(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2工程では、前記吐出口における、前記第2の層を形成する前記樹脂材の温度を、前記第1の層を形成する前記樹脂材の温度よりも10℃以上高くする、請求項1に記載のフィルム製造方法。
前記第2工程では、前記第2の層を形成する前記樹脂材の重量を、前記第1の層を形成する前記樹脂材の重量の15%以上、25%以下にする、請求項1または2に記載のフィルム製造方法。
前記第1工程では、前記第3工程で切断された部分を溶融してなる樹脂材を、前記第2の層を形成する前記樹脂材の50重量%以上に混合させて、前記フラットダイに供給する、請求項4に記載のフィルム製造方法。
前記制御部は、前記吐出口における、前記第2の層を形成する前記樹脂材の温度を、前記第1の層を形成する前記樹脂材の温度よりも10℃以上高くする、請求項6に記載のフィルム製造装置。
【背景技術】
【0002】
CPP(Casting Polypropylene film)の呼称で代表される高速無延伸フィルムの製造方法では、押出機において、固体樹脂材を溶融、可塑化した後、Tダイから溶融状態の樹脂材を押出し、樹脂材を成形ロールに接触させて冷却、固化し、成形されたフィルムの巻き取りを行う方法が一般的である。このフィルム製造方法において、Tダイの吐出口ギャップは、0.5mmから2mm程度であることが多く、成形ロールによって冷却、固化した後、成形された最終フィルムの厚みが50μm以下であることが一般的である。
図10に、フィルムの製造工程において、Tダイから成形ロールまで移動する樹脂材の挙動の概略と各成形因子を説明するための模式図を示す。Tダイの吐出口ギャップt
dieと最終フィルム厚みt
filmとの比(t
die/t
film)は、ドラフト比と呼ばれている。このドラフト比が大きくなるほど、Tダイの吐出口から吐出された樹脂材が成形ロールの周面に接するまでの区間(「エアギャップ」という)において、樹脂材が引き出し方向へ大きく加速されることになる。吐出口ギャップt
dieと最終フィルム厚みt
film、及びエアギャップLが定められた条件で、フィルムの成形速度を高めるためには、樹脂材の吐出量、つまりTダイの吐出口からの吐出速度V
0と、成形ロールの周速度V
1[mm/s]を高めることが必要である。
図10に示すエアギャップL[mm]の区間において、溶融した樹脂材が受ける引き出し方向への伸長速度Veは、下記式(1)によって求めることができる。フィルムの成形速度を高速化した場合には、伸長速度Ve[s
-1]もフィルムの成形速度に比例して高くなることになる。
【0003】
【数1】
樹脂材そのものの特性に関して、樹脂材は、高分子材料であるので、非常に長い鎖状の分子構造を有している。樹脂材は、種類に応じて、直鎖状の分子構造であったり、側鎖を有するものであったり、様々である。樹脂材では、分子量の大小も影響しており、流動状態において鎖状高分子が引き延ばされる際に、分子量が分子同士の絡み合いに大きな影響を与える。この分子同士の絡み合いの強さは、溶融した樹脂材の一軸伸長粘度の歪み硬化性として現れる。この歪み硬化性とは、一軸伸長粘度の測定装置を用いて測定した、歪み速度が一定のもとでの一軸伸長粘度の経時応答に関して、始めは線形的に増加していた伸長粘度が、あるときを境に線形領域よりも増加して非線形領域を有する特性を指している。その歪み硬化性の程度(粘度の上昇の大きさ)を数値化する方法として歪み硬化度λが知られている。歪み硬化度λの定義方法としては、例えば特許文献1や非特許文献1に記載されており、公知の技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した無延伸フィルムの製造方法では、フィルムの成形速度の高速化が求められている。無延伸フィルムの製造方法における高速化の課題は、Tダイから吐出された樹脂材の幅が、エアギャップ領域において周期的に変化するドローレゾナンス現象と呼ばれる不安定現象が生じることにある。ドローレゾナンス現象が発生した場合、成形されたフィルムの中央部の厚みは安定しているものの、フィルムの幅方向における末端位置が幅方向に変動するので、フィルムの端部領域の厚みが不安定になる。ドローレゾナンス現象は、伸長粘度が低い樹脂材が所定のドラフト比以上になったときに発生することが知られており、例えば非特許文献2に記載されている。
図10に示したように、Tダイの吐出口ギャップt
die、成形されたフィルムの厚みt
film及びエアギャップLが定められた条件、つまりドラフト比(t
die/t
film)が一定の条件において、成形ロールRの周速度V
1が低いときにはフィルムの成形が安定している。しかしながら、成形ロールRの周速度V
