(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高層建物などにおいては、建物本体と基礎の間など、上部構造体と下部構造体の間に積層ゴムなどの免震装置を介設し、地震時に、上部構造体の固有周期を例えば地震動の卓越周期帯域から長周期側にずらし、応答加速度を小さくして揺れを抑えるようにしている。
【0003】
一方、特にアスペクト比が大きく、横揺れに伴って転倒モーメントが作用しやすい免震建物においては、免震装置で支持された上部構造体(建物本体)の転倒を防止するため、各階のせん断変形角を一定値以下に抑えることが必要となり、この上部構造体にもそれに応じた強度(耐力)が必要になって高コストになるという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献1には、下部構造体と上部構造体の間に複数の第1免震装置を設置するとともに、これら第1免震装置に作用する引抜力を圧縮力として受けるように第2免震装置(引抜抵抗手段)を設置してなる免震建物が開示されている。
【0005】
そして、この特許文献1では、上部構造体の外周部側に張出形成した第2免震装置台部の上に第2免震装置を設置するとともに、免震ピット躯体や隣接建物等、地盤側に固定され、建物の外側に配設された断面コ字型の部材の第2免震装置抑え部によって第2免震装置の上端部を支持させる。これにより、第1免震装置とともに第2免震装置によって建物の横揺れに対する免震性能が発揮され、また、第1免震装置に作用した引抜力を第2免震装置台部と第2免震装置抑え部で挟持された第2免震装置で圧縮力として受けることができ、実質的に上部構造体のロッキングを抑止して、上部構造体の転倒を防止することが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された免震建物においては、上部構造体の外周部側に張出形成した第2免震装置台部と、建物の外側に配設された断面コ字型の部材の第2免震装置抑え部と、第2免震装置とで転倒防止構造が構成されるため、すなわち、建物の外側に設けた転倒防止構造のみで転倒防止を図るようにしているため、設計の自由度が低く、アスペクト比が大きくなるほどに(大きな転倒モーメントが作用するほどに)その適用が困難になるおそれがあった。
【0008】
また、実質的に上部構造体のロッキングを抑止して転倒防止を図るようにしているため、上下水平方向の制震効果を得る(付与する)ことができない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、ロッキングを許容しつつ、アスペクト比が大きな建物であっても確実に転倒防止を図ることができ、さらに上下水平方向の制震性能を付与することを可能にする免震建物の転倒防止構造及びこれを備えた免震建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の免震建物の転倒防止構造は、上部構造体と下部構造体の間に免震装置を介設してなる免震建物の転倒防止構造であって、前記免震建物の外側に配設される外側転倒防止構造と前記免震建物の内側に配設される内側転倒防止構造とを備えており、前記外側転倒防止構造は、前記免震装置の上端部側を繋ぐ前記上部構造体の上部免震装置固定用部材を横方向外側に延出させるように形成した外側抑え部と、前記下部構造体に繋がり、前記外側抑え部と横方向に所定の隙間をあけて上下方向に延設されるとともに、上下方向に所定の隙間をあけて前記外側抑え部の上に延設された外側転倒防止構造本体部とを備えて構成され、前記内側転倒防止構造は、前記上部免震装置固定用部材あるいは前記下部構造体に一端を繋げて上下方向に延設された側部と、前記側部に繋がって横方向に延設された内側抑え部とからなり、前記側部と前記下部免震装置固定用部材及び/又は前記上部免震装置固定用部材の横方向の間に、且つ前記内側抑え部と前記下部免震装置固定用部材あるいは前記上部免震装置固定用部材の上下方向の間に所定の隙間をあけて前記下部免震装置固定用部材及び/又は前記上部免震装置固定用部材を囲繞するように配設された内側転倒防止構造本体部を備えて構成され
