(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756211
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】帯状体の総張力測定装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/10 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
G01L5/10 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-109955(P2014-109955)
(22)【出願日】2014年5月28日
(62)【分割の表示】特願2011-147286(P2011-147286)の分割
【原出願日】2011年7月1日
(65)【公開番号】特開2014-178330(P2014-178330A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】在原 広敏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
【審査官】
三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−91370(JP,A)
【文献】
特開昭63−191036(JP,A)
【文献】
特開昭61−212737(JP,A)
【文献】
特開平8−327725(JP,A)
【文献】
杉本理恵、他5名,「圧縮性流体への音響放射による付加質量および付加減衰に関する研究」,21世紀のダンピング技術シンポジウム講演論文集,日本機械学会,1997年,p.89-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/04− 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行方向に張力を付与された帯状体の総張力を、走行方向の2箇所の部位で支持された支持部位間で測定する帯状体の総張力測定装置において、前記2箇所の支持部位間で前記帯状体の振動変位を非接触で計測する手段を設け、この計測された振動変位から求められる前記帯状体の固有振動数と、前記支持部位間での帯状体の質量と、前記支持部位間で帯状体に接する流体の付加質量とから、前記帯状体の総張力を演算して測定するとともに、
前記支持部位間の前記帯状体の表面を微小面積の複数の要素に区分し、前記振動変位によって前記各要素に作用する音圧から前記各要素における前記流体の付加質量を計算し、
前記各要素における前記流体の付加質量を全ての要素について積分することで、前記流体の付加質量を、前記支持部位間の帯状体に1箇所で集中して作用する集中質量として求めるようにしたことを特徴とする帯状体の総張力測定装置。
【請求項2】
前記帯状体の振動変位を計測する手段を、前記2箇所の支持部位間の中間位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載の帯状体の総張力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状体の総張力を測定する総張力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板、樹脂板、紙等の帯状体を通板して、圧延、熱処理、表面処理、印刷等の各種処理を連続的に行うラインでは、走行する帯状体の蛇行を防止するためや、各種処理を良好に行うために、帯状体の走行方向に張力を付与することが多い。この帯状体に付与される張力は、高すぎると帯状体が破断する恐れがあり、低すぎると、蛇行が生じたり、適正な処理ができなかったりするので、帯状体の強度や断面寸法に応じて、総張力が所定の値に設定される。
【0003】
従来、このように帯状体に付与される総張力を制御や監視等のために測定する際には、走行する帯状体をロール等によって走行方向の2箇所の部位で支持し、この2箇所の支持部位間で張力検出ロールを転接させる接触式の総張力測定装置が多く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1に記載されたものでは、帯状体に押し当てられる張力検出ロールの押圧反力をロードセルで検出して、総張力を測定している。特許文献2に記載されたものでは、回動されるルーパの張力検出ロールを帯状体に押し当て、ルーパを回動する電動機のトルクを検出して、総張力を測定している。また、張力検出ロールを一定の力で帯状体に押し当て、そのときの帯状体の変位を検出して、総張力を測定するようにしたものもある。
【0004】
