(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エポキシ樹脂変性物として、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとの付加重合物にアルキルグリシジルエーテルが付加された構造を備えるアルキルグリシジルエーテル付加物を含む、インクジェット用インク。
前記アルキルグリシジルエーテル付加物を構成するエポキシ樹脂とアルキルグリシジルエーテルとの構成比率が、エポキシ基の当量比で、エポキシ樹脂:アルキルグリシジルエーテル=1:0.1〜0.5である、請求項1または2に記載のインクジェット用インク。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるインク及び印刷方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
以下では、インクの各配合成分について説明した後、好適な配合例やインクの使用例について詳述する。
【0015】
〔エポキシ樹脂変性物〕
本発明のインクは、エポキシ樹脂変性物として、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとの付加重合物(以下、単に「アミン付加重合物」ということがある)にアルキルグリシジルエーテルが付加された構造を備えるアルキルグリシジルエーテル付加物(以下、単に「アルキルグリシジルエーテル付加物」ということがある)を含
む。
この項では、エポキシ樹脂変性物を詳述するにあたり、まず、アミン付加重合物及びアルキルグリシジルエーテル付加物に共通の構成成分であるエポキシ樹脂及び第一級モノアミンについて説明し、さらに、アルキルグリシジルエーテル付加物の構成成分であるアルキルグリシジルエーテルについて説明したのち、エポキシ樹脂変性物の好適な製造方法について説明する。
【0016】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂変性物を構成するエポキシ樹脂は、2以上のエポキシ基を有する高分子であり、特に限定するわけではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などが好適に挙げられる。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
エポキシ樹脂変性物を構成するエポキシ樹脂は、エポキシ当量が550〜750(g/eq)であることが好ましく、軟化点が70〜95℃であることが好ましく、重量平均分子量が900〜5000であることが好ましい。これら全てを満足するものが特に好ましい。このような条件を満足するエポキシ樹脂によってエポキシ樹脂変性物を構成することで、インクジェット用インクとしての吐出の安定性や、印刷体としたときにおける密着性、耐熱性といったインク特性が特に良好となる。
【0018】
<第一級モノアミン>
エポキシ樹脂変性物を構成する第一級モノアミンは、第一級アミン、すなわち、アンモニアの水素原子が1つの炭化水素残基Rで置換されたもの(R−NH
2)であり、かつ、モノアミン、すなわち、1分子内にアミノ基、イミノ基などの窒素を1個のみ有するものである。要するに、一分子内にNH
2基を1つだけ有するものである。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂変性物は、第一級モノアミンで変性されているために、プリンタ内での長期循環や、加熱処理環境への対応が可能となっている。
第一級モノアミンの種類によってインク安定性の制御をすることが可能であり、インクジェットプリンタ内の温度、保存温度適性、実際の後処理の工程などを考慮して、適宜決定すれば良いが、一応の基準を示せば、以下の通りである。
【0020】
上記第一級モノアミンは、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミンのいずれでも良いが、脂肪族アミンであることが好ましい。また、本発明の効果を害しない範囲であれば、炭化水素残基Rの炭化水素鎖上に置換基を有するものや炭化水素鎖内に不飽和結合やエーテル結合などを含むものであっても良い(ただし、モノアミンであることが必要であるため、炭化水素鎖上にアミノ基やイミノ基などを含むことはない)。
【0021】
第一級モノアミンとして脂肪族アミンを選択する場合、その脂肪族炭化水素残基Rは、直鎖・分岐のいずれでも良いが、直鎖であることが好ましい。
【0022】
また、第一級モノアミンの炭化水素残基Rの炭素数は5〜10であることが好ましい。
【0023】
以上から、本発明の第一級モノアミンとしては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミンが好ましく挙げられる。これらのアミンは、エポキシ樹脂変性物の製造容易性(アミンとしての取扱い易さ(臭い、揮発性)、エポキシ樹脂との反応の制御の容易性など)に優れ、また、これらのアミンによって構成されるエポキシ樹脂変性物は安定性、耐熱性にも優れたものとなる。
【0024】
