【文献】
J. Gen. Virol.,2008年,vol.89,p.653-9
【文献】
J. Biol. Chem.,2003年,vol.278,p.44385-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C型肝炎ウイルス粒子のE1タンパク質及びE2タンパク質からなる複合体の立体構造をエピトープとして認識し、C型肝炎ウイルスに対して感染阻害活性を有する、抗C型肝炎ウイルス抗体であって、
以下の(a)又は(b)である前記抗体。
(a)重鎖可変領域が配列表の配列番号18、20及び22に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号25、27及び29に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体
(b)重鎖可変領域が配列表の配列番号32、34及び36に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ、軽鎖可変領域が配列番号39、41及び43に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体
前記E1タンパク質及びE2タンパク質のアミノ酸配列が、それぞれ配列表の配列番号7及び配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗C型肝炎ウイルス抗体。
前記C型肝炎ウイルス粒子は、C型肝炎ウイルスのJ6CF株及びJFH-1株のゲノムの一部を連結して構成されるC型肝炎ウイルスキメラゲノムから産生され、前記C型肝炎ウイルスキメラゲノムは、以下の(i)又は(ii)である、請求項1又は2記載の抗C型肝炎ウイルス抗体。
(i)J6CF株由来の5’非翻訳領域、coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列及びp7タンパク質コード配列、並びにJFH-1株由来のNS2タンパク質コード配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’非翻訳領域を5’側から順番に連結したC型肝炎ウイルスキメラゲノム
(ii)J6CF株由来の5’非翻訳領域、coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列及びNS2タンパク質コード領域のN末端から16位のアミノ酸残基までのアミノ酸配列をコードする配列、並びにJFH-1株由来のNS2タンパク質コード領域のN末端から17位のアミノ酸残基からC末端のアミノ酸残基までをコードする配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’非翻訳領域を5’側から順番に連結したC型肝炎ウイルスキメラゲノム
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下で本発明の実施の形態について詳細に説明をする。なお、本発明は、当該分野の技術の範囲内にある分子生物学及び免疫学の従来技術を用いて実施できる。このような技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (第3版, 2001)、Ed Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1988)を参照することができる。
【0046】
また、本明細書中に引用されている全ての刊行物、特許及び特許出願は、その全体が本明細書に参考として、援用される。
【0047】
1. 抗HCV抗体及びその断片
本発明の一の態様は、HCV粒子を抗原とし、かつHCV感染の阻害活性を有する抗HCV抗体又はその断片である。
【0048】
1−1.抗HCV抗体及びその断片
本発明の「抗HCV抗体」は、後述するHCVキメラゲノムから産生されるHCV粒子を抗原として誘導される抗体であって、HCV粒子における立体構造をエピトープとして認識して結合し、かつそのHCVの宿主細胞への感染を阻害する活性を有する、いわゆる中和抗体である。本発明の抗HCV抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を含む。好ましくはモノクローナル抗体である。本明細書において「モノクローナル抗体」とは、単一の免疫グロブリン、又はそのフレームワーク領域(Frame work region;以下、「FR」とする)及び相補鎖決定領域(Complementarity determining region;以下、「CDR」とする)を含み、抗原であるHCV粒子に特異的に結合し、かつそれを認識することのできるポリペプチドをいう。上記免疫グロブリンには、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDの各抗体クラスが知られているが、本発明の抗体は、いずれのクラスであってもよい。好ましくはIgGである。
【0049】
本発明の抗HCV抗体の具体的な例としては、重鎖可変領域(H鎖V領域:以下「VH」とする)に配列番号18、20及び22、又は配列番号32、34及び36に示されるアミノ酸配列を含むCDRを包含する抗体が挙げられる。例えば、配列番号13又は15に示されるアミノ酸配列を含むVHを有する抗体が該当する。
【0050】
また、本発明の抗HCV抗体の具体的な例としては、軽鎖可変領域(L鎖V領域:以下「VL」とする)に配列番号25、27及び29、又は配列番号39、41及び43に示されるアミノ酸配列を含むCDRを包含する抗体が挙げられる。例えば、配列番号14又は16に示されるアミノ酸配列を含むVLを有する抗体が該当する。
【0051】
本発明の抗体又は後述するその断片の可変領域(以下「V領域」とする)、特にその領域に含まれるFRのアミノ酸配列は、HCV粒子との特異的な結合活性を保持する限りにおいて変異を含むことができる。すなわち、FRのアミノ酸配列のうち1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1又は2個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入若しくは付加されていてもよい。これは、FRがV領域の骨格を構成する領域であって、抗体の抗原結合特異性には直接的に関与しないため、当該領域に上記変異が導入された場合であってもHCV粒子との特異的な結合活性を保持する可能性が高いからである。一方、CDRへの変異の導入は、抗原特異的な結合活性を変化させてしまう可能性が高く、通常は好ましくない。しかしながら、CDRへの変異の導入により抗体の結合活性が著しく増大される例も知られている。したがって、本発明においては、上記変異がCDR内にあってもよい。この場合、CDRは1〜3個、好ましくは1又は2個のアミノ酸の欠失、置換、挿入若しくは付加を含むことができる。このような変異の導入には、後述するファージベクターを利用することができる。ファージベクターは、導入された抗体を速やかに、かつ多量に発現できること、及び十分な量の抗体分子を宿主細菌の表面に発現可能なことから、HCV粒子との特異的な結合活性を保持した又は増大させる変異を含む抗体のスクリーニングを行う上で便利である。
【0052】
本発明の「その断片」とは、上記抗HCV抗体の部分領域であって、該抗体が有する抗原特異的結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。例えば、抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分、すなわち、少なくとも1つのVLと少なくとも1つのVHを有するポリペプチド鎖又はその複合体が該当する。具体例としては、免疫グロブリンを様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた抗体断片等が挙げられる。より具体的な例としては、Fab、F(ab’)
2、Fab'等が挙げられる。Fabは、パパインによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されることによって生じる断片であって、VH及びH鎖C領域(重鎖定常領域:以下「CH」とする)を構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1からなるポリペプチドと、軽鎖から構成される。F(ab’)
2は、ペプシンによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されることによって生じるFab'の二量体である。Fab'は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する(Fundamental Immunology , Paul ed., 3d ed. 1993を参照)。Fab'は、F(ab’)
2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含しており、抗原(すなわち、本発明においてはHCV粒子)と特異的に結合する能力を有している。
【0053】
本発明の抗HCV抗体又はその断片は、修飾することができる。ここでいう修飾は、本発明の抗体又はその断片がHCV粒子との特異的結合活性を有する上で必要な機能上の修飾(例えば、グリコシル化)、及び本発明の抗体又はその断片を検出する上で必要な標識のいずれをも含む。上記抗体標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。また、本発明の抗体のグリコシル化は、標的抗原に対する抗体の親和性を調整するために改変されていてもよい。このような改変は、例えば、抗体配列内の一以上のグリコシル化部位を変更することで達成できる。より具体的に説明すると、例えば、FR内の一以上のグリコシル化部位を構成するアミノ酸配列に一以上のアミノ酸置換を導入して該グリコシル化部位を除去することにより、その部位のグリコシル化を喪失させることができる。このような脱グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させる上で有効である(米国特許第5714350号、及び同第6350861号)。
【0054】
本発明の抗HCV抗体又はその断片は、HCV粒子との解離定数が、5.0 e
-9M以下、好ましくは1.0 e
-9M以下、より好ましくは5.0 e
-10M以下、1.0 e
-10M以下、5.0 e
-11M以下、1.0 e
-11M以下、5.0 e
-12M以下又は1.0 e
-12M以下の高い親和性を有することが好ましい。上記解離定数は、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。例えば、BIAcoreシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により速度評価キットソフトウェアを用いて測定してもよい。解離定数の測定は、適宜定めればよいが、正確な測定には、0.3M塩化ナトリウムの存在下で行うことが好ましい。
【0055】
本発明の抗HCV抗体又はその断片は、任意の生物由来の抗体又はその断片、好ましくは哺乳動物由来の抗体又はその断片である。HCV感染の阻害を目的としてヒトに投与する場合、ヒト抗体、あるいは化学的に合成した又は組換えDNA法によって合成した組換え抗体であることが望ましい。これは、ヒト以外の生物に由来する抗HCV抗体の定常領域(以下「C領域」とする)は、ヒト体内において免疫原性を有するため、当該抗体に対して免疫反応を誘発し、上記目的を達成し得ないからである。
【0056】
本明細書において上記「組換え抗体」とは、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体及び合成抗体をいう。
【0057】
「キメラ抗体」とは、ある抗体のC領域を他の抗体のC領域で置換した抗体である。例えば、後述するHCV感染阻害活性を有するマウスモノクローナル抗体P18-9E又はP19-7Dにおいて、そのC領域をヒト抗体のC領域と置き換えた抗体が該当する。これによりヒト体内における当該抗体に対する免疫反応を軽減し得る。本発明におけるキメラ抗体の、より具体的な例としては、VLが抗HCVマウスモノクローナル抗体由来の配列番号14又は16で示されるアミノ酸配列を含み、かつL鎖C領域(軽鎖定常領域:以下「CL」とする)が任意のヒト抗体のCLにおけるアミノ酸配列を含み、及び/又はVHが抗HCVマウスモノクローナル抗体由来の配列番号13又は15で示されるアミノ酸配列を含み、かつCHが任意のヒト抗体のCHにおけるアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。
【0058】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したモザイク抗体である。抗体の抗原結合特異性は、主としてV領域中のCDR群が担っている。したがって、ある特定の抗体と同様の結合特性を有する組換え抗体を作製する際には、その抗体の全アミノ酸配列を得る必要はなく、既存の組換えDNA技術を用いて、その抗体由来の各CDR領域をコードするDNA配列を、それぞれヒト抗体由来の対応するCDRをコードするDNA配列と置き換えたモザイク抗体を調製し、それを発現させることにより、その特定の抗体の性質を模倣した組換え抗体を得ることができる。ヒト化抗体を調製する一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報)。例えば、マウス抗体のCDRとヒト抗体のFRとを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する方法が挙げられる。本発明では、抗HCVマウスモノクローナル抗体P18-9E及びP19-7DのCDRが明らかとなったことから、例えば、後述の方法でヒト化抗体を作製することができる。
【0059】
「合成抗体」とは、化学的に、又は組換えDNA法を用いることによって、合成した抗体又は抗体断片をいう。例えば、特定の抗体の一以上のVL及び一以上のVHを適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL及びVHは、通常別々のポリペプチド鎖(軽鎖と重鎖)上に位置する。一本鎖Fvは、これら2つのポリペプチド鎖上のV領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両V領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、一本鎖Fvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は自己集合できないが、ダイアボディを形成させることにより、すなわち、2つの一本鎖Fvを相互作用させることにより、一方のFv鎖のVLが他方のFv鎖のVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al., 2005, Acta Pharmacol. Sin. 26:649-658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Olafsen et al., 2004, P
rot. Engr. Des. Sel. 17:21-27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していてもよい。例えば、一方の抗原結合部位が、配列番号18、20及び22で示されるアミノ酸配列を含むCDR(それぞれP18-9EのVHにおけるCDR1、CDR2及びCDR3に相当)を包含するVHと、配列番号25、27及び29で示されるアミノ酸配列を含むCDR(それぞれP18-9EのVLにおけるCDR1、CDR2及びCDR3に相当)を包含するVLからなり、他方の抗原結合部位が、配列番号32、34及び36で示されるアミノ酸配列を含むCDR(それぞれP19-7DのVHにおけるCDR1、CDR2及びCDR3に相当)を包含するVHと、配列番号39、41及び43で示されるアミノ酸配列を含むCDR(それぞれP19-7DのVHにおけるCDR1、CDR2及びCDR3に相当)を包含するVLから構成されていてもよい。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。さらに、上記「その断片」は、ファージディスプレイライブラリーを用いて同定された抗体断片(例えば、McCafferty et al., 1990, Nature Vol.348:552-554参照)であって、かつ抗原結合能力を有しているものが含まれる。この他、例えば、Kuby, J., Immunology, 3
rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998)も参照されたい。
【0060】
「HCV感染」とは、HCV粒子が宿主細胞の細胞表面に結合し、宿主細胞内で増殖された後、細胞外に放出されるまでの過程をいう。したがって、本明細書において「HCV感染の阻害」とは、HCV感染の上記一連の過程のうち少なくとも一つを阻害又は抑制することをいう。好ましくは、HCVが宿主細胞の細胞表面のウイルス受容体に結合する経路及び/又は宿主細胞内にHCVゲノムが侵入する経路を阻害することである。
【0061】
1−2.抗原としてのHCV粒子
本発明における抗HCV抗体は、HCVキメラゲノムから産生されるHCV粒子を抗原とすることを特徴とする。
【0062】
「HCV粒子」とは、HCVエンベロープタンパク質とそれにパッケージングされたHCVゲノムからなるHCVそのものをいう。
【0063】
「HCVキメラゲノム」とは、異なる二以上のHCVゲノムに由来するHCVゲノムをいう。例えば、HCVゲノムは、通常、5’側から3’側に向かって、5’非翻訳領域、coreタンパク質コード配列(以下、「core配列」とする)、E1タンパク質コード配列(以下、「E1配列」とする)、E2タンパク質コード配列(以下、「E2配列」とする)、p7タンパク質コード配列(以下、「p7配列」とする)、NS2タンパク質コード配列(以下、「NS2配列」とする)、NS3タンパク質コード配列(以下、「NS3配列」とする)、NS4Aタンパク質コード配列(以下、「NS4A配列」とする)、NS4Bタンパク質コード配列(以下、「NS4B配列」とする)、NS5Aタンパク質コード配列(以下、「NS5A配列」とする)、NS5Bタンパク質コード配列(以下、「NS5B配列」とする)及び3’非翻訳領域からなるRNAで構成されている。したがって、「HCVキメラゲノム」は、HCVゲノムを構成する上記各領域が異なる二以上のHCV株由来の領域で構成されている。
