特許第5756556号(P5756556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5756556
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】ロールプレス設備
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/00 20060101AFI20150709BHJP
   B21B 37/48 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B21C47/00 D
   B21B37/48 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-244705(P2014-244705)
(22)【出願日】2014年12月3日
【審査請求日】2014年12月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】多田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】磯野 光永
(72)【発明者】
【氏名】山我 拓
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−233298(JP,A)
【文献】 特開2011−088189(JP,A)
【文献】 特開平03−042101(JP,A)
【文献】 特開昭60−144271(JP,A)
【文献】 特開昭58−058923(JP,A)
【文献】 特開平03−140418(JP,A)
【文献】 特開2013−175396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 47/00,
B21B 1/40,37/00,37/48,
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の材料をロールプレスするロールプレス機本体と、
前記ロールプレス機本体の入側に設置され、前記シート状の材料がコイル状に巻回されたプレス前コイルを装着する巻出機と、
前記ロールプレス機本体の出側に設置され、ロールプレス後の前記シート状の材料を巻回しプレス後コイルとする巻取機と、
前記ロールプレス機本体の入側に設置された予熱ロールと、
前記巻出機と前記予熱ロールとの間に設けられ、前記シート状の材料に加わる張力を調整する張力調整機構と、
前記予熱ロールを回転駆動する予熱ロール駆動機構を備え、
前記予熱ロール駆動機構は、駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチを含み、前記ロールプレス機本体の主ロールを駆動する主ロール駆動機構から分岐されたものであることを特徴とするロールプレス設備。
【請求項2】
シート状の材料をロールプレスするロールプレス機本体と、
前記ロールプレス機本体の入側に設置され、前記シート状の材料がコイル状に巻回されたプレス前コイルを装着する巻出機と、
前記ロールプレス機本体の出側に設置され、ロールプレス後の前記シート状の材料を巻回しプレス後コイルとする巻取機と、
前記ロールプレス機本体の出側に設置された徐冷ロールと、
前記徐冷ロールと前記巻取機との間に設けられ、前記シート状の材料に加わる張力を調整する張力調整機構と、
前記徐冷ロールを回転駆動する徐冷ロール駆動機構を備え、
前記徐冷ロール駆動機構は、駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチを含み、前記ロールプレス機本体の主ロールを駆動する主ロール駆動機構から分岐されたものであることを特徴とするロールプレス設備。
【請求項3】
請求項1〜の何れかに記載のロールプレス設備において、
前記クラッチは、パウダークラッチであることを特徴とするロールプレス設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールプレス設備に係り、特に電極材料を圧縮加工するロールプレス設備に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、キャパシタ等の正極や負極の電極材料は、アルミ箔、銅箔など(金属箔集電体)の帯状の基材の両面に電極活物質を塗工したものである。電極活物質の密度を上げ且つ均一の厚みとなるように電極材料はロールプレス設備を通してロールプレス(圧縮加工)される。電極材料の圧縮加工後の要求厚み精度は、例えば、±2μm程度と厳しく、近年さらに高精度化が望まれている(±1〜2μm)。
