(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を
図1ないし
図25を参照して詳細に説明する。
図1において符号1で示すものは、本発明の実施の形態に係る車両である。
図1,
図2,
図4ないし
図6,
図13,
図17および
図18において矢印Fで示す方向は車両1の前方を示し、以下の説明で車両1の各構成部材に関して使用する前・後、左・右、上・下および内・外の語句は、各構成部材が車両1に組み付けられた状態において、車両1に乗車して見たときの方向や位置を指すものとする。車両1の前部には左右一対の前輪3,3が前側懸架装置5を介して車体フレーム7に揺動可能に懸架され、車両1の後部には左右一対の後輪9,9が後側懸架装置11を介して車体フレーム7に揺動可能に懸架されている。各前輪3および各後輪9は本発明の「車輪」を構成する。
【0032】
車体フレーム7は、上方から見て略六角形の枠状に形成されている。車体フレーム7の底面には、該車体フレーム7の外形と略同形状の六角形に形成された底板7aが螺子による締結または溶接により固定されている。車体フレーム7および底板7aは本発明の「車体」を構成する。車体フレーム7の骨格は、横断面が四角形に形成された中空管で構成されている。底板7a上の中央には、乗員が搭乗するための略球状の乗車室13が配設され、この乗車室13内には、乗員が着座するためのシート15が設けられ、乗車室13の前部には、透明体17が組み付けられている。
【0033】
乗車室13の下面部は、底板7a上の略中央に鉛直方向に突設された支持軸19(
図1参照)によって支持され、支持軸19の軸芯回りに乗車室13が回転可能とされている。乗車室13の底面部にはシート15の下面部が固定されている。また、乗車室13の底面部には、略U字状のハンドル20がその長手方向中央部で略上下方向に延びるハンドル軸20a(
図6参照)の軸芯回りに回転可能に支持されている。ハンドル20は、シート15の下方からシート15の左右両側方を通ってシート15の座面より上方の位置までそれぞれ延びたのち内側に向かってそれぞれ延設され、両延設端部は折り返すように屈曲形成されている。また、ハンドル20の左側端部にはブレーキ操作子21が配設され、ハンドル20の右側端部にはアクセル操作子22が配設されている(
図5参照)。
【0034】
シート15に着座した乗員は、乗車室13内でハンドル20の両端部をそれぞれ左右の手で把持してハンドル20を支持軸19の軸芯回りに回動操作したり、左右の手でブレーキ操作子21およびアクセル操作子22をそれぞれ操作することができる。
図17に示すように、シート15およびハンドル20と共に乗車室13を支持軸19の軸芯回りの左回りに回動させると、乗員が乗車室13に乗降するためのスペースが車両1の左側方に十分確保されるため乗降しやすくなる。それに加えてさらに、前輪3,3を右側に向けると、スペースがさらに広くなり一層乗降しやすくなる。
【0035】
各前輪3および各後輪9のそれぞれのハブ23には、各前輪3および各後輪9を個別に回転駆動するための電動モータ25の回転軸の一端部がそれぞれ固着され、電動モータ25の回転軸の他端部には円盤状のブレーキディスク26が固着されている(
図11参照)。各前輪3および各後輪9は、所謂、ホイールインモータの構造からなる。ブレーキディスク26は、電動モータ25の本体に固定された電動ブレーキモータ27によって制動される。電動モータ25および電動ブレーキモータ27は、本発明の「トルク付与手段」を構成する。ブレーキディスク26および電動ブレーキモータ27は、各後輪9側にも設けられており、後述する後輪支持部材65の後輪支持部材本体65a内に収納されている。本発明でいう「トルク」には電動モータ25により各前輪3および各後輪9に付与される駆動トルクと電動ブレーキモータ27により各前輪3および各後輪9に付与される制動トルクとが含まれる。電動ブレーキモータ27に電力が供給されることにより該モータ27の回転軸が回転することで、該回転軸に固着されたカム部材がブレーキパッドを押圧し、該ブレーキパッドをブレーキディスク26に圧接するように構成されている。各電動モータ25には、乗車室13後方の車体フレーム7の後部に配設された直方体状の左右一対の電池28,28によって電源が供給される。電池28は、電線を介して電力変換装置30(
図20参照)と接続されている。また、各電動モータ25は、電気エネルギーが与えられることで駆動モータとして動作する。
【0036】
前側懸架装置5は、
図8に示すように、各前輪3のキャンバー角が変化する方向に各前輪3が回動可能にそれぞれ両端部に連結される前輪支持部材29と、この前輪支持部材29の長手方向中央部を回動可能に支持する第1中央支持部材31と、この第1中央支持部材31の長手方向中央部を前端部により回動可能に支持する略Y字状の第2中央支持部材33と、この第2中央支持部材33の後端部を弾性部材35を介して前端部により支持する第3中央支持部材37と、第2中央支持部材33の長手方向中央部を一対のシャックル38,38を介して支持する前側トーションばね部材41とを備える。前記第1中央支持部材31,第2中央支持部材33および第3中央支持部材37は本発明の「基部材」を構成する。
【0037】
第3中央支持部材37は、その後端部が、車体フレーム7の前端部に前方斜め下方に向かって突設された一対の前側支持部7f,7fにより、ゴムまたは樹脂等の材料からなる弾性部材39を介して支持されている。前記弾性部材39および前側トーションばね部材41は、本発明の「弾性部材」を構成する。前側トーションばね部材41は、1本の棒状部材を左右対称に屈曲形成してなり、上方から見て、第2中央支持部材33の左右方向幅寸法より大きな幅寸法を隔てて平行に前後方向に延びる一対の平行部41a,41aと、これらの平行部41aの前端同士を連結する連結部41bと、各平行部41aの後端から車体フレーム7の前部に沿うと共に車体フレーム7とは一定の間隔を隔てて斜め後方に拡がるように延びる斜拡部41cと、各斜拡部41cの後端からさらにそれぞれ後方に延びる後延部41dとからなる。
【0038】
前側トーションばね部材41は、連結部41bの両端部が前記一対のシャックル38,38の下端部にそれぞれ回動可能に連結され、各斜拡部41cの前端部および各後延部41dの後端部がそれぞれ支持具41eを介して車体フレーム7の前部に支持されている。一対のシャックル38,38の上端部は、第2中央支持部材33の長手方向中央部に左右方向に突設された左右一対のピン42,42にそれぞれ回動可能に連結されている。これによって、前側懸架装置5に初期荷重を付勢すると共に、車体フレーム7に対して各前輪3が上下方向にそれぞれ同方向または逆方向に変位して前輪支持部材29および第1中央支持部材31を介して第2中央支持部材33が上下方向に揺動したり前後方向の軸回りに回動するとき、それらの動きに抗するように前側トーションばね部材41の撓みや捩じりによるばね力が作用する。
【0039】
前輪支持部材29は、車両1の正面から見て中央部が上方に向かって凸状に屈曲形成され、両端部が左右方向に延びる第1パイプ部材43と、上方から見て中央部が前方に向かって凸状に屈曲形成され、両端部が左右方向に延びる第2パイプ部材45と、これら両パイプ部材43,45を溶接により連結して一体化する6本の連結パイプ部材47…とを備えている。第1パイプ部材43は、第2パイプ部材45の前方に位置する。第1パイプ部材43の両端にそれぞれ設けられた第1ボス部43aと第2パイプ部材45の両端にそれぞれ設けられた第1ボス部45aとの間には、電動モータ25の下部が嵌合され、電動モータ25の下部と両第1ボス部43a,45aとにそれぞれ穿設された軸孔にキャンバー軸49が挿通されている。これによって、各前輪3は、それらのキャンバー角が変化する方向にキャンバー軸49の軸芯回りに回動可能に前輪支持部材29の両端部にそれぞれ連結される。
【0040】
前輪支持部材29の両パイプ部材43,45の長手方向中途部には、それぞれ第2ボス部43b,45bが設けられ、これらの第2ボス部43b,45bの間には、第1中央支持部材31がその長手方向両端面が対向するように嵌合され、両第2ボス部43b,45bにそれぞれ穿設された軸孔に転舵軸
部材51が挿通されている。転舵軸
部材51の上端部および下端部は、両第2ボス部43b,45bにそれぞれ固定されている。これによって、前輪支持部材29は、転舵軸
部材51の軸芯回りに回動可能に支持されている。前記前輪支持部材29およびキャンバー軸49は、本発明の「車輪支持部材」を構成し、前記前輪支持部材29,第1中央支持部材31,キャンバー軸49および転舵軸
部材51は、本発明の「連動機構」を構成する。
第1中央支持部材31は、略円筒状の第1中央支持部材本体31aを備え、該第1中央支持部材本体31aの長手方向中央部後部にボス部31bが設けられている。一方、第2中央支持部材33の前端部には一対のボス部33aが設けられている。各ボス部33a間に第1中央支持部材31のボス部31bが嵌合され、各ボス部31b,33aにそれぞれ穿設された軸孔に回動軸53が挿通されている。これによって、第1中央支持部材31は、第2中央支持部材33に回動軸53の軸芯回りに回動可能に支持されている。
【0041】
第2中央支持部材33の後端部はその横断面形状が略正方形に形成され、第3中央支持部材37の前端部はその横断面形状が第2中央支持部材33の後端部より大きい略正方形の管状に形成されている。第2中央支持部材33の後端部は第3中央支持部材37の前端部内に挿入され、挿入方向(前後方向)に沿う軸回りの両者の横断面形状(略正方形)の回転角度位置が互いに90度ずれており、両者の隙間にはゴム材または樹脂材からなる弾性部材35が嵌入されている。これによって、車両1のロール方向に前側懸架装置5が振動するのが緩衝される。また、第2中央支持部材33の前端部は、第3中央支持部材37に対して上下左右の各方向だけでなく前記挿入方向に沿う軸回りの捩じり方向にも弾性部材35の撓みによる弾性力に抗して相対変位可能とされている。
【0042】
第3中央支持部材37の後端部には、左右方向に延び横断面形状が略正方形の管状部材37aが溶接により結着されており、この管状部材37aの左右両端面が車体フレーム7の各前側支持部7f間に嵌合され、各前側支持部7fにそれぞれ穿設された通孔および管状部材37a内に、横断面形状が略正方形の支持軸55が挿入されている。支持軸55は、管状の部材からなり、各前側支持部7fの通孔に挿入されて、ねじ部材(図示せず)による締結により各前側支持部7fに固定されている。第3中央支持部材37の管状部材37aは、その横断面形状が支持軸55の横断面形状より大きく、支持軸55の挿入方向(左右方向)に沿う軸回りの両者の横断面形状(略正方形)の回転角度位置が互いに90度ずれており、両者の隙間にはゴム材または樹脂材からなる弾性部材39が嵌入されている。これによって、車両1のピッチ方向に前側懸架装置5が振動するのが緩衝される。また、第3中央支持部材37の前端部は、弾性部材39の撓みによる弾性力に抗して車体フレーム7に対して上下方向に揺動可能とされている。
【0043】
第1中央支持部材31の第1中央支持部材本体31aの上端部後部には左右一対のボス部31c,31cが設けられ、第2中央支持部材33の前後方向中途部上部には左右一対のボス部33b,33bが設けられている。各ボス部31c,33bに穿設された各ピン孔にはそれぞれピンが圧入され、これらのピンに伸縮可能な電動アクチュエータ57の両端部がそれぞれ連結されている。電動アクチュエータ57はステッピングモータからなり、供給する電流を適宜調整して該電動アクチュエータ57の両端部間の距離を伸縮させることでボス部31c,33b間の距離が変化して第1中央支持部材31の第1中央支持部材本体31aの前後方向傾斜角度、延いては、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf(
図9ないし
図11参照)の前後方向傾斜角度(キャスター角)が変更可能とされている。このキャスター角は、車両1の走行速度に応じて変更するようにしてもよい。例えば、走行速度が大きいときほどキャスター角を前方に傾斜させるようにすることで直進性を向上させることができる。一方、走行速度が小さいときほどキャスター角を鉛直方向寄りにすることで各前輪3の転舵を行い易くすることができる。前記第1中央支持部材31,第2中央支持部材33,回動軸53および電動アクチュエータ57は本発明の「キャスター角可変手段」を構成し、前記仮想直線Lfは、本発明の「
転舵軸」を構成する。なお、本実施の形態では、電動アクチュエータ57をステッピングモータで構成したが、これに替えて、油圧を適宜変更することで伸縮させる油圧シリンダにより構成してもよい。
【0044】
第1中央支持部材31の第1中央支持部材本体31aの上端部における左右側面であってボス部31cより前方に位置する左右の部位には、該部位を左右で挟むように第1リンク部材59の下端部が回動可能に連結されている。第1リンク部材59の上端部に設けられた左右一対の連結部59a,59aと各前輪3の電動モータ25の上部前部とに、棒状の一対のキャンバリンク部材61,61の両端部がそれぞれ回動可能に連結されている。第1リンク部材59の上下方向中途部と第2中央支持部材33のボス部33bとの各ピン孔にそれぞれ圧入された各ピンに、第2リンク部材63の両端部がそれぞれ回動可能に連結されている(
図8および
図12参照)。第2リンク部材63は枠状に形成され、該枠状の内側に前記電動アクチュエータ57が配設され、側方から見たとき両者は一部がラップしている(
図12参照)。このため、電動アクチュエータ57と第2リンク部材63とをそれらの動作中においても互いに干渉することなくコンパクトに配置することができる。前記前輪支持部材29,第1中央支持部材31,各キャンバー軸49,転舵軸
部材51,第1リンク部材59および各キャンバリンク部材61は本発明の「キャンバー角可変手段」を構成する。
【0045】
而して、転舵軸
部材51が前方に傾斜した状態で、各前輪3に付与されるトルクの差により転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動する。回動する量や速度は、各前輪3間におけるトルクの差が大きいほど大きくなる。各前輪3間におけるトルクの差は、各前輪3に付与される駆動トルクに差がある場合も生じるが、一方の前輪3に駆動トルクを付与する一方、他方の前輪3に制動トルクを付与することでも生じ、そうすることでトルクの差を大きくすることができる。
