特許第5756798号(P5756798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5756798メチル(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸塩
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756798
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】メチル(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸塩
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20150709BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20150709BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   C07D487/04 144
   C07D487/04CSP
   A61K31/4985
   A61P3/10
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-512185(P2012-512185)
(86)(22)【出願日】2010年4月29日
(65)【公表番号】特表2012-528082(P2012-528082A)
(43)【公表日】2012年11月12日
(86)【国際出願番号】CN2010072319
(87)【国際公開番号】WO2010135944
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2013年4月11日
(31)【優先権主張番号】200910145237.8
(32)【優先日】2009年5月27日
(33)【優先権主張国】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【弁理士】
【氏名又は名称】謝 卓峰
(72)【発明者】
【氏名】ユアン・カイホン
(72)【発明者】
【氏名】マ・シュチン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・リン
(72)【発明者】
【氏名】リュー・ホワウェン
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508735(JP,A)
【文献】 特表2013−521223(JP,A)
【文献】 特表2012−519193(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101417999(CN,A)
【文献】 特表2006−516268(JP,A)
【文献】 特表2004−536115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,A61K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルリン酸塩。
【請求項2】
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルをリン酸で造塩することを含んでなる、請求項に記載の塩の製造方法。
【請求項3】
抗糖尿病薬の製造における、請求項に記載のリン酸塩の使用。
【請求項4】
治療的有効量の請求項に記載のリン酸塩及び製薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項5】
抗糖尿病薬の製造における、請求項4に記載の医薬組成物の使用。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチル(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸の製薬学的に許容される塩、その製造方法及び抗糖尿病薬の製造のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
WHO(世界保健機関)の関連データによると、糖尿病は、腫瘍や循環器病とともにヒトの健康を脅かす3大疾病のひとつであり、糖尿病の罹患率、身体障害率及び死亡率、並びに糖尿病患者の全般的な健康状態は、非感染性疾患においてすでに第3位にランクされていることが示されている。糖尿病は通常1型と2型に分類され、2億4千万人を上回る糖尿病患者がいる。この90%は2型糖尿病を患っており、毎年1%の増加を示している。従って2型糖尿病は、糖尿病医薬品マーケットの主要な新成長点になる。中国における糖尿病発生率は約5%であり、この患者数は世界において第2位にランクされ、インドに次ぐものである。市場には数多くの抗糖尿病薬があり、代表的なものとしてインスリン注射、メトホルミン、ロシグリタゾン及びピオグリタゾンがある。しかしながら2型糖尿病患者のHbAlcレベルを、単独で長期に目標範囲内に維持することのできる薬剤はない。併用する場合であっても、3〜4年後には薬物効果は年々低下する。副作用は多くの血糖降下薬の問題のひとつであり、臨床医は致死的な低血糖を最も懸念する。次に、スルホニル尿素、α−グリコシダーゼ阻害剤及びチアゾリジンジオンなどの多くの経口血糖降下薬は、すべてが患者の体重増加を誘導する可能性があり、いくつかの薬物は循環器疾患を誘発する可能性もある。従って、特徴のある新たな作用機序や高い安全性と有効性を有する新型血糖降下薬の開発は、科学者が速やかに完了すべき重要な課題である。
