特許第5756586号(P5756586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5756586自動車コーティング施工方法並びにコーティング専用施工ブース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5756586
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】自動車コーティング施工方法並びにコーティング専用施工ブース
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20150709BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20150709BHJP
   B05C 15/00 20060101ALI20150709BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20150709BHJP
   B05C 9/12 20060101ALI20150709BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B05D3/02 E
   B05D7/14 L
   B05C15/00
   B05C11/00
   B05C9/12
   B05C9/14
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-172108(P2014-172108)
(22)【出願日】2014年8月26日
【審査請求日】2014年8月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514216605
【氏名又は名称】株式会社アペックス
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【弁理士】
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】郡司 公生
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−215635(JP,A)
【文献】 特開2005−028360(JP,A)
【文献】 特開2006−212478(JP,A)
【文献】 実開昭62−180757(JP,U)
【文献】 実開平06−015764(JP,U)
【文献】 特開2000−040406(JP,A)
【文献】 特開2005−028359(JP,A)
【文献】 特開平01−115467(JP,A)
【文献】 実開平04−135156(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B05C 7/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体全体に均一で良好なコーティング被膜を形成すると共に、施工面の観察バラツキを平均化させる自動車のコーティング施工方法であって、下地処理工程と、塗装表面乾燥処理工程と、コーティング処理工程と、コーティング完全乾燥処理工程とを基本工程として含み、
加熱乾燥用光源と観察用光源とを相互近傍に配置する自動車コーティング施工ブースを利用する構成から成り、
前記加熱乾燥用光源には、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の異なる放射角度毎にコントラストをつけて集光するリフレクターを備え、ブースの内外から赤外線照射状態を目視可能とし
前記観察用光源には、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように、十分に広い面積を持つ光源を用いることで、目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させ、前記加熱乾燥用光源と前記観察用光源は、前記ブースの間口から奥行き方向に向かう両側壁と天井の各面に少なくとも各1列以上を備え、
前記塗装表面乾燥処理工程と前記コーティング剤完全乾燥処理工程において前記加熱乾燥用光源から照射される赤外線の照射範囲を前記異なる照射角度にコントラストをつけた目視を可能とすると共に、前記観察用光源を用いることで目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させた環境で観察が可能となることを特徴とする自動車コーティング施工方法
【請求項2】
前記自動車コーティング施工方法において、洗浄、並びに塗装表面に付着した異物の除去を行う前記下地処理工程の後であって、前記塗装表面乾燥処理工程前に、純水による脱脂洗浄処理を行うための脱脂洗浄工程を経ることを特徴とする請求項1に記載の自動車コーティング施工方法。
【請求項3】
前記自動車コーティング施工方法において、少なくとも前記下地処理工程における初期状態、並びに洗浄や研磨等の下地処理終了後の下地の観察の際、前記ブースとは別ブースであって、内部が黒色の暗室状であり、光源には略点光源又は略線光源を使用するブースを利用することによって、塗装表面の状態を把握する観察方法を取り入れたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車コーティング施工方法。
【請求項4】
