(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラー層(II)および前記樹脂層(III)のいずれかが正極または負極のうち少なくとも一方と一体に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
前記フィラー層(II)が正極と、前記樹脂層(III)が負極と、それぞれ一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および有機電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極と前記負極との間に、熱可塑性樹脂を主体とした微多孔質膜からなる基材層(I)と、無機フィラーを主体として含むフィラー層(II)と、融点が100〜130℃の範囲にある樹脂粒子を主体として含む樹脂層(III)を有し、前記基材層(I)の一方の面に前記フィラー層(II)を、他方の面に前記樹脂層(III)を積層している。
【0019】
本発明に係る基材層(I)は、正極および負極の短絡を防止するセパレータ本来の機能を有している。また、後述するフィラー層(II)や樹脂層(III)の支持体としての機能や、シャットダウン機能[例えば80℃以上(より好ましくは100℃以上)150℃以下で、セパレータの空孔が閉塞する性質]を確保することもできる。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池の温度が基材層(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂の融点(JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度)以上に達したときには、基材層(I)に係る熱可塑性樹脂が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
【0020】
なお、基材層(I)を構成する微多孔質膜は、延伸開孔法により多孔化された微多孔質膜を用いることが望ましい。延伸開孔法とは、ラメラ(層状)構造を有するポリマー結晶を溶融し、ダイスから押し出してシート化して、結晶化のための熱処理を施した後、一軸延伸により結晶界面を剥離してラメラ開孔させる手法である。すなわち、この延伸開孔法による微多孔膜製造は、溶剤を使用しない乾式一軸延伸法により行われるため、湿式二軸延伸を用いる相分離法のような溶剤除去工程がないことから、製造工程を簡略化でき、微多孔膜の製造コストを低減できる。また、一方向での延伸であるため、延伸による残留応力が比較的少なく、そのため、加熱をした場合の熱収縮の度合いが、湿式二軸延伸したものより少ない特長もある。
【0021】
一方で、前記の延伸開孔法、すなわち、乾式一軸延伸法により製造される微多孔膜は、各種特性の異方性が高い、強度が小さい、機械方向(微多孔質膜の製造方向)に裂けやすいなどの問題も抱えている。そこで、後述するフィラー層(II)や樹脂層(III)などと併用することで、前記問題点を解決している。
【0022】
基材層(I)を構成する微多孔質膜は、熱可塑性樹脂を主体としており、電気絶縁性を有し、電気化学的に安定で、更に後に詳述する電池の有する非水電解液に安定であれば特に制限はない。このような微多孔質膜の主体となる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル;などが挙げられる。特に、安価な原材料で加工性にも優れたポリオレフィンが望ましい。ここで、基材層(I)の全構成成分中において主体となる熱可塑性樹脂の体積は、50体積%以上であり、70体積%以上であることがより好ましく、100体積%であってもよい。
【0023】
基材層(I)を構成する微多孔質膜として、ポリオレフィンを用いる場合、例えばPEを用いる場合では、基材層(I)で150℃以下のシャットダウン機能を確保することができ、耐熱性は後述するフィラー層(II)で補うことができ、また樹脂層(III)はシャットダウン機能のマージンとなる。耐熱性の高いPPを用いた場合では、基材層(I)そのものが熱収縮しにくく、後述する樹脂層(III)でシャットダウン機能を確保すればよく、フィラー層(II)は耐熱性のマージンとなる。
【0024】
微多孔質膜は、前記例示の熱可塑性樹脂により構成された単層構造のものでもよく、また、多層構造であってもよい。多層構造の微多孔膜としては、例えば、PE層とPP層とを有する2層構造の微多孔質膜;PE層/PP層/PE層が順次積層されて構成された微多孔質膜や、PP層/PE層/PP層が順次積層されて構成された微多孔膜などの3層構造の微多孔質膜;などが挙げられる。
【0025】
基材層(I)の厚み[基材層(I)が複数層有する場合は、その総厚み。以下同じ。]は、基材層(I)の使用による前記作用(短絡防止など)をより有効に発揮させる観点から、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。ただし、基材層(I)が厚すぎると、電池のエネルギー密度を低下させたり、電池のインピーダンスを高めて諸特性に悪影響を与えるなどの問題が生じるので、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池に係るフィラー層(II)は、無機フィラーを主体としている。ここで、フィラー層(II)における無機フィラーの量は、フィラー層(II)の構成成分の全体積中、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましい。機械的強度の高い無機フィラーを前記範囲として含有することで、前述したように、基材層(I)の、異方性が高い、強度が小さい、機械方向(微多孔質膜の製造方向)に裂けやすいなどの諸問題を解決する役割がある。また、リチウムイオン二次電池が高温となった際の正極と負極との直接の接触による短絡の発生をより良好に抑制することができる。
【0027】
フィラー層(II)の主成分である無機フィラーは、リチウムイオン二次電池の有する電解液に対して安定であり、更に電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであることが望ましい。電気化学的に安定であれば、例えば高電圧に曝される機会が多い正極において、フィラー層(II)をこの正極に対面させることで、基材層(I)の酸化による劣化を防ぐことが出来る。さらには、前記無機フィラーは、耐熱温度が150℃以上の無機微粒子がより好ましい。基材層(I)として、ポリオレフィンを用いた場合、基材層(I)の熱収縮を抑制することが出来る。特にPEを用いた場合にはその効果が顕著に現れる。無機フィラーの具体例は、アルミナ、ベーマイト、シリカ、チタニアなどであり、微粒子の形状は特に制限がなく、板状、粒状、繊維状などが好適に用いられる。
【0028】
例えば前記無機フィラーとして、板状の無機フィラーを用いる場合、フィラー層(II)における正極負極間の経路、すなわち所謂曲路率が大きくなる。そのため、デンドライトが生成した場合でも、該デンドライトが負極から正極に到達し難くなり、デンドライトショートに対する信頼性を高めることができる。
【0029】
前記の板状フィラーとしては、各種市販品が挙げられ、例えば、旭硝子エスアイテック社製「サンラブリー(商品名)」(SIO
2)、石原産業社製「NST−B1(商品名)」の粉砕品(TIO
2)、堺化学工業社製の板状硫酸バリウム「Hシリーズ(商品名)」、「HLシリーズ(商品名)」、林化成社製「ミクロンホワイト(商品名)」(タルク)、林化成社製「ベンゲル(商品名)」(ベントナイト)、河合石灰社製「BMM(商品名)」や「BMT(商品名)」(ベーマイト)、河合石灰社製「セラシュールBMT−B(商品名)」[アルミナ(Al
