特許第5756756号(P5756756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756756
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】生物組織を失活させる方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   A61B17/39 310
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-530380(P2011-530380)
(86)(22)【出願日】2009年8月28日
(65)【公表番号】特表2012-504979(P2012-504979A)
(43)【公表日】2012年3月1日
(86)【国際出願番号】EP2009006255
(87)【国際公開番号】WO2010040431
(87)【国際公開日】20100415
【審査請求日】2012年7月25日
(31)【優先権主張番号】102008050635.4
(32)【優先日】2008年10月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】アイゼレ、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】フォークトレンダー、マティアス
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/077317(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/053532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブレーションプローブ(20、20’、20”)に近い組織領域が少なくとも1つの冷却装置の冷却パワーによって冷却されることが可能なように構成及び配置された、前記冷却装置を有し、かつ、HFジェネレータ(50)によって生成されたHF処置電流が組織内に伝導されることが可能なように配置及び構成された、少なくとも1つの電極ペアを備えた電極ユニットを有する、少なくとも1つの前記アブレーションプローブ(20、20’、20”)を備える、生物組織(300)を失活させる装置(10)であって、
失活の開始時には、前記アブレーションプローブ(20、20’、20”)に直接隣接する組織への不可逆変化を防止するために、低い第1の温度が使用され、前記失活の終了時には、増加させられた第2の温度が使用されるように構成され、かつ、前記冷却装置と前記HFジェネレータ(50)とに接続された、調整ユニット(30)
によって特徴付けられ、
前記調整ユニット(30)は、第1の処置電流を規定すること及び前記冷却パワーを調整することによって前記第1の温度を設定するために、及び、第1の処置電圧を規定すること及び前記冷却パワーを調整することによって前記第2の温度を設定するために、構成されると共に、前記第1の温度及び/又は前記第2の温度を決定するために、前記電極ユニットの少なくとも1つの電極ペアの間の組織のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置(32)を備える装置(10)。
【請求項2】
前記調整ユニット(30)は、前記組織の着氷が防止されるように、前記第1の温度が設定されるように構成されることを特徴とする、
請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記調整ユニット(30)は、前記第1の処置電流を設定するための定電流源を備えることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記調整ユニットは、前記第1の処置電圧を設定するための定電圧源を備えることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記調整ユニットは、電流調整から電圧調整への滑らかな移行が行われるように構成されることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項6】
複数のアブレーションプローブと調整ユニット(30)とを備え、
それぞれのアブレーションプローブが、関連する調整ユニットによって一緒に制御可能なように構成された、上位レベルの調整/制御ユニット(30)によって特徴付けられる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項7】
