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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5756995
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】新規蛍光性人工塩基
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/173 20060101AFI20150709BHJP
   C07H 19/23 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 473/32 20060101ALI20150709BHJP
   C07H 19/20 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150709BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20150709BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20150709BHJP
【FI】
   C07H19/173CSP
   C07H19/23ZNA
   C07D471/04 104Z
   C07D471/04 107Z
   C07D473/32
   C07H19/20
   !C12N15/00 A
   !C12N15/00 H
   !C12N15/00 G
【請求項の数】17
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2011-535487(P2011-535487)
(86)(22)【出願日】2010年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2010067989
(87)【国際公開番号】WO2011043491
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2009-232776(P2009-232776)
(32)【優先日】2009年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】508098800
【氏名又は名称】タグシクス・バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100128750
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】平尾 一郎
(72)【発明者】
【氏名】平尾 路子
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂之
(72)【発明者】
【氏名】三井 雅雄
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/015557(WO,A1)
【文献】 FUJIWARA, T., et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2001年,11(16),p. 2221-2223
【文献】 KIMOTO, M., et al.,Nucleic Acids Research,2007年,35(16),p. 5360-5369
【文献】 HIRAO, I., et al.,Nature Methods,2006年,3(9),p. 729-735
【文献】 NAIR, V., et al.,Journal of Organic Chemistry,1982年,47(23),p. 4520-4524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/173−21/00
C07D 471/04
C07D 473/32
C09K 11/06
C12N 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工塩基またはその誘導体を含む化合物であって、式I:
【化1】
[ここにおいて、
は、N又はCHであり、
はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を含み、
ここで、人工塩基の誘導体は、当該人工塩基のアミノ基がフェノキシアセチル基、イソブチリル基、又はジメチルホルムアミジル基で保護された誘導体であるか、Rに含まれるチエニル基又はチアゾリル基が、メチル基、アミノ基、水酸基、チオール基によってさらに置換された誘導体であり、
そして全体として式II:
【化2】
[ここにおいて、
Rは、水素、メチル基、糖、リボース、デオキシリボースからなる群より選択される]
で表される、前記化合物。
【請求項2】
以下:
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−(2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(iv)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(v)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される基を含む、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
人工塩基を有するヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体であって、人工塩基が式I:
【化3】
[ここにおいて、
は、N又はCHであり、
はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表されるものであり、
ここで、人工塩基を有するヌクレオシド又はヌクレオチドの誘導体は、ヌクレオシド又はヌクレオチドのホスホロアミダイト誘導体又はH−ホスホネート誘導体、ヌクレオシド又はヌクレオチドのアミノ基がフェノキシアセチル基、イソブチリル基、またはジメチルホルムアミジル基で保護された誘導体、ヌクレオシド又はヌクレオチドのヒドロキシル基がアセチル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トシル基、p−トルオイル基、4,4’−ジメトキシトリチル基、トリイソプロピルシリルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基で保護された誘導体である、
前記ヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項4】
式Iで表される人工塩基が、以下:
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(iv)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(v)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される、請求項3に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項5】
ヌクレオシドまたはヌクレオチドが、糖部分としてβ−D−リボフラノシルまたは2−デオキシ−β−D−リボフラノシルを含む、請求項3又は4に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項6】
ヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸またはリボヌクレオシド5’−三リン酸である、請求項3ないし5のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項7】
ホスホロアミダイト誘導体である、請求項3ないし5のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項8】
200nm以上の励起波長で蛍光を発する、請求項3ないし5のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項9】
ユニバーサル塩基として使用される、請求項3ないし5のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【請求項10】
請求項3ないし5のいずれか1項に記載のヌクレオチドが組み込まれた核酸。
【請求項11】
200nm以上の励起波長で蛍光を発する、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
核酸が、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、デオキシリボザイム、siRNA又はshRNAなどのRNA干渉誘導性核酸、microRNA、抗microRNA核酸分子、デコイ核酸、DNAアプタマー、およびRNAアプタマーからなる群より選択される機能性核酸である、請求項10又は11に記載の核酸。
【請求項13】
核酸が、LAMP法、SDA法、SMAP法、NASBA法、ICAN法、UCAN法、TMA法、Padlock Probe法、RCA法、bDNA法、PALSAR法、Invader法、TRC法、CPT法、およびPlexor法からなる群より選択される核酸増幅法に用いる増幅反応用プライマーである、請求項10又は11に記載の核酸。
【請求項14】
核酸が、モレキュラー・ビーコン、Taqmanプローブ、Scorpion-basedプローブ、およびRiboswitchからなる群より選択される標的核酸検出用プローブである、請求項10又は11に記載の核酸。
【請求項15】
核酸模倣体であって、塩基部分に式I:
【化4】
[ここにおいて、
は、N又はCHであり、
はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を有し、
ここで、人工塩基の誘導体は、当該人工塩基のアミノ基がフェノキシアセチル基、イソブチリル基、又はジメチルホルムアミジル基で保護された誘導体であるか、Rに含まれるチエニル基又はチアゾリル基が、メチル基、アミノ基、水酸基、チオール基によってさらに置換された誘導体であり、そして
骨格部分がモノフォリノヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)からなる群より選択される核酸模倣体の骨格である、
前記核酸模倣体。
【請求項16】
式I:
【化5】
[ここにおいて、
は、N又はCHであり、
はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を、核酸の複製反応によりDNAまたはRNA中に導入する方法であって、
式III:
【化6】
[ここにおいて、Rは水素、ならびに、置換されたまたは置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群より選択され、
ここにおいて置換されたアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、機能性官能基または蛍光性官能基で置換されている]
で表される塩基(以下、Pa誘導体と記載する)を有するヌクレオチドを含む核酸を鋳型鎖として用い;
複製基質として式Iの人工塩基を有するデオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸又はリボヌクレオシド5’−三リン酸を用いて、核酸の複製反応、転写反応又は逆転写反応を行い;
それにより塩基Pa誘導体と式Iの人工塩基との塩基対を含む核酸が生成することにより、式Iの人工塩基を含むヌクレオチドがDNA又はRNA中に導入される;
ここで、式Iで表される人工塩基の誘導体は、当該人工塩基のアミノ基がフェノキシアセチル基、イソブチリル基、又はジメチルホルムアミジル基で保護された誘導体であるか、Rに含まれるチエニル基又はチアゾリル基が、メチル基、アミノ基、水酸基、チオール基によってさらに置換された誘導体である、
前記方法。
【請求項17】
式I:
【化7】
[ここにおいて、
は、N又はCHであり、
はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を、化学合成によりDNA又はRNA中に導入する方法であって、
式Iで表される人工塩基又はその誘導体を有するヌクレオシドのホスホロアミダイト誘導体を用いてDNA又はRNAを合成することを含む、
ここで、式Iで表される人工塩基の誘導体は、当該人工塩基のアミノ基がフェノキシアセチル基、イソブチリル基、又はジメチルホルムアミジル基で保護された誘導体であるか、Rに含まれるチエニル基又はチアゾリル基が、メチル基、アミノ基、水酸基、チオール基によってさらに置換された誘導体である、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規蛍光性核酸人工塩基であって、プリン塩基、1−デアザプリン塩基、1,7−デアザプリン塩基の6位(プリン環の6位)に複素環分子を2つ以上縮重した官能基を有する人工塩基に関する。本発明はまた、該人工塩基を含む化合物およびその誘導体、ならびに該人工塩基を含むヌクレオチドが組み込まれた核酸に関する。本発明はさらに該核酸を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光性の核酸塩基類似体は、核酸の蛍光標識法として幅広い応用に用いることができる。核酸の蛍光標識では、一般的に、蛍光色素を天然型塩基のどれかに結合させて、この修飾塩基を化学合成や酵素反応(複製や転写)により、DNAやRNA中に導入する方法が取られている。しかし、この方法では、蛍光色素部分が核酸の構造中から大きく飛び出すこと、さらにその蛍光色素部分が核酸中のどこかの塩基とスタッキングすることにより、その核酸の機能を失活させてしまう可能性がある。また天然型塩基に蛍光色素を結合しているので、これらの塩基を複製や転写で核酸中の特定位置に取り込ませることはできない。これに対して蛍光性の核酸塩基類似体は、核酸の構造や機能を保ったまま蛍光標識を可能にし、また人工塩基対として複製や転写で機能すれば、DNAやRNA中の特定位置に導入することができる。
【0003】
従来から用いられている蛍光性の核酸塩基類似体として、2−アミノプリンや2,6−ジアミノプリンなどがある(特許文献1、非特許文献1−4)。しかしこれらは、蛍光強度がそれほど強くはなく、核酸中にこれらの塩基類似体を導入すると近傍の塩基とのスタッキングによって消光されてしまう。また、これらの塩基類似体は、A(アデニン)の類似塩基であり、T(チミン)の相補塩基として、複製や転写でDNAやRNA中に導入させることができる。しかし、その取り込み効率は低く、また複製や転写では核酸中のAに相当するところに取り込まれてしまうので、特定位置に導入させることはできない。すなわち、核酸中にAが一箇所しかない場合は、その部位にAの代わりに導入させることができるが、そのような核酸の配列は非常に特殊な場合であり、汎用性がない。またこれらの塩基類似体は、このようにAの類似体として用いることができるので、DNAやRNA中のAの部位をこれらで置き換えることができるが、他の塩基(G、C、Tなど)と置き換えるとそれらの核酸の機能を低下させてしまう可能性がある。
【0004】
本発明者らは、DNAの遺伝情報を拡張するために第三の塩基対(人工塩基対)の開発を進めてきた。そしてこれまでにs−y塩基対(s:2−アミノ−6−チエニルプリン、y:ピリジン−2−オン)、v−y塩基対(v:2−アミノ−6−チアゾリルプリン)、s−Pa塩基対(Pa:ピロロ−2−カルバルデヒド)、Ds−Pa塩基対(Ds:7−(2−チエニル)−イミダゾ[4,5−b]ピリジン)、Ds−Pn塩基対(Pn:2−ニトロピロール)など複製や転写で機能する数種類の人工塩基対の開発に成功している(非特許文献5−10)。さらに人工塩基sやvは蛍光を有し、これらの人工塩基を用いて核酸の局部構造の解析法などを報告してきた。しかし、sの蛍光強度はそれほど強くなく、また極大の励起波長が348nm、蛍光波長が435nmであることから、さらに長波長側にそれらの波長がシフトした核酸塩基類似体が望ましい。vはsよりも蛍光強度が強いが、化合物としての安定性が低く、塩基性条件下で分解されやすいのでその利用に制限があった。Ds−Pa塩基対やDs−Pn塩基対は、これらの人工塩基対を導入したDNAをPCRで増幅可能であり、非常に有用性があるが、350nm以上の励起波長では、Dsの蛍光は裸眼ではほとんど観測されない。
【0005】
従って、複製や転写でDNAやRNA中の特定部位に導入できる蛍光性人工塩基が開発されれば、核酸の新たな蛍光標識化法を確立することができる。
【0006】
また、どの天然型塩基とも同程度の安定性で塩基対を形成する塩基類似体はユニバーサル塩基と呼ばれており、ピロール−3−カルボキサミド、3−ニトロピロール、5−ニトロインドールなどが知られている(特許文献2−4;非特許文献11−17)。しかしながら、当該技術分野において機能性核酸を人工塩基で標識するにあたっては、より高い熱安定性を有するユニバーサル塩基としての人工塩基が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,451,530号
【特許文献2】米国特許第5,438,131号
【特許文献3】米国特許第5,681,947号
【特許文献4】米国特許第5,780,233号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.M.Jean,K.B.Hall,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98,37−41(2001)
【非特許文献2】D.C.Ward,et al.,J.Biol.Chem.,244,1228−1237(1969)
【非特許文献3】N.Patel,et al.,Eur.J.Biochem 203.361−366(1992)
【非特許文献4】E.L.Rachofsky,et al.,Biochemistry.40.946−956(2001)
【非特許文献5】T.Mitsui,et al.,Tetrahedron.63,3528−3537(2007)
【非特許文献6】M.Kimoto,et al.,Nucleic Acids Res.,35,5360−5369(2007)
【非特許文献7】I.Hirao,et al.,Nature Methods,3,729−735(2006)
【非特許文献8】T.Mitsui,et al.,J.Am.Chem.Soc.,127,8652−8658(2005)
【非特許文献9】I.Hirao,et al.,J.Am.Chem.Soc.,126,13298−13305(2004)
【非特許文献10】I.Hirao,et al.,Nature Biotechnology,20,177−182(2002)
【非特許文献11】P.Zhang,et al.,Nucleic Acids Res.,26,2208−2215(1998)
【非特許文献12】D.Loakes,et al.,Nucleic Acids Res.,23,2361−2366(1995)
【非特許文献13】D.Loakes,Nucleic Acids Res.,29,2437−2447(2001)
【非特許文献14】N.E.Watkins,J.SantaLucia,Nucleic Acies Res.,33,6258−6267(2005)
