特許第5756442号(P5756442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756442
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】電子機器を納めた建造物の空調システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/20 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   G06F1/20 D
   G06F1/20 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-190252(P2012-190252)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-48816(P2014-48816A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229900
【氏名又は名称】日本フルハーフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】山本 勝博
(72)【発明者】
【氏名】塩見 隆児
【審査官】 宮下 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−032174(JP,A)
【文献】 特開2010−065912(JP,A)
【文献】 特開2007−285082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を収めた電子機器収容室を備える建造物であって、
前記電子機器収容室内の空気を冷却するため、外気冷却式空調機と機械式空調機とが装備され、
前記外気冷却式空調機は、前記電子機器収容室の内外にそれぞれ置かれた室内熱交換器と室外熱交換器とを有していて、前記室内熱交換器及び室外熱交換器が連通され、その内部には対流により循環する冷媒が封入されており、
前記機械式空調機は、圧縮機を備えて冷凍サイクルを行う冷却装置と空気を圧送する送風ファンとを有しており、さらに、
前記電子機器収容室の上部には、複数の前記室内熱交換器を通過した空気の集合する戻り空気集合ダクトが、前記建造物の長手方向に延びるよう設置され、かつ、前記建造物の一端側には、仕切り壁によって前記電子機器収容室と区画されるとともに、前記戻り空気集合ダクトが開口する戻り空気集合室が備えられ、
前記電子機器収容室内の一方の側部には、壁面との間に空間部が存在するよう空気吹き出しパネルが設置されるとともに、前記戻り空気集合室には、前記空間部に連なる分配ダクトが垂直方向に延びるように設置されており
前記機械式空調機の送風ファンは、その吸い込み口が前記戻り空気集合室に開口し、その吐出口には、前記分配ダクトに接続される送風ダクトが設けられていることを特徴とする建造物。
【請求項2】
前記電子機器は、複数のものがラックに収納されて、前記ラックが前記電子機器収容室の幅方向の中間部に設置されており、前記機械式空調機の送風ファンからの空気が、前記ラックを通過して幅方向に流れる請求項1に記載の建造物。
【請求項3】
前記ラックの上方には、前記外気冷却式空調機がそれぞれ設けられる請求項2に記載の建造物。
【請求項4】
前記建造物の屋根の下方には中間天井板が設けられ、前記室内熱交換器及び前記室外熱交換器が、前記中間天井板の下部と上部にそれぞれ設置される請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建造物。
【請求項5】
