(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5756551
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】基礎杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/54 20060101AFI20150709BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20150709BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20150709BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
E02D5/54
E02D5/28
E02D5/80 102
E02D27/12 Z
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-135396(P2014-135396)
(22)【出願日】2014年6月30日
【審査請求日】2014年12月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500468674
【氏名又は名称】株式会社三喜工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】三輪 憲一
【審査官】
鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−194227(JP,A)
【文献】
実開昭51−131804(JP,U)
【文献】
特開2000−160554(JP,A)
【文献】
特開2006−348669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22−5/80
E02D 27/00−27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ状の杭本体部の先端から先方に先細りパイプ状に形成された先細り部を一体的に備えてなる基礎杭において、
前記杭本体部内であって該杭本体部の先端より後方には後端側部材を備えており、前記先細り部内であって該杭本体部の先端より先方又は該先細り部の先端には先端側部材を備えている一方、
該先端側部材と前記後端側部材とがその先後間において圧縮されて該先後間の間隔が小さくされたとき、該先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、張出す形で変形するように、該先後間の壁には変形容易手段が設けられており、
前記先端側部材と前記後端側部材とが、前記杭本体部内に後端側の開口から挿入される工具によるネジ締めによって、前記先後間の間隔を小さくできるネジ構造で連結されてなることを特徴とする基礎杭。
【請求項2】
前記変形容易手段が、前記杭本体部及び前記先細り部の横断面における周方向に間隔をおいて、前記先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁に上下に連なって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の基礎杭。
【請求項3】
前記杭本体部は、横断面が先後に一定の角パイプ構造を有しており、前記先細り部は、この角パイプの先端を基端とする角錐又は角錐台のパイプ構造に形成されており、
前記変形容易手段が、前記先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁のコーナ又はそのコーナ近傍において上下に連なって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の基礎杭。
【請求項4】
上下に連なって設けられている前記変形容易手段とは別に、前記変形容易手段が、前記先後間のうち、前記杭本体部と前記先細り部の境界部位、前記先端側部材寄り部位、及び前記後端側部材寄り部位の各部位において、横方向に延びるように設けられていることを特徴とする請求項2又は3のいずれか1項に記載の基礎杭。
【請求項5】
前記後端側部材には、頭部付きのボルトの軸部が挿通可能であり、かつその頭部が係止可能の貫通穴が設けられている一方、
前記先端側部材には、前記ボルトの軸部の先端又は先端寄り部位に設けられた雄ネジが螺合する雌ネジが設けられており、
前記ボルトはその軸部が前記貫通穴に挿通されると共に、前記雄ネジが前記雌ネジに螺合され、この螺合によるネジ構造によって前記先端側部材と前記後端側部材とが連結されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の基礎杭。
【請求項6】
前記先端側部材には、後方に向けて延びる軸部を有するボルトが立設状に設けられており、前記後端側部材には、このボルトの軸部の後端又は後端寄り部位が挿通可能の貫通穴が設けられていると共に、該軸部の後端又は後端寄り部位がこの貫通穴を挿通されて後方に突出させられ、この後方に突出させられた該軸部における後端又は後端寄り部位に設けられた雄ネジに、該貫通穴に係止可能のナットが螺合され、この螺合によるネジ構造によって前記先端側部材と前記後端側部材とが連結されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の基礎杭。
【請求項7】
前記先後間の間隔が、前記ネジ締めによって小さくなり、該間隔が所定量になったときに、そのネジ締めにおける回転が空転となるように、前記雄ネジのネジ長が所定の長さとされていると共に、該雄ネジに連なる前記軸部における所定の長さ部分の外径が該雄ネジの谷の径以下とされていることを特徴とする請求項5又は6のいずれか1項に記載の基礎杭。
【請求項8】