また、後述するように、各後輪9に付与されるトルクの差により各後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動して互いに上下逆方向に揺動することで車体フレーム7が左右方向の何れか一方に傾斜した結果、発生する各前輪3間における接地荷重の差によっても転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動する。このとき、各前輪3間における接地荷重の差を均衡させるべく各前輪3間で相対的に接地荷重が大きい方の前輪3側が接地荷重が小さい方の前輪3側より上方に変位するように前輪支持部材29が転舵軸
部材51の軸芯回りに回動する。
【0046】
このように各前輪3に付与されるトルクの差または各前輪3間における接地荷重の差のうち少なくとも何れか一方の差により、転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動すると、その動きに連動して各前輪3のキャンバ角も変化する。
また、前輪3の電動モータ25の上部前部とキャンバリンク部材61との連結位置を通り転舵軸
部材51の軸芯と直交する仮想直線上に、第1中央支持部材本体31aに対する第1リンク部材59の下端部の回動中心が位置付けられている。これによって、転舵軸
部材51が前方に傾斜することなく各前輪3に付与されるトルクの差により転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29を回動させた場合や、転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動することなく転舵軸
部材51の前後方向の傾斜角度を変化させた場合には、各前輪3のキャンバ角は殆ど変化しない。
【0047】
図18の(1)図において、破線で示す状態は車両1が直進するときの状態を示し、実線で示す状態は車両1が左側に旋回するように前輪支持部材29を左側に回動させた状態を示している。
図18の(2)図は、前輪支持部材29を左側に回動させた状態を前方斜め上方から右側の前輪3側を見た状態を示しており、この図から分かるように、前輪3が左側に傾斜しキャンバ角が変化する。一方、(1)図において一点鎖線で示す状態は、車両1が右側に旋回するように前輪支持部材29を右側に回動させた状態を示している。(3)図は、前輪支持部材29を右側に回動させた状態を前方斜め上方から右側の前輪3側を見た状態を示しており、この図から分かるように、前輪3が右側に傾斜しキャンバ角が変化する。なお、第1リンク部材59やキャンバリンク部材61等によりキャンバー角可変手段を構成する構造に替えて、キャンバリンク部材61を伸縮可能な電動アクチュエータで構成し、該電動アクチュエータの両端部を各前輪3の電動モータ25と前輪支持部材29とにそれぞれ自在継手を介して回動可能に連結するようにしてもよい。このように構成することで、前記電動アクチュエータを伸縮させることでも前輪3のキャンバ角を変化させることができる。
また、第1リンク部材59の下端部の回動中心位置、または、キャンバリンク部材61の両端部の連結位置のうち少なくとも何れか一方の位置を適宜設定することで、転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動することなく転舵軸
部材51を前方に傾斜させるに連れて、各前輪3の前端がより内側を向くようトー角が変化するように構成することもできる。
【0048】
一方、後側懸架装置11は、各後輪9の電動モータ25が一端部にそれぞれ固定される左右一対の後輪支持部材65,65と、各後輪支持部材65の他端部同士が間隔を隔てて互いに対向する状態で各後輪支持部材65を左右方向の軸回りに回動可能に支持する第1中央支持部材67と、この第1中央支持部材67の前端部を後端部により支持する第2中央支持部材69と、第1中央支持部材67の下部を一対のシャックル71,71を介して支持する後側トーションばね部材73とを備える。前記各後輪支持部材65は本発明の「車輪支持部材」を構成し、前記第1中央支持部材67および第2中央支持部材69は本発明の「基部材」を構成する。左右一対の後輪支持部材65,65は、回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr1から後方に後輪支持部材65の長手方向に遠ざかるにつれて下方に位置するように走行路面Rに対して略45度に傾斜した状態を中立位置として、上下方向にそれぞれ略同一の角度(例えば略45度)の範囲内で仮想直線Lr1回りに回動可能に構成されている。前記中立位置とは、乗員が乗車した状態で車両1が水平でかつ平坦な路面に停止しているときの後輪支持部材65の角度位置をいう。これによって、走行路面Rの凹凸により各後輪9から後輪支持部材65に伝播する振動を吸収する上で各後輪支持部材65の揺動範囲が好適な範囲に設定される。
【0049】
第2中央支持部材69は、その前端部が、車体フレーム7の後端部に後方斜め上方に向かって突設された一対の後側支持部7r,7rにより、ゴムまたは樹脂等の材料からなる弾性部材75を介して支持されている。前記弾性部材75および後側トーションばね部材73は、本発明の「弾性部材」を構成する。後側トーションばね部材73は、
図13に示すように、1本の棒状部材を左右対称に屈曲形成してなり、上方から見て、第2中央支持部材69の左右方向幅寸法より大きな幅寸法を隔てて平行に前後方向に延びる一対の平行部73a,73aと、各平行部73aの後端同士を連結する連結部73bと、各平行部73aの前端から車体フレーム7の後部に沿うと共に車体フレーム7とは一定の間隔を隔てて斜め前方に拡がるようにそれぞれ延びる斜拡部73cと、各斜拡部73cの前端からさらにそれぞれ前方に延びる前延部73dとからなる。
【0050】
後側トーションばね部材73は、連結部73bの両端部が前記各シャックル71の下端部にそれぞれ回動可能に連結され、各斜拡部73cの後端部および各前延部73dの前端部がそれぞれ支持具73eを介して車体フレーム7の後部に支持されている。各シャックル71の上端部は、第1中央支持部材67の下部に突設された左右一対のボス部にピンを介して回動可能に連結されている。これによって、後側懸架装置11に初期荷重を付勢すると共に、車体フレーム7に対して各後輪9が上下方向にそれぞれ同方向または逆方向に変位して各後輪支持部材65を介して第1中央支持部材67が上下方向に変位したり前後方向の軸回りに回動するとき、それらの動きに抗するように後側トーションばね部材73の撓みや捩じりによるばね力が作用する。
【0051】
第2中央支持部材69の前端部には、左右方向に延び横断面形状が略正方形の管状部材69aが溶接により結着されており、この管状部材69aの左右両端面が車体フレーム7の前記各後側支持部7r間に嵌合され、各後側支持部7rにそれぞれ穿設された通孔および管状部材69a内に、横断面形状が略正方形の支持軸79が挿入されている。支持軸79は、管状の部材からなり、ねじ部材(図示せず)による締結により各後側支持部7rに固定されている。第2中央支持部材69の管状部材69aは、その横断面形状が支持軸79の横断面形状より大きく、支持軸79の挿入方向(左右方向)に沿う軸回りの両者の横断面形状(略正方形)の回転角度位置が互いに90度ずれており、両者の隙間にはゴム材または樹脂材からなる弾性部材75が嵌入されている。これによって、車両1のピッチ方向に後側懸架装置11が振動するのが緩衝される。また、第2中央支持部材69の後端部は、弾性部材75の撓みによる弾性力に抗して車体フレーム7に対して上下方向に揺動可能とされている。
【0052】
第1中央支持部材67の左右方向中央部には、横断面形状が略正方形の管状部67aがその開口が前方を指向するように設けられている(
図13および
図16参照)。第2中央支持部材69の後端部は、その横断面形状が第1中央支持部材67の管状部67aの横断面形状より小さな略正方形に形成されている。第2中央支持部材69の後端部は第1中央支持部材67の管状部67a内に挿入され、該挿入方向(前後方向)に沿う軸回りの両者の横断面形状(略正方形)の回転角度位置が互いに90度ずれており、両者の隙間にはゴム材または樹脂材からなる弾性部材81が嵌入されている。これによって、車両1のロール方向に後側懸架装置11が振動するのが緩衝される。また、第1中央支持部材67は、第2中央支持部材69に対して上下左右の各方向だけでなく前記挿入方向に沿う軸回りの捩じり方向にも弾性部材81の撓みによる弾性力に抗して相対変位可能とされている。
【0053】
第1中央支持部材67は、
図16に示すように、その管状部67aの左右両側面からそれぞれ斜め上方に延びる左右一対の斜延部67b,67bと、各斜延部67bの上端に設けられた左右一対の軸受部67c,67cと、管状部67aの上面から上方に延設された延設部67dとを備えている。各軸受部67cは左右方向に延設され、各軸受部67cに穿設された軸孔には、一端部に後輪支持部材本体65aが結着され他端部に主傘歯車83が結着された左右一対の回転軸85,85(
図13参照)がそれぞれ回転可能に装着されている。各回転軸85は、それらの軸芯が左右方向に真っ直ぐ指向するように延設されている。後輪支持部材本体65aと回転軸85とは後輪支持部材65の一部を構成する。後輪支持部材本体65aは、回転軸85が結着された一端部から電動モータ25が固定された他端部の方に向かうに連れて左右方向外方に位置するように形成されている。
【0054】
延設部67dの上端部には、左右一対の主傘歯車83,83と同時に噛合する中間傘歯車87の回転軸の後端部が回転可能に軸支され、中間傘歯車87の回転軸の前端部には扇形状の回転板89(
図5,
図10,
図14および
図15参照)が固着されている。なお、中間傘歯車87の回転軸は前後方向に延設されている。前記各後輪支持部材65,第1中央支持部材67,各主傘歯車83,各回転軸85および中間傘歯車87は、本発明の「連動機構」を構成する。前記延設部67dの前面下部には、回転板89をパッド(図示せず)により挟持して中間傘歯車87の回転を制止したりその制止を解除したりする制動装置91(
図5,
図14および
図15参照)が固定されている。制動装置91は、本発明の「抵抗手段」を構成する。また、延設部67dの前面で、かつ、制動装置91の上方には、回転板89の回転角度位置を検出する角度検出センサ92が固定されている(
図14参照)。
【0055】
而して、制動装置91が制止を解除している場合において、各後輪9に付与されるトルクの差により左右一対の後輪支持部材65,65のうち何れか一方の後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動する。回動する量や速度は、各後輪9間におけるトルクの差が大きいほど大きくなる。各後輪9間におけるトルクの差は、各後輪9に付与される駆動トルクに差がある場合も生じるが、一方の後輪9に駆動トルクを付与する一方、他方の後輪9に制動トルクを付与することでも生じ、そうすることでトルクの差を大きくすることができる。
また、各前輪3に付与されるトルクの差により各前輪支持部材29が転舵軸
部材51の軸芯回りに回動することで車体フレーム7が左右方向の何れか一方に傾斜した結果、発生する各後輪9間における接地荷重の差によっても左右一対の後輪支持部材65,65のうち何れか一方の後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動する。このとき、各後輪9間における接地荷重の差を均衡させるべく各後輪9間で相対的に接地荷重が大きい方の後輪9側の後輪支持部材65が接地荷重が小さい方の後輪9側の後輪支持部材65より上方に変位するように回転軸85の軸芯回りに回動する。
【0056】
このように各後輪9に付与されるトルクの差または各後輪9間における接地荷重の差のうち少なくとも何れか一方の差により、左右一対の後輪支持部材65,65のうち何れか一方の後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動すると、その回動により一方の回転軸85および主傘歯車83が回転し、その回転により中間傘歯車87が回転する。中間傘歯車87の回転により他方の主傘歯車83および回転軸85が連動して回転する。このとき、一対の主傘歯車83,83と中間傘歯車87との噛合関係により一対の主傘歯車83,83は逆方向に回転するので、一対の回転軸85も逆方向に回転する。この結果、一対の後輪支持部材65,65は逆方向に揺動する。
図19は、左側の後輪9が車体フレーム7に対して下方に相対変位する一方、右側の後輪9が車体フレーム7に対して上方に相対変位した状態を示している。同図の(1)図は車両1の後方から見た状態を示し、(2)図は(1)図の矢視Aに沿う方向から見た状態を示し、(3)図は(1)図の矢視Bに沿う方向から見た状態を示している。この場合は、(1)図に示すように、車体フレーム7は、走行路面Rに対して右側に傾斜している。
【0057】
また、
図3に示すように、車体フレーム7が左右方向に傾動する際の傾動中心Pは、中間傘歯車87の回転軸の軸芯近傍に位置しているが、その傾動中心Pより下方に電池28の重心が位置付けられるように電池28を車体フレーム7によって支持している。直方体状の電池28の重心はその形状の略中央に位置している。これによって、その分、車両1の重心が低くなるので、車両1への乗員の乗降によって、乗員を含む車両1の重心の位置が変化したとしても車両1は安定した停車状態を維持することができる。さらに、車両1が旋回走行しているときに電池28に作用する遠心力によって旋回方向外側に車体フレーム7が傾動するのを抑制することもできる。
【0058】
また、車体フレーム7の後端部に左右に振り分けて一対の電池28,28を互いに離間して配置したので、車体フレーム7の中央部に集中して配置する場合と比べて乗車室13と各電池28とが干渉し難くなるため、乗車室13を低位置に配置することができる。さらに、車体フレーム7の前記傾動中心Pから左右方向に離間した位置に各電池28が配置されるので、その分、傾動中心P回りの慣性モーメントが大きくなり、傾動中心P回りの車体フレーム7のローリングを抑制することができる。
なお、車体フレーム7の後端部に電池28を配置する構成に替えて、またはその構成と共に、転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動して車体フレーム7が左右方向に傾動する際の傾動中心より下方に電池28の重心が位置付けられるように電池28を車体フレーム7の前端部に配置して該前端部で電池28を支持するようにしてもよい。これによっても、車両1の安定した停車状態の維持に寄与することができると共に旋回方向外側への車体フレーム7の傾動抑制に寄与することができる。