前記建造物の形状が直方体であって、平面視で長方形の4隅には柱状部材が配置されるとともに、各々の前記柱状部材の上部及び下部には、緊締具の係合可能な締結金具が固着されており、前記機械式空調機が前記柱状部材の内側に配置されている請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ラックに収納した多数のサーバを集中して設置するデータセンターなど、コンピュータ等の電子機器を室内に集中管理する建造物において、電子機器の冷却あるいは室内の空調を行うための空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に代表されるコンピュータネットワークの発展に伴い、サーバと呼ばれる業務用の比較的大型で信頼性を重視したコンピュータ、あるいは主に記憶装置を収めたストレージなどのコンピュータの需要が、ネットワークのサービス提供業者を中心に近年急速に拡大している。サーバ等のコンピュータは、収納用の筐体であるラックに多数のものを収め、一個所で集中管理されることが多く、サーバ等を内部に集中して管理する建造物は、データセンターと呼ばれている。
【0003】
データセンターには、通常の建築物として構築されるもの以外に、輸送用の大型容器であるコンテナを改造して構築するコンテナ型データセンター(モジュール型データセンターともいわれる)が存在する。輸送用のコンテナは、周囲を強度の大きい壁面で取り囲まれた堅牢な構造であって、データセンターのセキュリティを確保するのが容易であるとともに、気密性が高く、塵埃の侵入や塩害(海岸付近に設置される場合)を防止してコンピュータを保護するのも容易である。また、コンテナ型データセンターは、輸送用のコンテナを基礎とするものであって、通常の建築物と比較すると小型の建造物であるので、その増設や移設が簡単であり、無人運転に適しているという利点もある。
【0004】
ところで、多数のコンピュータを備えたデータセンター等の建造物においては、コンピュータの発熱に起因する熱障害を防止し、併せて室内の空調を行う必要がある。そのために、冷媒の相変化を利用するヒートパイプと同様な熱伝達促進装置を用いて、室内の熱を外部の大気に積極的に排熱することによりコンピュータの熱障害を防止する外気冷却式空調機が知られており、例えば、特開2011−38734号公報に開示されている。
この公報に記載の空調機は、携帯電話等の電話基地局に収容された情報通信機器を冷却(温度上昇を抑制)するためのものであり、図7に示されるように、電話基地局の屋外に室外熱交換器LE(低温側熱交換器)を設置するとともに、情報通信機器が設置された室内Rの上方に室内熱交換器HE(高温側熱交換器)を設置する。両方の熱交換器は連通されて内部に冷媒が封入されており、情報通信機器から発生した熱によって室内熱交換器HEの冷媒が沸騰して室外熱交換器LEに移送され、ここで、外気に熱を放出して冷媒が凝縮し、重力で室内熱交換器HEに還流する。室内の空気は、室内側ファンRFにより循環され、温度の下降した室内熱交換器HEを通過して冷却される。
【0005】
外気冷却によるこの空調機は、温度差に基づく対流を利用する自然循環式の冷却装置であって、冷凍サイクルを行うものではないから、基本的に外部電力等が不要である。したがって、この空調機をデータセンターに採用したときは、サーバ等のコンピュータで使用する電力以外のものは殆ど必要なく、消費電力の大幅な削減が可能となる。
しかし、外気冷却による空調方式は、外気の温度によって冷却能力が左右され、外気温度が高くなると冷却能力の不足する事態が発生する。輸送に適したコンテナ型データセンターは、設置された場所から気候条件の異なる場所に移設される可能性も大きく、種々の外気温度の条件下でも確実にコンピュータの熱障害を防止できる信頼性の高い空調システムが要請される。こうした要請に応えるよう、外気を直接室内に導入してサーバ等のコンピュータを冷却する外気冷却方式に、冷凍サイクルを行う機械式空調機を組み合わせるデータセンターの空調システムも知られており、一例として、特開2012−98799号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−38734号公報
【特許文献2】特開2012−98799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
