(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756807
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】噛合衝撃が低減された逆歯チェーンおよびスプロケット駆動システム
(51)【国際特許分類】
F16H 7/06 20060101AFI20150709BHJP
F16G 13/04 20060101ALI20150709BHJP
F16H 55/30 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
F16H7/06
F16G13/04
F16H55/30 C
【請求項の数】20
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2012-529010(P2012-529010)
(86)(22)【出願日】2010年10月6日
(65)【公表番号】特表2013-527386(P2013-527386A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】US2010051609
(87)【国際公開番号】WO2011032186
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2013年8月27日
(31)【優先権主張番号】12/814,963
(32)【優先日】2010年6月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505233217
【氏名又は名称】クロイズ ギア アンド プロダクツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート、ダーレン、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、ジェイムズ、ディー.
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−514877(JP,A)
【文献】
特開平08−074940(JP,A)
【文献】
特表2009−519426(JP,A)
【文献】
特開2001−193803(JP,A)
【文献】
特開2001−355684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/06
F16G 13/04
F16H 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンおよびスプロケット駆動システムであって、
複数の歯を備えるスプロケットであって、各歯は係合歯面および離合歯面を備えるスプロケットと、
前記スプロケットと噛合される逆歯チェーンであって、前記逆歯チェーンは各々が前方ピン中心を中心とする先行リンク列に対して関節連結し、かつ各々が後方ピン中心を中心とする後続リンク列に対して関節連結する複数のリンク列を備え、前記前方ピン中心および前記後方ピン中心はチェーンピッチPで互いに離間され、前記先行リンク列、前記後続リンク列、及び前記複数のリンク列の各々は前方内側歯面および後方外側歯面を備える逆歯チェーンと、
を備え、
前記複数のリンク列の各リンク列の前記前方内側歯面は、前記先行リンク列の前記後方外側歯面の作動部分に対して外向きに突出するとともに、内側歯面半径Rを備え、
前記逆歯チェーンは前記スプロケットのピッチ直径PDに対する接線である接線TLに沿って前記スプロケットに近づくとともに、前記スプロケットの前記歯の前記係合歯面は、初期噛合接触の時点で前記逆歯チェーンの噛合列である前記複数のリンク列のうちの1つの前記前方内側歯面の初期接触位置で前記逆歯チェーンと初期噛合接触し、
前記初期噛合接触の前記時点で、前記噛合列に直近の前記先行リンク列は、前記逆歯チェーンの回転のための制御ピン中心となるように前記ピッチ直径PD上に配置される前記前方ピン中心を含み、
前記スプロケットと完全噛合される前記複数のリンク列の各々のため、前記完全噛合される前記複数のリンク列の各々の前記前方ピン中心および前記後方ピン中心は前記ピッチ直径PD上に配置されるとともに、前記完全噛合される前記複数のリンク列の各々の前記後方外側歯面は前記係合歯面の各1つと接触し、
噛合接触角(τ)は、前記接線TLと、前記制御ピン中心および前記初期接触位置を通過する初期接触基準線との間で定義され、
リンクプレート入口角(β)は、前記初期接触基準線と、前記内側歯面半径Rの円弧中心および前記初期接触位置を通過する内側歯面基準線との間で規定され、
噛合衝撃角(σ)は、σ=τ+βで、かつσ≦34°であるように前記接線TLと前記内側歯面基準線との間で定義され、
前記初期接触位置が、前記噛合列の前記前方ピン中心と前記後方ピン中心の間で延びるピン中心基準線から初期接触距離ICDだけ離間されており、0.49P≦ICD≦0.53Pであり、
前記複数のリンク列の各リンク列の前記前方内側歯面は前記先行リンク列の前記後方外側歯面の作動部分に対して0.007P≦λ≦0.017Pであるように最大突出量(λ)だけ外向きに突出し、
前記先行リンク列の前記後方外側歯面は、前記逆歯チェーンの前記複数のリンク列の各々の各リンクに対する前記作動部分とトゥ先端との間に位置する面取り部を備える非作動部分を備え、前記逆歯チェーンの隣接する列の前記前方内側歯面は、前記逆歯チェーンが真っ直ぐ引っ張られるとき前記最大突出量(λ)よりも大きい突出量だけ前記面取り部に対して外向きに突出する、チェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項2】
前記リンクプレート入口角(β)は9°以下である、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項3】
前記内側歯面半径RはP≦R<2Pであるように定義される大きさを有する、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項4】
前記逆歯チェーンの前記複数のリンク列の各々の各リンクは周辺歯面角(outer flank angle)Ψ≦30.5°を定義し、前記周辺歯面角Ψは、前記後方ピン中心を含むとともに前記接線TLに垂直に位置する第1の基準線と、前記複数のリンク列の前記後方外側歯面と一致する第2の基準線との間で定義される、請求項3に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項5】
前記作動部分および前記面取り部は、面取り角が前記複数のリンク列の各々の各リンクの前記面取り部と前記後方外側歯面との間で定義されるようにいずれも平坦である、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項6】
前記スプロケットの前記歯の前記係合歯面は圧力角PAで定義され、29°≦PA≦31°であり、かつ前記噛合衝撃角(σ)は33°以下である、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項7】
前記スプロケットの前記歯の前記係合歯面は圧力角PAで定義され、26°≦PA≦29°である、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項8】
前記噛合衝撃角(σ)は31°以下である、請求項7に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項9】
前記リンクプレート入口角(β)は7°以下である、請求項8に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項10】
前記内側歯面半径RはP≦R<2Pであるように定義される、請求項9に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項11】
前記逆歯チェーンの前記複数のリンク列の各々の各リンクは周辺歯面角Ψ≦27°を定義し、前記周辺歯面角Ψは、前記後方ピン中心を含むとともに前記接線TLに垂直に位置する第1の基準線と、前記複数のリンク列の前記後方外側歯面と一致する第2の基準線との間で定義される、請求項10に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項12】
前記複数のリンク列の前記後方外側歯面の前記作動部分および前記面取り部は、面取り角が前記複数のリンク列の各々の各リンクに対して前記面取り部と前記後方外側歯面との間で定義されるようにいずれも平坦である、請求項11に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項13】
前記チェーンピッチPは6.35mm≦P≦7.7mmを満足する、請求項1に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項14】
チェーンおよびスプロケット駆動システムであって、
