(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間流路の圧力が所定の圧力範囲における下方の閾値圧力より小さくなったら、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数を上昇させ、前記中間流路の圧力が所定の圧力範囲における上方の閾値圧力より大きくなったら、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数を下降させるよう構成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の水素ステーション。
バイパス流路調整弁が介設され、前記低圧段側の往復動圧縮機の上流側の供給流路と前記中間流路とを連通可能に構成したバイパス流路を備え、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力より大きい状態が維持され、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数が予め定められた下限値に達したら、前記回転数を前記下限値に維持するとともに、前記バイパス流路調整弁を開放するよう構成されてなることを特徴とする請求項3に記載の水素ステーション。
前記バイパス流量調整弁は開度を調整可能な弁であって、前記バイパス流量調整弁を開放しても、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力より大きい状態が維持されている場合には、前記状態となってからの経過時間が長くなるのに応じて、または、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力の差分が大きくなるのに応じて、前記バイパス流量調整弁の開度を大きくするよう構成されてなることを特徴とする請求項4に記載の水素ステーション。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車の排気ガスに含まれる二酸化炭素(CO
2)、窒素酸化物(NO
X)、浮遊粒子状物質(PM)などによる地球温暖化、大気汚染の影響が懸念されている。このため、従来のガソリン内燃機関型自動車にかわり、積載された燃料電池で水素と酸素の化学反応に基づく電気エネルギーを利用して駆動する燃料電池自動車(FCV)が着目されている。
【0003】
燃料電池自動車は、上述した二酸化炭素等を排出せず、他の有害物質も排出しない。また、燃料電池自動車は、ガソリン内燃機関型自動車よりもエネルギー効率に優れるなど、ガソリン内燃機関型自動車にない種々の利点を有している。
【0004】
ところで、燃料電池自動車には、大別すると、水素ステーションから水素を補給するタイプのものと、水素以外の燃料を補給して車載改質器で水素を製造するタイプのものとがあるが、二酸化炭素(CO
2)削減の効果等から、前者のほうが優位であるとみなされている。従って、燃料電池自動車と、それに水素を補給するための水素ステーションの研究、開発が急がれている。
【0005】
例えば、特許文献1には、取り扱いが容易、かつ、安価な水素ステーションを提供することを目的として、水素発生用組成物と水との接触反応により水素を発生する水素発生装置と、この水素発生装置用に水と前記水素発生用組成物を構成する添加金属元素をそれぞれ供給するための水供給設備と添加金属元素供給設備と、前記水素発生装置で発生した水素を貯蔵するためのタンクと、このタンクに貯蔵された水素を取出し所定の圧力まで昇圧し、出力するための昇圧ポンプとを備えた水素ステーションが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで従来の水素ステーション、特に70MPa以上の高圧への昇圧のために2段(複数段)の圧縮機を備えたものでは、高圧側の圧縮機の吐出圧力が状況に応じて大きく変化する。また、高圧側の圧縮機の吐出圧力の変化によって、その温度も大きく変化する。一方、高圧水素の供給先の車載タンクには例えば85度以下といった温度の上限が設けられており、上記温度の変化があっても、その上限の温度を超えることがないよう、温度の抑制を図らねばならない。高圧側の圧縮機の吐出圧力は、その圧縮機の吸込圧力にも大きく依存するため、高圧側の圧縮機の吸込圧力を適正に制御しなくてはならないという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、2段(複数段)の圧縮機を備えた水素ステーションにおいて、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)を適正に制御し、車載タンクの温度を抑制しうる水素ステーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