前記後端側部材には、前記先端側部材と前記後端側部材との先後間の空間に、前記杭本体部内の後方から固結剤を注入可能の開口が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基礎杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的軽量な工作物等を支持、固定するために地中に打ち込まれる基礎杭に関し、より詳しくは、地面(地盤)上に、例えば、太陽光パネルの設置用の架台(枠体)や、比較的軽量の小型ハウスなどの工作物を地面上に設置する際において、それら架台等を支持、固定するために地中(土壌中)に打ち込まれて埋設される基礎杭に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の基礎杭(以下、単に杭ともいう)は、通常、金属製でストレート(横断面が先後に同一)のパイプからなり、上端部(杭頭)又はその近傍に、架台(枠体)等を支持、固定(取付け)等するための取付け手段が設けられ、下端(先端)は適度に尖らされ、或いは先細り状にされているものが基本的なものといえる。すなわち、この種の基礎杭は、パイプ状の杭本体部の先端において先細りパイプ状に形成された先細り部を一体的に備えてなるものが基本的なものといえる。これらのものは、地盤中に打ち込み方式で施工することになり、その打ち込みにより、周囲の地盤との摩擦力や土圧によって支持される摩擦杭であり、工事方法(施工方法)も簡易であることから、比較的軽量な工作物等を支持、固定するためによく採用されている。一方、このような基礎杭(以下、単純杭)では、それ自体の構造が簡易であることから、これに加わる重量によって沈降しやすく、また、抜けやすいなど、その設置後の耐沈降性、或いは耐引抜性(引き抜き力に対する強度ないしアンカー作用)が低く、固定力が弱いのが難点とされる。とくに、軟弱な地盤ではその問題が大きい。
【0003】
こうした中、螺旋杭といわれる、パイプ(円管)の外周面に螺旋を設けたネジ様のものも使用されている(例えば、特許文献1、
図1参照)。このものは、ネジ構造を有するため、回転させながら地盤中に圧入するものであるから、単純杭に比べれば、埋設後における耐沈降性や耐引抜性の点で優れる。このため、比較的簡易な構造の基礎杭ではあるものの、上記架台等の設置における支持、固定用のものとしては、比較的高い安定性及び高強度の基礎となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−205108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したような螺旋杭では、その杭自体(全体)を回転させながら地中に圧入するものであるがために、特殊の専用機(重機)が必要となるという点での難点がある。しかも、作業者は入り込めても、このような専用機を持ち込めない、例えば、狭小地や、道のない野原などでは施工ができないか、困難である。また、汎用性のある専用機や工具等の使用では、杭自体(全体)を回転させて施工することはできないことから、施工コストが増大するという点での問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、特殊の専用機(重機)を要することなく、単純くいと同様に、単に、打ち込むか、又は圧入により、その打ち込み、ないし埋設を行い得ると共に、その打ち込み後において、汎用な工具等の使用により、簡易に、耐沈降性や耐引抜性にも優れる支持が得られる基礎杭を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、パイプ状の杭本体部の先端から先方に先細りパイプ状に形成された先細り部を一体的に備えてなる基礎杭において、
前記杭本体部内であって該杭本体部の先端より後方には後端側部材を備えており、前記先細り部内であって該杭本体部の先端より先方又は該先細り部の先端には先端側部材を備えている一方、
該先端側部材と前記後端側部材とがその先後間において圧縮されて該先後間の間隔が小さくされたとき、該先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、張出す形で変形するように、該先後間の壁には変形容易手段が設けられており、
前記先端側部材と前記後端側部材とが、前記杭本体部内に後端側の開口から挿入される工具によるネジ締めによって、前記先後間の間隔を小さくできるネジ構造で連結されてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の本発明は、前記変形容易手段が、前記杭本体部及び前記先細り部の横断面における周方向に間隔をおいて、前記先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁に上下に連なって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の基礎杭である。
請求項3に記載の本発明は、前記杭本体部は、横断面が先後に一定の角パイプ構造を有しており、前記先細り部は、この角パイプの先端を基端とする角錐又は角錐台のパイプ構造に形成されており、
前記変形容易手段が、前記先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁のコーナ又はそのコーナ近傍において上下に連なって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の基礎杭である。
【0009】
請求項4に記載の本発明は、上下に連なって設けられている前記変形容易手段とは別に、前記変形容易手段が、前記先後間のうち、前記杭本体部と前記先細り部の境界部位、前記先端側部材寄り部位、及び前記後端側部材寄り部位の各部位において、横方向に延びるように設けられていることを特徴とする請求項2又は3のいずれか1項に記載の基礎杭である。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、前記後端側部材には、頭部付きのボルトの軸部が挿通可能であり、かつその頭部が係止可能の貫通穴が設けられている一方、