複数の第1の歯を備える第1のスプロケットと、
複数の第2の歯を備える第2のスプロケットであって、前記第1のスプロケットおよび前記第2のスプロケットは等しくない数の歯を有する、第2のスプロケットと、
前記第1のスプロケットおよび前記第2のスプロケットの両方と噛合される逆歯チェーンであって、前記逆歯チェーンは各々が前方ピン中心を中心とする先行リンク列に対して関節連結し、かつ各々が後方ピン中心を中心とする後続リンク列に対して関節連結する複数のリンク列を備え、前記前方ピン中心および前記後方ピン中心はチェーンピッチPで互いに離間され、前記先行リンク列、前記後続リンク列、及び前記複数のリンク列の各々が前方内側歯面および後方外側歯面を備える逆歯チェーンと、
を備え、
前記複数のリンク列の各リンク列の前記前方内側歯面は、前記先行リンク列の前記後方外側歯面の作動部分に対して外向きに突出するとともに、内側歯面半径Rを備え、
前記第1のスプロケットおよび前記第2のスプロケットの両方に対して、
前記逆歯チェーンは前記第1のスプロケットおよび前記第2のスプロケットの各々のピッチ直径PDに対する接線である接線TLに沿って前記スプロケットに近づくとともに、前記複数の第1の歯の各々及び前記複数の第2の歯の各々の係合歯面は、初期噛合接触の時点で前記逆歯チェーンの噛合列の前記前方内側歯面の初期接触位置で前記逆歯チェーンと初期噛合接触し、
前記初期噛合接触の前記時点で、前記噛合列に直近の前記先行リンク列は、前記逆歯チェーンの回転のための制御ピン中心となるように前記ピッチ直径PD上に配置される前方ピン中心を含み、
前記スプロケットと完全噛合される前記複数のリンク列の各々のため、前記完全噛合される前記複数のリンク列の各々の前記前方ピン中心および前記後方ピン中心は前記ピッチ直径PD上に配置されるとともに、前記完全噛合される前記複数のリンク列の各々の前記後方外側歯面は前記係合歯面の各1つと接触し、
噛合接触角(τ)は、前記接線TLと、前記制御ピン中心および前記初期接触位置を通過する初期接触基準線との間で定義され、
リンクプレート入口角(β)は、前記初期接触基準線と、前記内側歯面半径Rの円弧中心および前記初期接触位置を通過する内側歯面基準線との間で定義され、
噛合衝撃角(σ)は、σ=τ+βであるように前記接線TLと前記内側歯面基準線との間で定義され、
前記第1のスプロケットおよび前記逆歯チェーンによって定義される前記噛合衝撃角(σ)は、前記第2のスプロケットおよび前記逆歯チェーンによって定義される前記噛合衝撃角(σ)に等しく、
前記第1のスプロケットの各歯は第1の圧力角で定義され、前記第2のスプロケットの各歯は前記第1の圧力角とは異なる第2の圧力角で定義される、チェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項15】
前記初期接触位置は、前記噛合列の前記前方ピン中心と前記後方ピン中心との間で延びるピン中心基準線から初期接触距離ICDだけ離間され、0.49P≦ICD≦0.53Pである、請求項14に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項16】
前記噛合衝撃角(σ)は33°以下である、請求項15に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項17】
前記第1の圧力角および前記第2の圧力角はいずれも少なくとも29°で、31°以下である、請求項14に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項18】
前記第1の圧力角および前記第2の圧力角はいずれも少なくとも26°で、29°以下である、請求項14に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項19】
前記噛合衝撃角(σ)は31°以下である、請求項18に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【請求項20】
前記チェーンピッチPは6.35mm≦P≦7.7mmを満足する、請求項14に記載のチェーンおよびスプロケット駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は2009年9月9日(09/09/2009)に出願された米国特許出願第12/556,332号の一部継続出願であり、2008年9月9日(09/09/2008)に出願された米国仮特許出願第61/095,393号の出願日の優先権および利益を主張し、これら先行出願の各々の開示全体が参照として本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
逆歯チェーン10は、自動車用途において
図1に示すようにシャフト間で動力および運動を伝達するために長い間使用されており、これらは通常挟み込まれたリンクプレート(interleaved link plates)30の並び(rank)、すなわち列30a、30bなどを備えるエンドレスチェーンとして構成され、各々は外側歯面37と、股部35を定義する歯の間の内側歯面36とを有する1対の歯34を備えている。また、各々の歯は接続ピン40(たとえば、丸ピン、ロッカージョイントなど)を受け入れるようにリンク列を横断して整列される2つの開口32を有しており、駆動スプロケットおよび被駆動スプロケットとの噛合開始時に、リンクプレートの内側歯面(「内側歯面係合」)または外側歯面(「外側歯面係合」)のいずれかでスプロケットの歯に駆動係合するときにピン中心Cを中心として列を枢動可能に結合し、チェーン10の関節連結を提供する。ピン中心Cは、チェーン・リンク・ピッチPの間隔で離間される。「ピン中心C」という用語は、ピン40が丸ピン、ロッカージョイント、またはその他の適切なジョイントを備えるかどうかに関係なく、一連のリンク列30a、30bが互いに回転するための軸を包含することが意図される。外側歯面37は、直線側面(しかし、湾曲していてもよい)であり、周辺または外側歯面角Ψによって定義される。内側歯面は、凸状に湾曲しており弧中心79(
図3A)を中心とする半径Rによって定義される円弧部分を備える。
【0003】
内側歯面係合および外側歯面係合の噛合方式は、いずれも自動車エンジンのタイミング駆動に使用されているが、内側歯面係合の方がより一般的である。さらに
図1を参照すると、スプロケットとの噛合開始時に、支承されていないチェーンスパンでは通常はそうであるようにリンク列30a、30bが直線状に配置された場合、リンクプレート30の前方(チェーン移動方向に関して)内側歯面36が先行する列30aの隣接リンクプレート30の外側歯面37に対して外側突出λを有していることによって内側歯面の噛合接触が可能になる。
【0004】
噛合開始時のチェーン−スプロケット衝撃は、チェーン駆動システムにおける主要な騒音源であり、これはチェーンリンク列がスパンを出て係合するスプロケットの歯と衝突する際に発生する。噛合現象の複雑な動的挙動は当技術分野においてよく知られており、チェーン−スプロケット間の噛合衝撃の大きさは様々な因子によって影響を受け、そのうちの多角形効果(「弦作用」または「弦運動」と称される)は、チェーンが接線に沿ってスプロケットに近づくときにスプロケットから上流にある「自由な」、すなわち支承されていないスパンに横振動を誘起することが知られている。弦運動は、チェーンが噛合中にスプロケットの歯に係合する際に生じ、チェーン移動に垂直な方向に、かつチェーンおよびスプロケットと同じ平面内でチェーン運動を起こさせることになる。この望ましくない振動性のチェーン運動は、初期接触点で噛合チェーンリンク列とスプロケットの歯との間に速度差をもたらし、それによって、チェーン−スプロケット間の噛合衝撃および関連するチェーン係合騒音レベルの重大さの原因となる。
【0005】
図2Aおよび2Bはスプロケットに対する弦上昇を示しており、ここでは弦上昇CRは通常、角度α/2だけ移動する際のチェーンピン中心C(または、他のチェーンジョイント)の垂直方向変位として定義され、ここで、
CR=r
p−r
c=r
p[1−cos(180°/N)]
であり、ここで、r
cは弦半径、またはスプロケット中心から長さPのスプロケット・ピッチ・コードまでの距離であり、長さPはチェーンピッチ長さにも等しく、r
pはスプロケットの理論的ピッチ半径、すなわち、ピッ直径PDの1/2であり、Nはスプロケットの歯数であり、αはスプロケット歯角度、すなわち360°/Nに等しい。
図2Aは、チェーンがスプロケットと噛合した瞬間の第1の位置におけるチェーンピン中心Cを示しており、そこでは接線TLとスプロケットピッチ直径PDの両方と同時に整列している。当技術分野においてよく知られており、また本明細書において使用されるように、接線TLは噛合チェーンピン中心Cがスプロケットに近づく理論的直線経路である。本明細書に示すように、接線TLは水平方向に配置され、この場合接線TLは上死点、すなわちピッチ直径PD上の12時の位置においてピッチ直径PDに対する接線となる。つまり、チェーンピン中心がピッチ直径PD上に中心を置いて配置され、接線TLに垂直である半径方向基準線の中心にも中心を置くように配置された場合、接線TLはピッチ直径PDにも接する(接線が本明細書に示すように水平であるとき、基準線は垂直である)。