特に、取扱い時の臭い、揮発性及びエポキシ樹脂変性物としての安定性の観点から、炭素数8付近のアミンを主成分として選択することが好ましい。そして、ヘキシルアミンは臭気があり、取扱いも難しい面があり、また、デシルアミンはエポキシ樹脂変性物を得る上で合成の反応が遅いなどの難点があるので、これらの難点がなく、工業的にも入手のしやすいオクチルアミンが最も好ましい選択となる。
【0025】
また、被印刷物の基材が塗工されているものであるような場合でも、それが、熱硬化性材料で予め塗装されているものでは、その硬化条件を逸脱しない範疇の設定が必要となるが、このような調整においても、炭素数8付近のアミンを使用するものでは、温度設定の際に基材の熱硬化性材料の硬化条件を利用することが容易にできる。したがって、下地(塗工剤)を熱硬化させるときの条件でこの印字物も硬化させることができる。
【0026】
<アルキルグリシジルエーテル>
本発明に適用されるエポキシ樹脂変性物は、上記アミン付加重合物であっても良いが、上記アミン付加重合物にさらにアルキルグリシジルエーテルが付加した構造を備えたアルキルグリシジルエーテル付加物であることがより好ましい。アルキルグリシジルエーテルの付加により、より密着性に優れたインクを得させるという利点がある。
【0027】
アルキルグリシジルエーテルとしては、炭素数2〜7のアルキル基を有するものが好ましい。具体的には、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテルなどが好ましく例示でき、なかでも、ブチルグリシジルエーテルは、取扱いが優位である。
【0028】
このように、アルキルグリシジルエーテルをもエポキシ樹脂変性物の構成成分とする場合、エポキシ樹脂とアルキルグリシジルエーテルとの構成比率が、エポキシ基の当量比で、エポキシ樹脂:アルキルグリシジルエーテル=1:0.1〜0.5であることが好ましい。アルキルグリシジルエーテルの構成比率がこの範囲のエポキシ樹脂変性物は、合成が容易(付加反応性が良い)であり、インクの粘度調整、溶解性などの観点からも好ましいものとなる。
【0029】
<エポキシ樹脂変性物の製造>
以下、上記エポキシ樹脂変性物(アミン付加重合物及び/又はアルキルグリシジルエーテル付加物)の製造について詳述するが、本発明のエポキシ樹脂変性物は、下記方法で得られるものに限定されるものではない。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂変性物のうち、アミン付加重合物はエポキシ樹脂と第一級モノアミンとから構成され、例えば、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとを、下記のようにして付加重合させることにより製造することができる。
すなわち、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとの付加重合は、例えば、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとを、常温(20±15℃程度)〜50℃、好ましくは40〜50℃で、30〜90分反応させたのち、さらに、反応温度を上げて、60〜100℃、好ましくは65〜80℃で、5〜20時間反応させて行うことが望ましい。
エポキシ樹脂(のエポキシ基)への第一級モノアミン(の1つの活性水素)の付加は、反応性に富んでいるため、熱を加えなくても反応が起こり易い。一方、エポキシ樹脂に第一級アミンが付加して生成する第二級アミン(における未付加の活性水素)は、エポキシ樹脂への反応性がやや低くなる。したがって、上述のように、主としてエポキシ樹脂への第一級モノアミンの付加が起こる初期の段階では比較的低温で反応を行い、他方、生成した第二級アミンのエポキシ樹脂への付加が起こる段階では昇温するのが望ましい。
第一級モノアミンの2つの活性水素がエポキシ樹脂に付加することで、エポキシ樹脂間が連結され、高分子量化された直鎖上のアミン付加重合物が得られる。
【0031】
また、本発明のエポキシ樹脂変性物のうち、アルキルグリシジルエーテル付加物は、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとアルキルグリシジルエーテルとから構成され、例えば、上記アミン付加重合物に、下記のようにしてアルキルグリシジルエーテルを付加させることにより製造することができる。
すなわち、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとの付加重合反応の後、続けてアルキルグリシジルエーテルを添加し、さらに付加反応を行えばよい。
アミン付加重合物とアルキルグリシジルエーテルとの付加反応は、例えば、60〜100℃、好ましくは65〜80℃で、1〜20時間反応させて行うことが望ましい。
この付加反応は、アミン付加重合物における未反応の活性水素にアルキルグリシジルエーテルが付加する反応である。
【0032】
上記アミン付加重合反応やアルキルグリシジルエーテル付加反応を行う際には、通常、エポキシ基と活性水素の当量が等しくなるようにする。
すなわち、エポキシ樹脂変性物としてアミン付加重合物を製造する場合には、エポキシ樹脂のエポキシ基と第一級モノアミンの活性水素の当量が等しくなるようにする。
