(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、銅または銅合金からなるCu配線膜をエッチングによってパターニングする場合には、塩化鉄を含むエッチング液が使用される。上述のNi−Cu−(Cr,Ti)合金からなる保護膜を有する積層膜を、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合には、保護膜の一部が未溶解となって残渣として残存することがあった。この残渣により、配線間が短絡するおそれがあることから、配線膜として使用することが困難であった。
【0006】
また、Crを含有した場合には、エッチング後の廃液にCrが含有されることになり、廃液処理にコストが掛かるといった問題があった。
さらに、比較的高価なNiを35mass%以上84.5mass%以下と多く含有していることから、スパッタリングターゲットおよび積層配線膜の製造コストが増加するといった問題があった。
【0007】
また、スパッタリングターゲットは、例えば鋳造、熱間圧延の工程を経て製造されているが、熱間圧延時に割れが生じると、割れの部分で異常放電が発生するためにスパッタリングターゲットとして使用することができなくなる。最近では、配線膜を形成するガラス基板の大型化が進んでおり、これに伴って、スパッタリングターゲット自体も大型化する傾向にある。ここで、大型のスパッタリングターゲットを製造する際に、熱間圧延材の一部に割れが生じると、所定サイズのスパッタリングターゲットを得ることができなくなってしまう。よって、大型のスパッタリングターゲットを効率良く生産するためには、優れた熱間圧延性が必要となる。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、耐候性に優れ表面変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有する保護膜を成膜可能であり、さらに熱間加工性に優れた銅合金からなる保護膜形成用スパッタリングターゲット、および、この保護膜形成用スパッタリングターゲットによって成膜された保護膜を備えた積層配線膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の保護膜形成用スパッタリングターゲットは、Cu配線膜の片面または両面に保護膜を成膜する際に使用される保護膜形成用スパッタリングターゲットであって、Ni、又はNi及びAlを合計で5mass%以上15mass%以下(但し、Niを0.5mass%以上含む)含有するとともに、Mnを0.1mass%以上5.0mass%以下、Feを0.5mass%以上7.0mass%以下、含有し、残部がCuと不可避不純物とからなることを特徴としている。
【0010】
このような構成とされた本発明の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、Ni、又はNi及びAlを合計で5mass%以上15mass%以下(但し、Niを0.5mass%以上含む)含有するとともに、Mnを0.1mass%以上5.0mass%以下、Feを0.5mass%以上7.0mass%以下、含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる組成を有しており、Cu基合金とされていることから、成膜した保護膜を、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合であっても、Cu配線膜と同等にエッチングされることになり、未溶解の残渣の発生を抑制することが可能となる。
さらに、Crを有していないことから、エッチング後の廃液処理を低コストで行うことができる。
【0011】
また、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計が15mass%以下と比較的少ないことから、このスパッタリングターゲットおよび保護膜の製造コストを大幅に削減することができる。また、熱間加工性、被削性を確保することができる。
さらに、Niの含有量が0.5mass%以上とされていることから、熱間圧延性を向上させることができ、熱間圧延時の割れの発生を抑制することができる。
なお、Alは、Niの一部を代替するために選択的に添加される元素であり、Niの含有量に応じて適宜添加すればよい。すなわち、Niの含有量が5mass%以上の場合にはAlを必ずしも添加しなくてもよく、Alの含有量とNiの含有量の合計が5mass%以上15mass%以下の範囲内となるように、必要に応じてAlを添加すればよい。
【0012】
本発明の積層配線膜は、Cu配線膜と、このCu配線膜の片面または両面に形成された保護膜と、を備えた積層配線膜であって、前記保護膜が、上述の保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いて成膜されていることを特徴としている。
【0013】
このような構成とされた本発明の積層配線膜においては、上述の組成とされた保護膜形成用スパッタリングターゲットによって成膜された保護膜を有しているので、耐候性が向上し、大気中に保管した場合であっても、変色を抑制することができる。