2O
3)]、キンセイマテック社製「セラフ(商品名)」(アルミナ)、斐川鉱業社製「斐川マイカ Z−20(商品名)」(セリサイト)などが入手可能である。この他、SIO
2、Al
2O
3、ZrO
2、CeO
2については、特開2003−206475号公報に開示の方法により作製することができる。これらの中でも、ベーマイト、アルミナ、シリカ(SIO
2)が特に好ましい。
【0030】
フィラーの粒径は、平均粒子径で、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは10μm以下、より好ましくは2μm以下である。なお、本明細書でいう平均粒子径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA−920」)を用い、フィラーを溶解しない媒体に、これらフィラーを分散させて測定したD
50%(体積基準の積算分率50%における粒子直径)である。
【0031】
また、板状の前記フィラーは、板厚が薄いと衝撃によって割れやすいという問題があることから、その平均厚みが、0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。ただし、板状の前記フィラーの厚みが大きすぎると、フィラー層(II)の厚みが厚くなって、放電容量が低下したり、電池の作製時にフィラー層(II)が割れやすくなることから、その平均厚みは、0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0032】
板状の前記フィラーの平均厚みは、セパレータの断面をSEMにより観察し、フィラー100個の厚みの平均値(数平均値)として求めることができる。
【0033】
前記無機フィラーとして粒状のフィラーを用いる場合、フィラーの分散が比較的容易であり、厚さが均一なフィラー層(II)を形成することが容易である。とくに、平均粒子径が0.1〜2μmの粒子を用いれば高い効果が得られる。
【0034】
粒状フィラーの例としては、大明化学社製「アルミナ TM−Dシリーズ(商品名)」、「ベーマイト C06(商品名)」、「ベーマイト C20(商品名)」(ベーマイト)、米庄石灰工業社製「ED−1(商品名)」(CaCO
3)、J.M.Huber社製「Zeolex 94HP(商品名)」(クレイ)などが挙げられる。
【0035】
フィラー層(II)には、フィラー層(II)と基材層(I)とを一体化させる場合、また、フィラー層(II)の形状安定性を確保するために、有機バインダを含有させることが好ましい。有機バインダとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、特に、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダが好ましく用いられる。有機バインダは、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記例示の有機バインダの中でも、EVA、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス−EEAシリーズ(エチレン−アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD−2001(SBR)」、日本ゼオン社の「BM−400B(SBR)」などがある。
【0037】
なお、前記の有機バインダをフィラー層(II)に使用する場合には、後述するフィラー層(II)形成用の組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
【0038】
フィラー層(II)の厚みは、フィラー層(II)による前記の各作用をより有効に発揮させる観点から、1μm以上であることが好ましい。ただし厚すぎると電池のエネルギー密度の低下を引き起こすなどの虞があることから、フィラー層(II)は10μm以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る樹脂層(III)は、融点が100〜130℃の範囲にある樹脂粒子を主体として含む。ここで融点とは前述した、JIS K 7121の規定に準じて、DSCを用いて測定される融解温度である。樹脂層(III)は、シャットダウン機能を有するものであり、特に基材層(I)として、PPなどの高融点の熱可塑性樹脂を用いた場合、その威力を高く発揮するものである。前記シャットダウン機能を好適に発揮させるために、樹脂層(III)における樹脂粒子の量は、樹脂層(III)の構成成分の全体積中、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが更に好ましい。
【0040】
融点が100〜130℃の範囲にある樹脂粒子の具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、低分子量ポリエチレン、アイオノマーなどが挙げられる。
【0041】
前記樹脂層(III)を構成する樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であって、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0042】
前記樹脂層(III)の厚みは、フィラー層(II)による前記の各作用をより有効に発揮させる観点から、1μm以上であることが好ましい。ただし厚すぎると電池のエネルギー密度の低下を引き起こすなどの虞があることから、フィラー層(II)は10μm以下であることが好ましい。
【0043】
前記樹脂層(III)を、特に前記基材層(I)と一体に形成する場合には、前記フィラー層(II)と同様の理由で、有機バインダを含有させて用いることが好ましく、その種類もフィラー層(II)で使用したものと同様のものが好適に採用される。
【0044】
また、樹脂層(III)には、強度や酸化性を高めるなどの理由で、前記フィラー層(II)を形成するものと同様の無機フィラーを、シャットダウン機能に支障がない程度に加えても良い。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る基材層(I)にフィラー層(II)および樹脂層(III)を、それぞれ積層させ一体に形成されている基材積層型の形態を採用することができる。この場合には例えば、基材層(I)の一方の面に、フィラー層(II)を形成するための組成物(スラリーなど)を、他方の面に樹脂層(III)を形成するための組成物をそれぞれ塗布し、乾燥する工程を経て製造することができる。
【0046】
フィラー層(II)を形成するための、または樹脂層(III)を形成するための、これら形成用組成物は、フィラー層(II)を形成する無機フィラー[あるいは樹脂層(III)を形成する樹脂]の他に、必要に応じてバインダなどを含有し、これらを媒体に分散させたものである。なお、バインダについては媒体に溶解させることもできる。形成用組成物に用いられる媒体は、フィラーなどを均一に分散でき、また、バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの媒体に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を媒体としてもよく、この際にもアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
【0047】
