(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756261
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】受動アクチュエータ制御システム
(51)【国際特許分類】
G05G 5/03 20080401AFI20150709BHJP
F16D 55/36 20060101ALI20150709BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
G05G5/03 A
F16D55/36 A
F16D63/00 P
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-24017(P2010-24017)
(22)【出願日】2010年2月5日
(65)【公開番号】特開2011-164741(P2011-164741A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2013年1月24日
【審判番号】不服2014-11377(P2014-11377/J1)
【審判請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100097777
【弁理士】
【氏名又は名称】韮澤 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(74)【代理人】
【識別番号】100092495
【弁理士】
【氏名又は名称】蛭川 昌信
(74)【代理人】
【識別番号】100095120
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 亘彦
(74)【代理人】
【識別番号】100094787
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 康弘
(72)【発明者】
【氏名】桂 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 英孝
(72)【発明者】
【氏名】青山 藤詞郎
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
小柳 健悟
【審判官】
森川 元嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−285306(JP,A)
【文献】
実開平2−14109(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 5/03
F16D 55/36
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部、前記操作部の作動状態を検出する検出部、及び電場や磁場により材料の粘弾性特性を変化させ前記操作部の操作感覚を変化させる機能性材料部、を有する受動アクチュエータと、
前記受動アクチュエータに印加する印加信号、及び、前記検出部が検出した前記操作部の作動状態から取得した前記操作部の操作速度、により、前記受動アクチュエータに影響する外乱を推定した補償信号、を出力する外乱オブザーバと、
前記受動アクチュエータに印加する前記印加信号、及び、前記操作部の前記操作速度、により、前記受動アクチュエータに入力された操作入力値を推定した推定操作入力信号、を出力する操作入力推定オブザーバと、
前記操作速度に応じた指令信号と、前記操作入力推定オブザーバからの推定操作入力信号と、から求めた仮入力信号を出力するコントローラーと、
を備え、
前記コントローラーが出力する前記仮入力信号に前記外乱オブザーバからの前記補償信号を加算した前記印加信号を、前記受動アクチュエータにフィードバックし、前記機能性材料部の粘弾性特性を制御する
ことを特徴とする受動アクチュエータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料を用いた受動的なアクチュエータの特性を制御する受動アクチュエータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ER流体、ERゲル及びMR流体等の電場や磁場で粘弾性を変化させることが可能な機能性材料を用いたデバイスが開発され、力センサや位置センサ等の複数のセンサを用いて装置の特性を制御する研究が行われている(非特許文献1〜非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Speed Control of DC Motor using Electrorheological Brake System" , Choi S B et al, J Intelligent Mater Syst Struct, vol.18, no.12, 2007, pp1191-1196.
【非特許文献2】"Design, Control and Human Testing of an Active Knee Rehabilitation Orthotic Device", Weinberg B et al, Proc IEEE Int Conf Rob Autom,Vol.2007,vol.9,2007,pp4126-4133.
【非特許文献3】"Viscous control of Homogeneous ER Fluid Using a Variable Structure Control", Nakamura T et al, IEEE/ASME Trans Mechatron,vol.10,no.2,2005,pp154-160.