前記自動車コーティング施工方法において、前記加熱乾燥用光源に、近赤外線、中赤外線、及び遠赤外線の三つの波長の内のいずれか、又は複数の波長の組合せによる同時照射が可能な光源を用い、熱伝導率や赤外線吸収率が異なる地材との関係又はコーティング剤の硬化特性と波長の関係から、予熱、及び加熱初期から終了までのあいだ、係る波長を使い分ける方法を採り入れたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動車コーティング施工方法。
【請求項5】
前記自動車コーティング施工方法において、赤外線乾燥による急激な温度上昇を嫌うコーティング剤への対応として、前記加熱乾燥用光源による加熱手段の他に、ボイラーによる温風乾燥手段を備え、該温風乾燥手段による初期乾燥を行った後、前記加熱乾燥用光源を用いて赤外線照射による焼き付け乾燥を行うなど、コーティング剤の種類に応じて使い分ける方法を取り入れたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の自動車コーティング施工方法。
【請求項6】
前記自動車コーティング施工方法に用いられ、車体全体に均一で良好なコーティング被膜を形成すると共に、施工面の観察バラツキを平均化させる自動車のコーティング施工ブースであって、
加熱乾燥用光源と観察用光源の二種類の光源を備え、
前記の両光源は、前記ブースの間口から奥行き方向に向かう両側壁と天井の各面に少なくとも各1列以上を相互近傍に配置し、
前記加熱乾燥用光源には、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の異なる放射角度毎にコントラストをつけて集光するリフレクターを備え、ブースの内外から赤外線照射状態を目視可能とし
前記観察用光源には、ブース内の長手方向に渡って配置され、かつ、
施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を有する光源を採用し、目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させたことを特徴とする自動車コーティング専用施工ブース。
【請求項7】
前記加熱乾燥用光源に車体との位置調整機構及び照射角調整機構のいずれか、又は両方が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の自動車コーティング専用施工ブース。
【請求項8】
前記自動車コーティング専用施工ブースにおいて、
前記加熱乾燥用光源による加熱手段の他に、又は併用してボイラーによる温風乾燥手段を備えていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の自動車コーティング専用施工ブース。
【請求項9】
前記加熱乾燥用光源に、近赤外線、中波赤外線、及び遠赤外線の3つの波長の内のいずれか、又はこれら複数の波長の同時照射が可能な光源を用いていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の自動車コーティング専用施工ブース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のコーティングに関し、詳しくは、コーティングブース内に設置される加熱乾燥用光源にリフレクターを用いてブースの内外から肉眼で赤外線の照射状態を目視可能とし、車体全体に対する均一な照射、或いは特定の部位への照射状態を把握し易くすること、並びに、施工者がどの位置からどの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を持つ光源を用いて、前記ブース内を屋外環境光に近似させ、観察者の判断にばらつきがでないようにする自動車コーティングの施工方法とその方法に用いられるコーティングブースの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装技術には、色、光沢、平滑性、肉持ち感、メタリック感、深み感(奥行き感)、などの種々のアピアランス(見た目)がユーザから求められ、自動車製造メーカーはこれに対応して塗装技術を発達させてきた。大量生産のために塗装ラインまで自動化された今日においては、きめ細やかな制御がなされたロボットアーム等により、均一で厚みムラのない塗装膜が複数層成形され、ソリッド系でもメタリック系でも、最終工程から出てくる新車の塗装は、一般の需要者の目に映る美しさとしては、十分な仕上がりを見せるものである。しかしながら、高級車はもちろんのこと、最近では小型自動車にまで、ディーラーオプションとしてコーティングが用意されている。これは、オートメーション化された製造ラインを終えて納車される新車の塗装状態には、まだ仕上げ領域が僅かながら残されており、高級志向の購入者や自動車愛好家等は、係る領域までの光沢や艶といったアピアランスを、コーティング技術に求めるものと考えられる。もちろん、新車以外であっても、クラシックカーやビンテージカーと称されるような、鑑賞目的とされるような車両、或いは販売促進を図るためのショールーム展示車に求められるアピアランスの要求は更に高いものといえる。
【0003】