【非特許文献15】D.Loakes,D.M.Brown,Nucleic Acids Research.22.4039−4043(1994)
【非特許文献16】R.Nicols,et al.,Nature.369.492−493(1994)
【非特許文献17】Z.Guo,et al.,Nature Biotechnology.15.331−335(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規な蛍光性人工塩基を提供することにある。
【0010】
本発明は特に、以下の諸性質の少なくとも1つ:
1)強い蛍光を発する;
2)相補人工塩基との塩基対形成により、複製や転写でDNAやRNA中の特定位置に導入が可能;
3)ユニバーサル塩基としての性質を示す;
を示す新規な蛍光性人工塩基を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題解決のために鋭意研究に努めた結果、プリン塩基、1−デアザプリン、1,7−デアザプリンの6位(プリン環の6位)に複素環分子を2つ以上縮重した置換基を有する人工塩基が優れた蛍光特性を有することを見出し、本発明に想到した。
【0012】
発明者らは、これまでに、DNAの遺伝情報の拡張を目指して複製や転写で機能する第三の塩基対(人工塩基対)の開発を進めてきた。そして、今回、複製や転写でDNAやRNA中に位置特異的に導入を可能とする蛍光性の人工塩基(ss:2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル;Dss:7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イルなど)を開発した。人工塩基ssやDssの転写用基質(ssTPやDssTP)は、鋳型DNA中の人工塩基Pa(ピロロ−2−カルバルデヒド)に相補して、転写でRNA中に導入させることができる。また、DssはPaやPn(2−ニトロピロール)との人工塩基対として複製で機能させることもできる(例えば、Dss−PaやDss−Pn塩基対を組み込んだDNAは、PCRで増幅が可能である)。さらに、これらの蛍光性人工塩基Dssやssは、天然型のどの塩基とも二本鎖DNA中で安定な塩基対を形成することができ、ユニバーサル塩基としての性質も示すことを見出した。その結果、本発明に想到した。
【0013】
以上、本発明の理解のために本発明を想到するに至る経緯を説明したが、本発明の範囲は上記説明に限定されず、請求の範囲の記載によって定められる。
【0014】
本発明は、以下の態様1−16を提供する。
【0015】
態様1: 式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を含む化合物。
【0016】
態様2: 式II:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
Rは、水素、メチル基、糖、リボース、デオキシリボースからなる群より選択され、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される、態様1に記載の化合物。
【0017】
態様3: 以下:
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−(2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル基(ss);
(iv)2−アミノ−6−(2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル)プリン−9−イル基(sss);
(v)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(vi)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(vii)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される基を含む、態様1又は2に記載の化合物。
【0018】
態様4: 式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基を有するヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0019】
態様5: 式Iで表される人工塩基が、以下:
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル基(ss);
(iv)2−アミノ−6−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}プリン−9−イル基(sss);
(v)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(vi)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(vii)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される、態様4に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0020】
態様6: ヌクレオシドまたはヌクレオチドが、糖部分としてβ−D−リボフラノシルまたは2−デオキシ−β−D−リボフラノシルを含む、態様4又は5に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0021】
態様7: ヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸またはリボヌクレオシド5’−三リン酸である、態様4ないし6のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0022】
態様8: ホスホロアミダイト誘導体である、態様4ないし6のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0023】
態様9: 200nm以上の励起波長で蛍光を発する、態様4ないし6のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0024】
態様10: ユニバーサル塩基として使用される、態様4ないし6のいずれか1項に記載のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体。
【0025】
態様11: 態様4ないし6のいずれか1項に記載のヌクレオチドが組み込まれた核酸。
【0026】
態様12: 200nm以上の励起波長で蛍光を発する、態様11に記載の核酸。
【0027】
態様13: 核酸が、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、デオキシリボザイム、siRNA又はshRNAなどのRNA干渉誘導性核酸、microRNA、抗microRNA核酸分子、デコイ核酸、DNAアプタマー、およびRNAアプタマーからなる群より選択される機能性核酸である、態様11又は12に記載の核酸。
【0028】
態様14: 核酸模倣体であって、塩基部分に式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を有し、そして
骨格部分がモノフォリノヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、およびペプチド核酸(PNA)からなる群より選択される核酸模倣体の骨格である、
前記核酸模倣体。
【0029】
態様15: 式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を、核酸の複製反応によりDNAまたはRNA中に導入する方法であって、
式III:
[ここにおいて、Rは水素、ならびに、置換されたまたは置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群より選択され、
ここにおいて置換されたアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、機能性官能基または蛍光性官能基で置換されている]
で表される塩基(以下、Pa誘導体と記載する)を有するヌクレオチドを含む核酸を鋳型鎖として用い;
複製基質として式Iの人工塩基を有するデオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸又はリボヌクレオシド5’−三リン酸を用いて、核酸の複製反応、転写反応又は逆転写反応を行い;
それにより塩基Pa誘導体と式IIの人工塩基との塩基対を含む核酸が生成することにより、式IIの人工塩基を含むヌクレオチドがDNA又はRNA中に導入される;
前記方法。
【0030】
態様16: 式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を、化学合成によりDNA又はRNA中に導入する方法であって、
式Iで表される人工塩基又はその誘導体を有するヌクレオシドのホスホロアミダイト誘導体を用いてDNA又はRNAを合成することを含む、前記方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明の蛍光性人工塩基は、強い蛍光を発し、そして相補人工塩基であるPa誘導体と塩基対形成が可能であるため、複製反応や転写反応によりDNAやRNA中の特定位置に導入が可能である。このことから、本発明の蛍光性人工塩基は、核酸の新たな蛍光標識化法を確立するものである。
【0032】
また、本発明の蛍光性人工塩基は、ユニバーサル塩基として優れた性質を示す。ユニバーサル塩基は二本鎖DNAやRNA中で天然型のどの塩基とも塩基対を形成することができるので、核酸構造中の二本鎖領域の天然型塩基を本発明の人工塩基で置換することにより機能性核酸の標識が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1は、蛍光性人工塩基を有するヌクレオシドの構造を示す図である。
図2は、人工塩基を有するヌクレオチドsTP、DssTP、ssTPの蛍光強度の違いを示す図である。A.はヌクレオチドの構造を示す模式図、B.は365nmで励起した場合のキュベット内での蛍光発光を示す写真、及びC.は蛍光スペクトルである。
図3は、Klenowフラグメント(exo+)を用いた複製反応によるDNA中への人工塩基Dssの取り込みを示す図である。A.は複製反応の模式図であり、B.は解析結果を示すゲル電気泳動写真である。
図4は、T7 RNAポリメラーゼを用いた転写反応によるRNA中への人工塩基ss、Dssの取り込みを示す図である。A.は転写反応および解析手順に関する模式図であり、B.は解析結果を示すゲル電気泳動写真(UVシャドウイングによる検出(左側)、および落射紫外LEDを利用した検出(右側))である。
図5は、人工塩基Dssを含むDNA断片の二本鎖DNAの熱安定性、ならびに既存のピロール−3−カルボキサミド(NP)塩基との比較を示す図である。
図6は、各種shRNAF1変異体によるホタルルシフェラーゼ遺伝子発現抑制効果の結果を示す。A.はshRNAF1の構造を示す図であり、B.は人工塩基Dssで置換した各種shRNAF1変異体によるホタルルシフェラーゼ遺伝子発現抑制効果の結果を示すグラフ、そしてC.は人工塩基ssで置換した各種shRNAF1変異体によるホタルルシフェラーゼ遺伝子発現抑制効果の結果を示すグラフ、である。
図7は、各種shRNAF1変異体(A36置換)のホタルルシフェラーゼ遺伝子発現抑制効果についてIC50の算出過程を示すグラフ(上段)、およびIC50値を示す表(下段)である。
図8は、ナイロンメンブレン上のshRNAF1変異体(U35置換)およびリボヌクレオシド5’−三リン酸の蛍光観察の結果を示す写真(A.)およびグラフ(B.)である。
図9は、電気泳動によるshRNAF1変異体(U35置換)およびリボヌクレオシド5’−三リン酸の分離およびそれらの蛍光観察の結果を示す写真(A.)およびグラフ(B.)である。グラフは、ゲル上のバンドの蛍光強度をロードした量に対してプロットしたものである。
図10は、shRNAF1 A36Dss変異体をトランスフェクション後20時間経過した細胞を示す写真である。A.は5nM(上段)または25nM(下段)でトランスフェクションした場合の、明視野での観察結果(左側)およびUV励起して観察した結果(右側)を示す写真である(倍率20倍)。B.は25nMでトランスフェクションした場合の、UV励起して観察した結果を示す写真である(倍率40倍)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0035】
定義
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。
【0036】
本明細書において、「ヌクレオシド」とは、核酸塩基と糖の還元基とがグリコシド結合によって結合した配糖体化合物を意味する。ここで、核酸塩基は、天然型塩基であるアデニン、グアニン、シトシン、チミン、及びウラシル、天然型塩基の修飾体及び塩基類似体、並びに人工塩基も含む概念である。人工塩基は、該塩基が組み込まれた核酸において、天然型塩基または他の人工塩基と塩基対を形成可能な、天然型塩基ではない官能基を意味する。人工塩基の種類は特に限定されないが、例えば、置換された又は置換されていない2−アミノプリン、置換された又は置換されていないイミダゾ[4,5−b]ピリジン、置換された又は置換されていないピロロ[2,3−b]ピリジン、置換された又は置換されていないピリジン−2−オン、置換された又は置換されていないピロロ−2−カルバルデヒド、置換された又は置換されていない2−ニトロピロールに相当する塩基、イソグアニン、イソシトシン、キサントシン、2,4−ジアミノピリミジン、4−メチルベンズイミダゾール、ジフルオロトルエン、プロピニルイソカルボスチリル、7−アザインドールなどが挙げられる。人工塩基はまた、天然型塩基の誘導体であってもよい。
【0037】
本明細書において、「ヌクレオチド」とは、前記ヌクレオシドの糖部分がリン酸とエステルを作っている化合物をいう。より好ましくは、一、二、又は三リン酸エステルである。
【0038】
ヌクレオシド又はヌクレオチドの糖部分は、リボフラノシル、2’−デオキシリボフラノシル、あるいはハロゲンなどの置換基を2’位に有する2’−置換リボフラノシルであってよい。限定されるわけではないが、リン酸部分はアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メルカプト基、およびフルオロ基、からなる群より選択される基で、γ位のリン酸の水酸基が置換されていることが望ましい。ヌクレオシド又はヌクレオチドの糖部分、およびヌクレオチドのリン酸部分は、公知のヌクレオシド、ヌクレオチド、あるいはこれらの誘導体にみられる構成をとっていればよい。糖部分がリボフラノシルであるリボヌクレオチドはリボ核酸(RNA)の構成成分となり、2’−デオキシリボフラノシルであるデオキシリボヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)の構成成分となる。
【0039】
本明細書において、ヌクレオシド又はヌクレオチドの誘導体には、例えば、ホスホロアミダイト誘導体、H−ホスホネート誘導体が含まれる。
【0040】
ホスホロアミダイト誘導体は、核酸の化学合成に使用するためにヌクレオシド中の1またはそれより多くの箇所において置換基が保護基で修飾されている態様である(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(2001),10.42−10.46)。具体的には、(デオキシ)リボースの5’−水酸基は、ジメトキシトリチル基(DMT)、モノメトキシトリチル基、レブリニル基などの核酸合成に用いられる5’位保護基で保護されうる。これは、5’−水酸基が核酸の化学合成の際に投入されるホスホロアミダイトヌクレオシドと反応するのを防止するためである。また、投入されるホスホロアミダイトヌクレオシド上の(デオキシ)リボース残基に結合した三価のリン酸基は、ジイソプロピルアミノ基等で保護されうる。これは、結合の際に、テトラゾール等によって活性化されるためである。この三価のリン酸基はまた、シアノエチル、メトキシ等も結合する。これは、側鎖の反応を抑制するためである。さらに、塩基のプリン環のアミノ基は、フェノキシアセチル基、イソブチリル基等で保護されうる。これは、環外アミノ基の求核機能を保護するためである。本発明のホスホロアミダイト誘導体は、これらの保護基が1またはそれより多くの箇所において導入されている。好ましくは、上述したすべての箇所において保護基が導入されている。
【0041】
本明細書において、「核酸」とは、1より多くのヌクレオチドが5’→3’の方向に結合した核酸鎖の分子を意味する。本発明の核酸は、一本鎖又は二本鎖のRNA又はDNAを含む。二本鎖は、DNA/DNA、RNA/RNA、又はDNA/RNAであってもよい。また、DNAには、RNAを鋳型として逆転写してなるcDNAも含まれる。あるいは、核酸は三本鎖、四本鎖等も形成しうる。
【0042】
本明細書において、「ユニバーサル塩基」とは、どの天然型塩基とも同程度の安定性で塩基対を形成する塩基類似体を意味する。
【0043】
人工塩基またはその誘導体を含む化合物
一態様において本発明は、以下の式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基又はその誘導体を含む化合物を提供する。
【0044】
本明細書において人工塩基の誘導体には、人工塩基中の官能基が保護基で修飾された誘導体が含まれる。例えば、本発明の人工塩基のアミノ基を保護するのに適切な保護基には、フェノキシアセチル基、イソブチリル基、ジメチルホルムアミジル基などが挙げられる。人工塩基の誘導体はまた、式IのRに含まれるチエニル基またはチアゾリル基が、例えばメチル基、アミノ基、水酸基、チオール基などによってさらに置換された誘導体を含んでもよい。
【0045】
別の態様において、本発明の人工塩基又はその誘導体を含む化合物は、
式II:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
Rは、水素、メチル基、糖、リボース、デオキシリボースからなる群より選択され、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表されてもよい。
【0046】
置換基Rの糖には、ジヒドロキシアセトン、グリセルアルデヒドなどのトリオース、エリトルロース、エリトロース、トレオースなどのテトロース、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボースなどのペントース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、不クロース、ラムノースなどのヘキソース、セドヘプツロースなどのヘプトースが挙げられる。また、置換基Rの糖は、さらなる置換基で修飾されていてもよい。
【0047】
好ましい態様において、本発明の人工塩基又はその誘導体を含む化合物は、
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル基(ss);
(iv)2−アミノ−6−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}プリン−9−イル基(sss);