、且つ、前記外側抑え部と前記外側転倒防止構造本体部の上下方向の隙間及び/又は前記内側抑え部と前記下部免震装置固定用部材あるいは前記上部免震装置固定用部材の上下方向の隙間に、前記外側抑え部と前記外側転倒防止構造本体部に、及び/又は前記内側抑え部と前記下部免震装置固定用部材あるいは上部免震装置固定用部材に端部を繋げて、制震装置が設けられていることを特徴とする。
【0012】
この発明においては、地震等で振動エネルギーが作用し、建物に横揺れが生じた際に、積層ゴムなどの免震装置が変形することで、上部構造体の固有周期を例えば地震動の卓越周期帯域から長周期側にずらし、この上部構造体の応答加速度を小さくして揺れを抑えることが可能になる。
【0013】
一方、上部構造体に振動エネルギーが作用して揺れ(ロッキング)が生じた場合には、免震装置に引抜力が作用することになるが、外側転倒防止構造の外側抑え部と外側転倒防止構造本体部とによって、且つ下部免震装置固定用部材あるいは上部免震装置固定用部材と内側転倒防止構造の内側転倒防止構造本体部(内側抑え部)とによって、上部構造体の上下方向の変位量を規制することが可能になる。このため、上部構造体の揺れを小さく抑えることができ、免震装置に作用する引抜力を低く抑えることが可能になって、引抜力への耐力増強を図ることが可能になる。
【0015】
さらに、外側抑え部と外側転倒防止構造本体部の上下方向の隙間及び/又は内側抑え部と下部免震装置固定用部材あるいは上部免震装置固定用部材の上下方向の隙間に、免震装置ではなく制震装置が設置されているため、上部構造体に振動エネルギーが作用し、揺れ(ロッキング)が生じるとともに制震装置(超高減衰型粘弾性ダンパー、鉛ダンパー、摩擦ダンパー、スチールダンパー等)によって振動エネルギーを減衰させることが可能になる。また、同時に水平方向の変位減衰効果も得ることが可能になる。
【0016】
本発明の免震建物は、上部構造体と下部構造体の間に免震装置を介設してなる免震建物であって、上記
の免震建物の転倒防止構造を備えていることを特徴とする。
【0017】
この発明においては、上記の免震建物の転倒防止構造の作用効果を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の免震建物の転倒防止構造及びこれを備えた免震建物においては、上部構造体に振動エネルギーが作用し、揺れが生じた場合に、外側転倒防止構造の外側抑え部と外側転倒防止構造本体部とによって、且つ下部免震装置固定用部材あるいは上部免震装置固定用部材と内側転倒防止構造の内側転倒防止構造本体部の内側抑え部とによって、上部構造体の上下方向と水平方向の変位量を規制することが可能になる。これにより、ロッキングを許容しつつ上部構造体の揺れを小さく抑えることができ、免震装置に作用する引抜力を低く抑えることが可能になるとともに、上部構造体の転倒を防止することが可能になる。
【0019】
すなわち、アスペクト比が大きな搭状建物の転倒モーメントを処理して免震装置の大きな浮き上がりを防止し、免震建物の転倒防止を図ることができる。このため、上部構造体の各階のせん断変形角を一定値以下に抑えるように上部構造体を高剛性、高耐力で構築することを不要にし、安価に免震建物を構築することが可能になる。言い換えれば、上部構造体の耐力を低減し、より安価な免震建物を提供することが可能になる。
【0020】
また、外側転倒防止構造とともに内側転倒防止構造によって上部構造体の転倒防止を図るようにしたことで、従来の免震建物(転倒防止構造)と比較し、設計の自由度が高くなり、アスペクト比が大きな免震建物に対しても外側転倒防止構造と内側転倒防止構造をバランスよく配置して確実に転倒防止を図ることが可能になる。
【0021】