図2Bは、スプロケットが角度α/2だけ回転した後、同じピン中心Cの位置を示しており、この場合、ピン中心Cはスプロケットラップの周りを移動し続けるにつれて距離CRだけ横方向に変位され、このピン中心の垂直変位はその上流チェーンスパンおよび接線TLの対応する変位をもたらすことが分かる。チェーンピンCが弦上昇および弦下降を経ながら移動する際のこの横方向の変位は、支承されないチェーンスパンの望ましくない振動を誘起する。
【0006】
チェーンの望ましくない弦運動を低減する試みが、Horieらに付与された米国特許第6,533,691号明細書に記載されている。Horieらは、初期スプロケットの歯の噛合接触から完全噛合(弦)位置までの各リンクプレート内側歯面の移動を円滑にすることを意図する複合的な半径プロファイルで定義される逆歯チェーンを開示している。Horieらのリンクプレート形状での初期噛合接触は、リンクのトゥ(toe)先端における内側歯面の凸面円弧部で起こり、内側歯面の第2の円弧部へ円滑かつ連続的に進んだ後に先行リンクの外側歯面の完全噛合接触に移行する。
【0007】
弦運動は、Youngらによる米国特許出願公開第2006/0068959号明細書に開示されたシステムによっても低減され、この開示では、隣接するリンクプレートのそれぞれの外側歯面に対するチェーンの内側歯面突出量がチェーンピッチPの関数として定義され、関係する外側歯面に対する内側歯面の最大突出量ラムダ(λ)が0.010xP≦λ≦0.020xPの範囲に収まるように定義される。Youngらは、弦運動を制限するために内側歯面初期噛合接触も組み込んだリンクプレートを開示しているが、その内側歯面噛合接触は、リンクプレートの同一凸面円弧部で開始し、終了し、その後、噛合接触が先行リンクの外側歯面完全噛合接触へ移行して噛合サイクルが完了する。
【0008】
米国特許第6,244,983号明細書において、Matsudaは、完全噛合サイクルにおいてスプロケット歯との内側歯面噛合接触を有するリンクプレートを開示している。Matsdaのリンクプレートの外側歯面はスプロケット歯とは接触しないが、その内側歯面噛合形態によって係合中の弦運動を制限するのに役立つ。
【0009】
前述の先行技術である逆歯チェーンはすべて、噛合中の弦運動を有益に制限する特徴を有している。しかしながら、チェーン駆動騒音レベルに悪影響を有するもう1つの重要な因子は、他の先行技術による逆歯チェーンと同様に、これらのチェーンのリンクプレート設計において十分に考慮されておらず、またその因子はチェーンとスプロケットの係合過程における噛合衝撃形態に関するものである。
【0010】
図3、およびより明確には
図3Aに示すように、チェーン10と、スプロケット50と、チェーン10と噛合する少なくとももう1つのスプロケットとを含むチェーン駆動システム15において、チェーン10の先行技術によるチェーンリンク列30cが、従来型のスプロケット50のスプロケット歯60cと噛合しようとしている。参照番号は通常、各列30a、30b、30cなどの前面に見える1個のチェーン・リンク・プレート30についてのみ示されているが、当業者であれば、ここでの議論が各列の複数のリンクプレート30に当てはまることを認識するであろう。一連のピン中心Cは、互いに識別できるように番号C1、C2、C3、C4などが付けられる。
【0011】
リンク列30cは、対応するスプロケット歯60cとの初期噛合接触の瞬間、すなわち、係合歯面62cの初期接触位置ICにおける、チェーン・リンク・プレートの前方内側歯面36とスプロケット歯60cの係合歯面62cとの初期接触の瞬間を示している。初期接触角シータ(θ)は、スプロケットの回転軸を起点として接線TLに垂直に延びる第1の半径方向基準線L1と、スプロケットの回転軸を起点として対象のスプロケットの歯60cの歯中心を通って延びる第2の半径方向基準線TCとの間で定義される。リンク列30cが初期噛合衝撃ICをする瞬間に、先行するリンク列30bはチェーンスパンを出て「浮遊状態」に入り、すなわち、列30bのリンクプレート30はスプロケット50と直接接触せず、噛合列30cと、先行するスプロケット歯60bと完全噛合接触している先行列30aとの間で宙吊りの状態となる。リンク列30bは、列30cがその初期の噛合接触位置ICから最終内側歯面噛合接触位置IFまでスプロケット歯60cの係合歯面62cとの摺動接触を介して関節連結をするときこの浮遊状態に留まっており、IFに到達した時点で、列30bはその噛合サイクルを終了して、その後方外側歯面37がスプロケットの歯60cと位置OFで完全噛合接触する位置に移行する(接触位置IFおよびOFが
図4および4Aに示される)。
図4および4Aは、リンク列30bおよび30cがスプロケット歯60cと同時接触しており、スプロケット回転の次の増分でリンク列30cがその内側歯面噛合接触から分離することから、「同時噛合」と称される噛合サイクルの時点を示す。分離した後、リンク列30cは、スパン内に留まり、次の列30dがスプロケット歯60dと初期噛合衝撃ICをする瞬間に浮遊状態に入る。
【0012】
リンク列30c(
図3および3Aを再び参照すると)が初期噛合衝撃する時点よりも前に、チェーンスパンはピン中心C1を中心とした回転を効果的に行ない、列30cがスプロケット歯60cとの噛合衝撃IC向って関節的に連結していることに留意されたい。それゆえ、ピン中心C1は「制御ピン中心」と称されうる。制御ピン中心C1は、噛合リンク列30cの前方ピン中心C2に対して直近の先行(下流)ピン中心である(また、制御ピン中心C1は、完全噛合リンク列30aの(チェーン移動方向に関して)直近の後方ピン中心である)。このようにして、以下の関係が定義される。
【0013】
−噛合接触角タウ(τ)が、接線TLと制御ピン中心C1および初期接触位置ICの両方を通過する初期接触基準線70との間で定義される。
【0014】
−初期接触基準線70が、制御ピン中心C1と初期接触位置ICとの間の長さLのレバーアームを定義する(
図3A)。
【0015】
−リンクプレート入口角ベータ(β)が、初期接触基準線70と、内側歯面半径Rの弧中心79および初期接触位置ICを通過する内側歯面基準線74との間で定義される(内側歯面基準線74は、スプロケットの歯60cの係合歯面62cのインボリュート曲線(または半径方向の円弧部分、または他の曲面)に垂直となる)。
【0016】
−噛合衝撃角シグマ(σ)が、接線TLと内側歯面基準線74との間で定義される。すなわち、σ=τ+βとなる。
【0017】
チェーン−スプロケット噛合衝撃が、初期接触位置ICにおける噛合リンク列30cとスプロケット歯60cとの速度差から得られ、スプロケット歯が初期噛合衝撃の瞬間にチェーンスパンから噛合リンク列30cを受け止める際に発生される関係衝撃エネルギーEは次式によって定義される。
【0018】
E=CmL
2ω
2cos
2(90−β)
【0019】
ここで、Cは定数であり、mは単一噛合リンク列30cの質量に等しく、Lは制御ピン中心C1から初期接触位置ICまでの長さであり、ωはスプロケットの角速度であり、βはリンクプレート噛合入口角である。噛合衝撃は関連する騒音レベルとともに、速度差を減らすことによって低減可能であり、これは噛合入口角βを低減することによって達成されうる。
【0020】
さらに、衝撃エネルギーEの式は、噛合リンク列30cの質量を含むだけで、チェーン張力C
Tは考慮されておらず、このチェーン張力は、結果として得られる噛合衝撃エネルギーE、および関連する総合的な騒音レベルを増加させる。チェーン張力C
Tは、噛合開始時にスプロケットの歯60cに作用し、リンク衝撃力F
Lに等しく反対向きの逆歯の衝撃反力F
Sは、噛合衝撃角σの大きさによって変化し、ここで、
【数1】
であり、ここで、水平方向の合力がゼロであることを満足するためにF
HはC
Tに等しくなる。これらの関係は
図3および3Aに示されている(なお、
図3Aでは、噛合衝撃角(σ)およびその成分角度が接線TLに平行であり、初期接触位置ICに延びる基準線72からの角度として示されており、基準線72は力ベクトルF
Hに一致する)。スプロケットの歯60cは、歯60cの前方(下流)にある次のいくつかの歯とともにチェーン張力C
Tの荷重分布を共有し、初期噛合接触の開始時に歯60cの位置ICにおいて最大反力F
Hが発生することに留意されたい。歯60cの前方にあるいくつかの歯に作用するチェーン張力荷重の残りの部分は、噛合騒音レベルに影響せず、したがって、本発明における検討対象外である。要約すると、リンク衝撃力ベクトルF
Lは、初期の噛合接触中に噛合衝撃位置ICに作用し、全噛合衝撃エネルギーE、およびこれに関係する騒音レベルを増大させる。
【0021】
前述のように、
図4は、同時噛合接触を示しており、この場合、リンク列30cの前方の内側歯面36は、位置IFにおいてスプロケット歯60cの係合歯面62cに接しており、先行リンク列30bの後方外側歯面37は、位置OFにおいて係合歯面62cに接している。