圧縮機を複数段に構成し、自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、
回転数制御可能な駆動機にて駆動される低圧段側の往復動圧縮機と、中間流路と、前記低圧段側の往復動圧縮機と前記中間流路を介して接続される高圧段側の往復動圧縮機
と、前記中間流路に圧力センサを備え、
前記圧力センサにて検出された前記中間流路の圧力に基づき、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数を制御するよう構成されてなることを特徴とする。
【0010】
このように構成することによって、圧縮機を2段(複数段)に構成した水素ステーションにおいて、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)を適正に制御し、車載タンクの温度を抑制しうる水素ステーションを提供することができる。
【0011】
また、中間流路には中間圧蓄圧器が介設されてなり、前記
圧力センサが前記中間圧蓄圧器に付設された圧力セン
サであるように構成されても良い。
【0012】
このように構成することによって、中間流路に介設された中間圧蓄圧器によって大容量の中間圧の水素を蓄えることができ、また、その中間圧を中間圧蓄圧器に付設された圧力センサにて直接、検出することができるので、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)の変動を抑制することができる。また、中間圧力、ひいては車載タンクの温度をより適正に制御することができる。
【0013】
また、前記中間流路の圧力が所定の圧力範囲における下方の閾値圧力より小さくなったら、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数を上昇させ、前記中間流路の圧力が所定の圧力範囲における上方の閾値圧力より大きくなったら、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数を下降させるよう、構成されても良い。
【0014】
このように構成することによって、圧縮機を2段(複数段)に構成した水素ステーションにおいて、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)を所定の圧力範囲内、あるいはその近傍に適正に制御し、車載タンクの温度を抑制しうる水素ステーションを提供することができる。
【0015】
さらに、バイパス流路調整弁が介設され、前記低圧段側の往復動圧縮機の上流側の供給流路と前記中間流路とを連通可能に構成したバイパス流路を備え、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力より大きい状態が維持され、前記低圧段側の往復動圧縮機を駆動する駆動機の回転数が予め定められた下限値に達したら、前記回転数を前記下限値に維持するとともに、前記バイパス流路調整弁を開放するよう構成されても良い。
【0016】
このように構成することによって、バイパス流路を介して、低圧段側の往復動圧縮機の下流側の中間流路中の昇圧された水素を供給流路へ戻すことができるので、中間流路の圧力が所定の圧力範囲における上方の閾値圧力より大きい状態から早期に脱し、中間流路の圧力が異常に高まる事態を回避できる。
【0017】
さらに、前記バイパス流量調整弁は開度を調整可能な弁であって、前記バイパス流量調整弁を開放しても、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力より大きい状態が維持されている場合には、前記状態となってからの経過時間が長くなるのに応じて、または、前記中間流路の圧力が前記上方の閾値圧力の差分が大きくなるのに応じて、前記バイパス流量調整弁の開度を大きくするよう構成されても良い。
【0018】