【0059】
再び
図8に戻って、前輪支持部材29を回動可能に支持する第1中央支持部材31の第1中央支持部材本体31aの長手方向中央部前部には、上下方向に一定の間隙を隔てて一対のブラケット31d,31dが固着され、前方に向かって延びている。各ブラケット31dの前端部間には、マスター側油圧シリンダ93の長手方向中途部が回動可能に固定され、該油圧シリンダ93内に摺動可能に一端部が挿入されたマスター側ピストン95の他端部が前輪支持部材29の連結パイプ部材47(第1中央支持部材31の左側近傍に位置する連結パイプ部材47)の上下方向中途部に回動可能に連結されている(
図5参照)。
【0060】
一方、乗車室13の底面部には、スレーブ側油圧シリンダ97の長手方向中途部が回動可能に固定され、該スレーブ側油圧シリンダ97内に摺動可能に一端部が挿入されたスレーブ側ピストン98(
図6参照)の他端部がハンドル20のハンドル軸20aの近傍に回動可能に固定されている。マスター側油圧シリンダ93内とスレーブ側油圧シリンダ97内とは、耐圧性の油圧配管99(
図6参照)を介して液密に接続され、これらの内部には作動油が充填されている。この結果、ハンドル20と前輪支持部材29とが各油圧シリンダ93,97および油圧配管99を介して連動連結される。すなわち、前輪支持部材29の転舵軸
部材51の軸芯回りの回動とハンドル20のハンドル軸20aの軸芯回りの回動とは、各油圧シリンダ93,97および油圧配管99の内部を流動する作動油の圧力によって連動させられる。また、油圧配管99の中途部には、油圧配管99内を作動油が流動する際の流動抵抗を調整する流動抵抗調整装置101(
図6参照)が配設されている。各油圧シリンダ93,97および油圧配管99は、本発明の「動力伝達手段」を構成し、流動抵抗調整装置101は本発明の「抵抗手段」を構成する。
【0061】
流動抵抗を設けることで、例えば、左右一対の前輪3,3のうち何れか一方から過大な負荷が前輪支持部材29に加わった場合等でも前輪支持部材29やハンドル20が急激に回動することが防止される。なお、流動抵抗調整装置101は電磁式の開閉弁からなり、電流を通電する時間と遮断する時間とのデューティ比を適宜変更するPWM制御によって流動抵抗の大きさが調整される。電気系統の異常により通電が遮断された場合は、前記電磁式の開閉弁が開弁されて流動抵抗調整装置101の流動抵抗が最小になるように構成されている。このため、ハンドル20を乗員が手で回動操作することで、各油圧シリンダ93,97および油圧配管99の内部の作動油の圧力によって転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29を人力で回動させて各前輪3を操向することができる。
なお、各油圧シリンダ93,97、油圧配管99および流動抵抗調整装置101に替えて、ハンドル20と前輪支持部材29とをリンクまたはプッシュプルワイヤを介して連動連結すると共にリンクまたはプッシュプルワイヤが作動する際にそれらを把持することでそれらに摩擦抵抗を付与する手段をそれらの長手方向中途部に配設するようにしてもよい。この場合は、リンクまたはプッシュプルワイヤが本発明の「動力伝達手段」を構成し、摩擦抵抗を付与する手段が本発明の「抵抗手段」を構成する。
【0062】
次に、
図20ないし
図25を参照して、車両1に搭載された制御装置103による車両1の制御について説明する。最初に
図20および
図21の(1)図を参照して制御の大枠であるメインルーチンについて説明する。
図20中の矢印付き線は、電線を示し、矢印は入出力信号の流れる方向を示している。矢印付き線の両端に矢印が記されている矢印付き線は、双方に入出力信号が流れることを意味する。
まず、車両1の各前輪3の各電動モータ25にそれぞれ要求される駆動トルク同士または各前輪3の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ要求される制動トルク同士を合計した値(以下「前輪要求トルク」という。)と、各後輪9の各電動モータ25にそれぞれ要求される駆動トルク同士または各後輪9の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ要求される制動トルク同士を合計した値(以下「後輪要求トルク」という。)とをさらに合計した値(以下「車両要求トルク」という。)を演算する(ステップM1)。
【0063】
次に、車両1が目標とする旋回半径を演算する(ステップM2)。次に、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの、目標とする前後方向傾斜角(目標転舵軸前後傾斜角)を演算する(ステップM3)。次に、車両1の左右方向における傾斜角であって目標とする車体の傾斜角(目標車体左右傾斜角)を演算する(ステップM4)。次に、前輪支持部材29が転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに回動する際の抵抗として付与すべき目標転舵制動量を演算する(ステップM5)。次に、左右一対の後輪支持部材65,65が回転軸85の軸芯回りに回動する際の抵抗として制動装置91により付与すべき目標後輪揺動制動量を演算する(ステップM6)。制動装置91により抵抗を付与することで、例えば、左右一対の後輪9,9のうち何れか一方から過大な負荷が一方の後輪支持部材65に加わった場合等でも後輪支持部材65が急激に回動することが防止される。
次に、各前輪3および各後輪9の各電動モータ25に付与すべき駆動トルクまたは各前輪3および各後輪9の各電動ブレーキモータ27に付与すべき制動トルクの、各車輪ごとの目標とする目標トルクの各値を演算する(ステップM7)。最後に、前記各ステップで取得した値に基づいて各装置を作動させるための指令値を演算する(ステップM8)。このステップM8の詳細については後述する。
【0064】
次に、
図21の(1)図に示すメインルーチンの各ステップM1ないしM8でそれぞれ実行されるサブルーチンを
図21の(2)図ないし
図23の(8)図を参照して詳細に説明する。
まず、ステップM1の車両要求トルク演算のサブルーチンについて
図21の(2)図を参照して説明する。アクセル操作子22の近傍に配設されたアクセルセンサ105によりアクセル操作子22の操作量であるアクセル操作量を検出し、その値を読み込む(ステップS11)。次に、ブレーキ操作子21の近傍に配設されたブレーキセンサ107によりブレーキ操作子21の操作量であるブレーキ操作量を検出し、その値を読み込む(ステップS12)。なお、アクセル操作子22およびブレーキ操作子21が双方とも操作されてステップS11およびステップS12において、アクセル操作量およびブレーキ操作量の双方とも検出した場合は、ブレーキ操作量だけ採用されアクセル操作量は無かったものとして車両要求トルクの値が制御装置103により演算される。
【0065】
次に、各前輪3および各後輪9の回転速度をそれぞれ検出する(ステップS13)。各回転速度は各電動モータ25に内蔵されたロータリエンコーダからなる回転速度センサ109によって検出され、その値が読み込まれて各回転速度の平均値が演算される。そして、この平均値に基づいて車両1の走行速度が求められる(ステップS14)。最後に、ステップS11,S12およびS14で取得されたアクセル操作量、ブレーキ操作量および走行速度の各値に基づいて、車両要求トルクの値が演算される(ステップS15)。この車両要求トルクの値は、例えば、アクセル操作量およびブレーキ操作量と走行速度と車両要求トルクとの関係を予め実験によって求めた三次元マップまたは関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該三次元マップまたは関係式に基づいて求めることができる。
【0066】
次に、メインルーチンにおけるステップM2の目標旋回半径演算のサブルーチンについて
図21の(3)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS15で求めた車両要求トルクの値を読み込む(ステップS21)。次に、ハンドル20をハンドル軸20aの軸芯回りに回動したときの操舵力に相当する回動トルクをトルクセンサ111により検出し、その値を読み込む(ステップS22)。該トルクセンサ111は、ハンドル軸20aの軸芯上に配設されている。次に、ハンドル20をハンドル軸20aの軸芯回りに回動したときの操舵角に相当する回動角度をロータリエンコーダからなる角度センサ113により検出し、その値を読み込む(ステップS23)。該角度センサ113は、ハンドル軸20aの軸芯上に配設されており、車両1が直進するときのハンドル20の回動角度を0とし、その角度から時計回りまたは反時計回りの回動方向のうち何れか一方の回動方向を正とする一方、他方の回動方向を負として角度を検出するように構成されている。これによって、ハンドル20の回動方向を判別することもできる。また、車両1には、車体フレーム7の加速度または角速度を検出する車体姿勢検出センサ114が配設されている。
【0067】
なお、角度センサ113によって回動方向を判別する替わりにトルクセンサ111によって回動方向を判別するようにしてもよい。その場合は、車両1が直進するときのハンドル20の回動トルクを0とし、その状態からハンドル軸20aの軸芯回りに時計回りまたは反時計回りのうち何れか一方の回動方向にハンドル20を回動したときの回動トルクを正とする一方、他方の回動方向にハンドル20を回動したときの回動トルクを負とするように構成されている。
最後に、ステップS21ないしS23で読み込まれた車両要求トルク、回動トルクおよび回動角度の各値に基づいて、車両1が走行する際に車両1の中心が通過すべき目標旋回半径が演算される(ステップS24)。この場合の車両1の中心とは、車両1を上方から見たときの車両1の前後方向および左右方向の各中心線の交点をいう。目標旋回半径は、例えば、車両要求トルク、回動トルク、回動角度および目標旋回半径の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0068】
次に、メインルーチンにおけるステップM3の目標転舵軸前後傾斜角演算のサブルーチンについて
図22の(4)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS11ないしS14と同様のステップを実行する(ステップS31ないしS34)。なお、アクセル操作子22およびブレーキ操作子21が双方とも操作されてステップS31およびステップS32において、アクセル操作量およびブレーキ操作量の双方とも検出した場合は、ブレーキ操作量だけ採用されアクセル操作量は無かったものとして制御装置103により処理される。
【0069】
最後に、ステップS31,S32およびS34で取得されたアクセル操作量、ブレーキ操作量および走行速度の各値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの、目標とする前後方向傾斜角(目標転舵軸前後傾斜角)の値が演算される(ステップS35)。目標転舵軸前後傾斜角の値は、例えば、アクセル操作量およびブレーキ操作量と走行速度と目標転舵軸前後傾斜角との関係を予め実験によって求めた三次元マップまたは関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該三次元マップまたは関係式に基づいて求めることができる。
【0070】
次に、メインルーチンにおけるステップM4の目標車体左右傾斜角演算のサブルーチンについて
図22の(5)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS15で求めた車両要求トルクの値を読み込む(ステップS41)。次に、前記サブルーチンのステップS24で求めた目標旋回半径の値を読み込む(ステップS42)。次に、前記サブルーチンのステップS35で求めた目標転舵軸前後傾斜角の値を読み込む(ステップS43)。続いて、ステップS41ないしS43で読み込まれた車両要求トルク、目標旋回半径および目標転舵軸前後傾斜角の各値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの、目標とする左右方向傾斜角(目標転舵軸左右傾斜角)の値と、第1中央支持部材67に対して各後輪支持部材65が互いに逆向きに回動するときの目標とする回動角度(目標後輪揺動角)とがそれぞれ演算される(ステップS44,S45)。
【0071】
目標転舵軸左右傾斜角の値は、例えば、車両要求トルク、目標旋回半径、目標転舵軸前後傾斜角および目標転舵軸左右傾斜角の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。また、目標後輪揺動角の値は、例えば、車両要求トルク、目標旋回半径、目標転舵軸前後傾斜角および目標後輪揺動角の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。車両1が旋回走行しているときの目標転舵軸左右傾斜角および目標後輪揺動角の各値は、車両1に作用する遠心力の大きさに応じた最適な角度に車両1が傾斜するようにそれぞれ設定される。
【0072】
次に、メインルーチンにおけるステップM5の目標転舵制動量演算のサブルーチンについて
図22の(6)図を参照して説明する。まず、各前輪3および各後輪9の回転速度を各回転速度センサ109によってそれぞれ検出する(ステップS51)。検出された各回転速度の平均値が演算され、この平均値に基づいて車両1の走行速度が求められる(ステップS52)。次に、ハンドル20の操舵力に相当する回動トルクをトルクセンサ111により検出し、その値を読み込む(ステップS53)。次に、ハンドル20の操舵角に相当する回動角度を角度センサ113により検出し、その値を読み込む(ステップS54)。次に、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動するときの回動角度に相当する転舵角をロータリエンコーダからなる転舵角センサ115により検出し、その値を読み込む(ステップS55)。該転舵角センサ115は、転舵軸
部材51の近傍に配設されており、車両1が直進するときの転舵角を0とし、その角度から時計回りまたは反時計回りの回動方向のうち何れか一方の回動方向を正とする一方、他方の回動方向を負として角度を検出するように構成されている。
なお、転舵角センサ115に替えて、転舵軸
部材51の軸芯回りに前輪支持部材29が回動するときの角速度を検出するヨーレートセンサを採用することもできる。
【0073】
