【実施例】
【0055】
以下に実施例、比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
[原料]
用いた原料は下記のものである。
メタクリル酸メチル:旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール(2,4-di-methyl-6-tert-butylphenol)を2.5ppm添加されているもの)
アクリル酸メチル:三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4−メトキシフェノール(4−methoxyphenol)が14ppm添加されているもの)
n−オクチルメルカプタン(n-octylmercaptan):アルケマ製
2エチルヘキシルチオグリコレート(2-ethylhexyl thioglycolate):アルケマ製
ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide):日本油脂製
第3リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製、懸濁剤として使用
炭酸カルシウム(calcium calbonate):白石工業製、懸濁剤として使用
ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
[測定法]
[I.樹脂の組成、分子量の測定]
1.メタクリル樹脂の組成分析
メタクリル樹脂の組成分析は、熱分解ガスクロマトグラフィー及び質量分析方法で行った。
【0056】
熱分解装置:FRONTIER LAB製Py−2020D
カラム:DB−1(長さ30m、内径0.25mm、液相厚0.25μm)
カラム温度プログラム:40℃で5min保持後、50℃/minの速度で320℃まで昇温し、320℃を4.4分保持
熱分解炉温度:550℃
カラム注入口温度:320℃
ガスクロマトグラフィー:Agilent製GC6890
キャリアー:純窒素、流速1.0ml/min
注入法:スプリット法(スプリット比1/200)
検出器:日本電子製質量分析装置Automass Sun
検出方法:電子衝撃イオン化法(イオン源温度:240℃、インターフェース温度:320℃)
サンプル:メタクリル樹脂0.1gのクロロホルム10cc溶液を10μl
【0057】
サンプルを熱分解装置用白金試料カップに採取し、150℃で2時間真空乾燥後、試料カップを熱分解炉に入れ、上記条件でサンプルの組成分析をで行った。メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルのトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)上のピーク面積と以下の標準サンプルの検量線を元にメタクリル樹脂の組成比を求めた。
【0058】
検量線用標準サンプルの作成:メタクリル酸メチル、アクリル酸メチルの割合が(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)=(100%/0%)、(98%/2%)、(94%/6%)、(90%/10%)(80%/20%)の合計5種の溶液各50gにラウロイルパーオキサイド0.25%、n−オクチルメルカプタン0.25%を添加した。この各混合溶液を100ccのガラスアンプル瓶にいれて、空気を窒素に置換して封じた。そのガラスアンプル瓶を80℃の水槽に3時間、その後150℃のオーブンに2時間入れた。室温まで冷却後、ガラスを砕いて中のメタクリル樹脂を取り出し、組成分析を行った。検量線用標準サンプルの測定によって得られた(アクリル酸メチルの面積値)/(メタクリル酸メチルの面積値+アクリル酸メチルの面積値)及びアクリル酸メチルの仕込み比率とのグラフを検量線として用いた。
2.メタクリル樹脂の重量平均分子量の測定
測定装置:日本分析工業製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−908)
カラム:JAIGEL−4H 1本及びJAIGEL−2H 2本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:2.4μV/sec
サンプル:0.450gのメタクリル樹脂のクロロホルム15ml溶液
注入量:3ml
展開溶媒:クロロホルム、流速3.3ml/min
上記の条件で、メタクリル樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。GPC溶出曲線におけるエリア面積と、検量線を基にメタクリル樹脂の平均分子量を求めた。
【0059】
