(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記能動要素は、抵抗加熱器、ペルチェクーラー、物理センサー、化学センサー、生物学的センサー、光源、及び、これらの組み合わせからなるグループから選択される、請求項3のマイクロ流体システム。
第1の端部と第2の端部を有するマイクロ流体チャネルのネットワークを備えるマイクロ流体システムであって、前記第1の端部と前記第2の端部は、端部−チャネル交差部において種々のやり方で互いに結合されており、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルがポンプチャネルであり、
第1の流体アクチュエーターであって、該第1の流体アクチュエーターは、該第1の流体アクチュエーターと前記第1の端部の間に前記ポンプチャネルの短い側を画定し、かつ、該第1の流体アクチュエーターと前記第2の端部の間に前記ポンプチャネルの長い側を画定するために、該ポンプチャネルの前記第1の端部の近くに配置され、該第1の流体アクチュエーターは、前記ポンプチャネルの前記第1及び第2の端部に向かって伝搬する波を生成し、及び、前記第1の端部から前記第2の端部に向かう第1の方向に前記ポンプチャネルを通る一方向の流体流れを生成する、第1の流体アクチュエーターと、
第2の流体アクチュエーターであって、該第2の流体アクチュエーターは、該第2の流体アクチュエーターと前記第2の端部の間に前記ポンプチャネルの短い側を画定し、かつ、該第2の流体アクチュエーターと前記第1の端部の間に前記ポンプチャネルの長い側を画定するために、該ポンプチャネルの前記第2の端部の近くに配置され、該第2の流体アクチュエーターは、前記ポンプチャネルの前記第1及び第2の端部に向かって伝搬する波を生成し、及び、前記第2の端部から前記第1の端部に向かう第2の方向に前記ポンプチャネルを通る一方向の流体流れを生成する、第2の流体アクチュエーターと、
前記ポンプチャネルを通る双方向の流体流れを生成するために前記第1及び第2の流体アクチュエーターを選択的に作動させるためのコントローラ
を備えるマイクロ流体システム。
【発明を実施するための形態】
【0005】
課題とその解決策(ソリューション)の概要
上記したように、マイクロ流体デバイスにおいて流体を制御乃至管理する従来の方法は、マイクロメートルのスケールではない外部装置及びポンプ機構を使用する。これらのソリューションには、マイクロ流体システムの応用範囲を制限しうるいくつかの不都合がある。たとえば、マイクロ流体デバイス内に流体を注入して流体の流れを生成するために、外部の注射器及び空気ポンプが使用されることがある。しかしながら、外部の注射器及び空気ポンプは大きくて、取り扱うのも設定するのも難しく、接続の信頼性も低い。これらのタイプのポンプは、マイクロ流体デバイス/チップが適合することができる外部の流体接続の数によって、その多用性の点でも制限を受ける。
【0006】
別のタイプのポンプは、一組の細い毛管の流体充填の原理に基づいて動作するキャピラリーポンプ(毛管ポンプ)である。この場合、該ポンプは単一パス機能しか提供しない。該ポンプは完全に受動的であるので、流体の流れは、該構造中に「固定化されており」、再設定することができない。電気泳動ポンプを使用することもできるが、特殊なコーティング、複雑な三次元幾何学構造、及び高い動作電圧が必要である。これらの全ての特性は、このタイプのポンプの適用範囲を制限する。他のタイプのポンプとして蠕動及び回転ポンプがある。しかしながら、それらのポンプは、可動部を有しており、小型化が難しい。
【0007】
本開示の実施形態は、マイクロ流体システム及びデバイスにおける流体管理(流体制御ともいう)の従来のソリューションを改善するものであり、かかる改善は、一般的にいうと、流体アクチュエーターを有する一体化された(すなわち、組み込み式の)慣性ポンプを有する複雑で多用性のあるマイクロ流体ネットワークを可能にする改良されたマイクロ流体デバイスによって達成される。開示しているマイクロ流体ネットワークは、一次元及び/または二次元及び/または三次元のトポロジーを有することができ、したがって、また、かなり複雑なものとなりうる。ネットワーク内の流体チャネルのエッジの各々は、1つの流体アクチュエーターまたは2つ以上の流体アクチュエーターを含むことができ、または、流体アクチュエーターを含まない場合もある。非対称な位置でマイクロ流体ネットワークチャネルに組み込まれている流体アクチュエーターは、該チャネルを単一方向に通る流体流れ(流体流れとは、流体の流れのこと)と二方向に通る流体流れの両方を生成することができる。ネットワーク内の複数のマイクロ流体チャネルの端部に近い側に非対称に配置されている複数の流体アクチュエーターを選択的に作動させることによって、該ネットワーク内の任意の方向及び/または一定方向に(流れるように)制御された流体流れパターンを生成することが可能になる。さらに、流体アクチュエーターの機械的な動作または動きを時間的に制御することによって、流体ネットワークチャネルを通る流体流れの方向制御が可能になる。したがって、いくつかの実施形態では、単一の流体アクチュエーターの前進ストロークと後退ストローク(すなわち、圧縮性流体変位と伸張性流体変位)を正確に制御することによって、ネットワークチャネル内の二方向の流体流れを提供することができ、及び、該ネットワーク内の任意の方向及び/または一定方向に制御された流体流れパターンを生成することができる。
【0008】
流体アクチュエーターを、熱気泡抵抗(thermal bubble resistor)アクチュエーター、圧電膜(piezo membrane)アクチュエーター、静電(MEMS)膜アクチュエーター、機械駆動式/インパクト駆動式膜アクチュエーター、ボイスコイルアクチュエーター、磁歪駆動アクチュエーターなどの種々のアクチュエーターメカニズムによって駆動することができる。流体アクチュエーターを、従来の微細加工処理を用いてマイクロ流体システムに組み込むことができる。これによって、任意の圧力及び流れ場を有する複雑なマイクロ流体デバイスが可能になる。マイクロ流体デバイスは、抵抗加熱器(抵抗ヒーター)、ペルチェクーラー(Peltier cooler)、物理センサー、化学センサー、生物学的センサー、光源、及び、それらの組み合わせなどの種々の組み込まれた(すなわち一体化された)能動要素を含むこともできる。マイクロ流体デバイスは、外部の流体容器(たとえば、流体を貯蔵可能なタンク)に接続される場合もあれば接続されない場合もある。開示されているマイクロ流体デバイス及びネットワークの利点には、一般的に、マイクロ流体システムを動作させるのに必要な装置乃至機材が少なくなることが含まれるが、これによって、機動性が向上し、かつ、適用可能な応用範囲が広くなる。