前記先端側部材には、前記ボルトの軸部の先端又は先端寄り部位に設けられた雄ネジが螺合する雌ネジが設けられており、
前記ボルトはその軸部が前記貫通穴に挿通されると共に、前記雄ネジが前記雌ネジに螺合され、この螺合によるネジ構造によって前記先端側部材と前記後端側部材とが連結されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか
1項に記載の基礎杭である。
請求項6に記載の本発明は、前記先端側部材には、後方に向けて延びる軸部を有するボルトが立設状に設けられており、前記後端側部材には、このボルトの軸部の後端又は後端寄り部位が挿通可能の貫通穴が設けられていると共に、該軸部の後端又は後端寄り部位がこの貫通穴を挿通されて後方に突出させられ、この後方に突出させられた該軸部における後端又は後端寄り部位に設けられた雄ネジに、該貫通穴に係止可能のナットが螺合され、この螺合によるネジ構造によって前記先端側部材と前記後端側部材とが連結されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか
1項に記載の基礎杭である。
【0011】
請求項7に記載の本発明は、前記先後間の間隔が、前記ネジ締めによって小さくなり、該間隔が所定量になったときに、そのネジ締めにおける回転が空転となるように、前記雄ネジのネジ
長が所定の長さとされていると共に、該雄ネジに連なる前記軸部
における所定の長さ部分の外径が該雄ネジの谷の径以下とされていることを特徴とする
請求項5又は6のいずれか1項に記載の基礎杭である。
請求項8に記載の本発明は、前記後端側部材には、前記先端側部材と前記後端側部材との先後間の空間に、前記杭本体部内の後方から固結剤を注入可能の開口が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基礎杭である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の基礎杭においては、上記した構成を有することから、これを地中に打ち込むのは、従来のパイプ製の単純杭と同様に、打ち込み又は圧入によって簡易に行うことができる。また、本発明の基礎杭は、杭本体部の後端側(上端)の開口から、挿入する工具によるネジ締め(ねじ締め)をすることによって、前記先後間の間隔を小さくでき、これによって、該先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす各壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、張り出す形での変形が得られるものとされている。これにより、その打ち込み後は、汎用性のある、例えば、電動式インパクトレンチ等のねじ込み工具を、その後方から挿入してネジ締めをすることで、前記した変形(塑性変形)が得られるから、簡易な作業で、耐沈降性や耐引抜性に優れる基礎杭を得ることができる。このように、本発明の基礎杭では、地中への打ち込みは、従来の単純杭と同様に簡易に行うことができる上に、その後は、ネジ締めを行うことで前記した変形が得られるため、簡易な作業により、しかも、簡易かつ汎用性のある工具で、耐沈降性や耐引抜性にも優れる支持が得られるという、際立って優れた効果が得られる。
【0013】
本発明では、前記杭本体部と該先細り部との境界部位(杭本体部の先端)より先方が、前記先細り部をなすことから、前記変形がなされる前の前記先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁は、これを基礎杭を縦断面視したとき、その境界部位を屈曲点又は屈曲部位として、屈曲したものとなっている。このため、本発明の基礎杭においては、この境界部位、すなわち、屈曲点(又は屈曲部位)を先後に跨ぐ配置にある前記先端側部材と、前記後端側部材との先後間を、上記ネジ締めによって小さくように圧縮することで、その境界部位を屈曲点として、その壁が外側に突出するか、張出す形で変形し易いものとなっている。しかも、本発明では、該先端側部材と前記後端側部材とがその先後間において圧縮されて該先後間の間隔が小さくされたとき、該先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、外側に張出す形で変形するように、該先後間の壁には変形容易手段が設けられている。このため、構造の複雑化を招くことなく、適度のトルクで、そのネジ締めを行うことのみで、その変形が得られるという、際立って優れた効果が得られる。
【0014】
すなわち、本発明と異なり、上記したような屈曲点(又は屈曲部位)がない、ストレートのパイプ(パイプ構造)の部分において、例え、パイプの周方向に間隔をおいて、先後(縦)に切れ目やスリット等の変形容易手段が設けられているとしても、これを先後に圧縮することのみで、その壁を外側に突出するか、張出す形で変形させることは通常できない。しかも、地盤中では、土圧もあるから、それは実質的に不可能である。すなわち、そのような変形を得るには、別途、パイプの壁を外側(横方向外向き)に押す外力を付与しない限り不可能であるから、パイプ内に別途、壁を外側(横方向外向き)に押す外力を付与できる機構、構造を設ける必要があり、構造の複雑化を招くことになる。しかも、小径のパイプからなる基礎杭では、そのような機構、構造を設けることは困難である。これに対して、本発明の基礎杭によれば、かかる問題もなく、ネジ締めによる先後間の圧縮のみで、その変形が得られる点で、際立って優れた基礎杭といえる。 なお、本発明において、「パイプ」又は「パイプ状」とは、液体を外部に漏れなく通すことのできる構造を有するパイプ(管、又は筒)に限られるものではなく、その壁(周壁)に、切れ目や貫通孔が設けられているなどの構成を有するパイプ状のものなど、基礎杭になり得る限り広くパイプ状の構成を有するものであればよい。
【0015】
