(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5757493
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】経口型鉄分補給用固形組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 1/304 20060101AFI20150709BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20150709BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20150709BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20150709BHJP
A61P 3/12 20060101ALI20150709BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20150709BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
A23L1/304
A61K33/26
A61K47/32
A61K9/14
A61P3/12
A61P7/06
A61K47/36
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-193836(P2014-193836)
(22)【出願日】2014年9月24日
【審査請求日】2014年10月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】南 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貞佳
(72)【発明者】
【氏名】小西 征則
(72)【発明者】
【氏名】板東 明人
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−525442(JP,A)
【文献】
特開2005−295854(JP,A)
【文献】
特表2011−503148(JP,A)
【文献】
国際公開第01/034147(WO,A1)
【文献】
特表2002−515016(JP,A)
【文献】
特表2009−525316(JP,A)
【文献】
特開昭62−084023(JP,A)
【文献】
特表2014−500242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/27−308
A61K 9/,33/,47/
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性鉄塩及び水溶性高分子を含有する固形組成物であって、前記水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンを含み、平均粒径0.9μm以下の水不溶性鉄塩の固体粒子間に前記水溶性高分子が介在してなることを特徴とする経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項2】
水不溶性鉄塩100重量部に対してポリビニルピロリドン1〜400重量部を含む、請求項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項3】
水不溶性鉄塩100重量部に対してポリビニルピロリドン1〜200重量部を含む、請求項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項4】
水溶性高分子が、さらにアルギン酸ナトリウム及びアラビアガムの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項5】
ポリビニルピロリドンの重量に対して、ポリビニルピロリドン以外の水溶性高分子の合計重量の比率が0.01〜20である、請求項4に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項6】
平均粒径60〜320μmの粉末又は造粒物である、請求項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
【請求項7】
経口型鉄分補給用固形組成物を製造する方法であって、
(1)水不溶性鉄塩の固体粒子と水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンとを水に添加及び混合することにより、ポリビニルピロリドンの水溶液に平均粒径0.9μm以下の水不溶性鉄塩の固体粒子が分散してなる混合液を調製する工程、
(2)前記混合液を乾燥する工程、
を含むことを特徴とする経口型鉄分補給用固形組成物の製造方法。
【請求項8】
水不溶性鉄塩が、予め水不溶性鉄塩を水に懸濁し、微粒子化の処理を施すことにより得られる水分散液として提供される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
微粒子化が、水不溶性鉄塩及び水を含む懸濁液を湿式粉砕することにより実施される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られる、経口型鉄分補給用固形組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口により鉄分を体内に補給するための固形組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の嗜好化・偏食化が進むにつれて栄養バランスが崩れ、人体にとって必要な栄養素が欠乏しがちになり、体調不良ひいては様々な疾病の原因となるおそれもある。このような栄養素の中でも、特に鉄分もその摂取不足が指摘されている栄養素の一つである。
【0003】
