特許第5757360号(P5757360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5757360
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】発電用風車装置及び発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 1/06 20060101AFI20150709BHJP
   F03D 1/04 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   F03D1/06 B
   F03D1/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-201295(P2014-201295)
(22)【出願日】2014年9月30日
【審査請求日】2015年2月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596098254
【氏名又は名称】谷口商会株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隼人
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−67724(JP,A)
【文献】 特開昭62−282174(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0120108(US,A1)
【文献】 特開2013−5580(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0004439(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0091727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
F03D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風の通り道となる風洞路を有する風洞体と、
風洞体の風洞路内に回転可能な状態で支持された風車と、
を備え、
風車が、
回転中心となるハブと、
ハブから放射方向に延びる複数本のスポークと、
複数本のスポークの外端を結ぶように略環状に設けられたリムと、
略三角形状を為し、2辺がスポーク又はリムによって支持されて残りの1辺がスポーク及びリムのいずれにも支持されていない開放端縁とされた複数枚の帆材と、
で構成され、
風洞路の断面積Sに対する帆材の風受面積Sの比S/Sが、0.9以上とされたことを特徴とする発電用風車装置。
【請求項2】
スポークの長さLに対する帆材の開放端縁の最大垂直変位Wの比W/Lが0.3以下とされた請求項1記載の発電用風車装置。
【請求項3】
風洞路の断面積Sに対する帆材の垂直開口面積の和Sの比S/Sが0.05〜0.3とされた請求項1又は2記載の発電用風車装置。
【請求項4】
風洞体の風洞路が断面円形に形成されるとともに、
リムが円環状に形成され、それぞれの帆材が扇形状に形成された請求項1〜3いずれか記載の発電用風車装置。
【請求項5】
1つの風車につき4枚以上の帆材が設けられた請求項1〜4いずれか記載の発電用風車装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の発電用風車装置と、
風車の回転力を電力に変換する電力変換装置と、
を備えたことを特徴とする発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セイルウィング風車を利用した発電用風車装置と、この発電用風車装置を用いた発電装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、風を受ける羽根を帆材で形成した風車が知られている(例えば、非特許文献1)。この種の風車は、「セイルウィング風車」と呼ばれており、羽根が硬質な材料で形成されたプロペラ風車と比較して、(1)羽根を軽量化できる、(2)羽根を容易に作製できる等の利点を有している。しかし、従来のセイルウィング風車は、羽根を密に配することができず、それを用いて発電を行う場合には、エネルギーの変換効率を高くできないという欠点があった。というのも、従来のセイルウィング風車は、その周囲に何も存在しないオープンな環境で使用されるものであったため、羽根を密に配すると、風車が風を受けたときの抵抗が大きくなって、風車に当たった風が隣り合う羽根の隙間を通り抜けることなく風車の外方へ逃げるようになり、羽根を疎に配した場合よりも風車の回転効率が低下するからである。したがって、従来のセイルウィング風車は、実用的な発電装置において好適に採用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西沢良史、他1名,“水平軸セイルウィング風車に関する実験的研究”,風力エネルギー協会講演論文集(2003),日本太陽エネルギー学会,2003年11月6日,p.327−330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、羽根を密に配しても風車に当たった風が外方へ逃げることなく羽根の隙間を通り抜けるようにすることで、風車の回転効率を高めることができ、実用的な発電装置において好適に採用することのできる発電用風車装置を提供するものである。また、この発電用風車装置を用いた発電装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、
