特許第5756892号(P5756892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5756892
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】電子ペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/046 20060101AFI20150709BHJP
   G06F 3/03 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   G06F3/046 A
   G06F3/03 400A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-514266(P2015-514266)
(86)(22)【出願日】2014年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2014004444
【審査請求日】2015年4月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506210211
【氏名又は名称】ニューコムテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082740
【弁理士】
【氏名又は名称】田辺 恵基
(72)【発明者】
【氏名】田原 研二
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−228345(JP,A)
【文献】 特開平8−335132(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0078476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/046
G06F 3/041
G06F 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材料でなるペン型の筐体の先端に設けられたペン先部材を入力駆動信号磁界を発生する押し当て対象に押し当てることにより、内部に生成した電子伝送情報を得る電子ペンであって、
上記ペン先部材を上記押し当て対象に押し当てたとき上記ペン先部材と共に上記筐体内において中心軸線上を前方から後方に摺動する押圧シャフトと、
上記中心軸線上における上記押圧シャフトの後端面位置に配設された非磁性・良導電性金属材料でなる板状の押圧検出金属スライダと、
上記筐体の前端部における上記ペン先部材の後端面と上記押圧検出金属スライダの前端面との間の上記筐体の前端部分において、上記押圧シャフトを移動自在に貫通させるように配設された共振動作用コイルと、
上記共振動作用コイルと共に共振動作する共振動作用コンデンサと、
上記筐体内に設けられ、上記共振動作用コイルのインダクタンス値と上記共振動作用コンデンサの容量値とにより決まる共振周波数の共振電流を上記電子伝送情報として生起させて、当該共振電流を上記共振動作用コイルに流す共振回路と
を具え、
上記ペン先部材が上記押し当て対象に押し当てられたとき、当該ペン先部材の筆圧に応じて上記押圧検出金属スライダを上記共振動作用コイルの後端面から後方に離間するように移動させることによって上記共振動作用コイルのインダクタンス値を変更させることにより上記共振電流の上記共振周波数を上記筆圧に応じて変更する
ことを特徴とする電子ペン。
【請求項2】
上記筆圧に応じて変更された上記共振電流によって上記共振動作用コイルに流した共振電流によって発生させた筆圧検出磁界を、上記押し当て対象に返送する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子ペン。
【請求項3】
上記押圧検出金属スライダの上記筆圧に応じた移動の仕方は、当該押し当て動作の開始初期時において、上記筆圧の変化に対して急峻なインダクタンス値の変化を生じさせる
ことを特徴とする請求項1に記載の電子ペン。
【請求項4】
上記押圧検出金属スライダは、上記急峻なインダクタンス値の変化を生じさせるように、上記押圧シャフトの移動を制御する特性を持つばね特性を有する押圧スプリングを上記押圧検出金属スライダの後面側に設けた
ことを特徴とする請求項3に記載の電子ペン。
【請求項5】
上記共振回路において生起される上記共振電流の共振周波数は、上記筆圧が最大のとき、最大になるように、上記共振動作用コイルのインダクタンス値及び上記共振動作用コンデンサの容量値が設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電子ペン。
【請求項6】
