(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体
本発明の光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造方法では、第1工程で、反応溶媒として用いられる水、アルキル基又はアリール基を有するスルホニルクロリド(以下、「スルホニルクロリド」と略記する。)及び塩基の存在下、特定の光学活性β−アミノアルコール誘導体をスルホニル化し、前記式(2)で表される又はその鏡像異性体である光学活性アミノスルホンアミド誘導体を製造する。その後、第2工程で、還元剤として作用する、例えば、ボラン−ピリジン錯体と、酢酸等の所定の酸性度を有する弱酸のアルカリ金属塩の存在下、アルデヒドと、第1工程で得られた光学活性アミノスルホンアミド誘導体とを反応させ、前記式(3)で表される又はその鏡像異性体である光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体を製造する。
【0010】
第1工程の光学活性β−アミノアルコール誘導体のスルホニル化は、反応溶媒として水を使用し、スルホニルクロリド及び塩基の存在下に行われ、光学活性アミノスルホンアミド誘導体が得られる。このスルホニル化において、スルホニル基は、芳香環に結合したアミノ基にのみ選択的に結合し、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体を高い収率で効率よく得ることができる。また、反応溶媒である水には、水と均一に混合し得る有機溶媒を添加することができる。この有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、及びテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒を用いることができる。更に、スルホニルクロリドとしては、メタンスルホニルクロリド、エタンスルホニルクロリド、プロパンスルホニルクロリド、ブタンスルホニルクロリド等のアルキル基を有するスルホニルクロリド、及びトルエンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド等のアリール基を有するスルホニルクロリドを用いることができる。また、アルキル基又はアリール基の水素原子がアルキル基、ハロゲン原子などで置換された、例えば、フルオロメタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド等の誘導体を使用することもできる[式(2)、(3)のRsはアルキル基又はアリール基を有するスルホニル基と表記しているが、これはアルキル基又はアリール基の水素原子が置換されている場合も含むものとする。]。このスルホニルクロリドとしては、メタンスルホニルクロリドが用いられることが多い。更に、スルホニルクロリドは、光学活性β−アミノアルコール誘導体に対して1〜5当量とすることができ、1〜3当量であることが好ましい。
【0011】
また、第1工程で用いられる塩基の種類は特に限定されないが、ピリジン類が好ましく、ジアルキルピリジン類が特に好ましい。このジアルキルピリジン類としては、2,6−ジメチルピリジン(2,6−ルチジン)、2,4−ジメチルピリジン、2,6−ジエチルピリジン、2,5−ジエチルピリジン、及び3,5−ジエチルピリジン等を使用することができるが、2,6−ジメチルピリジンが用いられることが多い。更に、ジアルキルピリジン類は、光学活性β−アミノアルコール誘導体に対して1〜10当量とすることができ、1〜3当量であることが好ましい。
【0012】
反応温度は特に限定されないが、−10〜10℃とすることができ、−5〜5℃であることが好ましい。また、反応時間も特に限定されず、反応温度にもよるが、10〜60分間とすることができ、20〜50分間であることが好ましい。更に、反応雰囲気は、窒素ガス及びアルゴン等の希ガスなどの不活性雰囲気としてもよいが、特にその必要はなく、大気雰囲気であってもよい。また、反応後、反応液を減圧下に濃縮することにより、光学活性アミノスルホンアミド誘導体を含有する粗生成物が得られる。この粗生成物は、カラムクロマトグラフィー、再結晶、抽出等の公知の方法により精製した後、若しくは精製を行わず、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造原料として用いることができる。好ましくは、精製を行わず、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造原料として用いる。
【0013】
第2工程では、アルデヒドと、第1工程で得られた光学活性アミノスルホンアミド誘導体とを反応させ、光学活性アミノスルホンアミド誘導体に
アルデヒド由来の基が導入された光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体が製造される。アルデヒドは特に限定されず、各種のアルデヒドを用いることができる。このアルデヒドとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド等の基本的なアルデヒドの他、各種の置換基が結合したアルデヒドを使用することができる。また、好ましいアルデヒドとしては、3、5−位に置換基を有するベンズアルデヒド誘導体、例えば、3,5−ジクロロベンズアルデヒド、3,5−ジメチルベンズアルデヒド、3,5−ジメトキシベンズアルデヒド、3,5−ジエトキシベンズアルデヒド、3,4,5−トリメトキシベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0014】
