(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
取付面と放熱面とを有しかつ、当該取付面に少なくとも1の発熱体が取り付けられるベース、及び、前記ベースの放熱面に立設された複数のフィンを含んで構成される放熱部、を備えかつ、冷却風が流れるダクト内に配設されたヒートシンクであって、
前記各フィンは、前記放熱面から突出するように、当該放熱面に当接する基端から先端に向かって延びていると共に、前記冷却風の流れ方向における上流端に対応する前端から、その下流端に対応する後端に向かって前後方向に延びており、
前記放熱部には、前記複数のフィンが、前記前後方向に直交する並び方向に所定間隔を空けて配置されることによって、前記隣り合うフィンの側面同士の間に、当該フィンの前記前端、後端及び先端のそれぞれにおいて開口する複数のスリット状流路が、前記前後方向に延びるように区画形成され、
前記各スリット状流路の先端の開口は、前記ダクトの内壁によって実質的に塞がれており、
前記各フィンの少なくとも一方の側面には、少なくとも基端側の領域を除く先端側の領域に、前記フィンの側面から突出する突起物によって構成されることにより、前記スリット状流路内の流れを乱流にすることで伝熱を促進すると共に、先端から基端へ向かう方向の流れの促進により前記基端側の領域の流量を、前記先端側よりも大にする伝熱促進加工が施されているヒートシンク。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に記載されているように、発熱体が取り付けられたベースに複数のフィンを取り付け、隣り合うフィン同士の間に形成されるスリット状流路を冷却風が流れることによって、各フィンを通じた熱伝達により発熱体の熱を放熱するヒートシンクが知られている。このようなヒートシンクでは、フィンの温度が、基端から先端に向かうに従って低下するため、各スリット状流路におけるフィンの基端側の流量を相対的に大きくすることが、ヒートシンクの性能を向上させる上で有利になる。尚、フィンの基端は、ベースに取り付けられた端、フィンの先端は、ベースに立設するフィンの高さ方向についての、前記基端とは逆側の端である。特許文献1に記載されたヒートシンクでは、その
図3、4に示されているように、各フィンの先端側に、当該フィンに直交する別のフィンを多数取り付け、それによって、スリット状流路における先端側は流路断面積を小さくかつ、基端側は流路断面積を大きくしている。この流路断面積の大小により、スリット状流路の上流端の開口から流路内に流入する冷却風の流量割合を、先端側は相対的に小さくかつ、基端側は相対的に大きくなるようにする。この構成では、スリット状流路における先端側は流量が小さくなって熱伝達率が低下するものの、先端側に取り付けた多数の直交フィンによって伝熱面積を大きくすることで、冷却風の流量低下分を補うようにしている。
【0003】
また、特許文献2には、先端側におけるフィンの温度低下を回避すべく、各フィンの基端側の板厚を相対的に厚肉する一方で、先端側の板厚を相対的に薄肉したヒートシンクが記載されている。この構成は、ベースで受熱した熱をフィンの先端まで効率的に伝導させることによって、全体の熱伝達効率が高まる上に、先端側の板厚を相対的に薄肉することによって、各スリット状流路の流路幅が狭くならず、ヒートシンクの流路断面積を所定以上に確保することができるため、この点でも、ヒートシンクの性能向上に有利になる。
【0004】
さらに、特許文献3には、各フィンの両側面それぞれにおける、基端から先端までの全面に亘って、三角錐状の多数の突起を規則的に配置することによって、各スリット状流路内の流れを乱流にして熱伝達率を高めたヒートシンクが記載されている。また、特許文献3には、前述した特許文献2のヒートシンクのように基端側から先端側に向かって板厚が次第に減少するフィンに対し、前述した突起を設けたヒートシンクも記載されている。
【0005】