上記共振回路において生起される上記共振電流の共振周波数は、上記筆圧が0であることを条件として設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電子ペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子ペンに関し、特に筆圧に対応した電子情報を得るようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
タブレット表示板部を有する情報処理装置として、ユーザが電子ペンをタブレット表示板部に押し当てながら、当該タブレット表示板部との間で情報のやり取りをする情報入力手段を形成する手法のものがある。
【0003】
従来、当該情報入力手段は、ペン先部材を押し当て対象であるタブレット表示板部に押し当てて情報のやり取りをする際に筆圧に変化が生じたとき、これに応答しながら情報の処理を行うことができるように、筆圧に応じて共振用コイルのインダクタンス値を変更することにより共振周波数を変化させる共振回路手段を電子ペン内に設けた構成のものが提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【0004】
特許文献1の電子ペンは、共振回路手段のコイル内にペン先部材に設けられたフェライトチップを筆圧に応じて移動させることにより共振用コイルのインダクタンス値を変更する。
【0005】
また特許文献2の電子ペンは、共振用コイルを巻回してなるフェライトコアの先端に、
ペン先部材と一体のフェライトチップを弾性部材でなる押圧リングを介して対接させ、フェライトチップが筆圧に応じて近づいたとき、共振用コイルのインダクタンス値を変更する。
【0006】
さらに特許文献3の電子ペンは、共振用コイルを巻装させたフェライトコア本体の先端に対して弾性板を介してペン先部材と一体の検出用フェライトコアを当接させ、筆圧に応じて検出用フェライトコアをフェライトコア本体に近づけることにより、共振用コイルのインダクタンス値を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−53223
【特許文献2】特開2002−244806
【特許文献3】特開2006−163798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところがこの種の従来の電子ペンは、共振用コイルに対してペン先部材と一体に移動するフェライト部材を設けることにより共振用コイルのインダクタンス値を変更するように構成されているために以下の不都合がある。
【0009】
第1に、一般にフェライト部材は磁気特性のばらつきが大きく、これが電子ペンの筆圧特性のばらつきに直結する問題があった。
【0010】
また第2に、フェライト部材は一般に外部から与えられる衝撃に対して脆い材質であるため、電子ペンに対して衝撃が与えられたとき、破損しないような構造上の配慮が不可欠で、そのため電子ペンを簡略・軽量化しにくい問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、共振用コイルのインダクタンス値を変更するにつき、磁気特性のばらつきの問題や、構造的脆弱性の問題を有効に解決することにより、実用性を向上させた電子ペンを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、非磁性材料でなるペン型の筐体2の先端に設けられたペン先部材3を入力駆動信号磁界を発生する押し当て対象Q1に押し当てることにより、内部に生成した電子伝送情報を得る電子ペン1であって、ペン先部材3を押し当て対象Q1に押し当てたときペン先部材3と共に筐体2内において中心軸線L1上を前方から後方に摺動する押圧シャフト12と、中心軸線L1上における押圧シャフト12の後端面位置に配設された非磁性・良導電性金属材料でなる板状の押圧検出金属スライダ16と、筐体2の先端部2Aにおけるペン先部材3の後端面と押圧検出金属スライダ16の前端面との間の筐体2の前端部分において、押圧シャフト12を移動自在に貫通させるように配設された共振動作用コイル21と、共振動作用コイル21と共に共振動作する共振動作用コンデンサ25−1〜25−mと、筐体2内に設けられ、共振動作用コイル21のインダクタンス値と共振動作用コンデンサ25−1〜25−mの容量値とにより決まる共振周波数の共振電流を電子伝送情報として生起させて、当該共振電流を共振動作用コイル21に流す共振回路40Aとを具え、ペン先部材3が押し当て対象Q1に押し当てられたとき、当該ペン先部材3の筆圧に応じて押圧検出金属スライダ16を共振動作用コイル21の後端面から後方に離間するように移動させることによって共振動作用コイル21のインダクタンス値を変更させることにより共振電流の共振周波数を筆圧に応じて変更するようにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ペン先部材が押し当て対象から受ける筆圧に応じて、共振動作用コイルのインダクタンス値を変更させるにつき、非磁性・良導電性金属材料で構成された板状の押圧検出金属スライダを共振動作用コイルの後端面位置に配設するようにしたことにより、筐体に対する外部からの衝撃によって筐体内部の部材に損傷を生じさせることがないような構造を工夫し易い実用性が大きい電子ペンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)及び(B)は第1の実施の形態における電子ペンを示す斜視図及び情報処理システムを示す略線的ブロック図である。