データセンターあるいは電話基地局など、コンピュータ等の電子機器を多数収容する建造物においては、コンピュータ等で使用する電力以外の電力の消費を極力抑制する必要がある。この点からすれば、コンピュータの発熱に起因する熱障害を防ぐよう建造物の室内を冷却するには、電力消費の殆どない外気冷却による空調機の使用が好ましいが、一方では、外気温度の上昇により冷却能力が低下する事態にも対処しなければならない。また、コンピュータ等の熱障害への対処とは別に、データセンターの維持管理やコンピュータ等の保守整備の作業を行う場合の、作業員の作業環境を適正化する空調という面にも配慮しなければならない。
【0008】
特許文献2に開示されるように、データセンターに冷凍サイクルを行う機械式空調機を設置してこれを外気冷却方式と組み合わせ、必要に応じて機械式空調機を作動させると、外気温度の上昇による冷却能力低下等の問題に対処が可能である。しかし、特許文献2の外気冷却方式は、ファンによって直接室内に導入した外気を、サーバ等のコンピュータに通過させて冷却するシステムであって、外気中に含まれる塵埃や塩分等の影響により、コンピュータに損傷が生じる虞れがある。さらに、外気冷却方式と機械式空調機とを組み合わせた全体のシステムが、データセンター内の空気の流れの制御あるいは効率的な温度管理が困難な構造となっている。
本発明の課題は、密閉された室にコンピュータ等の電子機器を収容するデータセンター等の建造物において、外気冷却式空調機と機械式空調機とを効率的に組み合わせて空気の流れを改善し、このような問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、データセンター等の外気冷却式空調機として室内熱交換器と室外熱交換器とを有する空調機を採用するとともに、室内熱交換器で冷却された空気を機械式空調機の送風ファンの吸い込み口に集合させ、この送風ファンにより電子機器を収容する室内に冷却空気を循環させるようにしたものである。すなわち、本発明は、
「電子機器を収めた電子機器収容室を備える建造物であって、
前記電子機器収容室内の空気を冷却するため、外気冷却式空調機と機械式空調機とが装備され、
前記外気冷却式空調機は、前記電子機器収容室の内外にそれぞれ置かれた室内熱交換器と室外熱交換器とを有していて、前記室内熱交換器及び室外熱交換器が連通され、その内部には対流により循環する冷媒が封入されており、
前記機械式空調機は、圧縮機を備えて冷凍サイクルを行う冷却装置と空気を圧送する送風ファンとを有しており、さらに、
前記電子機器収容室の上部には、複数の前記室内熱交換器を通過した空気の集合する戻り空気集合ダクトが、前記建造物の長手方向に延びるよう設置され、かつ、前記建造物の一端側には、仕切り壁によって前記電子機器収容室と区画されるとともに、前記戻り空気集合ダクトが開口する戻り空気集合室が備えられ、
前記電子機器収容室内の一方の側部には、壁面との間に空間部が存在するよう空気吹き出しパネルが設置されるとともに、前記戻り空気集合室には、前記空間部に連なる分配ダクトが垂直方向に延びるように設置されており
前記機械式空調機の送風ファンは、その吸い込み口が前記戻り空気集合室に開口し、その吐出口には、前記分配ダクトに接続される送風ダクトが設けられている」
ことを特徴とする建造物となっている。
【0011】
請求項2に記載のように、前記電子機器は、複数のものがラックに収納されて、前記ラックが前記電子機器収容室の幅方向の中間部に設置されており、前記機械式空調機の送風ファンからの空気が、前記ラックを通過して幅方向に流れる構造とすることが好ましい。この場合においては、請求項3に記載のように、前記ラックの上方に、前記外気冷却式空調機をそれぞれ設けることができる。
【0012】
請求項4に記載のように、前記建造物の屋根の下方には中間天井板を設け、前記室内熱交換器及び前記室外熱交換器が、前記中間天井板の下部と上部にそれぞれ設置される構造とすることが好ましい。
【0013】
また、請求項5に記載のように、前記建造物の形状が直方体であって、平面視で長方形の4隅には柱状部材が配置されるとともに、各々の前記柱状部材の上部及び下部には、緊締具の係合可能な締結金具が固着されており、前記機械式空調機が前記柱状部材の内側に配置されている構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
