(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電解質層と、該電解質層の両側に設けられて燃料ガスと酸化剤ガスにそれぞれ接する電極層と、該電極層の少なくとも一方と接合して該電極層から外部に電気を取り出す集電体とを備えた固体酸化物形燃料電池において、
前記集電体と前記電極層との接合部分において該集電体の該電極層と対向する面には複数の凸部が設けられており、
該電極層の該集電体と対向する面には、該凸部の硬度が該電極層の硬度に比して大きいことにより、該凸部の先端の少なくとも一部が差し込まれて潰される潰れ変形部が形成されており、
且つ、前記凸部による前記潰れ変形部の潰れ深さは、5〜70μmであるとともに、前記凸部の先端において前記電極層と対向する部分の面積は、0.2〜13mm2であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
前記潰れ変形部を備えた前記電極層は、前記電解質層に積層された第1電極層と、該第1電極層に積層されて前記集電体と対向位置し、且つ硬度が該第1電極層に比して小さい第2電極層とを含んで構成されており、該第2電極層の該集電体と対向する面に該潰れ変形部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2においては、電極層と集電体との接触抵抗の低減に関して、未だ十分に検討されていなかった。
つまり、電極層には導電性と燃料ガス又は酸化剤ガスの透過性が求められるのに対して、集電体には高い集電性能が求められ、これら要求特性の違いから、電極層と集電体は、一般に、異なる材料を用いて形成されて、それらの焼結温度又は熱膨張率は互いに異なる場合が多い。
【0008】
そのため、特許文献1に記載の燃料装置では、電極層と集電体を一体的に焼成しても、集電体と電極層の一方の反りやうねり等に追従するように他方を変形させることが難しくて、集電体と電極層の接触部分に隙間が不規則に生じ易くなる結果、電極層と集電体の接触面積が減少して、接触抵抗が増加するおそれがあった。
【0009】
また、例えば、セラミックス系の固体電解質体や、セラミックスと金属の各粉状物を混合して焼結した複合材料、いわゆるサーメット等からなる電極層においては、焼結に際して反りやうねりが生じるため、電極層の集電体と接する面が湾曲したり、凹凸部分を有したりして、平坦でない場合が多い。
【0010】
したがって、特許文献2に記載のように、集電体の電極層(空気極)と接しようとする部分に金属粉末焼結層を形成しても、金属粉末焼結層を電極層の平坦でない表面に対して接触面積を大きく確保しつつ接触させることが難しくて、接触抵抗が低減され難い問題があった。
【0011】
本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、電極層と集電体との接触面積が確実に確保されて、接触抵抗の増加が抑えられることにより、発電性能が向上される、新規な構造の燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、電解質層と、該電解質層の両側に設けられて燃料ガスと酸化剤ガスにそれぞれ接する電極層と、該電極層の少なくとも一方と接合して該電極層から外部に電気を取り出す集電体とを備えた
固体酸化物形燃料電池において、前記集電体と前記電極層との接合部分において該集電体の該電極層と対向する面には複数の凸部が設けられており、該電極層の該集電体と対向する面には、
該凸部の硬度が該電極層の硬度に比して大きいことにより、該凸部の先端の少なくとも一部が差し込まれて潰される潰れ変形部が形成されており、且つ、前記凸部による前記潰れ変形部の潰れ深さは、5〜70μmである
とともに、前記凸部の先端において前記電極層と対向する部分の面積は、0.2〜13mm 2 であることを特徴とする
固体酸化物形燃料電池である。
【0013】
このような本発明の燃料電池においては、電極層と集電体の接合に際して、集電体に設けられた複数の凸部が電極層の潰れ変形部に差し込まれるようになっていることから、例えば、電極層の集電体と対向する面に反りやうねりが生じる等して電極層及び集電体の両対向面が互いに平行とされ難い場合にも、電極層と集電体の目的とする接触面積が十分に確保される。