また、保護膜がCu基合金で構成されることになるため、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合であっても未溶解の残渣の発生を抑制することが可能となる。
さらに、Crを有していないことから、エッチング後の廃液処理を低コストで行うことができる。さらに、Niの含有量が最大でも15mass%以下と比較的少ないことから、積層配線膜の製造コストを大幅に削減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、耐候性に優れ表面変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有する保護膜を成膜可能であり、さらに熱間加工性に優れた銅合金からなる保護膜形成用スパッタリングターゲット、および、この保護膜形成用スパッタリングターゲットによって成膜された保護膜を備えた積層配線膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲット、および、積層配線膜について説明する。
【0017】
本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットは、銅または銅合金からなるCu配線膜の上に保護膜を成膜する際に使用されるものである。
この保護膜形成用スパッタリングターゲットは、Ni、又はNi及びAlを合計で5mass%以上15mass%以下(但し、Niを0.5mass%以上含む)含有するとともに、Mnを0.1mass%以上5.0mass%以下、Feを0.5mass%以上7.0mass%以下、含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる組成を有している。
なお、この保護膜形成用スパッタリングターゲットは、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、熱処理、機械加工といった工程を経て製造される。
【0018】
以下に、本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットの組成を上述のように規定した理由について説明する。
【0019】
(Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計:5mass%以上15mass%以下)
Niは、Cuの耐候性を改善する作用効果を有する元素である。Niを含有することにより、成膜した保護膜の変色を抑制することが可能となる。
Alは、Niと同様にCuの耐候性を改善する作用効果を有する元素である。Niの一部の代替としてAlを添加しても、成膜した保護膜の変色を抑制することが可能となる。なお、Alは、Niに比べて安価な元素であることから、Niの代替として添加することでコストの削減を図ることができるため、必要に応じて添加することができる。
ここで、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計が5mass%未満の場合には、耐候性が十分に向上せず、成膜した保護膜の変色を十分に抑制できないおそれがある。一方、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計が15mass%を超える場合には、エッチング性が劣化し、塩化鉄を含有するエッチング液でエッチングした際に未溶解の残渣が生成するおそれがある。また、熱間加工性、被削性も低下することになる。
このような理由から、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計を、0.5mass%以上15mass%以下の範囲内に設定している。
【0020】
(Ni:0.5mass%以上)
Niを適量添加することにより、熱間加工性が向上することになる。
ここで、Niの含有量が0.5mass%未満の場合には、熱間加工性が十分に向上せず、熱間圧延時に割れが生じ、大型のスパッタリングターゲットの製造が困難となるおそれがある。
このような理由から、Niの含有量を、0.5mass%以上に設定している。
【0021】
(Mn:0.1mass%以上5.0mass%以下)
Mnは、溶湯の流動性を改善することによって熱間加工性を向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Mnの含有量が0.1mass%未満の場合には、溶湯の流動性が十分に向上せず、熱間圧延時に割れが発生し、大型のスパッタリングターゲットを歩留良く製造できないおそれがある。一方、Mnの含有量が5.0mass%を超えた場合には、エッチング性が劣化し、塩化鉄を含有するエッチング液でエッチングした際に未溶解の残渣が生成するおそれがある。
このような理由から、Mnの含有量を、0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内に設定している。
【0022】
(Fe:0.5mass%以上7.0mass%以下)
