【文献】
森園靖浩,西田稔,千葉昴,中田隆司,窒化アルミニウムと各種活性金属を含む銀ろう間の界面組織と接合強度,日本セラミックス協会学術論文誌,日本,2004年 6月 1日,Vol.112,No.6,305-310
【文献】
有賀正,葛巻徹,小特集 異種材料間の界面現象 AlN/Cu間の反応層成長に対する合金添加元素の影響,日本金属学会会報,日本,1992年 4月,Vol.31,No.4,283-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Ti化合物層のうち前記セラミックス部材との界面から500nmまでの界面近傍領域におけるAg濃度が0.3原子%以上とされていることを特徴とする請求項1に記載のCu/セラミックス接合体。
前記Ti化合物層内に分散する前記Ag粒子の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のCu/セラミックス接合体。
前記接合材はさらにCuを含有しており、前記Ti化合物層内にCu粒子が分散されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のCu/セラミックス接合体。
前記加熱工程における加熱温度が790℃以上830℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のCu/セラミックス接合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
本実施形態に係るCu/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22(回路層12)とが接合されることにより構成されたパワーモジュール用基板10とされている。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板10及びこのパワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0024】
このパワーモジュール1は、パワーモジュール用基板10と、このパワーモジュール用基板10の一方側(
図1において上側)の面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク51と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0025】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0026】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板22として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0027】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、このアルミニウム板23は、0.2%耐力が30N/mm
2以下とされている。ここで、金属層13(アルミニウム板23)の厚さは0.5mm以上6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。
【0028】
ヒートシンク51は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部52と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路53とを備えている。ヒートシンク51(天板部52)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
このヒートシンク51(天板部52)は、本実施形態においては、パワーモジュール用基板10の金属層13にろう付けによって直接接合されている。
【0029】
ここで、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)とは、
図4に示すように、Ag−Cu−Ti系ろう材24を用いて接合されている。
そして、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との接合界面には、
図2に示すように、TiN(窒化チタン)からなるTi化合物層31と、Ag−Cu共晶層32と、が形成されている。なお、好ましい上記Ag−Cu−Ti系ろう材24のCuの含有量は、18mass%以上34mass%以下、Tiの含有量は、0.3mass%以上7mass%以下であるが、これに限定されることはない。また、本実施形態では、Ag−Cu−Ti系ろう材24として箔材を用い、厚さは3μm以上50μm以下の範囲内に設定するとよい。
【0030】
そして、このTi化合物層31内には、Ag粒子35が分散している。
Ag粒子35は、Ti化合物層31のセラミックス基板11側に多く分布しており、Ti化合物層31のうちセラミックス基板11との界面から500nmまでの界面近傍領域31AにおけるAg濃度が0.3原子%以上、好ましくは0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。なお、本実施形態では、Ti化合物層31内で観察されるAg粒子35の90%以上が、上述の界面近傍領域31Aに分布している。なお、上記界面近傍領域31Aに分布するAg粒子35のより好ましい割合は95%以上であり、上限値は100%であるが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、Ti化合物層31内に分散するAg粒子35の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。なお、上記Ag粒子35の粒径は10nm以上50nm以下の範囲内に設定されてもよい。
なお、本実施形態では、このTi化合物層31には、Ag粒子35の他にCu粒子36も分散している。
【0031】
次に、上述した本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法について、
図3から
図5を参照して説明する。
【0032】
図3及び
図4に示すように、回路層12となる銅板22と、セラミックス基板11とを接合する(銅板接合工程S01)。本実施形態では、無酸素銅の圧延板からなる銅板22とAlNからなるセラミックス基板11とを、Ag−Cu−Ti系ろう材24によって接合する。この銅板接合工程S01については、後で詳しく説明する。
【0033】
次に、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となるアルミニウム板23を接合する(アルミニウム板接合工程S02)。