そして、エポキシ樹脂変性物としてアルキルグリシジルエーテル付加物を製造する場合には、エポキシ樹脂及びアルキルグリシジルエーテルのエポキシ基の合計当量と第一級モノアミンの活性水素の当量が等しくなるようにする。この場合、エポキシ樹脂と第一級モノアミンとの付加重合反応の際には活性水素の当量が過剰となるように配合し、アルキルグリシジルエーテル付加反応の際には過剰分の活性水素の当量とアルキルグリシジルエーテルのエポキシ基の当量とが等しくなるように調整すれば良い。
アルキルグリシジルエーテル付加物を製造する場合のエポキシ樹脂とアルキルグリシジルエーテルの使用割合は、得られるエポキシ樹脂変性物におけるエポキシ樹脂とアルキルグリシジルエーテルとの構成比率と概ね一致するので、上述した構成比率の好ましい範囲と同様、エポキシ基の当量比で、エポキシ樹脂:アルキルグリシジルエーテル=1:0.1〜0.5であることが好ましい。
【0033】
以上のような条件でアミン付加重合反応やアルキルグリシジルエーテル付加反応を行えば、アミン付加重合物、アルキルグリシジルエーテル付加物として、重量平均分子量が15000〜30000の分子量領域のものを安定的に合成でき、糸引きなどの問題が生じ難く、また、経時での自然反応による増粘やゲル化といった問題も生じ難い。したがって、インクジェット用インクとしての利用に極めて適したものとなる。
【0034】
なお、上述した反応を行う際の溶剤としては、特に限定されるものではない。反応の際の溶剤を、インクジェット用インクの溶剤の一成分としてそのまま利用することもできる。特に、酢酸エチル、エタノールやこれらの混合溶剤など、沸点を60〜100℃に有するものが好ましい。
【0035】
上に説明した製造方法では、アルキルグリシジルエーテル付加物を製造する場合、エポキシ樹脂に第一級モノアミンを添加して付加重合させ、その後にアルキルグリシジルエーテルを添加してこれを付加させるようにしている。
しかし、エポキシ樹脂、第一級モノアミン、アルキルグリシジルエーテルの混合系でアミン付加重合とアルキルグリシジルエーテル付加反応を同時に行うようにしても良い。ただし、この場合、アミン付加重合とアルキルグリシジルエーテル付加反応とが競合して、両反応の制御が困難であるので、上述のように段階的に反応を行う方が簡便であり、好ましい。
【0036】
〔その他の樹脂成分〕
本発明においては、密着性向上や、顔料の分散向上などを狙って、エポキシ樹脂変性物とともに、その他の樹脂成分も併用することができる。このようなその他の樹脂成分としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アミン系樹脂、ブチラール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂などを用いることができる。これらの樹脂成分の併用により、各種の被印刷物への密着性をさらに発揮することができる。
【0037】
上記その他の樹脂成分は、インクの溶剤に対して良好な溶解性を有するものであることが好ましい。しかしながら、印字後及び乾燥後の状態においては、プリンタ内部での再溶解性とは逆の性質である不溶解性(耐溶剤性)も必要とされるので、上記エポキシ樹脂変性物との適宜の組み合わせにより、また、適度な加熱により、耐溶剤性を調整することが望ましい。
【0038】
上記その他の樹脂成分は、着色剤として染料を用いるときには、染料を十分に溶解し相溶して定着性を発揮させることができる。また、顔料を用いる場合には、顔料の定着性ばかりでなく、顔料を分散させる分散剤としての役割を果たす場合もある。
【0039】
〔着色剤〕
本発明にかかるインクは、従来のインクジェット用インクと同様、通常、着色剤が使用される。
着色剤としては、顔料、染料のいずれを用いても良い。このうち、顔料については、無機顔料と有機顔料に大別できる。
【0040】
無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化鉄、コバルトブルーなどが好適に挙げられる。
有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系、チオインジゴ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、その他の顔料として、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット、ジケトピロロピロールなどが挙げられる。
【0041】
上に例示した顔料の中でも、無機顔料や、キナクリドン系、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、縮合アゾ系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料は、耐光性が良好なものであるので、耐光性を必要とする用途において特に好ましい。
また、酸化チタンについては、顔料の表面をアルミ系、亜鉛系又はシリカ系の表面処理剤で処理したものが、分散性、沈降性防止、経時での増粘、凝集防止などに関して、エポキシ樹脂変性物その他の樹脂成分との安定性に優れる点で、特に好ましい。
【0042】
