【実施例】
【0035】
第1 実験方法の概要
HUVECをスタチンにより24時間処理し、次いで回収した。処理後、溶解バッファーを細胞に加え、次いで超音波処理をした。タンパク質発現値をウエスタンブロット解析によって測定した。細胞分画は市販の細胞分画キットを用いて実施した。SmgGDSに対するsiRNAの導入はチリらの文献(Thill,R.,Campbell,W.B.,Williams,C.L.、J.Cell Biol.104, 1760−1770(2008))に従い行った。HUVECにおいてsiRNAを用いてSmgGDSをノックダウンした後、Rac1発現量およびAngII誘導性ROS生産量をサトーらの文献(Satoh,K.et al.、Nat.Med.15,649−656(2008))の記載に従って測定した。SmgGDS欠損マウスは大阪府立成人病センター研究所から入手した(タカクラらの文献(Takakura,A.et al.、Mol.Biol.Cell 11,1875−1886(2000))を参照)。マウスのAngII誘導心血管肥大モデルは、ヤギらの文献(Yagi,S.et al.、Circ.Res.102,68−76(2008))の記載に従って作製した。2週間、毎日、強制経口投与によってマウスにスタチンを投与した。AngIIを浸透圧ポンプにて2週間持続投与後、本発明者らは超音波診断システムを使用して左心室機能および心臓の重量を測定した。上記ヤギらの文献に記載されている通り、断面積、壁厚および線維化を測定するために組織学的実験を実施した。ヒトの研究は、日本の東北大学病院にて、単一施設の、無作為化された交差実験として実施した。合計20人の健康な被験者に2週に渡って、毎日、20mgのアトルバスタチンまたは20mgのプラバスタチンのいずれかを無作為に投与した。2週に渡る休薬期間を経た後、次いで2週に渡って、被験者に別の薬剤を服用させるように切り替えた。脂質プロファイル、PMNL中のSmgGDS発現値、および薬物安全性を測定するために、治療前およびスタチンの最後の摂取の24時間後に、絶食条件下で静脈血を採血した。リューらの文献(Liu,P.Y.,Chen,J.H.,Lin,L.J.,Liao,J.K.、J.Am.Coll.Cardiol.49,1619−1624(2007))に記載されたものをわずかに修正した方法に従って白血球を単離した。
【0036】
第2 実験の詳細
1 細胞培養および薬剤処理
ヒト臍帯静脈の内皮細胞(HUVEC)(タカラBio社、大津、日本)を、培地(EGM−2、ロンザ)にて、5% CO
2にて37℃で24時間インキュベートした。次いで、異なる濃度(1−30μM)の各スタチン(アトルバスタチンおよびピタバスタチン)、GSK−3β阻害剤(塩化リチウム、シグマ)またはRhoキナーゼ阻害剤(ヒドロキシファスジル)を用いて細胞を24時間処理した。本発明者らは、スタチンと共にファルネシルピロリン酸(シグマ)もしくはゲラニルゲラニルピロリン酸(シグマ)を用いて24時間、またはプロテアソーム阻害剤であるMG−132(カルバイオケム)を用いて14時間、HUVECを共処理した。各薬剤処理後、細胞を、氷冷したリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で2度洗浄し、次いで溶解用緩衝液を加えた後に超音波で処理した。細胞下分画をQproteome細胞コンパートメントキット(キアゲン)を用いて実施した。
【0037】
2 ウエスタンブロット解析
HUVECおよびヒトPMNLにおけるRhoA、Rac1およびSmgGDSの発現値を定量するために、同数のタンパク質サンプルをSDS−PAGEゲルにロードし、PVDF膜(GEヘルスケア)に転写した。さらに転写後のPVDF膜を、抗RhoA(サンタクルズ)、抗Rac1(ミリポア)、抗SmgGDS(BDトランスダクション・ラボ)、抗β−アクチン(シグマ)、抗GAPDH(サンタクルズ)、抗TIM23(BDトランスダクション・ラボ)および抗LAMIN A/C(BDトランスダクション・ラボ)を用いて、イムノブロットした。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼをコンジュゲートしたウサギ抗マウス、ヤギ抗ウサギまたはロバ抗ヤギIgG抗体でインキュベートした後に、増強型化学発光システム(ECLウェスタンブロッティング検出キット、GEヘルスケア)を用いてブロットを視覚化した。濃度解析はイメージJ(NIH)ソフトウェアを用いて実施した。
