特許第5756291号(P5756291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756291
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】その使用としてのGDF8に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150709BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20150709BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20150709BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150709BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150709BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20150709BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20150709BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20150709BHJP
   A61P 21/00 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 19/00 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 21/02 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 5/18 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 19/10 20060101ALN20150709BHJP
   A61P 15/00 20060101ALN20150709BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/22
   C07K16/46
   C12P21/08
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/00 101
   A61K39/395 N
   G01N33/53 P
   G01N33/543 501M
   G01N33/543 501D
   G01N33/577 B
   !A61P21/00
   !A61P19/00
   !A61P3/06
   !A61P3/10
   !A61P21/02
   !A61P11/00
   !A61P3/04
   !A61P3/00
   !A61P5/18
   !A61P19/10
   !A61P15/00
【請求項の数】31
【全頁数】100
(21)【出願番号】特願2010-532058(P2010-532058)
(86)(22)【出願日】2008年10月31日
(65)【公表番号】特表2011-504096(P2011-504096A)
(43)【公表日】2011年2月3日
(86)【国際出願番号】US2008012338
(87)【国際公開番号】WO2009058346
(87)【国際公開日】20090507
【審査請求日】2011年10月24日
(31)【優先権主張番号】61/001,783
(32)【優先日】2007年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】309040701
【氏名又は名称】ワイス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100131934
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼橋 宏次
(74)【代理人】
【識別番号】100137040
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(72)【発明者】
【氏名】エドワード ローランド ラヴァリエ
(72)【発明者】
【氏名】リサ アン コリンズ−レイシー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジョン コーコラン
(72)【発明者】
【氏名】リオウドミラ ゲナデイエヴナ チスティアコウヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン アダム ノーワーク
(72)【発明者】
【氏名】リエズ カリム
(72)【発明者】
【氏名】シヤン−ヤン タン
(72)【発明者】
【氏名】キンバリー アン マーケット
(72)【発明者】
【氏名】ジアートルイダ マッチテルド ヴェルドマン
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/116269(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/047112(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/094446(WO,A1)
【文献】 特表2005−510212(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/044411(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/107611(WO,A2)
【文献】 国際公開第2006/102574(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00−16/46
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長および分化因子8(GDF8)に特異的な拮抗剤であって、拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質であり、該抗体または抗原結合タンパク質が重鎖を含み、重鎖が第1、第2、および第3の相補性決定領域(CDR)を含み、
第1の相補性決定領域が、配列番号19のアミノ酸配列、および配列番号25のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第2の相補性決定領域が、配列番号20のアミノ酸配列、配列番号26のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第3の相補性決定領域が、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ
該抗体または抗原結合タンパク質が軽鎖を含み、軽鎖が第1、第2、および第3の相補性決定領域を含み、
第1の相補性決定領域が、配列番号22のアミノ酸配列、および配列番号28のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第2の相補性決定領域が、配列番号23のアミノ酸配列、および配列番号29のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第3の相補性決定領域が、配列番号24のアミノ酸配列、および配列番号30のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
前記拮抗剤。
【請求項2】
抗体または抗原結合タンパク質が、配列番号14のアミノ酸配列および配列番号17のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖を含み、かつ、
配列番号16のアミノ酸配列および配列番号18のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、請求項1に記載の拮抗剤。
【請求項3】
抗体または抗原結合タンパク質が配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、請求項1に記載の拮抗剤。
【請求項4】
抗体または抗原結合タンパク質が配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、請求項1に記載の拮抗剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のGDF8拮抗剤をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
調節配列と作動可能に連結している請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを含む宿主細胞を培養することと、宿主細胞によって発現されたGDF8拮抗剤を単離することとを含む、GDF8拮抗剤を生成する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によって生成された、単離したGDF8拮抗剤。
【請求項11】
成長および分化因子8(GDF8)に特異的な抗体または抗原結合タンパク質であって、該抗体または抗原結合タンパク質が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない抗GDF8抗体であり、かつ該抗体または抗原結合タンパク質が重鎖を含み、重鎖が第1、第2、および第3の相補性決定領域(CDR)を含み、
第1の相補性決定領域が、配列番号19のアミノ酸配列、および配列番号25のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第2の相補性決定領域が、配列番号20のアミノ酸配列、配列番号26のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第3の相補性決定領域が、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ
該抗体または抗原結合タンパク質が軽鎖を含み、軽鎖が第1、第2、および第3の相補性決定領域を含み、
第1の相補性決定領域が、配列番号22のアミノ酸配列、および配列番号28のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第2の相補性決定領域が、配列番号23のアミノ酸配列、および配列番号29のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
第3の相補性決定領域が、配列番号24のアミノ酸配列、および配列番号30のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
抗体または抗原結合タンパク質。
【請求項12】
抗体または抗原結合タンパク質が、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質。
【請求項13】
抗体または抗原結合タンパク質が、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質。
【請求項14】
(a)
(i)試料、
(ii)GDF8と特異的に結合する捕捉試薬、
(iii)GDF8と特異的に結合する検出試薬
を合わせるステップと、
(b)特異的結合が捕捉試薬とGDF8との間に起こるかどうかを検出するステップと
を含み、特異的結合の検出が試料中のGDF8の存在を示す、対象からの試料中のGDF8の存在を検出するためのアッセイであって、
捕捉試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であって検出試薬がRK35であるアッセイか、捕捉試薬がRK35であって検出試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であるアッセイ。
【請求項15】
(a)の合わせるステップの前に試料を酸性緩衝液と合わせることをさらに含む、請求項14に記載のアッセイ。
【請求項16】
酸性緩衝液のpHがpH1.0〜pH6.0である、請求項15に記載のアッセイ。
【請求項17】
酸性緩衝液のpHがpH2.5である、請求項16に記載のアッセイ。
【請求項18】
捕捉試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であって検出試薬がRK35である請求項14から17に記載のアッセイであって、上記請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質がRK22である、アッセイ。
【請求項19】
捕捉試薬がRK35であって検出試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質である請求項14から17に記載のアッセイであって、上記請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質がRK22である、アッセイ。
【請求項20】
(a)
(i)試料、
(ii)GDF8と特異的に結合する捕捉試薬、
(iii)GDF8と特異的に結合する検出試薬
を合わせるステップと、
(b)特異的結合が捕捉試薬とGDF8との間に起こるかどうかを検出するステップと、
(c)GDF8のレベルを定量化するステップと
を含み、試料中のGDF8の存在を示す特異的結合の検出を定量化することができる、対象からの試料中のGDF8を定量化するためのアッセイであって、
捕捉試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であって検出試薬がRK35であるアッセイか、捕捉試薬がRK35であって検出試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であるアッセイ。
【請求項21】
(a)の合わせるステップの前に試料を酸性緩衝液と合わせることをさらに含む、請求項20に記載のアッセイ。
【請求項22】
酸性緩衝液のpHがpH1.0〜pH6.0である、請求項21に記載のアッセイ。
【請求項23】
酸性緩衝液のpHがpH2.5である、請求項22に記載のアッセイ。
【請求項24】
薬学的に許容できる担体とGDF8拮抗剤とを含む医薬組成物であって、拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない請求項11に記載の抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である医薬組成物。
【請求項25】
GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質が、請求項12に記載の抗体または抗原結合タンパク質である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質が、請求項13に記載の抗体または抗原結合タンパク質である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ほぼ無毒から無毒である、治療上有効な量の請求項24から26のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、哺乳動物患者におけるGDF8関連障害の治療薬。
【請求項28】
(a)対象から得た第1の試料を請求項1に記載の拮抗剤と合わせるステップと、

)第1の試料中のGDF8の存在を検出するステップと、
)第1の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、
GDF8関連障害に罹患していない対象から得た第2の試料を拮抗剤と合わせるステップと、
)第2の試料中のGDF8のレベルを検出するステップと、
)第2の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、
)第1および第2の試料中のGDF8のレベルを比較するステップと
を含み、第2の試料と比較した第1の試料中のGDF8のレベルの増加、減少、または類似性を測定する方法。
【請求項29】
哺乳動物患者においてGDF8関連障害を治療するための医薬品の調製における医薬組成物の使用であって、医薬組成物が、薬学的に許容できる担体とGDF8拮抗剤とを含み、GDF8拮抗剤が、請求項1に記載の拮抗剤である使用。
【請求項30】
対象からの試料中のGDF8の存在を検出する、またはそれを定量化するためのキットであって、GDF8と特異的に結合する捕捉試薬およびGDF8と特異的に結合する検出試薬を含み、該捕捉試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質であって該検出試薬がRK35であるか、該捕捉試薬がRK35であって該検出試薬が請求項11に記載の抗体または抗原結合タンパク質である、GDF8と捕捉および検出試薬との特異的結合の検出が試料中のGDF8の存在を示すキット。
【請求項31】
酸性緩衝液をさらに含む、請求項30に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、GDF8活性をin vitroおよび/またはin vivoで阻害するために使用し得る、成長および分化因子−8(GDF8)に特異的なエピトープならびにその拮抗剤(たとえば、ペプチド模倣体、抗GDF8抗体(たとえば、マウス、ヒトおよびヒト化抗体、その断片など)、組換えポリヌクレオチド、阻害性ポリヌクレオチド等)に関する。本分野は、特に妊娠する可能性がある女性において、生体試料中のGDF8を検出するための免疫アッセイ方法、ならびにGDF8関連障害(たとえば、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性もしくは誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害またはインスリン関連障害)を治療、寛解、予防、診断、予後診断、および/または監視する方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
ミオスタチンとしても知られる成長および分化因子−8(GDF8)は、分泌タンパク質かつ構造的に関連した成長因子のトランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーである。このスーパーファミリーのメンバーは、成長調節および形態形成の特性を保有する(Kingsleyら(1994)Genes Dev.、8:133〜46、Hoodlessら(1998)Curr.Topics Microbiol.Immunol.、228:235〜72)。ヒトGDF8は、ホモ二量体の複合体を形成する375個のアミノ酸の前駆体タンパク質として合成される。プロセッシング中、「潜在性関連ペプチド」(latency−associated peptide)(LAP)として知られるアミノ末端のプロペプチドが切断され、ホモ二量体と非共有結合したままで、「小潜在型複合体(small latent complex)」と呼ばれる不活性の複合体を形成し得る(Miyazonoら(1988)J.Biol.Chem.、263:6407〜15、Wakefieldら(1988)J.Biol.Chem.、263:7646〜54、Brownら(1999)Growth Factors、3:35〜43、Thiesら(2001)Growth Factors、18:251〜59、Gentryら(1990)Biochemistry、29:6851〜57、Derynckら(1995)Nature、316:701〜05、Massague(1990)Ann.Rev.Cell Biol.、12:597〜641)。GASP−1を含めたフォリスタチンおよびフォリスタチン関連タンパク質などのタンパク質(Gamerら(1999)Dev Biol.、208:222〜232、米国特許公開第2003−0180306−A1号、米国特許公開第2003−0162714−A1号)は、成熟GDF8ホモ二量体と結合し、GDF8の生物活性を阻害する。
【0003】
様々な種からの推定されたGDF8アミノ酸配列のアラインメントは、GDF8が高度に保存されていることを実証している(McPherronら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、94:12457〜61)。ヒト、マウス、ラット、ブタ、およびニワトリのGDF8の配列は、C末端領域が100%同一であり、一方で、ヒヒ、ウシ、およびヒツジのGDF8は、C末端がほんの3個のアミノ酸だけ異なる。種にわたる高い度合のGDF8保存は、GDF8が本質的な生理的機能を有することを示唆している。
【0004】
GDF8は、筋芽細胞および衛星細胞の増殖および分化をどちらも阻害することによって筋肉の発生および恒常性の調節に主要な役割を果たすことが示されている(LeeおよびMcPherron(1999)Curr.Opin.Genet.Dev.、9:604〜7、McCroskeryら(2003)J.Cell.Biol.、162:1135〜47)。これは、発生中の骨格筋で初期に発現され、成体の骨格筋、優先的には速収縮型中で発現され続ける。また、GDF8は、筋肉に特異的な酵素(たとえばクレアチンキナーゼ)の産生および筋芽細胞の増殖にも示唆されている(WO00/43781号)。
【0005】
成体マウスにおけるGDF8の過剰発現は顕著な筋肉損失をもたらす(Zimmersら(2002)Science、296:1486〜88)。同様に、様々な研究により、GDF8発現の増加がHIV誘導性筋消耗に関連していることが示されている(Gonzalez−Cadavidら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、95:14938〜43)。対照的に、GDF8ノックアウトトランスジェニックマウスは、骨格筋の顕著な肥厚および過形成ならびに変更された皮質骨構造によって特徴づけられている(McPherronら(1997)Nature、387:83〜90、Hamrickら(2000)Bone、27:343〜49)。また、GDF8遺伝子を不活性化させる天然の突然変異は、動物およびヒトの両方において肥厚および過形成をどちらももたらすことが示されている(LeeおよびMcPherron(1997)、上記)。たとえば、畜牛における天然のGDF8突然変異では、骨格筋量の増加が明らかである(Ashmoreら(1974)Growth、38:501〜07、Swatlandら(1994)J.Anim.Sci.、38:752〜57、McPherronら、上記、Kambadurら(1997)Genome Res.、7:910〜15)。
【0006】
いくつかのヒトおよび動物の筋肉および骨障害は筋組織の機能障害に関連しており、したがってGDF8とも関連している可能性がある。たとえば、GDF8は、筋萎縮性側索硬化症(「ALS」)、筋ジストロフィー(「MD」、デュシェーヌ型筋ジストロフィー、顔面肩甲骨筋型ジストロフィー、および顔面肩甲上腕筋型ジストロフィーが含まれる)、筋萎縮、手根管症候群、臓器萎縮、虚弱、うっ血性閉塞性肺疾患(COPD)、筋肉減少症、悪液質、ならびに他の疾患および状態によって引き起こされる筋消耗症候群の病因に関与している可能性がある。
【0007】
また、GDF8は、2型糖尿病発生中のグルコース恒常性、耐糖能異常、代謝症候群(すなわち、人を2型糖尿病および/または心疾患の高い危険性にする、一群の健康状態(インスリン抵抗性、腹部肥満、異常脂質血症、高血圧、慢性炎症、血栓形成促進状態などが含まれ得る)の同時発生に関与する症候群(たとえば症候群X))、インスリン抵抗性(たとえば、熱傷または窒素不均衡などの外傷によって誘導された耐性)、ならびに脂肪組織障害(たとえば、肥満症、異常脂質血症、非アルコール性脂肪肝疾患など)を含めた、数々の他の生理的プロセスおよび関連障害に関与しているとも考えられている(Kimら(2000)Biochem.Biophys.Res.Comm.、281:902〜06)。現在、これらの障害を治療するための信頼性のあるまたは有効な治療が殆ど存在しない。これらのプロセスの病理学は、GDF8を、これらの関連障害の治療における潜在的な標的として示している。
【0008】
ヒトにおける神経筋障害に加えて、主に高齢者および/または閉経後の女性に影響を与える、骨粗鬆症および骨関節炎などの骨の損失に関連する成長因子関連状態も存在する。そのような代謝性骨疾患および障害には、慢性糖質コルチコイド療法による低骨量、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次副甲状腺機能亢進、栄養障害、および神経性無食欲症が含まれる。これらの状態の現在の治療の多くは、骨吸収を阻害することによって機能するが、骨形成を促進する治療が有用な代替治療であろう。GDF8は骨発生および筋発生において役割を果たすため、GDF8は、骨変性疾患を治療するための優れた薬理学的標的でもある。
【0009】
トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)ファミリーの他のメンバーと同様に、GDF8は、シグナル配列、N末端プロペプチドドメイン、および活性分子であると考えられるC末端ドメインを含有する、376個のアミノ酸前駆体タンパク質として合成される。GDF8は、そのプロペプチド(潜在性関連ペプチド、LAP)と結合することによって潜在型で分泌され、プロペプチドドメインおよびC末端ドメインの間のタンパク質分解性のプロセッシングにより、N末端プロペプチドおよびGDF8の成熟型が産生される。未プロセッシングおよび成熟GDF8はどちらもジスルフィド結合の二量体を形成し、プロセッシングされたGDF8二量体がタンパク質の唯一の活性型を表す。血清中および骨格筋内では、GDF8は、その活性化、分泌または受容体結合を変調することができるいくつかのタンパク質と結合して見つけることができる。
【0010】
GDF8は、その活性化が受容体のリン酸転移を増強してセリン/スレオニンキナーゼ活性の刺激をもたらす、膜貫通セリン/スレオニンキナーゼヘテロ四量体受容体ファミリーを介してその効果を発揮する。GDF8経路は、高親和性受容体ActIIRBとの活性GDF8二量体結合を含み、その後、これは低親和性受容体ALK4/ALK5のリン酸転移を動員して活性化させることが示されている。また、タンパク質Smad2およびSmad3が続いて活性化されてSmad4と複合体を形成し、その後、核に転移され、これはその後、標的遺伝子の転写を活性化することも示されている。LeeおよびMcPherron(Proc Natl Acad Sci USA、2001、98:9306〜9311)は、ActRIIB受容体が、GDF8の影響をin vivoで、GDF8遺伝子ノックアウトを模倣するマウスにおけるActIIRBのドミナントネガティブ型の発現として媒介できることを実証している。
【0011】
GDF8の影響下で、C2C12筋芽細胞が細胞周期のG0/G1およびG2期に蓄積され、その結果、S期細胞の数が減少することが示されている。また、GDF8は、分化マーカーの発現の強力な減少に関連する、筋芽細胞分化の不全も誘導する。また、GDF8の発現は、増殖および分化条件のどちらの下でも細胞のアポトーシス率を減少させる(Thomasら、J.Biol Chem、2000、275:40235〜40243)。
【0012】
ミオスタチン(GDF8)の発現の阻害は、筋肉の肥厚および過形成をどちらももたらす(LeeおよびMcPherron、上記、McPherronら、上記)。ミオスタチンは、傷害後の筋肉再生に負の調節を行い、GDF8ヌルマウスにおけるミオスタチンの欠如は筋肉再生の加速をもたらす(McCroskeryら、(2005)J.Cell.Sci.、118:3531〜41)。ヒト抗GDF8抗体(米国公開出願第2004/0142382号)は、in vitroおよびin vivoで、GDF8と結合し、骨格筋量および骨密度の負の調節に関連するGDF8活性を含めたGDF8活性を阻害することが示されている。たとえば、ミオスタチン中和抗体は、野生型マウス(Whittemoreら(2003)Biochem.Biophys.Res.Commun.、300:965〜71)および筋ジストロフィーのモデルであるmdxマウス(Bogdanovichら(2002)Nature、420:418〜21、Wagnerら(2002)Ann.Neurol.、52:832〜36)の骨格筋において、体重、骨格筋量、ならびに筋肉の大きさおよび強度を増加させる。さらに、これらのマウス中のミオスタチン抗体は、やはりALSの病態中に標的とされる筋肉である横隔膜への損傷を減少させる。筋肉に対するHGFなどの成長因子の作用はミオスタチン発現の阻害が原因であり(McCroskeryら(2005)、上記)、したがって、再生および変性のバランスを正の方向にシフトすることを支援し得ると仮定されている。しかし、これらの従来技術の抗体はGDF8に特異的でなかった、すなわち、これらの抗体は、BMP11などのTGF−βスーパーファミリーの他のメンバーに対して高い親和性を有する。
【0013】
現在までに、GDF8活性のすべての知られている阻害剤(たとえば、プロペプチド、可溶性ActRIIB受容体、抗GDF8抗体など)は、重要な生物学的機能を有する他の因子(たとえば、BMP11、アクチビンなど)の生物活性も中和する。たとえば、アクチビンおよびBMP11は、胚形成中に重要な役割を果たす。アクチビンβAは重要な性腺成長因子として同定されており、BMP11は中軸骨格のホメオティック変換を担っている。ホモ接合性BMP11ノックアウトマウスは周産期致死であり、BMP11遺伝子の1つの野生型コピーを有するマウスは生存可能であるが骨格欠損を有する。アクチビンおよびBMP11は胚形成中に重要な役割を果たすため、GDF8および他の因子、たとえばBMP11を阻害する拮抗剤は、治療した患者における毒性として、またはたとえば妊娠する可能性がある女性における生殖毒性として提示される場合がある、理論上の安全性リスクをもたらす。したがって、特にヒトにおいて、筋肉量および/または強度および/または骨密度の全体的な増加に貢献するが、たとえばBMP11を妨げない、化合物および治療方法の必要性が存在する。言い換えれば、特に妊娠する可能性がある女性において、筋肉量、大きさ、強度などを増加することが望ましいGDF8関連障害の治療における、GDF8活性の特異的阻害の必要性が存在する。
【0014】
GDF−8変調剤を使用する方法が開発されるにつれて、そのような薬剤の個体への投与を監視および最適化する方法を開発する必要性が存在する。具体的には、生体液中のGDF−8タンパク質レベルを測定する能力が、進行中の臨床治験に重要な意味を持つ。たとえば、循環GDF−8レベルは、抗GDF−8治療から利点を受け得る病的状態を診断し得るか、または、どの個体が抗GDF−8治療に応答する可能性が高いかを予測し得る。さらに、抗GDF−8治療中の末梢血中のGDF−8レベルの変化は、筋肉量および/または機能の後に測定可能な応答の、初期の指標であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そのような最適化の目的を達成するために、血清および血漿などの生体液中のGDF−8タンパク質レベルを検出または監視する方法が必要である。たとえば、そのような治療に適した個体を同定するため、治療に対する応答を監視するため、および治療後の進行を追跡するために、GDF−8変調剤を用いた治療の前、その間、および治療後にGDF−8レベルを監視することが望ましい。具体的には、GDF−8阻害剤および抗GDF−8抗体を含めたGDF−8変調剤の投与に応答した、内在性GDF−8レベルの検出および/または定量化を可能にする方法が必要である。
【0016】
したがって、本発明の主な目的は、GDF8活性を特異的に阻害する化合物および方法、ならびに生体試料中、たとえば、血清および血漿中などのGDF−8レベルを検出および定量化するための免疫学的アッセイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、少なくとも1つのGDF8活性(たとえば、GDF8がその受容体に結合することまたは他のGDF8に媒介されるシグナル伝達事象)を特異的に拮抗する、成長および分化因子8(GDF8)と特異的に結合する抗体または抗原結合タンパク質の発見に基づいている。また、本発明の抗体はGDF8に特異的であり、たとえばBMP11とは特異的に結合しないため、本発明は、これらの特異的な抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質によって認識されるGDF8上のエピトープの同定にも基づいている。
【0018】
GDF8に特異的なエピトープを提供することに加えて、本発明は、GDF8に特異的な拮抗剤(本明細書中で「特異的GDF8拮抗剤」、「GDF8拮抗剤」などとも呼ぶ)、たとえば、少なくとも1つのGDF8活性(たとえばGDF8に媒介されるシグナル伝達事象(たとえばGDF8がその受容体(たとえばそのALK4/ALK5受容体)に結合すること)を特異的に拮抗(たとえば、阻害、低下、および/または中和)し、BMP11活性を顕著に拮抗しない拮抗剤も提供する。また、本発明は、生体試料中のGDF−8を検出および定量化する方法も提供する。特定の実施形態では、この方法は免疫アッセイを含み、試料は血清および/または血漿である。本発明は、本発明の方法で使用するためのキットをさらに提供する。また、本発明は、GDF8関連障害、たとえば、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性または誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害、インスリン関連障害などを治療(寛解、予防、診断、予後診断が含まれる)または監視する方法において、開示した特異的GDF8拮抗剤を使用する方法も提供する。
【0019】
したがって、一態様では、本発明は、GDF8の拮抗剤であって、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体のアミノ酸をコードしている単離核酸、GDF8に特異的な阻害性ポリヌクレオチド、および抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質のうちの少なくとも1つを含む拮抗剤を提供する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、本明細書中に記載の拮抗剤であって、拮抗剤が、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体であり、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号8のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、および配列番号12のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列から本質的になる群から選択される拮抗剤を提供する。一部の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載のペプチド模倣体であり、かつ環状化されている拮抗剤を提供する。一部の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載のペプチド模倣体であり、かつジスルフィド結合によって環状化されている拮抗剤を提供する。任意の1つまたは複数の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのD−アミノ酸を有する本明細書中に記載のペプチド模倣体である拮抗剤を提供する。一部の実施形態では、本発明は、免疫原として使用し得るペプチド模倣体である拮抗剤を提供する。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載の拮抗剤であって、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、抗体または抗原結合タンパク質が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性(polyspecific)抗体、ヒト化抗体、四量体抗体、四価抗体、多特異性(multispecific)抗体、単鎖抗体、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、単鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、突然変異抗体、CDR移植抗体、ならびにFab、F(ab’)2、Fab’断片、Fv断片、単鎖Fv(ScFv)断片、Fd断片、dAb断片が含まれ得る抗体断片、ならびに二重特異性抗体、CDR3ペプチド、拘束されたFR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノ抗体、二価ナノ抗体、小モジュール免疫医薬品(SMIP)、サメ可変IgNARドメイン、およびミニ抗体が含まれ得る抗原結合タンパク質からなる群から選択される拮抗剤を提供する。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤はモノクローナル抗体である。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤はヒト化抗体である。
【0022】
一部の実施形態では、本発明は、配列番号19のアミノ酸配列、配列番号20のアミノ酸配列、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号22のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸配列、配列番号24のアミノ酸配列、配列番号25のアミノ酸配列、配列番号26のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列、配列番号28のアミノ酸配列、配列番号29のアミノ酸配列、配列番号30のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)からなる、GDF8に特異的な抗体、抗原結合タンパク質またはその断片である拮抗剤を提供する。
【0023】
一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、第1のCDRが配列番号19のアミノ酸配列および配列番号25のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含み、第2のCDRが配列番号20の配列および配列番号26のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含み、第3のCDRが配列番号21のアミノ酸配列および配列番号27のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含む、第1、第2および第3のCDRを含む重鎖を含む、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片である。一部の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列および配列番号18のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖を含む。
【0024】
一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、第1のCDRが配列番号22のアミノ酸配列および配列番号28のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含み、第2のCDRが配列番号23のアミノ酸配列および配列番号29のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含み、第3のCDRが配列番号24のアミノ酸配列および配列番号30のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸を含む、第1、第2および第3のCDRを含む軽鎖を含む、抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、配列番号16のアミノ酸配列および配列番号17のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。
【0025】
一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。一部の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載の本発明のGDF8拮抗剤を含む、アミノ酸のうちの任意の1つまたは複数をコードしているポリヌクレオチドを提供する。
【0026】