【0064】
上記HCVキメラゲノムにおいて各領域を構成する異なる二以上のHCV株は、特に限定はしない。例えば、JFH-1株(遺伝子型2a)、J6CF株(遺伝子型2a)又はTH株(遺伝子型1b)が挙げられる。また、キメラゲノムを構成する各領域がいずれのHCV株に由来するか、その組合せも特に限定はしない。具体的に説明をすると、HCVキメラゲノムは、例えば、(i)5’非翻訳領域、core配列、E1配列、E2配列、p7配列及びNS2配列をJFH-1株以外の株由来とし、かつ(ii)NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列、NS5B配列及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とすることができる。又は、(i)5’非翻訳領域、core配列、E1配列、E2配列及びp7配列をJFH-1株以外の株由来とし、かつ(ii)NS2配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列、NS5B配列及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とすることもできる。
【0065】
一の実施形態において、HCVキメラゲノムは、5’側から3’側の方向に、(i)5’非翻訳領域、core配列、E1配列、E2配列及びp7配列をJ6CF株由来とし、かつ(ii)NS2配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列、NS5B配列及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とするキメラゲノムである。好ましくは、(i)5’非翻訳領域、core領域、E1領域、E2領域、p7領域、NS2領域のN末端側の16アミノ酸残基までコードする配列をJ6CF株由来とし、かつ(ii)NS2領域のN末端側から17位以降のアミノ酸残基をコードする配列、NS3領域、NS4A領域、NS4B領域、NS5A領域、NS5B領域及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とするキメラゲノムである。このキメラゲノムは、配列番号2の塩基配列からなるJ6/JFH-1中にクローン化されている。さらに、5’非翻訳領域をJFH-1株由来とし、core配列、E1配列、E2配列及びp7配列をTH株(Wakita, T. et al., J. Biol. Chem., 269, 14205-14210, 1994、特開2004-179)由来とし、かつNS2配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列、NS5B配列及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とするキメラゲノム、好ましくは5’非翻訳領域をJFH-1株由来とし、core配列、E1配列、E2配列、p7タンパク質及びNS2領域のN末端側33位までのアミノ酸残基をコードする配列をTH株由来とし、NS2領域のN末端側34位以降のアミノ酸残基をコードする配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列及びNS5B配列及び3’非翻訳領域をJFH-1株由来とするキメラゲノムであってもよい。
【0066】
また、一の実施形態において、本明細書に記載のHCVキメラゲノムから産生されるHCV粒子を後述する方法で不活化することによって、ワクチンとして使用することもできる。このワクチンを当該分野で公知の方法に従いヒトに接種することによって、本発明の抗HCV抗体を接種者の体内において直接製造することが可能となる。
【0067】
1−3.HCV粒子の調製
本発明において抗原として使用する感染性HCV粒子は、細胞培養系で調製することができる。この基本技術は、WO04104198A1、WO06022422A1、WO06096459A2、Wakita, T. et al., Nat. Med. 11:791-796,2005、Lindenbach, BD. et al., Science 309:623-626,2005及びPietschmann, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103:7408-7413, 2006に記載されている。以下、感染性HCV粒子の調製について具体的に説明をする。
【0068】
1−3−1.HCVキメラゲノム
HCV粒子の調製には、上記「1−2.抗原としてのHCV粒子」の項で記載したHCVキメラゲノムを使用することができる。例えば、配列番号2で示される塩基配列を有する核酸を使用してもよい。また、使用するHCVキメラゲノムは、RNA又はDNAのいずれであってもよい。ただし、核酸がRNAの場合には、上記塩基配列中の「チミン(T)」を「ウラシル(U)」に読み替えるものとする。本明細書中、他の塩基配列についても、以下同様とする。
【0069】
1−3−2.HCVキメラゲノムRNAの調製
HCV粒子は、完全長のHCVキメラゲノムRNAのcDNAを転写プロモーターの下流に発現可能なように連結した発現ベクター(例えば、T7プロモーターの制御下にHCVキメラゲノムを挿入したベクター)からHCVキメラゲノムRNAを合成し、このゲノムRNAを宿主細胞に導入することで調製することができる。ゲノムRNAの合成は、当該分野で公知の技術を使用すればよい。例えば、前述の発現ベクターを用いる場合であれば、in vitro RNA合成法によりゲノムRNAを合成することができる。in vitro RNA合成法を利用する各種キットは、ライフサイエンス関連の各メーカーから市販されているので(例えば、Ambion社のMEGAscript T7 kit)、それらを利用して合成してもよい。
【0070】
1−3−3.宿主細胞
合成したHCVキメラゲノムRNAを導入する宿主細胞は、HCV粒子形成を許容する細胞であれば特に限定はしない。例えば、Huh7、HepG2、IMY-N9、HeLa、HEK293等の培養細胞、より好ましくはHuh7等の肝由来培養細胞、さらに好ましくはHuh7の派生株であるHuh7.5、Huh7.5.1が挙げられる。本発明において「派生株」とは、ある培養細胞から誘導された異なる細胞株をいう。また、Huh7、HepG2、IMY-N9、HeLa又はHEK293においてCD81遺伝子及び/又はClaudin1遺伝子を発現させた細胞も使用することができる。
【0071】
1−3−4.宿主細胞へのHCVキメラゲノムRNA導入方法
HCVキメラゲノムRNAを上記宿主細胞に導入する方法は、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられる。好適にはリポフェクション法及びエレクトロポレーション法が、さらに好適にはエレクトロポレーション法である。
【0072】
HCVキメラゲノムRNAを導入した宿主細胞におけるウイルス粒子の産生能は、当該分野で公知の技術によって評価することができる。例えば、培養液中に放出されたHCV粒子を構成するタンパク質(例えば、coreタンパク質、E1タンパク質又はE2タンパク質)に対する抗体を用いて、ELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)法又はウェスタン・ブロッティング法等により確認することができる。また、培養液中のHCV粒子に含まれるHCVキメラゲノムRNAを、特異的プライマーを用いたRT-PCR法により増幅して検出することによって、HCV粒子の存在を間接的に検出してもよい。
【0073】
1−3−5.HCV粒子の感染能の検証
調製されたHCV粒子が感染能を有しているか否かは、当該分野で公知のウイルス感染の評価方法によって確認することができる。例えば、HCVキメラゲノムRNAを導入した細胞の培養によって得られる上清を、さらに新たなHCV許容性細胞(例えば、Huh7)に添加した後、適当な時間(例えば、48時間)で培養する。その後、その細胞を十分に洗浄し、抗core抗体等のHCV特異的タンパク質を認識する抗体で免疫染色して感染細胞数をカウントするか、又は上記細胞からタンパク質を抽出し、抽出物をSDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動した後、ウェスタン・ブロッティング法にてHCV特異的タンパク質を検出することで判断できる。
【0074】
1−3−6.HCV粒子の精製
得られたHCV粒子は、抗原として使用する前に、精製することが好ましい。HCV粒子の精製は、上記HCVキメラゲノムRNAを導入した細胞を培養して得られる感染性HCV粒子を含む溶液(ウイルス液)から細胞及び/又は細胞残渣を除去し、その後、カラムクロマトグラフィ及び密度勾配遠心をそれぞれ単独で、又は任意の順番で組み合わせて行うことによって達成できる。細胞及びその残渣の除去は、遠心及び/又はフィルター等を用いて行えばよい。必要に応じて、上記残渣を除去したウイルス液を、さらに分画分子量100,000〜500,000の限外濾過膜を用いて10〜100倍程度に濃縮することもできる。
【0075】
上記カラムクロマトグラフィには、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ及びアフィニティクロマトグラフィが挙げられる。好適なゲル濾過クロマトグラフィは、アリルデキストランとN, N'-メチレンビスアクリルアミドの架橋ポリマーをゲルマトリックスとするクロマトグラフィである。より好ましくはSephacryl(登録商標)S−300、S−400及びS−500からなるクロマトグラフィである。また、イオン交換クロマトグラフィは、陰イオン交換樹脂としてQ Sepharose(登録商標)、及び陽イオン交換樹脂としてSP Sepharose(登録商標)を用いる方法が挙げられる。さらに、アフィニティクロマトグラフィは、リガンドとしてヘパリン、硫酸化セルロファイン、レクチン及び様々な色素から選ばれる基質を結合させた樹脂を担体として用いることができる。好ましくは、HiTrap Heparin HP(登録商標)、HiTrap Blue HP(登録商標)、HiTrap Benzamidine FF(登録商標)及び硫酸化セルロファイン、並びにLCA、ConA、RCA−120及びWGAが結合した担体を利用したものである。より好ましくは、硫酸化セルロファインを担体として利用したアフィニティクロマトグラフィによりHCV粒子を精製することであり、この方法によれば、精製前と精製後で溶液中の総タンパク質量とHCVのRNAコピー数の比率として30倍以上に精製することができる。
【0076】
密度勾配遠心において密度勾配を形成する溶質としては、塩化セシウム、スクロース及びナイコデンツ(登録商標)、並びにフィコール(登録商標)及びパーコール(登録商標)のような糖重合体を用いることができる。好ましくは、スクロースである。また、密度勾配遠心に用いる溶媒としては、水、又はリン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液若しくはグリシン緩衝液のような緩衝液を用いることができる。密度勾配遠心による精製を行う際の遠心力は、好ましくは1×10
4g〜1×10
9gであり、より好ましくは5×10
4g〜1×10
7gであり、さらに好ましくは5×10
4g〜5×10
5gである。
【0077】
上記HCV粒子の精製を行う際の温度は、好ましくは0〜40℃であり、より好ましくは0〜25℃であり、さらに好ましくは0〜10℃である。
【0078】
密度勾配遠心とカラムクロマトグラフィを組み合わせて精製する場合、複数のカラムクロマトグラフィにより精製した後に密度勾配遠心を用いる組み合わせが好ましい。より好ましくは陰イオン交換カラムに次いでアフィニティクロマトグラフィを用いて得られたHCV粒子を含む画分を、密度勾配遠心で精製する組み合わせであり、さらに好ましくはQ−Sepharose(登録商標)を用いたカラムクロマトグラフィにより得られたHCV粒子を含む画分を、硫酸セルロファインを用いたカラムクロマトグラフィでさらに精製し、得られたHCV粒子を含む画分を密度勾配遠心により精製する組み合わせである。なお、カラムクロマトグラフィ及び密度勾配遠心の工程の間又は後に、透析や限外濾過を用いることによりHCV粒子を含む溶液の溶質の置換及び/又はHCV粒子の濃縮を行ってもよい。
【0079】
1−3−7.HCV粒子の不活化
本発明の抗HCV抗体の作製において、抗原として使用するHCV粒子の不活化処理は、ヒト以外の動物に投与する場合は必須ではない。しかし、操作する術者への感染防止の点から不活化することが好ましい。また、上記HCVキメラゲノムから産生されるHCV粒子をワクチンとしてヒトに投与する場合には、この不活化処理は必須となる。HCV粒子を不活化する方法としては、ホルマリン、β−プロピオラクトン、グルタルジアルデヒド等の不活化剤を、例えば、感染性HCV粒子を含むウイルス液に添加して十分に混合することにより達成できる(Appaiahgari et al., Vaccine, 22:3669-3675, 2004)。また、感染性HCV粒子を含むウイルス液に紫外線を照射することによりHCVの感染性を迅速に失わせることもできる。紫外線照射による不活性化方法は、HCVを構成するタンパク質等への影響が少ない点で好ましい。紫外線の線源には、一般に市販されている殺菌灯、特に15W殺菌灯を用いることができるが、それに限るものではない。好ましくは感染性HCV粒子を含む溶液を20mW/cm
2の紫外線で室温にて5分以上照射することにより、感染性HCV粒子を不活化することができる。また、本不活化方法は精製・未精製等の状態により限られるものではない。
【0080】
1−4.抗HCV抗体の調製
1−4−1.動物への免疫
本発明の抗体は、HCV粒子を動物に投与することで免疫反応により誘導させて得ることができる。免疫に用いる動物としては、ハイブリドーマを作製することが可能な抗体産生細胞を産生できる非ヒト動物であれば、特に限定しない。例えば、非ヒト哺乳動物、より具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ及びウマ等を用いることができる。本発明においてはマウスを用いる方法を例に挙げ、以下に示す。
【0081】
4〜10週齢のマウスに、上記方法で得られたHCV粒子を抗原(免疫原)として免疫するが、必要に応じて、HCV粒子の精製工程を変更、省略してもよく、またHCV粒子の不活化を省略してもよい。
【0082】
免疫原であるHCV粒子を、緩衝液に溶解して免疫原溶液を調製する。この際、免疫を効果的に行うために、必要であればアジュバントを添加してもよい。アジュバントは、例えば、フロイント完全アジュバント(以下、「FCA」とする。)、フロイント不完全アジュバント(以下、「FIA」とする。)、水酸化アルミニウムゲル、百日咳菌ワクチン、Titer Max Gold(Vaxel社)、GERBUアジュバント(GERBU Biotechnik社)、MPL(Monophosphoryl Lipid A)+TDM(synthetic trehalose dicorynomycolate)(Sigma Adjuvant System;Sigma社)等を、単独で又は混合して使用することができる。
【0083】
次に、上記調製した免疫原溶液をマウス(例えば近交系マウスのBALB/c)に投与し、免疫する。免疫原溶液の投与方法としては、例えば、FIA若しくはFCAを用いた皮下注射、FIAを用いた腹腔内注射、又は0.15mol/L塩化ナトリウムを用いた静脈注射が挙げられるが、この限りでない。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路等により適宜決定されるものであるが、通常は、動物1匹当たりで約50〜200μgあればよい。また、免疫の間隔は特に限定されないが、数日から数週間間隔、好ましくは1〜4週間間隔である。初回免疫後、追加免疫を行うのが好ましく、その回数は2〜6回、好ましくは3〜4回である。初回免疫より後に、免疫したマウスの眼底静脈叢あるいは尾静脈より採血し、血清中の抗体価の測定をELISA法等により行うことが好ましい。また、同時に感染阻害活性も測定することができる。抗体価がプラトーに達すれば、免疫原溶液を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とすればよい。最終免疫ではアジュバントを使用しないのが好ましい。最終免疫後3〜10日目、好適には4日目に、免疫したマウスより採血し、公知の方法(Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に準じて血清を処理することによりポリクローナル抗体を得ることができる。なお、免疫した動物が本発明のHCV感染阻害活性を有する抗HCV抗体を産生しているかどうかについては、最終免疫の前に、前述の「1−3−5.HCVの感染能の検証」及び後述する「1−4−6.抗HCV抗体の選択」に記載の方法により、予め確認をしておくことが好ましい。
【0084】
1−4−2.抗HCVモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞の作製
抗HCVモノクローナル抗体を作製する場合、その抗体を産生するハイブリドーマを、例えば、以下に記載する方法によって作製することができる。
【0085】
まず、上記免疫したマウスから抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。続いて、抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合を行うことで、抗HCVモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。細胞融合に使用する骨髄腫細胞としては、マウス由来の株化細胞であって、in vitroで増殖可能な骨髄腫細胞あれば特に限定はしないが、後述する工程でハイブリドーマを簡便に選抜するためには、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地(例えば、HAT培地;すなわち、ダルベッコ改変MEM培地(以下、「DMEM」とする。)に5×10
-5M 2-メルカプトエタノール、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10%牛胎児血清(以下、「FCS」とする。)、10
-4Mヒポキサンチン、1.5×10
