特許第5756405号(P5756405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5756405酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法、酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法、酸化物超電導導体用配向膜付き基材、および酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756405
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法、酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法、酸化物超電導導体用配向膜付き基材、および酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150709BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20150709BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150709BHJP
   C01F 5/02 20060101ALI20150709BHJP
   C01G 1/00 20060101ALI20150709BHJP
   C01G 3/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   C23C14/34 N
   H01B12/06ZAA
   H01B13/00 565D
   C01F5/02
   C01G1/00 S
   C01G3/00
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-535444(P2011-535444)
(86)(22)【出願日】2010年10月7日
(86)【国際出願番号】JP2010067624
(87)【国際公開番号】WO2011043409
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-233764(P2009-233764)
(32)【優先日】2009年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智
(72)【発明者】
【氏名】飯島 康裕
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−113220(JP,A)
【文献】 特開平02−152110(JP,A)
【文献】 特開平01−137525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01B 12/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法であって、
2種以上のターゲットを、基材の表面と対向するように、前記基材の長手方向に沿って配置し、
イオンビームを、同一のイオンビーム発生機構から前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記2種以上のターゲットの構成粒子を、前記基材の表面に、前記2種以上のターゲットの配置順に堆積させ、
前記基材を前記構成粒子の堆積領域内を複数回通過させて、この通過毎に前記基材の表面に前記2種以上のターゲットの前記構成粒子を繰り返し堆積させて、前記基材の表面に2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を形成することを特徴とする酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法。
【請求項2】
酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法であって、
拡散防止層用材料を用いたターゲットと、ベッド層用材料を用いたターゲットである、2種以上のターゲットを、基材の表面と対向するように、前記基材の長手方向に沿って配置し、
イオンビームを前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記2種以上のターゲットの構成粒子を、前記基材の表面に、前記2種以上のターゲットの配置順に堆積させ、
前記基材を前記構成粒子の堆積領域内を複数回通過させて、この通過毎に前記基材の表面に前記2種以上のターゲットの前記構成粒子を繰り返し堆積させて、前記基材の表面に2種以上の薄膜が繰り返し積層され、拡散防止層とベッド層との積層体を形成し、
前記ベッド層用材料を用いたターゲットにより形成されたベッド層の表面に、イオンビームアシスト法により岩塩構造層を形成し、
前記ベッド層は、前記岩塩構造層の結晶配向性を整えることを特徴とする酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法。
【請求項3】
前記積層体の形成に際し、前記イオンビームを、同一のイオンビーム発生機構から前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射することを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法。
【請求項4】
酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法であって、
請求項1に記載の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法により、酸化物超電導導体用配向膜下地層を成膜し、
前記酸化物超電導導体用配向膜下地層上に、イオンビームアシスト法により岩塩構造層を形成することを特徴とする酸化物超電導導体用配向膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
基材と、
前記基材上に形成され、拡散防止層とベッド層とが繰り返し積層された積層体と、
前記ベッド層の表面に、イオンビームアシスト法により形成された岩塩構造層と、
を備え、
前記ベッド層の材料は、組成式(α2x(β(1−x)で示される希土類酸化物(ここで、α及びβは希土類元素で0≦x≦1に属する)又はZrOであり、
前記ベッド層は、前記岩塩構造層の結晶配向性を整えることを特徴とする酸化物超電導導体用配向膜付き基材。
【請求項6】
酸化物超電導導体用配向膜下地層を形成する成膜装置であって、
基材を送り出す基材送出機構と、
前記基材を巻取る基材巻取機構と、
前記基材送出機構と前記基材巻取機構との間を走行する前記基材の移動方向を転向させる転向部材を複数個同軸的に配列してなる少なくとも一対の転向部材群と、
前記転向部材群間を走行する前記基材の表面と対向して、前記基材の長手方向に並べて配置された2種以上のターゲットと、