(v)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(vi)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(vii)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される基を含んでなる、前記化合物である。
【0048】
人工塩基を有するヌクレオシド、ヌクレオチド
一態様において本発明は、以下の式I:
[ここにおいて、
およびAは、それぞれ独立してN又はCHであり、
は、水素又はアミノ基であり、
は、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基、及び2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル基からなる群より選択される置換基である]
で表される人工塩基を有するヌクレオシド、ヌクレオチド又はその誘導体を提供する。
【0049】
好ましい態様において本発明は、上述の式Iで表される人工塩基が、以下:
(i)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss);
(ii)7−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dsss);
(iii)2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル基(ss);
(iv)2−アミノ−6−{2,2’,5’,2’’−ターチエン−5−イル}プリン−9−イル基(sss);
(v)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsas);
(vi)4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dsav);及び
(vii)4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン−1−イル基(Dvas);
からなる群より選択される、ヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体を提供する。
【0050】
本発明のヌクレオシド、ヌクレオチド又はそれらの誘導体の糖部分は、リボフラノシル、2’−デオキシリボフラノシル、あるいはハロゲンなどの置換基を2’位に有する2’−置換リボフラノシルであってよい。好ましい態様において、該糖部分はβ−D−リボフラノシル又は2−デオキシ−β−D−リボフラノシルである。
【0051】
本発明のヌクレオチドのリン酸部分は特に限定されないが、好ましくは三リン酸エステル体、すなわち、デオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸又はリボヌクレオシド5’−三リン酸である。
【0052】
本発明の人工塩基を有するヌクレオシド又はヌクレオチドの誘導体には、本発明の人工塩基を有するヌクレオシド又はヌクレオチドのホスホロアミダイト誘導体又はH−ホスホネート誘導体を含むほか、該ヌクレオシド又はヌクレオチドの官能基が保護基で修飾された誘導体が含まれる。例えば、本発明の人工塩基を有するヌクレオシド又はヌクレオチドのアミノ基を保護するのに適切な保護基には、フェノキシアセチル基、イソブチリル基、ジメチルホルムアミジル基などが挙げられ、ヒドロキシル基を保護するのに適切な保護基にはアセチル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トシル基、p−トルオイル基、4,4’−ジメトキシトリチル基、トリイソプロピルシリルオキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基などが挙げられる。
【0053】
本発明の人工塩基を有するヌクレオシド、ヌクレオチド、又はそれらの誘導体は、200nm以上の励起波長で蛍光を発する。好ましくは、250nm以上、300nm以上、325nm以上、350nm以上、365nm以上、370nm以上の励起波長で蛍光を発する。本発明の人工塩基は、プリン塩基、1−デアザプリン塩基、1,7−デアザプリン塩基の6位(プリン環の6位)に複素環分子を2つ以上縮重した官能基を有していることにより、特に350nm以上の励起波長でも強い蛍光を示す。この蛍光特性により、pmol量での検出を裸眼で行うことが可能である。
【0054】
また、本発明の人工塩基は、ユニバーサル塩基として使用することができる。
【0055】
人工塩基を導入する方法−複製・転写・逆転写による方法
本発明はまた、本発明の人工塩基またはその誘導体を、核酸の複製反応によりDNAまたはRNA中に導入する方法であって、
式III:
【化1】
[ここにおいて、Rは水素、ならびに、置換されたまたは置換されていないアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基からなる群より選択され、
ここにおいて置換されたアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、機能性官能基または蛍光性官能基で置換されている]
で表される塩基(以下、Pa誘導体と記載する)を有するヌクレオチドを含む核酸を鋳型鎖として用い;
複製基質として式Iの人工塩基を有するデオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸又はリボヌクレオシド5’−三リン酸を用いて、核酸の複製反応、転写反応、または逆転写反応を行い;
それにより塩基Pa誘導体と式Iの人工塩基との塩基対を含む核酸が生成することにより、式Iの人工塩基を含むヌクレオチドがDNA又はRNA中に導入される;
前記方法、を提供する。
【0056】
本発明の人工塩基は、別の人工塩基であるPa誘導体と塩基対を形成することが可能である。本発明の人工塩基の相補塩基であるPa誘導体を鋳型鎖DNAに組み込み、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、または逆転写酵素を用いた核酸複製反応により、本発明の人工塩基が鋳型DNA中のPa誘導体に相補してDNA又はRNA中に取り込まれる(図3および図4)。すなわち、本発明の人工塩基は鋳型DNA中のPaに相補することにより、特定の位置に選択的にDNA又はRNA中に導入することができる。
【0057】
本発明の方法における核酸の複製・転写・逆転写反応は公知の方法に従って行うことができる。酵素の選択、基質濃度の選択、またはアニーリング条件の選択などの反応条件は、当業者が適宜設定することができ、そのような検討は当業者が日常的に行う事項の範囲内である。しかしながら、核酸の複製・転写・逆転写反応を行う際の人工塩基のヌクレオチド基質の濃度の割合は、それぞれの天然型塩基のヌクレオチド基質濃度に対して少ない濃度とすることが、効率のよい核酸の複製・転写・逆転写のために好ましい。例えば、人工塩基のヌクレオチド基質の濃度の割合は、それぞれの天然型塩基のヌクレオチド基質濃度に対して1/2以下、1/5以下、1/10以下、1/20以下、1/100以下である。
【0058】
本発明の人工塩基を複製反応によりDNA中に導入する場合に使用可能なDNAポリメラーゼは、大腸菌のクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ、Phi29 DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼ、並びに、Pfu、DeepVent、Vent、Titanium Taq、及びKlenTaqなどの耐熱性ポリメラーゼ、などが挙げられる。また、その際に基質として利用可能な本発明の人工塩基を有するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオシド−5’−三リン酸である。
【0059】
本発明の人工塩基を転写反応によりRNA中に導入する場合に使用可能なRNAポリメラーゼは、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、及びSP6 RNAポリメラーゼなどのファージ由来RNAポリメラーゼ、並びに、Qβ レプリカーゼなどのRNA依存RNAポリメラーゼ、などが挙げられる。また、その際に基質として利用可能な本発明の人工塩基を有するヌクレオチドは、リボヌクレオシド5’−三リン酸である
【0060】
本発明の人工塩基を逆転写反応によりDNA中に導入する場合に使用可能な逆転写酵素は、HIV、AMV、及びMMLV由来の逆転写酵素、などが挙げられる。また、その際に基質として利用可能な本発明の人工塩基を有するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオシド−5’−三リン酸である。
【0061】
人工塩基を導入する方法−化学合成による方法
本発明はまた、本発明の人工塩基またはその誘導体を、化学合成によりDNAまたはRNA中に導入する方法であって、式Iで表される人工塩基または誘導体を有するヌクレオシドのホスホロアミダイト誘導体、H−ホスホネート誘導体、またはトリホスフェート誘導体を用いてDNA又はRNAを合成することを含む、前記方法を提供する。
【0062】
ヌクレオシドのホスホロアミダイト誘導体、H−ホスホネート誘導体、またはトリホスフェート誘導体を用いてDNA又はRNAを合成する方法は、当業者に知られている。本願発明の人工塩基またはその誘導体に関して、当業者は適宜反応条件等を設定することが可能である。
【0063】
本発明のヌクレオチドが組み込まれた核酸
本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸もまた、本発明により提供される。本発明の核酸は、上述した核酸の複製反応によりDNAまたはRNA中に導入する方法を用いて調製することができる。あるいは、本発明の核酸は、化学合成によって、DNA又はRNAに組み込んで調製することもできる。化学合成の例は、ホスホロアミダイト法、ホスホネート法、トリホスフェート法などによる合成が挙げられる。
【0064】
本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸は、200nm以上の励起波長で蛍光を発する。好ましくは、250nm以上、300nm以上、325nm以上、350nm以上、365nm以上、370nm以上の励起波長で蛍光を発する。本発明の人工塩基は、プリン塩基、1−デアザプリン塩基、1,7−デアザプリン塩基の6位(プリン環の6位)に複素環分子を2つ以上縮重した官能基を有していることにより、特に350nm以上の励起波長でも強い蛍光を示す。この蛍光特性により、pmol量での検出を裸眼で行うことが可能である。すなわち、本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸は、蛍光プローブとしての利用が可能である。
【0065】
好ましい態様において、本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸は、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、リボザイム、デオキシリボザイム、siRNA又はshRNAなどのRNA干渉誘導性核酸、microRNA、抗microRNA核酸分子、デコイ核酸、DNAアプタマー、およびRNAアプタマーからなる群より選択される機能性核酸である。
【0066】
アンチセンスDNA/RNAは、mRNAの一部に対して相補的な核酸である。アンチセンスDNA/RNAはmRNAに結合して、該mRNAからの翻訳を阻害することができる。
【0067】
リボザイムは、触媒活性を有するRNAの総称であり、デオキシリボザイムは、触媒活性を有するDNAの総称である。
【0068】
RNA干渉(RNA interference;RNAi)は、二本鎖RNA(dsRNA)によってその配列に対応するmRNAが配列特異的に分解され、その結果遺伝子の発現が抑制される現象である。RNA干渉の典型的な例としては、dsRNAは、RNaseIIIファミリーに属するダイサー(Diser)により、3’−末端の側に2塩基程度のオーバーハングを有する約21塩基〜23塩基のsiRNA(short interfering RNA)にプロセッシングされる。siRNAはRISCと呼ばれるsiRNA−タンパク質複合体に取り込まれ、siRNAの配列に対応する配列を有するmRNAを配列特異的に分解する。RNA干渉は、哺乳動物(ヒト、マウスなど)、線虫、植物、ショウジョウバエ、菌類などの広範な生物種間で保存されている現象であることが示されている。本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれたRNA干渉誘導性核酸は、RNA干渉におけるsiRNA或いはshRNA(short hairpin RNA)として利用可能である。
【0069】
microRNAは、数十塩基で構成される、タンパク質をコードしていないが、遺伝子発現調節の機能を有するRNAである。抗microRNA核酸分子は、microRNAに対して作用することにより、microRNAによる遺伝子発現調節機能を変調する分子である。
【0070】
デコイ核酸は、転写因子のDNA上の結合部位と同じ配列を有する二本鎖の核酸である。デコイ核酸は、転写因子タンパク質を捕捉することによって、本来その転写因子が制御している遺伝子発現を抑制する機能を有する。
【0071】
DNAアプタマー/RNAアプタマーは、SELEX法等により、特定の標的物質に対して結合するよう選択された一本鎖核酸である。
【0072】
また、別の好ましい態様において、本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸は、以下:LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence−Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)法、UCAN法、TMA法、Padlock Probe法、RCA(Rolling Circle)法、bDNA(branched DNA)法、PALSAR(Probe alternation link self−assembly reaction)法、Invader法、TRC法(Transcription Reverse Transcription Concerted Reaction)、CPT(Cycling Probe Technology)法、およびPlexor法、などの核酸増幅法に用いる増幅反応用プライマーであってもよい。
【0073】
さらに別の好ましい態様において、本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれた核酸は、モレキュラー・ビーコン、Taqmanプローブ、Scorpion−basedプローブ、およびRiboswitchなどの標的核酸検出用プローブであってもよい。
【0074】
本発明のヌクレオチドが組み込まれた核酸模倣体
本発明の人工塩基またはその誘導体を有する核酸模倣体もまた、本発明により提供される。核酸模倣体には、例えば、モルフォリノヌクレオチド、ロックド核酸(Locked Nucleic Acid:LNA)およびペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid:PNA)が含まれる。
【0075】
核酸模倣体は、天然型の核酸の骨格構造であるリボースまたはデオキシリボースがリン酸エステル結合によって連なった構造を、別の骨格構造で置換した模倣体である。
【0076】
モルフォリノヌクレオチドは、以下の構造
を骨格として有する。
【0077】
ロックド核酸(Locked Nucleic Acid:LNA)は以下の構造
或いは、
[式中、mは0〜2の整数、およびpは1〜3の整数である]
或いは、
[式中、mは0〜2の整数、pは1〜3の整数、および、
Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基などである]
を骨格として有する。
【0078】
ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid:PNA)は以下の構造
を骨格として有する。
【0079】
いずれの核酸模倣体の骨格構造の合成方法は当業者に公知であり、本発明の人工塩基を当該核酸模倣体の骨格構造に適用することができる。
【0080】
ユニバーサル塩基としての人工塩基
本発明者らは、本発明の人工塩基が、天然型のどの塩基とも二本鎖DNA中で安定な塩基対を形成することができる、ユニバーサル塩基としての性質も示すことを見出した。
【0081】
本発明の人工塩基と天然型塩基の塩基対形成の安定性は、一定の長さのDNA断片の中央に本発明の人工塩基を導入し、その相補鎖の同じ位置に天然型塩基を組み込み、それぞれの二本鎖DNAのTm値を測定することにより、熱安定性を評価することができる。
【0082】
本発明の人工塩基を有するヌクレオチドが組み込まれたDNA断片は、その相補鎖DNAと二本鎖を形成し、本発明の人工塩基と天然型のどの塩基と塩基対を形成させても、二本鎖DNAの熱安定性はほぼ変わらない。そして天然型の塩基の中で最も安定なミスマッチ塩基対であるT−G塩基対よりも安定である。
【0083】
ユニバーサル塩基として特に有用な人工塩基は、7−(2,2’−ビチエン−5−イル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基(Dss)、又は2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)プリン−9−イル基(ss)である。
【0084】
本発明の人工塩基は、二本鎖DNAやRNA中で天然型のどの塩基とも塩基対を形成することができるので、核酸構造中の二本鎖領域の天然型塩基を該人工塩基で置換することが可能である。したがって、二本鎖を形成する領域を含む機能性核酸であっても、本発明の人工塩基で置換することが可能である。
【0085】
また、本発明の人工塩基の別の特徴である、強い蛍光を発することや、相補人工塩基であるPa誘導体との塩基対形成により複製や転写でDNAやRNA中の特定位置への導入が可能であることなどの特徴を合わせることにより、DNAやRNAの部位特異的蛍光標識化、核酸の立体構造の局部構造の解析、核酸医薬品の蛍光標識と動態検出(イメージング)、リアルタイムPCRやSNP解析など多彩な基礎・応用研究に利用可能である。このような性質を有する蛍光性塩基類似体はこれまでに報告されていない。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
試薬・溶媒など
試薬及び溶媒は、標準的な供給業者から購入し、さらに精製することなく使用した。H−NMR(300MHz、270MHz)および31P−NMR(121MHz)スペクトルは、BRUKER AV300もしくはJEOL核磁気共鳴スペクトロメーター上に記録した。合成したヌクレオシド誘導体は、分取用カラム(Waters Microbond Sphere,C18,19mm x 150mm、流速10ml/分)、ヌクレオシド5’−三リン酸は、分取用カラム(PEGASIL C8,センシュウ科学,10mm x 150mm、流速6ml/分)を用いてGilson HPLCシステムで精製を行った。エレクトロスプレイ−イオン化マススペクトル(ESI−MS)は、Waters2690 LCシステムを伴ったWaters ZMD 4000マスシステム上に記録した。蛍光スペクトルは、JASCO FP6500蛍光分光計により測定し、蛍光量子収率は、硫酸キニーネを標準にして決定した。