鉄は血中の蛋白質であるヘモグロビンに結合した状態で存在することから、これが不足状態になると貧血症、倦怠感等を惹起することが知られている。鉄欠乏症は、全人口のうち推定20億人が罹っており、発展途上国・先進国にかかわらず、世界中で未解決の問題となっている。例えば、日本において、鉄欠乏性貧血は、多くの女性において確認され、成人女性の5〜10%がこの病気に悩まされており、さらに潜在性鉄欠乏状態の貧血予備軍は、成人女性の20〜25%にも達すると言われている。
【0004】
この鉄不足を解消するために、様々な鉄分強化食品又は鉄補給用製剤が販売されている。例えば、清涼飲料水、粉ミルク、サプリメント等に鉄剤が配合されており、鉄剤の多くには、クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄等の水溶性鉄化合物のほか、ピロリン酸第二鉄等の水不溶性又は水難溶性の鉄化合物が使用されている。
【0005】
ところが、水溶性鉄化合物は鉄味が強く、経口用として官能的に問題があることに加え、イオン化した鉄の胃壁への侵襲による胃腸障害が問題となっている。一方、水不溶性又は水難溶性の鉄化合物においては、鉄味の問題は改善されるものの、その分散液中において経時的に凝集を生じやすく、沈殿物を形成し、食品に添加する場合等において外観上好ましくないという問題がある。このため、不溶性鉄塩の分散性を改善する方法が種々提案されている。
【0006】
例えば、ガティガムと水不溶性鉄塩を含有することを特徴とする鉄強化飲食品用組成物が提案されている(特許文献1)。
【0007】
また例えば、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム(以下、カルシウム剤と記す)及びピロリン酸第二鉄からなる群から選ばれた少なくとも1種(A)100重量部に対し、アラビアガム(B)を1〜60重量部含有させてなる食品添加剤スラリー組成物とそのスラリー組成物を乾燥して粉末化してなるパウダー組成物が知られている(特許文献2)。
【0008】
その他にも、水不溶性鉄塩及びキレート剤を含有することを特徴とする鉄強化食品用組成物(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−89634
【特許文献2】国際公開WO98/42210
【特許文献3】特開2007−215480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これら従来技術の組成物では、微粒子をスラリー状態で長時間保存しても凝集することなく、良好な分散安定性を得ることができるものの、鉄成分の吸収率(以下、鉄分吸収性とする。)という点においてさらなる改善の余地がある。例えば、分散安定化した微粒子は見かけの表面積が大きいため、胃内で胃酸との接触面積が大きくなり、胃酸の侵襲による溶解及び鉄イオンの溶出が促進されるものの、胃内の夾雑物例えば、タンニン、シュウ酸またはフィチン酸等との相互作用によって不溶性の鉄化合物へと変化し、鉄の吸収部位である十二指腸での吸収が低下することが挙げられる。つまり、微粒子分散液は胃内のpH1.2での溶出性が高いことに伴って、吸収部位である十二指腸のpH3.0での鉄の溶出量が相対的に低下してしまうため、期待するほどの鉄分吸収性が得られない。
【0011】
さらに、これら従来技術で得られる鉄成分を含むスラリーを固形化しようとする際には、乾燥工程を経ることで、微粒子同士の強い凝集を避けられず、本来の目的を果たさないばかりか、吸収性にも悪影響を及ぼす。それでもなお、固形物の形態(剤形)は、通常、分散液の形態に比べて容量も小さく、取り扱いが容易であることを理由に広く一般的に利用されている。このような背景から固形物の形態でも鉄分吸収性に優れた鉄含有組成物の開発が望まれている。
【0012】
従って、本発明の主な目的は、固形物であっても高い鉄分吸収性が期待できる鉄分含有固形組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特に微粒子化した水不溶性鉄塩に特定の添加剤を配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の経口型鉄分補給用固形組成物及びその製造方法に係る。
1. 水不溶性鉄塩及び水溶性高分子を含有する固形組成物であって、前記水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンを
含み、平均粒径0.9μm以下の水不溶性鉄塩の固体粒子間に前記水溶性高分子が介在してなることを特徴とする経口型鉄分補給用固形組成物。
2. 水不溶性鉄塩100重量部に対してポリビニルピロリドン1〜400重量部を含む、前記項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
3. 水不溶性鉄塩100重量部に対してポリビニルピロリドン1〜200重量部を含む、前記項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
4. 水溶性高分子が、さらにアルギン酸ナトリウム及びアラビアガムの少なくとも1種を含む、前記項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
5. ポリビニルピロリドンの重量に対して、ポリビニルピロリドン以外の水溶性高分子の合計重量の比率が0.01〜20である、前記項4に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
6.
平均粒径60〜320μmの粉末又は造粒物である、前記項1に記載の経口型鉄分補給用固形組成物。
7. 経口型鉄分補給用固形組成物を製造する方法であって、
(1)水不溶性鉄塩の固体粒子と水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンとを水に添加
及び混合することにより、ポリビニルピロリドンの水溶液に
平均粒径0.9μm以下の水不溶性鉄塩の固体粒子が分散してなる混合液を調製する工程、
(2)前記混合液を乾燥する工程、
を含むことを特徴とする経口型鉄分補給用固形組成物の製造方法。
8.