Feは、金属組織を微細化することによって熱間加工性を向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Feの含有量が0.5mass%未満の場合には、金属組織微細化による熱間加工性の向上が不十分となり、熱間圧延時に割れが発生し、大型のスパッタリングターゲットを歩留良く製造できないおそれがある。一方、Feの含有量が7.0mass%を超えた場合には、熱間加工性、耐候性が劣化するおそれがある。
このような理由から、Feの含有量を、0.5mass%以上7.0mass%以下の範囲内に設定している。
【0023】
次に、本実施形態である積層配線膜10について説明する。
本実施形態である積層配線膜10は、
図1に示すように、基板1の上に成膜されたCu配線膜11と、Cu配線膜11の上に成膜された保護膜12と、を備えている。
ここで、基板1は、特に限定されるものではないが、フラットパネルディスプレイやタッチパネル等においては、光を透過可能なガラス、樹脂フィルム等からなるものが用いられている。
【0024】
Cu配線膜11は、銅または銅合金で構成されており、その比抵抗が4.0μΩcm以下(温度25℃)とされていることが好ましい。本実施形態では、Cu配線膜11は、純度99.99mass%以上の無酸素銅で構成されており、比抵抗が3.5μΩcm以下(温度25℃)とされている。なお、このCu配線膜11は、純度99.99mass%以上の無酸素銅からなるスパッタリングターゲットを用いて成膜されている。
また、このCu配線膜11の厚さAは、50nm≦A≦800nmの範囲内とすることが好ましく、さらには、100nm≦A≦300nmの範囲内とすることが好ましい。
【0025】
保護膜12は、本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いて成膜されたものであり、上述した保護膜形成用スパッタリングターゲットと同様の組成を有している。
この保護膜12の厚さBは、5nm≦B≦100nmの範囲内とすることが好ましく、さらには、10nm≦B≦50nmの範囲内とすることが好ましい。
また、Cu配線膜11の厚さAと保護膜12の厚さBとの比B/Aは、0.02<B/A<1.0の範囲内であることが好ましく、さらには、0.1<B/A<0.3の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
以上のような構成とされた本実施形態である保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層配線膜10においては、上述のように、Ni、又はNi及びAlを合計で5mass%以上15mass%以下(但し、Niを0.5mass%以上含む)含有するとともに、Mnを0.1mass%以上5.0mass%以下、Feを0.5mass%以上7.0mass%以下、含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる組成を有しており、Cu基合金とされていることから、塩化鉄を含むエッチング液でエッチングした場合であっても、良好にエッチングさせることになり、未溶解の残渣の発生を抑制することが可能となる。
【0027】
また、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび保護膜12が、Ni及びAlを、上述の範囲で含有しているので、耐候性が向上し、積層配線膜10の表面変色を確実に抑制することができる。
さらに、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび保護膜12が、Crを有していないことから、エッチング後の廃液処理を低コストで行うことができる。
【0028】
また、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計が15mass%以下とされ、Niの含有量が最大でも15mass%以下と比較的少なくされていることから、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層配線膜10の製造コストを大幅に削減することができる。さらに、Niの一部の代替としてAlを添加した場合には、Niの含有量をさらに低減することができ、保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層配線膜10の製造コストをさらに削減することが可能となる。
さらに、Niの含有量又はNiの含有量とAlの含有量の合計が15mass%以下とされていることから、熱間加工性、被削性を確保することができる。
【0029】
また、Niの含有量が0.5mass%以上とされているので、熱間加工性を十分に向上させることができる。
さらに、Mnを0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内で含有しているので、鋳造時の湯流れ性の向上により熱間加工性を向上させることができる。
また、Feを0.5mass%以上7.0mass%以下の範囲内で含有しているので、金属組織が十分に微細化されることになり、熱間加工性を向上させることができる。
このように、熱間加工性が十分に向上されているので、熱間圧延時の割れの発生を抑制でき、大型のスパッタリングターゲットを歩留良く製造することができる。
【0030】
