来る。
【0054】
[0044] 一例として、分化誘導5日目から、低糖条件と、低血清条件、低栄養条件、低カルシウム条件、および弱酸性pH条件の各培養条件のいずれかまたは組み合わせとによって24時間選択された細胞は、拍動性を有さない細胞であったが、選択された拍動性を有さない細胞集団を未分化中胚葉マーカーであるBrachyuryに対する免疫染色法を用いて染色したところ、殆ど全ての細胞がBrachyury陽性であった。これは、本願発明に係る方法が未分化中胚葉を選択する方法であることを示す。
【0055】
[0045] また、上記のBrachyury陽性細胞を現在知られている最も発生早期に発現する心筋細胞特異的ホメオティックタンパク質であるNkx2.5に対する免疫染色を行ったところ、染色陰性であった。それにもかかわらず、この細胞を更に培養すると、上記の細胞の内約8〜9割が心筋細胞に分化したことから、当該方法によって選択された未分化中胚葉は、未知の最も原始的な予定心筋細胞であると考えられる。
【0056】
[0046] また別の一例として、心筋細胞を選択するため、分化誘導後4〜6日目の胚性幹細胞由来の胚様体を、ITS{インスリン(10 mg/L)、トランスフェリン(5.5 mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(6.7 mg/L)}(GIBCO社)を添加した、無血清の、MEM(Minimum Essential Medium)[Hank's BSS](Invitrogen):α-MEM(SIGMA)=9:1から1:9で混合した培養液(この場合のカルシウム濃度は約1.3 mMであった)を用いて、3日程度培養を行うこともできる。この培養液の条件は、低血清条件、低カルシウム条件、および弱酸性pH培養条件に相当する。この方法で調製した予定心筋細胞は、更に同じ培養液中で培養を継続することで、心筋細胞に分化することが可能である。分化誘導5日目以後で、特に自律拍動する心筋細胞が誘導された後で、上記の操作を行う場合は、MEM[Hank's BSS]のみを用いて、低血清条件、および弱酸性pH培養条件で培養することにより、心筋細胞を効率的に選択することが可能である。この方法で作製した心筋細胞は、更に上述したMEMとα-MEMとの混合培養液中で培養を継続することで、心房筋及び心室筋に分化可能である。
【0057】
[0047] 更に別の一例において、胚性幹細胞由来の胚様体に対して、無糖のHank's BSS(GIBCO)等で洗浄し十分に糖類の除去を行った後、低血清条件、低栄養条件(例えば、通常市販の培養液を等張緩衝液で10倍に希釈したもの)、弱酸性pH条件、低カルシウム条件の培養液(Hank's BSS[無糖]/DMEM無糖]=9:1)に乳酸1 mM(乳酸添加条件)、アスパラギン酸 20 mg/Lとグルタミン酸20 mg/L(アスパラギン酸・グルタミン酸添加条件)、もしくはピルビン酸1 mM(ピルビン酸添加条件)を加えた培養液で、3〜7日間培養することにより、心筋細胞を効率的に選択することが可能である。
【0058】
[0048] 骨髄由来の成体幹細胞を用いて心筋細胞を作製した場合においても、細胞混合物から心筋細胞を選択する際に、上述した本発明の方法は適応可能であった。ここで、マウス骨髄由来の心筋細胞は、国際公開WO01/048151(PCT/JP00/09323)記載の細胞及び方法を用いて誘導した。すなわち、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)(GIBCO)に牛胎仔血清20%を添加して調整したメディウムで、CMG細胞(CMG細胞の樹立方法は、J. Clin. Invest., 1999, Vol.103,p697-705を参照)を培養し、終濃度3μmol/lの5-アザシチジン(SIGMA)を24時間添加し、5-アザシチジンを含まない上記培養液で2〜3週間培養することにより、自律拍動する心筋細胞を分化誘導することができる。自律拍動する心筋細胞を含む細胞混合物を、上述した生理的耐性選択法および/または代謝的選択法のもとで培養を行うことにより、心筋細胞を得ることができる。
【0059】
[0049] また、マウス胎児から心筋細胞を得る場合、初めて心筋細胞が出現する胎生7日目(ヒトでは、受精後16日目に相当する)から、以下の処理により選択・精製することができた。すなわち、マウスの胎児を無菌的に抽出し、Hank's BSS[無糖]で4回洗浄した。洗浄中に10 mlのピペットを用いて数回ピペッティングを行い、胎児をバラバラの細胞塊とする。このような細胞塊を、上述した生理的耐性選択法および/または代謝的選択法のもとで培養を行うことにより、心筋細胞を得ることができる。
【0060】
[0050] このように、本発明において、心筋細胞の起源として用いる未分化中胚葉、予定心筋細胞及び心筋細胞を含む細胞混合物に対して、上記の生理的耐性選択法および/または代謝的選択法のもとで培養を行うことにより、心筋細胞どうしが結合した心筋細胞塊が得られる。しかしながら、このようにして得られた心筋細胞塊は、周囲に細胞死を起こした非心筋細胞の層で覆われており、得られた心筋細胞塊を移植に使用する場合には、この非心筋細胞の層を除去しなければならない点について、更に検討を加えた。
【0061】
[0051] 本発明者らは一般的な細胞拡散方法であるトリプシン(Trypsin)等無作為にタンパク質を消化する酵素やEDTA等のイオンキレート剤を用いて、細胞塊を個々の細胞に分離すると、心筋細胞の生存率が著しく低下する現象を見出した。そこで、心筋細胞塊を維持しつつ周囲に付着した死細胞を効率的に除去する新たな方法が必要となった。
【0062】
[0052] 一般に、細胞と細胞は、細胞外マトリックスと呼ばれるコラーゲンやフィブロネクチン、エラスチン等を介する結合によるほか、膜タンパク質の直接的結合により結合されていると考えられている。そこで、本発明者らは、心筋細胞塊を基質タンパク質に対する特異性の高いコラゲナーゼやエラスターゼを用いて消化を行ったところ、細胞がバラバラに分散すること無く、心筋細胞の細胞塊を維持しながら、周囲に付着した非心筋細胞の死細胞を効率的に除去することが出来た。このことから、心筋細胞同士の結合は、主にN-カドヘリン(cadherin)やコネキシン(connexin)等による直接的結合によるものであると推測された。
【0063】
[0053] 本発明においては、例えば、0.01〜0.1%のIII型コラゲナーゼ(Wartington)を用いて、37℃の温浴中で振盪処理を20分間行い、心筋細胞を死細胞と分離し、コラゲナーゼを十分に洗浄するために遠心と上清交換を4回繰り返し最終産物とすることにより、死細胞を効率的に除去することができる。