図2】電子ペンの詳細構成を示す部分的断面図である。
図3】電気信号処理部を示す電気回路図である。
図4】(A)、(B)及び(C)は筆圧応動部を示す平面構造図、正面構造図及び左側面構造図である。
図5】(A)、(B)及び(C)は共振回路機構部の特性の説明に供する信号波形図である。
図6】電子ペンの他の実施の形態を示す部分的断面図である。
図7】電気信号処理部の他の実施の形態を示す電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0016】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として電子ペンを示し、図1(A)に示すように、例えば非磁性樹脂材料で構成されたペン型の筐体2の先端から同様に非磁性樹脂材料で構成されたペン先部材3を突出させた構成を有する。
【0017】
電子ペン1は、図1(B)に示すように、ユーザが電子ペン1の筐体2を手に持ってペン先部材3を押し当て対象であるタブレット表示板部Q1の表示面Q5に押し当てることにより、表示面Q5上のXY座標位置を指定できるようにされている。
【0018】
すなわち、電子ペン1は、タブレット表示板部Q1が中央処理部Q2との間に交換情報Q3をやり取りすることにより、情報の処理を実行する情報処理システムQ4において、ユーザがタブレット表示板部Q1の表示面Q5を押し当て対象として電子ペン1を押し当てたとき、表示面Q5のXY座標を表すX軸ループコイルX1、X2……XN及びY軸ループコイルY1、Y2……YMの交点位置によって決まるXY座標位置を指定することにより、ユーザによるXY座標指定情報をX軸制御部Q6から交換情報Q3として中央処理部Q2に供給できるようになされている。
【0019】
かくして中央処理部Q2は、ユーザにより指定された座標位置と、電子ペン1の表示面Q5に対する筆圧情報とを読み取って、ユーザの指定に応じた情報の処理を実行する。
【0020】
電子ペン1のペン先部材3は、図2に示すように、筐体2の先端部2Aの内部に配設された共振回路機構部11に押圧シャフト12を介して結合されている。
【0021】
この実施の形態の場合、押圧シャフト12は非磁性樹脂材料でなる断面円形の棒体でなり、筐体2の中心軸線L1に沿って、筐体2の先端に穿設された開口孔13内に配設されたペン先端部材3の進退動作を共振回路機構部11に伝達する。
【0022】
筐体2は、中心軸線L1上に延長する円筒形状の外側ケース14と、その内側に中心軸線L1上に同心的に設けられた円筒形状の内側ケース15とで構成され、外側ケース14の開口孔13の後端側に連接するように設けられた隔壁14Aによって押圧シャフト12を、前後方向に進退できるように、摺動自在に保持されている。
【0023】
押圧シャフト12の後端部は、例えばアルミニウム又は真鍮材料でなる非磁性・良導電性金属板材料によって構成された板状の押圧検出金属スライダ16の嵌合孔16Aを貫通して合成樹脂材料でなる支持シャフト17に結合されている。
【0024】
支持シャフト17の後端部は内側ケース15に中心軸線L1に沿うように形成された案内孔18に摺動自在に保持され、かくしてペン先部材3と、押圧シャフト12と、押圧検出金属スライダ16と、支持シャフト17とが、電子ペン1の中心軸線L1上を一体として前後方向に移動できるようになされている。
【0025】
外側ケース14の隔壁14Aの後面と、内側ケース15の前端面に設けられた円環状段部15Aとの間には、円筒形状の共振用動作コイル21が押圧シャフト12を貫通させるように固着されていると共に、押圧検出金属スライダ16の後端面と、内側ケース15の円環状段部15Aの後方位置に設けられた円環状後方段部15Bとの間に押圧スプリング22が設けられている。
【0026】
この押圧スプリング22は、押圧検出金属スライダ16と、円環状後方段部15Bとの間で圧縮動作することにより、押圧シャフト12が後方に移動していないとき押圧検出金属スライダ16の前端面が共振動作用コイル21の後端面に対接した状態を維持するようになされている。
【0027】
かくして、ペン先部材3が押し当て対象であるタブレット表示板部Q1に押し当てられていないリセット状態にあるとき、押圧検出金属スライダ16の前端面と共振動作用コイル21の後端面との間の間隔が0(これをリセット間隔という)を維持する状態になっている。
