特許第5756893号(P5756893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5756893-靴底用部材 図000006
  • 特許5756893-靴底用部材 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756893
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】靴底用部材
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/04 20060101AFI20150709BHJP
【FI】
   A43B13/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-514730(P2015-514730)
(86)(22)【出願日】2013年5月1日
(86)【国際出願番号】JP2013062730
(87)【国際公開番号】WO2014178137
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2015年4月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】立石 純一郎
【審査官】 大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−177305(JP,U)
【文献】 特開昭63−89547(JP,A)
【文献】 特開平9−285307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物を発泡させてなるポリマーフォームによって一部又は全部が形成されている靴底用部材であって、前記ポリマーフォーム中に繊維が分散されており、該ポリマーフォームには、内部に前記繊維を存在させている繊維内在気泡と内部に前記繊維を存在させていない繊維非内在気泡とが形成され、前記繊維内在気泡の大きさが、前記繊維非内在気泡に比べて大きいことを特徴とする靴底用部材。
【請求項2】
前記繊維が有機繊維である請求項1記載の靴底用部材。
【請求項3】
前記有機繊維が、芳香族ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、セルロース繊維、フッ素樹脂繊維のいずれかである請求項2記載の靴底用部材。
【請求項4】
前記繊維の25℃における曲げ弾性率をE(MPa)、前記繊維内在気泡の気泡膜を形成しているポリマー組成物の25℃における曲げ弾性率をE(MPa)とした際に、下記条件を満足する請求項1乃至の何れか1項に記載の靴底用部材。

≧ (2×E
【請求項5】
前記繊維の平均長さが、500μm以上である請求項1乃至の何れか1項に記載の靴底用部材。
【請求項6】
前記繊維の平均径が0.5μm以上200μm以下である請求項1乃至5の何れか1項に記載の靴底用部材。
【請求項7】
前記ポリマーフォームが0.01以上0.15以下の比重を有し、該ポリマーフォームには、下記条件を満足させるように前記繊維が分散されている請求項1乃至の何れか1項に記載の靴底用部材。

c1≦(1.1×Hc0

(ただし、「Hc1」は、前記ポリマーフォームのアスカーC硬度を表し、「Hc0」は、前記ポリマーフォームと同じポリマー組成物で繊維を含有させずに前記ポリマーフォームと同じ比重となるように形成させたポリマーフォームのアスカーC硬度を表している。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底用部材に関し、より詳しくは、例えば、インナーソール、ソックライナー、ミッドソール或いはアウターソール等として用いられる靴底用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やゴムなどのポリマーを主成分とした組成物を発泡させてなるポリマーフォームは、優れたクッション性を示すことから各種の用途に利用されており、スポーツ用品などにも広く用いられている。
各種競技等に使用されるスポーツシューズは、多くの部材から構成されており、例えば、靴底であれば、アウターソール、ミッドソール、インナーソール等の靴底用部材から構成されている。
かかる靴底用部材は、軽量で、長時間の使用による変形を抑え、過酷な使用条件下に耐えうる機械的強度、衝撃緩衝性等の特性を有することが求められているため架橋樹脂を主成分としたポリマーフォームにより形成されている。
【0003】
従来、靴底用部材に利用されるポリマーフォームとしては、ポリウレタン、天然ゴム或いはエチレン−酢酸ビニル共重合体を架橋発泡させたものが知られている。
中でもエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分としたポリマー組成物を架橋発泡させてなるポリマーフォームは、耐久性、コスト等の観点から靴底用部材への利用に適したものとなっている(下記特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来のポリマーフォームは、圧縮歪みを長時間加えると元通りに形状を回復し難くなるという問題を有し、特に高発泡化させた際にこのような現象が顕著になるという問題を有する。
そのため、従来の靴底用部材は、軽量性を発揮させようとして従来よりも高発泡化させたポリマーフォームを形成材料として採用すると使用時における圧縮変形が使用後に十分回復しなくなるおそれを有する。
