特許第5757370号(P5757370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5757370有機電界発光素子、有機EL照明および有機EL表示装置
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  • 特許5757370-有機電界発光素子、有機EL照明および有機EL表示装置 図000086
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757370
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子、有機EL照明および有機EL表示装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20150709BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20150709BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 401/04 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 215/04 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 209/86 20060101ALI20150709BHJP
   C07D 213/06 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   H05B33/22 B
   H05B33/14 A
   H05B33/12 C
   C09K11/06 690
   C07D401/14
   C07D401/04
   C07D215/04
   C07D403/14
   C07D209/86
   C07D213/06
【請求項の数】10
【全頁数】90
(21)【出願番号】特願2014-539740(P2014-539740)
(86)(22)【出願日】2013年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2013076591
(87)【国際公開番号】WO2014054596
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-220399(P2012-220399)
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-146649(P2013-146649)
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100129160
【弁理士】
【氏名又は名称】古館 久丹子
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】庄司 良子
(72)【発明者】
【氏名】野田 善宏
(72)【発明者】
【氏名】岡部 一毅
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敦史
【審査官】 越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157211(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/083588(WO,A1)
【文献】 特表2008−533674(JP,A)
【文献】 特開2009−227663(JP,A)
【文献】 特開2010−183072(JP,A)
【文献】 特開平10−153967(JP,A)
【文献】 特開2008−159367(JP,A)
【文献】 特開2011−253722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C07D 209/86
C07D 213/06
C07D 215/04
C07D 401/04
C07D 401/14
C07D 403/14
C09K 11/06
H05B 33/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極および前記陽極と前記陰極との間に形成された複数の発光層を含む有機電界発光素子であって、
前記複数の発光層は、前記陽極側から順に、湿式成膜法で形成された第一発光層と、真空蒸着法で形成された第二発光層とを含み、
前記第一発光層が、いずれも低分子化合物である、燐光発光材料と第一電荷輸送材料とを含有し、
前記第二発光層が、いずれも低分子化合物である、蛍光発光材料と第二電荷輸送材料とを含有し、
前記第二発光層の前記陰極側に隣接して正孔阻止層を有し、
前記正孔阻止層が、下記式(1)で表される化合物を含有する、有機電界発光素子。
【化1】
(式(1)中、XはCまたはNを表す。ArおよびArはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。mは0以上5以下の整数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】
(式(2)中、XはCまたはNを表す。Ar〜Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。nは0以上4以下の整数を表す。)
【請求項3】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、請求項2に記載の有機電界発光素子。
【化3】
(式(3)中、XはCまたはNを表す。Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
【請求項4】
前記式(3)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である、請求項3に記載の有機電界発光素子。
【化4】
(式(4)中、XはCまたはNを表す。Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
【請求項5】
前記式(1)〜(4)の少なくともいずれか1の式において、Arが芳香族炭化水素基である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機電界発光素子の発光スペクトルが、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のうち、少なくとも2つの領域に極大発光波長を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記陽極と前記発光層との間に正孔輸送層を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記正孔輸送層が湿式成膜法で形成された層である、請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL照明。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子と、該有機電界発光素子を含む、有機EL照明及び有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや照明などの発光装置として有機電界発光素子の開発が盛んに行われている。この有機電界発光素子は、電極間の有機薄膜に正負の電荷を注入、再結合により生じた励起状態を光として取り出すものである。
有機電界発光素子の発光効率を上げる目的で、蛍光(一重項励起子による発光)ではなく燐光(三重項励起子による発光)を用いた素子が検討されている。燐光を用いると、蛍光を用いた素子と比べて、効率が3倍程度向上すると考えられており、燐光分子としてユーロピウム錯体、白金錯体等を使用することが報告されている。しかしながら、従来の燐光分子を用いた有機電界発光素子は、高効率発光ではあるが、駆動安定性の点において実用には不十分であり、高効率かつ長寿命の素子の実現は困難であった。
【0003】
燐光の有機電界発光素子の場合には、その効率と寿命を高めるために、一般的に、発光層の陰極側に正孔阻止層が設けられる。これは励起子を発光層内に閉じ込めることで、その効率を上げることができ(特許文献1)、また、正孔による発光層よりも陰極側の層の劣化を防ぐことができ、その寿命が向上すると考えられるためである。正孔阻止層に用いる材料としては、例えばピリジン系化合物が好適に用いられる(特許文献2)。
【0004】
また、蛍光の有機電界発光素子の場合には正孔阻止層を形成させない方が、発光特性や寿命の低下を防止する場合がある(特許文献3)。また、駆動電圧の観点からも正孔阻止層を形成させない方が駆動電圧が低くなる場合も存在すると考えられる。
【0005】
一方、従来の蛍光灯等の白色照明の代替装置として、白色発光の有機電界発光素子についても検討がなされている。従来、この白色発光の有機電界発光素子を得る方法として、例えば、特許文献4には、発光層を2層とし、黄色〜赤色系の発光層に青色系の発光層を積層することによって、白色発光を得ることのできる有機電界発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2001−284056号公報
【特許文献2】日本国特開2012−033918号公報
【特許文献3】日本国特開2006−156848号公報
【特許文献4】日本国特開2008−159367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、異なる発光色を持つ2層の発光層を設けて白色発光を実現しようとする際には、蛍光発光材料と燐光発光材料を積層する場合がありえるが、このような構成の場合に、蛍光発光材料と燐光発光材料をどのように積層し、かつどのような正孔阻止層材料を用いるべきかについては十分な検討がなされていないのが実情であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、燐光発光材料を含有する発光層と蛍光発光材料を含有する発光層を積層して混色発光、好ましくは白色発光を実現する有機電界発光素子において、より優れた発光特性の実現が可能な発光層の構成を有し、かつ、駆動電圧の低電圧化が可能な正孔阻止層を有する有機電界発光素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の有機電界発光素子、有機EL照明および有機EL表示装置は、以下の<1>〜<10>の特徴を有する。
<1> 陽極、陰極および前記陽極と前記陰極との間に形成された複数の発光層を含む有機電界発光素子であって、前記複数の発光層は、前記陽極側から順に、湿式成膜法で形成された第一発光層と、真空蒸着法で形成された第二発光層とを含み、前記第一発光層が、いずれも低分子化合物である、燐光発光材料と第一電荷輸送材料とを含有し、前記第二発光層が、いずれも低分子化合物である、蛍光発光材料と第二電荷輸送材料とを含有し、前記第二発光層の前記陰極側に隣接して正孔阻止層を有し、前記正孔阻止層が、下記式(1)で表される化合物を含有する、有機電界発光素子。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、XはCまたはNを表し、ArおよびArはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。mは0以上5以下の整数を表す。)
<2> 前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、前記<1>に記載の有機電界発光素子。
【0012】
【化2】
【0013】
(式(2)中、XはCまたはNを表し、Ar〜Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。nは0以上4以下の整数を表す。)
<3> 前記式(2)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、前記<2>に記載の有機電界発光素子。
【0014】
【化3】
【0015】
(式(3)中、XはCまたはNを表し、Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
<4> 前記式(3)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である、前記<3>に記載の有機電界発光素子。
【0016】
【化4】
【0017】
(式(4)中、XはCまたはNを表し、Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
<5> 前記式(1)〜(4)の少なくともいずれか1の式において、Arが芳香族炭化水素基である、前記<1>乃至<4>のいずれか一に記載の有機電界発光素子。
<6> 前記有機電界発光素子の発光スペクトルが、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のうち、少なくとも2つの領域に極大発光波長を有する、前記<1>乃至<5>のいずれか一に記載の有機電界発光素子。
【0018】
<7> 前記陽極と前記発光層との間に正孔輸送層を有する、前記<1>乃至<6>のいずれか一に記載の有機電界発光素子。
<8> 前記正孔輸送層が湿式成膜法で形成された層である、前記<7>に記載の有機電界発光素子。
<9> 前記<1>乃至<8>のいずれか一に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL照明。
<10> 前記<1>乃至<8>のいずれか一に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低駆動電圧の混色発光、好ましくは白色発光の有機電界発光素子が提供される。
本発明の有機電界発光素子は、面発光体としての特徴を生かした白色光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源、カラーフィルター表示装置)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0022】
[語句の説明]