【0028】
この実施の形態の場合、共振回路機構部11は、筐体2の外側ケース14と内側ケース15とによって筐体2に一体に固着された共振動作用コイル21に対する筆圧応動部11Aとして、ペン先部材3と一体に摺動する押圧シャフト12、押圧検出金属スライダ16及び支持シャフト17を有し、当該筆圧応動部11Aは、図4に示すように、押圧検出金属スライダ16として、内側ケース15の円筒状内径とほぼ同じ直径R1を有する円筒面部16Aと、側面から見たとき(図4(C))、円筒面16Aの上下側面を削り取ったと同様の切除面16B1及び16B2(対向距離R2)を形成し、これにより押圧検出金属スライダ16の前端面と対向するように設けられた共振動作用コイル21から導出されるインダクタンス導出線21A及び21B(図3)を、押圧検出金属スライダ16と干渉しないように、切除面16B1及び16B2の外側位置を通って、後方位置にある電気信号処理部40に導出できるようになされている。
【0029】
かくして共振回路機構部11は筐体2の直径を小さくした場合にも、押圧検出金属スライダ16の前面側及び後面側にある共振動作用コイル21及び電気信号処理部40との電気的接続を簡易にできるようになされている。
【0030】
またこの実施の形態の場合の筆圧応動部11Aを含む共振回路機構部11の特性は、図5(A)〜(C)のように構成される。
【0031】
図5(A)に示すように、荷重F(すなわち筆圧)と筆圧応動部11Aの移動量δ(すなわち押圧スプリング22のたわみ量)との関係は、荷重F(すなわち筆圧)が、正規化した値として、0、0.1、0.2……1まで変化する間における、たわみδ(すなわち筆圧応動部11Aの移動量)との関係は、たわみδが0、0.4、0.65……1に変化するような特性に選定する。
【0032】
また筆圧応動部11Aの移動量δ(すなわち押圧スプリング22のたわみ量)と、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lとの関係を、図5(B)に示すように、移動量δが0、0.2、0.4……1まで変化する間に、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lを0.7、0.84、0.9……1に変化するような特性に選定する。
【0033】
このような特性を選定すると、荷重F(すなわち筆圧)とインダクタンス値Lとの関係は、図5(A)の荷重F−たわみδの関係に、図5(B)の移動量δ−インダクタンス値L特性を当てはめれば、図5(C)に示すように、荷重F(すなわち筆圧)を0、0.1、0.2……1に変化する間に、インダクタンス値Lが0、0.32、0.546……1になるような特性が実現できる。
【0034】
ここで、荷重F/たわみδの特性(図5(A))から見られるように、押圧スプリング22は、筆圧Fが0から0.2に変化する間にたわみ量δが急峻に立ち上がるように、ばね特性が選定されている。
【0035】
ここで共振動作用コイル21のインダクタンス値Lの特性(図5(B))は、押圧検出金属スライダ16が共振動作用コイル21から離れるように移動量δが増加していけば、インダクタンス値Lが増大するような関係になるようにし、特に移動量δが0から0.2に変化するまでの間に急峻にインダクタンス値Lを立ち上げるようにする。
【0036】
この結果図5(C)に示すように、荷重F(すなわち筆圧)によるインダクタンス値Lの変化は、荷重F(すなわち筆圧)が0から0.2まで変化する軽荷重の間に、インダクタンス値Lを急峻に立ち上げることができるような電子ペン1を実現する。
【0037】
図5(C)に示すような急峻な立ち上がり特性を有する電子ペン1は、当該電子ペン1を押し当て対象であるタブレット表示板部Q1に押し当て開始する際のいわゆる「ペンダウン特性」が高感度の特性を持つことができることを意味し、これにより電子ペン1の実用性を一段と高めることができる。
【0038】
この実施の形態の場合、ペン先部材3に対して共振動作用コイル21は、筐体2の外側ケース14の隔壁14Aを間に挟んだだけの極く近い近接位置に固着されている。
【0039】
かくして、ユーザが電子ペン1を押し当て対象であるタブレット表示板部Q1に押し当てたとき、タブレット表示板部Q1のY軸ループコイルY1、Y2……YMからの磁界結合によって入力駆動パルス磁界を受けて共振動作用コイル21内に共振エネルギーを生起する際、並びに当該共振エネルギーを共振動作用コイル21からX軸ループコイルX1、X2……XNに磁界結合することにより筆圧検出磁界を返送する際に、押し当て対象のY軸ループコイルY1、Y2……YM、並びにX軸ループコイルX1、X2……XNにできるだけ近い位置において(従って極く簡略な構成によって)、確実に信号のやり取りを行うことができるようなされている。