風の通り道となる風洞路を有する風洞体と、
風洞体の風洞路内に回転可能な状態で支持された風車と、
を備え、
風車が、
回転中心となるハブと、
ハブから放射方向に延びる複数本のスポークと、
複数本のスポークの外端を結ぶように略環状に設けられたリムと、
略三角形状(扇形状を含む。)を為し、2辺がスポーク又はリムによって支持されて残りの1辺がスポーク及びリムのいずれにも支持されていない開放端縁とされた複数枚の帆材と、
で構成され、
風洞路の断面積Sに対する帆材の風受面積Sの比S/Sが、0.9以上とされたことを特徴とする発電用風車装置
を提供することによって解決される。
【0006】
本発明に係る発電用風車装置は、風洞路の一端側から他端側へ風が流れた場合には、それぞれの帆材が風力を受けてその開放端縁が風洞路の他端側に変位するように膨らむことで、風力が回転力に変換されて風車が一の方向へ回転するものとなっている。また、本発明に係る発電用風車装置は、風洞路の他端側から一端側へ風が流された場合には、それぞれの帆材が風力を受けてその開放端縁が風洞路の一端側に変位するように膨らむことで、風力が回転力に変換されて風車が一の方向へ回転するものとなっている。すなわち、本発明に係る発電用風車装置では、風が風洞路のいずれの向きに流れても、風車が同じ方向に回転するようになっている。
【0007】
既に述べた通り、風車に当たった風が風車の外方へ逃げてしまうと、風車の回転効率を高めることができないところ、本発明に係る発電用風車装置では、風車の周囲を風洞体によって覆っていることに加えて、風洞体の風洞路の断面積S(風洞路の断面積が場所によって異なる場合には風車が配される部分の断面積)に対する帆材(羽根)の風受面積S(風車の回転軸から平行な方向で帆材を見たときの面積)の比S/S(以下、「断面閉塞比S/S」と表記する。)を0.9以上と高く設定しているため、風車に当たった風の殆どは、風車の外方へ逃げることなく、隣り合う帆材(羽根)の隙間から風車の反対側へと通り抜けるようになっている。このため、本発明に係る発電用風車装置は、風車の回転効率が高く、それを発電装置に利用する場合には、エネルギーの変換効率を高めることができるものとなっている。
【0008】
ところで、本発明に係る発電用風車装置において、風車の帆材は、その開放端縁側に弛みがある程度生じる状態でスポーク及びリムに対して張る必要がある。というのも、帆材の開放端縁側の弛みを小さくしすぎると、風を受けた帆材が風下側へ僅かにしか膨らまず、帆材が受けた風力が風車の回転力へ変換されにくくなるおそれがあるからである。また、後述する帆材の垂直開口面積が小さくなって、風車の風上側から風下側へ風が通り抜けにくくなり、風車の風上側の気流が乱れて風車の回転に悪影響を及ぼすおそれもある。このため、帆材は、その開放端縁側に弛みがある程度生じる状態で張ると好ましい。特に、風速がある程度速い場合には、後述する帆材の垂直開口面積を大きくするため、帆材の開放端縁の弛みを大きくする必要が生じる。例えば、風速が29m/s以上の強風域にあるときには、スポークの長さLに対する帆材(羽根)の開放端縁の最大垂直変位Wの比W/L(以下、「羽根の変位比W/L」と表記する。)を0.1以上とすると好ましい。
【0009】
一方、風車の帆材を、その開放端縁側に大きな弛みが生じる状態でスポーク及びリムに対して張ると、風車が風を受けたときの帆材が風下側に大きく膨らみすぎて、風車が回転する際の空気抵抗が大きくなり、風車の回転効率が低下するおそれがある。このため、帆材は、その開放端縁側に生じる弛みが大きくなりすぎないようにすることも重要である。具体的には、スポークの長さLに対する帆材の開放端縁の最大垂直変位Wの羽根の変位比W/Lを0.3以下に抑えると好ましい。羽根の変位比W/Lは、0.25以下であるとより好ましく、0.2以下であるとさらに好ましい。
【0010】
ここで、帆材の開放端縁の最大垂直変位Wとは、図4に示すように、帆材24の開放端縁24aにおいて風車20の中間面(スポーク22の中心線及びリム23の中心線を含む平面)から最も大きく変位させることができる特定点Pを風車20の一面側(同図の矢印Dを参照。)に引っ張った場合における前記中間面から特定点Pまでの距離(同図における線分PP’の長さ)である。図4は、帆材の開放端縁の最大垂直変位Wを説明する図である。
【0011】
また、本発明に係る発電用風車装置において、風洞路の断面積Sに対する帆材の垂直開口面積の和Sの比S/S(以下、「垂直開口比S/S」と表記する。)も、特に限定されない。しかし、垂直開口比S/Sが小さすぎると、帆材の開放端縁側の弛みを小さくしすぎた場合と同様の問題が生じるおそれがある。このため、垂直開口比S/Sは、0.05以上とすると好ましい。垂直開口比S/Sは、0.07以上とするとより好ましく、0.08以上とするとさらに好ましい。風速が強風域にある場合には、垂直開口比S/Sは、0.1以上とさらに高くした方が好ましい場合もある。
【0012】
一方、垂直開口比S/Sを大きくしすぎると、帆材の開放端縁の弛みを大きくしすぎた場合と同様の問題が生じるおそれがある。このため、垂直開口比S/Sは、0.3以下とすると好ましい。垂直開口比S/Sは、0.25以下とするとより好ましく、0.2以下とするとさらに好ましい。
【0013】
