特許第5756151号(P5756151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5756151トランスチレチンの安定化及びトランスチレチンの誤った折り畳みの阻害のための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756151
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】トランスチレチンの安定化及びトランスチレチンの誤った折り畳みの阻害のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/603 20060101AFI20150709BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150709BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20150709BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   A61K31/603
   A61P9/00
   A61P25/00
   A61P43/00 111
   A61P43/00
【請求項の数】5
【全頁数】73
(21)【出願番号】特願2013-170867(P2013-170867)
(22)【出願日】2013年8月21日
(62)【分割の表示】特願2010-162800(P2010-162800)の分割
【原出願日】2003年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-256521(P2013-256521A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】60/435,079
(32)【優先日】2002年12月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】60/465,435
(32)【優先日】2003年4月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,ジェフリー,ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】関島 良樹
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry,1999年,7,p.1339-1347
【文献】 Br. J. clin. Pharmac.,1977年,4,p.31S-36S
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/603
A61P 9/00
A61P 25/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスチレチンアミロイド病を治療するための薬剤であって、1日2回250mgのジフルニサルを投与するように調製されている上記薬剤
【請求項2】
トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド多発性神経障害である、請求項1に記載の薬剤
【請求項3】
トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド心筋症である、請求項1に記載の薬剤
【請求項4】
トランスチレチンアミロイド病が老人性全身性アミロイド症である、請求項1に記載の薬剤
【請求項5】
トランスチレチンアミロイド病が肝臓移植後の心アミロイド症である、請求項1に記載の薬剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2002年12月19日出願の米国仮出願番号60/435,079に基づく優先権を主張しており、その全内容は参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府委託研究に関する陳述
本明細書に開示した研究の幾つかを支援するために用いられた資金は、国立衛生研究所により裁定された認可番号NIH DK 46335によって提供された。政府は本発明における一定の権利を有することがある。
【0003】
技術分野
本発明は、一般的にタンパク質の誤った折り畳み(misfolding)に関する。より詳しくは、本発明は、トランスチレチンの安定化、トランスチレチンの誤った折り畳みの阻害、及びそれに関連するアミロイド病の治療のための組成物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
トランスチレチン(TTR)は、血清及び脳脊髄液中に存在する55kDのホモテトラマータンパク質である。TTRの機能は、L-チロキシン(T)及びホロ-レチノール結合タンパク質(RBP)を輸送することである。TTRは、ヒトにおける疾患の病理に導くフィブリル及び他の凝集物に変換され得る20種を超える非相同アミロイド生成タンパク質の一つである。これらの疾患は、タンパク質が凝集したための機能喪失によって引き起こされるようには思われない。それどころか、凝集は、まだ明らかにされていない機構によってニューロン/細胞性機能障害を引き起こすように思われる。
【0005】
変性条件下では、律速的な野生型TTRテトラマーの解離及び迅速なモノマーの誤った折り畳みは、アミロイドへの集合ミスを可能にし、老人性全身性アミロイド症(SSA)の原因となると推定される。80種より多いTTR変異体の一つが解離して誤って折り畳まれると、結果として家族性アミロイド多発性神経障害(FAP)及び家族性アミロイド心筋症(FAC)を招く。
【0006】
TTRテトラマーは、二つのC対称T結合部位を有する。負に共同するTの結合はTTRテトラマーを安定化し、そしてアミロイドフィブリル形成を阻害することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
残念ながら、TTRの1%未満がヒト血清中でそれと結合したTを有する。なぜならば、甲状腺結合グロブリン(TBG)はTTRと比較してTに対する親和性の程度が高いからである。さらに、Tの血清濃度は、TTRの血清濃度(3.6〜7.2μM)と比較して相対的に低い(0.1μM)。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも一部は、トランスチレチンテトラマーの天然状態の動力学的安定化がタンパク質の誤った折り畳みを阻害するという発見に基づいている。この発見は、タンパク質の誤った折り畳みが、トランスチレチンアミロイド病を含む種々の疾患の過程において果たす役割のために重要である。トランスチレチンの誤った折り畳みを阻害することにより、このような疾患を抑制し、症状を軽減し、そして/又は若干の場合には該疾患を予防又は治癒することができる。
【0009】
トランスチレチンの天然状態の動力学的安定化が誤った折り畳みを効果的に阻害するという発見は、潜在的に高い特異性及び低い毒性を有する治療用組成物の開発を可能にする。従って、トランスチレチンの安定化能を有する典型的なビアリール試薬を本明細書に開示するが、タンパク質を選択的に安定化する他の試薬を設計することができる。例えば、本明細書に記載するように、トランスチレチンへの結合に対して高度に選択的であり、かつトランスチレチンの天然状態を安定化するポリ塩化ビフェニル、ジフルニサル類似体又はベンゾオキサゾールを設計及び製造することが可能である。
【0010】
一つの態様において、本発明は、トランスチレチンテトラマーの解離を防止又は減少する化合物のスクリーニング方法を特徴とする。本方法は、次の段階:トランスチレチンテトラマーを候補化合物と接触させること;及び該候補化合物がトランスチレチンテトラマーの解離に関連する活性化エネルギーを増加させるかどうか、これによってトランスチレチンテトラマーの解離を防止又は減少するかを決定することを含むことができる。本方法は、場合により、候補化合物がフィブリル形成(fibril formation)を阻害する能力を測定する追加の段階を含むことができる。
【0011】
一つの実施形態において、本方法は、上記化合物が、トランスチレチンテトラマーの解離遷移状態の不安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止するかどうかを決定する段階を含む。別の実施形態において、本方法は、上記化合物が、トランスチレチンテトラマーを解離遷移状態より異常に安定化することによりトランスチレチンテトラマーの解離を防止するかどうかを決定する段階を含む。
【0012】
このような方法に使用される候補化合物は、場合により小分子であってよい。このような小分子は、テトラマー結合によりトランスチレチンの天然状態を安定化し、これによって変性及び生理的条件下での解離及びアミロイド症を動力学的機構により遅らせることができる。この化合物は、場合により、10.6μMの濃度で投与したときに、ヒト血中のTTRに0.1を超える結合化学量を示す。
【0013】
小分子は、場合により、1500未満の分子量を有してよく、そして非共同的又は正共同的にトランスチレチンに結合することができ、そして>2.3kcal/molの結合エネルギーを与えることができる。小分子は、Kd1 及びKd2 <100nM(例えば、<10nM)及び/又は高い血漿濃度を示すことができ、これら両者は2.0kcal/molを超えるタンパク質安定化に寄与する。また、小分子は、アミロイド症の発生率を減少させ、そして酸媒介又はMeOH媒介アミロイド生成速度の減速/又は尿素媒介TTR解離速度の減速が可能である。
【0014】
幾つかの実施形態において、小分子は、ビフェニルアミン、ビフェニル、オキシムエーテル、ベンズアゾール、又は二つの芳香族環からなる他の構造であって、その一方の環が酸若しくはフェノールのような親水性基を有し、他方がハロゲン若しくはアルキルのような疎水性基を有するものを含む。
【0015】
一つの実施形態において、候補化合物は、一方の環が親水性置換基を有し、他方が疎水性置換基を有するビアリール、又は両方の環が少なくとも1個の親水性置換基を有するビアリールである。親水性基は、フェノール、COOH、ベンジルアルコール、ボロン酸若しくはエステル、テトラゾール、アルデヒド若しくは水和アルデヒド、又は直接に若しくは水媒介H結合によってタンパク質に対してH結合供与体又は受容体として作用する官能基であってよい。ビアリールは、両方の環がフェノール、カルボキシレート及びアルコール並びに若干の場合にはTTRのハロゲン結合ポケットを補完するハロゲンを含む親水性官能基で置換された対称ビアリール、例えば、次の官能基:3-Cl、4-OH、5-Cl及び3’-Cl、4’-OH、5’-Clを有するビアリールであってよい。一つの実施形態において、ビアリールの少なくとも一方の環は、2,4-ジフルオロ又は3,5-ジフルオロ又は2,6-ジクロ又は3,5-ジクロ又は3-Cl、4-OH、5-Cl又は3-F、4-OH、5-F、3-COOH、4-OH又は3-OH又は3-COOH又は4-COOH又は3-CH2OH又は4-CHOH置換基で置換されている。典型的なビアリールはポリ塩化ビフェニル、例えばヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルであり、ここで、少なくとも一方の環はOH及び/又はCl置換基を有し、該置換基は3-Cl、4-OH、5-Cl又は2-Cl、3-Cl、4-OH、5-Cl又は3,4-ジCl、又は2,3,4-トリクロロ又は2,3,4,5-テトラクロロを含む。塩素以外のハロゲンを候補化合物に使用することができる。候補化合物はベンゾオキサゾールであってもよい。
【0016】
一つの実施形態において、候補化合物はジフルニサル類似体である。ジフルニサル並びに種々のジフルニサル類似体の構造を本明細書に記載する。ジフルニサル類似体は、場合により、ジフルニサルと比較して減少又は消失したNSAID活性を有することができる。例えば、ジフルニサル類似体は、ジフルニサルと比較して減少又は消失したシクロオキシゲナーゼ阻害剤活性を有することができる。
【0017】
一つの実施形態において、本方法は、ジフルニサル類似体がNSAID活性を示すかどうかを決定する追加の段階を含む。例えば、本方法は、ジフルニサル類似体がシクロオキシゲナーゼ阻害剤活性を示すかどうかを決定する追加の段階を含むことができる。
【0018】
本スクリーニング方法に使用されるトランスチレチンは、野生型トランスチレチン又は突然変異体トランスチレチン、例えば、トランスチレチンアミロイド病、例えば家族性アミロイド多発性神経障害又は家族性アミロイド心筋症の発症に原因として関連する自然発生突然変異体トランスチレチンであってよい。典型的な自然発生突然変異体トランスチレチンは、V122I、V30M、L55Pを含むが、これらに限定されるものではない(突然変異体の命名は、野生型に対して、示したアミノ酸の位置での置換を記述する;例えば、Saraiva et al. (2001) Hum. Mut. 17:493-503 参照)。
【0019】
また、本発明は、組織又は生体液(biological fluid)中のトランスチレチンを安定化し、これによって誤った折り畳みを阻害する方法を提供する。一般的に、本方法は、組織又は生物学的液体に、トランスチレチンと結合してトランスチレチンテトラマーの天然状態の動力学的安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止する本明細書に記載した化合物の安定化量を投与することを含む。
【0020】
このように、病変組織中のトランスチレチンを安定化する方法は、誤った折り畳みを改善し、そして関連する疾患の症状を軽減し、そして疾患に応じて疾患の治癒に寄与することができる。本発明は、組織中及び/又は細胞内でのトランスチレチンの誤った折り畳みを阻害することを想定している。誤った折り畳みの程度、従って本発明の方法により達成される阻害の程度は、種々の方法、例えば実施例に記載の方法により評価することができる。
【0021】
従って、別の態様において、本発明は、トランスチレチンアミロイド病に罹患したと診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの天然状態の動力学的安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止する化合物の治療有効量を投与することを含む、トランスチレチンアミロイド病の治療方法を含む。
【0022】
一つの実施形態において、本発明は、トランスチレチンアミロイド病に罹患したと診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するジフルニサル類似体(例えば、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するジフルニサル類似体)の治療有効量を投与することを含む、トランスチレチンアミロイド病の治療方法を特徴とする。ジフルニサル類似体は、場合により、ジフルニサルと比較して減少又は消失したNSAID活性(例えば、シクロオキシゲナーゼ阻害剤活性)を有することができる。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、トランスチレチンアミロイド病に罹患したと診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するポリ塩化ビフェニル(例えば、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するポリ塩化ビフェニル)の治療有効量を投与することを含む、トランスチレチンアミロイド病の治療方法を特徴とする。ポリ塩化ビフェニルは、ヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルであってよい。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、トランスチレチンアミロイド病に罹患したと診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するジベンゾオキサゾール(例えば、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するジベンゾオキサゾール)の治療有効量を投与することを含む、トランスチレチンアミロイド病の治療方法を特徴とする。
【0025】
トランスチレチンアミロイド病は、例えば、家族性アミロイド多発性神経障害(familia amyloid polyneuropathy)、家族性アミロイド心筋症(cardiomyopathy)又は老人性全身性アミロイド症であってよい。
【0026】
本発明の方法により治療される被験者はヒト被験者であってよいが、本発明の原理は、本発明が全ての哺乳類に関して有効であることを示すと理解すべきである。この文脈において、「哺乳類」は、トランスチレチンの誤った折り畳みに関連する疾患の治療が望まれる全ての哺乳類の種、特に農業用及び家畜哺乳類の種を含むと理解される。
【0027】
本明細書に記載した化合物(例えば、ジフルニサル類似体、ポリ塩化ビフェニル又はジベンゾオキサゾールのようなビアリール化合物)は、該化合物を含む医薬組成物の製造に薬学的に許容されるものと共に製剤化することができる。本明細書で用いられるように、「薬学的に許容される」、「生理的に許容される」という用語及びその文法的変化は、それらが組成物、担体、希釈剤及び試薬を指すように、互換的に使用され、そしてこれらの材料が望ましくない生理的作用を生じることなく哺乳類に投与できることを表す。
【0028】
また、本発明は、トランスチレチンアミロイド病(例えば、家族性アミロイド多発性神経障害、家族性アミロイド心筋症又は老人性全身性アミロイド症)を治療するための、本明細書に記載した化合物又は医薬組成物の何れかの使用を含む。
【0029】
また、本発明は、トランスチレチンアミロイド病(例えば、家族性アミロイド多発性神経障害、家族性アミロイド心筋症又は老人性全身性アミロイド症)を治療するための医薬の製造における、本明細書に記載した化合物又は医薬組成物の何れかの使用を含む。
【0030】
本明細書に記載した化合物及び治療方法は、TTRアミロイド症に現在利用可能な治療法の選択肢に対して著しい利点を提供する。TTRアミロイド症は典型的に10歳代までに死を招き、そして最近まで不治と考えられた。肝臓移植術は、家族性症例の疾患関連対立遺伝子をWT対立遺伝子で置き換える効果的な手段である。なぜならば、肝臓は典型的にアミロイドを生成するTTR源だからである。肝臓移植術は遺伝子療法の形態として有効ではあるが、それには問題がないわけではない。移植術は、レシピエント及びドナーの両者への侵襲的手術の必要性、長期の移植後免疫抑制療法、ドナー不足、その高いコスト、そして疾患が進行するために適切な候補ではないTTRアミロイド症患者が多いことによって複雑化される。残念ながら、WT TTRはしばしば沈着し続けるので、心アミロイド症(cardiac amyloidosis)は若干の家族性患者では肝臓移植後でさえ進行する。そしてまた、TTRの中枢神経系(CNS)沈着も、それが脈絡叢により合成されるので、移植術によっては軽減されない。WT TTRが沈着するため80歳を過ぎた人々の約25%が侵される最も普及しているTTR疾患、すなわち老人性全身性アミロイド症(SSA)に対して、移植術は実現可能な選択肢ではない。
【0031】
別に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により普通に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施又は試験において、本明細書に記載したのと同様又は等価の方法及び材料を使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で挙げた全ての刊行物、特許出願、特許及び他の文献は、参照により全体として組み入れられる。対立する場合には、定義を含めて本願が支配するだろう。加えて、材料、方法及び実施例は説明にすぎず、限定を意図するものではない。
本発明は、具体的には以下の発明を含む。
(1)トランスチレチンテトラマーの解離を防止又は減少する化合物のスクリーニング方法であって:
トランスチレチンテトラマーを候補化合物と接触させること;及び、
該候補化合物がトランスチレチンテトラマーの解離に関連する活性化エネルギーを増加させ、これによってトランスチレチンテトラマーの解離を防止又は減少するかどうかを決定すること;
を含む前記方法。
(2)上記化合物が、トランスチレチンテトラマーの解離遷移状態の不安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止するかどうかを決定することを含む、(1)に記載の方法。
(3)上記化合物が、トランスチレチンテトラマーの安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止するかどうかを決定することを含む、(1)に記載の方法。
(4)上記候補化合物のフィブリル形成阻害能を測定することをさらに含む、(1)に記載の方法。
(5)トランスチレチンテトラマーが野生型トランスチレチンを含む、(1)に記載の方法。
(6)トランスチレチンテトラマーが自然発生突然変異体トランスチレチンを含む、(1)に記載の方法。
(7)トランスチレチンテトラマーが、原因として家族性アミロイド多発性神経障害の発症に関連する自然発生突然変異体トランスチレチンを含む、(1)に記載の方法。
(8)トランスチレチンテトラマーが、原因として家族性アミロイド心筋症の発症に関連する自然発生突然変異体トランスチレチンを含む、(1)に記載の方法。
(9)トランスチレチンテトラマーが突然変異体トランスチレチンV122Iを含む、(1)に記載の方法。
(10)トランスチレチンテトラマーが突然変異体トランスチレチンV30Mを含む、(1)に記載の方法。
(11)トランスチレチンテトラマーが突然変異体トランスチレチンL55Pを含む、(1)に記載の方法。
(12)上記候補化合物が小分子である、(1)に記載の方法。
(13)上記候補化合物がジフルニサル類似体である、(1)に記載の方法。
(14)上記ジフルニサル類似体がジフルニサルと比較して減少又は消失したNSAID活性を有する、(13)に記載の方法。
(15)上記ジフルニサル類似体がジフルニサルと比較して減少又は消失したシクロオキシゲナーゼ阻害剤活性を有する、(13)に記載の方法。
(16)上記ジフルニサル類似体がNSAID活性を示すかどうかを決定することをさらに含む、(1)に記載の方法。
(17)上記ジフルニサル類似体がシクロオキシゲナーゼ阻害剤活性を示すかどうかを決定することをさらに含む、(1)に記載の方法。
(18)上記候補化合物がポリ塩化ビフェニルである、(1)に記載の方法。
(19)上記ポリ塩化ビフェニルがヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルである、(18)に記載の方法。
(20)トランスチレチンアミロイド病と診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するジフルニサル類似体の治療有効量を投与することを含む、トランスチレチンアミロイド病の治療方法。
(21)上記ジフルニサル類似体が、トランスチレチンテトラマーの天然状態の動力学的安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止する、(20)に記載の方法。
(22)上記トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド多発性神経障害である、(20)に記載の方法。
(23)上記トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド心筋症である、(20)に記載の方法。
(24)上記トランスチレチンアミロイド病が老人性全身性アミロイド症である、(20)に記載の方法。
(25)上記ジフルニサル類似体がジフルニサルと比較して減少又は消失したNSAID活性を有する、(20)に記載の方法。
(26)上記ジフルニサル類似体がジフルニサルと比較して減少又は消失したシクロオキシゲナーゼ阻害剤活性を有する、(20)に記載の方法。
(27)トランスチレチンアミロイド病の治療方法であって、トランスチレチンアミロイド病と診断された被験者に、トランスチレチンテトラマーの解離を防止するポリ塩化ビフェニルの治療有効量を投与することを含む前記治療方法。
(28)上記ポリ塩化ビフェニルが、トランスチレチンテトラマーの天然状態の動力学的安定化によりトランスチレチンテトラマーの解離を防止する、(27)に記載の方法。
(29)上記ポリ塩化ビフェニルがヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルである、(27)に記載の方法。
(30)上記トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド多発性神経障害である、(27)に記載の方法。
(31)上記トランスチレチンアミロイド病が家族性アミロイド心筋症である、(27)に記載の方法。
(32)上記トランスチレチンアミロイド病が老人性全身性アミロイド症である、(27)に記載の方法。
【0032】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び請求項から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】Fig.1は、トランスチレチンのT4結合部位を示す概略図である。
図2】Fig.2A及び2Bは、異なる阻害剤の存在下でのトランスチレチンの展開(折り畳まれていない状態)の時間経過を示すグラフである。
図3】Fig.3A及び3Bは、異なる阻害剤の存在下でのフィブリル形成の時間経過を示すグラフである。
図4】Fig.4A及び4Bは、異なる阻害剤の存在下でのフィブリル形成の時間経過を示すグラフである。
図5】Fig.5は、血漿中のトランスチレチンへの結合に関してスクリーニングしたポリ塩化ビフェニルの構造を示す。
図6】Fig.6は、ヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルの構造を示し、血漿中のトランスチレチンへのヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルの結合を、それらのアミロイドフィブリル阻害特性と共にインビトロで評価した。
図7】Fig.7は、ベンゾオキサゾール化合物によるトランスチレチンフィブリル形成の抑制を示すグラフである。ベンゾオキサゾール上のカルボキシルの位置は左側に示されているが、C(2)フェニル環は下に沿って示されている。バーはパーセントフィブリル形成(ff)、すなわち、阻害剤の非存在下でトランスチレチンにより形成された量(これは100%と定義される)に対して、ベンゾオキサゾール化合物(7.2μM)の存在下でトランスチレチン(3.6μM)から形成されたフィブリルの量を示す。
図8】Fig.8は、ヒト血漿中でインキュベートした後にトランスチレチンに結合したベンゾオキサゾールの化学量(s)を示すグラフである。樹脂結合抗体による免疫沈降を用いてトランスチレチンを捕獲した。トランスチレチンを樹脂から遊離させた後、トランスチレチン及び阻害剤の量を、HPLCクロマトグラム中のそれらのピーク下の面積から定量した。sの最大可能な値は2である。化合物番号は底部の軸に沿って示されている。細い縦線は測定誤差を示す。
図9】Fig.9は、時間(t)の関数としての、阻害剤を含まないか、又は3.6μMの化合物20、21若しくは27又は1.8μMの化合物20の存在下の6M尿素中でのwtトランスチレチン(1.8μM)の解離を示すグラフである。
図10】Fig.10は、トランスチレチンに結合した化合物20のX線共結晶構造を示す。異なるサブユニット中の同等な残基はダッシュ付き及びダッシュ無しの残基番号で区別され、ハロゲン結合ポケット対でそうしたのと同様である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
少なくとも幾つかのアミロイド病は、20種を超える非相同タンパク質又はタンパク質断片の何れか一つの沈着によって引き起こされるように思われ、究極的にはクロス-β-シート四次構造を与える。トランスチレチンのように正常に折り畳まれたタンパク質からのアミロイドフィブリルの形成は、集合成分の中間体を生成するタンパク質の誤った折り畳みを必要とする。トランスチレチン(TTR)アミロイド生成の過程は、三つの異なるアミロイド病 -- 老人性全身性アミロイド症(SSA)、家族性アミロイド多発性神経障害(FAP)及び家族性アミロイド心筋症(FAC)を引き起こすように思われる。SSAは野生型トランスチレチンの沈着に関連する一方で、FAP及びFACは80種を超えるTTR変異体の一つのアミロイド生成により引き起こされる。例えば、Colon, W.; Kelly, J. W. Biochemistry 1992, 31, 8654-60; Kelly, J. W. Curr. Opin. Struct. Biol. 1996, 6, 11-7; Liu, K.; et al. Nat. Struct. Biol. 2000, 7, 754-7; Westermark, P.; et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1990, 87, 2843-5; Saraiva, M. J.; et al. J. Clin. Invest. 1985, 76, 2171-7; Jacobson, D. R.; et al. N. Engl. J. Med. 1997, 336, 466-73; Buxbaum, J. N.; Tagoe, C. E. Ann. Rev. Med. 2000, 51, 543-569; 及び Saraiva, M. J. Hum. Mutat. 1995, 5, 191-6 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【0035】
TTRは2,2,2対称を特徴とする55kDのホモテトラマーであり、ダイマー-ダイマー界面に二つの同一のロート状結合部位を有し、これらの部位において、チロイドホルモン(T4)は血漿及びCSF中で結合することができる。TTRはホロレチノール結合タンパク質の1当量未満に典型的に結合する。テトラマーがモノマーに解離した後のモノマー内での三次構造変化を含むTTRの誤った折り畳みは、タンパク質の集合ミスを可能にし、究極的にはアミロイドを与える。FAPに対して利用可能な治療は、血中の変異体TTRを野生型(WT)タンパク質で置き換える肝臓移植術により媒介される遺伝子療法を採用する。このアプローチは、WT TTRが沈着し続けるのでFACに対しては有効とは思われず、WT TTR沈着の過程が原因であるように見えるSSAの治療にも有用ではないだろう。また、肝臓移植療法は、脳軟膜中にアミロイドフィブリルを沈着し、CNS疾患を招く約10種のTTRに対しても、このTTRが脈絡叢により合成されるので、失敗するだろう。それ故に、一般的な非侵入的な薬剤に基づく治療方策を開発することが望ましい。この薬剤は、基礎が非タンパク質、非ペプチド又は非核酸であることが望ましいことがある。例えば、Blake, C. C.; et al. J. Mol. Biol. 1978, 121, 339-56; Wojtczak, A.; et al. Acta Crystallogr., Sect. D 1996, 758-810; Monaco, H. L.; Rizzi, M.; Coda, A. Science 1995, 268, 1039-41; Lai, Z.; Colon, W.; Delly, J. W. Biochemistry 1996, 35, 6470-82; Holmgren, G.; et al. Lancet 1993, 341, 1113-6; Suhr, O. B.; Ericzon, B. G.; Friman, S. Liver Transpl. 2002, 8, 787-94; Dubrey, S. W.; et al. Transplantation 1997, 64, 74-80; Yazaki, M.; et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000, 274, 702-6; 及び Comwell, C. G. III; et al. Am. J. of Med. 1983, 75, 618-623 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【0036】