1を高めたときにドローレゾナンス現象が発生し、成形されたフィルムの搬送中に、フィルムの幅方向の端部に破断が生じ、フィルムの成形を安定して行えなくなるケースが多い。このような不安定な成形を避けるために、フィルムの製造工程では、エアナイフやエアノズル、静電ピンニングなどの設備が併用されている。しかし、このような設備を用いた場合であっても、ドローレゾナンス現象そのものが解消されないので、フィルムの成形速度の高速化の限界値を飛躍的に高めることが困難である。
【0007】
具体例として、ポリプロピレン樹脂を用いてフィルムを製造する場合において、ポリプロピレン樹脂は、高分子の絡み合いが生じにくいので、歪み硬化度λが低い。特に、無延伸フィルムを成形するために用いられる樹脂材は、分子量が比較的小さいので、一軸伸長粘度が歪み硬化性を示さずに線形領域を外れない傾向にある。このような樹脂材を用いてフィルムを製造する場合、成形したフィルムの強度や透明性を確保するために、Tダイから吐出する樹脂材の温度をなるべく低くして成形を行う場合が多い。しかし、樹脂材の温度が低い場合には、ドローレゾナンス現象を生じやすくなり、フィルムの成形速度を高めることが困難になる。一方で、樹脂材の温度を高めた場合、ドローレゾナンス現象が抑えられる傾向になるが、成形したフィルムの幅が狭くなるネックイン現象が顕著になり、フィルムの幅を一定に保つことが困難になる。
【0008】
そこで、本発明は、ドローレゾナンス現象が生じることを防ぎ、フィルムの成形速度を高めることができるフィルム製造方法及びフィルム製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明に係るフィルム製造方法は、第1の層及び第1の層上に積層される第2の層をそれぞれ形成する熱可塑性を有する樹脂材を溶融し、複数の押出機からそれぞれフラットダイに供給する第1工程と、フラットダイの吐出口から、吐出口の幅方向における第1の層の両端部に第2の層を積層させながら樹脂材を吐出する第2工程と、を有する。第1工程では、第2の層を形成する樹脂材の温度を、第1の層を形成する樹脂材の温度よりも20℃以上高くする。なお、吐出口の幅方向とは、スリット状の吐出口の長手方向を指している。
【0010】
以上のような本発明に係るフィルム製造方法では、吐出口の幅方向における両端部に対応する、第1の層の両端部に、第1の層を形成する樹脂材よりも温度が20℃以上高い樹脂材からなる第2の層が積層された状態で、樹脂材が吐出口から吐出される。吐出口の幅方向における両端部での樹脂材の温度が高くなることで、吐出口の両端部での樹脂材の粘度が低下する。これによって、吐出口の幅方向における両端部から吐出される樹脂材の吐出速度が、吐出口の幅方向における中央部から吐出される樹脂材の吐出速度よりも高められる。吐出口の両端部において、樹脂材の吐出速度が高められることによって樹脂材の吐出量が多くなり、吐出口の両端部でのドラフト比が、中央部でのドラフト比よりも小さくなる。これは、吐出口の両端部において、ドローレゾナンス現象が発生する限界のドラフト比(以下、限界ドラフト比と称する)が実質的に大きくされたことに相当し、ドローレゾナンス現象の発生が効果的に抑制される。
【0011】
また、本発明に係るフィルム製造装置は、第1の層及び前記第1の層上に積層される第2の層をそれぞれ形成する熱可塑性を有する樹脂材を溶融して供給する複数の押出機と、複数の押出機からそれぞれ供給された樹脂材を吐出する吐出口を有するフラットダイと、複数の押出機からフラットダイにそれぞれ供給される樹脂材の温度を制御する制御部と、を備える。フラットダイは、吐出口から、吐出口の幅方向における前記第1の層の両端部に前記第2の層を積層させながら前記樹脂材を吐出する。制御部は、第2の層を形成する樹脂材の温度を、第1の層を形成する樹脂材の温度よりも20℃以上高くする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドローレゾナンス現象が生じることを防ぎ、フィルムの成形速度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のフィルム製造方法で用いるフィルム製造装置について説明する。
図1に、本実施形態のフィルム製造方法で用いるフィルム製造装置の模式図を示す。
図1に示すように、実施形態のフィルム製造装置1は、フィルムの製品領域となる第1の層11を形成するための樹脂材3aを溶融して供給する第1の押出機6と、第1の層11上に積層する第2の層12を形成するための樹脂材3bを溶融して供給する第2の押出機7と、第1の押出機6及び第2の押出機7からそれぞれ供給された樹脂材3a、3bを吐出するスリット状の吐出口8aを有するフラットダイであるTダイ8と、を備えている。樹脂材3a、3bとしては、同一の熱可塑性を有する樹脂材が用いられているが、同一の樹脂材でなくてもよい。