【0038】
3 HUVECへのsiRNAの導入
SmgGDSに対するsiRNAはQiagenから購入した。Qiagenによって設計された機能的な非標的siRNAを、コントロールとして使用した。10nMのコントロールsiRNAまたは10nMのSmgGDSに特異的なsiRNAのいずれかをHiPerFectトランスフェクション試薬(キアゲン)を用いてHUVECに導入した。導入から72時間後、細胞をウエスタンブロット解析またはROS解析によって解析した。
【0039】
4 活性酸素種解析
HUVEC中の細胞内ROS生産をサトーらの文献(Satoh,K.et al.、 Nat.Med.15,649−656(2008))の記載に従って測定した。本発明者らは5%CO
2において37℃で3時間、AngII(1μM、和光)を用いてHUVECを処理した。次いでPBSでHUVECを洗浄し、さらに37℃で30分間、2,7−ジクロロフルオレセインジアセテート(H2DCF−DA)(5μM、ケイマン)を用いてHUVECを染色した。蛍光顕微鏡(バイオレボ、キーエンス)を用いて緑蛍光(488nm)でROSの産生を可視化した。相対的な蛍光強度をBZ−IIアナライザー(キーエンス)ソフトウェアで測定した。
【0040】
5 心血管の肥大の解析および定量化
本発明者らは、東北大学大学院医学部動物実験委員会により承認された実験プロトコルに従ってマウス実験のすべてを実施した。本発明者らは、低用量スタチンの多面的効果に対するSmgGDS欠損の影響を評価するために、AngII誘発性心肥大モデル(ヤギらの文献(Yagi,S.et al.、Circ.Res.102,68−76(2008))を参照)を使用した。本発明者らは、10週齢のオスSmgGDS
+/+同腹子コントロールマウスおよびSmgGDS
+/−マウスに2週に渡って2.0mg/kg/日のAngIIまたは食塩水を投与した。本発明者らは、無菌食塩水にAngIIを溶かし、浸透ミニポンプ(アルゼットモデル2002,アルゼ社)によって該溶液を投与した。本発明者らは、イソフルオランにより動物に麻酔をかけた。本発明者らは、イソフルオランで麻酔をかけたマウスの背部の皮下にポケットを作製し浸透圧ポンプを留置し縫合した。AngIIまたは食塩水を投与したマウスの両方を、毎日、2週に渡って、強制経口投与によってスタチンまたは溶媒のいずれかを投与した。すべての切開部位は感染せずに治癒した。ポンプ移植から2週間後に、非侵襲性テール−カフシステム(MK−2000、室町)を使用して収縮血圧を測定した。血漿脂質(トリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロールおよびHDLコレステロール)を、スカイライトバイテックによる高速液体クロマトグラフィーシステムで解析した。心エコー解析を超音波診断システム(Vevo 2100、ビジュアルサイエンス社)を使用して実施した。マウスの毛を刈り、心拍数を約500bpmで維持し、左心室のMモードイメージを記録した。パーセントの室内径短縮率(FS)および相対的な壁厚を、イケダらの文献(Ikeda,Y.et al.、J. Biol.Chem.280,29661−29666(2005))の記載に従って計算した。
【0041】
6 スタチンの血漿中濃度
本発明者らは、ヒガシらの文献(Higashi,M.et al.、Circ.Res.93,767−775(2003))の記載に従って、2週に渡ってマウスを処理した後に、スタチン(アトルバスタチンおよびプラバスタチン)の血漿中濃度を測定した。
【0042】
7 ヒト臨床実験
本プロトコルは、東北大学大学院医学部の臨床研究倫理委員会によって承認された。また、書面による同意を得た後に、20人の正常健常志願者(表1)を募集した。
【表1】
【0043】
スタチン投与の前およびその最中に、異常な肝臓または腎臓の機能不全を含んでいた方は、除外した。志願者は、2週間のウォッシュアウト間隔を有する無作為交差方法で、2週に渡ってプラバスタチン(20mg/日)またはアトルバスタチン(20mg/日)を服用した。
【0044】
8 統計解析
2群間のパラメーターの比較を、スチューデントt検定で実施した。統計解析について、一元配置分散分析の後、ダネット検定を実施した。統計的有意差はJMP 8(SASインスティチュート)で評価した。<0.05のP値は、統計的に有意であると考えられた。