セラミックス基板11とアルミニウム板23とを、ろう材25を介して積層し、積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行う。これにより、セラミックス基板11とアルミニウム板23を接合する。このとき、ろう材25としては、例えば、Al−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は600〜650℃とすることが好ましい。
これにより、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0034】
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク51を接合する(ヒートシンク接合工程S03)。
パワーモジュール用基板10とヒートシンク51とを、ろう材26を介して積層し、積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行う。これにより、パワーモジュール用基板10の金属層13とヒートシンク51の天板部52とを接合する。このとき、ろう材26としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は、アルミニウム接合工程S02におけるろう付け温度よりも低温に設定することが好ましい。
【0035】
次に、パワーモジュール用基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する(半導体素子搭載工程S04)。
以上の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0036】
ここで、本実施形態であるCu/セラミックス接合体の製造方法となる銅板接合工程S01について、詳しく説明する。
銅板接合工程S01では、まず、セラミックス基板11の一方の面にAg−Cu−Ti系ろう材24を介して回路層12となる銅板22を積層する(積層工程S11)。
【0037】
次に、セラミックス基板11及び銅板22を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する(低温保持工程S12)。ここで、低温保持工程S12における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされている。また、低温保持工程S12における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされている。なお、低温保持工程S12における保持温度は、590℃以上750℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、低温保持工程S12における保持時間は、60分以上3時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
この低温保持工程S12においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、
図5に示すように、Ag−Cu−Ti系ろう材24中のAgと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相38が発生する。この液相38中において、Ag−Cu−Ti系ろう材24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成する。これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなるTi化合物層31が形成されることになる。
【0039】
低温保持工程S12の後、銅板22とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空 雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Cu−Ti系ろう材24を溶融する(加熱工程S13)。ここで、加熱工程S13における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には 790℃以上830℃以下の範囲内とされている。また、加熱工程S13における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされている。なお、加熱工程S13における加熱温度は、800℃以上820℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱工程S13における保持時間は、10分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
そして、加熱工程S13の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Cu−Ti系ろう材24を凝固させる(冷却工程S14)。なお、この冷却工程S14における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
このように、銅板接合工程S01は、積層工程S11、低温保持工程S12、加熱工程S13、冷却工程S14によって構成されており、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22と、が接合される。
そして、TiNからなるTi化合物層31内に、Ag粒子35及びCu粒子36が分散されることになる。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態のCu/セラミックス接合体(パワーモジュール用基板10)によれば、無酸素銅からなる銅板22(回路層12)とAlNからなるセラミックス基板11とが、Ag−Cu−Ti系ろう材24を用いて接合されており、セラミックス基板11の接合界面にTiNからなるTi化合物層31が形成され、このTi化合物層31内にAg粒子35及びCu粒子36が分散しているので、接合時においてTi化合物層31が十分に形成されており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが確実に接合されたパワーモジュール用基板10を得ることができる。
【0043】
また、本実施形態では、Ti化合物層31のうち上述の界面近傍領域31AにおけるAg濃度が0.3原子%以上とされているので、セラミックス基板11の接合界面にTi化合物層31が十分に形成されており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが強固に接合されることになる。
【0044】