【0009】
1実施形態では、マイクロ流体システムは、容器の両方の端部に結合された流体チャネル(以下、単にチャネルともいう)を含む。流体アクチュエーターは、該チャネル内に非対称に配置されて、慣性特性が違いに異なる、該チャネルの長い側と短い側を形成する。流体アクチュエーターは、該チャネルの両端部に向かって伝搬する波を生成し、及び、該チャネルを通る一方向の正味の流体流れを生成する。コントローラは、流体アクチュエーターを選択的に作動させて、該チャネルを通る一方向の正味の流体流れを制御することができる。1実施例では、流体アクチュエーターは、チャネルの第1の端部の近く(すなわち、他方の端部である第2の端部よりも第1の端部に近い位置)に配置された第1の流体アクチュエーターであり、第2の流体アクチュエーターは、チャネルの第2の端部の近く(すなわち、第1の端部よりも第2の端部に近い位置)において該チャネル内に非対称に配置されている。コントローラは、第1の流体アクチュエーターを作動させて、第1の端部から第2の端部へと第1の方向に該チャネルを通る正味の流体流れを生じさせることができ、及び、第2の流体アクチュエーターを作動させて、第2の端部から第1の端部へと第2の方向に該チャネルを通る正味の流体流れを生じさせることができる。
【0010】
別の実施形態では、マイクロ流体システムは、第1及び第2の端部を有するマイクロ流体チャネルのネットワークを含む。該チャネルの端部は、端部−チャネル交差部で互いにさまざまなやり方で結合される。少なくとも1つのチャネルがポンプチャネルであり、該ポンプチャネルは、自身の両側の端部間に非対称に配置されている流体アクチュエーターによって区別された短い側と長い側を有している。流体アクチュエーターは、ポンプチャネルの両端部に向かって伝搬する波を生成し、この波によって、該ポンプチャネルを一方向に通る正味の流体流れが生じる。1実施例では、該チャネル内に組み込まれた(すなわち、該チャネルに一体化されている)第2の流体アクチュエーターが、ポンプチャネルの第2の端部の近く(すなわち、第1の端部よりも第2の端部に近い位置)に非対称に配置されており、コントローラが、第1及び第2の流体アクチュエーターを選択的に作動させて、ネットワークを二方向に通る流体流れを生じさせることができる。別の実施例では、追加の流体アクチュエーターが、複数のマイクロ流体チャネルの第1及び第2の端部の近く(第1の端部の近くとは、第2の端部よりも第1の端部の近くにあることを、第2の端部の近くとは、第1の端部よりも第2の端部の近くにあることを意味する)に非対称に配置されており、コントローラが、該流体アクチュエーターを選択的に作動させて、該ネットワークを通る方向が制御された(たとえば、一定方向に流れるように制御された)流体流れパターンが生じるようにすることができる。
【0011】
ある別の実施形態では、マイクロ流体ネットワークは、第1の平面(プレーン)内にマイクロ流体チャネルを有し、これによって、該第1の平面内のネットワークを通る二次元の流体流れを容易にしている。該第1の平面内のマイクロ流体チャネルは、該第1の平面内の別のマイクロ流体チャネルをまたいで、該別のマイクロ流体チャネルと交差しないように第2の平面中へと延在し、これによって、第1及び第2の平面内のネットワークを通る三次元の流体流れを容易にしている。能動要素が少なくとも1つのマイクロ流体チャネルに組み込まれている。(複数の)流体アクチュエーターが、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル内に非対称に組み込まれており、コントローラが、該流体アクチュエーターを選択的に作動させて、該ネットワーク内を一定方向に流れるように制御された流体流れパターンが生じるようにすることができる。
【0012】
ある別の実施形態では、マイクロ流体ネットワーク内に正味の流体流れを生成する方法は、ある持続時間中、時間的に非対称な圧縮性流体変位と伸張性流体変位を生成することを含む。これらの変位は、マイクロ流体チャネル内に非対称に組み込まれている流体アクチュエーターを用いて生成される。
【0013】
ある別の実施形態では、マイクロ流体システムは、マイクロ流体ネットワークを含む。流体アクチュエーターは、該ネットワークのあるチャネル内に非対称な位置に組み込まれて、該チャネル内に持続時間が互いに異なる圧縮性流体変位と伸張性流体変位が生成されるようにする。コントローラは、該流体アクチュエーターの圧縮性流体変位及び伸張性流体変位の持続時間を制御することによって、該チャネルを通る流体流れの方向を調整する。
【0014】
ある別の実施形態では、マイクロ流体ネットワーク内の流体流れを制御する方法は、マイクロ流体チャネル内に非対称に配置されている流体アクチュエーターを用いてマイクロ流体チャネル内に非対称な流体変位を生成することを含む。
【0015】
例示的な実施形態
図1は、本開示の1実施形態にしたがう、(本明細書に開示されている)マイクロ流体デバイス、ネットワーク、及び慣性ポンプを組み込むのに適したマイクロ流体システム100を示す。マイクロ流体システム100を、たとえば、分析システム、マイクロエレクトロニクス冷却システム、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムなどの核酸増幅システム、または、同じ体積の流体の使用及び/または操作及び/または制御を伴う任意のシステムとすることができる。マイクロ流体システム100は、広範なマイクロ流体応用を可能にするために、典型的には、マイクロ流体チップ(たとえば「ラボオンチップ」)などのマイクロ流体デバイス102を実装している。マイクロ流体デバイス102は、一般的に、流体をネットワーク中を循環させるための慣性ポンプを具備するチャネルを有する1以上の流体ネットワーク103を備える。一般に、マイクロ流体デバイス102の構造及びコンポーネント(構成要素)を、電鋳法、レーザーアブレーション、異方性エッチング、スパッタリング、ドライエッチング、写真平板(フォトリソグラフィー)、キャスティング、成形(モールディング)、スタンピング、機械加工、スピンコーティング、積層法などの従来の集積回路微細加工技術を用いて製造することができる。マイクロ流体システム100は、流体をマイクロ流体デバイス102に供給し及び/または循環させるための外部の流体容器(たとえば液体タンク)104を含むこともできる。マイクロ流体システム100はまた、電子制御装置(電子コントローラ)106、並びに、マイクロ流体デバイス102、該電子制御装置106、及び、システム100の一部とすることができる他の電気的構成要素(電気コンポーネント)に電力を供給するための電源108を備える。