水不溶性鉄塩が、予め水不溶性鉄塩を水に懸濁し、微粒子化の処理を施すことにより得られる水分散液として提供される、前記項7に記載の製造方法。
9.
微粒子化が、水不溶性鉄塩及び水を含む懸濁液を湿式粉砕することにより実施される、前記項8に記載の製造方法。
10. 前記項7〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られる、経口型鉄分補給用固形組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の経口型鉄分補給用固形組成物によれば、固形物であるにもかかわらず、高い鉄分吸収性を発揮できる鉄分含有固形組成物を提供することができる。すなわち、本発明では、特に、水不溶性鉄塩と少なくともポリビニルピロリドン(以下「PVP」という。)を含む水溶性高分子を水に添加・混合することによって得られた混合物(すなわち、PVP水溶液及び水不溶性鉄塩の固体粒子を含む混合液)を乾燥するという工程を採用することにより、上記のような特性を発揮できる組成物を提供することができる。
【0016】
かかる工程を採用することにより、微粒子化された水不溶性鉄塩の固体粒子が水に高分散した状態とともにPVPが水に溶解した状態をつくりだし、これを乾燥する場合において、溶解していたPVPが水不溶性鉄塩の固体粒子間に介在しながら固形物を形成すると考えられる。換言すれば、PVPの介在により水不溶性鉄塩の固体粒子の凝集が効果的に抑制ないしは防止される結果、固形物内においても水不溶性鉄塩が微粒子化された状態で存在することができると考えられる。
【0017】
これにより、水不溶性鉄塩の溶出性に関し、pH1.2の水に対する鉄分溶出性が低く抑えられる一方、pH3.0の水に対する鉄分溶出性を高めることができる。すなわち、服用した際に、胃内では水溶性高分子の高次構造が胃酸の侵襲による鉄イオンの溶出を効果的に抑制しつつ、十二指腸では水溶性高分子の解離により高い溶出性を得ることが期待できる。これにより、胃腸障害が少なく、体内に鉄分がより吸収されやすい経口型組成物(経口型製剤)を提供することができる。このような組成物は、そのまま経口摂取・経口投与できるほか、食品又はサプリメント、医薬品、医薬部外品等の各種の製品に配合することもできる。
【0018】
また、本発明の製造方法によれば、本発明の経口型鉄分補給用固形組成物をより確実かつ効率的に製造することができる。特に、水不溶性鉄塩の粒子間にPVPが介在してなる組成物によって、より高い鉄分吸収性が期待できる固形組成物をより確実かつ効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.経口型鉄分補給用固形組成物
本発明の経口型鉄分補給用固形組成物(本発明組成物)は、水不溶性鉄塩及び水溶性高分子を含むことを特徴とする。
【0020】
水不溶性鉄塩は、水不溶性(水難溶性も含む。)であって薬学的に許容されるものであれば限定されない。水不溶性の程度としては、特に水(20℃)に対する溶解度が0.1g/100mL以下である鉄塩であることが好ましい。このような塩類としては、例えばリン酸第二鉄、リン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、ピロリン酸第一鉄、水酸化第二鉄、酸化第二鉄、フマル酸第一鉄等の少なくとも1種が挙げられる。特に、本発明では、色調又は風味(嗜好性)という点において、リン酸第二鉄及びピロリン酸第二鉄の少なくとも1種が好ましく、さらにはピロリン酸第二鉄がより好ましい。これらの水不溶性鉄塩は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって調製することも可能である。
【0021】
水不溶性鉄塩は、粉末又はスラリーの形態で使用されることが好ましい。その平均粒径は通常10μm以下の範囲内で適宜設定することができるが、特に0.9μm以下とすることが好ましく、さらには0.3μm以下とすることがより好ましい。このような平均粒径は、例えば物理的粉砕法又は中和造塩法により調節することができる。これによって、後記の試験例に示す鉄分吸収率をより高くすることが可能となる。なお、平均粒径の下限値は限定されないが、一般的には0.01μm程度とすれば良い。
【0022】
