(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756606
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】雌ねじ部材、それを用いた電動弁及び電動弁用雌ねじ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20150709BHJP
F16K 31/04 20060101ALI20150709BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20150709BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16K31/04 A
F16B37/00 C
B29C45/14
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-144578(P2010-144578)
(22)【出願日】2010年6月25日
(65)【公開番号】特開2012-7683(P2012-7683A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2013年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】大内 共存
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 威
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−218707(JP,A)
【文献】
特開平09−317925(JP,A)
【文献】
特開平11−252891(JP,A)
【文献】
特開平03−239875(JP,A)
【文献】
特開2006−071186(JP,A)
【文献】
特開2009−171828(JP,A)
【文献】
特開2000−074172(JP,A)
【文献】
特開2005−039916(JP,A)
【文献】
特開2010−043727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
B29C 45/14
F16B 37/00
F16K 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部の底部に連続して形成され、該筒状部より小さい内径を有する雌ねじが形成された雌ねじ部と、前記筒状部の底部から前記雌ねじの中心軸方向に突出し、その中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備え、樹脂により一体成型された雌ねじ部材において、
前記突起は、前記作用面から前記雌ねじの中心軸を中心として螺旋状に一周分傾斜する螺旋状傾斜面を備え、
前記作用面の高さは、前記雌ねじのピッチ以下であることを特徴とする雌ねじ部材。
【請求項2】
筒状部の底部に連続して形成され、該筒状部より小さい内径を有する雌ねじが形成された雌ねじ部と、前記筒状部の底部から前記雌ねじの中心軸方向に突出し、その中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備え、樹脂により一体成型された雌ねじ部材において、
前記突起は、前記作用面から前記雌ねじの中心軸を中心として螺旋状に傾斜する螺旋状傾斜面を備え、
前記螺旋状傾斜面は、当該雌ねじ部材が前記雌ねじの螺刻にしたがって回転したと仮定した場合に、回転前の螺旋状傾斜面に干渉しないように形成されたことを特徴とする雌ねじ部材。
【請求項3】
前記螺旋状傾斜面は、前記作用面から1回転して再度前記作用面に至るまでの間に、前記中心軸と垂直な少なくとも一つの平面部を備えたことを特徴とする請求項2記載の雌ねじ部材。
【請求項4】
前記螺旋状傾斜面は、少なくとも一部にその展開図が直線となる部分を含んでいることを特徴とする請求項2又は3記載の雌ねじ部材。
【請求項5】
前記突起は、前記雌ねじに螺合する電動弁の弁軸に設けられた全開可動ストッパに当接する全開固定ストッパであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の雌ねじ部材。
【請求項6】
前記雌ねじ部における前記筒状部と反対側端部には、さらに全閉固定ストッパが形成されたことを特徴とする請求項5記載の雌ねじ部材。