-5Mチミジン及び4×10
-7Mアミノプテリンを加えた培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生育できる性質を有するものが好ましい。例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、P3-X63-Ag8653(653)、P3-X63-Ag8(X63)、P3/NS1/1-Ag4-1(NS1)等を使用することができる。これらの細胞株は理化学研究所バイオリソースセンター、ATCC(American Type Culture Collection)又はECACC(European Collection of Cell Cultures)から入手可能であり、それらの培養及び継代については、公知の方法(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988、Selected Methods in Cellular Immunology W.H. Freeman and Company, 1980)に従い培養すればよい。
【0086】
上記抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させるには、上記で得られた脾細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、血清を含まないDMEM培地、RPMI1640培地等の動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを約1:1〜20:1の割合で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて融合反応を行えばよい。細胞融合促進剤としては、平均分子量1,500〜4,000Daのポリエチレングリコール(以下、「PEG」とする。)等を約10〜80%の濃度で使用することができる。通常、平均分子量1,500DaのPEGが好適に使用される。融合効率を高めるために、必要に応じてジメチルスルホキシド等の補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させることもできる(Nature、1977、Vol.266、550−552)。
【0087】
細胞融合処理後、骨髄腫細胞の培養に使用した培地(例えば、DMEM培地に5×10
-5M 2-メルカプトエタノール、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10% FCSを加えた培地)で細胞を洗浄した後、細胞懸濁液を調製し、続いて、細胞懸濁液を、例えば、FCS含有RPMI1640培地等で適当に希釈後、96ウェルプレート上に2×10
6個/ウェル程度入れ、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行えばよい。培養温度は20〜40℃、好ましくは約37℃である。骨髄腫細胞がHGPRT欠損株又はチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生細胞と骨髄腫細胞のハイブリドーマのみを選択的に生育、増殖させることができるため、選択培地で培養開始後約10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択することができる。
【0088】
1−4−3.HCV感染阻害活性試験
上記ハイブリドーマが生産する抗体のHCV感染阻害活性の有無については、以下で例示する方法、及び後述の実施例に述べる感染性HCV粒子を用いた方法により評価することができる。例えば、まず、上記抗HCVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養後、培養上清の一部を抗体サンプルとして採取する。この抗体サンプルと前述の感染性HCV粒子とを混合し、37℃にて1時間反応させる(混合サンプル)。次に、前日に96ウェルプレートに5×10
3個/ウェルで培養したHuh7細胞に上記混合サンプル50μLを加え、37℃にて2.5時間培養する。培養後、培養液及び混合サンプルを除去し、PBSにて細胞を洗浄後、再び新鮮培地を加えて培養を続ける。48時間後、培養液を除去し、PBSで1回洗浄後、ISOGEN(ニッポンジーン社)を100μL加えて、細胞からRNAを調製する。RNAを定量後、HCVゲノムRNA量を測定する。HCV RNAの定量的RT-PCRによる検出は、Takeuchiらの方法(Gastroenterology, 116:636-642,1999)に従いHCV RNAの5'非翻訳領域のRNAを検出すればよい。
【0089】
HCV感染阻害活性を評価する他の方法として、以下の方法がある。まず、抗HCVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株より得られた抗体サンプルと感染性HCV粒子とを混合し、37℃で1時間反応させる(混合サンプル)。次に、前日に96ウェルプレートに1×10
4個/ウェルで培養したHuh7細胞に上記混合サンプル50μLを加え、37℃にて、2.5時間培養する。培養後、培養液及び混合サンプルを除去し、PBSにて細胞を洗浄後、再び新鮮培地を加えて培養を続ける。72時間後、培養液を取り除いた後に、氷冷したメタノール中にプレートを入れ細胞を固定する。その後、メタノールを風乾により除き、0.3% Triton(登録商標)-X100を含んだブロックエース(登録商標)(大日本製薬社)で細胞の可溶化処置する。そして、clone 2H9抗HCV-core抗体(Nat Med. (2005) 11:p791-6.参照)及びヤギ抗マウスIgG-Alexa488(モレキュラープローブ社)を用いてHCV感染細胞を蛍光顕微鏡下で計数し、HCVの感染が阻害されたウェルの抗体サンプルを、HCV感染阻害活性を有する抗HCVモノクローナル抗体として選択することができる。
【0090】
さらに別の方法として、感染性HCV粒子に代えてレトロウイルス粒子上に機能的なHCVエンベロープタンパク質を提示させることにより作製した感染性HCV様粒子(以下、「HCVpp」とする。)を用いて、HCV感染阻害活性試験を行うこともできる。このHCVpp中に緑色蛍光タンパク質(GFP)マーカー遺伝子やルシフェラーゼ遺伝子をパッケージングすることにより、HCVエンベロープタンパク質によって仲介される感染を、高い信頼性で迅速に測定することが可能となる(Bartosch, B. et al. J. Exp. Med. 197:633-642,2003)。具体的には、例えば、遺伝子型2aのエンベロープタンパク質を有するHCVppは、遺伝子型2aのHCV株であるJ6CF株のタンパク質(NCBI Protein アクセッション番号AAF01178.1)の132位のアミノ酸残基から750位のアミノ酸残基(coreタンパク質の一部、E1タンパク質及びE2タンパク質に相当)をコードする核酸をpcDNA3.1にクローン化したベクター「pcDNA J6dC-E2」、マウス白血病ウイルスのgagとpolをコードする遺伝子をクローン化した発現ベクター「Gag-Pol 5349」、及びルシフェラーゼ遺伝子をクローン化したレトロウイルスベクター「Luc126」を、FuGENE6(Roche社:カタログ番号 11814443001)を用いてHEK293T細胞(ATCC CRL-1573)にトランスフェクション後、HCVppを含む培養液を回収し、0.45μmのメンブレンフィルターにて濾過することによって、得ることができる。
【0091】
また、遺伝子型1aのエンベロープタンパク質をもつHCVppを作製する場合は、上記のpcDNA J6dC-Eの代わりに、遺伝子型1aのHCV株であるH77株のタンパク質(NCBI Protein アクセッション番号AAB67036.1)の132位のアミノ酸残基から746位のアミノ酸残基(coreタンパク質の一部、E1タンパク質及びE2タンパク質に相当)をコードする核酸をpcDNA3.1にクローン化したベクター「pcDNA H77dC-E2」を用いればよい。
【0092】
さらに、遺伝子型1bのエンベロープタンパク質をもつHCVppを作製する場合は、上記のpcDNA J6dC-Eの代わりに、遺伝子型1bのHCV株であるTH株のタンパク質(Wakita, T. et al., J. Biol. Chem., 269, 14205-14210, 1994)の132位のアミノ酸残基から747位のアミノ酸残基(coreタンパク質の一部、E1タンパク質及びE2タンパク質に相当)をコードする核酸をpcDNA3.1にクローン化したベクター「pcDNA THdC-E2」を用いればよい。
【0093】
例えば、抗HCVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株より得られた抗体サンプルとHCVppとを混合し、37℃にて約30分反応させる。抗体サンプルの希釈は、DMEM培地(10% FCS、1% MEM 非必須アミノ酸溶液、10mM HEPES-Tris(pH 7.3)、1mM ピルビン酸ナトリウムを含む)にて行う。Huh7.5.1細胞を96ウェルプレートに1×10
4細胞/ウェルで一日培養した各ウェルに上記HCVppと抗体サンプルの混合液を加え、37℃にて、約3時間培養する。培養後、サンプルを除去し、PBSにて細胞を1回洗浄後、新鮮培地を加え培養を続ける。約72時間後、培養液を除去する。PBSで4回ほど洗浄した後、無血清DMEM培地を25μL/ウェルと溶解バッファ(例えば、Steady-Glo(プロメガ社:カタログ番号E2520)を使用することができる)を25μL/ウェルでそれぞれ加えて、細胞を溶解し(キット使用時には、原則として添付の使用説明書に従う)、細胞の溶解液を40μL/ウェルで白色の96ウェルプレート(例えば、住友ベークライト社:カタログ番号MS-8496W)へ移し、例えば、ARVO X4(パーキンエルマー社)の蛍光を測定することが可能な装置を用いて発光強度を測定する。DMEMと混合した時の発光強度(%)を感染率100%として、抗体サンプルと混合した時の感染率(%)を求めることができる。したがって、抗体サンプルの添加により感染率が低くなった(すなわち、発光強度が弱くなった)抗体サンプルを、HCV感染阻害活性を有する抗HCVモノクローナル抗体とすることができる。
【0094】
なお、本発明の抗体を産生するハイブリドーマは、上述の方法により選択されるハイブリドーマであれば特に限定されるものではない。具体的な例としては、例えば、後述する本発明のHCV感染阻害活性を有するモノクローナル抗体「P18-9E」又は「P19-7D」を産生するハイブリドーマ株が挙げられる。
【0095】
1−4−4.抗HCV抗体の調製
上記で選択されたハイブリドーマを無血清培地、例えば、Hybridoma-SFM(インビトロジェン社)に馴化させ、培養した上清を抗HCV抗体サンプル(抗HCVモノクローナル抗体サンプル)とすることができる。培養には、フラスコ、シャーレ、スピナーカルチャーボトル、ローラーボトルあるいは高密度培養フラスコCELLine(ベクトンデッキンソン社)を使用することができる。
【0096】
動物を用いてモノクローナル抗体を調製する場合は、プリスタン処理(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mLを腹腔内投与後、2週間飼育)した8〜10週齢のマウス、ヌードマウス又はSCIDマウスに、上記選択された抗HCVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞2×10
7〜5×10
6細胞/匹で腹腔内に注射する。10〜21日間でハイブリドーマは、腹水癌化する。該マウス等から腹水を採取し、それを抗HCVモノクローナル抗体サンプルとすることができる。得られた抗体サンプルを遠心し、細胞やその破砕物を除去し、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインA-カラム、プロテインG-カラム、HiTrap IgM Purification HP-カラム(GEヘルスケア社)、mannan binding protein-カラム(ピアス社)若しくはゲル濾過カラム等を単独又は組み合わせて用いて、IgG又はIgM画分を回収し、精製抗HCVモノクローナル抗体を得ることができる。精製モノクローナル抗体のサブクラスの決定は、マウスモノクローナル抗体タイピングキット(ピアス社)等を用いて行ってもよい。本発明のHCV感染阻害活性を有する抗体のクラスは、特に限定されるものではないがIgG又はIgMであることが好ましく、より好ましくはIgMの抗体である。
【0097】
1−4−5.抗HCVヒト化抗体の作製
抗HCVヒト化抗体では、CDRが良好な抗原結合部位を形成することができるヒト抗体のFRが選択される。必要に応じて再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体のV領域におけるFRのアミノ酸を置換してもよい(Sato, K., et al., Cancer Res. 53:851-856, 1993)。
【0098】
本発明の抗HCVヒト化抗体を作製する場合、一例として、まず、抗HCVモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ等よりmRNAを抽出し、VH及びVLをコードするcDNAを合成する。合成したcDNAを、ファージあるいはプラスミド等のベクターに挿入し、cDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、マウス抗体のC領域部分あるいはV領域部分をプローブとして用い、VHをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミド、及びVLをコードするcDNAを有する組換えファージあるいは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージあるいは組換えプラスミド上の目的とする抗体のVH及びVLの全塩基配列を決定し、塩基配列よりVH及びVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0099】
また別の方法として、PCRを用いてVH及びVLをコードするcDNAをクローニングすることも可能である。前述のように調製したハイブリドーマのcDNAを鋳型として、それぞれの遺伝子に保存されたアミノ酸配列に基づいて設計した複数のプライマーを用いて増幅し、そのcDNA断片をクローニングベクターにクローン化してVH及びVLをコードするcDNAを得ることができる。
【0100】
ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子の上流に、上記抗HCV抗体のVH及びVLをコードするcDNAを挿入することで、ヒト抗HCVモノクローナル抗体をコードするcDNAを構築することができる。CHでは、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、CLでは、Cκ、Cλを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、C領域を修飾してもよい。
【0101】
哺乳動物細胞を宿主とする場合は、哺乳動物細胞で発現可能なプロモーター、抗体遺伝子及び、その3’末端の下流にポリAシグナルを機能的に結合させた発現ベクターを用いて、当該遺伝子を発現させることができる。使用できるプロモーターとしては、ヒトサイトメガロウイルス、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはエロンゲーションファクター1α(EF1α)等の哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等を挙げることができる。
【0102】
大腸菌を宿主とする場合は、大腸菌で発現可能なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列及び抗体遺伝子を機能的に結合させた発現ベクターを用いて、当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーター、Trpプロモーター、T7プロモーター等を挙げることができる。
【0103】
昆虫細胞を宿主とする場合は、昆虫細胞で発現可能なプロモーター、発現させる抗体遺伝子及び、その3’末端の下流にポリAシグナルを機能的に結合させた発現ベクターを用いて、当該遺伝子を発現させることができる。使用できるプロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、バキュロウイルスOpNMPV由来の極初期OpIE2プロモーター等を挙げることができる。
【0104】
本発明における抗HCVヒト化抗体は、それを発現する上記発現ベクターを含有する宿主細胞を常法に従って適当な条件下で培養することにより、その培養液上清又は宿主細胞内に産生される。具体的には、例えば、哺乳動物の培養細胞を宿主とした場合には、DMEM培地に1×10
5細胞/mLとなるように宿主細胞を接種し、37℃の5%CO
2インキュベーターにて培養することにより抗体を含む培養液上清を得ることが出来る。また、例えば、宿主細胞を大腸菌とした場合には、LB培地等大腸菌の培養に用いられる一般的な培地に接種して培養し、タンパク質の発現を誘導することにより、培養液上清又は宿主細胞内に抗体を産生させることができる。
【0105】
なお、目的の抗HCVヒト化抗体は、プロテインAカラム、プロテインGカラム、抗イムノグロブリン抗体アフィニティーカラム等を用いてC領域に対して選択することにより、培養液上清や細胞破砕液から精製・回収することができる。
【0106】
1−4−6.抗HCV抗体の選択
本発明の抗HCV抗体を選択するためには、HCVのタンパク質を担体に固定(固相化)し、次にサンプル抗体を加え、抗体/抗原複合体を形成するのに十分な時間及び条件下で反応させる。次に、形成した複合体を検出するため、二次抗体、すなわちシグナルとなる酵素、色素若しくはラジオアイソトープを結合させたサンプル抗体を認識する抗体と接触させ、第2の混合物を形成させる。第2の混合物を抗体/抗原複合体を形成するのに十分な時間及び条件下で反応させる。これによって、HCVタンパク質を認識する抗体の存在を酵素、色素若しくはラジオアイソトープのシグナルを介して検出する。
【0107】