図4Aは、同時噛合接触現象の形態から得られる力をさらに示す
図4を大きく拡大した部分図である。先行リンク列30bの後方外側歯面37との同時外側歯面接触を実現するために歯60cがリンク列30cの前方内側歯面36との「内側歯面のみの」接触から移行するこの瞬間は、移行点とも称され、リンク列30bはピッチ直径PDに配置されるその前方および後方ピン中心C1、C2の両方と完全に噛合されるので歯60cの噛合サイクルの終了も定義する。移行角ファイ(Φ)は、第1の半径方向基準線L1と歯60cの歯中心を示す第2の半径方向基準線TCとの間の角度として定義される。
【0022】
図4および4Aは、それぞれ
図3および3Aに対応するが、移行現象に関係しており、以下のことを示している。
【0023】
−移行接触角タウ’(τ’)が、接線TLと、外側歯面接触位置OFと制御ピン中心C1との両方を通過する移行接触基準線80との間の角度として定義され、移行現象に関しては、制御ピン中心は、位置OFにおける後方外側歯面接触に移行するリンク列の前方ピン中心である(すなわち、同時に噛合しているリンク列間の界面にあるピン中心の直前に先行するピン中心Cである)。
【0024】
−移行接触基準線80は、制御ピン中心C1と外側歯面接触位置OFとの間のレバーアーム長さL’を定義する。
【0025】
−リンクプレート移行角ベータ’(β’)は、移行接触基準線80と、後方外側歯面37に垂直に延びる外側歯面基準線84との間の角度として定義される(外側歯面基準線84も、スプロケット歯60cの係合歯面62cのインボリュート曲線(または半径方向円弧部分、または他の曲面)に垂直となる)。
【0026】
−移行衝撃角シグマ’(σ’)は、接線TLと外側歯面基準線84との間の角度として定義される。すなわち、σ’=τ’+β’となる。
【0027】
図3および3Aの特徴に対応する
図4および4Aにおける特徴は、対応する参照文字にダッシュ(’)記号表示を付して示されており、そのすべてを必ずしもこれ以上議論しないことことに留意されたい。また、
図4Aでは、移行衝撃角シグマ’(σ’)およびその成分角が、接線TLに平行の、外側歯面接触位置OFに延びる、基準線82に対して示されており、基準線82は力ベクトルF’
Hに一致する。
【0028】
リンク列30bが位置OFにおいてスプロケット歯60cと完全弦噛合接触に移行するときの第2の噛合衝撃とそれに関連する騒音レベルの強度は、位置ICにおける前述の初期噛合衝撃とその結果生じる噛合騒音レベルとに比べて小さい値である。第一に、移行衝撃角σ’は、初期噛合衝撃角σよりも常に小さい値となる。第二に、位置OFにおける外側歯面接触は、リンク列30bが浮遊状態から完全噛合状態に移行するときに起こり、これはチェーン10とスプロケット50との間の初期接触と比べると衝撃力に関してさほど重要でないものと考えられ、噛合開始時に1つのリンク列がチェーンスパンからスプロケット歯60との衝撃を受ける。さらに、騒音試験および振動試験は、位置OFにおける外側歯面37の移行噛合衝撃が位置ICにおける内側歯面36の初期噛合衝撃ほど噛合騒音レベル全体に寄与しないことを示している。
【0029】
スプロケット50は従来型のものであり、歯60(すなわち、60a、60b、60cなど)は、各々が半径方向歯中心TCを中心として対称的に定義され、噛合時にチェーン10に初期接触する係合歯面62(すなわち、62a、62b、62cなど)と、整合した離合歯面64(すなわち、64a、64b、64cなど)とを有する。歯中心TCによって、各歯60は二等分され、歯角α=360°/Nの均等な角度(°)で配置されている。係合歯面62(および離合歯面64)のインボリュート形状は基準円から生成され、基準円は次のように定義される。
【0030】
基準円=PD×COS(PA)、ここで、
PD=スプロケットピッチ円直径、およびPA=歯圧力角であり、
さらに、ピッチ直径PDそのものは次のように定義される。
【0031】
PD=P/SIN(180/N)、
【0032】
ここで、P=ピッチであり、N=スプロケットの歯数である。
【0033】
インボリュート歯形は、ラジアル歯形で近似することができ、半径方向歯形の圧力角PAが同様に決定されうる。いずれにしても、比較的小さい圧力角で定義される係合歯面62は、比較的大きい圧力角で定義される係合歯面に比べて急峻である(スプロケット回転軸を起点とするラジアル線により近くなる)ことは一般に知られている。したがって、初期接触位置ICにおける係合歯面62の基準線接線は、この基準線接線と半径方向基準線との間の角度を定義することになり、半径方向基準線は、係合歯面と、圧力角が減少すると小さく圧力角が増加すると大きい、すぐ下流の(前方の)離合歯面64との間に位置する。先行技術システムでは、リンク衝撃力F
Lおよびこれに関連する衝撃エネルギーEを最小化するために、チェーン・リンク・プレート30の設計を最適化できるように通常のスプロケット歯圧力角を実質的に変更してこなかった。従来のスプロケット歯圧力角を度(°)単位で以下の表1に示しており、スプロケット50はこれらの慣例に従う(すべての歯60は同じ圧力角PAを有する)。
【0034】
【表1】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明の一態様によると、チェーンおよびスプロケット駆動システムは複数の歯を備えるスプロケットを含み、各歯は、係合歯面および離合歯面、ならびにスプロケットが噛合された逆歯チェーンを含む。逆歯チェーンは、各々が前方ピン中心を中心とする先行リンク列に対して関節連結し、かつ各々が後方ピン中心を中心とする後続リンク列に対して関節連結する複数のリンク列を含む。前方および後方ピン中心は、チェーンピッチPで互いに離間される。列の各々は前方内側歯面および後方外側歯面を含み、各列の前方内側歯面は先行列の後方外側歯面の作動部分に対して外向きに突出し、内側歯面半径Rを備える。チェーンは、接線に沿ってスプロケットに近づき、各スプロッケト歯の係合歯面は、初期噛合接触の時点でチェーンの噛合列の前方内側歯面の初期接触位置でチェーンと初期噛合接触する。初期噛合接触の時点で、噛合列に先行する直前のチェーン列は、制御ピン中心となる、スプロケットのピッチ直径上に配置された前方ピン中心を含む。スプロケットと完全に噛合されるチェーンの各列では、その前方および後方ピン中心はピッチ直径PD上に配置されており、その後方外側歯面は係合歯面の1つと接している。噛合接触角タウ(τ)は、接線TLと、制御ピン中心および初期接触位置の両方を通過する初期接触基準線との間の角度として定義される。リンクプレート入口角ベータ(β)は、初期接触基準線と、内側歯面半径の弧の中心および初期接触位置を通過する内側歯面基準線との間の角度として定義される。噛合衝撃角シグマ(σ)は、σ=τ+β、およびσ≦34°となるように接線と内側歯面基準線の間の角度として定義される。初期接触位置は、噛合リンク列の前方ピン中心と後方ピン中心の間で延びるピン中心基準線からの初期接触距離IC
Dだけ離間され、0.49P≦IC
D≦0.53Pである。
【0036】
本発明の別の態様によると、チェーンおよびスプロケット駆動システムは、複数の第1の歯を備える第1のスプロケットと、複数の第2の歯を備える第2のスプロケットとを含み、第1および第2のスプロケットが有する歯の数は、等しくない。逆歯チェーンは第1および第2のスプロケットの両方と噛合され、各々が前方ピン中心を中心とする先行リンク列に対して関節連結し、かつ各々が後方ピン中心を中心とする後続リンク列に対して関節連結する複数のリンク列を含み、前記前方および後方ピン中心は、チェーンピッチPで互いに互いに離間される。チェーンの列の各々は、前方内側歯面および後方外側歯面を含み、各列の前方内側歯面は先行する列の後方外側歯面の作動部分に対して外向きに突出し、内側歯面半径Rを含む。第1および第2のスプロケットに対し、チェーンは接線に沿ってスプロケットに近づき、各スプロッケト歯の係合歯面は、初期噛合接触の時点でチェーンの噛合列の前方内側歯面の初期接触位置でチェーンと初期噛合接触する。初期噛合接触の時点で、噛合列に先行する直前のチェーン列は、制御ピン中心となるスプロケットのピッチ直径上に配置される前方ピン中心を含む。スプロケットと完全に噛合されるチェーンの各列に対し、その前方および後方ピン中心はピッチ直径PD上に配置されており、その後方外側歯面は係合歯面の1つと接している。噛合接触角タウ(τ)は、接線TLと、制御ピン中心および初期接触位置の両方を通過する初期接触基準線との間の角度として定義される。リンクプレート入口角ベータ(β)は、初期接触基準線と、内側歯面半径の弧の中心および初期接触位置を通過する内側歯面基準線との間の角度として定義される。噛合衝撃角シグマ(σ)は、σ=τ+βであるように接線と内側歯面基準線の間の角度として定義される。第1のスプロケットおよびチェーンによって定義される噛合衝撃角シグマ(σ)は、第2のスプロケットおよびチェーンによって定義される噛合衝撃角シグマ(σ)に等しい。
【0037】