【請求項7】
弁座を備えた弁本体と、
該弁本体に取り付けられた請求項5記載の雌ねじ部材と、
ロータ及びステータを有するモータと、
前記雌ねじ部材の雌ねじに螺合すると共に前記ロータにより回転駆動され、前記全開固定ストッパに当接可能な全開可動ストッパを有する弁軸とを備えたことを特徴とする電動弁。
【請求項8】
弁座を備えた弁本体と、
該弁本体に取り付けられた請求項6記載の雌ねじ部材と、
ロータ及びステータを有するモータと、
前記雌ねじ部材の雌ねじに螺合すると共に前記ロータにより回転駆動され、前記全開固定ストッパに当接可能な全開可動ストッパ、及び前記全閉固定ストッパに当接可能な全閉可動ストッパを有する弁軸とを備えたことを特徴とする電動弁。
【請求項9】
電動モータのロータの回転に伴って回転し、弁本体に固定された雌ねじ部材と螺合する雄ねじ部材と、該雄ねじ部材が回転することにより、前記弁本体内の弁座と接離する弁体とを備える電動弁の前記雌ねじ部材の製造方法であって、
該雌ねじ部材は、前記弁本体側に円筒状空間を有する凹部の底部に連続して形成され、該凹部の円筒状空間より小さい内径を有すると共に、前記雄ねじ部材の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部と、前記凹部内に、前記弁本体に向かって突設され、該電動弁の全開時において、前記電動モータのロータの回転に伴って回転するストッパ部と当接して前記雄ねじ部材の弁開方向の回転を規制する全開ストッパ部とを備え、
該雌ねじ部材を成形する際に、該雌ねじ部材の前記弁本体側を成形するための下型と、該雌ねじ部材の前記雌ねじ部側を成形するための上型と、前記雌ねじ部と前記円筒状空間を有する凹部とを同時に成形するための1つの中子とを用い、該中子は、前記全開ストッパ部と緩衝することなく脱型可能としたことを特徴とする電動弁用雌ねじ部材の製造方法。
【請求項10】
前記全開ストッパ部は、前記電動モータのロータの回転に伴って回転するストッパ部に当接する当接面と、該当接面の突出縁部から前記雌ねじ部側に徐々に近接する螺旋状傾斜面と、前記雌ねじ部の軸線側に位置する円周状内面とを有し、前記中子が前記当接面、螺旋状傾斜面及び円周状内面を成形することを特徴とする請求項9記載の電動弁用雌ねじ部材の製造方法。
【請求項11】
該雌ねじ部材は、前記凹部の外表面に該雌ねじ部材を前記弁本体に固定するための円板状の接合リングを有し、該接合リングを前記下型と前記上型とで挟持して該雌ねじ部材をインサート成形することを特徴とする請求項9又は10記載の電動弁用雌ねじ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌ねじ部材、それを用いた電動弁及び電動弁の雌ねじ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクルシステムにおける冷媒の流量制御等に用いられる電動弁として、特許文献1には、電動モータのロータの回転を利用して弁体を弁座に接離させる駆動機構を備え、該弁の全閉時に、弁軸ホルダに固着された上ストッパ体がガイドブッシュに固着された下ストッパ体に衝突し、弁軸の回転下動が終了する電動弁が提案されている。この電動弁は、全開方向については、最終的に弁軸ホルダが弁本体に固定されたガイドブッシュとの螺合が解除され、弁軸の上動が終了するねじ抜け構造を採用している。
【0003】
しかし、上記電動弁のような全開方向のねじ抜け構造は、弁軸ホルダとガイドブッシュとの螺合を解除することができない構成を有する電動弁には採用することができない。
【0004】
一方、特許文献2には、弁座及び弁体等を備えたバルブ部と、該バルブ部の上方に位置し、ロータの回転により前記弁座に弁体を接離させるステッピングモータ部とで構成され、密閉型ケース内のロータの上方に該弁の全開ストッパと全閉ストッパとを備える電動式コントロールバルブが提案されている。
【0005】
しかし、上記電動式コントロールバルブでは、全開閉ストッパがロータの上方に位置するため、電動式コントロールバルブの全長が長くなる上、全開閉ストッパに用いる部品点数が多くなり、バルブの組立作業性が悪化し、製造コストの上昇に繋がるという問題があった。また、このような全開閉ストッパをロータ内に設置しようとすると、設置スペースを設けるために弁軸ホルダの外径を小さくする必要があり、これに伴い、弁体を付勢するためのコイルばねの設置スペースを確保することが困難となる。そのため、大きな弁口径を維持しながら電動弁を小型化することが困難であった。