電子機器を収めた電子機器収容室を備える本発明の建造物には、電子機器収容室内の空気を冷却するために2種類の別個の空調装置である、自然循環式の外気冷却式空調機と、圧縮機を有し冷凍サイクルを実行する機械式空調機とが装備されている。その中の外気冷却式空調機は、冷媒が封入された室内熱交換器及び室外熱交換器を備え、電子機器収容室の内外の温度差に基づき発生する対流の作用によって、電子機器収容室のコンピュータ等の排熱を室外の外気に伝達して室内の空気を冷却する。外気の温度が低いときは、外気冷却式空調機を使用することにより、電力消費を殆ど伴うことなく、室内の温度を低下してコンピュータ等の熱障害を防止できる。また、電子機器収容室内の空気から外気への排熱は、室内熱交換器及び室外熱交換器を介して行われるので、外気が室内に侵入することはなく、塵埃等によるコンピュータの汚損を防ぐことができる。
外気の温度が上昇して外気冷却式空調機の冷却能力が不足するときは、冷凍サイクルを行う機械式空調機を作動させる。この場合には、圧縮機を駆動するための外部電力(又は蓄電池に蓄えた電力やエンジンの動力等)を要するものの、コンピュータの過熱に起因する損傷を確実に回避することができると同時に、コンピュータ等の保守整備の作業員に対する適切な空調という点にも対処することができる。
【0015】
本発明の機械式空調機は、通常の空調機と同様に、昇温した空気を吸引し、かつ、冷却用熱交換器(エバポレータ)を通過して温度の降下した空気を室内に循環させる送風ファン(エバポレータファン)を備えている。そして、本発明の空調システムにおいては、複数の外気冷却式空調機の室内熱交換器を通過した空気(外気冷却式空調機で冷却された空気)が、建造物の長手方向に延びる戻り空気集合ダクトに集められた後、仕切り壁によって区画された建造物の一端側の戻り空気集合室に導かれるよう構成されており、この戻り空気集合室に、送風ファンの吸い込み口が開口する。換言すると、本発明の2種類の空調装置はいわば直列の関係に接続されていて、機械式空調機の送風ファンを、常時、単独で(圧縮機を作動させずに)運転することにより、電子機器収容室に十分な冷却空気を循環させることが可能であって、室内の均一な冷却を図ることができる。例えば、一部のラックのサーバのみが稼働しその部分の外気冷却式空調機に大きな熱負荷が作用しているときでも、複数の室内熱交換器を通過した空気を戻り空気集合室等において混合した後に送風ファンで強制的に循環するので、外気冷却式空調機に掛かる熱負荷は自動的に均等化されることとなる。
【0016】
また、外気冷却式空調機により冷却された後の空気を混合して機械式空調機の送風ファンに吸い込むようにしているので、2種類の空調装置を装備する電子機器収容室内の正確な温度管理が容易となる。例えば、送風ファンの吸い込み空気の温度に応じて機械式空調機の圧縮機の運転状態を制御することによって、電子機器収容室内の温度制御が可能であり、この場合に、室内の温度が過度に上昇しないようにするのであれば、圧縮機運転のON・OFF制御による簡便な方法で可能である。
そして、本発明では、冷却空気を電子機器収容室内に供給するため、電子機器収容室内の一方の側部に、壁面との間に空間部が存在するよう空気吹き出しパネルを設置するとともに、戻り空気集合室に、その空間部に連なる分配ダクトを垂直方向に延びるように設置して、機械式空調機の送風ファンの送風ダクトをこの分配ダクトに接続している。この構造によると、室の一方の側面全体から他の側面に向けて冷却空気が吹き出すので、電子機器収容室内の温度を均一化するのが容易であり、空気吹き出しパネルの吹き出し孔の形状や配置を変更したり、空間部に適宜バッフル板を配置したりして、冷却空気の吹き出し量を調整することもできる。また、垂直方向に延びる分配ダクトは、送風ファンからの冷却空気を高さ方向に壁面全体に分配する役目を果たすこととなる
【0018】
請求項2の発明は、サーバ等の複数の電子機器をラックに収納するとともに、ラックを電子機器収容室の幅方向の中間部に設置して、送風ファンからの空気がラックを通過して幅方向に流れる構造とするものである。こうすると、冷却空気が電子機器収容室の幅方向片側空間(コールドアイル)から電子機器の熱を奪いながら他側空間(ホットアイル)に流れ、電子機器の冷却を効率的に行うことができる。請求項3の発明のように、ラックの上方に外気冷却式空調機をそれぞれ設ける場合には、電子機器を収納したラックと電子機器の冷却装置とがユニット化されて、個々のラックの発熱量に応じた冷却も可能となる。