【0003】
また、電極材料の圧縮加工には、冷間(常温)プレスや温間プレスがある。温間プレス加工では、圧縮加工を行う主ロールとして、例えば、ロール内部に油等の熱媒体を流す熱媒体流路が形成された加熱ロール(ドリルドロール)が用いられ、例えば、百〜百数十℃程度の温度で電極材料が圧縮加工される。
【0004】
ロールプレス設備では、加熱ロールが用いられる場合、主ロールの熱が電極材料に奪われるのを防止(抜熱を防止)するため、ロールプレス機本体の上流側に、予熱ロールを設置し、電極材料を予熱している(例えば特許文献1)。なお、予熱ロールは電極材料が主ロールにおいて急加熱されるのを抑制する働きも有する。電極材料を予熱して上下主ロール間に供給して圧縮加工することにより、電極材料の圧縮加工における厚み精度を向上させることができる。
また、特許文献1のロールプレス設備では、モータによる駆動力がギア、ベルト等で構成される駆動伝達機構を介して、加熱ロールや予熱ロールに供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐245788号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、予熱ロールは、駆動系のコストアップを避けるために、主ロールの駆動系から分岐した駆動系(タイミングベルトやギヤなど)を用いて駆動される。この場合、主ロールの周速と予熱ロールの周速が同じになるようにしている。
【0007】
一方、ロールプレス設備にて電極材料を圧縮加工する際、基材となる箔が若干圧延される。すなわち、ロールによる圧縮加工は、理想的には、基材となる箔が圧延されないようにして活物質のみ圧縮加工するものであるが、実際には、ロールプレス設備にて圧縮加工する際、活物質が塗布された領域の箔が若干圧延される。箔が圧延されると圧縮加工された電極材料は長手方向に伸びることになるため、主ロールの入側と出側では電極材料の移動速度が異なることになる(出側が入側よりも早くなる)。
【0008】
このため、予熱ロールの周速が主ロールの周速と同じ場合には、予熱ロールと主ロールとの間の電極材料に微小なたるみが生じることになり、電極材料に皺が発生する要因となり得る。近年、活物質の圧縮加工について高圧縮率の要求が強くなっていることからこの課題に対応することがより重要となる。
従来、特許文献1を含めて、このような電極材料の圧縮加工に起因する長手方向の伸びにより、予熱ロールと主ロール間の電極材料にたるみが発生することについては考慮されていない。
【0009】
なお、ロールプレス設備では、温間プレス加工した電極材料が主ロール下流側のガイドロールにより急冷却されないようにするため、主ロールの下流側に徐冷ロールが設けられる場合があるが、この場合においても予熱ロールの場合と同様な課題を有する。
【0010】
本発明の目的は、予熱ロールまたは徐冷ロールを備えたロールプレス設備において、予熱ロールまたは徐冷ロールと主ロールとの間の電極材料にたるみが発生するのを効果的に抑制することが可能なロールプレス設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、予熱ロールまたは徐冷ロールを備えたロールプレス設備において、予熱ロールまたは徐冷ロールの駆動系に、伝達トルクを可変可能なクラッチ(駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチ)を介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予熱ロールまたは徐冷ロールと主ロールとの間の電極材料にたるみが発生するのを効果的に抑制することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るロールプレス設備における予熱ロールの駆動系を説明する図。
図2】主ロールと予熱ロールまたは徐冷ロールとの間の電極材料にたるみが発生することを説明する図。
図3】本発明の実施例に係るロールプレス設備の全体概要を示すシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0015】