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量平均分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のメタクリル樹脂(EasiCal PM-1 Polymer Laboratories製)を用いた。
【0060】
重量平均分子量
標準試料1 1,900,000
標準試料2 790,000
標準試料3 281,700
標準試料4 144,000
標準試料5 59,800
標準試料6 28,900
標準試料7 13,300
標準試料8 5,720
標準試料9 1,936
標準試料10 1,020
【0061】
重合体(1)と重合体(2)が混合している場合には、あらかじめ重合体(1)単独のGPC溶出曲線を測定し重量平均分子量を求めておき、重合体(1)が存在している比率(本願では仕込み比率を用いた)を重合体(1)のGPC溶出曲線に乗じ、その溶出時間における検出強度を重合体(1)と重合体(2)が混合しているGPC溶出曲線から引くことで、重合体(2)単独のGPC溶出曲線が得られる。これから重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
【0062】
また、GPC溶出曲線でのピーク重量平均分子量(Mp)をGPC溶出曲線と検量線から求める。
【0063】
Mpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量は次のように求める。
【0064】
まず、メタクリル樹脂のGPC溶出曲線におけるエリア面積を求める。GPC溶出曲線におけるエリア面積とは
図1に示す斜線部分を指す。具体的な定め方は次のように行う。まず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度から得られるGPC溶出曲線に対し、測定機器で得られる自動で引かれるベースラインを引いてGPC溶出曲線と交わる点Aと点Bを定める。点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインと溶出曲線が交わる位置とする。もし交わらなかった場合は重量平均分子量が500の溶出時間のRI検出強度の値を点Bとする。点A、B間のGPC溶出曲線とベースラインで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。本願では高分子量成分から溶出されるカラムを用いるため、溶出時間初期(点A側)に高分子量成分が観測され、溶出時間終期(点B側)に低分子量成分が観測される。
【0065】
GPC溶出曲線におけるエリア面積を、Mpの1/5の重量平均分子量に対応する溶出時間で分割し、Mpの1/5以下の重量平均分子量成分に対応するGPC溶出曲線におけるエリア面積を求める。その面積と、GPC溶出曲線におけるエリア面積の比から、Mpの1/5以下の重量平均分子量の比率を求めた。
3.メタクリル樹脂の高分子量成分及び低分子量成分におけるメタクリル酸メチルに共重合可能なビニル共重合体の組成比率の測定
【0066】
本測定では累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分の組成分析を行う。GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、
図1に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。累積エリア面積の具体例を
図3に示す。この
図3において、ある溶出時間におけるベースライン上の点を点X,GPC溶出曲線上の点を点Yとする。曲線AXと、線分AB、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間での累積エリア面積(%)の値とする。
【0067】
累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分を、対応する溶出時間を基にカラムから分取して、その組成分析を行った。測定と、各成分の分取は、2.と同様の装置、条件で行った。
【0068】
分取を2回行い、分取したサンプルのうち10μlを1.で用いた熱分解ガスクロ分析及び質量分析方法の熱分解装置用白金試料カップに採取し、100℃の真空乾燥機に40分乾燥した。1.と同様の条件で分取した累積エリア面積に対応するメタクリル樹脂の組成を求めた。
[II.実用物性の測定]
1.VICAT軟化温度の測定
成形機:30tプレス成形機
試験片:厚み4mm
測定条件:ISO 306 B50に準拠
上記条件でVICAT軟化温度を求めた。これを耐熱性評価の指標とした。
【0069】
2.スパイラル長さの測定
断面積一定の、スパイラル状のキャビティを樹脂が流れた距離によって、相対的流動性を判定する試験である。