上記した顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、C.I.ピグメントイエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,109,110,117,125,128,129,137,138,139,147,148,151,153,154,181,166,168,185,C.I.ピグメントオレンジ16,36,43,51,55,59,61、C.I.ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,123,149,168,177,180,192,202,206,215,216,217,220,223,224,226,227,228,238,240、C.I.ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、C.I.ピグメントブルー15,15:1,15:3,15:4,15:6,22,60,64、C.I.ピグメントグリーン7,36、C.I.ピグメントブラウン23,25,26などを例示できる。
【0043】
これらの顔料は、粒度分布計で計測した平均粒径(累積分布のメジアン径(D50))が10〜300nmの範囲内であって最大粒径が1μm以下となるように分散させることが好ましい。平均粒径が300nmよりも大きいとインクの分散の安定性が悪く、沈降物の発生が多くなるおそれがある。また、最大粒径が1μmを超えると、顔料の沈降が著しくなり、印字の安定性を損なうおそれがある。一方、平均粒径が10nm未満の場合は、特段の問題があるわけではないが、粒径が細かいため、耐光性に関して劣化を生じ易くなるおそれがある。
このように、本発明に用いる顔料は微細な顔料粒子が好ましいが、インクジェット用インクとするには、分散剤とともに分散機で高速撹拌を行って、安定な分散液にしておくことが好ましい。
【0044】
また、本発明では、染料を用いることも可能である。かかる染料としては、溶剤に溶解し得るものであれば特に限定されない。
耐溶剤性の観点からは、印刷体乾燥後の接触対象と想定される溶剤に対して不溶解性のものを用いることが好ましい。適用場面に応じて異なるが、例えば、アルコールとの接触が想定される場合には、アルコールに不溶解性のものとして、カラーインデックスナンバーで、ソルベントイエロー2,14,16,19,21,34,48,56,79,88,89,93,95,98,133,137,147、ソルベントオレンジ5,6,45,60,63、ソルベントレッド1,3,7,8,9,18,23,24,27,49,83,100,111,122,125,130,132,135,195,202,212、ソルベントブルー2,3,4,5,7,18,25,26,35,36,37,38,43,44,45,47,48,51,58,59,59:1,63,64,67,68,69,70,78,79,83,94,97,98,99,100,101,102,104,105,111,112,122,124,128,129,132,136,137,138,139,143、ソルベントグリーン5,7,14,15,20,35,66,122,125,131、ソルベントブラック1,3,6,22,27,28,29、ソルベントヴァイオレット13、ソルベントブラウン1,53などが挙げられ、これらを単独ないし2種以上混合して用いることができる。
また、塩基性の油性染料を用いることも可能である。このような塩基性の油性染料としては、例えばC.I.Basic Violet3、C.I.Basic Red1,8、C.I.Basic Black2などが挙げられる。
【0045】
〔溶剤〕
本発明にかかるインクにおいて、溶剤は、従来のインクジェット用インクと同様のものを用いることができる。
本発明の必須成分であるエポキシ樹脂変性物は、ケトン系溶剤への溶解性、安定性が高いため、ケトン系溶剤を主溶剤として用いることが好ましい。
【0046】
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどが好ましく挙げられる。なかでも、メチルエチルケトンは、樹脂類の溶解性、顔料の分散性、導電性や、インクの乾燥性から、連続式インクジェットプリンタ用のインクに好ましく用いることができる。
また、ケトン系溶剤以外の溶剤として、例えば、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジオキサン、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液体ポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、低分子量ポリプロピレングリコール、シクロペンタノンなどのアルコール系もしくはエーテル系の溶剤などを単独で又は複数種併用しても良い。
【0047】
〔その他の添加剤〕
本発明にかかるインクは、インクジェットプリンタ、特に荷電量制御式の連続式インクジェットプリンタに好適に用いることができる。この場合は、プリンタから吐出されたインク滴の電界による偏向量を調整するために、通常、導電剤が用いられる。
このような導電剤としては、例えば、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、硝酸リチウム、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラフェニルホウ素4級アンモニウム塩などが好適に挙げられる。これらのなかでも、エポキシ樹脂変性物との相溶性の観点からインクの安定性を評価すると、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラフェニルホウ素4級アンモニウムなどの有機系の導電剤が、長期的に安定した特性を示すので好ましい。