【0003】
新たな方法を絶え間なく探索する過程で、2型糖尿病の病態と生理においては内分泌性ホルモンが重要な役割を果たすことが見出された。ジペプチジルぺプチダーゼ−IV(DPP-IV)は糖尿病に関連する重要な酵素であり、その作用を阻害して2型糖尿病を治療することは有望な新たな方法である。DPP-IV阻害剤はインスリン分泌を間接的に促進することができ、その作用は、DPP-IVを阻害することにより、インクレチンホルモン、グルカゴン様ペプチド−1(GLP-1)及びグルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)などの内分泌性ホルモンを安定化することで生み出される。
【0004】
GLP-1は、食後にグルカゴン始原遺伝子によって発現される産物であり、主に腸管粘膜L細胞により分泌される。GLP-1は、膵臓のβ細胞によるインスリン分泌を促進することができ、血糖の安定性に需要な役割を果たしている。GLP-1は下記の生理作用を有することが実験により証明されている:すなわち、グルコース依存的に膵β細胞に作用する;インスリン遺伝子の転写を促進する;インスリンの生合成と分泌を増加させる;β細胞の増殖と分化を促進する;β細胞のアポトーシスを阻害し膵β細胞数を増加させる;グルカゴン分泌を阻害する;食欲と食物摂取を抑制する;胃内容物の排出を遅延させるなどである。これらの作用のすべては、食物摂取後の血糖を低下させ、血糖を一定レベルに維持することに役立つ。さらに、GLP-1は重篤な底血糖の危険をもたらすことはない。GLP-1は複数の機序により、2型糖尿病の動物モデルや患者の血糖をうまく制御した。しかしながらGLP-1は、DPP-IVによる迅速な分解のために生物活性を失う可能性があり、GLP-1の半減期は2分より短く、これがGLP-1の臨床的な使用を完全に限定している。いくつかの研究によりDPP-IV阻害剤は、内因性GLP-1や外来のGLP-1でさえもDPP-IVによる不活化から完全に保護し、活性化GLP-1レベルを改善し、かつGLP-1代謝産物の拮抗作用を減少させることができる。さらにDPP-IV阻害剤は、膵β細胞の再生を促進し、また耐糖能やインスリン感受性を改善することにより、糖尿病の発生を遅らせることもできる。
【0005】
ジペプチジルぺプチダーゼ−IV(DPP-IV)阻害剤は、2型糖尿病患者の治療と血糖コントロールの改善を目的として開発されている新しい種類の薬剤である。2型糖尿病の治療に対するDPP-IV阻害剤の適用に関する報告として、下記の公表文献を参照することができる。(1)H.-U.
Demuth他、「2型糖尿病−ジペプチジルぺプチダーゼ−IV阻害剤による治療」、Biochim.
Biophvs. Acta. 1751 : 33-44 (2005) 、及び(2)K.
Augustyns他、「プロリン特異的ジペプチジルぺプチダーゼ阻害剤:2型糖尿病の治療への新たなアプローチとしてのDPP4阻害剤」、Expert
Opin. Ther. Patents, 15 : 1387-1407 (2005)。
【0006】
現在のところ、MK-0431を含むいくつかのDPP-IV阻害剤が開示されている(米国特許第5462928号明細書(特許文献1)、米国特許第5543396号明細書(特許文献2)、国際公開第95/15309号パンフレット(特許文献3)、国際公開第2003/004498号パンフレット(特許文献4)、国際公開第2003/082817号パンフレット(特許文献5)、国際公開第2004/032836号パンフレット(特許文献6)及び国際公開第2004/085661号パンフレット(特許文献7)を参照)。MK-0431はメルク社により創製されたDPP-IV阻害剤であり、優れた阻害活性と選択性を示し、2006年までに発売された。
【化1】
【0007】
下記式の(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルは、SP2086の番号が付された化合物Aである。
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5462928号明細書
【特許文献2】米国特許第5543396号明細書
【特許文献3】国際公開第95/15309号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2003/004498号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2003/082817号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2004/032836号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2004/085661号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、化合物Aの製薬学的に許容される塩及びその製造方法に関する。