【0016】
電子制御装置(以下、コントローラという)106は、典型的には、プロセッサ、ファームウェア、ソフトウェア、揮発性及び不揮発性のメモリー要素を含む1以上のメモリー要素、マイクロ流体デバイス102及び流体容器104と通信乃至連絡し及びそれらを制御する他の電子機器乃至電子部品を備える。したがって、コントローラ106は、プログラム可能であって、典型的には、メモリー(記憶装置)に格納されて、マイクロ流体デバイス102を制御するために実行可能な1以上のソフトウェアモジュールを有している。かかるモジュールは、たとえば、
図1に示すように、流体アクチュエーター選択、タイミング及び頻度モジュール110、及び、流体アクチュエーター非対称作動モジュール112を含むことができる。
【0017】
コントローラ106はまた、コンピュータなどのホストシステムからデータ114を受け取って、該データ114をメモリーに一時的に保存することができる。典型的には、データ114は、電子式伝送経路、赤外線伝送経路、光学式伝送経路、または、他の情報伝送経路に沿ってマイクロ流体システム100に送られる。データ114は、たとえば、マイクロ流体デバイス102内の流体流れを制御するための実行可能命令及び/またはパラメータであって、コントローラ106に格納されているソフトウェア/ファームウェアモジュールにおいて単独で、または、他の実行可能命令と共に使用される。プログラム可能なコントローラ106上で実行可能な種々のソフトウェア及びデータ114は、マイクロ流体デバイス102のネットワークチャネル内に組み込まれている流体アクチュエーターの選択的作動を可能にすると共に、そのような作動による圧縮性変位及び伸張性変位のタイミング、頻度、及び持続時間の正確な制御を可能にする。流体アクチュエーターの制御を容易に変更可能(すなわち、プログラム可能)であることによって、所与のマイクロ流体デバイス102において多くの流体流れパターンをオンザフライで(すなわち動作中に)利用することが可能になる。
【0018】
図2は、本開示のいくつかの実施形態にしたがう、マイクロ流体デバイス102内に実施するのに適した、一体化された(すなわち、組み込み式の)慣性ポンプ200を有する、閉じた、一方向及び一次元(すなわち線形)の流体ネットワーク103のいくつかの例(A、B、C、D)を示す。本明細書において、「閉じた」ネットワークとは、外部流体容器に接続されないネットワークを意味し、「一方向」ネットワークとは、一つの方向だけに流れる流体流れを生成するネットワークを意味し、一次元ネットワークは、線形ネットワークを意味する。慣性ポンプ200は、一般的に、ポンプチャネル206の一方の端部の近く(すなわち、他方の端部よりも該一方の端部の近い位置)に非対称に配置されている一体化された(すなわち、組み込み式の)流体アクチュエーター202を具備する該ポンプチャネル206を備える。後述するいくつかの実施形態では、ネットワークチャネル204自体がポンプチャネル206として機能することに留意されたい。
図2に示す例示的な慣性ポンプ200の各々は、ポンプチャネル206を介して流体をネットワークチャネル204間(チャネル1と2の間)で移動させるための流体ポンプアクチュエーター202を有している。この例では、各ネットワークチャネル204は、ポンプチャネル206の各端部における流体容器として機能する。ネットワーク103(A、B、C、D)は、一方の端部から他方の端部に流体が流れる一次元(すなわち線形)型であるが、ネットワークチャネル204(チャネル1及び2)の端部に示されている破線によって、いくつかの実施形態では、ネットワークチャネル204は、追加の次元(すなわち、二次元及び三次元)を有するより大きなネットワーク103の一部としてより遠くに延びることができることを示すことが意図されており、その場合には、ネットワークチャネル204は、そのようなより大きなネットワーク103の一部として他のネットワークチャネルと交差する。そのようなより大きなネットワークの例については後述する。
【0019】
図2のネットワークA、B、C、Dに示す4つの慣性ポンプ200の各々は、ポンプチャネル206の(他方の端部よりも)一方の端部に近い、ポンプチャネル206内の非対称な位置に配置されている単一の一体化された(すなわち組み込み式の)流体ポンプアクチュエーター202を備えている。
図2中の説明欄において示されているように、ネットワークA及びCのポンプ200中の流体アクチュエーター202は休止しており、すなわち、作動していない。したがって、ネットワークチャネル1と2(204)の間でポンプチャネル206を通る正味の流体流れは存在しない。しかしながら、ネットワークB及びDのポンプ200中の流体アクチュエーター202は作動しているので、ネットワークチャネル1と2(204)の間でポンプチャネル206を通る正味の流体流れが生じる。
【0020】
流体ダイオード特性(すなわち、流体の一方方向への流れ)は、ネットワークB及びDのように、流体アクチュエーター202がポンプチャネル206内に非対称な位置に配置された状態で、慣性ポンプ200を作動させることによって実現される。慣性ポンプチャネル206の幅が、該チャネル206が接続しているネットワークチャネル204(すなわちネットワークチャネル1及び2)の幅よりも小さい場合には、慣性ポンプ200の駆動力(または推進力)は、主に、ポンプチャネル206の特性(すなわち、ポンプチャネルの幅及びポンプチャネル内の流体アクチュエーター202の非対称性)によって決まる。ポンプチャネル206内の流体アクチュエーター202の正確な位置は、多少異なりうるが、いずれの場合でも、ポンプチャネル206の長さ(全長)に関して非対称である。したがって、流体アクチュエーター202は、ポンプチャネル206の中央点(で分割したときの2つの側のうち)の一方の側に配置される。所与の流体アクチュエーター202に関して、その非対称配置によって、ポンプチャネル206の短い側と長い側が画定される。したがって、ネットワークBの慣性ポンプ200内の作動している流体アクチュエーター202の非対称位置、すなわち、アクチュエーター202がより広いネットワークチャネル2(204)の方に近い位置にあることは、ネットワークチャネル2からネットワークチャネル1に向かう(すなわち、右から左に向かう)正味の流体流れを引き起こす、ポンプチャネル206内の流体ダイオード特性を基礎付けるものである。同様に、ネットワークDのポンプ200中の作動している流体アクチュエーター200がポンプチャネル206の短い側に位置していることによって、ネットワークチャネル1からネットワークチャネル2に向かう(すなわち、左から右に向かう)正味の流体流れが引き起こされる。