前記2種以上のターゲットにイオンビームを同時に照射するイオンビーム発生機構と、
を備え、
イオンビームを、同一のイオンビーム発生機構から前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射することを特徴とする酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置。
【請求項7】
イオンビームを、同一のイオンビーム発生機構から前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記2種以上のターゲットの構成粒子を前記基材の表面に前記2種以上のターゲットの配置順に堆積させて、前記基材の表面に2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を形成することを特徴とする請求項6に記載の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置。
【請求項8】
前記少なくとも一対の転向部材群は、それぞれの軸が互いに平行するように配置されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置。
【請求項9】
前記基材を、前記転向部材群間を複数回走行させることにより、前記2種以上のターゲットの構成粒子の堆積領域内に、複数列の前記基材が配列されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置。
【請求項10】
前記2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体が、少なくとも拡散防止層とベッド層とを含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導導体用配向膜下地層およびその成膜方法およびその成膜装置に関する。より詳細には、2種以上の薄膜が繰り返し積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層とその成膜方法およびその成膜装置に関する。
本願は、2009年10月07日に、日本国に出願された特願2009−233764号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体を超電導導体として使用するためには、テープ状などの長尺の基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要がある。
しかしながら、一般には、金属テープ自体が多結晶体であり、その結晶構造は酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を直接形成することは難しい。
また、基材と超電導体との間には熱膨張率及び格子定数の差があるため、超電導臨界温度までの冷却の過程で、超電導体に歪みが生じ、又は酸化物超電導体膜が基板から剥離する等の問題もある。
そこで、金属基材上に中間層(配向膜)を形成し、この中間層(配向膜)の上に酸化物超電導体膜を形成することが行われている。この中間層(配向膜)は、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材と超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SrTiO等の材料からなる。この中間層(配向膜)の結晶配向は、この中間層の上に形成される酸化物超電導体膜の結晶配向性に大きく影響を及ぼす。
そのため、本出願人らは、結晶配向性が良好な中間層(配向膜)を形成する成膜方法として、イオンビームアシスト法(IBAD:Ion Beam Assisted Deposition)を開発した。このイオンビームアシスト法は、イオン銃から発生されたアルゴンイオンと酸素イオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる技術である。この方法によれば、基材上に良好な結晶配向を有する中間層(配向膜)を形成することができる。
更に、この中間層(配向膜)上に酸化物超電導層(酸化物超電導体膜)を成膜する場合、結晶配向性の優れた、臨界電流密度が高い酸化物超電導層を形成することができる。
【0003】
また、基材上にAl膜、Y膜を順に積層し、その上に中間層(配向膜)をIBAD法により形成する検討も行われている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。中間層(配向膜)は、Y膜(ベッド層)上に形成されることにより、その結晶配向状態をさらに良好なものとすることができる。また、Al層(拡散防止層)は、酸化物超電導導体の製造時の高温プロセスにおいて、金属基材から酸化物超電導層へ金属基材構成元素が拡散する問題を防ぐために設けられている。
【0004】
ところで、本出願人らは、金属テープ線材に拡散防止層やベッド層を成膜する際、成膜エリアを有効に使用することのできる薄膜の形成方法として、帯状の基材を蒸着粒子の堆積領域内を複数回通過させて、この通過毎に前記帯状の基材上に前記蒸着粒子を堆積させて薄膜を成膜する方法を提案している(例えば、特許文献3を参照)。
また、複数のターゲットを使用して、繰り返し構造を有する多層膜を形成する方法としては、ターゲットの上部にシャッターやスリットを設けて、蒸着機構の動作を制御する方法(例えば、特許文献4を参照)や、円柱状ドラムの下に複数のターゲットを設け、前記円柱状ドラムに長尺の基材を螺旋状に巻き付けてドラムを回転させる成膜方法(例えば、特許文献5を参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6921741号明細書
【特許文献2】米国特許第6933065号明細書
【特許文献3】日本国特開2004−263227号公報
【特許文献4】日本国特許第2558880号公報
【特許文献5】日本国特開平5−6586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような精力的な研究開発により、中間層(配向膜)を良好な結晶配向状態で薄膜化する技術が実用化されつつある。しかしながら、中間層(配向膜)の薄膜化により、酸化物超電導導体を製造する時の高温プロセスにおいて、金属基材から金属基材構成元素が酸化物超電導層へと拡散するといった問題がある。
この問題を解決するためには、金属基材と中間層(配向膜)との間に、拡散防止層などの中間層(配向膜)下地層を介挿することは不可欠である。金属基材構成元素の拡散を防止することは、拡散防止層の膜厚を厚くすることで達成することが可能である。しかしながら、厚膜化すると膜の内部応力が大きくなって、基板が反り返る問題があるため、厚膜化以外の方法で、配向膜下地層の拡散防止効果をさらに高めることが求められている。
【0007】