一部の実施形態では、本発明の拮抗剤は、GDF8と特異的に結合し、siRNA分子およびアンチセンス分子からなる群から選択される、阻害性ポリヌクレオチドである。一部の実施形態では、本発明は、本発明の拮抗剤をコードしている、本明細書中に記載のポリヌクレオチドのうちの任意の1つまたは複数を提供する。一部の実施形態では、本発明は、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号8のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、および配列番号12のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列をコードしているポリヌクレオチドを提供する。別の実施形態では、本発明は、配列番号3の核酸配列、配列番号5の核酸配列、配列番号7の核酸配列、配列番号9の核酸配列、配列番号11の核酸配列、およびその断片の核酸配列からなる群から選択される核酸配列から本質的になる、単離したポリヌクレオチドを提供する。
【0027】
一部の実施形態では、本発明は、調節配列と作動可能に連結している本発明の任意の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドのうちの任意のものを含むベクターを提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドのうちの任意の1つまたは複数を含むベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0028】
一部の実施形態では、本発明は、GDF8拮抗剤を、本発明のポリヌクレオチドのうちの任意の1つまたは複数を含む本明細書中に記載の培養宿主細胞から産生させ、宿主細胞によって発現されたGDF8拮抗剤を単離する方法を提供する。さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載のGDF8拮抗剤を産生する方法によって産生させた、単離したGDF8拮抗剤を提供する。
【0029】
本発明の別の態様では、本発明は、(i)試料を(ii)GDF8と特異的に結合する捕捉試薬および(iii)GDF8と特異的に結合する検出試薬と合わせるステップと、特異的結合が捕捉試薬とGDF8との間に起こるかどうかを検出するステップとを含み、特異的結合の検出が試料中のGDF8の存在を示す、対象からの試料中のGDF8の存在を検出するためのアッセイを提供する。
【0030】
本発明の一実施形態では、試料中のGDF8は、試料中に存在するGDF8結合タンパク質および抗GDF8から解離している。一実施形態では、本発明のアッセイは、試料を本明細書中に記載のように捕捉試薬と合わせる前に、試料を酸性緩衝液と合わせることをさらに含む。別の実施形態では、本発明のアッセイの酸性緩衝液は約pH1.0〜pH6.0のpHを有する。別の実施形態では、酸性緩衝液のpHは約pH2.5である。
【0031】
一実施形態では、本発明は、試料が、血清、全血、血漿、生検試料、組織試料、細胞懸濁液、唾液、口腔液、脳脊髄液、羊水、乳、初乳、乳腺分泌物、リンパ液、尿、汗、涙液、胃液、潤滑液および粘液からなる群から選択される、本明細書中に記載のアッセイのうちの任意の1つまたは複数を提供する。別の実施形態では、本発明は、試料が全血、血清または血漿から選択されることを提供する。
【0032】
一実施形態では、本発明は、検出ステップが、サンドイッチアッセイおよび競合的結合アッセイのうちの少なくとも1つを含む本明細書中に記載のアッセイのうちの任意の1つまたは複数を提供する。一部の実施形態では、検出ステップはサンドイッチアッセイを含む。一部の実施形態では、検出ステップは、試料と接触した固体光学表面での屈折率の変化検出、発光の変化の検出、色の変化の測定、放射活性の変化の検出、バイオ層干渉法を用いた測定、カンチレバー検出を用いた測定、無標識内因性イメージングを用いた測定、および音波検出を用いた測定のうちの少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、本発明の検出ステップは色の変化を測定する。一部の実施形態では、検出ステップは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、電気化学発光アッセイ(ECL)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相ラジオイムノアッセイ(SPRIA)、免疫ブロッティング、免疫沈降、蛍光活性化細胞分取(FACS)からなる群から選択されるアッセイを含む。別の実施形態では、検出ステップはELISAを含む。
【0033】
一実施形態では、GDF8の存在は、検出可能な標識をさらに含む化合物と、GDF8と特異的に結合する検出試薬との特異的結合によって検出される。別の実施形態では、検出可能な標識は、酵素標識、発光標識、タンパク質標識、ビタミン標識、発色標識、放射同位体標識および高電子密度分子標識からなる群から選択される少なくとも1つの標識を含む。別の実施形態では、検出可能な標識はタンパク質標識であり、ビオチンをさらに含む。
【0034】
一実施形態では、本発明のアッセイは、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片、GDF8結合タンパク質およびGDF8結合ドメインからなる群から選択される捕捉試薬を提供する。別の実施形態では、本発明のアッセイは、捕捉試薬が抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、RK35、RK22、MYO−028、MYO−029およびJA16からなる群から選択されることを提供する。一部の実施形態では、捕捉試薬はRK35である。一部の実施形態では、捕捉試薬はRK22である。
【0035】
本発明のアッセイの一実施形態では、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片、GDF8結合タンパク質およびGDF8結合ドメインからなる群から選択される検出試薬を提供する。一実施形態では、検出試薬は、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、RK22およびRK35からなる群から選択される。別の実施形態では、本発明のアッセイは、検出試薬がRK35であることを提供する。別の実施形態では、本発明のアッセイは、検出試薬がRK22であることを提供する。
【0036】
一実施形態では、本発明は、捕捉試薬がRK22であり、検出試薬がRK35であるアッセイを提供する。別の実施形態では、本発明は、捕捉試薬がRK35であり、検出試薬がRK22であるアッセイを提供する。
【0037】
本発明の別の態様では、本発明は、(i)試料を(ii)GDF8と特異的に結合する捕捉試薬および(iii)GDF8と特異的に結合する検出試薬と合わせるステップと、特異的結合が捕捉試薬とGDF8との間に起こるかどうかを検出するステップと、試料中のGDF8のレベルを定量化するステップとを含み、特異的結合の検出が試料中のGDF8の存在を示し、定量化することができる、対象からの試料中のGDF8の存在を定量化するアッセイを提供する。本発明の一実施形態では、試料中のGDF8が、試料中に存在するGDF8結合タンパク質および抗GDF8から解離していることを提供する。一実施形態では、本発明のアッセイは、試料を本明細書中に記載のように捕捉試薬と合わせる前に、試料を酸性緩衝液と合わせることをさらに含む。別の実施形態では、本発明のアッセイの酸性緩衝液は約pH1.0〜pH6.0のpHを有する。別の実施形態では、酸性緩衝液のpHは約pH2.5である。
【0038】
本発明の別の態様では、本発明は、対象においてGDF8関連障害を治療する(寛解および/または予防することが含まれる)ための医薬組成物であって、薬学的に許容できる担体を含み、少なくとも1つのGDF8拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体のアミノ酸をコードしている単離核酸、GDF8に特異的な阻害性ポリヌクレオチドおよび抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片からなる群から選択される医薬組成物を提供する。
【0039】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号8のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、および配列番号12のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列から本質的になる、GDF8に特異的な結合ドメインのペプチド模倣体を含む。
【0040】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、配列番号3の核酸配列、配列番号5の核酸配列、配列番号7の核酸配列、配列番号9の核酸配列、配列番号11の核酸配列およびその断片の核酸配列からなる群から選択される核酸配列から本質的になる、GDF8に特異的なアミノ酸をコードしている単離核酸を含む。
【0041】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、抗体が配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片を含む。別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、抗体、抗原結合タンパク質またはその断片が、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片を提供する。
【0042】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは結合しない抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質を含み、配列番号19のアミノ酸配列、配列番号20のアミノ酸配列、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号22のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸配列、配列番号24のアミノ酸配列、配列番号25のアミノ酸配列、配列番号26のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列、配列番号28のアミノ酸配列、配列番号29のアミノ酸配列、配列番号30のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。
【0043】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、哺乳動物患者において、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性もしくは誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害、およびインスリン関連障害からなる群から選択されるGDF8関連障害を治療するために使用する。別の実施形態では、GDF8関連障害が、筋ジストロフィー、ALS、筋萎縮、臓器萎縮、手根管症候群、虚弱、うっ血性閉塞性肺疾患、筋肉減少症、悪液質、筋消耗症候群、肥満症、2型糖尿病、耐糖能異常、代謝症候群、インスリン抵抗性、栄養障害、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、二次副甲状腺機能亢進、骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、低骨量、ビタミンD欠乏症、および神経性無食欲症からなる群から選択される、本発明の医薬組成物。
【0044】
本発明の別の態様は、ほぼ無毒から無毒である、治療上有効な量の、GDF8に特異的な拮抗剤を患者に投与することを含む、哺乳動物患者においてGDF8関連障害を治療する(寛解および/または予防することが含まれる)方法を提供する。別の実施形態では、本発明の方法は、本発明の拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体のアミノ酸をコードしている単離核酸、GDF8に特異的な阻害性ポリヌクレオチドおよび抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片からなる群から選択されることを提供する。
【0045】
一実施形態では、本発明は、本発明の拮抗剤が、配列番号4のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号8のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、および配列番号12のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列から本質的になるGDF8結合ドメインのペプチド模倣体であることを提供する。
【0046】
一実施形態では、本発明の治療方法は、本発明の拮抗剤が、配列番号3の核酸配列、配列番号5の核酸配列、配列番号7の核酸配列、配列番号9の核酸配列、配列番号11の核酸配列、およびその断片の核酸配列からなる群から選択される核酸配列から本質的になる、GDF8に特異的なアミノ酸をコードしている単離核酸である治療方法を提供する。
【0047】
本発明の一実施形態では、本発明の拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、かつ配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、かつ配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む治療方法を提供する。一部の実施形態では、本発明の治療方法は、本発明の拮抗剤が、配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、抗体、抗原結合タンパク質またはその断片が、配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含むことを提供する。一部の実施形態では、本発明の治療方法は、本発明の拮抗剤が、配列番号19のアミノ酸配列、配列番号20のアミノ酸配列、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号22のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸配列、配列番号24のアミノ酸配列、配列番号25のアミノ酸配列、配列番号26のアミノ酸配列、配列番号27のアミノ酸配列、配列番号28のアミノ酸配列、配列番号29のアミノ酸配列、配列番号30のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であることを提供する。
【0048】
本発明の一実施形態では、本発明の治療方法は、GDF8関連障害が、対象における筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性もしくは誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害、およびインスリン関連障害からなる群から選択されることを提供する。本発明の一部の実施形態では、本発明の治療方法は、GDF8関連障害が、筋ジストロフィー、ALS、筋萎縮、臓器萎縮、手根管症候群、虚弱、うっ血性閉塞性肺疾患、筋肉減少症、悪液質、筋消耗症候群、肥満症、2型糖尿病、耐糖能異常、代謝症候群、インスリン抵抗性、栄養障害、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、二次副甲状腺機能亢進、骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、低骨量、ビタミンD欠乏症、および神経性無食欲症からなる群から選択されることを提供する。
【0049】
本発明の別の態様は、対象から第1の試料を得るステップと、第1の試料を本発明の拮抗剤と合わせるステップと、第1の試料中のGDF8の存在を検出するステップと、第1の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、第2の試料をGDF8関連障害に罹患していない対象から得るステップと、第2の試料を拮抗剤と合わせるステップと、第2の試料中のGDF8のレベルを検出するステップと、第2の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、第1および第2の試料中のGDF8のレベルを比較するステップとを含み、第1の試料と比較した第2の試料中のGDF8のレベルの増加、減少、または類似性が、GDF8関連障害の重篤度が変化したかどうかを示す、対象がGDF8関連障害に罹患しているかどうかを診断、予後診断または検出する方法を提供する。
【0050】
本発明の別の態様は、(i)対象から第1の試料を得るステップと、(ii)第1の試料を請求項1から16のいずれか一項に記載の拮抗剤と合わせるステップと、(iii)第1の試料中のGDF8の存在を検出するステップと、(iv)第1の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、(v)第2の試料をGDF8関連障害に罹患していない対象から得るステップと、(vi)第2の試料を拮抗剤と合わせるステップと、(vii)第2の試料中のGDF8のレベルを検出するステップと、(viii)第2の試料中のGDF9のレベルを定量化するステップと、(ix)第1および第2の試料中のGDF8のレベルを比較するステップとを含み、第2の試料と比較した第1の試料中のGDF8のレベルの増加、減少、または類似性が、GDF8関連障害の重篤度が変化したかどうかを示す、GDF8関連障害の重篤度を監視する方法を提供する。
【0051】
本発明の別の態様は、(i)対象から第1の試料を得るステップと、(ii)第1の試料を請求項1から16のいずれか一項に記載の拮抗剤と合わせるステップと、(iii)第1の試料中のGDF8の存在を検出するステップと、(iv)第1の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、(v)第2の試料をGDF8関連障害に罹患していない対象から得るステップと、(vi)第2の試料を拮抗剤と合わせるステップと、(vii)第2の試料中のGDF8のレベルを検出するステップと、(viii)第2の試料中のGDF9のレベルを定量化するステップと、(ix)第1および第2の試料中のGDF8のレベルを比較するステップとを含み、第1の試料と比較した第2の試料中のGDF8のレベルの増加、減少、または類似性が、対象がGDF8関連障害を発生する可能性を示す、対象がGDF8関連障害を発生する可能性を予後診断する方法を提供する。
【0052】
本発明の別の態様は、(i)対象から第1の試料を得るステップと、(ii)第1の試料を請求項1から16のいずれか一項に記載の拮抗剤と合わせるステップと、(iii)第1の試料中のGDF8の存在を検出するステップと、(iv)第1の試料中のGDF8のレベルを定量化するステップと、(v)第2の試料をGDF8関連障害に罹患していない対象から得るステップと、(vi)第2の試料を拮抗剤と合わせるステップと、(vii)第2の試料中のGDF8のレベルを検出するステップと、(viii)第2の試料中のGDF9のレベルを定量化するステップと、(ix)第1および第2の試料中のGDF8のレベルを比較するステップとを含み、第2の試料と比較した第1の試料中のGDF8のレベルの増加、減少、または類似性が、対象がGDF8関連障害を発生する可能性を示す、対象がGDF8関連障害を発生する可能性を予後診断する方法を提供する。
【0053】
本発明の別の態様は、哺乳動物患者においてGDF8関連障害を治療する(寛解および/または予防することが含まれる)ための医薬品の調製における医薬組成物の使用であって、医薬組成物が、薬学的に許容できる担体を含み、少なくとも1つのGDF8拮抗剤が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体、GDF8結合ドメインのペプチド模倣体のアミノ酸をコードしている単離核酸、GDF8に特異的な阻害性ポリヌクレオチドおよび抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片からなる群から選択される使用を提供する。
【0054】
本発明の別の態様は、対象からの試料中のGDF8の存在を検出するためのキットであって、GDF8と特異的に結合する捕捉試薬およびGDF8と特異的に結合する検出試薬を含み、GDF8と捕捉および検出試薬との特異的結合の検出が、試料中のGDF8の存在を示すキットを提供する。一部の実施形態では、本発明のキットは、酸性緩衝液をさらに含む。
【0055】
本発明の別の態様は、対象からの試料中のGDF8を定量化するためのキットであって、GDF8と特異的に結合する捕捉試薬およびGDF8と特異的に結合する検出試薬を含み、GDF8と捕捉および検出試薬との特異的結合の検出が、試料中のGDF8の定量化を可能にするキットを提供する。一部の実施形態では、本発明のキットは、酸性緩衝液をさらに含む。
【0056】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の抗体であって、抗体が、GDF8とは特異的に結合するがBMP11とは特異的に結合しない、抗GDF8抗体、抗原結合タンパク質またはその断片であり、抗体または抗原結合タンパク質が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、ヒト化抗体、四量体抗体、四価抗体、多特異性抗体、単鎖抗体、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、単鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、突然変異抗体、CDR移植抗体、ならびにFab、F(ab’)2、Fab’断片、Fv断片、単鎖Fv(ScFv)断片、Fd断片、dAb断片が含まれ得る抗体断片、ならびに二重特異性抗体、CDR3ペプチド、拘束されたFR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノ抗体、二価ナノ抗体、小モジュール免疫医薬品(SMIP)、サメ可変IgNARドメイン、およびミニ抗体が含まれ得る抗原結合タンパク質からなる群から選択される抗体を提供する。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤はモノクローナル抗体である。一部の実施形態では、本発明の拮抗剤はヒト化抗体である。一部の実施形態では、抗体は抗GDF8抗体である。一部の実施形態では、本発明の抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。一部の実施形態では、本発明の抗体は、配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖を含み、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖をさらに含む、抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質である。
【0057】
配列の簡単な説明
DNAおよびアミノ酸配列を配列表に示し、表1とする。
【0058】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1-1】GDF8またはBMP11に対するハイブリドーマを発現するRK22およびRK35(GDF8およびBMP11のどちらとも結合する対照抗体)からの上清の様々な濃度(ng/ml、x軸)の結合(O.D.450nm、y軸)を実証する図である。
図1-2】GDF8またはBMP11に対するハイブリドーマを発現するRK22およびRK35(GDF8およびBMP11のどちらとも結合する対照抗体)からの上清の様々な濃度(ng/ml、x軸)の結合(O.D.450nm、y軸)を実証する図である。
図2】BIAcore2000システム、Sensor Chip SAによって決定したRK22抗体とGDF8との間の相互作用の動態速度定数を示す図である。
図3】GDF8および/またはBMP11のどちらかと結合するRK22およびRK35抗体ならびに他のRK抗体(A〜E)の非存在下(10mg/ml)、または様々な濃度の存在下において(M Ig、x軸)、10ng/mlのGDF8で処置したA204横紋筋肉腫細胞の、ルシフェラーゼ活性(LCPS、y軸)によって測定した、pGL3(CAGA)12−TGF−βプロモーターレポーター遺伝子の活性の誘導を示す図である。
図4】RK22またはMyo−29の非存在下(ビヒクル)、または1、10もしくは40mg/kg/週の存在下において、ビヒクルで4週間処置した後のSCIDマウスから解剖した腓腹筋、四頭筋、および前脛骨筋の筋肉の重量(g、y軸)を示す図である。
図5】GDF8単独、または様々な濃度([M]、x軸)のRK22、非特異的抗体、他のRK抗体(DおよびE)、ActRIIBと結合するGDF8を遮断する対照抗体(RK35)、対照IgG抗体、もしくは可溶性ActRIIBとプレインキュベーションしたGDF8による、ActRIIB(OD450、y軸)との結合を示す図である。
図6】成熟GDF8ペプチド全体を表す48の個別かつ重複を有する13個の残基のペプチドと共にインキュベーションした20ng/mlの対照抗体、RK22抗体のエピトープマッピングドットブロットの結果を示す図である。それぞれのドットブロットの下にGDF8の配列を示し、抗体のGDF8エピトープに下線を引いた(それぞれのドットブロットに示される)。
図7】RK22可変重鎖ドメイン(RK22_VH)とDP−7(DP−7_germl_VH)およびDP−5(DP−5_germl_VH)のヒト生殖系列フレームワーク配列とのアラインメントを示す図である。ヒト化RK22可変重鎖ドメイン中で変化しているマウスRK22可変重鎖ドメインのアミノ酸をアスタリスクで示し、RK22のCDRを四角で囲み、下線を引いた。
図8】RK22可変軽鎖ドメインとDPK24 VLのヒト生殖系列フレームワーク配列とのアラインメントを示す図である。ヒト化RK22可変軽鎖ドメイン中で変化しているマウスRK22可変軽鎖ドメインのアミノ酸をアスタリスクで示し、RK22のCDRを四角で囲み、下線を引いた。
図9-1】免疫アッセイ様式の比較を示す図である。RK35が捕捉試薬であり、ビオチン化RK22が検出試薬である。
図9-2】RK22を捕捉として、ビオチン標識したRK35を検出抗体として示す図である。
図10】以前に記載したELISAアッセイがバックグラウンドを示し、このバックグラウンドはヒト抗マウス抗体(HAMA)効果である可能性が高いことを実証する図である。アッセイのバックグラウンドは、ELISAにおいて捕捉抗体として使用したモノクローナル抗体RK22との血清交差反応性が原因であった。RK35を捕捉抗体として使用した場合も同じ効果が観察される(データ示さず)。
図11】RK35抗体をプレート上にコーティングし、市販の試薬IIR(免疫グロブリン阻害試薬−Bioreclamation、NY)を用いてELISAのバックグラウンドが低下した、GDF−8 ELISAの結果を示す図である。IIRを用いた結果は、緩衝液のみを用いたバックグラウンドより勝る。
図12】抗体RK35がMYO−029の存在下でGDF−8と結合しないことを示す図である。MYO−029抗体をHBXアッセイプレート上にコーティングし、GDF−8を1200pg/mlで、漸増濃度のビオチン標識した検出抗体(RK22またはRK35)と共に加えた。ビオチン標識したRK35でシグナルは生じなかった。結果は、GDF−8との結合おけるRK35とMYO−029との間の交差反応性を占めす。
図13-1】MYO−029をELISAアッセイにおいてGDF−8の阻害剤として使用できることを示す図である。アッセイ緩衝液または10%のヒト血清に添加した一定濃度のGDF−8(250pg/ml)を用いて、漸増濃度のMYO−029をGDF−8についてELISAでアッセイした。図13Aは、RK22を捕捉抗体として使用した場合に、約30%のシグナルの阻害が存在することを示す。2IR(「IIR」としても知られる)を使用することによるバックグラウンドシグナル(血清)の低下も示す。全シグナルをグラフで示し、%阻害に変換されていない。
図13-2】MYO−029をELISAアッセイにおいてGDF−8の阻害剤として使用できることを示す図である。アッセイ緩衝液または10%のヒト血清に添加した一定濃度のGDF−8(250pg/ml)を用いて、漸増濃度のMYO−029をGDF−8についてELISAでアッセイした。図13Bは、RK35を捕捉抗体として使用した場合に、阻害がほぼ100%(5〜20μg/mlのMYO−029)であることを示す。2IR(「IIR」としても知られる)を使用することによるバックグラウンドシグナル(血清)の低下も示す。全シグナルをグラフで示し、%阻害に変換されていない。
図14-1】GDF−8を3個の別々の血清試料(血清#1、#2、および#3)で100%の血清に加えた、「添加回収実験」の結果を示す図である。それぞれの試料を+/−20μg/mlのMYO−029で分析した。20μg/mlのMYO−029を加えることで、試験したすべての濃度のGDF−8でアッセイシグナルが遮断された(図13A)。結果は、GDF−8の添加に伴った、シグナルの直線状の増加を示す。
図14-2】GDF−8を3個の別々の血清試料(血清#1、#2、および#3)で100%の血清に加えた、「添加回収実験」の結果を示す図である。図13Bは、血清を加えたがMYO−029を加えなかった添加回収アッセイの結果を示す。
図15】正常なマウス、ノックアウト(KO)マウスおよびヒト血清で作成した検量線の比較を示す図である。THST緩衝液単独での曲線の傾きは、血清で作成したものよりもはるかに急であり、血清中の値を定量化するために使用することができない。
図16】THST緩衝液で作成された観察されたGDF8値対予測GDF8値を実証する図である。
図17】約80℃まで加熱した場合に、MYO−029を不活性化/GDF−8から解離させることができることを示す実験の結果を表す図である。血清試料にGDF−8または潜在型GDF−8+/−5μg/mlのMYO−029を添加し、80℃まで加熱した。結果は、MYO−029試料を加熱することでGDF−8を検出する能力が回復することを示し、これは、MYO−029がGDF−8から解離し、80℃まで加熱した際に活性化されたことを示す。また、結果は、MYO−029を加熱した試料に再度加えた場合に、GDF−8シグナルが再度低下することも示す。また、成熟GDF−8試料と比較して、潜在型GDF−8を添加した試料よりもさらに顕著な、加熱した際の内在性GDF−8シグナルの増加も示す。
図18】GDF−8をヒト血清から枯渇させる前および後の、GDF−8のELISAアッセイの結果を示す図である。正常なヒト血清+/−20μg/mlのMYO−029をGDF−8について、室温(「RT」)でおよび80℃まで加熱した後に分析した。これらの値を、65℃まで10分間事前に加熱し、1mgのMYO−029親和性カラムに3回通すことによって最初にGDF−8を枯渇させた同じ試料と比較した。結果により、GDF−8をヒト血清から枯渇させることは、このELISAにおいてGDF−8のバックグラウンドレベルを低下させるために有効であることが示される。また、結果は、枯渇させた血清を加熱することでは、正常な血清を加熱した際に観察された最初のシグナルの増加が示されないことも示す。この加熱した/GDF−8を枯渇させた(H/D)血清は、GDF−8検量線の作成に使用することができる。
図19】加熱し、GDF−8を枯渇させ、その後、漸増濃度の成熟GDF−8または潜在型GDF−8を添加した血清で作成した検量線のグラフを示す図である。検量線は、室温(RT)でまたは80℃まで加熱してアッセイした。潜在型GDF−8を添加した血清試料は、成熟GDF−8を添加した試料では観察されなかった、加熱後の大きなシグナル増加を示す。
図20】異なるプレート上で連続する2日間に実行した2つの検量線の分析を示す図である。既知の濃度の成熟GDF−8を有する加熱した/GDF−8を枯渇させた血清を用いて、検量線を作成する。それぞれの曲線からのOD値を、成熟GDF−8濃度に対してプロットする。非線形回帰曲線のフィッティングは、加熱した/GDF−8を枯渇させた血清で作成されたGDF−8値のより正確な相関である。曲線のフィッティングは、線形回帰曲線よりも良好な相関係数および高い精度範囲を有する。Prism Graphのソフトウェアを用いて、GDF−8 ELISAアッセイで作成されたOD値からGDF−8濃度を計算した。
図21】9個の正常な血清試料中の遊離および全GDF−8を測定するためのアッセイの結果を示す図である。結果は+/−MYO−029として示す。値はpg/mlのGDF−8で表し、100%の血清中のGDF−8の内在性レベルに対応する。
図22】8個の正常な血清試料中の遊離および全GDF−8を測定するためのアッセイの結果を示す図である。グラフは、2日の別々の日に実施した2つの別々の実験を表す。実験の2回目の日に、全GDF−8は、試料を10分間加熱することによって(実験の1回目の日に実施した5分間の加熱と比較して)分析した。値の範囲は、遊離GDF−8で227〜1241pg/ml、全GDF−8で514〜4329pg/mlであった。
図23】熱変性後にELISAによってGDF−8を測定するためのアッセイの結果を示す図である。ヒト血清のアリコートを室温で1時間、+/−10μg/mlのMYO−029でインキュベーションした。次に、試料を、ELISA分析の前に勾配熱サイクラーで様々な温度で熱変性した。試験試料中のGDF−8レベルの定量化は、GDF−8を枯渇させたプールしたヒト血清内に添加した既知の濃度の精製した組換えGDF−8二量体の希釈系列からなる検量線のアッセイ結果からの内挿によって、アフィニティークロマトグラフィーによって行った。MYO−029の非存在下におけるGDF−8の最大検出は約60℃で起こる。MYO−029の存在は、血清中のGDF−8の検出を低温で遮蔽するが、65℃より高い温度では、GDF−8の検出は部分的に回復した。
図24】GDF−8を、MYO−029の存在下で、低pHで検出できることを示す図である。図24Aでは、THST緩衝液+/−10μg/mlのMYO−029で希釈したGDF−8二量体を、中性pHのアッセイ緩衝液(THST)、200mMの酢酸ナトリウム、pH5.0(NaOAc)、200mMのリン酸−クエン酸緩衝液、pH3もしくは7(PO4Cit)、または200mMのグリシン−HCl、pH2.5(Gly)のいずれかで5倍希釈した。その後、試料を、THST緩衝液または非緩衝トリスのどちらかを含有するELISAウェル(RK35抗体でコーティング)に1:1で希釈した。様々なpHおよび緩衝能力の溶液を用いてGDF−8を希釈し、続いてTHSTまたは非緩衝トリスで希釈することで、約3〜8のpH範囲での分析物捕捉ステップの効率の測定が可能となった。中性pHに近づくアッセイ条件下では、MYO−029はGDF−8の検出を低下させた(THST/THST)。グリシン−HClで酸性化し、続いてTHST緩衝液で希釈したGDF−8は、MYO−029の結合を防止するために十分に低pHを維持し、MYO−029の存在下または非存在下でGDF−8の完全な検出が可能であった(Gly/THST)。しかし、グリシンで酸性化したGDF−8を非緩衝トリスで希釈することで、7を超えるpHの分析物捕捉条件がもたらされ、MYO−029の存在下でGDF−8の検出が低下した(Gly/非緩衝トリス)。図24Bは、pH3(左パネル)およびpH7(右パネル)でのELISAアッセイの模式図を示す。
図25】マウス抗体RK35が酸性条件下でGDF−8と結合する一方で、MYO−029は結合しないことを示す実験の結果を提供する図である。ヒト血清を、+/−様々な濃度のRK35またはMYO−029でプレインキュベーションし、THST緩衝液(中性pH)またはグリシン−HCl(酸性pH)で5倍に希釈した。その後、血清を、プレートと結合したRK35およびTHSTまたはグリシン−HCl緩衝液のどちらかを含有するELISAウェルに加えた。RK35またはMYO−029の非存在下では、複合体の解離および遊離GDF−8タンパク質の放出が原因で、中性条件よりも酸性条件下で多くの内在性GDF−8が検出された(最初の2つのバーを参照)。最後の6つのバーは、酸性pHで得られたデータを表す。溶液中の漸増量のRK35が、プレートと結合したRK35と結合するGDF−8と結合して競合することができ、酸性条件下でGDF−8の検出の減少がもたらされた。MYO−029は、pH3に近づく溶液中でGDF−8と結合することができず、溶液中のGDF−8は、ELISAプレート上にコーティングされたRK35抗体との結合に利用可能なまま残された。
図26】MYO−029濃度を100μg/mlまで増加することでは、酸解離ELISAプロトコルを用いたGDF−8の検出が消失しなかったことを示す図である。ヒト血清+/−10、40、または100μg/mlのMYO−029を熱または酸解離後にアッセイした。GDF−8の濃度は、GDF−8を枯渇させたプールしたヒト血清に添加した組換えGDF−8成熟二量体の検量線からの内挿によって推定した。MYO−029の非存在下では、血清中のGDF−8の濃度は、分析物捕捉を中性pH付近で行った場合に約1ng/mlまでであると決定された(HS)。熱解離による血清結合タンパク質の放出後のGDF−8の検出は、MYO−029の非存在下では約3ng/mlまでであった(HS+Myo、63℃、Abなし)。MYO−029の存在下では、試験した最も低い濃度ででも、熱解離によってMYO−029が存在しない場合と同じレベルの検出を可能にすることはできなかった(HS+MYO、73℃)。血清試料の酸処理では、存在するMYO−029の量とは独立して、非常に類似した量のGDF−8が検出された(HS+MYO、酸)。
図27】分析物捕捉中の酸性条件によりアッセイの特異性が低下しないことを実証する図である。血清の酸性化は、試験したすべての野生型(WT)動物、カニクイザル(NHP−31)、マウス(WT Mm)、および乳牛(WTウシ)において、より高いシグナル検出をもたらした(白いバー対黒いバー)。中性または酸性pHで測定した、遺伝子操作したGDF−8ノックアウト(KO Mm)マウスまたは天然に存在するGDF−8 KOベルジアンブルー牛(KOウシ)のいずれかの血清では、プレートのバックグラウンドを超えるシグナルを生じることができなかった。
図28】較正標準の逆算した濃度のその相対誤差に関して、5個のGDF−8 ELISAプレートの検量線のフィッティングの3つの異なる方法を対比する図である。5個のGDF−8 ELISAプレートからの結果をプロットする。相対誤差とは、(B−N)/N×100として定義され、式中、Bは検量線を用いた標準物質の逆算した濃度であり、Nは標準物質の名目濃度である。3つの曲線のフィッティング方法は、1)図36A−最小二乗(LS)による光学密度に対する4個のパラメータのロジスティックモデル、2)図36B−LSによる光学密度の平方根に対する4個のパラメータのロジスティックモデル、および3)図36C−LSによる光学密度の平方根に対する5個のパラメータのロジスティックモデルであった。基準線は−20および20である。
図29-1】正常およびミオスタチンヌルの動物中の血清ミオスタチンレベルを示す図である。ベルジアンブルー畜牛、正常な畜牛(wtウシ)、ミオスタチンヌルマウス(mstn KOマウス)および野生型同腹仔(wtマウス)からの血清を、解離性の酸性条件下(pH2.5)で測定し、値は、ミオスタチン欠乏血清マトリックス中の組換えヒトミオスタチンの検量線から外挿した。バーは、同型試料(n=3)の平均+/−SDを表す。ミオスタチンヌル動物中のミオスタチン濃度は、最も低い較正物質試料の濃度(147pg/ml)よりも低い。
図29-2】漸増濃度の抗ミオスタチン抗体MYO−029または可溶性ミオスタチン受容体ActRIIB−Fcを加えた後に、非解離性(pH8.0、パネルB)条件下で、ミオスタチンELISAで測定した、カニクイザルの血清中のミオスタチンレベルを示す図である。バーは同型試料(n=3)の平均+/−SDを表す。破線はLLQを示す。
図29-3】漸増濃度の抗ミオスタチン抗体MYO−029または可溶性ミオスタチン受容体ActRIIB−Fcを加えた後に、解離性(pH2.5、パネルC)条件下で、ミオスタチンELISAで測定した、カニクイザルの血清中のミオスタチンレベルを示す図である。バーは同型試料(n=3)の平均+/−SDを表す。破線はLLQを示す。
図30-1】若年および高齢の男性における、血清ミオスタチンレベル(平均、SD、中央値ならびに第1および第3の四分位値)の箱ひげ図である。箱中の水平線は平均を表し、箱の下および上の境界は第1および第3の四分位数を表し、垂直バーはSDを表す。、P=0.03。
図30-2】若年男性におけるベースラインミオスタチンレベルと除脂肪体重との相関を示す回帰プロットである。
図30-3】高齢男性におけるベースラインミオスタチンレベルと除脂肪体重との相関を示す回帰プロットである。
図31-1】段階づけた用量のテストステロンの投与に応答した、若年男性におけるミオスタチンレベルの変化を示す図である(バー図は、ベースライン、ならびに56および140日目の平均+/−SEMレベルを示す。図31Aは、若年(左パネル)および高齢の男性(右パネル)における、ベースライン、治療56日目および140日目のミオスタチンレベルを示す。データは平均+/−SEMである。、P値はベースラインレベルと比較したもの。140日目のミオスタチンレベルは、ベースラインレベルと有意に異なっていなかった。
図31-2】段階づけた用量のテストステロンの投与に応答した、若年男性におけるミオスタチンレベルの変化を示す図である。図31Bは、若年および高齢の男性における、ベースラインから56日目までの、血清ミオスタチンレベルのベースラインからの%変化を示す。、P=0.03