第2工程の光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体は、一般的に還元的アミノ化に用いられる水素添加触媒及び水素化ホウ素ナトリウム誘導体、或いはボラン錯体などを使用して製造することができる。水素添加触媒としては、白金、バナジウム等の金属が挙げられ、更にそれらを固定したものが挙げられる。水素化ホウ素ナトリウム誘導体としては、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。ボラン錯体としては、ボラン−ピリジン錯体、ボラン−ピコリン錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−テトラヒドロフラン錯体等が挙げられる。また、還元剤としてボラン−ピリジン錯体を用いる場合、通常、酢酸等の所定の酸性度を有する弱酸のアルカリ金属塩の存在下に還元的アミノ化が行われる。弱酸としては、酢酸の他、ギ酸等が挙げられ、弱酸のアルカリ金属塩としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸リチウム等を使用することができるが、酢酸カリウムが用いられることが多い。また、還元剤は、光学活性アミノスルホンアミド誘導体に対して1〜10当量とすることができ、1〜5当量であることが好ましい。更に、還元剤としてボラン−ピリジン錯体が用いられるときに使用される弱酸のアルカリ金属塩は、光学活性アミノスルホンアミド誘導体に対して1〜10当量とすることができ、1〜5当量であることが好ましい。
【0015】
反応温度は特に限定されないが、0〜60℃、特に20〜40℃とすることができる。また、反応時間も特に限定されず、反応温度にもよるが、5〜20時間とすることができ、7〜15時間であることが好ましい。更に、反応雰囲気は、窒素ガス及びアルゴン等の希ガスなどの不活性雰囲気としてもよいが、特にその必要はなく、大気雰囲気であってもよい。また、反応後、抽出、乾燥等の処理をした後、処理液を減圧下に濃縮することにより、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の粗生成物が得られる。この粗生成物は、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の公知の方法により精製することができる。更に、この光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体は、粗生成物のまま、若しくは前述のように精製した後、公知の方法で遊離のアミンに変換することができる。
【0016】
[2]光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造方法
本発明の光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造に用いる光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造方法は特に限定されない。この光学活性β−アミノアルコール誘導体は、前記式(4)で表される又はその鏡像異性体である光学活性β−ニトロアルコール誘導体を還元することにより、効率よく製造することができる。光学活性β−ニトロアルコール誘導体は、通常のニトロ基の還元方法により還元することができる。この還元方法としては、例えば、白金、パラジウム等を触媒とした水素添加反応、鉄、亜鉛等を用いた金属還元反応、ヒドラジン等を用いた有機還元反応、及び水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム等の金属水素化物を用いた還元反応などが挙げられる。より具体的には、パラジウム/活性炭素触媒を用いて、強酸及び炭素数1〜3の低級アルキルアルコールの存在下に還元する還元方法が挙げられる。
【0017】
上述のパラジウム/活性炭素触媒としては、一般に触媒として用いられているものを特に限定されることなく使用することができる。このパラジウム/活性炭素触媒に含有される金属パラジウムは、触媒を100質量%とした場合に、通常、1〜30質量%、特に5〜25質量%である。パラジウム/活性炭素触媒は、光学活性β−ニトロアルコール誘導体に対して1〜100mol%とすることができ、1〜20mol%であることが好ましい。
【0018】
また、好ましくは、上述のパラジウム/活性炭素触媒を用いた還元反応は、酸と炭素数1〜3の低級アルキルアルコールとの存在下に行われるが、通常、酸アルコール溶液が使用される。酸は特に限定されないが、強酸であることが好ましく、この酸としては、水中における酸解離定数が1.0以下、特に−1.0以下である強酸を使用することが好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等を用いることができるが、塩酸が使用されることが多い。強酸は、好ましくは、前述式(1)におけるHY
1と同一である。アルコールとしては、炭素数1〜3の低級アルキルアルコールを用いることができるが、メタノールが使用されることが多い。即ち、塩酸メタノール溶液が多用される。更に、酸アルコール溶液としては、0.3〜2.0mol濃度、特に0.6〜1.5mol濃度の溶液が用いられる。また、酸は、光学活性β−ニトロアルコール誘導体に対して1〜10当量とすることができ、1〜2当量であることが好ましい。
【0019】
更に、光学活性β−ニトロアルコール誘導体を還元するため、この誘導体と、触媒と、好ましくは、酸の炭素数1〜3の低級アルキルアルコール溶液とを、不活性雰囲気下に混合した後、雰囲気を不活性雰囲気から水素雰囲気にし、所定温度で所要時間攪拌し、反応させる。反応温度は特に限定されないが、0〜60℃、特に20〜40℃とすることができる。また、反応時間も特に限定されず、反応温度及びパラジウム/活性炭素触媒の量にもよるが、1〜48時間とすることができ、15〜35時間であることが好ましい。
【0020】
還元反応の後、雰囲気を、窒素ガス及びアルゴン等の希ガスなどの不活性雰囲気とし、反応液をろ過してパラジウム/活性炭素触媒等の触媒を除去し、ろ液を減圧下に濃縮することにより、主に光学活性β−アミノアルコール誘導体を含有する残渣が得られる。この残渣より、カラムクロマトグラフィー、再結晶、抽出等の公知の方法により精製された光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体を単離してもよいし、この残渣を精製せずに、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造原料として用いることもできる。好ましくは、この残渣を精製せずに、光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造原料として用いる。
