【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0036】
(実施例1)
マウスは、SPF動物室で14時間点灯、10時間消灯の照明条件(0500〜1900時)、室温23±3℃の環境下で飼育し、固型飼料(ラボMRストック、日本農産工業、神奈川)と水を自由に摂取させたものを各実施例及び比較例に使用した。
上記により飼育した12〜15週齢のC57BL系メスマウスの8匹から卵巣を摘出した。前記卵巣摘出マウスの内4匹には、摘出手術直後からエストラジオール17βを0.4mg/mlでごま油に溶解した液を充填したシラスコンチューブ(内径0.2cm、全長1cm)を留置した。留置より1週間後、プロジェステロン0.4mgを皮下投与し、その30分後に300μlの尿を採取した(エストラジオール17β投与群)。
一方、前記卵巣摘出マウスの内4匹には、摘出手術直後からごま油を充填したシラスコンチューブ(内径0.2cm、全長1cm)を留置した。留置より1週間後、300μlの尿を採取した(エストラジオール17β非投与群)。
エストラジオール17β投与群およびエストラジオール17β非投与群から得られた尿を、それぞれ脱臭水1ml、ジクロロメタン1ml、酢酸エチル100μlとともによく撹拌し、有機溶媒層のみを抽出した。なお、脱臭水とは、精製したポーラスポリマー(ジーエルサイエンス株式会社製、商品名「Tenax TA」)充填ガラスカラムに、超純水を通過させて作成したものである。ついで、前記有機溶媒層に硫酸ナトリウムを適量加えて十分に脱水した後、溶媒を窒素ガスにて10μlまで留去してGC−MS用試料とした。なお、GC−MS分析は、下記条件にて行った。
エストラジオール17β投与群とエストラジオール17β非投与群のGC−MSのチャートを
図1に示す。エストラジオール17β投与群と非投与群との相違から、本発明では、エストラジオール17β投与群の尿中に出現する化合物を選択し、2−エチルヘキサノール、ウンデカンおよび2,3−ブタンジオール ジアセテートをメスマウスの新規フェロモンとして特定した。
【0037】
GC−MS分析条件
装置:株式会社島津製作所製 「GCMS−QP2010」
キャピラリーカラム:アジレントテクノロジー社製、「DB−WAX」、カラム直径:0.25mm、フィルム厚;0.25μm、総長;60m
分析条件:カラム温度40℃で5分間保持したのち、3℃/分の速度で220℃まで昇温
【0038】
(実施例2)
2−エチルヘキサノール(東京化成株式会社製)を脱臭水に1/10,000の濃度に溶解し、12〜15週齢、C57BL系、卵巣摘出した成熟メスマウス4匹の膣口に綿棒にて30〜100μl塗布した。このメスマウスを12〜15週齢、C57BL系の成熟オスマウス4匹の単飼ケージにそれぞれ導入し、その後のオスマウスの行動を15分間観察した。オスマウスがメスマウスを追尾する行動は、15分間に平均約12回程度であった。結果を
図2に示す。
【0039】
(比較例1)
2−エチルヘキサノール(東京化成株式会社製)を脱臭水に1/10,000の濃度に溶解したものに代えて脱臭水を30〜100μl塗布した以外は、実施例2と同様に操作し、オスマウスがメスマウスを追尾する行動を観察した。オスマウスがメスマウスを追尾する行動は、15分間に平均6回であった。結果を
図2に示す。実施例2と比較し、追尾行動は有意に低かった。2−エチルへキサノールをメスマウスに塗布することで、オスマウスの追尾行動が促進され、交配機会が増加し、繁殖率を増加させられる可能性が示唆された。
【0040】
(実施例3)
鋤鼻器官の影響を調べるため、オスマウスに鋤鼻器官切除術(VMOX)を行い、鋤鼻器官切除マウスとシャムオペマウスによるメスマウスへの追尾行動を比較観察した。
12〜15週齢、C57BL系の成熟オスマウス4匹に下記に従い鋤鼻器官を摘出し、単飼ケージで飼育した(鋤鼻器官切除マウス群)。鋤鼻器官切除マウス群には、さらにドリルで鋤骨尾側端を切断して鋤骨を取り出した。その後、あいた腔にスポンゼルを詰めて傷口を閉じた。