【0006】
そこで、本出願人は、特許文献3において、部品点数が少なく、組立が容易で、小型化しても大きな弁口径を維持することのできる電動弁を提案した。この電動弁は、
図7に示すように、2本の導管52、53と弁座54とを備える弁本体55と、弁本体55に接合されたキャン56と、キャン56の内部に配置され、電動モータの一部を構成するロータ57と、キャン56の外周部に固定され、ロータ57を回転駆動するステータ(不図示)と、支持リング59を介してロータ57に一体に連結された雄ねじ部材(弁軸)60と、接合リング65を介して弁本体55に下端部が固定され、雄ねじ部材60が内挿された雌ねじ部材(弁軸ホルダ)61と、雄ねじ部材60の下端部に係止されて弁座に接離する弁体62等で構成される。尚、
図7(a)は全閉時の断面図を示し、
図7(b)は全開時の断面図を示す。また、
図7(c)及び
図8は、接合リング65と一体成形した雌ねじ部材61を示す。
【0007】
上記構成により、電動弁51を閉じる場合には、
図7(b)の状態で、ステータに一方向の通電を行い励磁すると、ロータ57が上面視時計方向に回転すると同時に、雄ねじ部材60も、その雄ねじ60aが雌ねじ61aに螺合しながら回転下降し、弁体62が弁座54に着座して電動弁51が閉弁する。
【0008】
弁体62が弁座54に着座した時点では、全閉上ストッパ部59aが全閉下ストッパ部61dまで到達せず、ロータ57がさらに回転可能な状態にある。ロータ57がさらに上面視時計方向に回転し、全閉上ストッパ部(全閉可動ストッパ)59aが全閉下ストッパ部(全閉固定ストッパ)61dに当接すると、ロータ57の回転が強制的に停止される。
【0009】
また、弁体62が弁座54に着座すると、弁体62の移動は停止するが、雄ねじ部材60はさらに下降するため、コイルばね64が圧縮されて弁体62を弁座54に押圧し、
図7(a)に示す姿勢で動作が終了する。
【0010】
一方、電動弁51を開く場合には、
図7(a)の状態で、ステータに上記とは逆方向の通電を行い励磁すると、ロータ57が上面視反時計方向に回転し、雄ねじ部材60も、その雄ねじ60aが雌ねじ61aに螺合しながら回転上昇し、弁体62が弁座54から離れて電動弁51が開弁する。そして、ロータ57がさらに回転し、全開下ストッパ部(全開可動ストッパ)67が全開上ストッパ部(全開固定ストッパ)61fに当接すると、ロータ57の回転が停止し、弁体62の上昇も停止する。
【0011】
以上のように、電動弁51によれば、雌ねじ部材61に、電動弁51の全開時及び全閉時に機能する2つのストッパ部61d、61fを一体成形したため、電動弁51の小型化が可能となる上、部品点数が少なくなり、さらに、雌ねじ部材61に2つのストッパ部61d、61fを一体成形したため、2つのストッパ部61d、61fの位置関係を安定させることができ、組立性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−70990号公報
【特許文献2】特公平6−94910号公報
【特許文献3】特願2009−11549号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記特許文献3に記載の電動弁51においては、
図9に示すように、接合リング65をインサート成形して雌ねじ部材61及び接合リング65を1つの中子70(図中着色した部分)を用いて製造しようとすると、ストッパ部61fがアンダーカットとなって中子70が回転不可能となる。すなわち、雌ねじ部材61を成形した後、中子70を回転させて下方に取り出そうとしても、ストッパ部61fが存在するため中子70を回転させることができず、下方に取り出すことができない。
【0014】
そこで、
図10に示すように、上型71、下型72に加え、2つの中子73、74(雌ねじ61aを形成するための中子73、及び雌ねじ61aに連続して形成された大径の筒状部を形成するための中子74)を用い、中子73を中子74に対して固定した後、これを上型71及び下型72の内部に配置し、接合リング65をインサート成形した後、中子74及び中子73をこの順序で、すなわち 中子74を引き抜いた後、あるいは引き抜きながら中子73を回転させるようにして取り外すことで、ストッパ部61fのアンダーカットを回避して雌ねじ部材61aの内壁面を形成することができる。しかし、その場合でも、中子73、74の間で芯を完全に一致させることが困難であるため、雌ねじ部材61の雌ねじ61aと下端部61cとの間で芯ずれが発生し、雄ねじ部材60(