尚、前記式(1)における「Y
1」は、光学活性β−ニトロアルコール誘導体を還元して光学活性β−アミノアルコール誘導体を製造するときに用いられる酸、好ましくは強酸のアニオン部である。また、前記式(1)におけるアニオン部である「Y
1」、前記式(2)におけるアニオン部である「Y
2」及び前記式(3)におけるアニオン部である「Y
3」は、それぞれ同一であることもあり、異なることもある。例えば、光学活性β−ニトロアルコール誘導体の還元に強酸を用いた場合、「Y
1」、「Y
2」及び「Y
3」は同一であることがある。更に、各工程において精製操作を行ったときは、アニオンが交換されることがあり、このような場合、「Y
1」、「Y
2」及び「Y
3」のうちの少なくとも2種が相違することがある。
光学活性β−ニトロアルコール誘導体、及びこの誘導体の製造において触媒として用いられる光学活性テトラアミノホスホニウム塩については後述する。
【0021】
[3]光学活性β−アミノアルコール誘導体
前記式(1)で表される又はその鏡像異性体である本発明の光学活性β−アミノアルコール誘導体は新規物質である。この光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記[2]に記載の方法により製造することができる。前記[2]に記載の製造方法であれば、簡易な工程で、効率よく、製造することができる。本発明の光学活性β−アミノアルコール誘導体は、医薬等の用途で有用な本発明の光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造原料として用いることができる。
【0022】
[4]光学活性テトラアミノホスホニウム塩及び光学活性β−ニトロアルコール誘導体
(1)光学活性テトラアミノホスホニウム塩
光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造原料として用いられる光学活性β−ニトロアルコール誘導体の製造方法は特に限定されないが、前記式(5)〜(7)で表される光学活性テトラアミノホスホニウム塩(若しくは鏡像異性体)及び塩基、又は光学活性テトラアミノホスホニウム塩(若しくは鏡像異性体)の共役塩基の存在下、前記式(8)で表される特定のアルデヒド化合物とニトロアルカンとを反応させて製造することができる。
【0023】
前記式(5)において、R
3〜R
6は、それぞれ独立に水素原子又は1価の炭化水素基であり、この1価の炭化水素基の構造は特に限定されない。1価の炭化水素基の具体例としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基等が挙げられる。更に、これらの炭化水素基の構造も特に限定されず、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基等)でもよい。また、鎖状構造である場合、直鎖でもよく、分岐していてもよい。
【0024】
また、炭化水素基は、炭素原子及び水素原子を除く他の原子を少なくとも1個有していてもよい。例えば、炭素原子及び水素原子を除く他の原子を有する置換基を少なくとも1種備えていてもよい。更に、炭化水素基は、鎖状構造又は環状構造の主鎖中に炭素原子及び水素原子を除く他の原子を少なくとも1個有していてもよい。この他の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0025】
炭化水素基の炭素数も特に限定されず、通常、1〜10であり、1〜8、特に1〜6、更に1〜4であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。また、炭化水素基がアルケニル基及びアルキニル基である場合、その炭素数は、通常、2〜10であり、2〜8、特に2〜6、更に2〜4であることが好ましい。更に、炭化水素基が環状構造である場合、その炭素数は、通常、4〜12であり、4〜10、特に5〜8、更に6〜8であることが好ましい。
【0026】
アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2−エチルヘキシル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基の具体例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。更に、アルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基等が挙げられる。また、シクロアルケニル基の具体例としては、例えば、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0027】
また、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基(以下、「アリール基等」という。)の構造は特に限定されない。更に、アリール基等は、他の置換基を少なくとも1種有していてもよい。例えば、アリール基等が有する芳香環は、他の置換基を少なくとも1種備えていてもよい。従って、アリール基等は、無置換のアリール基(C
6H
5−)を有するもののみでなく、芳香環に置換基を有するアリール基を備えるものでもよい。また、芳香環における置換基の位置は、o位、m位、及びp位のいずれでもよい。この置換基の具体例としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ニトロ基、置換アミノ基、及びアルコキシ基等が挙げられる。
【0028】
また、アリール基等の炭素数も特に限定されず、通常、6〜15であり、6〜12、特に6〜10であることが好ましい。
【0029】