【0048】
本発明の必須成分であるエポキシ樹脂変性物は、密着性とともに分散性を良好とする能力を備えているが、さらに顔料の分散性の向上を図るために、分散剤を用いても構わない。
このような顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩、特殊芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテートなどが挙げられる。
【0049】
顔料分散剤の市販品としては、BYK Chemie社製のAnti−Terra−U,Anti−Terra−203/204,Disperbyk−101,107,110,130,161,162,163,164,165,166,170,400,Bykumen,BYK−P104,P105,P104S,240S,Lactimon、Efka CHEMICALS社製のエフカ44,46,47,48,49,54,63,64,65,66,71,701,764,766,エフカポリマー100,150,400,401,402,403,450,451,452,453,745、共栄社化学社製のフローレンTG−710,フローノンSH−290,SP−1000,ポリフローNo.50E,No.300、味の素ファインテック社製のアジスパーPB821、楠本化成社製のディスパロンKS−860,873SN,874,#2150,#7004、花王社製のデモールRN,N,MS,C,SN−B,EP,ホモゲノールL−18,エマルゲン920,930,931,935,950,985,アセタミン24,86、ルーブリゾール社製のSolsperse5000,7000,13240,13940,17000,22000,24000,28000,32000,38500、日光ケミカル社製のニッコールT106,MYS−IEX,Hexagline 4a−Uなどを例示することができる。
【0050】
さらに、ドットの形成への調整剤として、シリコン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を使用することも可能である。なお、酸化チタンや酸化鉄のように比重の大きい無機系顔料を用いる場合は、沈降に伴うハードケーキ化を防止するため、不飽和カルボン酸系のハードケーキ防止剤を用いることが可能である。
【0051】
〔インクの配合〕
インク総重量に対する前記エポキシ樹脂変性物の含有割合は、1〜20重量%が好ましく、5〜12重量%がより好ましい。エポキシ樹脂変性物が20重量%を超えると、インク自体の安定性が不十分となる(例えば、粘度の増加、凝集、ゲル化などを生じる)おそれがある。一方、エポキシ樹脂変性物が1重量%未満の場合は、印刷体の耐溶剤性や皮膜強度が不十分となるおそれがある。
【0052】
インク総重量に対する着色剤の含有割合は、0.5〜20重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがより好ましい。このような範囲であれば、画像の濃度が十分なものとなり、記録後の耐光性といった効果も十分に発揮される。
【0053】
インク総重量に対する溶剤の含有割合は、66〜97重量%であることが好ましい。特に、ケトン系溶剤を主たる溶剤として含有することが好ましく、この場合、インク総重量に対するケトン系溶剤の含有割合は、67〜97重量%であることが好ましい。このような範囲で溶剤を用いることで、所望のインク安定性を確保しつつ、印刷体の所望の効果も十分に発揮させることができる。
【0054】
上記した導電剤を配合する場合、インク総重量に対する含有割合は、0.3〜2.5重量%であることが好ましい。導電剤の含有率が0.3重量%未満では、十分な導電性が得られず、プリンタでの偏向を安定に維持できなくなるおそれがある。他方で、導電剤の含有率が2.5重量%を超えると、他成分との相溶性を十分保てなくなるとともに経時での安定性が低下し、プリンタでの不安定な印字状態を招くおそれがある。
【0055】
なお、インクの調製においては、インクの配合成分をひとつの容器内に入れ一括して分散させることも可能であるが、顔料、分散剤、樹脂及び溶剤の一部だけを用いて顔料の分散を濃縮系として行い、その分散後にエポキシ樹脂変性物及び導電剤を加えて混合、溶解させるように調製することも、安定な状態のインクを得るうえで好ましい方法の1つである。
【0056】
また、インクの粘度は、インクジェットプリンタでの適切な印字可能領域を広げるため、20℃における粘度が3.2〜4.8mPa・sの範囲となるように調整することが好ましい。インクの粘度(20℃)が3.2mPa・s未満では、被印刷物表面でのインクのドットの形成が不良となって、形成された印刷体の濃度(印字濃度)が薄くなるおそれがある。一方、インクの粘度が4.8mPa・sを越えると、インク滴の吐出不良や印字後の乾燥不良の問題を生じるおそれがある。
【0057】
〔インクの使用〕
本発明のインクは、インクジェット用インクとして、種々の被印刷物への印刷に適用することができる。