【0088】
実施例1:ヌクレオシドの合成;7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(dDss)および7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(dDsss)の合成
条件:
(a)5−トリブチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン又は5−トリブチルスタンニル−2,2’、5’、2”−ターチオフェン、Pd(PPhCl、DMF;
(b)Pd/C、NaBH、ピリジン、HO;
(c)HCOOH;
(d)NaH、2−デオキシ3,5−ジ−O−p−トルオイル−α−D−エリスロ−ペントフラノシルクロリド、CHCN、そしてNaOMe、MeOH、CHCl
Rは2,2’−ビチエン−5−イル基又は2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル基である。
【0089】
(1−1)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミンおよび4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミンの合成
2,2’−ビチオフェン(830mg、5.0mmol)のTHF(50ml)溶液にn−ブチルリチウム(1.57Mのヘキサン溶液3.2ml、5.0mmol)を−78℃で加えた。この溶液を−78℃で30分撹拌した後、トリブチルスタンニルクロリド(1.5ml)を加えた。反応溶液を室温で30分間撹拌した後、水と酢酸エチルを用いて分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を濃縮したのち、2−アミノ−3−ニトロ−4−クロロピリジン(519mg、3.0mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(105mg、0.15mmol)のDMF(18ml)溶液に加えた。この溶液を100℃で5時間撹拌したのち、酢酸エチルと水で分液した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、減圧下で濃縮した。4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミン(809mg、89%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2%酢酸エチルの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。
【0090】
4−(2,2’,5’,2”−ターチオフェン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミンの合成は、2,2’,5’,2”−ターチオフェン(1.24g、5.0mmol)を用いて同じ反応により、250mg、22%の収率で得た。
4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ8.19(d,1H,J=5.1Hz),7.60(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.41(dd,1H,J=1.2,3.6Hz),7.35(d,1H,J=3.8Hz),7.20(d,1H,J=3.9Hz),7.14(dd,1H,J=3.6,5.1Hz),6.97(bs,1H),6.80(d,1H,J=5.1Hz).HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C1310について(M+H) 計算値:304.0214、実測値:304.0172.
4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ8.19(d,1H,J=5.0Hz),7.57(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.40(m,3H),7.32(d,1H,J=3.8Hz),7.22(d,1H,J=3.9Hz),7.13(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.99(bs,2H),6.80(d,1H,J=5.0Hz).
【0091】
(1−2)4−(2,2’−ビチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミンおよび4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミンの合成
4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミン(760mg,2.5mmol)とパラジウム(10%カーボン)のピリジン(25ml)溶液に、1M NaBH(7.5ml)を0℃で加えた。0℃で30分間撹拌したのち、5%アンモニウムクロリド水溶液を加えた。5分間撹拌したのち、溶液をろ過した。ろ液を塩化メチレンと水で分液した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥して濃縮した。4−(2,2’−ビチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミン(448mg、65%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。
【0092】
4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミンの合成は、4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−ニトロピリジン−2−アミン(250mg、0.65mmol)を用いて同じ反応により、103mg、45%の収率で得た。
【0093】
4−(2,2’−ビチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ7.54(dd,1H,J=7.54Hz),7.36−7.32(m,4H),7.12(dd,1H,J=3.6,5.1Hz),6.51(d,1H,J=5.3Hz),5.70(bs,2H),4.77(bs,2H).HRMS(FAB,3−NBAマトリクス)C1312について(M+H) 計算値:274.0473、実測値:274.0470.
4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ7.55(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.39−7.29(m,6H),7.12(dd,1H,J=3.6,5.1Hz),6.52(d,1H,J=5.3Hz),5.71(bs,2H),4.79(bs,2H).
【0094】
(1−3)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジンおよび7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成
4−(2,2’−ビチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミン(273mg,1.0mmol)のギ酸(3.0ml)溶液を140℃で12時間還流した。反応溶液を0℃に冷却して、28%アンモニア水(5.0ml)を加えた。この溶液を酢酸エチルと水で分液し、有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して減圧下で濃縮して7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン(272mg、96%)を得た。
【0095】
7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジンは、4−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)ピリジン−2,3−ジアミン(100mg、0.29mmol)を用いて同じ反応により、106mg、99%の収率で得た。
【0096】
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ13.25(bs,1H),8.50(s,1H),8.32(s,1H,J=5.2Hz),8.22(d,1H,J=3.9Hz),7.61(d,1H,J=5.0H),7.59(dd,1H,J=5.0,6.2Hz),7.47(dd,1H,J=1.1,3.6Hz),7.45(d,1H,J=4.1Hz),7.15(dd,1H,J=3.6,5.1Hz).HRMS(FAB,3−NBAマトリクス)C1410について(M+H) 計算値:284.0316、実測値:284.0365.
7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ13.25(bs,1H),8.51(s,1H),8.33(d,1H,J=5.2Hz),8.23(d,1H,J=4.0Hz),7.62(d,1H,J=5.3H),7.57(dd,1H,J=1.2,5.1Hz),7.50(d,1H,J=3.9Hz),7.44(d,1H,J=3.8Hz),7.40(dd,1H,J=1.2,3.6Hz),7.34(d,1H,J=3.8Hz),7.13(dd,1H,J=3.6,5.1).
【0097】
(1−4)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(dDss)および7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(dDsss)の合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン(142mg、0.5mmol)のCHCN(10ml)溶液に、NaH(24mg、0.6mmol、鉱物油中60%分散液)を加えた。反応溶液を室温で30分、40℃で30分撹拌したのち、2−デオキシ−3,5−ジ−O−p−トルオイル−α−D−エリスロ−ペントフラノシルクロリド(233mg、0.6mmol)を室温で加えた。この反応溶液を室温で12時間撹拌した後、酢酸エチルと水で分液し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−3,5−ジ−O−トルオイル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(227mg、0.36mmol)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2% メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−3,5−ジ−O−トルオイル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(227mg、0.36mmol)の塩化メチレン(3.5ml)とメタノール(3.5ml)溶液に、28% NaOCHのメタノール溶液(208mg)を加えて、室温で30分間撹拌した。反応溶液を、酢酸エチルと飽和塩化アンモニウム水溶液で分液し、有機層を水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(90mg、45%、2段階収率)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製後、RP−HPLC精製により得た。
【0098】
7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成は、7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン(100mg、0.27mmol)を用いて(NaHを加えて12時間リフラックスすること以外)同じ反応により22mg、17%、2段階収率で得た。
【0099】
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン:H NMR(300MHz,DMSO−d) δ8.77 (s, 1H), 8.35 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 8.23 (d, 1H, J = 3.9 Hz), 7.68 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 7.60 (dd, 1H, J = 1.0, 5.1 Hz), 7.48-7.45 (m, 2H), 7.15 (dd, 1H, J = 3.7, 5.1 Hz), 6.54 (t, 1H, J = 6.8 Hz), 5.34 (d, 1H, J = 4.1 Hz), 5.11 (t, 1H, J = 5.8 Hz), 4.47 (m, 1H), 3.92 (m, 1H), 3.69-3.52 (m, 2H), 2.81 (m, 1H), 2.36 (ddd, 1H, J = 3.3, 6.2, 13.2 Hz).13C NMR(75MHz,DMSO−dδ147.06, 144.01, 143.65, 140.02, 136.11, 135.50, 131.45, 130.82, 129.95, 128.56, 126.24, 124.74, 124.55, 113.51, 87.89, 83.77, 70.78, 61.71, 39.39.HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C1918について(M+H) 計算値:400.0790、実測値:400.0815.
7−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン:H NMR(300MHz,DMSO−d)δ8.77 (s, 1H), 8.36 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 8.24 (d, 1H, J = 4.0 Hz), 7.70 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 7.57 (dd, 1H, J = 1.1, 5.1 Hz), 7.51 (d, 1H, J = 3.9 Hz), 7.45 (d, 1H, J = 3.8 Hz), 7.40 (dd, 1H, J = 1.1, 3.6 Hz), 7.34 (d, 1H, J = 3.8 Hz), 7.13 (dd, 1H, J = 3.6, 5.1 Hz), 6.54 (t, 1H, J = 6.8 Hz), 5.34 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 5.11 (t, 1H, J = 5.3 Hz), 4.46 (m, 1H), 3.92 (m, 1H), 3.60 (m, 2H), 2.81 (m, 1H), 2.36 (ddd, 1H, J = 3.3, 6.2, 13.2 Hz).
【0100】
実施例2:ヌクレオシドの合成;2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(dss)および2−アミノ−6−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(dsss)の合成
条件:(a)5−トリブチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン又は5−トリブチルスタンニル−2,2’,5’,2”−ターチオフェン、Pd(PPh、LiCl、ジオキサン;次いでTBAF、THF。Rは2,2’−ビチエン−5−イル基又は2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル基である。
【0101】
6−O−トシル−3’,5’−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリル−デオキシグアノシン(650mg、1.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(58mg、0.05mmol)、リチウムクロリド(84mg、2.0mmol)、および5−トリブチルスタニル−2,2’−ビチオフェン(5.0mmol)のジオキサン溶液を120℃で4.5時間還流した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して減圧下で濃縮した。2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−3,5−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリル−β−D−リボフラノシル)プリン(550mg、86%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製した。2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−3,5−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリル−β−D−リボフラノシル)プリン(550mg)のTHF(8.6ml)溶液に、1M テトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液(2.6ml)を加えて、室温で1時間撹拌した。反応溶液を濃縮後、2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(264mg、64%、2段階収率)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびRP−HPLC精製により得た。
【0102】
2−アミノ−6−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(dsss)(405mg、81%、2段階収率)は、5−トリブチルスタニル−2,2’,5’,2”−ターチオフェン(5.0mmol)を用いて同じ反応により得た。
【0103】
2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(dss):H NMR(300MHz,DMSO−d)δ8.45(d,1H,J=3.9Hz),8.38(s,1H),7.61(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.48−7.46(m,2H),7.16(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.57(bs,2H),6.29(t,1H,J=7.4Hz),5.30(d,1H,J=4.1Hz),4.98(t,1H,J=5.5Hz),4.40(m,1H),3.85(m,1H),3.58(m,2H),2.66(m,1H),2.28(m,1H).
