【実施例】
【0020】
図1は、本発明が好適に適用された自動車排ガス浄化用触媒装置の一部である表面を拡大して示す模式図である。上記自動車排ガス浄化用触媒装置は、内燃機関からの排ガス中に含まれる有害成分である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)を浄化させる三元触媒コンバータであり、上記内燃機関からの排ガスを挿通させる複数の挿通穴を有し例えば多孔質セラミックで構成されたハニカム形状の図示しない本体部材と、上記内燃機関からの排ガス中に含まれる有害成分を浄化させるためにその本体部材の複数の挿通穴の内周面に設けられた触媒相10とによって構成されている。なお、
図1は、前記三元触媒コンバータの触媒相10の一部を拡大させた模式図である。
【0021】
触媒相10は、例えば、触媒活性物質である白金などの貴金属の硝酸塩などの水溶液中にアルミナなどの耐火性無機酸化物の粉末と粉末状或いは多孔質粒子状のセリアジルコニア酸化物(Ce
1−XZr
XO
2)とを十分に混合して含浸させたものを乾燥・焼成させて得られた粉末を、ボールミル等を用いて湿式粉砕してスラリー化させて、そのスラリーに前記本体部材を浸漬させて乾燥・焼成させることによって形成されたものである。すなわち、触媒相10には、
図1に示すように、前記本体部材の複数の挿通穴の内周面に担持されたアルミナ粉末(触媒担体)12と、そのアルミナ粉末12の表面12aに白金(触媒活性物質)14の粉末と共に担持された助触媒であるセリアジルコニア酸化物16とが備えられている。セリアジルコニア酸化物16は、アルミナ粉末12よりも小径且つ白金14よりも大径の粉末或いは多孔質粒子であって、白金14を付着させた大きな表面積を有している。
【0022】
セリアジルコニア酸化物16は、排ガス中の酸素濃度が運転条件などにより変動することによって白金14の効率が悪くなるのを抑制するために、触媒相10の周囲の酸素が過剰な時は酸素を貯蔵し、触媒相10の周囲の酸素が不足した時は酸素を放出する酸素貯蔵能性能を有する酸素貯蔵能材として機能する。
【0023】
セリアジルコニア酸化物16は、多孔質の粒子であり、前記自動車排ガス浄化用触媒装置が使用される用途ごとに、例えば高排気量自動車、ハイブリッド自動車では、高比表面積に調整したものである。すなわち、セリアジルコニア酸化物16は、ジルコニアゾルと硝酸セリウム溶液とからなる混合溶液である比表面積調整材を用いることによりその比表面積が調整されるものである。以下において、セリアジルコニア酸化物16の製造方法を
図2を参照して説明すると共に、その製造方法によって製造されたセリアジルコニア酸化物16の比表面積を測定し前記比表面積調整材が添加される前のセリアジルコニア酸化物の比表面積と比較させることによって前記比表面積調整材を用いることによって比表面積が調整可能であることを示す。
【0024】
図2に示すように、先ず、第1混合工程P1において、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末(Ce
1−XZr
XO
2材料)16aに、オキシ塩化ジルコニウムから作製したジルコニアゾル18aと硝酸セリウム溶液18bとからなる混合溶液である比表面積調整材18を、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aに対して0.5〜5(wt%)の範囲内で添加して、例えばボールミルによって6時間湿式粉砕するとともに混合した。なお、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aは、例えば、ジルコニアゾルに硝酸セリウムを混合させた混合液にアンモニア水を添加して混合させた混合液を、濾過してその混合液の固体分を分離させ、その分離した固体分を乾燥.焼成させることによって製造したものである。また、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの平均粒径は2μmであり、800℃で焼成後のCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積は30(m
2/g)である。また、比表面積調整材18に混合されたジルコニアゾル18aには、平均粒径が1〜10nmの範囲内のジルコニア粒子がコロイド状に分散されており、そのジルコニアの濃度は0.1(wt%)である。また、ジルコニアゾル18aと硝酸セリウム溶液18bとからなる比表面積調整材18は、セリウム(Ce):ジルコニウム(Zr)=2:8mol比となるように調合されている。
【0025】
次に、第2混合工程P2において、第1混合工程P1によって混合されたCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aと比表面積調整材18との混合液に、例えばアンモニア水20などの還元剤を1〜5(wt%)の範囲内で添加して、例えばボールミルによって6時間湿式粉砕するとともに混合した。なお、添加されるアンモニア水(還元剤)20は、そのアンモニア水20の濃度が0.2〜1(N)の範囲内のものを使用している。
【0026】
次に、ろ過・洗浄工程P3において、第2混合工程P2によって混合された混合液をろ過して得た固体分を洗浄することによりその混合液中の固体分を分離した。
【0027】
次に、加温工程P4において、ろ過・洗浄工程P3によって混合液中から分離された固体分を100〜200℃の範囲内で加温することでゲル化させた。
【0028】
次に、焼成工程P5において、加温工程P4でゲル化されたものを600〜800℃本実施例では800℃で焼成させた。これによって、セリアジルコニア酸化物16が得られた。
【0029】
ここで、上記製造工程P1〜P5において、
図3に示すように、第1混合工程P1における比表面積調整材18の添加量を0〜5(wt%)の範囲内で変化させ、ジルコニアゾル18aのジルコニア粒子の平均粒径を1〜20(nm)の範囲内すなわち1(nm)、5(nm)、10(nm)、20(nm)で変化させ、第2混合工程P2におけるアンモニア水20の添加量を0〜10(wt%)
の範囲内で変化させ、アンモニア水20の濃度を0.2〜1(N)の範囲内で変化させ、加温工程P4における処理温度を100〜300℃の範囲内で変化させることによって、10種類のセリアジルコニア酸化物16、すなわち、No.1〜10のセリアジルコニア酸化物16を製造し、それらセリアジルコニア酸化物16の比表面積(m
