特許第5757232号(P5757232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許5757232硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具
<>
  • 特許5757232-硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757232
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20150709BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20150709BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   C23C16/30
   C23C16/40
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-284553(P2011-284553)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-132717(P2013-132717A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(72)【発明者】
【氏名】素花 章
(72)【発明者】
【氏名】西田 真
(72)【発明者】
【氏名】奥山 貴央
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 陽子
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/071585(WO,A1)
【文献】 特開2007−125686(JP,A)
【文献】 特開平4−300104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14,51/00,
B23C 5/16,
B23P 15/28,
C23C 16/30,14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、チタン化合物層からなる下部層と酸化アルミニウム層からなる上部層を硬質被覆層として蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記酸化アルミニウム層からなる上部層は、(006)面配向係数TC(006)が1.8以上であり、かつ、(104)面のピーク強度I(104)と(110)面のピーク強度I(110)の比I(104)/I(110)が0.5〜2.0であり、さらに、酸化アルミニウム層内の残留応力値の絶対値が100MPa以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。






































【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、高靭性のダクタイル鋳鉄等の難削材の高速切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金で構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Alで示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、このような硬質被覆層を被覆形成した被覆工具が、すぐれた耐摩耗性を示すことも知られている。
【0003】
そして、切削工具に要求される各種の切削性能をさらに高めるために種々の工夫がなされており、例えば、被覆工具の耐変形抵抗性、強靭性、耐摩耗性を高めるために、特許文献1に示すように、工具基体表面に、Ti化合物層とAl層を被覆形成した被覆工具において、Al層の配向係数TCについて、TC(006)を2より大きくし、さらに、二番目に大きい配向係数TC(104)を2>TC(104)>0.5とした被覆工具が提案されている。
しかし、この被覆工具においては、被膜の耐摩耗性は高まるものの、耐チッピング性、耐欠損性が劣るという問題点があった。
【0004】
また、特許文献2に示すように、工具基体表面に、Ti化合物層とAl層を被覆形成した被覆工具において、Al層の配向係数TCについて、TC(104)およびTC(110)を1.2より大きくした被覆工具も提案されている。
さらに、特許文献3に示すように、工具基体表面に、TiCN層とAl層を被覆形成した被覆工具において、TiCN層は引張応力S1を有し、また、Al層は、圧縮応力S2を有するとともに、該引張応力S1と該圧縮応力S2について、
400MPa≦|S2−S1|≦3500MPa
の関係を満足させることにより、靭性と耐摩耗性の両立を図った被覆工具も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−28894号公報
【特許文献2】特開平11−140647号公報
【特許文献3】特表2006−64724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にある。