ポンプチャネル206内の流体アクチュエーター202の非対称位置によって、ポンプチャネル206内の流体ダイオード特性(正味の流体流れ)を駆動する慣性メカニズムが生じる。流体アクチュエーター202は、ポンプチャネル206に沿って互いに逆の2つの方向に流体を押しやる、ポンプチャネル206内を伝搬する波を生成する。流体アクチュエーター202がポンプチャネル206内に非対称に配置されている場合には、ポンプチャネル206を通る正味の流体流れが存在する。流体のより重い部分または流体がより多く存在する部分(これは、典型的には、ポンプチャネル206の長い方の側にある)は、流体アクチュエーターのポンプ前進ストロークの終わりにおいてより大きな機械的慣性を有する。したがって、流体のこの部分は、該チャネルの短い方の側にある流体(液体)よりもゆっくりと進行方向が逆転する。該チャネルの短い側にある流体は、流体アクチュエーターのポンプ後退ストローク中に力学的運動量を獲得するのにより長い時間がかかる。したがって、該後退ストロークの終わりにおいて、該チャネルの短い方の側にある流体は、該チャネルの長い方の側にある流体よりもより大きな力学的運動量を有する。この結果、典型的には、正味の流れは、ポンプチャネル206の短い方の側から長い方の側に向かう流れとなる。正味の流れが、2つの流体要素(すなわち、チャネルの短い側と長い側)の異なる慣性特性の結果として生じることから、このタイプのマイクロポンプは、慣性ポンプと呼ばれる。
【0021】
図3は、本開示のいくつかの実施形態にしたがう、たとえば
図2を参照して説明した、マイクロ流体デバイス102内に実装するのに適した一体化された(すなわち組み込み式の)慣性ポンプ200を有する、閉じた、二方向、一次元(すなわち線形)の流体ネットワーク103のいくつかの例(A及びB)を示す。
図3の例示的な慣性ポンプ200は、1つの流体ポンプアクチュエーター202に代えて、流体をネットワークチャネル204中を移動させ、及び、流体を該チャネル204間で移動させるための2つの流体ポンプアクチュエーター202を有する。これら2つの流体ポンプアクチュエーター202は、各ポンプチャネル206の互いに反対側にある2つのそれぞれの側において他方の側の端部よりも一方の側の端部に近いところに非対称に配置されている。ポンプチャネル206のそれぞれの側に流体アクチュエーター202を有することによって、どの流体アクチュエーター202が作動しているかによって決まる(いずれか一方の)方向にチャネル206を通る正味の流体流れを生成することが可能になる。したがって、
図3のネットワークAの慣性ポンプ200では、作動している流体アクチュエーター202は、(ネットワークチャネル1よりも)ネットワークチャネル2の方に近い、ポンプチャネル206の右側の方に非対称に配置されており、生じる正味の流体流れは、ポンプチャネル206の右側(短い側)から左側(長い側)に向かうものであり、これによって、流体はネットワークチャネル2からネットワークチャネル1に向かって移動する。同様に、ネットワークBの慣性ポンプ200では、作動している流体アクチュエーター202は、(ネットワークチャネル2よりも)ネットワークチャネル1の方に近い、ポンプチャネル206の左側の方に非対称に配置されており、生じる正味の流体流れは、ポンプチャネル206の左側(ここでも短い側)から右側(長い側)に向かうものであり、これによって、流体はネットワークチャネル1からネットワークチャネル2に向かって移動する。
【0022】
上述したように、コントローラ106は、種々のやり方でマイクロ流体デバイス102を制御するようにプログラム可能である。1例として、それぞれが単一の一体化された流体ポンプアクチュエーター202を有する
図2の慣性ポンプ200に関しては、コントローラ106中のモジュール110(すなわち、流体アクチュエーター選択、タイミング及び頻度モジュール110)は、ネットワーク103中の任意の数のポンプチャネル206内の任意の数のアクチュエーター202を選択的に作動させることができる。したがって、ネットワークA、B、C、及びDは、一次元であって、その慣性ポンプ200は流体アクチュエーター202を1つだけしか有していないが、別の実施形態では、それらのネットワークをより大きなネットワークの一部とすることができ、この場合、他の相互接続しているネットワークチャネル204における他のアクチュエーター202を選択的に作動させることによって、より大きなネットワーク103を通る流体流れの向きを制御可能である。モジュール110はまた、流体アクチュエーター202の作動のタイミング及び頻度を制御することによって、正味の流体流れが生じるタイミング並びに流体流れの流速乃至流量の制御を可能にする。各ポンプチャネル206の互いに逆側にあるそれぞれの側において他方の端部よりも一方の端部に近いところに非対称に配置された2つの流体アクチュエーター202を有する
図3の慣性ポンプ200に関しては、コントローラ106にあるモジュール110は、単一のポンプチャネル206内の2つのアクチュエーターの選択的作動を、より大きなネットワーク103中の任意の数の他のポンプチャネル内の任意の数のアクチュエーターの選択的作動に加えて可能にする。このように流体アクチュエーターを選択的に作動させる能力は、拡張されたネットワーク103全体における流体流れの方向だけではなく、個々のネットワークチャネル204内の流体流れの方向を制御することを可能にする。
【0023】
図4は、本開示の1実施形態にしたがう、マイクロ流体デバイス102内に実装するのに適した一体化された(もしくは組み込み式の)慣性ポンプ200を有する、開いた、二方向、一次元の流体ネットワーク103の1例を示す。本明細書では、「開いた」ネットワークは、容器400などの少なくとも1つの外部流体容器に接続するネットワークである。ネットワークチャネル204に接続するのと同じようにして、流体容器400に接続している場合において、慣性ポンプ200の幅が、該ポンプ200が接続している流体容器400の幅よりも小さい場合には、慣性ポンプ200の駆動力は、主に、ポンプチャネル206の特性(すなわち、ポンプチャネルの幅及びポンプチャネル内の流体アクチュエーター202の非対称性)によって決まる。したがって、この例では、ポンプチャネル206の一方の端部は外部流体容器400に接続し、ポンプチャネル206の他方の端部はネットワークチャネル204(チャネル1)に接続しているが、該容器400とネットワークチャネル204のいずれも、慣性ポンプ200の駆動力に関しては流体容器として機能する。かかる「開いた」ネットワーク103の他の実施例では、ポンプチャネル206の両端部を、外部流体容器400に容易に接続することができる。流体アクチュエーター202を、より(幅の)広い流体容器400に近い、ポンプチャネル206の短い側に配置すること、すなわち、ネットワーク103のポンプ200内に非対称に配置することは、流体容器400からネットワークチャネル1に向かう(すなわち、右から左に向かう)正味の流体流れを引き起こす、ポンプチャネル206内の流体ダイオード特性を基礎付けるものである。1つの容器400を、2つ以上のポンプチャネル206によってネットワーク103に接続でき、または、該1つの容器400を、任意の慣性ポンプを用いてもしくは任意の慣性ポンプを用いることなく、1つ以上のネットワークチャネル204に接続できることに留意されたい。一般に、容器は、種々の流体を格納し及びそれらの流体にアクセスできるようにすることによって、分析対称の生体サンプル、廃棄物収集器、及び、DNAビルディングブロック(DNA building block)の容器などの種々の流体応用を容易にすることができる。