さらに、本実施形態では、Ti化合物層31内に分散するAg粒子35は、その粒径が10nm以上100nm以下の範囲内と比較的微細とされており、TiとNとが反応して上述のTi化合物層31が形成される過程で生成したものであると推測される。よって、セラミックス基板11の界面にTi化合物層31が十分に形成されていることになり、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが確実に接合されたパワーモジュール用基板10を得ることができる。
【0045】
また、本実施形態では、銅板接合工程S01が、銅板22とセラミックス基板11とを、Ag−Cu−Ti系ろう材24を介して積層する積層工程S11と、積層した銅板22とセラミックス基板11を積層方向に押圧した状態で、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程S12と、低温保持工程S12後に、AgとCuの共晶点温度以上に加熱してAg−Cu−Ti系ろう材24を溶融する加熱工程S13と、加熱工程S13の後、冷却を行うことによって溶融したAg−Cu−Ti系ろう材24を凝固させる冷却工程S14と、を備えているので、銅板22とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
【0046】
すなわち、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程S12において、銅板22とセラミックス基板11との界面にAlとAgの共晶反応による液相38が生じ、この液相38中においてTiとNが反応することで、セラミックス基板11の界面にTi化合物層31が形成されることになる。なお、この過程において、Ti化合物層31内にAg粒子35が分散される。これにより、加熱工程S13における加熱温度を比較的低温に設定した場合であっても、銅板22とセラミックス基板11とを確実に接合することができるのである。
【0047】
ここで、本実施形態では、低温保持工程S12における保持温度がAgとAlの共晶点温度以上とされ、具体的には570℃以上とされているので、銅板22とセラミックス基板11との界面にAlとAgの共晶反応による液相38を確実に生成することができる。また、低温保持工程S12における保持温度がAgとCuの共晶点温度未満とされ、具体的には770℃未満とされているので、AgがCuとの反応によって消費されずAlと反応するAgを確保することができ、AlとAgの共晶反応による液相38を確実に生成することができる。
【0048】
また、本実施形態では、低温保持工程S12における保持時間が30分以上とされているので、TiNからなるTi化合物層31が十分に形成され、加熱工程S13における加熱温度を比較的低温に設定した場合であっても、銅板22とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。また、低温保持工程S12における保持時間が5時間以下とされているので、エネルギー消費量を削減することが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態では、加熱工程S13における加熱温度が790℃以上830℃以下の範囲内と比較的低温に設定されているので、接合時におけるセラミックス基板11への熱負荷を軽減でき、セラミックス基板11の劣化を抑制することができる。また、上述のように、低温保持工程S12を有しているので、加熱工程S13における加熱温度が比較的低温であっても、セラミックス基板11と銅板22とを確実に接合することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、
図6から
図10を参照して説明する。
本実施形態に係るCu/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板111と、銅部材である銅板122(回路層112)及び銅板123(金属層113)とが接合されることにより構成されたパワーモジュール用基板110とされている。
図6に本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板110及びこのパワーモジュール用基板110を用いたパワーモジュール101を示す。
【0051】
このパワーモジュール101は、パワーモジュール用基板110と、このパワーモジュール用基板110の一方側(
図6において上側)の面に第1はんだ層102を介して接合された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方側(
図6において下側)に配置されたヒートシンク151と、を備えている。
【0052】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(
図6において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(
図6において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高いAl
2O
3(アルミナ)で構成されている。ここで、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0053】
回路層112は、
図9に示すように、セラミックス基板111の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板122が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112を構成する銅板122として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。この回路層112には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図6において上面)が、半導体素子103が搭載される搭載面されている。ここで、回路層112の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0054】
金属層113は、
図9に示すように、セラミックス基板111の他方の面に銅又は銅合金からなる銅板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113を構成する銅板123として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層113の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0055】