前記例示のものの中でも、塗布および乾燥後の媒体回収の容易さや、環境上の問題を考慮すると、水を主成分とする媒体を用いることが好ましい。なお、「水を主成分とする」とは、媒体中の構成成分のうち、水が70質量%以上含有されていることを指す。水を主成分とする場合のその他の媒体としては、例えば、形成用組成物の界面張力制御のために添加される前記アルコール類などが挙げられる。環境保護の観点からは、水100質量%の媒体を用いることが特に好ましい。
【0048】
媒体に用いる水としては、井戸水、水道水などをイオン交換させたイオン交換水;これらを蒸留処理した精製水;が好ましく、前記のイオン交換水や精製水を、ガンマ線、エチレンオキサイトガスまたは紫外線などによって滅菌処理した水がより好ましく、前記の精製水に前記の滅菌処理した水が特に好ましい。後述するように、形成用組成物において、特に真密度の高い無機フィラーの分散状態を安定化させるには、増粘剤を添加して、組成物の粘度を高めることが好ましい。しかし、形成用組成物を長期間貯蔵などすると、その間に組成物中のバクテリアなどによって増粘剤が分解する虞がある。調製直後に無機フィラーが良好に分散している形成用組成物であっても、貯蔵期間中に増粘剤が分解してしまうと、無機フィラーの沈降が生じる虞がある。しかしながら、形成用組成物の媒体に前記の滅菌処理した水を使用することで、例えば、より分解しやすい天然多糖類を増粘剤として使用した場合であっても、組成物の貯蔵期間中での増粘剤の分解を抑制して無機フィラーの沈降を抑えることができるため、長期貯蔵性に優れた形成用組成物とすることができる。
【0049】
なお、媒体に使用する水に滅菌処理を施す場合、滅菌の度合いは、水中に含まれる真菌や生菌の数で判断すればよい。具体的には、日本薬局方の一般試験法に記載の無菌試験法により求められる真菌および生菌の個数が、水50mL中にそれぞれ50以下となるまで滅菌処理を施すことが好ましい。
【0050】
さらに形成用組成物の貯蔵安定性を確保するために、適宜防腐剤や殺菌剤を添加して増粘剤の分解を抑制してもよい。これらの例としては、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル、エタノール、メタノール等のアルコール類、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素類、過酸化水素、ホウ酸、酢酸等の酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類、窒素含有有機硫黄系化合物(例えばサンノプコ社製「ノプコサイド(商品名)シリーズ」などが挙げられる。
【0051】
また、形成用組成物が発泡しやすく、塗布性に影響する場合には、適宜消泡剤を用いることができる。消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコーン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤を用いることができる。消泡剤の具体的な例としては、日華化学社製「フォームレックス(商品名)」、日信化学社製「サーフィノール(商品名)シリーズ」、荏原エンジニアリング社製「アワゼロン(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製「SNデフォーマー(商品名)シリーズ」などを用いることができる。
【0052】
形成用組成物には、無機フィラーや、樹脂同士の凝集を防ぐ目的で適宜分散剤を使用することが可能である。分散剤の具体的な例としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の各種界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩などの高分子系分散剤などを用いることができる。より具体的には、ADEKA社製「アデカトール(商品名)シリーズ」、「アデカノール(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製「SNディスパーサント(商品名)シリーズ」、ライオン社製「ポリティ(商品名)シリーズ」、「アーミン(商品名)シリーズ」、「デュオミン(商品名)シリーズ」、花王社製「ホモゲノール(商品名)シリーズ」、「レオドール(商品名)シリーズ」、「アミート(商品名)シリーズ」、日油社製「ファルバック(商品名)シリーズ」、「セラミゾール(商品名)シリーズ」、「ポリスター(商品名)シリーズ」、味の素ファインテクノ社製「アジスパー(商品名)シリーズ」、東亞合成社製「アロン分散剤(商品名)シリーズ」などがある。
【0053】
また形成用組成物に、界面張力を制御する目的で、適宜添加剤を加えることができる。添加剤としては、媒体が有機溶媒である場合には、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなど用いることができ。媒体が水の場合には、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)、変性シリコーン系、疎水性シリカ系(例えばサンノプコ社製「SNウエット(商品名)シリーズ、SNデフォーマー(商品名)シリーズ」を用いて界面張力を制御することもできる。
【0054】
形成用組成物には、例えば無機フィラーの分散状態を安定化させるために、増粘剤を添加することができる。増粘剤の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ウレタン変性ポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体等の合成高分子(例えばサンノプコ社製「SNシックナー(商品名)シリーズ」);カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンなどの天然多糖類;デキストリン;アルファー化でんぷんなどのでんぷん類;モンモリロナイト、ヘクトライトなどの粘土鉱物;ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、ヒュームドチタニアなどの無機酸化物類;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記の粘土鉱物や無機酸化物類の場合には、一次粒子の粒径が、無機フィラーよりも小さいもの(例えば、数nm〜数十nm程度)を使用することが好ましく、また、一次粒子が多数繋がったストラクチャ構造を有するもの(ヒュームドシリカなど)が好ましい。
【0055】
前記例示の増粘剤のなかでも、形成用組成物に好適な媒体である水に対する溶解性が高く、少量で増粘効果が高い点で、天然多糖類がより好ましく、キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガムが更に好ましく、キサンタンガムが特に好ましい。また、形成用組成物にチクソ性を付与する場合には、ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、ヒュームドチタニアなどの無機酸化物類を添加することが好ましい。
【0056】
形成用組成物における増粘剤の含有量は、例えば、組成物中の固形分(媒体を除く構成成分。)の全体積中、0.1〜10体積%であることが好ましい。
【0057】
形成用組成物は、前記の無機フィラー(または樹脂粒子)およびバインダを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
【0058】
形成用組成物の基材層(I)への塗布に用いる塗工機としては、例えば、ダイコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、スクイズロールコーター、カーテンコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどの、従来から知られている各種塗工機が挙げられる。