本発明では、水溶性高分子は、PVPを必須成分として含有する。PVPは、N−ビニル−2−ピロリドンが重合した高分子化合物(水溶性高分子)である。この化合物自体は、化粧品、医薬品、食品等における賦形剤、結合剤等として使用されている公知の物質である。本発明で使用できるPVPは、水溶性であれば限定されず、市販品も使用することができる。市販品としては、例えばアイエスピー・ジャパン株式会社製のPVP「K−90」、「K−120」、「K−30」等を好適に用いることができる。
【0023】
本発明組成物中におけるPVPの含有量は、限定的ではないが、通常は水不溶性鉄塩100重量部に対して1〜400重量部、特に1〜200重量部、さらに好ましくは1〜100重量部とすることが好ましい。かかる範囲に調節することによって、より高い鉄吸収性が得られる。
【0024】
PVP以外の水溶性高分子としてタンパク質、多糖類、合成高分子等の添加剤(食品添加物又は医薬添加物)が挙げられる。タンパク質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン等、多糖類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩類、アラビアガム、セルロース誘導体等、合成高分子としては例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。この中でも、アルギン酸及びその塩類の少なくとも1種が好ましく、特にアルギン酸の塩類がより好ましく、さらにはアルギン酸ナトリウムが最も好ましい。アルギン酸ナトリウムを添加することによって、pH1.2での溶出性が低く抑えられ、さらに鉄分吸収率を高くすることができるので、良好な吸収性を発現させることができる。
【0025】
アルギン酸ナトリウムは、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸からなる食品添加物として指定された多糖類の一種であり、増粘多糖類、ゲル化剤等として利用されている。本発明で使用できるアルギン酸ナトリウムもD−マンヌロン酸とL−グルロン酸の量的比率及び配列によらず公知又は市販のものが使用できる。特に、製造時のハンドリング等の観点から粘度の低いもの(より具体的には20℃で10重量%溶液での粘度が500mPa・s以下)が望ましい。このような市販品としては、例えばキミカ社製の「キミカアルギンULV−L3」等を挙げることができる。
【0026】
また、PVP(PVP1重量部)に対する他の水溶性高分子の比率(重量比)は特に制限されないが、一般的には0.01〜20とすることが好ましく、さらに0.05〜19とすることがより好ましい。上記範囲に設定することにより、鉄分吸収率をより効果的に高めることができる。
【0027】
水溶性高分子の含有量は、例えば用いる水不溶性鉄塩の種類等に応じて適宜設定することができるが、一般的には水不溶性鉄塩100重量部に対して水溶性高分子を15〜200重量部含有していることが好ましく、特に15〜80重量部含有していることがより好ましく、さらには15〜40重量部を含有していることが最も好ましい。水溶性高分子の添加量が15重量部未満の場合は、所望の鉄分吸収率が得られなくなるおそれがある。
【0028】
また、本発明組成物中における水不溶性鉄塩及び水溶性高分子の合計の含有量は特に制限されないが、通常は本発明組成物中60〜100重量%とし、特に70〜100重量%とすることが好ましい
【0029】
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない限り、水溶性高分子以外の添加剤が含まれていても良い。例えば、増粘剤、安定剤、結合剤、賦形剤、乳化剤等の添加剤(食品添加物又は医薬添加物)が挙げられる。上記添加剤の含有量は、添加剤の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は40重量%以下とすれば良い。
【0030】
本発明組成物の形態は、固形物(例えば粉末、造粒物等)であれば良いが、単に水不溶性鉄塩の固体粒子と水溶性高分子の固体粒子が混合された形態ではなく、鉄分吸収率をより効果的に高めることができるという見地より、水不溶性鉄塩の固体粒子間に水溶性高分子が介在してなる形態が好ましい。すなわち、水不溶性鉄塩の固体粒子どうしを水溶性高分子で固定化されている状態が好ましい。
【0031】