トランスチレチンアミロイドフィブリル形成を阻害するジフルニサル類似体の合成
アミロイドフィブリル形成を招くTTRの誤った折り畳みは、テトラマーのT4媒介安定化により防止することができる。テトラマー安定剤の幾つかの構造豊富なファミリーは、TTR内の一方又は両方のT4部位に結合してアミロイド症を予防し、ホルモンT4の起こりそうな副作用がない。これらのテトラマー安定化化合物は、幾つかの非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、例えばフルフェナミン酸、ジクロフェナク、フルルビプロフェン及びジフルニサルを含み、これらは基底状態の結合及び安定化によってテトラマー解離に関連する動力学的バリアを増強することにより機能するように思われる。TTRは血漿中のT4の二次的運搬体であるので、TTRのT4結合能の95%より多くは利用されないままであり、これらの部位を標的にするテトラマー安定化化合物の投与を可能にする。ジフルニサルはシクロオキシゲナーゼ-2であるので、長期投与は胃腸の副作用を招くことがある。従って、減少又は消失したNSAID活性を有するが、血漿中のTTRに対して高親和性を有するジフルニサル類似体が望ましい。この目標に向けた第一段階は、ジフルニサル類似体をアミロイドフィブリル形成の阻害剤として設計及び合成することである。例えば、Miroy, G. J.; et al. Proc. Sci. U. S. A. 1996, 93,15051-6; Klabunde, T.; et al, Nat. Struct. Biol. 2000, 7, 312-21; Baures, P. W.; Peterson, S. A.; Kelly, J. W. Bioorg. Med. Chem. 1998, 6, 1389-4-1; Petrassi, H. M.; et al. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 2178-2192; Baures, P. W.; et al. Bioorg. Med. Chem. 1999, 7, 1339-47; Sacchettini, J. W. Nat. Rev. Drug Disc. 2002, 1, 267-275; Oza, V. B.; et al. J. Med. Chem. 2002, 45, 321-32; Bartalena, L. Clin. Lab. Med, 1993, 13, 583-98; Aldred, A. R.; Brack, C. M.; Schreiber, G. Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol. 1995, 111, 1-15; 及び Mao, H. Y.; et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 10429-10435 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【0037】
TTRテトラマーのサブユニットは三つの直交するC-軸により関連付けられる。図1は、トランスチレチンのT4結合部位の概略描写であり、阻害剤カルボキシレートがLys 15及びLys 15’ のε-アンモニウムとの静電相互作用に関与する前部結合モードを示す。四次構造の界面により作られた二つの同等なT4結合部位は、対称の結晶C軸に対して直交する二つのC軸によって相互に交換される。各T4結合部位は内部及び外部結合キャビティに分類することができる。例えば、Blake, C. C.; Oatley, S. J. Nature 1977, 268, 115-20参照、これは全体として参照により組み入れられる。内部結合キャビティは、1対のハロゲン結合ポケット(HBP)、すなわちHBP3及びHBP3’ で表されるものを含み、これらはLeu 17、Ala 108、Val 121及びThr 119の側鎖により作られる。各サブユニットからの四つのSer 117側鎖の収束は、最も奥の領域及び二つの同一結合部位間の界面を定める。Ser 117ヒドロキシル基は、化合物(例えば、アミロイド形成の阻害剤)上の補完性官能基への水素結合供与体又は受容体として役立つことができるか、又は水分子によって該化合物との静電相互作用を媒介することができる。外部結合部位はHBP1及び1’ からなる一方で、HBP2及び2’ は内部及び外部結合部位の界面に位置している。Lys 15及びLys 15’ のε-アンモニウム基は外部結合キャビティの最も外側の距離を定め、化合物上のアニオン性置換基との静電相互作用を可能にする。TTRテトラマー安定化化合物の多くは前部結合モードで結合し、このモードでは、外部結合ポケットに位置する親水性フェニル環上のアニオン性置換基がLys 15のε-アンモニウム基との静電相互作用に従事する。前部結合モードにおいて、疎水性フェニル環(しばしばハロゲンで置換されている)は、内部結合ポケットを占めることができる。しかしながら、反対方向の結合(背部結合モード)の例も観察された。背部結合モードにおいて、親水性芳香族環は内部キャビティに位置することができ、カルボキシレートがSer 117及びSer 117’ と水素結合するのを可能にする。背部結合モードにおいて、ハロゲン置換疎水性環は、外部キャビティに位置することができる。
【0038】
ジフルニサルはTTRの酸媒介アミロイド生成を減少することができる。ジフルニサルの構造(実施例2参照)は、TTRアミロイド生成を阻害できる新規化合物の設計のための基礎として使用することができる。例えば、Verbeeck, R. K.; et al. Biochem. Pharm. 1980. 29, 571-576; 及び Nuernberg, B.; Koehler, G.; Brune, K. Clin. Pharmacokin. 1991, 20, 81-89 参照。
【0039】
上記化合物は式:
【化1】
【0040】
を有することができ、
式中、Arはアリール又はヘテロアリール基であり、Arはハロ、-R、-OR、-OC(=O)R、-OC(=O)OR、-OC(=O)NHR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-C(=O)R、-CO、-C(=O)NHR、-NR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、-NHC(=O)OR又は-NHS(=O)の1個以上で場合により置換されており、
Arはアリール又はヘテロアリール基であり、Arはハロ、-R、-OR、-OC(=O)R、-OC(=O)OR、-OC(=O)NHR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-C(=O)R、-CO、-C(=O)NHR、-NR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、-NHC(=O)OR又は-NHS(=O)の1個以上で場合により置換されている。
【0041】
各Rは独立して、水素、又は置換若しくは非置換のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリール基である。
【0042】
各Rは独立して、水素、又は置換若しくは非置換のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルケニル、アルキニル、アリール又はヘテロアリール基である。
【0043】
一定の状況において、Arは置換又は非置換のフェニルであってよい。Arは独立して、置換又は非置換のフェニルであってよい。Ar及びArは同時に置換又は非置換のフェニルであってよい。置換基はフルオロ、クロロ、ヒドロキシ、-COH、-COMe、-OMe、-CHOH又はホルミルであってよい。Rは低級アルキルであってよい。
【0044】
本化合物は、無機又は有機の酸及び塩基から誘導される薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。このような酸塩には、次のものが含まれる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスバラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、カンフォスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコペンタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニル-プロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシレート及びウンデカン酸塩。塩基塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えばナトリウム及びカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム及びマグネシウム塩、有機塩基との塩、例えばジシクロヘキシルアミン塩、N-メチル-D-グルカミン、並びにアミノ酸、例えばアルギニン、リジンその他との塩を含む。また、塩基性窒素含有基は、ハロゲン化低級アルキル、例えば塩化、臭化及びヨウ化メチル、エチル、プロピル及びブチル;硫酸ジアルキル、例えば硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル、長鎖ハロゲン化物、例えば塩化、臭化及びヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリル、ハロゲン化アラルキル、例えば臭化ベンジル及びフェネチルその他のような物質で四級化することができる。これによって、水又は油に溶解又は分散する生成物が得られる。
【0045】
本化合物は、TTRテトラマーを安定化することができ、かつTTRアミロイドの形成を阻害することができる。本化合物は、僅かな構造的変化を特徴とするジフルニサルの類似体であってよい。本化合物は、それらがTTRアミロイド阻害に関与するので、構造-活性相関関係を評価するために使用することができる。置換パターン、並びにハロゲン、カルボキシレート、アシル、アルコキシ及びヒドロキシルを含む置換基の数は変動することができる。他のクラスの化合物からの構造-活性データは、カルボキシレート置換基又は類似のアニオン性基若しくはH結合基が重要であるように思われ、多分、Lys 15及び15’ のε-アンモニウム基との静電相互作用、又はSer 117及び117’ との水素結合相互作用に関与する一方で、ハロゲン置換疎水性環はTTRのハロゲン結合ポケットを補完することが明らかにする。2-フルオロ-、4-フルオロ-、3,5-ジフルオロ-、2,4-ジフルオロ-及び2,6-ジフルオロ-を含む、フッ素及び塩素の両方で置換されたアリールを評価することができる。ヨウ素置換アリール基は、チロキシン作用剤としての作用に対するそれらの不安定性及び潜在性のためにあまり望ましくないだろう。カルボキシレート(アニオン性)置換基は、フィブリル阻害及び血漿結合選択性に対するその影響を評価するための幾つかの類似体には、存在していなくてもよい。アルデヒド又はアルコール官能基を有する化合物は、結合選択性及びアミロイドフィブリル阻害に対する非荷電水素結合受容体及び供与体の影響を評価するために合成することができる。アルデヒドのgem-ジオール形態が本質的な結合の種であってよい。
【0046】
一般的に、本化合物は当業者に公知の方法により合成することができる。本化合物を合成する一つの方法は、Suzukiカップリングである:
【化2】
【0047】
例えば、フェニルボロン酸とブロモベンゼン又はヨードベンゼンとの Suzukiカップリングにより、ビフェニル化合物を形成することができる。化合物の製造中に副生物の形成を避けるために、適切な保護基が必要なことがある。例えば、アミノ置換基は、好適なアミノ保護基、例えばトリフルオロアセチル又はtert-ブトキシカルボニルにより保護することができる。他の保護基及び反応条件は、T. W. Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, (3rd, 1999, John Wiley & Sons, New York, N. Y.) に見出すことができる。
【0048】
医薬組成物
本明細書に記載した化合物(例えば、ジフルニサル類似体、ポリ塩化ビフェニル又はベンゾオキサゾール)は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、局所的に、直量に、鼻に、頬側に、膣に又は移植したリザーバーを介して投与できる医薬組成物に製剤化することができる。本明細書で用いられるように、「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、滑液内、胸骨内、鞘内、肝臓内、病巣内及び頭蓋内の注射又は注入技術を含む。
【0049】
医薬組成物は、任意の本化合物又はその薬学的に許容される誘導体を、薬学的に許容される任意の担体と一緒に含むことができる。本明細書で用いられるように、「担体」という用語は、許容される助剤及びビヒクルを含む。本発明の医薬組成物に使用できる薬学的に許容される単体は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩又は電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースに基づく物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックコポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂を含むが、これらに限定されるものではない。
【0050】
医薬組成物は、滅菌注射用調製物、例えば滅菌注射用水性又は油性懸濁液の形態にあってよい。この懸濁液は、当技術分野で公知の技術により、好適な分散又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤化することができる。また、滅菌注射用調製物は、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶剤中の滅菌注射用溶液又は懸濁液であってよく、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として存在することができる。許容されるビヒクル及び溶剤の中で、採用できるものは、水、リンゲル液、及び等張性塩化ナトリウム溶液である。加えて、滅菌硬化油が溶剤又は懸濁媒質として一般的に採用される。この目的で、合成モノ-又はジ-グリセリドを含む全ての銘柄の硬化油を採用することができる。脂肪酸、例えばオレイン酸及びそのグリセリド誘導体は注射用製剤の製造に有用であると同時に、薬学的に許容される天然油、例えばオリーブ油又はヒマシ油は特にそれらのポリオキシエチル化物として有用である。また、これらの油性溶液又は懸濁液は長鎖アルコール希釈剤又は分散剤を含有することができる。
【0051】
医薬組成物は、全ての経口投与可能な用量形態で投与することができ、用量形態は、カプセル、錠剤、巣姿勢懸濁液又は溶液を含むが、これらに限定されるものではない。経口使用のための錠剤の場合、慣用される担体は乳糖及びトウモロコシ澱粉を含む。滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムも典型的に添加される。カプセル形態での経口使用のために、有用な希釈剤は乳糖及び乾燥トウモロコシ澱粉を含む。経口使用のために水性懸濁液が必要な場合には、活性成分は乳化剤及び懸濁剤と混合される。所望ならば、一定の甘味料、香味剤又は着色剤を添加することもできる。
【0052】
別法として、医薬組成物は直腸投与のために坐剤の形態で投与することができる。これらは、薬剤を、室温では固体であるが直腸温度では液体であり、従って直腸内で溶融して薬剤を放出する、好適な非刺激性賦形剤と混合することにより製造することができる。このような材料は、カカオ脂、蜜蝋及びポリエチレングリコールを含む。
【0053】
また、医薬組成物は、治療の標的が局所適用により容易に到達できる部分又は器官を含む場合には特に、局所的に投与することができ、眼、皮膚又は腸管下部の疾患を含む。好適な局所用製剤は、これらの部分又は器官のそれぞれのために容易に製造される。
【0054】
胃腸管下部のための局所適用は、直腸坐剤製剤(上記参照)又は好適な浣腸製剤として行うことができる。局所的経皮貼付剤を使用することもできる。
【0055】
局所適用のために、医薬組成物は、1種以上の担体中に懸濁又は溶解した活性成分を含む好適な軟膏中に製剤化することができる。本化合物の局所適用のための担体は、鉱油、流動パラフィン、白色ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン配合物、乳化ワックス及び水を含むが、これらに限定されるものではない。別法として、医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体中に懸濁又は溶解した活性成分を含む好適なローション又はクリーム中に製剤化することができる。好適な担体は、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セタリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を含むが、これらに限定されるものではない。
【0056】
眼科使用のために、医薬組成物は、塩化ベンザルコニウムのような保存剤を用いるか又は用いることなく、等張性のpH調節した滅菌食塩水中の微粒懸濁液として、又は好ましくは等張性のpH調節した滅菌食塩水中の溶液として製剤化することができる。別法として、眼科使用のために、医薬組成物はワセリンのような軟膏中に製剤化することができる。
【0057】
また、医薬組成物は、鼻エアゾール、又は噴霧器、ドライパウダー吸入器若しくは計量式吸入器の使用による吸入によって投与することができる。このような組成物は、医薬製剤の分野で周知の技術により製造され、そしてベンジルアルコール又は他の好適な保存剤、生物学的利用率を高める吸収促進剤、フッ化炭素、及び/又は他の慣用の可溶化剤又は分散剤を採用して、食塩水中の溶液として製造することができる。単回投与形態を製造するために担体材料と混合できる活性成分の量は、治療されるホスト、及び特定の投与方式に応じて変動するだろう。しかしながら、任意の個々の患者のための特定の用量及び治療計画は、採用する特定化合物の活性、年齢、体重、全般的健康状態、性別、ダイエット、投与時間、排泄速度、薬剤併用、並びに治療医師の判断及び治療される個々の疾患の重症度を含む種々の要因に依存すると考えるべきである。また、活性成分の量は、もしあるとすれば、上記成分と共に併用投与される治療剤又は予防剤に依存することがある。
【0058】
医薬組成物の有効量は、治療される患者に対して治療効果を与えるために必要とされる量であり、種々の要因、例えば阻害剤の性質、患者のサイズ、治療目標、治療すべき病理学的性質、使用される特定の医薬組成物、及び治療医師の判断に依存するだろう。参考のため、Freireich et al., Cancer Chemother. Rep. 1966, 50, 219 及び Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardley, New York, 1970, 537 参照。1日当たり約0.001〜約100mg/kg体重、1日当たり約0.1〜約10mg/kg体重の活性化合物の投与レベルが有用であろう。
【実施例】
【0059】
下記は本発明の実施例である。それらが本発明の範囲を限定するとは決して解釈してはならない。
【0060】
実施例1: タンパク質の誤った折り畳みのエネルギー量の変化によるトランスチレチンアミロイド病の予防
アミロイド症を含む数百のヒトの疾患は、タンパク質の誤った折り畳みに関連している。80の家族性突然変異体であって、トランスチレチン(TTR)アミロイド病理を悪化させるもの[例えば、Val 30→Met 30(V30M)及びLeu 55→Pro 55(L55P)]、又は改善するもの[Thr 119→Met 119(T119M)]は、貴重な力学的洞察を提供する。これまでに特性決定された全ての疾患関連突然変異体は、TTRテトラマーを不安定化し、そして多くは律速テトラマー解離の速度に影響を与え、速い速度はアミロイド症を促進し、遅い速度は遅らせる。我々は、T119MがV30M複合ヘテロ接合体における疾患を予防する機構を利用して、小分子TTRアミロイド阻害剤を開発した。これらの阻害剤は、初期の誤った折り畳みのイベント(テトラマー解離)が部分的なモノマー変性にとって必要であり、アミロイド及び他の凝集物への集合ミスを可能にすることを劇的に示した。
【0061】
トランス抑制の機構をより良く理解するために、ハイブリッドテトラマーを単離した。V30M[又はL55P]に対して増加したT119Mサブユニット化学量は、酸媒介フィブリル形成の最大をより低いpHにシフトさせ、生理的に利用可能なpH(>0.4)におけるアミロイドの全体的生成率を増加させ、そして酸誘導(pH4.4)及びメタノール媒介アミロイド生成の速度を減速た。幾つかの小分子TTRアミロイドフィブリル阻害剤を発見し、アメリカ食品医薬品局(FDA)により認可された2種の薬剤(阻害剤8及び10)を含めて、そのサブセットをここで研究した (Sacchettini et al., Nature Rev. Drug Discovery 1, 267 (2002))。野生型(WT)TTRフィブリル形成の生成率及び速度に対する小分子阻害剤結合の影響は、T119Mサブユニット取り込みに対する影響と同様であった。しかしながら、フィブリル形成にとってより低い最適pHへのシフトは、全ての阻害剤で観察されなかった。これらの阻害剤は、モノマーよりはむしろ、TTRテトラマー内の二つの同等なチロキシン(T4)部位に結合することによって機能する。
【0062】
遅い四次構造変化を解離速度の5×10倍の速度を有する展開(折り畳まれていない状態)への遷移に関連付けることにより、テトラマー解離速度を測定した (Hammarstroem et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99, 16427 (2002))。変性で検出した解離は、使用した尿素の濃度(>6.0M)が再折り畳みを支持しないので、非可逆的である。V30M[又はL55P]サブユニット対して増加したT119Mサブユニット化学量は、3種の異なる変性環境(酸性pH、水性メタノール又は尿素)において、劇的なTTR(1.8μM)テトラマー解離速度の低下(アミロイド生成にとって律速的)を明らかにし、疾患予防の起源を説明した。
【0063】
阻害剤6〜10(1.8及び3.6μM)の存在下でのWT TTRテトラマー(1.8μM)解離速度の測定値は、全てのTTR-阻害剤複合体に関して用量依存的減速を示した。テトラマー解離の初期速度は、二つの阻害剤に結合したモル分画(T・I)にほぼ逆比例した。阻害剤6、7及び9(1.8μM)の場合、単一指数関数の幅は、リガンドのないテトラマー(及び少ない程度まではT・I)の解離と主に相関関係があり、T・Iが6M尿素中でテトラマー解離を防止したことを暗示した。これとは対照的に、阻害剤8及び10に関してT・I及びT・Iの形成は、テトラマーが尿素中で解離するのを実質的に保護せず、結合だけでは不十分であることを明らかにした。阻害剤6、7及び9(3.6μM)の場合に観察された効果的な阻害は、結合エネルギーが、T・I複合体を2.3kcal/molを超える自由エネルギー量だけ安定化した結果であった(デルタ G1 = RT ln([T・I]/[T]) = RT ln([I]/[Kd1]) 及びデルタ G2 = R T ln([T・I2]/[T]) = RT ln{([I]2/[Kd1 *Kd2] )})。Tに対して2.7kcal/molだけT・Iを安定化することは、TTRテトラマー解離速度が2程度に減速すると解釈されるだろう。阻害剤8及び10(3.6μM)の強い負共同的結合は、第二部位への結合(T・I、μM解離定数)が第一部位への結合(T・I)に対してTTRをさらに安定化しないだろうことを決定付ける。阻害剤6、7及び9のnM解離定数(Kd1及びKd2)は、これらの阻害剤が解離的遷移状態に結合せず、かつこの状態を同様に安定化しなかったならば、基底状態安定化(>2.3kcal/mol)が、TTRテトラマー解離に対する活性化バリアを実質的に増大するのに十分であることを保証するだろう。また、T・I及びT・I複合体からの阻害剤の解離速度は、阻害剤6、7及び9の効力において役割を演じることができるだろう。阻害剤で飽和されたTTRテトラマーを抗体樹脂により固定化し、その上に水性緩衝液を5.0ml/分で通過させ、阻害剤6〜10の有効解離速度を評価した。最良の阻害剤は、最低の見かけ解離速度を有するものであった。
【0064】
阻害剤の存在下でのアミロイド生成速度(酸性条件)とテトラマー解離速度(尿素中)との間には一般的に極めて良好な相関関係があるが、これが事実である必要はない。アミロイド生成には、解離後の濃度依存性の誤った折り畳みが必要である。従って、フィブリル形成の防止において、阻害剤がモノマーアミロイド生成中間体の濃度を低く保つことができ(<3.6μM)、フィブリル形成が極めて非効率的である場合には特に、小分子はフィブリル形成の防止においてテトラマーよりも一般的にいっそう効果的であろう。時として、尿素中で測定したテトラマー解離速度は、酸性条件下での阻害剤効力の順位を正確に予測しないだろう。例えば、FDA認可薬剤ジフルニサル(8)は、テトラマー解離阻害剤よりもはるかに良好なアミロイド阻害剤であった。この観察に対するありそうな説明は、Kd1及び/又はKd2が尿素中でよりも酸中で低いということである(18)。加えて、幾つかの阻害剤は、生理的条件化で測定したそれらの結合定数が示唆するだあろうよりも変性条件下ではるかに良好に機能する。例えば、化合物9は、テトラマー解離(尿素)及びフィブリル形成(酸)の防止において、阻害剤9が阻害剤7のそれぞれ10倍及び83倍のKd1及びKd2値(生理的条件下で測定)を有したにも拘らず、阻害剤7よりも効率的であったか又はそれと等しかった。従って、生理的条件下だけではなく、種々の変性条件下での誤った折り畳みの阻害剤の効力を判断することが重要である。
【0065】
そのほかの点では疾患関連サブユニットからなるテトラマー中へのT119Mトランスサプレッサの取り込みは、テトラマー基底状態を遷移状態よりも大きな程度で安定化することにより(小分子阻害剤による場合のように)、そして/又は解離の遷移状態を不安定化することにより、テトラマー解離速度を減速することができるだろう。これらの可能性を区別するために、我々は、WT及びT119Mホモテトラマーの再構築速度を比較した。T119Mモノマーの再折り畳みは迅速であり、そしてWT TTRモノマーの折り畳み速度の誤差範囲内であった。しかしながら、T119Mの折り畳まれたモノマーの再集合は、尿素希釈により開始したWT TTRモノマーのテトラマー化よりも2程度だけ遅かった。再集合過程は二相性であり、これは集合経路に観測可能な中間体(おそらくダイマー)が存在することによって説明することができる。反対方向では、T119MテトラマーはWT TTRテトラマーにより示された速度の1/37で解離する。この動力学的効果を、四次構造の安定性及び/又はテトラマーの安定性に帰することはできない。WT及びT119Mモノマーの熱力学的安定性の直接比較(工学的に作成したモノマーTTR構築物(M-TTR)を採用)は、展開(折り畳まれていない)状態に関する自由エネルギーデルタ・デルタGの差が僅かに0.4kal/molであり、それぞれ解離及び集合速度の差を説明するために必要であった2.1及び2.7kal/molよりもはるかに低いことを明らかにした。T119M及びWT TTRの熱力学的サイクル分析は、T119Mが、解離の遷移状態を約3.1kal/molだけ不安定化することによって防止し、テトラマーの安定化によるのではないことを明らかにした。この分析によれば、T119MテトラマーはWTに対して0.9kal/molだけ実際に不安定化され、動力学的安定化機構がさらに支持される。WT及びT119Mテトラマー解離の間の自由エネルギーの差は、尿素媒介の展開によっては測定することができない。なぜならば、尿素中でのT119Mの解離には著しく長いインキュベーション期間(数週間)を必要とし、その間にTTRが修飾されるようになるからである。グアニジニウムクロリド(GdmCl)及びグアニジニウムチオシアネート(GdmSCN)変性曲線の比較は、WT TTRがGdmCl変性に対してT119Mよりも抵抗性であった一方で、GdmSCN中ではその逆が真実であったことを明らかにした。変性の中間点でのこれらの差は、差別的なアニオン安定化に帰することができ、これらのタンパク質の真の熱力学的安定化は、これらのカオトロープでは定量分析が不可能であるが、極めて類似していることを示唆する。
【0066】
T119Mトランス抑制は、解離的遷移状態の不安定化によって主としてに媒介され、T119Mがダイマー-ダイマー界面に存在することと一致する。解離的遷移状態のエネルギーが3.1kal/molだけ増加すると、活性化バリアが乗り越えられないようになる(解離半減期t1/2が約42時間から>1500時間に増加する)ので、テトラマーの解離を防止する。小分子の結合は用量依存性の様式でテトラマーの解離に関連する活性化バリアを同様に増加させるが、これはテトラマーの安定化(遷移状態の安定化に対して)によって媒介される。安定化の程度は、小分子の解離定数Kd1及びKd2が可能な限り低く、かつ阻害剤の濃度が可能な限り高い場合に最大である。基底状態の安定化に関する我々の実験で使用した濃度は、多数の経口使用可能な薬剤について血漿中で観察された濃度と比較可能である。
【0067】
小分子結合及びトランス抑制は、TTRフィブリル形成の律速段階であるテトラマーの解離に関連する活性化エネルギーを増加させる。この類似性を確立することは、トランス抑制がV30M複合ヘテロ接合体における疾患を予防することが知られているので、重要である。天然状態の動力学的安定化は、誤った折り畳まれた小さいオリゴマーが神経毒性であるという新たに生じた証拠を考慮すると、特に魅力的な方策である。誤った折り畳みの傾向が強い他の病理関連タンパク質のエネルギー展望を調整するための、小分子阻害剤の発見及びトランス抑制アプローチの開発を、今や考えるべきである。
【0068】
実施例2: ジフルニサル類似体はトランスチレチンの天然状態を安定化し、かつトランスチレチンアミロイドフィブリル形成の阻害剤である
ジフルニサル(1)はトランスチレチン(TTR)アミロイド生成を減速することができる。例えば、一定の条件(例えば、3.6μM TTR、3.6μMジフルニサル、pH4.4、72時間、37℃)において、ジフルニサルはTTRアミロイド生成を63%だけ減速する。これらの条件において、ジフルニサル濃度を倍増(7.2μMに)すると、アミロイド生成を97%だけ減速する。ジフルニサルは、今日までに報告された良好なアミロイドフィブリル阻害剤の一つであり、経口投与したジフルニサルは生物学的利用率が高く、毎日2回250mgの用量で100μMを超える持続した血漿濃度を与える。ジフルニサルはシクロオキシゲナーゼ-2阻害剤であるので、長期投与は胃腸副作用をもたらすことがある。それ故に、減速又は消失したNSAID活性を有するが血漿中でTTRに対して高親和性を有するジフルニサル類似体が、場合により望ましい。従って、ジフルニサルの構造を、TTRアミロイド生成を阻害できる新規化合物を設計するための基礎として使用することができる。例えば、Verbeeck, R. K.; et al. Biochem. Parm. 1980, 29, 571-576; 及び Nuernberg, B.; Koehler, G.; Brune, K. Clin. Pharmacokin. 1991, 20, 81-89 参照。
【0069】
ジフルニサル類似体は、ハロゲン化アリールとアリールボロン酸との間のPd-媒介 Suzuki カップリングを用いて合成した。ジフルニサル類似体2〜10の合成は、スキーム1に示すように、3-又は4-ヨードフェノールの何れかを無水酢酸及びピリジンでアセチル化し、続いて標準的な Suzuki カップリング条件下で適切なフルオロフェニルボロン酸と Suzuki カップリングさせることにより行った。Na及びMeOHによるエステルの除去(Zemlen 条件)は、フェノール2〜10を与えた。例えば、Miyaura, N.; Yanagi, T.; Suzuki, A. Synth. Commun. 1981, 11, 513-519; Sharp, M. J.; Snieckus, V. Tetrahedron Lett. 1985, 26, 5997-6000; Sharp, M. J.; Cheng, W.; Snieckus, V. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 5093-5096; Pozsgay, V.; Nanasi, P.; Neszmelyi A. Carbohydr. Re. 1981, 90, 215-231; Jendralla, H.; Chen, L.-J. Synthesis 1990, 827-833; 及び Strauss, K. Spectrochim. Acta, Part A 1981, 37, 689-692 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【化3】