【0024】
上記したように、マイクロ流体デバイス102内のネットワーク103は、一次元、二次元、または、三次元のトポロジーを有することができる。たとえば、上述した
図2及び
図3のネットワークは、線形すなわち一次元のネットワーク103として示されている。しかしながら、これらのネットワーク内のネットワークチャネル204が、より大きなネットワーク103の一部として他のネットワークチャネルに接続される可能性があることも説明されている。
図5〜
図7は、二次元ネットワークトポロジーを有する、そのようなより大きなネットワーク103のいくつかの例を示している。
【0025】
図5は、本開示の1実施形態にしたがう、閉じた二次元の流体ネットワーク103内の単一の流体ポンプアクチュエーター202の選択的作動を用いるそれぞれ異なるポンプ作動方式によって生成された流体流れパターン(A、B、C、D)を示す、該ネットワーク103の1例を示している。二次元ネットワーク103は、4つの流体ポンプアクチュエーター202と、5つの頂点(バーテックス)すなわちチャネル交差部(1、2、3、4、5で参照されている)によって分離された8つのネットワークチャネル(またはエッジ)を有する。この実施形態では、慣性ポンプは、ネットワークチャネル204に組み込まれた流体ポンプアクチュエーター202を備える。したがって、上述のネットワークに関して説明した個別のポンプチャネルは図示されていない。ネットワークチャネル204は、それ自体、流体ポンプアクチュエーター202に対するポンプチャネルとして機能する。比較的幅が広いチャネル交差部(頂点1、2、3、4、5)において接続されているネットワークチャネル204の幅が狭くなっているために、慣性ポンプの駆動力を有効に発生させることができるが、これは、ネットワークチャネル204の狭くなっている幅内に流体アクチュエーター202が非対称に配置されていることに基づいている。
【0026】
流体流れパターンAを示している
図5のネットワーク103を参照すると、作動している流体アクチュエーター202(作動している流体アクチュエーターを特定している
図5中の説明を参照)は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点3から頂点5の方向に向かう正味の流体流れを生じさせる。流体の流れは、頂点5で分かれて、頂点5から頂点1、2、及び4へと延びているネットワークチャネルを通ってそれぞれ異なる方向に進む。その後、流体は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点1、2、及び4から頂点3に戻る方向に流れる。したがって、流れパターンAに示すように、頂点3の近くにある単一流体ポンプアクチュエーター202を選択的に作動させることによって、ネットワーク全体にわたる特定の方向の流体流れが生じることになる。
【0027】
これとは対照的に、流れパターンB、C、及びDにおいて示されている他の個々の流体ポンプアクチュエーター202の選択的作動によって生じる、ネットワーク103中の流体の流れ方向は全く異なる。たとえば、流体流れパターンBを示している
図5のネットワーク103を参照すると、作動している流体アクチュエーター202は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点1から頂点5に向かう方向に正味の流体流れを生じさせる。流体の流れは、頂点5で分かれて、頂点5から頂点2、3、及び4へと延びているネットワークチャネルを通ってそれぞれ異なる方向に進む。その後、流体は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点2、3、及び4から頂点1に戻る方向に流れる。同様に、流れパターンC及びDでも異なる方向の流体流れが生じる。したがって、マイクロ流体システム100内のプログラム可能なコントローラ106は、マイクロ流体デバイス102の特定のネットワーク103内の単一の流体ポンプアクチュエーター202を選択的に作動させることによって、該ネットワーク103内の流体流れパターンを容易に調整することができる。
【0028】
図6は、本開示の1実施形態にしたがう、閉じた二次元の流体ネットワーク103内の2つの流体ポンプアクチュエーター202の同時選択作動を用いるそれぞれ異なるポンプ作動方式によって生成された流体流れパターン(E、F、G、H、I、J)を示す、該ネットワーク103の1例を示している。二次元ネットワーク103は、
図5に示すものと同じであって、4つの流体ポンプアクチュエーター202と、5つの頂点(バーテックス)すなわちチャネル交差部(1、2、3、4、5で参照されている)によって分離された8つのネットワークチャネル(またはエッジ)を有する。流体流れパターン(E、F、G、H、I、J)において示されているように、2つの流体ポンプアクチュエーター202を同時に選択的に作動させることによって、ネットワーク103を通る(それぞれのパターン間で互いに異なる)特定の方向の流体流れが生じることになる。
【0029】
たとえば流体流れパターンEを示している
図6のネットワーク103を参照すると、作動している流体アクチュエーター202は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点2及び3から頂点5に向かう方向に正味の流体流れを生じさせる。流体の流れは、頂点5で分かれて、頂点5から頂点1及び4へと延びているネットワークチャネルを通ってそれぞれ異なる方向に進む。その後、流体は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点1及び4から頂点2及び3に戻る方向に流れる。頂点1と4の間、及び、頂点2と3の間のネットワークチャネルには正味の流体流れは存在しないことに留意されたい。したがって、流体流れパターンEにおいて示されているように、頂点2及び3の近くにそれぞれある2つの流体ポンプアクチュエーター202を同時に選択的に作動させることによって、ネットワーク全体わたる特定の方向の流体流れが生じることになる。