本発明は様々な構成要素および構成要素の配置を備えており、その好ましい実施形態は以下の添付図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】下にあるリンクプレートを明らかに示すためにガイドプレートを取り除いた知られた逆歯チェーンの第1および第2のリンク列を示す図である。
【
図3】
図1のチェーンを、チェーン駆動システムの知られたスプロケットのスプロケット歯との噛合開始時におけるリンク列とともに示す図である。
【
図4】チェーンの2つの連続リンク列がスプロケット歯と同時噛合接触している
図3のシステムを示す図である。
【
図4A】同時噛合接触をより分かりやすく示して明確にするために前面のリンクプレートを取り除いた
図4の拡大部分図である。
【
図5】下部のリンクプレートを明らかに示すためにガイドプレートを取り除いた、本発明の第1の実施形態に従って形成された逆歯チェーンの第1および第2のリンク列を示す図である。
【
図5A】
図5の詳細領域5Aを大きく拡大した図である。
【
図5B】ガイドプレートを含む、
図5のチェーンの複数リンク列の等角図である。
【
図5C】
図5の詳細領域5Aを示すとともに、噛合サイクルにわたるスプロケット歯の係合歯面と接触するチェーンの位置を示す図である。
【
図6】
図3の従来型スプロケットのスプロケット歯との噛合開始時におけるリンク列とともに、
図5のチェーンを示す図である。
【
図7】チェーンの2つの連続リンク列がスプロケット歯と同時噛合接触している、
図6のシステムを示す図である。
【
図7A】同時噛合接触をより分かりやすく示して明確にするために、前面のリンクプレートを取り除いた
図7の拡大部分図である。
【
図8】
図6Aと同様であるが、本発明の代替実施形態に従って形成されたスプロケット歯との噛合開始時における
図5のチェーンを示し、スプロケット歯圧力角は
図6の従来型のスプロケットに対して調整される図である。
【
図9】下部のリンクプレートを明らかに示すためにガイドプレートを取り除いた、本発明の第2の実施形態に従って形成された逆歯チェーンの第1および第2のリンク列を示す図である。
【
図9A】
図9の詳細領域9Aを大きく拡大した図である。
【
図9B】ガイドプレートを含む、
図9のチェーンの複数リンク列の等角図である。
【
図9C】
図9の詳細領域9Aを示すとともに、噛合サイクルにわたるスプロケット歯の係合歯面と接触するチェーンの位置を示す図である。
【
図10】本発明の別の態様に従って圧力角を低減して定義された歯面を有するスプロケット歯との噛合開始時における
図9のチェーンを示す図である。
【
図10A】
図3の従来型のスプロケットの歯に極めて細い線を重ね合わせた
図10のスプロケットの歯を大きく拡大した図である。
【
図11】
図10の拡大部分であり、リンク列とともに、スプロケット歯との噛合開始時における
図9のチェーンを示す図である。
【
図12】チェーンの2つの連続リンク列がスプロケット歯と同時噛合接触している、
図11のシステムを示す図である。
【
図12A】同時噛合接触をより分かりやすく示して明確にするために、前面のリンクプレートを取り除いた
図12の拡大部分図である。
【
図13】本発明による逆歯チェーン駆動システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図5は、好ましい内側歯面突出量ラムダ(λ)および外側プロファイルを示す、本発明(チェーンのガイドプレートは図示せず)に従って形成された内側歯面係合逆歯チェーン110の第1および第2の列の拡大図である。
図5Aは、リンク歯先端139に近い外側歯面面取り部138に対する内側歯面突出量λ
Tを示す
図5の詳細領域5Aの拡大図である。
図5Bは、逆歯チェーン110を定義するために本発明に従って
図5のリンクプレートを組み込んだチェーン部分の等角図である。
【0040】
チェーン110は、挟み込まれた内側リンク、すなわちリンクプレート130の並び、すなわち列130a、130b、130cなどを備え、各々のリンクプレートは外側歯面137および内側歯面136を有する1対の歯134を備え、歯134の内側歯面136の間に股部135が定義されている。歯134はそれぞれのトゥすなわち先端139を有する。各リンクプレート130は、従来型のスプロケット50などのスプロケットとの噛合の開始時に内側歯面136においてスプロケット歯と駆動可能に係合(「内側歯面係合」)するときに、列を枢動可能に結合する接続ピン140(たとえば、丸ピン、ロッカージョイントなど)を受け入れて、ピン中心Cを中心とするチェーンの関節連結を提供するために、リンク列を横断して整列される2つの開口132を備える。ピン中心Cは、チェーンピッチ長さ、すなわちリンクピッチPで互いに離間される。本明細書で使用する「ピン」という用語は、本明細書で開示するチェーン110または他のチェーンの隣接するリンク列130a、130b、130cなどを枢動可能に接続するように整列された開口132に挿入される、丸ピンまたはロッカージョイントまたはその他のスタッドあるいはピン状構造物を意味する。それに応じて、本明細書で使用する「ピン中心」という用語は、ピン140が丸ピン、ロッカージョイントまたは他の適切なジョイントを備えるかどうかに関係なく、連続リンク列130a、130b、130cが相互に回転するための軸を包含するように意図される。第1および第2のガイドプレート120(
図5B)は、1つおきのリンク列(いわゆる「ガイド列」)を側面に配置してチェーン110をスプロケット上に整列させる働きをするが、スプロケット歯と噛合しない(ガイドプレート120は、背後のリンクプレート130を見えるようにするために本明細書の図のほとんどにおいて示されていない)。スプロケット50などのスプロケットとの噛合が始まると、支承されていないチェーンスパンでは通常そうであるように、すべてのピン中心Cが接線TLに沿って整列してリンク列が直線状に配置されている場合には、各リンク列130a、130b、130cの前方(チェーン移動方向に関して)の内側歯面136は、先行するリンク列130a、130b、130cの後方外側歯面137よりも突出量λだけ外側に突出している。前述の背景において説明したように、接線TLは噛合チェーンピン中心がスプロケットに近づく理論的な直線経路である。本明細書に示すように、接線TLは水平方向に位置し、この場合、接線TLは上死点、すなわちピッチ直径PD上の12時の位置においてピッチ直径PDに対する接線であり、すなわち、チェーンピン中心がピッチ直径PD上に中心を置いて配置され、接線TLに垂直である半径方向基準線にも中心を置くように配置された場合、接線TLはピッチ直径PDに接する(接線が本明細書に示すように水平であるとき基準線は垂直である)。
【0041】
各リンクプレート130は、他のリンクプレートと同じであり、各ピン中心C間の中ほどのリンクプレート130に垂直に配置された垂直平面に関して対称に形成される。外側歯面137は、直線側面(ただし、湾曲していてもよい)であり、この第1の実施形態の場合、周辺または外側の歯面角プサイ(Ψ)は30°<Ψ≦に30.5°よって定義され、ここで、Ψはピン中心Cを接続する基準線P
Rに垂直である第1の基準線W1と、外側歯面137と一致する第2の基準線W2との間の角度として定義される。内側歯面136は、凸面円弧形状を有しており、内側歯面は、好ましくは隣接するリンク列の外側歯面に対して、関係0.007P≦λ≦0.017Pを満足する突出量ラムダ(λ)だけ外向きに突出しており、ここで、Pはチェーンピッチ長さに等しい。内側歯面136は、以下の関係、
P≦R<2P
を満足するように形成されており、ここで、Rは内側歯面136の曲率半径であり、Pはチェーンピッチの長さである。各内側歯面136は、円弧中心179に中心がある半径Rによって定義される半径の円弧部分によって定義され(
図6A)、かつ股部135から先端139まで延びる。外側歯面137は、先端139に隣接する所望角度の面取り部138を含む。面取り部138は、特に内側歯面突出量ラムダ(λ)がその製造上の下限にあるとき、前方内側歯面136に対する初期噛合接触領域190(
図5A参照)が、噛合開始時に先行するリンクプレート130の後方外側歯面137から量λ
T>λだけ外向きに常に確実に突出すように作用する。図に示すように、面取り部138は、平坦であり、それ自体と外側歯面137の残りの平面との間の面取り角133を定義する。ラムダ(λ)の値が小さくなると、より小さい角度ベータ(β)が有利に与えられる。チェーン110が真っ直ぐに引っ張られるとき、ラムダ(λ)は外側歯面137の真っ直ぐな「接触」または「作動」部分に対して測定されることに留意されたい。すべてのピン中心Cが単一の線の上にあるとき、チェーンの第1および第2の連続列は、真っ直ぐに引っ張られっているものと見なされる。外側歯面137の作動部分は、チェーン110と噛合されるように意図されたすべてのスプロケット歯数に対して外側歯面接触位置OFがある領域である(