ヒートシンク151は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板110と接合される放熱板152と、この放熱板152に積層配置される冷却器153とで構成されている。
放熱板152は、前述のパワーモジュール用基板110からの熱を面方向に拡げるものであり、熱伝導性に優れた銅又は銅合金で構成されている。なお、放熱板152とパワーモジュール用基板110の金属層113とは、第2はんだ層108を介して接合されている。
【0056】
冷却器153は、
図6に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路154を備えている。冷却器153は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
なお、放熱板152と冷却器153とは、
図6に示すように、グリース層(図示なし)を介して固定ネジ156によって締結されている。
【0057】
ここで、セラミックス基板111と回路層112(銅板122)、及び、セラミックス基板111と金属層113(銅板123)とは、
図9に示すように、Ag−Ti系ろう材124を用いて接合されている。
このセラミックス基板111と回路層112(銅板122)との接合界面、および、セラミックス基板111と金属層113(銅板123)との接合界面には、
図7に示すように、TiO
2(酸化チタン)からなるTi化合物層131と、Ag−Cu共晶層132と、が形成されている。なお、好ましい上記Ag−Ti系ろう材124のTiの含有量は、0.4mass%以上75mass%以下であるが、これに限定されることはない。また、本実施形態ではAg−Ti系ろう材124として箔材を用い、厚さは、3μm以上25μm以下の範囲内に設定するとよい。
【0058】
そして、このTi化合物層131内には、Ag粒子135が分散している。
Ag粒子135は、Ti化合物層131のセラミックス基板111側に多く分布しており、Ti化合物層131のうちセラミックス基板111との界面から500nmまでの界面近傍領域131AにおけるAg濃度が0.3原子%以上、好ましくは0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。なお、本実施形態では、Ti化合物層131内で観察されるAg粒子135の90%以上が、上述の界面近傍領域131Aに分布している。なお、上記界面近傍領域131Aに分布するAg粒子135のより好ましい割合は95%以上であり、上限値は100%であるが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、Ti化合物層131内に分散するAg粒子135の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。なお、Ag粒子135の粒径は10nm以上50nm以下の範囲内に設定されてもよい。
【0059】
次に、上述した本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法について、
図8から
図10を参照して説明する。
【0060】
図8及び
図9に示すように、回路層112となる銅板122とセラミックス基板111、及び、金属層113となる銅板123とセラミックス基板111、を接合する(銅板接合工程S101)。本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板からなる銅板122,123とAl
2O
3からなるセラミックス基板111とを、Ag−Ti系ろう材124によって接合する。この銅板接合工程S101については、後で詳しく説明する。
この銅板接合工程S101により、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。
【0061】
次に、パワーモジュール用基板110の金属層113の他方の面側に放熱板152を接合する(放熱板接合工程S102)。
パワーモジュール用基板110と放熱板152とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、パワーモジュール用基板110と放熱板152とをはんだ接合する。
【0062】
次に、放熱板152の他方の面側に、冷却器153を配設する(冷却器配設工程S103)。
放熱板152と冷却器153との間にグリース(図示無し)を塗布し、放熱板152と冷却器153とを固定ネジ156によって連結する。
【0063】
次に、パワーモジュール用基板110の回路層112の一方の面に、半導体素子103をはんだ付けにより接合する(半導体素子搭載工程S104)。
以上の工程により、
図6に示すパワーモジュール101が製出される。
【0064】
ここで、本実施形態であるCu/セラミックス接合体の製造方法となる銅板接合工程S101について、詳しく説明する。
銅板接合工程S101では、まず、セラミックス基板111の一方の面にAg−Ti系ろう材124を介して回路層112となる銅板122を積層するとともに、セラミックス基板111の他方の面にAg−Ti系ろう材124を介して金属層113となる銅板123を積層する(積層工程S111)。
【0065】
次に、銅板122、セラミックス基板111及び銅板123を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空又はアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する(低温保持工程S112)。ここで、低温保持工程S112における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされている。また、低温保持工程S112における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされている。なお、低温保持工程S112における保持温度は、590℃以上750℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、低温保持工程S112における保持時間は、60分以上3時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0066】
この低温保持工程S112においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、
図10に示すように、Ag−Ti系ろう材124中のAgと、Al
2O
3からなるセラミックス基板111とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相138が発生する。この液相138中において、Ag−Ti系ろう材124中のTiとセラミックス基板111中のO(酸素)とが反応してTiO