本発明は、好ましくは、安定性、抗糖尿病活性及び薬物動態において、その他の塩に比較して有用な化合物Aのリン酸塩又は塩酸塩に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの製薬学的に許容される塩に関する。ここで、当該塩は当技術分野で慣用の無機塩又は有機塩である。さらに当該無機塩は塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩及びリン酸塩からなる群より選ばれ、好ましくは塩酸塩、硫酸塩又はリン酸塩であり、より好ましくは塩酸塩又はリン酸塩である。前記有機塩は、メシル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、乳酸塩及びリンゴ酸塩からなる群より選ばれ、好ましくはリンゴ酸塩、メシル酸塩又はマレイン酸塩である。特に好ましい製薬学的に許容される塩は、塩酸塩及びリン酸塩であり、これらはその他の塩に比較して安定性、抗糖尿病活性及び薬物動態においてより有用である。
【0011】
本発明の他の態様は、(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの製薬学的に許容される塩の製造方法に関する。当該塩は、当技術分野で慣用の造塩方法に従って製造することができる。
【0012】
さらに本発明は、治療的有効量の(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの製薬学的に許容される塩及び製薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物に関する。
【0013】
また本発明は、抗糖尿病薬の製造における、(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの製薬学的に許容される塩とその医薬組成物の使用に関する。
【発明の効果】
【0014】
化合物Aの塩酸塩及びリン酸塩は、安定性、抗糖尿病活性及び薬物動態において、化合物Aそのもの及びその他の塩より優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における重要材料であるSM2086−15の合成方法
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの合成方法は、PCT/CN2008/001936の実施例1に記載された合成方法を参照しており、その全記載内容を本明細書の記載として援用する。
【実施例1】
【0016】
化合物Aの塩酸塩(SP2086−HCL)の製造
(R)−7−[3−t−ブトキシカルボニルアミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステル(SM2086−15)(1.35
kg、2.40 mol)及び塩酸−酢酸エチル(2 Mより大)(12.3 kg)を100 L容反応釜に入れ、撹拌して溶解させた。この混合物を、常温で2時間を超えて反応させた。反応が完結したことをTLCで検知した後、オイルポンプで蒸発及び吸引乾固させ、[α]20
−28.0〜−33.0°(C=1、メタノール)である白色〜淡黄色の固体生成物1.15〜1.20
kgを収率96.0〜100%で得た。当該生成物は、(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの塩酸塩(SP2086−HCL)である。(TLC検出:シリカゲルGF254プレート;展開試薬:クロロホルム:メタノール:アンモニア=40:1:0.1;原材料15:Rf=0.80、生成物1:Rf=0.50;紫外線による視覚化)
【実施例2】
【0017】
化合物Aのリン酸塩(SP2086−H3PO4)の製造
SP2086−HCL(1.20 kg、2.40 mol)を100
L容反応釜に入れ、ジクロロメタン(15.2 kg)に溶解した後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5.8 kg)で洗浄した。この水層をジクロロメタン(6.0 kg)で1回抽出した。この有機層を合わせ、水(5 kg)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。この混合物をろ過し、40℃で減圧濃縮乾固して1.12 kgのオイルを得た。このオイルを、30倍量のイソプロパノール(26.0 kg)で撹拌し、溶解した。このオイルが完全に溶解した後、直ちに85%リン酸(305.2 g、2.65 mol)のイソプロパノール(1.22 kg)溶液を添加した。2時間撹拌した後、固形物を取り出し、ろ過し、冷イソプロパノールで洗浄した。湿った生成物は40℃で減圧乾燥し、白色〜淡黄色の固体1.16〜1.24 kgを収率86.0〜92.0%で得た(この湿った生成物は、乾燥させることなく直接イソプロパノール中に懸濁することができる。)。
【実施例3】
【0018】
化合物Aのメシル酸塩の製造