生物組織を失活させる装置(10)であって、前記装置(10)は、冷却装置の冷却パワーに起因してアブレーションプローブ(20、20’、20”)に近い組織領域が冷却されることが可能なように構成及び配置された、前記冷却装置を備える、かつ、HF処置電流が前記組織内に伝導されることが可能なように構成及び配置された、電極ユニットを有する、少なくとも1つの前記アブレーションプローブ(20、20’、
20”)を備え、
失活の開始時には、低い、第1の温度使用、前記失活の終了時には、増加させられた、第2の温度使用調整ユニット(30)を備える
ことを特徴とし、
前記第1の温度は、第1の処置電流を予め設定することによって設定され、前記第2の温度は、第1の処置電圧を予め設定することによって設定され、いずれの場合にも、前記冷却パワーの適切な設定によって設定される、装置(10)
【請求項8】
前記調整ユニット(30)は、前記組織の着氷が防止されるように、前記第1の温度が設定されるように構成されることを特徴とする、
請求項7に記載の装置(10)
【請求項9】
前記調整ユニット(30)は、前記第1の処置電流定電流として設定するための定電流源及び/又は前記第1の処置電圧定電圧として設定するための定電圧源を備える
請求項7又は8に記載の装置(10)
【請求項10】
前記調整ユニット(30)は、電流調整から電圧調整への滑らかな移行が行われるように構成されることを特徴とする、
請求項7又は9に記載の装置(10)
【請求項11】
前記第1の、及び/又は第2の温度を決定するために、前記電極ユニット(21)と前記組織(300)との間のインピーダンス測定ためのインピーダンス測定装置(32)を備えることを特徴とする、
請求項7〜10のいずれか一項に記載の装置(10)
【請求項12】
前記調整ユニット(30)は、複数のアブレーションプローブ、前記第1及び第2の温度を設定するために個別に調整、かつ、処置手順を実行するために一緒に調整することを特徴とする、
請求項7〜11のいずれか一項に記載の装置(10)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1及び請求項9のプリアンブルによる、それぞれ、生物組織を失活(devitalising)させる装置、及び対応する装置を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気手術装置、特に、組織を失活させるためのプローブ(アブレーションプローブ)(HF電圧を印加するための少なくとも1つの電極を有するプローブ本体と、冷却装置とを含む)が知られている。HF電圧は、HF(高周波)ジェネレータを介して生成される。
【0003】
高周波手術においては、組織を選択的に損壊するために、高周波における交流電流が人体を通過させられる。高周波手術の1つの適用分野は、腫瘍組織の失活である。高周波手術は、加熱の熱効果を利用し、これにより失活が達成される。
【0004】
HF電流のバイポーラ印加とモノポーラ印加との間に区別が付けられる。モノポーラ印加では、電気手術装置の器具は1つの電極のみを含み、一方、第2の中性電極が患者の上に直接置かれる。電流は、組織内の抵抗に逆比例する関係で、器具の電極から中性電極に流れる。器具の電極のすぐ近くでは、電流密度は説明した熱効果が発生するのに十分なほど高い。この電極からの距離が増加するにつれて、電流密度は距離に対する逆二乗関係で低下する。HF電流の失活効果は、従って、空間的に制限される。
【0005】
バイポーラ印加では、器具は2つの電極を含む。例えば、プローブ先端が第1の電極として構成されてもよく、一方、プローブの近接部が第2の電極として働く。HF電圧が、互いに絶縁された2つの電極間に印加される。回路は、それらの間に位置する組織を介して完成される。プローブの周辺に集中した電流分布フィールドが生成される。
【0006】
HF電流の印加のタイプ(モノポーラ又はバイポーラ)に関わらず、器具のすぐ近くで高いフィールド密度が形成される、ということは自明である。このフィールド密度は、周囲の組織の脱水を、そして更には炭化をもたらす場合がある。少なくとも腫瘍の失活において、この効果は望ましくなく、その理由は、脱水又は炭化された組織は、強力に絶縁する効果を有し、より深い組織領域内での処置を妨げるからである。加えて、体は、そのような炭化された組織を容易に分解することができない。
【0007】