【0040】
この共振動作用コイル21の後端面に近接する位置には、押圧検出金属スライダ16及び支持シャフト17並びに押圧スプリング22が配設されていることにより、これらを含む共振回路機構部11は電子ペン1の先端部2Aにまとまるように配置されている。
【0041】
以上の構成において、リセット状態では、押圧検出金属スライダ16は、押圧スプリング22からたわみ圧力を受けることがないため、押圧検出金属スライダ16の前端面が共振動作用コイル21の後端面に当接した状態のまま、内側ケース15の円環状段部15Aの位置に位置決めされた状態になる。
【0042】
このリセット状態において、ユーザが電子ペン1を手にしてペン先部材3を押し当て対象であるタブレット表示板部Q1の表示面Q5に押し当てることにより、ペン先部材3が後方に移動したとき、押圧検出金属スライダ16は押圧シャフト12によって後方に移動することによりその後端面によって押圧スプリング22を圧縮して行き、これにより押圧検出金属スライダ16の前端面の位置が円環状段部15Aに位置決めされたリセット状態から後方に移動して行くことにより、当該移動量の分だけ押圧検出金属スライダ16の前端面と共振動作用コイル21の後端面との間の間隔が広がって行く。
【0043】
このとき、電気回路要素として機能する共振動作用コイル21と非磁性体金属材料でなる押圧検出金属スライダ16との関係を考えると、円筒形状の共振動作用コイル21の中心軸方向からほぼ同じ直径を有する円板状の非磁性体金属材料でなる押圧検出金属スライダ16を接触ないし近接させた状態になるので、当該押圧検出金属スライダ16が共振動作用コイル21に対して2次コイルを設けたと等価な動作をし、これにより、共振動作用コイル21のインダクタンス値LやQ値を押圧検出金属スライダ16の近接距離の変更状態に応じて変更させるような現象が生じ、その結果共振動作用コイル21が本来持っているインダクタンス値LやQ値が、押圧検出金属スライダ16を近接又は接触させたことにより低下させる現象が生ずる。
【0044】
このときの共振動作用コイル21のインダクタンス値LやQ値の変更量は、共振動作用コイル21の後端面と押圧検出金属スライダ16の前端面との間の離間距離に応じて変化する。
【0045】
この実施の形態の場合、当該共振動作用コイル21のインダクタンス値LやQ値の変化は、図3に示すように、共振動作用コイル21の両端に接続されたインダクタンス導出線21A及び21Bが電子ペン1の筐体2の後端部2Bに設けた電気信号処理部40に接続されていることにより、電気信号の変化として処理される。
【0046】
図3の電気信号処理部40は、電子ペン1のペン先部材3を押し当て対象であるタブレット表示板部Q1(図1)に押し当てたとき、入力駆動期間の間Y軸制御部Q7から順次Y軸ループコイルY1、Y2……YMに与えられている入力駆動パルス信号に基づいて当該入力駆動パルス信号の繰返し周波数の磁界がタブレット表示板部Q1から送出され、当該タブレット表示板部Q1の押し当て位置近傍のY軸ループコイルY1、Y2……YMからの磁界が共振動作用コイル21に差交することにより共振動作用コイル21が共振エネルギーを得てインダクタンス導出線21A及び21Bを介して共振動作用コンデンサ25−1、25−2……25−mに並列に接続された共振回路40Aに共振電流を流す。
【0047】
このとき共振回路40Aに流れる共振電流は、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lと共振動作用コンデンサ25−1〜25−6の合成容量値とによって決まる共振周波数を有する共振エネルギーとして蓄積され、当該共振エネルギーは共振動作用コイル21から当該共振周波数の磁界として押し当て対象であるタブレット表示板部Q1の押し当て位置近傍のX軸ループコイルX1、X2…XNに送り返される。
【0048】
かくしてタブレット表示板部Q1は電子ペン1から送り返されてくる共振エネルギーを交換情報Q3として中央処理部Q2に送り込むことにより、送り返されてきた共振エネルギーに含まれている、電子ペン1によって指定された指定位置情報と、筆圧情報とを、誘導電圧の変化として、取り出すことができる。
【0049】
この実施の形態の場合、共振回路40Aを構成する共振動作用コンデンサ25−1〜25−mとして、筆圧が0のリセット状態における共振回路40Aの共振周波数を決めるため複数の固定コンデンサ及び可変コンデンサが用意されており、筐体2内の電気回路要素の構造部分に対応する容量値が設定されている。
【0050】
このようにして取り込まれた誘導電圧は、電子ペン1が押し当て対象であるタブレット表示板部Q1に押し当てられた座標位置において最も出力電圧値が大きくなるので、中央処理部Q2は電子ペン1の押し当て座標値を補間演算により求めることができる。
【0051】