被印刷物としては、特に限定するわけではないが、例えば、金属、ガラス、プラスチックスや、これらの材料の表面に塗装がなされた塗工物などが挙げられる。特に、金属の表面に印刷を施すためのインクとして好適である。
このような被印刷物に対し、その表面に、インクジェットプリンタによりインクのインク滴を噴きつけて、例えば、文字やバーコード、データマトリックスコードなどの種々のコードの印字(印刷体)を形成することができる(印刷工程)。
【0058】
本発明のインクは、必須成分であるエポキシ樹脂変性物が、印字されたのちの乾燥の工程やその後の加熱工程などにおいて熱を付与されたときに、印字したインクの皮膜をさらに強固にする働きを有する。
特に、本発明の印刷方法のように、上記印刷工程の後に、印刷体を100〜250℃で0.5〜60分加熱する加熱工程を備えるようにしていることが好ましい。加熱温度は、150〜200℃であることがより好ましく、加熱時間は0.5〜30分であることがより好ましい。
このような加熱条件で印刷体の加熱を行うことで、耐転着性、密着性、耐熱性を十分に発揮させることができるほか、耐溶剤性、界面活性剤水溶液による洗浄耐性などや、バーコードやデータマトリックスなどを読み取る読み取り機での読み取り率の正確性などの諸性能なども十分に発揮させることができる。
【0059】
なお、上記加熱条件での加熱工程を備える印刷方法においては、被印刷物は、耐熱温度が100℃以上のものが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて、本発明にかかるインク及び印刷方法について詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を「部」、「重量%」を「%」と表記する。
【0061】
〔エポキシ樹脂変性物の合成例〕
<合成例1>
重量平均分子量950、エポキシ当量495g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂423部を酢酸エチル750部に常温で溶解させた。この樹脂溶液を攪拌しながら、ペンチルアミン43.6部を穏やかに滴下し、液温を40〜50℃に昇温して1時間反応し、さらに液温を70〜80℃に昇温して10時間の反応を行った。その後、ブチルグリシジルエーテル18.2部を滴下しながら5時間反応を続け、合成例1にかかるエポキシ樹脂変性物を得た。
なお、合成の過程において、酢酸エチルの一部蒸発を行い、エポキシ樹脂変性物の固形分として、45%の溶液に調整した。
【0062】
<合成例2〜10>
配合を下記表1に記載のとおりに変更したこと以外は合成例1と同様にして、合成例2〜10にかかるエポキシ樹脂変性物を得た。
ただし、合成例6にかかるエポキシ樹脂変性物は、アミン付加重合物であり、アミンの付加重合反応の終了後、アルキルグリシジルエーテルの付加反応は行っていない。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、表1中、エポキシ樹脂(Mw=1250)は、重量平均分子量1250、エポキシ当量625g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、エポキシ樹脂(Mw=1300)は、重量平均分子量1300、エポキシ当量675g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0065】
〔インクの製造〕
<実施例1>
ソルベントブラック27 5部及びアクリル樹脂「ダイヤナール52」(商品名、三菱レイヨン社製)1部をメチルエチルケトン(以下、「MEK」と略す)73.6部に溶解させた。ここに、合成例1のエポキシ樹脂変性物(固形分45%)20部を混合して溶解させ、さらに、テトラフェニルホウ素4級アンモニウム0.4部を加えて溶解させた。
得られた溶液を目開き1μmのフィルターで濾過し、実施例1にかかるインクジェット用インクを調製した。
【0066】
<実施例2〜
9、参考例1>
配合を下記表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜
9、参考例1のインクジェット用インクを調製した。
【0067】
<比較例1,2>
配合を下記表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1,2のインクジェット用インクを調製した。
【0068】
<実施例
10>
ブチラール樹脂「エスレックBL−1」(商品名、積水化学社製)1.2部、ソルスパーズ24000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.5部、ソルスパーズ5000(分散剤:ルーブリゾール社製)0.2部、及び、合成例7のエポキシ樹脂変性物(固形分45%)18部を、MEK74.9部に溶解し、この樹脂溶液にカーボンブラック(REGAL330R:キャボット社製)4.7部を加えて攪拌混合したのち、横型サンドミルに供してカーボンブラックを分散させた。この分散液に、テトラフェニルホウ素4級アンモニウム0.5部を加えて、高速攪拌混合を行った。その後、混合分散液を目開き1.0μmのフィルターで濾過して、実施例
10にかかるインクジェットプリンタ用インクを得た。
【0069】
<実施例
11,
12>