さらに、外側転倒防止構造と内側転倒防止構造によって上部構造体のロッキングを許容しつつ転倒防止を図るようにしているため、外側抑え部と外側転倒防止構造本体部の上下方向の隙間及び/又は内側抑え部と下部免震装置固定用部材あるいは上部免震装置固定用部材の上下方向の隙間や、上部構造体の内側に制震装置を設置することで、振動エネルギーの減衰性能を効果的に付与することも可能になる。このため、さらに確実に転倒防止を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震建物及び免震建物の転倒防止構造を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造の外側転倒防止構造を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造の内側転倒防止構造を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造の制震装置の一例を示す図である。
【
図7】
図5に示した制震装置に水平力が作用した状態を示す図である。
【
図8】
図5に示した制震装置に圧縮力が作用した状態を示す図である。
【
図9】
図5に示した制震装置に引張力が作用した状態を示す図である。
【
図10】
図5に示した制震装置の制震装置本体部を製造する方法を示す図である。
【
図11】
図5に示した制震装置を形成(製造)して配設する方法を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造の変形例を示す図であり、基礎免震建物に適用する場合の免震建物の転倒防止構造の一例を示す図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造(内側転倒防止構造)の変形例を示す図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造(内側転倒防止構造)の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1から
図11を参照し、本発明の一実施形態に係る免震建物の転倒防止構造及びこれを備えた免震建物について説明する。
【0024】
本実施形態の免震建物Aは、
図1に示すように、上部構造体A1と下部構造体A2の間に免震装置1を介設してなるアスペクト比が大きな高層建物であり、転倒防止構造B(B1、B2)を備えて構成されている。上部構造体A1は、複数階層からなる建物本体であり、梁や柱、スラブ、外壁などを備え、下部構造体A2は、複数の支持杭2や基礎底版(基礎スラブ)3を備えて構成されている。
【0025】
また、この免震建物Aは、下部構造体A2の基礎底版3に柱4、梁を剛に接合し、さらに必要に応じて耐震壁などで補強した免震装置設置階Pが設けられている。そして、免震装置設置階Pの上部に剛接合して配設された下部免震装置固定用部材5に積層ゴムなどの免震装置1が上載設置されている。さらに、上部構造体A1の下部には、剛接合した梁を備える上部免震装置固定用部材6が設けられ、上端部を上部免震装置固定用部材6に繋げて免震装置1が設けられている。
【0026】
すなわち、本実施形態の免震建物Aは、支持杭2や基礎底版3からなる下部構造体A2の上方の中間階に免震装置1を設けた中間階免震建物として構成されている。なお、例えば
図1の破線Sの位置を地表面GLとし、基礎底版3を下部免震装置固定用部材5として免震装置1を設置し、免震建物Aを基礎免震建物として構築してもよい。また、免震装置1は、例えば前述の特許文献1の
図5及び
図6に示されるように、上下方向に変位可能に設置されていることが望ましい。
【0027】
本実施形態の免震建物の転倒防止構造Bは、建物外周部側に設けられており、免震建物Aの外側に配設される外側転倒防止構造B1と、免震建物Aの内側に配設される内側転倒防止構造B2とで構成されている。
【0028】
また、外側転倒防止構造B1は、
図1から
図3に示すように、外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8とを備えてなり、外側抑え部7は、免震装置1の上端部側を繋ぐ上部構造体A1の上部免震装置固定用部材6を横方向T1外側に延出させるようにして形成されている。外側転倒防止構造本体部8は、
図3に示すように、基礎底版3(下部構造体A2)に一端を剛接合して繋げ、外側抑え部7と横方向T1に所定の隙間H1をあけて上下方向T2に延設されるとともに、外側抑え部7の上に上下方向T2に所定の隙間H2をあけて延設されている。すなわち、この外側転倒防止構造本体部8は、断面コ字型に形成され、下部構造体A2に繋がって免震建物Aの外側から外側抑え部7の上に廻り込むように延設され、外側抑え部7の上に上下方向T2に重なるように延設されている。また、本実施形態の外側転倒防止構造本体部8は、