自動車のコーティング技術は、その歴史をたどると、1970年代に大流行したポリマー加工が発祥と考えられる。この当時のコーティングの主流は、石油系溶剤を主成分とする液状のワックス類に、テフロン(登録商標)やフッソ等を添加した液剤を、ポリッシャー等を用いて塗装表面に塗りこんで仕上げるものであった。その後、様々な液剤メーカーや施工業者が、理想のコーティング剤を求め続けた結果、現在の主流といえる「ガラス系コーティング」と表現されるコーティング技術へと発展し、種々のコーティング剤が開発されている。これらのガラス系コーティング剤の中には、例えば、石英と同様の構造体を持つ硬いガラス系皮膜が塗装と強く結合し,本物のガラスのような光沢感が得られるというようなものや、ベースコートにセラミックスを用いて平滑性を高めるものなどがある。また、濡れたような被膜感が得られる高硬化型樹脂系コーティングや、従来からのポリマー等、様々なコンセプトの液剤が開発され、更なる進化を続けている。
【0004】
係るコーティング剤の開発と並行する様に、ポリッシャーやブース等の道具、或いは設備といった面でも同様に進化を遂げている。高温に加熱して行う焼き付けコーティングにおいては、温度や湿度、或いは加熱・乾燥時間等の管理が極めて重要な要素となるため、これらを制御可能な自動車コーティング専用ブースを導入し、より高品質なコーティングの提供を専門とする事業者も見受けられるようになってきている。
【0005】
自動車の表面状態は、新車の時からの使用状態や保管状態等によって大きく変化し、また、個人の自動車愛好家から、国際的な自動車ショーにおいて発表されるニューモデル、或いは貴重な高級ビンテージカー等、その種類や状態などによって、コーティングに求める目的や効果も異なるものである。撥水性、汚れや傷つき防止等の種々の効果のいずれについても、この30年間のコーティング剤の開発により、飛躍的に向上したといえる。そこで、自動車コーティング事業者は、依頼者の嗜好、予算、保管場所や使用状況、ボディカラーや使用状況などから、最適なコーティングを提案し、顧客側からの仕上がりニーズに応えるべく、コーティングのメニューも豊富なラインアップがなされ、充実が図られるようになってきた。
【0006】
しかしながら、どんなにコーティング剤や設備の開発が進んでも、下地工程やコーティング剤の塗布工程、若しくは仕上げ工程における磨き作業など、人の手作業に寄るところが大きく、作業者の経験や技術によって、その仕上がりに大きく差が生ずることもある。新車であればともかく、コーティングの下地となる塗膜の状態によっては、仕上がりに大きく影響し、特に塗りムラや磨きムラなどは、施工者の技術と観察環境によって大きく左右する。また、焼き付け作業においては、光源との距離、照射時間、又は温度等の管理も重要である。
【0007】
そこで、焼き付けコーティングでは、加熱に関する温度や時間、湿度の調整等,肌理細やかな条件設定が必要であり、また、これを観察しながら作業を行う作業者への観察環境を整えることが必要である。従来、焼き付け塗装に用いられる光源には可動式のものを用いたり、自動車塗装用ブースを利用したりすることが行われていた。係る自動車塗装用ブースを利用すれば、温度管理を容易とし、ほこり等の付着を防ぐことができるといったメリットがある。しかし、他方で、自動車塗装用ブースでは、観察用光源に特殊なものを用いているわけでもなく、単なる蛍光灯であることが多いため、ブース内で観察した場合と、太陽光の下で観察した場合とでは、色味などが見た目と異なってしまうという問題がある。
【0008】
このような問題に鑑みて、従来からも種々の技術が提案されている。例えば、発明の名称を「保護コート膜の製造方法およびそれに用いるブース」とするものが公知技術となっている(特許文献1参照)。
【0009】
また、文献2には、発明の名称を「自動車のつや出しコーティング方法」とするもので、「外表面の塗装面を洗浄し、その後乾燥させる工程から始まり、各工程を経て、遠赤外線を用いて60度〜90度の温度にて加熱することにより前記塗装面に前記コーティング剤を焼き付ける工程とを含むことを特徴とする自動車のつや出しコーティング方法」が記載され公知技術となっている(特許文献2参照)。
【0010】
また、文献3には、「剥離性水性被覆組成物及びこれを用いた自動車外板塗膜の一時保護方法」が記載され、公知技術となっている。これは、自動車外板塗膜との接着力が被膜温度によって大きく変化することなく、長時間経過後も容易に剥離可能な被膜を形成しうる剥離性水性被覆組成物および該組成物を用いる自動車外板塗膜の一時保護方法の提供である(特許文献3参照)。
【0011】
また文献4には、発明の名称を「保護膜形成方法及びその装置」とする「ストリッパブルペイントの塗布及び乾燥によって保護膜厚が均一に形成される保護膜形成方法及びその装置」が記載され、公知技術となっている。この保護膜形成方法は、塗装完成車にストリッパブルペイントを塗布する塗布工程1と、塗装完成車に塗布したストリッパブルペイントを予備乾燥する予備乾燥工程2と、予備乾燥した塗装完成車を本乾燥する本乾燥工程3によって行われるものである(特許文献4参照)。係る発明は、各工程事に専用のブースで処理するもので、各ブースの設置に広い敷地面積が必要であり、本願発明のように、その処理工程の大部分を同一ブースで行なう構成とは大きく異なっている。
【0012】
また文献5には、発明の名称を「表面保護被膜」とし、その内容が「プラスチック基材に適切な表面硬度を有し耐熱性、耐候性および密着性に優れた表面保護用の硬化被膜を形成する、生産性と経済性を兼ね備えた方法」とする技術も提供されている(特許文献5参照)。
【0013】
上記の先行技術として示した文献1から5のいずれも、本願発明と同様に塗装面に優れたコーティング被膜を形成するという、解決課題が共通している。しかし、上記の発明のいずれと本願発明 とを対比しても、本願発明の技術的要部ともいえる加熱乾燥用光源からの「赤外線照射の可視化」と、観察用光源からの「屋外環境光に近い観察の可能化」についてはこれらの技術文献には記載されておらず、またその示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2013−215635