アリール基の具体例としては、例えば、無置換のアリール基(C
6H
5−)、トリフルオロメチル基(o位、m位、及びp位)を有するアリール基(CF
3−C
6H
5−)、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、メトキシフェニル基(o位、m位、及びp位)、エトキシフェニル基(o位、m位、及びp位)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、並びにビフェニリル基等が挙げられる。また、アリールアルキル基の具体例としては、ベンジル基、メトキシベンジル基(o位、m位、及びp位)、エトキシベンジル基(o位、m位、及びp位)、並びにフェネチル基等が挙げられる。更に、アリールアルケニル基の具体例としては、例えば、スチリル基、及びシンナミル基等が挙げられる。
【0030】
前記式(5)で表される光学活性テトラアミノホスホニウム塩におけるR
3〜R
6の組み合わせも特に限定されない。但し、R
3とR
4及び/又はR
5とR
6は異なる基である。従って、この塩は、少なくとも2個の不斉炭素原子を有する。例えば、R
3とR
4とが異なる基であり、R
5とR
6とは同じ基であってもよく、R
3とR
4とは同じ基であり、R
5とR
6とが異なる基であってもよい。また、R
3とR
4とが異なる基であり、且つR
5とR
6とが異なる基であってもよい。
【0031】
更に、R
3〜R
6としては、例えば、前述の各種の基を適宜組み合わせることができる。このR
3〜R
6の組み合わせとしては、例えば、R
3及びR
4の一方は水素原子であり、R
5及びR
6はアリール基(無置換のアリール基等)である組み合わせが挙げられる。また、R
5及びR
6がアリール基である場合、R
5及びR
6の一方を無置換アリール基とし、他方を置換アリール基とすることもできる。更に、R
5及びR
6の両方を無置換アリール基、又は置換アリール基とすることもできる。
【0032】
上述のように、R
3〜R
6としては、前述の各種の基を適宜組み合わせることができるが、R
3〜R
6の好ましい組み合わせとしては、(1)R
3がi−プロピル基、R
4が水素原子、R
5及びR
6がフェニル基、(2)R
3がi−プロピル基、R
4が水素原子、R
5及びR
6がp−Cl−C
6H
4、(3)R
3がi−プロピル基、R
4が水素原子、R
5及びR
6がp−F−C
6H
4等の各種の組み合せが挙げられる。その他、好ましい組み合わせとしては、(4)R
3がi−プロピル、R
4が水素原子、R
5及びR
6がp−CH
3−C
6H
4、(5)R
3がi−プロピル、R
4が水素原子、R
5及びR
6がp−CF
3−C
6H
4、(6)R
3がsec−ブチル基、R
4が水素原子、R
5及びR
6がフェニル基、(7)R
3がエチル基、R
4が水素原子、R
5及びR
6がフェニル基等が挙げられる。
【0033】
また、前記式(5)〜(7)において、対イオンとなるX
−の種類及び価数は特に限定されず、1価又は多価の一般的な陰イオンであればよい。後述のように、この塩は、例えば、特定の構造を有する1,2−ジアミン化合物と、ハロゲン化リン化合物とを反応させて得ることができ、従って、X
−は、通常、ハロゲンイオン(F
−、Cl
−、Br
−、I
−等)である。更に、必要に応じて適宜イオン交換することも可能であり、X
−は、硫酸イオン、硫酸水素イオン、カルボン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、フェノキシド、ホウ酸イオン、テトラアリールホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はヘキサフルオロリン酸イオン等であってもよい。
【0034】
更に、前記式(5)〜(7)において、R
3及びR
4が結合している炭素原子が不斉炭素原子の場合、当該箇所の立体構造は特に限定されず、この立体構造はR体でもよく、S体でもよい。
【0035】
光学活性テトラアミノホスホニウム塩の製造方法は特に限定されず、例えば、下記一般式(9)で表される1,2−ジアミン化合物と、ハロゲン化リン化合物(PCl
3、PCl
5、POCl
3等)とを反応させることにより得ることができる。また、1,2−ジアミン化合物は光学活性体でもよく、ラセミ体でもよい。1,2−ジアミン化合物としてラセミ体を用いた場合は、合成後、光学分割等により、光学活性テトラアミノホスホニウム塩を得ることができる。更に、1,2−ジアミン化合物は、例えば、容易に入手可能なアミノ酸から得られ、このアミノ酸はD体でもよく、L体でもよい。
【化10】
【0036】
(2)光学活性β−ニトロアルコール誘導体
光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造原料として用いられる光学活性β−ニトロアルコール誘導体は、特定のアルデヒド化合物とニトロアルカンとを、前記式(5)〜(7)に記載の光学活性テトラアミノホスホニウム塩(若しくは鏡像異性体)及び塩基、又は光学活性テトラアミノホスホニウム塩(若しくは鏡像異性体)の共役塩基の存在下に反応させ、製造することができる。
この塩及び共役塩基は、アンチ選択性に優れた触媒であり、得られる光学活性β−ニトロアルコール誘導体の立体構造は、略全てがアンチ体、又は多くがアンチ体である。
【0037】
アルデヒド化合物としては、前記式(8)で表される化合物が用いられる。このアルデヒド化合物のフェノール性ヒドロキシル基の保護基(Z)は、光学活性β−ニトロアルコール誘導体が還元されて光学活性β−アミノアルコール誘導体となるときに、水素添加により脱保護され、ヒドロキシル基が生成する。このZは、水素添加反応で脱保護される保護基であればよく、例えば、置換ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられ、ベンジル基であることが好ましい。また、ニトロアルカンとしては、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロペンタンを用いることができ、アルカンは直鎖である。更に、このニトロアルカンにより、光学活性β−ニトロアルコール誘導体にアルキル基(R