図32-1】若年および高齢の男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの変化と全テストステロン濃度の変化との相関を示す回帰プロットである。図32Aは、若年男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化および血清全テストステロン濃度の%変化の線形回帰プロットを示す。図32Bは、高齢男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化および血清全テストステロン濃度の%変化の線形回帰プロットを示す。
図32-2】若年および高齢の男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの変化と遊離テストステロン濃度の変化との相関を示す回帰プロットである。図32Cは、若年男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化および無血清テストステロン濃度の%変化の線形回帰を示す。図32Dは、高齢男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化および無血清テストステロン濃度の%変化の線形回帰を示す。
図32-3】若年および高齢の男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの変化と除脂肪体重の変化との相関を示す回帰プロットである。図32Eは、若年男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化およびベースラインから140日目の除脂肪体重の%変化の線形回帰を示す。図32Fは、高齢男性における、ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの%変化およびベースラインから140日目の血清除脂肪体重の%変化の線形回帰を示す。
図33】月経期若年女性、手術閉経女性、および高齢の女性における、ミオスタチンレベル(平均、SD、中央値ならびに第1および第3の四分位値)の箱ひげ図である。箱中の水平線は平均を表し、箱の下および上の境界は第1および第3の四分位数を表し、垂直バーはSDを表す。3つのグループ中のミオスタチンレベルは統計的に有意でなかった。
【発明を実施するための形態】
【0060】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲中で使用する単数形「a」、「an」および「the」には、内容により明らかにそうでないと指示される場合以外は、複数形へ言及が含まれる。
【0061】
本明細書中で使用する用語「抗体」とは、免疫グロブリンまたはその断片をいい、それだけには限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、ヒト化抗体、四量体抗体、四価抗体、多特異性抗体、単鎖抗体、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、単鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、突然変異抗体、CDR移植抗体、ならびにFab、F(ab’)2、Fab’断片、Fv断片、単鎖Fv(ScFv)断片、Fd断片、およびdAb断片が含まれる抗体断片、または、抗原結合機能を保持する、前述のものの任意の化学的もしくは遺伝子的に操作された対応物が含まれる。
【0062】
また、本発明は、本明細書中に記載の抗体とは異なる抗原結合タンパク質も提供し、これには、二重特異性抗体、CDR3ペプチド、拘束されたFR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノ抗体(米国特許出願第2008/0107601号)、二価ナノ抗体、小モジュール免疫医薬品(SMIP)、サメ可変IgNARドメイン(WO03/014161号)、ミニ抗体および抗原結合機能を保持する、任意の断片または化学的もしくは遺伝子的に操作された対応物が含まれる。典型的には、そのような断片は抗原結合ドメインを含む。当業者には理解されるように、そのような分子のうちの任意のもの、たとえば、「ヒト化」抗体または抗原結合タンパク質を、その免疫原性を減少させるため、その親和性を増加するため、その特異性を変更するため、または他の目的のために、操作(たとえば「生殖系列化」)し得る。
【0063】
本発明の抗体は、たとえば、伝統的なハイブリドーマ技術(Kohlerら、Nature、256:495〜499(1975))、組換えDNA方法(米国特許第4,816,567号)、または抗体ライブラリを用いたファージディスプレイ技術(Clacksonら、Nature、352:624〜628(1991)、Marksら、J.Mol.Biol.、222:581〜597(1991))によって作製することができる。様々な他の抗体産生技術には、Antibodies:A Laboratory Manual、Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratory、1988を参照されたい。用語「抗原」とは、動物において、抗体もしくはT細胞応答、または両方の産生を刺激することができる、化合物、組成物、または免疫原性物質をいい、動物内に注射または吸収される組成物が含まれる。免疫応答は、分子全体、または分子の一部分(たとえば、エピトープまたはハプテン)に対して生じさせ得る。この用語は、個々の巨大分子または抗原性巨大分子の同種もしくは異種の集団をいうために使用し得る。抗原は、特定の液性および/または細胞性免疫の産物と反応する。用語「抗原」には、タンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、核酸、オリゴ糖、多糖類、有機もしくは無機化合物または組成物などを含めた部分を幅広く包含される。用語「抗原」には、すべての関連する抗原性エピトープが含まれる。所定の抗原のエピトープは、当分野で周知の任意の数のエピトープマッピング技術を用いて同定することができる。たとえば、Epitope Mapping Protocols、Methods in Molecular Biology、第66巻(Glenn E.Morris編、1996)Humana Press、ニュージャージー州Totowaを参照されたい。たとえば、直鎖状エピトープは、たとえば、タンパク質分子の部分に対応する多数のペプチドを固体担体上で同時に合成し、ペプチドを担体に付着させたままでペプチドを抗体と反応させることによって決定し得る。そのような技術は当分野で知られており、たとえば、そのすべてが全体で本明細書中に参考として組み込まれている、米国特許第4,708,871号、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:3998〜4002、Geysenら(1986)Molec.Immunol.、23:709〜715に記載されている。同様に、コンホメーションエピトープは、たとえば、X線結晶構造解析および二次元核磁気共鳴によってなど、アミノ酸の空間コンホメーションを決定することによって容易に同定される。たとえば、Epitope Mapping Protocols、上記を参照されたい。さらに、本発明の目的のために、「抗原」には、タンパク質が免疫学的応答を誘発する能力を維持している限りは、ネイティブ配列への欠失、付加および置換などの修飾(一般に保存的な性質であるが、非保存的であってもよい)も含まれ得る。これらの修飾は、部位特異的突然変異誘発によるもの、特定の合成手順によるもの、もしくは遺伝子操作手法によるものなどの計画的、または、抗原を産生する宿主の突然変異によるものなどの偶発的なものであり得る。さらに、抗原は、任意のウイルス、細菌、寄生生物、原虫、または真菌に由来するか、またはそれから得ることができ、生物全体であることができる。同様に、核酸免疫化の適用におけるものなどの、抗原を発現するオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドも定義に含まれる。合成抗原、たとえば、ポリエピトープ、フランキングエピトープ、および他の組換えまたは合成誘導した抗原も含まれる(Bergmannら(1993)Eur.J.Immunol.、23:2777 2781、Bergmannら(1996)J.Immunol.、157:3242 3249、Suhrbier,A.(1997)Immunol.and Cell Biol.、75:402 408、Gardnerら(1998)12th World AIDS Conference、スイスGeneva、1998年6月28日 7月3日)。
【0064】
用語「抗原結合ドメイン」、「抗体の活性断片」、または抗原結合タンパク質などとは、抗原の一部または全部と特異的に結合するまたはそれに相補的な領域を含む、抗体または抗原結合タンパク質分子の一部をいう。抗原が大きい場合、抗体は抗原の特定の部分とのみ結合し得る。「エピトープ」、「エピトープの活性断片」、または「抗原決定基」などとは、抗体の抗原結合ドメインとの特異的な相互作用を担っている抗原分子の一部分である。抗原結合ドメインは、1つまたは複数の抗体可変ドメイン(たとえば、VHドメインからなるいわゆるFd抗体断片)によって提供し得る。抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含み得る(米国特許第5,565,332号)。
【0065】
「試料」とは、たとえば分析物を検出するために、細胞、組織、臓器、または生物から収集した生体物質である。例示的な生体試料には、血清、血液、血漿、生検試料、組織試料、細胞懸濁液、唾液、口腔液、脳脊髄液、羊水、乳、初乳、乳腺分泌物、リンパ液、尿、汗、涙液、胃液、潤滑液、粘液、ならびに他の臨床的検体および試料が含まれる。
【0066】
用語「捕捉試薬」とは、生体試料中で検出する標的分子または分析物と結合することができる試薬、たとえば抗体または抗原結合タンパク質をいう。典型的には、捕捉試薬は、たとえばアッセイ表面、たとえば、固体基質または反応器上に固定する。「GDF−8捕捉試薬」はGDF−8と特異的に結合する。
【0067】
「検出試薬」とは、標的タンパク質、たとえばGDF−8と特異的に結合するために本発明の免疫アッセイで使用する試薬、たとえば、抗体または抗原結合タンパク質である。検出試薬は、検出可能な標識を含んでいてもよい。検出試薬は、典型的には、捕捉試薬のそれとは明確に異なる結合部位またはエピトープで、標的タンパク質を認識して結合する。検出試薬は検出可能な標識とカップリングしていてよい。「GDF−8検出試薬」はGDF−8と特異的に結合する。
【0068】
用語「相補性決定領域」または「CDR」とは、一緒になって抗原結合ドメインを形成する、重鎖からの3個のループおよび軽鎖からの3つからなる、抗体または抗原結合タンパク質分子の超可変領域をいう。
【0069】
用語「検出すること」とは、最も広い意味で使用され、標的分析物の定性的および定量化的な測定の両方、本明細書中ではGDF−8またはBMP−11などの特定の標的分子の測定が含まれる。本明細書中に記載のアッセイ方法は、生体試料中のGDF−8もしくはBMP−11の存在を同定するために使用することができ、または試料中のGDF−8もしくはBMP−11の量を定量するために使用し得る。
【0070】
「検出剤」または「検出試薬」は、間接標識を含む検出抗体または抗原結合タンパク質から生じるシグナルを検出するために、本発明の方法で使用し得る。検出剤または試薬とは、GDF−8変調剤または複合体の検出を可能にする、タンパク質または小分子である。好ましい実施形態では、検出剤はGDF−8変調剤と特異的に結合する。検出剤は、検出可能な標識を含んでいてもよい。また、検出剤は、それ自体が、検出可能な標識を含む物質によって検出され得る。また、本明細書中に提供する方法によって検出されたGDF−8変調剤も、たとえば、他のGDF−8変調剤を検出する方法で使用し得る。
【0071】
「GDF8活性に関連する障害」、「GDF8に関連する障害」、「GDF8関連障害」などとは、完全にもしくは部分的に、GDF8の調節不全(たとえば、異常に増加もしくは減少したGDF8の発現および/もしくは活性)によって引き起こされ得る障害、ならびに/または、GDF8タンパク質および/もしくは活性を調節および/もしくは監視することによって治療、寛解、予防、予後診断、および/もしくは監視し得る障害をいう。GDF8関連障害には、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性もしくは誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害、またはインスリン関連障害が含まれる。
【0072】
用語「有効用量」、「治療上有効な用量」または「有効量」とは、GDF−8関連障害に罹患している個体を含めた個体において、臨床的症状を寛解させる、または所望の生物学的結果(たとえば、筋肉量、筋肉強度および/もしくは骨密度の増加)を達成するために十分な、用量またはレベルをいう。そのような量は、たとえば、骨格筋量および骨密度の負の調節に関連するGDF−8の活性を低下させるために十分であろう。治療結果および臨床的症状には、筋肉量の増加、心血管指標の改善またはグルコース代謝調節の改善が含まれ得る。GDF−8阻害剤は、たとえば、筋肉量、筋肉強度を増加する、筋肉特異的酵素のレベルを変調するおよび/または筋芽細胞の増殖を刺激することができる。好ましい実施形態では、GDF−8阻害剤はGDF−8関連障害の臨床徴候を低下させる。GDF−8変調剤は、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を変調する、脂肪蓄積を減少させる、血清トリグリセリドレベルを減少させる、血清コレステロールレベルを減少させる、グルコース代謝を変調する、骨密度を変調するおよび高血糖症を低下させることができる。また、GDF−8阻害剤は、筋肉量を増加させるため、筋肉成長を含めた成長を増加または加速させるためにも、個体に投与し得る。治療上有効な量のGDF−8阻害剤とは、個体に単一または複数用量で投与した場合に、障害もしくは再発性障害の少なくとも1つの症状を治療、予防、治癒、遅延、重篤度を低下させるもしくは寛解させるため、または、そのような治療が存在しない場合に予測されるよりも対象の生存を延長するために有効な量をいう。
【0073】
GDF−8関連障害に罹患している個体、GDF−8関連障害を発生する危険性にある個体、GDF−8変調剤を用いて治療を受けている個体、およびGDF−8変調剤を投与する候補である個体が、本明細書中に提供する方法の候補であり得る。本発明の方法は、有害な免疫応答を検出もしくは予防する、および/またはGDF−8変調剤を使用することの有効性、生物学的安定性もしくは適合性を評価し得る。
【0074】
筋肉関連障害または神経筋障害などのGDF−8関連障害に罹患している、またはそれを発生する危険性にある個体が、本明細書中に提供する方法の候補である。GDF−8活性の阻害は、筋肉関連障害を患っているものを含めた個体において筋組織を増加させる。いくつかの障害が筋肉または神経組織の機能障害に関連づけられており、たとえば、それだけには限定されないが、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋肉減少症、悪液質、筋消耗、筋萎縮、または虚弱である。筋ジストロフィーには、たとえば、仮性肥大型、顔面肩甲上腕型、および肢帯型ジストロフィーが含まれる。例示的な筋ジストロフィーには、デュシェーヌ型筋ジストロフィー(レイデン−メビウス)、ベッカー型筋ジストロフィー、エメリドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、脊椎硬直症候群、ウルリッヒ症候群、福山型筋ジストロフィー、ウォーカーワールベルグ症候群、筋肉目脳病、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(ランドウジー−デジェリン)、先天性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、および他の筋緊張症ならびにガウアー病が含まれる。
【0075】
また、GDF−8関連筋肉障害には、心血管病に関連する筋変性も含まれ、または、臓器萎縮、臓器不全、癌、後天性免疫不全症候群(AIDS)、安静臥床、不動、長期的な使用の欠如、または他の疾患もしくは状態などの、別の疾患または状態に続発性のものから選択される障害も、この用語に含まれる。
【0076】
脂肪組織障害に罹患しているまたはそれを発生する危険性にある個体、たとえば、肥満症、心血管障害(筋肉損失または筋消耗に関連する場合)およびインスリン代謝の障害が候補であり得る。同様に、特に高齢者および/または閉経後の女性の骨粗鬆症、糖質コルチコイド誘導性骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、ならびに骨粗鬆症関連骨折を含めた、骨の損失に関連する障害に罹患しているまたはそれを発生する危険性にある個体が、本明細書中で提供する治療方法の候補である。他のGDF−8関連状態には、代謝性骨疾患ならびに低骨量によって特徴づけられた障害、たとえば、慢性糖質コルチコイド療法、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次副甲状腺機能亢進、栄養障害、および神経性無食欲症によるものなどが含まれる。
【0077】
心血管障害の例には、冠動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)、狭心症(急性および不安定狭心症が含まれる)、心臓発作、脳卒中(虚血性脳卒中が含まれる)、高血圧関連心血管病、心不全、鬱血性心不全、冠動脈疾患、高血圧、高脂血症、末梢動脈疾患、ならびに末梢血管疾患が含まれる。インスリン代謝の障害の例には、異常なグルコース恒常性に関連する状態、2型糖尿病、糖尿病前症、耐糖能異常、異常脂質血症、代謝症候群(たとえば症候群X)、および熱傷または窒素不均衡などの外傷によって誘導されたインスリン抵抗性が含まれる。
【0078】
用語「GDF−8」とは、特定の成長および分化因子−8をいい、「ミオスタチン」とも呼び得る。この用語は、GDF−8の完全長の未プロセッシング前駆体形態、ならびに翻訳後切断から生じる成熟およびプロペプチド形態をいう。「不活性」として別段に指定しない限りは、「GDF−8タンパク質」は、1つまたは複数のGDF−8の生物活性を保持する。また、この用語は、本明細書中で記載したように、成熟GDF−8に関連する少なくとも1つの生物活性を維持するGDF−8の任意の断片および変異体もいい、修飾された配列も含まれる。成熟ヒトGDF−8のアミノ酸配列を配列番号1に提供する。本発明は、それだけには限定されないが、ヒト、ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、シチメンチョウ、ヒヒ、および魚を含めた、すべての脊椎動物種からのGDF−8に関する(配列情報には、たとえば、McPherronら、Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.、94:12457〜12461(1997)を参照)。
【0079】
用語「GDF−8活性」とは、活性GDF−8タンパク質に関連する、1つまたは複数の生理的な成長調節または形態形成の活性をいう。たとえば、活性GDF−8は、骨格筋量の負の調節因子である。また、活性GDF−8は、筋肉に特異的な酵素(たとえばクレアチンキナーゼ)の産生を変調する、筋芽細胞の増殖を刺激する、および前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を変調することもできる。「GDF−8活性」には「GDF−8結合活性」が含まれる。たとえば、成熟GDF−8は、GDF−8のプロペプチド領域、ActRIIB、GDF−8受容体、アクチビン、フォリスタチン、フォリスタチンドメイン含有タンパク質、GASP−1、および他のタンパク質と特異的に結合する。抗体もしくは抗原結合タンパク質またはその一部分などのGDF−8阻害剤は、これらの結合活性のうちの1つまたは複数を低下させ得る。GDF−8の生物活性は当業者に周知であり、たとえば、米国特許出願第2004/0223966号の実施例5〜6および8〜12を参照されたい。
【0080】
「GDF−8関連障害」とは、GDF−8阻害剤などのGDF−8モジュレーターを投与することで対象が利点を受ける障害または状態である。GDF−8関連障害には、筋肉関連または神経筋の障害または状態などの医学的障害、たとえば、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋肉減少症、悪液質、筋消耗、筋萎縮、または消耗、萎縮、もしくは虚弱を含めた筋変性が含まれる。筋ジストロフィーには、たとえば、仮性肥大型、顔面肩甲上腕型、および肢帯型筋ジストロフィーが含まれる。例示的な筋ジストロフィーには、デュシェーヌ型筋ジストロフィー(レイデン−メビウス)、ベッカー型筋ジストロフィー、エメリドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、脊椎硬直症候群、ウルリッヒ症候群、福山型筋ジストロフィー、ウォーカーワールブルグ症候群、筋眼脳病、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(ランドウジー−デジェリン)、先天性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、および他の筋緊張症、ならびにガウアー病が含まれる。
【0081】
心血管病に関連する筋変性、ありは、臓器萎縮、臓器不全、癌、後天性免疫不全症候群(AIDS)、安静臥床、不動、長期的な使用の欠如、または他の疾患もしくは状態などの、別の疾患または状態に続発性のものも、この用語に含まれる。
【0082】
また、GDF−8関連障害には、脂肪組織障害(たとえば肥満症)、心血管病または障害(筋肉損失または筋消耗に関連する場合)、およびインスリン代謝の障害も含まれる。また、GDF−8関連障害には、特に高齢者および/または閉経後の女性の骨粗鬆症、糖質コルチコイド誘導性骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、ならびに骨粗鬆症関連骨折を含めた、骨の損失に関連する障害も含まれる。他の状態には、代謝性骨疾患および低骨量によって特徴づけられた障害、たとえば、慢性糖質コルチコイド療法、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次副甲状腺機能亢進、栄養障害、および神経性無食欲症によるものなどが含まれる。
【0083】
心血管障害の例には、冠動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)、狭心症(急性狭心症および不安定狭心症が含まれる)、心臓発作、脳卒中(虚血性脳卒中が含まれる)、高血圧関連心血管病、心不全、鬱血性心不全、冠動脈疾患、高血圧、高脂血症、末梢動脈疾患、ならびに末梢血管疾患が含まれる。インスリン代謝の障害の例には、異常なグルコース恒常性に関連する状態、2型糖尿病、糖尿病前症、耐糖能異常、異常脂質血症、代謝症候群(たとえば症候群X)、および熱傷または窒素不均衡などの外傷によって誘導されたインスリン抵抗性が含まれる。
【0084】
用語「GDF−8潜在型複合体」とは、成熟GDF−8ホモ二量体とGDF−8プロペプチドとの間で形成されたタンパク質の複合体をいう。2個のGDF−8プロペプチドがホモ二量体中の2個の成熟GDF−8の分子と会合して、不活性の四量体複合体を形成すると考えられている。潜在型複合体には、GDF−8プロペプチドのうちの1つもしくは複数の代わりに、またはそれに加えて、他のGDF阻害剤が含まれ得る。
【0085】
用語「成熟GDF−8」とは、GDF−8前駆体タンパク質のカルボキシ末端ドメインから切断されるタンパク質をいう。成熟GDF−8は、単量体、ホモ二量体、またはGDF−8潜在型複合体として存在し得る。条件に応じて、成熟GDF−8は、これらの異なる形態の任意またはすべてのものの間で平衡を確立していてもよい。その生物活性形態では、成熟GDF−8は「活性GDF−8」とも呼ばれる。生物活性のあるGDF−8はGDF−8潜在型複合体の形態にはない。また、この用語は、本明細書中に記載したように、成熟GDF−8に関連する少なくとも1つの生物活性を維持するGDF−8の任意の断片および変異体もいい、修飾された配列も含まれる。
【0086】
用語「GDF−8プロペプチド」とは、GDF−8前駆体タンパク質のアミノ末端ドメインから切断されたポリペプチドをいう。GDF−8プロペプチドは、成熟GDF−8上のプロペプチド結合ドメインと結合することができる。GDF−8プロペプチドは成熟GDF−8ホモ二量体と複合体を形成する。2個のGDF−8プロペプチドがホモ二量体中の2個の成熟GDF−8の分子と会合して、「潜在型複合体」と呼ばれる不活性の四量体複合体を形成すると考えられている。潜在型複合体には、GDF−8プロペプチドのうちの1つもしくは複数の代わりに、またはそれに加えて、他のGDF阻害剤が含まれ得る。
【0087】
用語「GDF−8変調剤」には、GDF−8の活性、発現、プロセッシング、もしくは分泌を変調することができる任意の薬剤、またはその薬学的に許容できる誘導体が含まれる。GDF−8変調剤は、1つまたは複数のGDF−8活性を増加または減少させる。「GDF−8阻害剤」を含めたGDF−8モジュレーターは、たとえば、脂肪細胞障害、グルコース代謝関連障害、または骨障害を治療するために使用し得る。GDF−8変調剤の生物学的誘導体がこの用語によって包含される。特定の実施形態では、GDF−8変調剤または阻害剤は、GDF−8と、それだけには限定されないが、受容体(たとえばActRIIB)、フォリスタチンドメイン含有タンパク質(たとえば、フォリスタチン、FLRG、GASP−1、GASP−2)、またはGDF−8プロペプチドなどのGDF−8タンパク質ならびにその突然変異体および誘導体を含めた、その生理的結合パートナーのうちの1つまたは複数との結合に影響を与える。GDF−8変調剤には、たとえば、GDF−8と特異的に結合する抗体(MYO−029、MYO−028、MYO−022、JA−16、およびその断片や誘導体が含まれる)、GDF−8受容体と特異的に結合する抗体(たとえば、米国特許第6,656,475号、米国特許公開第2004/0077053−A1号を参照)、修飾された可溶性受容体(ActRIIB−Fc融合タンパク質などの受容体融合タンパク質が含まれる)、GDF−8またはBMP−11と特異的に結合する他のタンパク質(GDF−8またはBMP−11プロペプチド、GDF−8プロペプチドの突然変異体および誘導体、フォリスタチン、フォリスタチンドメイン含有タンパク質、これらのタンパク質のFc融合物など)、GDF−8受容体と結合するタンパク質およびこれらのタンパク質のFc融合物、ならびに模倣体が含まれる。非タンパク質阻害剤(核酸など)も、用語GDF−8阻害剤によって包含される。GDF−8阻害剤には、GDF−8を特異的に阻害する、タンパク質、抗体、ペプチド、ペプチド模倣体、リボザイム、抗センスオリゴヌクレオチド、二本鎖RNA(siRNAまたはマイクロRNAが含まれる)および他の小分子が含まれる。
【0088】
用語「個体」とは、哺乳動物、鳥、爬虫類、両生類、または魚を含めた任意の脊椎動物をいう。用語「哺乳動物」には、ヒト、非ヒト霊長類、サル、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、畜牛などを含めた、雄または雌の、そのように分類される任意の動物が含まれる。非哺乳動物の例には、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、魚(サケ、ナマズ、バス、ゼブラフィッシュ、およびマスなど)、ならびにカエルが含まれる。個体は、ヒト、または、たとえば、飼い馴らした、原料用(feedstock)、家畜化した(livestock)、動物園の、スポーツ用、競技用、もしくはペットの動物から選択し得る。
【0089】
用語「阻害する」および「阻害性」とは、同じ阻害剤が存在しない場合のGDF−8の活性と比較した、GDF−8阻害剤によるGDF−8の1つまたは複数の活性の低下をいう。活性の低下は、好ましくは少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多くである。特定の実施形態では、GDF−8の活性は、本明細書中に開示する阻害剤のうちの1つまたは複数に影響を受けた場合に、少なくとも50%、好ましくは少なくとも約60%、62%、64%、66%、68%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%または99%、より好ましくは少なくとも95%〜100%低下する。用語「中和する」および「中和すること」とは、1つまたは複数のGDF−8活性の少なくとも80%、85%、90%または95%の低下をいう。GDF−8活性の阻害は、たとえば、Thiesら、Growth Factors、18:251〜259(2001)に記載のようにpGL3(CAGA)12レポーター遺伝子アッセイで、または以下の実施例中に例示するようにActRIIB受容体アッセイで測定することができる。
【0090】
用語「単離した」とは、その天然の環境から実質的に分離された分子をいう。たとえば、単離したタンパク質とは、それが由来する細胞または組織源から実質的に分離されているものである。
【0091】
また、標識は、酵素、たとえば、ペルオキシダーゼ(たとえば西洋ワサビペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、およびβ−ガラクトシダーゼなどの基質を変換する酵素であってもよい。ペルオキシダーゼは、可溶性基質(たとえば、3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)、o−フェニレンジアミン(OPD)、2,2’−アジノ−ジ[3−エチル−ベンズチアゾリン]スルホネート(ABTS)、ルミノール、ポリフェノール、アクリジンエステル、およびルシフェリン)と共にインキュベーションした際に、分光器で検出することができる基質の発色性または発光性の変化をもたらす。典型的には、基質との一定のインキュベーション期間後、反応を反応停止させ(たとえば酸性化によって)、光学密度(吸光度)または発光を測定することによって結果を定量化する。吸光度の結果を発色反応の線形範囲内のOD値と比較することができ、発光性免疫アッセイは相対光単位(RLU)で測定する。
【0092】
また、標識は、ビオチン、ハプテン、またはエピトープタグ(たとえば、ヒスチジン、HA(赤血球凝集素ペプチド)、マルトース結合タンパク質、AviTag(登録商標)、もしくはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)であってもよく、これは、GDF8変調剤または検出剤と会合した標識と相互作用する、標識した検出剤を加えることによって検出することができる。ビオチンで標識した(「ビオチン標識した」)検出剤は、アビジン−酵素のコンジュゲート、たとえばアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼとのその相互作用によって、アビジン−酵素のコンジュゲートおよび適切な発色性または発光基質と逐次的にインキュベーションした後に検出し得る。ユーロピウムも標識である。
【0093】
本明細書中で使用する用語「ペプチド模倣体」とは、ホルモン、サイトカイン、酵素基質、ウイルスまたは他の生体分子上の活性決定要因を生物学的に模倣するペプチドをいい、天然リガンドの生理活性を拮抗、刺激、または他の様式で変調し得る。ペプチド模倣体は、好ましくは、ペプチドと同様の二次構造を有しており、さらなる構造的特徴を任意選択で有している化合物として定義され、その作用機構はネイティブペプチドの作用機構と大部分が類似または同一であるが、その活性(たとえば、拮抗剤または阻害剤として)は、ネイティブペプチド、特に受容体または酵素と比較して改変されている場合がある。さらに、これらはネイティブペプチドの効果(作用剤)を模倣することができる。本明細書全体にわたって、用語「ペプチド模倣体」とは、その構造的特性のおかげで、機能的GDF8または非機能的GDF8のどちらかの生物学的機能を模倣することができる分子をいう。本発明では、GDF8の結合/二量体化ドメインを含むGDF8の断片が、GDF8に対するドミナントネガティブとして機能すると提案されている。GDF8の結合/二量体化ドメインのペプチド模倣体自体は、複数モル濃度の過剰で存在することができ、野生型GDF8との「競合に勝って」野生型分子とヘテロ二量体を形成し、したがって、GDF8の生物学的機能のドミナントネガティブとして作用することができる。その点で、GDF8の機能が破壊され、したがって筋肉成長の阻害が緩和される。そのような成長促進GDF8模倣体の活性のin vivo生物学的アッセイの一例は、有効量の本発明の少なくとも1つの成長促進模倣体を投与することによる、正常なマウスまたは他の試験動物における骨格筋量の増強である。
【0094】
用語「精製した」とは、その天然の環境中で分子に付随している他の物質を実質的に含まない分子をいう。たとえば、精製したタンパク質は、それが由来する細胞または組織からの細胞物質または他のタンパク質を実質的に含まない。この用語は、単離したタンパク質が治療組成物として投与するために十分に純粋である、または少なくとも70%〜80%(w/w)純粋、より好ましくは少なくとも80%〜90%(w/w)純粋、さらにより好ましくは、90〜95%純粋、最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%(w/w)純粋である調製物をいう。
【0095】
本明細書中で使用する用語「siRNA」とは、標的遺伝子の発現をサイレンシングするために使用することができる低分子干渉RNA分子をいう。siRNAは、19〜25個のヌクレオチドを有するdsRNAであることができる。siRNAは、ダイサーと呼ばれるRNase III関連ヌクレアーゼによる、より長いdsRNA分子の分解によって内在的に産生させることができる。また、siRNAは、細胞内に外因的に、または発現構築体の転写によって、導入することもできる。形成された後、siRNAは、タンパク質構成成分とアセンブルして、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)として知られるエンドリボヌクレアーゼ含有複合体となる。ATPによって生じるsiRNAの巻き戻しがRISCを活性化し、立ち代ってこれがワトソン−クリックの塩基対合によって相補的mRNA転写物を標的とし、それによりmRNAが切断および破壊される。mRNAの切断は、siRNA鎖によって結合される領域の中央付近で起こる。この配列特異的なmRNA分解が遺伝子サイレンシングをもたらす。
【0096】
少なくとも2つの方法を用いてsiRNA媒介遺伝子サイレンシングを達成することができる。第1に、siRNAをin vitroで合成し、細胞内に一過的に導入して遺伝子発現を抑制させることができる。siRNAは、短い混合オリゴヌクレオチドの二重鎖であり、たとえば、対称的なジヌクレオチド3’オーバーハングを有する19個のRNAヌクレオチドが含まれ得る。合成の21bpのsiRNA二重鎖(たとえば、19個のRNA塩基、次いでUUまたはdTdTの3’オーバーハング)を用いて、配列特異的遺伝子サイレンシングを哺乳動物細胞中で達成することができる。これらのsiRNAは、多くのタンパク質の翻訳の非特異的な抑圧をもたらし得る、より長い二本鎖RNA(dsRNA)によるDNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)の活性化なしに、哺乳動物細胞において標的遺伝子の翻訳を特異的に抑制することができる。
【0097】
第2に、siRNAは、in vivoでベクターから発現させることができる。この手法は、siRNAを細胞またはトランスジェニック動物中で安定して発現させるために使用することができる。siRNA発現ベクターは、ポリメラーゼIII(pol III)転写単位からのsiRNA転写を駆動するように操作する。Pol III転写単位は、ヘアピンsiRNAへの2bpのオーバーハング(たとえばUU)の付加をもたらす、短いATに富んだ転写終結部位を配置し、これは、siRNA機能に役立つ特長であるため、ヘアピンsiRNA発現に適している。また、Pol III発現ベクターは、siRNAを発現するトランスジェニックマウスを作製するためにも使用することができる。
【0098】
また、siRNAは、組織に特異的な様式で発現させることもできる。この手法下では、最初に、長いdsRNAを、プロモーター(CMV(pol II)など)から、選択した細胞系またはトランスジェニックマウスの核中で発現させる。長いdsRNAは、核内で(たとえばダイサーによって)siRNAへとプロセッシングされる。siRNAは核から出て行き、遺伝子に特異的なサイレンシングを媒介する。同様の手法を、組織に特異的な(pol II)プロモーターと併せて用いて、組織に特異的なノックダウンマウスを作製することができる。
【0099】
用語「小分子」とは、巨大分子ではない化合物をいう。たとえば、Karp、(2000)Bioinformatics Ontology、16:269〜85、Verkman、(2004)AJP−Cell Physiol.、286:465〜74を参照されたい。したがって、小分子は、しばしば1000ダルトン未満の化合物であるとみなされる(たとえば、VoetおよびVoet、Biochemistry、第2版、N.Rose編、Wiley and Sons、New York、14(1995)。たとえば、Davisら((2005)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、102:5981〜86)は、フォレート、メトトレキサート、および神経ペプチドを示すために語句小分子を使用している一方で、HalpinおよびHarbury((2004)PLos Biology、2:1022〜30)は、小分子遺伝子産物、すなわち、DNA、RNAおよびペプチドを示すためにこの語句を使用している。天然小分子の例には、コレステロール、神経伝達物質、およびsiRNAが含まれ、合成小分子には、数々の市販の小分子データベース、たとえば、FCD(Fine Chemicalsデータベース)、SMID(Small Molecule Interactionデータベース)、ChEBI(Chemical Entities of Biological Interest)、およびCSD(Cambridge Structuralデータベース)に記載されている様々な化合物が含まれる(たとえば、Alfaranoら(2005)Nuc.Acids Res.Database、第33号:D416〜24を参照)。
【0100】
用語「特異的結合」、「特異的に結合する」などとは、2つ以上の分子が、生理的条件下またはアッセイ条件下で測定可能であり、選択的な複合体を形成することを意味する。抗体もしくは抗原結合タンパク質または他の阻害剤は、適切に選択された条件下で、そのような結合は実質的に阻害されないが、同時に非特異的結合が阻害される場合に、タンパク質と「特異的に結合する」と言われる。特異的結合は高親和性によって特徴づけられており、化合物またはタンパク質に対して選択的である。非特異的結合は通常は低い親和性を有する。たとえば、IgG抗体の結合は、一般に、少なくとも約10−7M以上、たとえば、少なくとも約10−8M以上、または少なくとも約10−9M以上、または少なくとも約10−10以上、または少なくとも約10−11M以上、または少なくとも約10−12M以上の親和性によって特徴づけられている。また、用語は、たとえば、抗原結合ドメインが、数多くの抗原によって保有されない特定のエピトープに特異的な場合にも適用され、その場合は、抗原結合ドメインを保有する抗体または抗原結合タンパク質は、一般に、他の抗原と結合しない。
【0101】
特定の方法は、特異的結合に高い親和性を必要とする一方で、表面プラズモン共鳴アッセイなどの他の方法では、より低い安定性の複合体およびより低い親和性の相互作用が検出され得る。必要な場合は、結合条件を変動することによって、特異的結合に実質的に影響を与えずに非特異的結合を低下させることができる。そのような条件は当分野で知られており、当業者がルーチン技術を使用して適切な条件を選択することができる。条件は、通常、結合パートナーの濃度、溶液のイオン強度、温度、結合に許容する時間、非関連分子(たとえば、血清アルブミン、乳カゼイン)の濃度等に関連して定義される。例示的な結合条件は、以下の実施例に記載されている。
【0102】