【0014】
すなわち、電極層及び集電体の両対向面が互いに平行とされ難いことで両対向面の直接的な重ね合わせによる接触面積が確保され難い場合においても、凸部の潰れ変形部への差し込み
による接触面積の増大によって、電極層と集電体における接触抵抗の増加が解消されるのである。
【0015】
また、このように集電体の凸部が差し込まれて潰される潰れ変形部が、電極層における集電体との接合部分に特定配置されていることによって、電極層における潰れ変形部以外の部位では、適宜に厚さ寸法を大きくしたり、耐久性の高い材料を用いて形成したりすることが可能である。これにより、電極層全体として要求される耐久性が十分に確保されて、電極層における所望の導電性能が得られる。
【0016】
それ故、本発明の燃料電池によれば、電極層の耐久性が確保されつつ、電極層と集電体の接触抵抗が低減されることによって、発電性能が向上される。
しかも、本発明の燃料電池は、凸部による潰れ変形部の潰れ深さは、5〜70μmである。
凸部による潰れ変形部の潰れ深さが5μm未満の場合には、電極層と集電体の接触面積が十分に確保され難くなって、接触抵抗が増加する可能性がある。また、凸部による潰れ変形部の潰れ深さが70μmを上回る場合には、電極層における潰れ変形部の占める割合が高くなって、電極層全体の耐久性が確保され難くなる可能性がある。従って、本発明の範囲が好適である。
なお、前記潰れ深さは、複数の凸部が差し込まれた潰れ変形部においては、凸部が最も深く差し込まれた潰れ変形部における電極層表面の開口部から底部までの深さ寸法である。
しかも、前記凸部の先端において前記電極層と対向する部分の面積は、0.2〜13mm 2 であることを特徴とする。
凸部の先端において電極層と対向する部分の面積が0.2mm 2 未満の場合には、集電体の電極層に対する接触面積が小さくなって、集電体と電極層の接触抵抗が増加する可能性がある。また、凸部の先端において電極層と対向する部分の面積が13mm 2 を上回ると、凸部の先端と接する潰れ変形部の応力集中が生じ難くなって、凸部が潰れ変形部に容易に差し込まれ難くなり、その結果、集電体と電極層の接触面積が小さくなって、接触抵抗が増加する可能性があり、電気的接触性が確保されにくい。従って、本発明の範囲が好適である。
請求項2に記載の発明では、前記潰れ変形部を備えた前記電極層は、前記電解質層に積層された第1電極層と、該第1電極層に積層されて前記集電体と対向位置し、且つ硬度が該第1電極層に比して小さい第2電極層とを含んで構成されており、該第2電極層の該集電体と対向する面に該潰れ変形部が形成されていることを特徴とする。
【0017】
つまり、潰れ変形部が電極層に対して容易に形成されるように電極層の耐久性を低下させることと、電極層の必要強度を得るために耐久性を向上させることとは、相反する行為であるが、請求項2に記載のように、電極層を互いに異なる物性の第1電極層と第2電極層との積層構造体とすることで、潰れ変形部の形成容易と電極層の耐久性確保が両立して達成される。
【0018】
請求項3に記載の発明では、前記潰れ変形部が形成された前記電極層は、前記酸化剤ガスに接する空気極であることを特徴とする。
燃料電池の空気極は、カソード(正極)とされて、電子を受け取って酸素をイオン化する一方、燃料電池の燃料極は、アノード(負極)とされて、電解質層を通ってきた酸素イオンと水素の反応により水を生成し、電子を放出する。発電性能の向上に際しては、空気極の内部抵抗が小さくされることが好ましい。
【0019】
そこにおいて、本発明では、潰れ変形部が空気極に形成されるようにしたことから、空気極の内部抵抗及び空気極と集電体間の接触抵抗が低減されることとなって、発電性能が一層向上される。
【0021】
請求項4に記載の発明では、前記電極層における前記集電体と対向する方向の厚さは、100〜300μmであることを特徴とする。
電極層における集電体と対向する方向の厚さが100μm未満であると、電極層の耐久性を確保しつつ潰れ変形部を電極層に形成することが難しくなり、しかも、電極層における各凸部を介した集電体までの横方向(電極層の集電体との対向方向に直交する幅方向)の集電抵抗が高くなる可能性がある。また、電極層における集電体と対向する方向の厚さが300μmを上回る場合に、電極層の縦方向(電極層の集電体との対向方向)の内部抵抗が増加したり、電極層の耐久性が確保され難くなったりする可能性がある。従って、本発明の範囲が好適である。