この構成によって、急激な圧力変化を伴うことなく、(小さな一定の開度でバイパス流量調整弁を開放した場合に比して)より短い時間で中間流路の圧力が所定の圧力範囲における上方の閾値圧力より大きい状態から脱することができる。そして、中間流路の圧力が異常に高まる事態を回避する効果をより顕著なものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、圧縮機を2段(複数段)に構成した水素ステーションにおいて、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)を適正に制御し、車載タンクの温度を抑制しうる水素ステーションを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水素ステーション1の構成を示している。この水素ステーション1は、まず、図示しない水素の供給源から、フィルター2の介設された供給流路3を介して、低圧段側の往復動圧縮機4に水素が供給されるよう、構成されている。
【0023】
この低圧段側の往復動圧縮機4には駆動機5(電動機等)が接続されている。駆動機5の回転によって、この往復動圧縮機4は駆動される。駆動機5は、インバータにて駆動される電動機であって、回転数制御可能な、すなわち任意の回転数によって回転させることの可能なものである。なお、駆動機5は回転数制御可能なものであれば良く、インバータにて駆動される電動機に限定されるものではない。往復動圧縮機4で圧縮された水素は、中間流路6に吐出される。このときの往復動圧縮機4の吐出側の圧力は例えば40MPaに制御される。中間流路6には、圧縮され、高温となった水素を冷却するためのクーラ7が介設されている。そして、中間流路6は開閉弁8、分岐点6bを介して、中間圧蓄圧器9に達する。
【0024】
そして、中間流路6は、中間圧蓄圧器9からは分岐点6bと開閉弁12を介して、高圧段側の往復動圧縮機14に達するよう構成されている。
【0025】
なお、この高圧段側の往復動圧縮機14には駆動機15が接続されている。駆動機15の回転によって、この往復動圧縮機14は駆動される。駆動機15は、インバータにて駆動される電動機であって、回転数制御可能な、すなわち任意の回転数によって回転させることの可能なものである。なお、駆動機15は回転数制御可能なものであれば良く、インバータにて駆動される電動機に限定されるものではない。
【0026】
中間圧蓄圧器9は、低圧段側の往復動圧縮機4から供給された水素を一旦、貯留する機能を担っている。
【0027】
そして、分岐点6bと中間圧蓄圧器9との間の中間流路6には、この中間圧蓄圧器9内の圧力P1を検出するための圧力センサ16が介設されている。
【0028】
開閉弁8は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第1の閾値より低い場合に開けられる。逆に、開閉弁8は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第1の閾値以上の場合に閉められる。この開閉弁8の開閉動作(特に閉じる動作)によって、低圧段側の往復動圧縮機4から供給される水素の量が過多となり、中間圧蓄圧器9の内圧が上昇しすぎるのを防止している。
【0029】
更に、開閉弁12は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第2の閾値より低い場合に閉められる。逆に、開閉弁12は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第2の閾値以上の場合に開けられる。この開閉弁12の開閉動作によって、高圧段側の往復動圧縮機14へ供給される水素の圧力が極端に低くなることを防止している。
【0030】
この開閉弁8及び12の開閉制御に際して予め設定される上記第1の閾値と第2の閾値は、所定の圧力範囲における上限と下限の圧力をそれぞれ示すものである。
【0031】
なお、後述する本発明の特徴とする低圧段側の往復動圧縮機4の回転数制御に際しても所定の圧力範囲における上方の閾値圧力PHと下方の閾値圧力PLを設定して同様に圧力センサ16での検出圧力P1により行なうが、両者は制御対象が異なるとともに、開閉弁制御における上限の閾値圧力は回転数制御における上方の閾値圧力PHより十分に大きな値であり、また開閉弁制御における下限の閾値圧力は回転数制御における下方の閾値圧力PLより十分に小さな値であるので、両者の制御を平行して実施しても相互の干渉などの制御上の不都合は生じない。
【0032】
また、後述するように、本発明にかかる水素ステーション1は中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)に基づき、低圧段側の往復動圧縮機4を駆動する駆動機5の回転数を制御するよう構成されてなるものであるが、開閉弁8及び12の開閉制御、ひいては開閉弁8及び12を必須とするものではない。
【0033】
往復動圧縮機14で圧縮された水素は、吐出流路18に吐出される。このときの往復動圧縮機14の吐出側の圧力は例えば100MPaに制御される。吐出流路18には、圧縮され、高温となった水素を冷却するためのクーラ19が介設されている。