前述した特許文献3に記載された従来技術では、帯状の基材を蒸着粒子の堆積領域内を複数回通過させるための方法として、帯状の基材を巻回する巻回部材を複数個同軸上的に配列してなる一対の巻回部材群を対向配置し、これら一対の巻回部材群に巻回された基材を周回させて蒸着粒子の堆積領域内にて複数列として薄膜形成を行っている。この従来方法によれば、成膜エリアを有効に使用することができるが、2種類以上のターゲットを使用する場合、成膜は2以上のプロセスで行う必要がある。この従来方法により、帯状の基材上に拡散防止層とベッド層とを形成するためには、まず、Al等の拡散防止層用のターゲットを設置して拡散防止層の成膜を行った後、前記ターゲットをY等のベッド層用のターゲットに交換する必要があり、生産性の点で問題があった。
また、複数のターゲットを使用して、繰り返し構造を有する多層膜を形成する方法として前述した特許文献4に記載された成膜方法は、板状の基材への成膜にしか適用できず、長尺の基材への多層膜の成膜方法としては適用できない。
一方、前述した特許文献5に記載された成膜方法では、良好な結晶配向の単結晶状態の膜を得ることなどは想定していない。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、生産コストの低減が可能であり、拡散防止効果の高い超電導導体用配向膜下地層の成膜方法、より詳しくは、2種以上の薄膜が繰り返し積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、拡散防止効果の高い酸化物超電導導体用配向膜下地層を提供することを第二の目的とする。
さらに、本発明は、生産コストの低減が可能であり、拡散防止効果の高い酸化物超電導導体用配向膜下地層の製造装置、より詳しくは、2種以上の薄膜が繰り返し積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用している。
(1)酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法であって、2種以上のターゲットを、基材の表面と対向するように、前記基材の長手方向に沿って配置し;イオンビームを前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記2種以上のターゲットの構成粒子を、前記基材の表面に、前記2種以上のターゲットの配置順に堆積させ;前記基材を前記構成粒子の堆積領域内を複数回通過させて、この通過毎に前記基材の表面に前記2種以上のターゲットの前記構成粒子を繰り返し堆積させて、前記基材の表面に2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を形成する。
(2)前記2種以上のターゲットは、拡散防止層用材料を用いたターゲットと、ベッド層用材料を用いたターゲットであり;前記ベッド層用材料を用いたターゲットにより形成されたベッド層の表面に、イオンビームアシスト法により岩塩構造層を形成し;前記ベッド層は、前記岩塩構造層の結晶配向性を整えてもよい。
(3)基材と、イオンビームアシスト法により形成された岩塩構造層との間に設けられる酸化物超電導導体用配向膜下地層であって、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を備える。
(4)前記積層体は、拡散防止層とベッド層とが繰り返し積層されてなってもよい。
(5)酸化物超電導導体用配向膜下地層が上記の(1)に記載の成膜方法により成膜されてもよい。
(6)酸化物超電導導体用配向膜下地層を形成する成膜装置であって、基材を送り出す基材送出機構と;前記基材を巻取る基材巻取機構と;前記基材送出機構と前記基材巻取機構との間を走行する前記基材の移動方向を転向させる転向部材を複数個同軸的に配列してなる少なくとも一対の転向部材群と;前記転向部材群間を走行する前記基材の表面と対向して、前記基材の長手方向に並べて配置された2種以上のターゲットと;前記2種以上のターゲットにイオンビームを同時に照射するイオンビーム発生機構と;を備える。
(7)イオンビームを前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記2種以上のターゲットの構成粒子を前記基材の表面に前記2種以上のターゲットの配置順に堆積させて、前記基材の表面に2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を形成してもよい。
(8)前記少なくとも一対の転向部材群は、それぞれの軸が互いに平行するように配置されてもよい。
(9)前記基材を、前記転向部材群間を複数回走行させることにより、前記2種以上のターゲットの構成粒子の堆積領域内に、複数列の前記基材が配列されてもよい。
(10)前記2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体が、少なくとも拡散防止層とベッド層とを含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記の態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法によれば、イオンビームを2種以上のターゲットの表面に同時に照射し、前記2種以上のターゲットの構成成分を基材上に順に堆積させることにより、1プロセスで2種以上の薄膜を繰り返し積層させて酸化物超電導導体用配向膜下地層を形成することができる。これにより、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造を有する酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜時間を短縮することができ、生産コストの低減が可能な成膜方法を提供することができる。
また、本発明の上記の態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層によれば、基材とイオンビームアシスト(IBAD)法により形成された岩塩構造層との間に介挿される酸化物超電導導体用配向膜下地層が、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層体を備えることにより、積層されている各薄膜の各界面における拡散元素のトラップ効果も付与することができる。さらに、上記の積層体が拡散防止層とベッド層とが繰り返し積層された積層体であることにより、拡散防止層単体の拡散防止効果に、積層されている各薄膜の各界面における拡散元素のトラップ効果も付与することができるため、拡散防止効果の高い酸化物超電導導体用配向膜下地層を提供することができる。