図1及び
図3に示すように、免震装置設置階Pの外周部側の柱4及び下部免震装置固定用部材5に剛接合して設けられている。
【0029】
さらに、本実施形態の外側転倒防止構造B1は、
図1から
図3に示すように、免震装置ではなく制震装置9を備えており、この制震装置9は、外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8の上下方向T2の隙間H2に、端部を外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8にそれぞれ繋げて設けられている。
【0030】
そして、このような外側転倒防止構造B1は、上部免震装置固定用部材6の外周部を外側に拡張するようにして外側抑え部7を構築し、この外側抑え部7に一端部を繋げて外側抑え部7上に制震装置9を設置し、さらに、外側転倒防止構造本体部8を下部構造体A2に繋げて設置するとともに、外側転倒防止構造本体部8と制震装置9の他端部を繋げて構築される。
【0031】
一方、本実施形態の内側転倒防止構造B2は、
図1から
図4に示すように、内側転倒防止構造本体部10を備えてなり、この内側転倒防止構造本体部10は、下部構造体A2の基礎底版3に一端を剛接合して繋げ、上下方向T2に延設された一対の側部10a、10bと、一対の側部10a、10bの他端同士を繋いで横方向T1に架設(延設)された内側抑え部10cとを備えて構成されている。すなわち、本実施形態の内側転倒防止構造本体部10は、門型に形成されており、一対の側部10a、10bと内側抑え部10cで上部免震装置固定用部材6及び下部免震装置固定用部材5を囲繞するように配設されている。また、このとき、内側転倒防止構造本体部10は、一対の側部10a、10bのそれぞれと下部免震装置固定用部材5及び上部免震装置固定用部材6の横方向T1の間と、内側抑え部10cと上部免震装置固定用部材6の上下方向T2の間とにそれぞれ、所定の隙間H3、H4をあけて配設されている。
【0032】
さらに、本実施形態の内側転倒防止構造B2においては、上部免震装置固定用部材6と内側抑え部10cの上下方向T2の隙間H4に制震装置11が設けられており、この制震装置11は、端部を上部免震装置固定用部材6と内側抑え部10cにそれぞれ繋げて設けられている。
【0033】
ここで、外側転倒防止構造B1と内側転倒防止構造B2が備える制震装置9、11には、例えば、
図5及び
図6に示す制震装置9、11を適用することができる。この一例として示す制震装置9、11は、金属板12を間にして両側にそれぞれ超高減衰型粘弾性ゴム13、14を積層し、各超高減衰型粘弾性ゴム13、14の外側に一体にゴム側金属板15を積層して設け、さらにゴム側金属板15に固定用ボルト16で固定してベース側金属板17を一体に積層して形成されている。また、一対の超高減衰型粘弾性ゴム13、14の間に配された金属板12は、安全装置固定用金属板であり、その端部に金属、炭素繊維樹脂などで構成した安全装置18が取り付けられている。
【0034】
また、
図5及び
図6に示す制震装置9、11は、両外側に配された各ベース側金属板17に、上下方向(積層方向)に延設された複数の縦方向ネジ鉄筋19が一端を溶接して一体に取り付けられている。また、縦方向ネジ鉄筋19は、中間部に機械式継手20を設け、この継手20によって延長形成され、延長した他端にT型金物21が取り付けられている。さらに、上下方向に延設された縦方向ネジ鉄筋19の一端から中間部までの上下方向の間には、上下方向に間隔をあけて横方向に延設された複数の横方向ネジ鉄筋22が配されている。また、各横方向ネジ鉄筋22は、両端部側に機械式継手23を設け、この継手23によって延長形成され、延長した一端と他端にそれぞれT型金物21が取り付けられている。そして、これら縦方向ネジ鉄筋19と横方向ネジ鉄筋22は、ベース側金属板17と縦方向ネジ鉄筋19の継手(中間部)20までの上下方向の間、横方向ネジ鉄筋22の両端部側の一対の継手23の横方向の間の部分がコンクリートで埋設されている。本実施形態では、この埋設部分をPCコンクリート部24としている。さらに、超高減衰型粘弾性ゴム13、14を間にして上方と下方に、各PCコンクリート部24を埋設するようにして鉄筋25と場所打ちコンクリート26からなるコンクリート部27が設けられている。