2−アミノ−6−(2,2’,5’,2”−ターチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(dsss):H NMR(270MHz,DMSO−d)δ8.44(d,1H,J=4Hz),8.37(s,1H),7.56(dd,1H,J=1.1,4.9Hz),7.49(d,1H,J=4.0Hz),7.43(d,1H,J=4.0Hz),7.39(dd,1H,J=1.0,3.6Hz),7.32(d,1H,J=4.0Hz),7.12(dd,1H,J=3.6,4.9Hz),6.56(bs,2H),6.28(t,1H,J=6.9Hz),5.29(d,1H,J=4.0Hz),4.96(t,1H,J=5.6Hz),4.38(m,1H),3.85(m,1H),3.55(m,2H),2.65(m,1H),2.28(m,1H).
【0104】
実施例3:ヌクレオシドの合成;1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsas)、1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsav)および1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDvas)の合成
Rは、2,2’−ビチエン−5−イル基、2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル基、又は5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル基。
試薬および略号:
(a)mCPBA、EtOAc、次いでメタンスルホニルクロリド、DMF;
(b)NaI、CHCOCl、CHCN;
(c)NaH、2−デオキシ−3,5−ジ−O−p−トルオイル−α−D−エリスロ−ペントフラノシルクロリド、CHCN;
(d)ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリブチルスタンニル誘導体、DMF;
(e)NH、メタノール又はNaOMe、メタノール
【0105】
(3−1)4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジンの合成
1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(5.3g,45mmol)を酢酸エチル(45ml)に溶解し、酢酸エチル(30ml)に溶解したメタ−クロロ化安息香酸(14g,54mmol)溶液を0℃で撹拌しながら1時間かけて滴下して加えた。滴下後室温で3時間撹拌した後、0℃で静置した。結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄後、減圧下で乾燥した。これを水(30ml)に溶解後、30%KCOをpH10になるまで加え、室温で1時間、0℃で1時間静置した後、沈殿をろ過、エーテルで洗浄してN−オキシドを3.5g(58%)得た。N−オキシド(3.0g、22mmol)をDMF(16ml)に溶解し50℃で加熱した。メタンスルホニルクロリド(4.7ml,60mmol)のDMF(6.4ml)溶液を70℃で滴下し、この反応溶液を75℃で2時間撹拌した。反応溶液を氷に加えた後、0℃で10NのNaOHを用いて中和した。室温で1時間撹拌し生成した沈殿をろ過して水で洗浄した後、60℃で減圧乾燥して目的とする4−クロロ−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジンを2.7g(80%)得た。4−クロロ−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(2.7g、18mmol)、NaI(13g、88mmol)をアセトニトリル(28ml)に溶解し、室温で撹拌しながらCHCOCl(3.5ml、50mmol)を加えた。反応溶液を85℃で12時間加熱した。反応溶液を室温に戻した後、10%NaCO(28ml)、10%NaHSO(28ml)を加えて室温で15分撹拌した。酢酸エチルを加えて分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮後、シリカゲルカラムで精製して4−ヨード−1−N−アセチル−ピロロ[2,3−b]ピリジン(2.0g)ならびに4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(2.3g)を得た。4−ヨード−1−N−アセチル−ピロロ[2,3−b]ピリジン(2.0g、7.0mmol)は、エタノール(70ml)に溶解し、メタノール中28%ナトリウムメトキシド(1.4ml、7.0mmol)を加えて1時間還流した。反応溶液を濃縮後、酢酸エチルと飽和アンモニウムクロリド水溶液で分液し、有機層を飽和アンモニウムクロリド水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮後、先に得られた4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(2.3g)とあわせてエタノールで再結晶して4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(4.0g,92%)を得た。
【0106】
4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン:H NMR(500MHz,DMSO−d)δ12.01(s,1H),7.89(d,1H,J=5.0Hz),7.59(t,1H,J=3.1Hz),7.51(d,1H,J=5.0Hz),6.27(d,1H,J=3.4Hz).
【0107】
(3−2)1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−ヨード−ピロロ[2,3−b]ピリジンの合成
4−ヨード−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン(950mg、3.9mmol)のアセトニトリル(39ml)溶液に、NaH(156mg、60%油中分散液、3.9mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、2−デオキシ−3,5−ジ−O−p−トルオイル−α−D−エリスロペントフラノシルクロリド(1.8g、1.2当量)を加えて室温で1.5時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと飽和アンモニウムクロリド水溶液で分液し、有機層を飽和アンモニウムクロリド水溶液と飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムで精製して1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−ヨード−ピロロ[2,3−b]ピリジンを1.8g(77%)得た。
【0108】
(3−3)1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsas)の合成
2−トリブチルスタニル−5,2−ビチオフェン(0.3mmol)、1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−ヨード−ピロロ[2,3−b]ピリジン(120mg,0.2mmol)、ジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウム(7mg)のDMF(2ml)の溶液を100℃で1時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮してシリカゲルカラムにより精製して、1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジンを得た。これを、塩化メチレン(10ml)とメタノール(2ml)に溶解し、28%ナトリウムメチラート(0.12ml)を加えて室温で30分撹拌した。シリカゲルカラムならびにHPLCにより精製して1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−(2,2’−ビチエン−5−イル)−ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsas、54mg、68%)を得た。
【0109】
H NMR(300MHz,DMSO−d)δ8.26(d,1H,J=5.1Hz),7.88(d,1H,J=3.8Hz),7.80(d,1H,J=3.9Hz),7.58(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.44(m,3H),7.14(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.96(d,1H,J=3.8Hz),6.75(dd,1H,J=6.1,8.1Hz),5.26(d,1H,J=4.1Hz),5.00(t,1H,J=5.6Hz),4.39(m,1H),3.84(m,1H),3.56(m,2H),2.59(m,1H),2.23(m,1H).
【0110】
(3−4)1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsav)の合成
2−ブロモチアゾール(0.9ml、10mmol)、ジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウム(350mg)のDMF(50ml)の溶液に2−トリブチルスタンニルチオフェン(3.5ml、11mmol)を加え、90℃で3時間撹拌した。反応溶液を濃縮し、酢酸エチルと水で分液後、飽和食塩水で有機層を洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を濃縮後シリカゲルカラムで精製して2,2’−チエニルチアゾール(1.4g,87%)で得た。2,2’−チエニルチアゾール(251mg、1.5mmol)のTHF(15ml)の溶液を−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(0.96ml,1.5mmol,1.57Mヘキサン溶液)を加え、−78℃で30分間撹拌した。これにトリメチルシリルクロリド(1.5mmol、0.19ml)を加えて−78℃で30分間撹拌した。さらにn−ブチルリチウム(0.96ml、1.5mmol、1.57Mヘキサン溶液)を加え、−78℃で30分間撹拌した後、トリブチルスタンニルクロリド(0.45ml、1.6mmol)を加えて室温で30分撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮してシリカゲルカラムにより精製して、2−トリブチルスタンニル−5−(5’−トリメチルシリル−2−チエニル)チオフェン(735mg)を得た。1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−ヨード−ピロロ[2,3−b]ピリジン(298mg、0.5mmol)、ジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウム(18mg、0.025mmol)のDMF(5ml)の溶液に、2−トリブチルスタンニル−5−(5’−トリメチルシリル−2−チエニル)チオフェン(397mg,0.75mmol)を加え、100℃で1時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮してシリカゲルカラムにより精製して、1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−(2−(5−(5’−トリメチルシリル−2−チエニル)チオフェン)−ピロロ[2,3−b]ピリジン(335mg)を得た。これを、塩化メチレン(5ml)とメタノール(5ml)に溶解し、28%ナトリウムメチラート(290mg,1.5mmol)を加えて室温で30分撹拌した。反応溶液にアンモニウムクロリド(80mg)を加えて濃縮した後、シリカゲルカラムならびにHPLCにより精製して1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[2−(2−チアゾリル)チエン−5−イル]−ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDsav,112mg)ならびに、1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[2−(2−チエニル)チアゾール−5−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDv’as、26mg)を得た。
【0111】
dDsav: H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.30(d,1H,J=5.1Hz),7.91(d,1H,J=3.8Hz),7.87(m,2H),7.79(m,2H),7.48(d,1H,J=5.1Hz),6.96(d,1H,J=3.8Hz),6.76(dd,1H,6.1,8.0Hz),5.27(d,1H,J=4.1Hz),4.99(t,1H,J=5.6Hz),4.38(m,1H),3.85(m,1H),3.56(m,2H),2.56(m,1H),2.24(m,1H).
dDv’as: H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.51(s,1H),8.30(d,1H,J=5.1Hz),7.93(d,1H,J=3.8Hz),7.79(m,2H),7.47(d,1H,J=5.1Hz),7.22(dd,1H,J=4.0,4.9Hz),7.94(d,1H,J=3.8Hz),6.75(dd,1H,J=6.2,7.9Hz),5.27(d,1H,J=4.1Hz),4.99(t,1H,J=5.6Hz),3.38(m,1H),3.59(m,2H),2.57(m,1H),2.24(m,1H).
【0112】
(3−5)1−[2−デオキシ−β−D−リボフラノシル]−4−[5−(2−チエニル)チアゾール−2−イル]ピロロ[2,3−b]ピリジン(dDvas)の合成
5−(2−チエニル)チアゾール(0.4mmol)のジエチルエーテル溶液を−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(0.4mmol、1.57M ヘキサン溶液)を加えて−78℃で30分間撹拌した。トリブチルスタニルクロリドを加えた後、室温で30分間撹拌し、反応溶液を酢酸エチルと水で分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄濃縮後、1−[2−デオキシ−3,5−ジ−O−(トルオイル)−β−D−リボフラノシル]−4−ヨード−ピロロ[2,3−b]ピリジン(120mg、0.2mmol)、クロロビストリフェニルフォスフィンパラジウム(5% mol)、DMF(2ml)を加えて100℃で1時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、飽和食塩水と水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムで精製後、ナトリウムメトキシド(1.6ml)を加えて室温で30分間撹拌し、シリカゲルカラムで精製後、HPLCで精製してdDvasヌクレオシド(34mg)得た。
【0113】
dDvas : H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.37(d,1H,J=5.1Hz),8.31(s,1H),7.96(d,1H,J=3.8Hz),7.68(m,2H),7.54(dd,1H,J=1.1,3.6Hz),7.19(dd,1H,3,7,5,1Hz),7.15(d,1H,J=3.7Hz),6.77(dd,1H,J=6.1,8.0Hz),5.28(d,1H,J=4.1Hz),4.98(t,1H,J=5.5Hz),4.38(m,1H),3.85(m,1H),3.56(m,2H),2.57(m,1H),2.49(m,1H).
【0114】
実施例4:アミダイト合成(dDss及びdss)
条件:
(a)DMTr−Cl、dDssについてピリジン、トリメチルシリルクロリド、フェノキシアセチルクロリド、ヒドロキシベンゾトアゾール、ピリジン、CHCN、次いでDMTr−Cl、ピリジン
(b)2−シアノエチル N,N−ジイソプロピルアミノクロロホスホロアミダイト、ジイソプロピルアミン、THF。
【0115】
(4−1)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成。
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(dDss)(262mg、0.66mmol)をピリジンで3回共沸乾燥した後、ピリジン(7.0ml)に溶解させ4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(367mg、0.79mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウム水溶液で分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ [4,5−b]ピリジン(408mg、89%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。
【0116】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.66 (s, 1H), 8.30 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 8.22 (d, 1H, J = 3.9 hz), 7.67 (d, 1H, J = 5.2 Hz), 7.60 (dd, 1H, J = 1.1, 5.1 Hz), 7.48-7.46 (m, 2H), 7.34-7.31 (m, 2H), 7.24-7.14 (m, 8H), 6.80 (d, 2H, J = 9.0 Hz), 6.75 (d, 2H, J = 9.0 Hz), 6.55 (t, 1H, J = 6.3 Hz), 5.39 (d, 1H, J = 4.6 Hz), 4.51 (m, 1H), 3.70 および3.67 (s, s, 6H), 3.19 (m, 2H), 2.96 (m, 1H), 2.41 (m, 1H).
HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C4035Naについて (M+Na) 計算値:724.1916、実測値:724.1978
【0117】
(4−2)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノホスホロアミダイトの合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(203mg、0.29mmol)は、ピリジンで3回、THFで3回共沸乾燥した。このジイソプロピルエチルアミン(76μl、0.43mmol)とTHF(1.5ml)を加えて、最後に2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノクロロホスホロアミダイト(78μl、0.35mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。反応溶液にメタノール(50μl)を加え、EtOAc:TEA(20:1、v/v、20ml)で希釈した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層を減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノホスホロアミダイト(260mg、99%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2%トリエチルアミンを含む塩化メチレンとヘキサン2:3の溶液で溶出)で精製して得た。
【0118】
H NMR(300MHz、CDCl)δ 8.33−8.30(m,2H),8.11(d,1H,J=3.9Hz),7.47−7.41(m,3H),7.35−7.17(m,10H),7.07(dd,1H,J=3.6,5.1Hz),6.82−6.76(m,4H),6.62(m,1H),4.80(m,1H),4.34(m,1H),3.91−3.78(m,10H),3.49−3.32(m,2H),2.94(m,1H),2.73(m,1H),2.64(t,1H,J=6.5Hz),2.48(t,1H,J=6.4Hz),1.23−1.12(m,12H).
31P NMR(121MHz、CDCl)δ 149.47および149.29(ジアステレオ異性体).
HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C4952PNaについて(M+Na) 計算値:924.2994、実測値:924.3328.