上述した接触式の総張力測定装置は、走行する帯状体に押し当てられる張力検出ロールによって、帯状体の表面に疵が付く恐れがある。このような接触式の総張力測定装置の難点を解消するために、走行方向の2箇所の部位で支持された帯状体の固有振動数を非接触で計測することにより、総張力を測定する非接触式の総張力測定装置が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された非接触式の総張力測定装置は、2箇所の支持部位間を走行する帯状体には自然に振動が生じるので、特段の振動負荷手段を必要とせず、装置の機器構成をシンプルなものとすることができる利点もある。
【0005】
なお、前記2箇所の支持部位間で振動する帯状体の総張力Tは、帯状体の密度をρ、帯状体の断面積をA、支持部位間のスパンをL、帯状体の一次の固有振動数をf
1とすると、次式で算出される。
T=4ρAL
2f
12 (1)
ここに、ρALは支持部位間での帯状体の質量であり、所定のスパンLを設定すると、総張力Tは帯状体の質量ρALと固有振動数f
1とから算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−128164号公報
【特許文献2】特開平7−265930号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】上田宏樹、坂谷亨、原田宗和、宇津野秀夫著、「振動法による非接触板張力計測技術」、R&D 神戸製鋼技報、Vol.56、No.1(2006年4月)、p.59〜63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載された非接触式の総張力測定装置は、帯状体に疵を付けることなく、シンプルな構成で帯状体の総張力を測定することができるが、密度の低いアルミニウム等の金属板、樹脂板、紙等の帯状体や、密度が高くても板厚の薄い帯状体の総張力を測定する場合に、振動する帯状体が、これと接する空気等の流体の影響を受けやすくなり、総張力を求める前記(1)式では流体の付加質量を考慮していないことから、総張力を精度よく測定できない問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、密度の低い帯状体や板厚の薄い帯状体であっても、シンプルな構成で総張力を精度よく測定できる非接触式の総張力測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、走行方向に張力を付与された帯状体の総張力を、走行方向の2箇所の部位で支持された支持部位間で測定する帯状体の総張力測定装置において、前記2箇所の支持部位間で前記帯状体の振動変位を非接触で計測する手段を設け、この計測された振動変位から求められる前記帯状体の固有振動数と、前記支持部位間での帯状体の質量と、前記支持部位間で帯状体に接する流体の付加質量とから、前記帯状体の総張力を演算して測定するとともに、前記支持部位間の前記帯状体の表面を微小面積の複数の要素に区分し、前記振動変位によって前記各要素に作用する音圧から
前記各要素における前記流体の付加質量を計算
し、前記各要素における前記流体の付加質量を全ての要素について積分することで、前記流体の付加質量を、前記支持部位間の帯状体に1箇所で集中して作用する集中質量として求める構成を採用した。
【0011】
すなわち、2箇所の支持部位間で帯状体の振動変位を非接触で計測する手段を設け、計測された振動変位から求められる帯状体の固有振動数と、支持部位間での帯状体の質量と、支持部位間で帯状体に接する流体の付加質量とから、帯状体の総張力を演算して測定することにより、密度の低い帯状体や板厚の薄い帯状体であっても、その振動に影響する周りの流体の付加質量を考慮に入れて、総張力を精度よく測定できるようにした。また、この帯状体の総張力測定装置は、固有振動数の計測手段を帯状体のラインに配設するのみでシンプルな構成で設置でき、既設ラインに設置された従来の総張力測定装置の精度検証等にも好適に用いることができる。
【0012】
前記流体の付加質量を、前記支持部位間の帯状体に1箇所で集中して作用する集中質量として、前記帯状体の総張力を演算することにより、帯状体の総張力の演算を簡略化することができる。
【0013】
前記帯状体の振動変位を計測する手段を、前記2箇所の支持部位間の中間位置に設けることにより、支持部位間の中間位置で振幅が最大となる帯状体の振動変位を、より精度よく計測することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る帯状体の総張力測定装置は、2箇所の支持部位間で帯状体の振動変位を計測する手段を設け、この計測された振動変位から求められる帯状体の固有振動数と、支持部位間での帯状体の質量と、支持部位間で帯状体に接する流体の付加質量とから、帯状体の総張力を演算して測定するようにしたので、密度の低い帯状体や板厚の薄い帯状体であっても、その振動に影響する周りの流体の付加質量を考慮に入れて、総張力を精度よく測定することができる。また、この帯状体の総張力測定装置は、固有振動数の計測手段を帯状体のラインに配設するのみでシンプルな構成で設置でき、既設ラインに設置された従来の総張力測定装置の精度検証等にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】帯状体の総張力測定装置の実施形態を示す構成図