2/g)を測定した。以下、
図3を用いてその測定結果を示す。なお、No.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16が実施例に対応し、それ以外すなわちNo.1、2、8乃至10のセリアジルコニア酸化物16が比較例に対応している。また、セリアジルコニア酸化物16の比表面積(m
2/g)は、例えば窒素ガスなどの物理吸着を用いて吸着等温線を測定し、BET法により算出したものである。また、ジルコニア粒子の平均粒径(nm)は、DLS(動的光散乱)法を用いたレーザドップラ式粒度分析計により測定したものである。
【0030】
図3のNo.1乃至10のセリアジルコニア酸化物16における比表面積の測定結果から示すように、No.3乃至8、10のセリアジルコニア酸化物16は、それぞれ比表面積が比表面積調整材18が添加される前のCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)に対して変化した。また、No.1、2、9のセリアジルコニア酸化物16は、それぞれ比表面積が比表面積調整材18が添加される前のCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)と同じであり変化しなかった。なお、No.8のセリアジルコニア酸化物16は、加温工程P4での処理温度が300℃であって、No.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16における処理温度100℃、200℃よりも高いので、加温工程P4でゲル化されたものが焼成工程P5によって焼成されるとセリアジルコニアの結晶とはならず酸化セリウム(CeO
2)と酸化ジルコニウム(ZrO
2)とに分層された結晶となり、目的とする性能を満たさない。また、No.10のセリアジルコニア酸化物16は、ジルコニアゾル18aのジルコニア粒子の平均粒径が20(nm)であって、No.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16におけるジルコニア粒子の平均粒径1(nm)、5(nm)、10(nm)よりも大きいので、加温工程P4において固くゲル化してしまい粉砕が必要であったために、再現よく比表面積を調整することができなかった。
【0031】
このため、
図3のNo.1乃至10のセリアジルコニア酸化物16において、実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16が、比表面積調整材18を用いることによって好適に比表面積が調整可能であると考えられる。すなわち、No.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16のように、比表面積調整材18の添加量を0.5〜5(wt%)の範囲内にし、ジルコニアゾル18aのジルコニア粒子の平均粒径を1〜10(nm)の範囲内にし、第2混合工程P2におけるアンモニア水20の添加量を1〜5(wt%)の範囲内にし、アンモニア水20の濃度を0.2〜1(N)の範囲内にし、加温工程P4における処理温度を100〜200℃の範囲内にすることによって、比表面積が調整されたセリアジルコニア酸化物16を製造することができると考えられる。また、比表面積調整材18の添加量(wt%)、ジルコニアゾル18aのジルコニア粒子の平均粒径(nm)、アンモニア水20の添加量(wt%)、アンモニア水20の濃度(N)、および加温工程P4での処理温度(℃)のうちの少なくとも1つが上述した範囲から外れると、比較例であるNo.1、2、8乃至10のセリアジルコニア酸化物16のように比表面積がCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)と同じで変化しないか或いはセリアジルコニア酸化物16の製造時に問題点が発生すると考えられる。
【0032】
ここで、実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16の比表面積が比表面積調整材18が添加される前のCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)に対して変化した理由を、
図4および
図5を用いて概念的に説明する。なお、
図4は、比表面積がCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)より低くなったセリアジルコニア酸化物16、すなわちNo.3、4、7のセリアジルコニア酸化物16の一部を拡大した模式図である。また、
図5は、比表面積がCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)より高くなったセリアジルコニア酸化物16、すなわちNo.5、6のセリアジルコニア酸化物16の一部を拡大した模式図である。
【0033】
図4および
図5に示すように、No.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16は、比表面積調整材18が添加される前のCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aと、そのCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの表面に固着されたセリアジルコニア酸化物16bとにより構成されている。なお、セリアジルコニア酸化物16bは、加温工程P4でゲル化されたものが焼成工程P5で焼成されることによってセリアジルコニア酸化物として結晶化したものである。
【0034】
図4では、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの粒子間がセリアジルコニア酸化物16bによって結合された状態となるので、No.3、4、7のセリアジルコニア酸化物16の比表面積は、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)より小さくなると考えられる。また、
図5では、