さらに、本発明の上記の態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置によれば、複数個の転向部材を有する転向部材群間を走行する前記基材の表面と対向して、前記基材の長手方向に2種以上のターゲットを並べて配置させ、イオンビームを前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、前記基材の表面に、1プロセスで2種以上の薄膜を繰り返し積層させることができる。従って、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造を有する酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜時間を短縮することができ、生産コストの低減が可能な成膜装置を提供することができる。さらに、基材をそれぞれの軸が互いに平行となるように配置された転向部材群間を複数回走行させることによって、前記基材はこのターゲットの構成粒子の堆積領域内を複数回通過させることになり、前記基材の表面に、1プロセスで2種以上の薄膜を繰り返し積層させてなる積層体を複数層形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の一例の超電導導体用配向膜下地層の断面を模式的に示す図である。
図2】本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層上にMgO層が積層された中間層の一例の断面を模式的に示す図である。
図3】本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層を用いた酸化物超電導導体の一例の断面を模式的に示す図である。
図4】本発明の一態様に係る成膜装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図5】IBAD法による成膜装置を模式的に示す図である。
図6図5に示す成膜装置が備えるイオンガンの一例を模式的に示す図である。
図7】比較例1及び2の薄膜積層体の断面を模式的に示す図である。
図8】比較例1の薄膜積層体に酸化物超電導層が積層された超電導体の断面を模式的に示す図である。
図9】酸化物超電導導体用配向膜下地層上に形成したMgO膜の(220)正極点図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下に詳しく説明する。
<酸化物超電導導体用配向膜下地層>
まず、本発明の一形態に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層について説明する。
本発明の一形態に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層は、基材上に、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造を有する。図1に、本発明の酸化物超電導導体用配向膜下地層の実施形態の一例の断面を模式的に示す。図1では、基材11上に、拡散防止層12とベッド層13とが、5回繰り返して積層された積層構造となっている。本実施形態では、2種類の薄膜が5回繰り返し積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層10を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
基材11を構成する材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mо、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えてセラミック製の基材、非晶質合金などを用いても良い。
【0014】
図2は、本発明の他の形態に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の構造を示している。図2に示すように、イオンビームアシスト(IBAD)法により形成された岩塩構造層(以下、「IBAD−岩塩構造層」または「岩塩構造層」ということがある。)14と、基材11との間に、拡散防止層12とベッド層13との積層体が設けられている。この酸化物超電導導体用配向膜下地層を構成する薄膜として、IBAD−岩塩構造層14の下地として使用することのできる材料であれば特に限定されないが、拡散防止層12やベッド層13の積層体であることが好ましい。図1および図2に示すように、繰り返しの積層構造のうち、基材11側の層が拡散防止層12であり、この積層構造の岩塩構造層14側の層がベッド層13であることが特に好ましい。拡散防止層12を基材11上に積層させることにより、高温プロセスなどにおいて、基材11から薄膜積層体の表面側に向かう基材構成元素の拡散を抑制することができる。また、IBAD−岩塩構造層14は、ベッド層13上に形成されることにより、良好な結晶配向状態で成膜される。
【0015】
拡散防止層12の材料として、窒化ケイ素(Si)や酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、GdZrなどの希土類金属酸化物等が挙げられる。拡散防止層12は、基材11の構成元素拡散を防止するために設けられている。拡散防止層12は、基材11上に複数層成膜されるが、積層された拡散防止層12のトータルの膜厚は10〜400nmの範囲とすることが好ましい。拡散防止層12のトータルの膜厚が10nm未満になると、基材11の構成元素の拡散を十分に防止できない虞がある。また、各拡散防止層12(単一の拡散防止層)の膜厚は2nm以上であることが好ましい。各拡散防止層12の膜厚が2nm未満になると、拡散防止層12の上または下に積層されている薄膜との界面が形成されにくくなり、各薄膜間の界面における拡散元素のトラップ効果が発現できなくなる。
【0016】
ベッド層13は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される岩塩構造層14の配向性を得るために機能する。このようなベッド層13は、必要に応じて配され、例えば、希土類酸化物層を用いることができる。希土類酸化物として、組成式(α2x(β(1−X)で示されるものが挙げられる。ここで、α及びβは希土類元素で0≦x≦1に属するものを指す。より具体的には、ZrO、Y、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、La、Lu、Nd、Sc、Sm、Tm、Ybなどを例示することができる。さらに、希土類酸化物として、Pr11、及びTbなども挙げられる。ベッド層13は、基材11および拡散防止層12上に複数層成膜されるが、積層されたベッド層13のトータルの膜厚は10〜100nmの範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層は、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造であることにより、基材から薄膜積層体の表面側に向かう基材構成元素の拡散を、各薄膜の各界面においてトラップすることができるため、高い拡散防止効果を実現することができる。