【特許文献2】特公平07−012463
【特許文献3】特開平11−001640
【特許文献4】特開平07−080397
【特許文献5】特開2010−017644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
自動車の車体塗装面に、艷や光沢といった輝度性や、傷や汚れが付着し難い耐久性など、各コーティング剤が各々個別に有している優れた特性を発揮する膜層をムラなく成形すると共に、撥水角が初期の段階からMaxになり、施工直後に雨に濡れても乾燥不足による水ジミ発生の可能性が低くなるコーティング方法、及びその方法に用いるコーティングブースの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は、自動車の車体全体に均一で良好なコーティング被膜を形成すると共に、施工面の観察バラツキを平均化させる自動車のコーティング施工方法であって、下地処理工程と、塗装表面乾燥処理工程と、コーティング処理工程と、コーティング完全乾燥処理工程とを基本工程として含み、加熱乾燥用光源と観察用光源とを相互近傍に配置する自動車コーティング施工ブースを利用する構成から成り、前記加熱乾燥用光源には、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の異なる放射角度毎にコントラストをつけて集光するリフレクターを備え、ブースの内外から赤外線照射状態を目視可能とし、前記観察用光源には、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように、十分に広い面積を持つ光源を用いることで、目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させ、前記加熱乾燥用光源と前記観察用光源は、前記ブースの間口から奥行き方向に向かう両側壁と天井の各面に少なくとも各1列以上を備え、前記塗装表面乾燥処理工程と前記コーティング剤完全乾燥処理工程において前記加熱乾燥用光源から照射される赤外線の照射範囲を前記異なる照射角度にコントラストをつけた目視を可能とすると共に、前記観察用光源を用いることで目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させた環境で観察が可能となる構成を採用した。
【0017】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法は、前記自動車コーティング施工方法において、洗浄、並びに塗装表面に付着した異物の除去を行う前記下地処理工程の後であって、前記塗装表面乾燥処理工程の前に、純水による脱脂洗浄処理を行うための脱脂洗浄工程を経る構成を採用することもできる。
【0018】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法は、前記自動車コーティング施工方法において、少なくとも前記下地処理工程における初期状態、並びに洗浄や研磨等の下地処理終了後の下地の観察の際、前記ブースとは別ブースであって、内部が黒色の暗室状であり、光源には略点光源又は略線光源を使用するブースを利用することによって、塗装表面の状態を把握する観察方法を取り入れた構成を採用することもできる。
【0019】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法は、前記自動車コーティング施工方法において、前記加熱乾燥用光源に、近赤外線、中波赤外線、及び遠赤外線の3つの波長の内のいずれか、又は複数の波長の組合せによる同時照射が可能な光源を用い、熱伝導率や赤外線吸収率が異なる地材との関係又はコーティング剤の硬化特性と波長の関係から、予熱、及び加熱初期から終了までのあいだにおいて、係る波長を使い分ける方法を採り入れた構成を採用することもできる。
【0020】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法は、前記自動車コーティング施工方法において、赤外線乾燥による急激な温度上昇を嫌うコーティング剤への対応として、前記加熱乾燥用光源による加熱手段の他に、ボイラーによる温風乾燥手段を備え、該温風乾燥手段による初期乾燥を行った後、前記加熱乾燥用光源を用いて赤外線照射による焼き付け乾燥を行うなど、コーティング剤の種類に応じて使い分ける方法を採用した構成とすることもできる。
【0021】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法は、前記自動車コーティング施工方法に用いられ、車体全体に均一で良好なコーティング被膜を形成すると共に、施工面の観察バラツキを平均化させる自動車のコーティング施工ブースであって、加熱乾燥用光源と観察用光源の二種類の光源を備え、前記の両光源は、前記ブースの間口から奥行き方向に向かう両側壁と天井の各面に少なくとも各1列以上を相互近傍に配置し、前記加熱乾燥用光源には、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の異なる放射角度毎にコントラストをつけて集光するリフレクターを備え、ブースの内外から赤外線照射状態を目視可能とし