上記の従来被覆工具は、上部層のAl層の配向係数TCを調整することにより、あるいは、上部層のAl層と下部層のTiCN層の残留応力の関係を規定することにより、高速切削条件下での被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性の向上を図るものであるが、耐チッピング性と耐摩耗性という双方の特性を同時に改善することは難しく、被削材の種類、切削条件等によって、チッピングの発生、耐摩耗性の低下等により、比較的短時間で使用寿命に至るというのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高靭性のダクタイル鋳鉄等の難削材の高速切削加工における被覆工具の硬質被覆層の耐チッピング性と耐摩耗性を同時に改善すべく、硬質被覆層の上部層であるAl層の配向性に着目して、鋭意研究を行ったところ、次のような知見を得た。
【0008】
まず、Al層の配向性について、これを、例えば、(006)配向の様な特定の配向に制御することにより、耐摩耗性の確保は可能であるが、層中に形成される残留応力により耐チッピング性が十分ではない。
そこで、残留応力を除去し、耐チッピング性を高めるために、特許文献3に記載されるように、ブラシ処理、ブラスト処理(サンドブラスト処理、ウェットブラスト処理)、ショットピーニング処理等の各種の表面処理を行うことによってAl層からなる上部層の残留応力除去を試みたところ、Al層の(006)配向性が高い場合には、十分な残留応力緩和効果が得られないため、耐チッピング性の改善も十分とはいえなかった。
つまり、特許文献1に記載されるような(006)配向性が高い従来被覆工具においては、耐摩耗性にすぐれるものの耐チッピング性が十分でなく、そして、耐チッピング性の改善を目的として、硬質被覆層形成後、表面処理を行うことにより残留応力の緩和を図ったとしても、残留応力緩和の効果は少ないため、耐チッピング性は依然として満足できるものではなかった。
しかるに、本発明者らは、Al層からなる上部層について、所定の割合で(006)配向性を有せしめ、所定の耐摩耗性を保持せしめた場合であっても、同時に、(104)配向と(110)配向とを所定の比率となるように調整することにより、硬質被覆層形成後の表面処理による残留応力緩和効果の向上を図ることができ、もって、耐チッピング性を改善し得ることから、このような被覆工具は、耐摩耗性と耐チッピング性の双方に優れた工具特性を備えることを見出したのである。
【0009】
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体の表面に、チタン化合物層からなる下部層と酸化アルミニウム層からなる上部層を硬質被覆層として蒸着形成した表面被覆切削工具において、
上記酸化アルミニウム層からなる上部層は、(006)面配向係数TC(006)が1.8以上であり、かつ、(104)面のピーク強度I(104)と(110)面のピーク強度I(110)の比I(104)/I(110)が0.5〜2.0であり、さらに、酸化アルミニウム層内の残留応力値の絶対値が100MPa以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
【0010】
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について、詳細に説明する。
下部層(Ti化合物層):
下部層のTi化合物層としては、チタンの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層、炭窒酸化物(TiCNO)層の1層または2層以上からなるTi化合物層を用いることができるが、下部層は、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつ。
下部層は、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、チッピングを起し易くなることから、下部層の合計平均層厚は3〜20μmとすることが望ましい。
【0011】
上部層(Al層):
Al層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、例えば、靭性の高いダクタイル鋳鉄等の難削材の高速切削加工においては、被削材と切屑との擦れの発生により、切れ刃稜線近傍には大きなせん断応力が作用し、その結果、切れ刃稜線近傍には亀裂が発生しやすく、この亀裂が進展することによって、チッピングあるいは剥離が発生しやすい。
そこで、この発明では、ダクタイル鋳鉄等の難削材の高速切削加工における耐チッピング性と耐摩耗性の両特性を改善するという観点から、被覆工具の切れ刃稜線部を被覆する上部層は、TC(006)の高い高硬度のAl層で構成するとともに、該Al層内の残留応力の低減を図ることによって、硬質被覆層の耐チッピング性、耐剥離性を向上させた。
具体的には、まず、上部層を構成するAl層について、TC(006)を高めると同時に、(104)面のピーク強度I(104)および(110)面のピーク強度I(110)について、I(104)/I(110)が0.5〜2.0の範囲となる結晶組織構造を備えるAl層を蒸着形成する。
次いで、該Al層に対して、例えば、ウエットブラスト処理を施して層内残留応力を除去すると、Al層のTC(006)が1.8以上と高い場合であっても、I(104)/I(110)が0.5〜2.0であるために、Al層の残留応力値は、絶対値で100MPa以下にまで低減される。
その結果、この発明のAl層からなる上部層は、高硬度を有し耐摩耗性に優れると同時に、層内の残留応力値が小さいため、耐チッピング性、耐剥離性にも優れる。
【0012】
なお、本発明でいう(006)面配向係数TC(006)は、上部層を構成するAl層についてX線回折を行った際の(hkl)面から得られるX線回折のピーク強度値をI(hkl)、JCPDSカードNo.46−1212記載の(hkl)面の標準回折強度をI(hkl)とした場合、