本発明において、単に「複素環」または「炭化水素環」と称した場合には、芳香族性を有する環および芳香族性を有しない環のいずれをも含むものとする。また、単に「芳香環」と称した場合には、炭化水素芳香環および複素芳香環のいずれをも含むものとする。
また、本発明において、「芳香環基」とは、「単環の芳香環に由来する基」、「2以上の環が縮合した縮合環に由来する基」の他、「これらの単環および/または縮合環の2以上が単結合を介して連結した基」も含むものとする。ここで、「○○環に由来する基」とは、結合数に相当する遊離原子価を有する○○環のことである。遊離原子価とは、有機化学・生化学命名法(上)(改定第2版、南江堂、1992年発行)に記載のとおり、他の遊離原子価と結合を形成できるものを言う。すなわち、例えば、「1個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニル基のことを言い、「2個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニレン基のことを言う。
また、本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1または2以上有していてもよいことを意味するものとする。
また、「(ヘテロ)アリール」とは、「アリール」と「ヘテロアリール」の両方を意味するものとする。また、「アリール基」とは、「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」の両方を意味するものとする。
また、本発明において「440nm〜500nm」と表記した場合は、440nm以上500nm未満を意味するものとする。
【0023】
<<有機電界発光素子>>
本発明の有機電界発光素子は、陽極、陰極および前記陽極と前記陰極との間に形成された複数の発光層を含む有機電界発光素子であって、前記複数の発光層は、前記陽極側から順に、湿式成膜法で形成された第一発光層(以下、「塗布発光層」と記載することがある。)と、真空蒸着法で形成された第二発光層(以下、「蒸着発光層」と記載することがある。)とを含み、前記塗布発光層が、いずれも低分子化合物である、燐光発光材料と第一電荷輸送材料とを含有し、前記蒸着発光層が、いずれも低分子化合物である、蛍光発光材料と第二電荷輸送材料とを含有し、前記蒸着発光層の前記陰極側に隣接して正孔阻止層を有し、前記正孔阻止層が、下記式(1)で表される化合物を含有することを特徴とするものである。
【0024】
【化5】
【0025】
(式(1)中、XはCまたはNを表し、ArおよびArはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。mは0以上5以下の整数を表す。)
【0026】
本発明における塗布発光層及び蒸着発光層においてそれぞれ、いずれも低分子化合物である、発光材料と第一又は第二電荷輸送材料(以下、「電荷輸送材料」と総じて称することがある。)とを用いることは、以下の理由による。
【0027】
高分子量の電荷輸送材料と、低分子量の発光材料とを含む発光層では、高分子量の電荷輸送材料において、高分子鎖でつながった電荷輸送ユニットの間隔を、電荷輸送あるいは励起子移動しやすい距離に制御することは非常に困難となる。
また、低分子量の電荷輸送材料を用いた湿式成膜および真空蒸着における膜密度は、高分子量の電荷輸送材料を用いた湿式成膜における膜密度よりも高くなり、塗布/蒸着界面における分子間の密着性が高くなるため、電荷の授受が容易になり電圧の低下に繋がる点においても好ましい。
このようなことから、本発明の有機電界発光素子においては、発光層の形成に用いる材料としては、全て低分子化合物を使用する。
本発明の有機電界発光素子は、更に、陽極と発光層との間に、正孔輸送層を有することが、陰極に最も近い発光層に十分な正孔を注入するために好ましい。
【0028】
[低分子化合物]
本発明の有機電界発光素子の発光層である塗布発光層及び蒸着発光層はそれぞれ、いずれも低分子化合物である、発光材料と第一又は第二電荷輸送材料とを含有することを特徴とする。
本発明における「低分子化合物」の分子量は、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
発光層の形成に用いる材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に長い時間を要したりする傾向がある。
【0029】
発光層の形成に用いる材料の分子量が上記範囲内であるとガラス転移温度や融点、分解温度等が高く、発光層の形成に用いる材料および形成された発光層の耐熱性が良好で、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし難く、素子性能が低下し難い点、また精製が容易である点などで好ましい。
本発明の有機電界発光素子の発光層が、発光材料および電荷輸送材料以外の化合物を含む場合、その化合物についても、分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、更に好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下、また、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、特に好ましくは400以上の範囲にある低分子化合物とすることが好ましい。
【0030】
[発光スペクトルの極大発光波長]
本発明の有機電界発光素子は、その発光スペクトルにおいて、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のうち少なくとも2つの領域に、極大発光波長を有することが好ましい。
このような本発明の有機電界発光素子を得る方法としては、発光層の形成に用いる発光材料を、有機電界発光素子の発光スペクトルが、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のうち少なくとも2つの領域に、極大発光波長を有するように、適宜選択して用いる方法がある。
【0031】
また、カラーフィルター、偏光板、位相差板、拡散板、および蛍光変換膜などを適用して、各領域に極大発光波長を有するように設計することもできるが、本発明の有機電界発光素子においては、有機電界発光素子の発光スペクトルが、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のそれぞれに極大発光波長を有するように、発光層に用いる発光材料を適宜選択して用いることが好ましい。
【0032】
[発光スペクトルの測定方法]
本発明の有機電界発光素子の発光スペクトルは、例えば、分光器USB4000(オーシャンオプティクス社製)を用いて測定することができる。
なお、上記と同等の測定が可能であれば、発光スペクトルの測定機器は上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよい。
【0033】
[発光層]
本発明における発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層であり、前述のように、陽極側から、いずれも低分子化合物である燐光発光材料と第一電荷輸送材料とを含有する塗布発光層と、いずれも低分子化合物である蛍光発光材料と第二電荷輸送材料をと含有する蒸着発光層とを含む。
【0034】
発光層を陽極側から順に、塗布発光層、蒸着発光層とを有することで、得られる発光層の膜質が均一となる。また、塗布発光層に燐光発光材料が含まれていると、高い効率を得ることができる。蒸着発光層に蛍光発光材料が含有されていると、十分な発光強度を得ることができる。さらに、燐光発光材料を含む塗布発光層上に蛍光発光材料を含む蒸着発光層が積層して発光層が形成されることにより、以下の作用機構で発光効率に優れた有機電界発光素子を実現することができる。
【0035】
即ち、まず、第一発光層として、燐光発光材料と第一電荷輸送材料を含む組成物を湿式成膜する。一般に燐光発光材料は、IrやPtなど原子量の大きな金属原子を含む錯体である。原子量の大きな金属原子を含む化合物が膜の最表面に存在しないほうが化学的な表面エネルギーが低く安定であるため、溶媒存在下では燐光発光材料は最表面にはほとんど存在しない状態となり、その結果、乾燥後の膜の最表面の極薄い領域には第一電荷輸送材料が多く存在することになると考えられる。
【0036】
この第一電荷輸送材料が多い領域が、その上に設けられる第二発光層(蒸着発光層)中の蛍光発光材料から、第一発光層中の燐光発光材料へのエネルギー移動をブロックすると考えられる。その結果、第一および第二発光層がいずれも十分に発光し、発光効率の高い有機電界発光素子が得られると考えられる。
なお、第二発光層(蒸着発光層)の発光材料として燐光発光材料を用いると、以下のような問題が生じる可能性があるため、本発明の有機電界発光素子では、蒸着発光層の発光材料として蛍光発光材料を用いる。
【0037】
前述したように、燐光発光材料は原子量の大きな金属原子を含む分子量の大きな分子であるため、真空蒸着により飛来した当該分子は大きな熱エネルギーを有している。第一発光層上に形成する第二発光層の発光材料として燐光発光材料を真空蒸着すると、大きな熱エネルギーを持った燐光発光材料分子が衝突することにより、第一発光層の表面が荒れることが考えられる。平坦性が損なわれた層表面(界面)は、層中に含まれる材料の凝集を促し、凝集体は電荷のトラップ形成の原因となる。
また、上述した本発明の素子の特色である、第一発光層表面の第一電荷輸送材料によるバリア機能が、蒸着により飛来した燐光発光材料分子により損なわれるため、第一発光層中の三重項エネルギーが第二発光層中に移動してしまい、第一発光層の発光が不十分となり、発光色のバランスが崩れるおそれがある。
【0038】
{発光材料}
<蛍光発光材料>
以下、発光材料のうち、蒸着発光層で用いる蛍光発光材料について説明する。
(1)440〜500nm領域(青)
440〜500nm領域に極大発光波長を有する、青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン、アリールアミンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。中でも、アントラセン、クリセン、ピレン、アリールアミンおよびそれらの誘導体等が好ましい。
【0039】
中でも、青の色純度が高く、高効率、長寿命な点で、スチリルアミン化合物およびアリールアミン化合物であることが好ましい。
スチリルアミン化合物としては、発光層中で正孔を効率的に捕獲する点で、下記式(A)で表されるものが好ましい。
【0040】
【化6】
【0041】
(式(A)中、Ar22はビフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基またはジスチリルアリール基であり、Ar23およびAr24は各々独立に、水素原子または炭素数が6〜20の芳香族基であり、Ar23およびAr24が複数存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。また、Ar22〜Ar24は置換基を有していてもよい。pは1〜4の整数である。)
【0042】
式(A)において、好ましくはAr23及びAr24の少なくとも一方がスチリル基で置換されている炭素数が6〜20の芳香族基である。
ここで、炭素数が6〜20の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ターフェニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0043】
また、アリールアミン化合物としては、発光層中で正孔を効率的に捕獲する点で、下記式(B)で表されるものが好ましい。
【0044】
【化7】
【0045】
(式(B)中、Ar25は置換もしくは無置換の核炭素数10〜40のアリール基であり、Ar26およびAr27は各々独立に、置換もしくは無置換の核炭素数5〜40のアリール基である。qは1〜4の整数である。)
【0046】
ここで、Ar25の核炭素数が10〜40のアリール基としては、例えば、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、クリセニル基、コロニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジフェニルアントリル基、カルバゾリル基、ベンゾキノリル基、フルオランテニル基、アセナフトフルオランテニル基、スチルベン基等が挙げられる。
【0047】
また、Ar26、Ar27の核炭素数が5〜40のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、クリセニル基、コロニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ピローリル基、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、オキサジアゾリル基、ジフェニルアントリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ベンゾキノリル基、フルオランテニル基、アセナフトフルオランテニル基、スチルベン基等が挙げられる。
【0048】
これらのアリール基が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基(エチル基、メチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(エトキシ基、メトキシ基、i−プロポキシ基、n−プロポキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、核原子数5〜40のアリール基、核原子数5〜40のアリール基で置換されたアミノ基、核原子数5〜40のアリール基を有するエステル基、炭素数1〜6のアルキル基を有するエステル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
本発明における青色発光を与える蛍光発光材料の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
【化8】
【0050】
【化9】
【0051】
上記青色発光を与える蛍光発光材料は、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0052】