【非特許文献4】「電気粘性クラッチと力覚提示への応用」柿沼康弘,渡邊拡昭,青山藤詞郎,安齊秀伸,日本機械学会論文集C編,Vol.75,No755,(2009),188-194.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外的な力を受けることで機能を発揮する受動的な機能性材料を用いた各種デバイスの特性を制御するためには、力センサや位置センサ等の複数のセンサが必要であった。センサを多用することは、高コスト化を招くと共に、故障率が高くなりデバイスの信頼性の低下を招いてしまう。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのものであって、機能性流体や機能性材料を用いた受動的なアクチュエータに対して、最小限のセンサ数に低減可能とすることで、低コストで信頼性の高い制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明の受動アクチュエータ制御システムは、
操作部、前記操作部の作動状態を検出する検出部、及び電場や磁場により材料の粘弾性特性を変化させ前記操作部の操作感覚を変化させる機能性材料部、を有する受動アクチュエータと、
前記受動アクチュエータに印加する
印加信号、及び
、前記検出部が検出した前記操作部の作動状態から取得した前記操作部の操作速度
、により、前記受動アクチュエータに影響する外乱を推定した
補償信号、を出力する外乱オブザーバと、
前記受動アクチュエータに印加する
前記印加信号、及び
、前記操作部の
前記操作速度、
により、前記受動アクチュエータに入力された操作入力値を
推定した推定操作入力信号、を出力する操作入力推定オブザーバと、
前記操作速度に応じた指令信号と、前記操作入力推定オブザーバからの推定操作入力信号と
、から求めた仮入力信号を出力するコントローラーと、
を備え
、
前記コントローラーが出力する前記仮入力信号に前記外乱オブザーバからの前記補償信号を加算した前記印加信号を、前記受動アクチュエータにフィードバックし、前記機能性材料部の粘弾性特性を制御する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の受動アクチュエータ制御システムにより、力センサやトルクセンサ等を用いることなくセンサ数を最小限に低減することが可能となり、低コストで信頼性の高いシステムを実現することができる。また、簡単な構造で粘性係数を変化させることができるので、ハンドルの操作感覚を自由に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】受動アクチュエータ制御システムを示す図である。
【
図2】ERG多板ディスクブレーキの斜視図である。
【
図3】ERG多板ディスクブレーキの構造を示す図である。
【
図4】ERG多板ディスクブレーキを備えた受動アクチュエータ制御システムを示す図である。
【
図5】受動アクチュエータ制御システムのハンドルの操作角、角速度及び操作トルクの関係を示すグラフである。
【
図6】受動アクチュエータ制御システムのハンドルの角速度、操作トルク及び印加電圧の関係を示すグラフである。
【
図7】受動アクチュエータ制御システムの粘性係数を変化させた場合の操作トルクを示すグラフである。
【
図8】受動アクチュエータ制御システムに与えた各粘性係数に対する、角速度と操作トルクの関係を示すグラフである
【
図9】受動アクチュエータ制御システムの粘性係数を時間経過と共に変化させた場合を示すグラフである。
【
図10】受動アクチュエータ制御システムにトルクセンサを取り付け、制御系で推定された操作トルク量と測定されたトルクの実測値を比較したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
まず、受動アクチュエータ制御システムの実施形態について説明する。
図1は受動アクチュエータ制御システムを示す図である。
【0011】
受動アクチュエータ制御システム1は、操作部21、操作部21の作動状態を検出する検出部23及び操作部21の操作感覚を変化させる機能性材料部29を有する受動アクチュエータ2と、受動アクチュエータ2に影響する外乱を推定し受動アクチュエータ2への印加信号にフィードバックすることで外乱を補償する外乱オブザーバ3と、受動アクチュエータ2に入力された操作入力値を推定する操作入力推定オブザーバ4と、検出部23が検出した操作部21の作動状態に応じて受動アクチュエータ2の機能性材料部29の粘弾性特性を制御する指令信号と、操作入力推定オブザーバ4からの推定操作入力信号とを差分して印加信号を出力するコントローラー5と、を備える。
【0012】
受動アクチュエータ2は、電場や磁場等により粘弾性特性が変化する粘性流体等の機能性材料を用いたブレーキ、クラッチ又はダンパ等の力又はトルク変換素子からなり、操作者が受動アクチュエータ2の操作部21を操作する状況に応じて機能性材料部29の粘弾性特性が制御され操作者の操作感覚が変化するものである。
【0013】
外乱オブザーバ3は、受動アクチュエータ2に入力される振動要素や不安定要素等を推定しフィードバックすることで外乱を補償するものである。また、操作入力推定オブザーバ4は、操作者が受動アクチュエータ2の操作部21を操作する力又はトルク等の操作入力値を推定するものである。
【0014】
コントローラー5は、操作入力推定オブザーバ4により推定された推定操作入力信号と受動アクチュエータ2の操作部21の操作状況に応じた粘弾性特性により求めた指令信号とから仮入力信号を求めるものである。仮入力信号は、外乱オブザーバ3により推定された外乱値で補償された後、印加信号として受動アクチュエータ2に入力される。
【0015】
次に、受動アクチュエータ制御システム1の実施形態について説明する。本実施形態の受動アクチュエータ制御システム1は、受動アクチュエータ2として電気的に粘着力が変化する電気粘性ゲル(ERG)を組み込んだERG多板ディスクブレーキ装置2を用いる。
【0016】
図2はERG多板ディスクブレーキ装置の斜視図、
図3はERG多板ディスクブレーキの構造を示す図である。
【0017】
ERG多板ディスクブレーキ装置2は、操作部としてのハンドル21と、ハンドル21に連結され陰極に接続されたシャフト22と、ハンドル21及びシャフト22の回転した回転角を計測する検出部としてのエンコーダ23と、シャフト22の外周に離間した状態で配置され陽極に接続されたケース24と、シャフト22を支持する1組のベアリング25と、ベアリング25をケース24に対して絶縁する絶縁部材26と、ケース24に当接した少なくとも1枚の固定ディスク27と、固定ディスク27とは離間しシャフト22に固定された少なくとも1枚の回転ディスク28と、固定ディスク27と回転ディスク28にそれぞれ当接した機能性材料部としてのERG層29と、を有する。