先ず、本発明に至った経緯について詳しく説明する。
上述したように、ロールプレス機本体の主ロールとして加熱ロールを用いた場合には、主ロールでの材料の急加熱または主ロールからの抜熱や、主ロール下流側のガイドロールでの材料の急冷却を防止するために、予熱ロールや徐冷ロールを設置するのが望ましい。予熱ロールと徐冷ロールは、例えば、主ロール(加熱ロール)に供給する油等の熱媒体よりも低温の熱媒体が供給されて、ロール表面が常温よりも高く主ロール表面の温度よりも低い温度に維持されている。予熱ロールと徐冷ロールは、基本的には、設置位置(主ロールの入側か出側か)が異なるだけであり、同一の構造を有する。予熱ロールと徐冷ロールは、油循環機構や加熱機構を備えるため、通常のガイドロールと比して重い。通常のガイドロールは、フリーロール(従動ロール)であるが、重い予熱ロールや徐冷ロールを、ガイドロールと同様にフリーロールとした場合、予熱ロールまたは徐冷ロールと主ロールとの間の材料に対して必要以上の張力を与えてしまう。このため、特に、電極材料のような材料を圧縮加工するロールプレス設備では、予熱ロールや徐冷ロールをフリーロールとすることは困難である。
【0016】
また、上述したように、主ロールの駆動系から分岐した駆動系(タイミングベルトやギア,スプロケットなど)を用いて予熱ロールや徐冷ロールを駆動する場合、主ロールの周速と予熱ロールの周速が同じになるようにしている。一方、電極材料を圧縮加工する場合、上述したように、基材となる箔が若干圧延され、電極材料は長手方向に伸びることになるため、主ロールの入側と出側では電極材料の移動速度が異なることになる(入側移動速度Vin<出側移動速度Vout)。また、主ロールの周速度V1は、主ロールのニップ位置における電極材料の移動速度と等しく、主ロールのニップ位置を通過した電極材料の移動速度、即ち、出側移動速度Voutよりも僅かに遅い。すなわち、電極材料の箔が若干圧延されることにより、Vin<V1<Voutの関係となることから、予熱ロールの周速度V2=主ロールの周速度V1として予熱ロールを駆動した場合には、V2>Vinになる。そうすると、予熱ロールを経て予熱ロールと主ロールとの間に供給される単位時間当たりの電極材料の長さが主ロールで圧縮加工される単位時間当たりの電極材料の長さよりも長くなることから、予熱ロールと主ロールとの間の電極材料にたるみが発生することになる。
【0017】
また、主ロールと徐冷ロールとの間の電極材料にも類似の現象によりたるみが発生する。すなわち、徐冷ロールの場合、徐冷ロールの周速度V3=主ロールの周速度V1として予熱ロールを駆動した場合には、V3<Voutになることから、徐冷ロールが電極材料の移動に対してブレーキとなり、主ロールと徐冷ロールとの間の電極材料にたるみが発生することになる。
【0018】
これらの概要を図2に示す。図2おいて、符号2は主ロールであり、符号10は主ロール2の入側に配置される予熱ロール、符号11は主ロール2の出側に配置される徐冷ロールであり、符号12は電極材料を示す。図2に示す関係において、V1=V2の関係で予熱ロール10が駆動される場合、V2>Vinとなり予熱ロール10と主ロール2との間で電極材料12はたるむことになる。また、V1=V3の関係で徐冷ロール11が駆動される場合、V3<Voutとなり主ロール2と徐冷ロール11との間で電極材料12はたるむことになる。電極材料にたるみが生じると電極材料に皺が発生する可能性ある。
【0019】
また、予熱ロールの駆動について、V2=Vinとなるように、例えば、スプロケットの歯数等を変更して減速比を変え、予めV2<V1となるように主ロールと予熱ロールの周速比を調整することが考えられる。しかし、主ロールの荷重条件(プレス条件)により、電極材料の長手方向の伸び量が変化し、V1とVinとVoutの関係が変化するため、調整した主ロールと予熱ロールの周速比が固定の場合には、これらの変化に追従することができず、結果的に予熱ロールと主ロールとの間の電極材料のたるみを効果的に抑制することが難しい。これらは、徐冷ロールと主ロールとの周速比を予め調整した場合についても同様である。
【0020】
また、予熱ロールや徐冷ロールの駆動源として主ロールを駆動するモータとは別のモータを用いた単独駆動系を採用することが考えられるが、単独駆動系とすることはコストアップの要因となる。また、主ロールの周速よりも遅くなるように予熱ロールや徐冷ロールの単独駆動系で予熱ロールや徐冷ロールの周速を調整することも考えられるが、この場合、主ロールの荷重条件(プレス条件)の変更に対応して周速を微調整する必要があり、このような速度の微調整を簡易に行うことは難しい。