(2)500〜580nm領域(緑)
500〜580nm領域に極大発光波長を有する、緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、Al(CNO)などのアルミニウム錯体およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0053】
(3)580〜630nm領域(赤)
580〜630nm領域に極大発光波長を有する、赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザベンゾチオキサンテン等のキサンテンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0054】
<燐光発光材料>
次に、発光材料のうち、塗布発光層で用いる燐光発光材料について説明する。
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または有機金属錯体が挙げられる。
【0055】
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウムまたは白金である。
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0056】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0057】
特に、燐光発光材料の燐光性有機金属錯体としては、好ましくは下記式(III)または式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
【化10】
【0059】
(式(III)中、Mは金属を表し、iは前記金属Mの価数を表す。また、LおよびL’はそれぞれ独立して二座配位子を表し、LおよびL’が複数存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。jは0、1または2の数を表す。)
【0060】
【化11】
【0061】
(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子または窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、窒素原子であるTに直接結合しているR94またはR95は存在しない。また、複数存在するTおよびR92〜R95は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0062】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0063】
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0064】
【化12】
【0065】
上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
該芳香族炭化水素基としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環由来の基が挙げられる。
具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
該芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
【0066】
具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0067】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表す。
該含窒素芳香族複素環基としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基が挙げられる。
具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0068】
環A1または環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アラルキル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;芳香族炭化水素基等が挙げられる。
また、式(III)中、二座配位子L’は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し、本明細書の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0069】
【化13】
【0070】
中でも、L’としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0071】
【化14】
【0072】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa)、(IIIb)または(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0073】
【化15】
【0074】
(式(IIIa)中、Mは式(III)におけるMと同様の金属を表し、wは前記金属Mの価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。環A1、環A2が複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0075】
【化16】
【0076】
(式(IIIb)中、Mは式(III)におけるMと同様の金属を表し、wは前記金属Mの価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。環A1、環A2が複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0077】
【化17】
【0078】
(式(IIIc)中、Mは式(III)におけるMと同様の金属を表し、wは前記金属Mの価数を表し、vは、0、1または2を表し、環A1および環A1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、環A2および環A2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。環A1、環A2、環A1’、環A2’が複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0079】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A1および環A1’の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0080】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2および環A2’の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジニル基等が挙げられる。
【0081】
上記式(IIIa)〜(IIIc)における環A1及び環A1’の芳香環基、環A2及び環A2’の含窒素芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;炭素数1〜12のアルキル基;炭素数1〜12のアルケニル基;炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基;炭素数1〜12のアルコキシ基;炭素数1〜24のアラルキル基;炭素数1〜12のアリールオキシ基;炭素数1〜24のジアルキルアミノ基;炭素数8〜24のジアリールアミノ基;5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
炭素数8〜24のジアリールアミノ基、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基、カルバゾリル基は、その基を構成するアリール部位にさらに置換基を有していてもよく、その置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜24のアラルキル基、炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基が挙げられる。
【0082】
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合することにより、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜24のアラルキル基、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、炭素数8〜24のジアリールアミノ基、カルバゾリル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜24のアラルキル基、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基、炭素数8〜24のジアリールアミノ基、カルバゾリル基である。5又は6員環の単環又は2〜4縮合環である芳香族炭化水素環基、炭素数8〜24のジアリールアミノ基、カルバゾリル基は、その基を構成するアリール部位にさらに置換基を有していてもよく、その置換基としては、先述したとおりである。
【0083】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL’として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、2−アリールピリジンに任意の置換基が結合したもの、および、2−アリールピリジンに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号に記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0084】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0085】
また、式(IV)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0086】
更に、Tが炭素原子の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は該Tに直接結合するR94またはR95は存在しない。
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0087】
以下に、燐光発光材料の具体例をその極大発光波長の存在する波長領域毎に示す。以下の燐光発光材料は、いずれも1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
(1)440nm〜500nm領域に極大発光波長を有する燐光発光材料(青)の具体例
【0088】
【化18】
【0089】
【化19】
【0090】
(2)500〜580nm領域に極大発光波長を有する燐光発光材料(緑)の具体例
【0091】
【化20】
【0092】
【化21】
【0093】
【化22】
【0094】
【化23】
【0095】
【化24】
【0096】
【化25】
【0097】
(3)580〜630nm領域に極大発光波長を有する燐光発光材料(赤)の具体例
【0098】
【化26】
【0099】
【化27】
【0100】
【化28】
【0101】
【化29】
【0102】
【化30】
【0103】
【化31】
【0104】
【化32】
【0105】
【化33】
【0106】
【化34】
【0107】
【化35】
【0108】
{塗布発光層}
本発明の有機電界発光素子では、湿式成膜法で形成された第一発光層(発光層のうち陽極側にある層)を塗布発光層とする。
即ち、前述したように、燐光発光材料は一般に分子量が大きい。仮に、当該第一発光層を真空蒸着プロセスにより形成した場合、蒸着により飛来した燐光発光材料の分子は、大きな熱エネルギーを有しており、蒸着工程の最終段階で層の最表面に付着した当該分子は、層表面を移動した後、当該分子同士が凝集し、安定化する。つまり最表層には、燐光発光材料分子の凝集体が、発光層内部と比べて多く存在していると考えられる。この凝集体が、第一発光層および第二発光層の両方に存在するエキシトンや電荷のトラップとなるため、素子の駆動電圧上昇や発光効率の低下を引き起こすものと考えられる。従って、第一発光層は塗布発光層とすることが好ましい。
【0109】
なお、蛍光発光材料は、概して燐光発光材料ほど分子量が大きくない。このため、蒸着工程により基板上に飛来・付着した蛍光発光材料の分子は、有している熱エネルギーが比較的小さく、層の最表面でもあまり移動しない(凝集体を形成する確率が低い)と考えられる。
【0110】
本発明において、「湿式成膜法」とは、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルプリンティング法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷等の、溶剤を含有するインクを用いて成膜する方法をいう。パターニングのし易さという点で、ノズルプリンティング法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法、グラビア印刷法またはフレキソ印刷法が好ましく、均一な膜質を得られる点でノズルプリンティング法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法が特に好ましい。
塗布発光層は、上記燐光発光材料および低分子量の第一電荷輸送材料と更に溶剤とを含有する発光層形成用組成物を用いて、上記湿式成膜法にて形成される。
【0111】
<溶剤>
塗布発光層を形成するための溶剤は、燐光発光材料および後掲の第一電荷輸送材料が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されない。
【0112】
溶剤の溶解性としては、常温・常圧下で、燐光発光材料および第一電荷輸送材料を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0113】