【0018】
本実施形態では、
図3に示すように、固定ディスク27上にERG層29を載置し、さらにERG層29の上に回転ディスク28を載置する構造を1組として3組の多板ディスク構造とした。なお、各組間の固定ディスク27と回転ディスク28は絶縁されている。
【0019】
したがって、シャフト22とケース24間に電場を印加すると、ERG層29に電圧が印加されることになり、電気粘性ゲルの粘着力が印加電圧に応じて変化する。
【0020】
次に、受動アクチュエータ制御システム1の制御について説明する。
図4は、受動アクチュエータ制御システム1のブロック図である。
【0021】
受動アクチュエータ制御システム1は、ハンドル21の操作を入力として、ERG層29に印加される電圧を調整し、発生する粘着力を制御し、ハンドル21の操作感覚を変化させるものである。
【0022】
まず、ERG多板ディスクブレーキ装置2のハンドル21を操作トルクThumで操作すると、エンコーダ23によりハンドル21の回転角度θが求められる。この角度θをコントローラー5で微分し仮想的に与えた粘性係数Cを乗算することで指令トルクTcとなる。ここで、仮想粘性係数Cを変化させることにより、ハンドル21の操作感覚を変化させることが可能となる。
【0023】
また、コントローラー5には、操作入力推定オブザーバ4によって推定された推定操作トルクTehumも入力される。そして、コントローラー5で指令トルクTcと推定操作トルクTehumの差より、指令電圧Vcmdを出力する。指令電圧Vcmdは、外乱オブザーバ3からの補償電圧Vcmpを加算され、印加電圧VとなってERG多板ディスクブレーキ装置2に印加される。
【0024】
なお、
図4におけるT
fは初期摩擦トルク、T
fハットは摩擦トルクの推定値、K
tは比例定数、Jは慣性モーメント、LPFはローパスフィルタ、C
Eは機能性流体や機能性材料の基底粘性係数、K
pは比例ゲイン、を示し、nはノミナル値を表す。
【0025】
図5は受動アクチュエータ制御システム1のハンドル21の操作角θ、角速度θ’及び操作トルクThumの関係を示すグラフである。
図5に示すように、受動アクチュエータ制御システム1は、ハンドル21の操作角θに応じた角速度θ’を求めることが可能であり、求めた角速度θ’に応じて制御された操作トルクThumが発生することがわかる。
【0026】
図6は受動アクチュエータ制御システム1のハンドル21の角速度θ’、操作トルクThum及び印加電圧Vの関係を示すグラフである。
図6に示すように、受動アクチュエータ制御システム1は、ハンドル21の角速度θ’に応じた印加電圧Vを出力し、角速度θ’が増加すると操作トルクThumが増加することがわかる。つまり、ハンドル21を速く動かすと感じるトルクが大きくなる。
【0027】
図7は、受動アクチュエータ制御システム1の仮想粘性係数Cを変化させた場合の角速度θ’と操作トルクの関係を示すグラフで、時間軸は同一である。
図7(a)に示した通り、仮想粘性係数Cを変更しても、操作する角速度の最大値は一定として実験を行っている。
図7(b)は受動アクチュエータ制御システム1の粘性係数を変化させた場合の操作トルクThumを示すグラフである。
【0028】
図7に示すように、受動アクチュエータ制御システム1は、仮想粘性係数Cを調整することで感じるトルクも変化する。すなわち、異なる仮想
粘性係数Cを制御系内で設定することで、受動アクチュエータ制御システム1においては、ハンドル21を同一の角速度θ’で操作した場合でも人が感じる操作トルクThumが変化する。例えば、粘性係数C=1よりも大きい仮想粘性係数C=2を設定した場合の方が、操作トルクThumは大きくなり感じるトルクも大きくなる。また、粘性係数C=2よりも大きい粘性係数C=3を設定した場合の方が、操作トルクThumはさらに大きくなり感じるトルクもさらに大きくなる。したがって、粘性係数C=1,C=2,C=3の順に感じるトルクは大きくなる。
【0029】
図8は仮想粘性係数Cに対する角速度θ’と操作トルクThumの関係を示すグラフである。
図8に示すように、角速度θ’と操作トルクThumは比例する関係で制御できる。ただし、仮想粘性定数Cの値によりグラフの傾きは異なる。したがって、仮想粘性係数Cの値のみを制御系で調整することで様々な粘性の感覚を操作者に提示することができる。
【0030】
図9は受動アクチュエータ制御システム1の仮想粘性係数を時間経過と共に変化させた場合を示すグラフである。
図9に示すように、受動アクチュエータ制御システム1は、仮想粘性係数Cを時間経過と共に変化することも可能である。例えば、仮想粘性係数Cを時間経過と共に大きくした場合、操作トルクThumも時間経過と共に大きくなり、感じるトルクも時間経過と共に大きくなる。
【0031】
図10は、推定操作トルクTehumと実際の操作トルクThumの追従関係を示すものである。追従関係を得るために、
図2に示したシャフト22に一時的にトルクセンサーを取り付け、シャフト22で発生している操作トルクThumと推定操作トルクTehumを比較した。その結果、推定操作トルクTehumと実際の操作トルクThumはほぼ一致し、良好な追従関係を有することがわかる。
【0032】
このように、本実施形態の受動アクチュエータ制御システム1により、力センサやトルクセンサ等を用いることなくセンサ数を最小限に低減することが可能となり、低コストで信頼性の高いシステムを実現することができる。また、簡単な構造で粘性係数Cを変化させることができるので、ハンドル21の操作感覚を自由に設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…受動アクチュエータ制御システム、2…受動アクチュエータ、3…外乱オブザーバ、4…操作入力推定オブザーバ、5…コントローラー、21…ハンドル(操作部)、22…シャフト、23…エンコーダ(検出部)、24…ケース、25…ベアリング、26…絶縁部材、27…固定ディスク、28…回転ディスク、29…ERG層(機能性材料部)