ところが、このとき電子ペン1の共振回路40Aにおいて発生される共振電流は、共振動作用コンデンサ25−1〜25−6の容量値が固定であるのに対して、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lが押し当て対象に対するペン先部材3の筆圧に応じて変化することにより、共振周波数が当該筆圧に対応した値に変化する。
【0052】
この共振回路40Aの共振周波数の変化は、タブレット表示板部Q1のY軸制御部Q7から与えられる入力駆動パルス信号の周波数を若干変更させることにより、X軸制御部Q6を介して中央処理部Q2に取り込まれる誘導電圧の位相が、電子ペン1の共振回路40Aの共振周波数がペン先部材3に対する筆圧の変化に対応する分だけ位相ずれするように変化し、この変化が筆圧検出情報として中央処理部Q2に取り込まれることになる。
【0053】
この実施の形態の場合、電子ペン1の共振回路40Aの共振周波数は、ペン先部材3がタブレット表示板部Q1に押し当てられていないリセット状態において、Y軸ループコイルY1、Y2……YMから与えられる入力駆動パルス信号の周波数と一致する周波数にあらかじめ選定されている。
【0054】
従って中央処理部Q2は電子ペン1がタブレット表示板部Q1に押し当てられていないリセット状態のとき、Y軸制御部Q7から与えられる入力駆動パルス信号の周波数の誘導電圧が得られることにより電子ペン1によって指定された座標位置を検出すると同時に、電子ペン1の共振回路40Aの共振周波数が入力駆動パルス信号の周波数と一致することによりその位相ずれを発生させない状態になり、これにより筆圧が0であるリセット状態を中央処理部Q2が判定することができる。
【0055】
これに対して、電子ペン1のペン先部材3がタブレット表示板部Q1に押し当てられて、電子ペン1の中心軸線L1上において筐体2内に押し込まれていくと、押圧シャフト12を介して押圧検出金属スライダ16が後方に移動することにより、押圧検出金属スライダ16の前端面と共振動作用コイル21の後端面との間の距離が、接触しているリセット位置から広がることにより、共振回路40Aにおいて共振動作用コイル21のインダクタンス値Lが低下し、その結果共振回路40Aの共振周波数が変化する。
【0056】
この電子ペン1の共振回路40Aの共振周波数の変化は、入力駆動パルス信号に対する
位相の変化として、中央処理部Q2が検出することにより、当該位相の変化に対応する筆圧値を中央処理部Q2が取得することができることになる。
【0057】
以上の構成によれば、電子ペン1の共振回路40Aにおいて共振動作用コイル21のインダクタンス値Lがペン先部材3に対する筆圧に対応するように変化することにより、電子ペン1のタブレット表示板部Q1に対する筆圧を検出することができる。
【0058】
かくするにつき、筆圧に対応する検出出力を得るために用いられる要素である押圧検出金属スライダ16を、非磁性・良導電性金属材料の板状材料で構成したことにより、金属材料として、外部からの衝撃に対して強く、しかもペン形状の筐体内の部材として加工し易い電子ペンを実現できる。
【0059】
(2)非磁性・良導電性金属材料を利用した筆圧検出構造
第1の実施の形態の場合、ペン先部材3が押し当て対象としてのタブレット表示板部Q1に対する筆圧を検出する共振回路機構部11として、アルミニウムや真鍮といった非磁性・良導電性・板状の非磁性体材料を用いることにより、従来の場合のようにフェライト素材を用いずに、電子ペン1の共振周波数を変更する構成を以下の確認事項に基づいて採用している。
【0060】
(2−1)この実施の形態のように、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lを変更するために金属材料でなる素材を接触又は近接させると、原理的に共振エネルギーを損失させる要素となって、当該共振動作用コイル21の共振周波数を決めるインダクタンス値や、当該共振系の感度を表す量であるQ値を低下させることから、『一般には共振動作を制御する部材としては不向きである』と考えられ、従来の電子ペンでは、当該金属材料を用いることはなく、フェライト部材が使用されている。
【0061】
(2−2)これに対して上述の実施の形態においては、円筒形状の共振動作用コイル21の後端面にほぼ同じ大きさの外径形状の非磁性体・良導体金属板でなる押圧検出金属スライダ16を中心軸方向から接触ないし近接させ、これにより当該非磁性体金属板を二次コイルとして作用させて共振動作用コイルのインピーダンス値とQ値を低下させることにより共振動作用コイルの共振周波数を変更させるような特性を生じさせるように工夫している。
【0062】
当該金属板が従来のように、磁性体材料であるフェライトチップで形成されている場合は、筆圧検出特性の変化の仕方が扱う周波数によって一様ではなく、インダクタンス値が低下するばかりではなく増加するような場合もあるので、この実施の形態においては採用していない。