射出成形機:東芝機械製IS−100EN
測定用金型:金型の表面に、深さ2mm、幅12.7mmの溝を、表面の中心部からアルキメデススパイラル状に掘り込んだ金型
射出条件
樹脂温度:250℃
金型温度:55℃、
射出圧力:98MPa、
射出時間:20sec
金型表面の中心部に樹脂を上記条件で射出した。射出終了40sec後にスパイラル状の成形品を取り出し、スパイラル部分の長さを測定した。これを流動性評価の指標とした。
【0070】
3.カンチレバー法による破断時間測定
図2に示すカンチレバー法による測定方法で耐溶剤性を評価した。
射出成形機:東芝機械製IS−100EN
射出成形品:厚み3.2mm幅12.7mm長さ127mm
射出条件
成形温度:230℃
金型温度:60℃
射出圧力:56MPa
射出時間:20sec
冷却時間:40sec
上記条件で成形した成形品が吸水しないようにデシケーター内に1日保存しておいた。その後、
図2に示す冶具3を用いて、成形品4を
図2のように設置し、タコ糸7を取り付けた3kgの重り5を
図2のように取り付けエタノールを含んだろ紙6を
図2の位置におき、置いた時間から、重り5により成形品が破断するまでの時間を測定した。各サンプル毎に10回繰り返し、最大時間と最小時間のデータを削除し、残り8回の平均の時間を求めた。これを耐溶剤性評価の指標とした。
[III.成形評価]
3−1−1.成形品A
射出成形機:JSW製350t電動射出成形機
成形品サイズ:幅240mm、長さ135mm、厚み0.8mmの平板
ゲート:幅240mm厚み0.8mmのフィルムゲート
ゲート設置位置:成形品の幅方向の中央部分
射出条件
バレル温度:275℃
金型温度:75℃
射出速度:800mm/sec、一定
保圧力と保持時間:200MPa、20sec
成形品の取り出し:射出開始から40sec後
上記条件で射出成形を行った。同時に射出時の最大射出圧力を比較した。なお、本成形機における制御可能な能力は200MPaであり、最大能力は240MPaである。
3−1−2.環境試験A
温度60℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽内に成形品Aをゲートと反対側にクリップをつけて吊るして500hr放置した。その後恒温恒湿槽から取出し、1日25℃相対湿度25%の室内に平置きで放置した。それを定盤の上に平置きでおいて0.1mmピッチの隙間ゲージで定盤と成形品との隙間の最大値を測定した。この隙間の間隔で成形品の反りの程度がわかる。これを成形品のゆがみの指標とした。また、目視でクラックが発生していないかを確認した。
3−2−1.成形品B
射出成形機:JSW製350t電動射出成形機
成形品サイズ:幅240mm、長さ135mm、厚み0.5mmの平板
ゲート:幅240mm、厚み0.5mmのフィルムゲート
ゲート設置位置:成形品の幅方向の中央部分
射出条件
バレル温度:285℃
金型温度:65℃
射出速度:800mm/sec、一定
保圧力と保持時間:200MPa、20sec
成形品の取り出し:射出開始から40sec後
上記条件で射出成形を行った。同時に射出時の最大射出圧力を比較した。
3−2−2.環境試験B
温度50℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽内に成形品Bをゲートと反対側にクリップをつけて吊るして500hr放置した。その後恒温恒湿槽から取出し、25℃相対湿度25%の室内に平置きで1日放置した。定盤の上に平置きでおいて0.1mmピッチの隙間ゲージで定盤と成形品の隙間の最大値を測定した。この隙間の間隔で成形品の反りの程度がわかる。これを成形品のゆがみの指標とした。また、目視でクラックが発生していないかを確認した。
3−3−1.成形試験C
射出成形機:東芝機械製IS−100EN射出成形機
成形品:直径40mm、半径20mmの半球状凸レンズ
ゲート:厚み3mm、幅10mm、ゲートランド長さ10mmのサイドゲート
ゲート設置位置:半球の底平面外周部分
ランナー:厚み8mm、幅10mm、長さ20mm
射出条件
射出速度:3mm/sec
射出時間:5sec
保圧力と保持時間:140MPa、10sec保持し、その後60MPaで20sec保持した。
【0071】
上記条件で成形品Cを射出成形した。バレル設定温度を変化させて成形し成形時の最大射出圧力が50MPaになるよう調整し、そのときの樹脂温度を測定した。成形品の平面側の中央部のヒケを東京精密製表面粗さ計サーフコム558Aで測定して、略100μm以下となる時間を成形時間とし、その成形時間とヒケ量を比較した。
[IV.樹脂の重合]
以下に樹脂の製造方法を示す。
【0072】
配合量は表1に、単量体の仕込み組成と重合体の比率、各重合体の重量平均分子量の測定結果、を表2に示す。