【0021】
そこで、本発明者らは、上記の点も含めて種々検討した結果、予熱ロールまたは徐冷ロールの駆動系に、伝達トルクを可変可能なクラッチ、言い換えれば、駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチを介在させるようにすれば良いことを見出した。
すなわち、予熱ロールや徐冷ロールはフリーロールとすると、その重さに起因して、予熱ロールまたは徐冷ロールと主ロールとの間の電極材料に必要以上の張力を与えてしまう。このため、予熱ロールや徐冷ロールをフリーロールとしないで駆動させる必要があるが、予熱ロールや徐冷ロールの駆動に必要な動力は小さくても良いことに着目した。
また、予熱ロールや徐冷ロールを駆動させる場合、予熱ロールや徐冷ロールの回転は、上述したように、主ロールの荷重条件(プレス条件)の変更により電極材料の長手方向の伸びの変化に追従させる必要がある。これについては、予熱ロールや徐冷ロールの駆動系により予熱ロールや徐冷ロールの回転速度を積極的に調整する方式ではなく、ロールプレス設備における電極材料の張力調整用のダンサーロール等による張力調整作用が利用できないかについて着目した。
【0022】
そして、本発明者らは、駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチを用いることにより、ダンサーロールによる張力調整作用が予熱ロールや徐冷ロールの回転速度の調整として利用できることを見出した。このようなクラッチとしては、パウダークラッチなどがある。そして、このようなクラッチは、スリップ可能な状態でトルク伝達を行うものであることから、大きなトルクを伝達することには不向きであるが、上述したように、予熱ロールや徐冷ロールの駆動に必要な動力は小さくても良いことから、予熱ロールや徐冷ロールの駆動系に用いることができる。
【0023】
次に、本発明を予熱ロールの駆動系(駆動機構)に適用した例について図面を用いて説明する。
先ず、図3を用いて、本発明が適用されるロールプレス設備全体の構成例について説明する。
ロールプレス機本体1の入り側にはシート状の電極材料12がコイル状に巻回されたプレス前コイルを装着する巻出機4が設けられ、ロールプレス機本体1の出側にはプレス後の電極材料を巻回しプレス後コイルとする巻取機5が設けられている。電極材料12は、帯状基材(アルミ箔や銅箔など)の両面に電極活物質を塗工したものである。リチウムイオン二次電池などの電極材料の他にキャパシタ等の電極材料も適用される。
【0024】
ロールプレス機本体1は、主ロール2(上プレスロールと下プレスロール)を備え、上プレスロールと下プレスロールとの間に電極材料11を通過させて圧縮加工を行う。ロールプレス機本体1には、図示省略しているが、上下プレスロール間の間隙または圧縮荷重を調整する圧下装置と、上下プレスロールを巻取機5と同期して回転速度制御可能に駆動する駆動機構(後述の主ロール駆動系)と、ロールのたわみを補正するベンド機構などを備えている。また、主ロール2には、加熱ロールが用いられ、電極材料12は主ロール2により温間プレス加工される。図示省略しているが、加熱ロールはドリルドロールが用いられている。ドリルドロールは、ロール内部に熱媒体を流す熱媒体流路が形成されたものである。熱媒体としては、例えば、油が用いられ、例えば、150℃程度に加熱されている。
【0025】
また、ロールプレス機本体1の入側には、巻出機4とロールプレス機本体1との間に、電極材料12に対する張力を一定に制御し、電極材料12を搬送するための入側張力制御・搬送機構6が設けられており、ロールプレス機本体1の出側には、ロールプレス機本体1と巻取機5との間に、電極材料12に対する張力を一定に制御し、電極材料12を搬送するための出側張力制御・搬送機構7が設けられている。入側及び出側の張力制御・搬送機構には、複数のガイドロールが設けられている。ガイドロールとしては、通常のガイドロール8の他に、張力を制御する働きを有するダンサーロール9や、電極材料12が主ロール2において急加熱されるのを抑制するとともに主ロール2が電極材料12より抜熱されるのを抑制する予熱ロール10が設置されている。
【0026】