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの塩酸塩(SP2086−HCL)(1.20 kg、2.40 mol)を100 L容反応釜に入れ、ジクロロメタン(15.2 kg)に溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5.8 kg)で洗浄した。この水層をジクロロメタン(6.0 kg)で1回抽出した。この有機層を合わせ、水(5 kg)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。この混合物をろ過し、40℃で減圧濃縮乾固して1.12 kgのオイルを得た。このオイルを、30倍量のイソプロパノール(26.0 kg)で撹拌し、溶解した。このオイルが完全に溶解した後、直ちにメタンスルホン酸(254.7 g、2.65 mol)のイソプロパノール(1.22 kg)溶液を添加した。2時間撹拌した後、固形物を取り出し、ろ過し、冷イソプロパノールで洗浄した。湿った生成物は40℃で減圧乾燥し、白色〜淡黄色の固体1.08〜1.21 kgを収率79.5〜89.3%で得た。
【実施例4】
【0019】
化合物Aの硫酸塩の製造
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの塩酸塩(SP2086−HCL)(1.20 kg、2.40 mol)を100 L容反応釜に入れ、ジクロロメタン(15.2 kg)に溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5.8 kg)で洗浄した。この水層をジクロロメタン(6.0 kg)で1回抽出した。この有機層を合わせ、水(5 kg)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。この混合物をろ過し、40℃で減圧濃縮乾固して1.12 kgのオイルを得た。このオイルを、30倍量のイソプロパノール(26.0 kg)で撹拌し、溶解した。このオイルが完全に溶解した後、直ちに98%硫酸(265.0 g、2.65 mol)のイソプロパノール(1.22 kg)溶液を添加した。2時間撹拌した後、固形物を取り出し、ろ過し、冷イソプロパノールで洗浄した。湿った生成物は40℃で減圧乾燥し、白色〜淡黄色の固形物1.14〜1.25 kgを収率85.5〜93.0%で得た(この湿った生成物は、乾燥させることなく直接イソプロパノール中に懸濁することができる。)。
【実施例5】
【0020】
化合物Aのリンゴ酸塩の製造
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの塩酸塩(SP2086−HCL)(1.20 kg、2.40 mol)を100 L容反応釜に入れ、ジクロロメタン(15.2 kg)に溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5.8 kg)で洗浄した。この水層をジクロロメタン(6.0 kg)で1回抽出した。この有機層を合わせ、水(5 kg)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。この混合物をろ過し、40℃で減圧濃縮乾固して1.12 kgのオイルを得た。このオイルを、30倍量のイソプロパノール(26.0 kg)で撹拌し、溶解した。このオイルが完全に溶解した後、直ちにL−リンゴ酸(355.34 g、2.65 mol)のイソプロパノール(1.22 kg)溶液を添加した。2時間撹拌した後、固形物を取り出し、ろ過し、冷イソプロパノールで洗浄した。湿った生成物は40℃で減圧乾燥し、白色〜淡黄色の固形物1.19〜1.32 kgを収率87.5〜92.0%で得た(この湿った生成物は、乾燥させることなく直接イソプロパノール中に懸濁することができる。)。
【実施例6】
【0021】
化合物Aのマレイン酸塩の製造
(R)−7−[3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブチリル]−3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−イミダゾ[1,5−α]ピラジン−1−カルボン酸メチルエステルの塩酸塩(SP2086−HCL)(1.20 kg、2.40 mol)を100 L容反応釜に入れ、ジクロロメタン(15.2 kg)に溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5.8 kg)で洗浄した。この水層をジクロロメタン(6.0 kg)で1回抽出した。この有機層を合わせ、水(5 kg)で1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。この混合物をろ過し、40℃で減圧濃縮乾固して1.12 kgのオイルを得た。このオイルを、30倍量のイソプロパノール(26.0 kg)で撹拌し、溶解した。このオイルが完全に溶解した後、直ちにマレイン酸(307.59 g、2.65 mol)のイソプロパノール(1.22 kg)溶液を添加した。2時間撹拌した後、固形物を取り出し、ろ過し、冷イソプロパノールで洗浄した。湿った生成物は40℃で減圧乾燥し、白色〜淡黄色の固形物1.19〜1.32 kgを収率87.5〜92.0%で得た(この湿った生成物は、乾燥させることなく直接イソプロパノール中に懸濁することができる。)。
【実施例7】
【0022】
化合物A及びその塩の安定性
(1)含有量定量法
充填剤としてオクタデシルシランを化学的に結合させたシリカ及び移動相として0.1%アンモニア水溶液−アセトニトリル(65:35)を用いて、230 nmの検出波長で勾配モードにより溶出した。適当量の試験サンプル及び基準溶液を取り、次に水を加えて溶解し、それぞれ0.2 mgを含む1 mLの溶液を調製した。試験サンプル溶液及び基準溶液をそれぞれ10 μL取り、液体クロマトグラフに注入した。クロマトグラフ図を記録し、外部標準法に従ってピークエリアにより算出した。