[樹脂1]
60Lの反応器に重合体(1)の原料を、表1に示す配合量を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合体(1)を得た。この重合体(1)をサンプリングし、GPCで重
量平均分子量を測定した。
その後、60分間、80℃を維持し、次に重合体(2)の原料を、表1に示す配合量反応器に投入し、引き続き80℃で90分懸濁重合し、続いて92℃に1/minの速度で昇温し、60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状ポリマーを得た。
このビーズ状ポリマーの重
量平均分子量をGPCで測定し、重合体(1)のGPC溶出曲線を元に、重合体(1)が含まれている比率をかけて、ビーズ
状ポリマーのGPC溶出曲線から、重合体(1)のGPC部分を除去し、重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
このようにして得られたビーズ状ポリマーを2軸押し出し機で240℃で押し出し、ペレタイズを行った。熱分解ガスクロ分析及びゲルパーミエーションクロマトグラフィーでこのペレットの組成、分子量を測定した。
[樹脂2〜樹脂7]
表1に示す配合で、樹脂1と同様にして重合、測定、ペレタイズを行った。
[樹脂8]
3Lの市販耐熱ガラス瓶に重合体(1)の原料を、表1に示す配合量加え、蓋をして密閉状態で、70℃のウォーターバス中に3時間浸漬した。その後、140℃のオーブン中に入れて1時間放置した。30℃まで冷却し、ガラス瓶を破壊して、中のメタクリル樹脂を取り出し、略1cm角以下となるように叩いて粉砕し、重合体(1)を得た。GPCを用いて重合体(1)の重量平均分子量を求めた。次に重合体(2)の原料を、表1に示す配
合量60Lの反応器に投入し、反応器の温度を80℃にして150分懸濁重合し、92℃に1℃/minの速度で昇温して60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために鉱酸20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状ポリマーを得た。このビーズ状ポリマーをGPCを用いて求めた重合体(2)の重量平均分子量を表2に示す。重合体(1)の粉砕品と重合体(2)のビーズ状ポリマーを15:85の割合で計量し、2軸押出し機のタンブラーに投入してブレンドした後、240℃で押し出し、ペレタイズを行なった。
[樹脂9〜樹脂13]
表1示す配合量で樹脂1と同様にして重合、測定、ペレタイズを行った。
[樹脂14〜樹脂16]
60Lの反応器に表1に示す配合量で、重合体(2)の原料を投入し、反応温度80℃で150分懸濁重合し、92℃に1℃/minの速度で昇温して60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、ビーズ状ポリマーを得た。このビーズ状ポリマーを2軸押し出し機で240℃で押し出し、ペレタイズを行なった。
[樹脂17〜樹脂19]
表1に示す配合で、樹脂1と同様にして重合、測定、ペレタイズを行った。
[樹脂20〜樹脂22]
60Lの反応器に表1に示す配合で重合体(2)の原料投入し樹脂14と同様にして重合し、ビーズ状ポリマーを得た。このビーズ状ポリマーを2軸押し出し機で240℃で押し出し、ペレタイズを行った。
[物性評価とその比較]
各実施例で用いたメタクリル樹脂の番号と、そのピーク重量平均分子量Mp、Mpの1/5以下の重量平均分子量の含有量、累積エリア面積0〜2%にあるメタクリル樹脂の重量平均分子量成分中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(wt%)、累積エリア面積98〜100%にあるメタクリル樹脂の重量平均分子量成分中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率をMl(wt%)の測定結果を表3に示す。
【0073】
表4に実用物性評価結果を示す。
[実施例1〜6、比較例1〜6]
表3にある樹脂を用いて実施した。実用物性評価では、成形品Aを成形し、環境試験Aを行なった。
【0074】
比較例3、4は、メタクリル酸メチルに共重合可能なアクリル酸メチルの組成比率が1.5〜20wt%の範囲外である。比較例3は該組成比率が高い場合であり、スパイラル長さや成形時の最大射出圧力は低いが、耐熱性が低くなるため、環境試験後に成形品が大きく変形した。比較例4は該組成比率が低い場合である。この場合、耐熱性、流動性が高く、成形時の最大圧力は低かったが、実際には、成形品に樹脂の熱分解によるシルバーと呼ばれる発泡が発生した。また、分子量が低いため、強度が不足しており、環境試験後に多量のクラックが発生した。
