【実施例】
【0017】
図1〜
図6を参照して、実施例を説明する。ボールミル法で製造した鉛粉に、Sb
2O
3及びSnSO
4と補強剤の合成樹脂繊維とを加えて水と硫酸とにより混練し、正極活物質ペーストとした。また混練時の水と硫酸の量を調整し、正極活物質ペーストの密度を変化させた。鉛粉はバートン法等で製造したものでも良く、また鉛粉中の鉛丹含有率等は任意である。Sb
2O
3の代わりにSb
2(SO
4)
3等の適宜のSb化合物を添加しても良く、同様にSnSO
4の代わりにSnO
2等の適宜のSn化合物を添加しても良い。さらに鉛粉原料の金属Pbに、例えばPbとSb,Snの合金を混合しても良い。
【0018】
一面にPb-Sb合金箔(厚さ20μm、Sb5mass%含有,残余はPb)を積層したPb-Ca系正極格子(Pb-Sb合金箔を除く部分の組成はCa 0.07mass%,Sn 1.5mass%含有,残余はPbで、ロータリーエキスパンド加工で製造)に、前記の正極活物質ペーストを充填し、50℃で熟成と乾燥とを施し、未化成の正極板とした。なおPb-Sb合金箔は正極格子の両面に積層しても良い。Pb-Sb合金箔を正極格子の少なくとも一面に積層することにより、正極活物質と正極格子との密着性を高め、これによって正極活物質の軟化を抑制できる。ただしPb-Sb合金箔を積層しなくても良い。
【0019】
化成済みの正極活物質の組成は以下の範囲とした。金属換算でSbが0〜0.5mass%、金属換算でSnが0〜2mass%、合成樹脂繊維が0.1mass%、残余が二酸化鉛PbO
2を主成分とする鉛酸化物で、密度は4.2〜5g/cm
3である。化成済みの正極活物質の質量は、化成済みの正極板から活物質を取り出し、水洗と乾燥とを施した際の質量である。正極活物質の一部が硫酸鉛に変化している場合、充電によりPbO
2に戻して、正極活物質の質量を測定する。Sb及びSnの含有量は発光分光分析等により元素分析できる。正極活物質の密度は格子に充填されていても格子から取り出してもほとんど変わらないので、例えば極板から取り出し水洗と乾燥を施した正極活物質の嵩密度を、たとえば水銀圧入法による細孔分布等によって測定すればよい。なお、水銀圧入法とは、圧力を加えることで、大きい細孔から小さい細孔にまで水銀が圧入されていく現象を利用したものである。正極活物質はSb、Sn及び合成樹脂繊維以外の不純物あるいは添加物を含んでいても良いが、それらの量は合計で例えば1mass%以下とする。また鉛の不純物としてBiが混入していることがあるが、本願発明ではBiの作用を利用しないので、正極活物質中のBi含有量は例えば0.01mass%未満とする。
【0020】
ボールミル法で製造した鉛粉に、ケッチェンブラックあるいはアセチレンブラック等のカーボンブラックと、BaSO
4と補強剤の合成樹脂繊維とリグニンスルホン酸とを含有させ、水と硫酸とにより混練して、負極活物質ペーストとした。負極活物質ペーストをPb-Ca系負極格子(Ca 0.05mass%,Sn 0.5mass%含有,残余はPbで、ロータリーエキスパンド加工で製造)に充填し、50℃で熟成と乾燥とを施し、未化成の負極板とした。化成済みの負極活物質の組成は、海綿状鉛100mass%に対し、カーボンブラックが0.3mass%、BaSO
4が0.5mass%、合成樹脂繊維が0.1mass%、リグニンスルホン酸が0.15mass%である。カーボンブラックは負極活物質のサルフェーションの防止用で、添加量は海綿状鉛100mass%に対し
0.2mass%以上1mass%以下である。またBaSO
4,合成樹脂繊維,リグニンスルホン酸の量は任意である。
【0021】
負極板を微細な気孔を備えたポリエチレンセパレータで包み、負極板8枚と正極板7枚とを交互に積層して極板群とし、6個の極板群をポリプロピレンの電槽にセットし、電解液を注いで液式鉛蓄電池(以下単に鉛蓄電池)とした。なお電解液中に極板群が浸され、電解液は流動性がある。電解液は20℃で比重が1.285の硫酸で、Al