前記先後間の各壁に設ける前記変形容易手段の配置や形状は、パイプの横断面形状等により、適宜に設定すればよく、特に限定されるものではない。また、前記変形容易手段には、切れ目(スリット)、貫通する穴、切欠き、溝又は薄肉部などがあり、それらの少なくともいずれか、又は、それらの1又は複数のものの組み合わせとしてもよい。そして、本発明における変形容易手段は、基礎杭の打ち込み時には容易に変形することなく、これを地盤中に打ち込むことができ、しかも、その後、変形をさせる時には、地盤の軟弱度や強度等に応じて、地盤中内で土圧に抗して上記した変形を、適度のネジ締めトルクで得られるように設定すればよい。すなわち、前記変形容易手段は上記変形を得るための強度低下手段であるから、基礎杭をなすパイプの材質、横断面サイズや、壁の肉厚等のパイプの強度等に応じて設定すればよい。
【0016】
そして、前記変形容易手段のうち、壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態にするには、請求項2に記載の本発明のように、変形容易手段を設けるのがよい。この変形容易手段は、上記したように、切れ目(スリット)、貫通する穴、切欠き、溝又は薄肉部などを用いればよいが、切れ目又はスリットとして、周方向において最初から分割されているものとしておくのがよく、しかも、この分割をしている切れ目又はスリットが上下に連なっているのがよい。そして、請求項3に記載の本発明のように、角パイプ構造を有するもの(例えば、一般構造用角形鋼管(横断面略正方形(等辺)の四角パイプ)。以下、単に角パイプともいう)では、 前記変形容易手段が、これらの横断面の壁(角パイプ)のコーナ(角部)、又はコーナ近傍において上下に連なって設けられているとよい。本願において角錐又は角錐台、或いは正方形は、数学(図学)的意味におけるそれらをいうものではなく、一般、構造物において使用される意味におけるそれらを指称する。なお、本発明において、角パイプには、鋼管からなるもの(例えば、一般構造用角形鋼管)の他、その全体、又は部分を例えば、平鋼のような帯状板材(又は板材)から溶接等により、形成したものも含まれる。ただし、前記変形をより容易に得られるようにするには、変形容易手段は、請求項4に記載の本発明のように、各部位において、横方向に延びるように設けるのがよい。このように設けることで、その横方向に延びるように設けられた変形容易手段の各所で発生する応力集中により、先後方向において前記境界部位を頂部として挟む形で、前記先後間の壁を外側に突出させるか、張り出させる変形、すなわち、例えば、凸部が外方を向く「く」の字形の屈曲となる変形が容易に得られる。なお、横方向に延びる変形容易手段としては、切れ目、又はスリットが、強度低下手段としてとくに有効であるが、溝として応力集中し易いものとしておいてもよい。
【0017】
ネジ締めに使用する工具は、ネジ構造(ねじ構造、又はネジ機構)に応じて、適宜の工具を用いればよい。例えば、請求項5に記載の発明では、ボルトの頭部に嵌合する嵌合部を有する回螺工具(例えば、軸(柄)の長いボックスレンチ)を杭本体部の後端の開口から挿入して、それをそのボルトの頭部に嵌合させて、電動等のインパクトレンチでネジ締めすればよい。また、請求項6に記載の発明では、ナットを回動することでネジ締めできる嵌合部を有する回螺工具を用いればよい。
【0018】
請求項7に記載の本発明においては、前記先後間の間隔が、前記ネジ締めによって小さくなり、該間隔が所定量になったときに、そのネジ締めにおける回転が空転となる。これにより、ネジ締め作業者においては、変形させるべき所定の変形量が確保できたことを、簡易に知ることができるので、作業者によるバラツキのない適切かつ安定した施工が確保される。このため、その雄ネジ長等は、適度の変形が得られるように設定すればよい。なお、請求項8に記載の本発明のようにして、固結材を注入できるものとしておくのが、変形した後のその空間内の強度アップが図られるために好ましい。固結剤としては、セメントやモルタル等があげられ、これらをスラリー等として注入すればよいが、グラウト材となりえるものであればよい。
【0019】
なお、本発明の基礎杭は、杭本体部を含め、通常、金属製のパイプであり、代表例としては横断面が等辺の薄肉の角パイプ(一般構造用角形鋼管)とするのがコスト面で好ましいといえるが、アルミニウム又はアルミニウム合金製としてもよいなど、その材質は、強度や耐食性に応じて適宜に選択すればよい。ただし、本発明の基礎杭、又はこれをなす杭本体部等は、材質に限られず、板材から溶接等によりパイプ構造に組立て又は製造されたものでもよいし、このようなパイプ構造のもの(パイプ)と、一般構造用角形鋼管等のパイプとをつないでなるパイプでもよいのは上記したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の基礎杭を具体化した実施形態例1(第1実施例)の正面図(立面図)、及びその要部の拡大縦半断面図。
【
図4】Aは、
図1の基礎杭を地盤中に打ち込んだ後、ボルトを回転して変形をさせる途中を説明する要部の拡大縦半断面図、Bは、ボルトが空転するまで回転させた変形後を説明する要部の拡大縦半断面図。
【
図6】本発明の基礎杭を具体化した第2実施例の要部の拡大縦半断面図。
【
図7】本発明の基礎杭を具体化した第3実施例の要部の拡大縦半断面図。
【
図8】Aは、
図7の基礎杭を地盤中に打ち込んだ後、ナットを回転して変形をさせる途中を説明する要部の拡大縦半断面図、Bは、ナットが空転するまで回転させた変形後を説明する要部の拡大縦半断面図。
【
図9】本発明の基礎杭を具体化した第4実施例の要部の拡大縦半断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る基礎杭を具体化した実施の形態例1(第1実施例)について、
図1〜