加えて、特許文献4には、各スリット状流路内の流れを乱流にすることで伝熱を促進する伝熱促進加工として、ディンプル加工、張り出し加工及びオフセット加工が記載されていると共に、そうした伝熱促進加工を、冷却風の流れ方向に並んで配置した発熱体の発熱量分布に応じて、各フィンにおける流れ方向の一部分に施したヒートシンクが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えばピーク温度の低減といったヒートシンクの性能について、各特許文献に記載されたヒートシンク以上の性能向上が求められているが、これらの文献に記載のヒートシンクと同じ構成であれば、その性能向上にも限界がある。特にヒートシンクをダクト内に配設し、送風源からの冷却風をヒートシンクに供給するような強制空冷型のヒートシンクでは、性能向上と共に、圧力損失を所定以下に抑制することも求められる。そのため、圧力損失の増大を回避しつつ、ヒートシンクの性能を高める必要がある。この点につき、特許文献1に記載されているような直交フィンを取り付ける構成は、ヒートシンクの性能を高めるべく直交フィンの面積を増やすと、流路断面積の減少により圧力損失を大幅に増大させることになる。また、特許文献3に記載されているようなフィンの両側面の全面に多数の突起を取り付けてスリット状流路内の全体を乱流にしてしまう構成もまた、ヒートシンクの性能を高めるべく突起の数を増やすと、ヒートシンクの圧力損失を大幅に増大させることになる。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧力損失の増大を回避しつつ、ヒートシンクの性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示する技術は、取付面と放熱面とを有しかつ、当該取付面に少なくとも1の発熱体が取り付けられるベース、及び、前記ベースの放熱面に立設された複数のフィンを含んで構成される放熱部、を備えかつ、冷却風が流れるダクト内に配設されたヒートシンクである。
【0010】
そして、前記各フィンは、前記放熱面から突出するように、当該放熱面に当接する基端から先端に向かって延びていると共に、前記冷却風の流れ方向における上流端に対応する前端から、その下流端に対応する後端に向かって前後方向に延びており、前記放熱部には、前記複数のフィンが、前記前後方向に直交する並び方向に所定間隔を空けて配置されることによって、前記隣り合うフィンの側面同士の間に、当該フィンの前記前端、後端及び先端のそれぞれにおいて開口する複数のスリット状流路が、前記前後方向に延びるように区画形成され、前記各スリット状流路の先端の開口は、前記ダクトの内壁によって実質的に塞がれており、前記各フィンの少なくとも一方の側面には、少なくとも基端側の領域を除く先端側の領域に、
前記フィンの側面から突出する突起物によって構成されることにより、前記スリット状流路内の流れを乱流にすることで伝熱を促進する
と共に、先端から基端へ向かう方向の流れの促進により前記基端側の領域の流量を、前記先端側よりも大にする伝熱促進加工が施されている。
【0011】
ここで、伝熱促進加工は、例えば特許文献4に記載されているように、ディンプル加工、張り出し加工及びオフセット加工等によって、フィンの側面から突出する突起物を形成する加工とすればよい。また、そうした突起物を、各種の接合方法を利用してフィンの側面に取り付ける加工としてもよい。突起物は、スリット状流路内の流れを乱流にし、その乱流の効果が伝熱を促進する。伝熱促進加工は、基端側の領域を除く先端側の領域において、フィンの前端から後端までの全域に亘って施してもよいし、先端側の領域において冷却風の温度が高くなる後端側の部分にのみ、中央部から後端部にかけての部分、又は、前後方向に発熱量の分布が存在しているときには発熱量が相対的に高い部分に、伝熱促進加工を施してもよい。
【0012】
この構成によると、ヒートシンクの放熱部においてスリット状流路を区画する各フィンの少なくとも一方の側面には、その少なくとも基端側の領域を除く先端側の領域に、前記スリット状流路内の流れを乱流にすることで伝熱を促進する伝熱促進加工が施されている。言い換えると、当該側面の基端側の領域には伝熱促進加工が施されていないため、スリット状流路における基端側は、その流路断面積が相対的に大きくなる一方、伝熱促進加工が施されている先端側は、その流路断面積が相対的に小さくなる。こうして、スリット状流路における基端側と先端側とで流路断面積が相違するため、基端側の流量は相対的に大に、先端側の流量は相対的に小になる。フィンの温度が相対的に高い基端側の流量が大になるため、この構成は、ヒートシンクの性能向上に有利になる。
【0013】
また、伝熱促進加工が施されている先端側ではスリット状流路内において乱流が発生して熱伝達率が向上する。このため、フィンの先端側は、冷却風の流量は相対的に小であるものの、熱伝達効率の低下は抑制される。