【0119】
(4−3)2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリンの合成
2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(ss)(208mg、0.5mmol)をピリジンで3回共沸した後、ピリジン(2.5ml)に溶解し、トリメチルシリルクロリド(476μl、3.8mmol)を加えて室温で30分撹拌した(溶液A)。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(122mg、0.9mmol)をピリジンで3回共沸した後、ピリジン(0.25ml)とアセトニトリル(0.25ml)に溶解し、この溶液を0℃に冷却して、フェノキシアセチルクロリド(104μl,0.75mmol)を加えて5分間撹拌した(溶液B)。溶液Bに溶液Aを0℃で加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液を0℃に冷却し、14%アンモニア水溶液(0.5ml)を加えて10分撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(246mg、89%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%メタノールの塩化メチレンで溶出)で精製して得た。
【0120】
H NMR(300MHz,DMSO)δ 10.77(s,1H),8.74(s,1H),8.55(d,1H,J=4.0Hz),7.65(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.54(d,1H,J=3.9Hz),7.51(dd,1H,J=1.1,3.6Hz),7.34−7.29(m,2H),7.17(dd,1H,J=5.7,5.1Hz),7.01−6.94(m,3H),6.41(t,1H,J=6.8Hz),5.35(d,1H,J=4.1Hz),5.10(s,2H),4.93(t,1H,J=5.5Hz),4.46(m,1H),3.89(m,1H),3.59(m,2H),2.79(m,1H),2.35(m,1H).
【0121】
(4−4)2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリンの合成
2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)プリン(240mg、0.44mmol)をピリジンで共沸乾燥した後、ピリジン(4.4ml)に溶解させ4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(163mg、0.48mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウム水溶液で分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン(314mg、84%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。
【0122】
H NMR(300MHz、DMSO)δ 10.72(s,1H),8.64(s,1H),8.56(d,1H,J=4.0Hz),7.65(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.55(d,1H,J=3.9Hz),7.52(dd,1H,J=1.1,3.6Hz),7.34−7.27(m,4H),7.19−7.12(m,8H),7.00−6.95(m,3H),6.75(d,2H,J=8.9Hz),6.69(d,2H,J=8.9Hz),6.45(t,1H,J=5.8Hz),5.33(d,1H,J=4.7Hz),5.05(m,2H),4.55(m,1H),4.01(m,1H),3.67,3.64(s,s,6H),3.30(m,1H,HOシグナルピークと重なる),3.12(m,1H),2.95(m,1H),2.40(m,1H).
【0123】
(4−5)2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン 2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノホスホロアミダイトの合成
2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン(310mg、0.36mmol)は、ピリジンで3回、THFで3回共沸乾燥した。このジイソプロピルエチルアミン(95μl、0.55mmol)とTHF(1.8ml)を加えて、最後に2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノクロロホスホロアミダイト(98μl、0.44mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。反応溶液にメタノール(50μl)を加え、EtOAc:TEA(20:1、v/v、20ml)で希釈した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、有機層を減圧下で濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2−デオキシ−5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン 2−シアノエチル−N,N−ジイソプロピルアミノホスホロアミダイト(370mg、97%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2%トリエチルアミンを含む塩化メチレンとヘキサン2:3の溶液で溶出)で精製して得た。
【0124】
H NMR(300MHz、CDCl)δ 8.59,8.58(s,s,1H),8.22(d,1H,J=4.4Hz),7.39−7.17(m,14H),7.13−7.05(m,4H),6.82−6.75(m,4H),6.50(t,1H,J=6.6Hz),4.94(bs,2H),4.80(m,1H),4.34(m,1H),3.94−3.55(m,4H),3.77(s,6H),3.45−3.40(m,2H),2.93(m,1H),2.80−2.66(m,1H),2.65(t,1H,J=6.4Hz),2.48(t,1H,J=6.4Hz),1.22−1.11(m,12H).
31P NMR(121MHz、CDCl)δ 149.57.
【0125】
実施例5:デオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸(dDssTP)の合成
条件:
(a)無水酢酸、ピリジン、次いでジクロロ酢酸、CHCl
(b)クロロ−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オン、ジオキサン、ピリジン、トリ−n−ブチルアミン、ビス(トリブチルアンモニウム)ピロホスフェート、I、HO、28%NHOH
【0126】
(5−1)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−3−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−5−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(195mg、0.28mmol)をピリジンで3回共沸乾燥したのち、ピリジン(2.8ml)に溶解し、無水酢酸(105μl、1.1mmol)を加えて室温で12時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウム水溶液で分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。残渣をトルエンで共沸乾燥した後、塩化メチレン(28ml)に溶解させ、ジクロロ酢酸(280μl)を0℃で加えて15分撹拌した。反応溶液に5%炭酸水素ナトリウムを加えて分液した後、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液ならびに飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−3−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(115mg、93%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%メタノールの塩化メチレンで溶出)で精製して得た。
【0127】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.79(s,1H),8.37(d,1H,J=4.7Hz),8.24(d,1H,J=3.9Hz),7.71(d,1H,J=5.2Hz),7.60(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.48(m,2H),7.16(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.55(dd,1H,J=5.9,8.7Hz),5.41(d,1H,J=5.8Hz),5.31(t,1H,J=5.2Hz),4.13(m,1H),3.71−3.63(m,10H),3.71−3.63(m,2H),3.06(m 1H),2.53(m,1H),2.11(s,3H).
HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C2120について(M+H) 計算値:442.0895、実測値:442.0869.
【0128】
(5−2)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 5’−三リン酸の合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−3−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(44mg、0.1mmol)を、ピリジンで共沸乾燥した後、ピリジン(100μl)とジオキサン(100μl)に溶解させ、2−クロロ−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オンの1Mジオキサン溶液(110μl、0.11mmol)を加えて10分撹拌した。この溶液にトリブチルアミン(100μl)とビス(トリブチルアンモニウム)ピロフォスフェートの0.5M DMF溶液(300μl、0.15mmol)を加えて室温で10分撹拌した。1% ヨウ素のピリジン/水(98:2、v/v、2.0ml)を加えて15分撹拌した後、亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液(150μl)を加えた。水(5.0ml)を加えて、30分撹拌した後、28%アンモニア水(20ml)を加えて室温で4時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 5’−三リン酸(33μmol、33%)は、DEAE Sephadex(A−25)カラムクロマトグラフィー(50mMから1.0M TEAB溶液で溶出)ならびにC18−HPLC (0%から50% アセトニトリルの100mM TEAAにより溶出)により精製して得た。
【0129】
H NMR(300MHz、DO)δ 8.49(s,1H),8.08(d,1H,J=5.4Hz),7.58(d,1H,J=4.0Hz),7.33−7.30(m,2H),7.06(dd,1H,J=1.1,4.7Hz),6.99(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.91(d,1H,J=3.9Hz),6.29(t,1H,J=6.9Hz),4.68(m,1H,DOと重なる),4.18(m,1H),4.10−4.02(m,2H),3.05(q,22H,J=7.3Hz),2.68(m,1H),2.41(m,1H),1.14(t,34H,J=7.3Hz).
31P NMR(121MHz、DO)δ −9.71(d,1P,J=19.8Hz),−10.72(d,1P,J=19.8Hz),−22.54(t,1P,J=20.0Hz).
10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中のUV−visスペクトルデータ、λmax=264nm(ε9900)、368nm(ε31400).
ESI−MS(C192012);計算値:637.96(M−H)、実測値:637.87(M−H)
【0130】
実施例6:リボヌクレオシド5’−三リン酸(DssTP)の合成
条件:
(a)テトラ−O−アセチル−β−D−リボフラノース、クロロ酢酸
(b)(i)DMTrCl、ピリジン;(ii)無水酢酸、ピリジン、次いでジクロロ酢酸、CHCl
(c)2−クロロ−4H−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オン、ジオキサン、ピリジン、トリ−n−ブチルアミン、ビス(トリ−n−ブチルアンモニウム)ピロホスフェート、DMF、次いでI/ピリジン/H
【0131】
(6−1)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン(566mg、2.0mmol)とテトラ−O−アセチル−β−D−リボフラノース(700mg、2.2mmol)およびクロロ酢酸(12mg)を200℃で10分間溶融させた。冷却した後、塩化メチレンとメタノール(1:1、v/v、16ml)に溶解させ、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(2.0ml)を加えて室温で30分撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(190mg、23%)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)ならびにC18−HPLCで精製して得た。
【0132】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.80(s,1H),8.36(d,1H,J=5.2Hz),8.24(d,1H,J=3.9Hz),7.70(d,1H,J=5.2Hz),6.60(dd,1H,J=1.0,5.1Hz),7.49−7.46(m,2H),7.16(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.09(d,1H,J=5.7Hz),5.51(d,1H,J=6.0Hz),5.26(dd,1H,J=5.0,6.4Hz),5.21(d,1H,J=4.9Hz),4.68(m,1H),4.20(m,1H),3.75−3.55(m,2H).
13C NMR(75MHz,DMSO−d)δ 147.25,144.04,143.94,140.10,136.09,135.43,131.58,130.89,130.03,128.57,126.27,124.78,124.57,113.60,87.83,85.57,73.49,79.41,61.41.
HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C1918について(M+H) 計算値:416.0739、実測値:416.0755. ESI−MS(C1917); 計算値:416.07(M+H)、実測値:415.86(M+H)
【0133】
(6−2)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2,3−ジ−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジンの合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(166mg、0.4mmol)をピリジンで3回共沸乾燥した後、ピリジン(4.0ml)に溶解させ、4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(162mg、0.48mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウムで分液し、有機層を水ならびに飽和食塩水で洗浄し、減圧下で濃縮した。ジメトキシトリチル体は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製した後、ピリジンで3回共沸乾燥した。これに、ピリジン(4ml)を加え、無水酢酸(151μl、1.6mmol)を加えて室温で12時間撹拌した。反応溶液は、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウムで分液し、有機層を水ならびに飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。トルエンで共沸乾燥した後、塩化メチレン(40ml)に溶解させ、ジクロロ酢酸(400μl)を0℃で加えて15分撹拌した。反応溶液に5%炭酸水素ナトリウムを加えて分液した後、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液ならびに飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(2,3−ジ−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(178mg、89%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0.5%メタノールの塩化メチレンで溶出)で精製して得た。
【0134】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.83(s,1H),8.38(d,1H,J=5.3Hz),8.25(d,1H,J=4.0Hz),7.73(d,1H,J=5.3Hz),7.61(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.50−7.47(m,2H),7.16(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.39(d,1H,J=6.7Hz),6.04(dd,1H,J=5.7,6.6Hz),5.58−5.53(m,2H),4.28(m,1H),3.81−3.63(m,2H)2.15(s,3H),2.00(s,3H).
HRMS(FAB、3−NBAマトリクス)C2322について(M+H) 計算値:500.0950、実測値:500.0929.
【0135】
(6−3)7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 5’−三リン酸の合成
7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(3−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン(50mg、0.1mmol)を、ピリジンで共沸乾燥した後、ピリジン(100μl)とジオキサン(100μl)に溶解させ、2−クロロ−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オンの1Mジオキサン溶液(110μl、0.11mmol)を加えて10分撹拌した。この溶液にトリブチルアミン(100μl)とビス(トリブチルアンモニウム)ピロフォスフェートの0.5M DMF溶液(300μl、0.15mmol)を加えて室温で10分撹拌した。1%ヨウ素のピリジン/水(98:2、v/v、2.0ml)を加えて15分撹拌した後、亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液(150μl)を加えた。水(5.0ml)を加えて、30分撹拌した後、28%アンモニア水(20ml)を加えて室温で4時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、7−(2,2’−ビチエン−5−イル)−3−(β−D−リボフラノシル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン 5’−三リン酸(26μmol、26%)は、DEAE Sephadex(A−25)カラムクロマトグラフィー(50mMから1.0M TEAB溶液ならびに10%アセトニトリルの1M TEAB溶液で溶出)ならびにC18−HPLC(0%から50%アセトニトリルの100mM TEAAにより溶出)により精製して得た。
【0136】
H NMR(300MHz、DO)δ 8.64(s,1H),8.14(d,1H,J=5.4Hz),7.75(d,1H,J=4.0Hz),7.44(d,1H,J=5.4Hz),7.30(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.15(dd,1H,J=1.1,3.6Hz),7.10(d,1H,J=3.9Hz),6.97(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.12(d,1H,J=5.7Hz),4.74(m,1H,DOと重なる),4.53(m,1H),4.33(m,1H),4.26−4.12(m,2H),3.08(q,26H,J=7.4Hz),1.16(t,38H,J=7.3Hz).
31P NMR(121MHz、DO)δ −9.56(d,1P,J=19.7Hz),−10.69(d,1P,J=20.0Hz),−22.44(t,1P,J=20.0Hz).
10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中でのUV−visスペクトルデータ、λmax=264nm(ε10100)、368nm(ε31800).