図5を参照しながら説明する。本例の基礎杭100は、先後(図示上下)に横断面が一定の角(横断面、略正方形の角)パイプ状の杭本体部20の先端(図示下端)23において、その先端23を基端として先方(図示下方)に、四角すい状で先細りパイプ状に形成された先細り部30を一体的に備えたものであり、いずれも鋼材からなっている。そして、杭本体部20内であって、その先端23より所定量後方(図示上方)には、その横断面を、外側に突出しないで横断するように形成された後端側部材(板材)40を備えている。本例では、この後端側部材40は、パイプ状の杭本体部20の壁(平板部分)25の外周に沿って溶接されている。すなわち、本例では、後端側部材40は、杭本体部20の先端寄り部位に配置されており、後端側部材40の先後において杭本体部20を突き合わせるようにして溶接した構成を有している。そして、この後端側部材40のうち、杭本体部(パイプ)20の中心に相当する位置には、頭部付きのボルト(例えば、六角ボルト)50の頭部53が係止され、かつボルト50の軸部54を挿通させるため、先後に貫通する貫通穴(円穴)43が設けられている。
【0022】
一方、先細り部30内であって、杭本体部20の先端23より所定量先方(図示下方。先細り部30の先後の中間)には、その横断面を、外側に突出しないで横断するように形成された先端側部材(板材)60を備えている。この先端側部材60は、四角すいで先細り状をなす先細り部(パイプ状の構造体)30の壁35の外周に沿って溶接されている。ただし、この先端側部材60のうち、先細り部(四角すいパイプ構造)30の中心に相当する位置には、ボルト50の軸部54を挿通できる貫通穴(円穴)63が設けられており、その先端面には、ボルト50の軸部54の先端側に設けられた雄ネジ57をねじ込むためナット65が溶接されており、本例ではこのナット65も含め、先端側部材60をなしている。なお、先端側部材60自体に直接ネジ穴(雌ネジ)を形成してもよい。
【0023】
また本例では、上記した後端側部材40には、杭本体部20を後方から見たとき(
図2のS1−S1断面、S2−S2断面参照)、対向するその角寄り部位に開口(貫通穴)44が設けられており、この開口44を介して、杭本体部(四角のパイプ)20内が、先後(上下)に連通するように形成されている。これにより、杭本体部20内の後方(パイプの後端の開口)から、注入後に固結する液状又は流動体状の固結剤(例えばセメントスラリー)を、この後端側部材40と先端側部材60との先後間の空間に注入できるようにされている。
【0024】
なお、本例の基礎杭100は、横断面一定のパイプ状の杭本体部20と、その先端(下端)23において、先細りパイプ状に形成された先細り部30とからなる1本のパイプ構造を呈しているが、この先細り部30のうちの、先端側部材60より後方の部位と、杭本体部20のうちの、後端側部材40より先方の部位とが、先後に一体のものとして構成されている。なお、後端側部材40より後方の部位は、本例では一般構造用角形鋼管を適寸法に切断したものからなっている。このため、本例の基礎杭100は、
図3に示したように、先端側部材60と後端側部材40とで先後に挟む形でこのように一体化した部位に対し、次に述べるように、その両部材40,60をボルト50で連結し、その後、後端側部材40に、それより後方の前記鋼管からなる杭本体部20を突き合わせて溶接し、先端側部材60に、先細り部30のうち、先方の尖った部位を含む(キャップ状部位)37を、その後端において突き合わせて溶接することで構成している。
【0025】
このような本例の基礎杭100では、後端側部材40に設けられた貫通穴43に、後方から六角ボルト50の軸部54が挿通され、その先端又は先端寄り部位に設けられた雄ネジ57が、先端側部材60をなすナット(雌ネジ)65に螺合されたネジ構造を有しており、このネジ構造によってその両部材40,60を連結している。なお、このネジ構造による連結は、前記した本例基礎杭100の製造、組み立て工程中において行えばよいが、本例では、後端側部材40と六角ボルト50の頭部53との間には、ワッシヤ(座金。スリップ用のワッシャ)59が介在されており、その状態のもとで、六角ボルト50が螺進するように回転され、少なくともネジが、ねじ込み状態から外れない適度の螺合状態とされ、その連結が確保されている。これにより、本例の基礎杭100においては、その六角ボルト50の頭部53を、杭本体部20内にその後端側の開口から挿入される柄の長いボックスレンチ等の工具(図示せず)によるネジ締めをすることによって、先端側部材60と後端側部材40との先後間を圧縮でき、その先後間の間隔を小さくするようなネジ構造とされている。なお、このボルト50のネジ(雄ネジ57)は、その軸部54の先端寄り部位において、所定の長さL1とされている。そして、その長さL1分のネジ締め後は、ナット65の雌ネジから離脱して空転するように設定されている。すなわち、その雄ネジ57に連なる部位の軸部54aは、その外径が、雄ネジ57の谷径以下に、小さくされ、かつ、その長さL2はナット65の高さより大きくされている。
【0026】
一方、本例においては、先端側部材60と後端側部材40とがその先後間において圧縮されて、この先後間の間隔が小さくされたとき、その先後間における先細り部30と杭本体部20とをなす各パイプ部位の壁25、35が、基礎杭100自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、外側に張出す形で容易に変形できるように、その先後間の壁25,35には、変形容易手段(本例では、スリット)が設けられている。本例では、先端側部材60と後端側部材40との先後間における先細り部30と杭本体部20とをなす壁25,35のコーナ(角パイプのコーナ(角部)又はそのコーナ近傍)において変形容易手段として、スリット(縦スリット)Tsが上下に連なって設けられており、この先後間において、各壁25、35は、基礎杭100自体の周方向に当所から4つに分割されたものとされている(
図1、
図2参照)。
【0027】