前記観察用光源には、ブース内の長手方向に渡って配置され、かつ、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を有する光源を採用し、目視による前記ブース内の観察環境を目視による屋外の観察環境に近似させたことを特徴とする自動車コーティング専用施工ブースとすることもできる。
【0022】
また、本願発明に係る前記自動車コーティング専用施工ブースは、前記加熱乾燥用光源に車体との位置調整機構及び照射角調整機構のいずれか、又は両方が設けられている構成を採用することもできる。
【0023】
また、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブースは、前記加熱乾燥用光源による加熱手段の他に、又は併用してボイラーによる温風乾燥手段を備えている構成を採用することもできる。
【0024】
また、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブースは、前記加熱乾燥用光源に、近赤外線、中波赤外線、及び遠赤外線の3つの波長の内のいずれか、又はこれら複数の波長の同時照射が可能な光源を用いている構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース方法及び自動車コーティング専用施工ブースによれば、車のコーティング(長期耐久保護膜)の施工に際し、コーティング剤の塗布工程の前工程となる塗装表面乾燥処理工程と、被膜を乾燥させるコーティング完全乾燥処理工程の2つの工程において、ボディコーティング専用の施工ブース内で行うことにより、ほこりの付着などを避けることはもとより、コーティング剤の性能と効果を最大限に発揮させる為の赤外線照射状況を目視により把握することができるため、従来からの制御技術と相まって、より良好な焼き付けコーティングができるという優れた効果を発揮するものである。
【0026】
また、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース方法及び自動車コーティング専用施工ブースによれば、自動車の車体塗装面に、艷や光沢といった輝度性や、傷や汚れが付着し難い耐久性など、各コーティング剤が各々個別に有している優れた特性を発揮する膜層をムラなく成形でき、また、撥水角が初期の段階から最大になり、施工直後に雨に濡れても乾燥不足による水ジミ発生の可能性が低くすることができるという優れた効果を発揮する。
【0027】
また、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース方法及び自動車コーティング専用施工ブースによれば、観察用光源に、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を持つ光源を用いてブース内を屋外環境光に近似させているので、施工者の個々の判断におけるバラツキを防止することができるという効果を発揮する。
【0028】
また、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース方法並びにまた、リフレクターを用いた赤外線照射状況の目視化は、放射状に放たれる光束が美しく、愛車の仕上がりに期待を膨らませて待つオーナーの、当該期待感に応える演出的効果を発揮し、また、顧客吸引力といった宣伝機能も奏し得る。
【0029】
また、本願発明に係る自動車コーティング施工方法において、脱脂洗浄工程を含める構成で実施した場合は、水道水の洗浄に比べて、その水の中に含まれている不純物の残留を防止することができるので、コーティング剤との密着を阻害する要因を排除できるといった優れた効果を発揮する。
【0030】
また、本発明に係る自動車コーティング施工方法並びに専用施工ブースにおいて、前記加熱乾燥用光源に、距離や角度の調整可能な構成を採用している場合、例えば、背の高いワゴン車と車高の低いスポーツカーでは、リフレクターにより、赤外線照射領域のズレが目視により確認できるので、車高の変化に伴って距離や角度を調節し、ムラなく車体全体に均一な赤外線照射を可能とする優れた効果を発揮する。
【0031】
また、本発明に係る自動車コーティング施工方法において、前記加熱乾燥用光源以外に、ボイラーによる加熱乾燥手段を備えるブースを使用する構成の場合には、一方だけを使用する場合と、両方とも使用する場合とを選択することができる。通常のブースでは、どちらか一方のみが装備されているものであるため、これらと対比すると、例えば、冬場の早朝などのように気温の低い場合には、予熱段階で双方を使用して、短時間でブース内部を暖めことができる。他方、急激な温度変化を嫌がるコーティング剤の過熱のときや、時間をかけて冷却した方が良い場合などでは、目的となる効果を得るために、当該二種の加熱装置のうち、いずれかを選択して行ってもよい。
【0032】
また、本発明に係る自動車コーティング専用施工ブースにおいて、使用する加熱乾燥用光源に、近赤外線、中波赤外線、及び遠赤外線の三つの波長の中から選択して照射する場合や、これらの異なる波長を組合せて同時照射が可能な光源を用いた構成の場合には、鉄、アルミニウム、或いは樹脂などの熱伝導率や赤外線吸収率が異なる場合や、自動車の塗装膜がソリッド系やメタリック系のように、異なる反射光分布でも、より詳細な設定ができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る自動車コーティング専用施工ブースの全体説明図である。
図2】本発明に係る自動車コーティング専用施工ブースの使用状態説明図である。
図3】本発明に係る赤外線照射の目視化説明図である。