【0035】
そして、超高減衰型粘弾性ゴム13、14は、例えば天然ゴム系減衰材料であり、温度依存性、ひずみ依存性、速度依存性が小さく、振動に対して高い減衰性を発揮する。これにより、上記のように構成した
図5及び
図6に示す制震装置9、11は、超高減衰型粘弾性ゴム13、14が
図7、
図8、
図9にそれぞれ示すように変形して、水平力(
図7)、圧縮力(
図8)、引張力(
図9)の3種類の力に対して地震エネルギーを吸収することができ、優れた制震性能を発揮する。
【0036】
なお、このような制震装置9、11を製造する際には、まず、
図10(a)に示す第1段階で、安全装置固定用金属板12を一対の超高減衰型粘弾性ゴム13、14で挟み込み、各超高減衰型粘弾性ゴム13、14の外側にゴム側金属板15を接着する。次に、
図10(b)(及び
図10(a))に示す第2段階で、ベース側金属板17に同じ長さの縦方向ネジ鉄筋19を溶接するとともに中間部に機械式継手20を設置し、この状態のベース側金属板17を各ゴム側金属板15に固定用ボルト16で固定する。次に、
図10(c)に示す第3段階で、横方向ネジ鉄筋22を配設するとともに各横方向ネジ鉄筋22に機械式継手23を設置する。次に、
図10(d)に示す第4段階で、型枠30を配設するとともに固定枠31と充填材を挿入し、
図10(e)に示す第5段階で、型枠30を仮止めボルト32で固定する。次に、
図10(f)に示す第6段階で、型枠30内に矢印F方向からコンクリートを打設し、コンクリート硬化後に型枠30を脱型することによって、一対のPCコンクリート部24の間に超高減衰型粘弾性ゴム13、14を備えた制震装置本体部33が形成される。そして、この制震装置本体部33は、工場でのPC化工法を採用し、精度よく製造される。
【0037】
次に、このように製造した制震装置本体部33を現場に搬入し、
図11(a)に示す第7段階で、安全装置固定用金属板12の端部に安全装置18を固定する。次に、
図11(b)に示す第8段階で、T型金物21をつけたネジ鉄筋19、22を各機械式継手20、23に接続し、縦方向ネジ鉄筋19及び横方向ネジ鉄筋22をそれぞれ延長する。そして、
図11(c)に示す第9段階で鉄筋25の配筋、
図11(d)に示す第10段階で型枠34、固定枠31と充填材の設置を行う。そして、
図11(e)に示すように、第11段階で、注入孔から型枠34内に場所打ちコンクリート26を充填し、コンクリート硬化後に型枠34を脱型することによって制震装置9、11が形成(製造)され、所定位置に配設される。
【0038】
ここで、制震装置9、11は、上記のように構成したものに限定する必要はなく、例えば、上部構造体A1と下部構造体A2の相対変位(振動)に伴って発電を行う発電機と、この発電機から電力が供給されて磁力を発生させる電磁石とを備え、
図5及び
図6に示すようにコンクリート部27の中央に電磁石35を埋設するなどし、この電磁石35で発生した磁力を利用して免震建物に作用した地震エネルギーを減衰させるように構成してもよい。この場合には、電磁石35などによって優れた水平変位減衰機能が制震装置9、11に付与されることになる。
【0039】
次に、上記構成からなる本実施形態の免震建物の転倒防止構造B及びこれを備えた免震建物Aの作用及び効果について説明する。
【0040】
地震等で振動エネルギーが作用し、建物Aに横揺れが生じた際には、積層ゴムなどの免震装置1が変形することで、上部構造体A1の固有周期を例えば地震動の卓越周期帯域から長周期側にずらし、応答加速度を小さくして上部構造体A1の揺れが抑えられる。このようにして、従来の免震建物と同様、免震装置1によって優れた免震性能が発揮される。
【0041】