担体に固相化するHCVのタンパク質として、HCV粒子そのものを用いてもよいし、HCVゲノム中の、core配列、E1配列、E2配列、p7配列、NS2配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列又はNS5B配列からなるcDNAを用いて大腸菌、酵母、哺乳動物細胞、昆虫細胞等で発現させたそれらがコードするタンパク質を用いてもよく、さらには該タンパク質を化学合成して用いてもよい。固相化に使用するタンパク質のアミノ酸残基の長さは限定されるものではないが、3アミノ酸残基以上、好ましくは8アミノ酸残基以上であればよい。
【0108】
JFH-1株又はJ6CF株のエンベロープタンパク質であるE1タンパク質及びE2タンパク質を哺乳動物細胞で発現させる例を下記に示す。JFH-1株又はJ6CF株(JFH1株:NCBI Protein アクセッション番号BAB32872、J6CF株:NCBI Protein アクセッション番号AAF01178.1)のE1タンパク質は、JFH-1株における全長タンパク質のアミノ酸配列の開始メチオニンを1位とした場合に、192位のアミノ酸残基で始まり、383位のアミノ酸残基で終わる。このE1タンパク質の353位のアミノ酸残基から383位のアミノ酸残基までが膜貫通ドメイン(C末端疎水性ドメインとも呼称する)と考えられている(Cocquerel, L. et al., J. Virol. 74:3623-3633, 2000)。
【0109】
JFH-1株又はJ6CF株のE2タンパク質は、上記アミノ酸配列の384位のアミノ酸残基で始まり、750位のアミノ酸残基で終わる。このE2タンパク質の722位のアミノ酸残基から750位のアミノ酸残基までが膜貫通ドメインと考えられている(Cocquerel, L. et al., J. Virol. 74:3623-3633, 2000)。
【0110】
哺乳動物細胞でタンパク質を培養上清中に分泌発現させる場合、該タンパク質がシグナルペプチドを持ち、膜貫通ドメインを持たないことが必要である。
【0111】
したがって、E1タンパク質及びE2タンパク質の膜貫通ドメインを含まないタンパク質は、それぞれ、上記の192位から352位のアミノ酸残基、及び384位から721位のアミノ酸残基からなるが、質的に等価であればアミノ酸のずれは問題ない。JFH-1株のE1タンパク質の場合には、192位から352位のアミノ酸残基内の配列、E2タンパク質の場合には、384位から720位のアミノ酸残基内の配列、好ましくは384位から714位のアミノ酸残基内の配列であれば、膜貫通ドメインを含まないタンパク質として使用できる。また、J6CF株のE1タンパク質の場合には、192位から352位のアミノ酸残基内の配列、E2タンパク質の場合には384位から720位のアミノ酸残基内の配列であれば、膜貫通ドメインを含まないタンパク質として使用できる。これらのアミノ酸残基の番号を他のHCV株のアミノ酸配列に適用する場合は、上記JFH-1全長タンパク質のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて対応するアミノ酸残基の番号で指定すればよい。
【0112】
E1タンパク質及びE2タンパク質の膜貫通ドメインを含まないタンパク質をコードする核酸は、GenBankに記載されたJFH-1株の核酸配列(NCBI Nucleotide アクセッション番号AB047639)に基づいて、JFH-1株のcDNAを鋳型としてPCRにより合成するか、又は全合成することにより作製することができる。
【0113】
JFH-1株以外のHCV株の対応するE1タンパク質及びE2タンパク質の領域は、そのHCV株の配列を置換や欠失を考慮しながらJFH-1株の配列と比較し配列間で一致する配列が最大となるように整列(アラインメント)させることにより容易に決定され得る。この解析は遺伝子情報処理ソフトウエア(例えばGENETYX, ソフトウエア開発株式会社)を用いて行うことができる。
【0114】
E1タンパク質及びE2タンパク質の膜貫通ドメインを含まないタンパク質を哺乳動物細胞で分泌発現させる場合、そのタンパク質をコードする核酸を、シグナルペプチドをコードする核酸の下流にコドンの読み枠が合った状態(インフレーム)で連結し、さらにその3’末端に停止コドンを付加して発現ベクターに挿入する。シグナルペプチドは、分泌タンパク質のN末端に存在する15〜30アミノ酸残基の主として疎水性アミノ酸からなり、タンパク質の細胞膜通過機構に関与している。
【0115】
哺乳動物細胞でのタンパク質の分泌発現のために利用できるシグナルペプチドは、分泌タンパク質のものであればよい。シグナルペプチドを持つベクターとして、マウスGM-CSFのシグナルペプチド配列を持つベクター(特開昭63-276490)、IgG κ鎖のシグナルペプチド配列を持つベクターpSecTag/FRT/V5-His(インビトロジェン社)、プレプロトリプシンのシグナルペプチド配列を持つベクターp3XFLAG-CMV13(シグマ社)、IL-2のシグナルペプチド配列を持つベクターpFUSE-Fc2(インビボジェン社)及びIgMのシグナルペプチド配列を持つベクターpTriEx-7(ノバジェン社)等が挙げられる。
【0116】
タンパク質を発現させる際に、目的タンパク質と標識となるタンパク質との融合タンパク質として発現させ、標識となるタンパク質に対する抗体や特異的に結合する分子で融合タンパク質の検出や精製を行うことができる。このような標識となるタンパク質をタグ(Tag)とも呼称する。標識となるタンパク質としては、限定されるものではないが、FLAGペプチド(flagペプチド又はFlagペプチドとも呼称する)、3×FLAGペプチド(3×FLAGペプチド、3×Flagペプチド又は3×flagペプチドとも呼称する)、HAペプチド、3×HAペプチド、mycペプチド、6×Hisペプチド、GSTポリペプチド、MBPポリペプチド、PDZドメインポリペプチド、アルカリフォスファターゼ、イムノグロブリン、アビジン等が挙げられる。これらのペプチド又はポリペプチドは通常、目的のタンパク質のN末端又はC末端に融合されるが、場合によっては目的のタンパク質内に挿入することもできる。また、プレプロトリプシンシグナルペプチドと3×FLAGペプチドの融合ポリペプチドを持つベクターはp3×FLAG-CMV-9としてシグマ社より入手できる。
【0117】
1−4−7.抗体エピトープの解析
本発明に係るより好適なHCV感染阻害活性を有する抗体は、HCVの、好ましくはJ6CF株の、E1タンパク質及びE2タンパク質の複合体の立体構造、すなわち、本発明に係る好適な抗体は、E1タンパク質及びE2タンパク質の複合体の三次構造の全部又は一部をエピトープとして認識することができる。E1タンパク質及びE2タンパク質は、宿主細胞表面上の受容体(HCV受容体)との結合に関与するエンベロープタンパク質であり、HCVは、このHCV受容体を介して宿主細胞に感染する。CD81は、このHCV受容体の一つとして同定されており、HCVの感染に必須の因子の一つであることが報告されている(Akazawaら、J. Virol. 81: 5036-5045、2007)。したがって、細胞への感染能を維持しているHCVは、CD81と結合できるE1タンパク質及びE2タンパク質の複合体の立体構造を保持していると考えられる。
【0118】
本発明の抗HCV抗体は、HCV中のE1タンパク質及びE2タンパク質の複合体の立体構造の全部又は一部をエピトープとして認識し、それに結合する。本発明の抗HCV抗体がE1タンパク質及びE2タンパク質の複合体に結合することで感染性HCVのE1タンパク質及びE2タンパク質と宿主細胞上のCD81との結合が阻害されることとなる。その結果、HCVの感染能が失われると考えられる。したがって、本発明の抗HCV抗体は、感染性をもつ多様なHCVに結合力を有し、HCV感染を阻害することができる。
【0119】
HCVは、変異を起こしやすいウイルスであることが知られており、変異を起こしながら増殖した多様性をもつHCVの集合体を「準種(quasispecies)」という。HCVのE2タンパク質のN末端にはアミノ酸の変異の激しい超可変領域(hypervariable region :以下、「HVR」とする。)と呼ばれる領域がある。これまでに知られているHCV感染阻害活性を有する抗体は、この変異の激しい領域のペプチドをエピトープとしていることが示されている( Farciら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:15394-15399、1996; Shimizuら、J. Virol. 68:1494-1500、1994; Zhangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104:8449-8454、2007)。しかし、HVRをエピトープとした抗体は、HCVの変異により、いずれ効果がなくなってしまうことが報告されている(Farciら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:7792-7796、1994; Weinerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3468-3472、1992; Katoら、J. Virol. 67:3923−3930、1993)。したがって、抗HCV抗体のエピトープは、HVR以外のエピトープであることが好ましい。
【0120】
本発明の抗HCV抗体は、E1タンパク質及びE2タンパク質の複合体からなる立体構造をエピトープとして認識する抗HCV抗体であり、HVRのみをエピトープとする従来のHCV感染阻害活性を有する抗HCV抗体とは異なることから、HCVの準種により感染阻害効果を失わないことが期待できる。
上記方法により選択されたハイブリドーマ細胞株が産生する本発明の抗体のエピトープを解析するためには、HCVのタンパク質を用いたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ウェスタン・ブロッティング又はドットブロッティング等を使用することができる。抗HCVモノクローナル抗体の一次スクリーニングとして本エピトープ解析をすることで、特定のHCVタンパク質を標的とした抗HCVモノクローナル抗体を効率よくスクリーニングすることができる。
【0121】
2.HCV感染阻害剤
本発明の他の態様は、HCV感染阻害剤である。
【0122】
本発明の「HCV感染阻害剤」は、前述した本発明の抗HCV抗体を有効成分とし、HCVが宿主細胞に感染する過程で必要な、少なくとも一の機能を阻害することができる物質である。本発明のHCV感染阻害剤は、単体で医薬として、又は、医薬組成物の有効成分として、好ましくはC型肝炎の治療用又は予防用医薬として、使用することができる他、HCVの感染メカニズムを解明するための研究ツールとしても利用できる。
【0123】
2−1.医薬組成物
本発明のHCV感染阻害剤は、医薬組成物に使用することができる。本発明の医薬組成物は、医薬としての本発明の抗HCV抗体の他に医薬的に許容可能な担体を含有することができる。
【0124】
「医薬的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用し得る溶媒及び/又は添加剤をいう。
【0125】
医薬的に許容可能な溶媒には、例えば、水、医薬的に許容される有機溶剤(例えば、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類)が挙げられる。これらは、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0126】
また、医薬的に許容可能な添加剤には、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0127】
この他、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤(可溶化剤)、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進、増量剤、付湿剤、保湿剤(例えば、グリセリン及び澱粉)、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0128】
上記溶媒及び/又は添加剤は、使用する本発明の医薬組成物の剤形に応じて単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された抗HCV抗体を、溶剤(例えば、生理食塩水、緩衝液及びブドウ糖溶液)に溶解し、これに吸着防止剤(例えば、Tween80、Tween20、ゼラチン及びヒト血清アルブミン)を添加したものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。例えば、凍結乾燥のために賦形剤(例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類)を使用することができる。
【0129】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができる。製剤化については、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,latest edition,Mark Publishing Company,Easton,U.S.A.を参照されたい。
【0130】
本発明の医薬組成物は、既存の抗ウイルス剤、例えば、インターフェロン、リバビリン等との併用で使用することもできる。
【0131】
2−2.医薬組成物の投与方法
本発明のHCV感染阻害剤を含む医薬組成物は、投与単位形態で投与することが好ましく、経口投与、組織内投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与及び静脈内投与)、局所投与(例えば、経皮投与)又は経直腸的投与で投与することができる。それ故、HCV感染阻害剤の剤形は、投与方法に適する形態であることが好ましい。例えば、組織内投与の場合、血流を介した注射が好ましく、それ故、剤形は液体である。
【0132】
注射の場合、注入部位は特に限定しない。例えば、静脈内、動脈内、肝臓内、筋肉内、関節内、骨髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内又は舌下等が挙げられる。好ましくは、静脈内注射又は動脈内注射等の血管内への注射である。血流を介して本発明の医薬組成物を直ちに全身に行き渡らせることが可能であり、また侵襲性が比較的低く、被験者に与える負担が小さいからである。あるいは、肝臓内又は肝門脈に注射してもよい。これは、HCV感染阻害剤をHCVが局在する部位に直接的に作用させることができるからである。
【0133】
上記のHCV感染阻害剤を投与する場合、一投与単位中には、HCV感染阻害活性が発揮され得る有効量が含有されていることが好ましい。本明細書で使用する場合、「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、本発明ではHCV感染阻害剤がHCV感染を阻害する上で必要な量であって、かつ投与する被験者に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験者の情報、剤型及び投与経路等の様々な条件によって変化し得る。「被験者の情報」とは、病気の進行度若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性、併用医薬の有無及び治療に対する耐性等を含む。上記のHCV感染阻害剤の最終的な投与量及び有効量は、個々の被験者の情報等に応じて、医師の判断によって決定される。HCV感染阻害効果を得る上で、上記のHCV感染阻害剤の大量投与が必要な場合、被験者に対する負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。
【0134】
具体的な投与量の一例として、例えば、C型肝炎発症初期であって、他の医薬の併用を必要としないヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりのHCV感染阻害剤の有効量は、通常1〜2000mg、好ましくは1〜1000mg、より好ましくは1〜500mgの範囲である。被験者の状態又は投与経路等に応じて、上記範囲未満又は上記範囲を超える用量を投与することもできる。
【0135】
本発明のHCV感染阻害剤を被験者に投与する場合、有効成分である本発明の抗体の有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.001mg〜1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、被験者あたり0.01〜100000mg/bodyの投与量を選ぶことができるが、これらの投与量に制限されるものではない。また、上記投与時期としては、疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず投与することができる。
【0136】
本発明のHCV感染阻害活性を有する抗体は、任意のC型肝炎に対して有効であり得るが、例えば慢性肝炎又は劇症肝炎に対して有効であり、また遺伝子型2a又は1bのHCVによって引き起こされるC型肝炎に対して特に有効である。
【0137】
3.HCV検出方法
本発明のさらなる態様は、HCVの検出方法及びそれに使用するHCV検出試薬である。本発明は、本発明の抗HCV抗体を用いて試料中のHCV粒子を免疫学的検出方法により検出することができる。
【0138】
本明細書で「試料」とは、HCV粒子又はそのエンベロープタンパク質を含み得る様々な試料をいう。例えば、培養細胞、培養細胞破砕液、培養液上清、あるいはヒト試料である。ヒト試料とは、ヒトから採取される組織(例えば、術後採取組織)や、血液、血清、血漿、尿、髄液、唾液、リンパ液、精液等の体液等のあらゆるヒト由来の生体試料であり、好ましくは血液、血清、血漿又は尿である。また、本発明における試料は、液体試料のみならず固体試料であってもよい。たとえば、臓器移植によるドナー臓器、又は組織切片標本等を用いることができる。
【0139】
本発明の「免疫学的検出方法」は、ELISA法、EIA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法等の標識抗体を用いた公知の免疫学的検出法、あるいは、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス測定法(QCM法)により実施することができるが、標識抗体を用いた免疫学的検出法において好ましく適用される。
【0140】