この理由により、直接隣接する組織を冷却するため、従って、隣接する組織の脱水及び/又は炭化を防止するために、冷却装置が使用される。
【0008】
腫瘍のサイズによっては、1つの器具で達成される失活効果は、量及び/又は速度に関して、腫瘍のセーフティマージンを含めて腫瘍を完全に失活させるのに十分であることはできない。そのような場合、クラスタ電極、及び/又は、クラスタ電極のように作用する複数のアブレーションプローブが使用される。クラスタ電極は、相互の関連で幾何学的に配置された、かつ、HF電圧を供給される、2つから4つの個別の電極を含んでもよい。適用においては、ジェネレータによって供給される、かつ、並列に、又は多重動作で動作させられる、モノポーラ及びバイポーラの両方のバージョンが使用される。
【0009】
複数の冷却される印加プローブが、1つのジェネレータによって、一定電力で、並列に動作させられる場合、様々な開始条件(インピーダンス、熱容量、及び熱伝導特性)によって、印加の開始時に、電極間の非対称な電流分布が生じる場合がある。
【0010】
前述の脱水又は炭化が発生しないように、負荷に依存する方式で、電気手術器具を調整することが知られているが(独国特許出願公開第42 33 467(A1)号明細書を参照)、そのようなアプローチは、そのままでは、クラスタ電極と共に使用することはできない。
【0011】
例えば、第1の電極ペアが低い電流入力を有し(そして、ごく少量のHFエネルギーが組織内に与えられ)、一方、第2の電極ペアは、大幅により高い電流入力を有するということが生じる場合がある。第1の電極ペアの一定の冷却を仮定すると、温度の低下により、接触抵抗が増加し、その結果、この第1の電極ペアにおける電流入力は減少する。好ましくない場合には、これは、第2の電極ペアにおける電流入力が更に上昇するということを、それに加えてもたらす可能性がある。その場合、第2の電極ペアにおいて、印加される冷却パワーと、HF電力との間のミスマッチが生じる。組織は完全に乾燥し、その結果、第2の電極における接触抵抗も上昇する。
【0012】
個々の電極における接触抵抗の測定によって、失活プロセス(devitalisation process)又は凝固プロセス(coagulation process)が終結したとみなされてもよいかどうかを確認することが可能である。上術の、第1の電極ペアにおける接触抵抗の上昇(過剰な冷却による)、及び第2の電極ペアにおける接触抵抗の上昇(過剰に高いHF電力による)により、誤った評価が生じる可能性があり、その結果、凝固プロセスが終結したと誤って判断される可能性がある。第1の電極へのHF電流の欠如、又は過剰に弱い印加が、介入の全体的結果に悪影響を及ぼすことは明らかである。第2の電極ペアにおける、高い電圧でのHF電流の短時間の印加は、更に、電極から遠く離れた組織が失活されないことをもたらす可能性がある。
【0013】
第1の電極ペア及び第2の電極ペアにおける接触抵抗の上昇のため失活プロセスが中断されない場合、自己調整効果が生じる。接触抵抗は、第1の電極ペアにおけるよりも、第2の電極ペアにおいて、大幅により強力に上昇するため、HF電力分布は、第1の電極ペアに有利なように移動する。第2の電極ペアにおいて脱水「のみ」が起こる範囲内では、組織液は、再び拡散して戻ることが可能である。第2の電極ペアにおける接触抵抗は低下し、一方、第1の電極ペアにおける接触抵抗は、恐らく組織の脱水により上昇する。システムは、従って、個々の電極ペアにおけるHF電力が上昇し、そして再び低下して戻ることに伴って、2つの状態の間を行きつ戻りつして変動する傾向がある。このための前提条件は、接触組織において不可逆効果が発生しないということである。
【0014】
しかし、特に電極クラスタ間に比較的大きな距離がある場合、システムは行き過ぎる傾向があり、その理由は、この場合、1つのプローブにおける過大な冷却エネルギーが、他のプローブからの温かさの拡散によって補償されないからである。
【0015】