次に、ステップS55で読み込まれた転舵角の値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動するときの回動角速度に相当する転舵角速度が演算される(ステップS56)。最後に、ステップS52,S53,S54およびS56でそれぞれ取得された走行速度、操舵力、操舵角および転舵角速度の各値に基づいて、前輪支持部材29が前記仮想直線Lf回りに回動する際の抵抗として付与すべき目標転舵制動量の値が演算される(ステップS57)。目標転舵制動量の値は、例えば、走行速度、操舵力、操舵角、転舵角速度および目標転舵制動量の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。目標転舵制動量の値は、車両1の走行速度が大きいほど大きな制動力が作用し、車両1が停車しているときは制動力が0になるように設定される。
【0074】
次に、メインルーチンにおけるステップM6の目標後輪揺動制動量演算のサブルーチンについて
図23の(7)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS51ないしS54と同様のステップを実行する(ステップS61ないしS64)。次に、前記ステップM5の目標転舵制動量演算のサブルーチンで演算された目標転舵制動量を読み込む(ステップS65)。最後に、ステップS62ないしS65でそれぞれ取得された走行速度、操舵力、操舵角および目標転舵制動量の各値に基づいて、左右一対の後輪支持部材65,65が各回転軸85の軸芯回りに回動する際の抵抗として制動装置91により付与すべき目標後輪揺動制動量の値が演算される(ステップS66)。目標後輪揺動制動量の値は、例えば、走行速度、操舵力、操舵角、目標転舵制動量および目標後輪揺動制動量の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。目標後輪揺動制動量の値は、基本的には車両1の走行速度が大きいほど大きな制動力が作用するように設定されるが、車両1が停車しているときや低速で直進走行しているときは制動力が最大になり制動装置91がロック状態になるようにも設定される。また、車両1が旋回走行しているときも走行速度や前記転舵角の各値に応じた制動力となるように設定される。
【0075】
次に、メインルーチンにおけるステップM7の各目標トルク演算のサブルーチンについて
図23の(8)図を参照して説明する。まず、ハンドル20の操舵力に相当する回動トルクをトルクセンサ111により検出し、その値を読み込む(ステップS71)。次に、ハンドル20の操舵角に相当する回動角度を角度センサ113により検出し、その値を読み込む(ステップS72)。次に、ステップS71およびS72で読み込んだ回動トルクおよび回動角度の各値ならびに表1に示す旋回状態判定テーブルに基づいて、車両1が直進状態または旋回状態の何れの状態であるのか判定する(ステップS73)。旋回状態判定テーブルは、制御装置103内の記憶部に予め記憶されている。トルクセンサ111により検出された回動トルクおよび角度センサ113により検出された回動角度の各値が共に0の場合は、車両1が直進状態であると判断される。また、トルクセンサ111により検出された回動トルクの値が0から正の値に増加し、かつ、角度センサ113により検出された回動角度の値が0の場合は、車両1が直進状態から旋回状態に移行すると判断される。
【0077】
また、トルクセンサ111により検出された回動トルクおよび角度センサ113により検出された回動角度の各値が共に正の値の場合は、車両1が旋回中であると判断される。また、トルクセンサ111により検出された回動トルクの値が正の値から0に減少し、かつ、角度センサ113により検出された回動角度の値が正の値の場合は、車両1が旋回状態から直進状態に移行すると判断される。次に、前記サブルーチンのステップS35で求めた目標転舵軸前後傾斜角の値を読み込む(ステップS74)。次に、前記サブルーチンのステップS15で求めた車両要求トルクの値を読み込む(ステップS75)。次に、ステップS73で判定した車両1の直進または旋回の状態と、ステップS75で読み込まれた車両要求トルクの値とに基づいて、表2に示すマップ選定テーブルによりマップを選定し、選定したマップに基づいて、各前輪3側に付与すべき前輪要求トルク(駆動トルクまたは制動トルク)と各後輪9側に付与すべき後輪要求トルク(駆動トルクまたは制動トルク)との差を演算する(ステップS76)。なお、表2に示すマップ選定テーブルでは、車両要求トルクの値の正と負とで2つに区分けしているが、これに替えて、車両要求トルクの値に応じて段階的に3つ以上に区分けしてもよい。
【0079】
次に、前記ステップS76で求められた前輪要求トルクと後輪要求トルクとの差および前記ステップS75で読み込まれた車両要求トルクの各値に基づいて、前輪要求トルクと後輪要求トルクとを求める(ステップS77)。
前記ステップS76およびS77を
図24および
図25も参照してさらに詳述すると、例えば、前記ステップS73で車両1が直進状態であると判断され、かつ、前記ステップS75で読み込まれた車両要求トルクの値が正であると判断された場合は、マップ選定テーブルによりマップ11が選定される。
図24に示すマップ11およびマップ12では、横軸を目標転舵軸前後傾斜角、縦軸を前輪要求トルクおよび後輪要求トルクとして、前輪要求トルクの特性を実線で表示し、後輪要求トルクの特性を破線で表示している。これらの特性は実験によって求められる。なお、
図24では説明の都合上、表2に記載された複数のマップのうちマップ11およびマップ12しか図示していないが、これらのマップと同様に他のマップ(マップ21等)も存在し、全てのマップは制御装置103内の記憶部に予め記憶されている。
【0080】
図24の(1)図に示すマップ11において、前記ステップS74で読まれた目標転舵軸前後傾斜角の値をΘ
1とし、マップ11でΘ
1に対応する前輪要求トルクと後輪要求トルクとをそれぞれTf
1とTr
1とすると、前輪要求トルクTf
1と後輪要求トルクTr
1との差ΔT
1が求められる(ステップS76)。この場合の前輪要求トルクTf
1は各前輪3の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
1は各後輪9の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値である。
【0081】
一方、前記ステップS73で車両1が直進状態であると判断され、かつ、前記ステップS75で読み込まれた車両要求トルクの値が負であると判断された場合は、表2のマップ選定テーブルによりマップ12(
図24の(2)図参照)が選定される。そして、前記ステップS74で読み込まれた目標転舵軸前後傾斜角の値をΘ
1とし、該Θ
1に対応する前輪要求トルクと後輪要求トルクとをそれぞれTf
2とTr
2とすると、前輪要求トルクTf
2と後輪要求トルクTr
2との差ΔT
2が求められる(ステップS76)。この場合の前輪要求トルクTf
2は各前輪3の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
2は各後輪9の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値である。
【0082】
これらの前輪要求トルクTf
1,Tf
2および後輪要求トルクTr
1,Tr
2が各前輪3および各後輪9にそれぞれ作用する状態を模式的に示したのが
図25である。
図25の(1)図から分かるように、転舵軸前後傾斜角がΘ
1のときは、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kの方が各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)より前方に位置しており、トレールQが正の値となっている。
また、目標転舵軸前後傾斜角の値がΘ
2のときは、マップ11における前輪要求トルクTf
3と後輪要求トルクTr
3の各値が等しく両値の差ΔT
3は0であり、マップ12における前輪要求トルクTf
4および後輪要求トルクTr
4の各値が等しく両値の差ΔT
4は0である。この場合の前輪要求トルクTf
3は各前輪3の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
3は各後輪9の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値である。また、前輪要求トルクTf
4は各前輪3の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
4は各後輪9の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値である。これらの前輪要求トルクTf
3,Tf
4および後輪要求トルクTr
3,Tr
4が各前輪3および各後輪9にそれぞれ作用する状態を模式的に示したのが
図25の(2)図である。この図から分かるように、転舵軸前後傾斜角がΘ
2のときは、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kが各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)と一致しており、トレールQは0となっている。
【0083】
また、目標転舵軸前後傾斜角の値がΘ
3のときは、マップ11における前輪要求トルクTf
5と後輪要求トルクTr
5との差はΔT
5であり、マップ12における前輪要求トルクTf
6と後輪要求トルクTr
6との差はΔT
6である。この場合の前輪要求トルクTf
5は各前輪3の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
5は各後輪9の各電動モータ25にそれぞれ付与すべき駆動トルクの値を合計した値である。また、前輪要求トルクTf
6は各前輪3の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値であり、後輪要求トルクTr
6は各後輪9の各電動ブレーキモータ27にそれぞれ付与すべき制動トルクの値を合計した値である。これらの前輪要求トルクTf
5,Tf
6および後輪要求トルクTr
5,Tr
6が各前輪3および各後輪9にそれぞれ作用する状態を模式的に示したのが
図25の(3)図である。この図から分かるように、転舵軸前後傾斜角がΘ
3のときは、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kの方が各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)より後方に位置しており、トレールQが負の値となっている。このような状態は、車両1が加速しているときに行われるのが望ましく、直進性を良好にすることができる。
【0084】
次に、各要求トルク等の値を総称した表現形式で、前輪要求トルクをTf
nとし後輪要求トルクをTr
nとし、これらTf
nとTr
nとの差をΔT
nとし、さらに、Tf
nとTr
nとの合計値となる車両要求トルクをT
nとしたとき、これらの各値の関係式は、下記の式1および式2となる。これらの関係式に基づいて、前輪要求トルクTf
nと後輪要求トルクTr
nとを求める(ステップS77)。
【0086】
次に、前記サブルーチンのステップS24で演算された目標旋回半径の値を読み込む(ステップS78)。次に、各前輪3および各後輪9の回転速度を各回転速度センサ109によってそれぞれ検出し、その値を読み込む(ステップS79)。読み込まれた各回転速度の平均値が演算され、この平均値に基づいて車両1の走行速度を求める(ステップS80)。次に、前記サブルーチンのステップS44で演算された目標転舵軸左右傾斜角および前記サブルーチンのステップS45で演算された目標後輪揺動角の各値を読み込む(ステップS81,S82)。
【0087】
最後に、ステップS77で求められた前輪要求トルク、ステップS78で読み込まれた目標旋回半径、ステップS80で求められた車両1の走行速度およびステップS81で読み込まれた目標転舵軸左右傾斜角の各値に基づいて各前輪3ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値を演算すると共に、ステップS77で求められた後輪要求トルク、同目標旋回半径、同走行速度およびステップS82で読み込まれた目標後輪揺動角の各値に基づいて各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値を演算する(ステップS83)。各前輪3ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値は、例えば、前輪要求トルクと目標旋回半径と車両1の走行速度と目標転舵軸左右傾斜角と付与すべき各要求トルクとの関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0088】
同様に、各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値は、例えば、後輪要求トルクと目標旋回半径と車両1の走行速度と目標後輪揺動角と付与すべき各要求トルクとの関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。なお、該関係式に目標旋回半径と車両1の走行速度とを含めたのは、これらの値に応じて車両1に作用する遠心力によって、各前輪3および各後輪9が走行路面に接地するときの荷重が各前輪3同士および各後輪9同士で異なるため、そのことに配慮して各前輪3および各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの適切な値を求めるようにしたためである。
【0089】
次に、再び
図21の(1)図に示すメインルーチンに戻って、制御装置103による車両1の制御について説明する。ステップM1で求めた車両要求トルクおよびステップM7で求めた各車輪ごとの目標トルクの各値に基づいて各電動モータ25および各電動ブレーキモータ27を作動させるための各指令値を演算し、ステップM3で求めた目標転舵軸前後傾斜角の値に基づいて電動アクチュエータ57を作動させるための指令値を演算し、ステップM5で求めた目標転舵制動量の値に基づいて流動抵抗調整装置101を作動させるための指令値を演算し、ステップM6で求めた目標後輪揺動制動量の値に基づいて制動装置91を作動させるための指令値を演算する(ステップM8)。これらの演算で取得された各指令値に基づいて、各電動モータ25や各電動ブレーキモータ27等の各種機器が制御装置103により制御される。
