特許第5756451号(P5756451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756451
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20150709BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B60C9/18 K
   B60C15/06 C
   B60C15/06 B
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-270611(P2012-270611)
(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-113957(P2014-113957A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠雄
【審査官】 平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−163007(JP,A)
【文献】 特開2005−343334(JP,A)
【文献】 特開2009−001072(JP,A)
【文献】 特開平09−286211(JP,A)
【文献】 特開2007−084013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 9/22
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内方に配されたベルト層と、前記ビード部において前記カーカスのタイヤ軸方向の外側に配されかつ前記ビード部の外側面をなすクリンチゴムとを具えた空気入りタイヤであって、
前記ベルト層は、タイヤ赤道に対して15〜45°の角度で傾けられたベルトコードを有する複数枚のベルトプライからなり、
両側のバットレス部それぞれにおいて、前記カーカスと前記ベルト層との間に配された一対のバットレス補強層が設けられ、
前記バットレス補強層は、補強コードを有し、
前記補強コードのコード間隔は、0.4〜0.8mmであり、
前記バットレス補強層の厚さは、0.5〜1.2mmであり、
前記クリンチゴムは、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側に25mmの高さ位置での厚さが3〜5mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記一対のバットレス補強層の前記補強コードは、最も内側のベルトプライのベルトコードと逆向きに傾斜している請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記バットレス補強層の前記補強コードは、タイヤ周方向に対して40〜60°の角度で傾斜している請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードコアからタイヤ半径方向外側にのびる断面略三角形状のビードエーペックスゴムが配され、
前記クリンチゴムのゴム硬さは、前記ビードエーペックスゴムのゴム硬さと同じである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量化を図りつつ耐ピンチカット性能及び操縦安定性能をバランス良く向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費を向上させるために、空気入りタイヤの軽量化が求められている。空気入りタイヤの軽量化は、主としてタイヤの外皮部分をなすゴム材料の厚さを減らすこと(薄肉化)によって行われる。薄肉化される位置としては、トレッド部とサイドウォール部との間のバットレス部が含まれる。
【0003】
しかしながら、上述のように薄肉化された空気入りタイヤでは、タイヤの転動による接地時に、バットレス部のカーカスコードの間隔が開く、いわゆる目開きが生じ、剛性が低下する。このため、例えば、縁石等の突起物に乗り上げるなどの大きな曲げ変形により、この部分のカーカスコードが破断するピッチカットが生じるという問題があった。また、バットレス部の剛性が小さい空気入りタイヤは、操縦安定性能が悪化するという問題もあった。
関連する技術としては、下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−1138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、バットレス部に補強層を設けるとともに、クリンチゴムの厚さを一定範囲に規定することを基本として、軽量化を図りつつ耐ピンチカット性能及び操縦安定性能をバランス良く向上させた空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内方に配されたベルト層と、前記ビード部において前記カーカスのタイヤ軸方向の外側に配されかつ前記ビード部の外側面をなすクリンチゴムとを具えた空気入りタイヤであって、前記ベルト層は、タイヤ赤道に対して15〜45°の