【0063】
(2−3)押圧検出金属スライダ16としては、上述のアルミニウムや真鍮のように、非磁性体であり、かつ導電性が高い材質のものを用いる。
【0064】
(2−4)押圧検出金属スライダ16としては外径が大きいほどペン先部材3に対する荷重(すなわち筆圧)に対する共振動作用コイル21のインダクタンス値Lの変化が大きくなるが、実用上押圧検出金属スライダ16の大きさは、共振動作用コイル21の外径形状から8割程度の大きさまで、適正がある。
【0065】
(2−5)押圧検出金属スライダ16の厚みは、筆圧に対するインダクタンス値Lの変化特性に対する影響が、導電性が低下する程度の厚み(例えば0.1[mm]以下)になるまでは生じないので、0.1[mm]までは適用できる。
【0066】
これに対して押圧検出金属スライダ16の厚みを増加しても荷重F(すなわち筆圧)と共振動作用コイル21のインダクタンス値特性に対する変化はほとんどない。
【0067】
(2−6)上記(2−1)〜(2−5)の条件によれば、筆圧の変化に対する共振動作用コイル21のインピーダンス値Lの低下は、押圧検出金属スライダ16の位置及び寸法範囲では十分な変化を得ることができ、また共振動作用コイル21のQ値の低下(従って感度の低下)は、押圧検出金属スライダ16の位置及び寸法範囲では、使用可能な程度の低下にとどまっていることが確認できる。
【0068】
かくして結果的には、情報処理システムQ4において共振動作用コイル21のインダクタンス値Lの変化は、押圧検出金属スライダ16の位置と、大きさの範囲において実用上十分な変化を得ることができる。
【0069】
かくして結果的には、全体として電子ペン1の押し当て対象となるタブレット表示板部Q1に対する押し当て強さ(すなわち筆圧)に基づいてタブレット表示板部Q1のX軸ループコイルX1、X2……XNから得られる交換情報Q3として、中央処理部Q2が判断できる信号レベルの変動が多少は小さくなっても実用上充分な筆圧検出効果を得ることができることを確認できた。
【0070】
(2−7)よって、押圧検出金属スライダ16としては、一般的に得られる0.5[mm]程度の薄型の金属材料を適用する(板状製品であっても、固形製品を切削したものであっても良い)ことよって電子ペン1の共振回路機構部11を実現することができる。
【0071】
(3)他の実施の形態
(3−1)図6は電子ペン1の他の実施の形態を示すもので、図2との対応部分に同一符号を付して示すように、共振回路機構部11を構成する筆圧応動部11Aの押圧スプリング22がばね定数が互いに異なる2つの押圧スプリング部材22A及び22Bによって構成されている。
【0072】
この実施の形態の場合、押圧検出金属スライダ16に対接する前部の押圧スプリング部材22Aは、線径が小さいコイルスプリングで構成されているためばね定数が小さいので、ペン先部材3が押し当て対象であるタブレット表示板部Q1によって後方に荷重を受けたとき、荷重F(すなわち筆圧)が小さい範囲において主として押圧スプリング部材22Aがたわみ動作することにより、荷重F(筆圧)の変化に対してたわみδを急峻に変化させるようなばね特性を呈することができ(図5(A)のように)、これに対して荷重F(筆圧)が大きくなったとき、主としてばね定数が大きな押圧スプリング部材22Bがたわみ動作することにより、筆圧の変化に対してたわみδをゆっくりと変化させるようなばね特性を呈することになる。
【0073】
かくして図6の構成によれば、荷重F(すなわち筆圧)の変化に対する共振動作用コイル21のインダクタンス値Lの変化を、図5(C)ついて上述したように、電子ペン1に対して予め予定したペンダウン特性を容易に実現できる。
【0074】
図6の場合の電子ペン1は、筆圧が最大のときに共振回路機構部11の共振周波数が最小になる(このとき共振動作用コイル21のインダクタンス値Lが最大になる)と共に、共振動作用コイル21のQ値が最大になるように設定されている。
【0075】
かくして電子ペン1の共振周波数をタブレット表示板部Q1から生起される磁界の入力駆動パルス信号の周波数に対して、若干低い周波数で筆圧が最大になるように設定することにより、電子ペン1として適切な筆圧範囲の筆圧変化を検出できることを確認できた。
【0076】
図6の実施の形態の場合、共振動作用コイル21は非磁性合成樹脂材料でなる筒状のコイルコア21C上に巻装されていると共に、コイルコア21Cの後方端面に押圧検出金属スライダ16の前端面が押圧スプリング22の弾発力によって当接した状態になるようになされ、これによりペン先部材3に対する筆圧が0のリセット動作時、押圧検出金属スライダ16の前端面は共振動作用コイル21の後端面に接触せずに、コイルコア21の突出距離だけ離間した位置に近接した状態になっている。
【0077】