図7参照)と一体化する際に不具合が生ずるという問題があった。
【0015】
また、中子73、74の間に隙間が生じると、その部分でバリが発生してバリの除去作業が必要になり、電動弁51の製造コストが上昇するという問題もあった。中子74は下型72と一体化することもできるが、その場合でも上記と同様な問題が生じる。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、雌ねじが形成された雌ねじ部と、該雌ねじ部の中心軸方向に突出し、その中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備えた雌ねじ部材を樹脂により一体形成する場合、ただ一つの中子で前記雌ねじ及び突起を形成することのできる雌ねじ部材、それを用いた電動弁、及び電動弁用雌ねじ部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の雌ねじ部材は、
筒状部の底部に連続して形成され、該筒状部より小さい内径を有する雌ねじが形成された雌ねじ部と、
前記筒状部の底部から前記雌ねじの中心軸方向に突出し、その中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備え、樹脂により一体成型された雌ねじ部材において、前記突起は、前記作用面から
前記雌ねじの中心軸を中心として螺旋状に一周分傾斜する螺旋状傾斜面を備え、前記作用面の高さは、前記雌ねじのピッチ以下であることを特徴とする。
【0018】
また本発明の雌ねじ部材は、
筒状部の底部に連続して形成され、該筒状部より小さい内径を有する雌ねじが形成された雌ねじ部と、
前記筒状部の底部から前記雌ねじの中心軸方向に突出し、その中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備え、樹脂により一体成型された雌ねじ部材において、前記突起は、前記作用面から
前記雌ねじの中心軸を中心として螺旋状に傾斜する螺旋状傾斜面を備え、前記螺旋状傾斜面は、当該雌ねじ部材が前記雌ねじの螺刻にしたがって回転した
と仮定した場合に、
回転前の螺旋状傾斜面に干渉しないように形成されたことを特徴とする。
【0019】
上記雌ねじ部材において、前記螺旋状傾斜面は、前記作用面から1回転して再度前記作用面に至るまでの間に、前記中心軸と垂直な少なくとも一つの平面部を備えたことを特徴とする。
【0020】
また上記雌ねじ部材において、前記螺旋状傾斜面は、少なくとも一部にその展開図が直線となる部分を含んでいることを特徴とする。
【0022】
そして、本発明によれば、1つの中子で雌ねじ部材の内壁部を成形することができるため、該雌ねじ部材の雌ねじとその下端部との間で芯ずれが発生することがなく、また、バリの発生を防止することができる。
【0023】
また上記雌ねじ部材において、前記突起は、前記雌ねじに螺合する電動弁の弁軸に設けられた全開可動ストッパに当接する全開固定ストッパであることを特徴とする。
【0024】
さらに上記雌ねじ部材において、雌ねじ部における前記筒状部と反対側端部には、さらに全閉固定ストッパが形成されたことを特徴とする。
【0025】
このような構成により、雌ねじ部材を電動弁に利用できる。
【0026】
また本発明の電動弁は、弁座を備えた弁本体と、該弁本体に取り付けられた上記雌ねじ部材と、ロータ及びステータを有するモータと、前記雌ねじ部材の雌ねじに螺合すると共に前記ロータにより回転駆動され、前記全開固定ストッパに当接可能な全開可動ストッパを有する弁軸とを備えたことを特徴とする。
【0027】
また本発明の電動弁は、弁座を備えた弁本体と、該弁本体に取り付けられた上記雌ねじ部材と、ロータ及びステータを有するモータと、前記雌ねじ部材の雌ねじに螺合すると共に前記ロータにより回転駆動され、前記全開固定ストッパに当接可能な全開可動ストッパ、及び前記全閉固定ストッパに当接可能な全閉可動ストッパを有する弁軸とを備えたことを特徴とする。
【0028】
そして、本発明の電動弁によれば、1つの中子で雌ねじ部材を成形することができるため、電動弁の雌ねじ部材の雌ねじ部と下端部との間で芯ずれが発生することがなく、また、バリの発生を防止することができて電動弁の製造コストを低減することができる。
【0029】