【0019】
請求項4の発明のように、建造物の屋根の下方に中間天井板を設け、室内熱交換器及び室外熱交換器をこの中間天井板の下部と上部にそれぞれ設置したときは、室内熱交換器の置かれた電子機器収容室を密閉化して、コンピュータ等から生じる熱を外気に排熱するにあたり、室内への外気の侵入を防止する構造とするのが容易となる。
【0020】
請求項5の発明は、建造物の形状を直方体としてその4隅に柱状部材が配置し、柱状部材の上部及び下部に緊締具の係合可能な締結金具が固着して、機械式空調機を柱状部材の内側に配置するものである。これは、本発明の建造物をコンテナ型データセンターとして構成するものであり、セキュリティの確保、増設や移設の容易性あるいは無人運転への適合性等の面で各種の利点があるのは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の建造物の一実施例を示す全体図である。
図2】本発明の建造物に用いる締結金具と緊締具の一例を示す図である。
図3図1の建造物の横断面図及び空気の循環を説明する図である。
図4図1の建造物の平面断面図において空気の流れを示す図である。
図5】本発明の機械式空調機及び送風ファンによる空気の循環を示す図である。
図6】本発明の機械式空調機の制御フローチャートを示す図である。
図7】熱を外気に排熱して室内を冷却する外気冷却式空調機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、電子機器を収めた電子機器収容室を備え、データセンター等として用いられる本発明の建造物について説明する。
図1の実施例に示す本発明の建造物は、輸送用のコンテナを基本とするコンテナ型データセンターとして構築されたものであって、全体としては6面体の直方体である箱型構造をなし、平面視で長方形の形状となっている。その長方形の4隅には、上下方向に延びる柱状部材として、前部側の柱状部材1F及び後部側の柱状部材1Rが配置されるとともに(側面図では箱型構造の側壁を除いて示し、便宜上、左側を前部、右側を後部とする)、柱状部材の上部及び下部には締結金具2が固着される。建造物の内部には、サーバ、ストレージ等の電子機器(コンピュータ)を収めた電子機器収容室CRが備えられる。電子機器は、これを積み重ねて収納する専用のラック3に収められており、図1の電子機器収容室CRには、長手方向に8個のラック3が並列して設置されている。
【0023】
この実施例の建造物で使用される締結金具2は、海上コンテナの隅部に置かれるコーナーキャスティングと同様な金具である。図2に示すように、締結金具2は、鋳造品として製造される直方体の強固な部品であって、外方となる面には、ツイストコーンTC等の緊締具を係合するための貫通孔が形成されている。建造物を連結するとき、又は、陸上輸送用のコンテナシャシに積載するときには、ツイストコーンTCあるいはツイストロックなどの緊締具を貫通孔に嵌め込み、所定角度回転させて固定する。建造物の積み重ねやコンテナシャシへの積載にあたり、フォークリフトの使用を可能とするため、建造物の底部に置かれた底部フレーム4には、その長手方向の2個所に、フォークリフトのフォークを挿入するフォークポケットFPが設けられる。
【0024】
図1の右図に示すとおり、建造物の後部には、一般的なコンテナやトラック用箱型荷台と同様に、2枚の観音開き式ドアRDが設けられており、このドアには、閉鎖用の4本のロックロッドLRが取り付けられて、本発明の建造物の出入口を構成している。ロックロッドLRは、上端及び下端にカム部材が一体的に固着された強度及び剛性の大きい棒材であり、カム部材は、建造物の上下の梁に固定されたカムキーパーと係合してドアを閉鎖する。これにより、建造物のセキュリティが向上すると同時に、ロックロッドLRがいわば補強用柱材として存在するため、建造物の強度が増大し積み重ねた場合でも変形が少なくなる。また、建造物の屋根の一部は、後述する外気冷却式空調機の保守点検を行うため、開閉可能な点検用ハッチHTとして構成されている。