ELISA法は、酵素免疫吸着分析法とも呼ばれ、試料中に含まれる微量の標的抗原を、酵素標識した抗体又は抗原を用いて、当該酵素の作用を利用して抗原抗体反応を発色濃度や蛍光強度として検出し、標的抗原を定量する方法である。すなわち、本発明の抗HCV抗体又はHCV粒子を固相担体に固定して、当該抗体等及びHCVとの免疫学的反応を酵素的に検出する方法である。ELISA法の測定方法については、公知の方法(日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号臨床検査のためのイムノアッセイ−技術と応用−」、臨床病理刊行会、1983年、石川榮治ら編「酵素免疫測定法」、第3版、医学書院、1987年、北川常廣ら編「タンパク質核酸酵素別冊No.31酵素免疫測定法」、共立出版、1987年、入江實編「ラジオイムノアッセイ」、講談社サイエンティフィク、1974年、入江實編「続ラジオイムノアッセイ」、講談社サイエンティフィク、1979年)を参照されたい。上記固相担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。本発明の抗HCV抗体又はHCV粒子の固相担体への固定は、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用する方法等、公知の方法に従って結合させることにより達成できる。
【0141】
抗HCV抗体を標識する標識物質としては、例えばELISA法の場合には、ペルオキシダーゼ(POD)、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸脱水素酵素、アミラーゼ又はビオチン−アビジン複合体等を、蛍光免疫測定法の場合には、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート、Alexa480又はAlexaFluor488等を、そして放射免疫測定法の場合には、トリチウム(
3H)、ヨウ素125(
125I)又はヨウ素131(
131I)等を用いることができるが、この限りでない。また、発光免疫測定法は、NADH−FMNH
2−ルシフェラーゼ系、ルミノール−過酸化水素−POD系、アクリジニウムエステル系又はジオキセタン化合物系等を用いることができる。標識抗原と抗体との結合法は、ELISA法の場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を、放射免疫測定法の場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法を用いることができる。
【0142】
また、本発明の免疫学的測定方法は、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応又は粒子凝集反応等の免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、目視的に測る測定法により実施することもできる。その場合には、溶媒としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液又はグッド緩衝液等を用いることができ、さらにPEG等の反応促進剤や非特異的反応抑制剤を含ませてもよい。
【0143】
以下で、本発明のHCV検出方法の具体例として、ELISA法に適用する場合について、簡単に説明をする。まず、本発明の抗HCV抗体を不溶性の担体に固相化する。なお、固相化する抗体は、HCV粒子を特異的に認識するものであれば、1種類のみならず複種類であってもよい。次に、固相化抗体の表面に、HCV粒子を含み得る試料を作用させ、固相化抗体とHCV粒子の複合体を担体の表面に形成させる。その後、洗浄液を用いて十分に洗浄することで、試料中に存在していたHCV粒子以外の未結合の物質が除去される。さらに、HCV粒子を特異的に認識する他の抗HCV標識抗体を作製し、この標識抗体を、固相化抗体とHCV粒子の複合体が結合した担体に作用させ、洗浄液を用いて十分に洗浄した後、標識を利用して検出することで試料中に存在するHCV粒子を検出することができる。
【0144】
また、先に標識抗体とHCV粒子を含む試料を混合して抗原抗体複合体を形成した後、固相化抗体に作用させることもできる。固相化する抗体をビオチン標識すれば、ビオチン化固相化抗体、HCV粒子を含む試料、ビオチン以外の標識を施した抗体を全て混合して抗原抗体複合体を形成した後、アビジンを固相化した担体に作用させることで、ビオチン化以外の標識を利用して抗原抗体複合体を検出することができる。
【0145】
さらに、本発明の免疫学的測定方法は、免疫クロマト用テストストリップを用いることもできる。免疫クロマト用テストストリップとは、例えば、試料を吸収しやすい材料からなる試料受容部、本発明の診断薬を含有する試薬部、試料と診断薬との反応物が移動する展開部、展開してきた反応物を呈色する標識部、呈色された反応物が展開してくる提示部等から構成される。例えば、市販の妊娠診断薬等がこれと同様の形態を有する。本測定方法の原理は、以下の通りである。まず、試料受容部に試料を与えると、試料受容部は、試料を吸収して試料を試薬部にまで到達させる。続いて、試薬部において試料中のHCVと前述の抗HCV抗体が抗原抗体反応し、反応複合体が展開部を移動して標識部に到達する。標識部では、上記反応複合体と標識二次抗体との反応が生じ、その標識二次抗体との反応物が提示部にまで展開すると、呈色が認められることになる。上記免疫クロマト用テストストリップは、侵襲性がきわめて低く、使用者に対し苦痛や試薬使用による危険性を一切与えないものであるため、家庭におけるモニターに使用することができ、その結果を各医療機関レベルで精査・治療(外科的切除等)し、転移・再発予防に結びつけることが可能となる。また、このようなテストストリップは安価に大量生産できる点でも便利である。
【0146】
本発明の態様によれば、試料中のHCV粒子及び/又はそのエンベロープタンパク質を検出することができる。それによって、ドナーからの血液や臓器を介したHCVの感染を未然に防ぐことができる。
【0147】
4.HCV検出用キット
本発明の他の態様は、本発明の抗HCV抗体を含み、上記「3.HCV検出方法」によってHCVを検出するためのHCV検出用キットである。本発明の検出用キットは、標識二次抗体、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液、及び/又は使用説明書を含むことができる。
【実施例】
【0148】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を具体的に説明のための単なる例示であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0149】
<実施例1> J6/JFH-1-HCV粒子の作製
劇症肝炎の患者から分離したHCV JFH-1株(遺伝子型2a)のゲノムRNA全領域を逆転写して得たcDNA(ゲノムcDNA)をpUC19プラスミドのT7 RNAプロモーター配列の下流にクローニングして得られたプラスミドDNA(pJFH-1)を、Wakita, T. et al., Nat. Med., 11 (2005) p.791-796及び国際公開WO 2004/104198に記載の方法に準じて作製した。pJFH-1中に挿入されているJFH-1株由来ゲノムcDNAの塩基配列は、配列番号1に示す通りである。このpJFH-1を、EcoRIで消化後、さらにBclIで部分消化し、EcoRI部位から最初のBclI部位までの断片(約2840bp)を切除したプラスミドDNA断片を調製し、それを精製した。
【0150】
一方、HCV J6CF株由来ゲノムcDNA(GenBank アクセッション番号AF177036、Yanagi, M., et al., Virology 262: 250-263 (1999))をpUC19プラスミドのT7 RNAプロモーター配列の下流にクローニングして得られたプラスミドDNA(pJ6CF)を、国際公開WO 2006/022422に記載の方法に準じて作製した。このpJ6CFをEcoRIとBclIで部分消化し、得られた約2840bpの断片を精製し、それを上記のEcoRI-BclI断片を切除したpJFH-1プラスミドDNA断片に連結して、プラスミドDNA(pJ6/JFH-1)を得た。このpJ6/JFH-1中にクローン化されたDNA(配列番号2)は、J6CF株ゲノムcDNAに由来する5’非翻訳領域、core配列、E1配列、E2配列及びp7配列、NS2タンパク質のN末端から16位のアミノ酸残基までの領域をコードする配列、並びにJFH-1株ゲノムcDNAに由来するNS2タンパク質の17位のアミノ酸残基からC末端までの領域をコードする配列、NS3配列、NS4A配列、NS4B配列、NS5A配列、NS5B配列及び3’非翻訳領域を、この順に連結させたHCVキメラゲノムcDNAである。
【0151】
作製したpJ6/JFH-1を、XbaIで切断した後、Mung Bean Nuclease 20U(トータル反応液量 50μL)を加えて30℃で30分間インキュベーションすることにより、Xba I切断末端を平滑化した。フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿を行い、コヒーシブ末端の4塩基CTAGが除去されたXbaI切断断片を得た。この切断したプラスミドを鋳型として、MEGAscript T7キット(Ambion社)を用いてRNAを合成した(WO 2006/022422を参照されたい)。こうして合成された各HCVゲノムRNAを以下の細胞導入に用いた。
【0152】
3×10
6個のHuh7細胞と5μgの各HCV RNAをCytomix溶液(120mM KCl、0.15mM CaCl
2、10mM K
2HPO
4/KH
2PO
4、25mM Hepes、2mM EGTA、5mM MgCl
2、20mM ATP、50mMグルタチオン 400μL)に懸濁し、4mmキュベットに移した後、Gene Pulser(BioRad社)を用いて260V、950μFで、Huh7細胞へのHCV RNAのエレクトロポレーションを行った。その後、HCVゲノムRNA導入用の宿主細胞を10cm
2ディッシュに播種し、継代培養を行った。継代時には、HCV抗原ELISAテストキット(オーソ社)を用いて培養上清中に含まれるHCV coreタンパク質を定量し、HCV粒子産生の確認を行った。coreタンパク質の量が多く、HCV粒子産生の活性が高い培養上清を選択し、ウイルスストックとして保存した。
【0153】
10% FCS-DMEM培地(1% MEM 非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社)、10mM HEPES-Tris(pH 7.3)及び1mM ピルビン酸ナトリウムを含む)で培養した10cmディッシュ中のHuh7細胞に、上記で得たJ6/JFH-1ウイルスストック(4×10
4ffu/mL)を各々100μL程度加え、Huh7細胞にHCVウイルスを感染させた。
【0154】
細胞がコンフルエントにならないように適宜継代し、225cm
2フラスコの1個から、4個へ、12個へと拡大培養を行った。次いで、そのうちの225cm
2フラスコ 8個より細胞を剥がし、セルスタック(登録商標)5段(コーニング社)2個に播種し、培地は650mL/個となるように添加した。残り4個のフラスコから得た細胞を12個のフラスコに播種することにより、効率よくウイルス産生が続けられた。
【0155】
継代翌日に培地を捨て、2% FCS-DMEM培地(1% MEM 非必須アミノ酸溶液(invitrogen社)、10mM HEPES-Tris(pH7.3)及び1mM ピルビン酸ナトリウムを含む)650mLを加えた。培地交換3日後に培地を回収し、0.45μmフィルターを通した後、ディープフリーザーで保存した。また、培養上清回収後のセルスタックに上記2% FCS-DMEM培地を650mL加え、培養を続けた。培地交換2日後に同様の作業を行ない、培養上清を回収した。さらに、同様の作業をもう1回繰り返した。ここで回収した培養上清を、後述の実施例2で使用した。
【0156】
以上のように、pJ6/JFH-1から合成されたHCVキメラゲノムRNAを導入した細胞は、感染性のあるHCVウイルス粒子を産生し、その上清には生産された感染性HCVウイルス粒子が混在する。
【0157】
<実施例2> J6/JFH-1 HCV粒子の精製
実施例1で産生させたウイルス粒子は、以下3段階の工程を用いて精製した。
【0158】
(1)濃縮及び透析濾過
中空糸カートリッジHollow Fiber Cartridge(GE Healthcare社:500kDaカットオフ、モデル番号UFP-500-C-8A、以下「Hollow Fiber」とする)を利用して、上記実施例1で得たHCV粒子を含む培養上清を60倍に濃縮した。
【0159】
(2)密度勾配超遠心
Ultra-clear 25×89mm遠心管(ベックマンコールター社:カタログ番号344058)に、冷却した60%ショ糖を含むTNE緩衝液(10mM Tris-HCl(pH 7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA)を3mL加え、20%ショ糖を含むTNE緩衝液を7mL重層した。さらに、20%ショ糖を含むTNE緩衝液の上に、サンプルを25mL重層した。SW-28(ベックマンコールター社)を用いて、28,000回転で4時間、4℃で超遠心を行った。
【0160】
チューブの底面に25G注射針(テルモ社)を用いて穿孔を開け、そこから1mLの画分を12本得た。各画分の溶液について比重を測定し、ショ糖の密度勾配が形成されていることを確認した。比重の大きい方から、3番目、4番目、5番目の各画分を回収して、濃縮及び緩衝液置換に用いた。
【0161】
(3)濃縮及び緩衝液置換
溶出画分をAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Units(排除分子量:100kDa、ミリポア社)及びTNE緩衝液を用いてバッファ置換を行うとともに濃縮を行った。こうして得た濃縮液を、後述の免疫工程において感染性HCV粒子を含むウイルス液として使用した。
【0162】
<実施例3> HCVの不活化
上記実施例2で得たウイルス液中のHCVを、紫外線照射にて不活化した。紫外線の線源としては東芝社製GL-15を使用した。精製した感染力価1×10
6ffu/mLのHCV粒子含有溶液をシリコンコーティングされたポリエチレン製エッペンチューブ(アシスト社製)に入れ、紫外線の照射強度が20mW/cm
2となるような距離に置き、5分間UV-Cを照射した。
【0163】
処置後、HCV粒子をDMEM培地中に50倍、250倍、1250倍、6250倍、31250倍、156250倍、及び781250倍で段階希釈した。
【0164】
前日に、96ウェル ポリ-L-リジンコーティングプレート(コーニング社製;Corning 96 Well Clear Flat Bottom Poly-L-Lysine Coated Microplate)にHuh7細胞を1×10
4 細胞/ウェルで播種しておき、そこに段階希釈した上記ウイルス粒子を播種して37℃で72時間培養をおこなった。
【0165】
培養上清を取り除いた後に、氷冷したメタノール中にプレートを浸し、細胞を固定した。その後、メタノールを風乾により除去し、0.3% Triton(登録商標)-X100(GEヘルスケア社)を含んだブロックエース(登録商標)(大日本製薬社)で細胞の可溶化処置をした。クローン2H9 抗HCV-core抗体(Wakita, T. et al., Nat. Med. 11:791-796,2005)及びヤギ抗-マウスIgG-Alexa488(モレキュラープローブ社)を用いて、HCV感染細胞を検出し、蛍光顕微鏡(オリンパス社製IX-70)下で計数した。紫外線処置後のHCVの感染力価が検出限界以下であることが確認された。後述の実施例におけるマウスへの投与には、このように感染性が完全消失したことが示された不活化J6/JFH-1-HCV粒子を使用した。
【0166】
<実施例4> 不活化HCV粒子を用いたマウスの免疫
アジュバントとして動物用アジュバントであるMPL+TDM(Sigma社:Sigma Adjuvant System、カタログ番号S6322)を用いた。実施例3に示した不活化J6/JFH-1-HCV粒子(HCV coreタンパク質 2pmol相当量)を含んだ溶液100μLに対して、等量のMPL+TDMを加え、エマルジョンを形成させた。エマルジョンの形成はビーカーに適量の水を準備しておき、混合液を水面に一滴落として液が分散しないことにより確認した。Balb/cマウス(7週齢、雌)をエーテル麻酔し、上記のように調製した不活化J6/JFH-1-HCV粒子を含むエマルジョンを腹腔内投与することにより免疫した。
【0167】
2週間後、J6/JFH-1-HCV粒子(HCV coreタンパク質 2pmol相当量)を含んだ溶液100μLに等量のMPL+TDMを加え、エマルジョンを形成させ、同様に腹腔内投与してさらに免疫した。さらに4週間後及び6週間後に、同様に腹腔内投与して免疫した。
【0168】
<実施例5> 不活化HCV粒子で免疫したマウスの血清におけるHCV感染阻害活性の測定
(1)感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製
HCVppの作製は、Bartoschらの方法に準じて行った(文献:Bartosch, B. et al.(2003) J. Exp. Med., 197, 633-642)。これは、レトロウイルスのGag-polを発現するベクター、HCVのエンベロープタンパク質を発現するベクター及びレポーター遺伝子を発現するレトロウイルスパッケージングベクターの3種類の発現ベクターを動物細胞に導入し、発現させることにより、レポーター遺伝子がパッケージングされ、HCVエンベロープタンパク質をそのウイルスの表面に発現するシュードウイルスを作製する方法である。
【0169】
遺伝子型2aのエンベロープタンパク質をもつHCVppを作製するために、pcDNA J6dC-E2を使用した。このプラスミドは、遺伝子型2aのHCV株であるJ6CF株のタンパク質(NCBI Protein アクセッション番号AAF01178.1)の132位のアミノ酸残基から750位のアミノ酸残基(coreタンパク質の一部、E1タンパク質及びE2タンパク質)をコードする核酸をpcDNA3.1にクローン化した発現ベクターである。
【0170】
マウス白血病ウイルスのgagとpolをコードする遺伝子をクローン化した発現ベクターとして、Gag-Pol 5349を使用した。ルシフェラーゼ遺伝子をクローン化したレトロウイルスパッケージングベクターとして、Luc126を用いた。