【0014】
そうして、スリット状流路内における先端側で乱流が発生することによって、スリット状流路内を流れる冷却風は、その前後方向(言い換えるとダクト内での冷却風の流れ方向)以外に、フィンの基端から先端に向かう方向、及び、それとは逆のフィンの先端から基端に向かう方向の速度成分も有するようになる。ここで、このヒートシンクはダクト内に配設されていて、スリット状流路の先端の開口はダクトの内壁によって実質的に塞がれており、スリット状流路内の冷却風はこの開口を通じて逃げることができない。このため、スリット状流路内においては、乱流の発生によりフィンの先端から基端に向かう方向の流れが促進されるようになる。つまり、スリット状流路の内部、言い換えるとその流路の前後方向の途中において先端から基端に向かう方向の流れが促進されることによって、スリット状流路における基端側での流れの流速が増速される。その結果、前述したように基端側と先端側とで流路断面積が相違することによって得られる基端側の流量増大効果以上に、基端側での流量が増大し、圧力損失の増大が回避される。また、前述した流れの増速は、特にヒートシンクの後側で顕著になるため、ピーク温度の低減に有利になる。従って、この構成のヒートシンクは、圧力損失の増大を回避しつつ、その性能が向上する。
【0015】
前記各フィンは、前記基端側の板厚が、前記先端側の板厚よりも分厚い、としてもよい。
【0016】
フィンの基端側の板厚を相対的に厚くし、先端側の板厚を相対的に薄くすることによって、先端に向かってフィンの温度が低下することが抑制される。これは、ヒートシンクの性能向上に有利になる。
【0017】
また、フィンの基端側の板厚を相対的に厚くすることによって、スリット状流路の流路幅は、基端側が狭くなる。従って、スリット状流路の基端側は冷却風が流れにくくなるものの、前述したように、先端側の伝熱促進加工が、スリット状流路の内部において先端から基端に向かう方向の流れを促進することによって、その基端側の流量を増大させることが可能である。その結果、ヒートシンクの圧力損失の増大を回避しつつ、ヒートシンクの性能が向上する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、前記のヒートシンクは、各フィンの側面において少なくとも基端側の領域を除く先端側の領域に伝熱促進加工を施すことにより、スリット状流路の先端の開口がダクトの内壁によって実質的に塞がれていることによって、スリット状流路の内部においてフィンの先端から基端に向かう方向の流れが促進され、スリット状流路の基端側での流速を増速させて、その流量をさらに増大させることが可能になる。その結果、この構成のヒートシンクは、圧力損失の増大を回避することが実現する上に、基端側の流量増大と先端側の乱流効果とが組み合わさって、その性能も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ヒートシンクの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。
図1は、ヒートシンク1の斜視図を示しており、
図2は、(a)がヒートシンクの正面図、(b)がヒートシンクの側面図、そして、(c)がヒートシンクの底面図を示している。このヒートシンク1は、鉄道車両の駆動に用いられるパワー半導体素子等の、発熱体2を冷却するための冷却器である。但し、これ以外の用途に利用してもよい。ヒートシンク1は、詳細な図示は省略するが、ダクト内に配設されており、このダクトに接続された図示省略の送風機からの冷却風が、ヒートシンク1に供給される。つまり、このヒートシンク1は、強制空冷型のヒートシンク1であり、ヒートシンク1は、発熱体2の熱を放熱して、当該発熱体2を冷却する。ヒートシンク1は、発熱体2が取り付けられるベース11と、ベース11に対して立設された複数のフィン31を含んで構成される放熱部3と、を備えている。
【0021】
ベース11は、ダクトの方向に対応する前後方向、及び、その前後方向に直交する並び方向に拡がると共に、所定厚みを有する平板であり、発熱体2が取り付けられる取付面111と、フィン31が立設する放熱面112とが、その厚み方向に相対して構成されている。ベース11の取付面111には、複数の発熱体2が、熱伝導性の高いグリス等を介在させた状態で当該取付面111に接触して取り付けられている。図例では、前後方向に4個でかつ、並び方向に3個となるように、合計12個の発熱体2がマトリックス状に配置されている。尚、発熱体2の個数やその配置は、特に限定されるものではない。