ここで、「帆材の垂直開口面積」とは、図4に示すように、帆材24の開放端縁24aにおいて風車20の中間面から最も大きく変位させることができる特定点Pを風車20の一面側に引っ張った場合において、帆材24の開放端縁24aと前記中間面とで形成される三角形(特定点Pを頂点とし、開放端縁24aの両端を結ぶ線分を底辺とする三角形)の面積であり、「帆材の垂直開口面積の和S」とは、その風車20における全ての帆材24についての垂直開口面積を足し合わせた値である。
【0014】
本発明に係る発電用風車装置において、風車のリムは、風車を囲むように略環状に配されたものであればよく、スポークごとに分断された形態(開環状)のものであってもよい。しかし、この場合には、風車が風を受けた際に、それぞれのスポークがぐらつきやすくなる等、風車の強度が低下するおそれがある。このため、リムは、その全体が連続した形態(閉環状)とした方が好ましい。また、リムは、多角環状等、非円環状としてもよいが、円環状に形成すると好ましい。このとき、それぞれの帆材は扇形状に形成する。これにより、風洞路の断面積Sに対する帆材の風受面積Sの断面閉塞比S/Sを大きく確保しやすくなる。この構成は、風洞体の風洞路を断面円形に形成する場合に特に好適に採用できる。
【0015】
また、本発明に係る発電用風車装置において、帆材(羽根)の枚数(以下、「風車の分割数」と呼ぶことがある。)は、風車の寸法等によっても異なり、特に限定されない。しかし、風車の分割数を少なくしすぎると、風車に当たった風が通り抜ける隙間(隣り合う帆材の隙間)の個数も少なくなって、風が風車を通り抜けにくくなり、風車の風上側に気流の乱れが生じて風車の回転に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、風車の分割数は、4以上とすると好ましい。風車の分割数は、6以上とするとより好ましい。
【0016】
一方、風車の分割数を多くしすぎると、風車に当たった風が通り抜ける隙間(隣り合う帆材の隙間)も個数も多くなって、風車の風下側に多数の気流が生じ、これらの気流が複雑に干渉し合うことで風車の風下側に気流の乱れが生じて風車の回転に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、風車の分割数は、20以下とすると好ましい。風車の分割数は、16以下とするとより好ましい。
【0017】
また、上記課題は、本発明に係る上記の発電用風車装置と、風車の回転力を電力に変換する電力変換装置とを備えたことを特徴とする発電装置を提供することによっても解決される。この発電装置は、風力発電装置としてだけでなく、波によって生じた気流で発電を行う波力発電装置としても好適に用いることができるものとなっている。特に、波力発電装置は、単振動する波(上昇・下降を繰り返す水位)によって向きが反転する気流を利用して発電するという発電原理から、本発明に係る発電用風車装置を好適に採用することができる。本発明に係る発電用風車装置は、上述した通り、風が風洞路のいずれの向きに流れても、風車が同じ方向に回転するからである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によって、羽根を密に配しても風車に当たった風が外方へ逃げることなく羽根の隙間を通り抜けるようにすることで、風車の回転効率を高めることができ、実用的な発電装置において好適に採用することのできる発電用風車装置を提供することが可能になる。また、この発電用風車装置を用いた発電装置を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の発電用風車装置を利用した発電装置を示した一部破断斜視図である。
図2】本発明の発電用風車装置を風車の回転軸に平行な方向から見た状態を示した図である。
図3】本発明の発電用風車装置における風車の帆材が正方向の気流を受けたときの状態と逆方向の気流を受けたときの状態とを図2におけるX−X面で切断した状態を示した断面図である。
図4】本発明の発電用風車装置における風車の帆材の開放端縁の最大垂直変位Wを説明する図である。
図5】実験1に使用した実験装置を説明する図である。
図6】実験1に使用した試料の風車タイプA〜Hを説明する図である。
図7】実験1において測定した試料1の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図8】実験1において測定した試料2の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図9】実験1において測定した試料3の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図10】実験1において測定した試料4の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図11】実験1において測定した試料5の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図12】実験1において測定した試料6の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図13】実験1において測定した試料7の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図14】実験1において測定した試料8の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図15】実験1において測定した試料9の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図16】実験1において測定した試料10の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図17】実験1において測定した試料11の周速比と効率との関係を示したグラフである。