図6に示されている他の流体流れパターンの各々についても、各パターン中の正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、それぞれ異なる方向の流体流れが生じる。したがって、マイクロ流体システム100内のプログラム可能なコントローラ106は、マイクロ流体デバイス102の特定のネットワーク103内の2つの流体ポンプアクチュエーター202を同時に選択的に作動させることによって、該ネットワーク103内の流体流れパターンを容易に調整することができる。
【0030】
図7は、本開示の1実施形態にしたがう、閉じた二次元の流体ネットワーク103内の3つの流体ポンプアクチュエーター202の同時選択作動を用いるそれぞれ異なるポンプ作動方式によって生成された流体流れパターン(K、L、M、N)を示す、該ネットワーク103の1例を示している。二次元ネットワーク103は、
図5に示すものと同じであって、4つの流体ポンプアクチュエーター202と、5つの頂点(バーテックス)すなわちチャネル交差部(1、2、3、4、5で参照されている)によって分離された8つのネットワークチャネル(またはエッジ)を有する。流体流れパターン(K、L、M、N)において示されているように、3つの流体ポンプアクチュエーター202を同時に選択的に作動させることによって、ネットワーク103を通る(それぞれのパターン間で互いに異なる)特定の方向の流体流れが生じることになる。
【0031】
たとえば流体流れパターンKを示している
図7のネットワーク103を参照すると、作動している流体アクチュエーター202は、正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点1、2、及び3から頂点5を通って頂点4に向かう方向に正味の流体流れを生じさせる。流体の流れは、頂点4で分かれて、頂点4から頂点1及び3へと延びているネットワークチャネルを通ってそれぞれ異なる方向に進む。正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、頂点1及び3に到達した流体は再び分かれて、頂点5及び頂点2へとそれぞれ異なる方向に進む。したがって、流体流れパターンKにおいて示されているように、4つの流体ポンプアクチュエーター202のうち、頂点1、2、及び3の近くにそれぞれある3つの流体ポンプアクチュエーター202を同時に選択的に作動させることによって、ネットワーク103全体わたる特定の方向の流体流れが生じることになる。
図7に示されている他の流体流れパターンの各々についても、各パターン中の正味の流れ方向指示矢印によって示されているように、それぞれ異なる方向の流体流れが生じる。プログラム可能なコントローラ106によって流体アクチュエーター202を選択的に作動させることによって、マイクロ流体デバイス102のネットワークにおいて、種々の流体流れパターンを提供することができる。
【0032】
上述したように、マイクロ流体デバイス102内のネットワーク103は、一次元、二次元、または、三次元のトポロジーを有することができる。
図8は、本開示の1実施形態にしたがう、開いた、二方向、三次元の流体ネットワーク103の1例のトップダウンビュー(上から見下ろしたときの図)及び対応する断面図である。この開いた流体ネットワーク103は、流体容器400に接続されており、別の流体チャネルを(またいで)横断している流体チャネルを用いて三次元における流体流れを容易にする。かかるネットワークを、たとえば、ウェットフィルム(wet film)スピンコーティング及び/またはドライフィルムラミネーション(dry film lamination)などの従来の微細加工技術やSU−8多層(multilayer SU8)技術を用いて製造することができる。SU8は、半導体デバイス製造用のフォトレジストマスクとして一般的に使用されている透明な写真画像を形成可能なポリマー材料である。
図8に示すように、たとえば、流体容器400及びネットワークチャネル1、2、及び3を、第1のSU8層中に作製することができる。次に、第2のSU8層802を用いて、流体チャネルを他のチャネルの上に通すことによって、望ましくないチャネル交差がネットワーク内に生じないようにすることができる。かかる三次元トポロジーは、一体化された(または組み込み式の)慣性ポンプをマイクロ流体デバイス内に有する複雑で多用性のあるマイクロ流体ネットワークを可能にする。
【0033】
マイクロ流体デバイス102の有用性は、分析、検出、加熱などに使用される種々の能動要素及び受動要素を組み込むことによって大幅に向上する。そのような組み込まれた要素の例には、抵抗加熱器、ペルチェクーラー(Peltier cooler)、物理センサー、化学センサー、生物学的センサー、光源、及び、それらの組み合わせがある。
図9には、流体ポンプアクチュエーター202と能動要素900の両方を組み込んでいるいくつかの流体ネットワーク103の例が示されている。本明細書で説明されている流体ネットワークの各々は、該ネットワーク内に種々の流体流れパターンを提供する流体ポンプアクチュエーターに加えて、そのような組み込み式の要素900を組み込むのに適している。
【0034】
特定の流体ネットワークを図示し説明したが、本明細書で考慮されているマイクロ流体デバイス102及びシステムは、一次元、二次元、三次元における種々のレイアウト(構成及び/または配置)を有し、一体化された(または組み込み式の)流体ポンプアクチュエーターと他の能動及び受動要素の多様な構成を含む多くの他の流体ネットワークを実施することができる。
【0035】
前述したように、流体ポンプアクチュエーター202のポンピング効果は、流体チャネル内(たとえば、ポンプチャネル206内)のアクチュエーターの非対称配置に依存し、この場合、該流体チャネルの幅は、流体を送り込む側の容器または(ネットワークチャネル204などの)他のチャネルの幅よりも狭い(この場合も、ポンプチャネル自体を、たとえば、(幅や口径が)より広い流体容器間で流体を送り出すネットワークチャネルとすることができる)。流体チャネルの中央点(で分割したときの2つの側のうち)の一方の側に流体アクチュエーター202を非対称に配置することによって、該チャネルの短い側と長い側が画定され、該チャネルの該短い側(この短い側に流体アクチュエーターが配置されている)から該長い側に向かう方向に進む一方向の流体流れを実現することができる。流体チャネル内に対称に(すなわち、該チャネルの中心に)配置されている流体ポンプアクチュエーターが引き起こす正味の流れはゼロであろう。したがって、流体ネットワークチャネル内の流体アクチュエーター202の非対称配置は、該チャネルを通る正味の流体流れを生じさせることができるポンピング効果を達成するために必要な1つの条件(第1の条件)である。