【0171】
293T細胞は、10% FCS-DMEM培地(1% MEM 非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社)、10mM HEPES(pH 7.3)、1mM ピルビン酸ナトリウム、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(Gibco社:カタログ番号15140-122)を含む)(以下、「DMEM-10F」と記載)にて継代培養した。培養には、コラーゲンコートのフラスコ(IWAKI社:カタログ番号4100-010及び4160-010)を使用した。293T細胞を、2.5×10
6細胞/ディッシュとなるように、コラーゲンコートされた10cmディッシュ(IWAKI社:カタログ番号4020-010)に播種し、一晩培養した。以下に示す量のOpti-MEM(Gibco社:カタログ番号11058)、FuGENE6及び3種類のコンストラクト(HCVエンベロープタンパク質発現ベクターpcDNA J6dC-E2、Gag-Pol 5349及びLuc126)をOpti-MEMを500μL、FuGENE6を21.6μL、pcDNA J6dC-E2を1μg、Gag-Pol 5349を3.1μg、Luc126を3.1μg(又はこれらと同し配分比)で混合し、室温で15分インキュベーションした。293T細胞の培地をOpti-MEM 7.5mLに交換し、ここにDNA複合体を添加し、37℃、5%CO
2で6時間インキュベーションした。反応終了後、PBSで一回洗浄し、DMEM-10F 8mLを添加して37℃、5%CO
2で48時間インキュベーションした。培養終了後、上清を回収し、0.45μmフィルターで濾過したものをHCVpp溶液とした。HCVpp溶液は1mLずつ分注し、-80℃にて保存した。
【0172】
このようにして得られた、遺伝子型2aのJ6CF株の構造タンパク質をもつ感染性HCV様粒子を「J6CF HCVpp」と呼称する。
【0173】
(2)感染阻害活性の測定
実施例4におけるHCV粒子投与前の正常マウス血清及び不活化HCV粒子(J6/JFH-1-HCV粒子)で免疫したマウスから初回免疫49日後に採血した200μLの血清をそれぞれ1mLのプロテインGセファロースカラム(GEヘルスケア社)にアプライし、PBSでカラムを洗浄後、0.1Mグリシン緩衝液(pH3.0)にて1mL/画分で溶出した。溶出後、直ちに1M Tris-HCl(pH9.5)を添加し、中性に戻した。溶出されたタンパク質のピーク画分をIgG画分とし、この画分のHCV感染阻害活性を測定した。具体的には、本実施例「(1)感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製」の工程で得たJ6CF HCVpp溶液に、IgGの最終濃度が10、30、100、200μg/mLとなるようにDMEM培地(10% FCS(invitrogen社)、1% MEM 非必須アミノ酸溶液(invitrogen社)、10mM HEPES-Tris(pH7.3)、1mM ピルビン酸ナトリウムを含むDMEM)にてIgG画分サンプルを希釈して加え、37℃で30分インキュベーションした。前日に96ウェルプレートに1x10
4細胞/ウェルで培養したHuh7.5.1細胞の培地を捨てた後、IgG画分サンプルを加えてインキュベーションしたウイルス液を50μL/ウェルで加えて、37℃で3時間インキュベーションした。ウイルス液を捨てた後、PBS 100μL/ウェルで1回洗浄し、200μL/ウェルの培地を加えて37℃で72時間インキュベーションした。培地を捨てた後、25μL/ウェルのDMEM培地(血清無添加)と25μL/ウェルのSteady-Glo(Promega社:カタログ番号E2520)を加えて添付の説明書に従い細胞を溶解した。細胞の溶解液40μL/ウェルを白色の96ウェルプレート(住友ベークライト社:カタログ番号MS-8496W)へ移し、ARVO X4(PerkinElmer社)を用いて発光強度を測定した。
【0174】
その結果を
図1に示す。
図1の縦軸は、発光強度であるルシフェラーゼ活性を示し、横軸の数値は、J6CF HCVpp溶液に混合したIgG濃度(μg/mL)を示す。また、「コントロール」は抗体を加えなかった陽性対照、「正常マウスmIgG」は対照抗体を示す。J6CF HCVpp溶液にDMEMを混合した時の値を100%の感染率を示すコントロールとして示しており、発光強度が低いほど感染を阻害する活性が高いことを示す。J6/JFH-1-HCV粒子投与マウス血清由来のIgG画分に用量依存的なHCV感染阻害活性が認められた。
【0175】
<実施例6> ハイブリドーマの作製
マウス骨髄腫細胞株SP2/0(ECACCより入手)を5×10
-5Mの2-メルカプトエタノール、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、及び10%FCS(インビトロジェン社)を含有するDMEM培地(インビトロジェン社)にて培養し、対数増殖期のSP2/0細胞を得た。その細胞を、血清を含まないDMEM培地にて3回洗浄した。
【0176】
次に実施例4のHCV粒子(J6/JFH-1-HCV粒子)を投与したマウスより脾細胞を摘出し、血清を含まないDMEM培地にて3回洗浄した。SP2/0細胞とマウス脾細胞とを1:5の比率になるように50mLの遠心チューブに入れ、1,000回転で10分間遠心した。上清を完全に吸引して取り除き、チューブの底を指でタッピングし、ペレットをほぐした。37℃にて温めておいた50%PEG-1500溶液(ロシュ社)を1分間かけて細胞に1mL加え、37℃にて1分間反応を続けた。次に1mLの血清不含DMEM培地を1分間かけて徐々に加え、再度1mLの血清不含DMEM培地を1分間かけて徐々に加えた。最後に7mLの血清不含DMEM培地を3分間かけて加えることにより、PEG溶液を希釈した。希釈液中のこの細胞を1,000回転で10分間遠心し、そこに50mLのHT培地(5×10
-5Mの2-メルカプトエタノール、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン及び10%のFCS、10
-4Mのヒポキサンチン及び1.5×10
-5Mのチミジンを含有するDMEM培地)を加え、細胞ペレットをピペッティングによりほぐした。細胞を75cm
2のフラスコ2本に移して、37℃、5%CO
2インキュベーターで一晩培養した。
【0177】
細胞を1,000回転で10分間遠心して回収した。細胞ペレットをタッピングしてほぐし、10mLのDMEM培地に懸濁した。この細胞懸濁液を90mLのメチルセルロースHAT選択培地(Stem Cell Technology社)に加え、よく混合して、10cmのディッシュに10mLずつ加え、37℃、5%CO
2インキュベーターで培養した。
【0178】
10〜14日間培養し、単一の細胞から増殖したと考えられるハイブリドーマのコロニーをピペットチップで吸い上げ、それを10%のハイブリドーマ増殖因子(Bio Veris社)を含むHT培地を200μLずつ加えた96ウェルプレートの各ウェルに入れ、培養した。
【0179】
<実施例7> HCV感染阻害抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
実施例6で作製したハイブリドーマが十分に増殖した時点で、培養上清を回収し、以下の通りスクリーニングを行った。
【0180】
スクリーニングを、E1タンパク質及びE2タンパク質をプレートに固定し、ハイブリドーマ上清中の抗体がそれらのタンパク質に結合するかどうかをEIAにて評価すること、及びハイブリドーマ上清中の抗体がHCV感染を阻害することができるかどうかを評価する(実施例8に記載)こと、によって行った。
【0181】
(1)J6CF株由来のE1タンパク質及びE2タンパク質の作製
J6CF株のE1タンパク質及びE2タンパク質は、以下に示すようにして調製した。遺伝子型2aのJ6CF株由来ゲノムcDNA(GenBankアクセッション番号AF177036)を鋳型として、J6CF全長タンパク質配列(J6CF株ゲノム配列にコードされる連続したタンパク質配列;GenBankアクセッション番号AF177036にも記載のアミノ酸配列)のN末端の開始メチオニンを1位とした場合に192位から352位までに相当する、膜貫通領域を含まないE1タンパク質をコードする遺伝子を、Advantage GC2 PCRキット(タカラバイオ社)、並びにJ6E1dTM-s(配列番号3:CACAAGCTTGCCGAAGTGAAGAACATCAGT)及びJ6E1dTM-as(配列番号4:GCTCTAGATTAATGAGCCCCGCTAATGATGTC)を用いてPCR法で増幅した。増幅したDNA断片をpCR-TOPO(インビトロジェン社)中にクローニングし、3つのクローンについて塩基配列の解析を行った。正しい塩基配列のインサートを有するクローンを「pTOPO-J6E1dTM」と名付けた。
【0182】
pTOPO-J6E1dTMをHindIIIとXbaIで消化し約500bpのDNA断片(E1断片)を含むゲルを切り出した。GeneElute(SIGMA社)を用いて、DNA断片をそのゲルから精製した。同様に、p3XFLAG-CMV-9(SIGMA社)をHindIII及びXbaIで消化後、1%アガロースゲルにて電気泳動した。約6,400bpの断片を含むゲルを切り出した後、GeneElute(SIGMA社)を用いてDNA断片をゲルから精製した。それぞれの精製したDNA断片を、T4リガーゼ(タカラバイオ社)を用いて連結させ、J6CF株のE1断片を組み込んだ動物細胞発現ベクター「CMV-3XFLAGJ6E1dTM」を得た。
【0183】
次に、J6CF全長タンパク質配列のN末端の開始メチオニンを1位としたときに384位から720位までに相当する、膜貫通領域を含まないE2タンパク質をコードする遺伝子を、Advantage GC2 PCRキット(タカラバイオ社)、並びにJ6E2dTM-s(配列番号5:CACAAGCTTCGCACCCATACTGTTGGGG)及びJ6E2dTM-as(配列番号6:GCTCTAGATTACCATCGGACGATGTATTTTGT)を用いてPCR法で増幅した。増幅したDNA断片をpCR-TOPO(インビトロジェン社)中にクローニングし、3つのクローンについて塩基配列の解析を行った。正しい塩基配列のインサートを有するクローンを「pTOPO-J6E2dTM」と名付けた。
【0184】
次にp3XFLAG-CMV-9(SIGMA社)をHindIIIとXbaIで消化して得たDNAと、pTOPO-J6E2dTMをHindIIIとXbaIで切り出した約1,000bpのDNA断片とを、T4 DNAリガーゼにて連結して環状化させた。このベクターを「CMV-3XFLAGJ6E2dTM」と名付けた。
【0185】
これらのCMV-3XFLAGJ6E1dTM又はCMV-3XFLAGJ6E2dTMを、以下のようにしてサル腎臓由来COS1細胞(理研細胞銀行から寄託番号RCB0143に基づき入手)に導入し、それぞれ、E1タンパク質又はE2タンパク質を発現させた。
【0186】
COS1細胞は、10%FCS(Invitrogen社)、100U/mL ペニシリン、100μg/mL 硫酸ストレプトマイシンを含有するDMEM培地(Ivitrogen社)にて培養した。COS1細胞を遺伝子導入前日に2倍のスプリットレシオで、150cm
2培養フラスコ(コーニングコースター)に播き、37℃、5%CO
2インキュベーターで一晩培養した。
【0187】
一方、DMEM培地(Invitorogen社)に終濃度がそれぞれ、400μg/mL、100μMとなるようにDEAEデキストラン(Pharmacia社)とクロロキン(SIGMA社)を加え、さらに本溶液13mL当たり、0.1μg/μLの濃度の上記発現ベクター(CMV-3XFLAGJ6E1dTM又はCMV-3XFLAGJ6E2dTM)を500μL(50μg)加えて培養した(これを、「DEAEデキストラン-DNA混合液」とする)。次に、培養したCOS1細胞の上清を吸引除去後、10mLのPBS(-)(ニッスイ社)を添加して細胞を1回洗浄した。PBS(-)を吸引除去後、DEAEデキストラン-DNA混合液を13mL/150cm
2フラスコで加え、37℃、5%CO
2存在下で4時間インキュベーションした。
【0188】
4時間後、DEAEデキストラン-DNA混合液を吸引除去し、10mLのPBSで1回洗浄し、CHO-SFM培地(Invitorogen社)を50mL/フラスコにて加え、37℃、5%CO
2存在下で培養した。4日後、培養上清を50mLの遠心管(コーニングコースター)に回収した。回収した上清は6,000rpm(HITACHI RPR9-2ローター使用)、30分、4℃で遠心後、0.2μmの濾過フィルター(Whatman社)を用いて濾過した。
【0189】
培養上清は、抗FLAG M2アガロース(SIGMA社)を用いて以下のように精製した。500mLの培養上清に対し、1mLの抗FLAG M2アガロースを添加し、スピナーボトルで撹拌しながら、4℃(低温室)で反応させた。2時間後、上清と抗FLAG M2アガロースの混合液をエコノカラム(BIO-RAD社)に移し、素通り画分を回収した。次に、10mLのTBS(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH7.4)で2回洗浄した。0.1Mグリシン-HCl(pH3.5)にて1mL/画分ずつ6画分溶出した。溶出後、直ちに1M Tris-HCl(pH9.5)を添加し、中性に戻した。各画分の20μLを還元下にてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルーにて染色した。その結果、J6CF株由来のE1タンパク質又はE2タンパク質が精製されていることを確認した。
【0190】
(2)E1タンパク質及びE2タンパク質の固相化プレートの作製
J6CF株由来のE1タンパク質及びE2タンパク質がそれぞれ1μg/mLとなるようにPBSで希釈した。このE1タンパク質及びE2タンパク質の混合タンパク質溶液をイムノプレート(NUNC社)の各ウェルに50μL加え、4℃にて一晩静置し、タンパク質をプレートに固定した。タンパク質溶液を除き、各ウェルに150μLのブロックエース(大日本製薬)を加え室温で4時間ブロッキングした。
【0191】
これらのプレートを、後述のハイブリドーマの培養上清中の抗HCV抗体のスクリーニングに使用した。
【0192】
(3)J6/JFH-1-HCV粒子を抗原として作製したハイブリドーマの上清のスクリーニング
上記(2)で作製したJ6CF株由来のE1タンパク質及びE2タンパク質が固定されたプレートを0.1%Tween20(SIGMA社)を含むPBSで4回洗浄し、実施例6で得られた各ハイブリドーマ上清サンプルを各ウェルに50μL加え、室温で1時間、プレートミキサーにて振とうさせながら反応させた。反応後、0.1%Tween20(SIGMA社)を含むPBSで4回洗浄した後、各ウェルに、0.1%Tween20を含むPBSで10,000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(SIGMA社)を50μL加え、室温で1時間、振とうさせながら反応させた。反応後、0.1%Tween20(SIGMA社)を含むPBSで4回洗浄し、ペルオキシダーゼ発色キット(住友ベークライト社)を用いて発色させ、マルチスキャン(タイターテック社)にて450nmでの吸光度を測定し、陽性クローンを選抜した。
【0193】
<実施例8> HCV感染阻害活性の評価
実施例5の「(1)感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製」の工程で得たJ6CF HCVpp溶液にハイブリドーマ上清を加え、37℃で30分インキュベーションした。前日に96ウェルプレートにて1×10
4cells/ウェルで培養したHuh7.5.1細胞から培地を除去した後、ハイブリドーマ上清を加えてインキュベーションしたウイルス液を50μL/ウェルで加えて、37℃で3時間インキュベーションした。ウイルス液を捨てた後、PBS 100μL/ウェルで1回洗浄し、200μL/ウェルの培地を加えて37℃で72時間、再びインキュベーションした。培地を捨てた後、25μL/ウェルのDMEM培地(血清無添加)と25μL/ウェルのSteady-Glo(Promega社:カタログ番号E2520)を加えて添付の説明書に従い細胞を溶解した。細胞の溶解液40μL/ウェルを白色の96ウェルプレート(住友ベークライト社:カタログ番号MS-8496W)へ移し、ARVO X4(PerkinElmer社)を用いて発光強度を測定した。J6CF HCVpp溶液にDMEM培地(ハイブリドーマ上清と等量)を混合したウイルス液で上記の試験を同時に行ったときの発光強度を100%感染として、ハイブリドーマ上清と混合した時の発光強度を%で表し、感染率(%)を求めた。
【0194】
感染率の少ないサンプルを、HCV感染阻害活性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株として2種類選別した。これら細胞株を限界希釈法にてクローン化して、モノクローナル抗体P18-9Eを産生するハイブリドーマ細胞株P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dを産生するハイブリドーマ細胞株P19-7Dを得た。
【0195】
本実施例で選抜されたハイブリドーマ細胞株P18-9E(寄託番号:FERM BP-11263)及びハイブリドーマ細胞株P19-7D(寄託番号:FERM BP-11264)は、2009年10月15日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。
【0196】
これらのハイブリドーマ細胞株は、DMEMに1mM ピルビン酸ナトリウム、55μM 2-メルカプトエタノール、10%FCSを添加した培地を用いて37℃で好適に培養することができる。
【0197】
<実施例9> HCV感染阻害モノクローナル抗体の解析
実施例8で得られたハイブリドーマ細胞株から産生されるHCV感染阻害モノクローナル抗体の特性解析は、以下の通り行った。なお、ハイブリドーマ細胞株P18-9E(寄託番号:FERM BP-11263)から産生されるモノクローナル抗体を「モノクローナル抗体P18-9E」とし、ハイブリドーマ細胞株P19-7D(寄託番号:FERM BP-11264)から産生されるモノクローナル抗体を「モノクローナル抗体P19-7D」とした。
【0198】
(1)抗体のサブクラス