【0045】
第3 結果
1 HUVECにおけるスタチンによるSmgGDSの増加効果
本発明者らは、2種のスタチン(アトルバスタチン、10μMおよび30μM;ならびにピタバスタチン1μMおよび10μM)を用いて24時間処理した培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)内のSmgGDS発現について検討した。これらの2種のスタチンは、濃度依存的に、HUVEC中のSmgGDS発現量を増加させた(
図1a、b)。これは、スタチンがSmgGDS発現量を増加させるクラス効果を有するという新規な発見である。
【0046】
次に、本発明者らは、スタチンがSmgGDS発現量を増加させるメカニズムについて検討した。スタチンが、SmgGDSと同じARMタンパク質ファミリーのメンバーであるβ−カテニンを増大させるとの報告がある(ベルグマンらの文献(Bergmann,M.W.et al.,J.Mol.Cell.Cardiol.37, 681−690(2004))を参照)。これは、グリコゲンシンセターゼキナーゼ−3β(GSK−3β)のスタチンによる阻害およびそれによるβ−カテニンのリン酸化の阻害によって引き起こされる(リューらの文献(Liu,C.et al.,Cell 108,837−847(2002))、サリンらの文献(Salins,P. et al.,Neurosci.Lett. 412,211−216(2007))を参照)。リン酸化されたβ−カテニンはユビキチン化されプロテアソームにより分解されるため、β−カテニンのリン酸化の阻害は、β−カテニンの安定性を増加させる。以前に示されているように、GSK−3β阻害剤は、β−カテニンの発現量を増加させる(サリンらの文献(Salins,P. et al.,Neurosci. Lett. 412,211−216(2007))を参照))。したがって、本発明者らは、HUVEC内のSmgGDS発現量について、GSK−3β阻害剤であるSB216763の作用を検討した。本発明者らが期待した通り、SB216763は濃度依存的に、SmgGDS発現量を増加させた(
図1c)。
【0047】
次に、本発明者らは、コレステロール生合成経路中の重要な生成物であるファルネシルピロリン酸(FPP)およびゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)のようなイソプレノイドが、SmgGDS発現量のスタチン誘導型増加を媒介する可能性を検討した(ゴールドステインらの文献(Goldstein,J.L.,Brown, M.S.,Nature 343,425−430(1990))を参照)。FPPおよびGGPPが細胞内タンパク質の翻訳後修飾および小型GTPアーゼの膜への局在ならびにそれらの活性をコントロールするので、それらのタンパク質は、スタチンの多面的効果に中心的な役割を果たすと考えられている(ヴァン・アエルストらの文献(Van Aelst,L.,D’Souza−Schorey,C.,Genes Dev.11,2295−2322(1997))、ワンらの文献(Wang, C.Y.,Liu,P.Y.,Liao,J.K.,Trends Mol. Med. 14,37−44(2008))、ゾウらの文献(Zhou,Q.,Liao,J.K.,Circ.J.74,818−826(2010))らの文献を参照)。SmgGDSのスプライシング変異体が低分子量GTPアーゼのプレニル化および膜への局在をコントロールすることもまた報告されている(バーグらの文献(Berg,T.J.et al.,J.Biol.Chem.285,35255−35266(2010))を参照)。したがって、本発明者らは、HUVEC内のSmgGDS発現量について、スタチン共処理によるFPPおよびGGPPの影響を検討した。重要なことに、本発明者らの期待に反して、FPPまたはGGPPは、スタチンによるSmgGDS発現量の増加を阻害しなかった(
図1b)。したがって、SmgGDS発現量を増加させるスタチンの影響はこれらのイソプレノイドにより媒介されないことが示された。
【0048】