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0114】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0115】
溶剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.99重量部以下、より好ましくは99.95重量部以下、特に好ましくは99.90重量部以下である。発光層形成用組成物中の溶剤の含有量が上記下限を下回ると、粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、上記上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。なお、発光層形成用組成物として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0116】
<発光材料>
本発明においては、塗布発光層は、440〜500nm領域、500〜580nm領域、および580〜630nm領域のうちの少なくとも1つの領域に極大発光波長を有する層であることが好ましく、従って、塗布発光層は、特に、440〜500nm領域に極大発光波長を有する青色発光材料と、500〜580nm領域に極大発光波長を有する緑色発光材料と、580〜630nm領域に極大発光波長を有する赤色発光材料のうちの1種以上、特に、500〜580nm領域に極大発光波長を有する緑色発光材料と、580〜630nm領域に極大発光波長を有する赤色発光材料のうちいずれか一つを有することが好ましく、両方有することが更に好ましい。
【0117】
前述の如く、塗布発光層は、高い発光効率が得られる点から燐光発光材料を含有することが好ましい。特に塗布発光層は、赤色燐光発光材料および/又は緑色燐光発光材料とを含有することが好ましい。
これは、エネルギーギャップの狭い、赤色から緑色の発光材料を含む層を陽極側に配置することで、エネルギーギャップの広い青色発光材料から発光層の陽極側に隣接する層(例えば、正孔輸送層)へのエネルギーの移動を抑制することによる。
本発明における発光層形成用組成物は、発光材料を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有する。
【0118】
<第一電荷輸送材料>
本発明における塗布発光層は、第一電荷輸送材料を含有する。
第一電荷輸送材料とは、正孔輸送性や電子輸送性などの電荷輸送性を有する化合物であって、単一の分子量で規定される化合物である。本発明に係る発光層は、発光材料をドーパント材料とし、第一電荷輸送材料をホスト材料として含むことが好ましい。
第一電荷輸送材料は、従来有機電界発光素子の発光層に用いられている低分子量化合物であればよく、特に発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0119】
第一電荷輸送材料として具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、スチリル系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等が挙げられる。
また、第一電荷輸送材料は、正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物とに大別される。
【0120】
(正孔輸送性化合物)
塗布発光層には、その構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(日本国特開平5−234681号公報)、4,4’,4’’−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)等が挙げられる。
なお、塗布発光層において、正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0121】
(電子輸送性化合物)
塗布発光層には、その構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2’’−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。
【0122】
なお、塗布発光層において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
尚、上記第一電荷輸送材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。特に、2種以上を組み合せる時は、前記正孔輸送性化合物と電子輸送性化合物とを併用することが好ましい。
【0123】
特に、塗布発光層に、赤色燐光発光材料および緑色燐光発光材料を含む場合は、第一電荷輸送材料としては、芳香族アミン系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、シロール系化合物が挙げられる。
以下に、本発明に好適な第一電荷輸送材料の具体例を挙げるが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0124】
【化36】
【0125】
【化37】
【0126】
【化38】
【0127】
【化39】
【0128】
【化40】
【0129】
本発明における発光層形成用組成物は、第一電荷輸送材料を通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有する。
また、発光層形成用組成物中の発光材料と第一電荷輸送材料との含有量の比(発光材料/第一電荷輸送材料)は、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、また通常0.5以下、好ましくは0.3以下である。
【0130】
<その他の成分>
本発明における発光層形成用組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、さらに後述する正孔輸送層や正孔注入層由来の成分、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物や電子供与性化合物などの電荷輸送補助剤、バインダ樹脂などを含有してもよい。なお、これらその他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0131】
また、これらその他の成分の含有量は、形成される薄膜(塗布発光層)の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、薄膜の膜質を低下させないこと等の観点から、塗布発光層中の含有量として通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%(含有しない)である。
なお、本発明の効果の観点からは、発光層形成用組成物に含まれる発光材料及び第一電荷輸送材料のみならず、塗布発光層に含まれる全ての材料が低分子化合物であることが好ましい。
【0132】
{蒸着発光層}
本発明の有機電界発光素子では、真空蒸着法で形成された第二発光層(発光層のうち、陽極側から第一発光層を介して形成された層)を蒸着発光層とする。
本発明において、「真空蒸着法」とは、真空で化合物を蒸発させて層を形成する方法を言う。
【0133】
その真空度としては、真空蒸着機内の残存気体分子への衝突の防止と、蒸着材料の蒸発温度を下げて蒸発を容易にするため、通常10−2Pa以下10−6以上であり、10−3Pa以下10−5以上が好ましい。
本発明において、蒸着発光層は、蒸着の容易さの観点から、蛍光発光材料を含有する層とする。また、蒸着発光層は、特に440〜500nm領域に極大発光波長を有する青色発光材料を少なくとも含むことが好ましい。
【0134】
<第二電荷輸送材料>
本発明における蒸着発光層は、発光材料の他に、通常第二電荷輸送材料を含有する。
蒸着発光層に含有される第二電荷輸送材料は、本発明の効果を損わない限り特に制限はなく、公知の低分子量材料を用いることができる。
特に、蒸着発光層に、青色蛍光発光材料を含有する場合、耐久性に優れる点から、下記式(VI)で表される化合物を第二電荷輸送材料として用いることが特に好ましい。
【0135】
【化41】
【0136】
(式(VI)中、Ar1AおよびAr1Bは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。また、式(VI)中のアントラセン環は、Ar1A、Ar1B以外の置換基を有していてもよい。)
【0137】
Ar1AおよびAr1Bの芳香族炭化水素基の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、ベンゾフェナントレン環等のベンゼン環、或いは、ベンゼン環の2〜5個が縮合してなる縮合環由来の基、およびこれらの基が2以上連結してなる炭素数25以下の基が挙げられる。
Ar1AおよびAr1Bの芳香族複素環基の具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の基が挙げられる。
【0138】
Ar1AおよびAr1Bにおける芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルコキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、アルキルチオ基、(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基、ジアリールアミノ基などの有機基が挙げられるが、これらのうち、アルキル基および芳香族炭化水素基が、化合物の安定性の面から好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。
【0139】
Ar1AおよびAr1Bにおける芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としてのアルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。これらのうち、メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましい。
【0140】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜25のものが好ましく、6員環の単環または2〜5縮合環由来の芳香族炭化水素基が好ましい。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等の由来の基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の基が挙げられる。
【0141】
アルコキシ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
(ヘテロ)アリールオキシ基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントリルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0142】
アルキルチオ基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。(ヘテロ)アリールチオ基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントリルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
ジアルキルアミノ基としては、炭素数2〜29のものが好ましく、例えば、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチルエチルアミノ基等が挙げられる。
【0143】
アルキルアリールアミノ基としては、炭素数7〜30のものが好ましく、例えば、メチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
ジアリールアミノ基としては、炭素数12〜30のものが好ましく、例えば、ジフェニルアミノ基、フェニルナフチルアミノ基等が挙げられる。
また、これらの置換基は更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば上記のアルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルコキシ基、ジアリールアミノ基などが挙げられる。ただし、該置換基同士が結合して環を形成する場合は除く。
以下に、蒸着発光層に含まれる第二電荷輸送材料の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
【化42】
【0145】
【化43】
【0146】
上記第二電荷輸送材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0147】
<その他の成分>
本発明における蒸着発光層は、本発明の効果を損わない限り、その他の成分を含んでいてもよい。含んでいてもよいその他の成分は、前記{塗布発光層}の<その他の成分>の項で記載したものと同様である。
【0148】
<成分含有量>
本発明における蒸着発光層は、発光材料を通常0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.01重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下含有する。
また、本発明における蒸着発光層は、第二電荷輸送材料を通常0.001重量%以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.995重量%以下、さらに好ましくは99.99重量%以下含有する。
【0149】
また、蒸着発光層中の発光材料と第二電荷輸送材料との含有量の比(発光材料/第二電荷輸送材料)は、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、また通常0.5以下、好ましくは0.2以下である。
本発明における蒸着発光層がその他の成分を含む場合、当該成分は、形成される薄膜(蒸着発光層)の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、薄膜の膜質を低下させないこと等の観点から、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%(含有しない)である。