図18】実験1において測定した試料12の周速比と効率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る発電用風車装置と、この発電用風車装置を用いた発電装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の発電用風車装置を利用した発電装置を示した一部破断斜視図である。図1において、風洞体10は、その中心線を通る平面で破断して描いている。図2は、本発明の発電用風車装置を風車20の回転軸(出力軸30)に平行な方向から見た状態を示した図である。図3は、本発明の発電用風車装置における風車20の帆材24が正方向の気流を受けたときの状態と逆方向の気流を受けたときの状態とを図2におけるX−X面で切断した状態を示した断面図である。
【0021】
本実施態様の発電装置は、図1に示すように、風洞体10及び風車20で構成された発電用風車装置と、出力軸30と電力変換装置40とを備えたものとなっている。風洞体10は、風の通り道となる風洞路11を有しており、風車20は、風洞体10の風洞路11内に回転可能な状態(風洞路11内を風が通るとその風力を受けて回転できる状態)で支持されている。風車20の中心部(後述するハブ21)は、出力軸30の一端に固定されており、風車20が回転するとこの出力軸30も回転するようになっている。出力軸30の他端には、出力軸30の回転力を電力に変換するための電力変換装置40が取り付けられている。以下、本実施態様の発電装置を構成する各構成につき、詳しく説明する。
【0022】
[風洞体]
風洞体10は、図1に示すように、風の通り道となる風洞路11を有する筒状のものとなっており、その一端10a及び他端10bが開放されたものとなっている。風洞路11は、風洞体10の一端10a側から他端10b側へ貫通して設けられている。このため、風洞体10の一端10a側から風洞路11内に風(図1の矢印A)が入った場合には、その風は風洞体10の他端10b側から排出され、風洞体10の他端10b側から風洞路11内に風(図1の矢印B)が入った場合には、その風は風洞体10の一端10a側から排出されるようになっている。
【0023】
本実施態様の発電装置において、風洞路11の出入口は、図1に示すように、真っ直ぐな筒状に形成された風洞体10の両端10a,10bで対向するように設けているが、これに限定されることなく、風洞体10の周壁に設けることもできる。また、風洞体10を湾曲又は屈曲した形状として、風洞路11の出入口を、風洞体10の両端や、その風洞体10の両端付近の周壁に設けることもできる。特に、風洞体10における出力軸30が延長される側(図1においては風洞体10の他端部10b側)には、電力変換装置40等の機器が設けられることが多く、これらの機器が風洞路11からの風の排出や風洞路11への風の導入の邪魔になるおそれもあるため、風洞路11における電力変換装置40等の機器が設けられる側の出入口は、電力変換装置40等に対向しないように設けると好ましい。例えば、後述する実験1で使用する実験装置(図5)における回転出力測定器60を電力変換装置40に置き換え、抵抗器90を削除した構成を採用すると好ましい。図5に示す風洞体10は、その他端10b側の周壁に突出する形に風洞路11の出入口が設けられている。また、このほか、電力変換装置40をコンパクトに設計して風洞体10内に配置し、風洞体10内における電力変換装置40が配された部分の風洞路11の直径を大きくして、風洞路11が電力変換装置40によって狭まらないようにする構成を採用することもできる。
【0024】
風洞体10の風洞路11の断面形状は、既に述べた通り、特に限定されないが、断面閉塞比S/Sを高くするためには、円形とすると好ましい。本実施態様の発電装置において、風洞体11は、真っ直ぐな円筒状となっており、風洞路11の断面形状は、風洞体10の一端10a側から他端10b側にかけて、同一形状及び同一寸法の円形としている。ただし、風洞路11の断面形状及び断面寸法は、風洞体10の一端10a側から他端10b側にかけて同一とする必要はなく、場所によって変えてもよい。例えば、風洞路11における風車20が配される部分周辺のみの断面形状を円形とし、他の部分を非円形とすることもできる。また、風洞体10の一端10a側や他端10b側をテーパー状に形成する等して、風洞路11における風車20の周辺に風が集まりやすくすることもできる。
【0025】
風洞体10の素材は、風洞として必要な強度を有するものであれば特に限定されないが、通常、鉄やステンレス鋼等の金属や、強化プラスチック等の高強度樹脂が採用される。風洞体10の表面には、発電装置の使用箇所等に応じて、防錆処理等の各種処理を施してもよい。
【0026】
[風車]
風車20は、図2に示すように、その回転中心となるハブ21と、ハブ21から放射方向に延びる複数本のスポーク22と、複数本のスポーク22の外端を結ぶように環状に設けられたリム23と、スポーク22とリム23によって張られた複数枚の帆材24とで構成されている。それぞれの帆材24の2辺は、スポーク22又はリム23によって支持された固定端縁となっており、残りの1辺は、スポーク22及びリム23のいずれにも支持されていない開放端縁24aとなっている。このため、それぞれの帆材は、風車20をその回転軸(出力軸30)に平行な方向から見ると略三角形状を為すようになっている。
【0027】