【0070】
ジフルニサル類似体11は、スキーム2に示すように、固相方法を用いて合成した。3-ヨード安息香酸をエステル結合により Wang 樹脂に結合させ、樹脂結合ヨウ化フェニルを与え、次いでこれを2,4-ジフルニサルフェニルボロン酸に結合させ、TFA:CHClの1:1混合物で樹脂から切り離した。例えば、Guiles, J. W.; Johnson, S.G.; Murray, W. V. J. Org. Chem. 1996, 61, 5169-5171 参照、これは全体として参照により組み入れられる。
【化4】
【0071】
カルボキシレート含有基質12〜22は、スキーム4に示すように、標準的な Suzuki カップリング条件を利用してメチル−3-ブロモベンゾエート又はメチル−4-ブロモベンゾエートの何れか(両者は市販されている)と適切なフルオロフェニルボロン酸との Suzuki カップリング(上記参照)により組み立てた。次いで、エステルをLiOH・HOで鹸化して対応のカルボキシレートを与えた。例えば、Bumagin, N. A.; Bykov, V. V. Tetrahedron, 1997, 53, 14437-14450; Ananthakrishnanadar P.; Kannan, N. J. Chem. Soc., Parkin Trans. 2 1982, 1305-1308; Homsi, F.; Hiyama, T. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 5869-6872; 及び Hajduk P. J.; et al. J. Med. Chem. 1997, 40, 3144-3150 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【化5】
【0072】
スキーム4に示すように、TMS-CHを用いて5-ヨードサリチル酸をエステル化し、MeIを採用してフェノールをメチルエーテルに変換した。保護したサリチル酸を種々のフルオロフェニルボロン酸とカップリングさせ、続いてLiOH・HO鹸化及びBBr脱メチル化により脱保護してサリチル酸誘導体23〜27を与えた。例えば、Nicolaou, K. C.; et al. Chem. Eur. J. 1999, 5, 2602-2621; 及び Chu-Moyer, M. Y.; et al. J. Med. Chem. 2002, 45, 511-528 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【化6】
【0073】
3’,5’-ジハロ-4’-ヒドロキシ含有類似体28〜31は、最初に市販のブロモフェノールをメチルエーテルとして保護すること(MeI及びKCO)により合成した。(メトキシカルボニルフェニル)ボロン酸との Suzuki カップリングは、完全に保護されたビフェニル基質の形成をもたらした。スキーム5に示すように、BBr媒介メチルエーテル開裂及びLiOH・HOでの鹸化は、完全に官能化したジフルニサル類似体28〜31を与えた。
【化7】
【0074】
ジフルニサルのメチルエーテル及びメチルエステル類似体は、カルボン酸をTMS-ジアゾメタンでエステル化して32を与え、次いで場合によりMeI及びKCOでエステル化し、LiOH・HOでエステルを加水分解して33を与えることにより合成した。スキーム6参照。
【化8】
【0075】
一連のハロゲン化ビフェニル34〜38は、スキーム7に示すように、ヨードベンゼンと一連のハロゲン含有ボロン酸との Suzuki カップリングにより組み立てた。例えば、Patrick, T. B.; Willaredt, R. P. DeGonia, D. J. J. Org. Chem. 1985, 50, 2232-2235; Kuchar, M.; et al. Collection of Czechoslovak Chemical Communications 1998, 53, 1862-1872; Allen K. J.; Bolton R.; Williams G. H. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2 1983, 691-695; Nakada, M.; et al. Bull. Chem. Soc. Upn. 1989, 62, 3122-3126; 及び Weingarten, H. J. Org. Chem, 1961, 26, 730-733 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【化9】
【0076】
塩素化ビアリールアルデヒドは、スキーム8に示すように、3,5-ジクロロヨードベンゼン及び2-、3-又は4-ホルミルフェニルボロン酸の何れかを用いて組み立てた。ハロゲンを含まないアルデヒド42〜44は、同様に製造した。アルデヒド39〜41を、アセトン/水中のKMnOにより酸化して対応のカルボン酸45〜47を与えたか、又はMeOH中のNaBHにより還元して対応のベンジルアルコール48〜50を与えた、スキーム8。非塩素化アルデヒド42〜44をNaBH及びMeOHで還元して、ビフェニルベンジルアルコール51〜53を生成した。例えば、Song, X. P.; He, H. T.; Siahaan, T. J. Org. Lett. 2002, 4, 549-552; 及び Nicokaou, K. C.; et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 9313-9323; Hashizume, H.; et al. Chem. Pharm. Bull. 1994, 42, 512-520; Indoese, A. F. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 3513-3516; Pridgen, L. N.; Snyder, L.; Prol. J. J. Org. Chem. 1989, 54, 1523-1526; Haung, C. G.; Beveridge, K. A.; Wang, P. J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 7676-7684; Wendeborn, S.; et al. Synlett. 1998, 6, 671-675; Stevens, C. V.; Peristeropoulou, M.; De Kimpe, N. Tetrahedron 2001, 57, 7865-7870; Tanaka, K.; Kishigami, S.; Toda, F. J. Org. Chem. 1990, 55, 2981-2983; 及び Clive, D. L. J.; Kang, S. Z. J. Org. Chem. 2001, 66, 6083-^6091 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【化10】
【0077】
3’,5’-ジフルオロホルミル-官能化ビフェニル54及び55は、スキーム9に示すように、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸と2-又は3-ヨードベンズアルデヒドの何れかとのSuzuki カップリングにより合成した。他の全ての阻害剤は、同様の方法により合成し、上記で報告した。化合物10、21、35、36及び43は、市販されている。
【化11】
【0078】
試薬及び溶剤は、Aldrich、Lancaster、Acros、Combi-Slocks、Matrix 及び Pfaltz-Bauer から購入した。THF及びCHClは、AlCO上に通過させて乾燥した。他の溶剤及び試薬は営利供給業者から入手し、別に述べない限りさらに精製することなく使用した。反応は、EM Scienceから購入した蛍光指示薬で予備コートしたシリカゲル 60 F254 プレート上の分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)により監視した。TLCプレートの可視化は、UV照射、リンモリブデン酸処理、次いで熱処理又はモリブデン酸セリウムアンモニウム処理、次いで加熱により行った。フラッシュクロマトグラフィーは、集合性 からのシリカゲル60(230〜400メッシュ)を用いて行った。本文で導き出した結論にとって不可欠である新規化合物の純度は、HPLCにより決定した。標準相HPLCは、Waters 600 ポンプ/コントローラ、Waters 996 発光ダイオードアレイ検出器及び Waters NovaPak シリカカラムを用いて行った。採用した溶剤系はヘキサン及び酢酸エチルであり、勾配は50:50のヘキサン:酢酸エチルから0:100のヘキサン:酢酸エチルまで30分間にわたって行った。逆相HPLCは、Waters 600 ポンプ/コントローラ、Waters 2487 二波長検出器並びに Vydac タンパク質及びペプチド C18 カラムを用いて行った。溶剤系Aは0.5%のトリフルオロ酢酸を含む95:5の水:アセトニトリルであり、Bは0.5%のトリフルオロ酢酸を含む5:95の水:アセトニトリルであった。勾配は100:0のA:Bから0:100のA:Bまで20分間にわたり行い、100%のBをさらに10分間保持した。円偏光二色性分光法は、AVIV Instruments 分光計、モデル 202SF を用いて行った。NMRスペクトルは、Varian FT NMR分光計により400MHzのプロトン周波数で記録した。プロトン化学シフトは、別に述べない限り、内部プロトン化学シフト標準(7.26ppm)としてのCHClを基準にして百万分の一(ppm)で報告される。カップリング定数はヘルツ(Hz)で報告される。炭素化学シフトは、別に述べない限り、化学シフト標準(77.23pp
m)としてのCDClを基準にして百万分の一(ppm)で報告される。全ての質量スペクトルは、The Scripps Research Institute Center for Mass Spectrometry 又は the University of Illinois Mass Spectrometry Laboratory で得た。
【0079】
化合物2〜10はスキーム1に従って製造した。適切な酢酸-ヨードフェニルエステル(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.05Mの濃度にした溶液に、フェニルボロン酸(1.1当量)をEtOHに溶解して該ボロン酸に関して0.6Mにした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、酢酸-ヨードフェニルエステルに関して0.03Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(4.0mol%)を加えた。反応物をAr下に20時間加熱還流し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(10:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、アセチル化ビフェニルを得た。触媒量のNaをMeOH中のアセチル化ビフェニルの溶液に加えて、0.3Mの最終濃度にした。反応物をAr下に室温で12時間攪拌し、その後、Dowex 50W-X8 カチオン交換体を加えて反応混合物を中和した。樹脂を濾過し、濾液を真空濃縮し、フラッシュクロマトグラフィー(3:1のヘキサン:酢酸エチル)で処理して、ヒドロキシビフェニル生成物を白色固体として22〜75%の収率で得た。
【0080】
2',4'-ジフルオロビフェニル-3-オール(2). 1H NMR (DMSO-d6,400 MHz)δ 9.63 (br s,1H), 7.54 (td,1H, J= 8.9, 6.7 Hz), 7.34 (ddd,1H, J= 11. 1, 9.2, 2.6 Hz), 7.27(m,1H), 7.17 (tdd,1H, J= 8.3, 2.6, 1.2 Hz), 6.92(m, 2H), 6.81 (ddd, 1H, J= 8.1, 2.5, 1.0Hz).13C NMR(DMSO-d6, 100MHz) δ 162.8, 160.3, 157.4, 135.4, 131.8, 129.7, 119.4, 115.6, 114.9, 111.9, 104.4. HRESIMS C12H8F2O (M-H) 計算値205.0466, 実測値205.0465. 順相HPLC保持時間: 10.5 min. 逆相HPLC保持時間: 1.3 min. > 99 %純度。
【0081】
2',4'-ジフルオロビフェニル-4-オール(3). 1H NMR (DMSO-d6,400 MHz)δ 7.49 (td, 1H,J= 9.4, 8.6 Hz), 7.34 (AA'XX', 2H,JAA’= JXX’ = 2.5 Hz, JXA= 8. 7 Hz,JX’A’= 8.5 Hz,JX’A= 0.3 Hz,JXA= 0.3 Hz, νAA'= 2934.1 Hz,νXX' = 2746. 2 Hz), 7.28 (ddd, 2H,J= 11. 3, 9.4, 2.6 Hz), 7.13 (dddd, 1H,J= 8.3, 7.5, 2.8, 1.0 Hz), 6.87 (AA'XX', 2H, 上記のとおり). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 162.3, 160.0, 157.2, 131.4, 129.9, 124.8, 115.4, 111.8, 104.3. HRESIMS :C12H8F20 (M-H) 計算値205.0464, 実測値205.0465. 順相HPLC保持時間: 11.2 min. 逆相HPLC保持時間: 12.6 min. > 98 %純度。
【0082】
3', 5'-ジフルオロビフェニル-3-オール(8).1H NMR(DMSO-d6, 400 MHz)δ 9.65 (br s,1H), 7.34(m, 2H), 7.28 (t, 1H, J= 7.9 Hz), 7.19 (tt, 1H, J= 9.1, 2.2 Hz), 7.13 (ddd, 1H, J= 7.8, 1.8, 1.0 Hz), 7.08 (t, 1H, J= 2.1 Hz), 6.86 (ddd, 1H, J= 8.0, 2.4, 1.0Hz). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 162.9, 158.0, 144.1, 139.1, 130.1, 117.6, 115.7, 109.7, 102.6. HRESIMS :C12H8F2O(M-H) 計算値205.0465, 実測値205.0468. 順相HPLC保持時間: 11.4 min. 逆相HPLC保持時間: 12.9 min. > 99 %純度。
【0083】
3',5'-ジフルオロビフェニル-4-オール(9). 1H NMR(CDC13, 400 MHz) δ 7.44(AA'XX', 2H, JAA’ = JXX’ = 3.0 Hz, JXA= 8.0 Hz, JX’A’ = 8.5 Hz, JX’A= 0.7 Hz, JXA’= 0.5 Hz, νA = νA' = 2973.8 Hz,νXX'-= 2766. 0 Hz), 7.05 (dtd, 2H,J= 6.6, 2.4, 0.7 Hz), 6.92 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 6.74 (tt, 1H, J= 8.9, 2.4 Hz), 5.11(s, 1H). 13C NMR(CDCl3, 100 MHz)δ 164.7, 156.1, 144.2, 131.8, 128.6, 116.1, 109.6, 102.1. HRESIMS :Cl3H8Cl2O2 (M-H) 計算値205.0465, 実測値205.0465. 順相HPLC保持時間: 10.8 min. 逆相HPLC保持時間: 12.9 min. > 99 %純度。
【0084】
2', 4'-ジフルオロビフェニル-3-カルボン酸 (11). 化合物11はスキーム2に従って製造した。3-ヨード安息香酸(200mg、0.81mmol)、DIEA(140μL、0.81mmol)、EDCl・HCl及びHOBtを、CHCl(10mL)で膨潤させた Wang 樹脂(265mg、0.67mmol、2.53mmol/g)の溶液に加えた。ペプチド振盪機上で室温で22時間激しく振盪した後、溶剤を除去し、樹脂をDMF(3×10mL)及びCHCl(3×10mL)で洗浄し、十分に真空乾燥した。
【0085】
2,4−ジフルオロフェニルボロン酸(112mg、0.71mmol)、KCO(98mg、0.71mmol)及びPd(dba)(4mg、0.01mmol)を、DMF(2mL)中で膨潤させた官能化 Wang 樹脂(140mg、0.35mmol)の溶液に加えた。室温で攪拌した後、反応物を濾過し、樹脂をDMF(3×)、HO(3×)、CHCl(3×)及びMeOH(3×)で洗浄し、十分に真空乾燥した。
【0086】
TFA:CHClの溶液(3mL 1:1)を、官能化樹脂(140mg、0.35mmol)に加え、ペプチド振盪機上で室温で13時間激しく振盪した。その終了後、反応物を濾過し、樹脂をCHCl(3×)で洗浄し、濾液を真空濃縮し、フラッシュクロマトグラフィー(2:1のヘキサン:酢酸エチル、0.5%の酢酸)により精製して、11(81mg、100%)を白色固体として得た。1H NMR(DMSO-d6, 400 MHz)δ 13.19 (br s,1H), 8.07 (q,1H, J= 1. 7 Hz), 7.99 (dt,1H, J= 7.9, 1.6 Hz), 7.78 (dq, 1H, J = 7.8, 1.3 Hz), 7.64(m, 2H), 7.40 (ddd, 1H,J= 11. 1,8. 8,2. 5 Hz), 7.22 (tdd, 1H, J= 8.4, 2.8, 1.0 Hz).13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz)δ 167.0, 160.7, 160.4, 134.5, 133.0, 132.0, 131.3, 129.4, 129.1, 128.7, 123.9, 112.2, 104.6. HRESIMS :Cl3H8F202 (M-H) 計算値233.0414, 実測値233.0426. 順相HPLC保持時間: 13.7 min. 逆相HPLC保持時間: 12.5 min. > 99 %純度。
【0087】
化合物12〜22はスキーム3に従って製造した。適切なブロモ安息香酸メチル(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.1Mの濃度にした溶液に、フェニルボロン酸(2.0当量)をEtOHに溶解して該ボロン酸に関して1.0Mにした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、該ブロモ安息香酸エステルに関して0.06Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(10.0mol%)を加えた。反応物をAr下に25時間攪拌し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(10:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、メチルエステルを得た。
【0088】
THF:MeOH:HO(1:1:1)中の0.06M濃度のメチルエステル(1.0当量)の溶液に、LiOH・HO(3.0当量)を加えた。反応物を室温で4時間攪拌し、その終了時に30%HClで酸性化し、酢酸エチル(3×5mL)で抽出し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl、1%MeOH、0.2%酢酸)により精製して、ビフェニルカルボン酸を白色固体として6〜93%の収率で得た。
【0089】
2',4'-ジフルオロビフェニル-4-カルボン酸(12). 1H NMR (DMSO-d6,400 MHz) δ 13.09 (br s, 1H), 8.04 (AA'XX',2H, JAA’=JXX’= 2.0 Hz, JXA= JX’A’ = 8. 0 Hz, JX’A= JXA’= 0.7 Hz,νA = νA'= 3213.3 Hz, νXX', = 3056.2 Hz), 7.65(AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.63(m, 1H), 7.38 (ddd,1H, J= 11.2, 9.0, 2.8 Hz), 7.21 (td,1H, J= 8.4, 2.2 Hz).13C NMR (DMSO- d6,100 MHz) δ 167.1, 160.8, 158.0, 138.6, 132.1, 130.1, 129.6, 129.0, 123.9, 112.2, 104.7. HRESIMS :Cl3H8F202 (M-H) 計算値233.0414, 実測値233.0407. 順相HPLC保持時間: 13.3 min. 逆相HPLC保持時間: 12.6 min. > 99 %純度。
【0090】
2'-フルオロビフェニル-3-カルボン酸(15). 1H NMR (CD30D, 400 MHz) δ 8.18 (q, 1H, J= 1.4 Hz), 8.03 (dt,1H, J= 7.8, 1.3 Hz), 7.76 (dq, 1H, J= 7.7, 1.5 Hz), 7.55 (t, 1H, J= 7.8 Hz), 7.48 (td, 1H, J= 7.8, 1.7 Hz), 7.38 (dddd, 1H, J= 8.3, 7.5, 5.1, 1.8 Hz), 7.26 (td, 1H, J= 7.6, 1.3 Hz), 7.20 (ddd, 1H,J= 11. 0,8. 2,1. 2 Hz).l3C NMR (CD30D, 100 MHz) δ 169.7, 161.2, 137.5, 134.6, 132.4, 132.0, 131.3, 130.1, 129.9, 129.5, 126.0, 117.2. HRESIMS : C13H9FO2 (M-H) 計算値215.0508, 実測値215.0498. 順相HPLC保持時間: 10.6 min. 逆相HPLC保持時間: 12.1 min. > 99 %純度。
【0091】
2'-フルオロビフェニル-4-カルボン酸(16). 1H NMR(DMSO-d6, 400 MHz)δ 13. 10 (br s, 1H), 8.05(AA'XX', 2H, JAA’ = JXX’ = 1.7 Hz, JXA= JX’A’ = 8.5 Hz,JX’A= JXA'= 0-3 Hz, νAA' = 3217.9 Hz,νXX' = 3070.0 Hz), 7.67 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.58 (td, 1H, J= 8.0, 1.8 Hz), 7.34 (m,1H). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 167.1, 159.1,139. 4, 130.8, 130.3, 130.2, 129.6, 129.0, 127.3, 125.1, 116.2. HRESIMS :C13H9FO2 (M-H) 計算値215.0508, 実測値215.0515. 順相HPLC保持時間: 12.3 min. 逆相HPLC保持時間: 12.2 min. > 99 %純度。
【0092】
3', 5'-ジフルオロビフェニル-3-カルボン酸 (17).'H NMR (アセトン-d6,400 MHz) δ 8.30 (td, 1H, J= 2,0. 5 Hz), 8.10 (dtd, 1H, J= 7.6, 1.1, 0.5 Hz), 7.97 (ddd, 1H, J= 7.8, 2.0, 1.1 Hz), 7.64 (td,1H, J= 7.8, 0.6 Hz), 7.39 (m, 2H), 7.06 (tt, 1H, J= 9.3, 2.4 Hz). 13C NMR (アセトン-d6, 100 MHz) δ 167.4, 165.6, 163.2, 144.6, 139.8, 132.5, 132.4, 130.6, 130.3, 128.9, 111.0, 103.7. HRESIMS :C13H8F202 (M-H)計算値233. 0414, 実測値233.0425. 順相HPLC保持時間: 13.5 min. 逆相HPLC保持時間: 12.7 min. > 99 %純度。
【0093】
3', 5'-ジフルオロビフェニル-4-カルボン酸(18). 1H NMR(DMSO-d6, 400 MHz) δ 13.15 (br s, 1H), 8.02 (d, 2H, J= 8.2 Hz), 7.85 (d, 2H, J= 8.5 Hz), 7.49 (m, 2H), 7.26 (tt,1H, J= 9.4, 2.4 Hz). 13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz) δ166.4, 164.1, 161.7, 142.6, 141.6, 130.9, 130.0, 127.1, 110.2, 103.5.HRESIMS : 計算値C13H8F202 (M-H) 233.0414, 実測値233.0423. 順相HPLC保持時間: 13.0 min. 逆相HPLC保持時間: 12.8 min. > 99 %純度。
【0094】
2',6'-ジフルオロビフェニル-3-カルボン酸(19). 1H NMR (DMSO-d6,400 MHz) δ 8.03 (dt,1H, J= 7. 8,1. 6 Hz), 8.00 (m, 1H), 7.72 (dt, 1H, J = 7. 8,1. 4 Hz), 7.64 (t, 1H, J = 7.7 Hz), 7.53 (m, 1H), 7.26 (t, 2H,J= 8.3 Hz). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 167.7, 158.7, 135.0, 132.2, 131.4, 131.1, 129.9, 129.5, 129.5, 112.8, 110.9. HRESIMS :C13H8F202 (M-H) 計算値233.0414, 実測値233.0410. 順相HPLC保持時間: 12.1 min. 逆相HPLC保持時間: 12.1 min. > 97 %純度。
【0095】
2',6'-ジフルオロビフェニル-4-カルボン酸(20). 1H NMR (DMSO-d6,400 MHz) δ 8.06(AA'XX', 2H, JAA’ = JXX’ = 2.0 Hz, JXA= JX’A’ = 8.0 Hz, JX’A= JXA’= 0.7 Hz, νA = νA'= 3243. 6 Hz, νXX', = 3018.6 Hz), 7.60 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.54 (m,1H), 7.27 (t, 2H,J= 8.3 Hz). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 171.0, 164.0, 134.1, 125.7, 122.0, 121.9, 121.1, 103.4. HRESIMS :C 13H8F202 (M-H) 計算値233.0414, 実測値233.0425. 順相HPLC保持時間: 14.5 min. 逆相HPLC保持時間:12. 1 min. > 99 %純度。
【0096】
ビフェニル-4-カルボン酸(22). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 13.07 (br s, 1H), 8.03(AA'XX', 2H,JAA’= JXX = 1.8 Hz,JXA= JX’A’= 8.3 Hz, JX’A= JXA’= 0.3 Hz, νAA'= 3210. 7 Hz, νXX' = 3122. 0 Hz), 7.81 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.75 (m,2H), 7.51 (tt, 2H,J= 7.2, 1.1 Hz), 7.43(tt, 1H, J = 7.4, 1.2 Hz). 13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 167.2, 144.2, 139.0, 130.0, 129.8, 129.1, 128.3, 127.0, 126.8.HREIMS :Cl3H1002 (M+) 計算値198.0683, 実測値198.0683. 順相HPLC保持時間: 13.8 min. 逆相HPLC保持時間: 12.2 min. > 99%純度。
【0097】
メチル-5-ヨード-2-メトキシベンゾエート. TMS-ジアゾメタン(19.25mL、38.50mmol、ヘキサン中の2M溶液)を、MeOH(20mL)中の5-ヨードサリチル酸(5.08g、19.24mmol)の溶液に加え、室温で11時間攪拌した。その終了時に反応物を真空濃縮し、残留物をさらに精製することなく次の段階に持ち越した。
【0098】
ヨウ化メチル(2.40mL、38.48mmol)及びKCO(10.06g、76.96mmol)を、DMF(20mL)なかの5-ヨード-2-メトキシベンゾエート(5.37g、19.24mmol)の溶液に加え、Ar下に室温で24時間攪拌した。その終了時に酢酸エチルを加え、反応物を1%HCl(2×20mL)、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(3:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、メチル-5-ヨード-2-メトキシベンゾエート(4.93g、88%)を白色固体として得た。例えば、Corey, E. J.; Myers, A. G. J. Am. Chem. Soc. 1985, 107, 5574-5576 参照、これは全体として参照により組み入れられる。1H NMR (DMSO-d6,400 MHz) δ 7.90 (d, 1H, J= 2.4 Hz), 7.80 (dd, 1H, J= 8.8, 2.4 Hz), 6.96 (d, 1H, J= 9.0 Hz), 3.81 (s, 3H), 3.79 (s, 3H). 13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz) δ 164.7, 158.0, 141.6, 138. 5,122. 2,115. 2,82. 1,55. 9,52. 0. HREIMS :C9H9I03 (M+) 計算値291.9608, 実測値291.9596。
【0099】
化合物23〜27はスキーム4に従って製造した。メチル-5-ヨード-2-メトキシベンゾエート(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.08Mの濃度にした溶液に、フェニルボロン酸(2.0当量)をEtOHに溶解して該ボロン酸に関して0.8Mにした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、メトキシベンゾエートに関して0.06Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(10.0mol%)を加えた。反応物をAr下に60℃で15時間攪拌し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(3:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、メチル化サリチレートを得た。
【0100】