なお、本発明の効果の観点からは、蒸着発光層に含まれる発光材料及び第二電荷輸送材料のみならず、当該発光層に含まれる全ての材料が低分子化合物であることが好ましい。
【0150】
[中間層]
本発明の有機電界発光素子においては、塗布発光層と蒸着発光層の間には、塗布発光層と蒸着発光層との間のエネルギー移動を抑制することを目的として、電荷輸送材料を用いて真空蒸着法で積層された非発光性の中間層を用いてもよい。
【0151】
{膜厚}
本発明に係る発光層において、前記塗布発光層の膜厚は、2〜100nmの範囲にあることが好ましく、特に3〜60nmの範囲にあることが、得られる素子の駆動電圧を低くすることができる点で好ましい。
また、蒸着発光層の膜厚は、2〜100nmの範囲にあることが好ましく、特に3〜60nmの範囲にあることが、得られる素子の駆動電圧を低くすることができる点で好ましい。
【0152】
本発明に係る発光層の全膜厚(即ち、塗布発光層と蒸着発光層と更に中間層を含む場合はその中間層も入れた合計の膜厚)は、5〜100nmの範囲にあることが好ましく、特に10〜80nmの範囲にあることが、得られる素子の駆動電圧が低く、また発光色の安定性の点で好ましい。
【0153】
[正孔阻止層]
本発明における正孔阻止層は、前述のように、陽極から注入された正孔を発光層内に閉じ込めることで素子の効率を向上させるとともに、陰極側に正孔が流れることによる劣化を防ぐために設けられる層であり、第二発光層の陰極側に隣接している。以下、本発明における正孔阻止層が含有する化合物について説明する。
【0154】
[式(1)で表される化合物]
正孔阻止層が含有する本発明の化合物は、下記式(1)で表される。
【0155】
【化44】
【0156】
(式(1)中、XはCまたはNを表す。ArおよびArはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。mは0以上5以下の整数を表す。)
【0157】
[1]構造上の特徴
上記式(1)で表される本発明の化合物は、キノリン環又はキナゾリン環に芳香環基であるAr及びArが置換し、さらにRをm個置換させた構造を有することを特徴とする。この構造を有することにより、本発明の化合物は、ピリジン環又はピリミジン環を有する化合物に比べ、キノリン環又はキナゾリン環を中心とした、比較的広がった最低空軌道(LUMO)を有するため、電荷はキノリン環又はキナゾリン環を中心としてより非局在化して分布することとなる。
このような電荷分布を実現することにより、隣接発光層への電子授与が円滑になることで駆動電圧の低下に寄与し、隣接する蛍光発光材料が消光し難くなることで発光効率の向上に寄与し、有機電界発光素子の耐久性を高める機能を奏するものと推測される。
また、キノリン環またはキナゾリン環の4位に芳香環基Arを置換させた構造が、その環の分解を抑えるために、有機電界発光素子の耐久性を向上させるものと推測される。また、本発明の化合物においては、キノリン環の方がキナゾリン環より好ましい。
【0158】
[2]式(1)における各構成要素
以下に上記式(1)における各構成要素について詳細に説明する。
<ArおよびArについて>
式(1)中のArおよびArは置換基を有していてもよい芳香環基を表す。
ArおよびArの芳香環基としては炭素数3以上25以下のものが好ましく、具体的に芳香環基の例としては、フェニル基;3−ビフェニル基、4−ビフェニル基などのビフェニル基;ターフェニル基;1−ナフチル基、2−ナフチル基などのナフチル基;1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基などのアントリル基;9−フェナントリル基などのフェナントリル基;1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基などのナフタセニル基;1−クリセニル基、2−クリセニル基、3−クリセニル基、4−クリセニル基、5−クリセニル基、6−クリセニル基などのクリセニル基;1−ピレニル基などのピレニル基;1−トリフェニレニル基などのトリフェニレニル基;1−コロネニル基などのコロネニル基等の芳香族炭化水素基;2−ピリジル基などのピリジル基;2−チエニル基などのチエニル基;3−ベンゾチエニル基などのベンゾチエニル基;2−キノリニル基などのキノリニル基等の芳香族複素環基が挙げられ、特に芳香族炭化水素基が好ましい。
【0159】
化合物の安定性の面から、ArおよびArとしてはフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基、2−ナフチル基、9−フェナントリル基、9−アントリル基が好ましく、フェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基、2−ナフチル基が化合物の精製のし易さから特に好ましく、フェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基が最も好ましい。
【0160】
また、ArおよびArは置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基、炭素数3〜20の芳香族複素環基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基、ジフェニルアミノ基などのジアリールアミノ基が挙げられる。これらの基はさらに置換基を有していてもよく、その具体例としては、ArおよびArの置換基として例示したものと同様である。Arが有する置換基としてはアルキル基および芳香族炭化水素基が、化合物の安定性の面から好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。
【0161】
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基である。これらのうち、メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましい。
【0162】
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数6〜25の芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基;1−ナフチル基、2−ナフチル基などのナフチル基;1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基などのアントリル基;9−フェナントリル基などのフェナントリル基;1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基などのナフタセニル基;1−クリセニル基、2−クリセニル基、3−クリセニル基、4−クリセニル基、5−クリセニル基、6−クリセニル基などのクリセニル基;1−ピレニル基などのピレニル基;1−トリフェニレニル基などのトリフェニレニル基;1−コロネニル基などのコロネニル基;4−ビフェニル基、3−ビフェニル基などのビフェニル基;オルト−ターフェニル基、メタ−ターフェニル基、パラ−ターフェニル基などのターフェニル基等が挙げられる。これらのうち、化合物の安定性の面からフェニル基、2−ナフチル基、9−フェナントリル基、9−アントリル基、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基が好ましく、化合物の精製のし易さからフェニル基、2−ナフチル基、3−ビフェニル基が特に好ましい。
【0163】
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数3〜20の芳香族複素環基の例としては、2−チエニル基などのチエニル基、2−フリル基などのフリル基、2−イミダゾリル基などのイミダゾリル基、9−カルバゾリル基などのカルバゾリル基、2−ピリジル基などのピリジル基、1,3,5−トリアジン−2−イル基などのトリアジン−イル基等が挙げられる。中でも9−カルバゾリル基が化合物の安定性の面から好ましい。
【0164】
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数1〜20のアルキルオキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントリルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0165】
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数1〜20のアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
ArおよびArが有していてもよい置換基としての炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントリルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
ArおよびArがこれらの置換基を有する場合、その置換位置には特に制限はないが、例えばArがフェニル基の場合、キノリン環またはキナゾリン環への置換位置に対してパラ位またはメタ位であることが好ましい。
【0166】
<Rおよびmについて>
式(1)中のRは、キノリン環またはキナゾリン環に結合する置換基であり、mは環に置換するRの数を表す。mは0以上5以下、好ましくは0以上2以下、特に好ましくは0以上1以下の整数であり、mが0とは、Rがその環に置換しないことを意味する。また、mが2以上のとき、その環に置換する複数のRは同一であっても異なっていてもよい。
式(1)中のRは炭素数50以下の有機基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Rの有機基の炭素数は、置換基を有する場合はその置換基も含めて通常50以下であり、好ましくは30以下である。
【0167】
の有機基の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基、炭素数3〜20の芳香族複素環基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基が挙げられる。Rとしては、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が、化合物の安定性の面から好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。
【0168】
の有機基としての炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基である。これらのうち、メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましい。
【0169】
の有機基としての炭素数6〜25の芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基;1−ナフチル基、2−ナフチル基などのナフチル基;1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基などのアントリル基;9−フェナントリル基などのフェナントリル基;1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基などのナフタセニル基;1−クリセニル基、2−クリセニル基、3−クリセニル基、4−クリセニル基、5−クリセニル基、6−クリセニル基などのクリセニル基;1−ピレニル基などのピレニル基;1−トリフェニレニル基などのトリフェニレニル基;1−コロネニル基などのコロネニル基等が挙げられる。これらのうち、化合物の安定性の面からフェニル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、9−アントリル基、9−フェナントリル基が好ましく、化合物の精製のし易さからフェニル基、2−ナフチル基が特に好ましい。
【0170】
の有機基としての炭素数3〜20の芳香族複素環基の例としては、2−チエニル基などのチエニル基、2−フリル基などのフリル基、2−イミダゾリル基などのイミダゾリル基、9−カルバゾリル基などのカルバゾリル基、2−ピリジル基などのピリジル基、1,3,5−トリアジン−2−イル基などのトリアジン−イル基等が挙げられる。中でも9−カルバゾリル基が化合物の安定性の面から好ましい。
【0171】
の有機基としての炭素数1〜20のアルキルオキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基が高いガラス転移温度の面から好ましい。
の有機基としての炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アントリルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。中でも、フェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基、2−ナフチルオキシ基が化合物の精製の容易さの面から好ましく、3−フェノキシフェノキシ基が特に好ましい。
【0172】
の有機基としての炭素数1〜20のアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。中でも、メチルチオ基、エチルチオ基が高いガラス転移温度の面から好ましい。
の有機基としての炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントリルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
これらの有機基はさらに置換基を有していてもよく、その置換基としては、前述のArの置換基として例示したものが挙げられる。
【0173】
[3]式(2)で表される化合物
前記式(1)で表される化合物の中でも、特に下記式(2)で表される化合物が好ましい。これは、キノリン環またはキナゾリン環に置換した芳香環基数が増えたことで、最低空軌道(LUMO)が広がることにより、隣接発光層へ電子がスムーズに流れるようになったとともに、化合物のガラス転移点が高くなり、耐熱性が向上したものと推測される。