角度で傾けられたベルトコードを有する複数枚のベルトプライからなり、両側のバットレス部それぞれにおいて、前記カーカスと前記ベルト層との間に配された一対のバットレス補強層が設けられ、前記バットレス補強層は、補強コードを有し、前記補強コードのコード間隔は、0.4〜0.8mmであり、前記バットレス補強層の厚さは、0.5〜1.2mmであり、前記クリンチゴムは、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側に25mmの高さ位置での厚さが3〜5mmであることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記一対のバットレス補強層の補強コードは、最も内側のベルトプライのベルトコードと逆向きに傾斜している請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記バットレス補強層の前記補強コードは、タイヤ周方向に対して40〜60°の角度で傾斜している請求項1又は2記載の空気入りタイヤである。
【0009】
また請求項4記載の発明は、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側にのびる断面略三角形状のビードエーペックスゴムが配され、前記クリンチゴムのゴム硬さは、前記ビードエーペックスゴムのゴム硬さと同じである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤである
【発明の効果】
【0010】
本発明の空気入りタイヤでは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内方に配されたベルト層と、両側のバットレス部それぞれにおいて、カーカスとベルト層との間に配された一対のバットレス補強層と、ビード部においてカーカスのタイヤ軸方向の外側に配されかつビード部の外側面をなすクリンチゴムとを具えている。
【0011】
ベルト層は、タイヤ赤道に対して15〜45°の角度で傾けられたベルトコードを有する複数枚のベルトプライからなる。このようなベルトプライは、カーカスをタガ締めして、トレッド部の剛性を高め操縦安定性能を向上させる。また、一対のバットレス補強層は、さらにカーカスを強固にタガ締めすることができる。従って、バットレス部の剛性が高まり、さらに操縦安定性能が向上する。
【0012】
クリンチゴムは、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側に25mmの高さ位置での厚さが3〜5mmと薄肉化されている。これにより、タイヤの質量が小さくなる。また、このようなクリンチゴムは、厚さが小さいため、ビード部のカーカスコードが曲げ変形の中立軸に位置し、該カーカスコードへの引張応力が小さくなる。従って、カーカスコードの耐ピンチカット性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤの右半分の断面図である。
図2図1のバットレス部の拡大図である。
図3図1の空気入りタイヤの部分斜視図である。
図4】カーカスプライ、ベルトプライ及びバットレス補強層を示すタイヤの展開図である。
図5】(a)は、本発明の効果を表すタイヤの部分断面図、(b)は、(a)のビード部の拡大図である。
図6】耐ピンチカット性能のテスト方法を説明する平面図である。
図7】従来例の空気入りタイヤを示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)の正規状態におけるタイヤ子午線断面図、図2はそのバットレス部Bの拡大図、図3は、図1のタイヤの部分斜視図である。本明細書において、「正規状態」とは、タイヤが、正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも無負荷である状態とし、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、この正規状態で測定された値とする。
【0015】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めているリムであり、JATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"となる。また、前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【0016】
図1乃至3に示されるように、本実施形態のタイヤは、所謂TOS構造をなし、トレッド部2のタイヤ表面をなすトレッドゴム2Gは、そのタイヤ軸方向外端部2eが、サイドウォール部3のタイヤ表面をなすサイドウォールゴム3Gのタイヤ半径方向外端部3eを覆って重なる重なり部9を具える。本実施形態のトレッドゴム2Gは、路面と接地する主トレッドゴム部2tと、その両端に配される断面三角形状のウイングゴム部2wとを含んで構成される。
【0017】
本実施形態のタイヤは、偏平率が50〜70%の乗用車用であって、トレッド部2から両側のサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを具えている。