3+イオンをAl
2(SO
4)
3として0.1mol/L含有させたが、他に低温高率放電性能等を改善するためLi
+イオンをLi
2SO
4として0.1mol/L程度含有させても良い。電解液はNa
+イオン、負極活物質から溶出したリグニン、等の他の成分を含んでいても良い。化成は電槽化成により行い、正極活物質の理論容量の例えば200%の電気量で行った。
【0022】
正極活物質の密度とSb含有量、及びSn含有量とを異ならせた鉛蓄電池を各3個ずつ用い、初期容量として5時間率容量(JIS D 5301 9.5.2b))を測定した。次いで
図4に示す条件の耐久試験を行った。
図4の耐久試験は、
図5に示す電池工業会規格によるアイドリングストップ寿命試験(SBA S 0101の9.4.5)を、1サイクル当たりの充電時間を60秒から30秒へ短縮し、100サイクル毎に14.5Vで20分の補充電を行うように、変更したものである。そして放電時の電圧が7.2V未満となると寿命とし、寿命に到るまでのサイクル数を測定した。また耐久試験の途中で電解液の上部の密度を測定し、電解液の成層化の程度を評価した。ここで言う成層化とは、硫酸が電解液の下部に沈降して、電解液の上部と下部とで硫酸濃度が異なるようになる現象である。また寿命に到った蓄電池を解体し、正極活物質の状態から正極活物質の軟化の程度を、負極活物質中の硫酸鉛量からサルフェーションの程度を、それぞれ5段階で評価した。寿命の原因は全てが正極活物質の軟化によるものであった。
【0023】
図1〜
図3に結果を相対値で示し、結果は各3個の鉛蓄電池の平均値である。なお
図1では正極活物質はSb濃度が0.1mass%、Sn濃度が0.25mass%で、
図2では正極活物質はSn濃度が0.25mass%で、化成済みの段階で密度が4.6g/cm
3である。
図3では正極活物質はSb濃度が0.1mass%で、化成済みの段階で密度が4.6g/cm
3である。
【0024】
図1から明らかなように、既化成の正極活物質密度が増すと、
図4の耐久試験での寿命が増し、この一方で5時間率容量が低下した。また正極活物質密度が4.4g/cm
3以上4.8g/cm
3以下の範囲では、寿命も5時間率容量も正極活物質の密度に対して緩やかに変化した。密度が4.8g/cm
3を越えると容量が急激に低下し、密度が4.4g/cm
3未満では寿命が急激に減少した。容量と寿命とを兼ね備えている密度は、4.4g/cm
3以上4.8g/cm
3以下である。試験後に蓄電池を解体すると、寿命の原因は正極活物質の軟化で、正極活物質の密度が高いほど軟化が遅いことが判明した。
【0025】
図2から明らかなように、寿命は正極活物質中のSbの存在により急激に立ち上がり、正極活物質中のSb濃度が0.01mass%以上で効果があり、0.03mass%では大きな効果があり、0.15mass%で効果は飽和し、0.3mass%を越えると寿命は僅かに低下した。この一方で、電解液の減液量はSb濃度が0.3mass%まではSb濃度と共に緩やかに増加し、0.3mass%を越えると急増した。これらのことからSb濃度は0.03mass%以上0.3mass%以下が好ましく、0.05mass%以上0.2mass%以下が特に好ましいことが分かった。耐久試験中の電解液の密度については、Sb濃度が0mass%及び0.01mass%では成層化が著しく、0.03mass%以上で成層化が抑制され、Sb濃度を0.3mass%以上に増しても、それ以上に成層化を抑制することはできなかった。また耐久試験後に蓄電池を解体すると、寿命の原因は正極の軟化であることが判明し、Sb濃度を0.03mass%以上に、好ましくは0.05mass%以上にすると、軟化が抑制されていた。軟化が進行している場合、正極板の上部で軟化が著しかった。