【0174】
【化45】
【0175】
(式(2)中、XはCまたはNを表す。Ar〜Arはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。nは0以上4以下の整数を表す。)
【0176】
<Ar、ArおよびArについて>
式(2)中のAr、ArおよびArは、それぞれ前記式(1)におけるArと同義である。Ar、Ar、およびArの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基は、それぞれ前記式(1)のArの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基と同じである。
【0177】
<Rおよびnについて>
式(2)中のRは、前記式(1)におけるRと同義である。Rの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基は、前記式(1)のRの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基と同じである。
式(2)中、nはキノリン環またはキナゾリン環に置換するRの数を表す。nは0以上4以下、好ましくは0以上2以下、特に好ましくは0以上1以下の整数であり、nが0とは、Rがその環に置換しないことを意味する。また、nが2以上のとき、その環に置換する複数のRは同一であっても異なっていてもよい。
【0178】
[4]式(3)で表される化合物
前記式(2)で表される化合物の中でも、特に下記式(3)で表される化合物が好ましい。これは、非共有電子対をもつ窒素原子が芳香環基Ar21およびAr22で置換された構造が高い正孔親和性を有し、化合物の最高被占軌道(HOMO)が窒素原子を中心とした周辺に広がっていることにより、正孔に対する耐久性が向上したものと推測される。
【0179】
【化46】
【0180】
(式(3)中、XはCまたはNを表す。Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
【0181】
<Ar、Ar、Ar21およびAr22について>
式(3)中のAr、Ar、Ar21およびAr22は、それぞれ前記式(1)におけるArと同義である。Ar、Ar、Ar21およびAr22の具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基は、それぞれ前記式(1)のArの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基と同じである。
【0182】
<Rおよびnについて>
式(3)中のRおよびnは、それぞれ前記式(2)におけるRおよびnとそれぞれ同義である。Rの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基は、前記式(2)のRの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基と同じである。
【0183】
<Lについて>
式(3)中のLは、単結合もしくは置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。炭素数25以下の芳香環基の具体例としては、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基、炭素数3〜25の芳香族複素環基が挙げられ、特に、芳香族炭化水素基が化合物の安定性の面から好ましい。
【0184】
の炭素数6〜25の芳香族炭化水素基の例としては、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基などのフェニレン基;1,6−ナフチレン基などのナフチレン基;3,9−フェナントリレン基などのフェナントリレン基;2,6−アントリレン基、9,10−アントリレン基などのアントリレン基;1,6−ピレニレン基などのピレニレン基;2,7−トリフェニレニレン基などのトリフェニレニレン基;4,4’−ビフェニレン基、3,3’−ビフェニレン基、4,3’−ビフェニレン基などのビフェニレン基等が挙げられる。中でも、化合物の安定性の面から1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、3,3’−ビフェニレン基、4,3’−ビフェニレン基、1,6−ナフチレン基が好ましく、化合物の精製の容易さの面から1,3−フェニレン基、3,3’−ビフェニレン基、1,6−ナフチレン基が特に好ましい。
【0185】
の炭素数3〜25の芳香族複素環基の例としては、2,5−チエニレン基などのチエニレン基、2,5−フリレン基などのフリレン基、2,6−ピリジレン基などのピリジレン基、2,6−キノリレン基などのキノリレン基等が挙げられる。中でも2,6−ピリジレン基、2,6−キノリレン基が化合物の安定性の面から好ましい。
の有していてもよい置換基は、前記式(1)のArの有していてもよい置換基と同じである。
【0186】
[5]式(4)で表される化合物
前記式(3)で表される化合物の中でも、特にArがキノリン環またはキナゾリン環の6位に置換した下記式(4)で表される化合物が好ましい。
これは、キノリン環またはキナゾリン環の6位に芳香環基Arが存在することで、さらに最低空軌道(LUMO)が広がることにより、より隣接発光層へ電子がスムーズに流れるようになったとともに、電子に対する耐久性が向上したものと推測される。
【0187】
【化47】
【0188】
(式(4)中、XはCまたはNを表す。Ar、Ar、Ar21およびAr22はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環基を表す。またAr21とAr22は結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数50以下の有機基を表し、Rが複数存在する場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Lは、単結合または置換基を有していてもよい炭素数25以下の芳香環基を表す。nは0以上4以下の整数を表す。)
【0189】
<Ar、Ar、Ar21、Ar22、R、Lおよびnについて>
式(4)中のAr、Ar、Ar21、Ar22、R、Lおよびnは、それぞれ前記式(3)におけるAr、Ar、Ar21、Ar22、R、Lおよびnと同義である。Ar、Ar、Ar21、Ar22、RおよびLの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基は、それぞれ前記式(3)におけるAr、Ar、Ar21、Ar22、R、Lおよびnの具体例、好ましい例およびその有していてもよい置換基と同じである。
【0190】
[6]分子量について
本発明の式(1)で表される化合物の分子量の上限は、通常7000以下であり、化合物の精製の容易さを考えた場合、好ましくは5000以下であり、特に好ましくは3000以下、昇華精製による高純度化を考慮した場合、最も好ましくは1500以下である。
また、本発明の式(1)で表される化合物の分子量の下限は、通常100以上であり、化合物の熱的安定性を考慮した場合、好ましくは500以上である。
【0191】
[7]ガラス転移温度
本発明の式(1)で表される化合物は、通常100℃以上のガラス転移温度を有するが、耐熱性の観点から120℃以上であることが好ましい。
【0192】
[8]例示化合物
本発明の式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明の化合物は以下の例示化合物に限定されるものではない。以下の例示化合物においては、XはCまたはNを表す。
【0193】
【化48】
【0194】
【化49】
【0195】
【化50】
【0196】
[有機電界発光素子の層構成]
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0197】
{基板}
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0198】
{陽極}
陽極2は、発光層5側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0199】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0200】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0201】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
【0202】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5側の層へ正孔を注入する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0203】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0204】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層3の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層3に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0205】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0206】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのものおよび芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0207】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0208】
【化51】
【0209】
(式(I)中、Ar’およびAr’は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar’〜Ar’は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Zは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar’〜Ar’のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0210】
【化52】
【0211】
(上記各式中、Ar〜Ar16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
【0212】
Ar’〜Ar’およびAr〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0213】
Ar’〜Ar’およびAr〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
およびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0214】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号に記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
尚、正孔輸送性化合物は、下記{正孔輸送層}の項に記載の架橋性化合物であってもよい。該架橋性化合物を用いた場合の成膜方法についても同様である。
【0215】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0216】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層3の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上である化合物がさらに好ましい。
【0217】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);塩化鉄(III)(日本国特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(日本国特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0218】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層3の導電率を向上させることができる。
正孔注入層3或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0219】
(その他の構成材料)
正孔注入層3の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0220】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層3の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上がより好ましく、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎて膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0221】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0222】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イソプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0223】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0224】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0225】