【0059】
形成用組成物の媒体として水を用いる場合、形成用組成物の基材層(I)への濡れ性を十分に確保し、さらに接着性を高めるなどの目的で、前記形成用組成物を基材層(I)へ塗布する前に、前記基材層(I)の少なくとも一方の面にコロナ放電などの親水化処理をしてもよい。コロナ放電処理をする場合、形成用組成物の基材層(I)への塗布と連続的に行うことが生産の効率上好ましく、例えば基材層(I)を巻き出し、コロナ放電処理をして、処理面に形成用組成物を前記ダイあるいはグラビアロールなどで塗布して、乾燥後、巻き取る塗工方法が挙げられる。
【0060】
ここで、巻き出しおよび巻き取りを行う際の基材層(I)にかかる張力を、過剰に高めて塗工すると、基材層(I)の機械的な強度が著しく低下する、あるいは後述するリチウムイオン二次電池としたときの電池特性に悪影響を与えることがあるので、基材層(I)の機械方向の伸び率が5%以内に収まる程度の張力で塗工することが望ましい。
【0061】
基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態とし、これをセパレータとする場合、セパレータ全体の空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(1)式を用いて各成分Iについての総和を求めることにより計算できる。
P = 100−(Σa
I/ρ
I)×(m/t) (1)
ここで、前記式中、a
I:質量%で表した成分Iの比率、ρ
I:成分Iの密度(g/cm
3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm
2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
【0062】
また、本発明に係るセパレータは、JIS P 8117に準拠した方法で測定され、0.879g/mm
2の圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値が、10〜300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。前記の構成を採用することにより、前記の透気度を有するセパレータとすることができる。
【0063】
更に、本発明に係るセパレータは、下記の方法により求められる突き刺し強度が、3N以上であることが好ましい。このような突き刺し強度を有するセパレータであれば、前記のように表面の粗い電極と組み合わせて電池を構成することによる生産性の低下を、より良好に抑えることができる。なお、前記の構成を採用することにより、前記の突き刺し強度を有するセパレータとすることができる。
【0064】
セパレータの前記突き刺し強度は、以下の方法により求める。直径2インチの穴があいた板上にセパレータを、しわやたわみのないように固定し、先端の直径が1.0mmの半円球状の金属ピンを、120mm/mInの速度でセパレータに降下させて、セパレータに穴が開くときの力を5回測定する。そして、前記5回の測定値のうち最大値と最小値とを除く3回の測定について平均値を求め、これをセパレータの突き刺し強度とする。
【0065】
セパレータの平均孔径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であって、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、基材層(I)の平均孔径は、0.01〜0.5μmであることが好ましく、フィラー層(II)および樹脂層(III)の平均孔径は、0.05〜1μmであることが好ましい。
【0066】
前記基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有するセパレータのシャットダウン特性は、例えば、電池の内部抵抗の温度変化により求めることができる。具体的には、前記セパレータを含有する電池を恒温槽中に設置し、温度を室温から毎分1℃の割合で上昇させ、電池の内部抵抗が上昇する温度を求めることで測定することが可能である。この場合、150℃における電池の内部抵抗は、室温の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、前記構成のセパレータを使用することで、このような特性を確保することができる。
【0067】
また、基材積層型のセパレータは、150℃での熱収縮率を5%以下とすることが好ましい。このような特性のセパレータであれば、電池内部が150℃程度になっても、セパレータの収縮が殆ど生じないため、正負極の接触による短絡をより確実に防止することができ、高温での電池の安全性をより高めることができる。前記の構成を採用することで、前記のような熱収縮率を有するセパレータとすることができる。
【0068】
ここでいう熱収縮率は、一体に形成した基材積層型のセパレータ全体の収縮率を指す。また、後述するように、基材層(I)が独立して、フィラー層(II)および樹脂層(III)が、それぞれ電極と一体に形成する構成とすることもできるが、その場合は、電極と一体に形成した状態で測定した熱収縮率を指す。
【0069】
なお、前記の「150℃の熱収縮率」とは、セパレータ(フィラー層(II)および樹脂層(III)を電極と一体に形成した場合には基材層(I)と電極を重ねた状態で)を恒温槽に入れ、温度を150℃まで上昇させて3時間放置した後に取り出して、恒温槽に入れる前のセパレータ(基材積層型についてはセパレータ全体、基材単層型については基材層(I))の寸法と比較することで求められる寸法の減少割合を百分率で表したものである。
【0070】
基材積層型のセパレータは、その両面に導電性の極板をそれぞれ設置して、これら極板間に漏れ電流(例えば100mA)が生じるまで、電圧を印加した場合、その漏れ電流が生じる印加電圧、すなわち絶縁破壊に至る電位(絶縁破壊強度)が1.0kV以上であることが望ましい。絶縁破壊強度が1.0kV以上であれば、後述する正極および負極と対面させて、電池とする場合、正極および負極間の絶縁性が十分に保たれて望ましい。前記絶縁破壊強度は、例えばセパレータの両面に、後述する正極および負極とを対面させ、0kVから徐々に印加電圧を上昇させ、100mA以上の電流が流れたときの電圧を絶縁破壊強度として測定することができる。
【0071】
詳細は不明であるが、基材積層型のセパレータをコロナ放電によって親水化処理した後、前述したダイコーター等の塗工機で作製する場合、基材層(I)の巻き出しおよび巻き取りを行う際の基材層(I)にかかる張力を、過剰に高めて塗工するとセパレータの絶縁破壊強度が著しく低下することもある。理由は定かでないが以下のことが考えられる。張力により、基材層(I)が伸びて、さらにその細孔も広がり、広がった細孔の中に、コロナ放電処理時に生じたプラスまたはマイナスのイオンが進入しやすくなる。コロナ放電処理面側の細孔に進入するイオンは同電荷のイオンが局在化しやすく、その結果コロナ放電処理面とは反対面側には逆の電荷のイオンが局在化して、強帯電することがある。実際、基材層(I)が強帯電すると、絶縁破壊強度が低下する場合があり、絶縁破壊強度を1.0kV以上とするために、基材層(I)の機械方向の伸び率が5%以内に収まる程度の張力で塗工することが望ましい。
【0072】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る正極には、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている正極、すなわち、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含有する正極を用いることができる。例えば、正極活物質には、LI