メチル化サリチレート(1.0当量)を十分量のCHClに溶解して0.06Mの濃度にした溶液に、BBr(2.0当量、CHCl中の1M溶液)を加えた。反応物を室温でAr下に4時間攪拌し、その終了時にHO(10mL)で停止し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をさらに精製することなく次の段階に持ち越した。
【0101】
THF:MeOH:HO(1:1:1)中の0.06M濃度のメチルエステル(1.0当量)の溶液に、LiOH・HO(3.0当量)を加えた。反応物を室温で4時間攪拌し、その終了時に30%HClで酸性化し、酢酸エチル(3×5mL)で抽出し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl、1%MeOH、0.2%酢酸)により精製して、ビフェニルサリチレートを白色固体として12〜42%の収率で得た。
【0102】
4'-フルオロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸(23).'H NMR (CD30D, 400 MHz)5 8.01 (d, 1H, J= 2.5Hz), 7.65 (dd, 1H, J= 8.7, 2.5 Hz), 7.51 (m, 2H), 7.11(tt, 2H,J= 10. 0, 3.0Hz), 6.97 (d, 1H,J= 8. 7 Hz. 13C NMR (CD30D, 100 MHz) δ173.5, 165.0, 162.7, 137.7, 135.1, 132.6, 129.6, 129.3, 118.9, 116.7, 116.6, 114.2.HRESIMS : C13H9FO3(M-H) 計算値231.0459, 実測値231.0457. 順相HPLC保持時間: 14.2 min. 逆相HPLC保持時間: 12.8 min. > 99 %純度。
【0103】
2'-フルオロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸(24). 1H NMR (CD30D, 400 MHz) δ 7.98 (dd,1H, J= 2.2, 1. 4 Hz), 7.59 (ddd,1H, J= 8.7, 2.4, 1.7 Hz), 7.36 (td,1H, J= 7.8, 1.7 Hz), 7.26 (dddd,lH, J=9. 9,7. 4,4. 9,1.7 Hz), 7.16 (td,1H, J=7. 5,1.2 Hz), 7.10 (ddd, 1H, J =11.1,8.2,1.3 Hz), 6.95 (d, 1H,J= 8. 5Hz). 13C NMR (CD30D,100 MHz) δ 173.5,162.9, 162.4, 137.2, 131.8, 130.2, 130.1, 129.1, 128.1, 125.8, 118.5, 117.1, 114.0. HRESIMS :C13H9FO3(M-H) 計算値231.0457, 実測値231.0446. 順相HPLC保持時間: 13.8 min. 逆相HPLC保持時間: 12.7 min. > 99 %純度。
【0104】
3',5'-ジフルオロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸 (25). 1H NMR (CD30D, 400 MHz) δ 8.07 (d,1H, J= 2.5 Hz), 7.73 (dd,1H, J= 8.5, 2.7 Hz), 7.15(m, 2H), 7.01 (d, 1H,J= 8. 9 Hz), 6.86(tt,1H, J= 9.0, 2.5 Hz). 13C NMR (CD30D, 100 MHz) δ 173.3,166.3,163.8,145.1,135.2,131.0,129.8,119.2,114.4,110.4,103.0. HRESIMS :C13H8F203(M-H) 249.0363,実測値249. 0356. 順相HPLC保持時間: 14.5 min. 逆相HPLC保持時間: 13.3 min. > 99 %純度。
【0105】
2', 4'-ジクロロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸(26). 1H NMR (CD30D, 400 MHz) δ 7.83 (d,1H, J= 2.2 Hz), 7.70 (d, 1H, J= 2.0 Hz), 7.58 (dd,1H, J= 8.6, 2.4 Hz), 7.48(ABX,1H, JAB = 8.4Hz,JAX = 2.2 Hz, JBX = 0. 0 Hz, νA = 2989.4 Hz,νB = 2973.0 Hz), 7.44(ABX, 1H, 上記のとおり), 7.06 (d,1H, J= 8.7Hz). CD30D, 100 MHz) δ 171.6, 160.8, 137.5, 136.4, 132.8, 132.6,132.4,130.8,129.2,128.5,127.7,117.2,112.9. HRESIMS :C13H8CI203 (M-H) 計算値280.9772, 実測値280.9782. 順相HPLC保持時間: 13.1 min. 逆相HPLC保持時間: 14.4 min. > 99 %純度。
【0106】
4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸(27). 1H NMR (CD30D, 400 MHz)δ 8.08 (d, 1H, J= 2.4 Hz), 7.73 (dd, 1H, J= 8.7, 2. 3 Hz), 7.54(m, 2H), 7.41 (tt, 2H, J= 7.3, 1.8 Hz), 7.29 (tt, 1H,J= 7.8, 1.7 Hz), 7.38 (dddd,1H, J= 8.8, 6.4 Hz), 7.05 (d,1H, J= 8.7 Hz), 6.93(m, 1H), 6.90 (ddd,1H, J= 7.3, 1.9 Hz), 7.00 (d, 1H, J= 8.5 Hz). 13C NMR (CD30D, 100 MHz) δ161.5, 140.1, 134.0, 132.4, 128.7, 128.3, 126.9, 126.3, 117.5, 112.9. HRESIMS :Cl3Hl003(M-H) 計算値213.0552, 実測値213.0545. 順相HPLC保持時間: 12.9 min. 逆相HPLC保持時間: 12.6 min. > 99 %純度。
【0107】
4-ブロモ-2,6-ジフルオロアニソール ヨウ化メチル(580μL、10.06mmol)及びKCO(2.80g、20.12mmol)を、DMF(10mL)中の4-ブロモ-2,6-ジフルオロフェノール(1.05g、5.03mmol)の溶液に加え、Ar下に室温で24時間攪拌した。その終了時に酢酸エチルを加え、反応物を1%HCl(2×20mL)、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン)により精製して、4-ブロモ-2,6-ジフルオロアニソール(747mg、67%)を白色固体として得た。例えば、Chambers, R. D.; et al. J. Fluorine Chem. 2000, 102, 169-174 参照、これは全体として参照により組み入れられる。1H NMR (CDC13, 400 MHz) δ 7.06(m, 2H), 3.97 (q, 3H, J = 1. 1 Hz). 13C NMR(CDC13,100 MHz) δ 155.8, 136.3, 116.2, 113.8, 61.9. LREIMS 実測値C7H5F20Br (M+) 223.0。
【0108】
4-ブロモ-2,6-ジクロロアニソール ヨウ化メチル(467μL、8.12mmol)及びKCO(2.24g、16.24mmol)を、DMF(10mL)中の4-ブロモ-2,6-ジクロロフェノール(982mg、4.06mmol)の溶液に加え、Ar下に室温で40分間攪拌した。その終了時に酢酸エチルを加え、反応物を1%HCl(2×20mL)、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン)により精製して、4-ブロモ-2,6-ジクロロアニソール(778mg、74%)を白色固体として得た。例えば、Li, J.; et al. J. Med. Chem.1996, 39, 1846-1856 参照、これは全体として参照により組み入れられる。1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 7.75(s, 2H), 3.81 (s, 3H). 13C NMR(DMSO-d6,100 MHz) δ 151.3, 131.5, 129.6, 116.5, 60.6. HREIMS 実測値C7H5BrCl20 (M+) 253.8905, 実測値253.8901。
【0109】
化合物28〜31はスキーム5に従って製造した。適切なハロ-アニソール(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.25Mの濃度にした溶液に、フェニルボロン酸(2.0当量)をEtOHに溶解して該ボロン酸に関して1.5Mにした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、ハロ-アニソールに関して0.08Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(10.0mol%)を加えた。反応物を65℃で17時間攪拌し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(20:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、メチル化ビフェニルを白色固体として得た。
【0110】
メチル化ビフェニル(1.0当量)を十分量のCHClに溶解して0.20Mの濃度にした溶液に、BBr(2.0当量、CHCl中の1M溶液)を加えた。反応物を室温でAr下に3時間攪拌し、その終了時にHO(10mL)で停止し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をさらに精製することなく次の段階に持ち越した。
【0111】
THF:MeOH:HO(1:1:1)中の0.04M濃度のメチルエステル(1.0当量)の溶液に、LiOH・HO(3.0当量)を加えた。反応物を室温で5時間攪拌し、その終了時に30%HClで酸性化し、酢酸エチル(3×5mL)で抽出し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl、1%MeOH、0.2%酢酸)により精製して、ビフェニル生成物を白色固体として14〜39%の収率で得た。
【0112】
3',5'-ジフルオロ-4'-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸 (28). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz)δ 10.60 (br s, 1H), 8.14 (t, 1H,J = 1. 7 Hz), 7.91 (dt,1H,J= 7.7, 1.1 Hz), 7.88 (ddd, 1H, J= 8.0, 2.0,1. 1 Hz), 7.55 (t, 1H,J= 7.9 Hz), 7.41 (m, 2H). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ167.3, 154.0, 151.5, 138.4, 133.6, 131.6, 130.8, 129.9, 129.4, 128.4, 127.1, 110.3. HRESIMS :C13H8F203 (M-H)計算値249.0363, 実測値249.0358. 順相HPLC保持時間: 18.3 min. 逆相HPLC保持時間: 10.5 min. > 98 %純度。
【0113】
3',5'-ジフルオロ-4'-ヒドロキシビフェニル-4-カルボン酸 (29). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 7.98(AA'XX', 2H, JAA’= JXX’ = 1.7 Hz,JXA =JX’A’ = 8.2 Hz, JX’A= JXA’= 0 5 Hz, νAA'=3189. 9 Hz,νXX' = 3122.0 Hz), 7.81 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.51 (m,2H). 13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz) δ 167.7, 154.5, 142.5, 136.0, 130.5, 130.5, 130.4, 126.9, 111.0. HRESIMS :C13H8F203 (M-H) 計算値249.0363, 実測値249.0375. 順相HPLC保持時間: 18.9 min. 逆相HPLC保持時間: 10.2 min. > 99 %純度。
【0114】
3', 5'-ジクロロ-4'-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸 (30). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.13 (t, 1H,J= 1. 6 Hz), 7.91 (m, 2H), 7.70 (s, 2H), 7.56 (t, 1H,J= 7.8 Hz). 13C NMR (DMSO-d6,100 MHz) δ 167.2, 149.0, 137.9, 132.2, 131.6, 130.8, 129.3, 128.4, 127.1, 126.8, 122.9, 123.0. HRESIMS :C13H8Cl203(M-H) 計算値280.9772, 実測値280.9767. 順相HPLC保持時間: 16.2 min. 逆相HPLC保持時間: 11.6 min. > 99 %純度。
【0115】
3',5'-ジクロロ-4'-ヒドロキシビフェニル-4-カルボン酸 (31). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 7.98 (AA'XX', 2H, JAA’ = JXX’ = 1.7 Hz, JXA= JX’A’ = 8.1 Hz,JX’A= JXA’= 0.5 Hz, νAA'= 3189.9 Hz, νXX' = 3110.0 Hz), 7.81(AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.78 (s, 2H). 13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) 6 167.2, 141.8, 141.7, 134.7, 129.9, 129.7, 126.9, 126.4, 123.0. HRESIMS : C13H8Cl203 (M-H) 計算値280. 9772, 実測値280.9785. 順相HPLC保持時間: 15.9 min. 逆相HPLC保持時間: 11.4 min. > 97 %純度。
【0116】
メチル-2', 4'-ジフルオロ-4-ヒドロキシビフェニル-3-カルボキシレート(32). 化合物32及び33はスキーム6に従って製造した。TMS-ジアゾメタン(5.87mL、11.75mmol、ヘキサン中の2M溶液)を、MeOH(10mL)中のジフルニサル(1.03g、4.11mmol)の溶液に加えた。その終了時に反応物を真空濃縮し、残留物をフラッシュクロマトグラフィー(10:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、32(774mg、71%)を白色固体として得た。1H NMR(CDC13, 400 MHz) δ 7.97 (dd,1H, J= 2.2, 1.3 Hz), 7.59 (dt, 1H,J= 8.8, 2.1 Hz), 7.36 (dq, 1H,J= 7.7, 1.5 Hz), 7.48 (td,1H, J= 7.8, 1.7 Hz), 7.38 (dddd, 1H, J= 8.8, 6.4 Hz), 7.05 (d, 1H, J= 8.7 Hz), 6.93(m, 1H), 6.90 (ddd,1H,J= 10. 6,8. 9,2. 5 Hz), 3.96 (s, 3H). 13C NMR (CDC13,100 MHz) δ 170.6, 163.6, 161.3, 158.5, 136.4, 131.2, 130.3, 126.2, 124.2, 118.0, 112.6, 111.8, 104.6, 52.6, 124.2.HRFABMS :C14H10F203 (M+) 計算値264.0596, 実測値264.0598. 順相HPLC保持時間: 6.9 min. 逆相HPLC保持時間: 14.7 min. > 99 %純度。
【0117】
2’,4’-ジフルオロ-4-メトキシビフェニル-3-カルボン酸(33) ヨウ化メチル(350μL、1.16mmol)及びKCO(320mg、2.32mmol)を、DMF(4mL)中の32(152mg、0.58mmol)の溶液に加え、Ar下に室温で14時間攪拌した。その終了時に酢酸エチルを加え、反応物を1%HCl(2×20mL)、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をさらに精製することなく次の段階に持ち越した。
【0118】
LiOH・HO(60mg、1.43mmol)を、THF:MeOH:HO(4.5mL 1:1:1)中の完全メチル化ジフルニサル(140mg、0.50mmol)の溶液に加え、室温で4時間攪拌した。その終了時に反応物を30%HClで酸性化し、酢酸エチル(3×5mL)で抽出し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(2:1の酢酸エチル:ヘキサン、1%酢酸)により精製して、33(122mg、93%)を白色固体として得た。1H NMR(CDC13, 400 MHz) δ 10.77 (br s, 1H), 8.31 (dd, 1H, J= 2.5, 0.9 Hz), 7.75(dt,1H, J= 8.6, 2.1 Hz), 7.41 (dt,1H, J= 8.9, 6.6 Hz), 7.15 (d,1H, J= 8.8 Hz), 6.94(m, 1H), 4.13 (s, 3H). 13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 177.7, 161.4, 158.2, 135.7, 133.9, 131.4, 129.0, 123.5, 118.1, 112.2, 112.0, 104.6, 56.9. HRESIMS :Cl4H10F203 (M-H) 計算値263.0520, 実測値263.0514. 順相HPLC保持時間: 21.6 min. 逆相HPLC保持時間: 11.9 min. > 99 %純度。
【0119】
化合物34〜38はスキーム7に従って製造した。化合物39〜44はスキーム8に従って製造した。ヨウ化アリール(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.07Mの濃度にした溶液に、適切なホルミルフェニルボロン酸をEtOHに溶解して該ボロン酸0.4Mの濃度にした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、ヨウ化アリールに関して0.04Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(3.0mol%)を加えた。反応物をAr下に18時間加熱還流し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(40:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、ビフェニルアルデヒドをを白色固体として40〜91%の収率で得た。
【0120】
3',5'-ジクロロ-3-ホルミルビフェニル(39). 1H NMR(CDC13, 400 MHz) δ 10.09 (s, 1H), 8.04 (t, 1H, J = 1. 8 Hz), 7.91 (dt, 1H, J= 7.6, 1.3 Hz), 7.80 (ddd,1H, J= 7.8, 2.0, 1.3 Hz), 7.64 (t,1H, J= 7.8 Hz), 7.49 (d, 2H, J = 1. 8 Hz), 7. 38 (t, 1H, J = 1. 9 Hz).13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 192.0, 142.8, 139.7, 137.2, 135.8, 133.0, 130.1, 130.0, 128.1, 128.0, 125.9. HRFABMS :Cl3H8C120 (M + H) 計算値251. 0027, 実測値251.0027. 順相HPLC保持時間: 8,0 min. 逆相HPLC保持時間: 15.2 min. > 99 %純度。
【0121】
3', 5'-ジクロロ-4-ホルミルビフェニル (40). 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.99 (AA'XX', 2H, JAA’ = JXX’ = 2. 1 Hz, JXA= JX’A’ = 8.5 Hz,JX’A = JXA’= 0 7 Hz,νA = νA’ = 3193.7 Hz, νXX' = 3077.8 Hz), 7.70(AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.47 (t,1H,J= 1. 9 Hz),7. 39 (d, 2H, J = 1. 9 Hz). 13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 191.8, 144.4, 142.9, 136.2, 135.8, 130.6, 128.5, 127.9, 126.1.HREIMS :C13H8Cl2O (M-H) 計算値248.9873, 実測値248.9874. 順相HPLC保持時間: 7.9 min. 逆相HPLC保持時間: 15.2 min. > 99 %純度。
【0122】
3', 5'-ジクロロ-2-ホルミルビフェニル(41). 1H NMR (CDC13, 400 MHz) δ 9.98 (s, 1H), 8.03 (dd, 1H,J= 7. 8,1. 3 Hz), 7.66 (td, 1H,J= 7. 6,1. 5 Hz), 7.55(tt, 1H,J= 7. 6,1. 0 Hz), 7.44 (t, 1H,J= 1. 9 Hz), 7.39 (dd, 1H, J= 7.7, 1.0 Hz), 7.27 (d, 2H,J= 1. 9 Hz). 13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 191.4, 142.9, 141.0, 135.3, 134.0, 133.7, 130.7, 129.0, 128.5, 128.4, 128.4.HRFABMS :Cl3H8Cl2O (M+H) 計算値251.0030, 実測値251.0029. 順相HPLC保持時間: 7.0 min. 逆相HPLC保持時間: 14.9 min. > 99 %純度。
【0123】
化合物45〜47はスキーム8に従って製造した。ビフェニルアルデヒド(1.0当量)を十分量のアセトンに溶解して0.07Mの濃度にした溶液に、十分量のHO中で0.2Mの過マンガン酸塩の濃度にしたKMnO(2.0当量)を加えた。反応物を室温で16時間攪拌し、その終了時に真空濃縮し、生成した残留物を10:1のCHCl:MeOHに再溶解し、ガラスウールの栓に通して濾過した。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(10:1のCHCl:MeOH)により精製して、カルボン酸(58mg、100%)を白色固体として82〜100%の収率で得た。
【0124】
2',4'-ジクロロビフェニル-3-カルボン酸(45). 1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δ 8.22 (br s, 1H), 8.00 (br s,1H), 7.94 (d, 1H, J= 7.5 Hz), 7.76 (s, 2H), 7.63 (s, 1H), 7.60 (br s,1H). 13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 168.0, 143.7, 138.1, 135.4, 131.6, 129.9, 127.9, 126.2. HRESIMS :Cl3H8Cl2O2 (M-H) 計算値264.9823, 実測値264.9810. 順相HPLC保持時間: 12.3 min. 逆相HPLC保持時間: 14.2 min. > 99 %純度。
【0125】
2',4'-ジクロロビフェニル-4-カルボン酸(46). 1H NMR (CD30D, 400 MHz)δ 8. 11 (br s, 2H) 7.72 (m, 2H), 7.64 (d, 2H, J = 1. 9 Hz), 7.46 (t, 1H,J= 1. 7 Hz).13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz) δ 170.3, 140.6, 135.2, 127.2, 126.4, 119.3, 118.6, 117.4. HRESIMS :C13H8Cl202(M-H) 計算値264.9830, 実測値264.9823. 順相HPLC保持時間: 12.5 min. 逆相HPLC保持時間: 14.4 min. > 99 %純度。
【0126】
2', 4'-ジクロロビフェニル-2-カルボン酸 (47). 1H NMR (DMSO-d6,400MHz) δ 7.75 (br s, 1H), 7.56 (s, 2H), 7.48 (m, 2H), 7.36 (m,2H). 13C NMR(DMSO-d6, 100 MHz) δ 170.1, 152.5, 145.2, 133.3, 130.0, 129.6, 128.0, 127.2, 126.3. HRESIMS :C13H8Cl202 (M-H) 計算値264.9823, 実測値264.9834. 順相HPLC保持時間: 11.4 min. 逆相HPLC保持時間: 13.6 min. > 99 %純度。
【0127】
化合物48〜53はスキーム8に従って製造した。ビフェニルアルデヒド(1.0当量)を十分量のMeOHに溶解して0.1Mの濃度にした溶液に、十分量のMeOH中で0.3Mの水素化ホウ素塩の濃度にしたNaBH(2.0当量)を加えた。反応物を0℃で攪拌し、徐々に室温に温め、16時間攪拌した後、真空濃縮し、フラッシュクロマトグラフィー(3:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、ビフェニルアルコールを白色固体として94〜100%の収率で得た。
【0128】
3',5'-ジクロロビフェニル-3-イル-メタノール (48). 1H NMR(CDC13, 400 MHz)δ 7.54 (m, 1H), 7.46 (d, 2H,J= 1. 8 Hz), 7.45 (m, 2H), 7.39 (m, 1H), 7.34 (t, 1H, J = 1. 9 Hz), 4.77 (s, 2H), 1.90 (br s, 1H). 13C NMR (CDC13, 100 MHz) δ 144.1, 141.9,139. 0,135. 5,129. 5,127. 4, 127.1, 126.5, 125.8, 125.7, 65.3.HREIMS :C13HIOC120 (M+) 計算値252.0103, 実測値252.0109. 順相HPLC保持時間: 13.9 min. 逆相HPLC保持時間: 14.0 min. > 99 %純度。
【0129】
3',5'-ジクロロビフェニル-4-イル-メタノール (49).'H NMR (CDC13, 400 MHz) δ 7.53(AA'XX', 2H,JAA'=1.9 Hz, JXX’ = 3.1 Hz,JXA= 8. 7 Hz, JX’A’= 6. 4 Hz, JX’A=JXA’=0. 5 Hz,νA = νA' = 3009.8 Hz, νXX’, = 2977.8 Hz), 7.45 (AA'XX', 2H, 上記のとおり), 7.45 (d, 2H, J= 1. 9 Hz), 7.33 (t, 1H,J= 1. 9 Hz), 4.75 (br d, 2H, J= 4.8Hz), 1.81 (br t, 1H, J= 5.2 Hz). 13C NMR (CDC13, 100 MHz) δ 144.0, 141.4, 138.0, 135.5, 127.8, 127.4, 127.4, 125.8, 65.1. HREIMS :C13H10C120 (M+) 計算値251.0110, 実測値252.0109. 順相HPLC保持時間: 15.4 min. 逆相HPLC保持時間: 14.0 min. > 97 %純度。
【0130】
3',5'-ジクロロビフェニル-2-イル-メタノール (50). 1H NMR (CDC13, 400 MHz) δ7.55 (dd,1H, J= 7.5, 1.3 Hz), 7.43 (td, 2H, J= 7.5, 1.4 Hz), 7.38 (m, 2H), 7.29 (d, 2H,J= 1. 9 Hz), 7.24 (dd, 1H, J= 7.4, 1.4 Hz), 4.58 (s, 2H), 1.79 (s, 1H).13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 143.7, 138.9, 137.9, 134.9, 130.0, 129.0, 128.9, 128.2, 127.9, 127.6, 63.0. HREIMS :C13H10C120 (M+) 計算値252.0110, 実測値252.0109. 順相HPLC保持時間: 11.5 min. 逆相HPLC保持時間: 14.0 min. > 99 %純度。
【0131】
化合物54及び55はスキーム9に従って製造した。適切なヨードベンズアルデヒド(1.0当量)を十分量のトルエンに溶解して0.07Mの濃度にした溶液に、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸(2.0当量)をEtOHに溶解して該ボロン酸に関して1.0Mにした溶液を加えた。NaCOの2M水溶液を加えて、該ヨードベンズアルデヒドに関して0.04Mの最終反応濃度にし、次いでPd(PPh(4.0mol%)を加えた。反応物を60℃で17時間攪拌し、その終了時に室温に冷却し、CHCl(2×)で抽出し、ブライン(1×)で洗浄し、MgSO上で乾燥し、真空濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(10:1のヘキサン:酢酸エチル)により精製して、ビフェニルアルデヒドを白色固体として78〜80%の収率で得た。
【0132】
3',5'-ジフルオロ-3-ホルミルビフェニル(54). 1H NMR (CDC13,400 MHz) δ 10.06 (s, 1H), 8.02 (t,1H,J= 1. 4 Hz), 7.88 (dt, 1H, J= 7.8, 1.4 Hz), 7.78 (ddd, 2H, J= 7.8, 2.0, 1.2 Hz), 7.61 (t, 2H,J= 7.7), 7.10(m, 2H), 6.80 (tt, 1H, J= 8. 8,2. 3 Hz.13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ192.0, 164.8, 162.3, 143.0, 139. 8, 137.1, 132.9, 129.9, 127.9, 110.4, 103.5.HRFABMS :C13H8F20 (M+H) 計算値219.0620, 実測値219.0621. 順相HPLC保持時間: 8.9 min. 逆相HPLC保持時間: 13.7 min. > 99 %純度。
【0133】
3',5'-ジフルオロ-4-ホルミルビフェニル (55).'H NMR(CDC13, 400 MHz) δ 9.98 (s, 1H), 8.02 (dd,1H, J= 7.8, 1.5 Hz), 7.65 (td,1H, J= 7.3, 1.4 Hz), 7.54 (t, 1H, J= 7.8 Hz), 7.40 (dd,1H, J= 7.6, 1.2 Hz), 6.90(m, 3H).13C NMR(CDC13, 100 MHz) δ 191.5, 164.1, 161.6, 143.4, 141.3, 134.0, 133.7, 130.6, 129.0, 128.3, 113.3, 103.8. HRFABMS :Cl3H8F2O(M+H) 計算値219.0620, 実測値219.0621. 順相HPLC保持時間: 7.0 min. 逆相HPLC保持時間: 13.4 min. > 99 %純度。