ハブ21は、風車20の回転中心となる部分となっており、その中心部には出力軸30が固定される。ハブ21の形態は、特に限定されないが、本実施態様の発電装置において、ハブ21は、厚さ1.3mmで直径が10mmの円盤状としている。ハブ21の素材は、必要な強度を付与できるものであれば特に限定されないが、通常、鉄やステンレス鋼等の金属や、強化プラスチック等の高強度樹脂や、木材等が採用される。本実施態様の発電装置において、ハブ21は、鉄製のものとなっている。ハブ21の表面には、防錆処理等の各種処理を施すこともできる。
【0028】
スポーク22は、帆材24の1辺を支持するとともに、ハブ21とリム23とを連結するための部分となっている。スポーク22は、通常、直線状とされ、本実施態様の発電装置においても、直線状としているが、断面閉塞比S/Sを大きく低下させない範囲であれば、湾曲又は屈曲させることもできる。スポーク22の素材は、必要な強度を付与できるものであれば特に限定されないが、通常、鉄やステンレス鋼等の金属や、強化プラスチック等の高強度樹脂や、木材等が採用される。本実施態様の発電装置において、スポーク22は、鉄製のものとなっている。スポーク22の表面には、防錆処理等の各種処理を施すこともできる。スポーク22の本数は、通常、帆材24の枚数(風車20の分割数)に一致される。
【0029】
リム23は、帆材24の1辺(外縁)を支持する部分となっている。リム23は、既に述べた通り、多角形状に設けることもできるが、断面閉塞比S/Sをできるだけ大きく確保するためには、円形とした方が好ましい。本実施態様の発電装置においても、リム23は、円形(円環状)となっている。さらにまた、リム23は、既に述べた通り、分断した形態(例えば、スポーク22ごとに分断した形態)で設けてもよいが、本実施態様の発電装置においては、風車20の強度を高めるために、連続した形態に設けている。リム23の素材は、必要な強度を付与できるものであれば特に限定されないが、通常、鉄やステンレス鋼等の金属や、強化プラスチック等の高強度樹脂や、木材等が採用される。本実施態様の発電装置において、リム23は、鉄製のものとなっている。リム23の表面には、防錆処理等の各種処理を施すこともできる。
【0030】
ところで、上述した、ハブ21、スポーク22及びリム23は、別個に形成したものを組み合わせて使用してもよいが、単一の部材で形成すると好ましい。これにより、ハブ21、スポーク22及びリム23からなる骨組の強度を向上するだけでなく、その骨組の製作コストを抑えることも可能になる。本実施態様の発電装置において、ハブ21、スポーク22及びリム23からなる骨組は、厚さ1.3mmの鉄板にレーザー加工等を施すことにより、一体的に切り出したものとなっている。
【0031】
帆材24は、風洞体10の風洞路11内を流れる風を受けるための部分となっており、扇形状(略三角形状)を為している。それぞれの帆材24は、風車20における隣り合うスポーク22とリム23とで区画される隙間を埋めるように、1本のスポーク22とリム23とによって張られた状態に設けられる。帆材24における残りの1辺(開放端縁24a)は、スポーク22及びリム23のいずれにも支持されておらず、僅かに弛みのある状態で張った状態となっている。このため、帆材24が風を受けると、その開放端縁24a側が風下側に膨らむようになっている。帆材24をスポーク22及びリム23に対して固定する方法は、特に限定されず、縫着、挟着、接着、ボルト留め若しくは釘留め又はこれらを組み合わせることができる。
【0032】
風洞体の風洞路の断面積Sに対する帆材(羽根)の風受面積Sの断面閉塞比S/Sは、0.9以上とされる。断面閉塞比S/Sは、0.93以上とするとより好ましく、0.95以上とするとさらに好ましい。本実施態様の発電装置において、断面閉塞比S/Sは、約0.96となっている。断面閉塞比S/Sは、0.97以上、0.98以上とさらに高めることもできるが、断面閉塞比S/Sを高くしすぎると、必然的に、風車20の直径が風洞体10の風洞路11の直径に近くなり、風車20が風洞体10に接触しやすくなるおそれがある。このため、断面閉塞比S/Sは、0.99以下に抑えると好ましい。
【0033】
また、羽根の変位比W/L(図4を参照)は、特に限定されないが、0.3以下に設定すると好ましく、0.25以下に設定するとより好ましく、0.2以下に設定するとさらに好ましい。既に述べた通り、羽根の変位比W/Lを大きくしすぎると、風車20の回転効率が低下するおそれがあるからである。一方、羽根の変位比W/Lの下限も、特に限定されないが、例えば風速が29m/s以上となる強風条件の場合には、羽根の変位比W/Lを0.1以上に設定すると好ましい。既に述べた通り、強風環境下において、羽根の変位比W/Lを小さくしすぎると、風車20の回転効率が低下するおそれがあるからである。本実施態様の発電装置において、羽根の変位比W/Lは、0.08〜0.2程度となっている。さらに、垂直開口比S/Sも、特に限定されないが、0.05〜0.3の範囲に設定すると好ましく、0.07〜0.25の範囲に設定するとより好ましく、0.1〜0.2の範囲に設定するとさらに好ましい。既に述べた通り、垂直開口比S/Sは、羽根の変位比W/Lと同様、小さすぎても大きすぎても、風車20の回転効率が低下するおそれがあるからである。本実施態様の発電装置において、垂直開口比S/Sは、0.05〜0.2程度となっている。
【0034】