【0022】
請求項5に記載の発明では、前記電極層における前記潰れ変形部の形成部分は、粒径が1〜10μmの粉末材料を焼結することにより形成されていることを特徴とする。
電極層の潰れ変形部の形成部分における粉末材料の粒径が1μmを下回ると、当該形成部分の焼結が進行し過ぎて、粒子の結合強度が高くなるため、凸部が潰れ変形部に差し込まれ難くなって、電極層と集電体の接触面積が小さくなる可能性がある。また、電極層の潰れ変形部の形成部分の粒径が10μmを上回る場合には、当該形成部分の焼結が進行し難くなって、電極層の耐久性が低下する可能性がある。従って、本発明の範囲が好適である。なお、前記粒径は、潰れ変形部の形成部分を構成する粉末材料において、複数の粒子の直径の平均値で表される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の燃料電池に関する一実施形態としての固体酸化物形燃料電池10について、図面を参照しつつ説明する。この固体酸化物形燃料電池10は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気)との供給を受けて発電を行う装置であって、
図1に示される如き略平板形状の燃料電池セル12を厚さ方向(
図1中、上下)に複数積層することにより、電圧を上げる形態を有している。
【0026】
燃料電池セル12は、いわゆる燃料極支持膜タイプの発電単位であり、一方の電極層としての燃料極(アノード)14を基板として、燃料極14の表面に電解質層としての固体電解質層16が積層され、更に固体電解質層16の表面に他方の電極層としての空気極(カソード)18が積層されている。固体電解質層16は、単一層から構成されても良いが、本実施形態では電解質層本体16a及び反応防止層16bからなる複数層とされており、電解質層本体16aと空気極18が反応防止層16bを介して積層されている。
【0027】
固体電解質層16や燃料極14、空気極18は、特開2006−172906号公報や特開2006−139955号公報、特開2002−298878号公報等にも示されているように、公知の材料を採用可能である。
【0028】
固体電解質層16は、酸素イオン伝導性を有するセラミックス材料からなる。具体的に、電解質層本体16aには、例えば、イットリアやスカンジウム等で安定化した各ジルコニア系酸化物(YSZやScSZ)、或いはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物等を含むペロブスカイト系酸化物が採用される。
【0029】
反応防止層16bには、例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープした各セリア系酸化物(SDC、GDC)等が採用される。つまり、反応防止層16bは、例えば、Laを含む空気極18を直接に焼き付けても、電気抵抗を著しく増大する物質(La
2Zr
2O
7等)を生成しない材料(SDC等)を用いて形成されており、それによって、ジルコニア系酸化物等からなる電解質層本体16aと空気極18との直接的な焼き付けによるLa
2Zr
2O
7等の生成反応を防止して、電気抵抗の増大を抑えている。
【0030】
燃料極14としては、例えば、NiやPt、Ir等の金属材料からなる多孔質体、又は金属材料とジルコニア系酸化物等のセラミックス材料とのサーメット等が採用される。
一方、空気極18は、固体電解質層16の反応防止層16bに積層された第1電極層18aと第1電極層18aに積層された第2電極層18bとを含んで構成されている。
【0031】
第1電極層18aと第2電極層18bは、何れもPtやNi等の金属材料とベロブスカイト系酸化物等のセラミックス材料とのサーメットからなる。これら第1及び第2電極層18a,18bの積層構造体からなる空気極18は、例えば、第1電極層18aのサーメットを構成する粉末材料のペーストを反応防止層16bに印刷形成して焼結した後に、第2電極層18bのサーメットを構成する粉末材料のペーストを第1電極層18aに印刷形成して焼結することによって、構成される。ここで、第2電極層18bの粉末材料の粒径は、1〜10μmとされている。