用語「特異的GDF8拮抗剤」または「特異的GDF8阻害剤」には、GDF8の活性、発現、プロセッシング、または分泌を阻害、低下および/または中和することができるが、他のタンパク質、たとえばTGF−βスーパーファミリー、たとえばBMP11の活性、発現、プロセッシング、または分泌を顕著に阻害、低下および/または中和しない、任意の薬剤が含まれる。そのような阻害剤には、GDF8活性を特異的に阻害する、巨大分子および小分子、たとえば、タンパク質、抗体、ペプチド、ペプチド模倣体、siRNA、リボザイム、抗センスオリゴヌクレオチド、二本鎖RNA、および他の小分子が含まれる。そのような阻害剤は、GDF8の生物活性を特異的に「拮抗する」(たとえば、「阻害」、「減少」、「低下」または「中和」する)と言われる。GDF−8阻害剤は、活性GDF−8タンパク質に関連する生理的、成長調節、または形態形成の活性などの、GDF−8の少なくとも1つの生物学的活性を、阻害または中和または低下させる。たとえば、GDF−8は骨格筋成長の負の調節因子である。GDF−8阻害剤は、筋肉量を増加させる、筋肉強度を増加させる、筋肉特異的酵素のレベルを変調する、筋芽細胞の増殖を刺激する、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を変調する、脂肪蓄積を減少させる、血清トリグリセリドレベルを減少させる、血清コレステロールレベルを減少させる、グルコース代謝を変調する、および/または高血糖症を低下させることができる。
【0103】
用語「治療」とは、本明細書中で用語「治療方法」と互換性があるように使用し、治療処置および予防的(prophylactic)/予防的(proventative)手段のどちらもいう。また、用語治療は、障害を寛解、治療または予防できるとも定義される。治療を必要としているものには、既に特定の医学的障害に罹患している個体、および最終的に障害に罹患し得るもの(すなわち、予防的手段を必要とするもの)が含まれ得る。
【0104】
本発明の実施では、別段に指定しない限りは、当分野の技術範囲内にある分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学慣用技術を用いる。そのような技術は文献中に完全に記載されている。たとえば、Sambrookら、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第2版(1989)、DNA Cloning、第I巻および第II巻(D.N Glover編、1985)、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984)、Nucleic Acid Hybridization(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編、1984)、Transcription And Translation(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編、1984)、Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1986)、Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press、1986)、B.Perbal、A Practical Guide To Molecular Cloning(1984)、Methods in Enzymologyシリーズ(Academic Press,Inc.)、Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.MillerおよびM.P.Calos編、1987、Cold Spring Harbor Laboratory)、Methods in Enzymology、第154巻および第155巻(それぞれWuおよびGrossman編、Wu編)、MayerおよびWalker編(1987)、Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Academic Press、London)、Scopes、(1987)、Protein Purification:Principles And Practice、第2版(Springer−Verlag、N.Y.)、ならびにHandbook Of Experimental Immunology、第I IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編(1986)を参照されたい。
【0105】
GDF8に特異的なエピトープおよびその拮抗剤
特異的GDF8抗体およびヒトGDF8の重複を有する13個のアミノ酸のペプチドを用いたエピトープマッピングにより、GDF8の特異的拮抗を標的とし得る、GDF8に特異的な候補エピトープが明らかとなった(実施例4.2)。この手法に基づいて、GDF8に特異的な5個の独立したエピトープを同定した。本発明は、これらのエピトープ(そのペプチド模倣体が含まれる)、エピトープをコードしているポリヌクレオチド、それに対する阻害性ポリヌクレオチド、およびGDF8活性に対する特異的拮抗剤としてそれに関連する抗体を提供する。
【0106】
GDF8に特異的なエピトープおよびそのペプチド模倣体
本発明は、GDF8に特異的であると生物学的に特徴づけられていてもよく、したがって本明細書中でGDF8に特異的なエピトープと呼ばれる、エピトープに相同的な新規の単離および精製したポリペプチドを提供する。これらのGDF8特異的エピトープのペプチド模倣体を、GDF8拮抗剤として、すなわち、GDF8活性、たとえば、GDF8がその受容体に結合することを拮抗するために使用し得ることが、本発明の一部である。
【0107】
たとえば、本発明は、GDF8に特異的な5個の結合ドメイン(GDF8のALK4/ALK4受容体結合部位が含まれ得る)をコードしており、本明細書中で「GE1」、「GE2」、「GE3」、「GE4」、および「GE5」と命名する、GDF8受容体拮抗剤/ペプチド模倣体としても機能し得る、精製および単離したポリヌクレオチドを提供する。本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含んでいてもよく、完全にまたは部分的に合成であってもよい。本明細書中に記載するヌクレオチド配列への言及には、内容により他のものが必要とされる場合以外は、指定した配列を有するDNA分子または遺伝的均等物(たとえば相補的配列)、およびTがUで置換されている指定した配列を有するRNA分子が包含される。本発明の好ましいDNA配列には、ゲノムおよびcDNA配列ならびに化学合成DNA配列が含まれる。
【0108】
ヒトcDNAと指定されるヒトGE1、GE2、GE3、GE4、およびGE5をコードしているcDNAのヌクレオチド配列を、それぞれ配列番号3、5、7、9、および11として記載する。また、本発明のポリヌクレオチドには、配列番号3、5、7、9、および11として記載したヌクレオチド配列もしくはその補体を有するおよび/もしくはそれから本質的になるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、ならびに/または、それぞれGE1、GE2、GE3、GE4、もしくはGE5の実質的な生物活性を保持するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドも含まれる。また、本発明のポリヌクレオチドには、少なくとも12個の連続したヌクレオチドを含む、配列番号3、5、7、9、および11として記載したヌクレオチド配列の連続した一部分も含まれる。
【0109】
ヒトGE1、GE2、GE3、GE4、GE5、およびそれに対する模倣ポリペプチドのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4、6、8、10および12として記載されている。また、本発明のポリペプチドには、少なくとも4個の連続したアミノ酸を含む、配列番号4、6、8、10および12として記載した配列のうちの任意のものの連続した一部分を有するおよび/またはそれから本質的になるアミノ酸配列を有する、ポリペプチドも含まれる。また、本発明のポリペプチドには、L−アミノ酸のうちの1つまたは複数がその対応するD−アミノ酸で置き換えられている、その連続した一部分を含めた配列番号4、6、8、10および12として記載した配列のうちの任意のものも含まれる。また、本発明のポリペプチドには、配列番号4、6、8、10および12の活性断片、すなわち、完全長のヒトGE1、GE2、GE3、GE4、またはGE5の実質的な生物活性を保持する、配列番号4、6、8、10および12として記載した配列のうちの任意のものの任意の連続した一部分、すなわち、GDF8に特異的な結合ドメインおよび/またはそれに対する模倣ペプチドがGDF8活性の特異的拮抗剤であり得る、配列番号4、6、8、10および12の任意の断片も含まれる。さらに、本発明のポリペプチドは、周知の方法を用いてアセチル化および/またはアミドブロッキングし得る。また、本発明のポリヌクレオチドには、上述のこれらポリヌクレオチドに加えて、配列番号4、6、8、10および12として記載したアミノ酸配列ならびにその連続した一部分のうちの任意のものをコードしており、遺伝暗号の周知の縮重のみが原因で上述のヒト由来のポリヌクレオチドと異なるポリヌクレオチドも含まれる。
【0110】
また、本発明は、GDF8に特異的なエピトープに対する環状模倣ペプチドをコードしている精製および単離したポリヌクレオチド、たとえば、GE1、GE2、GE3、GE4、およびGE5も提供する。本発明の好ましいDNA配列には、ゲノムおよびcDNA配列ならびに化学合成DNA配列が含まれる。当業者は、本発明には、GDF8に特異的な他の結合ドメインに基づいた環状模倣ペプチドなどの、他の環状分子も含まれることを理解されよう。さらに、本発明の環状模倣ペプチドは、周知の方法を用いてアセチル化および/またはアミドブロッキングされていてもよい。
【0111】
GDF8に特異的な抗体
本開示は、GDF8と特異的に相互作用する新規抗体を提供する(たとえば、抗体または抗原結合タンパク質断片)。そのような抗体の非限定的な例示的な実施形態をRK22と呼ぶ。本発明の抗体は独特かつ有益な特徴を有する。第1に、これらの抗体は、高い親和性で成熟GDF8と結合することができる(実施例2)。第2に、開示した抗体は、GDF8と特異的に相互作用する、すなわち、本発明の抗体は、TGF−βサブファミリー、たとえばBMP11の他のメンバーと高い親和性では結合しない(実施例2)。第3に、本発明の抗体は、実証するように、in vitroおよびin vivoでGDF8活性を阻害する(実施例3)。第4に、開示した抗体は、骨格筋量および骨密度の負の調節に関連するGDF8活性を阻害し得る(実施例3)。
【0112】
一実施形態では、本明細書中で開示した抗体は、GDF8と特異的に相互作用することができる、すなわち、抗体は、他のタンパク質、たとえばTGF−βスーパーファミリーに属するもの、たとえば、BMP11、アクチビン、ミュラー管阻害物質、グリア由来神経栄養因子、またはGDF8以外の成長および分化因子と大規模に反応しないことが企図される。本発明の非限定的な一実施形態では、本発明の特異的GDF8抗体または抗原結合タンパク質は、それがBMP11と結合するよりも5〜10倍高い優先度でGDF8と結合する。本発明の非限定的な実施形態では、本発明の特異的抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質は、それがBMP11と結合するよりも10〜100倍高い優先度でGDF8と結合する。本発明の非限定的な一実施形態では、目的の特異的抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質は、それがBMP11と結合するよりも100〜1000倍高い優先度でGDF8と結合する。別の実施形態では、本発明の特異的抗GDF8抗体または抗原結合タンパク質は、本明細書中に開示したもの(たとえば、配列番号4、6、8、10および12として記載したアミノ酸配列またはその活性断片を有するおよび/またはそれから本質的になる、GDF8に特異的なエピトープ)を含めた、GDF8に特異的なエピトープと結合する。本発明の一実施形態では、企図される抗体は、成熟GDF8の予測されたALK4/ALK5結合部位、たとえば、配列番号4、6または8として記載したアミノ酸配列を有するGDF8エピトープと特異的に相互作用する。
【0113】
当業者は、本発明の抗体を、様々な種に由来するGDF8タンパク質、たとえば本明細書中に記載のものを検出、測定、および阻害するために使用し得ることを理解されよう。%同一性は、標準のアラインメントアルゴリズム、たとえば、Altschulら((1990)J.Mol.Biol.、215:403〜10)に記載されているBasic Local Alignment Tool(BLAST)、Needlemanら((1970)J.Mol.Biol.、48:444〜53)のアルゴリズム、またはMeyersら((1988)Comput.Appl.Biosci.、4:11〜17)のアルゴリズムなどによって決定する。一般に、本発明の抗体および抗体または抗原結合タンパク質断片は、実質的なGDF8の生物活性を保持し、配列番号1として記載したGDF8の成熟型の、少なくとも100、80、60、40、20、または15個の連続したアミノ酸の任意の配列と、少なくとも約70%、80%、90%、95%、またはそれより高い同一性であるアミノ酸配列を含む、任意のタンパク質と共に使用することができる。
【0114】
免疫グロブリンとしても知られるインタクト抗体は、典型的には、四量体のグリコシル化タンパク質は、それぞれ約25kDaの2本の軽(L)鎖、およびそれぞれ約50kDaの2本の重(H)鎖からなる。λおよびκと呼ばれる2種類の軽鎖が抗体中に存在する。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、5つの主要なクラス、すなわち、A、D、E、G、およびMに割り当てられ、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類し得る。それぞれの軽鎖は、N末端の可変(V)ドメイン(VL)および定常(C)ドメイン(CL)からなる。それぞれの重鎖は、N末端のVドメイン(VH)、3または4個のCドメイン(CH)、およびヒンジ領域からなる。VHに最も近位のCHドメインをCH1と呼ぶ。VHおよびVLドメインは、フレームワーク領域と命名される比較的保存されている配列の4つの領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)からなり、これらは、超可変配列(相補性決定領域、CDR)の3つの領域の足場を形成する。CDRは、抗体または抗原結合タンパク質の、抗原との特異的な相互作用を担っている残基のほとんどを含有する。CDRはCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる。したがって、重鎖上のCDR構成要素はH1、H2、およびH3と呼ばれ、軽鎖上のCDR構成要素はL1、L2、およびL3と呼ばれる。CDR3は、抗体または抗原結合タンパク質の結合部位内の分子多様性の最大の供給源である。たとえば、H3は、2個のアミノ酸残基の短いもの、または26個のアミノ酸より長いものであることができる。様々な免疫グロブリンクラスのサブユニット構造および三次元立体配置が当分野で周知である。抗体構造の総説には、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Harlowら編、1988を参照されたい。当業者は、それぞれのサブユニット構造、たとえば、CH、VH、CL、VL、CDR、および/またはFR構造が活性断片を含むことを理解されよう。たとえば、活性断片は、抗原と結合するVH、VL、もしくはCDRサブユニットの一部分、すなわち、抗原結合断片、または、Fc受容体および/もしくは補体と結合するおよび/もしくはそれを活性化するCHサブユニットの一部分からなり得る。
【0115】
本明細書中で使用する用語「抗体または抗原結合タンパク質断片」に包含される結合断片の非限定的な例には、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片、(ii)ジスルフィド橋によってヒンジ領域で連結された2個のFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)1個のVHドメインからなるdAb断片、ならびに(vi)単離したCDRが含まれる。さらに、Fv断片、VLおよびVHの2個のドメインは別々の遺伝子によってコードされているが、これらは合成リンカーによって組換えにより結合されて、VLおよびVHドメインが対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖を生じ得る(単鎖Fv(scFv)として知られる)。最も一般的に使用されるリンカーは、15個の残基の(Gly4Ser)3ペプチドであるが、他のリンカーも当分野で知られている。また、単鎖抗体は、用語「抗体もしくは抗原結合タンパク質」または抗体の「抗原結合断片」内に包含されることも意図する。
【0116】
これらの抗体は、当業者に知られている慣用技術を用いて得て、断片は、インタクト抗体と同様に有用性についてスクリーニングする。抗体の多様性は、可変ドメインをコードしている複数の生殖系列遺伝子および様々な体性事象によって生じる。体性事象には、多様性を有する可変遺伝子セグメント(D)と連結(J)遺伝子セグメントとの組換えによる完全なVHドメインの作製、および可変と連結遺伝子セグメントとの組換えによる完全なVLドメインの作製が含まれる。組換えプロセス自体は不正確であり、V(D)J接合部でアミノ酸の損失または付加がもたらされる。これらの多様性の機構は、抗原に曝露する前に発生中のB細胞中で起こる。抗原刺激後に、B細胞中の発現された抗体遺伝子が体細胞突然変異を受ける。生殖系列遺伝子セグメントの推定数、これらのセグメントのランダム組換え、およびランダムVH−VL対合に基づいて、1.6×107個までの異なる抗体が生じ得る(Fundamental Immunology、第3版(1993)、Paul編、Raven Press、ニューヨーク州New York)。抗体の多様性に寄与する他のプロセス(体細胞突然変異など)を考慮した場合、1×1010個以上の異なる抗体が作製され得ると考えられる(Immunoglobulin Genes、第2版(1995)、Jonioら編、Academic Press、カリフォルニア州San Diego)。抗体の多様性の発生に関与するプロセスが多く存在するため、同じ抗原特異性を有する独立して誘導したモノクローナル抗体が同一のアミノ酸配列を有する可能性は低い。
【0117】
したがって、本発明は、GDF8と特異的に相互作用する新規抗体、すなわち特異的GDF8抗体を提供する。本発明の抗体または抗原結合タンパク質断片、たとえば、CDRを含有する構造は、一般に、抗体もしくは抗原結合タンパク質の重鎖もしくは軽鎖の配列またはその活性断片であり、CDRは、天然に存在するVHおよびVLのCDRに対応する位置に配置される。免疫グロブリン可変ドメイン、たとえばCDRの構造および位置は、周知の番号付けスキーム、たとえば、Kabatの番号付けスキーム、Chothiaの番号付けスキーム、KabatおよびChothiaの組合せ(AbM)などを用いて定義し得る(たとえば、Sequences of Proteins of Immunological Interest、米国社会福祉省(1991)、Kabatら編、Al−Lazikaniら(1997)J.Mol.Bio.、273:927〜948を参照)。
【0118】
したがって、本発明は、新規CDRをさらに提供する。本発明のCDRを保有するための構造は、一般に、ポリペプチド、たとえば、抗体もしくは抗原結合タンパク質の重鎖もしくは軽鎖の配列またはその実質的な一部分であり、CDRは、天然に存在するVHおよびVLドメインのCDRに対応する位置に配置される。免疫グロブリン可変ドメインの構造および位置は、たとえば、Kabatら、上記およびAl−Lazikaniら、上記に記載されているように決定し得る。
【0119】
本発明のポリペプチドと特異的に相互作用することができる抗体または抗原結合タンパク質分子は、当業者に周知の方法によって産生し得る。たとえば、モノクローナル抗体は、既知の方法に従ったハイブリドーマの作製によって産生することができる。その後、この様式で形成したハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびBiacore分析などの標準方法を用いてスクリーニングして、GDF8と特異的に相互作用する(たとえばGDF8と結合する)ならびに/または、少なくとも1つのGDF8活性(たとえば、GDF8がその受容体もしくは他の下流のGDF8シグナル伝達事象に結合すること)を拮抗する(たとえば、阻害、低下、および/もしくは中和する)抗体を産生する、1つまたは複数のハイブリドーマを同定する。
【0120】
組換えGDF8、天然に存在するGDF8、およびGDF8の抗原ペプチド断片を免疫原として使用し得る。抗原ペプチド断片は、少なくとも6個の連続したアミノ酸を含み、それに対して産生させた抗体がGDF8と特異的免疫複合体を形成するようなエピトープが包含される。好ましくは、抗原ペプチドは、少なくとも4個のアミノ酸残基を含む。さらに、GDF8の抗原ペプチド断片は、GDF8に特異的なエピトープ(たとえば、配列番号4、6、8、10、12として記載したアミノ酸配列を有するおよび/もしくはそれから本質的になるペプチド、または活性断片転移)を含むことが好ましい。
【0121】
本発明の一実施形態では、完全長GDF8ポリペプチドを免疫原として使用し得るか、または、ポリペプチドの抗原ペプチド断片を使用し得る。たとえば、免疫原は、GDF8特異的エピトープ(たとえば、GDF8に特異的なエピトープ、および/または、それに向けられた特異的抗GDF8抗体および/または模倣ペプチドのエピトープが、GDF8シグナル伝達の特異的拮抗剤(たとえば、配列番号4、6、8、10、12のアミノ酸配列のうちの1つもしくは複数、およびその活性断片))および/または関連するペプチドもしくは環状ペプチドであり得る。本発明のポリペプチドの抗原ペプチドは、少なくとも4個の連続したアミノ酸残基を含み、ペプチドに対して産生させた抗体がポリペプチドと特異的免疫複合体を形成するようなエピトープが包含される。好ましくは、抗原ペプチドは、少なくとも4個のアミノ酸残基、より好ましくは少なくとも6個のアミノ酸残基、さらにより好ましくは少なくとも9個のアミノ酸残基を含む。
【0122】
モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマを調製する代わりに、本発明のポリペプチドに対するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリ(たとえば抗体ファージディスプレイライブラリ)を本発明のポリペプチドでスクリーニングすることで、ポリペプチドと結合する免疫グロブリンライブラリのメンバーを単離することによって、同定および単離し得る。ファージディスプレイライブラリを作製およびスクリーニングための技術および市販のキットは、当業者に周知である。さらに、抗体または抗原結合タンパク質ディスプレイライブラリの作製およびスクリーニングに使用するために、特に受け入れられる方法および試薬の例は、文献中に見つけることができる。
【0123】
ポリクローナル血清および抗体は、適切な対象を、GDF8、その変異体、および/またはその一部分、たとえば、本発明の特異的GDF8エピトープで免疫化することによって産生し得る。免疫化した対象内の抗体価は、ELISAなどを用いた標準技術によって、または固定したGDF8もしくは他のマーカータンパク質(たとえばFLAG)を用いることによって、経時的に監視し得る。所望する場合は、本発明のポリペプチドに向けられた抗体分子を対象または培養培地から単離し、タンパク質Aクロマトグラフィーなどの周知の技術によってさらに精製して、IgG画分を得てもよい。
【0124】
さらに、ヒトおよび非ヒト部分の両方を含む、本発明のポリペプチドに対するキメラ、ヒト化、および単鎖抗体を、標準の組換えDNA技術を用いて産生し得る。また、ヒト化抗体は、内在性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができないが、ヒト重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いても産生し得る。
【0125】
本発明の抗体または抗原結合タンパク質分子(断片が含まれる)(たとえば、GDF8と特異的に相互作用する抗体または抗原結合タンパク質分子)には、それだけには限定されないが、モノクローナルRK22抗体、その変異体(たとえばヒト化変異体)およびその断片が含まれる。また、GDF8と特異的に相互作用する本発明の抗体または抗原結合タンパク質分子は特異的GDF8拮抗剤であってもよく、したがって、これらの抗体または抗原結合タンパク質分子は、GDF8関連障害、たとえば、骨、筋肉、脂肪およびグルコース代謝に関連する病状の予防または治療に有用であり得る。
【0126】
したがって、また、本発明は、少なくとも1つのGDF8活性を拮抗し得る特異的GDF8抗体の領域をコードしている、精製および単離したポリヌクレオチド、たとえば、RK22およびその変異体も提供する。本発明の好ましいDNA配列には、ゲノム、cDNA、および化学合成DNA配列が含まれる。上述のように、本発明の抗体または抗原結合タンパク質の領域をコードしているポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAを含んでいてよく、全体的または部分的に合成であってよい。本明細書中に記載するヌクレオチド配列への言及には、内容により他のものが必要とされる場合以外は、指定した配列を有するDNA分子またはゲノム均等物(たとえば相補的配列)、およびTがUで置換されている指定した配列を有するRNA分子が包含される。
【0127】
本発明のヌクレオチド配列には、マウスRK22の軽鎖可変ドメインをコードしているもの、たとえば、配列番号15として記載したヌクレオチド配列が含まれる。また、本発明のヌクレオチド配列には、マウスRK22の重鎖可変ドメインをコードしているもの、たとえば、配列番号13として記載したヌクレオチド配列も含まれる。また、本発明のポリヌクレオチドには、実質的に配列番号13および15として記載した核酸配列やその補体を有するおよび/もしくはそれから本質的になるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、ならびに/または、RK22の可変ドメインの実質的な生物活性(すなわち活性断片)を保持するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドも含まれる。また、本発明のポリヌクレオチドには、少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含む、配列番号13および15として記載した配列の連続した一部分も含まれる。
【0128】
マウスRK22の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、配列番号16として記載されている。マウスRK22の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、配列番号14として記載されている。ヒト化可変重鎖および軽鎖ドメインのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17および18に記載されている。マウスRK22の重鎖内に含有されるCDRのアミノ酸配列は、配列番号19〜21および25〜27として記載されている。マウスRK22の軽鎖内に含有されるCDRのアミノ酸配列は、配列番号22〜24および28〜30として記載されている。また、本発明のポリペプチドには、少なくとも5個の連続したアミノ酸を含む、実質的に配列番号14、16、17、18、および19〜30として記載した配列のうちの任意のものの連続した一部分も含まれる。本発明の好ましいポリペプチドには、配列番号14、16、17、18、および19〜30としての活性断片、すなわち、本発明の抗体または抗原結合タンパク質の実質的な生物活性を保持している、配列番号14、16、17、18、および19〜30として記載した任意の配列の任意の連続した一部分が含まれる。また、上述のポリヌクレオチドに加えて、本発明には、実質的に配列番号14、16、17、18、および19〜30として記載したアミノ酸配列をコードしているポリヌクレオチド、またはその連続した一部分、ならびに、遺伝暗号の周知の縮重のみが原因で上述の抗体または抗原結合タンパク質のポリヌクレオチドと異なるものも含まれる。
【0129】
上述のように、CDRは、抗原との特異的な相互作用を担っている残基のほとんどを含有し、VHおよびVLドメイン、すなわち、それぞれ重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン内に含有される。したがって、抗体が、本発明の抗体または抗原結合タンパク質の少なくとも1つのCDR、たとえば、配列番号19〜30として記載したアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含むCDR、またはその活性のある抗体もしくは抗原結合タンパク質断片を含む限りは、これは本発明の抗体である、すなわち、GDF8と特異的に相互作用する(たとえばGDF8と結合する)および/またはGDF8活性を特異的に拮抗する抗体である。したがって、本発明の一実施形態には、配列番号19〜30として記載したアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列、またはその活性断片のアミノ酸配列を含む、1つまたは複数のCDRを含有する抗体が含まれる。したがって、当業者は、本発明の抗体には、VL鎖のCDRが、配列番号22〜24および28〜30として記載したものの1つもしくは複数のCDRであり、および/またはVH鎖のCDRが、配列番号19〜21および25〜27として記載したものの1つもしくは複数のCDRである、抗体または抗原結合タンパク質が含まれることを理解されよう。
【0130】
抗原結合断片は、VHおよびVLドメインからなるFv断片であり得る。したがって、RK22のFv断片は、断片がGDF8と特異的に相互作用する限りは、本発明の抗体を構成し得る。当業者は、RK22のFv断片を含有する任意の抗体または抗原結合タンパク質断片も本発明の抗体であり得ることを理解されよう。さらに、配列番号19〜30として記載したアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のCDRを含有する、任意のFv断片、scFv断片、Fab断片、またはF(ab’)2断片も、本発明の抗体または抗原結合タンパク質であり得る。
【0131】
本発明の特定の実施形態は、RK22のFv断片のVHおよび/またはVLドメインを含む。本発明の抗体の断片、たとえば、Fab、F(ab’)2、Fd、およびdAb断片は、抗体、たとえばRK22の、当分野で周知の方法に従った切断によって生成し得る。たとえば、免疫学的に活性のあるFabおよびF(ab’)2断片は、抗体を酵素、たとえば、それぞれパパインおよびペプシンで処理することによって作製し得る。
【0132】
さらなる実施形態は、本明細書中に開示した抗体のVHドメイン(たとえばRK22のVHドメイン(配列番号14および17として記載)ならびに本明細書中に開示した抗体のVLドメイン(たとえばRK22のVLドメイン(配列番号16および18として記載のうちの任意のものの、1つまたは複数のCDR(たとえば、配列番号19〜21および25〜27として記載した1つまたは複数のCDR)を含む。一実施形態は、RK22のVHドメインのH3断片(配列番号21として記載を含む。
【0133】
便宜上、VHおよびVLドメイン内のそれぞれのCDRのおおよその位置を表2に示す。
【0134】
【表2】
【0135】
本明細書中に開示する抗体は、抗体もしくは抗原結合タンパク質の定常ドメインまたはその一部をさらに含み得る。たとえば、本発明のVLドメインは、そのC末端で、抗体または抗原結合タンパク質の軽鎖定常ドメイン、たとえば、ヒトCκまたはCλ鎖、好ましくはCλ鎖に付着していてよい。同様に、VHドメインに基づく特異的抗原結合断片は、そのC末端で、任意の抗体アイソタイプ、たとえば、IgG、IgA、IgE、およびIgM、ならびにアイソタイプサブクラスのうちの任意のもの、特にIgG1およびIgG4に由来する免疫グロブリン重鎖の、すべてまたは一部に付着していてよい。例示的な実施形態では、抗体は、ヒトIgG1λの重鎖および軽鎖のC末端断片を含む。遺伝暗号の縮重が原因で、配列の簡単な説明1に記載されているDNA配列は、目的のアミノ酸配列、ペプチド、および抗体をコードしている核酸の単なる代表であり、したがって限定的であると解釈されるべきでないことを理解されたい。
【0136】
本発明の特定の実施形態は、RK22のFv断片のVHおよび/またはVLドメインを含む。さらなる実施形態は、これらのVHおよびVLドメインのうちの任意のものの1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含む。一実施形態は、RK22のVHドメインのH3断片を含む。特定の実施形態では、本発明のVHおよびVLドメインは生殖系列化である、すなわち、これらのドメインのフレームワーク領域(FR)は、ヒト生殖系列遺伝子産物のコンセンサスアミノ酸配列と一致するように、慣用の分子生物学技術を用いて変化されている。これは、ヒト化または生殖系列化抗体としても知られる。他の実施形態では、フレームワーク配列は生殖系列とは相違したままである。ヒト化抗体は、内在性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができないが、ヒト重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて産生し得る。
【0137】
本発明のさらなる態様は、抗体のGDF8に特異的な抗原結合ドメインを得る方法を提供する。当業者は、本発明の抗体が、表2に記載のようにVHおよびVLドメインの特異的配列に限定されず、抗原結合能力を保持するこれらの配列の変異体も含まれることを理解されよう。そのような変異体は、提供した配列から当分野で知られている技術を用いて誘導し得る。アミノ酸の置換、欠失、または付加は、FRまたはCDR中に行うことができる。フレームワーク領域内の変化は、通常は抗体の安定性を改善し、免疫原性を低下させるために設計されているが、CDR内の変化は、通常、その標的に対する抗体の親和性を増加させるために設計されている。そのような親和性を増加させる変化は、典型的には、CDR変更し、抗体を試験することによって経験的に決定される。そのような変更は、たとえば、Antibody Engineering、第2版、Borrebaeck編、Oxford University Press、1995に記載の方法に従って行うことができる。
【0138】
したがって、本発明の抗体もしくは抗原結合タンパク質(またはその断片)には、GDF8と特異的に相互作用するもの、ならびに重鎖および軽鎖の定常ドメイン中に突然変異を有するものも含まれる。定常ドメインの特定の断片を突然変異または不活性化させることが望ましい場合もある。たとえば、Fc受容体(FcR)および/または補体との結合が低下した抗体を産生するために、重鎖定常ドメイン中の突然変異が望ましい場合がある。そのような突然変異は当分野で周知である。また、当業者は、CLおよびCHサブユニットのどの活性断片が必要であるかの決定は、本発明の抗体を適用する応用に依存することを理解されよう。たとえば、互いに対するその共有結合に関与する、CLおよびCHサブユニットの活性断片が、インタクト抗体の作製に重要である。
【0139】
本明細書中に記載したVHドメインのアミノ酸配列変異体であるVHドメインを作製する方法は、本明細書中で開示したVHドメインのアミノ酸配列中に1つまたは複数のアミノ酸を付加、欠失、置換または挿入するステップと、それによりもたらされるVHドメインを1つまたは複数のVLドメインと任意選択で組み合わせ、VHドメインまたはVH/VLの組合せもしくは複数の組合せを、GDF8との特異的な相互作用について試験するステップと、そのような抗原結合ドメインの、1つまたは複数のGDF8関連活性を変調する能力を(好ましくは)試験するステップとを含む。VLドメインは、実質的に本明細書中に記載のものであるアミノ酸配列を有し得る。本明細書中に開示したVLドメインの1つまたは複数の配列変異体を1つまたは複数のVHドメインと組み合わせる、類似の方法も用い得る。
【0140】
本発明のさらなる態様は、GDF8と特異的に相互作用する抗原結合断片を調製する方法を提供する。この方法は、後に置き換えられるCDR、たとえばCDR3、またはCDR、たとえばCDR3コード領域を欠くVHドメインのどちらかが含まれる、VHドメインをコードしている核酸の開始レパートリーを提供することと、ドナー核酸がレパートリー中のCDR、たとえばCDR3領域内に挿入されて、VHドメインをコードしている核酸の生成物レパートリーがもたらされるように、レパートリーを本発明のドナーCDRをコードしているドナー核酸(たとえば、配列番号14、16、17、18の活性断片を含むCDRをコードしているドナー核酸と組み合わせることと、生成物レパートリーの核酸を発現させることと、GDF8に特異的な抗原結合断片を選択することと、特異的抗原結合断片またはそれをコードしている核酸を回収することとを含む。ここでも、本発明のVL CDR(たとえばL3)を、後に置き換えられるCDRが含まれるまたはCDRコード領域を欠く、VLドメインをコードしている核酸のレパートリーと組み合わせる、類似の方法を用い得る。
【0141】
本発明のCDR(たとえばCDR3)のコード配列は、CDR(たとえばCDR3)を欠く可変ドメインのレパートリー内に、組換えDNA技術を用いて導入し得る。たとえば、Marksら((1992)Bio/Technology、10:779〜83)は、可変ドメイン領域の5’末端またはその付近に向けられたコンセンサスプライマーを、ヒトVH遺伝子の第3のフレームワーク領域に対するコンセンサスプライマーと併せて使用して、CDR3を欠くVH可変ドメインのレパートリーを提供する、抗体または抗原結合タンパク質の可変ドメインのレパートリーを生成する方法を記載している。レパートリーは特定の抗体のCDR3と組み合わせ得る。類似の技術を用いて、本発明のCDR3由来の配列を、CDR3を欠くVHまたはVLドメインのレパートリーとシャフリングしてもよく、シャフリングした完全なVHまたはVLドメインを同族VLまたはVHドメインと組み合わせて、本発明の特異的抗原結合断片が提供される。その後、適切な抗原結合断片を選択することができるように、レパートリーをWO92/01047号のファージディスプレイ系などの適切な宿主中で表示させ得る。
【0142】
類似のシャフリングまたはコンビナトリアル技術は、β−ラクタマーゼ遺伝子に関連する技術を記載しているが、この手法を抗体の産生に使用し得ると観察している、Stemmer((1994)Nature、370:389〜91)によっても開示されている。さらなる代替方法は、1つまたは複数の選択したVHおよび/またはVL遺伝子のランダム突然変異誘発を用いて可変ドメイン全体内に突然変異を生じさせ、本発明のCDR由来の配列を保有する新規VHまたはVLドメインを産生することである。そのような技術は、誤りがちPCRを使用することによってGramら((1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、89:3576〜80)に記載されている。新規抗体またはその断片を産生するために使用し得る別の方法は、突然変異誘発をVHまたはVLのCDRの遺伝子に向けることである。そのような技術は、Barbasら((1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、91:3809〜13)およびSchierら((1996)J.Mol.Biol.、263:551〜67)に開示されている。
【0143】
同様に、1つ、2つ、または3つすべてのCDRをVHまたはVLドメインのレパートリー内に移植してもよく、その後、これらをGDF8に特異的な特異的結合パートナーまたは結合断片についてスクリーニングすることができる。免疫グロブリン可変ドメインの実質的な一部分が、少なくともCDR、および任意選択で、本明細書中に記載した抗体断片からのその介在フレームワーク領域を含む。また、この一部分には、FR1およびFR4の一方または両方の少なくとも約50%も含まれ、50%は、FR1のC末端の50%およびFR4のN末端の50%である。可変ドメインの実質的な部分のN末端またはC末端の追加の残基は、通常は天然に存在する可変ドメインに付随していないものであり得る。たとえば、組換えDNA技術によって作製した本発明の特異的抗体または抗原結合タンパク質断片の構築は、クローニングまたは他の操作ステップを容易にするために導入されたリンカーによってコードされているNまたはC末端残基の導入をもたらし得る。他の操作ステップには、本発明の可変ドメインを、免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(たとえば、二重特異性抗体の産生において)または以下にさらに詳述するタンパク質標識を含めたさらなるタンパク質配列と結合するための、リンカーの導入が含まれる。
【0144】