配合を下記表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例
10と同様にして、実施例
11,
12のインクジェット用インクを調製した。
【0070】
<比較例3,4>
配合を下記表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例
10と同様にして、比較例3,4のインクジェット用インクを調製した。
【0071】
【表2】
【0072】
なお、表2中、各エポキシ樹脂は表1で用いた非変性エポキシ樹脂であり、ロジン変性マレイン酸樹脂は「ベッカサイトJ−896」(商品名、大日本インキ社製)であり、塩酢ビ樹脂は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂「ソルバインCL」(商品名、日信化学社製)である。
【0073】
〔インクの性能評価〕
以下、各実施例、
参考例、比較例のインクについて、インク調製時、印刷体形成時の各段階での諸性能及び印刷体の諸性能について評価を行った。
【0074】
<インク調製時>
(分散性)
顔料(カーボンブラック)を用いた実施例
10〜
12、比較例3,4について、樹脂溶液に顔料を添加して横型サンドミルにて分散したときに、ダマや粗粒の残留が少なく流動性のある状態であるか否かを評価した。平均粒径を含めた分散状態が非常に良好であったものを「◎」とし、ドローダウン塗膜の表面状態や分散時の流動性が良かったものを「○」とし、分散しなかったものを「×」とした。
(平均粒径)
上記実施例
10〜
12、比較例3,4における各分散液について、レーザー検出方式の粒度分布計(日機装社製のUPA−150)で測定したD50の粒径(nm)で示した。
(粘度)
EH型粘度計を用いて20℃で測定した。
(導電率)
導電率計を用いて20℃で測定した。連続式インクジェットプリンタにおいて、正確なドット偏向制御を行う上では、導電率が0.5mS/cm以上であることが好ましい。
(塩素含有量)
BS EN14582に準拠して、イオンクロマトグラフ法により測定した。
【0075】
<印刷体形成時>
(インクの保存安定性)
インクを密封容器内に封入して45℃の条件下で保管し、2ケ月経過後にインクの外観や粘度変化を確認した。5%未満の増粘のものを「◎」とし、外観及び粘度が所定以上に変化(10%以上の増粘)しなかったものを「○」とし、所定以上に変化したものを「×」とした。
(インクの吐出安定性)
連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製のCCS3000P)を用いて、実施例、
参考例、比較例の各インクのインク滴を、ステンレス板表面に噴きつけて印字を行い、形成された印刷体の状態を目視評価した。また、連続印字中のノズルの噴射状態を、得られた印刷体の状態に応じて併せて評価した。これらの評価として、各印字ドットが所定位置に正確に連続印字されていたものを「○」とし、連続印字を行ったにも拘わらず途中にドットの欠損を生じたり、各印字ドットが所定位置に印字されたりしなかったものを「×」とした。
さらに、印字した2次元バーコードを読み取り機により読み取らせて読み取りの正確性を確認した。読み取りが正常であったもの(95%以上)については何%以上であるかを表示し、読み取りが異常であったものは「×」とした。
(再溶解性)
連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製のCCS3000P)を用いて、実施例、
参考例、比較例の各インクのインク滴を、ステンレス板表面に噴きつけて印字を行うに際し、連続式インクジェットプリンタのノズルプレートにインクをつけて風乾し、翌日、乾燥インクに別のインクを振り掛けて、乾燥インクの溶解を確認した。溶解性が良かったものを「○」とし、溶解性は認められるが不十分であったもの(溶解の時間が長かったものや溶け残りが微量にあったもの)を「△」とし、溶解性が不良であったものを「×」とした。
【0076】
<印刷体加熱処理後>
実施例1〜
12、
参考例1、比較例1〜3の各インクについて、インクを被印刷物表面に連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の型式CCS300)を用いて噴きつけ、格子状の複数のドットからなるデータマトリックス(印刷体)を形成し、データマトリックスが形成された被印刷物を100℃のオーブン中で15分間加熱した。加熱処理後の被印刷物を、以下の各種物性試験に供した。
(耐転着性)
ほぼベタ状態となるようにドット密度を高くして形成した印刷面を形成し、この面と、金属板(ステンレス板)、または、この面と同様に印刷した印刷面とに100kg/cm
2の重量を掛けて40℃90%RHで2週間保管し、印刷面の他面への転着が生じるかの有無を確認した。接触面の変化が観察されない非常にきれいなものを「◎」とし、転着のないものを「○」とし、転着があったものを「×」とした。被印刷物としてはステンレス板を用いた。
(密着性)
データマトリックスを印刷した被印刷物の表面にセロハンテープを貼り付け、そのセロハンテープを引き剥がしたときに、データマトリックスを構成している印字ドット(印刷体)の剥離が有るか否かを評価した。印字ドット印刷体の剥離がなかったものを「○」とし、微量の剥離があったものを「△」とし、剥離が多くあったものを「×」とした。被印刷物としてはステンレス、アルミニウム又は黄銅板を用いた。