また、フィルム製造装置1は、第1及び第2の押出機6、7からTダイ8にそれぞれ供給される樹脂材3a、3bの温度を制御する制御部9を備えている。制御部9は、第1及び第2の押出機6,7のシリンダ内における各樹脂材3a、3bの温度、第1及び第2の押出機6、7とTダイ8とを連結する複数の配管における各樹脂材3a、3bの温度を制御する。
【0015】
第1の押出機6としては、口径がφ40mmの単軸押出機を用いた。第2の押出機7としては、口径がφ35mmの単軸押出機を用いた。Tダイ8の吐出口8aの幅は、270mmである。
第1及び第2の押出機6、7には、内部で樹脂材3a、3bが撹拌されるシリンダを加熱するヒータ、及びシリンダ内の樹脂材3a、3bの温度を検出する温度センサが設けられており、ヒータ及び温度センサが制御部9と電気的に接続されている。また、第1及び第2の押出機6、7とTダイ8との間の各配管には、Tダイ8に供給される樹脂材3a、3bを加熱するヒータ、及び配管内の樹脂材3a、3bの温度を検出する温度センサが設けられており、ヒータ及び温度センサが制御部9と電気的に接続されている。制御部9は、各温度センサからの検出信号に基づいて、第1及び第2の押出機6、7のヒータ、及び配管のヒータを制御することによって、第1及び第2の押出機6、7内の樹脂材3a、3bの温度、及び配管内の樹脂材3a、3bの温度をそれぞれ制御する。
さらに、Tダイ8には、吐出口8aの幅方向(スリット状の吐出口8aの長手方向)における中央部、両端部に、吐出される樹脂材3a、3bの温度を検出する温度センサが設けられており、これらの温度センサが制御部9と電気的に接続されている。制御部9は、各温度センサからの検出信号に基づいて、第1及び第2の押出機6、7のヒータ、及び配管のヒータを制御することによって、吐出口8aの幅方向における中央部、両端部から吐出される樹脂材3a、3bの温度を制御する。これによって、制御部9は、吐出口8aにおける、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度、及び第2の層12を形成する樹脂材3bの温度をそれぞれ制御する。
【0016】
Tダイ8には、吐出口8aの幅方向全体にわたって第1の層11を形成する樹脂材3aが第1の押出機6から供給されると共に、吐出口8aの幅方向における両端部に、第1の層11上に積層する第2の層12を形成する樹脂材3bが、第2の押出機7から供給される。このとき、第2の押出機7は、制御部9によって、第1の押出機6からTダイ8に供給される樹脂材3aの温度よりも、第2の押出機7からTダイ8に供給される樹脂材3bの温度が20℃以上高くなるように制御されている。第1の押出機6及び第2の押出機7からTダイ8にそれぞれ供給された樹脂材3a、3bは、Tダイ8の吐出口8aの幅方向において、第1の層11の両端部に第2の層12がそれぞれ積層された状態で吐出口8aから吐出される。
また、制御部9は、吐出口8aに設けられた温度センサを用いて、吐出口8aにおける、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも10℃以上高くなるように制御する。
【0017】
また、実施形態のフィルム製造装置1は、
図1に示すように、Tダイ8の吐出口8aから吐出された、第1の層11及び第2の層12からなる樹脂材3a、3bを挟んで成形する一対の成形ロール15a、15bと、成形ロール15aの近傍に配置されたエアナイフ16と、一対の成形ロール15a、15bの間から搬送されたフィルムの搬送経路を構成する複数のガイドロール17と、ガイドロール17との間にフィルムを挟んで搬送するニップロール18と、成形されたフィルムを巻き取る巻き取りロール19と、を備えている。また、複数のガイドロール17の1つには、フィルムの張力を検出するテンション・ピックアップ20が設けられており、テンション・ピックアップ20の検出値に基づいてテンション・コントローラ(不図示)を用いて張力が制御されている。
【0018】
以上のように構成されたフィルム製造装置1を用いる本実施形態のフィルム製造方法は、無延伸フィルムの製造方法である。本実施形態のフィルム製造方法は、樹脂材3a、3bを供給する第1工程としての供給工程と、供給工程後に樹脂材3a、3bを吐出する第2工程としての吐出工程と、を有している。供給工程は、第1の層11及び第1の層11上に積層される第2の層12をそれぞれ形成する熱可塑性を有する樹脂材3a、3bを溶融し、複数の押出機である第1及び第2の押出機6、7からそれぞれTダイ8に供給する。吐出工程は、Tダイ8の吐出口8aから、吐出口8aの幅方向における第1の層11の両端部に第2の層12を積層させながら樹脂材3a、3bを吐出する。 また、供給工程では、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも20℃以上高くする。