クラスタ又はアレイ内のプローブの多重動作を仮定すると、アブレーションプローブ、プローブ、又はプローブペアが特定のアルゴリズムを使用して順次動作させられるため、インピーダンスの過剰な上昇が防止される。しかし、これは、組織内への連続的なエネルギー入力による効率的な失活が可能ではないという欠点を有する。1つのみのアブレーションプローブが使用される場合でも、従来の制御アルゴリズムは、直接隣接する組織の過剰な冷却、又は過熱を防止するのに十分ではない。例えば、電流低下の勾配(dI/dt)又はインピーダンス上昇の勾配(dZ/dt)に基づいて、調整を実行することが知られている。しかし、このタイプの調整は、不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第WO2008/077317号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2001/014819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、単一動作及びクラスタ動作の両方における、冷却されるアブレーションプローブの制御を改良することである。特に、事前定義された組織セクションの失活を可能にする、信頼性が高く、かつ患者負担を軽減する、生物組織を失活させる装置が提供される。更なる目的は、対応する方法を規定することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、本発明の請求項1による装置を使用して、及び、本発明の請求項9による方法を使用して、達成される。
【0019】
特に、この問題は、以下を含む、生物組織を失活させる装置を使用して解決される。
アブレーションプローブに近い組織領域が冷却装置の冷却パワーによって冷却されることが可能なように構成及び配置された、冷却装置を有し、かつ、HFジェネレータによって生成されたHF処置電流が組織内に伝導されることが可能なように配置及び構成された、電極ユニットを有する、少なくとも1つのアブレーションプローブ、
及び、失活の開始時には、低い、第1の温度が使用され、失活の終了時には、増加させられた、第2の温度が使用されるように、構成され、かつ、冷却装置とHFジェネレータとに接続された、調整ユニット。
【0020】
本発明の本質は、過剰な冷却による組織変化は本質的に可逆であり、一方、過剰な加熱による組織の脱水及び/又は炭化は、再生されることができない、又は、非常に緩慢にのみ再生されることが可能である、という認識に基づく。従って、冷却装置を使用することによって、調整可能に、かつ適時に、すなわち最初から介入することは有用である。従って、本発明によれば、失活の開始時には、冷却がはるかにより強力に印加され、一方、プロセスの終了に向けて温度が増加させられる。温度は、冷却パワーを調整することによって、又は、HF電力と冷却パワーとの間の比率を調整することによって調節可能である。第1の温度においては、更なる隔たった組織領域内への電流入力が可能となり、従って、凝固域の十分な拡張が保証される。所望の凝固半径に到達した後、第2の温度を印加すると、アブレーションプローブに隣接する組織が失活させられる。
【0021】
調整ユニットは、組織の着氷が防止されるように、温度が設定されるように構成されてもよい。第1の温度が、処置される組織の凍結点に近いように、特に1℃〜8℃に選択されるように、装置を動作させることが有利である。しかし、調整ユニットは、組織の着氷が防止されるように構成されなければならない。組織が着氷すると抵抗率が増加し、これは、組織内への低い電流入力が生じる可能性がある理由である。
【0022】
調整ユニットは、第1の処置電流を規定することによって第1の温度を設定するために、及び、第1の処置電圧を規定することによって第2の温度を設定するために、そして、いずれの場合にも、冷却パワーの対応する調節のために、構成されてもよい。第1の温度に近い大きな領域内での抵抗変化は負であるため、本質的に一定の第1の処置電流を使用した動作時に、凝固プロセスの安定した調整が保証されることが可能である。第2の温度に近い大きな領域内での抵抗変化は正であるため、この第2の動作モードでは、本質的に一定の処置電圧を使用した、凝固プロセスの安定した設定が達成されることが可能である。
【0023】
調整ユニットは、第1の処置電流を設定するための定電流源を含んでもよい。
【0024】
調整ユニットは、第1の処置電圧を設定するための定電圧源を含んでもよい。
【0025】
調整ユニットは、電流調整から電圧調整への滑らかな移行が起こるように設定されてもよい。
【0026】
第1の、及び/又は第2の温度を決定するために、調整ユニットは、電極ユニットと周囲の組織との間のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定機器を含んでもよい。例えば、中性電極と印加電極との間のインピーダンスが測定されてもよい。あるいは、HF電流を印加するために電圧が供給される、電極ペア間のインピーダンスが測定されてもよい。個々の電極は、更に、電極部品間で測定が実行されるように複数の部品で構築されてもよい。インピーダンス測定は、有利には、アブレーションプローブにおいて存在する状態(特に、支配的温度(prevailing temperature))に関して、結論を導き出すために処理されてもよい。