1+xMO
2で(−0.1<x<0.1、M:Co、NI、Mnなど)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物;LIMn
2O
4などのリチウムマンガン酸化物;LIMn
2O
4のMnの一部を他元素で置換したLIMn
xM
(1−x)O
2;オリビン型LIMPO
4(M:Co、NI、Mn、Fe);LIMn
0.5NI
0.5O
2;LI
(1+a)Mn
xNI
yCo
(1−x−y)O
2(−0.1<a<0.1、0<x<0.5、0<y<0.5);などを適用することが可能であり、これらの正極活物質に公知の導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、SBR、フッ素ゴムなどの結着剤や、増粘剤などを適宜添加した正極合剤を、集電体を芯材として成形体(正極合剤層)に仕上げたものなどを用いることができる。
【0073】
正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0074】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0075】
本発明のリチウム二次電池に係る負極には、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている負極、すなわち、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含有する負極を用いることができる。例えば、負極活物質には、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、SI、Sn、Ge、BI、Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物、または酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。
【0076】
負極活物質には、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm
−1のピーク強度に対する1360cm
−1のピーク強度比であるR値(I
1360/I
1580)が0.1以上0.5以下であり、002面の面間隔d
002が0.338nm以下である黒鉛を使用することがより好ましい。このような負極活物質を含有する負極を使用することで、低温でも優れた充電特性を維持し得るリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0077】
R値およびd
002が前記の値を満足する黒鉛としては、例えば、表面が低結晶性の炭素材で被覆された黒鉛が挙げられる。そのような黒鉛は、d
002が0.338nm以下である天然黒鉛または人造黒鉛を球状に賦形したものを母材とし、その表面を有機化合物で被覆し、800〜1500℃で焼成した後、解砕し、篩を通して整粒することによって得ることができる。なお、前記母材を被覆する有機化合物としては、芳香族炭化水素;芳香族炭化水素を加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ類;芳香族炭化水素の混合物を主成分とするタール、ピッチまたはアスファルト類;などが挙げられる。前記母材を前記有機化合物で被覆するには、前記有機化合物に前記母材を含浸・混捏する方法が採用できる。また、プロパンやアセチレンなどの炭化水素ガスを熱分解により炭素化し、これをd
002が0.338nm以下の黒鉛の表面に堆積させる気相法によっても、R値およびd
002が前記の値を満足する黒鉛を作製することができる。
【0078】
電池には、これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどの結着剤などを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げた負極が用いられる他、前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、若しくは集電体上に形成した負極を用いてもよい。
【0079】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが望ましい。
【0080】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極剤層(負極活物質を有する層)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0081】
本発明のリチウムイオン二次電池に係るセパレータにおいて、フィラー層(II)が正極と、前記樹脂層(III)が負極と、それぞれ一体に形成され、基材層(I)だけは独立した基材単層型の形態であってもよい。この場合には、リード部を設ける前の正極および負極の合剤層の表面に、例えば、前記のフィラー層(II)を形成するための組成物(スラリーなど)を正極合剤層表面に、樹脂層(III)を形成するための組成物を負極合剤層表面にそれぞれ塗布し、乾燥する工程を経て製造することができる。塗布方法は、前述したダイコーターなどの、従来から知られている各種塗工機が挙げられる。
【0082】
非水電解液には、例えば、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた溶液が使用される。非水電解液に係る有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒または2種以上の混合溶媒を使用することができる。また、リチウム塩には、例えば、LIClO
4、LIPF
6、LIBF
4 、LIAsF
6 、LISbF
6 、LICF
3SO
3、LICF
3CO
2、LI
2C
2F
4(SO
3)
2、LIN(CF
3SO
2)
2、LIC(CF
3SO
2)
3、LIC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、LIN(RfOSO
2)
2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などのうちの1種または2種以上を用いることができる。リチウム塩の非水電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【0083】
また、非水電解液には、電池の安全性や充放電サイクル特性、高温貯蔵性といった特性を更に向上させる目的で、無水酸、スルホン酸エステル、ジニトリル、ビニレンカーボネート類、環状硫黄化合物(1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンスルトン、3−フェニル−1,3−プロパンサルトン、4−フェニル−1,4−ブタンスルトンなど)、ジフェニルジスルフィド、ビフェニル、ビニルエチレンカーボネート、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤(これらの誘導体も含む)を適宜加えることもできる。
【0084】
電極は、前記の正極と前記の負極とを、セパレータを介して積層した積層電極体や、更にこれを巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
【0085】