さらに、吐出工程では、吐出口8aにおける、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも10℃以上高くする。
また、本実施形態のフィルム製造方法は、吐出工程後、第1の層11上に第2の層12が積層されてなるフィルムを成形する成形工程と、成形工程後、フィルムの両端部を切断する第3工程としてのトリミング工程と、を有している。成形工程は、Tダイ8から吐出された樹脂材3を一対の成形ロール15a、15bの間に挟んでフィルムを成形する。トリミング工程は、フィルムから、第1の層11上に第2の層12が積層された部分を切断して除去する。
トリミング工程では、成形されたフィルムの幅方向における両端部を、カッタ(不図示)を用いて切断することによって、第1の層11上に第2の層12が積層された部分を除去する。これによって、第1の層11のみからなるフィルムが得られる。
また、本実施形態における供給工程では、第2の層12を形成する樹脂材3に、トリミング工程で切断された部分を溶融してなる樹脂材3a、3bを混合させて、Tダイ8に供給する。供給工程では、トリミング工程で切断された部分を溶融してなる樹脂材3a、3bを、第2の層12を形成する樹脂材3bの50重量%以上に混合させて、Tダイ8に供給する。つまり、第2の押出機7から供給される、第2の層12を形成する樹脂材3bは、純原料である樹脂材3bの50重量%以上に、トリミング工程で切断された部分が再利用されている。
このように、本実施形態のフィルム製造方法では、第2の層12を第1の層11と同一の樹脂材3bを用いて形成するので、トリミング工程で切断された部分を、第2の層12を形成する樹脂材3bとして再利用することができる。第2の層12を形成する樹脂材3bとして、フィルム製造過程で生じるフィルムの切断片を、50重量%以上混合することによって、廃棄する樹脂材3a、3bを削減し、樹脂材3a、3bのリサイクル率を高めることができる。また、リサイクル率を更に高めるために、トリミング工程で切断された部分を、第2の層12を形成する樹脂材3bの総重量に対して、70重量%以上混合させてフィルムを形成することが更に望ましい。
【0019】
本実施形態では、樹脂材3a、3bとして、無延伸フィルム用の成形グレード(MFR(メルトフローレート)=3)に相当するポリプロピレン樹脂を用いた。歪み硬化度λの定義方法としては、レオメータ(アントンパール社製;MCR-301)を用いて測定したポリプロピレン樹脂の粘度の測定結果に基づいて歪み硬化度λを定義した。
図2に、樹脂材の測定結果として、歪み速度1[s
-1]における一軸伸長粘度[Pa・s]の測定データを、樹脂材の温度毎に示す。
図3に、樹脂材の測定結果として、歪み速度10[s
-1]における一軸伸長粘度[Pa・s]の測定データを、樹脂材の温度毎に示す。
図2及び
図3において、縦軸が一軸伸長粘度[Pa・s]を示し、横軸が時間[s]を示している。また、
図2及び
図3において、樹脂材の温度に関して、180℃のときを◇で示し、200℃のときを△で示し、220℃のときを□で示し、260℃のときを○で示す。
樹脂材の歪み速度10[s
-1]での伸長粘度をη1、歪み速度1[s
-1]での伸長粘度をη2としたとき、伸長粘度η1が非線形領域に移行した後に、それぞれの伸長粘度η1、η2の粘度比(η1/η2)を各時間で計算することで、その値が歪み速度10[s
-1]における歪み硬化性の指標となる。また、各時間における歪み量は、(歪みの経過時間)×(歪み速度)によって計算することができるので、粘度比(η1/η2)を求めた各時間に、歪み速度10[s
-1]を積算することで一軸伸長歪み量が求められる。このようにして求めた粘度比の対数[ln(η1/η2)]を縦軸とし、一軸伸長歪み量を横軸として、各データを用いてグラフを作成することで、後述する
図4に示すような直線状の関係が得られる。
図4に示す直線は、各データを最小二乗法によって近似したものである。直線の傾きが、樹脂材の歪み硬化度λを示している。
図4に示したように、樹脂材の温度にかかわらずに、同一の樹脂材の歪み硬化度λはほぼ等しくなる。
【0020】
本実施形態では、このような樹脂材3a、3bを用いると共に、
図1に示したフィルム製造装置1を用いたTダイ法によって、製品領域のフィルムとなる第1の層11の幅方向における端部に、第1の層11と同一の樹脂材3bからなる第2の層12を積層させてフィルムを成形した。