【0032】
特に、焼結前の段階で、第1電極層18aの粉末材料の粒径は、第2電極層18bの粉末材料の粒径に比して小さくされている。その結果、第1電極層18aの焼結進行度が第2電極層18bの焼結進行度よりも大きくされて、焼結後の第1電極層18aにおける密度又は粒子の結合強度が、第2電極層18bのそれに比して大きくされている。
【0033】
つまり、第1電極層18aと第2電極層18bが同一材料を用いて形成され、且つ第1電極層18aの密度又は粒子の結合強度が第2電極層18bのそれよりも大きくされていることから、第2電極層18bの硬度は、第1電極層18aの硬度に比して小さくされている。
【0034】
この第2電極層18bの
図1中、上側の表面から下側に向かう所定厚さの領域が、潰れ変形部20として構成されている。潰れ変形部20の厚さは、後述する集電体22と第2電極層18bとの接合状態や第2電極層18bの耐久性等の各種要求特性に応じて、適宜に設定される。
【0035】
第2電極層18bの厚さは、第1電極層18aの厚さに比して大きくされている。また、第1電極層18aと第2電極層18bを含む空気極18の厚さは、100〜300μmとされている。
【0036】
また、複数の燃料電池セル12における各セル12同士の積層方向の間には、各セル12間の導通を確保する等の目的で、集電体22が設けられている。本実施形態では、集電体22が各セル12の空気極18の上側にだけ配置されているが、空気極18の上側の配置に代えて或いは加えて、集電体22を燃料極14の下側に配置することも可能である。
【0037】
集電体22は、略平板形状を有しており、空気極18の第2電極層18bに対して厚さ方向で対向している。集電体22の潰れ変形部20と対向する面には、複数の凸部24が設けられている。
【0038】
凸部24は、略円柱形状を有していて、それら複数の凸部24が、集電体22の横幅方向(
図1中、左右)や縦幅方向(
図1中、紙面に直交する方向)に所定の間隔(本実施形態では略等間隔)で配置されている。
【0039】
また、各凸部24の先端において空気極18と対向する部分の面積(換言すると、
図1〜3中、凸部24の下端面の大きさ)は、0.2〜13mm
2とされている。
集電体22及び凸部24の形成材料には、例えば、NiやPt等の金属材料やサーメット等が採用される。凸部24は、集電体22と一体形成されても良く、或いは集電体22と別に形成された後に、集電体22に固着されても良い。
【0040】
また、凸部24及び集電体22の硬度は、互いに略同じとされていると共に、潰れ変形部20が形成された第2電極層18bの硬度に比して大きくされている。
複数の凸部24を備えた集電体22と空気極18との接合に際しては、先ず、
図2にも示されているように、集電体22の複数の凸部24が設けられた面が、空気極18の第2電極層18bの潰れ変形部20が形成された上面に重ねられる。
【0041】
そして、集電体22の複数の凸部24の先端面と第2電極層18bの上面が重ね合わされた状態下、集電体22を第2電極層18bに向かって押圧させることで、第2電極層18bにおける凸部24が重ね合わされた潰れ変形部20に応力集中が生じ、潰れ変形部20が脆性破壊して、凸部22が所定深さで潰れ変形部20に差し込まれることとなる。これにより、集電体22が凸部24を介して空気極18に接合される。
【0042】
特に本実施形態では、集電体22と第2電極層18bの対向面の間に凸部24の高さ寸法よりも小さなスペーサ(図示せず)を挟んで、上述の凸部24の潰れ変形部20への差し込み作業を行うこと等により、凸部24における先端面(
図1〜3中、下端面)から所定高さの領域部分が、潰れ変形部20に差し込まれている。この凸部24の差し込み深さに相当する潰れ変形部20の潰れ深さ:ΔHは、5〜70μmとされている。潰れ深さ:ΔHは、複数の凸部24において潰れ変形部20に最も深く差し込まれた凸部24における空気極18の高さ(厚さ):H1から当該凸部24の先端面と空気極18の下端面との間の高さ(厚さ):H2を減じた値:H1−H2で表される。