図4】本発明に係る加熱乾燥用光源と観察用光源との照射状況対比図である。
図5】本発明に係る目視化部分の拡大図である。
図6】本発明の請求項1に係る流れ図である。
図7】本発明の請求項2に係る流れ図である。
図8】本発明に係るブース内部を外部から見た使用状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、加熱乾燥用光源と観察用光源とを相互近傍に配置する自動車コーティング専用施工ブースを利用し、前記加熱乾燥用光源に可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の放射方向に集光するためのリフレクターを用い、赤外線照射状態をブースの内外から目視可能とし、前記観察用光源には、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を持つ光源を用いて、前記ブース内を屋外環境光に近似させる構成のブースを利用する方法である事を最大の特徴とする。以下、図面に基づいて説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る自動車コーティング専用施工ブース10の全体説明図であり、図2は、本発明に係る自動車コーティング専用施工ブース10の使用状態説明図である。自動車コーティング専用施工ブース10は、図1に示すように、左右の側壁BKと、床BYと、天井BTと、奥壁BOと、手前側の開口するドアBDによって構成され、前記側壁BKの所定位置には加熱乾燥用光源20と観察用光源30が備えられ、前記天井BTには、加熱乾燥用光源20と観察用光源30と換気用窓40が備えられ、前記奥壁BOには観察用光源30と換気口50が設けられている。なお、前記手前側の開口するドアBDは外部から内部の状況が見えるように観察用窓31が設けられている。
また、作業者の出入り等によって開口ドアBDが開閉されると、急激な温度変化を起こすことになるので、距離を置いた二重壁状の構造とすることが望ましい。また、換気用窓40からホコリやゴミが侵入しない為に防塵フィルターを設置すればより好適である。
【0036】
なお、図面には示していないが、本発明に係る自動車コーティング専用施工ブース10には、加熱乾燥用光源20の他に加熱乾燥用のボイラーJを設けて、加熱装置を二種類とし、これを別個または併用して利用することで、広範、且つ繊細な温度制御を可能とすることができる。係る温度管理等の指令は外部に設置する操作盤60やモニター等を設置した別室の端末などから操作する。なお、換気装置F、エアーコンディショナーE、或いは空気清浄器Fも備える構成が望ましい。ボイラーJは燃焼ガスから水蒸気を作りブース内を暖める一般的な暖房用の装置で、前記の加熱乾燥用光源20とは全く異なる加熱装置であるが、併設することで、急激な温度上昇や、一定温度の維持、更には穏やかに冷却する場合など、係る二種類の加熱装置を使い分け、或いは併用する。
【0037】
前記観察用光源30は、コーティングによる斑や艶の状態を確認する際に、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように、十分に広い面積を持つ光源を用いて、観察用光源30として、前記自動車コーティング専用施工ブース10内を屋外環境光に近似させる照明であり、観察用光源30に用いる蛍光灯には白色の演色用特殊蛍光灯を用いる。該演色用特殊蛍光灯はJIS(日本工業規格)で定められた基準光との比較の上で測定対象となる光源が、演色評価用の色票を照明したときに生じる色ずれを指数として表したもので、演色評価数には平均演色評価数 (Ra) と特殊演色評価数 (R9〜R15) があり、平均演色評価数 (Ra)は8色(R1〜R8) の演色評価数を平均したもので、特殊演色評価数は赤(R9)、黄(R10)、緑(R11)、青(R12)、西洋人の肌の色(R13)、木の葉の色(R14)、日本人の肌の色(R15)の7種類があり、係る特殊演色評価数も参考にしながら適宜選択する。
【0038】
前記観察用光源30の設置個所は、車両全体の塗装面の凹凸、肌、キズ、斑、汚れ及びシミの状態をあらゆる角度から確認できる位置とする。その為、車両の上面部分、側面部分・前後部分とも万遍なく照明が照射される位置に設置する。なお、具体的なその設置位置は、例えば、スポーツカーのように車高の低い車から、背の高いワゴン車でも、あらゆる車両形状や大きさの車に対しても死角ができないような位置へ配置する。例えば、図1及び図2に示した実施例では、下回り、前後のフェンダー、ドア、ピラーに赤外線を照射するために設ける加熱乾燥用光源20は側壁BKに、床BYから上方へ70cmの高さ位置に光源25の中心が来る位置へ配置し、更に、サイド上面からピラー部分へ赤外線を照射するために、床BYから250cm高さに設置した例である。
【0039】
加熱乾燥用光源20は、前記観察用光源30の近傍に設置され、赤外線の照射によりブース内を加熱し、コーティング剤の硬化に最適な温度にするものである。天井BTと側壁BKの上部に関しては、2000ルクス以上、側壁BKの下部に関しては、1500ルクスを基準とする明るさを確保し、色温度は、5000ケルビン以上を確保する。なお、可視光領域から外れる赤外線は視覚に映らないが、可視光領域成分を含ませることにより、これを放射方向に集光させて目視化光21とした構成を採用するものである。
【0040】