【0075】
比較例1、2、6はMpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量が7%より小さい。比較例6は2つの異なる分子量のメタクリル樹脂組成物を混合して用いているが、その分子量差が小さいため、Mpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量が7%より小さくなっている。その結果、比較例1,2,6は、耐熱性は実施例1〜6と同じであるが、比較例2は、分子量が低いこともあり、成形品の環境試験後に多量のクラックが発生した。また、比較例1、6ともに、スパイラル長さが短く、成形機の能力では成形することができないほど最大射出圧力が高かった。また、その成形品は成形ひずみを多く残留しているため、環境試験後に10mm以上の成形品のゆがみが発生した。
【0076】
比較例5は逆にMpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量が30%より大きい。その結果、流動性は問題ないが、強度が低く、環境試験後に多量のクラックが発生した。
【0077】
実施例1〜6は比較例1〜6と比較し、各物性のバランスに優れている。実施例3、4はMh及びMlが式(1)の関係を満たしている場合である。その場合、式(1)を満たさない実施例5に比較し、より流動性が高く、成形時の最大射出圧力が低かった。
【0078】
実施例3はMh及びMlが式(2)の関係も満たした場合であり、さらに流動性が高く最大射出圧力が低かった。特に最大射出圧力が成形機の制御可能な範囲まで低下できた。
【0079】
実施例6はMpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量が20%を超えている。そのため、他の実施例に比べ若干強度が低下しており、環境試験後に2本の1mm以下のミクロクラックが発生していた。しかし、このミクロクラックの発生は、実用上問題ないレベルであり、なおかつ、比較例5と比べ、大幅にクラックの発生量は少なかった。
[実施例7、比較例7、8]
実施例1〜6と比べ、よりメタクリル樹脂中のアクリル酸メチルの組成比率が多い場合で比較を行った。実用物性評価では、より流動性が必要となる成形品Bを成形し、環境試験Bで評価を行った。
実施例7は、比較例7と重量平均分子量は同じであるが、比較例7に比べ、耐熱性が高く、スパイラル長さが長く、成形品Bを成形する際の最大射出圧力も低い。また、環境試験後に、実施例7は耐熱性が高いため、成形品のゆがみは発生しなかったが、比較例7では耐熱性が足りず、また、成形品のゆがみも発生した。
比較例8では、メタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能なアクリル酸メチルの組成が20wt%より多いため、実施例7と比較し、流動性は非常に高い結果となったが、耐熱性が低いため環境試験後に成形品が大きく変形するほどの成形品のゆがみが発生した。
[実施例8〜12、比較例9、10]
実施例1〜6と比べ、メタクリル樹脂の重量平均分子量がより高い場合で評価を行った。これらはより高い耐溶剤性を有する。
【0080】
実施例8〜12に対し、比較例9は、耐熱性は同等であったが、耐溶剤性が大幅に劣った。
【0081】
比較例10は耐熱性、耐溶剤性は良い結果であるが、流動性が大幅に劣った。
【0082】
実施例9は、Mpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量が20%を越えているため、他の実施例と比べ、耐溶剤性が若干劣るが、比較例9よりは耐溶剤性は良かった。
【0083】
実施例10は、MhとMlが式(2)は満たしていないため実施例8、11よりは流動性が劣る結果となっているが、同じ耐熱性の比較例10と比較し、耐溶剤性が同等であり、流動性は高い結果となっている
実施例11、12を比較すると、実施例11は実施例12より耐熱性、耐溶剤性が同等で、流動性がより高い結果となった。実施例11がMhとMlが式(2)を満たしているためである。
[実施例13、比較例11,12]
実施例13は比較例11と比較し、耐熱性は同じだが、流動性が高かった。その結果、10℃低い温度で同じ射出圧力での成形が可能であった。また成形サイクルが20sec短く、なおかつ、成形品のヒケ量が低かった。
【0084】
比較例12は耐熱性は実施例13より高いが、流動性が低く、成形温度が25℃高かった。耐熱性が高くても成形温度がそれ以上に高いため、ヒケを100μm以下に抑える為に必要な成形サイクルが長く、さらにヒケ量も実施例13よりも悪い結果となった。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】