【
図2】
図1の総張力測定装置で総張力を測定する手順を示すフローチャート
【
図3】参考例で用いた簡易計算式による付加質量の計算モデルの概念図
【
図4A】参考例での総張力測定結果をFEM解析結果と対比して示すグラフ
【
図4B】参考例での総張力測定結果を実験結果と対比して示すグラフ
【
図5】実施例で用いた距離・流体力曲線法による付加質量の計算モデルの概念図
【
図6】
図5の計算モデルで付加質量を計算する方法を説明する説明図
【
図7】
図5の計算モデルを用いた付加質量分布の計算例
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この帯状体の総張力測定装置は、
図1に示すように、走行方向に張力を付与された帯状体1の総張力を、走行方向の2箇所の部位で支持ロール2a、2bによって支持された支持部位間で測定するものであり、支持部位間の中間位置で帯状体1の振動変位を非接触で計測する変位計3と、変位計3の出力に基づいて、帯状体1の総張力Tを演算する演算装置4とからなる。
【0017】
変位計3は、光反射式のレーザ変位計とされているが、非接触式のものであればよい。帯状体1が導電性を有するものである場合は、帯状体1に生じさせた渦電流の大きさを検出する渦電流式変位計や、帯状体1とセンサヘッド間の静電容量を検出する静電容量式変位計等とすることもできる。
【0018】
前記演算装置4は、支持部位間で帯状体1に接する流体としての空気の付加質量M
addをモデル化する付加質量モデル化部4aと、モデル化された付加質量M
addを算出する付加質量算出部4bと、変位計3の出力から帯状体1の一次の固有振動数をf
1を算出する振動特性算出部4cと、算出された固有振動数をf
1および付加質量M
addと、予め設定された支持部位間のスパンL、およびスパンLによって決まる支持部位間での帯状体の質量Mとから、次式で総張力Tを算出する張力算出部4dとで構成されている。
T=4L(M+M
add)f
12 (2)
(2)式は、空気の付加質量M
addを、支持部位間の帯状体に1箇所で集中して作用する集中質量としたときの総張力Tと固有振動数f
1との関係を表す式である。質量Mは、帯状体の密度をρ、断面積をAとすると、次式で表される。
M=ρAL (3)
なお、付加質量モデル化部4aと付加質量算出部4bの詳細については、後述する。
【0019】
図2は、上述した総張力測定装置を用いて総張力Tを測定する手順を示す。まず、付加質量モデル化部4aで空気の付加質量M
addをモデル化して(ステップ1)、モデル化した付加質量M
addを付加質量算出部4bで算出する(ステップ2)。こののち、帯状体1の走行に伴って、変位計3によって帯状体1の振動変位を計測し(ステップ3)、計測された振動変位から、振動特性算出部4cで帯状体1の固有振動数f
1を算出し(ステップ4)、さらに張力算出部4dで、(2)式を用いて総張力Tを算出して(ステップ5)、1回の張力測定を行う。こののち、必要に応じて、ステップ3からステップ5までの手順を繰り返して複数回の張力測定を連続して行い、所望回数の張力測定を行ったのち、測定を終了する。
【0020】
上述した実施形態では、帯状体1の走行に伴って自然に発生する自由振動の振動変位を変位計3で計測するようにしたが、帯状体1を強制振動させる振動付与手段を設けて、強制振動の振動変位を計測するようにしてもよい。この場合は、帯状体1の走行を停止した状態でも振動変位を計測することができる。
【0021】
参考例では、前記付加質量モデル化部4aに、簡易計算式による付加質量の計算モデルを用いて、帯状体1の総張力Tを測定した。
図3は、簡易計算式による付加質量の計算モデルを示す。この計算モデルは、支持部位間で帯状体1に接する空気の付加質量M
addを、直径が帯状体1の板幅Wと等しく、長さが支持部位間のスパンLと等しい円柱部5の質量とするものであり、付加質量算出部4bで算出される付加質量M
addは、次式で表される。
M
add=ρ
airL(W/2)
2π (4)
ここに、ρ
airは空気の密度であり、空気の温度T
air(℃)を用いて次式で表される。
ρ
air=1.293×273.2/(273.2+T
air) (5)
空気の温度T
airがあまり変化せず、例えば、0℃に近い場合は、ρ
air=1.293としてもよい。
【0022】
図4A、