【0034】
クーラ19以降の、吐出流路18には、順に、流量調整弁20、流量計21、クーラ22が介設されている。流量調整弁20はその下流の流量計21で検出された流量値に基づき、その開度が制御され、流量調整弁20を通じる水素の流量を適正に調整する機能を担っている。吐出流路18の末端に配設されたクーラ22によって、その上流のクーラ19で冷却された水素を更に冷却する。たとえば、クーラ19では130℃程度の高温の水素を40℃程度にまで冷却し、更に、クーラ22ではその40℃程度の水素を−40℃程度にまで冷却する。
【0035】
このようにして、クーラ22により冷却され、最終的に温度調整が行なわれた水素は、クーラ22の出側から燃料電池自動車27に設けられた後述の充填ノズル26の入側に至る水素充填流路31により同燃料電池自動車27の車載水素タンク28に供給、充填されることになる。なお、水素充填流路31におけるクーラ22の出側直後には遮断弁23が配設されており、この遮断弁23は吐出流路18に設けられた前記流量調整弁20、流量計21とともにディスペンサー(充填機)を構成する。
【0036】
そして、水素充填流路31の途上(水素ステーション側の最も下流の端部)には、緊急離脱カップラー24が設けられている。この緊急離脱カップラー24はこれを介して燃料電池自動車27側に伸びる充填ホース25が極めて強い力で引っ張られた場合に離脱し、水素ガスの供給先側(燃料電池自動車27側)、あるいはそれと反対の水素ガスの供給元側の双方から、高圧の水素ガスが噴出しないよう、構成されてなるものである。
【0037】
さらに緊急離脱カップラー24から伸びる充填ホース25の最も下流の端部には充填ノズル26が設けられている。充填ノズル26は、燃料電池自動車27の図示しないノズル口に接続される。そして、水素ステーション1から供給される水素は、燃料電池自動車27の内部に搭載される車載水素タンク28に供給される。
【0038】
車載水素タンク28にはその内部の温度Tdを検出可能な温度センサ29が付設されている。なお、この温度センサ29は、車載水素タンク28の内部の温度Tdを正確に検出するために、その車載水素タンク28を構成する容器そのものに付設されることが望ましいが、これに限るものではない。例えば、温度センサで検出される温度Td’が、上述の温度Tdとほぼ同一か、温度Tdを導出できる値であれば、その温度センサを、上述の温度Tdを直接的、あるいは間接的に検出しうる温度センサ29として採用できる。具体的には、燃料電池自動車27の図示しないノズル口から、車載水素タンク28に至るまでの流路の部分に、
図1に示した温度センサ29aのようなものを備えても良い。
【0039】
さらに、クーラ22の出側から燃料電池自動車27に設けられた充填ノズル26の入側に至る水素充填流路31の任意の位置にその内部の温度Tdを検出可能な温度センサ29を設けても良い。
図2はこの具体例を示すもので、水素充填流路31の遮断弁23の出側の位置に温度センサ29が設けられたものである。この場合、水素充填流路31内の温度Tdは車載水素タンク28の内部の温度Tdとは異なり、低温となるが、両者の温度には相関があるため水素充填流路31内の温度から車載水素タンク28の内部の温度を比較的精度良く推定することが可能である。すなわち、水素充填流路31内の温度Tdは車載水素タンク28の内部の温度Tdとは絶対値としては異なるが、相関のあるものゆえに、実質的には同様に取り扱うことができる。つまり、以下の説明において「車載水素タンク28の内部の温度Td」との文言は「水素充填流路31内の温度Td」との文言に換言することもできる。また、また、この例のように、水素ステーション1c側の配管流路に温度センサをディスペンサーの一部として一体的に組み込むことで、燃料電池自動車に個々に温度センサを装備する必要がなく、また燃料電池自動車側から無線(あるいは有線)によってステーション側に温度データを送受信することも不要となる。このため、燃料電池自動車側とステーション側の双方にそれぞれ、温度データを送受信するための送信機・受信機が不要となる。送信機・受信機がないために、送信機・受信機間における(あるいは送信機・受信機内部における)外乱によるデータの通信不調を生じ得ないという利点がある。また、更に、送信機・受信機がないために、その分のコストが少なくて済む利点もある。
【0040】
さて、
図1(あるいは