第1の押出機6は、220℃の樹脂材3をTダイ8に供給するように予め設定されている。第2の押出機7は、260℃の樹脂材3をTダイ8に供給するように予め設定されている。
製品領域に対応する第1の層11を形成する樹脂材3aを、第1の押出機6からTダイ8に供給すると共に、第2の層12を形成する樹脂材3bを第2の押出機7から供給する。Tダイ8は、第1の層11の幅方向における両端部に、第2の層12が積層された状態で樹脂材3a、3bを吐出口8aから吐出する。また、第1の層11の両端部には、第2の層12を幅30mmでそれぞれ積層した。
第1の押出機6の吐出量を10[kg/h]に設定した。第2の押出機7の吐出量を2.6[kg/h]に設定した。第2の押出機7の吐出量を変化させた場合には、第1の押出機6と第2の押出機7との総吐出量が12.6[kg/h]になるように、第2の押出機7の吐出量に応じて第1の押出機6の吐出量を調整した。
【0021】
図5に、比較形態における、樹脂材の温度と限界ドラフト比との関係を示す。比較形態では、第1の層上に第2の層を積層せずに、第1の押出機から供給した第1の層を形成する樹脂材のみでフィルムを成形した。
図5に示す比較形態の測定結果は、Tダイの吐出口の幅方向における端部の温度のみを変化させた場合におけるフィルムの成形限界、つまりドローレゾナンス現象が発生する限界ドラフト比のデータである。
図5と同様に、
図6に、本実施形態において、第1の層11に第2の層12を積層したときの、第2の層12を形成する樹脂材3の温度と、限界ドラフト比との関係を示す。
図5に示すように、第1の層のみでフィルムを成形した場合、限界ドラフト比は、第1の層の幅方向における端部の温度変化にかかわらず、29程度で一定であった。一方、本実施形態では、
図6に示すように、第1の層11に積層される第2の層12の温度の上昇に伴って、限界ドラフト比が直線的に増えた。
【0022】
図7に、本実施形態について、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における樹脂材3a、3bの温度分布を示す。
図8に、本実施形態について、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における位置と、樹脂材の相対流速との関係を示す。
図7及び
図8において、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度が220℃であり、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度が220℃である場合を破線で示す。また、
図7及び
図8において、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度が220℃であり、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度が260℃である場合を実線で示す。
図7に示すように、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度が220℃であり、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度が260℃である場合、吐出口8aの幅方向における両端部での樹脂材3a、3bの温度が、吐出口8aの幅方向における中央部での樹脂材3aの温度よりも少なくとも10℃以上高くなっており、吐出口8aの末端で40℃高くなっている。
図8では、流量分布の均一性(ユニフォミティ)に関して、平均流速に対する相対流速の分布を示している。
図8に示すように、Tダイ8の吐出口8aの幅方向に対して樹脂材の温度が均一である場合には、樹脂材の流速分布が、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における中央がやや速くなる凸状の分布であるものの、吐出口8aの幅方向における変化がほぼフラットな流速分布になる。この流速分布は、一般的なフィルムの成形に適した流速分布である。
【0023】
一方、第1の層11の幅方向における両端部に、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも40℃高い第2の層12を積層した場合(第1の層11を形成する樹脂材3aの温度を220℃、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を260℃とした場合)を考える。この場合、
図7及び