2が生成する。これにより、セラミックス基板111の表面が侵食される形で、TiO
2からなるTi化合物層131が形成されることになる。
【0067】
低温保持工程S112の後、銅板122、セラミックス基板111及び銅板123を加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Ti系ろう材124を溶融する(加熱工程S113)。このとき、銅板122、123から、Ag−Ti系ろう材124へとCuが供給され、AgとCuの共晶反応により融点が低下し、Ag−Ti系ろう材124の溶融が促進される。ここで、加熱工程S113における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には790℃以上830℃以下の範囲内とされている。また、加熱工程S113における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされている。なお、加熱工程S113における加熱温度は、800℃以上820℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱工程S113における保持時間は、10分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0068】
そして、加熱工程S113の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Ti系ろう材124を凝固させる(冷却工程S114)。なお、この冷却工程S114における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0069】
このように、銅板接合工程S101は、積層工程S111、低温保持工程S112、加熱工程S113、冷却工程S114によって構成されており、セラミックス部材であるセラミックス基板111と、銅部材である銅板122、123と、が接合される。
そして、TiO
2からなるTi化合物層131内に、Ag粒子135が分散されることになる。
【0070】
以上のような構成とされた本実施形態のCu/セラミックス接合体(パワーモジュール用基板110)によれば、タフピッチ銅からなる銅板122(回路層112)及び銅板123(金属層113)とAl
2O
3からなるセラミックス基板111とが、Ag−Ti系ろう材124を用いて接合されており、セラミックス基板111の接合界面にTiO
2からなるTi化合物層131が形成され、このTi化合物層131内にAg粒子135が分散しているので、接合時においてTi化合物層131が十分に形成されており、銅板122(回路層112)及び銅板123(金属層113)とセラミックス基板111とが確実に接合されたパワーモジュール用基板110を得ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、銅板接合工程S101が、銅板122,123とセラミックス基板111とをAg−Ti系ろう材124を介して積層する積層工程S111と、積層した銅板122、123とセラミックス基板111を積層方向に押圧した状態で、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程S112と、低温保持工程S112後に、AgとCuの共晶点温度以上に加熱してAg−Ti系ろう材124を溶融する加熱工程S113と、加熱工程S113の後、冷却を行うことによって溶融したAg−Ti系ろう材124を凝固させる冷却工程S114と、を備えているので、銅板122,123とセラミックス基板111とを確実に接合することができる。
【0072】
すなわち、低温保持工程S112において、銅板122、123とセラミックス基板111との界面にAlとAgの共晶反応による液相138が生じ、この液相138中においてTiとOが反応することで、セラミックス基板111の界面にTi化合物層131が形成されることになる。なお、この過程において、Ti化合物層131内にAg粒子135が分散される。これにより、加熱工程S113における加熱温度を比較的低温に設定した場合であっても、銅板122、123とセラミックス基板111とを確実に接合することができるのである。
【0073】
ここで、本実施形態では、加熱工程S113における加熱温度が790℃以上830℃以下の範囲内と比較的低温に設定されているので、接合時におけるセラミックス基板111への熱負荷を軽減でき、セラミックス基板111の劣化を抑制することができる。また、上述のように、低温保持工程S112を有しているので、加熱工程S113における加熱温度が比較的低温であっても、セラミックス基板111と銅板122、123とを確実に接合することができる。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、
図11から
図15を参照して説明する。
本実施形態に係るCu/セラミックス接合体は、
図11に示すように、セラミックス部材であるセラミックス基板211と、銅部材である銅板222(回路層212)とが接合されることにより構成されたパワーモジュール用基板210とされている。
【0075】
セラミックス基板211は、絶縁性の高いAl
2O
3(アルミナ)で構成されており、第2の実施形態と同様の構成とされている。
回路層212は、
図14に示すように、セラミックス基板211の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板222が接合されることにより形成されており、第2の実施形態と同様の構成とされている。
【0076】
ここで、セラミックス基板211と回路層212(銅板222)とは、
図14に示すように、Ag−Ti系ろう材ペースト224を用いて接合されている。
このセラミックス基板211と回路層212(銅板222)との接合界面には、
図12に示すように、TiO
2(酸化チタン)からなるTi化合物層231と、Ag−Cu共晶層232と、が形成されている。
【0077】
そして、このTi化合物層231内には、Ag粒子235が分散している。
Ag粒子235は、Ti化合物層231のセラミックス基板211側に多く分布しており、Ti化合物層231のうちセラミックス基板211との界面から500nmまでの界面近傍領域231AにおけるAg濃度が0.3原子%以上、好ましくは0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。なお、本実施形態では、Ti化合物層231内で観察されるAg粒子235の90%以上が、上述の界面近傍領域231Aに分布している。なお、上記界面近傍領域231Aに分布するAg粒子235のより好ましい割合は95%以上であり、上限値は100%であるが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、Ti化合物層231内に分散するAg粒子235の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。なお、Ag粒子235の粒径は10nm以上50nm以下の範囲内に設定されてもよい。