図2)において、圧力センサ16での検出圧力P1にかかる信号、および、温度センサ29で検出された温度Tdにかかる信号は水素ステーション1側に設けられたコントローラ30に入力される。コントローラ30は、圧力センサ16での検出圧力P1に基づき、駆動機5の回転数、ひいては、低圧段側の往復動圧縮機4より吐出される水素の流量を制御、すなわち、往復動圧縮機4の容量を制御することができるよう、構成されている。さらに、コントローラ30は、温度Tdにかかる信号に基づき、駆動機15の回転数、ひいては、高圧段側の往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を制御、すなわち往復動圧縮機14の容量を制御することができるよう、構成されている。
【0041】
なお、低圧段側の往復動圧縮機4の上流側の供給流路3と、その往復動圧縮機4の下流側の中間流路6とを連通可能とするため、バイパス流量調整弁32の開設されたバイパス流路33が設けられている。後述するように、バイパス流量調整弁32は駆動機5の回転数が下降して下限値Rminに到達した場合に開放される。その場合において、バイパス流路33を介して、往復動圧縮機4の上流側の供給流路3と、その往復動圧縮機4の下流側の中間流路6とが連通するよう構成されている。
【0042】
続いて、水素ステーション1における制御について、説明する。
上述したように、クーラ19で冷却された水素は、クーラ22によって、更に冷却され、たとえば、−40℃の低温とされる。
【0043】
ただし、この低温(高圧)の水素には、車載水素タンク28に供給される際に、上述したジュール・トムソン効果による温度の変化が生じ、その温度は通常、上昇する。一方、通常、金属や樹脂にて形成されたライナーとその外周面に積層された繊維強化樹脂層などから構成される車載水素タンク28には、許容される上限温度Tthが仕様上、あるいは技術基準上、予め定まっている。その上限温度Tthは例えば、圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準(JARI S 001)によれば、85℃である。したがって、車載水素タンク28に水素が供給される際に、温度の上昇が生じても、その車載水素タンク28の内部の温度Tdが、上限温度Tthより更に低温の(上限温度Tthより余裕をもった)上限値Tth−Δt(Δtは例えば20℃)に相当する基準温度(Tb)を予め設定(Tbは例えば65℃)し、この基準温度(Tb)をなるべく超えないように(あるいは、この基準温度(Tb)を越えることはあっても、その時間が短時間に抑制されるように、更に上限温度Tthを超えないように)管理する必要がある。なお、基準温度(Tb)は、上限温度Tthより低い、任意の温度の範囲(Tb1〜Tb2)として設定しても勿論かまわないものである。
【0044】
そして、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)を超える高温の場合は、高圧段側の往復動圧縮機14の駆動機15の回転数を減少させ、同往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を減少させ、クーラ19、22による冷却効率を相対的に高め、車載水素タンク28に供給される水素の供給量を減少させるとともにその温度を低下(車載水素タンク28に水素が供給され、膨張する際の、ジュール・トムソン効果による温度の上昇を抑制)させ、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)になるように制御される。
【0045】
また、一方で、車載水素タンク28の内部の温度Tdが上記基準温度(Tb)未満の低温の場合は、逆に往復動圧縮機14の駆動機15の回転数を増加させる制御が成される。これにより、同往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を増加させ、クーラ19、22による冷却効率を相対的に下げて、車載水素タンク28に供給される水素の供給量を増加させつつも、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)になるように制御される。このように、温度Tdを許容される上限温度Tth以下の基準温度(Tb)に保持することにより、車載水素タンク28の高温下での劣化や破損などの恐れもなく、安全を確保した上で、且つ車載水素タンク28への水素の補給、充填を効率的に実施することができる。
【0046】
このため、前述のとおり、水素ステーション1では、コントローラ30が、温度Tdにかかる信号に基づき、駆動機15の回転数、ひいては、高圧段側の往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を制御、すなわち往復動圧縮機14の容量を制御する。