本発明組成物が粉末又は造粒物である場合の平均粒径は限定的ではないが、通常は0.1〜320μm(好ましくは60〜200μm)の範囲内において、最終的な用途等に応じて適宜決定すれば良い。
【0032】
2.経口型鉄分補給用固形組成物の製造方法
本発明組成物の製造方法は、前記の所定の原料を混合することによって得ることができるが、特に、経口型鉄分補給用固形組成物を製造する方法であって、(1)水不溶性鉄塩の固体粒子と水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンとを水に添加・混合することにより、ポリビニルピロリドンの水溶液に水不溶性鉄塩の固体粒子が分散してなる混合液を調製する工程(混合液調製工程)、(2)前記混合液を乾燥する工程(乾燥工程)を含むことを特徴とする製造方法
を採用することが好ましい。
【0033】
混合液調製工程
混合液調製工程では、水不溶性鉄塩の固体粒子と水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンをと水に添加・混合することにより、ポリビニルピロリドンの水溶液に水不溶性鉄塩の固体粒子が分散してなる混合液を調製する。
【0034】
まず、水不溶性鉄塩としては、前記で掲げた化合物を好適に使用でき、市販品を使用することもできる。また、公知の合成方法で得られた水不溶性鉄塩を用いることもできる。
【0035】
水不溶性鉄塩の形態としては、固体粒子(粉末)であることが好ましい。このような形態の水不溶性鉄塩を調製する方法としては、例えば鉄イオンを含む水溶液に塩基性塩類又はその水溶液を添加することにより水不溶性鉄塩を沈殿させる方法を採用すれば良い。より具体的には、水不溶性鉄塩としてピロリン酸第二鉄を合成する場合、塩化第二鉄を溶解させた水溶液にピロリン酸ナトリウムを温水に溶かした水溶液を混合・攪拌することによって沈殿物として好適に得ることができる。
【0036】
このような沈殿物を含む水性スラリーを上記混合液の原料として用いることができる。あるいは、前記水性スラリーを固液分離することによって得られる脱水ケーキも好適に用いることができる。固液分離の方法としては、遠心分離、フィルタープレス等の公知の方法に従って実施することができる。また、前記水性スラリー、脱水ケーキ又はこれらの水分量を調整して得られるものを湿式粉砕又は乾式粉砕して得られる粉砕物を使用することもできる。
【0037】
この場合の水不溶性鉄塩の粒子径は、特に限定されるものではないが、製剤として使用する際の鉄成分(鉄イオン)の溶出性の見地よりできる限り微粒子化することが好ましい。特に平均粒径を通常10μm以下の範囲内で適宜設定することができるが、特に0.9μm以下とすることが好ましく、さらには0.3μm以下とすることがより好ましい。
【0038】
水不溶性鉄塩を微粒子化する方法としては一般的な方法を用いることができるが、特に物理的破砕法を用いることが好ましい。物理的破砕法としては、例えばダイノミル、ウルトラアペックスミル、サンドミル、コボールミル等の湿式粉砕機、ナノマイザー、マイクロフルイタイザー、ホモゲナイザー等の乳化・分散装置、超音波分散機等が使用できる。微粒子化することで水中においても極めて安定な鉄含有組成物を製造することができる。
【0039】
微粒子化を実施するタイミングも限定的ではないが、本発明では、特に前記の混合液を調製する段階で、予め水不溶性鉄塩を水に懸濁し、微粒子化の処理を施すことにより水不溶性鉄塩微粒子の水分散液を得ることが好ましい。
【0040】
次に、前記分散液(水分散液)の製造方法としては、限定的ではないが、例えばa)水不溶性鉄塩の懸濁液を湿式粉砕に供して得られた水分散液、b)中和造塩法により得られた水不溶性鉄塩の微粒子を含む水分散液等を用いることが好ましい。
【0041】
上記混合物は、前記分散液に対して、水溶性高分子として少なくともPVPを添加・混合することにより調製することができる。PVP又はその他の水溶性高分子は、そのまま添加・混合しても良いし、あるいは予め水に溶解させて水溶液として添加することもできる。これによって、水不溶性鉄塩がより分散性の高い状態を維持された混合物をより確実に得ることができる。
【0042】