なお、圧縮変形に対する復元性に優れた靴底用部材は、通常、剛性の高い樹脂で形成された発泡体を形成材料に採用することで得ることができる。
しかし、高い剛性を有する樹脂によって形成させた発泡体は、剛性の低い軟質な樹脂によって形成させた発泡体に比べて靴底用部材に必要以上に硬度が上昇してしまい易く、シューズを使用する際の快適性を十分に発揮させることが難しくなる。
【0005】
即ち、従来の靴底用部材は、シューズの使用時に快適性を発揮させようとするとシューズ使用後における優れた形状復元性を発揮させることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平11−206406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題としており、シューズの使用時において快適性を発揮させ得るとともにシューズの使用後における形状復元性に優れた靴底用部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリマーフォーム中に繊維を分散させることで当該ポリマーフォームの硬度を上昇させすぎることなく圧縮永久歪などの特性を大きく改善させ得ることを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
即ち、前記課題を解決するための靴底用部材に係る本発明は、ポリマー組成物を発泡させてなるポリマーフォームによって一部又は全部が形成されている靴底用部材であって、前記ポリマーフォーム中に繊維が分散されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
前記靴底用部材は、シューズの使用時においては着用者の体重が加わるなどして圧縮変形を生じる。
本発明の靴底用部材に用いるポリマーフォームは、繊維が分散されているためにポリマーフォームの圧縮変形に際して当該繊維に曲げ応力や引張応力等を作用させることができる。
従って、前記曲げ応力に対する繊維の反発力や、前記引張応力に対する繊維の抗張力をシューズ使用後におけるポリマーフォームの形状復元に活用することができる。
【0010】
このようなことから、本発明によれば前記ポリマーフォームによって形成された靴底用部材に使用時における快適性を発揮させ得るとともに使用後には使用時に受けた変形に対する優れた復元性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】靴底用部材の一態様を示した該略側面図。
図2】繊維を分散させたポリマーフォームの断面観察を行った走査型電子顕微鏡(SEM)写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の靴底用部材について以下にその実施の形態を例示しつつ説明する。
図1は、本実施形態の靴底用部材を用いて形成される靴を示したもので、該靴1は、アッパー材2と靴底用部材3,4とを有している。
該靴1は、靴底用部材としてミッドソール3、及び、アウターソール4を有している。
該靴底用部材は、繊維を分散させたポリマーフォームによって形成されている。
本実施形態の靴底用部材は、例えば、0.15以下の比重を有し、且つ、圧縮永久歪が40%以下の該ポリマーフォームによって形成させることができる。
【0013】
本実施形態における前記ポリマーフォームの比重が0.15以下であるのは、前記靴底用部材に対して優れた軽量性を発揮させるためである。
なお、ポリマーフォームは、比重が0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。
なお、ポリマーフォームの比重とは、JIS K7112のA法「水中置換法」によって、23℃の温度条件下において測定される値を意味する。
該比重は、試料の浮上を防止するような機構を備えた比重計を用いて測定することができ、例えば、アルファミラージュ社から高精度電子比重計として市販されている比重計などによって測定することができる。
【0014】
靴底用部材は、過度に低硬度なポリマーフォームで形成されると、当該靴底用部材を備えたシューズの履き心地を低下させるおそれを有する。
このようなことから前記ポリマーフォームのアスカーC硬度は、10以上80以下であることが好ましく、20以上70以下であることがより好ましい。
なお、ポリマーフォームのアスカーC硬度とは、JIS K7312のタイプCによるスプリング硬さ試験を23℃において実施した際の瞬時値を意味する。
【0015】
本実施形態において、前記ポリマーフォームの圧縮永久歪が40%以下になっているのは、シューズの使用時に圧縮変形を受けた靴底用部材をシューズの使用後に使用前の状態に復元させ易くするためである。
なお、前記ポリマーフォームを圧縮永久歪が全く生じない状態にさせることは容易ではないことから、靴底用部材を製造容易なものとさせる上において前記ポリマーフォームの圧縮永久歪は、1%以上であることが好ましい。
この圧縮永久歪とは、ASTM D395A法(定荷重法)に基づいて測定される値であり、測定試料に対して23℃の温度条件下0.59MPaの圧力を22時間加え、前記測定試料を圧力から開放した24時間後に該測定試料の厚みを測定して求められる値を意味する。
【0016】
前記ポリマーフォームを構成するポリマー組成物は、架橋された状態であっても、非架橋な状態であってもよいが前記のような圧縮永久歪に係る特性を発揮させる上においては、架橋された状態でポリマーフォームを構成していることが好ましい。
該ポリマー組成物の主成分たるベースポリマーは、本実施形態においては、特に限定が加えられるものではなく、従来の靴底用部材の形成に利用されているポリマーと同様のものとすることができる。