【0025】
ここで、外気冷却式空調機と機械式空調機とを装備する本発明の空調システム、及び、電子機器収容室CR内の冷却空気等の循環について、図3乃至図5により説明する。
図3の電子機器収容室CRの横断面図(図1のA−A断面矢視)に示すように、コンピュータ等の電子機器を多数収納したラック3は、床面に敷設されたT形板材TB上に固定されて、電子機器収容室CRの幅方向の中間部に設置される。冷却空気は、電子機器収容室CRの右側空間のコールドアイルCIへ供給され、ラック3を通過して電子機器の熱を奪いながら左側空間のホットアイルHIに流れる。コールドアイルCIの幅方向寸法は、この場所で作業員が電子機器等の保守点検作業を行う関係上、ホットアイルHIの幅方向寸法よりも大きく設定される。
【0026】
複数のラック3の上方には、それぞれ外気冷却式空調機5が置かれており、ラック3と外気冷却式空調機5とは組み合わされたユニットを形成している。外気冷却式空調機5の室内熱交換器51は、ラック3上に載置されてこれに固定され、室外熱交換器52は、電子機器収容室CRの室外となる中間天井板6の上部に載置される。中間天井板6は、電子機器収容室CRの全体に亘り建造物の屋根LFの下方に間隙を隔てて設けられており、電子機器収容室CRの上部が中間天井板6によって封鎖される。
【0027】
室内熱交換器51及び室外熱交換器52は、特許文献1に記載された熱交換装置のように、互いに連通され、内部には気体−液体の相変化を行う冷媒が封入されている。両方の熱交換器には空気を流通させるファンが装着してあり、ラック3を横断して温度の上昇したホットアイルHIの空気が室内熱交換器51を通過することにより、内部の冷媒が蒸発して室外熱交換器52に送り込まれる。室外熱交換器52では、屋根LFと中間天井板6との間を建造物の幅方向に流れる外気により、内部の冷媒が冷却されて液化し、重力で室内熱交換器51に還流する。室内熱交換器51を通過した空気は、液化した低温の冷媒との熱交換によって冷却され、冷却後の空気は、電子機器収容室CRの上部に設置された戻り空気集合ダクト7に送出される。
【0028】
図3(及び図5)のB−B断面矢視図である図4(a)に示されるように、戻り空気集合ダクト7は、電子機器収容室CRの長手方向のほぼ全長に亘って延び、各々の室内熱交換器51を通過した空気は、この戻り空気集合ダクト7に集められる。戻り空気集合ダクト7の前端部は、電子機器収容室CRの前方側に設けられた戻り空気集合室8に開口しており、電子機器収容室CRと戻り空気集合室8とは仕切り壁9によって区画されている。つまり、室内熱交換器51を通過して外気で冷却された後の空気は、戻り空気集合ダクト7内で混合されながら戻り空気集合室8に送られる。
【0029】
戻り空気集合室8の前方側にも区画のための隔壁10が設けてあり、隔壁10のさらに前側となる建造物の最前部には、図5に示すとおり、冷凍サイクルを行う2台の機械式空調機11が上下に配置されている。機械式空調機11は、フロン等の冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された高温冷媒の熱を外気に放出するコンデンサ(凝縮器)、冷媒を絞り膨張させて低温化する膨張弁、及び、低温冷媒との熱交換により室内空気を冷却するエバポレータ(蒸発器)を備え、これらの機器が冷凍サイクルを実行するための冷却装置を構成する。この実施例では、各機械式空調機に3台の圧縮機11Cが建造物の前部の側面に取り付けられるとともに(図4図1参照)、その他の機器が一体化されて隔壁10の前部に置かれており、エバポレータ11Eは、コンデンサ等を収めたケーシングの上方に配置される。また、機械式空調機11は、エバポレータ11Eに空気を流通させるために比較的容量の大きい送風ファン12を備え、エバポレータ11Eの吸い込み口は、隔壁10に形成された開口を介して戻り空気集合室8に連なっている。
【0030】