次に、GEF機能がRhoキナーゼによって制御されると報告されているので(タケフジらの文献(Takefuji,M.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.355,788−794(2007))を参照)、本発明者らはSmgGDS発現値の増加がRhoキナーゼ経路へのスタチンの阻害作用によりもたらされる可能性について検討した。本発明者らは、HUVECにRhoキナーゼ阻害剤であるヒドロキシファスジル(hydroxyfasudil)(HF)を作用させたが、HFはSmgGDS発現量を増加させなかった(
図1c)。したがって、SmgGDS発現を増加させるスタチンの作用は、Rhoキナーゼ経路の阻害によって媒介されないと考えられる。これらの結果から、スタチンがGSK−3β経路の阻害によってSmgGDS発現量を増加させることを示した。
【0049】
2 スタチンのSmgGDSを介したROS産生量の抑制
HUVECにおけるSmgGDS、Rac1およびRhoAの局在および発現量についてのスタチンの影響を検討するために、本発明者らはスタチンで24時間処理した後の、HUVECの細胞質、膜および核分画におけるタンパク質発現量を調べた。その結果、アトルバスタチンは細胞質のSmgGDS量を増加させ、核内のRac1量を減少させた(
図2a−c)。ピタバスタチンもまた細胞質のSmgGDS量を増加させ、かつ、核内のRac1量を減少させた(
図7a−c)。これは、スタチンが核内Rac1量を減少させる最初の報告である。
【0050】
次に、本発明者らは、スタチンが核内のRac1量を減少させるメカニズムについて検討した。Rac1が核のプロテアソームによって分解させられることが報告されている(ラニングらの文献(Lanning,C.C.et al.,J.Biol. Chem.279,44197−44210(2004))を参照)。そこで、本発明者らはHUVECをスタチンおよびプロテアソーム阻害剤(MG−132)で処理した。本発明者らが期待した通り、MG−132はアトルバスタチンが引き起こす核内のRac1発現量の減少を阻害した(
図2d)。同様の結果はピタバスタチンでも得られた(
図7c)。以上より、スタチンが、Rac1の核内プロテアソーム分解を促進させることを実証している。
【0051】
さらに、本発明者らは、SmgGDSをsiRNAによってノックダウンしたHUVECにおけるスタチンの作用を検討した。コントロールsiRNAを導入した細胞において、アトルバスタチンは、総細胞におけるRac1発現量を減少させた(
図2e)。しかしながら、SmgGDSのsiRNAを導入した細胞では、アトルバスタチンによるRac1発現量減少作用は認められなかった(
図2e)。同様の結果はピタバスタチンを用いても得られた(
図7d)。したがって、本発明者らは、スタチンがSmgGDSを介してRac1分解を促進させるということを明確に示すことができた。
【0052】
さらに、本発明者らは、スタチンの抗酸化作用を評価することによって、スタチンの多面的効果がRac1分解を担う可能性を調べた。スタチンがAngII誘導型ROS産生量を減少させることが報告されている(ワスマンらの文献(Wassmann, S.et al.,Mol.Pharmacol.59,646−654(2001))、カストディスらの文献(Custodis,F.,Eberl,M.,Kilter, H.,Bohm,M.,Laufs,U.,Cardiovasc. Res.71, 342−351(2006))を参照)。コントロールのsiRNAを導入した細胞では、アトルバスタチン(1μM)は、AngII誘導型ROS産生量を減少させた(
図2f、g)。対照的に、SmgGDSのsiRNAを導入した細胞では、アトルバスタチン(1μM)は、AngII誘導型ROS産生を減少させることができなかった(
図2f、g)。同じ結果はさらにピタバスタチン(0.1μM)を用いても得られた(
図8a、b)。
【0053】
3 SmgGDS欠損マウスにおいてスタチンの多面的作用は消失する
in vitroで発見されたスタチンの作用がさらにin vivoにおいて機能するかどうかを検討するために、本発明者らは、AngIIにより誘導されるマウス心肥大および心拡張機能障害モデルを用いてスタチンの多面的効果を調べた。
【0054】