【0064】
[0054] ただし、コラゲナーゼによって処理した後にも、心筋細胞のみからなる細胞塊に加え、非心筋細胞の死細胞が残存する凝集体が回収される場合がある。この死細胞が残存する凝集体が回収されるは代謝的選択期間が長くなればなるほど出現頻度が増加する傾向がある。本発明者らは、このような死細胞が残存する凝集体の密度を調査したところ、この場合の死細胞は生細胞よりも高密度・高比重であることを見出し、適当な密度勾配遠心を行うことで生細胞と死細胞を分離することができることを見出した。このような密度勾配遠心により生細胞と死細胞とを分離するために使用することができる試薬としては、PercollTM(Pharmacia社)、FicollTM(Pharmacia社)、Optiprep(GIBCO)などがあるが、これらには限定されない。
【実施例】
【0065】
[0055] 実施例1 マウス胚性幹細胞における、低・無血清培養条件を用いた心筋細胞選択的な凝集塊の形成
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去した培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇の作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇の作用、について検討することを目的とした。
【0066】
[0056] マウス胚性幹細胞(細胞株名EB3、Nat Genet 2000; 24: 372-376)は、独立行政法人・理化学研究所の丹羽仁史博士より恵与していただいた。このマウス胚性幹細胞を、既存の方法(Differentiation 2001, 68, p31-43)に類似の方法、すなわち、培養液[α-MEM(Minimum Essential Medium)(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、100 units/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として合計7日間培養した。これを似て心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた後、胚様体を上記培養液を用いて培養皿に接着させて、37℃、5%CO2の条件下にて、3〜5日間培養した。以上を既存の心筋細胞分化方法とする。この条件により行った細胞塊を図1に示す。ここで、図1Aに胚様体の顕微鏡像を示し、図1Bには、胚様体における心筋細胞を、抗アクチニン抗体(SIGMA)を用いて特異的に蛍光免疫染色した結果明らかになった、胚様体における心筋細胞存在領域を輪郭線として示し、そして図1Cには、胚様体における心筋細胞を、上記免疫染色によって判明した心筋細胞の存在領域を図1Aの位相差顕微鏡像において輪郭をトレースした。これらの検討の結果、図1Dにおいて、接着した胚様体における心筋細胞の存在様式を模式図で表すように、心筋細胞は他の細胞の内部に埋もれて存在し、容易に胚様体から分離精製することは出来なかった。
【0067】
[0057] 一方、マウス胚性幹細胞を、同様の条件にて心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた後、培養皿に接着させて5日間培養し、分化した心筋細胞を含む胚様体の培養環境から、血清を除去して更に3日間培養を行った。
【0068】
[0058] この結果を図2に示す。ここで、図2Aは上記の条件で選択培養した接着胚様体の顕微鏡像を示し、図2Bには、胚様体における心筋細胞を、ビデオ撮影によって判明した自律拍動する心筋領域を輪郭線にて図示した。これらの検討の結果、図2Cにおいて、当該選択培養を行った胚様体における心筋細胞の存在様式を表す様に、胚様体の表面に心筋細胞集団が存在し、かつ心筋細胞同士で塊を形成することがわかった。
【0069】
[0059] 実施例2 マウス胚性幹細胞における、低・無血清培養条件を用いた予定心筋細胞選択的な凝集塊の形成と心筋細胞を高い割合で含有する凝集塊の形成
本実施例においては、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去した培養液中で培養することにより、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇の作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から予定心筋細胞を選択する際における血清枯渇の作用、について検討することを目的とした。
【0070】
[0060] マウス胚性幹細胞を、実施例1の通常方法にて、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として5日間37℃、5%CO2の条件下にて培養した。既存の培養方法(実施例1にて定義済み)では、分化培養7日目に自律拍動する細胞が観察された。そこで、自律拍動する心筋細胞が未だ観察されていない分化培養5日目(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養環境から血清を除去して1日(24時間)培養を行った。図3Aは通常の培養条件で6日間培養した胚様体を示し、一方図3Bは培養5日目に血清を除去して1日(24時間)培養した、図3Aと同時期の胚様体を示す。
【0071】
[0061] 培養5日目に血清を除去して(胚様体を含む溶液を遠沈管に移し、自然沈降後、上清を除去し、無血清培地[α-MEM(SIGMA)、インスリン・トランスフェリン・セレニウム(GIBCO)ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]にて一度洗浄し、同じ培地に置換)1日(24時間)培養した図3Bに示される細胞塊を、更に1〜4日間培養すると、自律拍動を行う心筋細胞を高い割合で含有する細胞塊に分化する。このことから、マウス胚性幹細胞を培養5日目に血清を除去して1日(24時間)培養することにより、自律拍動を行わないが将来的に心筋細胞に分化することが予定づけられた予定心筋細胞を高い割合で含有する細胞塊を形成することができることが示された。
【0072】
[0062] 実施例3 マウス胚性幹細胞における、低カルシウム培養液を用いた心筋細胞以外の細胞の選択的分化・増殖抑制