【0043】
ところで、固体電解質層16や空気極18はセラミックスを含んで構成されていることから、固体電解質層16や空気極18の形成に際して多少なりとも反りやうねり等が生じることとなり、空気極18の集電体22と対向する面は、図面では平坦に示されているが、厳密には凹凸形状を有している。
【0044】
そのため、複数の凸部24と第2電極層18bを重ね合わせる段階で、全ての凸部24が第2電極層18bに重ね合わされない場合もある。
そこにおいて、本実施形態では、凹凸形状を有する潰れ変形部20に対して全ての凸部24が差し込まれる、集電体22の空気極18への押圧に伴う変位量を考慮して、スペーサの大きさ等を設定することによって、全ての凸部24を潰れ変形部20に差し込むことが可能となる。
【0045】
このように、本実施形態の固体酸化物形燃料電池10においては、集電体22に設けられた複数の凸部24が空気極18の潰れ変形部20に差し込まれて、集電体22と空気極18が接合されているので、例えば、空気極18に反りやうねりが生じて集電体22と空気極18との対向面が互いに平行とされ難い場合にも、空気極18と集電体22の接触面積が確実に確保されて、接触抵抗が低減される。
【0046】
また、各凸部24の先端側が潰れ変形部20に差し込まれていて、各凸部24がそれぞれ全体に亘って深く差し込まれるような構成とされていないことから、空気極18における潰れ変形部20の形成部分から全体に亘って亀裂が生じるようなおそれが少ない。
【0047】
しかも、空気極18においては、潰れ変形部20を備えた第2電極層18bの全体の厚さが、潰れ変形部20の形成部分の厚さに対して十分に大きくされていることに加えて、かかる第2電極層18bと第2電極層18bよりも硬度の大きい第1電極層18aとの二層構造とされている。これにより、空気極18全体として要求される耐久性が十分に確保されると共に、空気極18が厚くされて、空気極18の厚さ方向に直交する幅方向の集電抵抗が減少されるため、空気極18の集電性能が向上される。
【0048】
従って、本実施形態の固体酸化物形燃料電池10では、空気極18の耐久性が確保されつつ、電気的なロスが低減されて、発電性能を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能である。また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0050】
具体的に、前記実施形態では、潰れ変形部20を備えた空気極18と凸部24を備えた集電体22がそれぞれ別に形成された後に、凸部24が潰れ変形部20に差し込まれるようになっていたが、例えば、空気極18の粉末材料のペーストを固体電解質層16に印刷形成して乾燥させると共に、集電体22の凸部24を潰れ変形部20に差し込み、その後、空気極18と凸部24を備えた集電体22とを一体的に焼結しても良い。
【0051】
また、前記実施形態において、複数の凸部24は、何れも略同じ大きさの円柱形状を有していたが、例えば、凸部は、矩形形状の他、集電体22から空気極18に向かって先細りとなる先鋭形状等を有していても良いし、複数の凸部24における形状や大きさなどは、それぞれ異ならされていても良い。
【0052】
さらに、集電体22における各凸部24の数や配置等も、例示の如きものに限定されず、例えば、各凸部24を集電体22に対してそれぞれ異なる間隔で配置しても良い。
また、第1電極層18aと第2電極層18bとの硬度を異ならせるに際して、前記実施形態では、同一の粉末材料を用い、且つ粉末材料の粒径を異ならせることで対応していたが、例えば予め硬度の異なる材料を採用することにより、対応させても良い。
【0053】
また、前記実施形態では、凸部24を備えた集電体22が、燃料極支持膜型の燃料電池セル12に積層されるようになっていたが、燃料極の代わりに空気極を基体とする空気極支持膜型や固体電解質層を基体として燃料極及び空気極を固体電解質層に支持させる通常型の燃料電池セルに対して積層することも勿論可能である。
【0054】