【0022】
ベース11にはまた、並び方向に延びるヒートパイプ12が、前後方向に所定の間隔を空けて複数本、埋設されている。図例では、1つの発熱体2に2本のヒートパイプ12が対応するように、合計8本のヒートパイプ12が埋設されている。ここで、
図2(c)に示すように、並び方向の一側(図における上側)に配置された発熱体2は、その熱負荷が相対的に大である一方、並び方向の他側(図における下側)に配置された発熱体2は、その熱負荷が小である。このように、熱負荷が異なる発熱体2に対し、並び方向に延びるヒートパイプ12を組み合わせることは、発熱体2を並び方向に均熱化する上で有利になる。尚、並び方向の真ん中に配置される発熱体2は、熱負荷は、大、小、及び中とすることが可能である。
【0023】
各フィン31は、一定の厚みを有する平板状であって、ベース11の放熱面112に当接する基端から先端に向かって、当該放熱面112に対して直交する方向(つまり、高さ方向)に延びるように放熱面112に立設されていると共に、前後方向に延びて配設されている。尚、各フィン31の形状は図例に限定されるものではなく、その高さ、前後方向長さ及び厚みの比率は、適宜設定することが可能である。
【0024】
複数のフィン31は、ベース11の放熱面112に対し、並び方向に所定の等間隔を空けて並設されている。図例では、11枚のフィン31が並設されているが、放熱部3のフィン31の枚数はこれに限定されるものではない。放熱部3には、隣り合うフィン31の側面同士の間に、前後方向に沿って延びるスリット状流路30が区画形成される。この各スリット状流路30は、フィン31の前端(
図1における左手前の端)、後端(
図1における右奥の端)及び先端(
図1における上端)のそれぞれにおいて開口することになるが、
図2(a)(b)に仮想的に示すように、各スリット状流路30の先端の開口は、ダクトの内壁4によって塞がれている。尚、各フィン31の先端にダクトの内壁4が当接することによって、各スリット状流路30の先端の開口が完全に塞がれている以外にも、各フィン31の先端とダクトの内壁4との間に若干の隙間を設けるものの、各スリット状流路30の先端の開口が実質的に塞がれているような構成を採用してもよい。尚、スリット状流路30の流路幅は、適宜の幅に設定することが可能であり、図例に限定されない。
【0025】
ヒートシンク1は、熱伝導性の高い材料、例えばアルミニウムやアルミニウム合金によって形成される。また、ヒートシンク1は、ベース11に対して、各フィン31を溶接、ろう付け及び接着剤等の各種の、適宜の手段によって接合することで成形すればよい。
【0026】
このヒートシンクの最も特徴的な点として、各フィン31の一方の側面、つまり片面には、スリット状流路30内に乱流を発生させて伝熱を促進する伝熱促進加工5が施されている。この伝熱促進加工5は、スリット状流路30内におけるフィン31の基端側の領域を除く、先端側の領域に施されていると共に、図例では、前後方向の前側を除く、中央から後側にかけての部分に施されている。より詳細には、フィン31を高さ方向に3分割したときの、概ね中央部から先端部にかけての領域に、伝熱促進加工5が施されていると共に、前後方向に3分割したときの、概ね中央部から後部にかけての領域に、伝熱促進加工5が施されている。
【0027】
伝熱促進加工5は、具体的には、フィン31の側面から突出して設けられた複数個の凸部51によって構成されている。凸部51は、例えばプレス成形によって形成してもよい。この場合、各フィン31において、凸部51が突出する側面に対し逆側の側面には凹部52が形成されるようになる。
【0028】
複数個の凸部51は、
図2(b)に端的に示されるように、高さ方向に3個又は4個が並んで配置されることによって、列を構成すると共に、その列が、前後方向に所定の間隔を空けて4列、形成されるように配置されている。尚、以下においては説明の便宜上、凸部51によって構成される列を、その前側から後側に向かって順に、第1列、第2列、第3列及び第4列と呼ぶ。
【0029】