【0090】
なお、車両1が低速で走行している時には各前輪3側より各後輪9側へ付与されるトルクが大きくなり、高速で走行している時にはその逆となるように構成されている。このため、各前輪3側のモータ25にSR (Switched Reluctance Motor) モータのような高速回転型モータを採用する一方、各後輪9側のモータ25にロータの内部に磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)モータのような高トルク型モータを採用するのが好適である。また、これに替えて、各前輪3側と各後輪9側とで同じタイプのモータを採用する場合は、各前輪3側より各後輪9側の方がより減速比の高いモータを採用することが望ましい。
【0091】
指令値通りに各種機器が制御されているか否かについては、各種機器の動作が各種センサで常に監視され、指令値通りに各種機器が動作するようフィードバック制御が実行される。例えば、
図22の(5)図に示すサブルーチンのステップS44で取得される目標転舵軸左右傾斜角のフィードバック制御については、車体姿勢検出センサ114によって車体フレーム7の姿勢が監視されることで実行される。また、同サブルーチンのステップS45で取得される目標後輪揺動角の制御については、角度検出センサ92によって回転板89の回転角度位置が監視されることで実行される。
【0092】
上述したような本発明の実施の形態によれば、前輪支持部材29や後輪支持部材65を介して各前輪3同士および各後輪9同士をそれぞれ機械的に連動して互いに上下逆方向に車体フレーム7に対してそれぞれ相対変位可能とし、電動モータ25や電動ブレーキモータ27により各前輪3や各後輪9に付与されるトルクの差により前輪支持部材29や後輪支持部材65を各第1中央支持部材31,67に対してそれぞれ回動させることで各前輪3同士および各後輪9同士をそれぞれ互いに上下逆方向に車体フレーム7に対して相対変位させるようにしたので、両前輪3同士および両後輪9同士をそれぞれ互いに上下逆方向に確実に変位させることができ、両前輪3のうち一方だけ、または両後輪9のうち一方だけ偏って変位することがないようにすることができる。
【0093】
また、第1中央支持部材31を介して前輪支持部材29を支持する第2中央支持部材33は弾性部材35を介して第3中央支持部材37に支持され、該第3中央支持部材37は弾性部材39を介して車体フレーム7に支持されている。さらに、第2中央支持部材33は車体フレーム7に固定された前側トーションばね部材41によって支持されている。
一方、後輪支持部材65を支持する第1中央支持部材67は弾性部材81を介して第2中央支持部材69に支持され、該第2中央支持部材69は弾性部材75を介して車体フレーム7に支持され、さらに第1中央支持部材67は車体フレーム7に固定された後側トーションばね部材73によって支持されている。この結果、走行路面Rの凹凸により各前輪3や各後輪9から前輪支持部材29や後輪支持部材65等を経て第2中央支持部材33,第3中央支持部材37や第2中央支持部材69に伝播する振動がさらに車体フレーム7に伝播するのを抑制することができる。
【0094】
また、上部が下部より前方に位置するように傾斜した転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに回動可能に前輪支持部材29を第1中央支持部材31等を介して車体フレーム7により支持するようにしたので、各前輪3に付与される駆動トルクまたは制動トルクの差により前輪支持部材29を第1中央支持部材31に対して回動させることで容易に両前輪3を上下逆方向に変位させることができる。
また、後輪9側についても、主傘歯車83や中間傘歯車87等を介して各後輪9を互いに機械的に連動して上下逆方向に車体フレーム7に対して相対変位させるようにしたので、確実に両後輪9を上下逆方向に変位させることができ、かつ、そのための連動機構を単純な機構により構成することができる。
また、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動すると、各キャンバー軸49,転舵軸
部材51,第1リンク部材59および各キャンバリンク部材61等が相互に関連し合って、その回動量に応じて各前輪3が旋回方向内側に傾斜するので、車両1の旋回性が向上する。
【0095】
また、車両1が進行方向に加速しているときは、各前輪3の接地点S同士を結ぶ仮想直線より車両1の進行方向後方に、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kを位置付けるように転舵軸
部材51を傾斜させるようにしたので、加速時の車両1の直進性を向上させることができる。
さらにまた、電動アクチュエータ57を適宜作動させることで、車両1の走行速度に応じて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの傾斜角度を変更することができるので、該仮想直線Lfの傾斜角度を車両1の走行速度に適した角度に設定することができる。
【0096】
次に、本発明の7つの変形例について以下に説明する。なお、これらの変形例の説明で参照する図において、上述した実施の形態や先に記載している他の変形例で説明しているものと同一または同等の部材,部位および方向等については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。これらの変形例においても、上述した本発明の実施の形態や先に記載している他の変形例で説明しているものと同一または同等の構成については、同様の作用・効果を奏することができるのは言うまでもない。
【0097】
<第1変形例>
前記実施の形態では、車両1に乗車した乗員が、ハンドル20に配設されたブレーキ操作子21やアクセル操作子22を操作して、車両1を手動運転する例を示したが、
図26ないし
図30に示す第1変形例のように、ハンドル20,ブレーキ操作子21およびアクセル操作子22を操作せずに車両1を自動運転するモードと前記手動運転するモードとを任意に切り替えることができるようにしてもよい。
【0098】
この変形例では、前記手動運転モードと自動運転モードとを切り替えるための切替装置130と、車両1の進行方向を撮像する撮像装置131と、道路地図の情報を記憶する地図情報記憶装置133と、目標とする地点を入力するとその地点までの走行経路を指示案内する走行経路指示制御装置135と、道路における混雑地点や事故地点等の交通情報を受信する交通情報受信装置137と、車両1の現在の位置情報を受信するGPS受信装置139と、道路に設置された通信装置との通信や他の車両との通信を無線で行う運転支援通信装置141と、他の車両や木々等の障害物を検知する障害物検知装置143等の各種車載機器が車両1に搭載されている。
次に、車両1に搭載された制御装置103による車両1の制御について説明する。制御の大枠であるメインルーチンについては
図27の(1)図に示す通りであり、このメインルーチンは、前記実施の形態における
図21の(1)図に示すものと同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0099】
次に、
図27の(1)図に示すメインルーチンの各ステップM1ないしM8でそれぞれ実行されるサブルーチンを
図27の(2)図ないし
図29の(8)図を参照して詳細に説明する。
まず、ステップM1の車両要求トルク演算のサブルーチンについて
図27の(2)図を参照して説明する。地図情報記憶装置133に記憶された道路地図情報と、走行経路指示制御装置135により入力された目標地点と、GPS受信装置139により受信された車両1の現在の位置情報とに基づき、目標地点までの軌道(目標軌道)を演算して、その軌道情報を読み込む(ステップS11)。この目標軌道を演算する際に、交通情報受信装置137により受信した混雑地点や事故地点等の交通情報も参考にして演算してもよい。軌道情報には、現在の位置から目標地点までの距離や道路の勾配に関する情報が含まれる。
次に、道路に設置された通信装置から該道路の制限速度の情報を運転支援通信装置141により受信し、該制限速度の情報や前記ステップS11により読み込んだ軌道情報に基づき、目標とする速度(目標速度)を演算する(ステップS12)。
【0100】
次に、前記実施の形態における
図21の(2)図におけるステップS13,14と同様にして、各前輪3および各後輪9の回転速度をそれぞれ検出し(ステップS13)、車両1の走行速度を求める(ステップS14)。最後に、ステップS11,S12およびS14で取得された軌道情報、目標速度および走行速度の各値に基づいて、車両要求トルクの値が演算される(ステップS15)。この車両要求トルクの値は、例えば、軌道情報と目標速度と走行速度と車両要求トルクとの関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0101】
次に、メインルーチンにおけるステップM2の目標旋回半径演算のサブルーチンについて
図27の(3)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS11と同様に目標軌道を演算して、その軌道情報を読み込む(ステップS21)。次に、前記サブルーチンのステップS15で求めた車両要求トルクの値を読み込む(ステップS22)。次に、ハンドル20がハンドル軸20aの軸芯回りに回動したときの操舵角に相当する回動角度を角度センサ113により検出し、その値を読み込む(ステップS23)。なお、ハンドル軸20aの長手方向中途部に電磁クラッチを配設して、手動運転モードのときは電磁クラッチを接続してハンドル20とハンドル軸20aとが一体的に回動する一方、自動運転モードのときは電磁クラッチを切断してハンドル20が回動しないようにハンドル20をロックするようにしてもよい。
最後に、ステップS21ないしS23で読み込まれた目標軌道、車両要求トルク、および回動角度の各値に基づいて、車両1が走行する際に車両1の中心が通過すべき目標旋回半径が演算される(ステップS24)。旋回半径は、例えば、目標軌道、車両要求トルク、回動角度および目標旋回半径の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0102】
次に、メインルーチンにおけるステップM3の目標転舵軸前後傾斜角演算のサブルーチンについて
図28の(4)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS11ないしS14と同様のステップを実行する(ステップS31ないしS34)。
最後に、ステップS31,S32およびS34で取得された目標軌道、目標速度および走行速度の各値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの、目標とする前後方向傾斜角(目標転舵軸前後傾斜角)の値が演算される(ステップS35)。目標転舵軸前後傾斜角の値は、例えば、目標軌道と目標速度と走行速度と目標転舵軸前後傾斜角との関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0103】
次に、メインルーチンにおけるステップM4の目標車体左右傾斜角演算のサブルーチンについて
図28の(5)図を参照して説明する。前記実施の形態における
図22の(5)図におけるステップS41ないしS45と同様にして、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの、目標とする左右方向傾斜角(目標転舵軸左右傾斜角)の値と、第1中央支持部材67に対して各後輪支持部材65が互いに逆向きに回動するときの目標とする回動角度(目標後輪揺動角)とが演算される(ステップS41ないしS45)。
目標転舵軸左右傾斜角の値は、例えば、車両要求トルク、目標旋回半径、目標転舵軸前後傾斜角および目標転舵軸左右傾斜角の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。また、目標後輪揺動角の値は、例えば、車両要求トルク、目標旋回半径、目標転舵軸前後傾斜角および目標後輪揺動角の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0104】
次に、メインルーチンにおけるステップM5の目標転舵制動量演算のサブルーチンについて
図28の(6)図を参照して説明する。まず、各前輪3および各後輪9の回転速度を各回転速度センサ109によってそれぞれ検出する(ステップS51)。検出された各回転速度の平均値が演算され、この平均値に基づいて車両1の走行速度が求められる(ステップS52)。次に、前記サブルーチンのステップS11と同様に目標軌道を演算して、その軌道情報を読み込む(ステップS53)。次に、前記サブルーチンのステップS24で求めた目標旋回半径を読み込む(ステップS54)。次に、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動するときの回動角度に相当する転舵角を転舵角センサ115により検出し、その値を読み込む(ステップS55)。
【0105】
次に、ステップS55で読み込まれた転舵角の値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動するときの回動角速度に相当する転舵角速度が演算される(ステップS56)。最後に、ステップS52,S53,S54およびS56でそれぞれ取得された走行速度、目標軌道、目標旋回半径および転舵角速度の各値に基づいて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lf回りに前輪支持部材29が回動する際の抵抗として付与すべき目標転舵制動量の値が演算される(ステップS57)。目標転舵制動量の値は、例えば、走行速度、目標軌道、目標旋回半径、転舵角速度および目標転舵制動量の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0106】
次に、メインルーチンにおけるステップM6の目標後輪揺動制動量演算のサブルーチンについて