【0018】
前記カーカス6は、一対のビードコア5、5間をトロイド状に跨る本体部6aと、この本体部6aの両側に連なりかつ前記ビードコア5の回りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを一連に設けた1枚のカーカスプライ6Aからなる。
【0019】
図4には、カーカスプライ6Aを含むタイヤの展開図が示される。図4に示されるように、カーカスプライ6Aは、カーカスコード6cがタイヤ赤道C方向に対して例えば75〜90°の角度θ1、本実施形態では90°で傾けられている。カーカスコード6cには、例えば有機繊維コード又はスチールコードが採用される。本実施形態では、カーカスプライを1枚に規定することで、タイヤ質量の増加が抑制される。
【0020】
ベルト層7は、複数枚のベルトプライ、本実施形態では2枚のベルトプライからなり、カーカスプライ6Aのタイヤ半径方向外側かつベルトプライの中で最もタイヤ半径方向内側に配される第1ベルトプライ7Aと、該第1ベルトプライ7Aよりもタイヤ半径方向外側配される第2ベルトプライ7Bとで構成される。
【0021】
各ベルトプライ7A、7Bは、それぞれタイヤ赤道Cに対して15〜45°の角度θ2a、θ2bの範囲で傾けられた高弾性のベルトコード7a、7bを有する。このようなベルトプライ7A、7Bは、カーカス6をタガ締めして、トレッド部2の剛性を高め、操縦安定性能を向上させる。各ベルトプライ7A、7Bは、本実施形態では、ベルトコード7a、7bが互いに交差する向きに重ねられている。これにより、さらにタガ締め効果が発揮される。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態のベルトプライ7A、7Bは、互いの幅中心をともにタイヤ赤道Cに揃えて重ねられ、タイヤ軸方向の一方側のバットレス部Bから他方側のバットレス部(図示しない)まで連続してのびている。これにより、トレッド部2の剛性段差を小さくするとともに、各ベルトプライ7A、7Bによるタガ締め効果がトレッド部2のほぼ全域に亘って大きく発揮される。このような観点より、図4に示されるように、第1ベルトプライ7A及び第2ベルトプライ7Bのタイヤ軸方向の幅W1、W2は、接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離である接地幅TW(図1に示す)の95〜105%に形成されるのが望ましい。なお、本実施形態では、第1ベルトプライ7Aの幅W1が第2のベルトプライ7Bの幅W2よりも大きい。しかしながら、このような態様に限定されるものではない。
【0023】
前記「接地端」Teは、前記正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させた接地面の最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。
【0024】
また、「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" であるが、タイヤが乗用車用の場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0025】
また、図1乃至3に示されるように、本実施形態のタイヤには、両側のバットレス部Bのそれぞれにおいて、カーカス6とベルト層7との間に配された一対のバットレス補強層12が設けられる。このような、一対のバットレス補強層12は、さらにカーカス6を強固にタガ締めすることができる。従って、バットレス部Bの剛性が高まり、さらに操縦安定性能が向上する。また、このようなバットレス部Bの剛性が大きいタイヤは、例えば、縁石等の突起物に乗り上げてもピンチカットを抑制することができる。
【0026】
本実施形態のバットレス補強層12は、例えばポリエステル、ナイロン、レーヨン、アラミドなどからなる補強コード12cを有する。
【0027】
図4に示されるように、本実施形態では、バットレス補強層12の補強コード12cは、第1ベルトプライ7Aのベルトコード7aと逆向きに傾斜している。即ち、補強コード12cとベルトコード7aとが、互いに交差する向きに重ねられる。これにより、バットレス部Bの剛性がさらに高められるため、操縦安定性能が向上する。
【0028】
バットレス補強層12の補強コード12cのタイヤ周方向に対する角度θ3が大きい場合、及び角度θ3が小さい場合、いずれの場合も第1ベルトプライ7Aのベルトコード7aと補強コード12cとのなす角度が過度に小さくなり、カーカスプライ6Aの目開きを抑制することができない。このため、角度θ3は、好ましくは40°以上、より好ましくは45°以上であり、好ましくは60°以下、より好ましくは55°以下である。
【0029】