【0017】
前記ベースポリマーは、オレフィン系のものであれば、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、1−ブテン−4−メチル−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体等とすることができる。
【0018】
また、オレフィン系以外のものであれば、前記ベースポリマーは、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等のポリウレタン系ポリマー;スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、SBSの水素添加物(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS))、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、SISの水素添加物(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS))、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体(SIBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン共重合体(SBSB)、スチレン−ブタジエン−スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBSBS)、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)等のスチレン系ポリマーなどとすることができる。
【0019】
さらに、本実施形態において前記ベースポリマーとして採用可能なポリマーを挙げると、例えば、フッ素樹脂やフッ素ゴムなどのフッ素系ポリマー;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド610などのポリアミド系樹脂やポリアミド系エラストマーといったポリアミド系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;シリコーン系エラストマー;ブタジエンゴム(BR);イソプレンゴム(IR);クロロプレン(CR);天然ゴム(NR);スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR);ブチルゴム(IIR)などなどが挙げられる。
【0020】
これらの中では、架橋密度等によって物性の調整が容易である点、加水分解等による物性低下の懸念が低い点、樹脂自体が軽量でポリマーフォームの軽量化に有利である点においてポリエチレンを前記ベースポリマーとすることが好ましく、特に主成分たるエチレンモノマーを1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィンとともに触媒存在下において中低圧法によって重合させた直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、前記ベースポリマーとして好適である。
しかも、メタロセン触媒などのシングルサイト触媒を用いてエチレンと1−ヘキセンとを重合させたLLDPEは、結晶サイズが整っており、ラメラが小さくタイ分子が大きいためにチーグラーナッタ触媒などのマルチサイト触媒によって重合されたLLDPEに比べて耐衝撃性などにおいて優れていることから前記ベースポリマーとして好適である。
【0021】
このようなベースポリマーとともにポリマーフォームを構成させる前記繊維は、当該ポリマーフォームの圧縮永久歪み特性を向上させる上において、その長さが、一般的な靴底用部材に利用されるポリマーフォームの平均気泡径以上となっていることが好ましい。
また、本実施形態のポリマーフォームは、繊維の大部分が気泡内の空間に存在し、該気泡を画定する気泡膜中には前記繊維の一部しか埋設されていない状態となっていることが好ましく、繊維の長さに占める前記埋設部分の割合が、半分以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
具体的には、前記繊維は、その平均長さが、ポリマーフォームの平均気泡径以上であることが好ましく、平均長さが、500μm以上であることが好ましい。
なお、繊維の平均長さは、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることが特に好ましい。
【0022】
また、前記繊維は、その平均径(直径)が小さいほど本発明の効果を顕著に発揮させ得ることから前記繊維の平均径は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。
ただし、繊維の平均径が過度に小さいとポリマーフォーム中に繊維を分散させ難くなってポリマーフォームの成形が困難になるおそれがあるため、前記繊維の平均径は、0.5μm以上とすることが好ましい。
なお、繊維の「平均長さ」、「平均径」は、光学顕微鏡、電子顕微鏡、X線等による透過観察によりポリマーフォーム中の繊維を観察し、該観察により無作為に選択した複数(例えば、数十本程度)の繊維について長さと直径とを求め、この長さと直径についての平均値を計算することで求めることができる。
【0023】