前記巻回電極体の形成時には、セパレータを構成する基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)のそれぞれが積層して一体に形成した基材積層型とする場合、樹脂層(III)が負極に面するようにセパレータを配置することが好ましく、基材層(I)だけは独立した基材単層型とする場合には、樹脂層(III)が負極と積層して一体に形成した形態が望ましい。詳細な理由は不明であるが、樹脂層(III)が少なくとも負極に面するようにした場合には、正極に面するように配置した場合よりも、シャットダウンを生じた場合に、樹脂層(III)から溶融した樹脂のうち、電極合剤層(正極合剤層または負極合剤層)に吸収される割合が少なくなり、溶融した樹脂が基材層(I)の空孔を閉塞するのに、より有効に利用されるため、シャットダウンによる効果がより良好となる。
【0086】
また、例えばリチウムイオン二次電池が、温度上昇により電池の内圧が上昇した際に、電池内部のガスを外部に排出して電池の内圧を下げる機構を有する場合には、この機構が作動した際に、内部の非水電解液が揮発して、電極が直接空気に曝される状態となる虞がある。電池が充電状態にある場合に、前記のような状態となり、負極と空気(酸素や水分)が接触すると、負極に吸蔵されたLIイオンや負極表面に析出したリチウムと空気とが反応して発熱し、時には発火することもある。また、この発熱により電池の温度が上昇して正極活物質の熱暴走反応を引き起こし、その結果、電池が発火に至ることもある。
【0087】
しかしながら、熱可塑性樹脂を主体とする樹脂層(III)が負極に面するように構成した電池の場合には、高温時には多孔質層(I)の主体である熱可塑性樹脂が溶融して負極表面を覆うことから、前記の電池内部のガスを外部に排出する機構の作動に伴う負極と空気との反応を抑制することができる。そのため、前記の電池内部のガスを外部に排出する機構が作動することによる発熱の虞をなくし、電池をより安全に保つことができる。
【0088】
一方、フィラー層(II)は無機フィラーを主体として含んでいるため、耐酸化性が基材層(I)や樹脂層(III)よりも優れていることから、フィラー層(II)を正極側に向ける(あるいは正極に積層して一体化させる)ことによって、正極による基材層(I)の酸化をより良好に抑制することが可能となり、高温時の保存特性や充放電サイクル特性に更に優れた電池とすることができる。
【0089】
また、リチウムイオン二次電池では、過充電時の安全性や高温下での安定した貯蔵特性(主に外装体の膨れ防止)を確保するために、各種添加剤(例えば、シクロヘキシルベンゼン、ビニレンカーボネートなど)を非水電解液に添加することがある。本来、これらの添加剤は、高電圧や高温など異常な環境下に曝されたときに効果を奏し得るものであるが、通常の使用環境下においても、前記添加剤が重合するなどの副反応が生じる場合もある。特に高電圧下に曝される機会の多い正極側において、前記の副反応が生じる場合が多く、例えば、シクロヘキシルベンゼンが正極側で重合すると、基材層(I)の目詰まりが生じて、電池のインピーダンスが上昇するなどの問題が発生する虞がある。特に、基材層(I)孔径が小さい場合には、こうした目詰まりによる悪影響を受けやすい。
【0090】
本発明のリチウムイオン二次電池に係る基材層(I)を構成する微多孔質膜が、延伸開孔法で多孔化したもの(すなわち、乾式一軸延伸法で製造されたもの)である場合、微多孔質膜の孔径制御が困難であり、特に大きな孔径とすることには限界がある。よって、基材層(I)を直接正極に対面させて電池を構成すると、非水電解液が前記添加剤を含有している場合に、前記の副反応による基材層(I)の空孔が目詰まりする問題が現れる。しかし、本発明のリチウムイオン二次電池では、比較的ポーラスなフィラー層(II)あるいは樹脂層(III)が正極と対面しているので、特に前記のような添加剤を含有する非水電解液を使用する場合にも前記の目詰まりを抑制することができる。
【0091】
本発明の電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0092】
本発明のリチウムイオン二次電池は、加熱時の安全性に優れるのみならず、負荷特性やサイクル特性など電池の重要特性に優れていることから、こうした特性を生かして、携帯電話などのモバイルデバイスや、パワーツール用の電源用途を始めとして、従来から知られているリチウムイオン二次電池と同様の用途に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0094】
実施例1
<負極の作製>
平均粒子径D50%が18μm、d
002が0.338nmで、R値が0.18であり、BET法による比表面積が3.2m
2/gである黒鉛Aと、平均粒子径D50%が16μm、d
002が0.336nmで、R値が0.05の黒鉛Bとを、85:15の質量比で混合した混合物:98質量部、粘度が1500〜5000mPa・sの範囲に調整された1質量%の濃度のCMC水溶液:1.0質量部、およびSBR:1.0質量部を、比伝導度が2.0×10
5Ω/cm以上のイオン交換水を溶剤として混合して、水系の負極合剤含有ペーストを調製した。
【0095】
前記の負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整して負極を得た。また、前記負極を幅45mmになるように切断し、更に銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0096】
<正極の作製>
正極活物質であるLICoO
2:70質量部およびLINI
0.8Co
0.2O
2:15質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、並びにバインダであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、正極を作製した。更にこの正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0097】
<セパレータの作製>
二次凝集体ベーマイト5kgにイオン交換水5kgと分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで8時間解砕処理をし、分散液を調製した。処理後の分散液を120℃で真空乾燥し、SEM観察をしたところ、ベーマイトの形状はほぼ板状であった。また、レーザー散乱粒度分布計(堀場製作所製「LA−920」)を用い、屈折率1.65としてベーマイトの平均粒子径(D50%)を測定したところ、1.0μmであった。
【0098】
前記分散液500gに、増粘剤としてキサンタンガムを0.5g、バインダとして樹脂バインダーディスパージョン(変性ポリブチルアクリレート、固形分含量45質量%)を17g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[フィラー層(II)形成用スラリー(a)、固形分比率50質量%]を調製した。
【0099】
低分子量PEディスパージョン(PEの融点110℃、粒径0.6μm、固形分含量40%)500gに、前記樹脂バインダーディスパージョンを13g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[樹脂層(III)形成用スラリー(1)、固形分比率40質量%]を調製した。
【0100】
乾式の一軸延伸法で作製した電池用PP製微多孔質セパレータ[基材層(I):厚み12μm、空孔率40%、平均孔径0.08μm、突き刺し強度2.5N、絶縁破壊強度1.1kV、PPの融点165℃]の両面にコロナ放電処理(放電量40W・mIn/m
2)を施し、片方の面にフィラー層(II)形成用スラリー(a)を、反対側の面に樹脂層(III)形成用スラリー(1)をマイクログラビアコーターによってそれぞれ塗布し、乾燥して基材層(I)に、フィラー層(II)および樹脂層(III)を積層した3層一体型のセパレータを得た。
【0101】