バットレス補強層12の補強コード12cのコード間隔Wcが大きい場合、バットレス部Bのコード密度を十分増やすことができず、操縦安定性能を高めることができないおそれがある。逆に、コード間隔Wcが小さい場合、隣り合う補強コード12c、12c同士が接触し、バットレス補強層12の耐久性が低下するおそれがある。また、バットレス部Bの剛性が過度に高くなり、乗り心地性が悪化するおそれがある。このような観点により、補強コード12cのコード間隔Wcは、0.4mm以上であり、好ましくは0.7mm以上が望ましく、0.8mm以下である。なお、本明細書では、コード間隔Wcとは、補強コード間12c、12cの最小の隙間である。
【0030】
本実施形態のバットレス補強層12は、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端7oよりもタイヤ軸方向内側に位置する内縁12iと、ベルト層7の外端7oよりもタイヤ軸方向外側に位置する外縁12oとの間をのびている。これにより、ベルト層7とバットレス補強層12とがタイヤ半径方向で重なる重なり部13と両者が重ならない非重なり部14とが形成される。このような重なり部13は、バットレス部Bにおいて剛性段差が形成されるのを一層抑制し、さらに操縦安定性能を向上させる。
【0031】
重なり部13のタイヤ軸方向の幅Waが大きい場合、タイヤの質量が大きくなるおそれがある。重なり部13の幅Waが小さい場合、剛性段差が形成され操縦安定性能が悪化するおそれがある。このため、重なり部13の幅Waは、好ましくは5mm以上、より好ましくは7mm以上であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは13mm以下である。
【0032】
同様に、非重なり部14のタイヤ軸方向の幅Wbが大きい場合、タイヤの質量が大きくなるおそれがある。非重なり部14の幅Wbが小さい場合、バットレス部Bの剛性が低下し、操縦安定性能が悪化するおそれがある。このため、非重なり部14の幅Wbは、好ましくは12mm以上、より好ましくは15mm以上であり、好ましくは40mm以下、より好ましくは35mm以下である。
【0033】
図2に示されるように、バットレス補強層12の厚さdtは、特に限定されるものではないが、上述の作用を効果的に発揮させるために、0.5〜1.2mmである。
【0034】
このようなバットレス部Bの剛性が大きい空気入りタイヤは、バットレス補強層12の外面からバットレス部Bの外側面Baまでのゴム(ウイングゴム部2w又はサイドウォールゴム3Gによって形成される)の最小厚さdmを小さくしてタイヤの質量を抑制できる。なお、前記ゴムの最小厚さdmが過度に小さくなると、バットレス部Bの剛性が過度に低下し、ピンチカットが生じるおそれがある。このため、前記最小厚さdmは、好ましくは4.0mm以上、より好ましくは4.5mm以上であり、好ましくは6.5mm以下、より好ましくは6.0mm以下である。なお、本明細書では、最小厚さdmは、バットレス補強層12の法線方向の距離である。
【0035】
また、図1に示されるように、本実施形態のタイヤは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびる断面略三角形状のビードエーペックスゴム8と、ビード部4においてカーカス6のタイヤ軸方向の外側に配されかつビード部4の外側面4Sをなすクリンチゴム10と、ビードコア5の周りを断面略U字状にのびるチェーファゴム17とを更に具えている。
【0036】
ビードエーペックスゴム8は、ビードコア5から先細状にのびる。本実施形態のビードエーペックスゴム8は、カーカス6の本体部6aと折返し部6bとの間に配されている。
【0037】
ビード部4の剛性の確保と、タイヤの質量の低減とをバランスよく確保するため、ビードエーペックスゴム8のタイヤ半径方向の高さHaは、好ましくは7mm以上、より好ましくは9mm以上であり、また好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下である。
【0038】
このようなビードエーペックスゴム8のゴム硬さは、ビード部4の剛性を高めかつリムとの嵌合力を確保するために、80〜95°に設定されるのが望ましい。なお、本明細書において、前記「ゴム硬さ」は、JISK6253に準拠し、温度23℃の環境下においてJISデュロメータタイプAで測定されるものとする。
【0039】
チェーファゴム17は、本実施形態では、ビードコア5の半径方向内側に位置しかつビード底面4Tで露出する基部17Aと、この基部17Aに連なりカーカスプライ6Aの折返し部6bに沿ってタイヤ半径方向外側にのびる外の立上げ部17Bと、前記基部17Aに連なりビードトウBtからタイヤ内腔面側をタイヤ半径方向外側にのびる内の立上げ部17Cとを有する。
【0040】
チェーファゴム17は、スチールコードをタイヤ周方向に対して例えば15〜60゜の角度で配列したスチールコードプライからなり、ビードエーペックスゴム8とともにビード部4を補強し、ビード部4の耐久性及び操縦安定性を向上させる。
【0041】
本実施形態のクリンチゴム10は、外の立上げ部17B及びカーカスプライ6Aのタイヤ軸方向外側を細長状にのび、少なくともリムフランジ(図示せず)と接触するフランジ接触範囲においてタイヤの外面として露出する。
【0042】