1)が導入される。このR
1は炭素数1〜4の直鎖のアルキル基であり、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。アルデヒド化合物とニトロアルカンとの当量比は特に限定されないが、通常、1(アルデヒド化合物):(0.1〜20)(ニトロアルカン)とすることができ、1:(1〜20)、特に1:(1〜15)、更に1:(1〜10)であることが好ましい。尚、溶媒としてニトロアルカンを用いることもできる。
【0038】
光学活性β−ニトロアルコール誘導体の製造時、光学活性テトラアミノホスホニウム塩とともに用いられる塩基は特に限定されない。この塩基としては、有機塩基及び無機塩基のいずれも用いることができる。有機塩基の具体例としては、例えば、金属アルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、及びカリウム−t−ブトキシド等)、アルキル金属化合物(ブチルリチウム等)、金属アミド(カリウムヘキサメチルジシラザン等)、並びにアミン化合物(1級、2級及び3級、例えば、グアニジン及びアミジン等)などが挙げられる。また、無機塩基の具体例としては、例えば、金属水素化物が挙げられる。塩基は1種のみでもよく、2種以上を併用してもよい。また、好ましい塩基は有機塩基であり、特に金属アルコキシド、アルキル金属化合物、及び金属アミドが好ましい。
【0039】
金属アルコキシド、アルキル金属化合物、及び金属アミドが有する金属としては、例えば、Na及びK等のアルカリ金属、Ca等のアルカリ土類金属の他、Al、及びZnなどが挙げられる。また、金属アルコキシドを構成するアルコキシドとしては、例えば、炭素数1〜5、好ましくは1〜4の直鎖又は分枝アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、及びt−ブトキシ基等)が挙げられる。
【0040】
光学活性β−ニトロアルコール誘導体は、光学活性テトラアミノホスホニウム塩及び塩基、又は光学活性テトラアミノホスホニウム塩の共役塩基の存在下で製造されるが、具体的な手順は特に限定されない。例えば、光学活性テトラアミノホスホニウム塩を製造した後、この塩を単離せず、そのまま塩を含有する溶液に塩基及び基質を配合して製造することができる。また、別途用意した溶媒に、塩、塩基及び基質を配合して製造することもできる。更に、塩を含有する溶液に塩基を添加して共役塩基を生成させ、この共役塩基を用いて製造することもできる。
【0041】
光学活性テトラアミノホスホニウム塩、又はこの塩の共役塩基の使用量は特に限定されない。この使用量は、アルデヒド化合物に対して、通常、0.5〜10mol%、好ましくは1〜7mol%である。
【0042】
また、反応は溶媒中でなされるが、この溶媒の種類は特に限定されず、この溶媒としては、極性有機溶媒を用いてもよく、非極性有機溶媒を用いてもよい。更に、溶媒は1種でもよく、2種以上の溶媒の混合溶媒でもよい。
【0043】
極性有機溶媒は、プロトン性極性有機溶媒でもよく、非プロトン性極性有機溶媒でもよいが、非プロトン性極性有機溶媒が好ましい。この極性有機溶媒としては、例えば、THF、アニソール、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、及びアリルアルコール等)、及びエステル化合物(例えば、酢酸エチル)などが挙げられる。更に、極性有機溶媒として、アミド系溶媒(DMF及びNMP等)、ウレア系溶媒(DMPU等)、リン酸アミド系溶媒(HMPA等)、ニトリル系溶媒(プロピオニトリル等)、及びニトロアルカン系溶媒(ニトロメタン及びニトロエタン等)などを用いることもできる。
【0044】
非極性溶媒は、脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。また、非極性の脂肪族有機溶媒としては、例えば、アルカン及びシクロアルカン(例えば、炭素数4以上、好ましくは5以上)等が挙げられる。更に、この脂肪族有機溶媒の具体例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタン等が挙げられる。また、非極性の芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン及びトルエン等が挙げられる。
【0045】
更に、光学活性β−ニトロアルコール誘導体を製造するときの反応条件は特に限定されない。この反応条件は、ニトロアルカンの種類等によって、適宜調整することが好ましい。反応温度は、通常、−100〜40℃とすることができ、−80〜30℃、特に−80〜10℃であることが好ましい。また、反応時間は、反応温度にもよるが、通常、3〜48時間とすることができ、3〜30時間、特に4〜24時間、更に4〜12時間であることが好ましい。更に、反応雰囲気も特に限定されず、大気雰囲気でもよく、窒素ガス及びアルゴン等の希ガスなどの不活性雰囲気でもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
本実施例において、
1H−NMRスペクトルは、「Varian INOVA−500(500MHz)スペクトロメーター」及び「JEOL JNM−ECS400(400MHz)スペクトロメーター」により測定した。化学シフトは、テトラメチルシランを内部標準(溶媒がCDCl
3である場合)として、又は溶媒の残存シグナル(CD
3OD;3.31ppm)を内部標準としてppmで記録した。
13C−NMRスペクトルは、「Varian INOVA−500(126MHz)スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。化学シフトは、溶媒の残存シグナル(CDCl
3;77.16ppm、CD
3OD;49.0ppm)を内部標準としてppmで記録した。
【0047】
また、