【0023】
(2)測定結果
化合物Aの異なる種類の製薬学的に許容される塩の異なる条件下での安定性
(原材料純度:98.6%、この含有量測定にはHPLCを使用)
【0024】
結論:安定性試験の結果より、化合物Aの塩酸塩及びリン酸塩が最も満足できるものであり、特に化合物Aのリン酸塩の安定性が満足できるものであった。また上記2種の塩の安定性は、化合物Aそのものより優れていた。
【実施例8】
【0025】
化合物Aの製薬学的に許容される塩の関連する生物活性研究
【試験例1】
【0026】
化合物A及びMK-0431のインビトロ活性及び選択性の研究
方法:融解させたDPP4-Glo.を緩衝させ、室温まで平衡化させた。また、凍結保存させたフルオレセイン検査薬を使用前に緩衝させた。DPP4-Glo.を基質に懸濁し、超純水を加え、この混合物を均一となるよう少し混合し、1 mMの基質を得た。フルオレセイン検査薬を黄色瓶に入れ、DPP4-Glo.を加えた。フルオレセイン検査薬は1分間で溶解する必要があった。試験化合物はDMSOに溶解し、最終処理濃度の50倍とした。この50倍濃度の試験化合物2 μLを各試験管に加え、陰性対照群及びブランク対照群には2 μLのDMSOを添加した。46 μLのトリス緩衝溶液を各試験管に添加し、ブランク対照群には48 μLのトリス緩衝溶液を添加した。2 μLのDPP4酵素を陰性対照群と試験サンプル群の各試験管に添加し、この試験管を振盪し混合させた後、遠心分離した。試験管の物質をすべて96ウェルプレートに移し、基質とDPP4-Glo.を1:49の割合で混合した。この混合物を振盪し、十分に混合した。DDP4-Glo.と基質との混合物50 μLを室温で30〜60分間静置した後、各96ウェルプレートに添加し、プレートをフィルムで密封した。96ウェル中の物質は、プレート振動器により300〜500 rpmで30秒間、ゆっくりと混合した。室温で30分間〜3時間放置した後、化学発光値をノボスター(NOVOstar)多機能マイクロプレートリーダーにより測定した。
【0027】
【0028】
結果:DPP4に対する化合物Aの阻害活性は、対照薬であるMK-0431より強力であり、化合物Aの選択性もMK-0431より高かった。DPP8/DPP4及びDPP9/DPP4が高値であることは、優れた活性であることを意味する。
【試験例2】
【0029】
化合物Aの6種の塩の遺伝性肥満糖尿病ウィスター(Wistar)ラットに対する効果
14〜19週齢の雄性肥満ウィスターラットを各群5〜6匹の5群に分け、化合物Aの6種の塩を市販飼料中に5 ppmの割合で混合し、それぞれに14日間投与した(各10 mg/kg体重/日、経口)。血液を尾静脈より採取し、血漿グルコース及びヘモグロビンA1を市販のキット(NC-ROPET、日本ケミファ社)で酵素法により測定した。結果は、各群(n=5〜6)の平均値±標準偏差で表わし、ダネット検定(Dunnett’s
test)で分析して表4に示した。危険率1%未満を有意とした。
【0030】
【0031】
表4より、化合物Aの塩酸塩及びリン酸塩は、血中グルコース及びヘモグロビン濃度を明らかに減少させ、その作用は他の塩より強力であった。最も好ましくはリン酸塩であった。
【試験例3】
【0032】
遺伝性肥満糖尿病ウィスター(Wistar)ラットにおける化合物Aの種々の塩のグルコース負荷試験
13〜14週齢の雄性肥満ラットを各群5匹の5群に分けた。それぞれに、化合物Aの6種の塩を7日間投与した(各30 mg/kg/日、経口)。経口グルコース負荷試験(2 gグルコース/kg/5 mL、経口)は、一晩絶食後直ちに行った。グルコース負荷試験前並びに120分及び240分後に尾静脈より血液を採取し、血漿グルコースを酵素法(アンコールケミカルシステム;ベーカー社)により測定した。結果は、各群(n=5〜6)の平均値±標準偏差で表わし、ダネット検定(Dunnett’s
test)により分析して表5に示した。
【0033】
【0034】
表5から明確に示されるが、化合物Aの塩酸塩及びリン酸塩は、グルコース負荷試験後の血糖上昇を顕著に阻害し、その作用は他の塩より強力であった。化合物Aのリン酸塩が特に好ましい。
【試験例4】
【0035】
ラットにおける化合物Aの異なる塩の吸収性試験
投与計画:体重200〜220 gの雄性ラットを無作為に4群に分けた。6.0 mg/kg(塩基として)の化合物Aのリン酸塩(A)、塩酸塩(B)、マレイン酸塩(C)及びメタンスルホン酸塩(D)を強制経口投与した(投与量はそれぞれ10 mL/kgとし、0.5%CMC−Naに懸濁して0.60 mg/mL(塩基として)としたものを用いた。)。この投与前12時間は絶食させ、自由飲水とした。投与後0.167、0.333、0.50、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、8.0及び12時間にラットの眼窩静脈叢から0.3 mLの静脈血をそれぞれ採取し、ヘパリン化試験管に入れ、3500 rpmで10分間遠心分離した。血漿を分離し、分析するまで−20℃で保存した。血中濃度はHPLC−タンデム質量分析計により分析した。
【0036】
【0037】
結論:化合物Aのリン酸塩の薬物動態特性が最も優れていた。