また、本発明の燃料電池は、例示の如き固体酸化物形燃料電池への適用に限定されるものでなく、例えば、電解質に固体高分子膜(ポリマー)を用い、電極層にカーボンを用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)やその他、電極層と集電体との接合構造を有する各種の燃料電池に対して適用可能である。
【0055】
次に、本発明の燃料電池の作用効果について確認するために行った実験を示す。
[実験試料の作製]
先ず、NiOとYSZとの混合粉末からなる燃料極基体用グリーンシートと、YSZ粉末からなる固体電解質膜用グリーンシートとを積層した後に焼成して得られた基体に、GDC(ガドリニウム添加セリア)保護膜用ペーストを印刷して焼き付ける。
【0056】
また、GDC保護膜用ペーストの焼結物の上にLSCF空気極を焼き付けて、燃料極支持膜型の平板セルを作製する。このような平板セルを複数作製する際に、LSCF空気極が、粒径1〜10μm又は粒径1μm未満の粉末材料の焼結物からなる上層と粒径1μm以下の粉末材料の焼結物からなる下層との二層構造であるものと、粒径1〜10μm又は粒径1μm未満の粉末材料の焼結物からなる単層構造であるものとを、複数用意する。
【0057】
さらに、フェライト系ステンレス等の金属材料からなる平板部材の一方の面に円柱形状の凸部を複数突設することによって、空気極集電体を得る。
そして、各平板セルのLSCF空気極の上端部分に対して空気極集電体の各凸部を所定の圧力で押し当てて、空気極と凸部の当接状態を保持し、実験試料となる固体酸化物形燃料電池を複数作製する。
【0058】
なお、凸部の空気極集電体からの突出寸法に相当する、凸部の高さ寸法は、0.6mmとした。
また、本実験試料において、空気極集電体の凸部が設けられた側の表面の面積に対する各凸部の先端の円形部分の総面積の比(以下、面積比ともいう)は、26〜27%に設定した。空気極集電体に設けられる凸部の数や各凸部同士の間隔は、各凸部の先端の円形部分の面積(以下、ドット面積ともいう)と面積比に基づいて求められる。
【0059】
具体的に、ドット面積を1.5mm
2とし、面積比を27%に設定した場合には、空気極集電体に設けられる凸部の数は1764個になり、凸部間隔は2.4mmになる。また、ドット面積を3.1mm
2とし、面積比を26%に設定した場合には、空気極集電体に設けられる凸部の数は841個になり、凸部間隔は3.5mmになる。
[実験内容]
上記複数の実験試料において、所定のレーザ顕微鏡を用いて、凸部が空気極に差し込まれた際の空気極凹み量(μm)を測定した。なお、空気極凹み量は、前記実施形態の凸部24による潰れ変形部20の潰れ深さΔH:H1−H2に相当する。
【0060】
ここで、凸部が空気極に差し込まれて、所定の大きさの空気極凹み量が発現するものを実施例1〜14とし、一方、凸部が空気極に差し込まれないため、或いは空気極に差し込んだ状態が保持されないため、空気極凹み量が発現しないものを比較例1〜3および参考例1とした。
【0061】
また、上記実験試料において、実施例1〜14や比較例1〜3、参考例1における空気極集電体の各凸部を空気極に対して押し当てる所定の圧力よりも大きな圧力で、各凸部を空気極に押し当てて、空気極凹み量が発現した実験試料を参考例2とした。なお、参考例2のLSCF空気極は、粒径10μmの粉末材料の焼結物からなる上層と粒径1μmの粉末材料の焼結物からなる下層との二層構造を呈する。
【0062】
特に実施例1〜11では、以下(イ)〜(ハ)の要件を全て満たしている。
(イ)空気極に押し当てられる凸部の先端の円形部分の面積(表1中、ドット面積)は、0.2〜13mm
2である。
(ロ)上層及び下層または単層からなる空気極の厚さは、100〜300μmである。
(ハ)空気極における集電体の凸部が押し当てられる層は、粒径1〜10μmの粉末材料を焼結することにより形成されている。
【0063】
そして、実施例や比較例、参考例の各実験試料において、各実験試料の空気極に酸化剤ガス(空気)を供給し、燃料極グリーンシートの焼結物からなる燃料極に燃料ガス(水素ガス)を供給するようにして、各実験試料を図示しない発電評価用装置にセットして、700℃にて発電試験を行い、各実験試料の電圧を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1の各実施例または各比較例おいて、上層膜厚(μm)と下層膜厚(μm)の何れか一方が「0」と示されているものは、その一方の層が積層されておらず、空気極が他方の層のみの単層構造であることを示す。