31P−NMRスペクトルは、「Varian Mercury−300BB(121MHz)スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。化学シフトは、H
3PO
4(0ppm)を外部標準としてppmで記録した。
NMRデータは、化学シフト、積分値、多重度(s=1重線、d=2重線、t=3重線、q=4重線、quin=5重線)、及びカップリング定数(Hz)の順で表記した。
【0048】
更に、赤外線スペクトルは、「JASCO FT/IR−230スペクトロメーター」により測定した。高分解能マススペクトル分析は、名古屋大学大学院物質科学国際研究センターにて測定した。旋光度は、「JASCO P−1020NS polarimeter」により測定した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲルカラムクロマトグラフィー)は、「シリカゲル60」(球形、40〜50μm、関東化学工業社製)及び「PSQ60AB」(球形、40〜50μm、富士シリシア化学社製)により実施した。
【0049】
全ての反応は所定の雰囲気(特に断りがない限り、大気雰囲気)下、乾燥したガラス器具を用いて実施した。全ての基質等は使用前に予め、蒸留又はカラムクロマトグラフィーにより精製した。トルエン及びテトラヒドロフラン(THF)は、関東化学工業社製「Dehydrated Solvent system」のものを用いた。その他の物質としても市販品を用いた。
【0050】
(1)光学活性β−ニトロアルコール誘導体の製造において触媒として用いた光学活性テトラアミノホスホニウム塩の合成
光学活性テトラアミノホスホニウム塩の合成経路は下記式(10)のとおりである。
【化11】
【0051】
合成例1
出発物質である、アミノ基がBocで保護されたバリンのメチルエステル(1.31g、10mmol)をTHFに溶解させ、0℃でスラリー状のPhMgBr(50mL、1M濃度、5当量)に添加し、反応させた。その後、反応液を0℃で1時間攪拌し、氷冷した塩化アンモニウム水溶液に投入した。次いで、有機層と水層とを分層させ、水層を酢酸エチルで2度抽出し、この酢酸エチル層を有機層に加えた。その後、有機層をNa
2SO
4で乾燥し、ろ過及び濃縮をし、濃縮された粗残渣を30mLの塩酸メタノール溶液(1M濃度)に投入し、50℃で3時間処理した。
【0052】
次いで、減圧下、メタノールを除去し、残渣を1M濃度のNaOH水溶液と酢酸エチルに溶解させ、有機層と水層とを分層させ、水層を酢酸エチルで2度抽出し、この酢酸エチル層を有機層に加えた。その後、抽出物をNa
2SO
4で乾燥し、ろ過及び濃縮をし、次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でヘキサン/酢酸エチル=5:1の混合液)により精製し、白色固体の化合物1a(ArはPhである。)を得た(収率;82%)。
【0053】
その後、化合物1aの塩酸塩(0.58g、2mmol)と、NaN
3(0.65g、10mmol)とを、0℃で注意深くトリフルオロ酢酸(TFA)(10mL)に添加し、反応させた。次いで、反応液を室温で6時間攪拌し、攪拌しながら粉砕した氷中に注いだ。その後、NaOHペレットを加えて反応液を中和し、抽出物を酢酸エチルで2度処理し、この酢酸エチル層を有機層に加えた。次いで、有機層を塩水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、ろ過及び濃縮をし、粗残渣(生成物であるアミノアジド化合物を含有する。)を得た。この粗残渣は更に精製することなく次の反応において使用した。
【0054】
その後、上述の粗残渣を、2mmolの酢酸を含有するメタノール(10mL)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、この混合液を0℃に冷却し、これにパラジウム/活性炭素(200mg、5質量%の金属Pdを含有する。)を添加し、雰囲気を水素雰囲気に置き換えた。次いで、混合液を室温で1時間攪拌した後、ろ過し、パラジウム/活性炭素を除去し、ろ液を濃縮した。その後、残渣を1M濃度のNaOH水溶液で中和し、酢酸エチルで2度抽出し、酢酸エチル層を有機層に加えた。次いで、有機層をNa
2SO
4で乾燥し、ろ過、濃縮をし、その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でメタノール/酢酸エチル=1:30の混合液)により精製し、白色の固体である1,2−ジアミン化合物2a(ArはPhである。)を得た(収率;89%)。1,2−ジアミン化合物2aの
1H−NMR及び
13C−NMRのスペクトルデータ等の分析結果は以下のとおりである。
【0055】
1H−NMR(500MHz,CDCl
3);δ7.48(2H,d,J=7.5Hz),7.45(2H,d,J=7.5Hz),7.29(4H,t,J=7.5Hz),7.20(1H,tt,J=7.5,2.0Hz),7.18(1H,tt,J=7.5,2.0Hz),3.70(1H,d,J=2.0Hz),1.89(1H,quin−d,J=7.0,2.0Hz),1.01(3H,d,J=7.0Hz),0.75(3H,d,J=7.0Hz)
13C−NMR(126MHz,CDCl
3);δ148.0,147.3,128.4,128.3,126.8,126.3
8,126.3
2,66.0,60.9,28.1,24.1,17.1
【0056】
IR(KBr);3339,3275,2965,2925,1598,1449,1357,1188,1057,945,872,745cm
−1
HRMS(FAB);計算値([M]
+)255.1861,実測値255.1857
[α]
25D;+11.0°(c=0.40,MeOH,>99%ee)
【0057】
その後、0.51gの1,2−ジアミン化合物2a(2当量、2mmol)及びEt
3N(0.70mL、5mmol)をトルエン(5.0mL)に添加した。次いで、この溶液に、PCl
5(0.21g、1.0mmol)を含有するトルエン(5.0mL)を添加し、110℃で2時間攪拌した。その後、揮発物を蒸発させ、固形の残渣をクロロホルムに溶解させ、1N濃度のHCl水溶液で洗浄し、有機層をNa