【0027】
装置は、複数のアブレーションプローブ及び調整ユニットを含んでもよく、ここで、それぞれのアブレーションプローブが、関連する調整ユニットによって一緒に制御可能なように構成された、上位レベルの調整/制御ユニットが提供される。特に、複数のアブレーションプローブを動作させる場合、失活又は凝固プロセスの開始時における蒸気形成及び脱水を、個々のアブレーションプローブを第1の低い温度で動作させることによって防止することが有利である。
【0028】
上述した問題は、生物組織を失活させる装置を調整する方法によっても解決され、ここで、装置は、冷却装置の冷却パワーに起因してアブレーションプローブに近い組織領域が冷却されることが可能なように構成及び配置された冷却装置を含む、少なくとも1つのアブレーションプローブを含み、かつ、前記装置は、処置電流が組織内に伝導されることが可能なように構成及び配置された電極ユニットを含み、ここで、失活の開始時には、低い第1の温度が使用され、失活の終了時には、増加させられた第2の温度が使用される。
【0029】
更なる有利な実施形態は、従属請求項に含まれている。本発明による方法を使用して達成される利点は、本質的に、前述の装置の利点に対応する。
【0030】
以下では、図面を参照してより詳細に説明するいくつかの例示的実施形態に基づいて、本発明についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明による生物組織を失活させる装置の必須構成要素を示す。
図2】本発明による、調整/制御ユニットを有する複数のアブレーションプローブを示す。
図3】生物組織の抵抗率の、温度への依存を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の説明において、同一の部品、及び同一の方式で動作する部品には、同じ参照符号を使用する。
【0033】
生物組織を失活させる、本発明による装置10の、第1の例示的実施形態は、アブレーションプローブ20と、調整/制御ユニット30とを含む(図1を参照)。アブレーションプローブ20にHF電圧を供給するために、前記プローブはHFジェネレータ50に接続される。アブレーションプローブ20を冷却するためのクーラントを供給するクーラント源40への流体接続も存在する。調整/制御ユニット30は、事前に定義された冷却パワーPでアブレーションプローブが冷却されるように、クーラント源40を制御又は調整する。調整/制御ユニット30は更に、アブレーションプローブ20が事前に定義されたHF電力PHFを組織に出力するように、HFジェネレータ50を制御又は調整する。
【0034】
HF電力PHFと冷却パワーPとを適切に調整するために、調整/制御ユニット30は、アブレーションプローブ20から測定信号を受信する。
【0035】
示される例示的実施形態においては、組織の比導電率又は抵抗率ρが測定される。
【0036】
図2に概略的に示すように、装置10は、この目的のために、実際に存在するインピーダンスRistを検出する測定装置32を含む。この実際のインピーダンスRistは、1つ以上の電極ペア間で測定されてもよい。1つの電極が2つ以上の部品で構築され、電極の個々の部品間で抵抗が測定されることも考えられる。
【0037】
組織の比導電率は、組織の温度に関する情報、及びその状態(例えば、凍結、脱水、又は炭化)に関する情報を明らかにする。
【0038】
組織の比導電率は、導入又は抽出されるエネルギーによって、すなわちHF電力PHF及び冷却パワーPによって、処置の過程の間、影響を及ぼされる。比導電率は、従って、組織温度が凍結点に近付いた場合に低下する(比導電率=1/ρ)(図3を参照)。逆に、特に100℃以上の高温が発生した場合、蒸気形成及び組織の脱水が起こる。従って、組織の温度が100℃以上の場合に比導電率は大幅に低下する。
【0039】
本発明による調整/制御ユニット30は、組織を所定の温度で凝固させるために、調節変数HF電力PHF及び冷却パワーPを使用する。特に、処置されている組織内の、所定の温度勾配を達成することは、本発明の一部である。
【0040】