また、本発明は、電動モータのロータの回転に伴って回転し、弁本体に固定された雌ねじ部材と螺合する雄ねじ部材と、該雄ねじ部材が回転することにより、前記弁本体内の弁座と接離する弁体とを備える電動弁の前記雌ねじ部材の製造方法であって、該雌ねじ部材は、
前記弁本体側に円筒状空間を有する凹部の底部に連続して形成され、該凹部の円筒状空間より小さい内径を有すると共に、前記雄ねじ部材の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部と、
前記凹部内に、前記弁本体に向かって突設され、該電動弁の全開時において、前記電動モータのロータの回転に伴って回転するストッパ部と当接して前記雄ねじ部材の弁開方向の回転を規制する全開ストッパ部とを備え、該雌ねじ部材を成形する際に、該雌ねじ部材の前記弁本体側を成形するための下型と、該雌ねじ部材の前記雌ねじ部側を成形するための上型と、前記雌ねじ部と前記円筒状空間を有する凹部とを同時に成形するための1つの中子とを用い、該中子は、前記全開ストッパ部と緩衝することなく脱型可能としたことを特徴とする。
【0030】
そして、本発明によれば、1つの中子で雌ねじ部材を成形することができるため、電動弁の雌ねじ部材の雌ねじ部と下端部との間で芯ずれが発生することがなく、また、バリの発生を防止することができて電動弁の製造コストを低減することができる。
【0031】
上記電動弁の前記雌ねじ部材の製造方法において、前記全開ストッパ部は、前記電動モータのロータの回転に伴って回転するストッパ部に当接する当接面と、該当接面の突出縁部から前記雌ねじ部側に徐々に近接する螺旋状傾斜面と、前記雌ねじ部の軸線側に位置する円周状内面とを有し、前記中子が前記当接面、螺旋状傾斜面及び円周状内面を成形することができる。
【0032】
また、上記電動弁の前記雌ねじ部材の製造方法において、該雌ねじ部材は、前記凹部の外表面に該雌ねじ部材を前記弁本体に固定するための円板状の接合リングを有し、該接合リングを前記下型と前記上型とで挟持して該雌ねじ部材をインサート成形することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、電動弁の雌ねじ部材の雌ねじと下端部との間で芯ずれが発生することがなく、また、バリの発生を防止することができて電動弁の製造コストを低減することのできる雌ねじ部材、それを用いた電動弁、及び雌ねじ部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明にかかる雌ねじ部材の一例を示す図であって、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は下面図である。
【
図2】
図1の雌ねじ部材を示す図であって、(a)は俯瞰図、(b)は仰視図である。
【
図3】
図1の雌ねじ部材を示す図であって、(a)は断面仰視図、(b)は一部破断仰視図である。
【
図4】本発明にかかる雌ねじ部材の製造方法で用いる金型の一例を示す図であって、(a)は正面断面図、(b)は一部破断斜視図である。
【
図5】
図1の雌ねじ部材及び
図4の金型の中子を示す一部破断斜視図である。
【
図6】螺旋状傾斜面1eの変形例を示す図であり、雌ねじ1aの中心軸を中心として該螺旋状傾斜面1eを展開した展開図を用いた螺旋状傾斜面1eの引き抜き(中子13の引き抜き)の様子を示す説明図である。
【
図7】特許文献3に記載の電動弁及びこの電動弁に用いられる雌ねじ部材を示す図であって、(a)、(b)は各々電動弁の全閉時、全開時を示す断面図であって、(c)は雌ねじ部材を示す。
【
図8】
図7の雌ねじ部材を示す図であって、(a)は俯瞰図、(b)は一部破断仰視図、(c)は仰視図である。
【
図9】
図7の雌ねじ部材を一つの中子で成形することができないことを説明するための一部破断断面図である。
【
図10】
図7の雌ねじ部材を製造するにあたって用いる金型の一例を示す図であって、(a)は正面断面図、(b)は一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1乃至
図3は、本発明にかかる雌ねじ部材を示し、この雌ねじ部材(弁軸ホルダ)1は、