図29の(7)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS51ないしS54と同様のステップを実行する(ステップS61ないしS64)。次に、前記サブルーチンのステップS57で演算された目標転舵制動量を読み込む(ステップS65)。最後に、ステップS62ないしS65でそれぞれ取得された走行速度、目標軌道、目標旋回半径および目標転舵制動量の各値に基づいて、左右一対の後輪支持部材65,65が各回転軸85の軸芯回りに回動する際の抵抗として制動装置91により付与すべき目標後輪揺動制動量の値が演算される(ステップS66)。目標後輪揺動制動量の値は、例えば、走行速度、目標軌道、目標旋回半径、目標転舵制動量および目標後輪揺動制動量の関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0107】
次に、メインルーチンにおけるステップM7の各目標トルク演算のサブルーチンについて
図29の(8)図を参照して説明する。まず、前記サブルーチンのステップS11と同様に目標軌道を演算して、その軌道情報を読み込む(ステップS71)。次に、前記サブルーチンのステップS55と同様にして転舵角を読み込む(ステップS72)。次に、ステップS71およびS72で読み込んだ軌道情報および転舵角の各値ならびに表3に示す旋回状態判定テーブルに基づいて、車両1が直進状態または旋回状態の何れの状態であるかを判定する(ステップS73)。旋回状態判定テーブルは、制御装置103内の記憶部に予め記憶されている。ステップS71で読み込まれた軌道情報によると直進であり、かつ、転舵角センサ115により検出された転舵角の値が0の場合は、車両1が直進状態であると判断される。また、前記軌道情報によると直進から旋回に移行する予定であり、かつ、転舵角センサ115により検出された転舵角度の値が0の場合は、車両1が直進から旋回状態に移行すると判断される。
【0109】
また、前記軌道情報によると旋回する予定であり、かつ、転舵角センサ115により検出された転舵角度の値が正の値の場合は、車両1が旋回中であると判断される。また、前記軌道情報によると旋回状態から直進状態に移行する予定であり、かつ、転舵角センサ115により検出された転舵角度が正の値の場合は、車両1が旋回状態から直進状態に移行すると判断される。次に、前記サブルーチンのステップS35で求めた目標転舵軸前後傾斜角の値を読み込む(ステップS74)。次に、前記サブルーチンのステップS15で求めた車両要求トルクの値を読み込む(ステップS75)。次に、ステップS73で判定した車両1の直進または旋回の状態とステップS75で読み込まれた車両要求トルクの値とに基づいて、前記実施の形態における表2に示すマップ選定テーブルと同様のテーブルによりマップを選定し、選定したマップに基づいて、各前輪3側に付与すべきトルク(駆動トルクまたは制動トルク)と各後輪9側に付与すべきトルク(駆動トルクまたは制動トルク)との差を演算する(ステップS76)。
【0110】
次に、前記ステップS76で求めた前輪要求トルクと後輪要求トルクとの差および前記ステップS75で読み込まれた車両要求トルクの各値に基づいて、前輪要求トルクと後輪要求トルクとを求める(ステップS77)。
これらのステップS76およびS77の詳細については、前記実施の形態における
図23の(7)図におけるステップS76,77で説明した内容と同様であるので、詳細な説明は省略する。
次に、前記サブルーチンのステップS24で演算された目標旋回半径の値を読み込む(ステップS78)。次に、各前輪3および各後輪9の回転速度を各回転速度センサ109によってそれぞれ検出し、その値を読み込む(ステップS79)。読み込まれた各回転速度の平均値が演算され、この平均値に基づいて車両1の走行速度が求められる(ステップS80)。次に、前記サブルーチンのステップS44で演算された目標転舵軸左右傾斜角および前記サブルーチンのステップS45で演算された目標後輪揺動角の各値を読み込む(ステップS81,S82)。
【0111】
最後に、ステップS77で求められた前輪要求トルク、ステップS78で読み込まれた目標旋回半径、ステップS80で求められた車両1の走行速度およびステップS81で読み込まれた目標転舵軸左右傾斜角の各値に基づいて各前輪3ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値を演算すると共に、ステップS77で求められた後輪要求トルク、同目標旋回半径、同走行速度およびステップS82で読み込まれた目標後輪揺動角の各値に基づいて各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値を演算する(ステップS83)。各前輪3ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値は、例えば、前輪要求トルクと目標旋回半径と車両1の走行速度と目標転舵軸左右傾斜角と付与すべき各要求トルクとの関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。
【0112】
同様に、各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの値は、例えば、後輪要求トルクと目標旋回半径と車両1の走行速度と目標後輪揺動角と付与すべき各要求トルクとの関係を予め実験によって求めた関係式を制御装置103内の記憶部に予め記憶しておき、該関係式に基づいて求めることができる。なお、該関係式に目標旋回半径と車両1の走行速度とを含めたのは、これらの値に応じて車両1に作用する遠心力によって各前輪3および各後輪9が走行路面に接地するときの荷重が各前輪3同士および各後輪9同士で異なるため、そのことに配慮して各前輪3および各後輪9ごとにそれぞれ付与すべき各要求トルクの適切な値を求めるようにしたためである。
【0113】
ところで、車両1が走行中は、
図30に示す割り込みルーチンが常に実行されており、該ルーチンが実行されることで、撮像装置131により車両1の進行方向に障害物が検知された場合は前記目標軌道が修正される。該ルーチンでは撮像装置131により撮像された画像を画像処理してその画像データを読み込む(ステップS101)。次に、障害物検知装置143により検知された検知データを読み込む(ステップS102)。次に、これらの画像データおよび検知データに基づいて車両1の進行方向に障害物が存在するか否かが判定される(ステップS103)。その判定で、例えば、車両1の進行方向前方に他の車両が存在すると判定された場合は、車両1の速度を減速するように車両要求トルクが補正される(ステップS104)。また、前記判定で障害物が存在すると判定された場合は、車両1が障害物を回避して走行することができるように目標旋回半径が補正される(ステップS105)。
【0114】
<第2変形例>
前記実施の形態および第1変形例では、一対の主傘歯車83,83と中間傘歯車87との噛合により左右一対の後輪支持部材65,65が連動して互いに逆方向に揺動するようにした例を示したが、
図31に示す第2変形例のように、リンク機構により左右一対の後輪支持部材65,65が連動して互いに逆方向に揺動するようにしてもよい。
この変形例では、後輪支持部材65の長手方向中途部に第1自在継手117を介して一端部が回動可能に連結されたリンク部材119の他端部が第2自在継手121を介してV字状の回動アーム123の端部に回動可能に連結されている。V字状の回動アーム123の中央部は、第1中央支持部材567(前記実施の形態における第1中央支持部材67に相当するもの)に前後方向軸芯回りに回転可能に支持された回動軸125の一端部に固着されている。回動軸125の他端部には、円形状の回転板589が固着されており、該回転板589をパッド(図示せず)により挟持して回動軸125の回転を制止したりその制止を解除したりする制動装置591が第1中央支持部材567に固定されている。前記各第1自在継手117,各リンク部材119,各第2自在継手121,回動アーム123および回動軸125は本発明の「連動機構」を構成し、前記第1中央支持部材567は本発明の「基部材」および「連動機構」を構成する。なお、
図31では図示していないが、左右一対の回転軸85,85は、第1中央支持部材567に回動可能に軸支されている。
【0115】
而して、制動装置591が制止を解除している場合において、左右一対の後輪支持部材65,65のうち何れか一方の後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動すると、その回動により一方のリンク部材119が揺動し、その揺動により回動アーム123が回動軸125の軸芯回りに回動する。この回動アーム123の回動により他方のリンク部材119が揺動し、該リンク部材119に連結された他方の後輪支持部材65が回転軸85の軸芯回りに回動する。この結果、一対の後輪支持部材65,65は逆方向に揺動して、車体フレーム7および各後輪9は、
図31の(1)図に示す非傾斜状態から(2)図に示すように右側に傾斜した状態になる。
この変形例によれば、リンク部材を介して各後輪9を互いに機械的に連動して上下逆方向に車体フレーム7に対して相対変位させるものであるので、確実に両後輪9を上下逆方向に変位させることができ、かつ、そのための連動機構を単純な機構により構成することができる。
【0116】
<第3変形例>
上述した実施の形態および第1変形例では、電動アクチュエータ57を伸縮させて、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの前後方向傾斜角度を変更するようにした例を示したが、
図32に示す第3変形例のように、車両1の走行状態または停止状態に応じて変化する加速度または減速度によって車両1の前輪3側の車高が変動することを利用して、前記仮想直線Lfの前後方向傾斜角度を変更するようにしてもよい。
この変形例では、前記実施の形態における第1中央支持部材本体31aに相当する第1中央支持部材本体631aの長手方向中途部後部に長尺のアーム部631bの前端部が固着され、第1中央支持部材本体631aとアーム部631bとで第1中央支持部材631を構成している。
【0117】
第1中央支持部材631は、左右方向に延びる軸芯O回りに揺動可能にアーム部631bの後端部が車体フレーム7の前端部に回動軸145を介して懸架されている。アーム部631bの長手方向中途部と車体フレーム7の前端部に固着されたブラケット128の上端部とは、緩衝器127を介して連結されている。緩衝器127および回動軸145は本発明の「キャスター角可変手段」を構成し、第1中央支持部材631は本発明の「基部材」,「連動機構」および「キャスター角可変手段」をそれぞれ構成する。この変形例では、車両1が走行を停止している場合は、車両1には加速度および減速度が作用していないため、緩衝器127の両端部の距離は車両1の加速時と減速時との中間の距離になり、
図32の(1)図に示すように、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kと、各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)が一致するように前記仮想直線Lfの傾斜角度および緩衝器127のばね特性等が設定されている。
【0118】
この結果、車両1が加速しながら走行している場合は、車両1に作用する加速度の影響で前輪3側の荷重が減少して、その分、緩衝器127の両端部の距離が大きくなり、
図32の(2)図に示すように、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kの方が各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)より後方に位置しており、トレールQが負の値となる。このため、車両1が加速しながら走行する場合には直進性を向上させることができる。
また、車両1が減速しながら走行している場合は、車両1に作用する減速度の影響で前輪3側の荷重が増大して、その分、緩衝器127が圧縮され、その両端部の距離が短くなり、
図32の(3)図に示すように、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfと走行路面Rとの交点Kの方が各前輪3と走行路面Rとの各接地点S同士を結ぶ仮想直線(接地点Sと一致)より前方に位置しており、トレールQが正の値となる。このため、車両1が減速しながら走行する場合には、前輪3を直進方向に復元させる力が前輪3に作用し、車両1の走行安定性を確保しながら減速することができる。
また、この変形例によれば、加速度または減速度によって車両1の前輪3側の車高が変動することを利用して、転舵軸
部材51の軸芯を通る仮想直線Lfの前後方向傾斜角度を変更するようにしたので、前記実施の形態および第1変形例のような電動アクチュエータ57を使用せずに済み、その分、構造が単純になり安価になる。
【0119】
<第4変形例>
前記実施の形態、第1ないし第3の各変形例では、1つの前輪支持部材29の両端部に左右一対の前輪3,3を連結し、前輪支持部材29の長手方向中央部を第1中央支持部材631により回動可能に支持するようにした例を示したが、
図33に示す第4変形例のように、各前輪3の懸架構造を変更してもよい。同図の(1)図は前輪3等を上方から見た状態、(2)図は前輪3等を前方から見た状態、(3)図は前輪3等を左側方から見た状態をそれぞれ模式的に示している。
【0120】
この変形例では、左右一対の前輪支持部材729,729の一端部が各前輪3の各電動モータ25にそれぞれ連結され、各前輪支持部材729の他端部が左右方向に間隔を隔てた状態で第1中央支持部材731によって回動可能に支持されている。各前輪支持部材729は本発明の「車輪支持部材」,「連動機構」および「キャンバー角可変手段」をそれぞれ構成し、第1中央支持部材731は本発明の「基部材」,「連動機構」,「キャスター角可変手段」および「キャンバー角可変手段」をそれぞれ構成する。各前輪支持部材729は、各前輪3の電動モータ25の下部がキャンバー軸(前記実施の形態におけるキャンバー軸49と同様のもの)を介して一端部に回動可能に連結されたアーム部729aと、該アーム部729aの他端部が長手方向中途部に固着された筒状部729bと、後述するブラケット729cとを備えている。各前輪支持部材729は、各筒状部729bの内部にそれぞれ挿通された転舵軸
部材751を介して転舵軸
部材751の軸芯回りに回動可能に第1中央支持部材731によってそれぞれ支持されると共に、各筒状部729bの後側面下部に固着されたブラケット729cの後端部同士が連結部材129を介して回動可能に連結されている。連結部材129は本発明の「連動機構」を構成する。各転舵軸
部材751は、左右方向に間隔を隔てた状態で互いに平行に配置され、それぞれ上部が下部より前方に位置するように傾斜している。各転舵軸