得られた基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有するセパレータにおけるフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるベーマイトの含有率は90体積%であった。また、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は3.8Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。
【0102】
<電池の組み立て>
前記のようにして得た基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有する基材積層型の形態を有するセパレータを、セパレータのフィラー層(II)が正極側に向くように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。得られた巻回電極体を押しつぶして扁平状にし、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmのアルミニウム製外装缶に入れ、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で1:2に混合した溶媒にLIPF
6を濃度1.2mol/lで溶解させ、更にシクロヘキシルベンゼンを3質量%添加したもの)を注入した後に封止を行って、
図1に示す構造で、
図2に示す外観のリチウムイオン二次電池を作製した。なお、この電池は、缶の上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
【0103】
ここで
図1および
図2に示す電池について説明すると、
図1の(a)は平面図、(b)はその部分断面図であって、
図1(b)に示すように、正極1と負極2は前記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回電極体6として、角筒形の外装缶4に電解液と共に収容されている。ただし、
図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。また、セパレータの各層も区別して示していない。
【0104】
外装缶6はアルミニウム合金製で電池の外装体を構成するものであり、この外装缶4は正極端子を兼ねている。そして、外装缶4の底部にはPEシートからなる絶縁体5が配置され、正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回電極体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、外装缶4の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用蓋板9にはPP製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0105】
そして、この蓋板9は外装缶4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、
図1の電池では、蓋板9に非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、
図1および
図2の電池では、実際には、非水電解液注入口14は、非水電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、非水電解液注入口14として示している)。更に、蓋板9には、電池の温度が上昇した際に内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0106】
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶5と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、外装缶4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0107】
図2は前記
図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この
図2は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この
図1では電池を概略的に示しており、電池の構成部材のうち特定のものしか図示していない。また、
図1においても、電極群の内周側の部分は断面にしていない。
【0108】
実施例2
二次凝集体ベーマイト5kgにイオン交換水5kgと分散剤(水系ポリカルボン酸アンモニウム塩、固形分濃度40%)0.5kgとを加え、内容積20L、転回数40回/分のボールミルで4時間解砕処理をし、分散液を調製した。処理後の分散液を120℃で真空乾燥し、SEM観察をしたところ、ベーマイトの形状はほぼ粒状であった。また、レーザー散乱粒度分布計(堀場製作所製「LA−920」)を用い、屈折率1.65としてベーマイトの平均粒子径(D50%)を測定したところ、0.6μmであった。
【0109】
この粒状ベーマイトからなる分散液を用いた以外はすべて実施例1と同様にしてフィラー層(II)形成用スラリー(b)を作製した。以下、実施例1と同様にしてセパレータ(3層一体型)を作製した。得られた基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有するセパレータにおけるフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるベーマイトの含有率は90体積%であった。また、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は3.4Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。これを用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0110】
実施例3
二次凝集体ベーマイトに代えて二次凝集体アルミナを用いた以外は、フィラー層(II)形成用スラリー(b)と同様にして、フィラー層(II)形成用スラリー(c)を調製した。なお、フィラー層(II)形成用スラリー(c)の調製途中で形成したアルミナの分散液について、実施例1と同様にしてSEM観察を行ったところ、アルミナの形状は粒状であった。また、前記アルミナの分散液について、実施例1と同様にして測定したアルミナの平均粒子径D50%は、1μmであった。
【0111】
低分子量PEディスパージョン(PEの融点113℃、粒径1μm、固形分含量40%)500gに、前記樹脂バインダーディスパージョンを13g加え、スリーワンモーターで3時間攪拌して均一なスラリー[樹脂層(III)形成用スラリー(2)、固形分比率40質量%]を調製した。
【0112】
実施例1と同様にして基材層(I)、フィラー層(II)および樹脂層(III)を一体に形成した基材積層型の形態を有するセパレータを作製した。得られたセパレータにおけるフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%sであり、フィラー層(II)中におけるアルミナの含有率は88体積%であった。であった。また、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は3.6Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。これを用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
実施例4