各凸部51は、側面視で矩形状に形成されており、各列において、高さ方向に隣り合う凸部51と凸部51との間には、所定の隙間が設けられている。ここで、第1列及び第3列はそれぞれ3個の凸部51によって構成されており、これにより、第1列及び第3列は2個の隙間を有する一方、第2列及び第4列はそれぞれ4個の凸部51によって構成されており、これにより、第2列及び第4列は3個の隙間を有している。このため、前後方向に見たときには、各列の隙間が、高さ方向に互い違いとなるように、配置されている。このような凸部51の配置は、乱流の乱れを強くする上で有利である。
【0030】
このように、各フィン31の側面における、基端側の領域を除く先端側の領域に、スリット状流路30内の流れを乱流にすることで伝熱を促進する伝熱促進加工5を施すことによって、スリット状流路30における先端側は、その流路断面積が相対的に小さくなる一方、そうした伝熱促進加工5が施されていない基端側は、流路断面積が相対的に大きくなる(
図2(a)参照)。このことにより、基端側の流量が相対的に大に、先端側の流量が相対的に小になって、フィン31の温度が相対的に高い基端側を流れる冷却風の流量が大になるから、放熱効果が高まり、ヒートシンク1の性能向上に有利になる。
【0031】
また、先端側は、冷却風の流量が小になるものの、伝熱促進加工5によって発生する乱流により熱伝達率が向上するため、この先端側での熱伝達効率の低下が抑制される。
【0032】
そうして、スリット状流路30内における先端側で乱流が発生することによって、このスリット状流路30内を流れる冷却風は、前後方向の速度成分の他に、フィン31の基端から先端に向かう方向、及び、それとは逆のフィン31の先端から基端に向かう方向の速度成分も有するようになる。ところが、前述したように、このヒートシンク1はダクト内に配設されていて、スリット状流路30の先端の開口は、ダクトの内壁4によって塞がれているため、冷却風がこの先端の開口を通じて外に逃げることはできない。その結果、このヒートシンク1では、スリット状流路30内において、フィン31の先端から基端に向かう方向の流れが促進されるようになる。このことにより、基端側での流れが増速されて、先端側と基端側とで流路断面積を異ならせること以上に、スリット状流路の基端側の流量が増大する。こうして、このヒートシンク1は、圧力損失の増大を回避することが実現し、圧力損失の増大を回避しつつも、性能を高めることが可能になる。
【0033】
また、伝熱促進加工5を、前後方向における前側を除く部分に施すことによって、冷却風の温度が高まる後側において、熱伝達率を高めることができると共に、スリット状流路30の後側の流速を増速させることが可能になる。このことは、ピーク温度の低減に有利であり、ヒートシンク1の性能を、より効果的に向上させる。特に、
図2(c)に示すように、ヒートパイプ12によって並び方向の均熱化を行うことと組み合わせることで、ピーク温度の低減に、さらに有利になる。尚、発熱体2の配置に応じて、ヒートパイプ12は省略することも可能である。
【0034】
尚、伝熱促進加工5を施す範囲は、前述したように、中央部から後側にかけての部分に限定されず、後側のみに伝熱促進加工を施してもよいし、フィン31における、前後方向のほぼ全域に亘って伝熱促進加工を施してもよい。また、
図2においては、フィン31を高さ方向に3分割したときの、概ね中央部から先端部にかけての領域に、伝熱促進加工5を施しているが、これとは異なり、フィン31を高さ方向に2分割したときの、先端側の部分に伝熱促進加工5を施してもよい。同様に、図例では、前後方向に3分割したときの、概ね中央部から後部にかけての領域に、伝熱促進加工5を施しているが、前後方向に2分割したときの、後側の部分に伝熱促進加工5を施してもよい。また、前後方向については、そうした3分割や、2分割といった区分の他にも、前後方向に発熱量の分布が存在している場合、発熱量が相対的に高い部分に伝熱促進加工5を施してもよい。
【0035】
また、伝熱促進加工5は、前述したように、矩形状の凸部51を形成することには限らず、その形状を適宜設定すればよい。例えば円形状の凸部を形成してもよい。また、その加工方法も、ディンプル加工、張り出し加工及びオフセット加工を適宜採用すればよい。
【0036】
さらに、フィン31の形状は、前述したように高さ方向に板厚が一定であることに限らず、高さ方向に板厚を変更させてもよい。
図3は、ヒートシンク10の別の構成例を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。尚、
図2に示すヒートシンク1と実質的に同じ構成の部分については、同じ符号を付す。