本実施形態においては、繊維の導入によりポリマーフォームに優れた圧縮永久歪み特性を発揮させることができたとしても、同時にポリマーフォームの反発弾性を増大させてしまっては、シューズ使用時における快適性が十分に発揮されなくなるおそれを有する。
【0024】
従って、前記ポリマーフォームには、その硬度等に影響を与えない範囲において繊維を分散させることが好ましく、下記条件式(1)を満足させるように前記繊維を分散させることが好ましい。

c1≦(1.1×Hc0) ・・・(1)

(ただし、「Hc1」は、前記ポリマーフォームのアスカーC硬度を表し、「Hc0」は、前記ポリマーフォームと同じポリマー組成物で繊維を含有させずに前記ポリマーフォームと同じ比重となるように形成させたポリマーフォームのアスカーC硬度を表している。)
【0025】
このようにポリマーフォームの反発弾性率や硬度の値が繊維を含有させない場合に比べて増大してしまうことを防止する意味においては、ポリマーフォームに占める繊維の割合は、10質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
また、ポリマーフォームを圧縮永久歪み特性に優れたものとするためには、ポリマーフォームに占める繊維の割合は、0.1質量%以上とすることが好ましく、0.5質量%以上とすることが特に好ましい。
【0026】
前記繊維は、ポリマー組成物を発泡させてポリマーフォームを形成させる際において前記ベースポリマーにとって異物的な存在とさせることができる。
そして、ポリマーフォームの発泡途中においては、ポリマー組成物からなる気泡膜が伸展して気泡が成長することになるがこのような繊維は、周囲に気泡膜が形成されるのを妨げる作用を発揮し、発泡完了後においては、周囲よりも大きな気泡中に内包されることになる。
即ち、本実施形態のポリマーフォームは、繊維を内部に存在させている気泡(以下「繊維内在気泡」という)と内部に繊維を存在させていない気泡(以下「繊維非内在気泡」という)とを有し、前記繊維内在気泡が前記繊維非内在気泡に比べて相対的に大サイズとなって形成されている。
そして、繊維は、通常、発泡完了時点において気泡内の空間に全体が取り込まれるわけではなく、長さ方向両端部や途中部分を気泡膜中に埋設、或いは、気泡膜に内側から当接させた状態となる。
即ち、前記繊維は、粗大気泡を画定する気泡膜を内側から支える支持支柱のような存在となって粗大気泡に内在する。
【0027】
この繊維内在気泡及び繊維非内在気泡については、走査型電子顕微鏡(SEM)などによってポリマーフォームの断面を観察することでその存在を確認することができる。
また、繊維内在気泡と繊維非内在気泡との大きさの関係も、SEMによるポリマーフォームの断面観察よって確認することができ、SEMによって観察される繊維内在気泡及び繊維非内在気泡の内、それぞれを無作為に複数ずつ選択し、該選択した複数(例えば、20個)の気泡の断面積の平均値を比較することで確認することができる。
この点に関して図2を参照しつつ説明する。
なお、図2は、実施例におけるNo.14のポリマーフォーム同等品について撮影したSEM像である。
このポリマーフォームは、粗大な気泡を内部に存在させていることが、SEM像から把握することができる。
また、このポリマーフォームは、図の中央部において左右に並んだ2つの粗大な気泡や、この2つの気泡の内の左側の気泡の上側に位置する粗大な気泡が繊維を内在させていることから、繊維内在気泡を有するものであることも当該SEM像から把握することができる。
なお、以後においては説明を繰り返さないが、このポリマーフォーム以外においても繊維を分散させることで図2と同様の気泡形成状況となることがSEM観察により確認されている。
【0028】
上記のごとく本実施形態のポリマーフォームは、粗大気泡たる繊維内在気泡と、微細気泡たる繊維非内在気泡とを混在させている。
そして、本実施形態のポリマーフォームは、単に繊維を含有させて、該繊維の曲げに対する復元力等を圧縮永久歪の低減に活用しているのみならず、繊維非内在気泡に比べて相対的に大きな気泡中に繊維を存在させることで圧縮歪に対する良好な復元性を発揮する。
【0029】
この点について圧縮永久歪の防止効果に関する粗大気泡の機能は十分明確ではないものの圧縮力による変形率(%)を粗大気泡と微細気泡とが共通させていると仮定した場合には変形量(μm)としては粗大気泡の方が大きいことになる。
圧縮力によって受ける変形量が粗大気泡の方が微細気泡に比べて大きい場合には、該粗大気泡は、圧縮力が取り除かれた際に当然ながら元の形状に回復するために微細気泡よりも大きく変形する必要がある。
粗大気泡に内在される繊維は、この時の形状復元に有効活用されると考えられる。
即ち、粗大気泡に内在する繊維は、圧縮力が加えられた際に折れ曲がる方向への弾性変形が生じることになるが、圧縮力が取り除かれた際には、元の形状に戻るべく復元力を発揮することから、この繊維自身の形状復帰において発揮される力を粗大気泡の形状復帰に活用することができる。
本実施形態のポリマーフォームは、このことにより単に繊維を含有させたポリマーフォームに比べて圧縮歪に対する優れた復元性が発揮されると考えられる。
【0030】
このような効果をより顕著に発揮させる上において、前記繊維は、少なくとも常温(25℃)における曲げ弾性率をE(MPa)、前記繊維内在気泡の気泡膜を形成しているポリマー組成物の常温(25℃)における曲げ弾性率をE(MPa)とした際に、下記条件式(2)を満たすことが好ましく、下記条件式(3)を満たすことがより好ましい。

>E ・・・(2)
≧(2×E) ・・・(3)