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、カルシウム濃度を低下させた培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対するカルシウム濃度の低下の作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際におけるカルシウム濃度の低下の作用、について検討することを目的とした。
【0073】
[0063] マウス胚性幹細胞を、実施例1の通常方法にて、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として合計7日間培養し心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。心筋細胞を分化させる培養液中のカルシウム濃度は1.8 mMであった。この培養方法では、心筋細胞の含有量は10%程度であり、他の細胞は未分化細胞や神経細胞、上皮細胞等であった。
【0074】
[0064] これに対して、本実施例では、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目の胚様体をプレートに接着させ、更に同様の培養液中で1日(24時間)培養した。その後、分化開始後6日目、すなわち胚様体接着後1日(24時間)経過後、対照群では10%FBSを含むRPMI培養液(カルシウム濃度1.8 mM)で8日目まで培養したのに対して(図4A)、実験群では、培養液を10%FBSを含むRPMI培養液(カルシウム濃度0.4 mM;GIBCO)に置換して培養を行った(図4B)。この結果、未処理の胚様体に比べて、処理した胚様体では、胚様体の辺縁に存在する扁平細胞の成長が抑制され、また神経細胞への分化も抑制された(図4B)。
【0075】
[0065] 実施例4 マウス胚性幹細胞における、無血清・弱酸性pH培養条件による予定心筋細胞の選択
本実施例においては、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、かつ弱酸性である培養液中で培養することにより、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇および弱酸性pHの複合的な作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から予定心筋細胞を選択する際における血清枯渇および弱酸性pHの複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0076】
[0066] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目を使用して、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。本実施例においては、自律拍動する心筋細胞がまだ観察されない分化培養5日目(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養液を、MEM(Minimum Essential Medium)(GIBCO)(GIBCO)にインスリン・トランスフェリン・セレニウム(GIBCO)を添加したものに交換し、更に1日(24時間)培養を行った。この培養液は5%炭酸ガス環境ではpH 6.5程度になる特徴を有することから、5%炭酸ガス環境で弱酸性化したこの培養液中で培養を行った。
【0077】
[0067] 結果、自律拍動を行わない予定心筋細胞を高い割合で含有する細胞塊を形成した。図5Aは、通常条件で培養した接着胚様体を示し、これに対して、図5Bは、1日(24時間)無血清で培養した胚様体を、図5Cは、2日間(48時間)無血清で培養した胚様体をそれぞれ示す。この条件では、胚様体の表面近くの細胞は選択的に細胞死を呈したが、胚様体中心部の細胞は細胞死を起こさなかった(図5)。図5Dにおいては、図5Cを基に予定心筋細胞の領域を囲み、死細胞が存在する領域を矢印で示した。
【0078】
[0068] 胚様体形成後5日後から、無血清・弱酸性pH条件により24時間培養して選択された細胞塊と、これを更に3日間(72時間)継続培養した細胞塊とを採取した。これらの細胞塊の凍結切片を作製し、抗Brachyury抗体(Santacruz社)を用いて未分化中胚葉マーカーであるBrachyuryに対する免疫染色を行った(図6A〜6D)。その結果、無血清・弱酸性pH条件により24時間培養した細胞(図6Bおよび6D)は血清含有・中性培養液で24時間培養した細胞(図6Aおよび6C)と比較して、Brachyury陽性細胞の割合が著しく高かった。更に3日間継続培養して選択された細胞塊の殆どの細胞はBrachyury陽性であった(図示せず)。この3日間継続培養した細胞塊において、最も発生初期の予定心筋細胞において発現すると言われるNkx2.5に対する抗体(抗Nkx2.5抗体(Santacruz社))を用いて免疫染色を行った(図6E〜6N)。このNkx2.5は、心筋細胞に分化後も発現が維持されることが既に知られているマーカーである。図6E〜Hには、血清含有・中性培養液で24時間培養したEBをさらに3日間培養したEBを示した。これらの培養条件では、EBの内一部の細胞が心筋細胞に分化したことが分かる。さらに、この心筋細胞に分化した細胞の割合は、Brachyuryに陽性であった細胞(図6Aおよび6C)と同じであった。これに対して、図6I〜Nに示される無血清・弱酸性pH条件により24時間培養したEBでは、心筋細胞に分化した細胞は、全体の細胞の約8割に上り、これは、Brachyury陽性細胞の割合(図6Bおよび6D)と同じであった。
【0079】
[0069] 上記5日+1日(24時間)で選択された細胞は、抗Brachyury抗体に対し陽性であったが、抗Nkx2.5抗体に対して陰性であった(図6O列P列)。逆に、5日+1日(24時間)+3日の細胞塊は、抗Brachyury抗体に対し陰性であったが、抗Nkx2.5抗体に対して陽性であった。
【0080】
[00701] このように、この細胞塊を更に1〜4日間培養すると自律拍動を行う心筋細胞を高い割合で含有する細胞塊に分化した。よって、5日+1日(24時間)で選択された細胞は予定心筋細胞であることが確認された。
【0081】
[0071] 実施例5 マウス胚性幹細胞における、無血清・弱酸性pH培養条件による心筋細胞の選択