帆材24の素材は、可撓性を有し、上記のように風下側に膨らむことができるものであれば特に限定されず、各種のシート(例えば、合成樹脂シートや布や金属フィルム等)を用いることができる。しかし、帆材24の強度が低いと、長期の使用に耐え得なくなるので、ある程度の強度が必要である。また、加工容易性や、その重量が軽い事や、耐食性や、入手コストも、帆材24の素材として、重要な条件である。これらの条件を満たす素材としては、合成樹脂シートが挙げられる。なかでも、合成樹脂繊維からなる編織地を合成樹脂で被覆した防水布(いわゆるターポリンなど)は、優れた強靭性を発揮するために好ましい。また、合成樹脂シート以外でも、例えば、炭素繊維からなる織物なども、優れた強靭性を発揮するために好ましい。帆材24の素材として何を採用するかは、その交換頻度などを考慮して、適宜決定する。本実施態様の発電装置においては、ポリエステル繊維からなる編織地を塩化ビニルで被覆したターポリンを帆材24として用いている。
【0035】
本実施態様の発電装置において、帆材24の枚数(風車20の分割数)は、6枚としているが、後で説明する「風車A」や「風車B」や「風車C」や「風車D」や「風車E」のように(図6を参照。)、適宜変更することもできる。風車20の製作の容易性や風車20の回転効率等を考慮すると、帆材24の枚数(風車20の分割数)は、4〜16枚程度とすると好ましく、4〜12枚程度とするとより好ましく、6〜8枚程度とするとさらに好ましいと考えられる。
【0036】
また、本実施態様の発電装置において、それぞれの帆材24の開き角(帆材24におけるスポーク23に支持される辺と開放端縁24aとが為す角度。以下同じ。)はいずれも60°弱となっており、全ての帆材24の開き角が一定となっているが、必ずしもそのようにする必要はなく、帆材24によって開き角を変化させてもよい。ただし、この場合においても、風車20が安定して回転できるように、できるだけ回転対称性を有するように帆材24を配する(例えば、開き角30°弱の帆材24と開き角60°弱の帆材24とを交互に配する等。)ことが好ましい。
【0037】
以上で述べた風車20は、そのいずれ側から風を受けても常に同じ向きに回転するものとなっている。すなわち、図3(a)に示すように、帆材24が正方向Aの気流(風)を受けると、風圧力fによって帆材24の開放端縁24a側が正方向A側へ押されて変位する一方、図3(b)に示すように、帆材24が逆方向Bの気流(風)を受けると、風圧力fによって帆材24の開放端縁24a側が逆方向B側へ押されて変位するようになっている。換言すると、帆材24が受ける風圧の向きが反転すると、それぞれの帆材24の傾斜(その回転面に対する傾斜)が反転するようになっている。したがって、帆材24が正方向の風圧fを受けた場合の風圧力fの回転面に平行な成分f’の向きと、帆材24が逆方向の風圧力fを受けた場合(図3(b)の場合)の風圧力fの回転面に平行な成分f’の向きとが、いずれも矢印Cの向きになるようになっており、図3(a)と図3(b)のいずれの場合においても、帆材24(羽根)は、矢印Cの向きに移動するようになっている。すなわち、風車20は、それが受ける風圧力の向きが反転した場合であっても矢印Cの向きに回転し続けるようになっている。
【0038】
[出力軸]
出力軸30(風車20の回転軸)は、図1に示すように、その一端側を風車20の回転中心(ハブ21の中心)に固定され、その他端側を電力変換装置40に接続されている。この出力軸30は、風を受けて回転する風車20の回転力を後述する電力変換装置40に伝達するためのものとなっている。出力軸30は、風洞体10の風洞路11における中心線からずれた位置に設けたり、当該中心線に対して傾斜した状態に設けたりすることもできるが、断面閉塞比S/Sをできるだけ大きく確保するという観点からは、出力軸30の中心線と風洞路11の中心線とが重なるように配すると好ましい。
【0039】
ところで、本実施態様の発電装置においては、風車20と電力変換装置40とを1本の出力軸30で直接的に連結しているが、電力変換装置40のレイアウトに制限がある等の理由で、風洞路11の中心線の延長線上に電力変換装置40を設けることができないような場合には、歯車やリンク機構等の動力伝達機構を介して間接的に連結してもよい。ただし、介在する動力伝達機構の数が増大すると、エネルギー損失が大きくなるため、その場合でも動力伝達機構の数を最小限に抑える工夫を施すと好ましい。
【0040】
[電力変換装置]
電力変換装置40は、風車20(出力軸30)の回転力を電力に変換できるものであれば特に限定されず、各種の発電機を採用することができる。
【0041】
[用途]
以上で述べた本実施態様の発電装置は、発電量が小さな小型発電装置から発電量が大きな大型発電装置に至るまで、各種の発電装置として使用することができる。本実施態様の発電装置は、風力発電装置としてだけでなく、波によって生じた気流で発電を行う波力発電装置としても好適に用いることができるものとなっている。風が風洞路11のいずれの向きに流れても風車20が同じ方向に回転する本実施態様の発電装置は、特に波力発電装置として好適に用いることができる。なかでも、波の上下運動を空気室(風洞体10の風洞路11)に送り込んで空気流を発生させ、その空気流で風車20を回転させるOWC(Oscillating Water Column)方式の波力発電装置として好適に用いることができる。
【0042】
[実験1]