【0047】
コントローラ30は記憶手段を具備している。コントローラ30は、その記憶手段にて、車載水素タンクの内部の温度Tdと、基準温度Tb、温度Tdと駆動機15の回転数Rとの関係式や相関データを記憶している。上述の関係式や相関データは、
図3(の実線Aや破線B)に示すように、また、後述するように、温度Tdが低い値であると、対応する回転数Rは高い値となり、逆に、温度Tdが高い値であると、対応する回転数Rは低い値となるように構成される。
【0048】
そして、コントローラ30は、この記憶された関数式や相関データと、温度センサ27で検出された温度Td及び基準温度Tbに基づいて、駆動機15の回転数Rを決定し、その回転数Rによって、駆動機15、ひいては往復動圧縮機14を駆動する。すなわち、コントローラ30は、温度Tdが高くなるに従って、駆動機15の回転数Rが小さくなるよう、制御する。
【0049】
つまり、温度Tdが基準温度Tbより低い値であると、車載水素タンク28に供給される水素は十分に冷却されていることとなるので、高い回転数Rにて比較的大きな容量にて、往復動圧縮機14は駆動される。逆に温度Tdが基準温度Tbより高い値であると、車載水素タンク28に供給される水素の冷却は不十分ということになるため、低い回転数Rにて容量を減らした状態で、往復動圧縮機14は駆動される。
【0050】
このように構成することで簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、車載水素タンク28への補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【0051】
また、
図3では、温度Tdが高くなるにつれて、比例的に回転数Rが減少する、すなわち温度Tdが高くなっても、温度Tdの増加分に対する回転数Rの減少分の比率が変化しない関係を表した実線Aと、温度Tdが高くなるにつれて、減少の度合い自体が大きくなるように回転数Rが減少する、すなわち温度Tdが高くなると、温度Tdの増加分に対する回転数Rの減少分の比率が増大する関係を表した破線Bとを示している。
【0052】
前者(実線A)であれば、駆動機15の回転数は一定の割合で変更されることになり、急激な回転数の変更が為されないので、安定的な制御を実現できる。また、車載水素タンク28の内部の温度が上限値Tth−Δtに達することを極力避けたい場合には、後者(破線B)のように、温度Tdに対する回転数Rの値を定めることが好ましい。
【0053】
また、前述のように、コントローラ30は、圧力センサ16での検出圧力P1に基づき、駆動機5の回転数、ひいては、低圧段側の往復動圧縮機4より吐出される水素の流量を制御、すなわち、往復動圧縮機4の容量を制御することができるよう、構成されている。コントローラ30には予め所定の閾値圧力PLと閾値圧力PHが設定されている。閾値圧力PLは所定の圧力範囲における下方の閾値圧力である。また、閾値圧力PHは所定の圧力範囲における上方の閾値圧力であり、閾値圧力PH>閾値圧力PLの関係を有している。
【0054】
コントローラ30は、圧力センサ16での検出された検出圧力P1が、P1<PLの状態となった場合には、駆動機5の回転数を現状値から所定値ΔR1だけ上昇させる。そして、所定時間ΔT1後、依然として、P1<PLの状態が維持されている場合には、駆動機5の回転数を現状値から再度、所定値ΔR1だけ上昇させる。すなわち、P1<PLの状態が維持されている限り、所定時間ΔT1毎に、駆動機5の回転数を現状値から、所定値ΔR1だけ上昇させる。
【0055】
逆に、コントローラ30は、圧力センサ16での検出された検出圧力P1が、P1>PHの状態となった場合には、駆動機5の回転数を現状値から所定値ΔR2だけ下降させる。そして、所定時間ΔT2後、依然として、P1>PHの状態が維持されている場合には、駆動機5の回転数を現状値から再度、所定値ΔR2だけ下降させる。すなわち、P1>PHの状態が維持されている限り、所定時間ΔT2毎に、駆動機5の回転数を現状値から、所定値ΔR2だけ下降させる。
【0056】
このように構成することによって、高圧側の圧縮機14の吸込圧力(中間圧力)を閾値圧力PLから閾値圧力PHまでの所定の圧力範囲内、あるいはその近傍に適正に制御し、車載水素タンク28の温度を抑制することができる。
【0057】