【0078】
次に、上述した本実施形態であるパワーモジュール用基板210の製造方法について、
図13から
図15を参照して説明する。
まず、セラミックス基板211の一方の面に、スクリーン印刷によってAg−Ti系ろう材ペースト224を塗布する(ろう材ペースト塗布工程S211)。なお、Ag−Ti系ろう材ペースト224の厚さは、乾燥後で20μm以上300μm以下とされている。
【0079】
ここで、Ag−Ti系ろう材ペースト224は、AgおよびTiを含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものである。
本実施形態では、粉末成分の含有量が、Ag−Ti系ろう材ペースト224全体の40質量%以上90質量%以下とされている。また、本実施形態では、Ag−Ti系ろう材ペースト224の粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0080】
粉末成分の組成は、Tiの含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされている。本実施形態では、Tiを10質量%含んでおり、残部がAg及び不可避不純物とされている。
また、本実施形態においては、Ag及びTiを含む粉末成分として、AgとTiとの合金粉末を使用している。この合金粉末は、アトマイズ法によって作製されたものであり、作製された合金粉末を篩い分けすることによって、粒径を40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下に設定している。
【0081】
次に、セラミックス基板211の一方の面に回路層212となる銅板222を積層する(積層工程S212)。
次に、銅板222及びセラミックス基板211を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空又はアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する(低温保持工程S213)。ここで、低温保持工程S213における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされている。また、低温保持工程S213における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされている。なお、低温保持工程S213における保持温度は、590℃以上750℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、低温保持工程S213における保持時間は、60分以上3時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0082】
この低温保持工程S213においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、
図15に示すように、Ag−Ti系ろう材ペースト224中のAgと、Al
2O
3からなるセラミックス基板211とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相238が発生する。この液相238中において、Ag−Ti系ろう材ペースト224中のTiとセラミックス基板211中のO(酸素)とが反応してTiO
2が生成する。これにより、セラミックス基板211の表面が侵食される形で、TiO
2からなるTi化合物層231が形成されることになる。
【0083】
低温保持工程S213の後、銅板222及びセラミックス基板211を加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Ti系ろう材ペースト224を溶融する(加熱工程S214)。このとき、銅板222から、Ag−Ti系ろう材ペースト224へとCuが供給され、AgとCuの共晶反応により融点が低下し、Ag−Ti系ろう材ペースト224の溶融が促進される。ここで、加熱工程S214における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には790℃以上830℃以下の範囲内とされている。また、加熱工程S214における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされている。なお、加熱工程S214における加熱温度は、800℃以上820℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱工程S214における保持時間は、10分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0084】
そして、加熱工程S214の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Ti系ろう材ペースト224を凝固させる(冷却工程S215)。なお、この冷却工程S215における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0085】
このようにして、セラミックス部材であるセラミックス基板211と銅部材である銅板222とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製造される。
そして、TiO
2からなるTi化合物層231内に、Ag粒子235が分散されることになる。
【0086】
以上のような構成とされた本実施形態のCu/セラミックス接合体(パワーモジュール用基板210)によれば、第2の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本実施形態では、Ag−Ti系ろう材ペースト224をセラミックス基板211の一方の面に塗布するろう材ペースト塗布工程S211と、銅板222とセラミックス基板211とを、塗布したAg−Ti系ろう材ペースト224を介して積層する積層工程S212と、積層した銅板222とセラミックス基板211を積層方向に押圧した状態で、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲で保持する低温保持工程S213と、低温保持工程S213後に、AgとCuの共晶点温度以上に加熱してAg−Ti系ろう材ペースト224を溶融する加熱工程S214と、加熱工程S214の後、冷却を行うことによって溶融したAg−Ti系ろう材ペースト224を凝固させる冷却工程S215と、を備えているので、銅板222とセラミックス基板211とを確実に接合することができる。