本発明では、機械式空調機11の送風ファン12が、電子機器収容室CRの全体に亘って冷却空気を循環させる循環用ファンの役割を担っている。図5の実線矢印に表されるように、戻り空気集合ダクト7から送られる冷却された空気は、戻り空気集合室8の上部の開口からその室内に流れ込む。流れ込んだ空気は、次に述べる送風ダクト13及び分配ダクト14の外側を通過し、さらに、隔壁10の開口とエバポレータ11Eとを通過して上下の機械式空調機11の送風ファン12に吸入される。
【0031】
送風ファン12で圧送された空気は、図5の破線矢印に表されるように、機械式空調機11の上側に設けた吐出口11Dから、電子機器収容室CRへと連通する送風ダクト13に送られる(図3及び図5のC−C断面矢視図である図4(b)も参照)。送風ダクト13は、戻り空気集合室8において垂直方向にいわば煙突状に延びる分配ダクト14に接続されており、分配ダクト14は建造物の一方の側壁に固着される。この実施例では、上方の機械式空調機11の送風ダクト13が分配ダクト14の頂部に上側から接続され、下方の機械式空調機11の送風ダクト13は分配ダクト14の中間部に接続されている。また、図4(b)に示すように、送風ダクト13は、その壁部の断面が仕切り壁10と平行に延びて分配ダクト14に接続されているが、戻り空気集合室8を斜めに横切って分配ダクト14に接続される形状としてもよい。
【0032】
電子機器収容室CR内には、図3図4(b)に示すように、分配ダクト14側の側壁との間に空間部が存在するよう、多数の空気吹き出し孔AH(図3の要部拡大図、図5参照)を配列した空気吹き出しパネル15が設置される。分配ダクト14は側壁と空気吹き出しパネル15との間の空間部に連通していて、送風ファン12から圧送された空気は、送風ダクト13及び分配ダクト14を通過してこの空間部に送られ、空気吹き出しパネル15から電子機器収容室CRのコールドアイルCIに向けて吹き出されることとなる。電子機器収容室CR内の温度を均一化するよう、空気吹き出しパネル15の吹き出し孔AHの形状や配置を変更したり、空間部に適宜整流板やバッフル板を配置してもよい。
【0033】
このように、本発明の建造物には、電子機器収容室CR内の空気を冷却するため、自然循環式の外気冷却式空調機5と、圧縮機を有し冷凍サイクルを実行する機械式空調機11とが装備されている。外気の温度が低いときは、外気冷却式空調機5を使用することによりコンピュータ等の熱障害を防止でき、このときは、外部電力の消費を殆ど伴うことはなく、また、外気が室内に侵入することはない。外気の温度が上昇して外気冷却式空調機5の冷却能力が不足するときは、機械式空調機11を作動させてコンピュータの過熱に起因する損傷を確実に回避することが可能である。
【0034】
そして、本発明の空調システムにおいては、複数の外気冷却式空調機5で冷却された空気が、建造物の長手方向に延びる戻り空気集合ダクト7を経由して戻り空気集合室8に導かれ、ここから機械式空調機11の送風ファン12によって電子機器収容室CRに強制的に循環される。この空調システムは、2種類の空調装置をいわば直列の関係に接続するものであり、送風ファン12の駆動のために少量の電力を要するものの、十分な冷却空気を循環させて室内の均一な冷却を図ることができる。
【0035】
本発明の空調システムでは、送風ファン12が吸入する空気の温度、つまり、外気冷却式空調機5により冷却された後、エバポレータ11Eを通過する以前の空気の温度(例えば、戻り空気集合室8の空気温度)を検出することにより、2種類の空調装置の効率的に使用して電子機器収容室CR内の温度管理を行うことができる。一例として、外気の温度が15℃以下であれば、外気冷却式空調機5のみを使用して温度調整が可能であり(例えば、室外熱交換器52用のファンの回転数を制御する)、外気の温度が15℃を越えたときは、送風ファン12が吸入する空気の温度に応じて、2台の機械式空調機11の圧縮機11Cの運転をON・OFF制御し、室内の温度の過度な上昇を防止する。そのため、例えば、2台の機械式空調機11の並列運転を実施し、各々の機械式空調機11では、図6のフローチャートによって3台の圧縮機の運転台数を切り換える。
【0036】