図7等に示した上記雌ねじ部材61と略同様の構成及び機能を有し、雌ねじ1aが螺設された雌ねじ部1bと、雌ねじ部1bの上面部に突設された全閉ストッパ部(全閉固定ストッパ)1dと、雌ねじ部1bの一端に該雌ねじ部1bと同軸に形成され雌ねじ1aのねじ径より大径の円筒状空間1jを有する筒状部1cと、円筒状空間1jにおいて雌ねじ部1bのの下面から下方に突設された全開ストッパ部(全開固定ストッパ)1fとを備え、下端部1gに突条1hを介して接合リング2が一体的に設けられる。全開ストッパ部1fは、言い換えれば筒状部1cの底部に形成されている。
【0037】
全開ストッパ部1fは、雌ねじ1aの中心軸を中心としてその回転方向に形成され、
図7に示した全開下ストッパ部67に当接する当接面(作用面)1kと、
図3(b)に明示されるように、該当接面1kの下縁部から雌ねじ1a側に徐々に近接する螺旋状傾斜面(筒状部1cの天井面(底部)の一部)1eと、雌ねじ1aの軸線側に位置する円周状内面1mとを有する。この螺旋状傾斜面1eは、この事例では雌ねじ1aの中心軸を中心として展開すれば直線で表現されるものであり、当接面1kの下縁部から雌ねじの回転方向に回って再び当接面1kの上端(筒状部1cの底部との接触面)に達するまで(すなわち一周するまで)連続的に形成されている。またこの当接面1kの高さ(その中心軸方向の長さ)Tは、雌ねじ1aのピッチP以下に設定されている。
この全開ストッパ部1fに全開下ストッパ部67が当接することで、ロータ57の回転が強制的に停止される。
【0038】
雌ねじ部材1が雌ねじ部材61と異なるのは、雌ねじ部材1の内壁面を1つの中子で成形するため、全開ストッパ部1fが螺旋状傾斜面1eと、円周状内面1mとを有する点であり、それ以外の部分は、雌ねじ部材61と同様の構成を有する。
【0039】
図4及び
図5は、上記雌ねじ部材1を成形するための金型を示し、
図4(b)においては、図を理解しやすくするために、中子13は透明体として描かれている。
【0040】
金型は、上型11と、下型12と、1つの中子13とで構成される。
【0041】
上型11は、中子13との間で雌ねじ部材1の雌ねじ部1b側及び筒状部1cの上部を成形するための空隙11aと、樹脂Rの注入口11bを備える。
【0042】
下型12は、中子13との間で雌ねじ部材1の下端部1g側(筒状部1cの下部)を成形するための空隙12aと、上面に接合リング2をインサート成形するためのリング状の収容部12bを備える。
【0043】
中子13は、それ一つで雌ねじ部材1の内壁面を形成可能とすべく、その上部に雌ねじ部材1の雌ねじ1aを成形するための雄ねじ部13aと、雌ねじ部材1の当接面1kを成形するための平面部13cと、雌ねじ部材1の全開ストッパ部1fがアンダーカットとならないように、当接面1kの先端から連続して傾斜し1周する螺旋状傾斜面1eを成形するための螺旋状部13bと、雌ねじ部材1の円筒状空間1jを成形するための円柱状部13eと、下端部に延設された突条13fとを備える。この突条13fは、雌ねじ部材1の成型後に中子13を回転して引き出すためのものである。
【0044】
上記金型を用い、
図4に示すように、下型12の収容部12bに接合リング2を収容した後、上型11、下型12及び中子13組み合わせ、注入口11bから樹脂Rを注入して硬化させる。その後、まず、下型12を取り外し、次に、中子13を突条13fを用いて回転させながら、雌ねじ部材1から取り外す。上述のように、当接面1kの高さTが雌ねじのピッチP以下に設定されているので、この取り出しの際、中子13の螺旋状部13bが雌ねじ部材1の螺旋状傾斜面1eに沿って滑らかに、あるいは中子13の回転に伴い螺旋状傾斜面1eから徐々に離れながら移動するため、全開ストッパ部1fがアンダーカットとならず、中子13を容易に取り外すことができる。すなわち、全開ストッパ部1fにおける、中子13の回転方向下流側の部分を、
図10に示したように例えば垂直面(回転方向に対して垂直な面)とすると、前述のように該全開ストッパ部1fがアンダーカットとなるが、全開ストッパ部1fの、中子13の回転方向下流側の部分を、該中子13の取り出し時の動き(回転しつつ、雌ねじの軸線方向に移動する動き)と同様に螺旋を描くように形成しているのでアンダーカットが生じない。
【0045】
上述のように製造された雌ねじ部材1は、
図1に示すように、全開ストッパ部1fが当接面1kと螺旋状傾斜面1eとを有し、
図7に示す全開下ストッパ部67が全開ストッパ部1fに当接すると、ロータ57の回転が強制的に停止され、電動弁51が全開状態となる。
【0046】