[実験結果]
【0064】
【表1】
表1に示される結果からも、実施例1〜14によれば、何れも、集電体の凸部が所定の深さで空気極に差し込まれており、比較例1〜3に比して、高電圧が得られることが認められる。
【0065】
また、実施例1〜11や実施例14では、空気極の厚さが100μm以上とされて、空気極の厚さが100μmを大きく下回る実施例12に比して、空気極の厚さ方向に対する横方向の集電抵抗が小さくなる。その結果、実施例1〜11,14の電圧は、実施例12よりも大きくなるものと考えられる。
【0066】
一方、比較例2のように、空気極の全体厚さが300μmを超えると、平板セルの基体に対する空気極の支持安定性が確保され難くなって、空気極の焼結時に、空気極が基体から剥離してしまい、空気極凹み量と電圧を測定することが不可能になる。
【0067】
また、比較例1,3では、実施例5,6,14に比して、空気極に押し当てられる凸部の先端面積が大きくされているものの、凸部が粒径1μm未満の粉末材料の焼結物からなる硬い空気極に押し当てられることで、潰れ変形部が空気極に形成されない結果、実施例に比して電圧が低くされている。
【0068】
このことから、集電体と空気極との接触抵抗の低減には、凸部の先端面積を大きくするよりも、潰れ変形部の形成が重要であることがわかる。
また、実施例14のように、空気極に押し当てられる凸部の先端面積が0.2mm
2未満の場合には、空気極の凸部が押し当てられる部分に応力集中が生じ易くなって、空気極凹み量が十分に確保されるが、実施例1〜11ほどに電圧が上がらないことが認められる。これは、潰れ変形部に差し込まれた凸部において空気極と確実に接する部分が凸部の周壁部分よりも先端部分とされ、かかる先端部分の面積確保が、空気極と集電体との接触面積の増加に大きく寄与するからであると考えられる。
【0069】
しかしながら、参考例1のように、凸部の先端面積が13mm
2以上と過大になると、空気極の凸部の押し当て部分に応力が集中され難くなって、凸部が空気極に差し込まれなくなり、空気極に潰れ変形部が形成されない。このため、参考例1では、凸部の先端部分の大きな面積に基づき、所定の電圧は確保されるが、実施例1〜11ほどに電圧が上がらないことが認められる。
【0070】
従って、凸部の先端面積は潰れ変形部が空気極に形成される範囲で大きくされることが望ましい。
また、実施例1〜14、比較例1〜3および参考例1の結果からも、空気極凹み量が、実用的に5μm以上とされていれば、電圧が好適に確保されることが認められる。
【0071】
一方、参考例2のように、複数の凸部の空気極に対する押圧力を大きくして、凸部が潰れ変形部に差し込まれた部分の空気極凹み量が80μmになると、空気極を含み、電解質層(固体電解質膜用グリーンシートまたはGDC保護膜用ペーストの焼結物)や燃料極(燃料極基体用グリーンシートの焼結物)等の平板セルの一部に亀裂の発生が確認される。この亀裂は、空気極の潰れ変形部において凸部が差し込まれた部分の凹み等とは異なるものである。
【0072】
上記亀裂の発生は、空気極を焼結した際のうねりや反り等により、凸部を差し込む空気極の表面が平坦とされていないことによって、各凸部の先端面と空気極の表面との間の距離にばらつきが生じることが原因と考えられる。
【0073】
従って、空気極凹み量、即ち凸部による潰れ変形部の潰れ深さにおいては、凸部の大きさや空気極のうねり量等の設定に応じて多少の誤差は許容されるものであるが、一般的な燃料電池に採用される凸部の大きさや空気極の通常のうねり量等を勘案してセルの強度に影響する可能性のある亀裂が生じず、且つ好適な電圧が得られる範囲を考慮すれば、5〜70μmとされることが好ましい。
【0074】
それ故、実施例1〜14の何れかの構成からなる燃料電池によれば、空気極の好適な厚さ確保と凸部の空気極への差し込みによる潰れ変形部の形成に基づいて、集電体と空気極の接触に伴う電気的なロスが低減されて、発電性能が向上される。加えて、上述の(イ)〜(ハ)の要件を備えた実施例1〜11の燃料電池においては、発電性能の更なる向上が図られる。