2SO
4で乾燥させた。
【0058】
次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でクロロホルム/メタノール=20〜10:1の混合液)により、残渣を濃縮及び精製することにより、テトラアミノホスホニウム塩3a[ArはPhであり、下記式(11)で表される。]のジアステレオマー混合物を得た(92%、MS:PS=6:1)。また、(M,S)−テトラアミノホスホニウム塩3aを、−15℃でアセトン/ヘキサン溶媒系からの再結晶により得た。この(M,S)−テトラアミノホスホニウム塩3aの
1H−NMR及び
13C−NMRのスペクトルデータ等は以下のとおりである。
【化12】
【0059】
1H−NMR(500MHz,CD
3OD);δ7.48(4H,d,J=7.5Hz),7.42(4H,t,J=7.5Hz),7.33(2H,tt,J=7.5,1.8Hz),7.31(4H,d,J=7.5Hz),7.24(4H,t,J=7.5Hz),7.19(2H,tt,J=7.5,2.0Hz),6.50(2H,d,J
P−H=18.0Hz),6.34(2H,d,J
P−H=21.0Hz),4.35(2H,dd,J
P−H=24.0Hz,J
H−H=3.5Hz),1.61(2H,quin−d,J=6.8,3.5Hz),0.88(6H,d,J=6.8Hz),0.77(6H,d,J=6.8Hz)
13C−NMR(126MHz,CD
3OD);δ148.5,142.2(d,J
P−C=12.3Hz),129.7,128.9,128.6,128.3
0,128.2
7,127.6,71.6(d,J
P−C=12.8Hz),65.6(d,J
P−C=7.7Hz),30.9,21.7,17.5
31P−NMR(121MHz,CD
3OD);δ35.8
【0060】
IR(KBr);3385,3185,2963,1609,1461,1400,1338,1260,1126,1056,759,702cm
−1
HRMS(FAB);計算値C
34H
40N
4P
+([M]
+)535.2991,実測値535.3011
[α]
28D;−297.1°(c=0.32,CH
3OH,>99%ee)
【0061】
(2)光学活性β−ニトロアルコール誘導体製造のための中間体の製造
合成例2
4−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(1.67g、10mmol)と、炭酸カリウム(4.14g、30mmol)とのN,N−ジメチルホルムアミド(100mL)溶液に、ベンジルブロミド(1.78mL、15mmol)を0℃で添加し、徐々に昇温させながら室温(20〜25℃)で2日間攪拌して反応させた。その後、反応混合物を氷水中に投入し、水相をジエチルエーテルで抽出した。次いで、有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
【0062】
その後、これを濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でクロロホルム/酢酸エチル=10:1の混合液)で精製し、次いで、アルゴン雰囲気下、容量比で1:1のクロロホルム/ヘキサン混合溶液を用いて再結晶させた。その後、得られた結晶を吸引ろ過(容量比でヘキサン/ジエチルエーテル=10:1)により回収し、前記式(8)で表される白色固体のアルデヒド化合物(1.66g、収率;65%)を得た。この化合物の
1H−NMRのスペクトルデータは以下のとおりである。
【0063】
1H−NMR(400MHz,CDCl
3);δ9.93(1H,s),8.37(1H,d,J=1.8Hz),8.04(1H,dd,J=8.7,2.3Hz),7.48−7.34(5H,m),7.27(1H,d,J=8.2Hz),5.35(2H,s).
【0064】
(3)光学活性β−ニトロアルコール誘導体の製造
合成例3
アルゴン雰囲気下、乾燥した容量50mLの二つ口フラスコに、前記式(11)で表される光学活性テトラアミノホスホニウム塩(6.28mg、0.011mmol)、ニトロエタン(750.7mg、10mmol)、及びテトラヒドロフラン(9mL)を順次加え、−78℃に冷却した。その後、カリウムターシャリーブトキシドのテトラヒドロフラン溶液(10μL、1M濃度)を加え、−60℃で30分間攪拌し、反応させた。その後、反応混合液を再び−78℃に冷却し、合成例2で得られた前記式(8)で表されるアルデヒド化合物(257.2mg、1mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.0mL)を徐々に滴下し、17時間反応させた。
【0065】
次いで、トリフルオロ酢酸のトルエン溶液(100μL、0.5M濃度)を加えて反応を停止させ、反応混合液を0℃に冷却した飽和塩化アンモニウム水溶液に投入した。その後、水相を酢酸エチルで抽出し、得られた有機相を飽和食塩水で洗浄した。次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥した有機相を濃縮し、その後、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でクロロホルム/酢酸エチル=20:1の混合液)で精製し、下記式(12)で表される粘性の高い淡黄色の液体である化合物(光学活性β−ニトロアルコール誘導体)[299.1mg、収率;90%(anti/syn=24:1、エナンチオ過剰率;95%)]を得た。この化合物の
1H−NMRスペクトルは下記のとおりである。
【化13】
[式(12)中、Bnはベンジル基である。]
【0066】
1H−NMR(400MHz,CDCl
3);δ7.91(1H,d,J=2.2Hz),7.51(1H,dd,J=8.7,2.2Hz),7.45(2H,d,J=7.6Hz),7.40(2H,t,J=7.6Hz),7.36(1H,t,J=7.6Hz),7.14(1H,d,J=8.7Hz),5.39(1H,t,J=3.5Hz),5.25(2H,s),4.66(1H,qd,J=6.9,3.5Hz),2.86(1H,br),1.51(3H,d,J=6.9Hz),