【0026】
正極活物質中のSbは、正極活物質と正極格子との密着性を高めて、軟化を抑制する作用がある。また正極活物質中のSbは、一部が負極側へ移動して充電時にH
2ガス等を発生させ、電解液の成層化を抑制する作用がある。なお実施例では、正極活物質に0.1mass%程度のSbを含有させると、充電時の充電状態が90%程度になるとH
2ガスの発生が始まった。電解液が成層化すると、極板の上部で電解液の硫酸濃度が低下するので、大電流での放電が難しくなる。この状態で充放電を繰り返すと、特に極板の上部で正極活物質の軟化が進行しやすくなる。そこでSbを正極活物質に含有させ、H
2ガス等を発生させることで、電解液の成層化が抑制され、寿命性能が向上した。
【0027】
実施例の蓄電池は充電不足の状態で動作させるため、従来に比べ減液しやすい蓄電池でも良い。このためSb濃度を増すことにより、電解液の成層化と正極活物質の軟化とを防止することができた。
【0028】
アイドリングストップ車用の鉛蓄電池では、負極活物質のサルフェーションにより寿命に達することが知られている。しかし実施例では、電解液にAl
3+イオンを含有させ、負極活物質にカーボンブラックを含有させることによりサルフェーションを抑制したので、サルフェーションではなく、正極活物質の軟化により寿命に達した。
【0029】
図3に示すように、正極活物質中のSnにより5時間率容量が増加した。
図1に示したように、正極活物質の密度を増すと5時間率容量が低下するが、Snを正極活物質に含有させることにより、5時間率容量を許容範囲内に保つことができた。Snを正極活物質中に1mass%を越えて含有させると減液量が著しく増加し、0.05mass%未満では効果が僅かであることから、正極活物質中のSn含有量は0.05mass%以上1mass%以下、特に0.1mass%以上1mass%以下が好ましい。なおSbとSnとを同じ濃度で正極活物質に含有させた場合、減液量はSbを含有させた場合の方が著しかった。
【0030】
以上のように実施例では、
・ 正極活物質の密度を増すことにより軟化を抑制し、
・ 正極活物質に含有させたSbにより正極活物質と格子との密着性を増し、また負極へ移動したSbによりH
2ガス等を発生させて電解液の成層化を抑制する。
・ さらに正極活物質に含有させたSnにより容量を増加させて、正極活物質の密度を増したことによる容量の低下を補う。
そして上記の機構を組み合わせることにより、容量を従来の鉛蓄電池と同等に保ったままで、充電不足の状態で使用される鉛蓄電池の耐久性を向上させる。
【0031】
図6に、実施例の鉛蓄電池2を組み込んだ電池システムを示す。6は自動車のエンジンで、8はオールタネータ、4は鉛蓄電池の制御装置である。10は、点火装置、スタータモータ、その他の電装品等の負荷である。12は主制御部で、エンジン6とオールタネータ8とを制御し、制御装置4へ鉛蓄電池を充電するか放電するかを指令し、制御装置4は、鉛蓄電池2の残容量が低下したことを端子電圧等により検出し、主制御部2へオールタネータ8を動作させることを要求する。制御装置4と鉛蓄電池2及び負荷10で、電池システムを構成する。
【0032】
図6の電池システムを組み込んだアイドリングストップ車では、停車時と加速時及び定速走行時にオールタネータ8による鉛蓄電池2への充電を停止させて、負荷10を鉛蓄電池2の電力で駆動する。そして減速時にオールタネータ8を動作させて、負荷10を動作させると共に鉛蓄電池2を充電する。また鉛蓄電池2の残容量が低下すると、例えば定速走行時にもオールタネータを動作させ、鉛蓄電池2を充電する。
図4の試験条件は、
図6の電池システムの動作を模したもので、実施例ではこのような電池システムでも使用できる鉛蓄電池が得られる。