なお、中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)が閾値圧力PLより小さい状態が維持され、駆動機5の回転数が上昇して、予め設定された上限値Rmaxに到達した場合には、コントローラ30は駆動機5の回転数をその上限値Rmaxに維持する。それとともにコントローラ30は、付設されてなる液晶パネルなどの表示手段にて、駆動機5の回転数が上限値Rmaxに達した旨の警報を発信する。
【0058】
また、逆に、中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)が閾値圧力PHより大きい状態が維持され、駆動機5の回転数が下降して、予め定められた下限値Rminに到達した場合には、コントローラ30は駆動機5の回転数をその下限値Rminに維持するとともに、バイパス流量調整弁32を開放し、バイパス流路33を介して、往復動圧縮機4の下流側の中間流路6中の昇圧された水素を供給流路3へ戻す。それとともにコントローラ30は、付設されてなる液晶パネルなどの表示手段にて、駆動機5の回転数が下限値Rminに達した旨の警報を発信する。
【0059】
この構成によって、中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)が所定の圧力範囲における上方の閾値圧力PHより大きい状態、すなわち、P1>PHの状態から早期に脱することができる。そして、中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)が異常に高まる事態を回避できる。
【0060】
なお、バイパス流量調整弁32はその開度を任意に調整可能な弁であることが好ましい。そして、バイパス流量調整弁32を開放しても、依然として、P1>PHの状態が維持されている場合には、P1>PHの状態となってからの経過時間が長くなるのに応じて、あるいは、P1とPHの差分ΔP(ΔP=P1−PH)が拡がるのに応じて、バイパス流量調整弁32の開度を徐々に大きくするよう、構成することが好ましい。この構成によって、急激な圧力変化を伴うことなく、(小さな一定の開度でバイパス流量調整弁32を開放した場合に比して)より短い時間でP1>PHの状態から脱することができる。そして、中間流路6の圧力(中間圧蓄圧器9内の圧力P1)が異常に高まる事態を回避する効果をより顕著なものとすることができる。
【0061】
このように構成することで圧縮機を2段(複数段)に構成した水素ステーションにおいて、高圧側の圧縮機の吸込圧力(中間圧力)を適正に制御し、車載水素タンク28の温度を抑制しうる水素ステーションを提供することができる。
【0062】
以上においては、圧縮機を2段に構成した水素ステーションについて説明してきたが、100MPaを超える高圧に昇圧して車載タンクに水素を供給、充填する必要がある水素ステーションとするときなどは、さらに圧縮機を増加させて3段以上に構成することも有効である。例えば、3段で構成する際は、1段目の低圧段の往復動圧縮機、2段目の中圧段の往復動圧縮機及び3段目(最終段)の高圧段の往復動圧縮機を直列に設け、低圧段と中圧段の圧縮機間及び中圧段と高圧段の圧縮機間をそれぞれ中間流路により接続し、
図1や
図2の2段で構成した形態と同様にこれらの中間流路にその上流側より、クーラ、開閉弁、中間圧蓄圧器及び圧力センサなどを配設すれば良い。この場合、3基の上記圧縮機により、順次昇圧が行なわれ、最終段の圧縮機の吐出圧力が所望の高圧(例えば150MPa)になるよう制御される。
【0063】
また、低圧段と中圧段、中圧段と高圧段の中間流路に設けられた2台の中間圧蓄圧器は低圧段の圧縮機から供給された水素及び中圧段の圧縮機から供給された水素を各々所定圧で貯留する機能を備える。そして、上記中間流路にそれぞれ配設された圧力センサの検出圧力に基づいて前述した方法により、低圧段と中圧段の両圧縮機の駆動機の回転数が制御され、ひいては最終段の往復動圧縮機の容量を制御することができる。しかも、かかる圧縮機を3段とする構成において、2段目の中圧段の圧縮機の吐出流路から、高圧段の圧縮機を経ずに、中圧段の吐出流路と高圧段の吐出流路とを直接結ぶバイパス流路を設けることも可能である。このようにすれば、車載タンクの種類などによって要求される水素の供給圧に応じて2段の圧縮機により昇圧した水素(例えば100MPa、)と3段の圧縮機によりさらに高圧に昇圧した水素(例えば150MPa、)を選択的に供給、充填することができ、水素ステーションとして汎用性を向上させることができるものである。
【0064】
なお、このような圧縮機3段で構成する場合において、低圧段と中圧段の圧縮機間の中間流路についてはクーラだけを設けて開閉弁、中間圧蓄圧器及び圧力センサなどの機器を省略し、中圧段と高圧段の間の中間流路のみにこれらの機器を配備して、制御する構成としても良い。