【0134】
本化合物をそれらがトランスチレチンテトラマーを安定化するか又はフィブリル形成を防止する能力について評価するために、多数のインビトロ試験を使用することができる。これらの試験は、フィブリル形成アッセイ、血漿選択性アッセイ、トランスチレチン:化合物複合体の三次元構造の決定(例えばX線結晶学による)、トランスチレチンテトラマー解離又はフィブリル形成の動力学、並びに例えば遠心分離又は熱量測定によるトランスチレチン:化合物相互作用の化学量及びエネルギー量の決定を含むことができる。インビトロアッセイにおける模範例の詳細は以下に提示される。
【0135】
各化合物を停滞フィブリル形成アッセイに付した。化合物をP上で一夜乾燥し、DMSOに7.2mMの最終濃度に溶解して、一次ストック溶液を与えた(10× ストック)。一次ストック溶液をDMSOで5倍希釈して1.44mMの最終濃度にすることによって、二次ストック溶液を調製した(2× ストック)。阻害剤(1.44mM)の存在下でのTTR(3.6μM)の酸媒介アミロイド生成を、次のように測定した:使い捨てUVキュベットに、10mMリン酸ナトリウム、100mM KCl及び1mM EDTA(pH7.6)中の0.4mg/mLのWT TTRタンパク質溶液の495μL、並びにDMSO中の1.44mMの二次ストック阻害剤溶液の5μLを加えた(2× ストック)。この混合物を旋回し、30分間インキュベートし(25℃)、このとき200mM酢酸塩、100mM KCl及び1mM EDTA(pH4.2)の500μLでpHを4.4に下げた。この最終1mL溶液を旋回し、攪拌することなく37℃で72時間インキュベートした。72時間後、キュベットを旋回して存在する全てのフィブリルを懸濁させ、この懸濁液の濁度を、UV-vis 分光計を用いて350及び400nmで測定した。パーセントフィブリル形成は、各TTRプラス阻害剤サンプルに関する観測濁度の、同じ方法で調製したが阻害剤を含まないサンプルの濁度に対する比に100を乗じることによって得た。阻害剤及びTTRの等モル濃度(3.6μM)を採用するフィブリル形成アッセイは、1× 二次ストック溶液を用いて上記のように行った。この1× 二次ストック溶液を、7.2mM 10× 一次ストック溶液をDMSOで10倍希釈して0.72mMの最終濃度にすることによって調製し、上記のようにフィブリル形成アッセイに使用した。全てのアッセイを三重で行い、野生型TTRを用いて全ての化合物をアッセイした。全ての化合物は、WT TTRの非存在下での溶液の濁度を試験することにより、実験の経過全体を通して可溶性であることが認められ、濁度がTTRアミロイド形成の結果であることを保証した。
【0136】
血漿中のTTRへの潜在的阻害剤の結合化学量は、抗体捕獲/HPLC法により評価した。1.5mL容量のエッペンドルフ型管に、1.0mLのヒト血漿及び阻害剤の1.44mM DMSO溶液の7.5μLを充填した。この溶液を37℃で24時間インキュベートして穏やかに振動した。停止したセファロースの1:1のゲル:TSA(トリス食塩水)スラリー(125μL)を上記溶液に加え、4℃で1時間穏やかに振動した。この溶液を遠心分離し(16,000×g)、上澄み液を二つの400μLアリコートに分割し、次いでこれらを、抗TTR抗体に複合したセファロースの1:1のゲル:TSAスラリーの種々の200μLサンプルに加えた。この溶液を4℃で20分間穏やかに振動し、遠心分離し(16,000×g)、上澄み液を除去した。ゲルを1mLのTSA/0.05%サポニンを用いて4℃で洗浄し、次いでTSAを用いて4℃で洗浄した(2×、それぞれ10分間)。サンプルを遠心分離し(16,000×g)、最終洗浄液を除去し、155μLの100mMトリエチルアミン、pH11.5を加えて、TTR及び結合した阻害剤を抗体から溶離した。4℃で30分間穏やかに振動した後、溶離サンプルを遠心分離し(16,000×g)、TTR及び阻害剤を含む上澄み液の145μLを除去した。次いで上澄み液を、上記のように逆相HPLCにより分析した。例えば、Purkey, H. E.; Dorrell, M. I.; Kelly, J. W. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2001, 98, 5566-71 参照、これは全体として参照により組み入れられる。
【0137】
WT TTRの結晶は、2M硫酸アンモニウムに対して平衡化した7mg/mLのタンパク質溶液(100mM KCl、1mM EDTA、10mMリン酸ナトリウム、pH7.0、0.35〜0.50M硫酸アンモニウム中)から得た。TTR-リガンド複合体は、10倍モル過剰量のリガンドで3週間より長く浸漬した結晶から得た。化合物20又は26で浸漬した結晶のデータ収集のために、RU200 回転陽極X線発生器を結合した CCD-PXL-L600 検出器 (Bruker instruments) を使用した。化合物1又は18で浸漬した結晶のデータ収集のために、14-BM-C, BIOCARS, Advance Photon Source の単色高エネルギー線源における Quantum-4 を使用した。結晶を凍結保護剤としてのパラトーン (paratone) 油に入れ、回折実験のために冷却した(20及び26では120K、並びに1及び18では100K)。TTR・リガンド複合体構造の結晶は、a=43Å、b=85Å及びc=66Å;非対称単位中に二つのモノマーを含む空間群P22に近似した単位格子寸法を有するアポ結晶形態と同形である。1及び18のデータセットを DENZO 及び SCALEPAC で整理した。例えば、Otwinowski, Z.; Minor W. Macromolecular Crystallography, Part A, in Method in Enzymology; Carter, C. W., Sweet, R. M. Eds.; Academic Press; 1997, Vol. 276, p 307-326 参照、これは全体として参照により組み入れられる。 20及び26のデータセットを SAINT 及び PROSCALFE (Bruker AXS, nc.) で整理した。
【0138】
The Protein Data Bank からのタンパク質原子配位 (受入番号 1BMZ) を、EPMR による分子置換サーチの間に出発モデルとして使用した。EPMR からの最良の解を、CNSの分子動力学及びエネルギー最小化プロトコールにより精密化した。得られたフーリエの差の分布図は、TTRの各結合ポケット中でのリガンドの結合(18、20及び26では二つの立体配座、並びに1では四つの立体配座)を明らかにした。これらの分布図を用いて、リガンドを密度に明確に配置することができ、結晶学的精密化に含めた。模倣アニーリングの数サイクル、並びに後続の位置及び温度因子精密化の後、水分子をフーリエの差の分布図に配置した。振動/ゆがみバイアス除去プロトコールにより計算した不偏加重電子密度図を用いて、図のフィッティングの最終サイクルを行った。リガンドの全ての立体配座は、不偏アニール省略図、並びに阻害剤の非存在下で同期させた振動/ゆがみの不偏加重図と良く一致した。精密化の最終サイクルは、Refinac の制限精密化プロトコールにより行った。最終の図には解釈できる電子密度が欠如していたので、9個のN末端残基及び3個のC末端残基は最終モデルに含めなかった。結晶学的分析の概要は表2に示されている。例えば、Kissinger, C. R.; Gehlhaar, D. B. Acta Crystallogr., Sect. D 1999, 55, 484-491; Brunger, A. T.; et al. Acta Crystallogr., Sect. D 1998, 54, 905-921; Kantardjieff, K.; et. Al. Acta Crystallogr., Sect. D 2002, 58, 725-743; Bailey, S. Acta Crystallogr., Sect. D 1994, 50, 760-763; 及び Murshudov, G. N.; Vagin, A. A.; Dodson, E. J. Acta Crystallogr., Sect. D 1997, 53, 240-255 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【0139】
TTRテトラマー解離の動力学は、尿素中でのモノマー展開と関連付けることによって評価した。遅いテトラマー解離は far-UV CD分光法によっては検出されないが、上記のように far-UV CD分光法によって容易に検出できる急速な(500,000倍速い)展開段階に関連している。阻害剤(3.6μM)の関数としてのTTRテトラマー(3.6μM)解離動力学は、関心のある阻害剤の1mM溶液(エタノール中)の3.6μLを、127.4μLのリン酸塩緩衝液を加えた69μLのWT TTR(2.90mg/mL、10mMリン酸ナトリウム、100mM KCl、1mM EDTA、pH7.0)を加えることによって評価した。TTR濃度(3.6μM)の2倍である阻害剤濃度(7.2μM)のために、関心のある阻害剤の1mM溶液(エタノール中)の7.2μLを、123.8μLのリン酸塩緩衝液を加えた69μLのWT TTR(2.90mg/mL、10mMリン酸ナトリウム、100mM KCl、1mM EDTA、pH7.0)を加えた。100μLの関心のあるタンパク質-阻害剤溶液を、100μLの10.3M尿素及び300μLのリン酸塩緩衝液の溶液に加えて、6.5Mの最終尿素濃度にした。これらの溶液を旋回させ、円偏光二色性スペクトルを次の間隔:0、5、8、23、46、71、95、118、144及び168時間で収集した。阻害剤よりはむしろ7.2μLのエタノールを含むコントロールサンプルを比較のために調製し、スペクトルを上記の時点で収集した。CDスペクトルを220〜213nmで収集し、0.5nm毎に走査し、平均時間は10秒であった。各波長を1回走査した。振幅に関する値を220〜213nmで平均して、実験全体を通してのβ-シート損失の程度を決定した。
【0140】
酸媒介フィブリル形成の速度を濁度によりpH4.4で追跡した。化合物をP上で一夜乾燥し、DMSOに7.2mMの最終濃度に溶解して、一次ストック溶液を与えた(10× ストック)。一次ストック溶液をDMSOで5倍希釈して1.44mMの最終濃度にすることによって、二次一次ストック溶液を調製した(2× ストック)。3.6μMのTTR(テトラマー)に対して7.2μMの阻害剤濃度を採用するフィブリル形成を、次のように行った:使い捨てUVキュベットに、10mMリン酸ナトリウム、100mM KCl及び1mM EDTA(pH7.6)中の0.4mg/mLのWT TTRタンパク質溶液の495μL、並びにDMSO中の1.44mMの二次ストック阻害剤溶液の5μLを加えた(2× ストック)。この混合物を旋回し、30分間インキュベートした(25℃)。30分後、200mM酢酸塩、100mM KCl及び1mM EDTA(pH4.2)の500μLでpHを4.4に下げた。この最終1mL溶液を旋回し、攪拌することなく37℃で72時間インキュベートした。UVスペクトルを次に間隔:酸性化後0、4、8、24、48、72、96、120、144、168及び192時間で収集した。5μLのDMSOを含むコントロールサンプルを比較のために調製し、スペクトルを上記の時点で週数した。測定値を記録する前のキュベットの障害を防止するために、各阻害剤溶液を10個の群で調製した。UV吸光度を得た後、その時点に対応するキュベットを捨てた。等モル(3.6μM)のTTR及び阻害剤を採用するフィブリル形成アッセイは、次のように調製した1× 二次ストック溶液を用いて、上記のように行った:7.2mM 10× 一次ストック溶液をDMSOで10倍希釈して0.72mMの最終濃度にすることによってストック溶液を調製し、上記のようにフィブリル形成アッセイに使用した。全ての化合物は実験の経過全体を通して可溶性であることが認められ、濁度がTTRアミロイド形成の結果であることを保証した。
【0141】
pH4.4で阻害剤の存在下でのTTR四次構造を分析した。18及び20がTTRを安定化する機構を、3.6μM又は7.2μMの阻害剤の何れかの存在下での停滞フィブリル形成の条件下でタンパク質(3.6μM)を72時間インキュベートすることによって評価した。72時間後、サンプルを遠心分離し(14,000×g)、アッセイで生成した全ての固体から上澄み液を除去した。平衡及び速度超遠心分析を、Beckman XL-I 分析用遠心分離機を用いて行った。データの取得及び分析は、以前に記載されたように行った。例えば、Lashuele, H. S.; Lai, S.; Kelly J. W. Biochemistry 1998, 37, 1785-64; 及び Lashuele, H. S.; et al. Biochemistry 1999, 38, 1356-73 参照、これらの各々は全体として参照により組み入れられる。
【0142】
WT TTRへの18及び20の結合を特徴付ける解離定数を、Microcal 装置 (Microcal Inc., Northhampton, MD) を用いて等温滴定熱量測定法により決定した。阻害剤の溶液(25mMトリス緩衝液中300μM又は500μM、100mM KCl、1mM EDTA、12%EtOH、pH8.0)を調製し、WT TTR(25mMトリス緩衝液中15μM又は25μM、100mM KCl、1mM EDTA、12%EtOH、pH8.0)を含むITCセル中に滴定した。2.5μLの最初の注入に続いて、それぞれ5.0μLを50回注入した(25℃)。ブランク値を減算した後の積分は、負共同性を有する二つの逐次的結合部位のモデルに最も良く当てはまる結合等温線を生じた。データは、Microcal により提供された ORIGIN version 2.9 のITC データモジュールを用いて、四つのパラメーター、すなわち、K、ΔH、K、ΔHを用いる非線形最小面積アプローチによってフィットされた。
【0143】
上記の本化合物を、濁度アッセイを用いてTTRアミロイドフィブリル阻害剤として評価した。WT TTRアミロイドーシスを、pHを4.4の最終値にジャンプさせる緩衝液添加を採用して、阻害剤と共に予備インキュベート(25℃)したTTRの酸性化によって開始した。各混合物を72時間インキュベートした(37℃)後、濁度を350〜400nmでUV-vis 分光計を用いて測定した。全てのアミロイドフィブリル形成データを、阻害剤の非存在下でのWT TTRアミロイド生成に正規化し、100%フィブリル形成に割り当てた。それ故に、5%フィブリル形成は、72時間後に95%のWT TTRフィブリル形成を阻害する化合物に対応する。各潜在的阻害剤を、3.6μMのTTRテトラマー濃度に対して7.2μMの濃度で最初に評価した。15%未満のフィブリル形成を可能にする化合物を、TTR濃度と等しい濃度(3.6μM)で再評価して、最高効力を有する阻害剤を選択した。これらの条件下で20%未満のフィブリル形成は、非常に良好な阻害剤の特徴である一方で、40〜70%阻害は適度な化合物を示す。フィブリル形成データを表1に示す。
【表1】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
化合物2〜55の阻害剤効力データに基づいて、ジハロゲン官能化疎水性環に直接結合したカルボキシレート置換親水性環は、優れた活性にとって十分であるように見える(表1)。カルボキシレートの代わりにフェノール性置換基(2〜10)は、かなり活性の低い阻害剤を与え、親化合物1よりもはるかに劣っている。疎水性環のオルト位又はメタ位にあるハロゲンは、ハロゲンが欠如した化合物、又は単一のパラハロゲンを有するものよりも優れている。これは、メタ及びパラハロゲン化ビアリールと同じ手段でHBPを補完しないことを示唆する。全てのハロゲンの完全な除去は劣った阻害剤をもたらすことがあり、おそらく、ハロゲン結合ポケットを満たすための立体的補完性が欠如しているからである(例えば、化合物10、21〜22、27、42〜44及び51〜53)。試験した条件において、最良のフェノール性化合物(8)は、親水性環上にフェノール性及びカルボキシレート官能基の両者を有する1よりも劣っている。単一カルボキシレートで安定化されたビアリール化合物(例えば11〜22)は、優れたアミロイドフィブリル阻害剤であることがあり、例えば、化合物11、12及び15〜20である。これらは、パラハロゲンだけを含むもの(例えば化合物13及び14)を除いて、阻害に関してジフルニサルの好敵手である。メタ又はパラ置換アリールカルボキシレートは、優れた阻害特性を賦与するのに十分であることがあり、1におけるヒドロキシ置換基は、良好な阻害剤活性にとって必要でないことを示唆する。加えて、パラカルボキシレート配置は優れた阻害剤を与えるようであり、パラカルボキシレートが、化合物20の場合のように、Lys 15及び15’ のε-アンモニウム基との静電相互作用(前部結合モード)を、又は化合物18の場合のように、Ser 117及び117’ ヒドロキシル基との水素結合相互作用(背部結合モード)をより良く利用できることを示唆する。疎水性環がパラ位以外の位置でハロゲンにより置換されており、かつ親水性環がメタ及び特にパラカルボキシレートにより置換されているビアリールは、著しく効果的なTTRアミロイドフィブリル形成阻害剤を生じる。
【0152】
また、カルボキシレート置換基を含む環へのヒドロキシル置換基の付加(サリチル酸置換基、例えば、化合物23〜27)は、ジフルニサルと同様の高い活性を有する阻害剤をもたらすことがある。サリチル酸コアを有するビアリールにおいて、ハロゲンの正確な配置は前の場合のように不可欠であるようには見えず、この環が結合エネルギーに不均衡に寄与することを示唆する。パラヒドロキシルは、Lys 15及び15’ のε-アンモニウム基との水素結合(前部結合モード)、又はSer 117及び117’ ヒドロキシルとの水素結合(背部結合モード)に関与することができる。1におけるフッ素の塩素による置換(26)は、同等又は優れた活性を有する阻害剤をもたらすことがある一方で、ハロゲンの完全な除去(27)は適度な阻害剤をもたらすことがある。27はインビトロでパラカルボキシレート22よりも僅かに優れており、そして両者はメタ位にカルボキシレートを有するハロゲン不含の阻害剤21、及びヒドロキシル含有類似体10よりも優れていることに注目すべきである。
【0153】
パラ位又はメタ位の何れかにカルボキシレートを有するハロゲン含有環上への3’,5’-ジハロ-4’-カルボキシル置換基の加入(28〜31)は、ジフルニサルと同様の高い活性をもたらすことがある。4-ヒドロキシルは、TTRの天然リガンドであるチロキシンをより綿密に模倣させるために加えられた。また、これらの阻害剤は、チロキシンのホルモン活性をより綿密に模倣することができ、それ故にチロイド作用剤又は拮抗剤(望ましくないことのある効果)として作用することができる。
【0154】
カルボキシレートをメチルエステルとして保護するか又はヒドロキシルをメチルエーテルとして保護すると(32及び33)、1よりも劣った阻害剤をもたらすことがある。電荷の喪失と立体的嵩の増加との組み合わせが、これらの観察をおそらく説明する。全ての親水性置換基の除去(例えば、34〜38)は、劣った阻害剤をもたらすことがある。メタ塩素置換だけを含むビアリール化合物(例えば、38)は、適度な阻害剤であることがあり、塩素はフッ素含有ビアリール(37)と比較して、ハロゲン結合ポケット中での向上した接触を作ることを示唆する。
【0155】
幾つかの塩素含有阻害剤を合成し、それらのTTRフィブリル阻害活性を評価した。この阻害剤のクラスのメンバーがメタ位又はパラ位にカルボキシレートを含む場合には(例えば、45及び46)、それらは高い活性を有することがある一方で、オルトカルボキシレートを有するもの(例えば47)は劣った阻害剤であることがある。この観察は、オルトカルボキシレートが、好ましい静電相互作用(前部結合モード)を作るためにはLys 15及び15’ のε-アンモニウム基から、又は水素結合相互作用(背部結合モード)を行うためにはSer 117及び117’ ヒドロキシル基から遠すぎるかもしれないことを示唆する。ベンジルアルコール48〜50は、驚くべきことに、フィブリル形成の優れた阻害剤であることを証明した。一方の環上のメタジクロロ置換は、オルト位、メタ位又はパラ位の何れかにあるベンジルアルコールによって補完されるように見え、場合によっては水素結合又は水媒介水素結合のためである。-CHOH基をアルデヒド官能基で置き換えた一連のアルデヒド類似体(39〜41)は、パラアルデヒド41の場合を除いて、良好な阻害を示し、おそらくアルデヒドが水和してジェム型ジオールになるためである。ベンジルアルコール及びカルボキシレートは、ポケット中で異なる機構により結合することが可能である。しかしながら、構造の情報がなくては、類似する結合モードを排除することはできない。アルデヒドは、Ser 117(117’)にヘミアセタールを介して、又はLys 15(15’)にイミン結合を介しての何れかで結合することも可能である。アルデヒドの場合にフッ素による塩素の置換(54及び55)は、むしろ劣った阻害剤をもたらすことがある(39及び41)。上記のように、ハロゲンの完全な除去は、活性が適度であるメタアルデヒド43の場合を除いて、劣った活性を有する阻害剤をもたらすことがある(42及び44)。この適度な活性は高度の水和に起因するかもしれない。3’,5’-ジフルオロ-メタアルデヒド(54)が、ハロゲンが欠如したアルデヒド(42)よりも劣ることは驚くべきである。
【0156】
TTRの濃度(3.6μM)と等しい濃度でTTRフィブリル形成を50%未満に保持する阻害剤を、それらが血漿中の他の全てのタンパク質に対して選択的に結合する能力についてさらに評価した。ジフルニサルの血中濃度は、単回500mgの投与後20時間に30μM、又は同じ投与後4時間後に300μMを超えることがある。この高レベルの持続血漿濃度は優れた生物学的利用率を示唆するが、より選択的な阻害剤はより低い用量及び潜在的により少ない副作用を可能にするだろう;それ故に、ヒト血漿を阻害剤のこのサブセットと共に10.8μMの最終濃度でインキュベートした(ヒト血漿中の平均TTR濃度は約5μMである)。次いでTTRを、樹脂結合抗体を用いて捕獲し、固定化したTTRをTSA(トリス食塩水)/0.05%サポニンの溶液で3回洗浄し、続いてTSAで2回洗浄した。TTR-阻害剤複合体を100mMトリエチルアミン(pH11.5)で樹脂から遊離させ、存在する阻害剤のTTRに対する化学量を逆相HPLCにより決定した。TTRテトラマー当たり最高で2当量の阻害剤が、結合することができる。洗浄関連損失のためにより低い限界を表す、洗浄後の血漿中結合の化学量は、表1にまとめて示されている。塩素含有ビフェニルは、ヒト血漿中のTTRの結合に対して選択的であることがある(平均化学量は0.8、理論的に最高の化学量は2.0、表1参照)。観察された平均化学量は、試験した全ての阻害剤について0.4であった。フッ素含有阻害剤、18及び20は、それぞれ極めて良好かつ許容できるTTRに対する結合選択性を示し、同じ条件下で1により示された0.13の化学量よりも優れていた。表1に報告した化学量の値は、多クローン性抗体樹脂上に留められたTTRからの阻害剤の洗浄関連損失のために、より低い表すことがある。30及び41に関するTTR結合選択性の結果は、これらの化合物が上記のようにTTRに共有結合できるので、慎重に考慮すべきである。
【0157】
インビトロで優れたTTRアミロイドフィブリル阻害データを示すが、それにもかかわらず劣った血漿選択性を示す阻害剤は、アルブミン中の薬剤結合部位及び/又は血漿中に存在する他のタンパク質中の同様の結合部位に優先的に結合することがある。このような阻害剤が、血漿又はCSFのような複雑な環境においてTTRの誤った折り畳み及びアミロイド沈着を防止することはありそうにない。
【0158】
TTRに結合した1並びにその3種の類似体26、18及び20の高分解能X線共結晶構造は、TTRを10倍モル過剰量の阻害剤で3週間を超えて浸漬することによって得た。結晶学的統計値を表2にまとめて示す。
【表2】
【0159】
ジフルニサル(1)は前面及び背面モードの両方でTTRに結合する。TTRの各ホルモン結合部位において、ジフルニサルの四つの異なる結合立体配座は、ほぼ等しい占有期間を有することが見出された -- 二つの対称的に等価な結合様式を有する前面及び背面結合モード。ジフルニサルのジアリール系は、ホルモン結合ポケットの中心から離れていた、そして二つの明確な位置を占めて、TTRのホルモン結合ポケット中の電子密度の「V」字形の円錐を形成する。この結合モードは、阻害剤と、Leu17、Ala 108、Leu110、Thr 119及びVal 121により形成されたTTRの疎水性ポケットとの、疎水性及びファン・デル・ワールス相互作用の両者を増強する。背面結合モードは、カルボキシル基と、内部結合ポケットにおけるThr 119の側鎖酸素及びAla 108の主鎖酸素との水素結合相互作用により増補された。驚くべきことに、Ser 117は、多重立体配座を取ることも、阻害剤との静電相互作用を形成することもない。背面結合モードにおいて、ジフルニサルのフッ素置換基の一方は、Thr 119側鎖酸素から水素結合距離内にあった(3.3Å)。外部結合ポケットにおいて、Lys 15’ の側鎖原子に関する電子密度は、低いシグマレベルでしか目に見えず、それが一つより多い立体配座であるかもしれないことを示した。Lys 15残基に関して最も可能な立体配座を、前面結合モードにおけるジフルニサルのカルボキシル基からの水素結合距離でモデル化した。
【0160】
化合物20は、前面結合モードでTTRに結合し、カルボキシレート置換親水性環は外部結合ポケット内に配向してLys 15及び15’ と電気的に相互作用する。フッ素化アリール環は、ハロゲンがHBP2及び2’ 中に配置された内部結合ポケット中に位置する。興味深いことに、両方の結合部位の綿密な調査は、ビフェニル環の配位に有意な相違があることを明らかにした。フェニル環の平面間の角度は、一方の結合部位で32.6度から他方で63.8度に変化する。この観察は、20がTTRと負共同的に結合する結果であるかもしれない。
【0161】
化合物18は、背面結合モードでTTRに結合し、カルボキシレート置換親水性環は、Ser 117及びSer 117’ の水素結合距離内で、内部結合ポケット内に配向している。両方の環は相互に関して34度回転されて、Leu17、Ala 108、Val 121及びThr 119との疎水性相互作用を利用する。フッ素はハロゲン結合ポケット1及び1’ 中に位置する。背面結合モードは予期されず、それどころか、カルボキシレートは外部ポケット中に位置してLys 15及び15’ との静電相互作用を利用したことが想定され、フッ素がハロゲン結合ポケット2及び2’ 中に留められた。しかしながら、背面結合モードは、それが以前にジクロフェナク(ビアリールアミン)及び幾つかのジクロフェナク類似体で観察されたので、全く驚くべきことではなかった。
【0162】
ジフルニサルにおけるフッ素の塩素による置換は、TTRへの26の結合に有意な相違を誘発した。化合物26はTTRに背面結合モードで結合し、カルボキシル置換アリール環は内部結合ポケット中に配向し、そして塩素はハロゲン結合ポケット2及び2’ 内に留められる。18及び20のように、化合物26もまた、ホルモン結合ポケットの中心を占める。TTRプロモーターの残基Ala 108、Lys 15、Leu17、Leu110、Lys 17及びThr 119は、阻害剤とのファン・デル・ワールス及び疎水性相互作用を形成する。内部結合ポケットにおいて、Ser 117の側鎖は二つの立体配座で存在して、26のカルボキシル置換基及び他方のモノマーのSer 117と相互作用する。26の同じカルボキシル酸素もまた、Ser 117の主鎖酸素との水素結合相互作用を形成する。26の他方のカルボキシル酸素は、Ala 108の主鎖酸素と水素結合を形成する。ジフルニサルとは対照的に、Thr 119残基は、阻害剤から離れて配向し、阻害剤との水素結合よりはむしろ、結合ポケットの疎水性に寄与する。
【0163】
これらの阻害剤の作用機構を精査するために、それらが時間の関数としてTTRを尿素媒介解離に対して保護する能力を評価した。テトラマーの解離速度を、モノマーの再折り畳みを可能にする濃度を超える尿素濃度を採用して、急速な容易に監視できるモノマーの展開に非可逆的に関連付けた。展開で監視した解離を、6.5M尿素中で far UV-CDによって精査し、酸媒介アミロイド生成の良好な阻害剤全てがテトラマーの解離速度を用量依存性の様式で減速したことを明らかにした(図2A及び2B)。20、46及び48を含む幾つかの阻害剤は、アミロイド生成の律速段階であるTTRテトラマーの解離に対して劇的な効果を示す。例えば、Hammarstroem et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2002, 16427-32 参照、これは全体として参照により組み入れられる。
【0164】
これらの化合物によるTTRフィブリル形成の阻害モードは、基底状態の安定化によるテトラマー解離バリアの用量依存性チューニングではないかと疑われるので、最良の阻害剤はテトラマー解離を最大に減速すべきである。フィブリル形成の速度を、4.4の最終pHでの濁度により192時間にわたって監視した。図3A、3B、4A及び4B参照。テトラマーTTRを低いpHで安定化する能力を有する阻害剤は、テトラマーの解離、誤った折り畳み及びアミロイドへの集合ミスを防止するだろう。アミロイドフィブリル形成の最良の阻害剤は、テトラマーの解離を最大に減速するものである(図2A及び2B参照)。しかしながら、幾つかの阻害剤は酸性条件でよりも尿素中で良く結合し、その逆でもあるので、相関関係は完全でない。
【0165】
阻害剤がTTRのテトラマー形態を安定化していることを確実にするために(3.6μM)、TTRの四次構造を、平衡及び速度分析超遠心研究により精査した。18及び20(3.6μM又は7.2μM)と共に72時間インキュベートした後の四次構造を決定した。テトラマーは、平衡AUC並びに速度研究において3.6μM又は7.2μMの阻害剤濃度で優勢な種であった。
【0166】
等温滴定熱量測定法を、TTRへの18及び20の結合定数をpH8.0(25℃)で決定するために採用した。ジフルニサル及びこれら2種の類似体は、多くの他の類似体により示される特性である負共同性でTTRに結合する。第一部位での結合は、ジフルニサル及び20の場合には、第二部位での結合よりも15倍強い。ビアリール18は、Kdよりも120倍低いKdを有する(表3)。表3は、ITCにより決定したWT型TTRへの1、18及び20の結合に関する第一及び第二解離定数をまとめて示している。1に関する解離定数は先に報告したが、ここには比較のために提供する。実施例1参照。
【表3】
【0167】
テトラマーWT TTRは、42時間のt1/2で解離し、そして500,000倍速く展開する。それ故に、その解離定数は、それを6.5M尿素中で非可逆的である展開と関連付けることにより精査することができる。テトラマーの解離はアミロイド生成にとって律速的なので、優れたインビトロ活性及び血清中で0.50を超える化学量を示す全ての阻害剤は、推定した作用機構、すなわち野生状態への選択的結合による動力学的安定化が正しいならば、テトラマーの解離を減速するはずである(図2A及び2B参照)。
【0168】
TTRテトラマーの解離速度を、6.5M尿素中で168時間の経過にわたって阻害剤濃度の関数として測定した。選択した阻害剤、具体的には18、20、39、41、45、46、48及び49は、阻害剤なしでTTRに対する振幅の変化に反映されるように、テトラマー解離の程度の全体的な減速を160時間にわたって示した。また、テトラマーの解離速度は、時間経過の傾斜に反映されるように、阻害剤の存在下で劇的に減速される。阻害剤20、45、46及び48が優れており、おそらく、これらの阻害剤の結合親和性が尿素中で高いので、TTR・I及びTTR・Iから非常にゆっくりと解離するからである。TTR・I及びTTR・Iの形成は、実質的に20、45、46及び48の場合に、このような複合体のKが低いため天然状態を有意に安定化することがあり、そしてテトラマーの解離に対する動力学的バリアを上昇させることがある。16及び18はTTRに結合するとしても、それらの親和性は動力学的安定化に影響を与えるには不十分であるように見える。同様に、3.6μMの阻害剤濃度(3.6μMタンパク質)において尿素中での阻害剤効力のランク順序付けは、20 ≒45>46 ≒48>であり、これは7.2μMの阻害剤濃度とは異なる(20 ≒46>45 ≒48>)。これは尿素中でのKdの相違を反映しているようである。