図8に示すように、Tダイ8の内部では、第2の層12の幅方向における中央側における、第2の層12と第1の層11との積層界面部分で、第2の層12の温度が第1の層11の温度と平均化されると共に、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における両端部から260℃で樹脂材3bが吐出され、幅方向における両端部での樹脂材3a、3bの温度が中央部よりも高くなった。
このように、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における両端部での樹脂材3a、3bの温度が高くなることで、
図8に示すように、Tダイ8の吐出口8aの両端部での樹脂材3a、3bの粘度が低下し、吐出口8aの両端部での吐出量が中央部での吐出量よりも増えた。
したがって、第1の層11の幅方向における両端部に第2の層12を積層することで、Tダイ8の吐出口8aの幅方向における両端部での樹脂材3a、3bの吐出速度が高められる。これによって、吐出口8aの両端部での限界ドラフト比と、中央部での限界ドラフト比とに差異が生じることになり、中央部よりも端部での限界ドラフト比が低くなる。
つまり、
図5に示したように、第1の層のみを用いたフィルムの成形条件下における限界ドラフト比は29程度であった。しかし、第1の層11の幅方向における両端部に、相対的に温度が高い第2の層12を積層することで、第1の層11に第2の層12が積層された両端部における樹脂材3a、3bの実質的な限界ドラフト比が29を超えるまで、ドローレゾナンス現象の発生を抑制できると考えられる。
【0024】
なお、第2の層12を形成する樹脂材3bの吐出速度を高めるために、第1の押出機6の吐出量を10[kg/h]の一定にし、第2の押出機7の吐出量を、2.6[kg/h]から5[kg/h]に単純に増やすことが考えられる。しかし、この場合には、Tダイ8の吐出口8aから吐出される、第2の層12を形成する樹脂材3bの吐出速度が速くならず、第2の層12が形成される幅が広くなるだけである。つまり、第2の押出機7の吐出量を上述のように単純に増やした場合、第1及び第2の層11、12の幅寸法の比に関して、第2の層12の幅:第1の層11の幅:第2の層12の幅=1.3:10:1.3が、2.5:10:2.5となるだけで、第2の層12を形成する樹脂材3bの流速の増加に寄与しない。そのため、第2の層12を形成する樹脂材3bの吐出量を増やすためには、吐出口8aの端部における流路を広げることと、樹脂材3bの流動性を高めることが有効である。したがって、本実施形態のように、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を高めることで粘度を低下させ、樹脂材3bの流動性を高めることが非常に有効である。
【0025】
図9に、第2の押出機7から第2の層12を形成する樹脂材3bを260℃で吐出すると共に、第1の押出機6からの吐出量と、第2の押出機7からの吐出量とを変更した場合において、第1の層11の両端部での限界ドラフト比の実験結果を示す。
ここで、Tダイの吐出口の全幅にわたって第1の層を形成する樹脂材のみでフィルムを成形した場合(
図5)と、吐出口8aの幅方向における両端部において第1の層11に第2の層12を積層した場合とを比べる。第1の層11に第2の層12を積層した場合には、
図9に示すように、第1の層11を形成する樹脂材3の重量に対して、第2の層12を形成する樹脂材3を積層する比率(重量比)の変化にかかわらずに、第1の層11の両端部での限界ドラフト比が高くなった。
図9に示すように、本実施形態の実験結果によれば、第2の押出機7から供給される第2の層12を形成する樹脂材3bの供給量が2.6[kg/h]のとき、すなわち、第1の押出機6からの供給量に対する第2の押出機7からの供給量の重量比が20.6[%]のときに、限界ドラフト比が最も高くなった。また、
図9に示すように、第1の押出機6からの供給量に対する第2の押出機7からの供給量の重量比が、15[%]以上、25[%]以下の範囲内で、限界ドラフト比を高める効果が十分に得られた。したがって、供給工程では、第2の層12を形成する樹脂材3bの重量を、第1の層11を形成する樹脂材3の重量の15%以上、25%以下にすることが、ドローレゾナンス現象の発生を抑制する上で好ましい。
【表1】
表1において、限界ドラフト比の向上率は、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度と、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度とが等しいとき、すなわち、220℃であるときの限界ドラフト比に対する増加率を示している。