一方、対照として12〜15週齢、C57BL系の成熟オスマウス4匹にシャムオペを行い、単飼ケージで飼育した。シャムオペは、マウスを麻酔下に頭位を固定し、軟口蓋を小臼歯の生え始める辺りの奥側から門歯ギリギリまで正中切開し、時計ピンセットで口蓋の表皮を観音開きにして骨を露出した(シャムオペ群)。
2−エチルヘキサノール(東京化成株式会社製)を脱臭水に1/10,000の濃度に溶解し、12〜15週齢、C57BL系、卵巣摘出後ごま油を留置した成熟メスマウス4匹の膣口に綿棒にて30〜100μl塗布した。このメスマウスを前記シャムオペ群および鋤鼻器官切除マウス群のマウスの単飼ケージにそれぞれ導入し、その後のオスマウスの行動を15分間観察した。オスマウスがメスマウスを追尾する行動は、15分間に鋤鼻器官切除マウス群では平均7回、シャムオペ群では12回であった。結果を
図3に示す。以上より、2−エチルヘキサノールが鋤鼻器系を介する性フェロモンの一種であることが示唆された。
【0041】
(実施例4)
2−エチルヘキサノール(シグマアルドリッチ社製)およびウンデカン(シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ脱臭水に1/10,000の濃度に溶解し、10週齢、C57BL6−J系、卵巣摘出した成熟メスマウス6匹の膣口に綿棒にて30〜100μl塗布した。このメスマウスを10週齢、C57BL6−J系の成熟オスマウス6匹の単飼ケージにそれぞれ導入し、その後のオスマウスの行動を30分間観察した。オスマウスのメスマウスに対する乗駕行動は平均約12回であった。結果を
図4に示す。
【0042】
(比較例2)
実施例4と異なる日に、実施例4で使用したメスマウス6匹の膣口に綿棒にて蒸留水を30〜100μl塗布した。このメスマウスを実施例4で使用したオスマウスの単飼ケージにそれぞれ導入し、その後のオスマウスの行動を15分間観察した。オスマウスのメスマウスに対する乗駕行動は平均約7回であった。結果を
図4に示す。
1−ヨード−2−メチルウンデカンはオスマウスのメスマウスに対する追尾行動の増加は生じるものの、乗駕行動を含む性行動の増加は観察されない。しかしながら、本発明で使用する2−エチルヘキサノールおよびウンデカンは、投与により乗駕行動を含む性行動の増加が認められ、1−ヨード−2−メチルウンデカンを凌駕する優れた作用を持つことが示唆された。
【0043】
(実施例5)
2−エチルヘキサノール(シグマアルドリッチ社製)およびウンデカン(シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ脱臭水に1/10,000の濃度に溶解した交配誘引剤10mlをペーパータオルに染み込ませて交配誘引剤含有タオルを調製し、これを直径1.5mの円形容器の端に設置した。
一方、蒸留水10mlをペーパータオルに染み込ませて蒸留水含有タオルを調製し、これを前記円形容器の中心を基準に前記交配誘引剤含有タオルと対向する端に設置した。
10週齢、C57BL6−J系、成熟オスマウスをこのケージ内に導入し、このオスマウスの行動を15分間観察した。実験は4匹のマウスについて1匹ずつ行った。
オスマウスが蒸留水含有タオルの匂いをかいだ回数が平均約12回だったのに対し、交配誘引剤含有タオルの匂いをかいだ回数は平均約16回と、有意に多かった。結果を
図5に示す。
この結果から、2−エチルヘキサノールおよびウンデカンを用いてオープンフィールドにおけるネズミ類の捕獲効率の向上が示唆される。
【0044】
本発明は2011年10月3日に出願された日本国特許出願2011−219111号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2011−219111号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。