一方、上部構造体A1に振動エネルギーが作用して揺れ(ロッキング)が生じた場合には、免震装置に引抜力が作用することになるが、本実施形態においては、外側転倒防止構造B1の外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8とによって、且つ上部免震装置固定用部材6と内側転倒防止構造B2の内側転倒防止構造本体部10(内側抑え部10c)とによって、上部構造体A1の上下方向T2の変位量(上部構造体A1の揺動量)が規制される。また、外側転倒防止構造B1の外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8とによって、且つ上部免震装置固定用部材6と内側転倒防止構造B2の内側転倒防止構造本体部10(側部10a、10b)とによって、上部構造体A1の水平方向(横方向)T1の変位量が規制される。すなわち、免震建物Aの外周部側に、外側転倒防止構造B1と内側転倒防止構造B2が設けられているため、外側転倒防止構造本体部8によって外側抑え部7が上下方向T2と水平方向T1に変位することが規制され、内側転倒防止構造本体部10の内側抑え部10cや側部10a、10bによって上部免震装置固定用部材6が上下方向T2と水平方向T1に変位することが規制される。このため、上部構造体A1の揺れが小さく抑えられ、免震装置1に作用する引抜力が低く抑えられるとともに、上部構造体A1の転倒防止が図られる。このように本実施形態の外側転倒防止構造B1と内側転倒防止構造B2は変位減衰装置としても兼用でき、経済的である。
【0042】
さらに、このとき、外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8の上下方向T2の隙間H2及び内側抑え部10cと上部免震装置固定用部材6の上下方向T2の隙間H4に、免震装置ではなく制震装置9、11が設置されているため、上部構造体A1に振動エネルギーが作用し、揺れ(ロッキング)が生じるとともに、これら制震装置9、11によって振動エネルギーが減衰される。すなわち、制震装置9、11によって上部構造体A1を上下と水平方向T1、T2に揺動させる振動エネルギーに対して減衰性能が発揮される。これにより、さらに確実に上部構造体A1の揺れが小さく抑えられ、免震装置1に作用する引抜力が低く抑えられるとともに、上部構造体A1の転倒防止が図られることになる。
【0043】
したがって、本実施形態の免震建物の転倒防止構造B及びこれを備えた免震建物Aにおいては、上部構造体A1に振動エネルギーが作用し、揺れが生じた場合に、外側転倒防止構造B1の外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8とによって、且つ上部免震装置固定用部材6と内側転倒防止構造B2の内側転倒防止構造本体部10とによって、上部構造体A1の上下方向T2と水平方向T1の変位量を規制することが可能になる。これにより、ロッキングを許容しつつ上部構造体A1の揺れを小さく抑えることができ、免震装置1に作用する引抜力を低く抑えることが可能になるとともに、上部構造体A1の転倒を防止することが可能になる。
【0044】
すなわち、アスペクト比が大きな搭状建物Aの転倒モーメントを処理して免震装置1の大きな浮き上がりを防止し、免震建物Aの転倒防止を図ることができる。このため、上部構造体A1の各階のせん断変形角を一定値以下に抑えるように上部構造体A1を高剛性、高耐力で構築することを不要にし、安価に免震建物Aを構築することが可能になる(上部構造体A1の耐力を低減し、より安価な免震建物Aを提供することが可能になる)。
【0045】
また、外側転倒防止構造B1とともに内側転倒防止構造B2によって上部構造体A1の転倒防止を図るため、従来の免震建物と比較し、設計の自由度が高くなり、アスペクト比が大きな免震建物Aに対しても外側転倒防止構造B1と内側転倒防止構造B2をバランスよく配置し、従来の免震建物の弱点である転倒モーメントに対する安全性を高めて確実に転倒防止を図ることが可能になる。
【0046】