表1に示すように、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度の上昇に伴って、第1の層11に第2の層12が積層された部分での限界ドラフト比が高くなる。第1の層11を形成する樹脂材3aの温度が200℃である場合には、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度が220℃以上であるときに、限界ドラフト比の向上率が十分に得られた。すなわち、第1の層11の温度に比べて、第2の層12の温度が20℃以上高い場合に、第1の層11に第2の層12が積層された部分での限界ドラフト比が高められ、第1の層11の端部におけるドローレゾナンス現象の発生を効果的に抑えることができる。なお、第1の層11に比べて温度が高い第2の層12は、第1の層11との温度差が20℃未満の場合、例えば第1の層11よりも10℃程度高い場合には、第1の層11に第2の層12が積層された部分での限界ドラフト比を高める効果が十分に得られないので好ましくない。
【0026】
上述したように、本実施形態のフィルム製造方法によれば、第1の層11の両端部に積層する第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも20℃以上高くすることによって、第1の層11の幅方向における端部にドローレゾナンス現象が発生することを抑え、フィルムの成形速度を高めることができる。したがって、フィルムを高速で成形することが困難な、伸長粘度である歪み硬化度λが低い樹脂材を用いる場合であっても、フィルムの成形速度を高めることが可能になる。
【0027】
加えて、本実施形態では、第1の層11を形成する樹脂材3aと、第2の層12を形成する樹脂材3bとを同一にすることで、トリミング工程等で切断された第1の層11に第2の層12が積層された部分を廃棄することなく、フィルムの製造工程で再利用することが可能になる。したがって、トリミング工程で切断されることによってフィルムの製品領域にならない第2の層12を形成する樹脂材3bとして、トリミング工程で切断された部分を再利用することで、フィルムの生産効率を高めることができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、第1の層11の両端部に第2の層12を積層し、第1の層11の両端部の温度のみが高められるので、第1の層を形成する樹脂材の温度を高めた場合に、成形したフィルムの幅が狭くなるネックイン現象が顕著になることも避けられ、フィルムの幅を一定に保つことができる。
【0029】
なお、本実施形態のフィルム製造方法では、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度を220℃とし、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を260℃とした場合について説明したが、樹脂材3a、3bの温度の組み合わせを限定するものではない。第1の層11を形成する樹脂材3aの温度よりも、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度が20℃以上高くされれば効果が十分に得られ、例えば、第1の層11を形成する樹脂材3aの温度を180℃とし、第2の層12を形成する樹脂材3bの温度を例えば200℃としてもよいことは勿論である。
また、本実施形態では、第1の層11を形成する樹脂材3aを供給する第1の押出機6と、第2の層12を形成する樹脂材3bを供給する第2の押出機7と、を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、第1の層の幅方向における両端部に積層する第2の層を形成する樹脂材をそれぞれ供給するための一組の第2の押出機、第3の押出機をそれぞれ用いてもよい。
また、本実施形態のフィルム製造方法では、Tダイ8から吐出される第1の層11の両端部に第2の層12を積層させて各樹脂材3a、3bを吐出したが、必要に応じて、更に別の層を、第1の層の両面にそれぞれ積層するようにTダイに別の樹脂材を供給するように構成されてもよい。
【解決手段】第1の層11及び第1の層11上に積層される第2の層12をそれぞれ形成する熱可塑性を有する樹脂材3を溶融し、第1及び第2の押出機6、7からそれぞれTダイ8に供給する第1工程と、Tダイ8の吐出口8aから、吐出口8aの幅方向における第1の層11の両端部に第2の層12を積層させながら樹脂材3を吐出する第2工程と、を有する。第1工程では、第2の層12を形成する樹脂材3の温度を、第1の層11を形成する樹脂材3の温度よりも20℃以上高くする。