であるとして定義される。ここで、(hkl)は(012)、(104)、(110)、(006)、(113)、(202)、(024)、(116)の8面である。
図1に、一例として、本発明被覆工具 の上部層について測定した、X線回折チャートを示し、また、該チャートにて示される(hkl)面のピーク強度値I(hkl)を示す。
【0013】
上記結晶組織構造を備えるAl層のより具体的な成膜方法を述べれば、例えば、以下のとおりである。
即ち、WC超硬合金からなり、切れ刃部にホーニング加工を施した工具基体に、通常の成膜条件で所定の層厚のTi化合物層からなる下部層を蒸着形成した後、
≪第1段階≫
まず、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成(容量%):AlCl:0.5〜2%、CO:0.1〜1.5%
HCl:0.3〜3%、CO:0.1〜1.5%、
CH:0.5〜2.0%、Ar:20〜35%、
:残り
反応雰囲気温度:950〜1100℃
反応雰囲気圧力:6〜13kPa
の条件で、下部層の表面にAlの核形成を行い、
≪第2段階≫
ついで、同じく通常の化学蒸着装置を用い、
反応ガス組成(容量%):AlCl:1〜5%、CO:0.1〜2%
HCl:0.3〜3%、HS:0.5〜1%
Ar:20〜35%、H:残り
反応雰囲気温度:950〜1100℃
反応雰囲気圧力:6〜13kPa
の条件で、Alの膜成長を行い、
≪第3段階≫
ついで、同じく通常の化学蒸着装置を用い、
反応ガス組成(容量%):AlCl:0.5〜2%、CO:0.1〜1.5%
HCl:4〜7%、HS:0.02〜0.4%
:残り
反応雰囲気温度:950〜1100℃
反応雰囲気圧力:6〜13kPa
の条件で、Alの膜成長を行い、目標層厚のAl層を得る。
上記の3段階からなる成膜によって、本発明の結晶組織構造を備えたAl層、即ち、TC(006)が1.8以上であり、かつ、(104)面のピーク強度I(104)と(110)面のピーク強度I(110)の比I(104)/I(110)が0.5〜2.0であるAl層からなる上部層を蒸着形成することができる。
【0014】
ついで、上記で得た本発明の結晶組織構造を備えたAl層からなる上部層の表面に、例えば、ウエットブラスト処理を施すことにより、上部層内の残留応力を低減させる。
具体的なウエットブラスト処理条件としては、例えば、噴射研磨材として、水との合量に占める割合で、15〜60質量%のAl微粒を配合した研磨液を、0.05〜0.30MPaのブラスト圧力で工具表面全域に噴射するものである。
本発明のAl層は、TC(006)が1.8以上と高いにもかかわらず、I(104)/I(110)が0.5〜2.0であるために、残留応力の緩和が効果的に行われ、残留応力値の絶対値が100MPa以下にまで低減され、その結果、耐チッピング性、耐剥離性に優れた硬質被覆層が形成される。
【0015】
本発明のAl層は、TC(006)が1.8未満になると、硬度が低下するため、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することができないことから、TC(006)は1.8以上と定めた。TC(006)の上限については特に制限はないが、所定の高硬度を得るためには、TC(006)は1.8以上3.0以下の範囲であれば十分である。
また、I(104)/I(110)の値については、この値が0.5未満、または、2.0を超えると、表面処理による残留応力緩和効果が得られなくなることからI(104)/I(110)の値は、0.5〜2.0と定めた。
また、残留応力値の絶対値については、100MPaより大きいと耐チッピング性の向上が見られないという理由から100MPa以下と定めた。
【0016】
上記本発明のAl層からなる上部層は、上記の3段階からなる成膜によって、工具全表面(すくい面、逃げ面、切刃)に蒸着形成することができるが、必ずしも工具全表面に形成する必要はなく、切刃稜線部を含むすくい面にのみ、あるいは、切刃稜線部を含む逃げ面にのみ、本発明の結晶組織構造を備えたAl層を蒸着形成することも勿論可能である。
なお、本発明の結晶組織構造を備えたAl層は、その層厚が2μm未満では、所望の耐摩耗性を長期にわたって発揮することができず、一方、その層厚が 15μmを超えると、チッピングが発生しやすくなることから、その層厚は2〜15μmとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明の被覆工具は、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を備え、上部層のAl層は、すぐれた高温硬さを有し、さらに、Al層内の残留応力の低減が図られているため、高熱発生を伴う高速切削条件において使用した場合でも、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性と耐チッピング性、耐剥離性を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明被覆工具の上部層について測定した、X線回折チャートとともに、(hkl)面の位置及びピーク強度値I(hkl)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A,Bを製造した。
【0021】
つぎに、これらの工具基体A,Bの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、表2に示される条件で、表3に示されるTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、上記Ti化合物層の表面に、表4に示される3段階の条件でAl層を蒸着形成し、
ついで、表5に示される条件で、切刃稜線部を含むすくい面、逃げ面、あるいは、すくい面及び逃げ面にウエットブラスト処理を施すことにより、
表6に示す本発明被覆工具1〜10を製造した。
【0022】
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、表2に示される条件で、表3に示されるTi化合物層を蒸着形成し、
ついで、表7に示される条件で、Al層を蒸着形成し、ついで、表5に示される条件で、ウエットブラスト処理を施すことにより、表8に示す比較被覆工具1〜10を製造した。
【0023】
上記本発明被覆工具および比較被覆工具のすくい面、逃げ面および切れ刃稜線部における、Ti化合物層、Al層の層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて測定するとともに、Al層についてはX線回折を行い、(012),(104),(110),(006),(113),(202),(024),(116)の各面からのX線回折ピーク強度を測定することにより、TC(006)を求め、さらに、(104)および(110)それぞれのピーク強度I(104)、I(110)の値から、ピーク強度比I(104)/I(110)を求めた。
表6、表8にこれらの値を示す。
【0024】
また、上記本発明被覆工具および比較被覆工具のAl層について、sinΨ法を用い、X線回折装置によって残留応力の値を測定した。測定にはαAlの(13_10)面の回折ピークを用い、ヤング率として384GPa、ポアソン比として0.232を使用して計算を実施した。
表6、表8にこれらの値を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
【表8】

【0033】
つぎに、上記本発明被覆工具および比較被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:ダクタイル鋳鉄の丸棒、
切削速度: 350m/min、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.3mm/rev、
切削時間: 10分、
の条件で乾式高速切削試験(通常の切削速度は、200m/min)を行い、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表9に示した。
【0034】
【表9】

【0035】
表6、8、9に示される結果から、本発明被覆工具1〜10は、硬質被覆層の上部層が、TC(006)が1.8以上、かつ、ピーク強度比I(104)/I(110)が0.5〜2.0であり、さらに、上部層内の残留応力値の絶対値が100MPa以下であるAl層で構成されていることから、高靭性のダクタイル鋳鉄の高速切削加工において、切れ刃稜線部にチッピング、欠損等の異常損傷の発生を招くこともなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すことがわかる。
これに対して比較被覆工具1〜10は、Al層中の引張応力が十分に緩和されていないため、切刃部にチッピング、欠損等が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述のように、この発明の被覆工具は、高靭性のダクタイル鋳鉄等の難削材の高速切削加工においてすぐれた耐チッピング性とともにすぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。








図1