【0169】
天然状態の動力学的安定化は、誤った折り畳まれたオリゴマーがアミロイド経路をオンにしようとオフにしようと、神経毒性である。阻害剤による動力学的安定化の達成は、SSA、FPA及びFACに対して非侵襲性治療を提供することができる。
【0170】
所定の阻害剤の存在下での尿素中のテトラマーの解離速度は、低いpHでアミロイド症を抑制する阻害剤の能力を必ずしも予言しない。アミロイドがヒトにおいてどのように及びどこで生成するのかはまだ明らかでないので、種々の変性環境で良く機能するTTRテトラマー安定化剤が望ましい。阻害剤濃度の関数としてのTTRフィブリル形成速度を、酸性条件下で探求した(図3A,3B,4A及び4B参照)。阻害剤20、45及び48は、この環境でも格別に良く機能する。阻害剤46は酸中でよりも尿素中で、より良好なテトラマー安定化剤である一方で、1は尿素中でよりも酸中ではるかに良好である。所定の環境でTTR・I及びTTR・I複合体の形成に関連する安定化の自由エネルギーは、基底状態の安定化及びテトラマーの解離のための活性化自由エネルギーの関連した減少の程度を決定する。これらのデータは、阻害剤が6.5M尿素中でTTRテトラマーの解離を減速するよりもはるかに効率的に、低いpHでTTRアミロイド沈着を減速する。これは、アミロイド生成が解離後に濃度依存性再集合を必要とするからであるかもしれない。より効果的な阻害剤は、TTRのモノマーアミロイド生成中間体の濃度を、フィブリル形成を極めて非効率的にするのに十分低いレベルに保持できるものである。阻害剤の存在下でTTRの尿素変性において観察されたように、低いpHでの阻害剤効力のランク順序付けは、3.6μM阻害剤(図3A及び3B)と7.2μM阻害剤濃度(図4A及び4B)とで有意に異なる。この観察は同様に、低いpHにおける阻害剤のそれぞれのKd2 値の相違を反映する。最も劇的な例は、ジフルニサルのものであり − そのKd2 が比較的に高いため、3.6μMでフィブリル形成の最も効力ある阻害剤の一つであるが、7.2μMで最も効力の低いものの一つである。
【0171】
ジフルニサル類似体は、TTRアミロイド症を治療するための化合物の有望なクラスを表す。幾つかのジクロフェナク類似体はフィブリル形成の極めて良好な阻害剤であるが、ジフルニサル類似体は著しく有効なTTRテトラマー安定化剤の追加のクラスを提供する。幾つかのジクロフェナク類似体は、2種のTTR突然変異体 − Val 30Met及びLeu 55Proの解離及び誤った折り畳みに起因するフィブリル形成を阻害する能力を提供する。X線共結晶構造は、ジクロフェナク類似体が主に背面結合モードで結合するが、ジクロフェナク類似体の構造における僅かな乱れは、前面又は背面結合の何れかを可能にすることを実証した。加えて、ジフルニサルは前面又は背面結合モードの何れかで結合することができ、占有期間は両方のモードでほとんど等しい。ジクロフェナクについて得られた解離定数(Kd1 に関して60nM及びKd2 に関して1200nM)を、ジフルニサル及び20について得られたのと比較可能であり、18は、そのKd2 値により説明されるように、第一結合イベントについてほぼ10倍強固な結合を実証した。加えて、両方の阻害剤クラスは、負共同結合を示した。最も顕著には、幾つかのジフルニサル類似体はヒト血漿中のTTRに対して極めて選択的であり、減少した毒性及び副作用の可能性を提供した。例えば、Oza, V. B.; et al. J. Med. Chem. 2002, 45, 321-32 参照、これは全体として参照により組み入れられる。
【0172】
12種の合成した化合物は、TTRアミロイド生成を実質的に阻害することができる。もちろん、幾つかは、ヒト血漿中で0.50を超える結合化学量を示した。良好な阻害剤の塩素化及びフッ素化アリール基礎構造の両方は公知の薬剤に見出され、それ故に、これらの化合物又はそれらの類似体が、1のNSAID活性を示さない薬剤に発展できると信じるだけの十分な理由がある。フッ素化化合物18及び20は、6.5M尿素中でテトラマーTTRに結合してそれを安定化することができ、誤った折り畳み及びアミロイド生成の第一段階、すなわちTTRテトラマーの解離を劇的に減速させる。これらの化合物、及び他のものもまた、酸媒介TTRアミロイド生成を劇的に減速させる。試験した化合物のうち、18、20、39、41、45、46、48及び49は、尿素中及び酸性条件下でのTTRテトラマーの安定化において最も良く機能した。これらのビアリール化合物は、アミロイド形成にとって律速段階であるテトラマー解離に関連する活性化バリアを基底状態の安定化によって増大させるように見える。
【0173】
実施例3: 経口投与したジフルニサルはトランスチレチンを変性に対して安定化する
トランスチレチン(TTR)は、チロキシン及びホロレチノール結合タンパク質を輸送するホモテトラマータンパク質である。変性条件において、律速的テトラマー解離及び急速なモノマーの誤った折り畳みは、集合ミスさせてアミロイドが原因となる老人性アミロイド症、家族性アミロイド多発性神経障害及び家族性アミロイド心筋症にすることがある。TTR中の二つの未占有チロキシン結合部位の少なくとも一方へのジフルニサルの結合は、TTRテトラマーを安定化し、またインビトロで解離活性化バリアを増大させることが知られている。TTRアミロイド症の治療のためにジフルニサルを使用する実現可能性を調査した。
【0174】
方法
30人の健康ボランティア(男性25人、女性5人)を、インフォームドコンセントを与えた後に登録した。被験者は年齢23〜53歳の範囲にあり(平均年齢、37.6±8.8)、平均体重は78.0±12.1kgであった。各被験者を、ジフルニサル(Dolobid (登録商標))を用いて、125、250又は500mgの用量を毎日2回(12時間毎に)、7日間治療した(合計13用量)。治療前の第1日目は治療前に、そして第8日目はジフルニサル服用後の4及び12時間に、採血した。この研究計画は、Human Subjects Committee of Scripps Clinic、Scripps Green Hospital、The Scripps Research Indtitutem 及び The Scripps General Clinical Research Center により認可された。
【0175】
血清ジフルニサルレベルを測定した。100μLの血清を、900μLのアセトニトリルに加えてタンパク質を沈殿させた。遠心分離した後、100μLの上澄み液を900μLの100mM水性トリエチルアミン、pH11.5に加えた。濾過した後、100mlの各サンプルを、溶液Bの40〜100%勾配を10分間にわたって用いて Keystone 3-cm C18 逆相カラム上に注入し(溶液A:94.8%水/5%アセトニトリル/0.2%トリフルオロ酢酸;溶液B:94.8%アセトニトリル/5%水/0.2%トリフルオロ酢酸)、Waters 600E 多溶剤配送装置により集めた。検出は、280nmで Waters 486 チューナブル検出器により行い、ピークを積分して標準曲線からジフルニサル濃度を得た。
【0176】
ヒト血清中のTTRへのジフルニサル結合の化学量を分析した。セファロースの1:1のゲル/10mMトリス・HCl、pH8.0/140mM NaCl/0.025%NaN(TSA)スラリー(62.5μL)を、500μLの血清に加え、4℃で1時間インキュベートした。遠心分離した後、400μLの上澄み液を抗TTR抗体と結合したセファロースの1:1のゲル/TSAスラリーの200μLに加え、4℃で20分間ゆっくりと振動した。遠心分離した後、ゲルを1mLのTSA/0.05%サポニン(Fisher Scientific) (2回、それぞれ10分間)、さらに4℃で1mLのTSAで洗浄した(1回、10分間)。次いで155μLの100mM水性トリエチルアミン、pH11.5を加えて、TTR及び結合したジフルニサルを抗体から溶離した。4℃で30分間穏やかに振動した後、サンプルを遠心分離し、145μLの上澄み液を分離した。サンプルの135μL注入分を分離し、上記のように分析した (Purkey et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001; 98: 5566-71)。
【0177】
尿素変性に対する血清TTRテトラマー安定性を評価した。10μLの血清サンプルを50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0;100mM KCl、1mM EDTA、1mM DTT)中の90μLの種々の濃度の尿素中でインキュベートした(25℃)。尿素溶液を屈折率によりチェックして、用意した濃度を重量で確認した。タンパク質のグルタルアルデヒド交差反応を、10μLのグルタルアルデヒド(25%)の添加により行った。交差反応を4分間進行させた後、10μLのNaBH(0.1M NaOH中7%)の添加により停止した。サンプルを120μLのSDS還元ゲル負荷カクテル(最終SDS濃度=2.5%)と混合し、5分間沸騰させた。12%SDS-PAGEを用いてサンプルを分離し、抗TTR抗血清を用いる免疫ブロッティングにより分析した (Purkey, supra)。
【0178】
酸変性に対する血清TTRテトラマー安定性を評価した。10μLの血清サンプルを90μLの100mM酸性化緩衝液中でインキュベートした(37℃)。3.8の最終pHが望ましい場合にはクエン酸塩緩衝液を用い;評価するpH範囲が4.2〜5.4である場合には酢酸塩緩衝液を採用した。交差反応の後、サンプルを上記のようにSDS-PAGE及びる免疫ブロッティングにより分析した。
【0179】
組み換えWT TTR及び変異体を、TTR及びアンピシリン耐性遺伝子を含むpmmHαプラスミドで形質転換した BL21/DE3 Epicurian gold Escherichia coli (Stratagene) 中で発現させた。発現及び精製を上記のように行った (Lashuel et al., Biochemistry 1999; 13560-73)。
【0180】
TTRテトラマーの解離速度を、円偏光二色性分光法により測定した。テトラマー解離速度の評価を、6.5M尿素中の組み換えTTR(3.6μM)、すなわち四次構造変化のための遷移後領域の濃度を用いて行った (Hammarstroem et al., Proc Natl Acad Sci USA 2002; 99, 16427)。時間の関数としてのTTRの far-UV CDスペクトル(210〜220nm)を測定して、遅いテトラマー解離を速い四次構造に関連付けることにより、遅いテトラマー解離を評価した。
【0181】
フィブリル形成アッセイを次のように行った。組み換えTTRストック溶液(7.2μM)を100mM酸性化緩衝液で1:1に希釈した。3.8の最終pHが望ましい場合にはクエン酸塩緩衝液を用い;評価するpH範囲が4.2〜6.0である場合には酢酸塩緩衝液を採用し、pH6.5でのアミロイド生成を評価するためにはリン酸塩緩衝液を利用した。フィブリル形成の程度を、400nmでの濁度測定値により精査した。
【0182】
フィブリル形成の動力学を次のように測定した。組み換えTTRの溶液(7.2μM)を、等量の100mM酢酸塩緩衝液と混合して4.4の最終pHにした。サンプルを37℃でインキュベートし、400nmでの濁度を168時間の経過にわたって監視した。別々のサンプルを各時点のために作った。
【0183】
尿素媒介テトラマー解離及びpH媒介フィブリル形成に対するジフルニサルの効果は、TTR溶液にジフルニサルを加え、これを3時間インキュベートした(37℃)後、タンパク質を尿素変性又はpH媒介アミロイドーシスに付することによって評価した。
【0184】
結果
13回目の用量を服用した後の4及び12時間にHPLCにより測定した平均血清ジフルニサル濃度は、毎日2回125mgのグループでは20.1±7.1及び6.9±3.0μM、毎日2回250mgのグループでは233.5±76.0及び145.8±38.9μM、そして毎日2回500mgのグループでは517.0±79.5及び421.9±78.1μMであった。毎日2回250mg及び毎日2回500mgのグループで観察されたこれらの濃度は、血清中のTTR濃度(3.6〜7.2μM)に対して極めて高く、そして小分子のための複数の結合部位を有する競争タンパク質、例えばTBG(0.3〜0.5μM)及び/又はアルブミン(580〜725μM)への結合が高親和性結合でないならば、2の最高値に近いジフルニサル結合化学量を生じるはずである。
【0185】
ジフルニサルは少なくとも1、そして最大動力学的安定化を観察するためには理想的に2の化学量で血中テトラマーTTRに結合する。各被験者におけるジフルニサルの化学量に関する下限を設定するために、上記のように、固定化樹脂に結合した多クローン性抗体からトランスチレチンを免疫沈降させた (Purkey, supra)。固定化したTTRを3回洗浄して非特異的結合を除去した後、TTR-ジフルニサル複合体を樹脂から分離し、標準曲線を採用するHPLCにより化学量を決定した。服用後の4及び12時間に血清中のTTRに結合したジフルニサルの化学量は、毎日2回125mgのグループでは0.45±0.11及び0.31±0.12mg、毎日2回250mgのグループでは1.12±0.08及び0.95±0.13mg、そして毎日2回500mgのグループでは1.51±0.09及び1.48±0.08mgであった。ジフルニサル化学量は≒300μMまでその血清濃度が増加した。300μMの血清濃度で1.5の予想最大化学量より低い値は、方法の制限(洗浄関連損失)及び/又は他の血漿タンパク質へのジフルニサルの結合に起因し、それ故にジフルニサル結合化学量の研究を組み換えTTRで行った。洗浄関連損失は、主に低親和性部位から解離するために、1.5の最大化学量を説明する。ジフルニサルはTTRに負の共同性で結合し、それ故に、低親和性部位からの解離は劇的に早い。緩衝液中での予想結合化学量は、等温滴定熱量法により決定した解離定数(Kd1、75nM;Kd2、1.1μM)に基づいて計算した。計算した化学量及び実験的に決定した化学量(後者は免疫沈降(3回の洗浄)及びHPLCから導いた)を一緒にプロットすると、真の化学量が毎日2回250mgにおいて1.75〜1.91であると推定することを可能にする。
【0186】
被験者におけるジフルニサル(100μM)結合化学量(0.8〜1)と組み換えTTR(1.5)との比較は、TTRのほかに血清タンパク質への有意な結合を明らかにし、TTRにいっそう選択的に結合するジフルニサル類似体を開発する動機を与える。全てのグループにおいてジフルニサル投与後に、TTRの血清レベルは増加し、そして全T及びRBPの血清レベルは減少した。これらの知見は、ジフルニサルがTTRの代謝に影響を与えることを示唆する。しかしながら、毎日2回500mgのグループにおいて、アルブミンの血清レベルは有意に減少し、そしてBUN及びクレアチニンは僅かに減少した。毎日2回250mgのグループにおいて、アルブミンの血清レベルは中程度に減少し、そしてBUN及びクレアチニンは僅かに減少した。
【0187】
経口投与したジフルニサルが血清TTRをアミロイドーシスを含む変性ストレスに対して安定化すことを実証するために、新しい方法を開発した。この方法は、TTRの誤った折り畳みの疾患を予防するであろう化合物を同定するための代理マーカーとして役立つ。被験者からの全血清を、尿素(0〜9M)の添加又は酸(pH3.8〜5.4)の添加の何れかによる変性に付した。TTRは変性のために解離するはずなので、四次構造の変化を用いて回転の程度を監視することができる (Hammarstroem et al, supra)。グルタルアルデヒドを加えて変性ストレスに付し、かつTTRのどの分画が正常に折り畳まれるか(テトラマー又はダイマー)に対してどの分画が変性されるか(モノマー)を確立した後の血清中の全てのタンパク質を交差反応させた。全血清のSDS-PAGEは、交差反応したTTRテトラマー及びダイマー(これらは折り畳まれたTTRを表す)をモノマーから分離する。免疫ブロッティングは、折り畳まれたTTRの量の定量的比較を可能にする。多クローン性抗体は、展開したTTRモノマー並びに折り畳まれたTTRにはほとんど結合せず、それ故に、ジフルニサルの非存在下及び存在下でのテトラマー及びダイマーのバンドの密度を比較することが最も有用である。また、TTR変性のジフルニサル阻害の時間依存性を、この方法により評価することもできる。この方法がジフルニサルの存在下でほとんど時間依存性でないことは、ジフルニサルによる基底状態の安定化がテトラマー解離バリアを乗り越えられなくする動力学的安定化機構を強く支持する(実施例1参照)。これらの変性時間経過におけるジフルニサル(毎日2回250mg)の効力は、測定した化学量(0.8〜1.2)が予想したよりも良好であり、免疫沈降法が実際の結合化学量を、それが1を超える場合には特に、過小評価するというさらなる証拠を与える。
【0188】
ヒトにおけるジフルニサル結合化学量の範囲、及び試験管中でこれらの化学量を模倣するのに必要なジフルニサルの濃度を知ることは、TTR・ジフルニサル及びTTR・ジフルニサル複合体が解離及びアミロイドーシスを防止する機構を精査するための適切なインビトロ生物物理学的研究を行うことを可能にする。尿素媒介(6.5M)解離速度及び酸媒介(pH4.4)アミロイドフィブリル形成速度を、ジフルニサル濃度(5、10、20及び60μM)の関数として研究し、用量依存性減速を明らかにした。テトラマー解離はアミロイドフィブリル形成にとって律速的であるので、尿素中でのテトラマー解離速度は酸性化により媒介されたアミロイドフィブリル形成の程度の指標となるはずであるという結果となる。ジフルニサルは尿素媒介解離の阻害よりもアミロイドーシスの阻害が良好である。なぜならば、アミロイドーシスには濃度依存性の類似性が必要だからである。TTRへのジフルニサル結合に関連するKd1及びKd2が、尿素中でよりも酸中で低いことも可能である。
【0189】
80種を超えるTTR突然変異体が、変性エネルギー展望の配列依存性変化により、個体を遺伝性アミロイドーシスにかかりやすくする。これらのうち、V122Iのアミロイド沈着は、アフリカ系アメリカ人の3〜4%で家族性アミロイド心筋症(FAC)をもたらす一方で、V30Mは著名な家族性アミロイド多発性神経障害(FAP)の突然変異体である。ジフルニサルはV122I及びV30Mアミロイド生成の両方を用量依存性様式で阻害し、このアプローチの一般性を実証する。
【0190】
TTRアミロイド生成を軽減するための一般的な非侵襲的治療方策を開発することが望ましい。本明細書で概説した結果は、ジフルニサルの経口投与が、非アミロイド生成性の天然状態への結合及びその安定化によりテトラマー解離を減速できることを示す。アミロイドフィブリルではなく、誤った折り畳まれたオリゴマーが神経変性を引き起こすという最近の報告を考慮すれば、天然状態の安定化は特に魅力的な方策である。関節リウマチ及び変形性関節症に対するジフルニサル(毎日2回250〜500mg)の臨床的使用は、長期使用にとってその低い毒性を実証する。TTRの血清半減期は12〜15時間であり、それ故に、ジフルニサルの半減期が8〜10時間であることを考慮すれば、毎日2回の投与が最適のようである。ジフルニサルはSSA、FAC及びFAPに対して有効であろう。なぜならば、ジフルニサルは、そのほかの点では疾患関連サブユニットからなるTTRテトラマー中へのトランスサプレッサの取り込みにより利用される機構であってヒトの疾患を軽減することが知られている機構と同様に、動力学的安定化を与えるWT及び変異体のTTRの両者に結合するからである。ジフルニサルは、血液脳関門を乗り越えることができないのでCNSアミロイドーシスに対してはあまり有効でないかもしれないが、ジフルニサル類似体(例えば、本明細書に記載した類似体)はこのような能力を有するかもしれない。
【0191】
実施例4: ヒドロキシル化ポリ塩化ビフェニルは血中のトランスチレチンを選択的に結合し、かつアミロイド生成を阻害する
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、げっ歯類及び多分ヒトに毒性があると報告されている持続性の環境汚染物質である。これらの化合物の環境中での長寿は、それらの遅い分解及び高脂質親和性のためであり、これは、それらが食物連鎖の上方に移動するので生物に蓄積及び濃縮するようになる。ヒドロキシル化PCB(OH-PCB)はP450モノオキシゲナーゼによるPCBの酸化によって形成される代謝物である。個々のPCB化合物のヒトにおける毒性に関する決定的なデータを見出すことは、市販のPCBが一般的に多くの異なる異性体並びに痕跡量の公知のトキシン、例えば塩素化ジベンゾフランを含む混合物であるという事実のために困難である。しかしながら、幾つかの精製PCBの毒性は実験動物で決定されている。OH-PCBのエストロゲン性に加えて、骨損失、免疫学的毒性、神経毒性及び低下した甲状腺ホルモンは、これらの化合物の投与に関連する。
【0192】
多数の研究は、PCB及びOH-PCBがインビトロでトランスチレチン(TTR)に結合することを実証している。TTRは、曝露された個体中でのOH-PCBの持続性に寄与するヒト血液中のタンパク質標的であることが示唆されている。多数の報告はTTRをインビボでのPCB結合タンパク質として示唆しているが、PCBが血漿中のトランスチレチンに結合するという決定的な証拠はない。我々は、生物学的液体中のTTRへの小分子の結合化学量に下限を設定するために使用できる免疫沈降法を開発した。ここで、ヒト血漿TTRへのPCB及びOH-PCBの結合化学量を評価した。
【0193】
律速的テトラマー解離、モノマーの誤った折り畳み及び集合ミスを必要とする血漿TTRの分泌後アミロイド生成は、おそらく老人性アミロイドーシス、家族性アミロイド心筋症及び家族性多発性神経障害を引き起こす。それ故に、幾つかのOH-PCBがヒト血漿中のTTRに選択的に結合すること、及び天然状態の部分的又は完全な動力学的安定化に導くテトラマー安定化によってアミロイドフィブリル形成を阻害することが実証される。4種の代表的なTTR・(OH-PCB)複合体を、結合の分子基盤をより良く理解するため、そして最適化したTTRアミロイド生成阻害剤の設計の基盤を与えるために、X線結晶学により特性決定した。
【0194】
ヒト血漿中のトランスチレチンに対するPCB及びOH-PCBの結合選択性
8種のPCB(化合物1〜8、図5)、すなわち甲状腺ホルモンを50nM未満のIC50 でTTRから押しのけると報告されたもの、及び14種のOH-PCB(化合物9〜22、図6)、すなわちマウス又はラットにおいてTTR又はより低いチロキシンレベルに結合すると報告された公知のPCB代謝物を評価した。血漿中のTTRへのPCB結合化学量の下限は、PCB又はOH-PCB(10.8μM)で前処理したヒト血漿と混合したセファロース樹脂に共有結合させた多クローン性TTR抗体を用いて確立した。洗浄した後、TTRへのPCB又はOH-PCB結合化学量(≒5μM)を、逆相HPLCにより評価した。二つまでのPCBが、TTRテトラマー中の二つの同一チロイドホルモン結合部位に結合することができる。PCB1及び3を除いて、残りのヒドロキシル化されていないPCBは、血漿TTRに対して比較的低い結合選択性を示した(表4)。これとは対照的に、OH-PCBは、血漿TTRに対して良好ないし優れた結合選択性を示した(表5)。幾つかのヒドロキシル化PCB(例えば、16及び22)は、2の結合化学量に近づく。全血液中でのOH-PCBの結合選択性は、血漿中で観察したものと極めて類似しており、それ故に赤血球膜は研究したOH-PCBを有意に留めない。
【表4】
【表5】
【0195】
TTR・PCB複合体の抗体捕獲は、5回の洗浄段階中にPCBがTTRから解離するため、PCB結合化学量を過小評価する可能性を有する。PCB及びOH-PCB(10.8μM)を組み換えTTR(3.6μM)と共にインキュベートして、各洗浄後に固定化TTRに結合した小分子の化学量を評価した。化学量は、PCB2及びOH-PCB18では5回の洗浄後に10〜17%だけ減少した一方で、PCB4の化学量は45%だけ減少した。洗浄関連損失の定量は、血漿中のPCB及びOH-PCBの真の結合化学量の推定を可能にする。さらに、組み換えTTRに結合したOH-PCBの最終化学量と血漿中のTTRに結合した量との良好な相関関係は、化合物、例えばOH-PCB18が血漿中で高度に選択的なTTR結合剤であることを示す。これとは対照的に、PCB2及び4は、血漿中でよりも緩衝液中で高い結合化学量を示し、それらが血漿中の競争タンパク質並びにTTRに結合することを強く示唆する。
【0196】
ヒドロキシル化PCBによるTTRアミロイドフィブリルの阻害
OH-PCB及びPCB3がインビトロでTTRフィブリル形成を阻害する能力を評価した。なぜならば、これらの化合物が血中のTTRへの良好な結合選択性を示すからである。肝臓から血中に分泌されたTTRは、全身性TTRアミロイドの源であるように見える。ヒトにおいてアミロイドがどこで又はどのように形成されるのかはまだ明らかではないが、細胞中の典型的な変性物質は酸であり、これはほとんど全てのアミロイド生成ペプチド及びタンパク質をアミロイド及び/又は関連凝集物に変換するのに有効である。それ故に、濁度により監視した酸媒介(pH4.4)フィブリル形成を採用して、阻害剤としてのPCBの有効性を監視した。ヒドロキシル化OH-PCB及びPCB3は、TTRフィブリル阻害剤として著しく効果的であった。WT TTR濃度(3.6μM)と等しい阻害剤濃度において、フィブリル形成の正常量の僅かに12〜15%が72時間のインキュベーション期間の後に観察された。この活性は、今日までに発見された最良のフィブリル阻害剤、例えばフルフェナミン酸(Flu)によって示された活性と同等であり、これを正のコントロールとして含めた。
【0197】
TTRへのOH-PCB18の結合
前の質量分析実験は、OH-PCB18がTTRの二つのC関連甲状腺ホルモン結合部位への正の結合共同性を示すことを示唆する。18の化学量以下(<1:1)の量をTTRに加えると、質量分析計で観察された優勢な種は、アポTTR及びTTR・18複合体であり、正共同結合と一致する。18のTTR結合特性は、負共同性で結合する多数の他のTTRアミロイドフィブリル阻害剤により示された特性とは対照的である。生理的条件下で行った等温滴定熱量研究は、WT TTRへのOH-PCB18の結合が、解離定数が同一K値(3.2±1.8nM)であるモデルに最もよくフィットすることを明らかにする。この結果は、正共同性結合の反証を挙げるものではない。なぜならば、不十分な熱放出のために負共同性を精査するのに十分低いTTR濃度を達成できないからである。補正したデータを正又は負共同性結合のモデルにフィットさせる試みは、劣ったフィットを生じた。
【0198】
OH-PCB12、16、17及び18の共結晶構造
WR TTRに結合したOH-PCB12、16、17及び18の共結晶は、TTR結晶を10倍過剰量の阻害剤で4週間浸漬することによって得た。次いで、X線構造を複合体のそれぞれについて解いた。結晶学的不斉単位内のTTRダイマーは、リガンド結合ポケットの半分を形成する。両方の結合部位は、同じ2回回転対称軸によって二分されるので、阻害剤の二つの対称等価結合モードが典型的に観察される。各TTR結合部位は、内部及び外部キャビティに細分することができる。これらのキャビティは、それらがチロキシンの二つの芳香族環上のヨウ素により占有されるので、三つのいわゆるハロゲン結合ポケット(HBP)を含む。HBP3及び3’ は内部結合キャビティの奥深くに位置し、HBP2及び2’ は内部及び外部結合キャビティ間の境界を定める一方で、HBP1及び1’ は外部結合キャビティの周辺に位置する。共結晶構造は、OH-PCBの二つの芳香族環を結合するC-C結合が、2回回転対称軸上にほぼ集中しており、単結合立体配座の外観を与えることを明らかにする。二つのフェニル環の間の二面角は、12では59、16及び17の両者では37、そして18では44である。OH-PCBの全ては内部及び外部結合ポケット中で同様に占有する。ビアリール環系のファン・デル・ワールス補完性は、各結合部位を含む一方のサブユニットに残基X’、Y’ 及びZ’ を、他方のサブユニットに残基n’ m’ 及びo’ を伴う幾つかのサブユニット間相互作用を容易にする。フェニル環上の置換基の幾つかは軸外であり、そして観察した電子密度内の複数位置にモデル化することができる。
【0199】
TTRに結合したOH-PCB18
TTR・18の1.8Å X線構造は、阻害剤がTTR結合部位との優れた立体補完性を有することを実証する。分子力学 (Insight II, Accelrys) は、18の結合していない立体配座がその結合した構造に近似することを示す。精密化した構造は、18の高親和性結合に寄与する直接又は水媒介の静電相互作用を定める。3-Cl、4-OH及び5-Clで同一に置換された芳香族環の一方は、内部結合ポケットを占め、その塩素置換基はHBP3及び3’ 内に突き出ている。Ser 117及びThr 119の側鎖は、不偏電子密度図により識別されるように、それらのCα-Cβ結合の周りでの回転によって代替立体配座を取る。Ser 117の側鎖は、電子密度の分布により識別されるように、三つの回転異性体立体配座の全てを取る。興味深いことに、二つの水分子は、2回回転対称軸において隣接するSer 117の間に50%の占有率で位置し、Ser 117、付近の水分子及び18のフェノール官能基をつなぐ水素結合のネットワークを容易にする。この構造の検討からは、なぜ18が非共同的又は正共同的挙動で結合するのかは明らかでない。他方の同一に置換された環は、外部TTR結合ポケットを占め、そのハロゲンはHBP1及び1’ 内に突き出ている。
【0200】
TTRに結合したOH-PCB16
16の3-Cl、4-OH及び5-Clでトリ置換されたフェノール環は、TTRの内部結合部位内に配位し、この環が上記のTTR・18構造において作るものと同一のTTRとの静電及び疎水性相互作用を作る。3,4-ジ塩素化芳香族環は外部結合ポケットを占め、ハロゲンはHBP1及び1’ 内に向いており、対称等価結合モードはこれに依存すると考えられる。OH-PCB18の電子密度と同様に、16の電子密度は対称的であり、従って電子密度図に明確に基づいて、パラOH及びパラClを配置することは不可能である。不偏電子密度図は、Ser 117の三つの回転異性体立体配座と一致し、TTR・18構造と同様に、Ser 117残基間に二つの水分子を含む。
【0201】
TTRに結合したOH-PCB17
阻害剤17は、内部結合ポケット内に配向した3-Cl、4-OH及び5-Clで置換されたアリール環により、この環が上記のようにTTR・16及びTTR・18構造で使用したのと同じ相互作用を利用して結合する。2,3,4-トリ塩素化された環は、二つの対称的等価結合モードでHBP1、HBP1’、HBP2、HBP1’ との相互作用を利用して外部結合ポケットを占める。Ser 117及び二つの保存された水分子の複数の立体配座もまた、TTR・17構造の特色である。Thr 119側鎖の立体配座の変化は、不偏電子密度図からの明らかであった。
【0202】
TTRに結合したOH-PCB12
ビアリール12は、その3-Cl、4-OHで置換されたアリール間を外部結合ポケットに配置し、その二つの塩素はHBP1及び1’ と相互作用する。これは、フェノールが内部結合ポケット中に位置するTTR・16及びTTR・17とは対照的である。ヒドロキシル基は(おそらくイオン化形態で)、Lys 15側鎖の水素結合距離内にある。テトラ置換された環は内部結合ポケット中に位置し、そこでハロゲンはHBP2及び2’ 並びにHBP3及び3’ 中に配向する。Ser 117及びThr 119側鎖は、16、17及び18の状況とは異なり、アポTTR構造において見出されたのと同一である立体配座を取る。
【0203】
ここで、先に50nM未満のIC50 でT4を押しのけると報告された8種のPCBのうち、1及び3だけが、ヒト血漿中でTTRにかなりの化学量で結合することが示された。これとは対照的に、先にTTRに結合すると報告された14種のOH-PCB全ては、血漿中のTTRへの有意な結合選択性を示した。これは、OH-PCBが主に血漿中で観察され、PCBが典型的に蓄積する脂質及び他の組織中に保持されるのとは逆に、血漿中に選択的に保持されるように見えるという観察と一致する。OH-PCBはまた、全血液中のTTRに選択的に結合し、脂質膜内に分配しないという考えと一致する。
【0204】