【0036】
しかしながら、流体チャネル内の流体アクチュエーター202の非対称配置に加えて、流体アクチュエーターのポンピング効果の別の要素としてその動作態様がある。具体的には、ポンピング効果及びチャネルを通る正味の流体流れを達成するために、流体アクチュエーターは、該チャネル内の流体の変位(または移動)に対して非対称に動作することも必要である。動作中、流体チャネル中の流体アクチュエーターは、(ある可撓性膜やピストンストロークなどでもって)最初に第1の方向に湾曲乃至たわみを生じ、次に、他方の方向に湾曲乃至たわんで、該チャネル内で流体変位を引き起こす。上述したように、流体アクチュエーター202は、チャネルに沿って互いに逆の2つの方向に流体を押しやる、流体チャネル中を伝搬する波を生成する。流体アクチュエーターが、流体を両方向に同じ速度で移動させるように湾曲乃至たわみ動作をする場合には、該流体アクチュエーターによって該チャネル内に生成される正味の流体流れはゼロであろう。正味の流体流れを生成するためには、流体アクチュエーターの湾曲乃至たわみ、すなわち流体変位が対称にならないように該流体アクチュエーターの動作を設定乃至構成する必要がある。したがって、湾曲乃至たわみストローク(たわみ行程)のタイミングに関する流体アクチュエーターすなわち流体変位の非対称動作は、チャネルを通る正味の流体流れを生成することができるポンピング効果を達成するために必要な第2の条件である。
【0037】
図10は、本開示の1実施形態にしたがう、いくつかの異なる動作段階にある一体化された(すなわち、組み込み式の)流体ポンプアクチュエーター1002を有する流体ネットワークチャネル1000の1例の側面図である。流体容器1004は、チャネル1000のそれぞれの端部に接続されている。一体化されている流体アクチュエーター1002は、流体容器1004に対する入力の近くのチャネルの短い側に非対称に配置されて、該チャネルを通る正味の流体流れを生じることができるポンピング効果を生成するのに必要な第1の条件を満たしている。ポンピング効果を生成するために必要な第2の条件は、上述したように、流体アクチュエーター1002の非対称動作である。本明細書では、流体アクチュエーター1002は、流体チャネル内を上下に湾曲乃至たわむ(この上下の湾曲乃至たわみをピストンストロークという場合もある)ことによって、具体的に制御することができる流体変位を生じさせる圧電膜であるものとして一般的に記述されている。しかしながら、流体アクチュエーターを実施するために、たとえば、蒸気泡を発生するための抵抗加熱器、静電(MEMS)膜、機械駆動式/インパクト駆動式膜、ボイスコイル、磁歪駆動などの他の種々のデバイスを使用することができる。
【0038】
図10に示す動作段階Aでは、流体アクチュエーター1002は、静止位置にあって休止しているので、チャネル1000を通る正味の流体流れは存在しない。動作段階Bでは、流体アクチュエーター1002は作動しており、膜は流体チャネル100の内部に向かって上方に湾曲乃至たわむ。この上方への湾曲乃至たわみ、すなわち、前進ストロークによって、該膜が流体を外側に押し出すので、チャネル1000内に流体の圧縮性変位が生じる。動作段階Cでは、流体アクチュエーター1002は作動しており、膜は、元の静止位置に戻るために、下方に湾曲乃至たわみ始める。膜のこの下方への湾曲乃至たわみ、すなわち、後退ストロークによって、該膜が流体を下方に引き寄せるので、チャネル1000内に流体の伸張性変位が生じる。一回の上方への湾曲乃至たわみと一回の下方への湾曲乃至たわみの組が1つのたわみサイクルである。繰り返し行われるたわみサイクルにおいて、上方への湾曲乃至たわみ(すなわち圧縮性変位)と下方への湾曲乃至たわみとの間に時間的非対称性がある場合には、チャネル1000中に正味の流体流れが生じる。時間的非対称性及び正味の流体流れの方向については
図11〜
図14を参照して後述するので、
図10では、動作段階BとCにおいて、互いに逆向きの正味の流れ方向指示矢印間に疑問符?が挿入されている。これらの疑問符は、圧縮性変位と伸張性変位の間の時間的非対称性が指定されておらず、したがって、流れの方向は(流れがもしあったとしても)まだ不明であることを示すことが意図されている。
【0039】
図11は、本開示の1実施形態にしたがう、流体アクチュエーター1002によって生成された圧縮性変位と伸張性変位との間の時間的非対称性を説明するのに役立つ図であり、
図10の動作段階BとCにおける動作している流体アクチュエーター1002をタイムマーカー「t1」と「t2」と共に示している。時間t1は、流体アクチュエーター膜が上方に湾曲乃至たわんで、圧縮性流体変位を生成するのに要する時間である。時間t2は、流体アクチュエーター膜が下方に、すなわち、元の位置に戻る方向に湾曲乃至たわんで、伸張性流体変位を生成するのに要する時間である。圧縮性変位(上方への膜の湾曲乃至たわみ)の持続時間t1が伸張性変位(下方への膜の湾曲乃至たわみ)の持続時間t2よりも長いかまたは短い(すなわち、両者が同じではない)場合には、流体アクチュエーター1002の非対称動作が行われる。繰り返して行われるたわみサイクルにおけるそのような流体アクチュエーターの非対称動作によって、チャネル1000内に正味の流体流れが生成される。しかしながら、圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2が等しい、すなわち、対称である場合には、チャネル1000内に流体アクチュエーター1002が非対称に配置されているにもかかわらず、チャネル1000を通る正味の流体流れはほとんど存在しないかまたは全く存在しないであろう。
【0040】
図12、
図13、及び
図14は、本開示のいくつかの実施形態にしたがう、
図10の動作段階B及びCにおける動作している流体アクチュエーター1002を示しており、(流体流れがある場合に)流体がチャネル1000をどの方向に流れるかを示す正味の流体流れ指示矢印を含んでいる。正味の流体流れの方向は、アクチュエーターの圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2に依存する。
図15、
図16、及び
図17は、
図12、
図13、及び