図7および7Aを参照)。面取り部138は、チェーン110と噛合されることが意図されたすべてのスプロケット歯数に対してスプロケット歯に接触しないので、外側歯面137の「非接触」または「非作動」部分と称される。平坦である必要のない面取り部138は、スプロケット50と初期接触ICする必要がある隣接リンク列の前方内側歯面136(
図6および6A参照)の少なくとも一部が、前方内側歯面136が本明細書に記載されるようなスプロケットと確実に初期接触するように、すべての製造許容範囲条件に対して十分な距離だけ先行するリンク列すなわち下流のリンク列に対して常に外向きに突出することになる。
【0042】
チェーン110は、
図6および6Aに示すような従来型のスプロケット50と、チェーン駆動システム115を定義する同じ歯数または異なる歯数の少なくとも1つの他の従来型スプロケット50とに噛合することになる。
図6および6Aでは、チェーンリンク列130cは、スプロケット50のスプロケット歯60cとの噛合開始時にある(通常は各列130a、130b、130cなどの前面に見える1個のチェーン・リンク・プレート130のみを参照することになるが、各列は各列に配置された複数のチェーン・リンク・プレート130を含むことを当業者は認識するであろう)。一連のピン中心Cは、これを互いに区別するために番号C1、C2、C3、C4などが付けられる。列130cは、対応するスプロケット歯60cとの初期噛合接触の時点、すなわち、チェーン・リンク・プレート前方内側歯面136と、係合歯面62cの初期接触位置ICにおけるスプロケット歯60cの係合歯面62cとの間の初期接触の時点で示される。初期接触角シータ(θ)は、スプロケットの回転軸を起点として接線TLに垂直に延びる第1の半径方向基準線L1と、スプロケットの回転軸を起点として対象のスプロケット歯60c歯中心を通って延びる第2の半径方向基準線TCとの間の角度として定義される。先行スプロケット歯60bの噛合サイクルは既に完了しており、リンク列130bの前方ピン中心C1(リンク列130aの後方ピン中心Cでもある)は、リンク列130aの後方外側歯面137と、位置OFにおけるスプロケット歯60bの係合歯面62bとの接触によって制御されるピッチ直径PD上に位置する。リンク列130bは、その前方内側歯面136もその後方外側歯面137もスプロケット50に直接接していない、前述の「浮遊状態」にある。ピン中心C1は、噛合リンク列130cの前方ピン中心C2に対して最も近い(チェーン移動方向に関して)先行するすなわち下流のピン中心Cであることから「制御ピン中心」と見なされる(制御ピン中心C1は、最も近い(チェーン移動方向に関して)完全噛合されたリンク列130aの後方ピン中心でもある)。したがって、以下の関係が定義される。
【0043】
−噛合接触角タウ(τ)が、接線TLと、制御ピン中心C1および初期接触位置ICの両方を通過する初期接触基準線170との間で定義される。
【0044】
−初期接触基準線170が、制御ピン中心C1と初期接触位置ICとの間の長さLのレバーアームを定義する。
【0045】
−リンクプレート入口角ベータ(β)が、初期接触基準線170と、内側歯面半径Rおよび初期接触位置ICの円弧中心179を通過する内側歯面基準線174との間で定義される(内側歯面基準線174は、スプロケット歯60cの係合歯面62cのインボリュート曲線(または半径方向の円弧部分または他の曲面)に垂直になる)。
【0046】
−噛合衝撃角シグマ(σ)が、接線TLと内側歯面基準線174との間で定義され、すなわち、σ=τ+βである。
【0047】
図6Aでは、噛合衝撃角シグマ(σ)およびその成分角は、接線TLに平行であり、力ベクトルF
Hに一致する、初期接触位置ICを通って延びる基準線172に対して示される。
図6および6Aに示すように、
図1および3の先行技術チェーン10とは違って、チェーン110のリンクプレート130の形状は、スプロケット歯60cがリンク衝撃力F
Lおよび結果として得られる衝撃エネルギーEを低減するためにチェーンスパンからリンク列130cを受け止めるとき、スプロケット歯60cと、リンクプレート130の前方内側歯面136におけるチューンリンク列130cとの間の初期接触位置ICにおける初期噛合衝撃形態を最適化するように設計される。したがって、リンクプレート130の形状によって、チェーンとスプロケットの噛合現象に関連する騒音および振動レベルが低減される。
図7および7Aに関連して以下でさらに説明するように、改善されたリンクプレート形状130は、先行リンク列130bの後方外側歯面137における、後続の完全弦噛合接触OFへの移行に対しても最適化された噛合接触形態をもたらし、同一歯の噛合過程を完結させる。
【0048】
本発明に従ってリンクプレート130を設計するために、リンクプレート130cの内側歯面136は、スプロケット歯60cとの所望の初期接触位置ICの関数として決定され、これは好ましくは、チェーン110とともに使用される一群(歯数の範囲)のスプロケットの最小または最小に近い歯数のスプロケットサイズ(歯数)に対して確立される(システム115では、歯数が変ると初期接触位置ICが変る)。しかしながら、外側歯面137はこれ以前に既に決定されている。これは、直近の完全噛合リンク列(この場合リンク列130a)の外側歯面137が噛合リンク列130b、130cを位置決めする働きをするからである。次いで、リンクプレート130の内側歯面136のプロファイルを、その初期噛合衝撃(初期接触)IC回転位置において確立することができる。
【0049】
前述のように、
図6、6Aに示すような噛合衝撃角σは、次式によって定義される。
【0051】
ここで、τはリンクプレート噛合接触角であり、βは噛合衝撃の開始時におけるリンクプレート入口角である。歯の衝撃反力F
Sは一定のチェーン張力C
Tに対する噛合衝撃角σの大きさによって変動するので、内側歯面136の形状を確立するときに噛合衝撃角σをできる限り小さくすると有利である。
【0052】
さらに
図6Aを参照すると、制御ピン中心C1および噛合接触角τの回転位置は、噛合形態およびリンクプレート荷重を最もよく満足する働きをする内側歯面136の所望の領域に初期接触位置ICを置くように選択される。
図5Cに示すように、図示されたピッチP=7.7mmのチェーンおよび噛合弦ピッチで定義されるスプロケット50に対して、内側歯面136の初期接触位置ICは、ピン中心基準線P
Rに垂直に測定される、リンクプレートのピン中心C(
図6および6Aのピン中心C2、C3)間で延びるピン中心基準線P
Rから所望の初期接触距離IC
Dで離間される。この所望の初期接触距離IC
Dは、チェーン110とともに使用される一群のスプロケット50(歯数の範囲)の最小歯数またはそれに近いスプロケット歯数に対して決定される。所与のリンクプレートに対する最適な初期接触距離IC
Dは、リンクプレート130の設計、特に本明細書で開示される内側歯面136の関数である。また、従来型のスプロケット50では、スプロケット50の歯数が変化するとIC
Dが変化する。
【0053】
騒音および振動を低減するように噛合衝撃角シグマ(σ)およびその成分角を制御するために、本発明に従って逆歯チェーンを設計するときにチェーン110と噛合するよう意図されたスプロケット50の全歯数に対して以下の関係を維持することが有益であると見なされている。
【0055】
それゆえ、スプロケット50およびチェーンがチェーンピッチP=7.7mmに対して設計されるシステム115では、IC
Dは3.773mm〜4.081mmの範囲になければならない。スプロケット50およびチェーンがチェーンピッチP=6.35mmに対して設計されるシステム115では、IC
Dは3.112mm〜3.366mmの範囲になければならない。この他の場合、チェーンピッチPを7.7mm〜6.35mmの値とすることができ、接触距離IC
Dの大きさはそれに応じて変化するが、それでも式0.49P≦IC
D≦0.53Pを満たしている。
【0056】
図6Aに示すように、基準線176は、初期接触位置ICにおけるスプロケット歯係合歯面62Cおよびリンクプレート内側歯面136の両方に対する接線である。それゆえ、内側歯面基準線174は、基準線176に垂直であり、したがって、初期接触位置ICにおける歯の歯面62Cのインボリュート面に垂直になる。基準線178は初期接触基準線170に垂直である。したがって、リンクプレート入口角ベータ(β)の大きさは、噛合接触角τの選択によって決まることになる。制御ピン中心C1の回転位置と噛合接触角τの選択とは、リンクプレート入口角βを実効的に定義し、したがって、噛合衝撃角σも定義する。
図6Aに図形で示すように、噛合衝撃反力F
Sは噛合衝撃角σが低減されるにつれて小さい値となる。リンクプレート130のプロファイルを定義するときは、ピン中心C1の回転の値、すなわち、制御ピン中心C1の回転位置と、以下の関係を満足する噛合接触角τを選択することが望ましい。初期噛合衝撃ICにおいて、
σ=(τ+β)≦34°、ここで、
β≦9°である。
【0057】
初期噛合衝撃ICにおいてσ=(τ+β)≦34°でかつβ≦9°であるシステムは、リンク衝撃力F
Lおよびそれによる衝撃エネルギーEを従来のシステム(前述の背景で述べた)と比べて低減する結果となる。