抽象的に述べると、目標インピーダンスRsollが、測定された実際のインピーダンスRistと比較され、所望の結果に応じて調節変数が設定される。HF電力PHFを調整するため、及び冷却パワーPを調整するために、調整/制御ユニット30は、冷却パワー調整器34と、HF電力調整器35とを含む。
【0041】
HF電力調整器35は、例えば、ライン52を介してアブレーションプローブ20にHF電流を供給する、HFジェネレータ50を制御することが可能である。冷却パワー調整器34は、バルブ41を調整することによって、クーラント源40からのクーラントの供給を調整することが可能であり、従って、冷却パワーPを設定することが可能である。
【0042】
本発明によれば、組織を失活させる装置10は、少なくとも2つの動作状態を有する。第1の動作状態では、アブレーションプローブ20は、第1の動作点AP1において動作させられ、第2の動作状態では、第2の動作点AP2において動作させられる。第1の動作点AP1は、第1の低い温度(特に2℃と10℃との間の間隔内)によって特徴付けられ、第2の動作点AP2は、大幅により高い、第2の温度(特に80℃から110℃までの範囲内)によって特徴付けられる。温度データは、アブレーションプローブ20に直接隣接する組織に、及び/又は、アブレーションプローブ20の外側スリーブにおける温度に、特に関連している。
【0043】
第1の動作点AP1では、プローブ表面を取り巻く組織の冷却により、更なる隔たった組織領域内に入力される電流が可能となる。組織の失活のための熱効果が、従って、適用中のアブレーションプローブ20から比較的遠く隔たった領域内で発生する。第1の動作点AP1の周辺の偏差が発生した場合、脱水に起因する組織内の不可逆変化は起こらない(参照:第2の動作点AP2における変性)。隣接する組織の凍結は、比較的問題のない、可逆変化であろう。特に、組織は、数秒以内に再び解凍されることが可能である。従って、直近において比較的低い温度(例えば、第1の温度)が存在し、距離の増加に伴って最大値まで温度が増加する温度分布がある。最大値に到達した後、温度は体温まで再び低下する。
【0044】
所望の凝固半径に到達した後、装置10は、第2の動作状態を取り、第2の動作点AP2に到達するように調節変数を調整する。第1の動作点における調整から、第2の動作点AP2における調整までの、連続的な移行を行うことも考えられる。従って、凝固半径は、少しずつ減少させられることが可能である。第1の動作点AP1の周辺の大きな間隔内で、抵抗率(Δρ/ΔT)は負であるため、定電流での動作時に、安定した動作点が実現されることが可能である。
【0045】
同時に、第2の動作点AP2の周辺の大きな間隔内で抵抗率の変化(Δρ/ΔT)は正であり、この理由により、定電圧での動作の間、安定した第2の動作点が実現されることが可能である。
【0046】
図3を参照すると、支配的温度の関数としての、生物組織の抵抗率が示されており(横軸は、℃単位での温度を表し、縦軸は、オームメートル単位での抵抗率を示す)、そこで選択されている動作点AP1及びAP2が、対応する抵抗変化を示すことは明らかである。より低い温度において抵抗率は急激に上昇するため、約4℃における第1の動作点AP1は特に有利である、ということも明らかである。この動作点AP1は、従って、容易に検出されることが可能である。
【0047】
より高い温度において、抵抗率はやはり急激に上昇するため、約100℃の温度における第2の動作点AP2も非常に特徴的であるということも明らかである。従って、この特徴的な動作点AP1及びAP2の発見、及びそれらの維持は比較的容易に達成される。
【0048】
更なる例示的実施形態では、図2に示すように、大きな腫瘍領域を不活性化するために、複数のアブレーションプローブ20、20’、20”が、複数の調整/制御ユニット30を使用して同時に動作させられる。個々のアブレーションプローブ20、20’、20”が、上述のように同様に調整及び制御される限り組織の有利な失活が起こる。特に、大きな組織セクションの完全な失活が、患者に最小限の損傷を与える方式で達成されることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 組織を失活させる装置
20、20’、20” アブレーションプローブ
30 調整/制御ユニット
32 測定装置
34 冷却パワー調整器
35 HF電力調整器
40 クーラント源
14 バルブ
42 サプライ
50 HFジェネレータ
52 ライン
HF HF電力
冷却パワー
ρ 抵抗率
ist 実際のインピーダンス
soll 目標インピーダンス
AP1 第1の動作点
AP2 第2の動作点
図1
図2
図3