図4Bのグラフは、上述した簡易計算式による付加質量の計算モデルを用いて総張力Tを測定した実施例の測定結果を、それぞれ空気の付加質量を考慮したFEM解析で総張力Tを求めた解析結果、および帯状体1にひずみゲージを添付して総張力Tを測定した実験結果と対比して示す。各グラフには、空気の付加質量M
addを考慮しない(1)式を用いて総張力Tを測定した比較例の測定結果も併せて示す。
【0023】
解析条件および実験条件は、いずれも帯状体1を板幅Wが1m、板厚が0.5mm(断面積A=5×10
-4m
2)のアルミニウム板(ρ=2699kg/m
3)とし、支持部位間のスパンLを2m、空気の温度T
airを20℃(ρ
air=1.205)とした。参考例および比較例のいずれについても、
図4Aに示した解析結果との対比の場合は、固有値解析によって得られた固有振動数を入力し、
図4Bに示した実験結果との対比の場合は、実際に変位計3で計測された固有振動数を入力した。
【0024】
これらの解析結果および実験結果との対比から分かるように、付加質量M
addを考慮しない比較例の測定結果が、解析結果および実験結果とかなりずれているのに対して、参考例の測定結果は、実験結果との対比では実験のばらつき等によって若干のずれが認められるものの、解析結果および実験結果とよく一致している。これらの測定結果より、アルミニウム板のように密度の低い帯状体の総張力測定では、本願発明のように、空気の付加質量M
addを考慮することにより、測定精度を大幅に向上できることが確認された。
【実施例】
【0025】
実施例では、前記付加質量モデル化部4aに、距離・流体力曲線法による付加質量の計算モデルを用いて総張力Tを測定した。
図5は、距離・流体力曲線法による付加質量の計算モデルを示す。この計算モデルは、支持部位間の帯状体1の表面を微小面積の要素6に区分し、以下に説明するように、振動変位によって各要素6に作用する音圧から空気の付加質量M
addを計算するものである。なお、要素6の区分は、帯状体1の表面積に比較して各要素6の面積が十分に小さければよく、例えば、縦横10×10程度の区分でよい。
【0026】
図6に示すように、半無限大平面を想定して、振動する要素をs、音圧が作用する要素をi、要素sと要素i間の距離をr
isとし、各要素i、sの面積をA
i、A
s、要素sの速度をv
s、加速度をα
s、要素iに作用する音圧をp
iとすると、帯状体1の振動による音響放射で要素iに作用する音圧による力P
iは次式で表される。
i≠sの場合は、
【数6】
i=sの場合は、
【数7】
ここに、ρ
airは空気の密度、ωは振動の角周波数、cは空気中の音速、kは波長常数(=ω/c)であり、ρ
airは、実施例1と同様に、(5)式から算出するか、または定数とすることができる。
【0027】
一方、要素sの振動に伴う音圧の発生で要素iに作用する力P
iは複素数のベクトルとなり、実部を振動速度v
sの係数c
airで、虚部を振動速度と90°位相がずれた加速度α
sの係数m
airで、次式のように表すことができる。
P
i=c
airv
s+m
airα
s (8)
ここに、実部は付加減衰項、虚部は付加質量項となり、虚部の係数m
airを空気の付加質量とみなすことができる。したがって、(6)、(7)式と(8)式から求められるm
airを、要素数nの全ての要素sの振動に対して積算し、帯状体1の表裏両面分として2倍することにより、要素iの付加質量m
addを、次式で計算することができる。
【数9】
図7は、(9)式で計算した付加質量m
addの分布の計算例を示す。
【0028】
(9)式で計算した各要素iの空気の付加質量m
addを全ての要素について積分することにより、集中質量としての付加質量M
addを次式で求めることができる。
【数10】
したがって、(10)式で求めた付加質量M
addを(2)式に代入することにより、帯状体1の総張力Tを測定することができる。図示は省略するが、実施例で測定した総張力Tの測定結果も、
図4A、
図4Bに示した参考例のものと同様に、解析結果および実験結果とよく一致することが確認された。
【0029】
上述した参考例および実施例では、付加質量の計算モデルに簡易計算式と距離・流体力曲線法を採用したが、これらの替りに境界要素法を採用することもできる。
【0030】
また、上述した参考例および実施例では、測定対象の帯状体をアルミニウム板としたが、本発明に係る帯状体の総張力測定装置は、他の密度の低い金属板、樹脂板、紙等の帯状体や、板厚の非常に薄い金属箔、樹脂フィルム等の帯状体の総張力測定にも好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 帯状体
2a、2b 支持ロール
3 変位計
4 演算装置
4a 付加質量モデル化部
4b 付加質量算出部
4c 振動特性算出部
4d 張力算出部
5 円柱部
6 要素