【0058】
図7および7Aはそれぞれ
図4および4Aに対応し、
図7および7Aではチェーン110の同時噛合接触を示している。したがって、
図7は、
図6に類似しているが、先行リンク列130bの後方外側歯面137がスプロケット歯60cの係合歯面62cと外側歯面接触位置OFにおいて接触し、同時に、リンク列130cの前方内側歯面136も係合歯面62cと位置IFにおいて接する瞬間までの噛合サイクルの間に、スプロケット50がさらに回転する図となっている。前述したように、歯60cが、リンク列130cの前方内側歯面136との内側歯面のみの接触から、外側歯面接触点OFで先行リンク列130bの後方外側歯面137と外側歯面接触もするように移行する瞬間は、移行点と称され、歯60cの噛合サイクルの終点も定義する。これはリンク列130bがこのとき、ピッチ直径PD上にある前方ピン中心C1と後方ピンC2の両方で完全噛合しているからである。移行角ファイ(Φ)は、第1の半径方向基準線L1と歯60cの歯中心を通過する第2の半径方向基準線TCとの間で定義される。
【0059】
図7Aは、
図7の拡大部分図であり、以下を示す。
【0060】
−移行接触角タウ’(τ’)は、接線TLと、外側歯面接触位置OFおよび制御ピン中心C1の両方を通過する移行接触基準線180との間で定義され、移行現象に関して、制御ピン中心C1は、歯60cと位置OFにおいて後方外側歯面接触に移行するリンク列の前方ピン中心Cである。
【0061】
−移行接触基準線180は、制御ピンセンターC1と外側歯面接触位置OFとの間の長さL’のレバーアームを定義する。
【0062】
−リンクプレート移行角ベータ’(β’)は、移行接触基準線180と、後方外側歯面137に垂直に延びる外側歯面基準線184との間で定義される(外側歯面基準線184は、さらにスプロケット歯60cの係合歯面62cのインボリュート曲線(または半径方向の円弧部分などの曲面)に垂直である)。
【0063】
−移行衝撃角シグマ’(σ’)は、接線TLと外側歯面基準線184との間で定義され、σ’=τ’+β’である。
【0064】
結果として生じるリンクプレート移行角ベータ’(β’)と移行衝撃角シグマ’(σ’)とは、位置OFにおける後方外側歯面137の移行衝撃に対するリンク衝撃力F’
Lとその結果得られる衝撃エネルギーEとに影響する。
図6および6Aの特徴に対応する
図7および7Aにおける特徴は、ダッシュ(’)記号を含む対応する参照文字を示す表示がされており、そのすべてを必ずしもこれ以上議論しないことに留意されたい。また、
図7では、移行衝撃角シグマ’(σ’)およびその成分角は、接線TLに平行であり、力ベクトルF’
Hに一致する外側歯面接触位置OFを通って延びる基準線182に対して示される。位置OFにおける後方外側歯面137のこれらの移行衝撃は、位置ICにおける前方内側歯面136の前述の初期噛合衝撃に比べて騒音および振動に対する寄与は小さいと考えられるが、移行衝撃角シグマ’(σ’)およびその成分角、すなわち、リンクプレート移行角ベータ’(β’)および移行接触角タウ’(τ’)は、システム115における騒音および振動のさらなる最小化のために望ましいと考えられる。
【0065】
噛合衝撃角σおよび移行衝撃角σ’を制御して最適化する能力は、チェーン110が表1で定義される通常の圧力角で定義された歯を有するスプロケット50など、通常のスプロケットのみと噛合しなければならないときに制限される。本発明の代替実施形態によると、従来型のスプロケット50とチェーン110との噛合から生じる騒音および振動は、システム115の少なくとも1つの従来型のスプロケット50を
図8に示すようにシステム115’を定義するために修正されたスプロケット150に置き換えることによってさらに低減されうることが究明されている。
図8は、スプロケット150の係合歯面162cとの噛合開始時におけるチェーン110のリンク列130cを示す。
図8には示されていないが、スプロケット150と完全に噛合されるチェーン110のリンク列130は、
図7Aに関して前述したように、それぞれの係合歯面162との外側歯面接触OFにおいてそれらの後方外側歯面137を有しており、すなわち、内側歯面接触IFから外側歯面接触OFへの移行はシステム115と同様にシステム115’に対して起こる。前述のように、チェーン110は、リンクピッチP≦7.7mmで定義され、修正されたスプロケット150はこれと噛合する対応ピッチで定義される。それゆえ、システム115’は、修正されたスプロケット150と、同じ歯数または異なる歯数でしかも従来型のスプロケット50または別の修正されたスプロケット150である少なくとも1つの他のスプロケットとに噛合されるチェーン110によって定義される。従来型のスプロケット50の特徴に対応する修正されたスプロケット150の特徴は、従来型のスプロケット50と関連して使用されるものよりも100だけ大きい参照番号を用いて識別される。修正されたスプロケット150は、修正されたスプロケット150の歯160が各スプロケット歯数N(表3参照)に対して異なる圧力角PAを有するように定義されることを除いて、従来型のスプロケット50と同じである。スプロケット歯160の圧力角PAの範囲を表2に示す。
【0067】
システム115’の設計意図は、騒音および振動を低減するために、0.49P≦IC
D≦0.53Pである先に指定した範囲の所望の特定初期接触距離IC
D、所望の特定噛合衝撃角シグマ(σ)≦33°、および所望の特定リンクプレート入口角ベータ(β)≦9°を得ることである。さらに具体的に、所与のピッチPの各歯数Nに対して変化する歯圧力角PAを有するスプロケット150を用いると、IC
D、シグマ(σ)、およびベータ(β)は、システム115’においてチェーン110とともに使用されるように一群のスプロケット150に対する6.35mm〜7.7mmの範囲にある所与のチェーンピッチPのすべての歯数Nに対して一定に保たれ、さらに以下の関係を満足するシステム115’を設計することが可能である。
【0068】
0.49P≦IC
D≦0.53P
シグマ(σ)≦33°
ベータ(β)≦9°
【0069】
したがって、スプロケット歯60の圧力角PAが通常のものでありかつ固定値(表1参照)を有するシステム115とは違って、システム115’は、チェーン110とともにスプロケット150(その修正された圧力角PAを有する)を使用して、また、システム内の1つまたは複数のスプロケットのスプロケット歯形状を変更することが現実的でない場合には少なくとも1つの従来型のスプロケット50を使用して、所望の噛合形態あるいは最適化された噛合形態を実現することができる。表3は、6.35mm〜7.7mmの範囲の様々なリンクピッチPに対するシステム115’の複数の実施例を示す。スプロケット歯160の圧力角PAは、IC
D、シグマ(σ)、およびベータ(β)を一定かつシステム115’の所要制限内に保つために、所与のチェーンピッチPに対して歯数Nに逆比例して変化することが分かる。チェーン・リンク・ピッチPの値は実施例にすぎず、チェーン・リンク・ピッチPの他の値が検討されており本発明の範囲および目的に含まれることが意図されている。
【0071】
システム115’がチェーン110と噛合される従来型のスプロケット50をも含む場合、従来型のスプロケット50とチェーン110の噛合ダイナミックスは、
図6〜7Aに関して先に開示したシステム115に従っているが、チェーン110が修正されたスプロケット150と噛合されるシステム115’の部分は、
図8に関して開示されるような噛合ダイナミックスを示す。
【0072】
本発明のもう1つの代替実施形態によると、チェーン110は
図9、9A、9B、9Cに示すように修正されたチェーン210に置き換えられ、チェーン210は、システム215を定義するために
図10に示すような本発明のもう1つの代替実施形態に従って形成される新たな修正されたスプロケット250と噛合するように定義される。チェーンおよびスプロケット駆動システム215は、スプロケット250と噛合されるチェーン210と、スプロケット250の構造に従って定義される少なくとも1つの他のスプロケット(同じまたは異なる歯数を備える)とによって定義される。チェーン210は、6.35mm〜7.7mmで変動しうるリンクピッチPを有しており、スプロケット250のピッチはチェーン210に適合するように変化する。
【0073】
本明細書の別段の図示および記述を除いて、
図9、9A、9B、9Cに示すチェーン210は、チェーン110と同じであり、同様の構成要素はチェーン110に使用した参照番号よりも100だけ大きい参照番号で標識される。チェーン210の内側歯面236は、凸面円弧形を有しており、内側歯面は好ましくは隣接するリンク列の外側歯面237に対して関係0.007P≦λ≦0.017Pを満足するように突出量ラムダ(λ)だけ外向きに突出しており、ここで、Pはチェーンピッチの長さに等しい。内側歯面236は、以下の関係、
P≦R<2P
を満足するように形成されており、ここで、Rは内側歯面236の曲率半径であり、Pはチェーンピッチの長さである。各内側歯面236は、円弧中心279に中心がある半径Rによって定義され、かつ股部235から先端239まで延びる半径の円弧部分によって定義される(