部材751は本発明の「連動機構」および「キャンバー角可変手段」をそれぞれ構成する。
【0121】
第1中央支持部材731は、左右一対の円環状の上側筒部731a,731aと、各上側筒部731aの下方に配置された左右一対の円環状の下側筒部731b,731bと、各上側筒部731a同士を連結して一体化する上側連結部731cと、各下側筒部731b同士を連結して一体化する下側連結部731dと、該下側連結部731dの左右方向中央部に前端部が固着された前後方向に長尺のアーム部731eと、上側連結部731cの左右方向中央部に前端部が固着され下端部がアーム部731eの前後方向中央部に固着された連結部731fとを備えている。連結部731fは、側面視において円弧状に形成されている。第1中央支持部材731は、左右方向に延びる軸芯O回りに揺動可能にアーム部731eの後端部が車体フレーム7の前端部に懸架されている。第1中央支持部材731のアーム部731eの長手方向中途部と車体フレーム7の前端部に固着されたブラケット128の上端部とは、緩衝器127を介して連結されている。また、
図33では図示していないが、前記実施の形態と同様の第1リンク部材59が各上側筒部731aにそれぞれ取り付けられ、各第1リンク部材59の上端部に設けられた各連結部59aと各前輪3の電動モータ25の上部前部とに、棒状の一対のキャンバリンク部材61,61の両端部がそれぞれ回動可能に連結されている。
【0122】
而して、左右一対の前輪支持部材729,729のうち何れか一方の前輪支持部材729が一方の転舵軸
部材751の軸芯回りに回動すると、その回動により一方の筒状部729bおよびそれに固着されたブラケット729cも転舵軸
部材751の軸芯回りに回動する。この回動により連結部材129が左右方向に変位して、他方の前輪支持部材729のブラケット729cおよび筒状部729bが他方の転舵軸
部材751の軸芯回りに回動し、該軸芯回りに他方の前輪支持部材729も回動する。この結果、一対の前輪支持部材729は同方向に揺動する。
この変形例によれば、左右方向に間隔を隔てて平行に配置された左右一対の転舵軸
部材751,751の各軸芯回りに、左右一対の前輪支持部材729,729がそれぞれ回動するように構成したので、各前輪支持部材729の回動中心となる各転舵軸
部材751の軸芯が車両1の左右方向中央から各前輪3寄りに偏倚している。一方、前記実施の形態のように前輪支持部材29の回動中心となる転舵軸
部材51の軸芯は、車両1の左右方向中央に位置している。このため、各前輪支持部材29,529が各転舵軸
部材51,751の軸芯回りにそれぞれ同一の角度だけ回動したとしても、前記実施の形態の前輪支持部材29に支持された前輪3よりこの変形例の前輪支持部材729に支持された前輪3の方が前後方向に変位する量が少なくて済む。この結果、その分、前輪3と車両1の他の構成部材との隙間を前記実施の形態のものと比べて小さくすることができる。
【0123】
<第5変形例>
前記実施の形態では、前側懸架装置5の第2中央支持部材33を前側トーションばね部材41により支持する一方、後側懸架装置11の第1中央支持部材67を後側トーションばね部材73により支持するようにした例を示したが、これらのトーションばね部材に替えて、
図34ないし
図40に示す第5変形例のように、左右一対の板ばね部材147,147を使用してもよい。
【0124】
この変形例では、各板ばね部材147の前端部および後端部は、それぞれ屈曲されて丸められ、ピン(図示せず)を挿入するための孔部が車体フレーム807の左右方向を指向するように形成されており、各孔部に挿入されたピンを介して一対のシャックル838,838の下端部に各板ばね部材147の前端部がそれぞれ回動可能に連結される一方、各板ばね部材147の後端部が一対のシャックル871,871の下端部にそれぞれ回動可能に連結されている。
【0125】
各板ばね部材147は上方から見て互いに平行になるように配置され、各板ばね部材147の板面は、それらの幅方向が車体フレーム807の左右方向に沿う直線に対して平行になるように配置されている。各板ばね部材147の長手方向中央部は、それぞれ支持具149を介して車体フレーム807の前後方向中央部に支持されている。各板ばね部材147は、下方に向かって緩やかに突出するように湾曲形成されている。車体フレーム807は、前後方向に長く扁平な直方体状の部材によって構成され、下方に向かって緩やかに突出するように湾曲形成されている。車体フレーム807の後部上面には、左右一対の電池28,28の前端部を支持するための前側ブラケット151が複数のねじ部材153…により締結されている。前側ブラケット151は、車体フレーム807の上面を左右方向に横切り車体フレーム807の左右方向の幅より左右方向外方にそれぞれ延設されており、その延設端部により各電池28の前端部が弾性部材(図示せず)を介して支持されている。詳しくは、各電池28の前端面の中央に前方に向かって突出するように固定されたボルト(図示せず)が前側ブラケット151の両端部に凹状に形成された窪みに弾性部材を介してそれぞれ嵌合支持され、上方からΩ状の抑え金具155(
図37および
図40参照)により押圧した状態で抑え金具155の両端部をねじ部材により前側ブラケット151の両端部に締結する。これにより、各電池28の前端部が弾性部材を介して前側ブラケット151の両端部にそれぞれ支持されている。
【0126】
また、車体フレーム807の後端面には、左右一対の電池28,28の後端部を支持するための後側ブラケット157が複数のねじ部材159…により締結されている。後側ブラケット157は、車体フレーム807の左右方向の幅より左右方向外方にそれぞれ延設されており、その延設端部により各電池28の後端部が弾性部材(図示せず)を介して支持されている。詳しくは、各電池28の後端面の中央に後方に向かって突出するように固定されたボルト(図示せず)が後側ブラケット157の両端部に穿設されたボルト孔に弾性部材を介してそれぞれ嵌合支持され、ボルト孔から突出したボルトの雄ねじ部に雌ねじ部材を締結する。これにより、各電池28の後端部が弾性部材を介して後側ブラケット157の両端部にそれぞれ支持されている。前側ブラケット151および後側ブラケット157への各電池28の組み付けは、後側ブラケット157のボルト孔に各電池28の後端側のボルトを挿入したのち各電池28の前端側のボルトを前側ブラケット151の凹状の窪みに弾性部材を介して嵌合する工程によって行われる。
また、各電池28の底面中央部は、車体フレーム807に一端部が固定された支持部材(図示せず)の他端部に弾性部材(図示せず)を介して支持されている。上述した電池28を支持する各弾性部材は、ゴム部材またはその他の樹脂材からなる部材によりそれぞれ構成されている。
【0127】
後側ブラケット157の左右両端部は左右方向外方にそれぞれ向かうに連れて先細りの形状に形成され、後側ブラケット157の中央部は後側懸架装置11の第2中央支持部材69と干渉しないように凹状に切り欠かれている。また、後側ブラケット157の中央部と左右両端部とのそれぞれの間には、各板ばね部材147の後端部がそれぞれ挿通する略矩形状の開口161(
図36,
図38参照)が形成されており、各板ばね部材147と開口161との間には、各板ばね部材147が弾性変形しても開口161と干渉しないように十分な間隙が設けられている。
前側懸架装置5の第3中央支持部材37は、その後端部が、車体フレーム807の前端部に前方に向かって突設された左右一対の前側支持部807f,807fにより、前記実施の形態における弾性部材39および支持軸55と同様の部材を介して支持されている。後側懸架装置11の第2中央支持部材69は、その前端部が、車体フレーム807の後端部に後方に向かって突設された左右一対の後側支持部807r,807rにより、前記実施の形態における弾性部材75および支持軸79と同様の部材を介して支持されている。前記各弾性部材および板ばね部材147は、本発明の「弾性部材」を構成する。
【0128】
支持具149は、車体フレーム807に溶接により固着された上側支持具149aと凹状に窪んだ凹部が形成された下側支持具149bとを備え、凹部内に板ばね部材147を嵌合した状態で上側支持具149aに下側支持具149bが5個のねじ部材により締結固定されている。5個のねじ部材のうち支持具149の中央に配置されたねじ部材は、上側支持具149aおよび下側支持具149bと板ばね部材147とを貫通して締結されている。これにより、上側支持具149aと下側支持具149bとで挟持された状態で板ばね部材147が支持具149を介して車体フレーム807に強固に支持される。また、中央に配置され板ばね部材147等を貫通したねじ部材によって、板ばね部材147は左右方向の移動だけでなく前後方向の移動も規制される。
なお、この変形例では、支持具149を左右一対設けたが、これに替えて、左右一対の上側支持具149a,149a同士および左右一対の下側支持具149b,149b同士をそれぞれ車体フレーム807を横切るように連結して車体フレーム807を上側支持具と下側支持具とで上下から挟持した状態でねじ部材により締結して車体フレーム807に支持具149を固定するようにしてもよい。
【0129】
前記各シャックル838の上端部は、第2中央支持部材33の長手方向中央部に左右方向に突設された左右一対のピン42,42(
図8参照)にそれぞれ回動可能に連結されている。一方、各シャックル871の上端部は、第1中央支持部材67の下部に突設された左右一対のボス部に、左右方向に配設されたピンを介して回動可能に連結されている。
これによって、前側懸架装置5に初期荷重を付勢すると共に、車体フレーム807に対して各前輪3が上下方向にそれぞれ同方向または逆方向に変位して前輪支持部材29および第1中央支持部材31を介して第2中央支持部材33が上下方向に揺動したり前後方向の軸回りに回動するとき、それらの動きに抗するように各板ばね部材147の撓みや捩じりによるばね力が作用する。また同様に、後側懸架装置11に初期荷重を付勢すると共に、車体フレーム807に対して各後輪9が上下方向にそれぞれ同方向または逆方向に変位して各後輪支持部材65を介して第1中央支持部材67が上下方向に変位したり前後方向の軸回りに回動するとき、それらの動きに抗するように各板ばね部材147の撓みや捩じりによるばね力が作用する。
【0130】
なお、この変形例の各板ばね部材147は、それぞれ1枚の板状部材で構成したが、これに替えて、2枚以上の板状部材を重合して束縛した重合体により構成してもよい。
また、この変形例の各板ばね部材147は、それぞれの長手方向中央部の1箇所を支持具149を介して車体フレーム807に支持するようにしたが、これに替えて、各板ばね部材147の長手方向中間部における複数の箇所を支持具149を介して車体フレーム807により支持するようにしてもよい。この場合は、各板ばね部材147の長手方向に互いに間隔を隔てて配置された複数の支持具149により各板ばね部材147の長手方向中間部を支持するようにする。
【0131】
さらにまた、この変形例の各板ばね部材147は、前側懸架装置5の第2中央支持部材33と後側懸架装置11の第1中央支持部材67とを単一の板ばね部材147の前端部と後端部とでそれぞれ支持するようにしたが、これに替えて、各板ばね部材を前側板ばね部材と後側板ばね部材とに分割してもよい。この場合は、前側板ばね部材の後部と後側板ばね部材の前部を車体フレーム807によりそれぞれ支持させる一方、前側板ばね部材の前端部により前側懸架装置5の第2中央支持部材33を支持し、後側板ばね部材の後端部により後側懸架装置11の第1中央支持部材67を支持するようにする。
【0132】
<第6変形例>
前記実施の形態では、後側懸架装置11は、各後輪支持部材65を第1中央支持部材67によって回動可能に支持する回転軸85を、その軸芯が左右方向に真っ直ぐ指向するように延設した例を示したが、これに替えて、
図41ないし
図54に示す第6変形例のように、回転軸85の軸芯を傾斜させてもよい。すなわち、
図49ないし
図51に示すように、車体フレーム7の左右方向をX方向とし、車体フレーム7の前後方向をY方向と定義したとき、Y方向に平行でかつX方向に直交すると共に各回転軸85の軸芯を通る各仮想直線Lr2が車体フレーム7の左右方向中央を通る平面に対して対称となるように各回転軸85が配置されている。各仮想直線Lr2は、本発明の「
転舵軸」を構成する。そして、各仮想直線Lr2がX方向とY方向とを通る平面に対して傾斜し、かつ、車体フレーム7の上方から見てY方向と交差するように仮想直線Lr2が位置付けられる。そしてさらに、各仮想直線Lr2は、車体フレーム7の左右方向中央に向かうほど前方に位置するように位置付けられ、かつ、下部より上部が前方に位置するように傾斜している。
【0133】
これによって、車両1が旋回しながら走行するとき、旋回方向内側の後輪支持部材65がその回転軸85回りに上方に向かって揺動する一方、旋回方向外側の後輪支持部材65がその回転軸85回りに下方に向かって揺動すると、各後輪支持部材65に支持された各後輪9は、それらの転動方向が双方とも旋回方向(各前輪3の操向方向)とは逆の方向に操向するよう指向する逆相操舵となる。このため、車両1の旋回性能を向上させることができる。また、各後輪9は、逆相操舵となると共に双方とも旋回方向内側に向かって傾斜する。すなわち、旋回方向内側の後輪9はポジティブキャンバーとなり旋回方向外側の後輪9はネガティブキャンバーとなる。この結果、旋回走行時の走行路面Rに対する各後輪9のグリップ力を向上させることができる。
図54は、前記逆相操舵、ポジティブキャンバーおよびネガティブキャンバーを説明するためのものであり、同図の図(1)は車両1が左に旋回しようとしている状態を示し、図(2)は車両1が右に旋回しようとしている状態を示している。これらの図において、各前輪3上および各後輪9上に引いた二点鎖線はこれらの車輪が転動する方向を示し、各前輪3間および各後輪9間を通るように引いた二点鎖線は車両1の左右方向中央を示している。また、同図において各前輪3および各後輪9のそれぞれの近傍に記した白抜き矢印は、電動モータ25により各前輪3および各後輪9に付与された駆動トルクの方向を示し、白抜き矢印の長さが長いほど付与された駆動トルクの大きさが大きいことを表している。
【0134】
なお、各回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr2が、車体フレーム7の左右方向中央に向かうほど前方に位置するように位置付けられ、かつ、上部より下部が前方に位置するように傾斜するよう各回転軸85を配設した場合は、各後輪支持部材65に支持された各後輪9は、それらの転動方向が双方とも旋回方向(各前輪3の操向方向)と同じ方向に操向するよう指向する同相操舵となる。この場合は、各後輪9は、同相操舵となると共に双方とも旋回方向内側に向かって傾斜する。すなわち、旋回方向内側の後輪9はポジティブキャンバーとなり旋回方向外側の後輪9はネガティブキャンバーとなる。