係る加熱乾燥用光源20には、近赤外線、中赤外線、及び遠赤外線の3つの波長の内のいずれか、又は複数の波長の組合せによる同時照射が可能な光源を用い、熱伝導率や赤外線吸収率が異なる地材との関係又はコーティング剤の硬化特性と波長の関係から、予熱、及び加熱初期から終了までのあいだ、係る波長を使い分けることも可能である。係る構成の場合は、例えば、近赤外線波長を用いれば、立ち上がりが早く塗装の表面だけでなく、塗膜を透して地金属層まで浸透し、鉄板に作用し塗装の中から熱を伝導させることができ、また、中赤外線では波長が溶剤の熱吸収率と極めて近い為、表面での反射が少なく塗膜下部より全体を効率よく均等に乾燥することができ、塗装色による乾燥時間差がほとんどなく、曲がった部分も効率よく乾燥することができる。
【0041】
また、波長と赤外線乾燥による急激な温度上昇を嫌うコーティング剤によるコーティングを行う場合では、ボイラー乾燥による初期乾燥を行った後、波長の範囲が広いトリプルウェイブカーボンヒーター装置を用いて赤外線焼き付け乾燥を行うなどの、コーティング剤の種類に応じて使い分けが可能であり、理想的な乾燥状態とすることができる。
【0042】
図4図5図8に示した写真に写っているブースに設置されている加熱乾燥用光源20は、前記のトリプルウェイブカーボンヒーター装置を使用した場合の実施例を示すものであり、該トリプルウェイブカーボンヒーター装置は、近赤外線・中赤外線・遠赤外線の三つの波長を同時に発生させ、近赤外線波長の特徴である、立ち上がりが早く塗装の表面だけでなく、塗膜を透して地金属層まで浸透し、鉄板に作用し塗装の中から熱を伝導させる波長と、中波の特徴である波長が溶剤の熱吸収率と極めて近い為、表面での反射が少なく塗膜下部より全体を効率よく均等に乾燥することができ、塗装色による乾燥時間差がほとんどなく、曲がった部分も効率よく乾燥することができる、というそれぞれの特徴を生かせる光源である。
【0043】
換気システムに関しては特に図示しないが、コーティング層にホコリなどの固着を防止する為に、天井BTやブースの前部に換気用窓40と換気装置を設置し、換気用窓40からホコリ・ゴミが侵入しないように、防塵フィルターを設置し、後方部には換気口50や排気装置を設置することにより、強制的に前から後ろへの空気の流れを作るように設計し、塗装表面にホコリなどが固着することを防止する。また、係る装置によりブース内における温度差をなくしている。
【0044】
図3は、本発明に係る赤外線照射の目視化説明図である。本発明に係る加熱乾燥用光源20は、光源25の背面側に複数の反射鏡22(リフレクター)を設け、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の放射方向に集光させて、該赤外線の照射状態をブースの内外から目視可能としている。
可視光領域から外れる赤外線は視覚に映らないが、可視光領域成分を含ませることにより、これを放射方向に集光させて目視化を図っている。また、前記加熱乾燥用光源20に、自動車の車体Kとの位置調整機構及び照射角調整機構のいずれか、又は両方が設けられている構成を採用することも望ましい。前記位置調整機構は、車体との直線距離が左右で異なる場合などにおいて、直進移動領域23内の距離を調整し、前記照射角度調整機構は、自動車の車体Kとの関係において照射角度が左右で異なる場合などにおいて、角度領域24内の角度を調節する。
【0045】
図4は、本発明に係る加熱乾燥用光源20と観察用光源30との照射状況全体図である。図4(a)が加熱乾燥用光源20のみでの発光させた状態を示し、図4(b)は観察用光源30のみで発光させた状態をそれぞれ示している。特に、図4(a)では、加熱乾燥用光源20から可視光領域成分を含んだ赤外線の照射状況が放射状に照射されていることがはっきりと目視可光21として目視できることを示しており、他方、図4(b)では、満遍なく観察用光源30から均一な拡散光によって車体Kを照らしていることを示している。
【0046】
図5は、本発明に係る加熱乾燥用光源20と観察用光源30との照射状況部分拡大図である。図5(a)が上部からの照射状態を示し、図5(b)及び図5(c)は観察用光源30のみで発光させた状態をそれぞれ示している。図5は前記図4をより明確に示すものである。
【0047】
図6は、本願発明の請求項1に係る自動車コーティング施工方法全体の工程を示す流れ図である。係る施工方法は、下地処理工程100、塗装表面乾燥処理工程110、コーティング処理工程120、コーティング完全乾燥処理工程130、並びに仕上げ処理工程140の各工程を少なくとも含む構成である。なお、図6及び図7の「※1」は、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース10を使用する工程であることを示し、「※2」は、各工程の前後に、必要に応じて前記ブースとは異なる別ブース15を利用して観察することが望ましい旨を示すものである。但し、係る別ブース15による観察は必要に応じて行えばよく、本願発明の必須の要件ではない。
【0048】
前記別ブース15は、拡散や散乱を防ぐために内部を黒色の暗室状として、光源25には指向性の強いハロゲンランプH等の略点光源又は略線光源を使用するもので、光を拡散や散乱をさせずに、塗装表面からの反射ひずみ等を把握するブースである。特にコーティング前の塗装状態を詳細に把握するのに好適なブースである。係る観察方法を併用して取り入れることで、要求させるクオリティに対して、仕上がり程度等の把握が明確にできる。
【0049】
前記下地処理工程100は、一般的に行われる車体Kの全体洗浄、塗装表面の異物(鉄粉・ピッチタール等)除去、更には機械及び手作業による塗装表面研磨(塗装の汚れ及びスクラッチキズ除去)を行う。