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、かつ弱酸性である培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇および弱酸性pHの複合的な作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇および弱酸性pHの複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0082】
[0072] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目を使用して、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。本実施例においては、自律拍動する心筋細胞がまだ観察されない分化培養5日目(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養液を、無血清のMEM培養液(GIBCO)にインスリン・トランスフェリン・セレニウム(GIBCO)を添加したものに交換し、更に2日間培養を行った。更に得られた予定心筋細胞塊を2日間培養し、心筋細胞へと分化させた。図7Aは、上記で作製した心筋細胞塊の顕微鏡像を示し、図7Bでは、図7Aを横方向から見た模式図を示す。
【0083】
[0073] この条件では、心筋以外の細胞は選択的に細胞死を呈したが、逆に心筋細胞は自律拍動を強く行い細胞死を起こさないことがわかった。結果として心筋細胞を多く含む細胞塊が形成された(図7Aおよび図7B)。
【0084】
[0074] 実施例6 無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件における心筋細胞の選択と心筋細胞の調整
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、かつ糖類を除去した培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇および糖類枯渇の複合的な作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇および糖類枯渇の複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0085】
[0075] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として合計7日間培養し心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。分化開始10日目まで培養した胚様体に対して、培養液中の糖類を限りなく除去するために、D-MEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)(無糖)培養液(GIBCO)で4〜5回洗浄し、最終的に乳酸1 mMを加えたD-MEM培養液(GIBCO)中で、7日間(複数回の実験から、自律拍動する心筋細胞の生存率と、他の細胞の生存率を目視で確認し、5〜10日間の範囲で調節を行う必要がある。)培養を行った。生体内の乳酸濃度は生理的条件下で4 mM程度まで上昇することから、この乳酸濃度は生理的なものである。
【0086】
[0076] この結果、図8のように生細胞として心筋細胞からなるドーム状の細胞網が形成された。すなわち、図8Aは、選択された網目状になった心筋細胞を示し、図8Bでは、図8Aを横から見た模式図を示す。
【0087】
[0077] 実施例7 心筋細胞塊に付着する死細胞の除去
実施例6にて作製した細胞塊には、死細胞や細胞外マトリックスが付着している。これを除去し心筋細胞塊のみを精製する必要がある。しかしながら、事前の検討において、トリプシン等のタンパク質を非選択的に消化する酵素を用いた場合、心筋細胞の生存率は著しく低下することが明らかになった。
【0088】
[0078] そこで、本実施例においては、死細胞や細胞外マトリックスを選択的に除去することができる条件を検討することを目的とした。
[0079] 実施例6において作製し図8で示した細胞塊を、細胞外マトリクスの一つであるコラーゲンを選択的に消化するコラゲナーゼ0.01〜0.1%を用いて、37℃にて20分消化した。コラゲナーゼのみで処理した後、生理的浸透圧を有する任意の等張液によって洗浄を行った。この段階で、心筋細胞は、細胞塊(直径40μm以上)を維持しているため、洗浄は直径40μmの穴を有する市販の膜を介して液交換を行うことによって行い、分散した心筋細胞以外の細胞を選択的に除去した。この洗い作業は4〜5回行った。回収された細胞塊を培養し、心筋細胞の指標となる抗サルコメア-アクチニン抗体(SIGMA)を用いた免疫染色を行った(赤色[細胞質の横紋繊維を染色]、青色[核をDAPI(Molecular probe社)により染色])。
【0089】
[0080] その結果、本方法で精製した心筋細胞塊は心筋細胞を80%含有することが判明した(図9)。
[0081] 実施例8 無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、乳酸を添加した培養条件における心筋細胞の精製
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、弱酸性であり、カルシウムを除去し、かつ糖類を除去した培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇、弱酸性pH、低カルシウム、および糖類枯渇の複合的な作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇、弱酸性pH、低カルシウム、および糖類枯渇の複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0090】
[0082] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)、10%FBS(EQUITEC BIO)、ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目を使用して、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。本実施例においては、自律拍動する心筋細胞がまだ観察されない分化培養5日(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養液を、無血清のMEM培養液(GIBCO)にインスリン・トランスフェリン・セレニウム(GIBCO)を添加したものに交換し、更に2日間培養を行った。更に得られた予定心筋細胞塊を2日間培養し、心筋細胞へと分化させた。この段階で、心筋細胞を非常に高濃度含有する細胞塊が形成された。