ダンサーロール9は電極材料12に加わる張力を制御するものである。ダンサーロール9は、例えば、図3において、下側に一定の力が付与され、電極材料12に所定の張力(例えば10〜200N)が付与される。また、プレスロール機本体1の入側のダンサ―ロール9は、ダンサ―ロール9の上下の位置情報に基づき、巻出機4の巻出し速度が調整され、ダンサ―ロール9が所定範囲内に保持されるようになっている。プレスロール機本体1の出側のダンサ―ロール9も同様にダンサ―ロール9の上下の位置情報に基づき、巻取機5の巻取り速度が調整され、ダンサ―ロール9が所定範囲内に保持されるようになっている。
【0027】
予熱ロール10は二つ設けられ、二つの予熱ロール10により電極材料(シート)12の両面が予熱される。電極材料12が片面に活物質を塗布したものである場合には、一つの予熱ロールを活物質と接する側に配置するようにしても良い。予熱ロール10は、ロール内部に熱媒体(油など)を流す熱媒体流路が形成されたものであり、例えば、主ロール2(加熱ロール)に供給する油等の熱媒体よりも低温の熱媒体が供給されて、ロール表面が常温よりも高く主ロール表面の温度よりも低い温度に維持されている。予熱ロール10は、油循環機構や加熱機構を備えるため、通常のガイドロール8と比して重い。なお、図3では、予熱ロール10を設けた場合について説明しているが、ロールプレス機本体1の出側に、徐冷ロールを設けるようにしても良い。例えば、ロールプレス機本体1の出側に配置された二つのガイドロール8を徐冷ロールとする。徐冷ロールは、基本的には、予熱ロールと同じ構造を有する。
【0028】
また、図3において、入側張力制御・搬送機構6及び出側張力制御・搬送機構7におけるガイドロール8の配置が概念的に図示されており、実際には、機器の配置に応じて多数のガイドロール(例えば10〜30本程度)が設けられている。
【0029】
また、ロールプレス機本体1の下流側には、ロールプレス後の電極材料12の厚みを計測する厚み計測3が設けられ、厚み計3の計測値に基づき圧下装置やベンド機構が制御される。
【0030】
次に、図1に基づき、予熱ロール10の駆動系(駆動機構)を説明する。
主ロール2は、駆動モータ13と駆動モータ13の回転を減速して主ロール2に伝達する減速歯車機構14などから構成される主ロール駆動機構(MRD)により駆動される。減速歯車機構14には、上側の主ロール2を反時計方向に回転駆動させるとともに下側の主ロール2を時計方向に回転駆動するための分岐歯車機構が設けられている。予熱ロール10は主ロール駆動機構から分岐した予熱ロール駆動機構(HRD)により駆動される。予熱ロール駆動機構は、ギア,ベルトなどで構成され、予熱ロール10の周速度が主ロール2の周速度と同じになるように、主ロール駆動機構で減速された回転をさらに減速する減速機構15を備えている。また、減速機構15には、巻出機側の予熱ロール10を反時計方向に回転駆動させるとともに主ロール側の予熱ロール10を時計方向に回転駆動するための分岐歯車機構が設けられている。そして、減速機構15と予熱ロール10との間には、伝達トルクを可変可能なクラッチ、例えば、パウダークラッチ16が設けられている。パウダークラッチ16は、磁性粉体(パウダ)を介してトルクを伝達・制御するクラッチである。パウダークラッチの伝達率は例えば50%程度となるように調整されている。主ロール駆動機構および予熱ロール駆動機構の配置や構成は上述の構成に限定されるものではなく、適宜、配置や構成を変更しても良い。
【0031】
このように予熱ロール駆動機構を構成することにより、予熱ロール10と主ロール2との間の電極材料12にたるみが発生するのを効果的に抑制することが可能となる。すなわち、予熱ロール10が重くても、予熱ロール10の回転駆動には大きなトルクが不要であり、パウダークラッチのトルク伝達率を例えば50%程度としても、予熱ロール10と主ロール2との間の電極材料12に予熱ロール10の重さに起因した必要以上の張力を与えることなく電極材料12を搬送することができる。また、電極材料12の長手方向の伸びに起因して入側移動速度Vinが周速度V1よりも遅くなるため、減速機構15により主ロールの周速度V1と同じになるように設定した予熱ロール10の周速度V2が入側移動速度Vinよりも速くなるが、本実施例では、パウダークラッチ16が予熱ロール駆動機構に介在している。