図11A)。
【0074】
同様に、スプロケット250は、本明細書の別段の図示および記述を除いてスプロケット50と同じであり、同様の特徴はスプロケット50に使用した参照番号よりも200だけ大きい参照番号で標識される。スプロケット250は、従来型のスプロケット50に関して表1に示すような通常の圧力角よりも小さく、表2に示すようなスプロケット150の調整された圧力角PAよりもやはり小さい圧力角PAで定義される歯260(260a、260b、260cなど)を含み、結果的に、それぞれのスプロケット50、150の係合歯面62、162に比べて係合歯面262(262a、262b、262cなど)がより急峻となる。スプロケット250の圧力角範囲を以下の表4に示す。
【0076】
図10Aは、歯中心TCを中心として対称に定義される係合歯面262cおよび離合歯面264cを含む、スプロケット250の歯260cを実線で示す。従来型のスプロケット50の歯60cは、極めて細い線で重ねて示されている。比較的小さい圧力角で定義される歯面262c、264cは、通常の圧力角で定義される歯面62c、64cに比べてはるかに急峻であることが分かる。基準線76および176は、初期接触位置IC
10、IC
110における係合歯面62cに対するそれぞれの接線であり、初期接触位置IC
10はチェーン10の初期接触位置を表わし、初期接触位置IC
110はチェーン110の初期接触位置を表わす。基準線276は、チェーン210の噛合リンク列230の前方内側歯面236が、係合歯面262cと初期噛合接触する初期接触位置IC
210における係合歯面262cの接線である。基準線276は、係合歯面262cの比較的小さい圧力角から得られる、基準線176と歯中心基準線TCとの間で定義される角度に比べて歯中心基準線TCと小さい角度を定義する。
【0077】
チェーン210およびスプロケット250が、チェーン110およびスプロケット50の代りに示されていることを除いて、
図11および11Aは
図6および6Aにそれぞれ対応し、
図12および12Aは
図7および7Aにそれぞれ対応する。したがって、ここでは
図11、11A、12、12Aをさらに説明しない。ただし、スプロケット歯圧力角PAを減少させ、それに応じて、外側歯面角Ψを減小させることによって、スプロケット250と噛合するチェーン210に対する噛合衝撃角シグマ(σ)および移行衝撃角シグマ’(σ’)は、いずれも、従来型のスプロケット50または修正されたスプロケット150と噛合するチェーン110に対する噛合衝撃角シグマ(σ)および移行衝撃角シグマ’(σ’)と比べて低減されることが望ましい。したがって、衝撃エネルギーEおよび歯の衝撃反力F
Sは、従来型のスプロケット50を使用するシステム115と修正されたスプロケット150を使用するシステム115’とに比べてさらに低減されることになる。
【0078】
特に、修正された圧力角を備えるスプロケット250の場合、噛合衝撃角σは、以下のように、騒音および振動をさらに改善するように制御されうる。
【0079】
σ=(τ+β)≦31°(内側歯面初期噛合接触ICの場合)
【0080】
ここで、β≦7°である。このような場合、チェーン210がスプロケット250と適切に噛合するために、外側歯面角Ψも
Ψ≦27°
のように低減されなければならない。これは移行衝撃角σ’=(τ’+β’)≦26°(外側歯面完全噛合接触OFの場合)を低減することにつながり、ここでβ’≦8.5°である。したがって、システム215(システム115、115’とは対照的に)の場合、IC
D、シグマ(σ)、およびベータ(β)に関する所望の噛合形態または最適化された噛合形態は、前述のようにそしてさらに後述のように、チェーン・リンク・プレート形状(リンクプレート230)、およびスプロケット歯圧力角PA(スプロケット歯260)の両方をさらに修正することによって実現される。
【0081】
以下の
図5は、前述の開示されたシステム15、115、115’、および215に対して結果として生じる噛合衝撃角シグマ(σ)およびリンクプレート入口角ベータ(β)に対するさらなるデータを示す。
【0083】
図9Cを再び参照すると、リンク列の前方内側歯面236と先行するリンク列の後方外側歯面237を含む、チェーン210の大きく拡大された部分が示されている。スプロケット250と噛合するチェーン210の場合、初期接触位置ICは、ピン中心基準線P
Rに対して垂直に測定される、リンクプレート230のピン中心C間で延びるピン中心基準線P
Rから距離IC
Dにおいて前方内側歯面236上に位置することになる。チェーン210が、チェーン210と噛合するように意図された最小歯数と最大歯数の間の歯数Nを有する一群のスプロケット250と噛合するように設計される場合は、外側歯面接触位置OFおよび内側歯面移行接触位置IFは、スプロケット歯数Nおよび圧力角に応じて変化することになる。
【0084】
以下の表6は、スプロケット歯数Nが19から50に変化し、スプロケット弦ピッチおよびチェーンピッチP=7.7mm、λ=0.075であり、ベータ(β)およびシグマ(σ)に対する前述の要求を満足するシステム215の一実施例を示す。
【0086】
初期接触位置ICを内側歯面236の好ましい位置(距離IC
Dによって定義される)に置くとともに、ITチェーンシステム215においてスプロケット歯圧力角PAを変化させる能力によって、前述のように衝撃エネルギーEが低減されるようにベータ(β)およびシグマ(σ)が最適化されうる(β≦7°、σ≦31°)ことを当業者は認識するであろう。前述のように、チェーン210を設計するとき、IC
Dは0.49P≦IC
D≦0.53Pの範囲に入るように設定される。また、上の表6に反映されるように、歯数Nが所与のチェーンピッチPに対して最小歯数から最大歯数に及ぶときスプロケット250の歯圧力角PAを変える能力は、歯数が変化するときでも噛合衝撃角シグマ(σ)およびリンクプレート入口角ベータ(β)を一定に保つことができる。
【0087】
表7は、表6に似ており、同じリンクプレート230が両表のチェーン210に使用されているが、スプロケット250の圧力角PAは、図示のようにわずかに変更されており、シグマ(σ)、ベータ(β)、およびIC
D値をさらにシフトする働きをし、これらの値を前述の制限値内になお保っていることに留意されたい。さらに、表7は、7.7mm〜6.35mmの範囲の様々なチェーン・リンク・ピッチPに対するシステム215の複数の実施例を示す。各ピッチPでは、歯数NがピッチPに対して最小歯数から最大歯数まで変化するにつれて、スプロケット歯260の圧力角PAは、各ピッチPに対する歯数Nに逆比例して変化し、IC
D、シグマ(σ)、およびベータ(β)を一定にかつシステム215の所要制限値内に保つ。チェーン・リンク・ピッチPの値は、例にすぎず、チェーン・リンク・ピッチPの他の値が検討されており、本発明の範囲および目的に含まれることが意図されている。
【0089】
図13は、本発明に従って形成された逆歯チェーンシステムAを示しており、下にあるリンクプレートを明らかに示すためにガイドプレートの一部が取り除かれている。システムAは、第1のスプロケットBと、第2のスプロケットCと、スプロケットB、Cの1つからトルクを他のスプロケットB、Cに伝達する第1および第2のスプロケットB、Cの両方と噛合される逆歯チェーンDとを備える。図に示すように、スプロケットBはクランクシャフトスプロケットなどの駆動スプロケットであり、スプロケットCはクランクシャフトスプロケットまたはその他の被駆動スプロケットなどの被駆動スプロケットである。図に示すように、スプロケットBは歯数Nを有し、スプロケットCは歯数2Nを有するが、歯数は等しくてもよく、反対に等しくなくてもよい。本発明に従って実現可能な組合せを以下の表8に要約する。
【0091】
スプロケットBおよびスプロケットCの両方がスプロケット150である(表8、行4、システム115’)か、またはスプロケットBおよびスプロケットCの両方がスプロケット250である(表8、行5、システム215)システムAにおいて、チェーンとスプロケットの間で定義される噛合衝撃角シグマ(σ)およびリンクプレート入口角ベータ(β)は、システム115’、215の可能な歯数の範囲内のすべての歯数に対してスプロケットがたとえ異なる歯数を有する場合でも、両スプロケットB、Cに関して等しいことに留意されたい。これにより、両スプロケットB、Cがスプロケット150またはスプロケット250として提供されるときに噛合衝撃角シグマ(σ)およびリンクプレート入口角ベータ(β)が両スプロケットB、Cに対して最適化され、かつ制御されうることが確保される。
【0092】
本発明を好ましい実施形態を参照して説明してきた。当業者は、好ましい実施形態に対する修正および変更が可能であることを認識するであろう。開示された好ましい実施形態は以下の特許請求の範囲を限定するものではなく、特許請求の範囲は文字通りにあるいは均等論に従って可能な限り広く解釈されるべきである。