【0091】
[0083] 次に培養液中の糖類濃度を限りなく除去するために、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO)で4〜5回洗浄し、最終的に乳酸1 mMを加えたD-MEM培養液(GIBCO)中で、7日間(複数回の実験から、自律拍動する心筋細胞の生存率と、他の細胞の生存率を目視で確認し、5〜10日間の範囲で調節を行う必要がある。)培養した。その結果、図10のように生細胞として心筋細胞のみからなる心筋細胞塊が形成された。
【0092】
[0084] これを細胞外マトリクスの一つであるコラーゲンを選択的に消化するコラゲナーゼ0.01〜0.05%を用いて37℃にて20分間消化した。コラゲナーゼ処理後、生理的浸透圧を有するバッファー(116 mM NaCl、20 mM Hepes、12.5 mM NaH2PO4、5.6 mMグルコース、5.4 mM KCl、0.8 mM MgSO4、pH 7.35)で洗浄を行った。洗浄は直径40μmの穴を有する市販の膜を介して液交換し、合計4〜5回行う。この結果、心筋細胞のみからなる細胞塊と、死細胞からなる高密度凝集体が回収された(図10A)。図10Aの四角で囲った部分の拡大写真を、図10Cに示す。そして、図10Aおよび10Cの死細胞の位置を、図10Bおよび10Dにそれぞれ示す。
【0093】
[0085] この図10に示した死細胞塊である高密度凝集体を、適切な密度勾配遠心、具体的にはPercollTM(Pharmacia社)58.5%を使用する密度勾配遠心を用いて、選択的に除去できることが判明した(図11)。続いて、この結果得られた細胞塊を培養し、心筋細胞の指標となる抗サルコメア-アクチニン抗体と抗GATA4抗体(Santacruz社)を用いた免疫染色を行った。図12Aは、接着した心筋細胞塊を表す。接着細胞塊の周囲には点々とした浮遊死細胞があるが、接着した非心筋細胞は存在しない。図12Bは、図12Aをサルコメア-アクチニン(赤;細胞質)とDAPI(Molecular probe社)(青;核)で免疫染色したものである。図12Cは、図12AをGATA4(赤;核)とDAPI(青;核)で免疫染色したものである。共染色された核は紫色となる。その結果、本方法で精製した心筋細胞塊は心筋細胞を99.0%含有することが判明した(図12C)。
【0094】
[0086] 実施例9 無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、アスパラギン酸・グルタミン酸を添加した培養条件における心筋細胞の精製
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、弱酸性であり、カルシウムを除去し、かつ糖類を除去した培養液中にアスパラギン酸・グルタミン酸を添加して培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対するアスパラギン酸・グルタミン酸の代償性の作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際におけるアスパラギン酸・グルタミン酸の代償性の作用、について検討することを目的とした。
【0095】
[0087] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)10%FBS(EQUITEC BIO)ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目を使用して、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。本実施例においては、自律拍動する心筋細胞がまだ観察されない分化培養5日(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養液から血清を除去し、弱酸性pH低カルシウム環境で3日間培養を行った。この段階で、心筋細胞を非常に高濃度含有する細胞塊が形成された。次に培養液中の糖類濃度を限りなく除去するために、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO)で4〜5回洗浄した。洗浄は直径40μmの穴を有する市販の膜を介して液交換を行った。最終的に、DMEM培養液(無糖)に対して、グルタミン酸(SIGMA)20 mg/L及びアスパラギン酸(SIGMA)20 mg/Lを加え、5日間(複数回の実験から、自律拍動する心筋細胞の生存率と、他の細胞の生存率を目視で確認し、3〜10日間の範囲で調節を行う必要がある。)培養した。その結果、心筋細胞のみからなる心筋細胞塊が形成された。これを細胞外マトリクスの一つであるコラーゲンを選択的に消化するコラゲナーゼ0.03%で、37℃温浴で振盪20分間消化した。コラゲナーゼ処理後、生理的浸透圧を有する任意のバッファー(116 mM NaCl、20 mM Hepes、12.5 mM NaH2PO4、5.6 mMグルコース、5.4 mM KCl、0.8 mM MgSO4、pH 7.35)で洗浄を行った。洗浄は直径40μmの穴を有する市販の膜を介して液交換し、合計4〜5回行った。この結果、心筋細胞のみからなる細胞塊が回収された。得られた細胞塊を培養し、心筋細胞の指標となる抗サルコメア-アクチニン抗体と抗GATA4抗体を用いた免疫染色を行った(図13)。
【0096】
[0088] また、細胞を統計的に処理し、既知のデータと比較した(図13)。図13Aは、自律拍動を行う心筋細胞コロニーの顕微鏡像を示し、図13Bは、自律拍動を行う心筋細胞コロニーのサルコメア-アクチニン染色(赤;細胞質)とGATA-4染色(緑;核)、DAPI染色(青;核)を示す。
【0097】
[0089] その結果、本方法で精製した心筋細胞塊は心筋細胞を99.8%含有することが示された。この精製率は、既存の心筋細胞精製方法(例えば、FASEB J. 2000; 14: 2540-2548;J Clin Invest. 1996; 98: 216-224;FASEB J. 2003; 17: 740-742;J Mol Cell Cardiol. 2003; 35: 1461-1472)で示された精製結果のどれよりも高いものであることが明らかになり、したがって本方法が高度な精製が可能であり、かつ高収率であることが示された(表1)。