本発明に係る発電用風車装置の回転効率を確認するため、図5に示す実験装置を用いて、以下の実験1を行った。図5は、実験1に使用した実験装置を説明する図である。図5に示す実験装置は、風洞体10と、風洞体10内の風洞路の略中間部で回転可能な状態で支持された風車20とからなる発電用風車装置を用いたものとなっている。風車20の中心部には、出力軸30の一端が固定されている。出力軸30の他端には、回転出力測定器60と、抵抗器90が取り付けられている。回転出力計測機(トルクメータ)60は、出力軸30の回転トルク及び回転数を計測するためのものとなっており、抵抗器90は、出力軸30に回転抵抗を付与するためのものとなっている。風洞体10は、その両端10a,10bが開放された筒状のものとなっており、その風洞路の断面が直径100mmの円形となっている。風洞体10の他端10b側の開放口は、風洞体10の周壁に設けている。風洞体10の一端10aには、ブロワー50の送風口が接続されている。ブロワー50は、インバータ制御可能なものとなっており、その送出風量を調節できるものとなっている。ブロワー50から送出された風は、風洞体10の一端10aから風洞体10内に導入され、風洞体10の他端10bから排出されるようになっている。
【0043】
以上の実験装置において、ブロワー50を駆動して風洞体10内に気流(風)を発生させ、風車20を回転させた際にトルクメータ60で計測される出力軸30の回転トルクを計測する実験を行った。風洞体10内の風洞路に発生させる風速は、14.5m/sと18.0m/sと29.0m/sの3通りについて試した。風洞路の風速は、風洞路内に風車20を設置しない状態で予め測定した数値を採用した。また、風洞路内に配する風車20は、下記表1に示す試料1〜12の12種類について試した。下記表1における風車タイプの「風車A」、「風車B」、「風車C」、「風車D」、「風車E」、「風車F」、「風車G」及び「風車H」については、図6に示す通りである。図6は、実験1に使用した試料の風車タイプA〜Hを説明する図である。図6に示す風車A〜Gのうち、風車A〜Gは、その羽根が帆材で形成されたもの(セイルウイング風車)となっており、風車Hは、回転ドラムの外周部に複数の剛性羽根が配置されたウェルズタービンとなっている。
【0044】
風車A〜Hのうち、セイルウイング風車である風車A〜Gのハブ、スポーク及びリムの素材及び寸法、並びに、帆材の素材は、いずれも、上記実施態様の発電装置で説明した風車20と同じものを採用している。また、ウェルズタービンである風車Hは、ABS樹脂製のものとなっており、その外径が98mm、ハブ直径が68mm、チップ(羽根):ハブ比が29:71、羽根の枚数が8枚、チップ(羽根)の断面形状が「NACA0021」、チップ(羽根)のアスペクト比が0.61、チップ(羽根)のソリディティが0.71のものとなっている。
【0045】
【表1】
【0046】
以上の実験1を行ったところ、試料1〜12につき、それぞれ、図7〜18のグラフに示す結果が得られた。図7〜18は、それぞれ、試料1〜12の周速比と効率との関係を示したグラフである。図7〜18のグラフにおける横軸の「周速比」は、風車の周速を風洞路内の風速で除して算出される値である。ここで、「風車の周速」とは、風車の外周上の特定点が単位時間当たりに移動する距離である。また、図7〜18のグラフにおける縦軸の「効率」は、回転出力計測機60で測定されたトルクと回転数から得られた出力値を、風洞路内を流れる風のエネルギーで除して算出される値である。
【0047】
まず、羽根を帆材により形成したセイルウイング風車において、断面閉塞比S/Sが効率にどのような影響を及ぼすかを検討するために、断面閉塞比S/Sが0.96の試料6についての測定結果(図14)と、断面閉塞比S/Sが0.83の試料10についての測定結果(図16)と、断面閉塞比S/Sが0.55の試料11についての測定結果(図17)とを比較した。試料6,10,11のいずれも、羽根が帆材からなるセイルウィング風車を用いたものとなっている。
【0048】
図14を見ると、試料6の効率は、最大で36〜37%にも達しており、最低でも20%以上となっていることが分かる。これに対し、図16を見ると、効率は、最大でも14%までしか達しておらず、図17を見ると、効率は、最大でも4%程度となっていることが分かる。加えて、試料6と同じセイルウィング風車を直径が106mmと大きめの風洞路内に配することによって断面閉塞比S/Sを0.82とし、同様の測定を行ったところ、試料10と同程度の効率しか出なかった。以上のことから、断面閉塞比S/Sを大きくすれば効率が高くなること、及び、断面閉塞比S/Sを0.9以上に設定すれば効率を顕著に向上させることができることが確認できた。
【0049】
続いて、垂直開口比S/Sが効率にどのような影響を及ぼすかを検討するために、風車タイプが同じで垂直開口比S/Sが異なる試料の測定結果を比較した。具体的には、風車タイプがいずれも「風車B」と同一で垂直開口比S/Sが異なる試料2(垂直開口比S/Sが0.08)及び試料3(垂直開口比S/Sが0.11)の測定結果(図8及び図9)を比較するとともに、風車タイプがいずれも「風車C」と同一で垂直開口比S/Sが異なる試料4(垂直開口比S/Sが0.08)、試料5(垂直開口比S/Sが0.10)、試料6(垂直開口比S/Sが0.18)及び試料7(垂直開口比S/Sが0.27)の測定結果(図10図11図12及び図13)を比較した。すると、風車タイプが「風車B」の場合(図8及び図9)と、風車タイプが「風車C」の場合(図10〜13)のいずれにおいても、広範囲な風速で平均的に高い効率を得るためには、垂直開口比S/Sが大きすぎても小さすぎてもよくないこと、及び、垂直開口比S/Sが0.08〜0.11程度の試料で効率が高くなることが確認できた。
【0050】