スタチンが、血圧または血漿コレステロール値に依存せず、AngII誘導マウス心肥大および心拡張機能障害モデルの病態を改善することが報告されている(タケモトらの文献(Takemoto M.et al.,J.Clin.Invest.108,1429−1437(2001))、ヤギらの文献(Yagi,S. et al.,Circ.Res.102,68−76(2008))を参照)。この改善作用は、スタチンの多面的効果であると考えられている。
【0055】
AngIIを2週に渡ってSmgGDS
+/−および同腹子(SmgGDS
+/+)マウスに持続投与した。収縮期血圧は、AngIIの投与によりSmgGDS
+/−および同腹子マウスの両方において上昇した(表2)。
【表2】
【0056】
また、AngIIの投与により血漿の総およびLDL−コレステロール値は、上昇する傾向にあった(表2)。
【0057】
さらに、AngII投与開始より2週間スタチン(アトルバスタチン、10mg/kg/日、またはプラバスタチン、50mg/kg/日)を強制経口投与する群を設けた。本発明者らは、最終投与24時間後のスタチンの血漿中濃度を測定した(表3)。
【表3】
【0058】
本発明者らは、マウスのスタチンの血漿中濃度がヒトにおける24時間血漿中濃度(C
24h)と同等であることを確認した。溶媒およびスタチン投与群の間の血圧または血漿の脂質プロファイルに有意差はなかった(表2)。
【0059】
心臓の重量の測定および心臓切除の顕微鏡検査により、AngIIにより心筋細胞および心筋の肥大を誘導し、著しい間質の線維化血管周囲の線維化および冠動脈の肥厚を誘発することを確認した(
図3a−c)。同腹子マウスでは、AngII誘導型心肥大および線維化に対するスタチンの保護効果が見られた。しかし、SmgGDS
+/−マウスでは、スタチンの保護効果は見られなかった(
図3a−f)。さらに、本発明者らは、超音波検査法を使用して、これらのマウスの心機能を評価した(
図4a−d)。LV短縮率(LVFS)(LVの収縮機能の指標)はAngIIまたはスタチン処理のいずれによっても有意な影響を受けなかった(
図4b)。しかし、AngIIの投与は、コントロールおよびSmgGDS
+/−マウスの両方において、LV拡張機能の指標であるE/Aを顕著に悪化させた(
図4c)。対照的に、スタチン処理は、AngIIによって引き起こされたLV拡張機能障害を改善した(
図4c)。SmgGDS
+/−マウスでは、LVの心拡張機能障害について、スタチンの改善効果は認められなかった(
図4c)。
【0060】
4 ヒトにおけるスタチンによるSmgGDSに対する作用
最後に、本発明者らは、2週に渡って経口的にプラバスタチンおよびアトルバスタチン(それぞれ、20mg/日)を投与して、健常成人におけるSmgGDS発現についてのスタチンの効果を調べた(
図9)。両スタチンは、健常成人においても、総コレステロールおよびLDLコレステロールの血中濃度を減少させた(表4)。
【表4】
【0061】
循環血白血球中のSmgGDS発現は、プラバスタチンまたはアトルバスタチン服用後に有意に増加された(
図5a)。20名の平均で、プラバスタチンの20mg投与によりSmgGDSは約1.4倍増加した。同様に、アトルバスタチンの20mg投与により、SmgGDSは約1.5倍増加した。さらに予備検討においてプラバスタチンの10mg投与ではSmgGDSの増加が認められなかった4例の被験者について、プラバスタチンの20mg投与によってSmgGDSが増加していることが確認できた。同様に、上記4例の被験者のうち3例の被験者については、プラバスタチンからアトルバスタチンへ切り替えることにより、SmgGDS増加作用が認められた。なお、この4例の被験者のLDLコレステロールは減少していたことにより、高コレステロール血症を治療目的とする場合は、投与量の増量や薬剤変更の対象とはならない。興味深いことに、プラバスタチン(親水性スタチン)およびアトルバスタチン(脂溶性スタチン)の両方ともヒトにおけるSmgGDS発現量に同程度の漸増的な効果を発揮し、ヒトにおけるSmgGDS量の増加というスタチンのクラス効果を示唆する結果となった。
【0062】
さらに、酸化ストレスマーカーの1つであるマロンジアルデヒド修飾(MDA)−LDLコレステロールは、スタチン処理により減少し(表4)、SmgGDS変化量およびMDA−LDLコレステロール量の間で、有意な逆相関関係が認められた。しかし、総コレステロールまたはLDLコレステロール量との間においては、相関関係は認められなかった(
図5b−e)。