基材構成元素は、薄膜の種類によって、拡散のしやすさが異なるため、比較的拡散しやすい薄膜を通り抜けたとしても、この薄膜上に拡散しにくい薄膜が積層されていることにより、その薄膜の積層された界面が壁のように機能し、拡散元素はその界面にトラップされる。
また、基材構成元素の拡散は、単一物質内よりもひずみを有する異種物質の界面を平面方向に優先的に拡散する。本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層は、2種以上の薄膜が繰り返しそれぞれ2層以上積層されているため、この界面が複数存在する。繰り返し構造が多いほど、即ち、界面が多いほど、拡散防止効果は高くなる。
【0018】
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層において、特に高い拡散防止効果が得られるのは、酸化物超電導導体用配向膜下地層10のような構成をとる場合である。
例えば、図3に示すように、ベッド層13の上に岩塩構造層14や酸化物超電導層15やキャップ層(図示せず)を形成する場合に、必然的に加熱されたり熱処理される結果として熱履歴を受ける。この場合、酸化物超電導導体用配向膜下地層10は、拡散防止層12とベッド層13とが繰り返し積層された積層構造であることにより、基材11の構成元素の一部が、酸化物超電導導体用配向膜下地層10(拡散防止層12やベッド層13など)を介して、酸化物超電導層15側に拡散することを抑制することができる。拡散防止層12自体の拡散防止効果に、拡散防止層12とベッド層13との各界面における拡散元素のトラップ効果も付与することができるため、より効果的に基材構成元素の拡散を抑制することができる。
また、本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層によれば、従来の拡散防止層とベッド層とを1層ずつ積層させた配向膜下地層に比べて、高い拡散防止効果が得られるため、この酸化物超電導用配向膜下地層の膜厚を薄くすることも可能となる。
【0019】
岩塩構造層14は、結晶構造が岩塩構造を有する。このような岩塩構造を有する材料としては、組成式γOにて表記されるものが挙げられる。ここで、γとしては、Mg、Ni、Sr、Ca及びBaの何れかの元素が例示される。
【0020】
岩塩構造層14としてMgO層をIBAD法で作製するには、MgOあるいはMg等をターゲットとして用い、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンアシストビームを基材に対して40度〜60度に入射させながら成膜すればよい。IBAD法で成膜することにより、2軸配向されたMgO層(岩塩構造層14)を良好な結晶配向状態で成膜することができる。これにより、MgO層(岩塩構造層14)上に積層される酸化物超電導層を良好な結晶配向状態で形成することができる。MgO層(岩塩構造層14)の厚さは1nm以上500nm以下とすることが好ましい。500nmを超えると表面粗さが大きくなり、臨界電流密度が低下する虞がある。
【0021】
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の形成方法は、従来公知の成膜法であれば特に限定されないが、後述する超電導導体用配向膜下地層の成膜方法および成膜装置により形成されることが好ましい。
【0022】
<酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法および成膜装置>
本発明の酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法及び成膜装置の一実施形態について図面に基づき説明する。本実施形態では、酸化物超電導導体用配向膜下地層10を例に取り説明することとするが、この酸化物超電導導体用配向膜下地層10は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
図4は、酸化物超電導導体用配向膜下地層10を形成するための成膜装置の概略を示す斜視図である。
図4に示す成膜装置100は、処理容器(図示せず)に収容される形態で設けられる成膜装置であり、帯状の基材105を走行させつつ、この基材105の表面に、2種以上の薄膜を繰り返し連続積層させる。
この成膜装置100は、基材105がレーストラック状の経路で複数周走行する走行系と、基材105の表面と対向して配設された2種の長方形状の板状のターゲット303a、303bと、これらのターゲット303a、303bの表面に同時にイオンビームLを照射するイオンビーム発生源(イオンビーム発生機構)304とを備えている。上記2種の長方形状の板状のターゲット303a、303bは、基材105の長手方向(基材の走行方向)に沿って、並んでいる。
【0024】
基材105がレーストラック状の経路で複数周走行する走行系は、第1転向部材群305aと、第2転向部材群305bとを備える。第1転向部材群305aは、同軸的に配列された複数個(図4では7個)のリール状の転向部材を備え、基材105の走行方向を転向する。同じように、第2転向部材群305bは、第1転向部材群305aと同様の構造の転向部材を複数個(図4では7個)備えており、これらの複数個の転向部材は同軸的に配列されている。第1転向部材群305aと同じように、第2転向部材群305bは基材105の走行方向を転向する。なお、第1転向部材群305aと第2転向部材群305bとは、それぞれの軸が互いに平行となるように配置されている。
さらに、上記走行系は、基材105を送り出すための基材送出機構301と、基材105を巻き取るための基材巻取機構302とを備えている。基材送出機構301は、第2転向部材群305bの外側に設けられている。基材巻取機構302は、第1転向部材群305aの外側に設けられている。これらの転向部材群305a、305b、基材送出機構301、及び基材巻取機構302を駆動装置(図示せず)により互いに同期して駆動させることにより、基材送出機構301から所定の速度で送り出された基材105が転向部材群305a、305bを周回し、基材巻取機構302に巻き取られる。
【0025】
図4に示すように、転向部材群305a、305bは、同径の転向部材が同軸的に配列されてなる構成である。また、ターゲット303a、303bに対向する基材部分106(ターゲット303a、303bと対向されて、積層体を形成する基材の部分)が、ターゲット303a、303bから等距離に位置している。各転向部材は、基材105の幅に応じた軸方向の長さを有し、複数列をなす基材105が隙間無く配列されるものが好ましい。
転向部材群305a、305bを構成する各転向部材は、円柱状もしくは円板状、半円柱状もしくは半円板状、楕円柱状もしくは楕円板状など、基材105の移動方向を滑らかに転向させる湾曲した側面(湾曲面)を有するものが好ましい。なお、「円柱状もしくは円板状」等は、転向部材の径と軸方向の長さとの比を特に限定しない趣旨である。