この場合、前記の水溶性高分子としては、PVP以外の添加物(特に水溶性物質)を必要に応じて配合することもできる。例えば、前記1で述べた水溶性高分子(アルギン酸ナトリウム等)を好適に混合することができる。上記分散液中の水不溶性鉄塩、PVP及びその他の添加物の配合割合は、前記1で述べた割合となるように調整すれば良い。
【0043】
また、上記分散液の固形分割合は限定的でなく、含まれる固形分の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は1〜25重量%程度とすれば良く、特に10〜25重量%とすることが好ましい。
【0044】
乾燥工程
乾燥工程では、前記混合物を乾燥する。通常は、これにより乾燥粉末を得ることができる。
【0045】
乾燥する方法としては、特に制限はなく、例えば凍結乾燥機、スプレードライヤー、スラリードライヤー等の公知又は市販の液滴噴霧型乾燥機によって実施することができる。この場合、液滴噴霧型乾燥機の乾燥温度は通常は250℃以下とすれば良く、より好ましくは130℃以下とすれば良い。また、必要に応じて乾燥物に対して粉砕、分級等の処理を施すことができる。さらに、必要に応じて、得られた乾燥粉末を造粒等の成形処理を施すことにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の食品又は医薬品に供することが可能である。
【0046】
なお、本発明における水不溶性鉄塩及び本発明組成物の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラック(日機装株式会社)を用いて測定されたものである。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、「%」は重量%を示す。
【0048】
実施例1〜7
表1の処方に従って鉄含有組成物を調製した。公知の方法に従って合成された固形分濃度25%のピロリン酸第二鉄ケーキをイオン交換水に懸濁させ、固形分濃度10%にした懸濁液を得た。得られた懸濁液を湿式粉砕機「DYNO−MILL」(シンマルエンタープライゼス社製)に投入し、ピロリン酸第二鉄を平均粒径が約0.2μmになるまで湿式粉砕することにより水分散液を得た。次いで、得られた水分散液にPVPを表1に示す配合量で添加し、60℃で加温溶解し、冷却した後−40℃で凍結して真空乾燥機「DRR320DA(アドバンテック社製)」にて48時間乾燥を行った。このようにして乾燥粉末を得た。
【0049】
比較例1〜8
比較例1〜8として、表1に示す添加剤の条件に変更した以外は、実施例と同様にして鉄含有組成物を調製した。なお、比較例1〜2については、乾燥工程を実施せずに、水分散液のままとした。また、比較例3、4については、それぞれ比較例1,2を実施例1と同様に−40℃で凍結して真空乾燥機にて48時間乾燥を行った。比較例5についてはピロリン酸第二鉄(ポールローマン社製)の乾燥粉末を用いた。
【0050】
【表1】
【0051】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた鉄含有組成物の鉄分吸収率を表2の条件で測定した。鉄成分は、十二指腸上皮細胞によって鉄イオンの状態で吸収されること、及び鉄イオンが胃で溶出すると鉄分吸収量の低下を引き起こすことが知られている。そして、胃内におけるpHは約1.2程度であり、十二指腸内でのpHは約3.0である。従って、pH1.2での溶出量は低いほど好ましく、その一方でpH3.0での溶出量が高いほど好ましい。そこで、体内での鉄分吸収率を次式:
鉄分吸収率(%)=[(100−S
p1.2)×S
p3.0/100]
(但し、S
p1.2はpH1.2での鉄イオンの溶出率を示し、S
p3.0はpH3.0での鉄イオンの溶出率を示す。)で定義し、各pHでの鉄溶出率から体内への鉄分吸収率を仮想し、その鉄分吸収率を求めた。その結果を表3に示す。ここに、鉄分吸収率が高いほど体内での鉄分吸収性が期待できることを意味する。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表1及び表3の結果からも明らかなように、水性スラリーである比較例1とその乾燥粉末である比較例3の再懸濁後の平均粒径が同等であるのに対し、微粒子の乾燥粉末である比較例4は水分散液である比較例2よりも顕著に再懸濁後の平均粒径が増大し、凝集が確認された。
【0055】