実施例中に例示する実施形態は、VHおよびVLドメインの「一致する」対を含むが、本発明には、VHまたはVLドメイン配列のどちらか、特にVHドメインに由来する単一の可変ドメイン、たとえばdAb断片を含有する結合断片も包含される。単鎖特異的結合ドメインのどちらかである場合は、これらのドメインを用いて、GDF8と結合することができる2個のドメインの特異的抗原結合ドメインを形成することができる相補的ドメインについてスクリーニングし得る。これは、たとえばWO92/01047号に開示されている、いわゆる階層的二重コンビナトリアル手法を用いたファージディスプレイスクリーニング方法によって達成し得る。この技術では、HまたはL鎖の一方のクローンを含有する個々のコロニーを用いて、他方の鎖(LまたはH)をコードしているクローンの完全ライブラリを感染させ、生じる二本鎖の特異的抗原結合ドメインを、その参考文献中に記載されているものなどのファージディスプレイ技術に従って選択する。この技術はMarksら、上記にも開示されている。
【0145】
抗体は、放射性核種、薬物、巨大分子、または他の薬剤を用いた化学的方法によってコンジュゲートさせることができ、本発明の1つまたは複数のCDRを含む融合タンパク質として作製し得る。
【0146】
抗体または抗原結合タンパク質の融合タンパク質はVH−VL対を含有し、これらの鎖のうちの一方(通常はVH)および別のタンパク質は、単一のポリペプチド鎖として合成する。これらの種類の生成物は、一般に追加の機能的要素(たとえば、小分子の活性部分またはコンジュゲートもしくは融合した巨大分子の主要な分子構造的特徴)を有するという点で抗体とは異なる。
【0147】
概要を上述したアミノ酸配列の変化に加えて、抗体は、グリコシル化、peg化、またはアルブミンもしくは非タンパク質ポリマーと連結させることができる。たとえば、本明細書中で開示した抗体は、様々な非タンパク質ポリマー、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンのうちの1つと連結させ得る。抗体は、たとえば、ポリマーとの共有結合によってその循環半減期を増加させるために、化学修飾し得る。例示的なポリマーおよびそれらをペプチドに付着させる方法は、当分野で知られている。
【0148】
他の実施形態では、抗体または抗原結合タンパク質は、変更されたグリコシル化パターンを有するように(すなわち、元のまたはネイティブグリコシル化パターンと比較して)修飾し得る。本明細書中で使用する「変更された」とは、1つもしくは複数の炭水化物部分が欠失している、および/または1つもしくは複数のグリコシル化部位が元の抗体に付加されていることを意味する。本明細書中で開示した抗体へのグリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列を、グリコシル化部位のコンセンサス配列が含有されるように変更するための周知の方法によって達成する。抗体上の炭水化物部分の数を増加させる別の手段は、グリコシドを抗体のアミノ酸残基に化学的または酵素的カップリングさせることによる。抗体上に存在する任意の炭水化物部分の除去は、化学的または酵素的に、当分野で知られているように達成し得る。
【0149】
また、本発明の抗体は、131Iまたは99Tcなどの検出可能または機能的な標識でタグ付けしてもよく、これは、当分野で知られている慣用の化学を用いて本発明の抗体に付着させ得る。また、標識には、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼなどの酵素標識も含まれる。標識には、特異的な同族の検出可能な部分、たとえば標識したアビジンとの結合によって検出し得る、ビオチンなどの化学部分がさらに含まれる。
【0150】
CDR配列が本明細書中に開示した抗体のCDR配列とわずかにしか異ならない抗体が、本発明の範囲内に包含される。わずかな差異には、軽微なアミノ酸変化、たとえば、CDRの配列中の任意の5個のアミノ酸のうちの1個または2個の置換が含まれる。典型的には、アミノ酸は、同様の電荷、疎水性、または立体化学的特徴を有する、関連するアミノ酸によって置換される。そのような置換は、当業者の通常の技術範囲内にある。構造のフレームワーク領域(FR)は、抗体の結合特性に有害な影響を与えずに、CDRよりも実質的に改変することができる。FRへの変化には、それだけには限定されないが、非ヒト由来のフレームワークのヒト化または抗原接触もしくは結合部位の安定化に重要な特定のフレームワーク残基の操作、たとえば、定常ドメインのクラスもしくはサブクラスの変化、Fc受容体結合などのエフェクター機能を変更し得る特異的アミノ酸残基の変化(たとえば、Lundら(1991)J.Immunol.、147:2657〜62、Morganら(1995)Immunology、86:319〜24)、または定常ドメインが由来する種の変化が含まれる。抗体は、重鎖のCH2ドメイン中に、エフェクター機能、たとえば、Fc受容体結合および補体の活性化を低下または変更する突然変異を有し得る。たとえば、抗体は、米国特許第5,624,821号および第5,648,260号に記載されているものなどの突然変異を有し得る。また、抗体は、たとえばAngalら(1993)Mol.Immunol.、30:105〜08に開示されているように、IgG4のヒンジ領域中の突然変異などの、免疫グロブリンの2本の重鎖間のジスルフィド結合を安定化する突然変異も有し得る。
【0151】
また、本発明のポリペプチドおよび抗体には、開示したポリペプチドおよび抗体と構造的に異なるタンパク質、たとえば、開示したポリペプチドおよび抗体から変更された配列を有するが、実質的に同じ生化学的特性を有するもの、たとえば、機能的に重要でないアミノ酸の変化のみを有するものも包含される。そのような分子には、天然に存在する対立遺伝子変異体および変更、置換、置換え、挿入、または欠失を含有する計画的に操作した変異体が含まれる。そのような変更、置換、置換え、挿入、または欠失のための技術は、当業者に周知である。
【0152】
さらに、本発明の抗体は、抗原による刺激に応答して、動物の内在性抗体ではなく完全ヒト抗体を産生するように改変されたトランスジェニック非ヒト動物を用いて産生し得る。たとえばPCT公開WO94/02602号を参照されたい。非ヒト宿主中の重鎖および軽鎖の免疫グロブリン鎖をコードしている内在性遺伝子は無能力にされており、ヒトの重鎖および軽鎖の免疫グロブリンをコードしている活性座位が宿主のゲノム内に挿入されている。ヒト遺伝子は、たとえば必須のヒトDNAセグメントを含有する酵母人工染色体を用いて取り込ませる。その後、改変の完全な補体よりも少ないものを含有する中間のトランスジェニック動物を交雑育種することによって、すべての所望の改変を提供する動物を子孫として得る。そのような非ヒト動物の一実施形態はマウスであり、PCT公開WO96/33735号およびWO96/34096号に開示されているように、XENOMOUSE(商標)と呼ばれる。この動物は、完全ヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。抗体は、目的の免疫原で免疫化した後に動物から直接、たとえばポリクローナル抗体の調製物として、あるいは、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマなどの動物に由来する不死化B細胞から得ることができる。さらに、ヒト可変ドメインを有する免疫グロブリンをコードしている遺伝子を回収および発現させて抗体を直接得ることができるか、または、さらに改変して抗体の類似体、たとえば単鎖Fv分子などと得ることができる。
【0153】
したがって、本明細書中で使用する用語、抗体または抗原結合タンパク質には、インタクト抗体、抗体の断片、たとえば、Fab、F(ab’)2 Fd、dAbおよびscFv断片、インタクト抗体ならびにその定常および/または可変ドメインのどちらかが突然変異した断片(たとえば、キメラ、部分的にヒト化、または完全ヒト化抗体を産生するため、また、所望の特色、たとえば、増強したGDF8結合および/または低下したFcR結合を有する抗体を産生するための突然変異)が含まれる。したがって、抗体または抗原結合タンパク質がGDF8と特異的に相互作用する限りは、これらの抗体または抗原結合タンパク質は本発明の範囲内に含まれる。
【0154】
また、他のタンパク質結合分子も、GDF8の活性を変調するために用い得る。そのような抗原結合分子には、小モジュール免疫医薬品(SMIP(商標))の薬物(Trubion Pharmaceuticals、ワシントン州Seattle)が含まれる。SMIPとは、抗原、対抗受容体などの同族構造の結合ドメイン、1個または0個のシステイン残基を有するヒンジ領域ポリペプチド、ならびに免疫グロブリンのCH2およびCH3ドメインからなる単鎖ポリペプチドである。SMIPならびにその使用および応用は、たとえば、すべてその全体が本明細書中に参考として組み込まれている、米国公開特許出願第2003/0118592号、第2003/0133939号、第2004/0058445号、第2005/0136049号、第2005/0175614号、第2005/0180970号、第2005/0186216号、第2005/0202012号、第2005/0202023号、第2005/0202028号、第2005/0202534号、および第2005/0238646号、ならびにその関連特許ファミリーのメンバーに開示されている。
【0155】
本発明の抗体または抗原結合タンパク質の結合能力は、以下の方法によって測定し得る:以下の実施例に記載のBiacore分析、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、X線結晶構造解析、配列解析および突然変異誘発のスキャン、ならびに当分野で周知の他の方法。本発明の抗体または抗原結合タンパク質が1つまたは複数のGDF8関連活性を阻害、低下、および/または中和する能力は、以下の非限定的な方法のリストによって測定し得る:GDF8依存性細胞系の増殖を測定するアッセイ、GDF8媒介ポリペプチドの発現を測定するアッセイ、下流のシグナル伝達分子の活性を測定するアッセイ、関連する動物モデルにおいて本発明の抗体または抗原結合タンパク質が筋肉障害を予防する効率を試験するアッセイ、以下の実施例に記載のアッセイ、および当分野で周知の他のアッセイ。
【0156】
本発明のさらなる態様は、GDF8と特異的に相互作用することができる、および/または1つもしくは複数のGDF8活性を特異的に拮抗することができる抗体を選択する方法を提供する。この方法は、複数の抗体をGDF8で収縮させることと、GDF8と結合する第2の複数の抗体を選択することと、第2の複数の抗体がTGF−βスーパーファミリーの他のメンバーと結合する能力を試験することと、第2の複数の抗体から、TGF−βスーパーファミリーの他のメンバーとより低い親和性で結合する第3の複数の抗体を選択することとを含む。
【0157】
別の実施形態では、この方法は、第3の複数の抗体が少なくとも1つのGDF8活性を拮抗する(たとえば、GDF8がGDF8受容体と結合することを予防する)能力を試験するステップと、1つまたは複数のGDF8活性を拮抗する(たとえば、GDF8がその受容体に結合することを予防する)ことができる抗体を選択するステップとをさらに含む。
【0158】
また、本発明の抗GDF8抗体は、上清中、細胞溶解物中、または細胞表面上のGDF8を単離、精製、および/または検出するためにも有用である。本発明中に開示した抗体は、臨床的試験手順の一部としてGDF8タンパク質レベルを監視するために、診断的に使用することができる。さらに、本発明の抗体は、1つまたは複数のGDF8関連障害の中和および/または阻害を必要とする治療、たとえば、筋肉関連の病状の治療に使用することができる。また、本発明は、新規の単離および精製したポリヌクレオチドならびにヒトGDF8に向けられている新規抗体に関連するポリペプチドも提供する。本発明の遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質、およびポリペプチドには、それだけには限定されないが、GDF8に対するマウスおよびヒト化抗体、たとえばRK22、ならびにその変異体が含まれる。
【0159】
拮抗剤である組換えポリヌクレオチドおよびポリペプチド
上述のように、本発明は、特異的GDF8拮抗剤として、GDF8に特異的なエピトープをコードしている単離および精製した核酸、またはそれに対するペプチド模倣体もしくは抗体をさらに提供する。本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含んでいてよく、全体的または部分的に合成であってよい。本明細書中に記載するヌクレオチド配列への言及には、指定した配列を有するDNA分子またはゲノム均等物、および内容により他のものが必要とされる場合以外はTがUで置換されている指定した配列を有するRNA分子を含む。
【0160】
本発明の単離したポリヌクレオチド、たとえば、配列番号3、5、7、9、11、13および15は、開示したポリヌクレオチドをコードしているものと同一またはそれに類似の配列を有する核酸を同定および単離するための、ハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして使用し得る。非限定的な例として、このような様式で抗体または抗原結合タンパク質のポリヌクレオチドを使用して単離したポリヌクレオチドを使用して、たとえば、GDF8に対する特異的抗体を産生し得る、またはそのような抗体を発現する細胞を同定し得る。核酸を同定および単離するハイブリダイゼーション方法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーションおよびノーザンハイブリダイゼーションが含まれ、当業者に周知である。
【0161】
ハイブリダイゼーション反応は、様々なストリンジェンシーの条件下で行うことができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーには、任意の2個の核酸分子が互いにハイブリダイズする際の困難性が含まれる。好ましくは、それぞれのハイブリダイズするポリヌクレオチドは、低いストリンジェンシーの条件下、より好ましくはストリンジェントな条件、最も好ましくは高いストリンジェンシーの条件下で、その対応するポリヌクレオチドとハイブリダイズする。ストリンジェンシー条件の例を以下の表3に示す。高いストリンジェンシーの条件とは、少なくともたとえば条件A〜Fと同等にストリンジェントなものであり、ストリンジェントな条件とは、少なくともたとえば条件G〜Lと同等にストリンジェントなものであり、低いストリンジェンシーの条件とは、少なくともたとえば条件M〜Rと同等にストリンジェントなものである。
【0162】
【表3-1】
【0163】
【表3-2】
【0164】
TB−TR:長さが50個未満の塩基対であることが期待されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(Tm)よりも5〜10℃低いはずであり、Tmは以下の方程式に従って決定する。長さが18個未満の塩基対のハイブリッドでは、Tm(℃)=2(A+T塩基の数)+4(G+C塩基の数)である。長さが18〜49個の塩基対のハイブリッドでは、Tm(℃)=81.5+16.6(log10Na+)+0.41(%G+C)−(600/N)であり、Nは、ハイブリッド中の塩基の数であり、Na+は、ハイブリダイゼーション緩衝液中のナトリウムイオンの濃度である(1×SSCのNa+=0.165M)。
【0165】
ポリヌクレオチドハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件のさらなる例は、本明細書中に参考として組み込まれている、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第9章および第11章、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harbor(1989)、ならびにAusubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、第2.10節および第6.3節〜第6.4節、John Wiley & Sons,Inc.(1995)に提供されている。
【0166】
本発明の単離したポリヌクレオチドは、開示したポリヌクレオチドの対立遺伝子変異体をコードしている配列を有するDNAを同定および単離するための、ハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして使用し得る。対立遺伝子変異体とは、開示したポリヌクレオチドによってコードされているポリペプチドと同一またはそれと有意な類似性を有するポリペプチドをコードしている、開示したポリヌクレオチドの天然に存在する代替形である。好ましくは、対立遺伝子変異体は、開示したポリヌクレオチドと少なくとも90%の配列同一性(より好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも99%の同一性)を有する。
【0167】
また、本発明の単離したポリヌクレオチドは、開示したポリヌクレオチドに相同的なポリペプチドをコードしている配列を有するDNAを同定および単離するための、ハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとしても使用し得る。これらの相同体は、開示したポリペプチドおよびポリヌクレオチドとは異なる種から、または同じ種内から単離したが、開示したポリヌクレオチドおよびポリペプチドに対して有意な配列類似性を有する、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドである。好ましくは、ポリヌクレオチド相同体は、開示したポリヌクレオチドと少なくとも50%の配列同一性(より好ましくは少なくとも75%の同一性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性)を有する一方で、ポリペプチド相同体は、開示した抗体/ポリペプチドと少なくとも30%の配列同一性(より好ましくは少なくとも45%の同一性、最も好ましくは少なくとも60%の同一性)を有する。好ましくは、開示したポリヌクレオチドおよびポリペプチドの相同体は、哺乳動物種から単離したものである。
【0168】
また、本発明の単離したポリヌクレオチドは、本発明のGDF8に特異的なエピトープまたは抗体を発現する細胞および組織、ならびにそれらが発現される条件を同定するための、ハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとしても使用し得る。
【0169】
さらに、本発明の単離したポリヌクレオチドは、細胞または生物において、本発明のポリヌクレオチドに対応する遺伝子の発現変更(すなわち、増強、低下、または改変)するために使用し得る。これらの「対応する遺伝子」とは、転写されて本発明のポリヌクレオチドが由来するmRNAを生じる、本発明のゲノムDNA配列である。
【0170】
細胞または生物における、本発明に関連する配列の変更された発現は、アンチセンスポリヌクレオチド、本発明の遺伝子から転写されたmRNAと結合および/またはそれを切断するリボザイム、遺伝子の調節領域を標的とする三重鎖形成オリゴヌクレオチド、ならびに標的mRNAの配列特異的分解を引き起こす低分子干渉RNAなどの、様々な阻害性ポリヌクレオチドの使用によって達成し得る(たとえば、Galderisiら(1999)J.Cell.Physiol.、181:251〜57、Sioud(2001)Curr.Mol.Med.、1:575〜88、KnauertおよびGlazer(2001)Hum.Mol.Genet.、10:2243〜51、Bass(2001)Nature、411:428〜29)。そのような阻害性ポリヌクレオチドは、本発明の拮抗剤であるとみなされる。当業者は、本発明の阻害性ポリヌクレオチドは、(本発明の拮抗抗体ではなく)上記に提供するようにGDF8に特異的なエピトープに向けられているべきであることを理解されよう。
【0171】
本発明によって包含される阻害性三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)は、高い特異性および親和性で二重鎖DNAの主溝中に結合する(KnauertおよびGlazer、上記)。本発明の遺伝子の発現は、遺伝子の調節領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列)に相補的なTFOを標的化させて、遺伝子の転写を防止する三重らせん構造を形成することによって、阻害することができる。
【0172】
本発明の一実施形態では、本発明の阻害性ポリヌクレオチドは、低分子干渉RNA(siRNA)分子である(たとえば、Galderisiら(1999)J.Cell Physiol.、181:251〜57、Sioud(2001)Curr.Mol.Med.、1:575〜88を参照)。これらのsiRNA分子は、標的mRNAの配列特異的分解を引き起こす短い二重鎖のRNA分子である。この分解は、RNA干渉(RNAi)として知られている(たとえば、Bass(2001)Nature、411:428〜29)。RNAiは最初に下等生物で同定され、哺乳動物細胞に有効に応用されており、最近では、Fas mRNAを標的としたsiRNA分子で治療したマウスにおいて劇症肝炎を予防することが示されている(Songら(2003)Nature Med.、9:347〜51)。さらに、くも膜下腔内に送達したsiRNAは、最近、ラットにおいて2つのモデル(作用剤誘導性疼痛モデルおよび神経因性疼痛モデル)で疼痛応答を遮断することが報告されている(Dornら(2004)Nucleic Acids Res.、32(5):e49)。
【0173】
本発明のsiRNA分子の二重鎖構造は、重合したRNAの1つまたは複数の鎖を含み得る、すなわち、二重鎖構造は、ヘアピンループを含む1本の自己相補的RNA鎖または2本の相補鎖によって形成され得る。標的配列と比較して挿入、欠失、および単一の点突然変異を有するsiRNA配列も、標的配列の発現の阻害に有効であることが見出されている(Fireら、米国特許第6,506,559号)。したがって、本発明のsiRNA分子は、本発明のGDF8に特異的な標的エピトープに対応するmRNAの少なくとも一部分と実質的な配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことが好ましい。たとえば、本発明のsiRNA分子の二重鎖領域は、GDF8に特異的な標的エピトープに対応するmRNAの少なくとも一部分と90%を超える配列同一性、好ましくは100%の配列同一性を有し得る。あるいは、実質的な配列同一性は、siRNA分子の二重鎖領域の少なくとも1つの鎖が、少なくとも、たとえば、上記表3の条件G〜Lとして定義したストリンジェントな条件下で、GDF8に特異的な標的エピトープの少なくとも一部分とハイブリダイズする能力として定義し得る。本発明の好ましいが非限定的な実施形態では、siRNA分子は、高いストリンジェンシーの条件、たとえば、少なくともたとえば上記表3の条件A〜Fと同等にストリンジェントな条件下で、GDF8に特異的な標的エピトープの少なくとも一部分とハイブリダイズする。実質的に同一のヌクレオチド配列の長さは、少なくとも10、15、19、21、23、25、50、100、200、300、400、または500個のヌクレオチドであってよく、好ましくは19〜27個のヌクレオチドであり、最も好ましくは19または21個のヌクレオチドである(Fireら、上記を参照)。
【0174】
本発明の阻害性ポリヌクレオチドは、当分野で周知の基準に基づいて(たとえばElbashirら(2001)EMBO J.、20:6877〜88)および/または周知のアルゴリズムを用いることによって(たとえば、公的に利用可能なアルゴリズム)設計し得る。たとえば、本発明の阻害性ポリヌクレオチドの標的化部分(たとえばsiRNA分子の二重鎖領域)は、好ましくは、AA(最も好ましい)、TA、GA、またはCAから開始されるべきである。本発明のsiRNA分子は、好ましくは、GC比が45〜55%である配列を含むべきである。本発明のsiRNA分子は、好ましくは、3個の同じヌクレオチドを連続して含有すべきではない。本発明のsiRNA分子は、好ましくは、7個の混合G/Cを連続して含有すべきではない。これらの基準、または他の既知の基準(たとえばReynoldsら(2004)Nat.Biotechnol.、22:326〜30)に基づいて、GDF8に特異的なエピトープを標的とする本発明のsiRNA分子が当業者によって設計され得る。たとえば、一実施形態では、本発明のsiRNA分子は、配列番号3のヌクレオチド配列、配列番号5のヌクレオチド配列、配列番号7のヌクレオチド配列、配列番号9のヌクレオチド配列、配列番号11のヌクレオチド配列、およびその断片からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有するおよび/またはそれから本質的になり得る。本実施形態では、本発明のsiRNA分子は、配列番号3のヌクレオチド配列の補体、配列番号5のヌクレオチド配列の補体、配列番号7のヌクレオチド配列の補体、配列番号9のヌクレオチド配列の補体、配列番号11のヌクレオチド配列の補体、およびその断片の補体をさらに含む。
【0175】
たとえば、本発明のsiRNA分子は、2本の相補的な一本鎖RNA分子を一緒にアニーリングさせることによって(Fireら、上記)、または、それ自体が折り畳まれて必須の二本鎖部分を生じる単一のヘアピンRNA分子の使用によって作製し得る(Yuら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:6047〜52)。siRNA分子は、化学合成であるか(Elbashirら(2001)Nature、411:494〜98)、または一本鎖DNA鋳型を用いたin vitro転写によって生成され得る(Yuら、上記)。あるいは、siRNA分子は、本発明に関連するポリヌクレオチドを、そのプロモーターに対してセンスおよび/またはアンチセンスの配向で含む、以下に記載の発現ベクターを用いて、生物学的に、一過的(Yuら、上記、Suiら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:5515〜20)または安定的(Paddisonら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:1443〜48)に生成することができる。組換えRNAポリメラーゼをin vivoもしくはin vitroの転写に使用してもよく、または、改変した細胞の内在性RNAポリメラーゼがin vivoの転写を媒介し得る。最近では、初代ヒト細胞における標的mRNAのレベルの効率的かつ配列特異的な様式の低下が、siRNA分子へとさらにプロセッシングされるヘアピンRNAを発現するアデノウイルスベクターを用いて実証された(Artsら(2003)Genome Res.、13:2325〜32)。
【0176】
本発明の阻害性ポリヌクレオチドは、当分野で周知の手順を含めた化学合成および酵素ライゲーション反応を用いて構築し得る。化学合成ポリヌクレオチドのヌクレオシド結合は、ヌクレアーゼ媒介分解に抵抗する、一部の生物において二重鎖RNAによって生じる全体的パニック応答を回避する、および/またはその配列特異性を増加するその能力を増強するために修飾し得る。そのような結合の修飾には、それだけには限定されないが、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、ボラノホスフェート、モルホリノ、およびペプチド核酸(PNA)結合が含まれる(Galderisiら、上記、Heasman(2002)Dev.Biol.、243:209〜14、Micklefield(2001)Curr.Med.Chem.、8:1157〜79)。
【0177】
上述のように、本発明に関連する単離したポリヌクレオチド、またはその連続した一部分は、センスまたはアンチセンスの配向で発現制御配列と作動可能に連結している、および/または、本発明の阻害性ポリヌクレオチド(たとえばsiRNA分子)を組換え発現させるための発現ベクター内にライゲーションさせ得る。
【0178】
また、本発明は、上述の本発明少なくとも1つの核酸を含む、プラスミド、ベクター、転写物または発現カセットの形態の構築体も提供する。
【0179】
本発明の単離したポリヌクレオチドは、本発明の特異的エピトープ(たとえばペプチド模倣体として)または抗体を組換え産生するための発現制御配列と作動可能に連結していてもよい。さらに、当業者は、本発明のポリヌクレオチドをコードしている抗体または抗原結合タンパク質は、様々な抗体アイソタイプの定常ドメインをコードしている周知のヌクレオチド配列と作動可能に連結していてもよいことを理解されたい。たとえば、本発明の軽鎖可変ドメインをコードしている本発明のポリヌクレオチド(たとえば配列番号15として記載したヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、連結したヌクレオチドの発現により、GDF8と特異的に相互作用するおよび/またはそれを特異的に拮抗する可変ドメインを有する完全なκまたはλ軽鎖がもたらされるように、κ軽鎖もしくはλ軽鎖のどちらかの定常ドメイン(またはその誘導体)をコードしているヌクレオチド配列と作動可能に連結していてもよい。同様に、本発明の重鎖可変ドメインをコードしている本発明のポリヌクレオチド(たとえば配列番号13として記載したヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、重鎖アイソタイプ(またはその誘導体)、たとえば、IgM、IgD、IgE、IgGおよびIgAの定常ドメインをコードしているヌクレオチド配列と作動可能に連結していてもよい。組換えタンパク質を発現させるための一般的な方法は当分野で周知である。そのような組換えタンパク質は、GDF8に関連する障害の治療に使用するために、可溶型で発現させ得る。本発明の組換え発現ベクターは、付加配列、宿主細胞中でベクターの複製を調節する配列(たとえば複製起点)、ヒスチジンなどのタグ配列、および選択マーカー遺伝子を保有し得る。選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする。たとえば、典型的には、選択マーカー遺伝子は、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を、ベクターが導入された宿主細胞に与える。好ましい選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅を用いてdhfr宿主細胞で使用)およびneo遺伝子(G418選択用)が含まれる。
【0180】
プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および必要に応じて他の配列を含めた、適切な調節配列を含有する適切なベクターは、選択または構築し得る。ベクターは、必要に応じて、プラスミドまたはウイルス、たとえば、ファージ、もしくはファージミドであり得る。さらなる詳細には、たとえば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual:第2版、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989を参照されたい。たとえば、核酸構築体の調製、突然変異誘発、配列決定、細胞内へのDNAの導入および遺伝子発現、ならびにタンパク質の分析において、核酸を操作するための、多くの知られている技術およびプロトコルが、Current Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubelら編、John Wiley & Sons、1992に詳述されている。
【0181】
また、本発明は、上述の1つまたは複数の構築体、たとえば、本明細書中に提供する、GDF8に特異的な任意のエピトープをコードしている組換え核酸、CDR(H1、H2、H3、L1、L2、もしくはL3)、VHドメイン、VLドメイン、または特異的抗原結合断片を含む宿主細胞も提供し、本発明の一態様を形成する。
【0182】
また、本発明には、タンパク質を、コードしている核酸から、宿主細胞内で発現させることによって、ペプチドを生成する方法も含まれる。発現は、核酸を含有する組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することによって達成し得る。
【0183】
いくつかの細胞系が、本発明のポリペプチドおよび抗体の組換え発現に適した宿主細胞である。哺乳動物宿主細胞系には、それだけには限定されないが、COS細胞、CHO細胞、293T細胞、A431細胞、3T3細胞、CV−1細胞、HeLa細胞、L細胞、BHK21細胞、HL−60細胞、U937細胞、HaK細胞、ジャーカット細胞ならびに一次組織および初代外植片のin vitro培養物に由来する細胞株が含まれる。また、そのような宿主細胞は、ゲノムDNAからなる本発明のポリヌクレオチドのスプライシングも可能にする。
【0184】
あるいは、酵母などの下等真核生物または原核生物中で本発明のポリペプチドおよび抗体を組換えによって産生させることも可能であり得る。潜在的に適切な酵母株には、それだけには限定されないが、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)株、およびカンジダ(Candida)株が含まれる。潜在的に適切な細菌株には、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)が含まれる。本発明のポリペプチドを酵母または細菌中で作製する場合は、機能的なタンパク質を得るために、たとえば、適切な部位のリン酸化またはグリコシル化によってそれらを修飾することが必要であり得る。そのような共有結合は、周知の化学または酵素方法を用いて達成し得る。
【0185】
また、本発明のポリペプチドおよび抗体は、バキュロウイルスベクターなどの1つまたは複数の昆虫発現ベクター中で本発明の単離したポリヌクレオチドを適切な制御配列と作動可能に連結させ、昆虫細胞発現系を用いて、組換えによっても産生させ得る。バキュロウイルス/Sf9発現系の材料および方法は、キットの形態で市販されている(たとえばMAXBAC(登録商標)キット、Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)。
【0186】
適切な宿主細胞中での組換え発現後、本発明のポリペプチドおよび抗体は、培地または細胞抽出物から、ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーなどの既知の精製プロセスを用いて精製し得る。また、精製には、本発明のポリペプチドおよび抗体と結合することが知られている薬剤を用いたアフィニティークロマトグラフィーも含まれ得る。また、これらの精製プロセスは、本発明のポリペプチドおよび抗体を天然源から精製するためにも使用し得る。
【0187】
あるいは、本発明のポリペプチドおよび抗体は、精製を容易にする形態で、組換えによって発現させ得る。たとえば、ポリペプチドは、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、またはチオレドキシン(TRX)などの、タンパク質との融合体として発現させ得る。そのような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、それぞれNew England BioLabs(マサチューセッツ州Beverly)、Pharmacia(ニュージャージー州Piscataway)、およびInvitrogenから市販されている。また、本発明のポリペプチドおよび抗体は、小さなエピトープでタグ付けし、続いて、エピトープに対する特異的抗体または抗原結合タンパク質を用いて同定または精製することもできる。好ましいエピトープは、Eastman Kodak(コネチカット州New Haven)から市販されているFLAGエピトープである。
【0188】
また、本発明のポリペプチドおよび抗体は、知られている慣用の化学合成によっても産生し得る。本発明のポリペプチドおよび抗体を化学合成する方法は当業者に周知である。そのような化学合成のポリペプチドおよび抗体は、天然の精製したポリペプチドおよび抗体と共通した生物学的特性を保有している場合があり、したがって、天然のポリペプチドおよび抗体の生物活性のあるまたは免疫学的な置換体として用い得る。
【0189】
本発明のさらなる態様は、本明細書中に開示した核酸、ポリペプチド、ベクター、または抗体およびその断片を含む宿主細胞を提供する。さらなる態様は、本発明の核酸を宿主細胞内に導入することを含む方法を提供する。導入には任意の利用可能な技術を用い得る。真核細胞では、適切な技術には、リン酸カルシウム形質移入、DEAEデキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介形質移入およびレトロウイルスまたは別のウイルス、たとえばワクシニアもしくは昆虫細胞ではバキュロウイルスを用いた形質導入が含まれる。細菌細胞では、適切な技術には、塩化カルシウム形質転換、電気穿孔およびバクテリオファージを用いた感染が含まれ得る。
【0190】
核酸の導入に続いて、たとえば、宿主細胞を遺伝子発現に適した条件下で培養することによって、核酸からのタンパク質産生が引き起こされるまたは可能となり得る。そのような条件は当分野で周知である。
【0191】
本発明による、阻害性ポリヌクレオチド、GDF8に特異的なエピトープ(たとえば、ペプチド模倣体および/もしくは免疫原として)、特異的抗体もしくは抗原結合タンパク質断片、VHドメイン、および/またはVLドメイン、ならびにコードしている核酸分子およびベクターは、たとえば、その天然の環境から実質的に純粋もしくは均一な形態で単離および精製されて、または、核酸の場合は、必要な機能を有するポリペプチドをコードしている配列以外の、由来する核酸もしくは遺伝子を含まないもしくは実質的に含まずに、提供し得る。
【0192】
生体試料中のGDF8を検出および定量化する方法
本発明は、生体試料中のGDF−8を検出および定量化する方法に関する。一部の実施形態では、この方法は、血清、血液、および血漿中の遊離および全GDF−8の両方を検出および定量化するための免疫アッセイを含む。一例では、免疫アッセイは、抗GDF−8治療のバイオマーカーとして有用なデータを提供する。具体的には、開示した免疫アッセイは、抗GDF−8治療前のベースラインでの臨床成績の予測的/予後的マーカーとして、抗GDF−8治療への曝露のマーカーとして、抗GDF−8薬の有効性または応答のマーカーとして、およびGDF−8が特定の病状または生物学的プロセスに関与していることの診断的マーカーとして、有用であり得る。
【0193】
特に、この方法は、GDF−8関連疾患または障害に罹患しているまたはそれを発生する危険性にある哺乳動物において、GDF−8関連疾患または障害を検出、診断、および予測するための診断的および/または予後的方法を提供する。この方法は、GDF−8変調剤、たとえば、GDF−8と結合するもの、またはGDF−8の生物活性を阻害するものを受ける、ヒト患者の適合性を評価するための使用に特に適している。
【0194】
特定の実施形態では、本発明は、GDF−8変調剤または抗GDF−8治療を受けている個体の進行を監視する方法を提供する。たとえば、方法は、GDF−8変調剤を用いた治療に対する個体の応答を評価するために提供する。治療に対する個体の応答を評価するために、免疫アッセイ方法を、GDF−8変調剤を投与する前、その間、およびその後に提供し得る。治療用抗体MYO−029を受けている哺乳動物においてGDF−8の存在を検出する方法も、本発明によって包含される。
【0195】
一実施形態では、本発明の免疫アッセイ方法は、遊離GDF−8を検出する。たとえば、遊離GDF−8とは、GDF−8結合タンパク質またはGDF−8変調剤、たとえばGDF−8結合または中和抗体と結合していないGDF−8である。別の実施形態では、全GDF−8、たとえば、遊離GDF−8およびすべての結合したGDF−8を検出する方法が包含される。
【0196】
筋肉関連障害に罹患している、またはそれを発生する危険性にある個体が、本明細書中に提供する方法の候補である。GDF−8活性の阻害は、筋肉関連障害に罹患しているものを含めた個体において筋肉量を増加させる。いくつかの障害が筋組織の機能障害に関連しており、たとえば、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋萎縮、臓器萎縮、虚弱、うっ血性閉塞性肺疾患、心不全、筋肉減少症、悪液質、ならびに他の疾患および状態によって引き起こされる筋消耗症候群である。さらに、筋肉量または筋肉強度を増加させる、原料用動物において成長または筋組織質量を増加させることを所望する個体または哺乳動物が、本明細書中に提供する方法の候補である。
【0197】
脂肪組織、代謝、または骨関連の障害または状態に罹患している、またはそれを発生する危険性にある個体も、本明細書中に記載および特許請求した方法の候補である。そのような障害または状態には、たとえば、2型糖尿病、耐糖能異常、代謝症候群(たとえば症候群X)、熱傷または窒素不均衡などの外傷によって誘導されたインスリン抵抗性、および脂肪組織障害(たとえば肥満症)の発生など、グルコース恒常性に関連するものが含まれる(Kimら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、281:902〜906(2001))。たとえば、GDF−8は、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を変調し(同上)、間葉前駆細胞および前脂肪細胞からの脂肪細胞の形成を阻害する(Rebbapragadaら、Mol.Cell Bio.、23:7230〜7242(2003))。脂肪蓄積は、GDF−8タンパク質を全身投与したGDF−8ノックアウトマウスおよび野生型成体マウスの両方で低下する(McPherronら、J.Clinical Invest.、109:595〜601(2002)、Zimmersら、Science、296:1486〜1488(2002))。