転向部材群305a、305bは、搬送される基材105とともに回転する構成でも良く、転向部材群305a、305bは動かずに、その側面上で基材105が滑っている構成でも良い。転向部材群305a、305bを回転させる場合には、基材105の移動速度に合わせて転向部材群305a、305bを回転させる駆動機構(図示せず)を設けても良い。
【0026】
転向部材群305a、305bの間を走行する基材部分106の表面と対向して、基材105の長手方向にターゲット303a、303bが並べて配置されている。これらのターゲット303a、303bには、イオンビーム発生機構304からイオンビームLが照射される。
【0027】
ターゲット303a、303bは、酸化物超電導導体用配向膜下地層を構成する薄膜を形成するために用いるもので、拡散防止層12及びベッド層13として挙げられた材料を好ましいものとして挙げる事ができ、これらターゲット303a、303bの形状としては、板状のものが用いられる。
【0028】
ターゲット303a及び303bにイオンビームLを照射するイオンビーム発生機構304は、ターゲット303a及び303bからその構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させることが出来るイオンビームLを発生するものであれば良い。イオン種、出力、照射エネルギー等は、ターゲット303a及び303bの材質や成膜速度などに応じて、適宜設定することが可能である。
【0029】
本実施形態のイオンビーム発生機構304は、図4に示すように、基材105の長手方向に並んで配設されたターゲット303a及び303bに同時にイオンビームを照射できるような幅を持っている。これにより、ターゲット303aより粒子群307aを、ターゲット303bより粒子群307bを同時に発生させて、転向部材群305a、305b間を走行する基材部分106の表面に、ターゲット303a及び303bの構成粒子を繰り返し堆積させることが出来る。その結果、本実施形態の成膜方法及び成膜装置100では、従来の成膜装置のように積層毎にターゲットを交換する必要がなく、生産性を大幅に向上させることが可能である。
【0030】
成膜装置100は加熱装置(図示せず)などにより、加熱しながら成膜を行うことも可能である。その場合、加熱装置は、基材105の走行系および成膜装置100全体の少なくとも一つを囲むように設けても良いし、ターゲット303a及び303bの構成粒子の堆積領域を走行する基材部分106の裏側(積層体が形成されてない表面側)に設けられていても良い。加熱しながら成膜する場合、転向部材群305a及び305bは、比較的熱容量の大きいものが好ましい。
【0031】
成膜装置100は、処理容器(図示せず)内に設けられている。この処理容器は、排気孔を介して真空排気装置が接続されており、処理容器内を所定の圧力に減圧することができる構造となっている。これにより、処理容器内が所定の圧力に減圧されている間は、成膜装置100に取り付けられた基材105の長手方向全体が、処理容器内の減圧下に置かれる。
【0032】
次に、この成膜装置100を用いて、図1に示す酸化物超電導導体用配向膜下地層10を形成する方法について図4に基づき説明する。
帯状の基材105(図1では基材11)を、表面側(または薄膜を積層する面側)がターゲット303a、303b側になるように回転部材群305a、305bに巻回する。図1に示す酸化物超電導導体用配向膜下地層10は、2種の薄膜が繰り返し5回積層させた積層体であるので、回転部材群305a、305bを構成する回転部材の数は5個ずつとし、レーン数を5とする。また、ターゲット303aとして拡散防止層材料からなる板状のターゲットを、ターゲット303bとしてベッド層材料からなる板状のターゲットを、それぞれ固定具を用いて固定する。ターゲット303a、303bの長手方向の長さを適宜調整することにより、所望の膜厚の拡散防止層12及びベッド層13を形成することができる。ターゲット303a、303bの長手方向の長さは、ターゲットの材質や成膜速度、照射するイオンビームLのイオン種、出力、照射エネルギーなどを考慮し、適宜調整することが可能である。
【0033】
次に、不図示の処理容器内を真空排気装置により所定の圧力に減圧する。ここで、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して、処理容器内を酸素雰囲気としても良い。
次いで、基材送出機構301、転向部材群305a、305b、基材巻取機構302を同時に駆動し、基材105を基材送出機構301から基材巻取機構302に向けて所定の速度にて移動させる。同時に、加熱しながら成膜したい場合は、不図示の加熱機構により、成膜装置100全体又は基材105を所望の温度に保持する。
【0034】
次いで、イオンビーム発生機構304によりイオンビームLをターゲット303a及びターゲット303bに同時に照射する。イオンビームLによりターゲット303aから叩き出され若しくは蒸発される構成粒子は、その放射方向の断面積が拡大した粒子群307aとなり、ターゲット303aと対向して走行する基材部分106上の堆積領域を覆う。また、イオンビームLによりターゲット303bから叩き出され若しくは蒸発される構成粒子は、その放射方向の断面積が拡大した粒子群307bとなり、ターゲット303bと対向して走行する基材部分106上の堆積領域を覆う。
これにより、基材105は転向部材群305aから転向部材群305bに向かって周回する間に、その上に、ターゲット303aより拡散防止層12が成膜され、更にその上にターゲット303bよりベッド層13が順次積層される。本実施形態では、レーン数が5であるため、基材105は、粒子群307a、307b内を5回通過することになる。粒子群307a、307bの通過毎に、拡散防止層12及びベッド層13が順次成膜される。その結果、図1に示すような、拡散防止層12とベッド層13が繰り返し積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層10が成膜される。
【0035】
本実施形態では、拡散防止層12とベッド層13が5回繰り返して積層された酸化物超電導導体用配向膜下地層10について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。成膜装置100において、走行する基材105の長手方向に並んで配置されたターゲットの数を増やすことで、3種以上の薄膜を繰り返し積層することも可能である。
【0036】
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜方法によれば、イオンビームを2種以上のターゲットの表面に同時に照射し、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸着させ、前記2種以上のターゲットの構成成分を帯状の基材上に順に堆積させることにより、1プロセスで2種以上の薄膜を繰り返し積層させて酸化物超電導導体用配向膜下地層を形成することができる。これにより、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造を有する酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜時間の短縮が可能となり、生産コストの低減が可能な成膜方法を提供することができる。