マウス抗体のサブクラスの解析については、ハイブリドーマの培養上清を用いてMouse MonoAB ID KIT(インビトロジェン社)を用いて行った。モノクローナル抗体P18-9E のアイソタイプの解析の結果、H鎖がγ2b、L鎖がκであることが判明したことからIgG2bであることが示された。モノクローナル抗体P19-7Dのアイソタイプの解析の結果、H鎖がγ1、L鎖がκであることが判明したことからIgG1であることが示された。
【0199】
(2)精製
無血清培地Hybridoma SFM(インビトロジェン社)にて、ハイブリドーマをコンフルエントになるまで培養した後、培養液を遠沈管に回収し、1500rpmで5分間遠心した。培養上清をProsep-G(ミリポア社)に添加し、20ベッドボリュームのPBSで洗浄し、続いて1ベッドボリュームの0.1Mグリシン-HCl(pH3.0)にて6画分溶出した。溶出後、直ちに1M Tris-HCl(pH9.5)を添加し、中性に戻した。NanoDrop(NanoDrop Technologies社, ND-1000)を用いて各フラクションの280nmの吸光度を測定し、タンパク質が含まれるフラクション(OD280nm>0.1)を回収し、アミコンウルトラ50K(ミリポア社)を用いて濃縮しながらPBSにbuffer置換し、0.22μmフィルター濾過した。濃縮サンプルの20μLを還元下及び非還元下にてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、クマシーブリリアントブルーにて染色してIgGであることを確認した。サンプルの280 nmの吸光度を測定し、溶液に含まれる抗体量(10mg/mL IgG=13.7 OD換算)を算出した。
【0200】
(3)精製モノクローナル抗体のHCV感染阻害活性
A. 感染性HCV様粒子(J6CF HCVpp)に対するHCV感染阻害活性
実施例5の「(1)感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製」の工程で得たJ6CF HCVpp溶液に、精製モノクローナル抗体P18-9E又は精製モノクローナル抗体P19-7Dを加え、37℃で30分インキュベーションした。精製モノクローナル抗体P18-9E又は精製モノクローナル抗体P19-7Dは、それぞれ、最終濃度が100μg/mL又は300μg/mLとなるように、PBSにて希釈して用いた。
【0201】
Huh7.5.1細胞は、10% FCS-DMEM培地(1% MEM 非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社)、10mM HEPES(pH 7.3)、1mM ピルビン酸ナトリウム、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(Gibco社:カタログ番号15140-122)を含む)にて継代培養した。
【0202】
前日に96ウェルプレートにて1×10
4cells/ウェルで培養したHuh7.5.1細胞から培地を捨てた後、精製モノクローナル抗体を加えてインキュベーションしたウイルス液を50μL/ウェルで加えて、37℃で3時間インキュベーションした。ウイルス液を捨てた後、PBS 100μL/ウェルで1回洗浄し、200μL/ウェルの培地を加えて37℃で72時間インキュベーションした。培地を捨てた後、25μL/ウェルのDMEM培地(血清無添加)と25μL/ウェルのSteady-Glo(Promega社:カタログ番号E2520)を加えて添付の説明書に従い細胞を溶解した。細胞の溶解液40μL/ウェルを白色の96ウェルプレート(住友ベークライト社:カタログ番号MS-8496W)へ移し、ARVO X4(PerkinElmer社)を用いて発光強度を測定した。J6CF HCVpp溶液にPBS(希釈した精製モノクローナル抗体と等量)を混合したウイルス液で上記の試験を同時に行ったときの発光強度を100%感染として、精製モノクローナル抗体と混合した時の発光強度を%で表し、感染率(%)を求めた。
【0203】
図2は、モノクローナル抗体P18-9EのHCV感染阻害活性を示す。
図2の縦軸は、感染率(%)を示し、横軸の「PBS」は抗体を加えなかった陽性対照、「P18-9E 100μg/mL」はJ6CF HCVpp溶液に混合したモノクローナル抗体P18-9Eの最終濃度を示す。
図2に示したように精製モノクローナル抗体P18-9Eは、J6CF HCVppの感染を阻害した。
【0204】
図3は、モノクローナル抗体P19-7DのHCV感染阻害活性を示す。
図3の縦軸は、感染率(%)を示し、横軸の「P19-7D 100μg/mL、300μg/mL」はJ6CF HCVpp溶液に混合したモノクローナル抗体P19-7Dの最終濃度を示す。また、「P.C」は抗体を加えなかった陽性対照、「IgG」は対照抗体であるマウスIgG 300μg/mLの結果を示す。
図3に示したように精製モノクローナル抗体P19-7Dは、J6CF HCVppの感染を阻害した。
【0205】
B. 感染性HCV粒子(J6/JFH1 HCVcc)に対するHCV感染阻害活性
HCVccウイルス液として、上記実施例2の(1)の工程で得たJ6/JFH1-HCV粒子液(HCV粒子を含む培養上清の濃縮液)(以下、「J6/JFH1 HCVcc」とする)を用いた。
【0206】
Huh7.5.1細胞は、10% FCS-DMEM培地(1% MEM 非必須アミノ酸溶液(Invitrogen社)、10mM HEPES(pH 7.3)、1mM ピルビン酸ナトリウム、100単位/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(Gibco社:カタログ番号15140-122)を含む)にて継代培養した。Huh7.5.1細胞を96ウェルプレート(poly-D-lysinコート)に1×10
4細胞/ウェルで播種し、一晩培養した。J6/JFH1 HCVcc溶液に精製モノクローナル抗体P18-9Eを混合し、室温で30分インキュベーションした。この際に、モノクローナル抗体P18-9EをPBSにて20μg/mL、60 μg/mL 、200 μg/mLに希釈して用いた(混合液中の抗体の最終濃度は10μg/mL、30 μg/mL 、100 μg/mL )。細胞の培地を捨てた後、抗体を加えてインキュベーションしたウイルス液を50μL/ウェルで加えて、37℃で3時間インキュベーションした。ウイルス液を捨てた後、PBS 100μL/ウェルで1回洗浄し、200μL/ウェルのDMEM培地を加えて37℃で72時間インキュベーションした。培養上清を取り除いた後に、氷冷したメタノール中にプレートを浸し、細胞を固定した。その後、メタノールを風乾により除去し、3%H
2O
2を含むPBS溶液100μL/ウェルを添加して、室温で5分間インキュベーションした。PBS 150μL/ウェルで2回洗浄し、0.3% Triton(登録商標)-X100(GEヘルスケア社)を含んだブロックエース(登録商標)(大日本製薬社)を100μL/ウェル加え、室温で1時間ブロッキング処置をした。PBS 150μL/ウェルで2回洗浄し、100倍希釈したHRP標識抗HCV-core抗体(オーソ社)を50μL/ウェルで加えて1時間反応させた。その後に、PBS 150μL/ウェルで4回洗浄し、QuantaBlu(登録商標)(PIERCE社)反応液を50μL/ウェルで加えて室温で30分静置し、QuantaBlu停止液を50μL/ウェルで加えて反応を停止した。20μL/ウェルを黒色の384ウェルプレート(Corning社:カタログ番号3676)へ移し、ARVO X4(PerkinElmer社)を用いて蛍光強度を測定した。J6/
JFH1 HCVcc溶液にPBS(希釈した精製モノクローナル抗体と等量)を混合したウイルス液で上記の試験を同時に行ったときの蛍光強度を100%感染とし、精製モノクローナル抗体と混合した時の蛍光強度を%で表し、感染率(%)を求めた。
【0207】
その結果を
図4に示す。
図4の縦軸は、感染率(%)を示し、横軸の「P18-9E 10μg/mL、30μg/mL、100μg/mL」は、J6/JFH1 HCVcc溶液に混合したモノクローナル抗体P18-9Eの最終濃度を示す。また、「PBS」は抗体を加えなかった陽性対照、「mouse IgG」は陰性対照抗体、「CD81 0.1μg/mL」は陽性対照抗体の結果を示す。
図4に示したように精製モノクローナル抗体P18-9Eは、J6/JFH1 HCVccの感染を阻害した。
【0208】
これらの結果から、モノクローナル抗体P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dは、HCV感染阻害活性を有する中和抗体であることが示された。
【0209】
(4)モノクローナル抗体のエピトープ解析
J6CF株のE1タンパク質の1〜162位のアミノ酸(配列番号7)、J6CF株のE2タンパク質の1〜337位のアミノ酸(配列番号8)について、10個の連続するアミノ酸をN末端から3アミノ酸ずつずらして設計したアミノ酸配列からなるペプチド群を合成した。各ペプチドのN末端はビオチン化し、C末端はグリシンアミドとした(JPT社に合成委託)。
【0210】
合成したペプチドをDMSOに溶解し、PBSに0.01nmol/μLとなるように溶解した。このペプチド溶液をストレプトアビジンコーティングプレート(Nunc社)の各ウェルに50μL加え、室温で1時間反応させた。次に、ペプチド溶液を捨て、ブロッキングワン(ナカライテスク社)を200μL/ウェル加え、室温で5時間置いた。その後、ブロッキンングワン溶液を捨て、0.05% Tween20含有PBS(pH7.2)150μL/ウェルで4回洗浄し、0.05% Tween20 含有PBS(pH7.2)で1μg/mLに希釈したモノクローナル抗体を50μL/ウェル加え、室温にて1時間反応させた。続いて、抗体溶液を捨て、0.05% Tween20 含有PBS(pH7.2)150μL/ウェルで5回洗浄し、5000倍に0.05% Tween20含有PBSで希釈したHRP化抗マウスIgGヤギ抗体(GEヘルスケア社)を50μL/ウェル加え、室温にて1時間反応させた。反応後、抗体溶液を捨て、0.05% Tween20 含有PBS(pH7.2)150μL/ウェルで5回洗浄し、引き続き、HPR発色キット(住友ベークライト社)でペプチドに結合した抗体を分光光度計(OD 450nm)で検出した。
【0211】
その結果、精製モノクローナル抗体P18-9E及び精製モノクローナル抗体P19-7Dはどのペプチドにも反応しなかった。この結果から、モノクローナル抗体P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dは立体構造エピトープを認識する抗体であることが示唆された。
【0212】
(5)モノクローナル抗体のV領域をコードするDNAのクローン化
HCV粒子に対するマウスモノクローナル抗体のV領域をコードするDNAを次の様にしてクローン化した。
【0213】
PureLink Micro-to-Midi(Invitrogen社)を用いて、添付マニュアルに記載されている方法に従って、ハイブリドーマ細胞株からtotal RNAを調製した。すなわち、2×10
6個のハイブリドーマ細胞株P18-9E及びハイブリドーマ細胞株P19-7Dの細胞を0.5mLのRNA Lysis溶液に懸濁させ、18ゲージ注射針付きシリンジを数回通してホモジナイズした。ホモジネートを遠心し、得られたこの上清に同量の70%エタノールを加え、RNAスピンカートリッジにアプライした。カートリッジに洗浄液を加え良く洗浄し、RNAaseフリー水でRNAを溶出させた。
【0214】
Novagen社のMouse Ig-Primer SetのIgGμ型H鎖及びκ型L鎖特異的3’プライマーを用いて、total RNAから一本鎖cDNAを合成した。具体的には3μgの各RNAにμ型H鎖特異的3’プライマー又はκ型L鎖特異的3’プライマーを2pmol、10mM dNTPs溶液を1μL、さらに最終容量が13μLとなるように蒸留水を加えて65℃で10分間アニーリングさせ、氷上に静置した。これに0.1M DTTを1μL、RNA OUTを1μL、SuperScriptIII(invitrogen社)に添付の5×RT Bufferを4μL及び逆転写酵素SuperScriptII(Invitrogen社)を1μL加え、50℃で60分間、70℃で15分間反応させ、4℃で保存したものを、次のステップのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に直接使用した。PCRのためのプライマーセットとしては、Mouse Ig-Primer Setを使用し、添付マニュアルの条件に従ってPCRを行った。PCRは、GeneAmp(登録商標)PCR System 9700(Applied Biosystems社)及びAdvantage GC2 DNA polymerase キット(TAKARA社)を使用して行った。具体的には、H鎖の増幅には、キット添付のMuIgVH5'-AからMuIgVH5'-Fまでのプライマー(マウスμ型H鎖のリーダー配列とハイブリダイズする)及びMuIgGVH3'-1プライマー(マウスμ型CHとハイブリダイズする)を使用してPCRを行った。L鎖の増幅には、キット添付のMuIgκVL5'-AからMuIgκVL5'-Fまでのプライマー(マウスκ型L鎖のリーダー配列とハイブリダイズする)及びMuIgκVL3'-1プライマー(マウスκ型CLとハイブリダイズする)を使用してPCRを行った。上記で調製した一本鎖cDNA合成の反応混合物1〜4μLに、Advantage GC2 DNA polymeraseキットに添付の5×PCR Bufferを10μL、GC Meltを5μL、2 mM dNTPs溶液を5μL、Advantage GC2 DNA polymerase mixを1μL、MuIgκVL 5'プライマーを2〜5pmol、MuIgκVL3'-1プライマーを2pmol加え、さらに最終容量が50μLとなるように蒸留水を加えた。このPCR溶液50μLを94℃にて3分間インキュベーションした後、94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて2分間の温度サイクルを40回反復した後、反応混合物をさらに72℃にて6分間インキュベーションした。
【0215】
上記のようにしてPCR法で増幅したDNA断片のクローン化には、TOPO TA Cloning キット(Invitrogen社)を用いた。キット添付のpCR-TOPOベクターとDNA断片及び添付の塩溶液を加え、室温に5分間置いた後の反応溶液の一部を大腸菌DH5α(TAKARA社)のコンピテントセルに加えた。この大腸菌コンピテントセルを氷上に30分間置き、引き続き42℃で45秒間加熱後、再び氷上に2分間置き、SOC培地(室温)を加え、37℃で1時間培養した後に寒天培地に播き、37℃で一晩培養した。この形質転換体からプラスミドDNAを調製し、クローン化したDNAの塩基配列を常法により決定した。
【0216】
(6)モノクローナル抗体のV領域をコードするcDNAの核酸配列解析
上記(5)で塩基配列を決定し、プラスミド中にクローン化したDNA(マウスモノクローナル抗体のVH及びVLをそれぞれコードするcDNA)について、以下の通り解析を行った。
【0217】
モノクローナル抗体P18-9EのH鎖ではMuIgVH5'-Bの5’プライマーで増幅されたPCR産物をクローン化した6クローンについて解析した。その結果、塩基配列1箇所で、6クローン中1クローンで置換がみられたが、5クローンのV領域の塩基配列は同一であった。5クローンが得られたDNAを選択し、モノクローナル抗体P18-9EのH鎖cDNAの塩基配列を決定した(配列番号9)。
【0218】
モノクローナル抗体P18-9EのL鎖ではMuIgκVL5'-Fの5’プライマーで増幅されたPCR産物をクローン化した3クローンについて解析した結果、塩基配列2箇所で、3クローン中1クローンで置換がみられたが、2クローンのV領域の塩基配列は同一であった。各箇所で2クローンが示すほうの塩基を選択し、モノクローナル抗体P18-9EのL鎖cDNAの塩基配列を決定した(配列番号10)。
【0219】
モノクローナル抗体P19-7Dの H鎖ではMuIgVH5'-Cの5’プライマーを用いた増幅産物をクローン化した6クローンから得られた塩基配列を解析した。その結果、塩基配列3箇所で、6クローン中1クローンで置換がみられたが、各箇所の5クローンの塩基配列は同一であった。各箇所で5クローンが示す塩基を選択し、モノクローナル抗体P19-7Dの H鎖cDNAの塩基配列を決定した(配列番号11)
モノクローナル抗体P19-7Dの L鎖ではMuIgκVL5'-Gの5’プライマーで増幅されたPCR産物をクローン化した4クローンについて解析した結果、V領域の塩基配列2箇所で、4クローン中1クローンで置換がみられたが、3クローンの塩基配列は同一であった。各箇所で3クローンが示すほうの塩基を選択し、モノクローナル抗体P19-7Dの L鎖cDNAの塩基配列を決定した(配列番号12)。
【0220】
また、核酸配列から推定されるコード化アミノ酸配列をデータベースで検索することにより、モノクローナル抗体P18-9E並びにモノクローナル抗体P19-7Dの、H鎖及びL鎖のV領域のFR1からJ領域(FR4)までのアミノ酸配列を推定した(配列番号13〜16)。本アミノ酸配列から推定されるCDR1からCDR3を
図5に示した。
【0221】
モノクローナル抗体P18-9EのVHの、FR1のアミノ酸配列はDAQGQMQQSGPELVKPGASVKLSCKTTDFTFN(配列番号17)、CDR1のアミノ酸配列はRNYIS(配列番号18)、FR2のアミノ酸配列はWLRQKPGQSLEWIA(配列番号19)、CDR2のアミノ酸配列はWIYAGTGGTKYNQKFTG(配列番号20)、FR3のアミノ酸配列はKAQMTVDTSSHTAYMQFSNLTTEDSAVYYCAR(配列番号21)、CDR3のアミノ酸配列はYLFDGYYIPLFDY(配列番号22)、及びFR4 (J領域、Jセグメント又はJ鎖とも呼ぶ)のアミノ酸配列はWGQGTTLTVS(配列番号23)である。
【0222】
モノクローナル抗体P18-9EのVLの、FR1のアミノ酸配列はAQCDVQITQSPSYLAASPGETISINC(配列番号24)、CDR1のアミノ酸配列はRANKSIDKYLA(配列番号25)、FR2のアミノ酸配列はWYQEKPGKTNKLLIY(配列番号26)、CDR2のアミノ酸配列はSGSTLQS(配列番号27)、FR3のアミノ酸配列はGVPSKFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAMYYC(配列番号28)、CDR3のアミノ酸配列はQQHNEYPLT(配列番号29)、及びFR4(J領域)のアミノ酸配列はFGAGTKLDLRR(配列番号30)である。