さらに、表3の結果からも明らかなように、ピロリン酸第二鉄に対してPVPを所定量添加した実施例1〜7は鉄分吸収率が高く、公知の添加剤として用いられている比較例5〜8よりも優れていることがわかる。また、実施例3〜5では、再懸濁後の平均粒径の結果からも確認できるように、良好な分散性も得られることがわかる。
【0056】
実施例8〜16
表4に示す処方に従って鉄含有組成物を調製した。固形分濃度25%のピロリン酸第二鉄ケーキをイオン交換水に懸濁させ、固形分濃度10%にした懸濁液を得た。得られた懸濁液を湿式粉砕機ダイノミルに投入し、ピロリン酸第二鉄を平均粒径が約0.2μmになるまで湿式粉砕することにより水分散液を得た。得られた水分散液にPVP及びアルギン酸ナトリウム、アラビアガムを表4に示す配合量で添加し、60℃で加温溶解し、冷却した後−40℃で凍結して真空乾燥機「DRR320DA(アドバンテック社製)」にて48時間乾燥を行った。このようにして乾燥粉末を得た。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
表5の結果からも明らかなように、実施例8〜14のように所定量のアルギン酸ナトリウムを添加することにより、pH1.2での溶出率が抑えられたまま、pH3.0での溶出率が高くなることがわかる。特に、アルギン酸ナトリウムを単独で使用した比較例9と比較すると、PVPとアルギン酸ナトリウムの併用によって、いっそう顕著に鉄分吸収率を高めることがわかる。また、実施例15〜16のように、PVPにアルギン酸ナトリウム以外の水溶性高分子を配合しても鉄分吸収率を増加させることが可能であることを確認された。この結果から、これら実施例の鉄含有組成物では、胃腸障害が少なく、鉄分吸収性の高い不溶性鉄製剤としての利用が期待できる。特に、実施例12〜13においては、原料の平均粒径を保持したまま、pH1.2での溶出率をより効果的に低く抑えることができた。
【0060】
試験例2
実施例2、比較例5について鉄欠乏状態のモデル動物に各鉄含有組成物添加飼料を給餌し、その生体吸収性を比較した。
【0061】
4週齢の雄ラット(Crl:CD((SD)、日本チャールズリバー)に粉末飼料CE−2(日本クレア株式会社)を自由に摂取させて5日間馴化した後、鉄欠乏飼料(AIN−93G、日本クレア株式会社)を超純水とともに2週間自由摂食させ貧血状態にした。2週間後、貧血ラットを各群5匹に分け鉄含量が300mg/kgとなるように被験物質を鉄欠乏飼料に混合した飼料を超純水とともに20gずつ摂取させた。3日後と7日後にイソフルラン吸入麻酔薬(3〜4%イソフルラン)にてラットに麻酔をかけ、鎖骨下静脈から採血を行い、血液中のヘモグロビン濃度(Hb)、及び血清中の血清鉄、総鉄結合能(TIBC)を測定した。また、末梢血の鉄量の指標としてトランスフェリン飽和率(TSAT)を血清鉄/TIBC×100にて算出した。その結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示すヘモグロビン、血清鉄の結果から各鉄含有組成物添加飼料を投与することにより、鉄欠乏状態から定常状態への回復が認められた。血清鉄値を比較すると、比較例5よりも実施例2の血清鉄値が低くなっている。一方、TSATを比較すると、比較例5は投与日数が経過してもTSATの減少率が低いのに対して、実施例2ではその減少率が高くなっている。また、Hbに関しては、実施例2は比較例5よりも高くなっている。これらの現象は、実施例2では比較例5よりも鉄の吸収速度が速いため、定常状態に達する期間が短く、回復時間が短縮されたことによると考えられる。すなわち、本発明品である実施例2では、吸収性の高い鉄含有組成物として期待できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、乾燥後も高い鉄分吸収性を示し、口腔内でイオン化することによる鉄味の官能的な問題あるいはイオン化した鉄による胃腸障害が効果的に抑制された鉄含有組成物を食品又は医薬品として提供できることが期待される。
【要約】
【課題】固形であっても高い鉄分吸収性が期待できる鉄分含有粉末組成物を提供する。
【解決手段】水不溶性鉄塩及び水溶性高分子を含有する固形組成物であって、前記水溶性高分子として少なくともポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする経口型鉄分補給用固形組成物に係る。
【選択図】なし