また、ほぼベタ状態となるようにドット密度を高くして形成した印刷体を形成し、この面が外側となるように、90度の折り曲げを行ったとき、及び、180度の折り曲げを行ったときの剥離や割れの有無の確認を行った。剥離や割れのないものを「○」とし、剥離や割れのあったものを「×」とした。被印刷物としてはステンレス板を用いた。
(耐アルコール性)
印刷体を熱処理した後の被印刷物の表面を、エタノールを浸した綿棒で10回擦り、被印刷物表面における印字ドットの溶解や剥離を確認した。剥落がなかったものを「○」とし、剥落があったものを「×」とした。なお、アルコールへ浸漬させた後の2次元バーコードの読み取りテストを行い、読み取り確認スピードが速かったものはさらに「◎」とした。被印刷物としてはガラス板を用いた。
(洗浄耐性)
2次元バーコード又はデータマトリックスを印刷した被印刷物を0.25%ノニオン活性剤水溶液中に浸漬して、15分間の超音波照射による洗浄テストを行い、印刷した2次元バーコード又はデータマトリックスを読み取り機で読み取れるか否かを評価した。読み取り異常がなかったものを「○」とし、読み取り異常があったものを「×」とした。被印刷物としてはガラス板を用いた。
(耐熱性)
印字後の印刷体を熱処理させる条件として、150℃30分間での印字劣化、密着性劣化をそれぞれ確認した。印字劣化、密着性劣化のないものを「○」とし、印字劣化、密着性劣化のあるものを「×」とした。被印刷物としてはステンレス板を用いた。
また、100℃15分の熱処理後の面にエタノールを塗布して、熱処理した印刷体が溶解するか否かの有無で確認した(耐アルコール性)。溶解しなかったものを「○」とし、溶解のあったものを「×」とした。被印刷物としてはステンレス板を用いた。
【0077】
〔インクの性能評価の結果と考察〕
上記性能評価の結果を表3にまとめた。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に見るとおり、実施例1〜
12、参考例1のインクは、インク安定性(インクの保存安定性、吐出安定性)に優れていながら、耐転着性、密着性、耐熱性に優れていることが分かった。
さらに、耐アルコール性、洗浄耐性にも優れており、また、着色剤として顔料を用いた実施例
10〜
12では、分散性も良好であった。
これに対し、非変性のエポキシ樹脂を用いた比較例1〜3や、他の樹脂を用いた比較例4ではインクの吐出安定性が悪かった。比較例1〜3についてはインクの保存安定性も悪く、再溶解性も不十分であった。
また、印刷体の性能としても、耐転着性が悪いとともに、実施例ほどの密着性が発揮されないために、黄銅板への密着性の評価が悪く、折り曲げ試験に耐え得るものでもなかった。比較例3、4については、耐熱性の評価も悪く、インク調製時の顔料分散性も悪かった。さらに、比較例3については、洗浄耐性も悪かった。
【0080】
さらに、実施例1〜
12、参考例1のインクは、比較例4のごとき塩化ビニル樹脂や酢酸ビニル樹脂を含有している従来のインクと異なり、インク中の塩素がいずれも900ppmを大幅に下回り、「ほとんど検出せず」という結果も得ている。
【0081】
〔印刷方法についての実証〕
本発明のインクを実施するための印刷方法として、所定の加熱工程を備える本発明の印刷方法が有利であることの実証を行った。
【0082】
<耐転着性>
上記実施例1のインクについて、インクをステンレス板表面に連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の型式CCS300)を用いて噴きつけ、格子状の複数のドットからなるデータマトリックス(印刷体)を形成したのち、100℃のオーブン中で2分間加熱したものと、加熱しなかったものとを準備し、それぞれについて、印刷体形成面と金属板(ステンレス板)とに100kg/cm
2の重量を掛けて40℃90%RHで2週間保管し、印刷面の他面への転着が生じるかの有無を確認した。
所定の加熱処理を行った場合の印刷面及び金属板の表面(印刷面の他面)を撮影した写真を
図1(a)に、加熱処理を行わなかった場合の印刷面及び金属板の表面(印刷面の他面)を撮影した写真を
図1(b)に示す。
その結果、所定の加熱処理を行った場合には転写が認められなかったのに対して(
図1(a))、加熱処理を行わなかった場合には一部転写が認められた(
図1(b))。
【0083】
<密着性>
上記実施例1のインクについて、インクをアルミニウム板表面に連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の型式CCS300)を用いて噴きつけて印刷体を形成したのち、150℃のオーブン中で1分間加熱したものと、加熱しなかったものとを準備し、それぞれについて、印刷面にカッターで碁盤目をつけ、セロハンテープによる剥離を試みた。
所定の加熱処理を行ったアルミニウム板の表面を撮影した写真を
図2(a)に、加熱処理を行わなかったアルミニウム板の表面を撮影した写真を
図2(b)に示す。
その結果、所定の加熱処理を行ったものでは良好な密着性が認められたが(
図2(a))、加熱処理を行わなかったものでも良好な密着性が認められ(
図2(b))、密着性については、加熱処理の有無に関わらず良好であることが分かった。