さて、前述の説明においては、螺旋状傾斜面1eは当接面1kの下縁部(先端)から、雌ねじ部材の中心軸の回りに一周して再度当接面の上端(上記先端と反対側端部)に至るまで形成されるものとしたが、本発明はこれのみに限定されることはなく、
図6に関して後述するように、螺旋状傾斜面1eの先端及び/あるいは後端に平坦部(雌ねじの中心軸と垂直な平面)を形成しても良い。
【0047】
図6は、螺旋状傾斜面1eの変形例を示す図であり、雌ねじ1aの中心軸を中心として該螺旋状傾斜面1eを展開した展開図を用いた螺旋状傾斜面1eの引き抜きの様子を示す説明図である(
図6の横軸は、雌ねじ1aの回転角、縦軸は雌ねじ1aの中心軸の方向を示しており、傾斜面1eの傾斜角はやや誇張して描かれている)。
【0048】
図6(a)は、本発明の変形例を示すものであり、螺旋状傾斜面1eの先端(当接面1k先端との接合部)において、平坦部1xを設けたものである。この場合は、同図に示されるように、当該雌ねじ部材1が雌ねじ1aの螺刻にしたがって回転したと仮定した場合に(回転前の全開ストッパを符号1f、回転後の全開ストッパを符号1f´で示す)、回転した螺旋状傾斜面1eが回転していない螺旋状傾斜面に干渉しないように、適宜、螺旋状傾斜面1eの傾斜角、当接面1kの高さ、平坦部1xの距離などを設定すれば良い。すなわち、上記のように設定された螺旋状傾斜面1eの傾斜角、当接面1kの高さ、平坦部1xの距離などが得られるように中子13を構成すれば、中子13の取り出し時において該中子13の螺旋状部13bが当該雌ねじ部材の螺旋状傾斜面1eと干渉せず、該中子13を取り出すことができる。
【0049】
図6(c)は、本発明の他の変形例を示すものであり、螺旋状傾斜面1eの先端(当接面1kの先端との接合部)に平坦部1xを設けると共に、さらに該螺旋状傾斜面1eの後端(当接面1kの下端との接合部)において、平坦部1yを設けたものである。この例においても、当該雌ねじ部材1が雌ねじ1aの螺刻にしたがって回転したと仮定した場合に、回転した螺旋状傾斜面1eが回転していない螺旋状傾斜面に干渉しないように全開ストッパ部1fが形成されれば、中子13は引き抜くことができる。
【0050】
図6(b)は、同図(c)のように螺旋状傾斜面1eの前後に平坦部1x及び1yを設けた場合において、当該雌ねじ部材1が雌ねじ1aの螺刻にしたがって回転したと仮定した場合に、回転した螺旋状傾斜面1eが回転していない螺旋状傾斜面に干渉した事例を示している。この場合は、中子13の引き抜き時に、該中子13が螺旋状傾斜面1eに干渉してしまい、中子13は引き抜くことができない。
【0051】
さらに本発明は、上記のように、螺旋状傾斜面1eの先端及び/あるいは後端に平坦部1x、1yを形成するのみでなく、該螺旋状傾斜面1eの中間に平坦部を形成しても良く、また螺旋状傾斜面1eも複数の傾斜角を有するものであったり、あるいはその展開図が上記したように直線ではなく曲線となるように形成されても良い。
【0052】
いずれの場合においても、当該雌ねじ部材1が雌ねじ1aの螺刻にしたがって回転したと仮定した場合に、回転した螺旋状傾斜面1eが回転していない螺旋状傾斜面に干渉しないように適宜、螺旋状傾斜面1eの傾斜角や当接面1kの高さなどを設定すれば、中子13を取り出すことができる。螺旋状傾斜面1eが複数の傾斜角あるいは連続した傾斜角を備えている場合には、その最大の傾斜角以上の角度で中子13が抜けるようにすれば良い。
【0053】
さらにまた本発明は、電動弁の雌ねじ部材に適用されるのみでなく、
筒状部の底部に連続して形成され、筒状部より小さい内径を有する雌ねじが形成された雌ねじ
部と、
筒状部の底部から雌ねじの中心軸方向に突出し、該中心軸を中心とした回転方向に作用面を有する突起とを備えた雌ねじ部材であれば、いかなる部品、製品に適用されても良い。
また、本発明の雌ねじ部材は、
図1に示されたもののみに限定され
ない。
【符号の説明】
【0054】
1 雌ねじ部材
1a 雌ねじ
1b 雌ねじ部
1c 筒状部
1d 全閉ストッパ部(全閉固定ストッパ)
1e 螺旋状傾斜面
1f 全開ストッパ部(全開固定ストッパ)
1g 下端部
1h 突条
1j 円筒状空間
1k 当接面(作用面)
1m 円周状内面
1x 平坦部
1y 平坦部
2 接合リング
11 上型
11a 空隙
11b 注入口
12 下型
12a 空隙
12b 収容部
13 中子
13a 雄ねじ部
13b 螺旋状部
13c 平面部
13e 円柱状部
13f 突条
61f 全開上ストッパ部(全開固定ストッパ)
67 全開下ストッパ部(全開可動ストッパ)