また、本実施形態では、Cu配線膜11は、比抵抗が3.5μΩcm以下(温度25℃)の無酸素銅で構成され、Cu配線膜11の厚さAが50nm≦A≦800nmの範囲内とされているので、このCu配線膜11によって通電を良好に行うことができる。
さらに、本実施形態では、保護膜12の厚さBが5nm≦B≦100nmの範囲内とされており、Cu配線膜11の厚さAと保護膜12の厚さBとの比B/Aが、0.02<B/A<1.0の範囲内とされているので、Cu配線膜11の変色を確実に抑制することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、基板の上に積層配線膜を形成した構造を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、基板の上にITO膜、AZO膜等の透明導電膜を形成し、その上に積層配線膜を形成してもよい。
【0032】
また、Cu配線膜を、純度99.99mass%以上の無酸素銅で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばタフピッチ銅等の純銅や少量の添加元素を含有する銅合金で構成したものであってもよい。
さらに、Cu配線膜の厚さA、保護膜の厚さB、厚さ比B/Aは、本実施形態に記載されたものに限定されるものではなく、他の構成とされていてもよい。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明に係る保護膜形成用スパッタリングターゲットおよび積層配線膜の作用効果について評価した評価試験の結果について説明する。
【0034】
<Cu配線膜形成用純銅ターゲット>
純度99.99mass%の無酸素銅の鋳塊を準備し、この鋳塊に対して熱間圧延、歪取焼鈍、機械加工を行い、外径:100mm×厚さ:5mmの寸法を有するCu配線膜形成用純銅ターゲットを作製した。
次に、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに前述のCu配線膜形成用純銅ターゲットを重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることによりバッキングプレート付きターゲットを作製した。
【0035】
<保護膜形成用スパッタリングターゲット>
溶解原料として、無酸素銅(純度99.99mass%以上)、低カーボンニッケル(純度99.9mass%以上)、電解金属マンガン(純度99.9mass%以上)、電解鉄(純度99.95mass%以上)を準備し、これらの溶解原料を高純度グラファイトるつぼ内で高周波溶解し、表1に示される組成を有する溶湯に成分を調整した後、冷却されたカーボン鋳型に鋳造し、50mm×50mm×30mm厚の大きさの鋳塊を得た。
次いで、鋳塊に対して、温度750〜850℃、圧下率約10%で15mm厚まで熱間圧延した。熱間圧延後、表面の酸化物や疵を面削で除去し、さらに圧下率10%で冷間圧延して10mm厚まで圧延し、歪取焼鈍した。得られた圧延板の表面を機械加工して、外形:100mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明例1〜9および比較例1〜9の保護膜形成用スパッタリングターゲットを作製した。さらに、従来例1として、Ni:64mass%、Ti:4mass%、残部がCuおよび不可避不純物からなるスパッタリングターゲットを準備した。
次に、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに得られた保護膜形成用スパッタリングターゲットを重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることによりバッキングプレート付きターゲットを作製した。
ここで、本発明例1〜9および比較例1〜9の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れの有無を確認した。結果を表1に併せて示す。
【0036】
<積層配線膜>
Cu配線膜形成用純銅ターゲットをガラス基板(縦:20mm、横:20mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス基板)との距離が70mmとなるようにスパッタ装置内にセットし、電源:直流方式、スパッタパワー:150W、到達真空度:5×10
−5Pa、雰囲気ガス組成:純Ar、スパッタガス圧:0.67Pa、基板加熱:なし、の条件でスパッタリングを実施し、ガラス基板の表面に、厚さ:150nmを有するCu配線膜を形成した
これに引き続き、同条件で、表1に記載した保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを実施し、Cu配線膜の上に、厚さ:30nmの保護膜を形成した。これにより、表2に示される本発明例11〜19および比較例11〜19の積層配線膜を形成した。
なお、従来例11として、上述した従来例1のスパッタリングターゲットを用いて、Cu配線膜の上に保護膜を成膜した積層配線膜を作製した。
【0037】
<密着性>
JIS−K5400に準じ、1mm間隔で積層配線膜に碁盤目状に切れ目を入れた後、3M社製スコッチテープで引き剥がし、ガラス基板中央部の10mm角内でガラス基板に付着していた積層配線膜の面積%を測定する碁盤目付着試験を実施した。評価結果を表2に示す。