【0098】
[0090]
【表1】
【0099】
実施例10 マウス骨髄由来成体幹細胞から作製した心筋細胞の精製
本実施例においては、間葉系幹細胞と言われるマウス骨髄由来成体幹細胞から、心筋細胞を作製し、選択・精製することを目的として行った。
【0100】
[0091] マウス骨髄由来成体幹細胞(メスC3H/Heマウス)から分化させた心筋細胞は、国際公開WO01/048151記載の細胞及び方法を用いて誘導した。すなわち、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)(GIBCO)に牛胎仔血清20%を添加して調整したメディウムで、CMG細胞(CMG細胞の樹立方法は、J Clin Invest, March 1999, Vol.103,p697-705を参照)を培養し、終濃度3μmol/l の5-アザシチジン(SIGMA)を24時間添加し、5-アザシチジンを含まない上記培養液で2〜3週間培養して心筋細胞を分化誘導した。自律拍動心筋細胞の確認後、培養環境から血清を除去し、弱酸性pH・低カルシウム・無糖であるが、乳酸1 mMを添加したD-MEM培養液(GIBCO)中で5日間培養を行った。培養後死細胞を除去し、残存する生細胞に対し、心筋細胞の指標となる抗サルコメア-アクチニン抗体を用いた免疫染色を行った。
【0101】
[0092] 図14Aは選択前の培養細胞の様子を表す。拍動細胞を含む領域を破線で図示した。図14B〜Cは選択された細胞を示す。図14Bは位相差顕微鏡像を、図14C図14Bと同視野のサルコメア-アクチニン蛍光免疫染色像を、それぞれ示す。その結果、本方法で作製した細胞の約90%が心筋細胞であることが判明した(図14)。
【0102】
[0093] 実施例11 マウス胎児由来心筋細胞の精製
本実施例においては、マウス胎児から、心筋細胞を精製することを目的として行った。
[0094] まず、胎生7〜9日のマウス胚を母体子宮内から取り出し、丁寧に胚外組織と分離した後、ピペッティングによってバラバラの細胞塊とした。このようにして得られた細胞塊を、無血清・弱酸性pH・低カルシウム・無糖であるが、乳酸0.5 mMを添加した培養液中で、5日間(複数回の実験から、自律拍動する心筋細胞の生存率と、他の細胞の生存率を目視で確認し、3〜10日間の範囲で調節を行う必要がある。)培養を行った。この培養液はHank's BSS[無糖]:RPMI[無糖]=9:1の比で混合して作製した。このようにして精製心筋細胞を接着培養し、培養後、死細胞を除去し、残存する生細胞に対し、心筋細胞の指標となるサルコメア-アクチニン蛍光免疫染色(緑色;細胞質)、およびDAPI染色(赤色;核)を行った。
【0103】
[0095] 図15Aは、2つの異なるコロニーについて、拍動する細胞群の位相差顕微鏡像を示す。図15Bは、4つの異なるコロニーについて、サルコメア-アクチニンとDAPI染色を重ね合わせたものを示す。その結果、本方法で作製した細胞の約99%が心筋細胞であることが判明した(図15)。
【0104】
[0096] 実施例12 無血清・弱酸性・低カルシウム・無糖であり、ピルビン酸を添加した培養条件における心筋細胞の精製
本実施例においては、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、弱酸性であり、カルシウムを除去し、かつ糖類を除去した培養液中にピルビン酸を添加して培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対するピルビン酸の代償性の作用、より具体的には細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際におけるピルビン酸の代償性の作用、について検討することを目的とした。
【0105】
[0097] マウス胚性幹細胞を、培養液[α-MEM(SIGMA)10%FBS(EQUITEC BIO)ペニシリン・ストレプトマイシン(GIBCO)]を用いて、EBあたり75個のES細胞をハンギングドロップ法により細胞塊として分化開始後5日目を使用して、予定心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)へと分化させた。本実施例においては、自律拍動する心筋細胞がまだ観察されない分化培養5日(4日から6日目でも同様の結果を得た)に、培養液を、無血清のMEM培養液(GIBCO)にインスリン・トランスフェリン・セレニウム(GIBCO)を添加したものに交換し、更に2日間培養を行った。更に得られた予定心筋細胞塊を2日間培養し、心筋細胞へと分化させた。この段階で、心筋細胞を非常に高濃度含有する細胞塊が形成された。次に培養液中の糖類濃度を限りなく除去するために、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO)で4〜5回洗浄した。洗浄は直径40μmの穴を有する市販の膜を介して液交換を行った。この洗浄の後、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO)に対して、最終的にピルビン酸1 mMを加えて、5日間培養を行った。
【0106】
[0098] 次に細胞外マトリクスの一つであるコラーゲンを選択的に消化するコラゲナーゼType3(Worthington Biochemical Corp)0.05%を用いて、37℃にて20分間振とうした。コラゲナーゼ処理後、生理的浸透圧を有するバッファー(116 mM NaCl、20 mM Hepes、12.5 mM NaH2PO4、5.6 mMグルコース、5.4 mM KCl、0.8 mM MgSO4、pH 7.35)で洗浄を行った。その結果、本方法で精製した心筋細胞塊は心筋細胞を約9割以上の自律拍動細胞を含有することが判明した(図16)。
【0107】
[0099] 実施例13 無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件における霊長類マーモセット胚性幹細胞由来心筋細胞の選択と心筋細胞の調製
本実施例においては、霊長類マーモセット胚性幹細胞由来心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、かつ糖類を除去した培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇および糖類枯渇の複合的な作用、より具体的には霊長類マーモセット胚性幹細胞由来の細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇および糖類枯渇の複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0108】