また、本例では、この変形容易手段に加え、その先後間のうち、後端側部材40寄り部位(後端側部材40の近傍)、杭本体部20と先細り部30との先後の境界部位である屈曲部位(杭本体部20の先端23)、及び先端側部材60寄り部位(先端側部材60の近傍)の各部位(先後の3箇所)において、コーナにおいて上下に連なって形成されているスリット(縦スリット)Tsから、各壁(周方向における4つの壁)とも、その両側から横方に部分的に切り込む(切断する)ようにスリット(横スリット)Ys1,Ys2,Ys3が設けられている。このように、本例では、上下に延びるスリットTsのほか、前記先後間をなす各壁(平板部分)25,35とも、その先後における3箇所において、横方向に延びるスリットYs1,Ys2,Ys3が設けられていることから、その各スリット(横スリット)の箇所(3箇所)は局所的に低強度とされている。これにより、上記のネジ構造において、その六角ボルト50を、頭部53を介してネジ締めする(ねじ込む)ことにより、先端側部材60と後端側部材40の先後間を締め上げるように圧縮して、その先後間の間隔が小さくなるようにすると、その圧縮状態に応じて、その先後間の周方向における4つの各壁25,35は、先端側部材60寄り部位、及び後端側部材40寄り部位のスリットYs1,Ys3を基点として、境界部位である屈曲部位、すなわち、杭本体部の先端23に設けられたスリットYs2の部位が頂部をなして横向き「V」字状に突出する(張り出す)形で変形するように形成されている(
図4参照)。なお、六角ボルト50が空転となるまでネジ締めしたときにおける、この「V」字の先後方向の角度α(
図4−B参照)は、耐沈降性や耐引抜性等を考慮して適宜のものとすればよいが、例えば、約90度が得られるように設定されている。すなわち、この角度αが得られるように、ネジの締め付けにおけるストロークが設定され、これに基づいてネジ長(雄ネジ57の長さL1)を設定すればよい。
【0028】
このような本例の基礎杭100においては、これを従来の単純杭と同様に、地中(地盤中)に打ち込み、その上端部を適度に地面上に突出させる。そして、その打ち込み後は、杭本体部20の後端側(上端)の開口から、例えば、電動式インパクトレンチ等のねじ込み工具(図示せず)を挿入して、そのレンチをなす軸部の先端(ボックス状の嵌合部)を六角ボルト50の頭部53に嵌合させてネジ締めをする。すると、先端側部材60と、後端側部材40との先後間の間隔が小さくなり、その先後の各壁が圧縮されるようになる。そして、周方向における4つの各壁25、35は、基礎杭100自体の周方向において、そのコーナで分割された状態で、土圧に抗して、
図4−A(
図4の左図)に示したように、外側に突出するか張り出す形で変形(塑性変形)する。そして、ネジ締めを進行することで、その変形が次第に大きくなる。そして、ボルト50における雄ネジ57に連なるその後方の軸部54aの外径が、その雄ネジ57の谷径以下とされているため、最終的に、雄ネジ57ネジはナット65のネジ(雌ネジ)から離脱して空転し、
図4−B(
図4の右図)に示したように所定の変形(角度αの「V」字状の変形)となって、その変形が止まる。
【0029】
かくして本例の基礎杭100においては、その打ち込み後に、このネジ締めを続けることで、作業者に関係なく一定の変形が得られることになるから、耐沈降性や耐引抜性に優れる安定した基礎杭100となすことができる。とくに、本例では、四角パイプであり、その周方向における4つの壁において同様の変形が得られるため、これを先端から見たときは、
図5に示したように、変形が周囲において均等に突出したものとなる。このように、本発明の基礎杭100では、地中への打ち込みは、従来の単純杭と同様に簡易に行うことができる上に、その打ち込み後は、上記したようなネジ構造により、特殊の工具を要することもなく、そのネジ締めを行うだけで耐沈降性や耐引抜性を高めることができる。よって、施工現場等に関係なく、簡易に耐沈降性や耐引抜性にも優れる基礎杭100が得られる。そしてこの施工後においては、基礎杭100の上部に設けた工作物の固定手段等の取付穴(図示せず)などを用いて、所望とする架台等を組付け、或いは工作物を設置することができ、その安定した施工を得ることができる。
【0030】
なお、地盤が軟弱でなく、比較的強度があるような場合には、ネジ締めが空転に至る前に、そのネジ締めを停止してもよい。すなわち、適度の変形が得られた状態で、その変形を止めてもよい。また、本例では、このような変形作業の終了後に、基礎杭100の後端(上端)から、セメントミルク等のグラウト材を、適量、その内側に流し込み、注入するとよい。この場合、本例では、後端側部材40に開口を設けている(杭本体部の後端を閉塞していない)ため、変形後の先端側部材60と、後端側部材40との先後間の空間に、グラウト材を注入できる。これにより、その固結後においては、変形後の基礎杭100の強度や、その空間内部の耐食性のアップも図られる。
【0031】
上記例では、変形容易手段として、上記先後間における、先細り部30と杭本体部20とをなすパイプの壁25,35のうち、そのコーナにおいて上下に連なるようにスリットTsが設けられており、しかも、上記したように、その壁の先後の各部位では横方向に延びるスリットYs1,Ys2,Ys3も設けられている。このため、コーナに上下に連なるように設けられたスリットTsに挟まれる各壁(上下の平板部分)25、35ごと、上記境界部位(杭本体部の先端23)を屈曲点として、外側に突出するか、張出す形で容易に変形させることができる。なお、上記の変形は、先端側部材60と、後端側部材40との先後間における先細り部30と杭本体部20のなす壁25,35の肉厚や、その先後間の壁の先後長、幅、さらには材質等に基づく強度、そして、打ち込んだ地盤における基礎杭100に対する土圧等によって、その難易が異なる。このため、これらの難易を考慮し、適度のトルクで、上記ネジ締めを行うことのみで、その変形が得られるように、打ち込みをする現場の地盤(土壌)強度、軟弱性等を考慮して、変形容易手段を設けるようにすればよい。
【0032】