さらに、本発明の一態様に係る酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜装置によれば、それぞれの軸が互いに平行となるように配置された転向部材群に、帯状の基材を周回させ、転向部材群間を走行する前記基材の表面と対向して、前記基材の長手方向に2種以上のターゲットを並べて配置させ、イオンビームを前記2種以上のターゲットの表面に同時に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸着させることにより、前記帯状の基材はこのターゲットの構成粒子の堆積領域内を複数回通過させられる。これにより、前記基材上に、1プロセスで2種以上の薄膜を繰り返し積層させることができるため、2種以上の薄膜が繰り返し積層された積層構造を有する酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜時間の短縮が可能となり、生産コストの低減が可能な成膜装置を提供することができる。
【実施例】
【0037】
まず、本実施例で用いた、IBAD法による成膜装置について説明する。
図5は、多結晶薄膜を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成となっている。
この成膜装置は、基材Aを水平に保持する基材ホルダ51と、板状のターゲット52と、イオンガン53と、スパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。
板状のターゲット52は、この基材ホルダ51の斜め上方(例え、斜め左側の上方)に所定間隔をもって、基材ホルダ51と斜めに対向するように配置され、かつ、ターゲット52と離間して配置されている。
イオンガン53は、基材ホルダ51の斜め上方(例え、斜め右側の上方)に所定間隔をもって、基材ホルダ51と斜めに対向するように配置され、かつ、ターゲット52と離間して配置されている。
スパッタビーム照射装置54は、ターゲット52の下方において、ターゲット52の下面(ターゲット52等とは反対側の面)に向けて配置されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、前記成膜装置は、図示略の真空容器に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できる。更に前記真空容器には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができる。
なお、本実施例では、基材Aとしては、図4に示す成膜装置100で作成した酸化物超電導導体用配向膜下地層10に用いられた基材11を用いた。
【0038】
なお、基材Aとして長尺の金属テープを用いる場合、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができる。
基材ホルダ51の内部に加熱ヒータを備えている。この加熱ヒータにより、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱することができる。また、基材ホルダ51の底部(基材Aが形成された面とは反対側の面)には、基材ホルダ51の水平角度を調整する角度調整機構が設置されている。なお、これのみに限定されず、この角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
【0039】
ターゲット52は、目的とする岩塩構造層であるMgO層を形成するためのものであり、具体的には、MgOあるいはMgを用い、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して成膜すればよい。
イオンガン53は、その容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、その正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化するには高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化するものである。
本実施例においては、図6に示す構成の内部構造を有するイオンガン53を用いる。このイオンガン53は、筒状の容器56を備え、さらにこの筒状の容器56の内部に設置された引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備え、かつ容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射することができる。
【0040】
イオンガン53は、図5に示すように、その中心軸が基材Aの上面(成膜面)に対して傾斜角度θをもって傾斜するように、対向配置されている。この傾斜角度θは30度〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に、特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は、基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射することができるように配置されている。なお、イオンガン53によって基材Aに照射されるイオンは、He+、Ne+、Ar+、Xe+、Kr+等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンとの混合イオン等で良い。
スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成を形成し、ターゲット52に対してイオンを照射して、ターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本実施形態に係る装置では、ターゲット53の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印可して、ターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。
【0041】
次に、前記構成を有する装置を用いて、基材A上に多結晶薄膜を形成する方法について説明する。基材A上に多結晶薄膜を形成するには、所定のターゲットを用いるとともに、イオンガン53から照射されるイオンが基材ホルダ51の上面に対して45度前後の角度で照射できるように、角度調整機構を調節する。次に基材を収納している容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54とを作動させる。