ただし、垂直開口比S/Sが0.08と小さい試料4であっても、風速を29.0m/sとした場合においては、効率が低下することが確認できた。試料4について風速を29.0m/sとした場合にこのような効率の低下が生じた理由は、垂直開口比S/Sが試料4に近い0.09である試料2においては、風速を29.0m/sとした場合においてもこのような効率低下がみられないことや、試料4において試料2と異なるのは羽根の変位比W/Lであることや、試料4と同様に羽根の変位比W/Lが低い試料9においても風速29.0m/sにおける効率が低いこと等を考慮すると、羽根の変位比W/Lの小ささが影響したためと推測される。具体的には、羽根の変位比W/Lが小さいにもかかわらず風速を速くすると、風洞路内における風車の周辺に効率低下に繋がる気流の乱れが生じると推測される。このことから、風速が速い場合において、高効率を維持するためには、羽根の変位比W/Lは、0.1よりも大きくした方が好ましいことが確認できた。
【0051】
続いて、セイルウィング風車において、風車の分割数が効率にどのような影響を及ぼすかを検討するために、断面閉塞比S/Sが0.96で等しく分割数が異なる試料1〜9の測定結果(図7〜15)を比較した。図7〜15を見比べると、風速が18.0m/s以下の場合には、風車の分割数が6又は8の試料2〜7のうち垂直開口比S/Sが小さめの試料2〜5の効率(図8〜11)が、他の試料1,6〜9(図7,12〜15)よりも概ね高くなることが分かる。また、風車の分割数が4と少ない試料1の風車の効率(図7)は、周速比が高めのときに最大となるが、風車の分割数が12の試料8の効率(図14)や、風車の分割数が16の試料9の効率(図15)は、周速比が低めのときに最大となっていることも分かる。これは、風車の分割数が少ないと、隣り合う帆材(羽根)の隙間の数も減って風車を風が通り抜けにくくなり、特に風速が低めで空気が風車を通り抜けにくいときに、風車の上流側で生じた気流の乱れが風車の回転抵抗を増大させるように作用するのに対し、風車の分割数が多いと、隣り合う帆材(羽根)の隙間の数が多くなったことによって風車の風下側に多数の気流が生じ、特に風速が高めで空気が風車をやや通り抜けすぎるときに、これらの気流が複雑に干渉し合うことで風車の風下側に気流の乱れが生じて風車の回転抵抗を増大させるように作用するためではないかと推測される。
【0052】
また、断面閉塞比S/Sが0.96で等しい試料1〜9の測定結果(図7〜15)を比較すると、風速が29.0m/sと速いときには、分割数が4〜6の試料1〜3の効率が、分割数が8〜16の試料4〜9の効率よりも高くなっていることも分かる。すなわち、風速が速い環境下で使用する場合には、風車の分割数は、4〜6程度と少なめに抑えた方が有利であることも分かった。このことは、風速が速い場合に羽根の変位比W/Lを小さくしすぎると効率の低下が発生するという上述した現象にも矛盾しないものとなっている。というのも、垂直開口比S/Sを抑えながら羽根の変位比W/Lをある程度確保しようとするなら、風車の分割数を少なく抑えるしか方法がないからである。
【0053】
さらに、実験1の結果からは、本発明の発電用風車装置に係る風車(試料1〜9)は、OWC方式の波力発電装置に用いられているウェルズタービン(試料12)との比較においては、14.5m/s、18.0m/s及び29.0m/sのいずれの風速においても、格段に優れた効率を発揮できることも分かった。ただし、本発明の発電用風車装置において、効率をより高くするためには、風速は、29.0m/sと速くした場合よりも、14.5m/sや18.0m/sとやや遅くした方が好ましいことも分かった。具体的には、本発明の発電用風車装置は、風速が25m/s以下の環境下で用いると好ましく、風速が20m/s以下の環境下で用いるとより好ましいと考えられる。風速の下限は、特に限定されないが、小さすぎても、風車の回転効率が低下することが予想されるため、本発明の発電用風車装置は、風速が5m/s以上の環境下で用いると好ましく、風速が10m/s以上の環境下で用いるとより好ましく、12m/s以上の環境下で用いるとさらに好ましいと考えられる。
【0054】
[実験2]
また、念のために、上記表1における試料1〜9の風車に対し、実験1とは逆方向に風を流した場合の各風車の挙動を確認する実験2を行った。その結果、試料1〜9のいずれの場合においても、実験1とは風向きが逆転したにも関わらず、実験1で回転した向きと同じ向きに風車が回転することが確認できた。
【符号の説明】
【0055】
10 風洞体
10a 風洞体の一端
10b 風洞体の他端
11 風洞路
20 風車
21 ハブ
22 スポーク
23 リム
24 帆材(羽根)
30 出力軸
40 電力変換装置
60 回転出力測定器
90 抵抗器
【要約】
【課題】
羽根を密に配しても風車に当たった風が外方へ逃げることなく羽根の隙間を通り抜けるようにすることで、風車の回転効率を高めることができ、実用的な発電装置において好適に採用することのできる発電用風車装置を提供する。
【解決手段】
発電用風車装置を、風の通り道となる風洞路11を有する風洞体10と、風洞体10の風洞路11内に回転可能な状態で支持された風車20とを備えたものとし、風車20を、回転中心となるハブ21と、ハブ21から放射方向に延びる複数本のスポーク23と、複数本のスポーク23の外端を結ぶように略環状に設けられたリム23と、略三角形状を為しその1辺がスポーク22及びリム23のいずれにも支持されていない開放端縁24aとされた複数枚の帆材24とで構成するとともに、風洞路11の断面積Sに対する帆材24の風受面積Sの比S/Sを0.9以上とした。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18