また、上記例においては、変形容易手段として、角パイプのコーナに上下に連なるようにスリットTsを設けた場合を例示したが、壁の肉厚次第、或いは、低強度材からなる基礎杭100であり、ネジ締めによる応力集中等によって容易に壁の破断(周方向の分割)が得られるような場合には、スリットに代えて溝(薄肉部)をコーナ(例えば、壁の外周面の角部)に上下に連なるように設けることとしてもよい。すなわち、本発明において、上記先後間におけるパイプの周方向に関しては、第1実施例におけるように、当初から分割したものとしてもよいし、ネジ締めによって分割状態が得られるように、適宜の変形容易手段(薄肉部、又は溝)を設けるものとしてもよい。また、上記例では、角パイプのコーナにおいて上下に連なるように変形容易手段を設けたものとして具体化したが、この上下に連なる変形容易手段は、横断面で隣接するコーナ相互に挟まれる壁(平板部)の中間において、上下に連なるように設けてもよいし、これを、上記例におけるようなコーナに設けるものに加えて設けてもよい。
【0033】
そして、上記例では、横方向に延びる変形容易手段として、横スリットYs1,Ys2,Ys3を設けたがこれについても、適宜の変形容易手段(切れ目、薄肉部、又は溝)を設けるものとしてもよい。さらに、壁の肉厚次第、或いは、低強度材からなる基礎杭100であり、ネジ締めによって容易に、外側に突出するか、張り出すような変形が得られる限り、変形容易手段は適宜の位置、又は部位に設ければよい。すなわち、変形容易手段は、上記ネジ締めにおける圧縮力の作用時に、このような変形が得られるように、適宜の位置に、適宜の形態で設ければよい。なお、上記例では、横向き「V」字状に変形する場合で説明したが、この変形の形態は、これに限定されるものではなく、外側に突出するか、張り出す(膨らむ)ような変形であればよく、その変形の仕方や量(突出量)も地盤等に応じて適宜のものとなるものであればよい。
【0034】
さらに、上記例では、杭本体部20は、横断面が先後に一定の角パイプ構造を有しており、先細り部30は、この角パイプの先端を基端とする角錐のパイプ構造で形成されたものとして具体化したが、本発明の基礎杭100は、横断面が他の多角形のものとしても具体化できる。また、杭本体部20は、横断面が先後に一定の円パイプ構造を有しており、先細り部30は、円すいパイプ構造のものとしても具体化できる。このように、本発明の基礎杭100は、パイプ状のものにおいて広く適用できる。
【0035】
次に第2実施例の基礎杭200について
図6に基づいて説明する。ただし、本例の基礎杭200は、上記第1実施例における先細り部30のうち、それに溶接されている先端側部材60より先方に位置する部位(キャップ状部位)37を除去した構成のものである。このように本例では、上記第1実施例における先細り部30のうち、先方の尖った部位を有する部位(キャップ状部位)37がないもの、すなわち、四角錐状の先細り部30位を先端側部材60より先方において、その頭を切った四角錐台形状として、先端側部材60の先方においてナット65を露出させると共に、ボルト50の軸部54の先端を露出させるようにした点のみが、上記第1実施例と相違するだけである。このように、実質的に、先端側部材60を、第1実施例よりも短めに形成し、先端側部材60をその先細り部30の先端に備えるものとした点のみが、前記例と相違するだけであるから、その相違点を中心として説明し、同一又は対応する部位には、同一の符号を付すに止める。
【0036】
すなわち、上記第1実施例では、先細り部30にキャップ状部位37があるため、先端側部材60を形成するナット65、及びボルト50の軸部54の先端を包囲し、それらを保護する作用と、先細り部30の先端形状を一定に保持できる効果が得られる。一方、このような作用、効果を得るため、キャップ状部位37を設ける場合には、その部品や取付工程(溶接工程)が増えるなど、製造工程のみならず、基礎杭200の構造もその分、複雑化する。これに対して、本第2実施例では、そのキャップ状部位37がない分、製造工程のみならず、構造の単純化が図られる。しかも、上記第1実施例では、ネジ締めにおいてボルト50の軸部54の先端を、ナット65から突出させたとき、先細り部30内に収まるようにする必要があるから、先細り部30の先細りを急先細りとすることができないため、先細り部30の長さが長くなりがちとなるが、本第2実施例ではかかる問題もない。なお、この第2実施例のものでは、先細り部30は、その先端が地盤中に打ち込まれ易くなるように、その先細り具合を設定する(テーパ角を付ける)か、その先端側部材60をなすナット65が、地盤中に打ち込まれ易くなるように、図中、2点鎖線で示したように、それを先後に長くし、かつ、先細り状にしておくなど、杭の先端に相応しい大きさ、形状のナット65構造としておくとよい。また、この場合、ボルト50の先端をネジ構造の当初から突出させておく場合には、その先端58も図中、2点鎖線で示したように、先細り状にしておくのがよい。
【0037】
次に
図7に基づき、第3実施例の基礎杭300について説明するが、このものは、上記第1実施例のものとは、ネジ構造を、
図7に示したように変更した点のみが異なるだけであるから、この相違点についてのみ説明し、同一の部位には同一の符号を付すに止める。すなわち、このネジ構造は次のようである。先端側部材60には、後方に向けて延びる軸部54を有するボルト50が立設状に設けられている。例えば、先端側部材60に貫通穴63をあけて六角ボルト50の軸部54を後方に向けて延ばす形として、その頭部53を先端側部材60に溶接する。そして、後端側部材40には、このボルト50の軸部54の自由端である後端又は後端寄り部位(雄ネジ57)が挿通可能の貫通穴43が設けられており、この軸部54の後端又は後端寄り部位がこの貫通穴43を挿通されて後方に突出させられている。そして、この後方に突出させられた該軸部54における後端又は後端寄り部位に設けられた雄ネジ57に、後端側部材40の後方からナット65を螺合している。なお、本例でも、ボルト50における所定長さの雄ネジ57の部位に連なる軸部54aの外径は、その雄ネジ57の谷径以下とされており、ネジ締めをし続けることで、ナット65が、その細い軸部54aに至って空転するように設けられている。また、ナット65は、貫通穴43に係止可能である限り、ボルト50に直接螺合してもよいが、本例では、ワッシャ59を介して螺合されている。すなわち、本例では、このナット65の螺合によるネジ構造によって先端側部材60と後端側部材40とを連結している。