ESI−MS(C192013);計算値:653.96(M−H)、実測値:653.99(M−H)
【0137】
実施例7:リボヌクレオシド5’−三リン酸(ssTP)の合成
【化2】
条件:
(a)5−トリブチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン、Pd(PPh、LiCl、ジオキサン、次いでTBAF、THF
(b)トリメチルシリルクロリド、フェノキシアセチルクロリド、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ピリジン、CHCN、次いでDMTr−Cl、ピリジン
(c)無水酢酸、ピリジン
(d)ジクロロ酢酸、CHCl
(e)クロロ−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オン、ジオキサン、ピリジン、トリ−n−ブチルアミン、ビス(トリブチルアンモニウム)ピロホスフェート、I、HO、28%NHOH
【0138】
(7−1)2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン(ss)の合成
6−O−トシル−2’,3’,5’−トリ−O−ter−ブチルジメチルシリル−グアノシン(780mg、1.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(58mg、0.05mmol)、リチウムクロリド(84mg、2.0mmol)、および5−トリブチルスタンニル−2,2’−ビチオフェン(5.0mmol)のジオキサン溶液を120℃で5時間還流した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、有機層を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して減圧下で濃縮した。2’,3’,5’−トリ−O−ter−ブチルジメチルシリル−2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリンは、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレンで溶出)で精製した。2’,3’,5’−トリ−O−ter−ブチルジメチルシリル−2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリンのTHF(5.5ml)溶液に、1MテトラブチルアンモニウムフルオリドのTHF溶液(4.5ml)を加えて、室温で30分撹拌した。反応溶液を濃縮後、2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン(391mg、90%、2段階収率)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびRP−HPLC精製により得た。
【0139】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 8.46(d,1H,J=3.9Hz),8.41(s,1H),7.61(dd,1H,J=1.1,5.1Hz),7.49−7.46(m,2H),7.16(dd,1H,J=3.7,5.1Hz),6.58(bs,2H),5.87(d,1H,J=5.9Hz),5.47(d,1H,J=5.9Hz),5.47(d,1H,J=6.0Hz),5.17(d,1H,J=4.8Hz),5.08(t,1H,J=5.6Hz),4.53(m,1H),4.15(m,1H),3.93(m,1H),3.70−3.53(m,2H).
【0140】
(7−2)2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2’,3’−ジ−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)プリンの合成
2−アミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン(216mg、0.5mmol)をピリジンで3回共沸した後、ピリジン(2.5ml)に溶解し、トリメチルシリルクロリド(635μl、5.0mmol)を加えて室温で30分撹拌した(溶液A)。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(122mg、0.9mmol)をピリジンで3回共沸した後、ピリジン(0.25ml)とアセトニトリル(0.25ml)に溶解し、この溶液を0℃に冷却して、フェノキシアセチルクロリド(104μl、0.75mmol)を加えて5分間撹拌した(溶液B)。溶液Bに溶液Aを0℃で加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液を0℃に冷却し、14%アンモニア水溶液(0.5ml)を加えて10分撹拌した。反応溶液を酢酸エチルと水で分液し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン(230mg、81%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5%メタノールの塩化メチレンで溶出)で精製して得た。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン(230mg、0.4mmol)をピリジンで共沸乾燥した後、ピリジン(4.0ml)に溶解させ4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(152mg、0.44mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウム水溶液で分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン(228mg、65%)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(1%メタノールの塩化メチレン溶液で溶出)で精製して得た。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(5−O−ジメトキシトリチル−β−D−リボフラノシル)プリン(228mg、0.26mmol)をピリジンで3回共沸乾燥した後、ピリジン(2.6ml)に溶解させ、無水酢酸(99μl、1.0mmol)を加えて室温で12時間撹拌した。反応溶液は、酢酸エチルと5%炭酸水素ナトリウムで分液し、有機層を水ならびに飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。トルエンで共沸乾燥した後、塩化メチレン(26ml)に溶解させ、ジクロロ酢酸(260μl)を0℃で加えて15分撹拌した。反応溶液に5%炭酸水素ナトリウムを加えて分液した後、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液ならびに飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(2’,3’−ジ−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)プリン(134mg、79%、2段階収率)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0.5%メタノールの塩化メチレンで溶出)で精製して得た。
【0141】
H NMR(300MHz、DMSO−d)δ 10.83(s,1H),8.80(s,1H),8.55(d,1H,J=1H),7.66(d,1H,J=5.1Hz),7.56(d,1H,J=4.0Hz),7.52(d,1H,J=3.5Hz),7.32(m,2H),7.18(m,1H),7.02−6.95(m,3H),6.27(d,1H,J=6.5Hz),5.92(t,1H,J=6.2Hz),5.57(dd,1H,J=2.9,5.6Hz),5.33(t,1H,J=5.4Hz),5.10(s,2H),4.26(m,1H),3.73(m,2H),2.14(s,3H),1.99(s,3H).
【0142】
(7−3)2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン 5’−三リン酸の合成。
2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−1−(2’,3’−ジ−O−アセチル−β−D−リボフラノシル)プリン(65mg、0.1mmol) を、ピリジンで共沸乾燥した後、ピリジン(100μl)とジオキサン(300μl)に溶解させ、2−クロロ−1,3,2−ベンゾジオキサホスホリン−4−オンの1Mジオキサン溶液(110μl、0.11mmol)を加えて10分撹拌した。この溶液にトリブチルアミン(100μl)とビス(トリブチルアンモニウム)ピロフォスフェートの0.5M DMF溶液(300μl,0.15mmol)を加えて室温で10分撹拌した。1% ヨウ素のピリジン/水(98:2、v/v、2.0ml)を加えて15分撹拌した後、 亜硫酸水素ナトリウムの5%水溶液(150μl)を加えた。水(5.0ml)を加えて、30分撹拌した後、28%アンモニア水(20ml)を加えて55℃で3時間撹拌した。反応溶液を減圧下で濃縮した後、2−フェノキシアセチルアミノ−6−(2,2’−ビチエン−5−イル)−9−(β−D−リボフラノシル)プリン 5’−三リン酸(27.6μmol、27%)は、DEAE Sephadex(A−25)カラムクロマトグラフィー(50mMから1.0M TEAB溶液ならびに10%アセトニトリルの1M TEAB溶液で溶出)ならびにC18−HPLCにより精製して得た。
【0143】
H NMR(300MHz、DO)δ 8.42(s,1H),8.10(d,1H,J=4.0Hz),7.36(d,1H,J=5.0Hz),7.24(d,2H,J=3.9Hz),7.01(dd,1H,J=3.8,5.0Hz),6.00(d,1H,J=5.9Hz),4.86(m,1H),4.64(m,1H),4.41(m,1H),4.29(m,2H),3.19(q,25H,J=7.4Hz),1.28(t,37H,J=7.3Hz).
31P NMR(121MHz、DO)δ −9.28(d,1P,J=19.4Hz),−10.70(d,1P,J=19.7Hz),−22.41(t,1P,J=20.0Hz).
10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中のUV−visスペクトルデータ、λmax=388nm(ε32500).
ESI−MS(C182013);計算値:669.97(M−H)、実測値:669.39(M−H)
【0144】
実施例8:蛍光性人工塩基のヌクレオシド誘導体の蛍光特性
人工塩基ss、sss、Dss、Dsss、Dsas、Dsav、またはDvasを有するヌクレオシドについて、蛍光特性を評価した。公知の人工塩基である2−アミノプリン、s(2−アミノ−6−(2−チエニル)プリン−9−イル基)、v(2−アミノ−6−(2−チアゾリル)プリン−9−イル基)、Ds(7−(2−チエニル)イミダゾ[4,5−b]ピリジン−3−イル基)を有するヌクレオシドの蛍光特性も併せて評価し、比較した。それぞれのデオキシリボヌクレオシド誘導体の構造を図1に示し、またそれらの蛍光特性を表1に示す。
【表1】
【0145】
蛍光性のdsは、励起波長が350nmと低波長であり、その蛍光強度(ε×φ=2576)も小さい。dvは、363nmの励起で蛍光を発するが、塩基性条件化でのヌクレオシド誘導体の安定性が低い。dDsは310nm付近の励起で蛍光を発するが、350nm以上の励起では発光しない。また既存の2−アミノプリンは、300nm付近の励起で蛍光を発するが、350nm以上では蛍光強度が著しく減少する。
【0146】
これらに対して、dssは、388nmの励起で強い蛍光(ε×φ=9072)を示し、dDssも同様に371nmの励起でさらに強い蛍光(ε×φ=10400)を示した。
【0147】
また、図2に人工塩基s、Dss又はssを有するリボヌクレオシド三リン酸誘導体(転写用の基質)の蛍光とそのスペクトルを示す。人工塩基Dss及びssを有するヌクレオチドは、人工塩基sを有するヌクレオチドよりも強い蛍光を示した。
【0148】
従って、プリン塩基、1−デアザプリン、1,7−デアザプリンの6位(プリン環の6位)に複素環分子を2つ以上縮重した本発明の人工塩基は、既存の人工塩基よりも優れた蛍光特性を有することが明らかになった。
【0149】
実施例9:複製による蛍光性人工塩基基質のDNAへの取り込み
複製による蛍光性人工塩基基質のDNAへの取り込みの例として、Klenowフラグメント(exo+)を用いた複製によるDNA中へのDssの取り込み実験を行った。
【0150】
2×反応緩衝液(20mM Tris−HCl pH7.5、14mM MgCl、0.2mM DTT)中に溶かした鋳型鎖DNA(配列番号1、35−mer、400nM)と5’末端が32Pで標識されたプライマー(配列番号2、23−mer、400nM)を95℃で3分間加温後徐冷してアニーリングの操作を行い、二本鎖を形成させた。その二本鎖DNA溶液を5μlずつ分注した後、4×dNTP混合溶液(40μM dTTP、40μM dCTP、0−40μM dDssTP)を2.5μlと水で希釈したKlenowフラグメント(Takara)2.5μl(1ユニット)を加えて、37℃で酵素反応を開始した。37℃でインキュベーションした後、10μlの10M 尿素を含むTBE溶液を加えて75℃で3分加温して反応を終了させた。反応溶液の一部を15%ポリアクリルアミド−7M 尿素ゲルで電気泳動して、バイオイメージングアナライザー(FLA7000、富士フィルム)で解析した。
【0151】
人工塩基対Dss−Pa(ピロロ−2−カルバルデヒド)を利用することにより、Dssの相補塩基であるPaが組み込まれたDNAを鋳型とする大腸菌のクレノウ断片を用いた複製反応において、伸張したDNA鎖中の特定位置(鋳型DNA中のPaに相補する位置)にdDssTPを取り込ませることができた(図3)。
【0152】
図3の電気泳動写真中、33−merと示されたバンドは完全に伸張したDNA断片である。蛍光性人工塩基の基質(dDssTP)の量を少なくすることにより(天然型塩基基質10μMに対して、dDssTPを0.5μM)効率よくDssヌクレオチドをDNA中に取り込ませられることが明らかになった。dDssTPを加えない場合(図4の電気泳動写真のnoneで示したレーン)は、鋳型DNA中のPaの直前で複製が止まり、28−merのバンドが認められることから、dDssTPに依存してDNA鎖が伸長したことが分かる。すなわち、鋳型DNA中のPaに相補して、選択的にdDssTPが相補DNA鎖に取り込まれることが明らかとなった。
【0153】
実施例10:転写による蛍光性人工塩基基質のRNAへの取り込み
転写による蛍光性人工塩基基質のRNAへの取り込みの例として、T7 RNAポリメラーゼを用いた転写によるRNA中へのss及びDssの取り込み実験を行った。
【0154】