なお、上記のような条件式(2)、(3)に示す関係は、常温のみならず、靴底用部材に対して想定される通常の使用温度範囲において常時成立していることが好ましい。
即ち、繊維の曲げ弾性率は、例えば、0℃〜50℃の範囲において、常にポリマー組成物の曲げ弾性率よりも大きい値となることが好ましく、2倍以上の値となることが特に好ましい。
【0031】
前記ポリマーフォーム中に分散させることが好ましい前記繊維の具体的な例を挙げると、例えば、カーボンファイバー、ガラスファイバー、ロックウールなどの無機繊維や、合成繊維、天然繊維、再生繊維などの有機繊維が挙げられる。
この中では、折曲げ等の変形に際して破壊を起こし難く且つ該折曲げ等の変形に対する復元力を発揮する特性において相対的に優れている点において前記繊維は有機繊維であることが好ましい。
また、一般に有機繊維は、無機繊維に比べて低比重である点においても好ましい。
【0032】
前記有機繊維として、合成繊維を採用する場合であれば、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド繊維;ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンナフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート繊維などのポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、フッソ樹脂繊維などを採用することができる。
【0033】
前記有機繊維として、天然繊維を採用する場合であれば、例えば、木綿、麻、絹、羊毛などを採用することができ、前記有機繊維として、再生繊維を採用する場合には、セルロース繊維や、セルロース繊維を化学処理して得られるアセテート繊維、レーヨン繊維などを採用することができる。
【0034】
なかでも、芳香族ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、セルロース繊維、フッ素樹脂繊維は、折曲げ等の変形に対する復元力に優れている点において好適である。
【0035】
前記ベースポリマーをLLDPEなどのポリエチレンとする場合には、例えば、芳香族ポリアミド繊維やポリフェニレンサルファイド繊維などのベースポリマーとの親和性が低い材質からなる繊維を採用することで、繊維内在気泡を繊維非内在気泡に比べてより確実に大サイズなものとすることができる。
また、ポリマーフォームのベースポリマーがLLDPEである場合には、前記芳香族ポリアミド繊維や前記ポリフェニレンサルファイド繊維といったベースポリマーよりも曲げ弾性率の高い材質でできた繊維を採用することでポリマーフォームを圧縮永久歪み特性に一層優れたものとすることができる。
【0036】
なお、仮にこのような効果の顕著な繊維を採用したとしても、例えば、靴底用部材の厚み方向に向けて繊維が揃った状態になっていると、圧縮永久歪み特性の改善効果とともに反発弾性の増大(硬さの向上)が顕著になってシューズの快適性が損なわれる可能性がある。
従って、繊維は配向性のないランダムな状態となってポリマーフォーム中に分散させることが好ましい。
【0037】
このポリマーフォームを形成させるためのポリマー組成物には、例えば、前記ベースポリマーを架橋させるための架橋剤を含有させることができる。
該架橋剤は、例えば、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミン等とすることができ、なかでも有機過酸化物が好ましい。
【0038】
該有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド等が挙げられる。
【0039】
また、前記ポリマーフォームは、前記架橋剤とともに架橋助剤を前記ポリマー組成物に含有させることでその架橋密度を調整させることができる。
この架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアネート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリシクロデカンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートなどを挙げることができる。
【0040】
該ポリマーフォームを発泡状態にさせるための発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]等のアゾ化合物;N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等のニトロソ化合物;4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体;p−トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物;トリヒドラジノトリアジンなどの有機系熱分解型発泡剤を採用することができる。
【0041】
また、前記発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;亜硝酸アンモニウム等の亜硝酸塩、水素化合物などの無機系熱分解型発泡剤を採用することができる。
【0042】
さらに、メタノール、エタノール、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の各種脂肪族炭化水素類などの有機系発泡剤、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水などの無機系発泡剤も前記ポリマーフォームを形成させる際の発泡剤として用いることができる。