(3−2)図7は電気信号処理部40の他の実施の形態を示すもので、図3との対応部分に同一符号を付して示すように、共振回路40Aの共振動作用コンデンサ25−1〜25−mの終端位置に共振周波数切換回路40Bを接続する。
【0078】
共振周波数切換回路40Bは固定コンデンサ51A及び半固定コンデンサ51Bの並列回路を、切換スイッチ52を介して共振回路40Aに接続する構成を有する。
【0079】
かくして切換スイッチ52をオン動作させれば、共振回路40Aにおいて共振動作用コイル21のインダクタンス値Lと共振動作用コンデンサ25−1〜25−mの容量値によって決まる共振周波数を、固定コンデンサ51A及び半固定コンデンサ51Bの容量値を含めた共振周波数に変更することができ、かくして電子ペン1として用途に応じて適正な共振周波数を選定できる電子ペン1を実現できる。
【0080】
(3−3)図6の電子ペン1においては、押圧検出金属スライダ16を共振動作用コイル21のコイルコア21Cに対接させるように構成したが、これに代えコイルコア21Cの後端面と押圧検出金属スライダ16との間に例えば0.1[mm]程度のフィルムや発泡材を挿入しても良く、これにより電子ペン1の内部構造として、例え外部から電子ペン1に対して衝撃が与えられたとしてもこれを有効に吸収できるような電子ペンを実現できる。
【0081】
(3−4)図3の電気信号処理部40において、共振回路40Aの共振周波数をペン先部材3に対する筆圧が0の状態において共振回路40Aの共振周波数を設定する。
【0082】
このようにした場合、電子ペン1に筆圧が与えられたとき、これに応じて共振動作用コイル21のインダクタンス値が変化して共振回路40Aの共振周波数が変化することにより当該筆圧を中央処理部Q2において検出できるが、このとき筆圧0のときの共振周波数を共振回路40Aにおいて設定したことにより中央処理部Q2に受け渡される信号レベルの変動が少なくなることにより中央処理部Q2における筆圧の検出精度が高い状態に維持できる。
【0083】
因みに一般的に図3の構成の共振回路40Aを用いる場合タブレット表示板部Q1における入力駆動パルス信号の周波数が固定されているため、共振動作コイル21のインダクタンス値Lが筆圧の変化に応じて変化すると、その共振周波数はタブレット表示板部Q1の入力駆動パルス信号の周波数からずれるために、電子ペン1から中央処理部Q2に与えられる検出信号のレベルが変動することになる。
【0084】
しかしながら共振回路40Aの共振周波数を筆圧0の状態で設定すれば、筆圧が0から変動したときの信号レベルの変動を少なくすることができる。
【0085】
(3−5)上述の実施の形態においては、押圧検出金属スライダ16をアルミニウム又は真鍮材料によって構成した場合について述べたが、これに代え、(3−5−1)非磁性体金属として、銅、アルミニウム、金、銀、亜鉛、錫、鉛、マグネシウム、チタン、(3−5−2)金属の合金として、真鍮、青銅、半田、ニクロム(登録商標)、上記金属細線(フィラ)を配合した導電性樹脂、導電性接着剤、(3−5−3)炭素系の導電材料として、グラファイト(板、シート)、(3−5−4)上記導電材料を塗布・コーディング等した材料として、導電性樹脂、導電性フィルム、導電性高分子材料・導電性ポリマーといった材料を用いるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明による電子ペンは押し当て対象面に電子ペンを押し当てる際の筆圧を検出する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1……電子ペン、2……筐体、3……ペン先部材、11……共振回路機構部、11A……筆圧応動部、12……押圧シャフト、13……開口孔、14……外側ケース、14A……隔壁、15……内側ケース、15A……円環状段部、16……押圧検出金属スライダ、16A……嵌合孔、17……支持シャフト、15B……円環状後方段部、40……電気信号処理部、40A……共振回路、40B……共振周波数切換回路、Q1……タブレット表示板部、Q2……中央処理部、Q3……交換情報、Q4……情報処理システム、Q5……表示面、Q6……X軸制御部、Q7……Y軸制御部、X1〜XN……X軸ループコイル、Y1〜YM……Y軸ループコイル
【要約】
筆圧に対応したペン出力を得るものである。
ペン先部材3が押し当て対象Q1から受ける筆圧に応じて、共振動作用コイル21のインダクタンス値Lを変更させるにつき、非磁性・良導電性金属材料で構成された板状の押圧検出金属スライダ16を共振動作用コイル21の後端面位置に配設するようにしたことにより、筐体2に対する外部からの衝撃によって筐体2内部の部材に損傷を生じさせることがないような構造を工夫し易い実用性が大きい電子ペン1を実現できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7