[0100] マーモセット胚性幹細胞は、財団法人・実験動物中央研究所から入手した。このマーモセット胚性幹細胞を、マイトマイシンC処理により増殖不活性化したマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast;MEF)を用いて未分化維持培養を行った。培養液[KO-DMEM(GIBCO)、20%KO-SERUM(GIBCO)、1.6 mM L-グルタミン、0.1 mM非必須アミノ酸(MEM)、0.2 mMβ-メルカプトエタノール(2-ME;Sigma)、100 IU/mlペニシリン、100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、および8 ng/ml組換えヒト白血病阻止因子(LIF;Chemicon)、組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Peprotech)]を用いた。植え継ぎに際しては、0.1%III型コラゲナーゼ(Wortington)、37℃10分にてESコロニーを分離した。
【0109】
[0101] 続いて、MEFとESを分離するために、ポアサイズ100μmのメッシュの通過液を取得し、これをポアサイズ40μmのメッシュの非通過細胞塊を取得した。この細胞塊がすなわち純粋なES細胞塊である。分化にあたり、EBあたり50〜1000個のES細胞塊をバクテリアディッシュ法により胚様体として合計15〜30日間培養し、心筋細胞を含む胚様体へと分化させた。この際に使用した培養液は、本実施例において上述した培養液から、bFGFを除いたもの[KO-DMEM(GIBCO)、20%KO-SERUM(GIBCO)、1.6 mM L-グルタミン、0.1 mM非必須アミノ酸(MEM)、0.2 mMβ-メルカプトエタノール(2-ME;Sigma)、100 IU/mlペニシリン、100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、および8 ng/ml組換えヒト白血病阻止因子(LIF;Chemicon)]であった。
【0110】
[0102] 培養液中の糖類を限りなく除去するために、胚様体を遠沈管に移し、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO)で5回洗浄し、最終的に乳酸1 mMを加えたD-MEM培養液(無糖)(GIBCO)中で、15日間培養を行った。生体内の乳酸濃度は生理的条件下で4 mM程度まで上昇することから、この乳酸濃度は生理的なものでありこの濃度までの範囲で調整する必要がある。
【0111】
[0103] 15日間の培養後の細胞塊の状態を、図17に示す。この結果、図17のように生細胞として心筋細胞からなる気泡状の細胞構造が形成された。すなわち、図17A〜Cは、無糖+乳酸1mMの培養液中で選択的に生存する、気泡状になった心筋細胞を示す。図17Aにおいて非常に光透過性の低い部分もしくは、胚様体そのものは、既に選択的に細胞死を起こしている。また、図17Bおよび図17B’に示した胚様体は、胚様体表面の泡状細胞が生存している。図17Bをさらに拡大し図17Cに示した。
【0112】
[0104] これに対し、上記の培養液(bFGF不含有)を同量加え3〜7日間培養を行った。生存する心筋細胞が自律拍動を再開し、安定化したら、強制的な攪拌を行いながら0.1%III型コラゲナーゼ(Wortington)を用いて37℃にて10分間処理し、死細胞と生細胞を分離する。死細胞は、実施例8記載の方法で除去した。フィブロネクチン(Sigma)にてコーティングしたディッシュに接着させた(図18左)。4%パラフォルムアルデヒドにて固定後、実施例8と同様に抗アクチニン抗体(Sigma)および、実施例4と同様に抗Nkx2.5抗体(Santacruz)にて免疫染色を行った(それぞれ、図18右)。
【0113】
[0105] この結果、マーモセット胚性幹細胞を、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件下にて培養することにより細胞を精製したところ、心筋細胞を選択的に取得することができることが判明した。
【0114】
[0106] 実施例14 霊長類マーモセット胚性幹細胞由来心筋細胞の免疫不全マウス心臓に対する移植と生着の確認
本実施例においては、霊長類マーモセット胚性幹細胞由来心筋細胞の利用方法である心臓に対する移植と生着に関する検討を目的とした。
【0115】
[0107] 29ゲージの注射針を有する注射シリンジ(テルモ)内に実施例13にて作製したマーモセット精製心筋細胞を、0.2%III型コラゲナーゼ(Wortington)、0.125%トリプシン(GIBCO)となるように生理的浸透圧を有する緩衝液(116 mM NaCl、20 mM Hepes、12.5 mM NaH2PO4、5.6 mMグルコース、5.4 mM KCl、0.8 mM MgSO4、pH 7.35)に懸濁した溶液を用いて、37℃にて20分、攪拌を行いながら処理した。これによって1〜30個程度の心筋細胞で構成される小細胞塊を作製し、移植に用いた。この心筋細胞を含む生理的塩濃度の上記バッファー100μLを吸引した。
【0116】
[0108] 免疫不全マウスであるNOD-SCID(クレア)7週齢オスをフォーレン(アボット)を用いて吸入麻酔した。その後、気管内挿管による人工呼吸下で開胸した。露出した心臓の心先部から注射針を心基部に向けて心壁内に挿入し、一箇所に付き30μL程度を注入した。閉胸し、麻酔を離脱させ飼育を継続した。
【0117】
[0109] 移植後15日目に、心臓を麻酔下にて摘出し、4%パラホルムアルデヒドによって組織を固定した。厚さ10μmの凍結切片を作製し、一次抗体としてヤギ抗Nkx2.5抗体(Santacruz)を、二次抗体としてロバ抗ヤギ抗体-Alexa 488(緑色に発色)(Molecular probes)を使用した免疫染色(図19B)、または一次抗体としてマウス抗サルコメア-アクチニン抗体(Sigma)を、二次抗体としてウサギ抗マウス抗体-Alexa 594(赤色に発色)(Molecular probes)を使用した免疫染色(図19D)、のいずれかを行った。
【0118】