図3に示すように、各フィン310は、伝熱促進加工5を施さない基端側の領域の板厚を、伝熱促進加工5を施す先端側の領域の板厚よりも分厚くしている。より詳細には、各フィン310の基端側の領域は、その板厚が基端側から先端側に向かって次第に減少するように構成されている一方、先端側の領域が、その板厚が一定となるように構成されている。また、このフィン310は、一方の側面(
図3(a)における左の側面)は平坦となるようにしており、このことにより、他方の側面(図における右の側面)における基端側は、板厚が変更されるように傾斜している。
【0037】
このような構成は、フィン310の加工に有利である。つまり、プレス成形によって伝熱促進加工5を施す場合、
図4(a)に示すように、プレス成形機7における下側のプレス台71上に、平坦な側面(ここでは下面と呼ぶ)を下にして、成形前のフィン310を置くことが可能になる。また、
図4(b)に示すように、下側のプレス台71の面から上向きに飛び出すパンチ73と、フィン310の他方の面(ここでは上面と呼ぶ)を押さえるダイ72とよってフィン310の上面から突出する凸部51を形成することができる。従って、フィン310の下面には、凹部52が形成されるだけであるから、凸部51の形成後も、下側のプレス台71上にフィン310を安定して置くことが可能である。このことは、成形前のフィン310を下側のプレス台71上で滑らせながら搬送し、成形後のフィン310も下側のプレス台71上で滑らせながら搬送することを可能にする。また、下側のプレス台71上に、形成した凸部51の「逃げ」を設けることを不要にし、汎用のプレス成形機をそのまま使用することを可能にする。さらに、フィン310の下面が平坦なことにより、フィン310を一定の間隔で並べることが容易になるという利点もある。その結果、フィン310の加工コストを低減するという利点がある。
【0038】
このように、フィン310の基端側の板厚を相対的に厚くする一方、先端側の板厚を相対的に薄くすることは、先端に向かってフィン310の温度が低下することを抑制する。その結果、ヒートシンク10の性能向上に有利になる。
【0039】
また、
図3(a)に端的に示されるように、スリット状流路300の流路幅は、フィンの基端側の板厚を厚くすることに伴い、基端側が狭くなって冷却風が流れ難くなる。しかしながら、フィン310の先端側に施した伝熱促進加工5によって、スリット状流路300内の基端側の流れを増速して、その流量を増大させることが可能であるから、このヒートシンク10でも、圧力損失の増大を回避しつつ、その性能を、さらに向上させることが実現する。
【0040】
さらに、伝熱促進加工は、フィン31、310の片面のみに施すことに限らず、フィン
31、310の両面に施してもよい。
【実施例】
【0041】
次に、ヒートシンクの圧力損失及び性能に関して実際に行った実施例について説明する。先ず、伝熱促進加工を施す領域に関する評価として、従来例、比較例及び実施例に係るヒートシンクを作成し、それらについて、圧力損失Δpとヒートシンクの性能とを比較した。ここでヒートシンクの性能は、ヒートシンクに流入する冷却風の温度に対する、ヒートシンクのベースにおける下流端の温度差Δtによって評価する。また、図示は省略するが、従来例はフィンに伝熱促進加工を施さない例、比較例は伝熱促進加工をフィンの基端から先端までの全体に亘って施した例、実施例はフィンの基端側には伝熱促進加工を施さず、先端側にのみ伝熱促進加工を施した例である。尚、その他の条件については、従来例、比較例及び実施例は互いに同じである。その結果は以下の通りである。
実施例:Δp=216Pa、Δt=40.8℃
比較例:Δp=273Pa、Δt=40.5℃
従来例:Δp=144Pa、Δt=44.4℃
先ず、従来例と、実施例及び比較例とを比較すると、従来例は、実施例及び比較例に比べて圧力損失は小さいものの、性能が大幅に低い。次に、実施例と比較例とを比較すると、実施例及び比較例で、性能はほとんど差がない一方で、圧力損失は、実施例の方が比較例に比べて大幅に小さい。つまり、伝熱促進加工を先端側に施し、基端側には施さない実施例は、伝熱促進加工を先端から基端までの全体に亘って施した比較例と同一の性能を、より小さい圧力損失で達成することが可能である。
【0042】