また、各回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr2が、車体フレーム7の左右方向中央に向かうほど後方に位置するように位置付けられ、かつ、上部より下部が前方に位置するように傾斜するよう各回転軸85を配設した場合は、各後輪支持部材65に支持された各後輪9は、それらの転動方向が双方とも旋回方向(各前輪3の操向方向)とは逆の方向に操向するよう指向する逆相操舵となる。この場合は、各後輪9は、逆相操舵となると共に双方とも旋回方向外側に向かって傾斜する。すなわち、旋回方向内側の後輪9はネガティブキャンバーとなり旋回方向外側の後輪9はポジティブキャンバーとなる。
【0135】
さらにまた、各回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr2が、車体フレーム7の左右方向中央に向かうほど後方に位置するように位置付けられ、かつ、下部より上部が前方に位置するように傾斜するよう各回転軸85を配設した場合は、各後輪支持部材65に支持された各後輪9は、それらの転動方向が双方とも旋回方向(各前輪3の操向方向)と同じ方向に操向するよう指向する同相操舵となる。この場合は、各後輪9は、同相操舵となると共に双方とも旋回方向外側に向かって傾斜する。すなわち、旋回方向内側の後輪9はネガティブキャンバーとなり旋回方向外側の後輪9はポジティブキャンバーとなる。
【0136】
また、中間傘歯車87の回転軸の軸芯は、各回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr2同士が交差する交点を通り前後方向を指向するように位置付けられている。これによって、各回転軸85に結着された各主傘歯車83に中間傘歯車87が同時に噛合した状態でこれら3つの歯車は連動して回転する。
また、この変形例では、上述した実施の形態と同様に、左右一対の後輪支持部材65,65は、回転軸85の軸芯を通る仮想直線Lr2から後方に後輪支持部材65の長手方向に遠ざかるにつれて下方に位置するように走行路面Rに対して略45度に傾斜した状態を中立位置として、上下方向にそれぞれ略同一の角度(例えば略45度)の範囲内で仮想直線Lr2回りに回動可能に構成されている。前記中立位置とは、乗員が乗車した状態で車両1が水平でかつ平坦な路面に停止しているときの後輪支持部材65の角度位置をいう。これによって、走行路面Rの凹凸により各後輪9から後輪支持部材65に伝播する振動を吸収する上で各後輪支持部材65の揺動範囲が好適な範囲に設定される。
また、この変形例では、上述した第5変形例と同様に、前側懸架装置5の第2中央支持部材33と後側懸架装置11の第1中央支持部材67とを左右一対の板ばね部材147,147の前端部と後端部とでそれぞれ支持するようにしている。
【0137】
なお、前記第5変形例の各板ばね部材147は、それぞれの長手方向中央部の1箇所を支持具149を介して車体フレーム807に支持するようにしたが、この変形例では、各板ばね部材147の長手方向中間部における複数の箇所(各板ばね部材147の長手方向に互いに間隔を隔てた部位)を支持具163の一対のローラ部材163c,163cを介して車体フレーム807により支持するようにしている。このため、
図44で実線の矢印で示すように、板ばね部材147の前端部側が上方に向かって変位するとこの変位に伴って後端部側も上方に変位する一方、
図44で破線の矢印で示すように、板ばね部材147の前端部側が下方に向かって変位するとこの変位に伴って後端部側も下方に向かって変位する。この結果、例えば、走行路面Rの凹凸により振動が前輪3から前輪支持部材29等を経て第2中央支持部材33に伝播して第2中央支持部材33が車体フレーム807に対して上下方向の何れか一方に相対変位すると、同方向に板ばね部材147の前端部側が撓む共に後端部側も同方向に撓む。そのため、車体フレーム807は前後に揺動することなく同方向に向かって平行移動するので、乗り心地を損なわずに済む。
【0138】
また、車体フレーム807の左右方向中間部は、前後方向に沿って複数の箇所が軽量化を図るために矩形状に刳り貫かれて開口部807a(
図45参照)が形成されている。各支持具163は、車体フレーム807の左右側面にこれら側面から左右方向斜め上方に向かって突設された円柱状のボス部163aと、該ボス部163aの下面部から斜め下方に向かって互いに左右方向に一定の間隔を隔てて平行に突設された一対の板状のステー部163b,163bと、これら一対のステー部163b,163b間に横架された円柱状の一対のローラ部材163c,163cとを備えている。
【0139】
一対のローラ部材163c,163cは、一対のステー部163b,163bにそれぞれ回転可能に支持されている。ボス部163aは、車体フレーム807の左右側面にそれぞれ溶接により固着されている。一対のローラ部材163c,163cは各板ばね部材147と同様に傾斜し、かつ、互いに上下方向に一定の間隔(各板ばね部材147の板厚と同一の寸法)を隔てて平行になるように一対のステー部163b,163bに固定され、これら一対のローラ部材163c,163c間に板ばね部材147が挟持されている。これによって、板ばね部材147は、一対のローラ部材163c,163cによって挟持された部位は、上下方向の変位が規制される一方、前後方向の移動が許容される。各シャックル838,871に連結された板ばね部材147の前後両端部間において、一対のローラ部材163c,163c間に挟持された部位を除いた部位は、上下方向の変位および前後方向の移動が許容される。各ローラ部材163cの両端部は、ねじ部材による締結により各ステー部163bに直接支持させるようにしてもよいが、弾性部材を介して各ステー部163bに支持させるようにしてもよい。また、上下一対のローラ部材163c,163cのうち何れか一方のローラ部材を弾性部材に替えてもよいし、双方のローラ部材を弾性部材に替えてもよい。
【0140】
このようにして、各板ばね部材147が車両1に組み付けられた状態では、各板ばね部材147の板面は、その長手方向全域に亘って、車体フレーム807の左右方向中央に向かうにつれて下方に位置するように傾斜している。また、各板ばね部材147は長手方向中央部が上方から見て左右方向外方に突出するように湾曲している。これによって、前側懸架装置5の第2中央支持部材33や後側懸架装置11の第1中央支持部材67が車体フレーム807に対して相対的に左右方向に揺動したときでも各板ばね部材147は柔軟に撓むため、第2中央支持部材33や第1中央支持部材67の揺動を好適に抑制することができる。
また、各板ばね部材147は長手方向中央部が上方から見て左右方向外方に突出するように湾曲している結果、各板ばね部材147同士の左右方向の間隔は、前端部側と後端部側とが狭くなっている。このため、その分、各板ばね部材147の前端部および後端部の近傍に配置された他の部材を左右方向内方に接近させて配置することができる。この結果、前側懸架装置5の前輪支持部材29が転舵軸
部材51の軸芯回りに回動する角度範囲を十分確保することができる。
【0141】
このような各板ばね部材147の湾曲した形状は、各板ばね部材147を車両1に組み付ける前に予め成形しておいてもよいが、組み付ける前は真っ直ぐな平板状を有する板ばね部材147を車両1に組み付けた状態で湾曲した形状になるようにしてもよい。車両1に組み付けた状態で板ばね部材147を変形させることで、各板ばね部材147には組み付けられた状態で初期荷重が付与されるので、各板ばね部材147が撓み始めるときから、ある程度大きなばね荷重を作用させることができる。この結果、走行路面Rの凹凸により大きな振動が各前輪3や各後輪9から前輪支持部材29や後輪支持部材65等を経て第2中央支持部材33や第1中央支持部材67に伝播してこれらの支持部材33,67が車体フレーム807に対して大きく相対変位しようとしても、その相対変位を効果的に抑制することができる。
【0142】
各電池28は、略三角柱状に形成されており、前記第5変形例と同様に、各電池28の前端部と後端部と底面部とがそれぞれ弾性部材(図示せず)を介して支持されている。各電池28の前端部と後端部は、車体フレーム807の左右側面にそれぞれ一端部が溶接により固着された前側電池支持部材165fと後側電池支持部材165rとの他端部によりそれぞれ支持されている。後側電池支持部材165rは、車体フレーム807の後端部の左右側面にこれら側面から左右方向斜め上方に向かって突設され、該後側電池支持部材165rより前方に一定の間隔を隔てて、車体フレーム807の左右側面にこれら側面から左右方向斜め上方に向かって前側電池支持部材165fが突設されている。前側電池支持部材165fは、後側電池支持部材165rより長尺に形成され、そのため、各電池28は、後部より前部が左右方向外方に位置するように配置されている。
なお、この変形例では、左右一対の板ばね部材147,147を使用した例を示したが、前記実施の形態と同様に、前側懸架装置5の第2中央支持部材33を前側トーションばね部材41により支持する一方、後側懸架装置11の第1中央支持部材67を後側トーションばね部材73により支持するようにしてもよい。
【0143】
<第7変形例>
前記第6変形例では、支持具163の一対のステー部163b,163bに両端部が固定された一対のローラ部材163c,163c間に板ばね部材147を挟持して支持した例を示したが、これに替えて、
図55ないし
図57に示す第7変形例のように、左右一対の支持具163,163の各ステー部163b間に横架された上下一対の長尺なローラ部材163c,163c間に板ばね部材147を挟持するようにしてもよい。これによって、長尺なローラ部材163c,163cにより車体フレーム807が路面上の障害物と衝突することから保護される。各支持具163は、車体フレーム807の左右側面にこれら側面から左右方向外方に向かって突設された円柱状のボス部163aと、該ボス部163aの下面部から下方に向かってそれぞれ突設された板状のステー部163bと、左右方向で対応する位置に固定され左右一対となる各支持具163のステー部163bに両端部がそれぞれ固定された円柱状の一対のローラ部材163c,163cとを備えている。
【0144】
一対のローラ部材163c,163cは、車体フレーム807の下方に配置され、かつ、ステー部163b間に横架された状態で両ステー部163bに両端部がねじ部材によって締結固定されている。一対のローラ部材163c,163cのうち上方に配置されたローラ部材163cは、車体フレーム807の下面に当接または僅かな隙間を隔てて近接している。ボス部163aは、車体フレーム807の左右側面に溶接により固着されている。一対のローラ部材163c,163cは互いに上下方向に一定の間隔(各板ばね部材147の板厚と同一の寸法)を隔てて平行になるように一対のステー部163b,163bに固定され、これら一対のローラ部材163c,163c間に板ばね部材147が挟持されている。これによって、板ばね部材147は、一対のローラ部材163c,163cによって挟持された部位は、上下方向の変位が規制される一方、前後方向の移動が許容される。各シャックル838,871に連結された板ばね部材147の前後両端部間において、一対のローラ部材163c,163c間に挟持された部位を除いた部位は、上下方向の変位および前後方向の移動が許容される。
【0145】
上述した本発明の実施の形態および第1ないし第7の各変形例は本発明を説明するための一例であり、本発明は、前記の実施の形態および各変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲と明細書との全体から読み取れる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更後の車両もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
例えば、上述した実施の形態および各変形例においては、電動モータ25は駆動モータにより構成した例を示したが、これに替えて、所謂、モータジェネレータからなる電動モータとしてもよい。これによって、電気エネルギーが与えられモータとして動作するだけでなく、回転エネルギーが与えられれば発電機として交流電流を出力して、その交流電流を電力変換装置30により直流に変換して電池28を充電することで回生制動を行うことができる。
【0146】
この場合は、各前輪3および各後輪9のうち何れか1つの車輪に着目したとき、該車輪に対する目標トルクが制動トルクであって、該制動トルクの値が回生制動で得られる最大制動トルク以下のときは、電動ブレーキモータ27を作動させずに電動モータ25による回生制動だけの制動トルクが制御装置103によって車輪に付与される。一方、該車輪に対する目標トルク(制動トルク)の値が回生制動で得られる最大制動トルクより大きいときは、電動モータ25による回生制動に加えて、不足する制動トルクの分を電動ブレーキモータ27の作動による制動トルクで補足して制動トルクが制御装置103によって車輪に付与される。
なお、このような制動の制御に替えて、電動モータ25による回生制動と電動ブレーキモータ27の作動による制動との双方による制動トルクが適宜設定された制動トルクの比率で常に車輪に付与されるようにしてもよい。
さらに、上述した実施の形態および各変形例においては、4輪の車両の例を示したが、本発明を適用することができるものであれば4輪の車両に限らず、前2輪、後1輪の3輪車両または、前1輪、後2輪の3輪車両であってもよい。
左右一対の車輪間の駆動力差に起因して各車輪が車体に対して相対変位するとき、確実に両車輪を上下逆方向に変位させて一方の車輪だけ偏って変位することがないと共に両車輪が上下逆方向に変位するに伴って両車輪を操向するようにした車両を提供すること。
前輪支持部材29により左右一対の前輪3をそれぞれ回転可能に支持する。各前輪3に駆動トルクを電動モータ25により個別に付与する。前方に傾斜した傾斜軸Lf回りに前輪支持部材29を回動可能に車体フレーム7で支持する。傾斜軸Lf回りに前輪支持部材29を回動させることで、各前輪3を互いに上下逆方向に車体フレーム7に対して相対変位させると共に各前輪3を操向する。電動モータ25により各前輪3に付与されるトルクの差により前輪支持部材29を回動させる。