【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法は、ガラス原料を溶融することによりガラス融液を得、前記ガラス融液を冷却することにより硼珪酸ガラスを製造する方法に関する。本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物と硝酸塩とを含み、B
2O
3の含有量が18質量%以下であるガラス原料を用いる。
【0010】
このように、本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物と硝酸塩とを含むガラス原料を用いる。このため、泡の残存数が少ない硼珪酸ガラスを製造することができる。その理由としては、以下のような理由が考えられる。すなわち、まず、ガラス溶融中に、ガラス原料に含まれる硝酸塩が分解することにより、酸素ガスが発生する。発生した酸素ガスの一部は、泡内に拡散し、残りの一部は、ガラス融液に溶解する。ここで、酸素ガスのガラス融液に対する溶解性は、比較的高い。このため、発生した酸素ガスの大部分がガラス融液に溶解し、酸素分圧の高い融液を得ることができる。ガラス融液の温度がさらに上昇し、塩化物が揮発し始めることにより、塩化物ガスが発生する。ここで、塩化物ガスは、B
2O
3の含有量が18質量%以下である硼珪酸ガラスの融液に対する溶解性が低い。従って、発生した塩化物ガスの大部分は、泡に拡散し、ごく一部分がガラス融液中に溶解する。これにより、泡における酸素ガスの分圧が低下する。その結果、酸素ガスに関して、平衡状態が崩れ、ガラス融液中に溶解していた酸素ガスが泡中に分散する。従って、泡が成長し、清澄が効率的に進行する。その結果、泡の残存数の少ない硼珪酸ガラスが製造されるものと考えられる。
【0011】
ガラス原料には、Cl換算で、前記塩化物が0.03質量%〜0.5質量%の範囲で外添加されていることが好ましく、0.05質量%〜0.3質量%の範囲で外添加されていることがより好ましい。塩化物の添加量が少なすぎると、十分な清澄効果が得られない場合がある。一方、塩化物の添加量が多すぎると、成形に用いる金型が腐食したり、再加熱時にガラス表面に曇りが発生したりする場合がある。
【0012】
より高い清澄効果を得る観点からは、ガラス融液を、1400℃以上にまで加熱することが好ましい。約1400℃で塩化物の蒸気圧が1気圧を超えるため、泡の清澄が顕著になるためである。但し、ガラス融液が高い粘性を有することを考慮すると、ガラス融液をさらに高い温度にまで加熱することがより好ましい。具体的には、ガラス融液を、1450℃以上にまで加熱することがより好ましく、ガラス融液を、1600℃以上にまで加熱することがさらに好ましい。そうすることにより、塩化物ガスをより効率的に発生させることができるためである。但し、ガラス融液を高い温度にまで加熱しすぎると、ガラス溶融炉の損傷が激しくなったり、製造されるガラスの品位が低下したりする場合があるため、ガラス融液の加熱温度は、1700℃以下であることが好ましい。
【0013】
また、ガラス融液を、ガラス融液中の泡に、50体積%以上の酸素ガスが含まれる温度にまで加熱することが好ましい。そうすることにより、泡の径をより大きくでき、より高い清澄効果を得ることができる。
【0014】
また、本発明の硼珪酸ガラスの製造方法は、溶融後において、β−OH値が0.25mm
−1以上である硼珪酸ガラスの製造に好適に適用される。さらには、本発明の硼珪酸ガラスの製造方法は、溶融後においてβ−OH値が0.30mm
−1以上の硼珪酸ガラスの製造により好適に適用され、β−OH値が0.35mm
−1以上の硼珪酸ガラスの製造にさらに好適に適用され、β−OH値が0.40mm
−1以上の硼珪酸ガラスの製造になお好適に適用される。
【0015】
本明細書における「β−OH値」とは、IR分光分析法により測定されるガラス中のヒドロキシル基の含有量のことである。このβ−OH値を測定することによって、ガラス中の水分量を推定することができる。
【0016】
β−OH値の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
【0017】
(1)得られたガラスの2.7μm〜2.9μmにおける吸収スペクトルを測定する。
【0018】
(2)この範囲の透過率の最小値をT
1とし、また2.5μmでの透過率をT
0とし、測定に用いたガラスの厚みをd(mm)とする。
【0019】
β−OH値は次式により算出される。
【0020】
(β−OH値)=(1/d)・(log
10(T
0/T
1))
【0021】
本発明において、発明者はβ−OH値、すなわちH
2O含有量と、清澄性との関係を以下のように考えている。
【0022】
H
2O含有量の多いガラスほど泡中のH
2O分圧は大きくなり、泡中におけるその他のガス分圧が相対的に低下する。その結果、塩化物ガスや酸素ガスの泡中への拡散が促進され、泡の直径を拡大できる。従って、泡が上昇しやすくなり、高い清澄効果を得ることができると考えられる。
【0023】
なお、本発明において、「硼珪酸ガラス」とは、SiO
2とB
2O
3との含有量の合計が70質量%以上であり、かつ、R
2O(Rは、Li,Na及びKのうちの少なくとも一つ)の含有量が1質量%以上であるガラスをいう。
【0024】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法は、B
2O
3の含有量が18質量%以下である硼珪酸ガラスの製造全般に適用できるものであるが、質量%で、SiO
2:65%〜85%、B
2O
3:8%〜18%及びR
2O:1%〜10%(但し、Rは、Li,Na及びKのうちの少なくとも一つ)を含むガラス原料を用いるときにより好適であり、その中でも、Li
2Oの含有量が0.5質量%以下であるガラス原料を用いるときにさらに好適である。なお、SiO
2の含有量が85質量%を超える場合は、ガラス融液の粘性が高くなりすぎ、清澄が困難となる場合がある。SiO
2のより好ましい含有量は、80質量%以下である。B
2O
3は、塩化物による高い清澄作用を得るために必須の成分であり、8質量%以上含有されていることが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、環境負荷を低減する観点から、As
2O
3及びSb
2O
3を実質的に含まないガラス原料を用いることが好ましい。ここで、本発明においては、As
2O
3及びSb
2O
3を実質的に含まないことには、不純物としてAs
2O
3やSb
2O
3が100ppm以下の割合で含まれていることを含むものとする。
【0026】
本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、塩化物は、特に限定されないが、アルカリ金属の塩化物及びアルカリ土類金属の塩化物のうちの少なくとも一方を塩化物として用いることが好ましい。アルカリ金属の塩化物の具体例としては、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属の塩化物の具体例としては、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0027】
また、本発明に係る硼珪酸ガラスの製造方法では、硝酸塩は、特に限定されないが、アルカリ金属の硝酸塩及びアルカリ土類金属の硝酸塩のうちの少なくとも一方を硝酸塩として用いることが好ましい。アルカリ金属の硝酸塩としては、硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属の硝酸塩の具体例としては、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウムなどが挙げられる。
【0028】
なお、本発明において、ガラス原料には、バッチ、ガラスカレット、及びバッチとガラスカレットとの混合物とが含まれるものとする。