図14の変位の持続時間t1とt2にそれぞれ対応する持続時間を有する例示的な変位パルス波形を示している。種々の流体ポンプアクチュエーターについて、圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2を、たとえば、マイクロ流体システム100内のモジュール112(流体アクチュエーター非対称作動モジュール112)などからの命令を実行するコントローラ106によって正確に制御することができる。
【0041】
図12を参照すると、圧縮性変位の持続時間t1は、伸張性変位の持続間t2よりも短いので、チャネル1000の短い側(すなわち、アクチュエーターが配置されている側)から該チャネルの長い側に向かう方向の正味の流体流れが存在する。圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2の違いは、圧縮性変位の持続時間t1及び伸張性変位の持続時間t2を有する流体アクチュエーターによって生成することができる対応する例示的な変位パルス波形を示している
図15から理解することができる。
図15の波形は、約1ピコリットル(pl)が、およそ0.5マイクロ秒の圧縮性変位の持続時間t1、及び、およそ9.5マイクロ秒の伸張性変位の持続時間t2で変位する変位パルス/サイクルを示している。流体変位の量及び流体変位の持続時間の値は例示に過ぎず、いかなる点においても限定することを意図したものではない。
【0042】
図13を参照すると、圧縮性変位の持続時間t1は、伸張性変位の持続間t2よりも長いので、チャネル1000の長い側から該チャネルの短い側に向かう方向の正味の流体流れが存在する。圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2の違いは、圧縮性変位の持続時間t1及び伸張性変位の持続時間t2を有する流体アクチュエーターによって生成することができる対応する例示的な変位パルス波形を示している
図16から理解することができる。
図16の波形は、約1ピコリットル(pl)が、およそ9.5マイクロ秒の圧縮性変位の持続時間t1、及び、およそ0.5マイクロ秒の伸張性変位の持続時間t2で変位する変位パルス/サイクルを示している。
【0043】
図14では、圧縮性変位の持続時間t1は、伸張性変位の持続間t2と等しいので、チャネル1000を通る正味の流体流れはほとんど存在しないかまたは全く存在しない。圧縮性変位の持続時間t1と伸張性変位の持続時間t2が等しい様子は、圧縮性変位の持続時間t1及び伸張性変位の持続時間t2を有する流体アクチュエーターによって生成することができる対応する例示的な変位パルス波形を示している
図17から理解することができる。
図17の波形は、約1ピコリットル(pl)が、およそ5.0マイクロ秒の圧縮性変位の持続時間t1、及び、およそ5.0マイクロ秒の伸張性変位の持続時間t2で変位する変位パルス/サイクルを示している。
【0044】
図14では、チャネル1000内に流体アクチュエーター1002が非対称に配置されている(ポンピング効果を達成するための1つの条件を満たしている)が、流体アクチュエーターの動作が非対称ではない(ポンピング効果を達成するための第2の条件を満たしていない)ために、依然として、チャネル1000を通る正味の流体流れはほとんどまたは全く存在しないことに留意されたい。同様に、流体アクチュエーターの位置が対称で(すなわち、流体アクチュエーターがチャネルの中心に配置されており)、かつ、該アクチュエーターの動作が非対称である場合には、ポンピング効果の2つの条件が共に満たされているわけではないので、依然として、チャネルを通る正味の流体流れはほとんどまたは全く存在しないであろう。
【0045】
上記の例及び
図10〜
図17の説明から、流体アクチュエーターの非対称位置というポンピング効果(を達成するための)条件と流体アクチュエーターの非対称動作というポンピング効果(を達成するための)条件との間の相互作用に留意することが重要である。すなわち、流体アクチュエーターの非対称位置と非対称動作が同じ方向に作用する場合には、流体ポンプアクチュエーターは、高効率のポンピング効果を示すであろう。しかしながら、流体アクチュエーターの非対称位置と非対称動作が互いに対して不利に作用する場合には、流体アクチュエーターの非対称動作は、該流体アクチュエーターの非対称位置によって引き起こされる正味の流れベクトルを反転させ、正味の流れは、チャネル1000の長い側から該チャネルの短い側に向かうものとなる。
【0046】
さらに、上記の例及び
図10〜
図17の説明から、
図2〜
図8のマイクロ流体ネットワーク103に関して説明した流体ポンプアクチュエーター202は、圧縮性変位の持続時間が伸張性変位の持続時間よりも短いアクチュエーターデバイスであることが想定されていることをより良く理解することができる。そのようなアクチュエーターの例は、流体を加熱して、超臨界蒸気の爆発によって変位を生じさせる抵抗加熱素子である。そのような事象は、膨張期(すなわち、圧縮性変位)が崩壊期(収縮期、すなわち伸張性変位)より速い、爆発に関する非対称性を有する。この事象の非対称性は、たとえば、圧電膜アクチュエーターによって生じる変位の非対称性と同じやり方では制御できない。
【0047】
図18は、本開示の1実施形態にしたがう、いくつかの異なる動作段階にある一体化された(すなわち、組み込み式の)流体ポンプアクチュエーター1002を有する流体ネットワークチャネル1000の1例の側面図である。この実施形態は、チャネル1000内の圧縮性変位及び伸張性変位を生成するために、
図10に関して説明した実施形態とは異なるやり方で流体アクチュエーター膜の湾曲乃至たわみが作用するものとして示されている点を除いて、
図10に関して説明した実施形態に類似する。
図18に示す動作段階Aでは、流体アクチュエーター1002は、静止位置にあって、休止しているので、チャネル1000を通る正味の流体流れはない。動作段階Bでは、流体アクチュエーター1002は作動しており、該膜は、流体チャネル1000の外側へと下方に湾曲乃至たわむ。該膜のこの下方への湾曲乃至たわみによって、該膜が流体を下方に引き寄せるので、チャネル1000内に流体の伸張性変位が引き起こされる。動作段階Cでは、流体アクチュエーター1002は作動しており、該膜は、元の静止位置に戻るために上方に湾曲乃至たわみ始める。この上方への湾曲乃至たわみによって、該膜が流体をチャネル1000中へと上方に押し上げるので、チャネル1000内に流体の圧縮性変位が引き起こされる。圧縮性変位と伸張性変位の間に時間的非対称性が存在する場合には、チャネル1000を通る正味の流体流れが生成される。正味の流体流れの方向は、上述したのと同様に、圧縮性変位の持続時間と伸張性変位の持続時間に依存する。