パウダークラッチ16は、伝達トルクを可変可能なクラッチであり、言い換えれば、駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチである。したがって、プレスロール機本体1の入側のダンサ―ロール9による張力調整作用、すなわち、ダンサ―ロール9により調整された電極材料12の張力によって、駆動側と被駆動側(予熱ロール側)との間にスリップが生じて、予熱ロール10の回転速度が減速され、予熱ロール10の周速度V2が入側移動速度Vinに近づく。このような作用により、主ロール2における荷重条件(プレス条件)の変更などに起因して生じる電極材料12の長手方向の伸びの変化に追従して容易に予熱ロール10の回転速度を調整することができ、そして、予熱ロール10と主ロール2との間の電極材料12にたるみが発生することを抑制することができる。
【0032】
本実施例では、予熱ロール10の回転駆動を、主ロール駆動機構から分岐させた予熱ロール駆動機構により行うようにしているので、予熱ロール単独の駆動機構を設ける場合よりもコスト低減できる。ただし、予熱ロール単独の駆動機構を設ける場合にも、原理上、本発明を適用できる。すなわち、予熱ロール単独の駆動機構にパウダークラッチを介在させるようにすれば、同様に、電極材料12の長手方向の伸びの変化に追従して容易に予熱ロール10の回転速度を調整することができ、そして、予熱ロール10と主ロール2との間の電極材料12にたるみが発生することを抑制することができる。
【0033】
図1に示す実施例では、予熱ロール10の駆動系へ適用した場合について説明したが、図2に示すように、ロールプレス機本体の出側に徐冷ロール13を設けた場合にも徐冷ロールの駆動系に同様に本発明を適用できる。すなわち、プレスロール機本体1の出側のダンサ―ロール9による張力調整作用、すなわち、ダンサ―ロール9により調整された電極材料12の張力によって、駆動側と被駆動側(徐冷ロール側)との間にスリップが生じて、徐冷ロール13の回転速度が増速され、徐冷ロール13の周速度V3が入側移動速度Voutに近づく。
【0034】
伝達トルクを可変可能なクラッチとしては、パウダークラッチに限定されることなく、ヒステリス式やインダクション式などの空隙式のクラッチを用いることができ、また、駆動側と被駆動側にスリップが生じてもトルク伝達することができれば、摩擦板式のクラッチも用いることができる。但し、寿命や取扱い性などを考慮すると、パウダークラッチが好適である。
【0035】
また、上述の実施例では、予熱ロール10の周速を主ロールの周速と同じになるように減速機構を構成しているが、例えば、予熱ロール10の周速を主ロールの周速よりも予め例えば1〜3%程度遅くなるように設定しても良い(徐冷ロールの場合には、徐冷ロールの周速が、予め主ロールの周速よりも例えば1〜3%程度速くなるように設定する。)。この場合においても、パウダークラッチの作用により、電極材料12の長手方向の伸びの変化に追従して容易に予熱ロール10の回転速度を調整することができ、そして、予熱ロール10と主ロール2との間の電極材料12にたるみが発生することを抑制することができる。
【0036】
また、張力制御機構はダンサーロール機構を用いて説明をしているが、張力計からの巻出・巻取機のトルク制御方式等、他の張力制御機構においても同様に適用可能である。
【0037】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・ロールプレス機本体、2・・・主ロール(加熱ロール)、3・・・厚み計、4・・・巻出機、5・・・巻取機、6・・・入側張力制御・搬送機構、7・・・出側張力制御・搬送機構、8・・・ガイドロール、9・・・ダンサーロール、10・・・予熱ロール、11・・・徐冷ロール、12・・・電極材料、13・・・駆動モータ、14・・・減速歯車機構、15・・・減速機構、16・・・パウダークラッチ。
【要約】
【課題】
予熱ロールまたは徐冷ロールを備えたロールプレス設備において、予熱ロールまたは徐冷ロールと主ロールとの間の電極材料にたるみが発生するのを効果的に抑制する。
【解決手段】
予熱ロール10または徐冷ロール13を備えたロールプレス設備において、予熱ロール10または徐冷ロール13の駆動機構に、パウダークラッチ16などの伝達トルクを可変可能なクラッチ(駆動側と被駆動側との間がスリップ可能状態でトルク伝達を行うクラッチ)を介在させる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3