【0050】
前記塗装表面乾燥処理工程110は、一般的には、前記の下地処理工程10の後、若しくはその後に脱脂洗浄処理後に、即コーティグ剤を塗布する工程N入るが、洗車した際に水分が塗装の中に浸透していることもあり、コーティングの種類によっては、コーティング剤の化学結合による被膜形成を阻害する場合もあるので、加熱乾燥用光源20による赤外線照射により完全乾燥を行ってからコーティング塗布を行う工程を経ることとしている。
【0051】
前記コーティング処理工程120は、通常のコーティングと同様に、吹付塗布、又は手塗りによる塗布を行う。
【0052】
前記コーティング完全乾燥処理工程130は、塗装表面焼き付け乾燥時の温度を、60度〜80度以下で、30分程度の加熱照射を行う。加熱温度が80度以上になると、鉄板の歪が生じたり、樹脂などの部品が溶解する可能性があるので、温度管理に関しては、十分注意する必要がある。温度管理に関しては、レーザー温度センサー等を用いて、80度の上限設定をすることにより、自動的に設定時間内で、ON・OFFを繰り返し、設定温度を保つようにコントロールすることが望ましい。
【0053】
前記仕上げ処理140は、最終的な磨き処理やムラ等の有無について観察する。手直し箇所などがあればこれに対応する。
【0054】
図7は、本願発明の請求項2に係る自動車コーティング施行方法全体の工程を示す流れ図である。図6の前記下地処理工程100と、前基塗装表面乾燥処理工程110の間に脱脂洗浄工程105を踏む構成を採用している。前記図5の説明で記載した各工程と共通する工程については省略する。
【0055】
脱脂洗浄工程105は、車体Kの塗装表面を、逆浸透膜ろ過装置による純水により洗浄する工程である。通常の場合でも、丁寧なコーティング処理がなされる場合では、下地処理工程の後に水道水による脱脂処理を行うことがある。しかし、一般の水道水は浄水処理された綺麗なものであっても、カルシウムやマグネシウム等のミネラル成分を含み、更には塩素や鉛といった有害物質も含まれるため、その水の中に含まれている不純物が残留してしまい、コーティングとの密着を阻害する要因となる。なお、近年問題視されているトリハロメタンなどの除去方法として、一度沸騰させた水を使うことも考えられるが、沸騰によっては取り除けない不純物も多く、係る沸騰による処理水では十分でない。
【0056】
前記の通り、一般的には脱脂洗浄後に即コーティグを塗布する工程を取るが、洗車した際に水分が塗装の中に浸透していることもあり、コーティングの種類により、コーティングの化学結合による被膜形成を阻害する場合もあるので、赤外線ヒーターにより完全乾燥を行ってからコーティング塗布を行う工程を取っている。
【0057】
図8は、本願発明に係る自動車コーティング専用施工ブース10の使用状態を示している。赤外線照射状況を目視化光21としたことによる効果は、前記に示した技術的効果の他に、副産物的な効果として演出効果が発揮される点もある。即ち、コーティングを依頼した依頼者から見ると、自分の愛車がまるで光のシャワーを浴びているかのような情景が、観察窓31から見ることができ、係る演出により、クオリティの高さといった技術面からの信頼性や、優越感や満足感を起こさせる効果も備えている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
その他、本願発明に係る方法、及び自動車コーティング専用施工ブース10によれば、加熱乾燥用光源20による赤外線を、車体K全体に均一に照射可能であり、また、ボイラーJによる温風乾燥と、更にエア−コンディショナーEや空気清浄機F等を併用することで、コーティングの乾燥等にとどまらず、例えば、カーフィルムの剥離の際の加熱や、貼り付け後の乾燥促進利用でき、更には車内クリーニングを行った際の、シートをはじめ車内全体の乾燥促進にも利用可能であるなど、広範囲の利用が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 自動車コーティング専用施工ブース
20 加熱乾燥用光源
21 目視可光
22 反射鏡
23 直進移動領域
24 角度領域
25 光源
30 観察用光源
31 観察用窓
40 換気用窓
50 換気口
60 操作盤
100 下地処理工程
105 脱脂洗浄工程
110 塗装表面乾燥処理工程
120 コーティング処理工程
130 コーティング完全乾燥処理工程
140 仕上げ処理
H ハロゲンランプ
J ボイラー
E エアーコンディショナー
F 空気清浄器
K 自動車
BK 側壁
BY 床
BT 天井
BO 奥壁
BD 開口ドア
BB 暗室ブース
SS 屋外環境光
【要約】
【課題】自動車の車体全体に均一で良好なコーティング被膜を形成すると共に、施工面の観察バラツキを平均化させる自動車のコーティング施工方法及びこれに用いる自動車コーティング専用施工ブースの提供を図る。
【解決手段】
加熱乾燥用光源と観察用光源とを相互近傍に配置する自動車コーティング専用施工ブースを利用し、前記加熱乾燥用光源には、可視光波長成分を含む赤外線の光束を複数の放射方向に集光するためのリフレクターを用いて赤外線照射状態をブースの内外から目視可能とし、前記観察用光源には、施工者がどの位置から観察しても、どの位置を観察しても、色合いやスペクトルの変化量が抑えられるように十分に広い面積を持つ光源を用いて、前記ブース内を屋外環境光に近似させる構成のブースを利用する構成を採用した。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8