次に、伝熱促進加工によるスリット状流路内の基端側での増速効果に関する評価として、シミュレーションを行った。このシミュレーションは、特許文献1に記載されているように、フィンの先端側に直交フィンを設けることによって、スリット状流路の先端側と基端側とで流路断面積を変更した例(比較例)と、フィンの先端側に伝熱促進加工を施すことによって、スリット状流路の先端側と基端側とで流路断面積を変更した例(実施例)との、スリット状流路内の流速分布をシミュレートしたものである。スリット状流路は、その前端(
図5の左端)と後端(
図5の右端)とはそれぞれ開口している一方、その先端(
図5の上端)は閉塞している。また、比較例と実施例とで、スリット状流路の入口の条件は互いに一致させると共に、圧力損失も互いにほぼ一致するように、条件を揃えている。尚、圧力損失は、比較例が169Pa、実施例が163Paである。
【0043】
図5は、シミュレーション結果に係る速度分布のコンター図を示している。尚、このコンター図は、スリット状流路の幅方向中央断面における速度分布を示しており、ここでは理解容易のために、基端側の流速に着目して、その部分についてのみ、(7.88−13.79m/s)、(13.79−15.76m/s)、(15.76−17.73m/s)及び(17.73−19.7m/s)という速度の数値範囲を付している。
【0044】
図5の(a)は、比較例に係り、左図に示すように、フィンの側面から突出する直交フィン61が、前後方向に連続して延びて配設されており、直交フィン61は、スリット状流路を区画形成する一対のフィン側面のそれぞれから、高さ方向に互い違いとなるように配置されている。尚、直交フィン61は、基端側を除く、先端側に配設されていると共に、前後方向における前側を除く、中央から後側にかけての部分に配設されている。一方、
図5の(b)は、実施例に係り、
図2に示す凸部51と同形状の凸部62が、同様の配置で設けられている。尚、
図5(a)(b)を比較すれば明らかなように、比較例において直交フィン61が設けられている範囲と、実施例において凸部62が設けられている範囲は、互いに同じである。
【0045】
先ず、
図5(a)を参照すると、比較例においては、スリット状流路内における、直交
フィン61の先端に相当する前後方向位置において、直交フィン61が形成されていない基端側の流速が増速している。これは、直交フィン61が形成されていることにより、先端側の流路断面積が相対的に小さくなる一方で、基端側の流路断面積は相対的に大きくなるため、基端側の流量が大になるためと考えられる。また、比較例では、その先端側における流速が、ほとんど変化しない。言い換えると、コンター図において、(15.76−17.7.3m/s)の範囲が前後方向に拡がっている。
【0046】
次に、
図5(b)を参照すると、実施例においても、比較例と同様に、スリット状流路内における、凸部62の先端(前述した、第1列)に相当する前後方向位置において、基端側の流速が増速している。これは、比較例と同様に、先端側と基端側との流路断面積が相違することにより、基端側の流量が大になるためと考えられる。ところが、実施例においては、その基端側の領域において、前述した第3列に相当する前後方向位置の付近で、流速がさらに高まっている。つまり、実施例は、比較例よりも、基端側の領域において流速の最も高い範囲(つまり、17.73−19.7m/s)が前後方向に拡がっており、ヒートシンクの後側での流速は、比較例と比べて明らかに速い。このことは、実施例は比較例よりも、ピーク温度の低減に有利であることを意味する。また、実施例と比較例とは圧力損失をほぼ同じにしているため、実施例は比較例よりも性能が高いということができる。
【0047】
比較例では、直交フィン61が前後方向に連続して延びていて、先端側において乱流が発生しないか、又はほとんど発生せずに、フィンの先端側から基端側へと向かう流れが促進されることがないのに対し、実施例では、複数の凸部を所定の配置で設けることによって、スリット状流路内の先端側で強い乱流を発生させていることと、そのスリット状流路の先端側の開口が閉じられていることとにより、スリット状流路の途中で、フィンの先端側から基端側へと向かう流れが促進される結果、基端側の、特に後側の流速が増大すると考えられる。
【0048】
従って、乱流を発生させる伝熱促進加工を施すことは、直交フィン等を形成することによってスリット状流路内の先端側の流路断面積を小さくすること以上に、基端側の流量を増大させ、圧力損失の増大回避により有利になる。