洗浄段階中に抗体・TTR・PCB複合体から流失するPCB(又はOH-PCB)の量を、組み換えWT TTRを用いて評価した。洗浄関連PCB解離の程度は分子特異的である。幾つかの化合物は洗浄後に高い結合化学量を示し、有意な初期結合及び低い洗浄関連損失と一致し、遅い解離速度を暗示する。低い結合化学量を示す化合物は、少なくとも二つのカテゴリー:有意な洗浄関連損失のある高い結合化学量又は有意な洗浄関連損失のない低い初期結合化学量に分類され、後者のシナリオは、TTRに高結合親和性で結合するが、別の血漿タンパク質にさらに高い親和性で結合する化合物に適用することができる。PCB2及び4は両者とも、組み換えTTRへの低い洗浄後の結合化学量を示す。PCB4の45%は洗浄のために失われた一方で、PCB2は、最小の洗浄関連損失(10%)を有する劣った初期結合化学量を示す。洗浄後の選択性の値は、血漿中で最初に結合されるPCBの量の下限を反映する。高い洗浄後の結合化学量を特徴とするPCB18のような化合物は、観察した遅いオフ速度と一致して、高い結合親和性及び選択性を有するはずである。
【0205】
血漿TTRに対するそれらの高い結合選択性に加えて、OH-PCB及びPCB3はまた、インビトロでのTTRフィブリル形成の優れた阻害を示す。阻害剤14、15及び18の効力は、等モルの阻害剤及びTTR濃度(3.6μM)で現在まで観察された中で最高である。これは、それらの高結合親和性(それらの低いオフ速度とも一致する)、及び普通ではないそれらの非共同的又は共同的TTR結合特性に帰せられるようである。最良の阻害剤、すなわちOH-PCB18により示されたnM Kd2 は、TTRの天然状態が>3kcal/molだけ安定化されるだろうと決定づける。基底状態の安定化は、テトラマー解離バリア(TTRアミロイド生成における律速段階)を、テトラマーが生物学的に適切な時間規模で解離できないように、実質的に高める。基底状態への18の結合により媒介された天然の非アミロイド生成状態の動力学的安定化を、6M尿素中で劇的に減速したテトラマー解離及びpH4.4で停滞したアミロイド生成性によって確認した。OH-PCB18(3.6μM)は、それがテトラマーTTRの優れた動力学的安定剤であるので、目覚しい阻害剤であると信じられ、すなわち、TTR・18及びTTR・18がアミロイド形成に非競争的であるので、3.6μM TTRの2/3をpH4.4でアミロイド生成性にならないように防止し、残りのTTR(1.18μM)はその低い濃度のためにアミロイドを極めて非効率的に形成する。また、最良のOH-PCB阻害剤の解離速度は、OH-PCB付近でのTTR構造アニーリングのために予想したよりも遅いかもしれないが、これは必要とされる可能な限り注意深くは、まだ評価されていない。これらの化合物は、例外的な阻害剤の合成の指針を提供するか、又はそれら自身がそれらの毒性プロフィールに応じて阻害剤として有用であることを少なくとも証明するかもしれない。
【0206】
OH-PCB12、16、17及び18に結合したTTRに関する構造の情報は、これらのビアリールが結晶学的2回回転対称軸に沿って一般的に結合することを明らかにする。二つの環の間の二面角は約40〜60の範囲であり、二つの隣接するサブユニットが同時に嵌まり込むのを可能にし、テトラマー四次構造界面の安定化に導く。ヒドロキシル化PCB18は、その塩素がHBP1及び1’ 並びにHBP3及び3’ に同時に結合できるので、TTRとの最適な構造補完性を有する。塩素がHBP1、1’、3及び3’ 内に伸びるために両方の対称等価結合モードを必要とする16及び17では、事実はそうでない。
【0207】
内部結合ポケット内へのフェノール性環の配向は、この環が、これと隣接TTRサブユニットとの間での水媒介水素結合ネットワークの形成を可能にするのに重要な役割を演じるように見え、このネットワークがTTRの天然四次構造を多分さらに安定化する。Ser 117、阻害剤のフェノール性基及び保存された二つの水分子の、三つのねじれ立体配座を伴うH結合ネットワークは、PCB結合部位を形成する二つのサブユニットを相互に結合させる静電ネットワークを作り出す。三つの構造の全てにおいて、Thr 119も複数の回転異性体立体配座を占める。これとは対照的に、静電相互作用のこのネットワークは、ヒドロキシル置換ェニル環が、外部結合ポケット中に配向し、そしてSer 117及びThr 119はアポ側鎖立体配座を取る12・TTR複合体には存在しない。
【0208】
OH-PCBの毒性は文献で十分に確立されていない。種々のインビトロ及び動物研究において、OH-PCBは穏やかにエストロゲン性又は抗エストロゲン性であるように見える。他の毒性機構が示唆されており、これらの化合物に曝露された動物では甲状腺ホルモンのレベルが低下するという報告もある。TTRへのOH-PCBの結合がT4レベルを低下させ、そして低下したT4レベルが小分子のTTR結合を反映するという示唆は、直接支持することが困難である。T4のほぼ半分がアルブミンにより運ばれるので、アルブミン結合部位からのT4の押しのけがPCBに暴露された個体において低下したT4レベルの原因であることは、いっそうありそうのことのようである。甲状腺結合グロブリンはチロキシンに対して最高の親和性を有し、ヒトにおいて主な運搬体であるが、これらの化合物の毒物学的プロフィールの多くが研究されているラット及びマウスを含めた多くの下等動物には存在しない。従って、これらの種において、TTRへの化合物の結合がT4の全体的な結合及び輸送に対して影響を与えるようである。TBGへのPCBの結合を示すデータは、1種又は2種の弱く結合する化合物を除いて、ほとんど相互作用しないことを示唆する。それ故に、ヒト甲状腺レベルに対するOH-PCBの効果は、それらがアルブミンに結合しなければ最小であるはずである。これらの化合物が甲状腺ホルモンを妨害できるか、又はT4の硫酸化、従ってその不活性化速度を加速できるという報告もある。OH-PCBは甲状腺ホルモン受容体を含めた他の甲状腺ホルモン標的にも結合できるだろうが、これはT4との構造類似性を考慮すればもっともと思われる。
【0209】
特にヒトにおけるヒドロキシル化PCBの毒性に関しては、ほとんどが確立されていないことが明らかである。げっ歯類における毒物学は、甲状腺ホルモン輸送体としてのTTRの役割のため、いっそう過酷であると予想される。明らかなことは、ヒドロキシル化PCBがトランスチレチンフィブリル形成の阻害剤として優れた活性を示すことであり、このクラスの化合物がアミロイドフィブリル形成を阻害するために有用であるという可能性を有することを示唆する。
【0210】
材料及び方法
トランスチレチン抗体の精製及びセファロースへの結合
抗体を製造し、精製し、セファロースに結合させた。樹脂はTSA(1mMトリス、pH8.0/140mM NaCl/0.025%NaN)中の1:1のスラリーとして貯蔵した。加えて、停止したセファロースは、200mMトリス、pH8.0を抗体の代わりに樹脂に結合させることにより調製した。
【0211】
ヒト血漿の調製
全血液を、健康ボランティアから Scripps General Clinical Research Center’s Normal Blood-Drawing Program で採血し、円錐管に移した。管を、旋回式バケットロータを備えた Sorvall RT7 ベンチトップ型遠心分離機により3000RPM(1730×g)において25℃で10分間遠心分離した。血漿上澄み液を除去し、再び3000RPMで10分間遠心分離して残りの細胞を除去した。ナトリウムアジドを加えて0.05%溶液にした。血漿は使用するまで4℃で貯蔵した。
【0212】
トランスチレチン及び結合したPCBの免疫沈降
2mLエッペンドルフ管に、1.5mLのヒト血漿及び評価するPCBの2.16mM DMSO溶液の7.5μLを満たした。この溶液を37℃で24時間インキュベートした。この溶液に、停止したセファロースの1:1の樹脂/TSAスラリー(187μL)を加え、4℃で1時間穏やかに振動した。この溶液を遠心分離し(16,000×g)、上澄み液をそれぞれ400μLの三つのアリコートに分けた。これらをそれぞれ、抗トランスチレチン抗体結合セファロースの1:1の樹脂/TSAスラリの200μLに加え、4℃で20分間ゆっくりと振動した。サンプルを遠心分離し(16,000×g)、上澄み液を除去した。樹脂を1mLのTSA/0.05%サポニン (Acros)(3×10分間)を用いて4℃で、さらに1mLのTSA(2×10分間)を用いて4℃で洗浄した。サンプルを遠心分離し(16,000×g)、最終洗浄液を除去し、155μLの100mMトリエチルアミン、pH11.5を加えてTTR及び結合した小分子を抗体から溶離した。4℃で30分間穏やかに振動した後、サンプルを遠心分離し(16,000×g)、TTR及び阻害剤を含む145μLの上澄み液を除去した。
【0213】
トランスチレチン及び結合したPCBのHPLC分析及び定量
TTR抗体ビーズからの上澄み液溶離サンプル(145μL)を、Waters 71P 自動サンプラー上に負荷した。各サンプルの135μL注入分を、Keystone 3 cm C18 逆相カラム上で、Waters 600E 多溶剤配送装置により制御して、40〜100%のB勾配を利用して8分間にわたって分離した(A:94.8%HO/5%アセトニトリル/0.2%TFA;B:94.8%アセトニトリル/5%HO/0.2%TFA)。検出は、280nmで Waters 486 チューナブル吸光度検出器により行い、ピークを積分してTTR及び小分子の両者の面積を得た。それぞれの種の量を決定するために、既知量のテトラマーTTR又はPCBをHPLC上に注入した。ピークを積分して、Kaleidatraph (Synergy Software) を用いてデータの線形回帰から検量線を作成した。検量線を用いて、サンプル中に存在するそれぞれの種のモル数を決定した。小分子とタンパク質との比は、血漿中のTTRに結合した小分子の化学量を得た。
【0214】
トランスチレチンアミロイドフィブリル形成アッセイ
化合物をDMSOに720μMの濃度で溶解した。評価する化合物の溶液の5μLを、1mMリン酸塩pH7.6、100mM KCl、1mM EDTA緩衝液中の7.2μMTTR溶液の0.5mLに加え、化合物をTTRと共に30分間インキュベートするのを可能にした。0.2mM酢酸塩pH4.2、100mM KCl、1mM EDTAの495μLを加えて、それぞれ3.6μMの最終タンパク質及び阻害剤濃度並びに4.4のpHにした。次いでこの混合物を37℃で72時間インキュベートし、その後、管を3秒間旋回し、光学密度を400nmで測定した。フィブリル形成の程度は、阻害剤なしのTTRの光学密度により各光学密度を正規化し、100%フィブリル形成を定めた。TTR非存在下の各化合物のコントロール溶液も試験したが、400nmで何も認めうるほど吸収されなかった。
【0215】
PCB18及びTTRの等温滴定熱量測定(isosthermal titration calorimetry)
組み換えTTRの結晶は、2M硫酸アンモニウムに対して懸滴実験で平衡化した5mg/mlのタンパク質溶液(100mM KCl、100mMリン酸塩、pH7.4、1M硫酸アンモニウム中)から得た。TTR・リガンド複合体は、両方の結合部位の完全な飽和を確保するために10倍モル過剰量のリガンドで2週間浸漬した結晶から調製した。1:1のアセトン:水を浸漬剤として使用した。RU200 回転陽極型X線発生装置に結合したDIP2030b イメージ板装置 (MAC Science, Yokohama, Japan) をデータ収集のために使用した。結晶を凍結保護剤としてのパラトーン油に入れ、回折実験のために120Kに冷却した。TTR・リガンド複合体の全ての結晶は、単位格子寸法a=43Å、b=86Å及びc=65Åを有するアポ結晶形態と同形である。それらは空間群P22に属し、非対称単位中にホモテトラマーの半分を含む。データセットは DENZO 及び SCALEPAC で整理した。例えば、Otwinowski, Z.; Minor W. Macromolecular Crystallography, Part A, in Method in Enzymology; Carter, C. W., Sweet, R. M. Eds.; Academic Press; 1997, Vol. 276, p 307-326 参照、これは全体として参照により組み入れられる。 20及び26のデータセットを SAINT 及び PROSCALFE (Bruker AXS, nc.) で整理した。
【0216】
構造決定及び精密化(refinement)
The Protein Data Bank からのTTRに関するタンパク質原子配位 (受入番号 1BMZ) を、プログラムCNSを用いる分子動力学及びエネルギー最小化による天然TTR及びTTR-リガンド複合体の精密化のための出発モデルとして使用した。PCBで浸漬したか又は同時に共結晶化したかの何れかのTTR結晶について収集した回折データから、図を計算した。TTRとPCBとの複合体について、得られた図はTTRテトラマーの両方の結合ポケット中のリガンドのおよその位置を明らかにし、ピーク高は5〜9 r.m.s. を超えた。小分子の電子密度をさらに改善し、かつモデルの偏向を除去するために、モデルをゆがみ/振動プロトコールの数サイクル付すると、特に阻害剤の付近で図の著しい改善が生じた。後続のモデルのフィッティングはこれらの図を用いて行い、リガンド分子を濃度に配置した。三つの全ての場合に、プログラム InsightII (Accelrys) により計算した阻害剤の最小エネルギー立体配座は、図と良く一致した。結合チャンネルに沿った2回回転結晶学的対称軸のため、統計上の不規則モデルを適用する必要があり、テトラマーTTRの二つの結合部位のそれぞれにおける二つのリガンド結合モデルを生じた。水分子は、不偏電子密度図に基づいて加えた。最終の図には解釈できる電子密度が欠如していたので、9個のN末端残基及び3個のC末端残基は最終モデルに含めなかった。
【0217】
実施例5: トランスチレチンアミロイドフィブリル阻害剤としてのベンゾオキサゾール
トランスチレチンの二つのチロキシン結合部位は、その四次構造界面によって作り出される。これらの部位に小分子が結合することによりテトラマーを安定化することができ、る。TTRアミロイド病を小分子で治療する手段を提供する可能性がある。化合物の多くのファミリーは、それらの結合が小分子解離定数Kd1及びKd2に比例する程度でテトラマー基底状態を安定化することを発見した。これは解離活性化バリアを効果的に増大し、動力学的安定化によってアミロイドーシスを阻害する。このような阻害剤は、一方の環がハロゲン置換基を有し、他方が疎水性置換基を有する芳香族環から典型的に構成される。C(4)〜C(7)においてカルボン酸で置換されたベンゾオキサゾール、そしてハロゲン化フェニル環も、TTRチロキシン結合部位を補完するようである。それ故に、これらの化合物の小さなライブラリーを、スキーム1で説明するように、N-アシルアミノヒドロキシ安息香酸の脱水環化反応によって作成した。
【化12】
【0218】
スキーム1: ベンゾオキサゾールの一般的合成
試薬:(a)ArCOCl、THF、ピリジン(Ar=フェニル、3,5-ジフルオロフェニル、2,6-ジフルオロフェニル、3,5-ジクロロフェニル、2,6-ジクロロフェニル、2-(トリフルオロメチル)フェニル及び3-(トリフルオロメチル)フェニル;(b)TsOH・HO、還流キシレン;(c)TMSCHN、ベンゼン、MeOH;(d)LiOH、THF、MeOH、HO(4段階にわたって8〜27%の収率)。
【0219】
ベンゾオキサゾールを、一連の増加ストリンジェント(increasing stringency)分析により評価した。WT TTR (3.6μM)を試験化合物(7.2μM)とともに30分インキュベートした(pH 7,37℃)。試験化合物の少なくとも1分子がTTRテトラマーの各分子に結合してそれが安定下可能になるようにしなければならないので、試験化合物濃度7.2μMは最小有効濃度の2倍にすぎない。次いで、pHをフィブリル化(fibrilization)に最適なpHである4.4に調整した。試験化合物の存在下で37℃で72時間後のアミロイド形成量を400 nmでの濁度により決定し、そしてフィブリル形成(ff)(%)で表した(100%はTTR単独により形成された量である)。28の試験化合物のうち、11の化合物がフィブリル形成を無視できるレベルまで減少させた(ff < 10%; FIG 7)。
【0220】
次いで、最も活性である11の化合物を、血中の他の全てのタンパク質に対するTTRへの選択的結合能について評価した。人血漿(TTR濃度3.6- 5.4μM)を試験化合物(10.8μM)とともに37℃で24時間インキュベートした。TTR及び結合した任意の阻害剤を、セファロース結合ポリクローナルTTR抗体を用いて免疫沈降した。結合阻害剤と一緒の又は一緒ではないTTRを高pHで樹脂及び阻害剤から遊離させ:TTR化学量論についてHPLC分析により確認した(FIG. 8)。5-又は6-位にカルボン酸を有し、そして2,6-ジクロロフェニル(13,20)、又は2-トリフルオロメチルフェニル(11,18)置換基を2位に有するベンゾオキサゾールは、高い結合化学量論量を示した。特に、20は顕著な阻害活性及び結合選択性を示した。それゆえ、作用機構はさらに特徴付けられた。
【0221】
20がテトラマーに協力に結合することによりTTRフィブリル形成を阻害することを確認するために、等温滴定熱量測定(isothermal titration calorimetry (ITC))及び沈降速度実験をwt TTRを用いて行った。ITCによると、生理学的条件下で、2当量の20が平均解離定数Kd1 =Kd2 = 55(± 10) nMで結合していることが示された。これらは、多くの他の有効なTTRアミロイド形成阻害剤に匹敵する。沈降速度実験については、TTR (3.6μM)を20(3.6μM、7.2μM、36μM)と最適フィブリル化条件(72時間、pH4.4、37℃)でインキュベートした。テトラマー(55kDa)が、7.2μM又は36μMの20との溶液において唯一の検出可能な断片であった。
【0222】
T119Mサブユニット取り込み(inclusion)及び小分子結合は、ともにテトラマー解離の活性化障壁を引き上げることによりTTRアミロイド形成を防止する。阻害剤のこれをする能力は、厳しい変性ストレスである6M尿素でのテトラマー解離の遅延化効果の測定により最も厳密に試験される。このようにして、20、21若しくは27の存在下又は非存在下における6M尿素中のTTRテトラマー解離速度が比較された(FIG.9)。TTR(1.8μM)は6M尿素中、168時間で完全に変性した。対照的に、20は3.6μMで少なくとも168時間(>3x 人血漿中のTTRの半減期)、テトラマー解離を防止した。1当量の20により、たった27%のTTRが168時間で変性した。化合物27 (3.6μM)は、フィブリル形成アッセイでは活性であるが、テトラマー解離を防ぐ能力がそれよりは弱い(168時間後に90%の折りたたみ構造がほどける)。化合物21はTTRの解離を全く防止しない。これらの結果は、強力な変性条件下では、TTRに結合する阻害剤が必要であるが、TTRテトラマーを動力学的に安定化させるには不十分であることを示している; その解離定数は非常に低い(又はオフ速度が非常に遅い)ことも重要である。また、20の官能基の配置はTTRテトラマーの安定化に明らかに最適である; 即ち、27中のように、カルボン酸をC(6)からC(7)へ移動し、又は21中のように、塩素を除去することによりその活性がひどく低下する。
【0223】
20中の置換基の役割はTTRとの共結晶構造(FIG. 10)から明らかである。化合物20は2及び2'のポケットに結合するハロゲンの近くに2つの塩素を配置している(なぜなら、それらは、チロキシンがTTRに結合するときにヨウ素に占有されるからである)。そのフェニル環上の2,6置換パターンによりベンゾオキサゾール及びフェニル環は平面性を失うことを余儀なくされ、ベンゾオキサゾール上のカルボン酸をLys 15/15'のε-NH3+基に結合したハロゲンへ最適に配置する。20の芳香環とLeu 17、Leu 110、Ser 117、及びVal 121の側鎖との間の疎水的相互作用は追加的な結合エネルギーに寄与する。
【0224】
方法
ベンゾオキサゾール合成の一般的手順及び生成物の特性決定(H-及び13C-NMR及び高分解能質量スペクトル)を下記に詳述する。
【0225】
分析用超遠心分離
20の存在下のTTRの四次構造を、沈降速度分析用超遠心分離を用いて観察した。サンプルを3.6、7.2又は36μMの20と共に72時間インキュベートした。データは、温度制御 Beckman XL-I 分析用超遠心分離器(An60Ti ローター及び光電走査機を備えた)で収集した。12mmの Epon センターピース及びサファイア窓を備えたダブルセクターセルに、シリンジを用いて400〜420μLのサンプルを負荷した。データは、3000〜50000rpmのローター速度で連続モードにより25℃で補正し、0.005cmのステップサイズでポイント当たり1走査の平均を採用した。検出は、280nmで行った。データは、Philo により開発されたプログラムDCDT+ (Philo, 2000; Stafford, 1992) を用いて時間-微分分析に付した。分析は、溶液中の種の分布がs値の範囲で表したことを示した。次いでこの分布を、系内の種に関する沈降及び拡散係数を決定するために、種々のモデルにフィットさせた。それぞれの種の分子量を、先に報告された方法により決定した (petrassi, et al 2000)。TTRについて見出されたs値は、TTRが7.2及び36μMの20の存在下でテトラマーのままであった一方で、3.6μMでは溶液中に残ったTTRは、幾分かの凝集物を形成下にもかかわらずテトラマーであったことを示した。
【0226】
結晶化及びX線データ収集
wt TTRの結晶は、2M硫酸アンモニウムに対して懸滴(hanging drop)実験で平衡化した12mg/mlのタンパク質溶液(100mM KCl、100mMリン酸ナトリウム、pH7.0、0.35M硫酸アンモニウム中)から得た。TTR-20複合体は、両方の結合部位の完全な飽和を確保するために10倍モル過剰量のリガンドで3週間浸漬した結晶から調製した。リガンドで浸漬した結晶は、14-BM-C, BIOCARS, Advanced Photon Source の単色高エネルギー源での Quantum-4 検出器 (Argonne National Laboratory) により1.55Åまで回折した。結晶をパラトーン油に入れ、回折実験のために120Kにフラッシュ冷却した。TTR-20複合体の結晶は、単位格子寸法a=43Å、b=84.7Å及びc=64.7Åを有するアポ結晶形態と同形であり、非対称単位中に二つのTTRサブユニットを含む空間群P22であった。データは HKL2000 の DENZO 及び SCALEPAC で整理した (Otwinowski, 1997)。
【0227】
構造決定及び精密化
The Protein Data Bank からのTTRに関するタンパク質原子配位 (受入番号 1BMZ) を、分子置換調査のための出発モデルとして使用した。TTR-20複合体の精密化は、CNSの分子動力学及びエネルギー最小化プロトコールを用いて行った。得られたフーリエの差の分布図は、TTRテトラマーの両方の結合ポケット中でリガンドが結合していることを明らかにした。これらの分布図を用いて、リガンドを密度に明確に配置することができ、結晶学的精密化に含めた。プログラム InsightII (Accelrys Inc.) により計算した阻害剤の最小エネルギー立体配座を、結晶学的精密化のための初期モデルとして使用した。2回回転結晶学的対称軸が結合チャンネルに沿っていたので、統計上の不規則モデルを適用する必要があり、テトラマーTTRの二つの結合部位のそれぞれにおける二つのリガンド結合モデルを生じた。模倣アニーリングの数サイクル、並びに後続の位置及び温度因子精密化の後、水分子をフーリエの差の分布図に配置した。図のフィッティングの最終サイクルは、振動n’ ゆがみバイアス除去プロトコールにより計算した不偏加重電子密度図を用いて行った。リガンドの対称関連結合立体配座は、不偏アニール省略図、並びに阻害剤の非存在下で同期させた振動n’ ゆがみの不偏加重図と良く一致した。精密化の最終サイクルは、Refinac の制限精密化プロトコールにより行った。最終の図には解釈できる電子密度が欠如していたので、9個のN末端残基及び3個のC末端残基は最終モデルに含めなかった。結晶学的分析の概要を表6に示す。
【表6】
【0228】
ベンゾオキサゾールの合成 − 一般的方法
別に述べない限り、全ての反応は、オーブン乾燥したガラス製品中でアルゴン雰囲気下に FirstMate Organic Synthesizer (Argonaut Technologies) を用いて行った。全ての溶剤(無水)及び試薬は Ardrich から購入し、さらに精製することなく使用した。H NMRスペクトルは、Bruker DRX-500 分光計により500MHzで、又は Bruker DRX-600 分光計により600MHzで測定し、内部C-S(O)-CD(2.49ppm)を基準とした。13Cスペクトルは、Bruker DRX-500により125MHzで、又はBruker DRX-600により150MHzで行い、()SO(39.5ppm)を基準とした。薄層クロマトグラフィー分析は、ガラス裏打ちした分析用薄層プレート (Kieselgel 60 F254 、0.25mm、EM Science no. 5715-7) 上で行った。可視化は、UV級光度又はエタノール中の10%リンモリブデン酸を用いて行った。クロマトグラフィーは、chromatotron (Harrison Research, Model 7924T、2mmプレート) 又は分取用シリカゲルプレート (Kieselgel 60 F254 、1mm、EM Science no. 13895-7) 上で行った。
【0229】
ベンゾオキサゾールの合成のための一般的手順
THF(3mL)中のアミノヒドロキシ安息香酸(0.2mmol)の混合物を、順にピリジン(500μl、0.6mmol)及び所望の酸クロリド(0.2mmol)で処理した。反応混合物を周囲温度で10時間攪拌し、1時間還流し、真空濃縮し、精製することなく次の段階に使用した。
【0230】
p-トルエンスルホン酸(380.4mg、2.0mmol)を、キシレン(5mL)中の粗反応混合物に加え、得られた混合物を還流温度で一夜攪拌した。12時間後、反応物を周囲温度に冷却し、NaOH(2mL、1N)で停止し、相を分離した。水層をHCl(1N)でpH2に酸性化し、EtOAc(4×3mL)で抽出した。一緒にした有機層をMgSO上で乾燥し、濾過し、真空濃縮した。得られた残留物をMeOH:ベンゼンの混合物(2mL、1:4)に溶解し、TMS-CHN(ヘキサン中の2.0M溶液の200μL)を用いて25℃で処理し、反応の進行をTLCにより監視した(通常は0.5時間後に終了する)。反応混合物を真空濃縮し、残留物をクロマトグラフィー(10〜25%のEtOAc/ヘキサンの勾配)により処理して、所望のベンゾオキサゾールメチルエステルを得た。
【0231】
ベンゾオキサゾールメチルエステルをTHF:MeOH:HOの混合物(3:1:1,0.07M)に溶解し、LiOH・HO(4当量)で処理した。反応物を周囲温度で攪拌し、TLCにより監視した。終了したとき、この混合物を1N HClでpH2に酸性化し、EtOAc(4×)で抽出した。一緒にした有機層をMgSO上で乾燥し、濾過し、真空濃縮した。残留物を分取用薄層クロマトグラフィー(4.9%MeOH、95%CHCl、0.1%HOAc)により精製して、生成物を白色固体として得た。
【0232】
4-カルボキシ-2- (3, 5-ジフルオロフェニル) -ベンゾオキサゾール (1). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、1を白色固体として得る(7.0 mg,13 %)。 1のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13. 70-12.50 (br. s, 1H,CO2H), 8.04(AMX,1H, J = 8.1 Hz, Ar), 7.94 (AMX, 1H,J= 7. 3 Hz, Ar), 7.84(br. d, 2H,J= 5. 6 Hz,Ar), 7.62-7. 58 (m, 1H, Ar), 7.56 (AMX, 1H,J= 7. 3,8. 1 Hz, Ar); 13C NMR(125MHz, DMSO-d6) δ 165.8, 162.7(d, J=248Hz), 162.6(d, J=248Hz), 161.1, 151.0, 140.3, 129.3, 127.0, 125.8, 123.6, 115.2, 110.8, (d, J=28Hz), 107.8(t, J=26Hz); HRMS(MALDI-FTMS) : C14H7F2NO3(MH+) 計算値276.0467, 実測値276.0463。
【0233】
4-カルボキシ-2- (2,6-ジフルオロフェニル) -ベンゾオキサゾール (2). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、2を白色固体として得る(8.2 mg,15 %)。 2のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.00(br. s, 1H,CO2H), 8.06(AMX,1H, J = 8.1 Hz, Ar), 7.94 (AMX, 1H,J= 7.6 Hz, Ar), 7.80-7.74(m, 1H, Ar), 7.57(AMX, 1H,J= 7.6, 8.1 Hz, Ar), 7.40-7.38(m, 2H, Ar); 13C NMR(125MHz, DMSO-d6) δ 166.1, 160.4(d, J=256Hz), 160.3(d, J=256Hz), 154.9, 150.60, 139.6, 134.7(t, J=10Hz), 126.8, 125.8, 114.8, 112.8(d, J=22Hz), 105.2(t, J=16Hz); HRMS(MALDI-FTMS) : C14H7F2NO3(MH+) 計算値276.0467, 実測値276.0461。
【0234】
4-カルボキシ-2-[(3-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (3). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、3を白色固体として得る(9.5 mg,15 %)。 3のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.70-12.80(br. s, 1H,CO2H), 8.50(ABX,1H, J = 7.8 Hz, Ar), 8.43(s,1H,Ar), 8.06(AMX, 1H,J= 8.1 Hz, Ar), 8.03(ABX,1H, J = 8.1 Hz, Ar), 7.94(AMX, 1H,J= 7.8 Hz, Ar), 7.88(ABX,1H, J = 7.8Hz, Ar), 7.54(AMX, 1H,J= 8.1Hz, Ar); 13C NMR(125MHz, DMSO-d6) δ 165.8, 161.9, 151.0, 140.6, 131.4, 130.8, 130.0(q, J=33Hz), 128.7(d, J=4Hz), 127.7, 127.0, 125.5, 123.8, 123.7(q,J=273Hz), 123.2, 115.2; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0535。
【0235】
4-カルボキシ-2-[(2-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (4). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、4を白色固体として得る(15.2 mg,25 %)。 4のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13.15(br. s, 1H,CO2H), 8.18(d, 1H, J=7.6, Ar), 8.06(AMX,1H, J =0.9, 8.2 Hz, Ar), 8.02(d, 1H, J=7.9Hz, Ar), 7.96(AMX, 1H,J= 0.9, 7.9Hz, Ar), 7.94-7.87(m,2H,Ar), 7.58(ABX,1H, J = 8.2Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 165.8, 161.6, 151.2, 140.0, 133.0, 132.6, 132.3, 127.6 (q,J= 32 Hz), 127.2 (q,J= 6 Hz), 127.0, 125.6, 124.9, 123.5, 123.4 (q,J= 273 Hz), 115.2 ; HRMS(MALDI-FTMS) :C15H8F3NO3(MH+) 308.0529, 実測値308.0531。
【0236】