クリンチゴム10は、本実施形態では、ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側に25mmの高さHcの位置での厚さdcが3.0〜5.0mmに設定される必要がある。即ち、例えば、図5(a)に示されるように、車両が縁石Eに乗り上げるなどすると、前記高さHcでは、リムRと縁石Eとでビード部4のゴムが挟まれる部分となる。そして、この高さHcではカーカスプライ6Aのカーカスコード6cには、曲げ変形Mが作用する。ここで、前記高さHcでのクリンチゴム10のゴム厚さdcが3.0〜5.0mmと小さく設定されているため、図5(b)に示されるように、この高さHc近傍のカーカスコード6cが曲げ変形Mの中立軸X−Xに位置し、該カーカスコード6cへの引張応力が小さくなる。従って、カーカスコード6cの耐ピンチカット性能が向上する。なお、前記高さHcでのクリンチゴム10の厚さdcが3.0mm未満の場合、ビード部4の剛性が過度に低下し、操縦安定性能が悪化する。また、前記高さHcでのクリンチゴム10の厚さdcが5.0mmを超えると、ビード部4のカーカスコード6cが曲げ変形Mの中立軸X−Xから離間した位置に配される。このため、カーカスコード6cへの引張応力が大きくなり、カーカスコード6cが破断する。このため、前記高さHcでのクリンチゴム10の厚さdcは、好ましくは3.5mm以上であり、好ましくは4.5mm以下である。また、このような厚さに規定されたタイヤは、質量が小さい。なお、クリンチゴム10の前記高さHcでの厚さとは、高さHcにチェーファゴム17が配されている場合、チェーファゴム17の法線方向の長さとし、チェーファゴム17が配されていない場合、カーカスプライ6Aの法線方向の長さとする。
【0043】
このようなクリンチゴム10は、ビードエーペックスゴム8のゴム硬さと同じゴム硬さに設定されるのが望ましい。これにより、ビード部4の剛性が高く維持されつつ、リムと接触による摩耗や損傷が防止される。なお、本明細書では、クリンチゴム10のゴム硬さとビードエーペックスゴム8のゴム硬さとが全く同じ場合を含むのは勿論、これらのゴム硬さの差が7°以下の場合も含む。
【0044】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。
【実施例】
【0045】
図1に示されるタイヤの基本構成を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤが表1の仕様に基づき試作されるとともに、各試供タイヤについて耐ピンチカット性能、操縦安定性能及びタイヤ質量がテストされた。なお、主な共通仕様は以下の通りである。
接地幅TW:142mm
第1のベルトプライの幅W1/TW:103%
第2のベルトプライの幅W2/TW:95%
カーカスコード
コード材料:ポリエステル
コード間隔:0.08mm
コードの直径:0.54mm
コードの角度θ1:90°
ベルトコード
コード材料:スチール
コード間隔:0.13mm
コードの直径:0.54mm
コードの角度θ2:24°
バットレス補強層
コード材料:ケブラー(登録商標)
コードの直径:0.5mm
バットレス部のゴムの最小厚さdm:4.0mm
クリンチゴムのゴム硬さ:70°
テスト方法は、次の通りである。
【0046】
<耐ピンチカット性能>
排気量2000cm3 の国産FF車の前輪に試供タイヤを下記の条件で装着し、図6に示されるように、試供タイヤを縁石に対して45゜の角度でかつ速度5km/hで進入させて乗り上げさせた。縁石は、高さ及び幅がいずれも110mmである。そして、縁石に乗り上げた後、ピンチカットの有無(サイドウォール部に気泡状の膨らみの有無で確認)が調べられた。そして、このようなテストが、ピンチカットが生じるまで、進入速度を5km/hきざみで増加させながら行われた。結果は、従来例の進入速度を100とする指数で表示されており、数値が大きいほど耐ピンチカット性能に優れる。
リム:15×6J
内圧:230kPa
【0047】
<操縦安定性能>
上記車両に試供タイヤを4輪装着して、ドライアスファルト路面のテストコースをドライバー1名乗車で走行し、ハンドル応答性、剛性感等に関する操縦安定性能がドライバーの官能により評価された。結果は、従来例を100とする指数で表示される。数値が大きいほど良好である。
【0048】
<タイヤ質量>
タイヤ1本当たりの質量が測定された。結果は、従来例の質量の逆数を100とする指数で表示される。数値が大きい方が良好である。
テストの結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例に比べて各性能がバランス良く向上していることが確認できる。また、バットレス補強層の形状やクリンチゴムのゴム硬さを上述の範囲内で変化させてテストを行ったが、このテスト結果と同じ傾向が示された。
【符号の説明】
【0051】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
7 ベルト層
10 クリンチゴム
12 バットレス補強層
B バットレス部
BL ビードベースライン
C タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7