【0087】
すなわち、低温保持工程S213において、銅板222とセラミックス基板211との界面にAlとAgの共晶反応による液相238が生じ、この液相238中においてTiとOが反応することで、セラミックス基板211の界面にTi化合物層231が形成されることになる。なお、この過程において、Ti化合物層231内にAg粒子235が分散される。これにより、加熱工程S214における加熱温度を比較的低温に設定した場合であっても、銅板222とセラミックス基板211とを確実に接合することができるのである。
【0088】
ここで、本実施形態では、加熱工程S214における加熱温度が790℃以上830℃以下の範囲内と比較的低温に設定されているので、接合時におけるセラミックス基板211への熱負荷を軽減でき、セラミックス基板211の劣化を抑制することができる。また、上述のように、低温保持工程S213を有しているので、加熱工程S214における加熱温度が比較的低温であっても、セラミックス基板211と銅板222とを確実に接合することができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層又は金属層を構成する銅板を、無酸素銅又はタフピッチ銅の圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、他の銅又は銅合金で構成されたものであってもよい。
【0090】
また、第1の実施形態において、金属層を構成するアルミニウム板を、純度99.99mass%の純アルミニウムの圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、純度99mass%のアルミニウム(2Nアルミニウム)等、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。
【0091】
さらに、本実施形態では、界面近傍領域におけるAg濃度が0.3原子%以上とされたものとして説明したが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、Ti化合物層に分散されるAg粒子の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされているものとして説明したが、これ以外のサイズのAg粒子が分散していてもよい。
【0092】
さらに、ヒートシンクや放熱板は、本実施形態で例示してものに限定されることはなく、ヒートシンクの構造に特に限定はない。
また、ヒートシンクの天板部や放熱板と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
【0093】
さらに、第3の実施形態では、Ag−Ti系ろう材ペーストを用いてセラミックス基板と銅板とを接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu−Ti系ペーストを用いてもよい。この場合、第1の実施形態と同様の界面構造を有することになる。
また、Ag−Ti系ろう材ペーストをセラミックス基板に塗布するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板にAg−Ti系ろう材ペースト等を塗布してもよい。
さらに、Ag−Ti系ろう材ペーストをスクリーン印刷によって塗布するものとして説明したが、塗布方法に限定はない。
また、積層工程(S212)の前に、Ag−Ti系ろう材ペーストの乾燥を行う工程を設けても良い。
【0094】
さらに、第3の実施形態では、Ag及びTiを含む粉末成分として、AgとTiとの合金粉末を使用したが、これに限らず、Ag粉末とTi粉末との混合粉末を用いることができる。この場合、用いるAg粉末の粒径は40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であるとよい。
また、Ti粉末の代わりにTiH
2粉末を用いることもできる。TiH
2粉末を用いた場合、粉末成分の組成は、TiH
2の含有量が0.4質量%以上50質量%以下され、残部がAg及び不可避不純物とすると良い。用いられるTiH
2粉末の粒径は15μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下であるとよい。また、TiH
2粉末を用いたペーストの場合、塗布されたペーストの厚さは、乾燥後で20μm以上300μm以下とすると良い。
また、Ag粉末と、Cu粉末と、Ti粉末又はTiH
2粉末との混合粉末からなるペーストを用いることもできる。
【0095】
また、上記実施形態に記載したAg−Cu−Ti系ろう材やAg−Ti系ろう材にIn、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の元素を添加させることもできる。この場合、接合温度をさらに低下させることができる。
さらに、Ag−Ti系ろう材ペーストとして、TiとIn、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の元素と、残部がAg及び不可避不純物からなるペーストを用いることもできる。この場合、接合温度をさらに低下させることができる。
また、第2の実施形態において、Ag−Ti系ろう材の箔の代わりに第3の実施形態で記載したAg−Ti系ろう材ペーストを用いることもできる。
【実施例】
【0096】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
表1に示すセラミックス基板、ろう材、銅板を用いて、Cu/セラミックス接合体を形成した。詳述すると、40mm角で厚さ0.635mmのセラミックス基板の片面に、厚さ20μmのAg及びTiを含むろう材箔を用いて、表1に示す条件で、38mm角の厚さ0.6mmの銅板を接合し、Cu/セラミックス接合体を形成した。また、ろう材として、Ag−Cu−Tiの場合にはAg−28mass%Cu−3mass%Tiのろう材を、Ag−Tiの場合にはAg−10mass%Tiのろう材を用いた。また、積層方向への加圧力(荷重)は1.5kgf/cm
2とした。
【0097】
また、表2に示すセラミックス基板、ろう材、銅板を用いて、Cu/セラミックス接合体を形成した。詳述すると、40mm角で厚さ0.635mmのセラミックス基板の片面に、Ag及びTiを含むろう材ペーストを用いて、表2に示す条件で、38mm角の厚さ0.6mmの銅板を接合し、Cu/セラミックス接合体を形成した。また、積層方向への加圧力(荷重)は1.5kgf/cm
2とした。