フローチャートのシーケンスがスタートすると、まず、送風ファン12が吸入する空気の温度Tsを検出する(S1)とともに、運転中の圧縮機台数nを検出する(S2)。次いで、Tsが所定値To(例えば、コンピュータの熱障害を防ぐため電子機器収容室CR内の許容される上限温度に一定の余裕を設定した温度)を越えたか否かを判定し(S3)、越えた場合には、全ての圧縮機を運転していた場合を除いて運転する圧縮機台数を1台増加し、同時に、この状態の運転継続時間tiをタイマーによって設定する(S4、S5)。運転継続時間tiが経過した時点で、送風ファン12が吸入する空気の温度Tsを検出するステップS1に戻る。
ステップS3の判定においてTsが所定値To以下である場合は、全台数を停止していた場合を除き運転する圧縮機台数を1台減少し、この状態の運転継続時間tdをタイマーによって設定する(S7、S8)。運転継続時間tdはtiと同じであってもよい。運転継続時間tdが経過した時点では、やはり温度Tsを検出するステップS1に戻る。
【0037】
このフローチャートでは、運転する圧縮機台数を切り換えたときに、その運転状態を所定時間継続する運転継続時間を設定しているので、切り換え後の安定した状態で温度Tsを検出することができ、また、過度の頻度で切り換えが起こるハンチングが回避される。ハンチングをより確実に回避するよう、圧縮機を運転するときと停止するときにおいて所定値Toを異ならせる、つまり、所定値Toにいわゆるヒステリシスを設定することもできる。なお、2台の機械式空調機11を独立に制御したときは、両方の機械式空調機11において運転する圧縮機台数に過度の差が生じる虞れがあるが、両方の機械式空調機11の制御系統に対話機能を付加することにより、負荷を均等化するようにしてもよい。
【0038】
2台の機械式空調機11の並列運転に代えて、機械式空調機に掛かる全体的な熱負荷が小さいようなときには一方の機械式空調機11を単独で運転し、熱負荷が所定負荷を越えたときに他方の機械式空調機11を作動する制御システム、つまり、合計6台の圧縮機の運転台数を連続的に切り換える制御システム、を構成することも可能である。この場合には、運転を停止した機械式空調機11の送風ファン12を停止させると、運転中の送風ファン12から圧送された空気が分配ダクト14、送風ダクト13を介して逆流し、空気吹き出しパネル15側への十分な風量が確保できない。逆流を防止するには、図5下図に示すように、送風ファンの送風圧により開放し送風ファンの停止中は閉鎖するシャッタSTを、機械式空調機の送風ダクト13に設けるようにすればよい。なお、単独運転を実施するときは、機械式空調機により冷却された空気が下向きに流れるので、上側の機械式空調機を優先的に使用することが好ましい。
さらに、機械式空調機の圧縮機11CのON・OFF制御に代えて、インバータを用いた圧縮機の回転数制御を採用すると、電子機器収容室CR内のより精密な温度管理を行うことができる。
【0039】
以上詳述したように、本発明は、データセンター等の建造物において、コンピュータからの排熱の除去及び室内の空気調和を行うため、自然循環式の外気冷却式空調機と冷凍サイクルを実行する機械式空調機とを設置し、外気冷却式空調機で冷却された空気を機械式空調機の送風ファンの吸い込み口に集合させ、この送風ファンによりコンピュータ等の電子機器を収容する室内に冷却空気を循環させるものである。上記の実施例では、コンテナ型のデータセンターに適用したものを記載しているが、本発明の空調方式が通常の建築物の形態のデータセンターに適用可能であるのは言うまでもない。また、2台の機械式空調機を上下に配置する代わりに1台の大容量の機械式空調機を装備するなど、実施例に対し種々の変形が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0040】
3 ラック(電子機器収容用)
5 外気冷却式空調機
51 室内熱交換器
52 室外熱交換器
7 戻り空気集合ダクト
8 戻り空気集合室
11 機械式空調機
12 送風ファン
13 送風ダクト
14 分配ダクト
15 空気吹き出しパネル
CR 電子機器収容室
CI コールドアイル
HI ホットアイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7