【0038】
このような第3実施例では、第1実施例と異なり、杭本体部20内にその後方(後端)の開口から挿入される工具により、このナット65を回転させることで、ネジ締めをし、このネジ締めにより、先端側部材60と後端側部材40との先後間の間隔が小さくなるようにしたものである。これにより、そのネジ締めをすることで、
図8−Aに示したように、先端側部材60と後端側部材40との先後間の間隔が小さくなる。そして、そのナット65の回転を進めることで、ボルト50における雄ネジ57に連なる軸部54aの外径が、その雄ネジ57の谷径以下とされているため、最終的に、ナット65は雄ネジ57から離脱して空転する。結果、
図8−Bに示したように所定の変形となって、その変形が止まる。すなわち、本例でも第1実施例と同様の変形が得られることは明らかである。本例は、ねじ込みストロークが小さい場合、すなわち、ナット65の回転数が少なくても所望とする変形が得られる場合に好適である。というのは、第1実施例では、ネジ締めによってボルト50の先端が先端側部材60(ナット65)から先方に突出するため、これを収容できるスペースが必要となるのは上記したとおりである。これに対し、本例では、ネジ締めによるボルト50の端は、後端側部材40の後方への突出となるからこのスペースは不要となる。このため、先細り部30は、先細りを急先細りとしたり、短くできる。すなわち、第1実施例と異なり、ボルト50の先端の突出量を考慮する必要がなくなるから、その先細り部30の設計の自由度を高めることができる。先細り部30を、急先細りとする場合には、基礎杭200の打ち込み時における抵抗が増大するものの、軟弱地盤においてはそれによる問題もないから、好適である。なお、本例では、ネジ締めによるボルト50の端は、後端側部材40の後方への突出となるから、ネジ締めのための工具におけるナット65の嵌合部は、その分を許容する深いものを用いればよい。
【0039】
また、この第3実施例のにおいても、第2実施例のものと同様にしてもよい。すなわち、
図9に示した第4実施例の基礎杭400のように、前記第3実施例における先細り部30のうち、先端側部材60よりも先方部位に位置するキャップ状部位37がないものとしてもよい。この場合も、先端側部材60を基礎杭200の先端に露出させることになるから、地盤への打ち込み性を高めるためには、
図9中、2点鎖線で示したように先端側部材60の先端向き面(ボルト50の頭部53)がなるべく、杭の先端に相応しい先細りとなるようにするのがよい。なお、第2実施例のものにおいて、ボルト50の先端をナット65の先端から突出させておくときは、打ち込み時に、ボルト50とナット65との螺合部のネジ(ネジ山)に大きな外力を直接受けることになる。これに対し、本例ではそれがないから、ネジ山の損傷が避けられるため、打ち込み後におけるネジ締めに支障が出ることを回避できる。
【0040】
本発明は、上記した各実施例のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜に変更して具体化できる。上記例では、上記先後間において、周方向に分割されたパイプの壁を、先後(上下)において、外方に横向き「V」字形に変形させるものとしたが、本発明においては、前記先端側部材と前記後端側部材とがその先後間において圧縮されて該先後間の間隔が小さくされたとき、該先後間における前記先細り部と前記杭本体部とをなす壁が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、外側に張出す形で変形することができれば十分である。したがって、このパイプの壁は、先後(上下)において、外方に円弧状に膨らむものであってもよい。すなわち、該先後間の壁に設ける変形容易手段は、前記先後間の間隔を小さくしたとき、このような変形が得られるものでありさえすればよい。
【0041】
また、本発明におけるネジ構造は、上記各実施例において例示したものに限定されるものではない。前記先端側部材と前記後端側部材とが、前記杭本体部内に後端側の開口から挿入される工具によるネジ締めによって、前記先後間の間隔を小さくできるネジ構造であればよい。なお、パイプ状の杭本体部は、通常は、鋼製とされ、そのパイプの径(太さ)、壁の肉厚、長さ等の仕様は、基礎杭として支持すべき架台等の重量や使用する地盤の軟弱性に応じて適宜に選択すればよい。また、先細り部の先細り具合(テーパ)は、基礎杭の太さや、地盤の強度等に応じて適宜に設定すればよい。さらに、基礎杭は、打ち込みに支障がなく、上記ボルト締めにおいて、適度の締付け力で上記した変形(塑性変形)が得られるものから選択すればよく、その材質が限定されるものではないのは上記したとおりである。
【符号の説明】
【0042】
20 パイプ状の杭本体部の先端
23 杭本体部の先端
25,35 先細り部と杭本体部とをなす壁
30 先細り部
40 後端側部材
43 後端側部材の貫通穴
50 ボルト
53 ボルトの頭部
54 ボルトの軸部
57 ボルトの雄ネジ
60 先端側部材
65 ナット
100,200,300,400 基礎杭
Ts,Ys1,Ys2,Ys3 スリット(変形容易手段)
【要約】
【課題】打ち込み後、汎用な工具等の使用により、簡易に、耐沈降性や耐引抜性に優れる基礎杭を提供する。
【解決手段】パイプ状の杭本体部20の先端23に先細り部30を設けた基礎杭で、その先端23を挟む先後に、先端側部材60と後端側部材40とを先後間に間隔をおいて設けた。その先後間で圧縮され、その間隔が小さくされたとき、その先後間における先細り部30と杭本体部40とをなす壁25,35が、基礎杭自体の周方向において分割された状態で、外側に突出するか、張出す形で変形するように、その先後間の壁25,35には変形容易手段Ts,Ys1,Ys2,Ys3を設けた。先端側部材60と後端側部材40とを、杭本体部20内に、その後端側の開口から挿入される工具によるネジ締めによって、前記先後間の間隔を小さくできるネジ構造で連結した。打ち込み後、このネジ締めをすることで、前記変形が得られるから耐沈降性等が高められる。
【選択図】
図1