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0226】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0227】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板1の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0228】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0229】
{正孔輸送層}
正孔輸送層4は、正孔注入層3がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層4を省いた構成であってもよいが、前述の如く、本発明の有機電界発光素子は正孔輸送層を有することが好ましい。
【0230】
正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0231】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層4の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0232】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0233】
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ar又はArが異なっているものであってもよい。
【0234】
【化53】
【0235】
(式(II)中、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。)
【0236】
ArおよびArの置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0237】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0238】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニレン基)が好ましい。
【0239】
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
ArおよびArにおける芳香族炭化水素基および芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0240】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(V−1)および/又は下記式(V−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0241】
【化54】
【0242】
(式(V−1)中、R、R、RおよびRは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。tおよびsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のR又はRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。)
【0243】
【化55】
【0244】
(式(V−2)中、RおよびRは、各々独立に、上記式(V−1)におけるRと同義である。rおよびuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。X’は、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
【0245】
X’の具体例としては、−O−、−BR−、−NR−、−SiR−、−PR−、−SR−、−CR−又はこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0246】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(V−1)および/又は前記式(V−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(V−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0247】
【化56】
【0248】
(式(V−3)中、Ar〜ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。v’およびw’は、各々独立に0又は1を表す。)
【0249】
Ar〜ArおよびArの具体例としては、前記式(II)における、Arと同様である。
上記式(V−1)〜(V−3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、日本国特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0250】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0251】
真空蒸着法により正孔輸送層4を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0252】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン基、エポキシ基などの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル基、シンナモイル基等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0253】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(V−1)〜(V−3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0254】
架橋性基を有する正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0255】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤などが挙げられる。
またさらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂などを含有していてもよい。
【0256】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0257】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0258】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。
光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。
照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0259】
加熱および光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0260】
{発光層}
正孔注入層3の上、又は正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
この発光層5については、前述の[発光層]の説明が適用される。
【0261】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設ける。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。この正孔阻止層6については、前述の[正孔阻止層]の説明が適用される。
【0262】
{電子輸送層}
正孔阻止層6と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0263】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(日本国特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(日本国特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(日本国特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0264】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0265】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5側の層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0266】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(日本国特開平10−270171号公報、日本国特開2002−100478号公報、日本国特開2002−100482号公報などに記載。)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0267】
また、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を用いることも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters,1997年,Vol.70,pp.152;日本国特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,Vol.44,pp.1245;SID 04 Digest,pp.154等参照)。
【0268】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0269】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は正孔阻止層6など)に電子を注入する役割を果たすものである。
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0270】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0271】
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0272】
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3又は正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0273】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
【0274】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0275】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0276】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0277】
<<有機EL表示装置>>
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。
本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0278】
<<有機EL照明>>
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0279】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示す構成の有機電界発光素子を作製した。
<陽極>
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を厚さ150nmに成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。陽極2を形成した基板1を、純水による超音波洗浄、純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄の処理を行った。
【0280】
<正孔注入層>
次いで、形成された陽極2上に、以下の通り、湿式成膜法により正孔注入層3を形成した。
正孔輸送性化合物として以下に示す繰り返し構造を有する架橋性高分子化合物(P1)2.5重量%と、電子受容性化合物として4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.5重量%とを、安息香酸エチルに溶解させた正孔注入層形成用組成物を調製し、この組成物を前記ITO基板上にスピンコートで成膜した。
【0281】
【化57】
【0282】
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、2秒、そして2200rpm、30秒の2段階で行った。その後、230℃のクリーンオーブンにより60分間加熱して、該高分子化合物(P1)を架橋反応させて硬化させ、膜厚40nmの正孔注入層3を形成した。
【0283】
<正孔輸送層>
次いで、形成された正孔注入層3上に、以下の通り、湿式成膜法により正孔輸送層4を形成した。
正孔輸送性化合物として以下に示す繰り返し構造を有する架橋性高分子化合物(HT−1)(重量平均分子量:45000)1.0重量%を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させた正孔輸送層形成用組成物を調製し、この組成物を窒素雰囲気下、前記正孔注入層3上にスピンコートで成膜した。下記構造式中「Hex」はヘキシル基を表す。
【0284】
【化58】
【0285】
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、スピナ回転時間2秒、そしてスピナ回転数2200rpm、スピナ回転時間120秒の2段階で行った。その後、230℃で60分間加熱して、該高分子化合物(HT−1)を架橋反応させて硬化させ、膜厚10nmの正孔輸送層4を形成した。
【0286】
<塗布発光層>
次いで、形成された正孔輸送層4上に、以下の通り、湿式成膜法により塗布発光層を形成した。