【0042】
スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されて基材A上に飛来する。そして、基材A上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンとの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、たとえばMgOを形成する際には、40〜60度の範囲が好適である。
【0043】
以下、実施例をもって本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<製造例1>
製造例1では、図1に示す積層構造の酸化物超電導導体用配向膜下地層を製造する。
金属基材11として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープを使用する。この金属基材11上に、図4に示す成膜装置を用いて、拡散防止層12としてAl層(10nm)を、ベッド層13としてY層(2nm)を、5回繰り返して積層した酸化物超電導導体用配向膜下地層を形成する。酸化物超電導導体用配向膜下地層の成膜条件は以下の通りである。
ターゲット数:2
ターゲット:幅30cm、長さ80cmのAl板と、幅30cm、長さ20cmのY板とを金属テープの長手方向に並べて配置
レーン数:5
イオンガン電圧:1500V
イオンガン電流:500mA
基材の走行速度:150m/h
成膜温度:室温
【0045】
以上に形成された酸化物超電導導体用配向膜下地層上に、IBAD法によって岩塩構造層14を構成するMgO層(2〜10nm;IBAD−MgO層)を形成する。このときのIBAD−MgO層は、室温で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンアシストビームを基材に対して45度に入射させながら作製されたものである。
次いで、半値幅(ΔΦ)を測定するために、IBAD−MgO層上に、イオンビーム法によりMgOをエピタキシャル成長させてMgO層(約100nm)を積層し、図2に示すような薄膜積層体20を形成した。このときのMgO層は200℃で作製した。このように作製されたMgO層について、面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を測定した。その結果を表1に示す(実施例1〜4)。また、作成したMgO層のMgO(220)正極点図を図9に示す。
本発明に関する説明において、特に説明がない限り、岩塩構造層14(又はIBAD−岩塩構造層14)は、IBAD−MgO層、又はIBAD−MgO層とエピタキシャル成長させて積層されたMgO層とを含む層の概念である。製造例の説明で、特に説明がない限り、MgO層とは、IBAD−MgO層とエピタキシャル成長させて積層されたMgO層とを含む概念である。
【0046】
<製造例2>
図7は、製造例2で作成した薄膜積層体40の断面を模式的に示す図である。
金属基材41として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープを使用する。この金属基材41上に、拡散防止層42としてAl層(100nm)をスパッタリング法により形成した後、さらにベッド層43としてY層(20nm)をスパッタリング法により形成する。図7に示したように、拡散防止層42とベッド層43とが一層のみ形成されている。
製造例1と同様にして、IBAD−MgO層(約2〜10nm)とエピタキシャル成長させたMgO層(約100nm)を積層して、図7に示すような薄膜積層体40を形成し、MgO層44の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を測定した。その結果を表1に併せて示す。
ここで、MgO層44とは、IBAD−MgO層、又はIBAD−MgO層とエピタキシャル成長させたMgO層とを含む層の概念であって、製造例1における岩塩構造層14に対応する概念である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示す結果から分かるように、製造例1で形成されたMgO層は、製造例2のMgO層と同程度の良好な結晶配向状態で成膜されている。製造例1では、ターゲットの交換が不要であり、1プロセスで多層膜の成膜が可能であり、製造例2のようにターゲット交換が必要である従来の成膜方法に比べて、製造時間の短縮が可能であり、生産コストを削減することができる。
【0049】
また、表1に示されている実施例1で作成したMgO層上にYBCO超電導層(酸化物超導電層15)(YBCO:YBaCu7−x)をPLD法(パルスレーザ蒸着法)によって、1000℃で、1000nm形成した(積層構造は図3を参照)。その特性を評価した結果、液体窒素温度において、臨界電流密度Jc=2.9MA/cm、臨界電流Ic=290Aの高特性が得られていることが確認された。一方、表1に示されている比較例1で作成したMgO層上に、YBCO超電導層をPLD法によって1000℃で1000nm形成し、その特性を評価したところ、超電導特性は発現しなかった(積層構造は図8を参照)。この結果より、実施例1の超電導導体用配向膜下地層は、拡散防止層とベッド層とが繰り返し積層された積層構造を有することにより、拡散防止層であるAl層の拡散防止効果に加え、さらに、各積層膜の界面における拡散金属のトラップ効果が加わり、1000℃のような高温プロセスにおいても、金属基材から拡散する基材構成元素をMgO層およびYBCO超電導層へ拡散させること無く、高い拡散防止効果を有している。一方、比較例1では、1000℃の高温プロセスにより、金属基板から基板構成原子がMgO層およびYBCO超電導層へと拡散した結果、MgO層およびYBCO超電導層の結晶配向性が低下し、超電導特性を発現できなくなってしまった。以上より、本発明の実施形態に係る実施例1の超電導導体用配向膜下地層は、拡散防止効果が高いことが確認された。
【0050】
以上の結果より、本発明の態様に係る超電導導体用配向膜下地層によれば、拡散防止層とベッド層との薄膜を周期的に積層させた積層構造とすることにより、配向膜下地層の膜厚を厚膜化することなく、高い拡散防止効果が得られる。
また、本発明の態様に係る超電導導体用配向膜下地層の成膜方法および成膜装置によれば、拡散防止効果の高い超電導導体用配向膜下地層を1プロセスで作成することが可能であり、製造時間の短縮により、生産コストを削減することができる。
【符号の説明】
【0051】
11、41 基材
12、42 拡散防止層
13、43 ベッド層
14、44 岩塩構造層
105 基材
301 基材送出機構
302 基材巻取機構
303a、303b ターゲット
305a、305b 転向部材群
304 イオンビーム発生源(イオンビーム発生機構)
307a、307b 粒子群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9