【0067】
合成例4
触媒として前記式(10)のAr=p−Cl−C
6H
4である化合物(7.80mg、0.011mmol)、ニトロエタン(150mg、2.0mmol)、及び前記式(8)で表される化合物(51.4mg、0.2mmol)を使用し、全ての溶媒量を1/5にして3時間反応させた他は、合成例3と同様にして、前記式(12)で表される化合物(光学活性β−ニトロアルコール誘導体)[65.8mg、収率;99%(anti/syn=30:1、エナンチオ過剰率;98%)]を得た。
【0068】
合成例5
触媒として前記式(10)のAr=p−F−C
6H
4である化合物(7.07mg、0.055mmol)、ニトロエタン(150mg、2.0mmol)、及び前記式(8)で表される化合物(51.4mg、0.2mmol)を使用し、全ての溶媒量を1/5にして3時間反応させた他は、合成例3と同様にして、前記式(12)で表される化合物(光学活性β−ニトロアルコール誘導体)[65.8mg、収率;99%(anti/syn=25:1、エナンチオ過剰率;98%)]を得た。
【0069】
(4)光学活性β−アミノアルコール誘導体の製造
実施例1
アルゴン雰囲気下、前記式(12)で表される化合物(55.6mg、0.2mmol)のメタノール溶液(1.8mL)に、塩酸メタノール溶液(0.2mL、1M濃度)を添加し、0℃でパラジウム/活性炭素(20mg、10質量%の金属Pdを含有する。)を加えた。その後、雰囲気を水素置換(バルーン)し、24時間室温で攪拌し、反応させた。次いで、アルゴン雰囲気にした後、セライトろ過によりパラジウム/活性炭素を除去し、得られた溶液を減圧下に濃縮し、主に下記式(13)で表される化合物(光学活性β−アミノアルコール誘導体であり、新規物質である。)を含有する残渣を得た。この残渣は精製することなく、そのまま次の反応に用いた。この化合物の
1H−NMRスペクトルは下記のとおりである。
【化14】
【0070】
1H−NMR(400MHz,CD
3OD);δ6.88(1H,s),6.77(1H,d,J=8.2Hz),6.72(1H,d,J=8.2Hz),4.77(1H,d,J=3.2Hz),3.43(1H,qd,J=6.4,3.2Hz),1.12(3H,d,J=6.4Hz),seven protons were not found due to deuteration.
【0071】
(5)光学活性アミノスルホンアミド誘導体の製造
実施例2
実施例1で得られた前記式(13)で表される未精製の化合物を、水(0.2mL)に溶解させ、0℃で2,6−ルチジン(23.6mg、0.22mmol)を添加した。その後、メタンスルホニルクロリド(25.2mg、0.22mmol)を滴下し、0℃で30分攪拌し、反応させた。次いで、反応混合液を室温で減圧濃縮し、下記式(14)で表される化合物を含有する粗生成物を得た。式(14)で表される化合物(光学活性アミノスルホンアミド誘導体)の
1H−NMRスペクトルは下記のとおりである。
【化15】
[式(14)中、Msはメタンスルホニル基である。]
【0072】
1H−NMR(400MHz,CD
3OD);δ7.38(1H,d,J=2.0Hz),7.12(1H,dd,J=8.5,2.0Hz),6.93(1H,d,J=8.5Hz),4.85(1H,d,J=3.6Hz),3.45(1H,qd,J=6.8,3.6Hz),2.95(3H,s),1.13(3H,d,J=6.8Hz),six protons were not found due to deuteration.
【0073】
(6)光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体の製造
実施例3
実施例2で得られた前記式(14)で表される未精製の粗生成物をメタノール(0.6mL)に溶解させ、その後、酢酸カリウム(58.9mg、0.6mmol)、3,5−ジクロロベンズアルデヒド(42.0mg、0.24mmol)、及びボラン−ピリジン錯体(60mL、0.6mmol)を順次加え、室温で10時間攪拌し、反応させた。次いで、反応混合液にリン酸緩衝液(pH;7.41)を加え、酢酸エチル/メタノール混合溶媒(容量比で10:1)で抽出した。その後、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でクロロホルム/メタノール=15:1の混合液)により精製した。
【0074】
次いで、塩化水素メタノール溶液で処理し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液;容量比でクロロホルム/メタノール=15:1の混合液)により再精製し、下記式(15)で表される白色固体の化合物(光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体)を得た(30.5mg、収率;33%)。このように、原料である前記式(11)で表される化合物(光学活性β−ニトロアルコール誘導体)を用いて、精製することなく、3工程で、目的とする、医薬の用途において有用な光学活性アルキルアミノスルホンアミド誘導体を得ることができた。式(15)で表される化合物の
1H−NMRスペクトルは下記のとおりである。
【化16】
[式(15)中、Msはメタンスルホニル基である。]
【0075】
1H−NMR(400MHz,CD
3OD);δ7.33(1H,s),7.29(1H,d,J=1.4Hz),7.21(2H,s),7.02(1H,d,J=8.2Hz),6.87(1H,d,J=8.2Hz),4.51(1H,d,J=6.0Hz),3.79(1H,d,J=14.2Hz),3.69(1H,d,J=14.2Hz),2.92(3H,s),2.79(1H,quin,J=6.0Hz),1.08(3H,d,J=6.0Hz),five protons were not found due to deuteration.