【0043】
前記ポリマー組成物に含有させるその他の添加剤としては、分散剤、加工助剤、耐侯剤、難燃剤、顔料、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等が挙げられる。
【0044】
このようなポリマー組成物を使ってポリマーフォームを形成させる方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を採用することができる。
なお、本実施形態においては、本発明の靴底用部材を上記のように例示しているが、本発明の靴底用部材は、上記例示に限定されるものではない。
例えば、本発明の靴底用部材は、上記のようなポリマーフォームのみによって形成させてもよく、或いは、圧縮変形に対する優れた復元性等の効果が著しく損なわれない範囲において布帛や樹脂シート等の他の素材を併用して形成させてもよい。
また、上記において具体的に記載がなされていない事項であっても、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、従来公知の技術事項を本発明の靴底用部材に採用することができる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
検討に用いた配合材料を以下に示す。
・LLDPE1
プライムポリマー社製、直鎖状低密度ポリエチレン(コモノマー:1−ヘキセン、メタロセン触媒重合品)、商品名「エボリューSP1540」、曲げ弾性率約150MPa
・EVA1
東ソー株式会社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体(VA 10%)、商品名「ウルトラセン540」、曲げ弾性率約95MPa
・ARM1
芳香族ポリアミド繊維、平均長さ200μm、平均径20μm、曲げ弾性率約62GPa
・ARM2
芳香族ポリアミド繊維、平均長さ500μm、平均径20μm、曲げ弾性率約62GPa
・ARM3
芳香族ポリアミド繊維、平均長さ1000μm、平均径20μm、曲げ弾性率約62GPa
・PPS1
ポリフェニレンサルファイド繊維、平均長さ6000μm、平均径10μm、曲げ弾性率約3GPa
・GF1
ガラス繊維、平均長さ3000μm、平均径20μm、曲げ弾性率約72GPa
・CF1
カーボンファイバー、平均長さ3000μm、平均径20μm、曲げ弾性率約220GPa
・PAR1
ポリアリレート繊維、平均長さ3000μm、平均径20μm、曲げ弾性率約180GPa
・PET1
ポリエチレンテレフタレート繊維、平均長さ3000μm、平均径10μm、曲げ弾性率約14GPa
・その他添加剤
ステアリン酸、酸化亜鉛、発泡剤(アゾジカルボンアミド、永和化成工業社製、「AC#3C−K2」)、架橋剤(ジクミルパーオキサイド、日油社製、「パークミルD」)、架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)
【0047】
(ポリマーフォームの作製と評価)
上記の配合材料を下記表1−4に示す割合で配合し、下記表1―4に示す比重となるようにポリマーフォームを作製した。
このポリマーフォームのアスカーC硬度、及び、圧縮永久歪を測定した結果を表1−4に併せて示す。
【0048】
なお、LLDPE1、EVA1、及び、各繊維の曲げ弾性率は、推定値である。
より具体的には、LLDPE1、EVA1の曲げ弾性率は、引張弾性率と同等の値を示すものとして推定し、上記には引張弾性率の測定値を記載している。
さらに、繊維の曲げ弾性率は、文献値を記載している。
LLDPE1とEVA1の引張弾性率は、短冊状試料について貯蔵弾性率をJIS K 7244−4に準拠して測定した値であり、下記条件で動的粘弾性を測定することにより算出した値である。

(引張弾性率測定条件)
測定機器:(株)ユービーエム製、動的粘弾性測定装置 Rheogel−E4000。
サンプル形状:長さ33±3mm、幅5±0.3mm、厚さ2±0.3mmの短冊状。
測定モード:正弦波歪みの引張モード。
チャック間距離:20±0.2mm。
温度:23℃。
周波数:10Hz。
動歪み:3〜5μm。

上記においては、繊維とベースポリマーとの曲げ弾性率を推定値で表しているが、両者の間には2桁以上の開きがあることから、仮に推定値が実際の値と多少相違していたとしても、下記の表1−4に示すポリマーフォームにおいては、前記繊維の25℃における曲げ弾性率をE(MPa)、ポリマーフォームの気泡膜を形成しているポリマー組成物の25℃における曲げ弾性率をE(MPa)とした際に、下記条件を満足している蓋然性が高いと考えられる。

≧ (2×E
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
上記結果において、例えば、比重が0.117で繊維を含んでいないNo.1の圧縮永久歪み(16%)に対し、同等の比重を有するNo.12の圧縮永久歪(10%)は、大きく改善されている。
同様の改善効果が、No.2とNo.8の間でも確認することができる。
また、本発明の効果は、No.1などとは別のベースポリマーでポリマーフォームを形成させた事例(No.26〜No.31)においても確認することができる。
即ち、本発明によれば、使用時に受けた圧縮変形に対する優れた復元性を示す靴底用部材を提供し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
1:靴、3:ミッドソール、4:アウターソール
図1
図2