【0223】
モノクローナル抗体P19-7DのVHの、FR1のアミノ酸配列はLSQPSQSLSITCTVSGFSLT(配列番号31)、CDR1のアミノ酸配列はTYGVH(配列番号32)、FR2のアミノ酸配列はWVRQSPGKGLEWLG(配列番号33)、CDR2のアミノ酸配列はVIWRGGSTDYNAAFLS(配列番号34)、FR3のアミノ酸配列はRLSITKDNSKSQVFFKMNSLQPDDTAIYYCAKN(配列番号35)、CDR3のアミノ酸配列はSWDGAY(配列番号36)、及びFR4(J領域)のアミノ酸配列はWGQGTLVTVS(配列番号37)である。
【0224】
モノクローナル抗体P19-7DのVLの、FR1のアミノ酸配列はSSSDVVMTQTPLSLPVSLGDQASISC(配列番号38)、CDR1のアミノ酸配列はRSSQSLLHSNGNTYLH(配列番号39)、FR2のアミノ酸配列はWYLQKPGQSPKLLIY(配列番号40)、CDR2のアミノ酸配列はKVSNRFS(配列番号41)、FR3のアミノ酸配列はGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGLYFC(配列番号42)、CDR3のアミノ酸配列はSQNTHFPWT(配列番号43)、及びFR4(J領域)のアミノ酸配列はFGGGTELEISR(配列番号44)である。
【0225】
モノクローナル抗体P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dによる立体構造エピトープの認識において役割を果たすH鎖及びL鎖のV領域の塩基配列及びアミノ酸配列が明らかとなった。
【0226】
(7)HCV 様粒子(HCV-VLP)を用いたモノクローナル抗体P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dの性状解析
A.エンザイムイムノアッセイ(EIA)を用いたHCV 様粒子(HCV-VLP)に対する(HCV-VLP)モノクローナル抗体の反応性の検討
(a)HCV様粒子(HCV-VLP)の作製
HCV様粒子(HCV-VLP)とは、ウイルスゲノムを含まない中空粒子である。HCVのE1タンパク質及びE2タンパク質を発現させた293T細胞から、MembranePro(登録商標) Reagent(Invitrogen社)を用いて、HCVのE1タンパク質及びE2タンパク質をその表面に発現した中空粒子(HCV-VLP)を作製することができる。
【0227】
293T細胞は、500mLのDMEM培地(Invitrogen社)に50mLのFCS(GIBCO社)及び5mLのPenStrep(Invitrogen社)を添加した培地で培養した。1.2×10
7個の293T細胞を225cm
2コラーゲンコートフラスコ(IWAKI社)に播種し、37℃、5% CO
2の条件で一昼夜培養した。
【0228】
4mLのOpti-MEM I(GIBCO社)及び216μLのLipofectamine2000(Invitrogen社)を混合して、室温で5分間インキュベーションした後、さらに、4mLのOpti-MEM I(GIBCO社)、10.8μgのpcDNA J6dC-E2(実施例5に記載のHCV J6CF株のE1タンパク質及びE2タンパク質の発現プラスミド)及び32.4μLのMembranePro(登録商標) Reagent(Invitrogen社)を混合したものを添加して、室温で20分間インキュベーションした。この溶液を、一昼夜培養した293T細胞の培養液に滴下して加え、37℃、5% CO
2の条件で18時間インキュベーションした。その後、培養液を除き、35mLの新鮮培地(PenStrepを除いたもの)に交換してさらに48時間培養した。培養上清を50mLの遠沈管に回収し、4℃、2,000×g、10分間遠心分離した。新しい50mLの遠沈管に上清を移し(2mLは取らずに残す)、7mLのMembranePro Precipitation Mix(Invitrogen社)を添加した。数回転倒混和し、4℃で一昼夜以上静置した。その後、4℃、5,500×g、5分間遠心分離し、ピペットで上清を除去した。MembranePro Precipitation Mix を1×PBS(-)で6倍希釈した溶液5mLをペレットに添加し、さらに4℃、5,500×g、5分間遠心分離してピペットで上清を除去した。ペレットに500μLのPBS(-)を添加して懸濁し、分注して使用まで-80℃で保存した。これを、「HCV-VLP」とする。
【0229】
(b)J6CF株由来のE1タンパク質及びE2タンパク質(組換えタンパク質)の作製
実施例7の(1)に記載の方法で、J6CF株由来のE1タンパク質及びE2タンパク質(組換えタンパク質)をそれぞれ作製した。
【0230】
(c)エンザイムイムノアッセイ(EIA)
96ウェルプレート(Nunc社)に、組換えタンパク質であるE1タンパク質及びE2タンパク質の各50 ngを混合したものを50μL/ウェルとなるようにPBS(-)で希釈して添加し、固相化した。同様に、「a.HCV様粒子(HCV-VLP)の作製」において作製したHCV-VLPを500ng/ウェルとなるように添加し、4℃で一昼夜インキュベーションして固相化した。抗原溶液をデカントで除去し、milliQ水で5倍希釈したブロッキングワン(ナカライテスク社)を200μL/ウェルとなるように添加して、室温で1時間インキュベーションすることでブロッキングを行った。ブロッキング溶液をデカントで除去し、0.05%(v/v)Tween 20(Sigma社)を含むPBS(-)(以下、「洗浄液」とする)で2回洗浄した。洗浄液で希釈したモノクローナル抗体溶液(P18-9E又はP19-7D)を50μL/ウェルとなるように添加した。陰性対照のウェルには洗浄液のみを50μL/ウェルとなるように添加した。室温で約1.5時間インキュベーションした後、洗浄液で3回洗浄した。次に、洗浄液で3,000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(アマシャム社)を50μL/ウェルとなるように添加し、室温で1時間インキュベーションした後、洗浄液で4回洗浄した。ペルオキシダーゼ発色キット(スミロン社)の製品の添付文書に従って発色液を調製し、50μL/ウェルとなるように添加した。室温で15分間インキュベーションした後、キットに同梱の反応停止液を50μL/ウェルとなるように添加した。その後、マイクロプレートリーダー(Model 680, Bio-Rad社)で450 nmの吸光度を測定した。各ウェルの吸光度より陰性対照のウェルの吸光度を減算し、得られた値を各溶液の反応値とした。
【0231】
実験には、対照抗体として、モノクローナル抗体8D10-3(WO2010/038789)を用いた。モノクローナル抗体8D10-3は、組換えE2タンパク質をBALB/cマウスに免疫して得られた、E2タンパク質の線状エピトープを有する抗体である。
【0232】
図6〜
図8に結果を示す。
図6は、組換えE1タンパク質及びE2タンパク質の混合物を固相化したプレートを用いた、モノクローナル抗体8D10-3のEIAの結果を示す。
図7は、HCV様粒子(HCV-VLP)を固相化したプレートを用いた、モノクローナル抗体8D10-3及びモノクローナル抗体P18-9EのEIAの結果を示す。
図8は、HCV様粒子(HCV-VLP)を固相化したプレートを用いた、モノクローナル抗体8D10-3及びモノクローナル抗体P19-7DのEIAの結果を示す。図の縦軸は、450 nmの吸光度の値を示し、横軸はモノクローナル抗体の濃度(μg/mL)を示す。
【0233】
その結果、モノクローナル抗体8D10-3は、組換えタンパク質であるE1タンパク質及びE2タンパク質の混合物に反応を示した(
図6)。一方、HCV-VLPに対するモノクローナル抗体8D10-3の反応はモノクローナル抗体P18-9Eよりも弱かった(
図7)。同様に、HCV-VLPに対するモノクローナル抗体8D10-3の反応はモノクローナル抗体P19-7Dよりも弱かった(
図8)。
【0234】
モノクローナル抗体8D10-3はE2タンパク質の線状エピトープを有する抗体であるため、HCV-VLP表面のエンベロープ構造を認識する能力は弱いのに対し、モノクローナル抗体P18-9E及びモノクローナル抗体P19-7Dは、HCV-VLPに対する反応が高く、HCV粒子表面のE1タンパク質及びE2タンパク質からなる複合体であるエンベロープ立体構造を認識することが示唆された。
【0235】
B. Biacoreを用いたHCV 様粒子(HCV-VLP)に対するモノクローナル抗体の反応性の検討
(a)protein A/Gの固定化
表面プラズモン共鳴測定装置Biacore S51(GE社)用センサーチップのうち、Series S sensor chip CM-5(GE社)をBiacore S51に装着し、チップ上に超純水にて1×に希釈したアッセイバッファーであるHBS-EP(GE社)を30μL/minの流速で流した状態にした。内部温度を25℃に設定した。アミンカップリングキット(GE社)中のEDC(N-ethyl-N'-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydorochloride)及びNHS(N-hydroxysuccinimide)を、それぞれ100mM及び400mMとなるよう調製した。Acetate 4.0(GE社)にて50μg/mLのprotein A/G(Pierce社)を調製した。調製したEDC、NHS及び同キット中のEthanolamine溶液を用いてprotein A/Gをアミンカップリング法にて固定化した。一連の固定化操作は10μL/minの流速で行い、protein A/Gの添加時間は10分間に設定した。これにより同一フローセルのスポット1、2双方にprotein A/Gをほぼ等量固定化した。
【0236】
(b)抗体のキャプチャー
HBS-EPにて20μg/mLに調製した、精製モノクローナル抗体P18-9E及びmouse IgG(Sigma社)を10μL/min の流速で8分間上記のチップ上に流した。Protein A/Gとそれぞれの抗体のFc部位の親和性を利用して、チップ上のスポット1にモノクローナル抗体P18-9E、スポット2にmouse IgGをキャプチャーした。
【0237】
(c)VLPの結合と解離
HBS-EPにて30、100、300μg/mLに調製したHCV-VLPを10μL/minの流速で上記のチップ上にそれぞれ3分間流し、表面プラズモン共鳴リアルタイム計測により、VLPの結合反応をモニターした後、10分間HBS-EPを流し解離反応を測定した。
【0238】
(d)解析
解析にはS51 Evaluationを用いた。測定値は共鳴レスポンスの単位であるRU(Resonance Unit)で表される。Mouse IgGに対するHCV-VLPの反応を非特異吸着として、モノクローナル抗体P18-9Eに対する反応から差し引くことで補正を行った。
【0239】
(e)結果
その結果、モノクローナル抗体P18-9Eに対して、VLP濃度依存的かつ抗原抗体反応様の緩やかな結合及び解離が観察された。この結果からも、モノクローナル抗体P18-9Eは、HCV-VLPに結合し、HCV粒子表面のE1タンパク質及びE2タンパク質からなる複合体であるエンベロープ立体構造を認識することが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0241】
配列番号1:pJFH-1中にクローン化されたHCVゲノムcDNAを示す。
【0242】
配列番号2:pJ6/JFH-1中にクローン化されたキメラHCVゲノムcDNAの配列を示す。
【0243】
配列番号3:プライマー(J6E1dTM-s)の配列を示す。
【0244】
配列番号4:プライマー(J6E1dTM-as)の配列を示す。
【0245】
配列番号5:プライマー(J6E2dTM-s)の配列を示す。
【0246】
配列番号6:プライマー(J6E2dTM-as)の配列を示す。
【0247】
配列番号7:J6CF株のE1タンパク質の1〜162位のアミノ酸の配列を示す。
【0248】
配列番号8:J6CF株のE2タンパク質の1〜337位のアミノ酸の配列を示す。
【0249】
配列番号9:モノクローナル抗体P18-9EのVHをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0250】
配列番号10:モノクローナル抗体P18-9EのVLをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0251】
配列番号11:モノクローナル抗体P19-7DのVHをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0252】
配列番号12:モノクローナル抗体P19-7DのVLをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【0253】
配列番号13:モノクローナル抗体P18-9EのVHのアミノ酸配列を示す。
【0254】
配列番号14:モノクローナル抗体P18-9EのVLのアミノ酸配列を示す。
【0255】
配列番号15:モノクローナル抗体P19-7DのVHのアミノ酸配列を示す。
【0256】
配列番号16:モノクローナル抗体P19-7DのVLのアミノ酸配列を示す。
【0257】
配列番号17:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のFR1のアミノ酸配列を示す。
【0258】
配列番号18:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のCDR1のアミノ酸配列を示す。
【0259】
配列番号19:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のFR2のアミノ酸配列を示す。
【0260】
配列番号20:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のCDR2のアミノ酸配列を示す。
【0261】
配列番号21:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のFR3のアミノ酸配列を示す。
【0262】
配列番号22:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のCDR3のアミノ酸配列を示す。
【0263】
配列番号23:モノクローナル抗体P18-9EのVH中のFR4(J領域)のアミノ酸配列を示す。
【0264】
配列番号24:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のFR1のアミノ酸配列を示す。
【0265】
配列番号25:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のCDR1のアミノ酸配列を示す。
【0266】
配列番号26:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のFR2のアミノ酸配列を示す。
【0267】
配列番号27:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のCDR2のアミノ酸配列を示す。
【0268】
配列番号28:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のFR3のアミノ酸配列を示す。
【0269】
配列番号29:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のCDR3のアミノ酸配列を示す。
【0270】
配列番号30:モノクローナル抗体P18-9EのVL中のFR4(J領域)のアミノ酸配列を示す。
【0271】
配列番号31:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のFR1のアミノ酸配列を示す。
【0272】
配列番号32:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のCDR1のアミノ酸配列を示す。
【0273】
配列番号33:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のFR2のアミノ酸配列を示す。
【0274】
配列番号34:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のCDR2のアミノ酸配列を示す。
【0275】
配列番号35:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のFR3のアミノ酸配列を示す。
【0276】
配列番号36:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のCDR3のアミノ酸配列を示す。
【0277】
配列番号37:モノクローナル抗体P19-7DのVH中のFR4(J領域)のアミノ酸配列を示す。
【0278】
配列番号38:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のFR1のアミノ酸配列を示す。
【0279】
配列番号39:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のCDR1のアミノ酸配列を示す。
【0280】
配列番号40:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のFR2のアミノ酸配列を示す。
【0281】
配列番号41:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のCDR2のアミノ酸配列を示す。
【0282】
配列番号42:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のFR3のアミノ酸配列を示す。
【0283】
配列番号43:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のCDR3のアミノ酸配列を示す。
【0284】
配列番号44:モノクローナル抗体P19-7DのVL中のFR4(J領域)のアミノ酸配列を示す。
【0285】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。