【0198】
本発明の方法の他の使用は当業者に明らかであり、以下にさらに例示する。
【0199】
免疫アッセイ
本明細書中に記載する免疫アッセイは、少なくとも2個の抗GDF−8抗体を利用するサンドイッチ型ELISAであり、1つはGDF8に特異的なGDF−8捕捉試薬として存在し、1つはGDF8に特異的なGDF−8検出試薬として存在する。どちらの抗体も、生体試料中に存在するGDF−8抗原と結合することができる。抗体の1つは、GDF−8をBMP−11よりも優先的に認識する。どちらの抗体もGDF−8を認識および結合することができる。さらに、特定の実施形態では、抗体は、その生物学的形態のうちの任意のもので存在するGDF−8と結合することができる(たとえば、活性GDF−8、潜在型GDF−8、血清タンパク質と結合したGDF−8、中和抗GDF−8抗体MYO−029と結合したGDF−8)。
【0200】
特定の実施形態では、対象アッセイで使用する抗体は、GDF−8と結合する単離したマウスモノクローナル抗体であるRK35である(配列番号31〜35および本明細書中に参考として組み込まれている米国出願US2007/0087000号を参照)。一部の実施形態では、RK35を捕捉抗体として利用する。GDF−8と結合するRK35の断片も本発明の方法で使用し得る。
【0201】
特定の実施形態では、対象アッセイで使用する第2の抗体は、GDF−8と結合する単離したマウスモノクローナル抗体であるRK22である。以下に例示するように、RK22はBMP−11と結合しない。一部の実施形態では、RK22を検出試薬として利用し、一部の実施形態では、これを捕捉試薬として使用する。GDF−8と結合するRK22の断片も本発明のアッセイで使用し得る。
【0202】
別の実施形態では、本発明の免疫アッセイは、ヒトIgG1抗GDF−8抗体である抗体MYO−029を利用する。MYO−029(配列番号33および34、本明細書中に参考として組み込まれている米国公開出願第2006/0240488号および第2006/0240487号を参照)は、MYO−029の非存在下で場合に生じるシグナルから減算することができるバックグラウンドレベルを得るために、免疫アッセイにおいてGDF−8の検出を遮断するために使用し得る。本実施形態は、定量化アッセイの感度および精度を増加させるために用いることができる。
【0203】
また、本発明の方法において有用な抗体には、たとえば、VHおよびVLドメインからなるFv断片、定常領域の間でジスルフィド結合によって共有結合されたVH−CH1およびVL−CLドメインからなるFab断片(断片抗原結合)などの、抗原結合断片も包含される。他の可能な抗原結合断片、および抗体構造の総説には、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Harlowら編、1988を参照されたい。
【0204】
非生殖系列化scFvであるMYO−029をコードしているファージミドベクターpCANTAB6で個別に形質転換させた大腸菌(E.coli)の培養物を、2002年10月2日に、American Tissue Culture Collection (ATCC)に、個別の受託番号PTA−4741として寄託した。受託機関の住所は、米国バージニア州Manassas、10801 University Blvd、20110である。
【0205】
GDF8を含有する試料を捕捉試薬と合わせた後、すべての非結合構成成分を洗浄によって除去し、その後、構成成分を、GDF−8を含有すると疑われる試料と、適切な結合条件下で接触させる。すべての非結合分子を除去するために洗浄した後、第2の抗GDF−8抗体を適切な結合条件下で加える。この第2の抗体は、検出抗体または試薬と呼ばれる。検出抗体には検出可能な標識が含まれていてよく、捕捉抗体と反応した分子と結合する。したがって、存在するすべてのGDF−8は、試料中のGDF8と結合した捕捉試薬、および検出抗体試薬の両方に結合する。結合していない分子および構成成分を洗浄によって除去する。したがって、標識の存在は、生体試料中のGDF−8の存在を示す。
【0206】
より詳細には、サンドイッチELISA方法を使用することができる。GDF−8を含有するまたは含有することが疑われる生体試料が、GDF8に特異的な捕捉試薬である。GDF−8と捕捉試薬との結合を可能にするために十分なインキュベーション期間の後、プレートを洗浄して結合していない構成成分を除去することができ、検出構成成分を加える。これらの分子をすべての捕捉された試料GDF−8と反応させ、プレートを洗浄し、当分野で周知の方法を用いて標識の存在を検出する。
【0207】
上述の免疫アッセイを実施するために、抗原および捕捉された試料と反応させる抗体を用いた免疫アッセイを含めた、上述のアッセイ試薬を、キットで、適切な指示書および他の必要な試薬と共に提供し得る。また、キットは、使用する具体的な免疫アッセイに応じて、適切な標識および他の梱包した試薬および物質(すなわち洗浄バッファーなど)も含有し得る。上述のものなどの免疫アッセイは、これらのキットを用いて実施することができる。
【0208】
免疫アッセイの具体的な実施形態遊離GDF−8の分析
一実施形態では、本発明は、生体試料中の遊離GDF−8の存在を検出する方法を含む。本実施形態の代表的な例を図21に示す。
【0209】
本明細書中で使用する用語、遊離GDF−8には、その活性のある成熟状態で存在するGDF−8が含まれる。成熟GDF−8は、単量体、二量体、またはホモ二量体であり得る。遊離GDF−8には、潜在型GDF−8(すなわち、GDF−8プロペプチドと会合した成熟GDF−8)、GDF−8結合タンパク質と会合したGDF−8、または抗GDF−8変調剤、たとえば、GDF−8結合および中和抗体などと会合したGDF−8は含有されない。
【0210】
一実施形態では、遊離GDF−8を検出および定量化する方法は、(a)GDF−8捕捉抗体および試料を、生体試料中に存在する場合にGDF−8が1つまたは複数の捕捉抗体と結合して捕捉抗体−GDF−8の複合体を形成することを可能にする条件下で合わせ、複合体形成条件下で、捕捉抗体−GDF−8の複合体と結合する検出抗体を加えるステップと、(b)存在する場合は、捕捉抗体−GDF−8の複合体と検出抗体との間に形成された複合体を、生体試料中のGDF−8の指標として検出するステップとを含む。
【0211】
検出抗体または抗原結合タンパク質は、検出可能な標識をさらに含み得る。一部の例では、検出抗体は標識されておらず、検出抗体を特異的に認識する検出剤を利用する。
【0212】
全GDF−8分析
一実施形態では、本発明は、生体試料中の全GDF−8の存在を検出する方法を含む。
【0213】
本明細書中で使用する用語、全GDF−8には、その活性のある成熟状態で存在するGDF−8、ならびにその潜在型(すなわち、GDF−8プロペプチドと会合した成熟GDF−8)、GDF−8結合タンパク質と会合したGDF−8、または抗GDF−8変調剤、たとえば、GDF−8結合および中和抗体と会合したGDF−8で存在するすべてのGDF−8が含まれる。全GDF−8の測定には、治療用抗体MYO−029によって結合されたGDF−8の測定が含まれる。
【0214】
酸解離
一実施形態では、全GDF−8を検出および定量化する方法は、酸解離方法を利用し、(a)GDF−8捕捉抗体を生体試料と、生体試料中に存在する場合にGDF−8が1つまたは複数の捕捉抗体と結合して捕捉抗体−GDF−8の複合体を形成することを可能にする酸性条件下(約pH1.0〜約pH6.0、好ましくは約pH2.5)で合わせ、捕捉抗体−GDF−8の複合体と結合するGDF−8検出抗体)を複合体形成条件下で加えるステップと、(b)存在する場合は、捕捉抗体−GDF−8の複合体と検出抗体との間に形成された複合体を、生体試料中のGDF−8の指標として検出するステップとを含む。
【0215】
検出抗体または抗原結合タンパク質は、検出可能な標識をさらに含み得る。一部の例では、検出抗体は標識されておらず、検出抗体を特異的に認識する検出剤を利用する。
【0216】
熱解離
別の実施形態では、全GDF−8を検出および定量化する方法は、熱解離方法を利用し、(a)GDF−8捕捉抗体または抗原結合タンパク質を固体担体の表面と接触させるステップと、(b)生体試料を、少なくとも63℃、たとえば、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、または90℃まで、少なくとも3分間、たとえば、5、7、9、10、12、14、または15分間加熱し、生体試料を固体担体と、生体試料中に存在する場合にGDF−8が1つまたは複数の捕捉抗体と結合して捕捉抗体−GDF−8の複合体を形成することを可能にする条件下で合わせるステップと、(c)捕捉抗体−GDF−8の複合体と結合する検出抗体を、ステップ(b)の固体担体に複合体形成酸性条件下で加えるステップと、(d)存在する場合は、捕捉抗体−GDF−8の複合体と検出抗体との間に形成された複合体を、生体試料中のGDF−8の指標として検出するステップとを含む。
【0217】
検出抗体または抗原結合タンパク質は、検出可能な標識をさらに含み得る。一部の例では、検出抗体は標識されておらず、検出抗体を特異的に認識する検出剤を利用する。
【0218】
この方法の一実施形態を図12に示し、これは、抗体MYO−029が検出抗体(たとえばビオチン標識したRK22)によって生じたシグナルを阻害することを示している。この様式で、アッセイのバックグラウンドを計算してステップ(d)で得られた値から減算することができる。
【0219】
遊離および全GDF−8を分析するための代替実施形態
特定の実施形態では、捕捉抗体を、固体担体または反応器の表面、たとえば、表面と共有結合または非共有結合させることによって接触させる。接触は、直接または間接的であり得る。表面は、表面の結合特徴に影響を与えるために、たとえば、化学的または放射線処理によって改変されていてもよい。
【0220】
特定の実施形態では、捕捉抗体を生体試料と接触させ、洗浄して結合していない構成成分を除去した後。非特異的な相互作用は、標的と特異的に結合しないタンパク質などの少なくとも1つの遮断剤を含む緩衝液を反応器に加える、遮断ステップを用いて最小限にし得る。遮断緩衝液は、たとえば、市販の遮断緩衝液、血清、ウシ血清アルブミン、乳、カゼイン、ゼラチン、および/または非イオン性洗剤を含み得る。一部の実施形態では、反応器をクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液または酢酸緩衝液などのpH約5〜約9を有する緩衝液で洗浄する。あるいは、たとえば、全GDF−8を検出および定量化する酸解離方法では、緩衝液は約pH3.0〜pH5.0である。
【0221】
本発明の方法で試験する生体試料は、血清、血液、血漿、生検試料、組織試料、細胞懸濁液、唾液、口腔液、脳脊髄液、羊水、乳、初乳、乳腺分泌物、リンパ液、尿、汗、潤滑液、および涙液から選択され得る。特定の実施形態では、生体試料は流体である。一部の実施形態では、生体試料は、血液、血清、および血漿から選択される。具体的な実施形態では、生体試料は、たとえば、ヒト、サル、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、またはニワトリの血清などからの血清である。
【0222】
他の実施形態では、生体試料を個体または複数の個体から単離し、試験の前に処理してもよい。たとえば、試料を希釈し得る。希釈緩衝液は、試験生体試料に対応するように、たとえば、バックグラウンド効果または試料マトリックスの干渉を考えて選択された、一定量化の対照生体試料を含んでいてもよい。一実施形態では、ヒト血漿の試験試料を、THST(50mMのトリス−HCl、pH8.0、1.0mMのグリシン、0.5MのNaCl、および0.05%(v/v)のTween20(登録商標)を含有)緩衝液で1:8倍に希釈し、8倍を超える生体試料の希釈液を、THST+GDF−8を枯渇させた12.5%のヒト血清で調製する。生体試料は、約2、4、5、8、10、12、14、15、16、32、64、または128倍に希釈し得る。他の実施形態では、生体試料を1:1.5または1:1.6に段階希釈して、希釈の直線性およびマトリックス効果の検証を可能にするデータ点の範囲を得る。一部の生体試料マトリックスででは、マトリックス干渉およびアッセイ感度が最適化されている希釈を選択し得る。
【0223】
希釈剤は特に限定されないが、たとえば、ヒト血清、GDF−8を枯渇させたヒト血清、マウス血清、GDF−8を枯渇させたマウス血清を含めた血清、脱イオン水、または、アッセイを酸性条件で行うかどうかに応じてpH約3.0〜pH約9.0の範囲内で緩衝作用を有する様々な緩衝液を含み得る。中性pHで行う遊離GDF−8の分析には、pHは、約6.5〜約8.5、約6.5〜約7.0、約7.0〜約7.5、約7.5〜約8.0、または約8.0〜約8.5である(たとえば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、またはホウ酸緩衝液)。酸性pHで行う全GDF−8の分析には、pHは、たとえば、約1.0〜約2.5、約2.5〜約5.5、約2.5〜約3.0、約3.0〜約3.5、約3.5〜約4.0、約4.0〜約4.5、または約4.5〜約5.5、約5.5〜約6.5である。
【0224】
一部の実施形態では、生体試料を、周知の方法を用いて分画または濃縮してもよく、その後、本明細書中に記載のアッセイに加えてGDF−8を検出し得る。たとえば、アッセイにおいてマトリックス干渉がGDF−8変調剤の検出を制限する場合には、分画(精製が含まれる)または濃縮を使用し得る。分画および濃縮技術には、それだけには限定されないが、遠心分離、硫安塩析、ポリエチレングリコール沈殿、トリクロロ酢酸(TCA)沈殿、親和性技術(抗体、たとえば抗GDF−8抗体などの特異的結合パートナーとコンジュゲートした樹脂を用いた免疫沈降など)、クロマトグラフィー技術、および他の分離技術が含まれる。
【0225】
生体試料をナイーブ個体から採取するか、または、生体試料を、GDF−8変調剤を投与する前、その間もしくはその後に採取し得る。たとえば、試料は、GDF−8変調剤を投与した1、2、4、6、7、8、10、12、14、15、20、25、30日後、またはそれより長い日数後に個体から得てもよい。また、生体試料は、GDF−8変調剤を投与した1、2、3、4、6、7、8、10、12、14、16週間後、またはそれよりも多い数の週の後に得てもよい。一部の例では、1年間までまたはそれを超える時点が適切である。生体試料は、遊離および全GDF−8の両方について試験し得る。全GDF−8の分析は、GDF−8変調剤で治療している個体において特に重要であり、これらの薬剤は検出剤または捕捉剤のどちらかが生体試料中のGDF−8と結合する能力を妨げ得るからである。したがって、全GDF−8の分析で利用する酸または熱解離方法が特に重要となる。
【0226】
特定の実施形態では、試験する生体試料のアリコートを捕捉抗体または抗原結合タンパク質と接触させ、十分な時間(たとえば、2〜120分間または1〜4時間)、適切な条件下(たとえば、23℃)でインキュベーションして、生体試料中にGDF−8が存在する場合は捕捉抗体とそれとの結合を可能にし、抗体/GDF−8の複合体の形成を可能にする。他の実施形態では、GDF−8/抗体の反応は、慣用の免疫アッセイでルーチン的に使用される条件下で実施する。典型的な手順は、捕捉抗体および生体試料を含む反応系を、45℃を超えない温度、たとえば、約4℃〜約40℃または約23℃〜約40℃などで、約0.5〜40時間、たとえば約1〜約20時間などの間、インキュベートまたは静置することを含む。
【0227】
インキュベーション期間後、一部の実施形態では、抗体/GDF−8の複合体を緩衝液で洗浄して、結合していない溶質を除去する。他の実施形態では、生体試料および検出抗体を同時に反応器に加える同時アッセイを行う。
【0228】
検出抗体を生体試料の後に加える特定の実施形態では、手順は、抗体/GDF−8の複合体および検出抗体を含む反応系を、45℃を超えない温度、たとえば、約4℃〜約40℃または約25℃〜約40℃などで、約0.5〜40時間または約1〜約20時間の間、インキュベートまたは静置することを含み得る。
【0229】
一部の実施形態では、検出抗体、抗原結合タンパク質またはその断片は、検出可能な標識を含む。さらなる実施形態では、検出抗体は、たとえば検出剤によって間接的に検出する。一部の実施形態では、反応器中に存在する本質的にすべての検出抗体が結合されるように、検出剤は過剰である。
【0230】
一部の実施形態では、「直接」標識は、補助試薬を加えずに検出可能なシグナルを自発的に生成することができる特異的結合メンバーと結合またはコンジュゲートした、任意の分子であり得る。一部の例には、放射性同位体(たとえば、125I、3H、14C)、フルオロフォア(たとえば、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、1−N−(2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシル−4−ピペリジル)−5−N−(アスパルテート)−2,4−ジニトロベンゼン)、色素(たとえば、フィコシアニン、フィコエリスリン、テキサスレッド、o−フタルアルデヒド)、化学発光性および生物発光分子を含めた発光分子、コロイド状金粒子、コロイド状銀粒子、他のコロイド状金属粒子、ポリスチレン色素粒子、色素ゾルなどの微小有色粒子、ならびに有色ラテックス粒子が含まれる。多くの他の適切な標識分子が当業者に周知であり、本発明の方法で利用し得る。
【0231】
特定の例では、標識は、酵素、たとえば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼなどであり得る。様々な実施形態では、特異的酵素と使用する基質は、対応する酵素の存在下における、色、蛍光、または発光の検出可能な変化の生成について選択する。酵素は、グルタルアルデヒドまたは還元性アミノ化架橋結合によって抗体または抗原結合タンパク質とコンジュゲートしていてよい。しかし、容易に認識されるように、幅広い種類の様々なコンジュゲーション技術が存在し、当業者が容易に利用可能である。
【0232】
好ましい実施形態では、検出抗体または抗原結合タンパク質をビオチン標識する。検出抗体として有用な抗GDF−8抗体は、実施例1に記載のようにビオチン標識し得る(たとえば、実施例1、セクションI、サブセクション5を参照)。様々なビオチン化試薬が、抗体を含めたタンパク質を効率的に標識することができる。ビオチン誘導体:抗体のモル比は、約10、15、20、40、または80:1であってよく、反応時間、反応物質の濃度、および温度は、反応に取り込ませるビオチンの量を調節するために変動させ得る。可変スペーサーアーム、溶解度に影響を与える修飾、および/またはビオチン部分の切断を可能にする反応基を含めたビオチン誘導体が、当分野で周知かつ利用可能である。たとえば、ビオチンのスクシンイミジルエステルおよび水溶性スルホスクシンイミジルエステルを含めたその誘導体を、GDF−8のビオチン化に使用し得る。取り込まれたビオチンの量を定量化するために、たとえば、逆相高圧液体クロマトグラフィー、質量分析などを含めた、周知の分析およびサイズ決定技術を使用する。さらに、たとえば、比色または蛍光定量化アッセイによってビオチンを定量化するための市販のキットが利用可能である(たとえば、HABA(2−(4’−ヒドロキシアゾベンゼン)−安息香酸)を利用するEZ(商標)ビオチン定量化キット、Pierceを参照)。
【0233】
一実施形態では、ビオチン標識したRK−22は、RK35と結合するGDF−8を検出するための検出剤である。
【0234】
特定の実施形態では、抗体または抗原結合タンパク質などの、ビオチン標識したおよび/または酵素標識した検出剤をGDF−8/抗体の複合体に加え、結合させる。過剰の試薬を洗い流し、その後、適切な基質を含有する溶液を反応器に加える。基質は酵素に触媒される反応を受けて、試料中に存在するGDF−8の量の指標である分光光度で測定可能な変化をもたらす。
【0235】
たとえば、ビオチン標識した検出抗体または抗原結合タンパク質は、アビジン−酵素のコンジュゲート、たとえばアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼとのその相互作用によって、アビジン−酵素のコンジュゲートおよび適切な色素原または蛍光原基質との逐次的なインキュベーションの後に、検出することができる。また、ビオチン標識した検出抗体は、ユーロピウムで標識したストレプトアビジンを用いても検出し得る。
【0236】
特定の実施形態では、反応器の表面と会合した抗体/GDF−8/抗体の複合体は、標識のシグナルの定性的または定量化的評価によって検出する。一部の例では、標識は、たとえば、蛍光もしくは発光によって直接、または基質を加えることによって間接的に測定する。他の例では、標識は、追加の試薬とインキュベーションした後に測定する。標識がビオチンである実施形態では、アビジンコンジュゲート(西洋ワサビペルオキシダーゼなど)を続くステップで加え得る。特定の一実施形態では、アビジンコンジュゲートは、固定した検出抗体または抗原結合タンパク質と結合し得る。過剰のアビジンコンジュゲートを洗い流す。その後、酵素の基質を加え、たとえば、色、蛍光、または発光の測定可能な変化がもたらされる。一部の実施形態では、西洋ワサビペルオキシダーゼの基質は、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンである。
【0237】
遊離および全GDF−8の定量化
GDF−8レベルは、当業者に周知の方法を用いて定量化し得る。特定の実施形態では、生体試料中のGDF−8レベルを、たとえば検量線を用いることによって得られたものなどの既知のレベルと比較する。GDF−8検量線の作成を実施例15に実証する。検量線は、緩衝液で希釈した既知の濃度のGDF−8を含み得る。特定の実施形態では、緩衝液は、たとえば、ヒト血清、マウス血清、霊長類血清、ウシ血清、またはヒツジ血清などの血清である。血清は、既知の濃度のGDF−8を加える前に内在性GDF−8を枯渇させていてもよい。血清は、天然でGDF−8を欠くベルジアンブルー畜牛から得てもよい。
【0238】
一実施形態では、生体試料中の遊離GDF−8を定量化する方法は、GDF−8捕捉抗体または抗原結合タンパク質および生体試料を、生体試料中に存在する場合にGDF−8が1つまたは複数の捕捉抗体と結合して捕捉抗体または抗原結合タンパク質−GDF−8の複合体を形成することを可能にする条件下で合わせ、標識したGDF−8検出抗体または抗原結合タンパク質をステップ(b)の固体担体に加えるステップと、(d)GDF−8検出抗体上の標識によって生じたシグナルを検出することによって、捕捉抗体−GDF−8の複合体と検出抗体との間に形成された複合体を検出するステップと、(e)標識したGDF−8検出抗体を含有する複合体によって生じたシグナルを、既知の量のGDF−8の対応するシグナル強度を決定することによって作成した検量線と比較することによって、生体試料中のGDF−8のレベルを定量化するステップとを含む。
【0239】
全GDF−8を定量化する方法は同様であるが、ただし生体試料を酸性緩衝液で希釈する。
【0240】
GDF8関連障害の進行を治療、寛解、予防、および阻害する方法
GDF8関連障害、たとえば、骨格筋、骨、グルコース恒常性などの発生および/または調節におけるGDF8の関与、ならびに本発明の新規特異的GDF8拮抗剤の発見は、GDF8関連障害、たとえば、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性または誘導性骨障害、グルコース代謝障害、脂肪障害、およびインスリン関連障害を治療、寛解または予防する方法を可能にする。さらに、拮抗剤は、生体試料中のGDF8のレベルを測定することによって、そのような障害の進行の診断、予後診断および監視を可能にする。特に、本発明のGDF8に特異的な拮抗剤エピトープ(たとえば、それに対するペプチド模倣体、それに対する阻害性ポリヌクレオチド、それに対する抗体、小分子など)を、GDF8関連障害に罹患している個体を治療するために、または患者がGDF8関連障害に罹患しているかどうかを識別する方法において使用し得る。
【0241】
本発明の拮抗剤は、ヒトまたは動物において様々な医学的GDF8関連障害を予防、診断、または治療するために有用である。拮抗剤は、GDF8に関連する1つまたは複数の活性を阻害、低下および/または中和するために使用することができる。最も好ましくは、拮抗剤は、GDF8の活性のうちの1つまたは複数を、本発明の拮抗剤の非存在下におけるGDF8と比較して、阻害または低下させる。特定の実施形態では、本発明の拮抗剤は、GDF8の活性を、1つまたは複数の抗GDF8抗体によって結合されていない成熟GDF8タンパク質と比較して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、または88%、より好ましくは少なくとも90、91、92、93、または94%、さらにより好ましくは少なくとも95%〜100%阻害する。GDF8活性の阻害または中和は、たとえば、Thiesら、上記に記載のpGL3(CAGA)12レポーター遺伝子アッセイ(RGA)、および実施例中に例示したActRIIB受容体アッセイで測定することができる。
【0242】
本明細書中で開示した拮抗剤によって診断、予後診断、監視、治療、寛解または予防される医学的障害は、GDF8関連障害、たとえば、たとえば筋ジストロフィー(MD、デュシェーヌ型筋ジストロフィーが含まれる)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋萎縮、臓器萎縮、虚弱、手根管症候群、うっ血性閉塞性肺疾患、筋肉減少症、悪液質、および筋消耗症候群(たとえば、他の疾患および状態によって引き起こされるもの)を含めた、筋肉または神経筋障害である。さらに、GDF8抗体によって診断、予後診断、監視、治療、寛解または予防され得る他の医学的障害は、肥満症、2型糖尿病、耐糖能異常、代謝症候群(たとえば症候群X)、外傷(熱傷または窒素不均衡など)によって誘導されたインスリン抵抗性、または骨変性疾患(たとえば、骨関節炎および骨粗鬆症)などの脂肪組織障害である。本発明の好ましいが非限定的な実施形態、本明細書中で開示した拮抗剤によって診断、予後診断、監視、治療、寛解または予防される医学的障害は、筋肉または神経筋障害である。本発明のさらに好ましいが非限定的な実施形態では、本明細書中で開示した拮抗剤によって診断、予後診断、監視、治療、寛解または予防される筋肉または神経筋障害は、MDまたはALSのどちらかである。
【0243】
本明細書中で開示した拮抗剤によって診断、治療、寛解または予防され得る他の医学的障害は、特に高齢者および/または閉経後の女性の骨粗鬆症、糖質コルチコイド誘導性骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、ならびに骨粗鬆症関連骨折を含めた、骨の損失に関連するものである。他の標的の代謝性骨疾患および障害には、慢性糖質コルチコイド療法による低骨量、早期性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、二次副甲状腺機能亢進、栄養障害、および神経性無食欲症が含まれる。本発明の拮抗剤は、好ましくは、哺乳動物、特にヒト、たとえば、将来妊娠するまたは妊娠している女性において、そのような医学的障害を予防、診断、寛解または治療するために使用する。
【0244】
本発明の拮抗剤は、治療上有効な量で投与する。一般に、治療上有効な量は、対象の年齢、状態、および性別、ならびに対象の病状の重篤度に応じて変動し得る。用量は、医師が決定し、治療の観察された効果に適合させるために必要に応じて調節し得る。そのような化合物の毒性および治療上の有効性は、たとえば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養または実験動物の標準の薬学的手順によって決定することができる。毒性と治療効果との用量比、すなわちLD50/ED50が治療指数であり、高い治療指数を示す拮抗剤が好ましい。
【0245】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトで使用するための用量の範囲を定式化するために使用することができる。そのような化合物の用量は、好ましくは、毒性がわずかしかないまたは毒性がないED50が含まれる循環濃度の範囲内にある。用量は、投薬の形態および投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本発明で使用する任意の拮抗剤について、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。細胞培養において決定されるIC50(たとえば、症状または生物活性の最大半量阻害が達成される試験拮抗剤の濃度)が含まれる循環血漿濃度範囲を達成するために、用量を動物モデルで定式化し得る。血漿中のレベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィーによって測定し得る。任意の特定の用量の効果は、適切なバイオアッセイによって監視することができる。適切なバイオアッセイの例には、それだけには限定されないが、DNA複製アッセイ、転写に基づいてアッセイ、GDF8タンパク質/受容体結合アッセイ、クレアチンキナーゼアッセイ、前脂肪細胞の分化に基づいたアッセイ、脂肪細胞におけるグルコース取り込みに基づいたアッセイ、および免疫学的アッセイが含まれる。
【0246】
一般に、組成物は、拮抗剤またはその結合断片が、1μg/kg〜150mg/kg、1μg/kg〜100mg/kg、1μg/kg〜50mg/kg、1μg/kg〜20mg/kg、1μg/kg〜10mg/kg、1μg/kg〜1mg/kg、10μg/kg〜1mg/kg、10μg/kg〜100μg/kg、100μg〜1mg/kg、および500μg/kg〜1mg/kgの用量で与えられるように投与する。好ましくは、拮抗剤は、拮抗剤の循環レベルを投薬後に最も長い時間の間最大とするために、ボーラス用量として与える。また、持続注入を、ボーラス用量の前、その後またはその代わりに使用してもよい。
【0247】
GDF8関連障害の治療剤を同定する方法
本発明のさらに別の態様は、たとえば、筋肉、グルコース代謝、脂肪、および骨障害の治療に有用な治療剤を同定する方法を提供する。適切なスクリーニングアッセイ、たとえばELISAに基づいたアッセイが当分野で知られている。そのようなスクリーニングアッセイでは、第1の結合混合物は、拮抗剤、特にGDF8に特異的なエピトープのペプチド模倣体または本発明の抗体もしくは抗原結合タンパク質およびそのリガンド、GDF8を合わせることによって形成し、第1の結合混合物中のリガンドと抗体との結合の量(M0)を測定する。第2の結合混合物も、拮抗剤、リガンド、およびスクリーニング化合物または薬剤を合わせることによって形成し、第2の結合混合物中のリガンドと抗体との結合の量(M1)を測定する。その後、第1および第2の結合混合物中の結合の量を、たとえばM1/M0比を計算することによって比較する。化合物または薬剤は、第1の結合混合物と比較して第2の結合混合物中の結合の減少が観察された場合に(すなわち、M1/M0<1)、GDF8と特異的に相互作用することができるとみなされる。結合混合物の配合および最適化は、当分野の技術レベル内にあり、そのような結合混合物は、結合を増強または最適化するために必要な緩衝液および塩も含有してよく、追加の対照アッセイも本発明のスクリーニングアッセイに含め得る。
【0248】
したがって、拮抗剤−リガンドの結合を、少なくとも約10%(すなわち、M1/M0<0.9)、好ましくは約30%より多く低下させることが見出された化合物を同定し、その後、所望する場合は、ActRIIB結合アッセイ、または実施例に記載もしくは当分野で周知の他の細胞に基づいたアッセイおよびin vivoアッセイなどの、他のアッセイにおいて、GDF8活性を阻害する能力について二次スクリーニングを行い得る。
【0249】
小分子
また、GDF8関連障害に罹患している(もしくはその危険性にある)生物(もしくは対象)、またはそのような障害に関与しているそのような生物からの細胞におけるGDF8活性の阻害は、GDF8を拮抗する、すなわちその活性を阻害する拮抗剤小分子(通常は有機小分子)の使用によっても達成し得る。新規拮抗性小分子は、上述のスクリーニング方法によって同定してもよく、本明細書中に記載の本発明の治療方法で使用し得る。
【0250】
逆に、減少したGDF8の発現および/または減少したGDF8レベルに関連する活性もしくは障害に関連する障害に罹患している(またはその危険性にある)生物(または対象)におけるGDF8活性の増加は、GDF8を刺激する、すなわちその活性を増強する小分子(通常は有機小分子)の使用によっても達成し得る。新規作用剤小分子は、スクリーニング方法によって同定してもよく、本明細書中に記載の本発明の治療方法で使用し得る。
【0251】
GDF8関連障害の進行を診断、予後診断、および監視する方法
たとえば、筋肉、骨、グルコース代謝、および脂肪障害の治療に加えて、本発明は、生体試料、たとえば、血清、血漿、気管支肺胞洗浄液、痰、生検(たとえば筋組織のもの)など中のGDF8の減少または増加を検出することによって、そのような障害を診断する方法を提供する。「診断的」または「診断すること」とは、病的状態の存在または非存在を同定することを意味する。診断方法は、たとえば、対象(ヒトまたは非ヒト哺乳動物)からの生体試料中のGDF8ポリペプチドの試験量を決定し、試験量を、正常な量または範囲(たとえば、そのような障害に罹患していないことが知られている個体(複数可)からの量または範囲)と、GDF8ポリペプチドについて比較することによって、GDF8の存在を検出することを含む。特定の診断方法はGDF8関連障害の明確な診断をもたらさない場合があるが、方法が診断を補助する陽性指標を提供すれば十分である。
【0252】
また、本発明は、GDF8のアップレギュレーション検出することによって、GDF8関連障害、たとえば、筋肉、骨、グルコース代謝、および脂肪障害を予後診断する方法も提供する。「予後的」または「予後診断すること」とは、病的状態の予想される発生および/または重篤度を予測することを意味する。予後的方法は、対象からの生体試料中のGDF8の試験量を決定すること、および試験量を、GDF8の予後的な量または範囲(たとえば、様々な重篤度の、たとえばALSに罹患している個体からの量または範囲)と比較することを含む。試験試料中のGDF8の様々な量が、GDF8関連障害の特定の予後診断に一致している。特定の予後的レベルでのGDF8の量の検出が、対象の予後診断を提供する。
【0253】
また、本発明は、GDF8のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを検出することによって、GDF8関連の筋肉、骨、グルコース代謝、および脂肪障害の経過を監視する方法も提供する。監視方法は、第1および第2の時点で対象から採取した生体試料中のGDF8の試験量を決定すること、ならびに量を比較することを含む。第1および第2の時点の間のGDF8の量の変化は、GDF8関連障害の経過、たとえば重篤度の変化を示す。当業者は、筋肉量の増加が望ましいGDF8関連障害では、第1および第2の時点の間GDF8タンパク質の量および/または活性の減少は、障害の寛解を示し、量の増加は、障害の進行を示すことを理解されよう。逆に、筋肉量の減少が望ましいGDF8関連障害では、第1および第2の時点の間のGDF8タンパク質の量および/または活性の減少は、障害の進行を示し、量の増加は、障害の寛解を示す。また、そのような監視アッセイは、GDF8関連障害を治療している患者において、特定の治療行為(たとえば、疾患の弱毒化および/または逆転)の有効性を評価するためにも有用である。
【0254】
本発明の拮抗剤は、GDF8の存在をin vivoまたはin vitroで検出することによって、診断、予後診断または監視に使用し得る。そのような検出方法は当分野で周知であり、ELISA、ラジオイムノアッセイ、免疫ブロット、ウエスタンブロット、免疫蛍光、免疫沈降、および他の匹敵する技術が含まれる。さらに、拮抗剤は、GDF8を検出するためのこれらの技術のうちの1つまたは複数が取り込まれている診断キット中で提供し得る。そのようなキットは、タンパク質の検出およびキットの使用を補助するために、他の構成成分、パッケージング、指示書、または他の材料を含有し得る。
【0255】
拮抗剤に診断、予後診断、または監視の目的を意図する場合は、それらを、たとえば、リガンド基(ビオチンなど)または検出可能なマーカー基(蛍光基、放射性同位体もしくは酵素など)で修飾することが望ましい場合がある。所望する場合は、拮抗剤(ポリクローナルまたはモノクローナルにかかわらず)は、慣用技術を用いて標識し得る。適切な標識には、フルオロフォア、発色団、放射性原子、高電子密度試薬、酵素、および特異的結合パートナーを有するリガンドが含まれる。酵素は、典型的にはその活性によって検出される。たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼは、テトラメチルベンジジン(TMB)を、分光光度計で定量化可能な青色色素に変換する、その能力によって検出することができる。他の適切な標識には、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとタンパク質A、および当分野で知られている数々の受容体−リガンドの対が含まれ得る。他の順列および可能性は当業者に容易に明らかであり、本発明の範囲内で均等物であるとみなされる。
【0256】
医薬組成物および投与方法
本発明は、本明細書中で開示した本発明の拮抗剤、すなわち、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、抗体、抗体または抗原結合タンパク質断片、および小分子を含む組成物を提供する。そのような組成物は、薬学的使用および患者への投与に適している場合がある。組成物は、典型的には、本発明の1つまたは複数の分子、好ましくは抗体または抗原結合タンパク質と、薬学的に許容できる賦形剤とを含む。本発明の拮抗剤は、in vitroで、ex vivoで、または薬学的に許容できる担体と組み合わせた場合は医薬組成物内に取り込まれて使用することができる。本明細書中で使用する語句「薬学的に許容できる賦形剤」には、薬学的投与に適合している任意かつすべての溶媒、溶液、緩衝液、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。そのような組成物は、本発明の拮抗剤および担体に加えて、様々な希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定化剤、可溶化剤、および当分野で周知の他の物質を含有し得る。用語「薬学的に許容できる」とは、活性成分の生物活性の有効性を妨げない無毒性の物質を意味する。担体の特徴は投与経路に依存する。薬学的に活性のある物質のそのような媒体および薬剤の使用は、当分野で周知である。また、組成物は、補足の、追加の、または増強した治療機能をもたらす他の活性化合物も含有し得る。また、医薬組成物は、投与の指示と共に、容器、パック、またはディスペンサー中に含めてもよい。
【0257】
本発明の医薬組成物は、本発明の拮抗剤を、他の薬学的に許容できる担体に加えて、水溶液中でミセル、不溶性単層、液晶、または層として凝集体で存在する、脂質などの両親媒性の薬剤と合わせる、リポソームの形態であり得る。リポソーム配合物に適した脂質には、それだけには限定されないが、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸などが含まれる。そのようなリポソーム配合物の調製は、当分野の技術レベル範囲内にある。
【0258】
本明細書中で使用する用語「治療上有効な量」とは、有意味な患者の利点、たとえば、そのような状態の症状の寛解、治癒、または治癒速度の増加を示すために十分な、医薬組成物または方法のそれぞれの活性構成成分の合計量を意味する。単独で投与する個々の活性成分に適用した場合は、この用語はその成分単独をいう。組合せに適用した場合は、この用語は、組み合わせて、連続的にまたは同時に投与したかにかかわらず、治療効果をもたらす活性成分の合わせた量をいう。
【0259】
本発明の治療方法または使用の実施では、治療上有効な量の、たとえばGDF8に特異的な拮抗剤を、対象、たとえば哺乳動物(たとえばヒト)に投与する。本発明の拮抗剤は、本発明の方法に従って、単独でまたは抗炎症剤などの他の治療と組み合わせて投与し得る。1つまたは複数の薬剤と同時投与する場合、本発明の拮抗剤は、第2の薬剤と同時に、または逐次的に投与し得る。逐次的に投与する場合、担当医が、他の薬剤と組み合わせた本発明の拮抗剤を投与する適切な順序を決定する。
【0260】
一実施形態では、本発明の拮抗剤、たとえばその医薬組成物を、組合せ療法で、すなわち、たとえば、筋肉障害、神経筋障害、骨変性疾患、代謝性もしくは誘導性骨障害、脂肪障害、グルコース代謝障害またはインスリン関連障害などの病的状態または障害、ならびにアレルギー性および炎症性の障害を治療するために有用な、他の薬剤、たとえば治療剤と組み合わせて投与する。本コンテキストにおける用語「組み合わせて」とは、薬剤を実質的に同時に、すなわち、同時にまたは逐次的に与えることを意味する。逐次的に与える場合は、第2の化合物の投与の開始時に、2つの化合物のうちの最初のものが、治療部位または対象内で依然として有効濃度で検出可能であることが好ましい。