【0038】
<耐候性>
恒温恒湿試験(60℃、相対湿度90%で250時間暴露)を行い、ガラス基板の裏面(積層配線膜を形成していない面)側から目視で観察し、Cu配線膜の変色の有無を確認した。なお、黒色の点が発生しているものを変色と判断した。変色が認められたものを「NG」、変色が確認できなかったものを「OK」とした。評価結果を表2に示す。
【0039】
<エッチング残渣>
ガラス基板上に成膜した積層配線膜に、フォトレジスト液(東京応化工業株式会社製:OFPR−8600LB)を塗布、感光、現像して、30μmのラインアンドスペースでレジスト膜形成し、液温30℃±1℃に保持した4%FeCl
3水溶液に浸漬して積層配線膜をエッチングして配線を形成した。
この配線の断面を、Arイオンビームを用い、遮蔽板から露出した試料に対して垂直にビームを当て、イオンエッチングを行い、得られた断面を二次電子顕微鏡で観察し、エッチング残渣の有無を調べた。エッチング残渣の観察結果の一例を
図2に示す。ここで、残渣の長さLが300nm以上のものを×、残渣の長さLが300nm未満のものを○として評価した。評価結果を表2に示す。
【0040】
<エッチングレート>
保護膜形成用スパッタリングターゲットを用いて前述と同じ条件スパッタリングを実施し、前述のガラス基板上に、厚さ:150nmの保護膜を形成した。この保護膜単層のみを成膜したガラス基板を、液温30℃±1℃に保持した4%FeCl
3水溶液に浸漬して保護膜をエッチングし、目視観察により保護膜がなくなるまでの時間を測定してエッチングレートを求めた。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
Niの含有量とAlの含有量の合計が5mass%未満とされた比較例1、7の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例11、17の積層配線膜においては、恒温恒湿試験で変色が認められており、耐候性が不十分であった。
Niの含有量が本発明例よりも多い比較例2の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。また、この比較例2の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例12の積層配線膜においては、エッチング後に残渣が残存していた。
【0044】
Mnの含有量が本発明例よりも少ない比較例3の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。
Mnの含有量が本発明例よりも多い比較例4の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例14の積層配線膜においては、エッチング後に残渣が残存していた。
【0045】
Feの含有量が本発明例よりも少ない比較例5の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。
Feの含有量が本発明例よりも多い比較例6の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例16の積層配線膜においては、恒温恒湿試験で変色が認められており、耐候性が不十分であった。
【0046】
Niの含有量とAlの含有量の合計が15mass%を超えた比較例8の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。また、この比較例8の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された比較例18の積層配線膜においては、エッチング後に残渣が残存していた。
Niを添加せずにAlを15mass%含有した比較例9の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間圧延時に割れが確認された。
【0047】
さらに、Ni:64mass%、Ti:4mass%、残部がCuおよび不可避不純物からなる従来例1のスパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された従来例11の積層配線膜においては、エッチング後に残渣が残存していた。また、エッチングレートが遅く、エッチング性に劣っていた。
【0048】
これに対して、Ni、Mn、Fe、Alの含有量が本発明の範囲内とされた本発明例1〜9の保護膜形成用スパッタリングターゲットにおいては、熱間加工時に割れは確認されておらず、良好に保護膜形成用スパッタリングターゲットを製造することができた。
さらに、本発明例1〜9の保護膜形成用スパッタリングターゲットによって保護膜が成膜された本発明例11〜19の積層配線膜においては、密着性、耐候性、エッチング性に優れていた。
【0049】
以上のことから、本発明例によれば、耐候性に優れ表面変色を抑制でき、かつ、良好なエッチング性を有する保護膜を成膜可能であり、さらに熱間加工性に優れ、割れ等のなく異常放電を抑制できる保護膜形成用スパッタリングターゲット、および、この保護膜形成用スパッタリングターゲットによって成膜された保護膜を備えた積層配線膜を提供できることが確認された。