以下に示す化合物(GH−5)、(GH−4)、(GD−1)および(RD−2)を、25:75:10:1の重量比で混合し、この混合物3重量%をシクロヘキシルベンゼンに溶解させた組成物を調製し、この組成物を窒素雰囲気下、前記正孔輸送層4上にスピンコートで成膜した。
【0287】
【化59】
【0288】
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、2秒、そして2300rpm、120秒の2段階で行った。その後、120℃で30分間乾燥を行うことで、膜厚30nmの塗布発光層を形成した。
【0289】
<蒸着発光層>
次いで、形成された塗布発光層上に、以下の通り、真空蒸着法により蒸着発光層を形成した。
以下に示す化合物(BH−1)と(BD−1)を100:5のレート比で真空蒸着法により共蒸着して成膜することで、膜厚25nmの蒸着発光層を形成した。
【0290】
【化60】
【0291】
<正孔阻止層>
次いで、形成された蒸着発光層上に、以下に示す化合物(HB−1)を真空蒸着法により成膜することで、膜厚10nmの正孔阻止層6を形成した。
【0292】
【化61】
【0293】
<電子輸送層>
次いで、形成された正孔阻止層6上に、以下に示す化合物(ET−1)を真空蒸着法により成膜することで、膜厚15nmの電子輸送層7を形成した。
【0294】
【化62】
【0295】
<電子注入層・陰極>
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を、一度、真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして、陽極2であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状シャドーマスクを素子に密着させ、別の真空蒸着装置内に設置して、電子輸送層7と同様の真空蒸着法により、電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nm、次いで陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるようにそれぞれ積層した。
【0296】
<封止>
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素雰囲気のグローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂を塗布し、中央部に水分ゲッターシートを設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。これにより、2mm×2mmサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0297】
[実施例2]
実施例1において、正孔阻止層6の形成に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−2)に変更したこと以外は実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0298】
【化63】
【0299】
[実施例3]
実施例1において、正孔阻止層6の形成に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−3)に変更したこと以外は実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0300】
【化64】
【0301】
[実施例4]
実施例1において、正孔阻止層6の形成に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−4)に変更したこと以外は実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0302】
【化65】
【0303】
[比較例1]
実施例1において、正孔阻止層6の形成に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−5)に変更したこと以外は実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0304】
【化66】
【0305】
[比較例2]
実施例1において、正孔阻止層6の形成に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−6)に変更したこと以外は実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0306】
【化67】
【0307】
[有機電界発光素子の評価]
実施例1〜4および比較例1、2において得られた各素子を1cd/mで点灯させたときの駆動電圧(V1)を測定し、比較例1のV1をVとした場合のV1−V(以下「電圧変化値1」と称す。)を求めた。結果を表1に示す。
【0308】
【表1】
【0309】
正孔阻止層にピリジン系またはピリミジン系化合物を用いた比較例1、2に対して、正孔阻止層に前記式(1)で表される化合物を用いた実施例1〜4では、有機電界発光素子の駆動電圧の低電圧化が実現できていることが明らかである。
なお、実施例1〜4および比較例1〜2で得られた有機電界発光素子の発光スペクトルはいずれも、462nm、519nmおよび585〜587nmに極大発光波長を有した。
【0310】
[実施例5]
実施例1において、下記に示すこと以外は、実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
<正孔輸送層>
正孔輸送層の材料として、下記(HT−2)に変更し、スピンコート条件を変更したこと以外は実施例1と同様に形成した。
【0311】
【化68】
【0312】
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、スピナ回転時間2秒、そしてスピナ回転数2350rpm、スピナ回転時間120秒の2段階で行った。
【0313】
<塗布発光層>
塗布発光層の材料として、前記(HB−5)、(GH−4)および(RD−2)を25:75:10の重量比で混合した混合物に変更したこと以外は、実施例1と同様に形成した。
【0314】
<蒸着発光層>
蒸着発光層の材料として、以下に示す(BH−2)と前記(BD−1)に変更し、レート比を100:10に変更したこと以外は、実施例1と同様に形成した。
【0315】
【化69】
【0316】
[比較例3]
実施例5において、正孔阻止層6に使用する材料として、前記(HB−6)に変更したこと以外は、実施例5と同様に有機電界発光素子を作製した。
[比較例4]
実施例5において、下記に示すこと以外は、実施例5と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0317】
<塗布発光層>
塗布発光層の材料として、前記(BH−2)および(BD−1)を100:10の重量比で混合し、この混合物1.0重量%をシクロヘキシルベンゼンに溶解させた組成物を調製し、この組成物を窒素雰囲気下、スピンコートで成膜した。
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、スピナ回転時間2秒、そしてスピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間120秒の2段階で行った。その後、120℃で30分間乾燥を行うことで、膜厚15nmの塗布発光層を形成した。
【0318】
<蒸着発光層>
蒸着発光層の材料として、上記(HB−5)、(GH−4)および(RD−2)に変更し、レート比を90:10:10に変更し、膜厚を30nmに変更したこと以外は、実施例5と同様に形成した。
【0319】
[有機電界発光素子の評価]
比較例3のV1をVとした場合の、電圧変化値1を求めた。更に、実施例5および比較例3、4において得られた各素子を1000cd/mで点灯させたときの駆動電圧(V1K)を測定し、比較例3のV1KをV’とした場合のV1K−V’(以下「電圧変化値1K」と称す。)を求めた。結果を表2に示す。
【0320】
【表2】
【0321】
実施例5と比較例3の結果より、正孔輸送層、塗布発光層及び蒸着発光層の材料によらず、正孔阻止層に本願発明の式(1)で表される化合物を用いることで、有機電界発光素子の駆動電圧の低電圧化が実現できていることが明らかである。
なお、実施例5および比較例3で得られた有機電界発光素子の発光スペクトルはいずれも、464nmおよび593nmに極大発光波長を有した。
また、比較例4は、実施例5の塗布発光層に用いた燐光発光材料を蒸着発光層に、実施例5の蒸着発光層に用いた蛍光発光材料を塗布発光層に適用した例であるが、比較例4の層構成では有機電界発光素子の駆動電圧が大幅に上昇してしまうことが明らかである。
なお、比較例4で得られた有機電界発光素子の発光スペクトルは、464nmおよび576nmに極大発光波長を有した。
【0322】
[実施例6]
実施例2において、下記に示すこと以外は、実施例2と同様に有機電界発光素子を作製した。
<塗布発光層>
塗布発光層の材料として、前記(HB−6)、(GH−4)、下記(GD−2)、および(RD−3)を25:75:10:1の重量比で混合した混合物に変更したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0323】
【化70】
【0324】
<蒸着発光層>
蒸着発光層の材料として、前記(BH−2)および下記(BD−2)に変更し、100:5のレート比で真空蒸着法により共蒸着して成膜したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0325】
【化71】
【0326】
[比較例5]
実施例6において、正孔阻止層6に使用する材料として、以下に示す化合物(HB−7)に変更したこと以外は、実施例6と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0327】
【化72】
【0328】
[有機電界発光素子の評価]
比較例5のV1をVとした場合の電圧変化値1と、比較例5のV1KをV’とした場合の電圧変化値1Kを求めた。結果を表3に示す。
【0329】
【表3】
【0330】
化合物(HB−7)は、従来正孔阻止層材料として広く用いられている材料であるが、この材料に対し、本発明の正孔阻止層材料を用いた有機電界発光素子では、駆動電圧の低電圧化が実現できていることが明らかである。
なお、実施例6および比較例5で得られた素子の発光スペクトルはいずれも、463〜464nm、557〜558nmおよび593〜594nmに極大発光波長を有した。
[実施例7]
実施例2において、下記に示すこと以外は、実施例2と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0331】
<塗布発光層>
塗布発光層の材料として、前記(GH−5)、下記(GH−6)、(GD−3)、および(RD−4)を25:75:10:1の重量比で混合した混合物に変更したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0332】
【化73】
【0333】
<蒸着発光層>
蒸着発光層の材料として、前記(BH−2)および(BD−2)に変更し、100:5のレート比で真空蒸着法により共蒸着して成膜したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0334】
[比較例6]
実施例7において、正孔阻止層6に使用する材料として、前記(HB−5)に変更したこと以外は、実施例7と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0335】
[有機電界発光素子の評価]
比較例6のV1をVとした場合の電圧変化値1と、比較例6のV1KをV’とした場合の電圧変化値1Kを求めた。結果を表4に示す。
【0336】
【表4】
【0337】
本発明の有機電界発光素子では、塗布発光層及び蒸着発光層の材料によらず、駆動電圧の低電圧化が実現できていることが明らかである。
なお、実施例7および比較例6で得られた有機電界発光素子の発光スペクトルはいずれも、464nmおよび599nmに極大発光波長を有した。
【0338】
[実施例8]
実施例2において、下記に示すこと以外は、実施例2と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0339】
<塗布発光層>
塗布発光層の材料として、下記(GH−7)、前記(GH−6)、下記(GD−4)、および前記(RD−3)を25:75:10:1の重量比で混合した混合物に変更したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0340】
【化74】
【0341】
<蒸着発光層>
蒸着発光層の材料として、前記(BH−2)および下記(BD−3)に変更し、100:5のレート比で真空蒸着法により共蒸着して成膜したこと以外は、実施例2と同様に形成した。
【0342】
【化75】
【0343】
[比較例7]
実施例8において、正孔阻止層6に使用する材料として、前記(HB−5)に変更したこと以外は、実施例8と同様に有機電界発光素子を作製した。
【0344】
[有機電界発光素子の評価]
比較例7のV1をVとした場合の電圧変化値1と、比較例7のV1KをV’とした場合の電圧変化値1Kを求めた。結果を表5に示す。
【0345】
【表5】
【0346】
本発明の有機電界発光素子では、塗布発光層及び蒸着発光層の材料によらず、駆動電圧の低電圧化が実現できていることが明らかである。
なお、実施例8および比較例7で得られた有機電界発光素子の発光スペクトルはいずれも、467nm、534nmおよび592nmに極大発光波長を有した。
【0347】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は2012年10月2日出願の日本特許出願(特願2012−220399)および2013年7月12日出願の日本特許出願(特願2013−146649)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0348】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子
図1