【0261】
本発明の医薬組成物は、その意図する投与経路と適合性があるように配合する。投与を達成する方法は当業者に知られている。また、局所もしくは経口投与し得る、または粘膜を横切った透過が可能であり得る組成物を得ることも可能であり得る。本発明の方法を実施するための医薬組成物で使用する本発明の拮抗剤の投与は、経口摂取、吸入、皮膚、皮下、または静脈内注射などの様々な慣用の方法で実施することができる。
【0262】
皮内または皮下の施用に使用する溶液または懸濁液には、典型的には、以下の構成成分のうちの1つまたは複数が含まれる:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの無菌的希釈剤、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート化剤、アセテート、シトレートまたはホスフェートなどの緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張性調節剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調節することができる。そのような調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てのシリンジまたは複数用量のバイアル中に封入し得る。
【0263】
注射に適した医薬組成物には、無菌的水溶液または分散液および無菌的注射用溶液または分散液を即時調製するための無菌的散剤が含まれる。静脈内投与では、適切な薬学的に許容できる担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor(商標)EL(BASF、ニュージャージー州Parsippany)またはリン酸緩衝液(PBS)が含まれる。すべての場合で、組成物は無菌的でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流体であるべきである。薬学的に許容できる担体は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。担体は、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにその適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であることができる。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合は必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗細菌および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張化剤、たとえば糖、ポリアルコール、たとえば、マンニトール、ソルビトール、および塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の持続吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる薬剤、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0264】
本発明の治療上有効な量の抗体または抗原結合タンパク質を、たとえば、静脈内、皮膚または皮下注射によって投与する場合、結合剤は、発熱物質を含まない、非経口的に許容される水溶液の形態である。そのような非経口的に許容されるタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などを相応に考慮して、当分野の技術範囲内にある。静脈内、皮膚、または皮下注射用の好ましい医薬組成物は、結合剤に加えて、等張ビヒクル、たとえば、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル液、デキストロース注射剤、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射剤、乳酸加リンゲル液、または当分野で知られている他のビヒクルなどを含有しているべきである。また、本発明の医薬組成物は、安定化剤、保存料、緩衝液、抗酸化剤、または当業者に知られている他の添加剤も含有し得る。
【0265】
本発明の医薬組成物中の本発明の拮抗剤の量は、治療する状態の性質および重篤度、ならびに患者が受けた以前の治療の性質に依存する。最終的には、担当医がそれぞれの個々の患者を治療する拮抗剤の量を決定する。最初に、担当医は低用量の拮抗剤を投与して患者の応答を観察する。最適な治療効果が患者で得られるまでより高い用量の拮抗剤を投与してもよく、その時点で、用量は一般にそれよりも増加しない。本発明の方法を実施するために使用する様々な医薬組成物は、体重1kgあたり約0.1mg〜50μgの拮抗剤を含有すべきことが企図される。
【0266】
本発明の医薬組成物を用いた治療期間は、治療する疾患の重篤度ならびにそれぞれの個々の患者の状態および潜在的な特異体質応答に応じて変動する。拮抗剤のそれぞれの施用期間は、たとえば皮下経路によるものであり、たとえば週に1回の範囲であることが企図される。最終的には、担当医が本発明の医薬組成物を用いた適切な治療期間を決定する。
【0267】
経口組成物には、一般に、不活性希釈剤または食用担体が含まれる。これらは、ゼラチンカプセル中に封入するか、または錠剤へと圧縮することができる。経口治療投与の目的には、本発明の拮抗剤(たとえば、抗体または抗原結合タンパク質、小分子など)を賦形剤と共に取り込ませ、錠剤またはカプセルの形態で使用することができる。薬学的に適合性のある結合剤および/またはアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセルなどは、以下の成分のうちの任意のもの、または類似の性質の化合物を含有することができる:結晶セルロース、トラガカントガムもしくはゼラチンなどの結合剤、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogel(商標)、もしくはコーンスターチなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムもしくはSterotes(商標)などの潤滑剤、コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤、スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤、またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ香料などの香味料。
【0268】
治療上有効な量の本発明の医薬組成物、たとえばGDF8に特異的な拮抗剤を経口投与する場合、結合剤は、錠剤、カプセル、散剤、溶液またはエリキシルの形態である。錠剤形態で投与する場合、本発明の医薬組成物は、ゼラチンなどの固体担体またはアジュバントをさらに含有し得る。錠剤、カプセル、および散剤は、約5〜95%の結合剤、好ましくは約25〜90%の結合剤を含有する。液体形態で投与する場合、水、石油、動物もしくは植物由来の油、たとえば、ピーナッツ油、鉱物油、ダイズ油、もしくはゴマ油、または合成油状物などの液体担体を加え得る(そのような液体担体に対する個々の患者および/または個体の大集団のアレルギーを考慮した後)。医薬組成物の液体形態は、生理食塩水、デキストロースもしくは他のサッカライド溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールをさらに含有し得る。液体形態で投与する場合、医薬組成物は、約0.5〜90重量%の結合剤、好ましくは約1〜50%の結合剤を含有する。
【0269】
吸入による投与には、本発明の拮抗剤は、エアロゾルスプレーの形態で、適切な噴霧剤、たとえば二酸化炭素などの気体を含有する加圧した容器もしくはディスペンサー、または噴霧器から送達する。したがって、本明細書中に記載した化合物は、肺組織への吸入によって投与することができる。本明細書中で使用する用語「肺組織」とは、任意の気道の組織をいい、別段に指定する場合以外は、上気道および下気道がどちらも含まれる。特異的GDF8拮抗剤は、肺疾患を治療するための既存のモダリティーのうちの1つまたは複数と組み合わせて投与することができる。
【0270】
投与の一例では、化合物を噴霧器用に配合する。一実施形態では、化合物を凍結乾燥形態で(たとえば室温で)保管し、吸入前に溶液中で再構成することができる。
【0271】
また、化合物を、医薬装置、たとえば吸入器(たとえば米国特許第6,102,035号(散剤吸入器)および第6,012,454号(ドライパウダー吸入器))を用いた吸入用に配合することも可能である。吸入器には、活性化合物の保存に適したpHの別々の区画および中和緩衝液用の別の区画、ならびに微粒化の直前に化合物を中和緩衝液と合わせるための機構が含まれ得る。一実施形態では、吸入器は定量化吸入器である。
【0272】
必ずしも必要ではないが、界面活性剤などの送達エンハンサーを使用して、肺送達をさらに増強することができる。本明細書中で使用する「界面活性剤」とは、2つの非混和性の相の間の界面と相互作用することによって、薬物の吸収を促進する親水性および親油性部分を有する化合物をいう。界面活性剤は、たとえば、粒子の凝集の低下、マクロファージ貪食の低下などの、いくつかの理由により乾燥粒子で有用である。DPPCなどの界面活性剤は化合物の拡散を大きく促進するため、肺の界面活性剤と合わせた場合、化合物のより効率的な吸収を達成することができる。界面活性剤は当分野で周知であり、それだけには限定されないが、ホスホグリセリド、たとえば、ホスファチジルコリン、L−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(DPPC)およびジホスファチジルグリセロール(DPPG)、ヘキサデカノール、脂肪酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン−9、アウリルエーテル、パルミチン酸、オレイン酸、トリオレイン酸ソルビタン(Span85)、グリココレート、サーファクチン、ポロキソマー、ソルビタン脂肪酸エステル、トリオレイン酸ソルビタン、チロキサポール、ならびにリン脂質が含まれる。
【0273】
全身投与も、経粘膜または経皮手段によるものであることができる。たとえば、Fc部分を含む抗体の場合、組成物は、FcRn受容体媒介経路による、粘膜(たとえば、腸管、口、または肺)を横切った透過が可能であり得る(たとえば米国特許第6,030,613号)。一般に、経粘膜投与は、たとえば、ロゼンジ、鼻腔スプレー、吸入器、または坐薬を使用することで達成することができる。経皮投与には、活性化合物は、一般に当分野で知られているように、軟膏、膏薬、ゲル、パッチまたはクリームへと配合する。経粘膜または経皮投与には、透過させる障壁に適した透過剤を配合物中で使用する。そのような透過剤は一般に当分野で知られており、たとえば、洗剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。
【0274】
また、医薬組成物は、遺伝子治療に適した組成物、すなわち、本明細書中に開示したポリヌクレオチドからなる組成物からなっていてもよい。遺伝子治療の場合、薬学的に許容できる担体には、たとえば、脂質、コラーゲン球、陽イオン性乳濁液系、水、生理食塩水緩衝液、ウイルスベクター、カイロミクロン残遺物、ポリマーナノ粒子(たとえば、ゼラチン−DNAまたはキトサン−DNA)、金粒子、ポリマー複合体、リポプレックス、ポリプレックスなどが含まれ得る。(たとえばGardlikら(2005)Med.Sci.Monit.、11(4):RA110〜21参照)。
【0275】
安定化および保持
一実施形態では、特異的GDF8拮抗剤は、循環中、たとえば、血液、血清、リンパ液、気管支肺もしくは気管支肺胞洗浄液、または他の組織中のその安定化および/または保持を、たとえば、少なくとも1.5、2、5、10、または50倍改善する部分と物理的に結合している。
【0276】
本明細書中で開示した本発明の拮抗剤は、植込錠および微小カプセル封入送達系を含めた徐放性配合物などの、身体からの迅速な排除に対して保護する担体を用いて調製し得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような配合物の調製方法は、当業者に明らかである。本明細書中で開示した拮抗剤を含有するリポソーム懸濁液も、薬学的に許容できる担体として使用することができる。これらは、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0277】
たとえば、特異的GDF8拮抗剤は、ポリマー、たとえば、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレンオキシドなどの実質的に非抗原性のポリマーと結合させることができる。適切なポリマーは重量が実質的に変動する。約200〜約35,000(または約1,000〜約15,000、または約2,000〜約12,500)の範囲の数平均分子量を有するポリマーを使用することができる。
【0278】
たとえば、特異的GDF8拮抗剤は、水溶性ポリマー、たとえば親水性ポリビニルポリマー、たとえば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンとコンジュゲートさせることができる。そのようなポリマーの非限定的なリストには、ブロックコポリマーの水溶解度が維持されている限りは、ポリアルキレンオキシドホモポリマー、たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、そのコポリマーおよびそのブロックコポリマーが含まれる。さらなる有用なポリマーには、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、およびポリオキシエチレンとポリオキシプロピレン(Pluronic)のブロックコポリマーなどのポリオキシアルキレン、ポリメタクリレート、カルボマー、サッカライド単量体であるD−マンノース、D−およびL−ガラクトース、フコース、フルクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(たとえば、ポリマンヌロン酸、またはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコースならびにノイラミン酸を含む、分枝状または非分枝状多糖類(ラクトース、アミロペクチン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アミロース、デキストラン硫酸、デキストラン、デキストリン、グリコーゲン、または酸ムコ多糖類、たとえばヒアルロン酸の多糖サブユニットなどのホモ多糖類およびヘテロ多糖類が含まれる)、ポリソルビトールおよびポリマンニトールなどの糖アルコールのポリマー、ヘパリンなどが含まれる。
【0279】
他の化合物、たとえば、細胞毒素、標識、または別の標的化剤、たとえば、別のGDF8拮抗剤または非関連のリガンドも、同じポリマーに付着させることができる。モノ活性化アルコキシ末端ポリアルキレンオキシド(PAO)、たとえば、モノメトキシ末端ポリエチレングリコール(mPEG)、C1〜4アルキル末端ポリマー、およびビス活性化ポリエチレンオキシド(グリコール)を架橋結合に使用することができる(たとえば米国特許第5,951,974号)。
【0280】
一実施形態では、リガンドと架橋結合させる前のポリマーは、水溶性である必要はないが、そうであることが好ましい。一般に、架橋結合後に生成物は水溶性である、たとえば、少なくとも約0.01mg/ml、より好ましくは少なくとも約0.1mg/ml、さらにより好ましくは少なくとも約1mg/mlの水溶解度を示す。さらに、ポリマーは、コンジュゲート形態で免疫原性が高くあるべきでなく、また、コンジュゲートを静脈点滴、エアロゾル化、または注射の経路によって投与することを意図する場合はそれと適合性のない粘度を保有しているべきでない。
【0281】
一実施形態では、ポリマーは、単一の反応性基のみを含有する。これは、リガンド分子が互いに架橋結合することを回避するために役立つ。しかし、リガンド分子間の架橋結合を低下させる反応条件を最大にすること、または反応生成物をゲル濾過もしくはイオン交換クロマトグラフィーによって精製して実質的に均一な誘導体を回収することは、本明細書の範囲内にある。他の実施形態では、ポリマーは、複数のリガンドをポリマー主鎖と連結させる目的のために、2つ以上の反応基を含有する。ここでも、ゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーを用いて、所望の誘導体を実質的に均一な形態で回収することができる。
【0282】
ポリマーの分子量は、約500,000Dまでの範囲であることができ、好ましくは少なくとも約20,000D、または少なくとも約30,000D、または少なくとも約40,000Dである。選択する分子量は、達成するコンジュゲートの有効な大きさ、ポリマーの性質(たとえば、直鎖状または分枝状などの構造)、および誘導体化の度合に依存する場合がある。
【0283】
共有結合を用いて、特異的GDF8拮抗剤をポリマーに付着させることができ、たとえば、リガンドのN末端アミノ基およびリガンドのリシン残基上に見つかるεアミノ基、ならびに他のアミノ、イミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、ヒドロキシルまたは他の親水性基に架橋結合させる。ポリマーは、多官能性(通常は二官能性)の架橋結合剤を使用せずに、GDF8拮抗剤と直接共有結合させ得る。アミノ基との共有結合は、塩化シアヌル、カルボニルジイミダゾール、およびアルデヒド反応基(PEGアルコキシド+ブロモアセトアルデヒドのジエチルアセチル、PEG+DMSOおよび無水酢酸、またはPEGクロライド+4−ヒドロキシベンズアルデヒドのフェノキシド、活性スクシンイミジルエステル、活性ジチオカルボネートPEG、2,4,5−トリクロロフェニルクロロホルメートまたはP−ニトロフェニルクロロホルメート活性PEG)に基づいた既知の化学によって達成する。カルボキシル基は、カルボジイミドを用いてPEG−アミンをカップリングさせることによって誘導体化することができる。スルフヒドリル基は、マレイミド置換したPEG(たとえば、アルコキシPEGアミン+スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート)(WO97/10847号を参照)またはPEG−マレイミド)とカップリングさせることによって誘導体化することができる。あるいは、リガンド上の遊離アミノ基(たとえば、リシン残基上のεアミノ基)を、2−イミノ−チオラン(トラウト試薬)でチオール化し、その後、PEGのマレイミド含有誘導体と、たとえばPedleyら(1994)Br.J.Cancer、70:1126〜30に記載のようにカップリングさせることができる。
【0284】
GDF8拮抗剤と付着させることができる官能化したPEGポリマーは、たとえば、Shearwater Polymers,Inc.(アラバマ州Huntsville)から入手可能である。そのような市販のPEG誘導体には、たとえば、アミノ−PEG、PEGアミノ酸エステル、PEG−ヒドラジド、PEG−チオール、PEG−スクシネート、カルボキシメチル化PEG、PEG−プロピオン酸、PEGアミノ酸、PEGスクシンイミジルスクシネート、PEGスクシンイミジルプロピオネート、カルボキシメチル化PEGのスクシンイミジルエステル、PEGのスクシンイミジルカルボネート、アミノ酸PEGのスクシンイミジルエステル、PEG−オキシカルボニルイミダゾール、PEG−ニトロフェニルカルボネート、PEGトレシレート、PEG−グリシジルエーテル、PEG−アルデヒド、PEGビニルスルホン、PEG−マレイミド、PEG−オルトピリジル−ジスルフィド、ヘテロ官能化PEG、PEGビニル誘導体、PEGシラン、およびPEGホスホリドが含まれる。これらのPEG誘導体をカップリングさせるための反応条件は、特異的GDF8拮抗剤、所望のPEG化の度合、および利用するPEG誘導体に応じて変動し得る。PEG誘導体の選択に関与する要素の一部には、所望の付着点(リシンまたはシステインのR基など)、誘導体の加水分解安定性および反応性、連結の安定性、毒性および抗原性、分析の適合性などが含まれる。任意の特定の誘導体を使用するための具体的な指示は、製造者から入手可能である。
【0285】
GDF8拮抗剤とポリマーのコンジュゲートは、未反応の出発物質から、たとえば、ゲル濾過もしくはイオン交換クロマトグラフィー、または他のクロマトグラフィー形態、たとえばHPLCによって分離することができる。異種のコンジュゲートの種を、同様にして互いから精製する。様々な種(たとえば、1個または2個のPEG残基を含有)の分離も、未反応のアミノ酸のイオン特性の差異によって可能である(たとえばWO96/34015号を参照)。
【0286】
本発明のポリヌクレオチドおよびタンパク質は、本明細書中で同定した使用または生物活性のうちの1つまたは複数(以下に記載するアッセイに関連するものが含まれる)を示すことが予測される。本発明のタンパク質について記載した使用または活性は、そのようなタンパク質の投与もしくは使用によって、またはそのようなタンパク質をコードしているポリヌクレオチド(たとえば、遺伝子治療もしくはDNAの導入に適したベクター中など)の投与もしくは使用によって提供し得る。
【0287】
投与の容易性および用量の均一性のために、経口または非経口組成物を単位剤形で配合することが有利であり得る。本明細書中で使用する単位剤形とは、治療する対象の単位用量として適している物理的に別個の単位をいい、それぞれの単位は、所望の治療効果をもたらす計算した事前に決定された量の活性化合物を、所要の薬学的担体と会合して含有する。本発明の単位剤形の仕様は、活性化合物の固有の特徴、達成する特定の治療効果、および個体を治療するためにそのような活性化合物を配合することにおける、当分野に特有の制限によって指示され、それらに直接依存する。
【0288】
したがって、本発明の別の態様は、たとえば他の治療化合物を用いてもしくは用いずに本発明のGDF8拮抗剤の投与を実施するため、または、GDF8拮抗剤を、生体試料中のGDF8の存在および/もしくはレベルを決定するための研究もしくは治療ツールとして使用するための、ELISAキットなどのキットに関する。一実施形態では、キットは、薬学的担体中で配合した1つまたは複数の抗GDF8拮抗剤と、少なくとも1つの薬剤、たとえば、必要に応じて1つまたは複数の別々の薬学的調製物中で配合した治療剤とを含む。
【0289】
以下の実施例は、本発明の理解を支援するために記載するが、これらは、本発明の範囲をいかなる様式でも限定することを意図せず、またそのように解釈されるべきでない。実施例には、ハイブリドーマの形成、ELISA、増殖アッセイ、フローサイトメトリー分析および組換えDNA技術などの慣用方法の詳細な説明は含まれない。そのような方法は当業者に周知である。
【0290】
本出願の全体にわたって引用するすべての参考文献、特許、公開特許出願、および他の特許文献の全内容は、本明細書中に参考として組み込まれている。
【0291】
本発明を、以下の実施例によってさらに例示および支援する。しかし、これらの実施例は、決して本発明の範囲をさらに限定するとみなされるべきでない。それとは反対に、当業者には、本発明の精神および/または添付の特許請求の範囲の範囲から逸脱せずに、本発明の他の実施形態、変形、および均等物が存在することを容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0292】
(実施例1)
ハイブリドーマ細胞の作製およびRK22抗GDF8抗体の単離
GDF8(ミオスタチン)ノックアウトマウス(McPherronら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、94:12457〜61)を、LeeおよびMcPherron(1999)Curr.Opin.Genet.Dev.、9:604〜07に記載のように、フロイント完全アジュバントおよび20μgのCHO細胞馴化培地から精製した組換えGDF8二量体を用いた皮下注射によって免疫化した。同じ量のGDF8およびフロイント不完全アジュバントのいくつかの追加免疫注射を、2週間間隔で与えた。2μgのPBSの尾部静脈への最終の静脈内注射を、マウスから脾細胞を単離する前に与え、高力価の抗GDF8抗体が実証された。単離した脾細胞をマウス骨髄腫細胞(ATCC受託番号P3X63.Ag8.653)と融合させた。10〜14日後、ハイブリドーマからの上清を収集し、ELISAによって抗GDF8抗体レベルについて試験した。実施例2を参照されたい。モノクローナル性を確実にするために、さらなる研究用に選択されたハイブリドーマを限界希釈の繰り返しによってクローニングした。
【0293】
抗GDF8を発現するハイブリドーマからの上清および/または当分野で周知の標準のアフィニティークロマトグラフィー方法を用いて上清から精製した抗体を、実施例2に記載のアッセイにおいて特異性について試験した。GDF8との結合について最初に試験した13個のクローンのうち、RK22がさらなる分析のために選択されたものの1つであった。
【0294】
(実施例2)
GDF8と特異的に相互作用するRK22抗体
(実施例2.1)
RK22はELISAアッセイにおいてBMP11よりもGDF8に対して高い親和性を有する
GDF8またはBMP11のどちらかを用いた標準のELISA技術を使用して、GDF8と結合するRK22の特異性を決定した、すなわち、BMP11よりもGDF8に対して高い親和性を実証したかどうかを決定した。組換えヒトGDF8(成熟GDF8およびGDF8プロペプチド)ならびにBMP11タンパク質を精製し、米国特許公開出願第2004/0142382号に以前に記載されているように特徴づけた。GDF8潜在型複合体およびBMP11潜在型複合体を、20モルのEZ−linkスルホ−NHS−ビオチン(Pierce、イリノイ州Rockford、カタログ番号21217)対1モルの複合体の比で、氷上で2時間、それぞれ個別にビオチン標識した。0.5%のTFAを用いてpHを低下させることによって反応を停止させ、ビオチン標識した複合体をC4 Jupiter 250×4.6mmのカラム(Phenomenex、カリフォルニア州Torrance)上のクロマトグラフィーに供して、成熟タンパク質(たとえば、GDF8プロペプチドからの成熟GDF8またはBMP11プロペプチドからの成熟BMP11)を分離した。TFA/CH3CNの勾配で溶出させた成熟ビオチン標識GDF8または成熟ビオチン標識MP11の画分をプールし、濃縮し、MicroBCATMタンパク質アッセイ試薬キット(Pierce、イリノイ州Rockford、カタログ番号23235)によって定量化した。
【0295】
96ウェルのマイクロタイタープレート(終夜4℃で、PBS中の5μg/mlのストレプトアビジンでプレコーティングした)を、0.5μg/mlのビオチン標識したGDF8またはビオチン標識したBMP11で、1時間、室温でコーティングした。過剰のGDF8またはBMP11を、0.1%(v/v)のTween20を含有するPBS(PBST緩衝液)で洗浄することによって除去した。プレートを1時間、室温でSuperBlock(商標)溶液(Pierce)を用いて遮断し、その後、PBSですすいだ。GDF8またはBMP11をコーティングしたプレートを、室温で1時間、RK22ハイブリドーマから採取した100μlの事前に遮断した上清、または様々な濃度の精製したRK22抗体と共にインキュベーションした。非特異的結合を考慮するために、GDF8およびBMP11をどちらも結合および阻害することが示されているRK35抗体(その全体が参考として本明細書中に組み込まれている米国特許出願第60/709,704号を参照)を、GDF8またはBMP11のどちらとも結合しないことが実証されている無関係の抗体(Irr.Ab)と共に使用し、また、対照培地も個々に試験した。結合していない抗体を、PBSTで3回洗浄し、続いてPBSで3回洗浄することによって除去した。50μlのヤギ抗マウスIgG HRPコンジュゲートの1:5000希釈液をそれぞれのウェルに加えた。プレートを室温で1時間インキュベーションした。それぞれのプレートをPBSTで3回洗浄し、続いてPBSで3回洗浄し、TMB(テトラメチルベンジジン)試薬を加えることによって呈色反応を展開させた。呈色反応は、100μlの0.18MのH2SO4を加えることによって停止させた。生じたシグナルは、マイクロタイタープレートリーダーを用いてそれぞれのウェルの450nmでの光学密度を読み取ることによって測定した。
【0296】
図1Aおよび1Bに示すように、RK22ハイブリドーマからの上清は、対照抗体RK35から単離した上清と比較して、BMP11よりもGDF8との結合が高かった。RK22によるGDF8に対する高い親和性の均一性は、これらの抗体のGDF8に対するより高い親和性が用量依存的でないことを実証することによって確認した。図1AおよびBから見ることができるように、試験したすべての濃度で、RK22抗体は、BMP11よりも高いGDF8に対する結合を実証した。RK22は、BMP11に対して非常にわずかな結合を示し、対照的に、RK35対照抗体は、GDF8およびBMP11のどちらとも結合した。
【0297】
(実施例2.2)
GDF8に対するRK22の結合親和性
RK22抗体とGDF−8との分子動態相互作用は、BIAcoreプラズモン共鳴技術を用いて定量化的に分析し、見かけの動態速度定数を誘導した。これらの研究では、本発明者らは、可溶性抗体と固相結合したGDF−8との結合を測定した。固定したGDF−8のバイオセンサー表面上への表面配向は、ビオチン標識したGDF−8(ビオ−GDF−8)を用いて制御し、ビオGDF−8をストレプトアビジンバイオセンサーチップ上に固定し、その後、様々な濃度の抗体を3つ組で施用し、結合を時間の関数として測定した。これらの測定から、見かけの解離(K)および会合(K)速度定数を誘導し、これらを用いて相互作用の結合親和定数(K)を計算した。生物学的に機能的である抗体の画分として定義されるRK22の活性濃度は、高表面密度をコーティングすることによる部分的質量輸送制限下で、抗体を様々な流速で注入するBIAcoreを用いて、チップ上に固定したビオGDF−8と結合することができる抗体の画分を測定することによって決定した。抗体のそれぞれの濃度の会合速度および解離速度は、biaevaluationソフトウェアバージョン3.0.2で網羅的適合(global fit)を用いて同時に計算した。
【0298】
BIAcore2000システム、Sensor Chip SA(BR−1000−32)、HBS/EP緩衝液(0.01MのHEPES、pH7.4、0.15MのNaCl、3.0mMのEDTAおよび0.005%のポリソルベート20(v/v)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS−EP)は、BIAcore AB、スウェーデンUppsalaから得た。ヒトのビオ−GDF8(ロット25251−15)を精製した。0.1%のTFA(v/v)(Sigma)を水中で作製した。抗体−抗原の相互作用の動態決定からの実験データは、BIAevaluationソフトウェアバージョン3.0.2を用いて分析した。
【0299】
ビオ−GDF8表面を調製するために、HBS/EP緩衝液の連続流をセンサー表面上に維持した。センサー表面上のストレプトアビジンは、1MのNaClおよび25mMのNaOHを含有する溶液の3回の注入(それぞれ1分間)で調整した。高密度のコーティング(>2000RU)には、ビオ−GDF8をHBS/EP緩衝液で1ug/mlまで希釈し、ストレプトアビジンチップ上に流すことによってそれ上に固定した。低密度のコーティング(20〜60RU)には、GDF−8を0.1ug/mlまでさらに希釈し、注入したビオ−GDF−8の体積は所要の密度に応じて様々であった。フローセル1上のストレプトアビジン表面を参照表面として使用した。対照として、第1のフローセルを、バルクの屈折率、マトリックス効果および非特異的結合を補正するための参照表面として使用し、第2、第3および第4のフローセルを捕捉分子でコーティングした。
【0300】
チップ上に固定したビオGDF−8と結合することができるRK22抗体の画分を、部分的質量輸送制限下でBIAcoreを用いて分析した。この実験では、200nMおよび100nM(濃度はOD280に基づいて測定)の抗GDF−8抗体を、2、10、30、50および100ul/分の流速で注入した。流速の増加に伴って傾きが増加したため、質量輸送制限は、センサーグラム目視検査によって検出することができる。バイオセンサー表面は、5ulの0.1%のTFAを用いて再生した。
【0301】
RK22、抗GDF−8抗体をどちらもHBS−EP緩衝液(BIAcore AB)で希釈し、アリコートを30ul/分の流速で固定したビオ−GDF−8上に注入し、3分間の注入に続いて、BIAcore緩衝液中で10分間、同じ流速で解離を監視した。注入した抗体の濃度は、300、150、75、37.5、18.7、9.3、4.6、2.3および0nMであり、それぞれの注入を3つ組で行った。二重参照を用いたそれぞれのセンサーグラムについてブランクおよび緩衝液の効果を減算した。バイオセンサー表面を5ulの0.1%のTFAを用いて再生した後、次の試料HBS−EPの注入を単独でそれぞれのセルに流した。応答は、RK22の結合質量を表す共鳴単位(RU)で測定した。
【0302】
動態データはBIAevaluationソフトウェア3.0.2を用いて分析した。一価リガンド(B)と結合する二価分析物(A)A+B=AB K1、AB+B=AB2 K2、および一価リガンド(B)と結合する一価分析物(A)A+B=AB K1をどちらも仮定。見かけの解離(k)および会合(k)速度定数をセンサーグラムの適切な領域から計算した。抗体とGDF8との間の相互作用の結合親和定数は、以下K=kd/kaによって動態速度定数から計算した。図2で見ることができるように、RK22では、3つの実験の平均で7nMのK値が実証された。
【0303】
(実施例3)
RK22はGDF8シグナル伝達をin vitroおよびin vivoで阻害する
(実施例3.1)
RK22を用いた細胞に基づいたレポーター遺伝子アッセイにおける、精製した組換えヒトGDF−8の生物活性の阻害
in vitroの細胞に基づいたアッセイでGDF−8の活性を実証するために、TGF−β誘導性プロモーターの制御下でルシフェラーゼを発現するレポーターベクターpGL3(CAGA)12を用いて、レポーター遺伝子アッセイ(RGA)を開発した。CAGA配列は、TGF−β誘導性遺伝子PAI−1のプロモーター内でTGF−βに応答性の配列であることが以前に報告されている(Thies S他、2001)。12個のCAGAボックスを含有するレポーターベクターを、塩基性ルシフェラーゼレポータープラスミドpGL3(Promega、ウィスコンシン州Madison)を用いて作製した。アデノウイルス主要後期プロモーターからのTATAボックスおよび転写開始部位(−35/+10)をBgIIIおよびHindIII部位の間に挿入した。CAGAボックスAGCCAGACAの12個のリピートを含有するオリゴヌクレオチドをアニーリングし、XhoI部位内にクローニングした。ヒト横紋筋肉腫細胞系A204(ATCC HTB−82)を、FuGENE6形質移入試薬(Boehringer Manheim、ドイツ)を用いてpGL3(CAGA)12と共に一過的に形質移入した。形質移入後、細胞を96ウェルプレート上で、2mMのグルタミン、100U/mlのストレプトマイシン、100μg/mlのペニシリンおよび10%のウシ胎児血清を添加したマッコイの5A培地中で16時間培養した。その後、細胞を、10ng/mlのGDF−8を用いてまたは用いずに、グルタミン、ストレプトマイシン、ペニシリン、および1mg/mlのウシ血清アルブミンを含むマッコイの5A培地中で、6時間、37℃で処置した。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いてルシフェラーゼを処置した細胞中で定量化した。10ng/mlのBMP−11を用いてアッセイを繰り返した。
【0304】
RK22の阻害活性を試験するために、GDF−8をRK22抗体と共に1時間、室温でプレインキュベーションした。その後、この混合物を形質移入した細胞に加え、6時間、37℃でインキュベーションした。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いてルシフェラーゼを定量化した。同じプロトコルを用いてBMP−11活性を遮断するRK22の能力を測定した。
【0305】
図3に見られるように、細胞を、RK22の非存在または存在下で、処置しない(バックグラウンド)または10ng/mlのGDF8で処置した場合に、LCPSとしてのpGL3(CAGA)12レポーター活性の誘導。これらの抗体のそれぞれは、少なくとも1つのGDF8活性、すなわち、GDF8媒介ルシフェラーゼ誘導を用量応答性の様式で低下し、RK22ではIC50が0.4nMであった。対照抗体RK35はIC50が0.2nMであり、無関係の抗体はIC50が>100nMであった。RK22はGDF8に媒介されるシグナル伝達を阻害したが、これらの抗体はBMP11の生物活性を有意に阻害しなかった。RK22によるBMP11活性の阻害のIC50は検出可能でなく、それぞれ30nMおよび>100nMであった。これらのデータは、RK22は、非特異的抗体RK35と同じ度合まで、GDF8シグナル伝達をin vitroで特異的に阻害することを実証している。
【0306】
(実施例3.2)
RK22はGDF8活性をin vivoで阻害する
RK22抗体がGDF8活性をin vivoで拮抗するかどうかを決定するために、RK22を成体SCIDマウスにおけるさらなる試験のための代表的な抗体として選択した。SCIDマウスは重篤な複合免疫不全に罹患しており、したがって、RK22などの抗体を注射した後に免疫学的反応を生じない。4週間の期間をかけてRK22をSCIDマウスに注射した。3つの用量のRK22を投与した:1mg/kg/週、10mg/kg/週および40mg/kg/週。10mg/kg/週の用量で投与したMyo−29を陽性対照として使用し、様々な濃度の投与したRK22と比較した。
【0307】
筋肉量を、RK22で治療したマウスにおけるGDF8活性の指標として使用した。3つの異なる筋肉群、腓腹筋、前脛骨筋および四頭筋を取り出し、筋肉重量を決定した。図4に示すように、RK22は、10mg/kg/週の用量で筋肉量を有意に増加させた。陽性対照のMyo29と比較して、筋肉量はRK22およびMyo29のどちらにおいても10mg/kg/週で約10%増加した。
【0308】
(実施例4)
RK22結合部位の特徴づけ
(実施例4.1)
ActRIIBと結合するGDF8のRK22阻害の評価
RK22抗体が、GDF8がそのActRIIB受容体と結合することを防止することによってGDF8活性を拮抗できるかどうかを決定するために、抗体をActIIRB結合アッセイ(たとえば中和アッセイ)で試験した。精製したRK22抗体を、ビオチン標識したGDF8とプラスチック上に固定したActRIIB融合タンパク質との結合を阻害する能力について、96ウェルマイクロタイタープレートアッセイでスクリーニングした。組換えActRIIB−Fcキメラ(R&D Systems、ミネソタ州Minneapolis、カタログ番号339−RB/CF)を、96ウェル平底アッセイプレート(Costar、NY、カタログ番号3590)上に、0.2Mの炭酸ナトリウム緩衝液中に1μg/mlで、終夜4℃でコーティングした。その後、プレートを1mg/mlのウシ血清アルブミンで遮断し、標準のELISAプロトコルに従って洗浄した。単独の、または1時間、室温で様々な濃度のRK22と共にプレインキュベーションした、20ng/mlのビオチン標識したGDF8を、遮断したELISAプレートに加えた。IC50値によって測定したクローンの力価を確立するために、抗体の滴定を加えた。無関係の抗体またはGDF8とActIIRBとの結合を遮断する対照抗体と共にプレインキュベーションしたビオチン標識したGDF8を、対照として含めた。室温で1時間後、抗体−遮断したタンパク質の複合体を洗い流し、プレートと結合したActIIRBと結合したGDF8の量を、ユーロピアムで標識したストレプトアビジンを用いて、DELFIA(商標)試薬キット(PerkinElmer LifeSciences、マサチューセッツ州Boston)を使用して、時間分解蛍光定量化的(TRF)アッセイで検出した。
【0309】
ActRIIB中和アッセイの結果を図5に示す。したがって、RK22抗体が、ActRIIBと結合するGDF8の能力を阻害することによってGDF8シグナル伝達を阻害することは可能であるが、別の機構が関与している可能性が高い。
【0310】
(実施例4.2)
RK22はGDF8に特異的なエピトープと結合する
GDF8およびBMP11は密に関連しているが、RK22はGDF8に特異的である。したがって、これらの抗体によって認識されるエピトープもGDF8に特異的であると仮定され、したがって、GDF8に特異的なエピトープは、GDF8シグナル伝達を特異的に阻害するためおよび/またはGDF8に特異的な拮抗剤をスクリーニングもしくは作製するための拮抗剤として(たとえばとしてペプチド模倣体)使用し得る。
【0311】