図4に示すようにセリアジルコニア酸化物16bがCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの粒子間を結合するのではなく、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの粒子上にさらに小さな微粒子として固着されるので、No.5、6のセリアジルコニア酸化物16の比表面積は、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)より大きくなると考えられる。
【0035】
更に、
図3に示すように、実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16において、アンモニア水20の濃度が0.2(N)、0.5(N)である時には、セリアジルコニア酸化物16の比表面積がCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)に比べて高くなっている。また、アンモニア水20の濃度が1(N)である時には、それぞれのセリアジルコニア酸化物16の比表面積がCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積30(m
2/g)に比べて低くなっている。このため、アンモニア水20の濃度を1(N)にすることによって、セリアジルコニア酸化物16では、
図4に示すCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの粒子間がセリアジルコニア酸化物16bにより連結される状態となって、セリアジルコニア酸化物16の比表面積を小さく調整することができると考えられる。また、アンモニア水20の濃度を1(N)より低くして0.2(N)或いは0.5(N)にすると、セリアジルコニア酸化物16では、
図5に示すCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの粒子上にさらに小さな微粒子としてセリアジルコニア酸化物16bが固着される状態となって、セリアジルコニア酸化物16の比表面積を大きく調整することができると考えられる。これによって、アンモニア水20の濃度を変化させることによって、セリアジルコニア酸化物16の比表面積の大きさが調整されるので、従来のように比表面積を調整したCe
0.2Zr
0.8O
2粉末を製造するためにその製造条件が経験やノウハウによって細かく設定され且つその製造条件を細かく制御できる高コストの製造設備を使用する必要がないので、従来に比較してばらつきが小さく且つ比較的安価にセリアジルコニア酸化物16の比表面積を調整することが可能となる。
【0036】
上述のように、実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16においてCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aに添加される比表面積調整材18によれば、比表面積調整材18は、平均粒径が1〜10nmのジルコニア粒子が含まれたジルコニアゾル18aと硝酸セリウム溶液18bとからなっており、その混合溶液をCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aと混合してゲル化した後、焼成するとCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積が調整される。これによって、従来のように比表面積を調整したCe
1−XZr
XO
2粉末を製造するためにその製造条件が経験やノウハウによって細かく設定され且つその製造条件を細かく制御できる高コストの製造設備を使用する必要がないので、Ce
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積を従来に比較してばらつきが小さく且つ比較的安価に調整することができる。
【0037】
また、比表面積調整材18により比表面積が調整された実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16の製造方法によれば、第1混合工程P1においてCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aに比表面積調整材18が混合され、第2混合工程P2において第1混合工程P1によって混合されたCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aと比表面積調整材18との混合液にアンモニア水20が混合され、ろ過・洗浄工程P3において第2混合工程P2によって混合された混合液が、ろ過・洗浄されてその混合液中の固体分が分離され、加温工程P4においてろ過・洗浄工程P3によって混合液中から分離された固体分が加温されることでゲル化され、焼成工程P5において加温工程P4でゲル化されたものが焼成されて、比表面積を従来に比較してばらつきが小さく且つ比較的安価に調整した実施例であるNo.3乃至7のセリアジルコニア酸化物16が製造される。
【0038】
前記自動車排ガス浄化用触媒装置によれば、比表面積調整材18により比表面積が調整されたセリアジルコニア酸化物16が、アルミナ粉末12の表面12aに白金14と共に担持させられている。このため、白金14を担持する前に比表面積調整材18を用いてCe
0.2Zr
0.8O
2粉末16aの比表面積が調整されるので、従来のようにCe
1−XZr
XO
2粉末に白金14を担持させた後にそのCe
1−XZr
XO
2粉末の比表面積を調整するために比較的高温である特殊な焼成をする必要がなくなる。これによって、その焼成によって生じる白金14の剥離や触媒機能の失活が好適に抑制される。
【0039】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0040】
本実施例の自動車排ガス浄化用触媒装置において、セリアジルコニア酸化物16は、触媒担体であるアルミナ粉末12の表面12aに触媒活性物質である白金14の粉末と共に担持されていた。しかしながら、触媒担体が必ずしもアルミナ粉末12である必要なく、触媒活性物質が必ずしも白金14である必要はない。例えば、白金に代えてパラジウム、ロジウム等が使用されても良い。
【0041】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。