[0110] 一方で、マウス抗ヒト核抗原抗体(霊長類全般の核抗原に反応)(Chemicon)とヤギ抗マウス抗体-Alexa 633(Molecular probes)を試験管内で反応させ、複合体を形成した。続いて正常マウス血清を用いて余剰のヤギ抗マウス抗体-Alexa 633(赤外)の反応性を阻害した。この操作によって作製した抗体複合体を上記の切片に反応させ、合計3色の染色を行った(図19B〜19D)。
【0119】
[0111] いずれの免疫染色も、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて画像化を行った。結果を図19に示す。
[0112] この結果、図の大きな核を有する細胞がマーモセット由来であることが判明した。すなわち、この図において、心筋マーカーであるNkx2.5を発現する霊長類細胞が、アクチニンにより染色される心筋細胞の中に見られることが明らかになった。これは、マーモセットES細胞由来の心筋細胞が、マウス心臓内に生着したことが確認されたことを意味する。
【0120】
[0113] 実施例15 無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件におけるヒト胚性幹細胞由来心筋細胞の選択と心筋細胞の調製
本実施例においては、ヒト胚性幹細胞由来心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)を、血清を除去し、かつ糖を除去した培養液中で培養することにより、心筋細胞を含む細胞塊(胚様体)に対する血清枯渇および糖枯渇の複合的な作用、より具体的にはヒト胚性幹細胞由来の細胞塊(胚様体)から心筋細胞を選択する際における血清枯渇および糖枯渇の複合的な作用、について検討することを目的とした。
【0121】
[0114] ヒト胚性幹細胞は、国立大学法人・京都大学再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センター(ナショナルバイオリソースプロジェクトによるES細胞センター)から入手した。このヒト胚性幹細胞を、マイトマイシンC処理により増殖不活性化したマウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast;MEF)を用いて未分化維持培養を行った。培養液[F12/DMEM(1:1)(SIGMA、製品番号D6421)、20%KO-SERUM(GIBCO)、1.6 mM L-グルタミン、0.1 mM非必須アミノ酸(MEM)、0.1 mMβ-メルカプトエタノール(2-ME;Sigma)、100 IU/mlペニシリン、100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、および組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Peprotech)]を用いた。植え継ぎに際しては、0.1%III型コラゲナーゼ(Wortington)、37℃10分にてESコロニーを分離した。
【0122】
[0115] 続いて、MEFとESを分離するために、ポアサイズ40μmのメッシュの非通過細胞塊を取得した。この細胞塊がすなわち純粋なES細胞塊である。分化にあたり、EBあたり50〜1000個のES細胞塊をバクテリアディッシュ法により胚様体として合計15〜30日間培養(上記培養液を用いる。ただしbFGF不含有)し心筋細胞を含む胚様体へと分化させた。培養液中の糖を限りなく除去するために、胚様体を遠沈管に移し、D-MEM培養液(無糖)(GIBCO, 製品番号11966)で5回洗浄し、最終的に乳酸1 mMを加えたD-MEM培養液(無糖)(GIBCO, 製品番号11966)中で、15日間培養を行った。生体内の乳酸濃度は生理的条件下で4 mM程度まで上昇することから、この乳酸濃度は生理的なものでありこの濃度までの範囲で調整する必要がある。
【0123】
[0116] 糖存在条件で培養を行った細胞塊(対照条件)と上記無糖条件下で15日間の心筋細胞選択培養を行った細胞塊(心筋選択条件)の状態を、位相差像として図20左側に示す。これらの細胞の生死を示すために、生存の指標である膜電位を検出して蛍光を発するTMRM(Molecular Probes社)により染色を行い、図20右側にそれぞれ示した。この結果、図20上段のように、有糖(対照)条件群では全ての胚様体が蛍光を有する(すなわち、すべての胚葉体が生細胞から構成される)に対し、図20下段のように、無糖(心筋選択)条件における培養によって、蛍光を示さない細胞塊(すなわち、死細胞から構成される細胞塊)が出現した。しかも、無糖(心筋選択)条件において生存する細胞塊は、全て自律拍動を行っていた。
【0124】
[0117] これに対し、上記の培養液(bFGF不含有)を同量加え3〜7日間培養を行った。生存する心筋細胞が自律拍動を再開し、安定化したら、強制的な攪拌を行いながら0.1%III型コラゲナーゼ(Wortington)を用いて37℃にて10分間処理し、死細胞と生細胞を分離する。死細胞は、実施例8記載の方法で除去した。次いで、フィブロネクチン(Sigma)にてコーティングしたディッシュに接着させた。
【0125】
[0118] 4%パラフォルムアルデヒドにて固定後、実施例8と同様に抗アクチニン抗体(Sigma)および、実施例4と同様に抗Nkx2.5抗体(Santacruz)にて免疫染色を行い、各細胞塊の染色像を図21に示した。この図において示されるように、DAPIで染色された細胞核(図21a)はすべて、心筋マーカーである抗Nkx2.5抗体により免疫染色された細胞核(図21c)と重なった。そして別の心筋マーカーである抗アクチニン抗体での免疫染色像(図21d)と抗Nkx2.5抗体により免疫染色像とを重ね合わせたところ、抗Nkx2.5抗体により免疫染色された細胞と抗アクチニン抗体で免疫染色された細胞とは、完全に重なることが明らかになった(図21e)。
【0126】
[0119] この結果、ヒト胚性幹細胞を、無糖・無血清であり乳酸を添加した培養条件下にて培養することにより細胞を精製したところ、心筋細胞を選択的に取得することができることが判明した。
図1
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図6-1】
図6-2】
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図12-1】
図12-2】
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