抗体RK22によって認識されるGDF8エピトープを決定するために、配列番号1として記載した成熟GDF8の配列全体を表す、48個の重複を有する13個の残基のペプチドを、スポット合成技術を用いてセルロース紙上で直接合成した(Molinaら(1996)Peptide Res.、9:151〜55、Frankら(1992)Tetrahedron、48:9217〜32)。ペプチドの重複部分は11個のアミノ酸であった。このアレイでは、システインの存在によって引き起こされる化学的な問題を減らすために、システイン残基をセリンで置き換えた。ポリエチレングリコールおよびFmoc保護のアミノ酸で修飾したセルロース膜をAbimed(Lagenfeld、ドイツ)から購入した。アレイは、β−アラニンスペーサーのカップリングによって膜上に定義し、ペプチドは、以前に記載のように標準のDIC(ジイソプロピルカルボジイミド)/HOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)カップリング化学を用いて合成した(Molinaら、上記、Frankら、上記)。
【0312】
Abimed ASP 222ロボットを用いて活性アミノ酸をスポットした。洗浄および脱保護ステップは手動で行い、最終合成サイクルの後にペプチドのN末端をアセチル化した。ペプチド合成後、膜をメタノールで10分間洗浄し、遮断剤(TBST(0.1%(v/v)のTween(商標)20を含むトリス緩衝溶液)および1%(w/v)のカゼイン)で10分間洗浄した。その後、膜を、遮断剤中の2.5μg/mlのRK22抗GDF8抗体と共に、1時間、穏やかに振盪しながらインキュベーションした。遮断剤で3回、10分間洗浄した後、膜を、HRPで標識した二次抗体(遮断剤中に0.25μg/ml)と共に30分間インキュベーションした。その後、膜を、遮断剤で3回、それぞれ10分間洗浄し、TBSTで2回、それぞれ10分間洗浄した。結合した抗体を、SUPERSIGNAL(商標)West試薬(Pierce)およびデジタルカメラ(Alphananotech Fluoromager)を用いて可視化した。ドットブロットを図6に示し、結果を表4に要約する。ドットブロットは、RK22が、DFGLDS(配列番号4)、FEAFGWDWIIAPKRY(配列番号6)、FVFLQKYPHTLVHQ(配列番号8)、SSGESEFVF(配列番号10)、WIIAPKRYKANYSSGESEFVFLQKY(配列番号11)、および潜在的にはその部分配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するおよび/またはそれから本質的になるGDF8エピトープと結合することを実証している。特に、RK22に対するエピトープは、GDF8I型受容体(ALK4/ALK5)と相互作用すると推定されるGDF8領域にマップ付けされている。
【0313】
【表4】
【0314】
(実施例5)
RK22のヒト化
(実施例5.1)
抗体の配列決定
RK22をコードしている可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)遺伝子を、RK22抗体を産生するハイブリドーマ細胞からクローニングし、その後、アミノ酸配列を決定した。これらの配列は、表1中に配列番号14および16として記載されている。
【0315】
(実施例5.2)
RK22抗体の生殖系列化
抗体の配列データを用いて、RK22の重鎖および軽鎖に最も近い生殖系列配列を同定し、たとえば、DP−5およびDP−7は、RK22のVHにそれぞれ約65%および71%の同一性を示し(図7)、DPK24は、RK22のVLに約78%の同一性を示した(図8)。適切な突然変異は、適切な突然変異原性プライマーを用いた標準の部位特異的突然変異誘発技術を使用して行った。配列および抗体の突然変異を配列解析によって確認した。本明細書は、すべてその全体が本明細書中に参考として組み込まれている、本明細書中に引用した参考文献の教示に鑑みて、最も徹底的に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の例示を提供し、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきでない。当業者は、多くの他の実施形態が特許請求した発明によって包含されることを理解されよう。
【0316】
(実施例6)
GDF8を定量化および検出するためのサンドイッチ免疫アッセイ様式
以下の実施例中に記載する抗体のそれぞれは、PierceのEZ Linkスルホ−LCビオチン化キットを用いてビオチン標識した。以前の研究から、40倍過剰のNHS−ビオチンが、これらの抗体の両方のビオチン化に最適であることが決定されている。400ugのそれぞれの抗体を、40倍モル濃度の過剰のビオチンを用いてビオチン標識した。これにより、1mmoleの抗体あたり約3〜5mmoleのビオチンの取り込みがもたらされた。ビオチン化後、すべての抗体をPBS中で終夜、4℃で透析し、全タンパク質濃度をBCAによって決定した。ビオチンの取込みのモル比を決定するために、ビオチン標識した抗体の溶液を、2−(4’−ヒドロキシアゾベンゼン)安息香酸(HABA)およびアビジンの混合物に加えた。ビオチンのアビジンに対する親和性がより高いため、HABAとアビジンとの相互作用が置き換えられ、500nmの吸光度が比例して減少した。抗体とコンジュゲートしたビオチンの量は、ビオチン標識した試料を加える前および後にHABA−アビジン溶液の吸光度を測定することによって測定することができる。吸光度の変化は、抗体内に取り込まれたビオチンの量に関連する。
【0317】
さらに、以下に記載する研究中で使用する血清は、内在性GDF8を欠く。GDF−8血清枯渇用の親和性カラムは、臭化シアン活性化セファロースビーズ上に固定した1mgのMYO−029モノクローナル抗体を用いて調製した。カラムを0.1Mの酢酸で事前に洗浄し、250mMのNaClを含有するPBS、pH7.2で中和した後、ヒト血清を加えた。65℃まで加熱することによって潜在型GDF−8が明らかに活性化されるため、血清を65℃まで10分間予熱し、その後、1mgのMYO−029抗GDF8親和性カラムに3回通し、遊離および全GDF−8アッセイで活性を確認した。最初に、2.5ml体積の血清をカラムに通した。初期試験後、親和性カラムに複数回、間に0.1Mの酢酸でカラムを洗浄して通すことによって、より大きな体積の血清(13mlのアリコート)を加熱してGDF−8を枯渇させた。この枯渇させた血清は、既知の濃度の成熟GDF−8を用いた検量線の作成のためのマトリックスとして使用した。
【0318】
(実施例6.1)
抗体対合実験:免疫アッセイ様式の比較:RK22検出を用いたRK35捕捉またはRK35検出を用いたRK22捕捉
それぞれの抗GDF−8モノクローナル抗体を、0.1Mのホウ酸ナトリウム中で、高結合の96ウェルプレート(Immulon 4 HBX)上に、終夜4℃または1時間37℃で、1μg/mlの濃度で個別にコーティングした。プレートを洗浄し、その後、Pierce Superblock試薬で10分間遮断した。ストックGDF−8(0.1%のトリフルオロ酢酸−TFA中に1.77mg/ml)を、シリコン処理したプラスチックチューブ内で0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)で10μg/mlまで希釈し、検量線を作成するための較正物質として、GDF8を枯渇させたヒト血清で12.5ng/ml〜0.2ng/mlの範囲の濃度にさらに希釈した。検量線は、アッセイプレートのカラム1〜3を用いて3つ組で実行した。別の事前に遮断した96ウェルプレートで、30μlアリコートの試験血清を、120μlのTHST緩衝液(最終濃度は20%の血清、合計体積は150μl)を含有する6個のウェルのそれぞれ(3つ組の決定のため)に加えた。全GDF−8アッセイには、80μlのこの溶液を96ウェルのPCRプレートに移し、80℃まで5分間加熱した。加熱した試料を氷上で冷却した後、アッセイプレートに加えた。
【0319】
検量線に使用したウェルでは、65μlのTHST緩衝液をすべてのウェルに加え、続いて10μlの較正物質血清を加えて、最終体積を100μlとした。調製プレートから、50μlの未加熱の20%の血清試料を取り出し、アッセイプレートに加えて、最終血清濃度を10%の血清、合計体積を100μlとした。加熱したプレートから、50μlの20%の血清を第2のアッセイプレートに加えた。これらの第2のアッセイプレートを室温で振盪しながらインキュベーションした。1.5時間後、プレートを洗浄し、Superblock試薬を5分間加えた。ビオチン標識したRK22またはビオチン標識したRK35を、ウェルに、150ng/mlで1.5時間、振盪しながら加えた。プレートを洗浄し、再度遮断した後、100ulの超高感度ストレプアビジン−HRP(1:20,000)希釈液を1時間、室温で振盪しながら加えた。プレートを洗浄し、再度遮断した後、TMB基質を15分間、室温で振盪しながら加えた。反応は0〜5MのH2SO4を加えることによって停止させ、Molecular Devices Spectramaxプレートリーダーで、450nmで読み取った。免疫アッセイ様式:RK35捕捉/RK22検出またはRK22捕捉/RK35検出の比較は、図9Aおよび9Bに見ることができる。示されたように、どちらの様式も、THSTアッセイ緩衝液または10%の血清中で100〜10pg/mlのGDF8を検出することができた。
【0320】
(実施例6.2)
GDF−8アッセイに対する血清の効果
以前の結果から、血清バックグラウンド効果により吸光度値を、分析した血清試料に応じて0.3OD単位〜約0.5OD単位の範囲で増加したことが示唆されている(データ示さず)。ヒト血清を、RK22をコーティングしたまたはコーティングしていない(対照)HBXアッセイプレートに対して試験することによって、シグナル増加の原因はHAMA効果(すなわち、ヒト血清IgGとアッセイで使用したマウスモノクローナル抗体との反応)であることが決定された(図10)。モノクローナル抗体を含まないプレートはシグナルの増加を示さず、バックグラウンドの増加は、プレートと非特異的に結合する血清が原因ではなく、モノクローナル抗体の存在に依存することが示唆された。
【0321】
酸解離およびヒトIgGとマウスIgGとの結合を遮断するための様々な種由来の過剰のIgGの添加を含めた、バックグラウンドを低下させるいくつかの試みは失敗であった(データ示さず)。HAMAアッセイ干渉免疫グロブリン阻害試薬(II R)を低下させるために特別に設計された市販の試薬の添加は、以下の免疫アッセイに加えた場合に成功した。0.1Mのホウ酸Na、pH8.5で希釈した1ug/mlのRK35を捕捉試薬として使用した。Myo−029をプレート+/−血清+/−IIRおよび250pg/mlのGDF8上で滴定し、1.5時間インキュベーションした。ビオチン標識したRK22を1:10,000希釈でTHSTアッセイ緩衝液に加え、1.5時間インキュベーションした。THSTで1:20,000に希釈した100μlのストレプアビジン−HRP、続いてTMB中で反応を展開した。図11から見ることができるように、HAMAバックグラウンドは、IIR試薬を用いることによって低下する。
【0322】
(実施例6.3)
MyO−029抗体と結合するGDF8の阻害
MyO−029(2002年10月2日に対応する受託指定番号PTA−4741の下でAmerican Tissue Culture Collection(ATCC)に寄託)は、筋肉障害に罹患している患者において筋肉強度を増加させる目的で臨床治験において使用されている治療用抗体である。本明細書中に記載のようにMyo−029を投与した患者においてGDF8を検出する免疫アッセイでは、GDF−8との結合についてアッセイ抗体RK35およびMYO−029の交差反応性が存在することが示された。この交差反応性を確認するために、MYO−029をアッセイプレート上にコーティングした。1200pg/mlのGDF−8をそれぞれのウェルに加えた。その後、漸増濃度のビオチン標識したRK22またはビオチン標識したRK35のいずれかを加えた。図12に見られるように、この構成ではシグナルが生じなかったため、未標識のGDF−8は、MYO−029との結合についてビオチン標識したRK35と競合する。ビオチン標識したRK35ではシグナルが生じず、これは、GDF8との結合についてRK35およびMyo−029の交差反応性を示している。
【0323】
(実施例6.4)
GDF8の競合相手としてのMyO−029の使用
両方のアッセイ構成(RK35/RK22またはRK22/RK35)を用いてアッセイを行い、一定濃度のGDF−8(250pg/ml)を含む漸増量のMYO−029治療用抗体を、アッセイ緩衝液または10%のヒト血清に添加。図13Aに見られるように、RK22を捕捉抗体として使用した。250pg/mlのGDF−8を1.5時間、室温で、150ng/mlのビオチン標識したRK35および漸増濃度のMYO−029(0〜20ug/ml)と共にインキュベーションした。最高濃度のMYO−029でも、約30%の阻害しか見られなかった。図13Bに示すように、RK35を捕捉抗体として使用した。250pg/mlのGDF−8を、1.5時間、室温で、ビオチン標識したRK22および漸増濃度のMYO−029と共にインキュベーションした。ほぼ100%のシグナルの阻害が、≧5ug/mlのMYO−029濃度で観察された。
【0324】
(実施例6.5)
RK35捕捉/RK22検出様式を用いたヒト血清における添加回収
3個のヒト血清試料を、添加回収実験でGDF−8の回収について分析した。それぞれの試料を、100%の血清中に600pg/mlの成熟GDF−8まで希釈し、2倍に段階希釈して600、300、および150pg/mlのGDF−8の試料を生成した。これらの試料のそれぞれを、RK35捕捉/RK22検出様式で、20μg/mlのMYO−029を添加してまたは添加せずに分析した。図14Aを参照されたい。MYO−029の添加によるシグナルの低下を計算する。図14Bを参照されたい。これらの値をTHSTアッセイ緩衝液で作成したGDF−8検量線と比較し、GDF−8の観察値対予測値を図15にプロットする。観察値は予測値よりもはるかに低く、これは、緩衝液単独での検量線は血清試料中に見つかるGDF−8値を正確に定量化しないことを示す。
【0325】
(実施例6.6)
検量線を作成するための血清対アッセイ緩衝液の使用
正常なマウス血清およびGDF−8KOマウス血清を本研究で研究した。これらの血清を、正常なヒト血清およびTHST緩衝液と共に利用して、成熟GDF−8タンパク質を用いた検量線を作成した。図15を参照されたい。血清で作成した検量線と緩衝液で作成したものとの間の傾きの差異により、緩衝液を検量線の作成の媒体として使用した場合に添加/回収実験の観察値対予測値が劇的に異なっていた理由が説明される(図16)。緩衝液中の検量線と比較して血清中の検量線の傾きが低下していることが、生じたシグナルに対する血清のマトリックス効果を明らかにしており、検量線は血清中で作成すべきことを示唆している。KOマウス血清はアッセイ開発に必要な量で入手可能でなく、正常なマウス血清は、未知の血清試料中のGDF−8の予測を妨げる高い内在性レベルのGDF−8を有する。正常なヒト血清も、正常なマウスよりは低いが、内在性レベルのGDF−8を有し、これも所望しない妨害要素を付加する。可能性のある代替物質は、アッセイ較正マトリックスとして使用するために、正常なヒト血清のプールのGDF−8を枯渇させることである。
【0326】
(実施例6.7)
血清中のMyo−029抗体の不活性化/解離
以前の研究により、RK35抗体のエピトープとの交差反応性によって、MYO−029の存在が、RK35/RK22様式においてGDF−8の正確な定量化を妨害することが実証されている。試料中のGDF−8/MYO−029の複合体を解離させることができれば、GDF−8をMYO−029の存在下で正確に測定する免疫アッセイを開発することが可能であり得ると仮定された。酸解離および熱変性を含めた、抗体をその抗原から解離させるいくつかの可能性が存在する。熱処理によって潜在型TGF−βを不可逆的に活性化させることができるという報告書に基づく(Brownら、1990、Growth Factors、3、35〜43)。THSTアッセイ緩衝液中の65℃〜80℃の温度勾配は、GDF−8アッセイ中のMYO−029抗体によって実証された効果に影響を与えなかった。しかし、正常な無添加の血清、400pg/mlの成熟GDF−8を添加した血清、または潜在型GDF−8を添加した血清を用いたパイロット実験を行った。この実験では、MYO−029抗体を20%の血清に添加し、80℃まで7分間加熱した(図17を参照)。結果により、アッセイにおけるGDF−8活性はこの温度で保持され、MYO−029抗体は80℃まで加熱した血清中で不活性化されたことが示された。この不活性化は2つの方法で実証した:1)MYO−029の存在下で加熱した血清試料は、MYO−029を加えない対照の加熱した試料と同じシグナル出力を有しており、2)アッセイシグナルは、試料の加熱する後に新鮮なMYO−029を加えることによって、再度バックグラウンドレベルまで低下させることができる。これらの結果は、正常な血清、成熟GDF−8を添加した血清、および潜在型GDF8を添加した血清で観察された。潜在型GDF−8を添加した血清試料は、潜在型GDF−8物質に依存し、成熟GDF8に依存しないと考えられるシグナルの増加を実証する。有効に不活性化させるためのより正確な時間を決定するために、5μg/mlのMYO−029を添加した正常な血清を用いた経時変化実験を実施した。結果により、MYO−029抗体は、80℃で3分間という早い時間で完全に不活性化されることが示された。
【0327】
(実施例6.8)
ヒト血清におけるGDF8枯渇
ヒト血清から内在性GDF−8を枯渇させるために、臭化シアン活性化によってセファロースビーズに共有的に固定した1mgのMYO−029抗体を用いて、親和性カラムを作製した。カラムを事前に洗浄し、小アリコートのヒト血清をカラムに通し、GDF−8 ELISAアッセイでGDF−8活性について試験した。さらに、血清を65℃まで事前に加熱し、その後、カラムに通す前に冷却した。加熱した血清は、GDF−8アッセイで実行した場合に、血清中の潜在型GDF−8の免疫学的活性化が原因であり得る増加したシグナルを示す。図18は、加熱した際のGDF−8アッセイにおけるシグナル増加、また、加熱/枯渇のH/D血清におけるシグナルの枯渇も示す。注目すべきことに、80℃まで再度加熱した場合は、H/D血清中のシグナルの増加は観察されなかった。
【0328】
(実施例6.9)
H/D血清中の検量線
内在性GDF−8を欠く血清を用いて、加熱および非加熱条件下で、成熟GDF−8および潜在型GDF−8をどちらも使用して免疫反応性検量線を作成した。成熟GDF−8を100%の血清に添加し、2500pg/mlから40pg/mlまで段階希釈した。潜在型GDF−8は、50,000pg/ml〜800pg/mlの範囲の、成熟GDF8の20倍のタンパク質濃度で使用した(図19)。この実験の結果は、潜在型GDF−8を100%のH/D血清中で80℃まで加熱した場合に、アッセイシグナルの顕著な増加を示す。図18で、80℃まで加熱したH/D血清は、正常な血清で観察される特徴的なシグナル増加を示さなかったことに注意されたい。これは、正常な血清で見られる増加が内在性潜在型GDF−8によるものであるという仮説の信用度を高める。対照的に、成熟GDF−8で生じたシグナルは、加熱の際に増加せず、繰り返し実験では、80℃での加熱に伴って減少する傾向にある。
【0329】
(実施例6.10)
8個の正常な血清試料における遊離および全GDF8の分析
事前に凍結した8個の正常な血清試料を解凍し、室温アッセイ(遊離)および潜在型GDF−8を活性化するために80℃加熱ステップ(全)を用いて、遊離および全GDF−8についてアッセイした。この分析用の検量線は、GDF−8較正物質と同様に既知の濃度の成熟GDF−8タンパク質を添加したH/D血清を用いて作成した。検量線は12,500pg/ml〜188pg/mlの範囲であり、相関係数0.999の非線形回帰曲線のフィッティング分析(図20を参照)を用いて、8個の未知の血清試料中のGDF−8値を計算した。既に記載したように、Myo−029を加えることによって誘導された光学密度の変化は、試料中のGDF−8の内在性量と直接比例する。図21は、GDF−8の濃度を決定するために使用する生データを表す。この図は、遊離GDF−8シグナルおよびMYO−029抗体を加えることによるその対応する低下したシグナル、ならびに全GDF−8およびMYO−029を加えることによるその対応する低下したシグナルを例示する。図22は、アッセイ再現性実験の結果を表す。遊離および全GDF8アッセイは、高い度合の再現性を示す。これは、遊離GDF−8(室温)アッセイに特に当てはまる。全(80℃まで加熱)の日ごとのアッセイの増加したアッセイシグナルは、5から10分間への加熱時間の増加が原因である。試料加熱の時間の増加に伴ったアッセイシグナルの低下が繰り返して観察され、これは抗原の変性および免疫反応性の損失を反映している可能性がある。
【0330】
(実施例6.11)
熱活性化した内在性GDF8はMYO−029の存在下で過小検出される
図23に示す実験では、ヒト血清をMYO−029の存在または非存在下でインキュベーションし、その後、ELISAによる分析の前に様々な温度で熱変性した。試験試料中のGDF−8レベルの定量化は、GDF−8を枯渇させたプールしたヒト血清内に添加した既知の濃度の精製した組換えGDF−8二量体の希釈系列からなる検量線のアッセイ結果からの内挿によって、アフィニティークロマトグラフィーによって行った。MYO−029を存在させない場合のGDF−8の最大検出は、約60℃で起こった。MYO−029の存在は、低温で血清中のGDF−8の検出をマスキングした。65℃より高い温度でのインキュベーションにより、MYO−029の存在下でのGDF−8の検出が部分的に回復した。しかし、65℃より高い温度でのGDF−8の計算濃度により、アッセイが、血清中に存在するGDF8の合計量を実質的に過小評価したことが示される。
【0331】
(実施例6.12)
GDF8はMYO−029の存在下で、低pHで検出される
MYO−029の解離に必要な温度まで加熱した場合の最適以下のGDF−8の検出は、代替方法の評価を促した。図24は、MYO−029の非存在および存在下において同様のレベルのGDF−8を検出する、酸解離ELISAの能力を実証する。以前の実験では、GDF−8/MYO−029混合物を、捕捉抗体と結合させる前に中和した。これらの条件下では、MYO−029は、中和された際に捕捉抗体であるRK35との結合について競合することができた。図24では、捕捉条件を低い酸性pHで維持した場合に、RK35は依然としてGDF−8と結合することができるが、MYO−029結合できず、したがって、GDF−8の検出の完全回収を治療用抗体の存在または非存在下で達成できることが実証されている。
【0332】
(実施例6.13)
RK35は酸性条件下でGDF8と結合する
RK35が酸性条件下でGDF−8と結合できる(MYO−029はできない)ことを確認するために、RK35およびMYO−029をヒト血清中で個別に滴定し、分析物捕捉ステップを酸性条件下で行った。溶液中の漸増量のRK35は、結合してプレートと結合したRK35と結合するGDF−8について競合することができ、酸性条件下でGDF−8の検出の減少がもたらされた。MYO−029は、加えたMYO−029の濃度にかかわらず、pH3.0に近づく溶液中でGDF−8と結合することができず、溶液中のGDF−8は、ELISAウェル上にコーティングしたRK35抗体に利用可能なまま残された(図25を参照)。したがって、MYO−029が有用な属性として役割を果たすことができない条件下でGDF−8と結合するRK35の能力は、MYO−029の存在下でGDF−8レベルを測定するために利用することができる。GDF−8からのMYO−029の酸解離は、増大する濃度のMYO−029でも有効である。図25中のデータは、MYO−029濃度を100μg/mlまで増加することでは、酸解離プロトコルを用いたGDF−8の検出が消失されなかったことを示す。また、この図は、熱解離プロトコルを用いたGDF−8の検出の顕著な低下も示す、図26
【0333】
ヒト血清の酸性化は、以前に報告されているよりもはるかに大きなGDF−8血清レベルの推定値をもたらす。増加した血清の推定値がより高いGDF−8の検出の結果であって、酸に誘導された人為的結果によるものではないことを実証するために、遺伝子操作したノックアウトマウスおよび天然に存在するGDF−8ノックアウト動物であるベルジアンブルー牛の両方からの血清を分析した。図27は、ノックアウトマウスおよびベルジアンブルー牛のどちらからの血清も、中性または酸性pHのいずれかで測定した場合に、プレートのバックグラウンドを超えるシグナルを生じることができなかったことを示す。ここで報告した値は光学密度の単位であり、比較評価が可能であるが、検量線が欠如するため、GDF−8の絶対量を決定することができない。
【0334】
(実施例6.14)
検量線のフィッティング
酸解離方法のアッセイ間およびアッセイ内のばらつきを評価するために、組換えGDF−8二量体を添加したベルジアンブルー血清アリコートを分析した。4つのストック溶液を検量線とは独立して調製し、3つ組で、96ウェルプレートの5つの異なる位置でアッセイした。
【0335】
4つまたは5つのパラメータのロジスティックモデルを用いて、このアッセイに検量線をフィッティングさせることができる。3つ組の算術平均を、モデルフィッティングの生データとして使用することができる。典型的には、異なる濃度レベルの分散は異なる傾向にある。低濃度および高濃度のどちらでも正確な検量線を得るために、光学密度データの重み付き非線形最小二乗方法、または分散安定化変換、続いて非重み付き非線形最小二乗方法を用いるべきである。
【0336】
図28A〜Cは、較正標準の逆算した濃度のその相対誤差に関して、5個のGDF−8 ELISAプレートの検量線のフィッティングの3つの異なる方法を対比する。20%の相対誤差を許容されるとする場合、光学密度の平方根にフィッティングさせた4つおよび5個のパラメータの両方のロジスティックモデルを使用することができる。
【0337】
(実施例6.15)
アッセイの正確さおよび精度
酸解離方法のアッセイ間およびアッセイ内のばらつきを評価するために、組換えGDF−8二量体を添加したベルジアンブルー血清のアリコートを分析した。4つのストック溶液を検量線とは独立して調製し、3つ組で、96ウェルプレートの5つの異なる位置でアッセイした。図29は、3日の異なる日に処理した5個のプレートのプレート設計を示す。添加した試料の濃度を、5個のパラメータのロジスティックモデルによってそれぞれのプレートにフィッティングさせた検量線から計算した。プレート内およびプレート間の変動係数(CV)および相対誤差(RE)を表1および2に要約する。プレート内およびプレート間の正確さはどちらも、いずれのCV計算の方法に基づいても十分に20%の範囲内にあった。
【0338】
【表5】
【0339】
【表6】
【0340】
(実施例7)
ヒト血清中のミオスタチン濃度の測定
上述のアッセイを用いて、健康なヒト血清中のミオスタチンの循環濃度を測定および比較した。一研究では、若年および高齢の男性の血清をミオスタチンレベルについて評価した。テストステロン用量応答研究からの保管試料を用いた、循環ミオスタチンレベルに対するテストステロン治療の効果も検査した。詳細が以前に公開されているその研究では(Bhasin Sら、J Clin Endocrinol Metab、2005、90:678〜88、Bhasin Sら、Am J Physiol Endocrinol Metab、2001、281:El 172〜81、およびStorer TVVら、J Clin Endocrinol Metab、2003、88:1478〜85)、健康な若年および高齢の男性への段階づけた用量のテストステロンの投与は、骨格筋量および強度の用量依存性の増加に関連していた。別の研究では、健康な女性および手術閉経女性の血清を評価した。
【0341】
第1の研究では、血清試料は、上述のテストステロン用量応答研究の参加者であった、正常なテストステロンレベルを有する18〜35歳の健康な若年男性および60〜75歳の高齢男性に由来するものであった。研究プロトコルは、Charles R.Drew大学およびHarbor−UCLA研究教育施設(Research and Education Institute)の施設審査委員会によって承認された。除外基準には、前立腺癌の既往歴、PSA>4ng/ml、AUA下部尿路症状質問表で>7のスコア、ヘマトクリット>48%、重篤な睡眠時無呼吸、真性糖尿病、鬱血性心不全、過去6カ月の心筋梗塞、過去1年間のアンドロゲンの使用、または中等度から激しい運動トレーニングレジメンへの参加が含まれていた。4週間のコントロール期間の後、参加者を5個の治療グループのうちの1つにランダムに割り当てて、内在性ゴナドトロピン産生を抑制するためにGnRH作用剤(ロイプロリドデポー、7.5mg、TAP、イリノイ州North Chicago)の月1回の注射を与えた。また、参加者に、5つの用量、すなわち、週1回の25mg、50mg、125mg、または300mgのうちの1つで、エナント酸テストステロン(TE、Delatestryl、200mg/ml、Savient Pharmaceuticals,Inc.、ニュージャージー州Iselin)の週1回の筋肉内注射も与えた。
【0342】
血清試料(またはベルジアンブルー血清中の較正物質試料)を、酸解離緩衝液(0.2Mのグリシン−HCl、pH2.5)と1:13.3の比で混合した。非解離アッセイには、試料をグリシン−HCl緩衝液の代わりにTHST緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH8.0、500mMのNaCl、1mMのグリシン、0.05%のTween−20、pH8.0)と混合した。アッセイプレート(Immulon 4 HBX#3855)を、コーティング緩衝液(100mMのホウ酸ナトリウム、pH9.1)中の2.0mg/mlのRK35と共に終夜4℃でインキュベーションし、洗浄した、200μl/ウェルのSuperBlock−TBS(Pierce#37535)で遮断した。希釈した血清試料(100μL)をアッセイプレートに移し、室温で90分間インキュベーションし、THSTで4回洗浄し、100μlのビオチン化RK−22二次抗体(0.1μg/ml)をそれぞれのウェルに90分間、室温で加えた。プレートをTHSTで4回洗浄し、THST緩衝液で1:40,000に希釈した100μLのストレプトアビジン−HRP(SouthernBiotech#7100−05)を1時間、室温で加えた。プレートをTHSTで4回、再度洗浄し、100μLのTMB基質を12分間、室温で加えることによって展開した。ウェル1個あたり100μlの0.5MのHSO4を加え、波長補正を540nmに設定して、ELISAプレートをOD450nmで読み取った。
【0343】
検量線範囲:検量線は、それぞれの較正物質のODおよび対応する濃度をプロットすることによって作成した。5個のパラメータのロジスティックのフィッティングをもちいて検量線をフィッティングさせた。73pg/mlから75,000pg/mLまで広がるベルジアンブルー血清中の組換えヒト成熟ミオスタチンの2倍希釈液からなる検量線を、それぞれのアッセイの前に調製した。11個の較正物質のリードバック値のアッセイ内およびアッセイ間の不正確さを、6回の分析の実行から決定した。外挿した濃度の平均、SD、%CV、および%バイアスを、それぞれの分析の実行(アッセイ内の不正確さを評価するため)およびすべての分析の実行(アッセイ間の不正確さを評価するため)について計算した。定量化の下限および上限を、アッセイ内の%CVおよび%バイアス≦30%で測定できる最も低い(LLQ)および最も高い(ULQ)較正物質濃度(それぞれ)として定義した。
【0344】
妥当性確認試料の調製:低、中範囲、および高血清濃度のミオスタチンに対応する3組の妥当性確認試料を、それぞれ検量線の下端および中範囲の内在性ミオスタチン濃度を有する健康な対象からの血清試料を用いて調製した。高濃度の妥当性確認試料は、組換えミオスタチンタンパク質を添加した健康な対象からの血清試料であった。
【0345】
アッセイ内およびアッセイ間の不正確さ:アッセイ内およびアッセイ間のCVを、3個の妥当性確認試料(低、中、高)のそれぞれの6個の別々のアリコートで、5回の独立した分析の実行で測定した。QC分析の実行の許容範囲(合計アッセイばらつき平均+/−2SD)は、3個のQC試料のそれぞれの23個の別々のアリコートにおいて、25回の独立した分析の実行で測定したミオスタチン濃度から決定した。3個のQC試料(QC−低、QC−中、およびQC−高)のそれぞれの1つのアリコートを、試料のそれぞれの分析の実行で分析した。3個のQC試料のうちの2個のミオスタチンの測定した濃度が確立された許容範囲内にあった場合に、分析の実行は許容された。
【0346】
他のアッセイ:血清全テストステロンレベルは、液体クロマトグラフィータンデム質量分光測定(LC−MSI/MS)に対して以前に妥当性確認されている特異的ラジオイムノアッセイによって測定した。全Tアッセイのアッセイ内およびアッセイ間の変動係数はそれぞれ8.2%および13.2%であった。平衡透析手順によって血清から分離した遊離Tは、0.22pg/mlの感度を有し、アッセイ内およびアッセイ間の変動係数がそれぞれ4.2%および12.3%である高感度ラジオイムノアッセイによって測定した(Sinha−Hikimら、J Clin Endocrinol Metab、1998、83:1312〜8)。ラジオイムノアッセイおよびLC−MS/MS方法は、既知の量のTを加えた、木炭ストリップ血清中で調製した試料を分析することによって比較した。これらの測定により、ラジオイムノアッセイおよびLC−MS/MS測定値の間に0.99の相関が実証された。血清性ホルモン結合グロブリン(SHBG)レベルは、6.25nmol/Lの感度を有する免疫蛍光定量化アッセイによって測定した。体組成は、ベースラインおよび20週目中、二重エネルギーX線吸光光度法(DEW、Hologic 4500、マサチューセッツ州Waltham)によって評価した。それぞれの測定の前に、体組成模型を使用して機器を較正した。
【0347】
統計的分析:すべての結果変数を、分布および分散の均一性について評価した。分散の均一性または正常な分布の仮定を満たさなかった変数はログ変換した。ANOVAを用いて、単一の時点での、若年対高齢の年齢によって階層化した用量グループにわたる差異を評価し、差異をANOVAによって同定した場合は、どのグループが顕著に異なっていたかを決定するためにシェフ(Sheffe)試験を用いた。ベースラインから治療へのグループ内の変化は、対応のあるt検定で評価した。統計的有意性を決定するためのαを0.05に設定した。データは、図の凡例中で別段に指定しない限りは、ベースライン+/−SEMからの平均+/−SEMまたは平均%変化として表す。
【0348】
ミオスタチンアッセイの特徴:線形範囲:平均のアッセイ内およびアッセイ間の不正確さは、検量線中の11個の較正物質(73〜75,000pg/mL)のそれぞれについて6回の分析の実行から決定した(表7、以下)。73pg/mLの較正物質のアッセイ間CVは36.4%であり、これは許容される限界(<30%)を超えていた。したがって、アッセイのLLQは次の較正物質点(147pg/mL)によって決定し、この点でのアッセイ間のCVおよび%バイアスはそれぞれ19.7%および3.4%であった。また、75,000pg/mLの較正物質のアッセイ間CV32.4%も許容される限界(<30%)内になく、したがって、ULQは次に低い較正物質点(37,500pg/mL)に定義され、この点でのCVおよび%バイアスはそれぞれ3.6%および0.8%であった。アッセイの線形定量化的範囲は、生物学的に関連性のあるマトリックスにおいて143pg/mLから37,500pg/mLに広がる。
【0349】
【表7】
【0350】
アッセイ内およびアッセイ間の不正確さ:5回の分析の実行における低、中、および高の妥当性確認試料の平均ミオスタチン濃度(pg/mL、+/−SD)は、それぞれ3739+/−146、7615+/−125、および18268+/−948であった。低、中、および高の妥当性確認試料で測定されたアッセイ内CV(それぞれの妥当性確認試料についてn=5)は、それぞれ4.1%、4.7%、および7.2%であり、アッセイ間CVはそれぞれ3.9%、1.6%、および5.2%であった。
【0351】
アッセイの特異性:成熟ミオスタチンタンパク質は哺乳動物種間で高い度合の配列保存性を有し、ミオスタチンアッセイをマウス、ラット、イヌ、ウシ、およびサルを含めた多くの非ヒト試料で使用することが可能となる。ミオスタチン欠乏畜牛(ベルジアンブルー)およびミオスタチン遺伝子の不活性化の突然変異を有するマウス(mstn KO)からの血清試料を解離性の酸性条件下でアッセイし、同じ種の正常な動物と比較した(図29A)。血清ミオスタチンは正常なマウスで豊富である一方で(−120ng/ml)、正常なウシ血清の平均は約40ng/mLであった。対照的に、これらのミオスタチンヌル動物中の突然変異はタンパク質の合成を消滅させるため、ミオスタチンタンパク質は、ベルジアンブルー畜牛およびミオスタチンKOマウスのどちらからの血清でも検出不可能であり、ミオスタチンに対するアッセイの特異性が確認された。
【0352】
ヒト対象のベースライン特徴:61人のランダム化された若年男性のうちの52人および60人のランダム化された高齢男性のうちの51人が治療段階を完了した。ミオスタチンアッセイ用の十分な血清および体組成データが、20週目まで50人の若年男性および48人の高齢男性で入手可能であり、これらの対象をこの二次分析に含め、そのベースライン特徴を以下の表8に示す。全体的な薬物コンプライアンス率は99%を超えていた。
【0353】
ベースライン全テストステロン、遊離テストステロン、%遊離テストステロン、SHBG濃度は、若年または高齢のグループのどちらでも、ベースラインで5つの用量グループ間の差異がなかった。しかし、高齢男性は、若年男性よりも低い血清の全および遊離テストステロンおよび高いSHBGを有していた。体重、体重指数、および%体脂肪量は若年男性よりも高齢男性で高い一方で、身長はどちらでも同様であった。
【0354】
【表8】
【0355】
若年および高齢の男性におけるミオスタチンレベル:血清ミオスタチンレベルはは、若年および高齢の男性のどちらでも正常の分布であった。若年男性は、高齢男性よりも有意に高いミオスタチンレベルを有していた(8.0+/−0.3対7.0+/−0.4ng/mL、P=0.03)(図30A)。血清ミオスタチンレベルは、若年または高齢の男性のどちらにおいても、DEXAによって測定した除脂肪体重と有意に相関していなかった(図30Bおよび30C)。同様に、ベースラインでミオスタチンレベルと体重、体重指数、または血清テストステロンレベルとの間に有意な相関は存在しなかった(示さず)。
【0356】
男性におけるミオスタチンレベルに対するテストステロン投与の効果:ベースラインでの血清ミオスタチンレベルは、若年または高齢の男性のどちらにおいても、5つの用量グループにわたって有意な差異が存在しなかった。血清ミオスタチンレベルは、若年および高齢の男性のどちらにおいても、ベースラインと比較して56日目で有意に高かった(図31A)。血清ミオスタチン濃度の変化は、若年または高齢の男性のどちらにおいても、5つの用量グループ間で有意な差異が存在しなかった。高齢男性は、若年男性よりも有意に高いミオスタチンレベルの%増加を経験した(図31B)。テストステロン治療中のミオスタチンレベルの増加は持続しなかった。したがって、140日目の血清ミオスタチンレベルは、ベースラインとは有意な差異が存在しなかった。
【0357】
ベースラインを超えるミオスタチンレベルの増加量は、テストステロン濃度の変化に関連していた。ベースラインから56日目のミオスタチンレベルの変化は、若年男性においては全(図32A)および遊離(図32C)テストステロン濃度の変化と有意に正相関していたが、高齢男性ではそうではなかった(図32Bおよび32D)。以前に報告されているように、テストステロン治療は除脂肪体重の有意な増加に関連しており、以前に記載したように、除脂肪体重の変化はテストステロン用量およびテストステロン濃度と有意に相関していた。しかし、除脂肪体重の変化は、ミオスタチン濃度の絶対的または%変化(図32Eおよび32F)のどちらとも有意に相関していなかった。
【0358】
女性におけるミオスタチンレベル:別の研究で、19〜21歳の健康な月経期若年女性および67〜87歳の閉経後の女性の血清試料を、BioServe、メリーランド州Beltsvilleから購入した。これらの参加者は、IRBに承認されたBioserve研究に参加することに同意していた。手術閉経女性は、18〜55歳であり、登録の少なくとも6カ月前に卵巣手術を受け、血清FSH>30U/L、BMI<35kg/m、過去12カ月内に正常なPAPスメアおよびマンモグラムを有し、ボストン大学IRBによって承認された書面のインフォームドコンセントを提出した。
【0359】
若年女性中の血清ミオスタチンレベルは、若年男性と有意な差異が存在しなかった(図33)。月経期若年女性、手術閉経女性、および自然な閉経期の女性のミオスタチンレベルは、有意な差異が存在しなかった。
【受託番号】
【0360】
ATCC PTA−4741
ATCC P3X63.Ag8.653
ATCC HTB−82
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]