T7ポリメラーゼによる転写のための鋳型は、化学合成された2本DNA鎖(10μM 35−merのコード鎖(配列番号4)と21−merの非コード鎖(配列番号5))を、10mM NaClを含む10mM Tris−HCl(pH7.6)緩衝溶液中、95℃で加熱し、その後4℃まで徐冷してアニーリングすることにより調製した。T7ポリメラーゼによる転写は、24mM MgCl、2mM スペルミジン、5mM DTT、0.01% Triton X−100を含む40mM Tris−HCl(pH8.0)緩衝溶液(20μl)中、1mM 天然型NTPs、0.05−0.1mM ssTP又はDssTP(ss又はDssを有するリボヌクレオシド5’−三リン酸)の存在下、2μM 鋳型及び50ユニットのT7 RNAポリメラーゼ(Takara、Kyoto)を用いて転写を行った。37℃で3時間反応した後、10M 尿素および0.05%BPBを含む色素溶液(20μl)を加えて反応を止めた。その混合溶液を75℃で3分間加熱した後、20%ポリアクリルアミド−7M 尿素ゲルを用いてそれぞれ電気泳動を行った。転写産物の検出は、まず、蛍光指示薬を含むTLC上にゲルをのせ、上から254nmのUVを照射し、核酸がUVを吸収することで転写産物のバンドが影として検出されることを利用し、その像をポラロイドカメラにより撮影した。また、蛍光性人工塩基ssやDssを含む転写物は、落射紫外LEDを利用してバイオイメージングアナライザー、LAS4000(富士フィルム)により検出した。結果を図4に示した。
【0155】
ssTP又はDssTPのどちらの人工塩基基質も鋳型DNA中のPaに相補して、RNA中に取り込まれた。図4B中、上段の電気泳動がssTPの取り込みを示し、下段がDssTPの取り込みを示す。またそれぞれの左側の電気泳動は、UVシャドウイングにより検出し、右側はLAS4000を用いて主波長365nmのUV−LEDの落射光源で励起して、その蛍光を検出した図である。従って、左側の電気泳動では、全てのRNA転写物がバンドとして検出され、右側の電気泳動では、蛍光性人工塩基が取り込まれたRNA転写物がバンドとして検出される。図4Bに示されるように、ssTPとDssTPのどちらも鋳型DNA中にPaが含まれるときだけ全長の転写産物(17−mer(配列番号6))が認められた。また、Paを含まない鋳型DNA(それぞれの電気泳動写真の左側のレーン)では蛍光性の転写物が検出されなかった。これらのことから、それぞれの蛍光性人工塩基基質がPaに依存してRNA中に選択的に取り込まれていることが明らかとなった。
【0156】
実施例11:ユニバーサル塩基としての性質を示す蛍光性人工塩基
12−mer DNAの中央にDssを有するヌクレオチドを導入し、その相補鎖の同じ位置に天然型塩基を組み込み、それぞれの二本鎖DNAの熱安定性を測定した。Dssを含むそれぞれの二本鎖DNAの熱安定性は、Shimadzu UV−2450分光光度計で測定し、IgorProソフトウエア(WaveMetrics)を用いて一次微分法によりTm値を算出した。5μMの二本鎖DNA(鎖長12塩基対)を、100mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、0.1mM EDTA中で、260nmの吸光度の温度変化を測定した。その結果を図5(左側)に示す。
【0157】
蛍光性人工塩基Dssを組み込んだDNA断片は、その相補鎖DNAと二本鎖を形成し、Dssと天然型のどの塩基と塩基対を形成させても、二本鎖DNAの熱安定性はほぼ同じ(Tm=43.9−45.9℃)であった。それらの二本鎖DNAの熱安定性は、A−T塩基対の場合(Tm=48.6℃)と比較して3℃ほど低下するだけで、天然型の塩基の中で最も安定なミスマッチ塩基対であるT−G塩基対(Tm=42.4℃)よりも安定であった。
【0158】
公知のユニバーサル塩基として使用頻度の高い3−ニトロピロールは、天然型の塩基対よりも著しく二本鎖DNAの安定性を下げ、また、その熱安定性は相補する天然型塩基によりTm=17.8−23.2℃の開きがある(図5右側)。
【0159】
従って、Dssは、二本鎖DNAの安定性を大きく下げず、また相補する天然塩基の違いによる熱安定性の変動が少ないことから、ユニバーサル塩基として従来の塩基類似体よりも優れている。
【0160】
実施例12:蛍光性人工塩基Dss、ssを部位特異的に含むshRNAの調製
本実施例では、人工塩基対Dss−Paあるいはss−Paを利用したT7 RNAポリメラーゼによる転写により、蛍光性人工塩基(Dss、あるいはss)を含む52−merのshRNA(shRNAF1)を調製した。shRNAF1(配列番号10)は、ホタルルシフェラーゼのmRNAをターゲットとしたRNA干渉実験用のshRNA(short hairpin RNA)である。図6AにshRNAF1の二次構造を示した。蛍光性人工塩基の導入箇所は、転写産物のパッセンジャー鎖中の10番目、12番目、16番目、20番目、21番目、そしてガイド鎖中の34−41番目であり、それぞれDss、あるいはssのいずれかを導入した。目的とする人工塩基を含むshRNA産物は、電気泳動において、蛍光性人工塩基がとりこまれていない産物由来のバンドと比べて移動度が異なること、UV(波長365nm)照射により人工塩基由来の蛍光をそのバンドで観察できること、を利用して確認できた。
【0161】
(1)T7転写のための鋳型の調製
ホタルルシフェラーゼのmRNAをターゲットとしたRNA干渉実験用として、位置選択的に蛍光性人工塩基Dssあるいはssを部位特異的に導入したshRNA(shRNAF1、全長52−mer)を転写で得るための鋳型DNAを調製した。化学合成によりPaを含む2本のDNA鎖(667nMの69−merのコード鎖と非コード鎖)を、10mM NaCl−10mM Tris−HCl(pH7.6)緩衝液にて95℃で加熱し、その後4℃まで徐冷してアニーリングすることにより、鋳型DNAを調製した。
【0162】
(2)T7転写
T7転写はEpicentre Biotechnologies社のAmpliscribe T7−Flash Transcription Kitを用いて、200nM 鋳型DNA、2mM 天然型NTPs、0.1mM DssTPまたは0.1mM ssTPの存在下、37℃で2時間反応した。反応後の溶液をマイクロコンYM−3(ミリポア社)を用いてTE緩衝液に交換することで脱塩処理した後、15%ポリアクリルアミド−7M尿素ゲルを用いて電気泳動を行い、目的とする全長のshRNAを精製した。
【0163】
実施例13:培養細胞へのshRNA各種変異体の導入とレポーター遺伝子発現抑制効果の解析
本実施例では、T7転写とゲル精製により調製した種々のshRNAを、そのターゲットとなるレポーター遺伝子(ホタルルシフェラーゼ)ならびにコントロールとしてレニラルシフェラーゼの遺伝子を含むプラスミドと共にリポフェクション法によりHeLa細胞に導入し、ルシフェラーゼの発光から、その遺伝子発現が抑制されているかを調べた。その結果を図6に示す。
【0164】
(1)細胞培養
HeLa細胞の培養は、二酸化炭素濃度5%、培養温度37℃の条件下で、10% 仔ウシ血清(FBS、JRH BIOSCIENCES)を含むMEM培地(Minimum Essential Medium Eagle、シグマ社)に抗生物質(ペニシリン最終濃度100U/mL、ストレプトマイシン 100μg/mL)を添加したものを用いて行った。
【0165】
(2)shRNAとプラスミドの細胞への導入
1穴あたり1.5×10個(培養液100μl)のHeLa細胞を96穴プレートに撒き、抗生物質を含まない10% 仔ウシ血清含有MEM培地で24時間培養した。トランスフェクションは、リポフェクタミン2000試薬(インビトロジェン、1穴あたり0.5μl)とホタルルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミド(プロメガ社製pGL3−control、1穴あたり200ng)と、レニラルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミド(プロメガ社製pGL4.74[hRluc/TK]、1穴あたり200ng)とPBS中でアニーリング処理した各種shRNA(1穴あたり75fmol)をOPTI−MEM培地(インビトロジェン)中で混合した溶液(50μl)を添加することで行った。shRNAの最終濃度は0.5nMである。22時間培養後に、2種類のルシフェラーゼタンパク質の発光量をそれぞれ調べた。
【0166】
(3)レポーター遺伝子発現抑制効果の解析
shRNAのターゲットとなるホタルルシフェラーゼのタンパク質発現の抑制効果は、プロメガ製品のデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ試薬を用いて、ホタルルシフェラーゼ、レニラルシフェラーゼの発光定量により解析した。具体的には、トランスフェクション後の細胞を1穴あたり100μlのPBSで2回洗浄したのち、20μlの細胞溶解用緩衝液を加えて25℃で30分間静かに攪拌しながら細胞を溶解した。この溶液に、100μlのLARII試薬を加えて混合後、LAS4000(富士フィルム)を用いてホタルルシフェラーゼの発光を検出(露光時間:120秒)後、Stop&Glo試薬を100μl加えて、レニラルシフェラーゼの発光を検出(露光時間:200秒)し、それぞれの発光の強さをScienceLab 2005 MultiGauge(富士フィルム)で定量した。それぞれの検出において、バックグラウンドはトランスフェクションを行わなかった場合の発光量であり、それぞれのルシフェラーゼの発光量からそのバックグラウンドを差し引いた後、ターゲットとするホタルルシフェラーゼの発光量を、共発現させたコントロールとなるレニラルシフェラーゼの発光量で割ることによって規格化した。shRNA非存在下での値を100%として、種々のshRNA存在下でのターゲットとするホタルルシフェラーゼの相対活性を算出した。
【0167】
shRNAF1(WT)の活性と比較して、shRNAのパッセンジャー鎖中の塩基10番目、12番目、16番目、20番目、21番目を蛍光性人工塩基に置換した場合では、天然型塩基置換の場合と同様、shRNA変異体の活性にはほとんど影響がみられなかった。また、ガイド鎖中の塩基34−41番目を蛍光性人工塩基に置換した場合では、35番目、36番目、37番目塩基の置換であれば、shRNA活性を損なわずに、蛍光性人工塩基を導入可能であることがわかった。なお、shRNAを最終濃度0.5nMでトランスフェクションした後の培地中へのIFN−αの分泌量はいずれも80pg/ml以下であり、shRNA導入による有意なIFN−αの誘導はみとめられなかった。
【0168】
以上の結果から、パッセンジャー鎖だけではなくガイド鎖中においても、人工塩基Dss、ssの変異を導入してもshRNAの活性には影響を及ぼさない箇所が存在することがわかった。
【0169】
実施例14:各種shRNAによるレポーター遺伝子発現抑制効果−IC50の算出
shRNAF1の36番目に人工塩基Dss、あるいはssを導入した場合での抑制効果とWTの抑制効果について、異なるshRNA濃度で遺伝子発現抑制を解析することにより、IC50を算出した。IC50値はカレイダグラフ(Albeck Software)を用いて、計算式 y=100×M1/(M0+M1)に当てはめて、最小二乗法によるデータフィッティングにより算出した。その結果を図7に示した。図中に示した式のy(%)は、shRNA存在下でのターゲットとするルシフェラーゼの相対活性(実施例2参照)、M0(nM)はshRNA濃度、IC50値はM1(nM)に相当する。shRNAF1のA36をDssあるいはssに置換した場合のIC50値は、いずれも置換されていないshRNAF1と同程度の約0.02nMであった。
【0170】
実施例15:蛍光性人工塩基を含むshRNAの蛍光観察
shRNAに導入した人工塩基Dssやssは長波長側のUV励起によって青色の蛍光を発する特性をもっている。そこで人工塩基Dss、あるいはssの蛍光を利用したshRNAの検出を、従来の蛍光性人工塩基sと比較して行った。
【0171】
shRNAとしては、shRNAF1のU35をDssで置換したshRNAF1 U35Dss、shRNAF1のU35をssで置換したshRNAF1 U35ss、および、shRNAF1のU35をsで置換したshRNAF1 U35s、を使用した。
【0172】
所定量のshRNAをナイロンメンブレインに96穴タイプの吸引マニホールドを利用してドットブロットした後、バイオイメージャーLAS4000(富士フィルム)のDAPIモード(主波長365nmのUV−LED落射光源、検出フィルターL41)でその蛍光を検出した結果を図8に示した。リン酸緩衝液中でsTP、ssTP、DssTPを365nmで励起した場合の蛍光極大波長は、それぞれ436nm、468nm、459nmであり、その波長での蛍光強度はDssTP>ssTP>sTPの順である。そして、shRNAの検出感度もU35Dss>U35ss>U35sの順となった。また、この蛍光はshRNA量に比例して検出可能なことも確認できた(図8Bのグラフ)。さらには、この蛍光性人工塩基の基質およびshRNAは、ポリアクリルアミドゲル上でも定量的に検出できた(図9)。したがって、Dssとssの蛍光強度が濃度に依存して直線関係にあり、それぞれの蛍光強度からshRNAの定量、ならびにshRNAの同定や分解の過程を調べることが可能である。また、従来の蛍光性人工塩基sと比較して、Dss、ss共に感度が向上し、特に本実施例の条件ではDssの感度が著しく向上していることが明らかとなった。
【0173】
実施例16:細胞における蛍光性人工塩基を含むshRNAの蛍光観察
shRNAF1のA36をDssで置換したshRNAF1 A36DssをHeLa細胞に5nMまたは25nMでトランスフェクションして20時間インキュベートした後、培地をPBSに交換して蛍光顕微鏡(ニコン ECLIPSE−Ti 蛍光倒立顕微鏡、落射蛍光用フィルタブロックUV−1A filter)で観察した。図10に、その結果を示す蛍光顕微鏡写真を示す。UV励起によって観察された蛍光は、明視野で観察した細胞と重なっており、トランスフェクションにより細胞内に導入されたshRNAに含まれるDssの蛍光が観測できた。本実験により、数十nM量のshRNAを用いたトランスフェクションで細胞内での蛍光を観察可能であることが明らかになった。
【0174】
以上実施例12ないし16の結果から、本発明の蛍光性人工塩基の転写による機能性RNAへの導入、それによる機能性RNAの活性保持、機能性RNAの蛍光標識が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の蛍光性人工塩基と人工塩基対技術を用いることにより、DNAやRNAの部位特異的蛍光標識化、核酸の立体構造の局部構造の解析、核酸医薬品の蛍光標識と動態検出、リアルタイムPCRやSNP解析など、多彩な基礎・応用研究に利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0176】
配列番号1: DNA複製のためのテンプレート
配列番号2: DNA複製のためのプライマー
配列番号3: 複製されたDNA
配列番号4: T7転写のためのテンプレートDNA
配列番号5: T7転写のためのプライマー
配列番号6: 転写されたRNA
配列番号7: 熱安定性試験のためのDNA
配列番号8: 熱安定性試験のためのDNA
配列番号9: 熱安定性試験のためのDNA
配列番号10: ホタルルシフェラーゼmRNAを標的としたshRNA
[配列表]
図1
図5
図7
図2
図3
図4
図6
図8
図9
図10