4-カルボキシ-2- (3, 5-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (5). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、5を白色固体として得る(8.0 mg,13%)。 5のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.60-12. 60 (br. s,1H, CO2H), 8. 16(A2M, 2H, J= 2. 0 Hz, Ar), 8.05 (AMX, 1H, J = 0.9, 8.2 Hz, Ar), 7.96(A2M,1H, J= 2.0 Hz, Ar), 7.94 (AMX, 1H,J= 0. 9,7. 6 Hz, Ar), 7.56 (AMX, 1H, J= 7.9 Hz, Ar) ; 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 165.8, 160.8, 151.0, 140.4, 135.2, 131.5, 129.4, 127.0, 126.3, 125.9, 125.8, 123.6, 115.2 ; HRMS(MALDI-FTMS) : C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9876。
【0237】
4-カルボキシ-2-(2,6-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (6). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、6を白色固体として得る(5.2 mg, 8%)。 6のデータ: 1H NMR(600 MHz, DMSO-d6) δ 13.80-12. 50 (br. s,1H, CO2H), 8.07 (AMX, 1H, J= 8.2 Hz, Ar), 7.95 (AMX, 1H,J= 7.9 Hz, Ar), 7.77-7. 71 (m, 3H, Ar), 7.59 (AMX, 1H,J= 7. 9,8. 2 Hz, Ar) ; 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 165.8, 158.2, 150.8, 139.3, 134.8, 134.0, 128.7, 126.8, 126.7, 125.9, 122.4 ; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9880。
【0238】
4-カルボキシ-2-フェニル-ベンゾオキサゾール (7). 一般的手順により3-ヒドロキシアントラニル酸から調製して、7を白色固体として得る(10.2 mg,21%)。 7のデータ:1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.50-12. 60 (br. s,1H,CO2H), 8.24-8. 22(m, 2H, Ar), 8.03 (AMX, 1H,J= 0. 9 ; 8.2 Hz, Ar), 7.91 (AMX, 1H, J= 0.9, 7.9 Hz, Ar), 7.68-7. 61 (m, 3H, Ar), 7.51 (AMX, 1H, J = 7.9, 8.2 Hz, Ar);13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 166.0, 163.4, 151.0, 140.8, 132.4, 129.4, 127.6, 126.7, 126.1, 125.0, 123.0, 115.0 ; HRMS(MALDI- FTMS) :C14H9NO3(MH+) 240.0655, 実測値240.0656。
【0239】
5-カルボキシ-2- (3, 5-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (8). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、8を白色固体として得る(10.2 mg, 19%)。8のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.60-12. 80 (br. s, 1H,CO2H), 8.32 (ABM, 1H, J = 1. 5Hz, Ar), 8.07 (ABM,1H,J= 1. 5,8. 5 Hz,Ar), 7. 90 (ABM, 1H, J= 8.5 Hz, Ar), 7.86-7. 85 (m, 2H, Ar), 7.60 (tt, 1H, J= 2.4, 9.2 Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 166.8, 162.8 (d, J=248Hz), 161.5 153.0, 141.2, 129.1, (t, J=11Hz), 128.2, 127.7, 121.4, 111.2, 110.8(d, J=23Hz), 110.7(d, J=22Hz), 107.8(t, J=26Hz); HRMS(MALDI-FTMS) : C14H7F2NO3 (MH+) 276.0467, 実測値276.0469。
【0240】
5-カルボキシ-2- (2,6-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (9). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、9を白色固体として得る(6.8 mg, 12%)。9のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.50-12. 80 (br. s, 1H,CO2H), 8.39 (ABM, 1H, J = 0.7,1.6Hz, Ar), 8.10 (ABM,1H,J= 1.5,8.7Hz,Ar), 7.95(ABM, 1H, J= 0.7,8.7 Hz, Ar), 7.77(m, 1H, Ar), 7.40 (t, 2H, J= 8.8Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 166.8, 160.4(d, J=257Hz), 160.3(d, J=257Hz), 155.4, 152.6, 140.8, 134.8(t, J=11Hz), 128.2, 127.7, 121.6, 113.0(d, J=22Hz), 112.9(d, J=22Hz), 111.2, 104.9; HRMS(MALDI-FTMS) : C14H7F2NO3 (MH+) 276.0467, 実測値276.0467。
【0241】
5-カルボキシ-2-[(3-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (10). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、10を白色固体として得る(6.7 mg, 11%)。 10のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.30-12.80(br. s, 1H,CO2H), 8.51(ABX,1H, J = 7.8 Hz, Ar), 8.45(s,1H,Ar), 8.35(ABM, 1H, J = 1.7Hz, Ar), 8.08(ABM, 1H,J= 1.7,8.6Hz, Ar), 8.04(ABX,1H, J = 7.8Hz, Ar), 7.93(ABM 1H,J= 8.6Hz, Ar), 7.89(ABX,1H, J = 7.8Hz, Ar); 13C NMR(125MHz, DMSO-d6) δ 166.8, 162.2, 153.1, 141.4, 131.4, 130.9, 130.1(q, J=33Hz), 128.8, 128.2, 127.5, 127.1, 123.8(q,J=4Hz), 123.7(q,J=273Hz), 121.3, 111.2; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0530。
【0242】
5-カルボキシ-2-[(2-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (11). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、11を白色固体として得る(10.3 mg, 17%)。 11のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.19(br. s, 1H,CO2H), 8.38(m,1H, Ar), 8.19(d, 1H, J=7.6 Hz, Ar), 8.009(dd, 1H, J=1.8, 8.5Hz, Ar), 8.03(d,1H, J = 7.9Hz, Ar), 7.94-7.88(m, 3H, Ar); 13C NMR(150MHz, DMSO-d6) δ 166.8, 161.6, 153.2, 141.1, 133.1, 132.5, 132.4, 128.2, 127.6, 127.5(q, J=33Hz), 127.2(q,J=6Hz), 124.7, 123.4(q,J=274Hz), 121.6, 111.2; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0531。
【0243】
5-カルボキシ-2-(3,5-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (12). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、12を白色固体として得る(7.3mg,12%)。12のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13.14 (br. s, 1H,CO2H), 8.33 (AMX, 1H,J= 0. 6,1. 8 Hz, Ar), 8.16(AM,2H,J= 1.8 Hz, Ar), 8.08(AMX, 1H, J = 1.8,8.5 Hz, Ar), 7.95 (AM, 1H;J= 1.8 Hz, Ar), 7.91(AMX, 1H, J= 0.6, 8.5 Hz, Ar) ; 13C NMR (150 MHz,DMSO-d6)δ 166.7, 161.1, 153.0, 141.3, 135.2, 131.6, 129.2, 128. 2,127. 7,125. 9, 121.4, 111.3 ; HRMS(MALDI-FTMS) :C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9879。
【0244】
5-カルボキシ-2- (2, 6-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (13). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、13を白色固体として得る(10.8 mg, 18%)。13のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.08 (br. s,1H, CO2H), 8.43 (AMX, 1H,J= 0.6, 1.8 Hz, Ar), 8.13 (AMX, 1H,J= 1. 8,8. 5 Hz, Ar),7. 98 (AMX,1H, J= 0.6, 8.5 Hz, Ar), 7.77-7. 72 (m, 3H, Ar) ; 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 166.7, 158.6, 152.8, 140.4, 134.8, 134.2, 128.8, 128.4, 127.8, 126.2, 121.8, 111.5 ; HRMS (MALDI- FTMS) :C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9879。
【0245】
5-カルボキシ-2-フェニル-ベンゾオキサゾール (14). 一般的手順により3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸から調製して、14を白色固体として得る(11.5 mg,24%)。14のデータ: 1H NMR (600 MHz,DMSO-d6)8 13.12 (br. s, 1H, CO2H), 8.30 (ABX, 1H,J= 1. 8 Hz, Ar), 8.20 (dt,2H,J= 1. 5,6. 7 Hz, Ar), 8.03 (ABX,1H,J= 1. 8,8. 5 Hz, Ar), 7.87(ABX, 1H,J= 8. 5 Hz, Ar), 7.67-7. 60 (m, 3H, Ar);13C NMR (150 MHz,DMSO-d6) 8166. 9,163. 6, 153.0, 141.6, 132.4, 129.4, 127.9, 127.5, 127.0, 126.0, 121.0, 111.0; HRMS(MALDI- FTMS) :C14H9NO3 (MH+) 240. 0655, 実測値240.0656。
【0246】
6-カルボキシ-2- (3, 5-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (15). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、15を白色固体として得る(10.3 mg, 19%)。15のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.22 (br. s, 1H,C02H), 8.20 (ABM, 1H,J= 1. 5 Hz, Ar), 7.98(ABM, 1H, J= 1. 5,8. 2 Hz,Ar), 7. 86(ABM, 1H,J= 8. 2 Hz, Ar), 7.79-7. 78 (m, 2H, Ar), 7.57 (tt,1H, J = 2.4, 9.4 Hz, Ar);13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 166.7, 162.7 (d,J= 248 Hz), 162.6 (d,J= 248 Hz), 162.4, 150.0, 144.7, 129.0(t, J = 11 Hz), 128.7, 126.5, 120.0, 112.1, 110.9 (d,J= 23 Hz), 110.8 (d, J = 22 Hz), 108.0 (t,J= 26 Hz); HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7F2NO3(MH+) 276.0467, 実測値276.0468。
【0247】
6-カルボキシ-2- (2, 6-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (16). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、16を白色固体として得る(8.5mg,15%)。16のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13.25 (br. s, 1H, CO2H), 8.30 (ABM, 1H,J= 0. 6,1. 5 Hz, Ar), 8.04(ABM,1H,J= 1. 5,8. 2 Hz, Ar), 7.96(ABM, 1H,J= 0. 6, 8.2 Hz, Ar), 7.76 (m, 1H, Ar), 7.39 (t, 2H,J= 8. 8 Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6)δ 166.7, 160.4(d, J=257Hz), 160.3(d, J=257Hz), 156.6, 149.7, 144.2, 134.9(t, J = 11 Hz), 128.8, 126.4, 120.1, 113.1, 112.9, 112.2(d, J=5Hz), 105.0(t, J=16Hz); HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7F2NO3(MH+) 276.0467, 実測値276.0466。
【0248】
6-カルボキシ-2-[(3-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (17). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、17を白色固体として得る(7.4 mg, 12%)。 17のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.20(br. s, 1H,CO2H), 8.48(ABX,1H, J = 7.9 Hz, Ar), 8.41(s,1H,Ar), 8.28(ABM, 1H, J = 1.5Hz, Ar), 8.03(ABM, 1H,J= 7.9Hz, Ar), 8.02(ABX,1H, J = 1.5, 8.2Hz, Ar), 7.90(ABM 1H,J= 8.2Hz, Ar), 7.86(ABX,1H, J = 7.9Hz, Ar); 13C NMR(150MHz, DMSO-d6) δ 168.0, 164.6, 151.4, 146.2, 132.8, 132.2, 131.4(q, J=32Hz), 130.2, 129.8, 128.4, 127.8, 125.2, 125.0(q,J=272Hz), 121.2, 113.6; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0531。
【0249】
6-カルボキシ-2-[(2-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (18). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、18を白色固体として得る(6.6 mg, 11%)。 18のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.22(br. s, 1H,CO2H), 8.30(ABX,1H, J = 0.6, 1.5Hz, Ar), 8.20(d, 1H, J=7.3Hz, Ar), 8.06(ABX, 1H,J= 1.5, 8.2Hz, Ar), 8.04(d, 1H, J = 7.9Hz, Ar), 7.98(ABX 1H,J= 0.6, 8.2Hz, Ar), 7.94(t,1H, J = 7.3Hz, Ar), 7.90(t,1H, J = 7.9Hz, Ar); 13C NMR(150MHz, DMSO-d6) δ 168.0, 164.0, 151.6, 145.9, 133.8, 130.0, 129.0(q, J=32Hz), 128.6(q, J=6), 127.7, 126.0, 124.7(q,J=272Hz), 121.6, 113.6; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0530。
【0250】
6-カルボキシ-2- (3, 5-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (19). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、19を白色固体として得る(6.0 mg, 10%)。19のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.20 (br. s, 1H,C02H), 8.17 (ABX, 1H,J= 0.6, 1.5Hz, Ar), 8.00(AB, 1H, J= 2.0Hz,Ar), 7.96(ABX, 1H,J= 1.5,8.5Hz, Ar), 7.83(AB,1H,J=2.0Hz, Ar), 7.82(ABX, 1H,J= 0.6,8.5Hz, Ar);13C NMR (150MHz, DMSO-d6)δ 166.6, 161.9, 150.0, 144.6, 135.1, 131.6, 129.0, 128.7, 126.4, 125.8, 119.9, 112.1 ; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7Cl2NO3(MH+) 307.9876, 実測値307.9879。
【0251】
6-カルボキシ-2- (2, 6-ジクロロフェニル) -ベンゾオキサゾール (20). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、20を白色固体として得る (12.7 mg,21%)。20のデータ:1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.27 (br. s, 1H, CO2H), 8.38 (ABX, 1H, J= 0.5, 1.5 Hz, Ar), 8.09 (ABX,1H,J= 1. 5,8. 3 Hz, Ar), 8.02(ABX,1H,J= 8. 3, 0.5 Hz, Ar), 7.78-7. 71 (m, 3H, Ar); 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 166.6, 159.8, 150.0, 143.8, 134.8, 134.2, 129.1, 128.8, 126.4, 126.3, 120.4, 112.6 ; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9877。
【0252】
6-カルボキシ-2-フェニル-ベンゾオキサゾール (21). 一般的手順により4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸から調製して、21を白色固体として得る(7.0 mg, 15%)。21のデータ:1H NMR (600 MHz,DMSO-d6) δ 13.16 (br. s, 1H,CCH), 8.27 (d, 1H,J= 0. 9 Hz, Ar), 8.25-8. 22 (m, 2H, Ar), 8.01(dd, 1H,J= 1. 5,8. 5 Hz, Ar), 7.89 (d,1H,J= 8. 5 Hz, Ar), 7.69-7. 62 (m, 3H, Ar) ; 13C NMR (150 MHz,DMSO-d6)8 166. 8,164. 7,150. 0,145. 2,132. 6, 129.4, 128.0, 127.6, 126.3, 126.0, 119.6, 112.0 ; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H9N03(MH+) 240.0655, 実測値240.0655。
【0253】
7-カルボキシ-2- (3,5-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (22). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、22を白色固体として得る(8.8 mg, 16%)。22のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13. 55 (br. s,C02H), 8.10 (AMX, 1H,J= 1. 2, 7. 9 Hz, Ar), 7.97 (AMX, 1H,J= 1. 2,7. 9 Hz, Ar), 7.80-7. 79 (m, 2H, Ar), 7.63 (tt,1H,J= 2. 4,9. 2 Hz, Ar), 7.55(AMX,1H,J= 7. 9 Hz, Ar) ; 13C NMR (150 MHz,DMSO-d6) δ 164.5, 162.8 (d, J = 248 Hz), 162.6 (d,J= 248 Hz), 160.9, 149.2, 142.6, 129.2, 128.0, 125.2, 124.9, 116.1, 110.6 (d,J= 28 Hz), 107.7 (q,J= 25 Hz); HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7F2NO3 (MH+) 276.0467, 実測値276.0469。
【0254】
7-カルボキシ-2- (2, 6-ジフルオロフェニル)-ベンゾオキサゾール (23). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、23を白色固体として得る(7.3 mg,13%)。23のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13.48 (br. s, 1H, CO2H), 8.16(ABX, 1H,J= 1. 2,8. 2Hz, Ar), 8.00(ABX, 1H,J= 1. 2,7. 6 Hz, Ar), 7.78 (m,1H, Ar), 7.57 (ABX,1H,J= 7.6, 8.2 Hz, Ar), 7.40 (t, 2H,J= 8.5 Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 164.5, 160.4 (d, J=256Hz), 160.3 (d, J = 257 Hz), 154.9, 148.9, 142.1, 134.8 (t, J = 10 Hz), 128.0, 125.1, 125.0, 116.0, 113.0(d, J=22Hz), 112.9(d, J=21Hz), 105.1(t, J=17Hz); HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7F2NO3 (MH+) 276.0467, 実測値276.0469。
【0255】
7-カルボキシ-2-[(3-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (24). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、24を白色固体として得る(7.9 mg, 13%)。 24のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.51(br. s, 1H,CO2H), 8.48(ABX,1H, J = 8.2 Hz, Ar), 8.40(s,1H,Ar), 8.10(AMX, 1H, J = 1.2, 7.9Hz, Ar), 8.05(ABX, 1H,J= 7.9Hz, Ar), 7.96(AMX,1H, J = 1.2, 7.6Hz, Ar), 7.94(ABX 1H,J= 7.9Hz, Ar), 7.54(AMX,1H, J = 7.9, 7.6Hz, Ar); 13C NMR(150MHz, DMSO-d6) δ 164.6, 161.7, 149.3, 142.7, 131.3, 131.0, 130.0(q, J=32Hz), 128.6(d, J=3Hz), 127.7、127.2、125.0、124.8、123.7(q, J=272Hz), 123.5, 116.0; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0531。
【0256】
7-カルボキシ-2-[(2-トリフルオロメチル)フェニル] -ベンゾオキサゾール (25). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、25を白色固体として得る(13.8 mg, 22%)。 25のデータ: 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)δ 13.46(br. s, 1H,CO2H), 8.18(d, 1H, J=7.6Hz, Ar) 8.14(AMX,1H, J = 1.2, 7.9Hz, Ar), 8.03(d, 1H, J=7.9Hz, Ar), 7.98(AMX, 1H,J= 1.2, 7.6Hz, Ar), 7.94(t, 1H, J = 7.3Hz, Ar), 7.89(t, 1H,J= 7.6Hz, Ar), 7.56(AMX, 1H, J = 7.9Hz, Ar); 13C NMR(150MHz, DMSO-d6) δ 164.6, 161.1, 149.3, 142.173Hz), 116.2; HRMS(MALDI-FTMS) : C15H8F3NO3(MH+) 計算値308.0529, 実測値308.0534。
【0257】
7-カルボキシ-2- (3,5-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (26). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、26を白色固体として得る(7.0 mg, 11%)。26のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 14.00-12.80(br. s,C02H), 8.10-8.08 (m, 3H, Ar), 7.98-7.96 (m, 2H,, Ar), 7.55(t,1H,J= 7.8Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz,DMSO-d6) δ 164.5, 160.5, 149.2, 142.6, 135.2, 131.5, 129.4, 128.0, 125.6, 125.2, 124.8, 116.2; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7Cl2NO3 (MH+) 307.9876, 実測値307.9874。
【0258】
7-カルボキシ-2- (2, 6-ジクロロフェニル)-ベンゾオキサゾール (27). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、27を白色固体として得る(10.3 mg,17%)。27のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6)δ 13.90-13.10 (br. s, 1H, CO2H), 8.16(AMX, 1H,J= 1. 7.9Hz, Ar), 8.02(AMX, 1H,J= 7.9Hz, Ar), 7.78-7.72 (m, 3H, Ar), 7.60(AMX,1H, J= 7.9 Hz, Ar) ; 13C NMR (150 MHz,DMSO-d6)δ 164.4, 158.3, 149.1, 141.7, 134.9, 134.2, 128.8, 128.2, 126.5, 125.3, 125.2,116. 2; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H7Cl2N03(MH+) 307.9876, 実測値307.9875.
7-カルボキシ-2-フェニル-ベンゾオキサゾール (28). 一般的手順により3-アミノサリチル酸から調製して、28を白色固体として得る (13.1 mg, 27%)。28のデータ: 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 13.48 (br. s, 1H,CO2H), 8.20-8.19(m, 2H, Ar), 8.05 (AMX, 1H,J= 1. 2,7. 9 Hz, Ar), 7.92 (AMX, 1H,J= 1. 2,7. 6 Hz, Ar), 7.66-7. 62 (m, 3H, Ar), 7.50 (AMX, 1H,J= 7. 9 Hz, Ar); 13C NMR (150 MHz, DMSO-d6) δ 164.8, 163.1, 149.2, 142.9, 132.2, 129.4,127. 4,127. 2,126. 0,124. 7,124. 4,115. 8; HRMS (MALDI-FTMS) :C14H9NO3 (MH+) 240.0655, 実測値240.0656。
【0259】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて記載してきたが、上記の記載は説明を意図したものであって、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の他の態様、利点及び修正は請求項に記載した範囲内にある。
図1
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図10