二次凝集体ベーマイトに代えて二次凝集体アルミナを用いた以外は、フィラー層(II)形成用スラリー(a)と同様にして、フィラー層(II)形成用スラリー(d)を調製した。なお、フィラー層(II)形成用スラリー(d)の調製途中で形成したアルミナの分散液について、実施例1と同様にしてSEM観察を行ったところ、アルミナの形状は板状であった。また、前記アルミナの分散液について、実施例1と同様にして測定したアルミナの平均粒子径D50%は、1μmであった。
【0114】
乾式の一軸延伸法で作製した電池用PE製微多孔質セパレータ[基材層(I):厚み12μm、空孔率45%、平均孔径0.06μm、突き刺し強度2.3N、絶縁破壊強度1.1kV、PEの融点135℃]の両面にコロナ放電処理(放電量40W・mIn/m
2)を施し、以下、実施例1と同様にしてセパレータ(基材積層型)を作製した。得られたセパレータにおけるフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるアルミナの含有率は88体積%であった。また、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は4.0Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。これを用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
実施例5
実施例1と同様の手法で作製したカレンダ処理後の負極の負極合剤層に、実施例1と同様の手法で作製した樹脂層(III)形成用スラリー(1)をダイコーターにて両面塗布した。乾燥後得られた樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。
【0116】
実施例1と同様の手法で作製したカレンダ処理後の正極の正極合剤層に、実施例1と同様の手法で作製したフィラー層(II)形成用スラリー(a)ダイコーターにて両面塗布した。乾燥後得られたフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるベーマイトの含有率は90体積%であった。
【0117】
前記樹脂層(III)を両面に塗布した負極と、フィラー層(II)を両面に塗布した正極と、実施例4で基材層(I)として用いたものと同様のPE製微多孔質セパレータとを用い、以下、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
実施例6
実施例1と同様の手法で作製したカレンダ処理後の負極の負極合剤層に、実施例1と同様の手法で作製したフィラー層(II)形成用スラリー(a)をダイコーターにて両面塗布した。乾燥後得られたフィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるベーマイトの含有率は90体積%であった。
【0119】
実施例1と同様の手法で作製したカレンダ処理後の正極の正極合剤層に、実施例1と同様の手法で作製した樹脂層(III)形成用スラリー(1)をダイコーターにて両面塗布した。乾燥後得られた樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。
【0120】
比較例1
実施例1で用いたものと同じPP製微多孔膜セパレータを、フィラー層(II)および樹脂層(III)を形成せずにセパレータとして使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0121】
比較例2
実施例5で用いたものと同じPE製微多孔膜セパレータを、フィラー層(II)および樹脂層(III)を形成せずにセパレータとして使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0122】
比較例3
フィラー層(II)を設けなかったこと以外はすべて実施例1と同様にしてセパレータ(基材層(I)と樹脂層(III)の2層一体型)を作製した。なお、樹脂層(III)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が1.8g/m
2であり、空孔率は55%であり、樹脂層(III)中におけるPE粒子の含有率は97体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は2.8Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。セパレータの樹脂層(III)が正極側に向くように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製し、以下、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0123】
比較例4
樹脂層(III)を設けなかったこと以外はすべて実施例4と同様にしてセパレータ(基材層(I)とフィラー層(II)の2層一体に形成した基材積層型の形態)を作製した。なお、フィラー層(II)の厚さは3μmであり、単位面積あたりの質量が6.1g/m
2であり、空孔率は55%であり、フィラー層(II)中におけるアルミナの含有率は88体積%であった。さらに、前述の方法で測定した突き刺し強度は3.2Nであり、絶縁破壊強度は1.1kVであった。セパレータのフィラー層(II)が正極側に向くように介在させつつ重ね、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製し、以下、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0124】
実施例1〜6および比較例1〜4のリチウムイオン二次電池について、下記のサイクル試験、過充電試験、および落下試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0125】
<サイクル試験>
作製したリチウムイオン二次電池について、常温(25℃)で、1Cの定電流および電圧4.2Vの定電圧による定電流−定電圧充電(総充電時間:2.5時間)を行った後、1Cで定電流放電(放電終止電圧:2.5V)を行った。これを1サイクルとして、前記条件で500サイクル充放電を繰り返し、容量保持率(=500サイクル目容量/1サイクル目容量×100%)として算出した。
【0126】
<過充電試験>
作製したリチウムイオン二次電池について、1C(1200mA)で3.0Vまで電池を放電させた後、25℃の環境下で、上限電圧を15Vとして0.5C(600mA)の充電を行い、そのときの各電池の表面温度を測定し、その最高温度を求めた。
【0127】
<落下試験>
実施例および比較例の電池は、角形電池、すなわち、外装缶と蓋体とで構成される外装体が6面体である。落下試験では、下に向ける電池の面を順次変更しつつ2.0mの高さから電池を落下させる操作を行い、電池の全ての外面(6面)についての落下操作を1サイクルとして、これらを繰り返し実施した。そして、下記基準に従って、落下に対する電池の信頼性を評価した。
◎ : 落下試験を16サイクル繰り返しても電池電圧の低下が認められない。
○ : 落下試験10〜15サイクルの間に電池電圧の低下が認められる。
× : 落下試験9サイクル以下で電池電圧の低下が認められる。
【0128】
【表1】
【0129】
サイクル特性は、全体的に高い特性を示しているが、特にフィラー層(II)および樹脂層(III)を設けた実施例の電池はいずれも良好で、中でもフィラー層(II)を正極側に対面させた電池(実施例1〜5)は特に良好であった。これは、充放電サイクルを繰り返すことで、電解液中のシクロヘキシルベンゼンが重合し、特に比較例1および2の電池おいては、セパレータの目詰まりをおこして容量劣化につながったと考えられる。