なお、ろう材ペーストとして、Ag−Cu−Tiの場合には、粉末成分の組成がAg−28mass%Cu−3mass%Tiのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストとし、塗布厚さは表2に記載した値とした。
【0098】
Ag−Tiの場合には、粉末成分の組成がAg−10mass%Tiのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを用い、塗布厚さは表2に記載した値とした。
Ag−TiH
2の場合には、Ag粉末(粒径5μm)とTiH
2粉末(粒径5μm)からなる混合粉末と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを用いた。混合粉末の組成は、TiH
2:20質量%、残部:Ag及び不可避不純物とし、塗布厚さは表2に記載した値とした。
Ag−Cu−TiH
2の場合にはAg粉末(粒径5μm)とCu粉末(粒径2.5μm)とTiH
2粉末(粒径5μm)からなる混合粉末と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを用いた。混合粉末の組成は、Cu:27質量%、TiH
2:3質量%、残部:Ag及び不可避不純物とし、塗布厚さは表2に記載した値とした。
なお、本実施例においてはペースト塗布後に150℃で乾燥を行った。表2記載の塗布厚さは乾燥後の値とした。
【0099】
このようにして得られたCu/セラミックス接合体について、Ti化合物層中のAg粒子及びCu粒子の有無、Ti化合物層中の界面近傍のAg濃度、銅板とセラミックス基板との接合率を評価した。
【0100】
(Ti化合物層中のAg粒子及びCu粒子)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスNTS社製ULTRA55)を用いて、倍率15000倍(測定範囲:6μm×8μm)、視野数5で観察を行い、Ti化合物層中のAg粒子及びCu粒子の有無を確認した。
【0101】
(Ti化合物層中の界面近傍のAg濃度)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、エネルギー分散型X線検出器(ThermoFisher Scientific社製SDD検出器およびNorton System Six)を用いて、ライン分析を行い、Ti化合物層中の界面近傍のAg濃度を測定した。
【0102】
(接合率)
銅板とセラミックス基板との接合率は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ社製FineSAT200)を用いて以下の式を用いて求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積である銅板の面積(38mm角)とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
【0103】
評価結果を表3,4に示す。また、本発明例1の反射電子像を
図16に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
AlNからなるセラミックス基板にAg−Cu−Tiろう材を用いてOFCからなる銅板を接合する際に、AgとAlの共晶点温度以上AgとCuとの共晶点温度以下の温度範囲で保持する低温保持工程を実施しなかった従来例1においては、セラミックス基板と銅板との界面にTiNからなるTi化合物層が確認されたものの、このTi化合物層の内部にAg粒子、Cu粒子は確認されなかった。また、セラミックス基板とTi化合物層との界面近傍領域におけるAg濃度も0.00at%であった。このような従来例1においては、接合率が83.7%であった。
【0109】
これに対して、AlNからなるセラミックス基板にAg−Cu−Tiろう材を用いてOFCからなる銅板を接合する際に、AgとAlの共晶点温度以上AgとCuとの共晶点温度以下の温度範囲で保持する低温保持工程を実施した本発明例2−7においては、セラミックス基板と銅板との界面にTiNからなるTi化合物層が確認され、このTi化合物層の内部にAg粒子、Cu粒子が観察された。また、セラミックス基板とTi化合物層との界面近傍領域におけるAg濃度が0.15〜12.28at%であった。このような本発明例2−7においては、接合率が92.1〜97.6%であり、従来例に比べて接合率の向上が認められた。
【0110】
また、AlNからなるセラミックス基板にAg−Tiろう材を用いてTPC又はOFCからなる銅板を接合する際に、AgとAlの共晶点温度以上AgとCuとの共晶点温度以下の温度範囲で保持する低温保持工程を実施した本発明例1,8においては、セラミックス基板と銅板との界面にTiNからなるTi化合物層が確認され、このTi化合物層の内部にAg粒子が観察された。また、セラミックス基板とTi化合物層との界面近傍領域におけるAg濃度が0.13at%、10.56at%であった。このような本発明例1,8においても、接合率が93.3%、98.0%であり、従来例に比べて接合率の向上が認められた。
【0111】
さらに、Al
2O
3からなるセラミックス基板にAg−Tiろう材を用いてOFCからなる銅板を接合する際に、AgとAlの共晶点温度以上AgとCuとの共晶点温度以下の温度範囲で保持する低温保持工程を実施した本発明例9,10、13−16においては、セラミックス基板と銅板との界面にTiO
2からなるTi化合物層が確認され、このTi化合物層の内部にAg粒子が観察された。また、セラミックス基板とTi化合物層との界面近傍領域におけるAg濃度が0.21〜11.12at%であった。このような本発明例9,10、13−16においても、接合率が91.1〜98.8%であり、従来例に比べて接合率の向上が認められた。
【0112】
また、Al
2O
3からなるセラミックス基板にAg−Cu−Tiろう材を用いてOFCからなる銅板を接合する際に、AgとAlの共晶点温度以上AgとCuとの共晶点温度以下の温度範囲で保持する低温保持工程を実施した本発明例11,12においては、セラミックス基板と銅板との界面にTiO
2からなるTi化合物層が確認され、このTi化合物層の内部にAg粒子、Cu粒子が観察された。また、セラミックス基板とTi化合物層との界面近傍領域におけるAg濃度が9.08at%、11.36at%であった。このような本発明例11,12においても、接合率が97.5%、98.7%であり、従来例に比べて接合率の向上が認められた。
【0113】
また、表2及び表4に示すように、Ag−Ti系ペースト、Ag−Cu−Ti系ペースト及びAg−TiH
2系ペーストを用いた場合でも、ろう材箔を用いた場合と同様に、従来例に比べて接合率の向上が認められる結果となった。