さらに、外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8の上下方向T2の隙間H2及び内側抑え部10cと上部免震装置固定用部材6の上下方向T2の隙間H4に、免震装置ではなく制震装置9、11が設置されているため、上部構造体A1に振動エネルギーが作用し、揺れが生じるとともにこれら制震装置9、11によって振動エネルギーを減衰させることが可能になる。これにより、振動エネルギーの減衰性能を効果的に付与することが可能になり、さらに確実に転倒防止を図ることが可能になる。
【0047】
以上、本発明に係る免震建物の転倒防止構造及びこれを備えた免震建物の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、外側転倒防止構造B1の外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8の上下方向T2の隙間H2と、内側転倒防止構造B2の内側抑え部10cと上部免震装置固定用部材6の上下方向T2の隙間H4とにそれぞれ制震装置9、11を設けて、転倒防止を図るとともに振動エネルギーの減衰性能を付与するようにした。これに対し、これら隙間H2、H4に制震装置9、11を設けず、上部構造体A1に振動エネルギーが作用して揺れが生じた際に、外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8とによって、且つ上部免震装置固定用部材6と内側転倒防止構造本体部10とによって、上部構造体A1の上下方向T2と水平方向T1の変位量を規制することで、上部構造体Aの揺れを小さく抑えて、転倒防止のみを図るようにしてもよい。
【0048】
また、この場合には、外側転倒防止構造B1と内側転倒防止構造B2によって上部構造体A1のロッキングを許容しつつ転倒防止を図るようにしているため、上部構造体A1の内側に別途制震装置を設置することで、本実施形態と同様に振動エネルギーの減衰性能を効果的に付与することも可能であり、さらに確実に転倒防止を図ることも可能である。
【0049】
さらに、外側転倒防止構造B1の外側抑え部7と外側転倒防止構造本体部8の上下方向T2の隙間H2と、内側転倒防止構造B2の内側抑え部10cと上部免震装置固定用部材6の上下方向T2の隙間H4のどちらか一方に制震装置9、11を設けるようにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、免震建物Aが中間階免震建物であるものとして説明を行ったが、勿論、本発明は基礎免震建物に適用してもよい。そして、基礎免震建物Aに適用する場合には、例えば
図12及び
図13に示すように、上部免震装置固定用部材5の外側抑え部7と基礎底版3(下部構造体A2)に繋がる断面コ字型の外側転倒防止構造本体部8とを備えて外側転倒防止構造B1を構成し、基礎底版3(下部構造体A2)に繋がる内側転倒防止構造本体部10を備えて内側転倒防止構造B2を構成すれば、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0051】
さらに、中間階免震建物Aの場合、
図14及び
図15に示すように、基礎底版3に繋がる4本の柱(側部10d)に梁(内側抑え部10e)を剛接合し、梁10eと上部免震装置固定用部材6との間に隙間H4(制震装置11)を設けて内側転倒防止構造本体部10を形成し、このような内側転倒防止構造本体部10を備えて内側転倒防止構造B2を構成してもよい。この場合においても、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0052】
また、本実施形態では、内側転倒防止構造B2の内側転倒防止構造本体部10が側部10a、10bを下部構造体A2に繋げて設け、上部免震装置固定用部材6と内側抑え部10cの間に隙間H4(制震装置11)を設けて構成されているものとしたが、例えば
図16及び
図17に示すように、上部免震装置固定用部材6に繋げて柱(側部10f)を設け、この柱10fに梁(内側抑え部10g)を剛接合し、梁10gと下部免震装置固定用部材5との間に隙間H4(制震装置11)を設けて内側転倒防止構造本体部10を形成し、このような内側転倒防止構造本体部10を備えて内側転倒防止構造B2を構成してもよい。この場合においても、勿論、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。